JP2016210956A - 生体適合性材料、及び生体適合性コーティング剤 - Google Patents

生体適合性材料、及び生体適合性コーティング剤 Download PDF

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千晶 吉川
Chiaki Yoshikawa
千晶 吉川
敬亘 辻井
Takanobu Tsujii
敬亘 辻井
大野 工司
Koji Ono
工司 大野
圭太 榊原
Keita Sakakibara
圭太 榊原
晃敬 野村
Akitaka Nomura
晃敬 野村
後藤 淳
Atsushi Goto
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Abstract

【課題】微粒子を使用しない、グラフトポリマーを含むコーティング剤を架橋してなる生体適合性材料(特に生物及び/又は生体物質付着抑制用生体適合性材料)及び生体適合性コーティング剤を提供すること
【解決手段】
ビニル系単量体から構成されるグラフト鎖を有し、表面占有率が0.1以上である、架橋されたグラフトポリマーを含む生体適合性材料
【選択図】図8

Description

本発明は、生体適合性材料、及び生体適合性コーティング剤に関する。
従来より、各種の高分子材料を医療用材料等へ利用する方法が研究されている。例えば、人工臓器、癒着防止材料等への高分子材料の利用が検討されている。これらの医療用材料では、生体組織又は体液との接触が不可避であり、各種応用において生体に適当な応答をさせる特性(生体適合性)が要求される。要求される生体適合性は、医療用材料の用途に依って異なり、種々の特性が要求される。例えば、皮膚の外傷治癒(止血)等の用途では、医療用材料とタンパク、細胞、細菌等が接着することにより、種々の問題が生じるため、タンパク、細胞、細菌等の生物及び/又は生体物質付着(biofouling)を抑制することが高分子材料に求められる。
これまでに、生物及び/又は生体物質付着を抑制する高分子材料として、種々の高分子材料が報告されている。例えば、特許文献1は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを含むポリマーでコーティングした呼吸補助チューブが、タンパク・細胞接着を抑制することを開示している。また、無機微粒子表面に高密度で高分子グラフト鎖を設け、微粒子同士が架橋されている生体不活性膜が知られている(特許文献2)。
さらに、高密度でグラフト鎖を設けたものとしては、繰返しユニットごとに重合開始基を有するマクロ開始剤を用いたものが知られている(非特許文献1)。高密度なグラフト鎖を備えるグラフトポリマーについて、非特許文献1では、グラフト鎖の重合度約3〜約10に相当する有効グラフト密度の摩擦特性が調べられている。
国際公開2010/122817号 特開2014−43567号
高分子学会予稿集,60巻(2011),2C05
上記の特許文献1の高分子材料であっても、生物及び/又は生体物質付着の抑制は十分とは言えず、依然として、生物及び/又は生体物質付着をより抑制できる高分子材料が求められている。
また、特許文献2に記載の膜は生体物質付着抑制能が高いが、微粒子同士が架橋剤で結合されているため、粒子の粒径によっては、若干、色味を帯びる場合がある。そのため、微粒子を含まない膜を構成することができるコーティング材を提供することが求められている。
非特許文献1の高密度なグラフト鎖を備えるグラフトポリマーは、微粒子を含まないが、その生体適合性については検討を要する。
本発明は、微粒子を使用しない、架橋されたグラフトポリマーを含む生体適合性材料(特に生物及び/又は生体物質付着抑制用生体適合性材料)及び生体適合性コーティング剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意研究を重ねた結果、所定の高分子材料が細胞接着をより一層抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は下記項に記載の態様を包含する。
項1.ビニル系単量体から構成されるグラフト鎖を有し、
下記式(1):
(式(1)中、σは、有効グラフト密度[鎖/nm]である)
で定義される表面占有率(σ)が0.1以上である、グラフトポリマーを含み、少なくとも一部のグラフトポリマー鎖間が架橋されてなる生体適合性材料。
項2.前記表面占有率が0.1以上1.0以下である、前記項1に記載の生体適合性材料。
項3.生物及び/又は生体物質付着抑制用に用いられる、前記項1又は2に記載の生体適合性材料。
項4.前記グラフトポリマーの主鎖がビニル系ポリマーである、前記項1〜3のいずれかに記載の生体適合性材料。
項5.前記グラフトポリマー鎖間がグラフト鎖の端部において架橋されており、その架橋密度が1未満である、前記項1〜4のいずれかに記載の生体適合性材料。
項6.前記架橋密度が0.2〜0.7である、前記項5に記載の生体適合性材料。
項7.ビニル系単量体から構成されるグラフト鎖を有し、
下記式(1):
(式(1)中、σは、有効グラフト密度[鎖/nm]である)
で定義される表面占有率(σ)が0.1以上である、グラフトポリマーを含む主剤成分、及び
架橋剤を含む架橋成分
からなる生体適合性コーティング剤。
本発明のコーティング剤を架橋して得られる生体適合性材料は、生物及び/又は生体物質付着を格段に抑制することができる。また、微粒子を含まないので、微粒子による着色の懸念がなく、微粒子の取り扱いも不要である。さらに驚くことに、架橋密度をかなり低くしても生体適合性の効果を奏するので、工程管理上の許容度が高く、製造コストも低減できる。
図1はグラフトポリマーの模式図である。 図2はグラフトポリマーの模式図(断面図)である。 図3はグラフト鎖の重合度測定のイメージ図である。 図4は架橋膜の製造のイメージ図である。 図5は試験例1におけるCPB基板1の蛍光顕微鏡による観察結果を示す図である。 図6は試験例1におけるCPB基板2の蛍光顕微鏡による観察結果を示す図である。 図7は試験例2における蛍光顕微鏡による観察結果を示す図である。 図8は試験例2における付着細胞数を示した図である。 図9は試験例4における架橋剤濃度に対する膨潤度(膨潤膜厚)をプロットしたグラフである。 図10は試験例4における各架橋膜に対する接着細胞数をプロットしたグラフである。 図11は試験例4における各架橋膜に対する大腸菌の接着状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 図12は試験例5における架橋剤濃度に対する膨潤度(膨潤膜厚)をプロットしたグラフである。 図13は試験例5における各架橋膜に対する接着細胞数をプロットしたグラフである。 図14は試験例5における各架橋膜に対する大腸菌の接着状態を示すSEM写真である。
本発明の生体適合性材料を得るために用いられるコーティング剤には、上記式(1)によって定義される表面占有率が0.1以上であるグラフトポリマー(以下、該グラフトポリマーの各ポリマー鎖を「濃厚ポリマーブラシ」又は「ボトルブラシポリマー」という)を含む。
本発明において「生体適合性」とは、細胞接着、タンパク吸着、菌の接着等の生物及び/又は生体物質付着を抑制することができ、生体への適用に好適であることを意味する。
グラフトポリマーの各ポリマー鎖は、主鎖部分のポリマーから側鎖であるグラフト鎖が延びた構造をしており、分子がボトルブラシに似た構造をしている。表面占有率は、グラフトポリマーのグラフト鎖(ボトルブラシの毛の部分に該当)が、グラフト鎖を直線状に伸ばした状態で、グラフトポリマーの主鎖を中心軸とした円柱と見做した場合の円柱表面に対して、どの程度の割合を占有しているかを示す。実施例で示すように、表面占有率が0.1以上であれば、生体適合性の効果が奏され、グラフト鎖がグラフトポリマーの表面付近の空間に占める割合が大きくなると考えられる。そのため、グラフト鎖の自由度が低くなり、グラフト鎖がグラフトポリマーの主鎖に対してほぼ垂直(すなわち、グラフトポリマーの表面に対してもほぼ垂直)な構造を維持しやすい。
1.グラフトポリマー
本発明では、表面占有率が0.1以上であるグラフトポリマーを用いる。
上述の通り、グラフトポリマーは、主鎖部分のポリマーから側鎖であるグラフト鎖が延びた構造をしており、分子がボトルブラシに似た構造をしている。グラフトポリマーを主鎖が中心軸である円柱と捉えた場合(図1)、グラフト効率及びグラフト鎖の長さが長くなるにつれ、グラフトポリマーの側部表面(主鎖を中心軸とし、グラフト鎖を直線上に伸ばした状態でグラフト鎖先端を結ぶことでできる円(図2で破線で描かれた円)を外周とする円柱としてグラフトポリマーを捉えた場合の円柱の側面)におけるグラフト鎖の密度は低下し、グラフト鎖の構造上の自由度が高くなる。側部表面における自由度が高いと、グラフト鎖は自由に折り畳まれ得る。
具体的には、図1の上図では、グラフト鎖が短いため、グラフトポリマーの側部表面でもグラフト鎖の密度が密であるのに対し、図1の下図では、グラフト鎖が長く、グラフトポリマーの側部表面ではグラフト鎖の密度が非常に低くなっていることが分かる。
表面占有率(σ)は、下記式(1)で表される。グラフト鎖も一定の体積を持っており、それぞれのグラフト鎖も円柱と捉えることができる(図2)。グラフト密度はグラフトポリマー側部表面の単位面積におけるグラフト鎖の数を示すため、表面占有率は、グラフト鎖を主鎖から垂直方向に直線上に伸ばした状態で、グラフトポリマー側部表面に対して、グラフト鎖の先端部が占める割合を表す値である。表面占有率は、0より大きく、数値が大きくなる程、グラフト鎖の先端部が側部表面に対して占める割合は大きくなる。そのため、表面占有率は、グラフト鎖の自由度を反映する数値であると考えられる。表面占有率が高いことにより、グラフト鎖の構造上の自由度が制限され、グラフト鎖が主鎖に対して、略垂直方向に延びた状態を維持できると考えられる。グラフト鎖が主鎖に対して、略垂直方向に延びることで、グラフトポリマーの外表側面はグラフト鎖が主鎖に対して垂直に立った構造を取りやすくなり、その構造に特有の性質を示すと推測される。
なお、本発明において、表面占有率(σ)とは、下記式(1):
(式(1)中、σは下記式(2):
(式(2)中、αは、グラフト鎖部分の繰り返し単位の長さである)
より求められる有効グラフト密度[鎖/nm]を示す。グラフト鎖部分の単量体1個当たりの体積(v[nm])は、下記式(3):
より求められる。)
により導き出される数値である。
式(1)について、グラフト鎖部分はビニル系単量体から構成される場合には、グラフト鎖部分の繰返し単位の長さは、0.25nmとなる。そのため、より具体的には、式(1’):
(式(1’)中、σは下記式(2’):
である)
により導き出される数値である。
濃厚ポリマーブラシは、表面占有率が0.1以上である。表面占有率の上限は、特に限定されない。表面占有率は、通常、1.0以下である。より具体的には、表面占有率は、例えば、0.1〜0.6、0.1〜0.3、0.3〜0.6、又は0.6〜1.0等である。
濃厚ポリマーブラシの数平均分子量(Mn)及び分子量分布(分散度:PDI)は、表面占有率が0.1以上であれば特に限定されない。濃厚ポリマーブラシのMnは、単量体の分子量によって異なり、例えば、1000〜1000万、典型的には10万〜100万、を挙げることができる。また、濃厚ポリマーブラシのPDIは、例えば、1.0〜2.0、典型的には1.0〜1.5を挙げることができる。なお、濃厚ポリマーブラシのMn及びPDIは、例えば実施例に記載の条件により、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定することができる。
グラフトポリマーは、主鎖を形成するポリマーと、主鎖の所定の点から分岐状に延びたグラフト鎖を形成するポリマーとからなる。グラフト鎖の形成方法は、表面占有率を0.1以上とする観点より、主鎖を形成するポリマーに設けた複数の反応基を開始点にして、重合反応を行うことでグラフト鎖を形成する方法(グラフトフロム法)が好ましい。
グラフトポリマーの主鎖に用いるポリマーとしては、グラフトポリマーの主鎖として使用されている公知のポリマーを広く使用できる。例えば、グラフト鎖との反応基を有するビニル系ポリマー等を挙げることができる。主鎖の鎖部分がビニル基の繰り返しである、グラフト鎖との反応基を有するビニル系ポリマーを主鎖として用いることで、主鎖の単量体の長さ(ビニル基の長さ)が比較的短く(0.25nm)なり、有効グラフト密度が低くなることを防ぐことができる。
グラフトポリマーの主鎖に用いるポリマーは、単一の単量体からなる単一重合体であっても、2種以上の単量体からなる共重合体であってもよい。主鎖に用いるポリマーの原料となる単量体には、グラフト鎖との反応基を有していない単量体が含まれていてもよい。グラフト鎖との反応基を有していない単量体として、例えば、後述する架橋基であるアジド基を有する単量体を用いることもできる。有効グラフト密度の低下により、表面占有率が0.1未満とならない点より、主鎖におけるグラフト鎖との反応基を有していない単量体の含有量は、主鎖に含まれる全単量体1モルに対して、0.9モル以下であることが好ましく、0.5モル以下であることがより好ましい。有効グラフト密度を高くすることができる点で、グラフトポリマーの主鎖に用いるポリマーは、グラフト鎖との反応基を有する単量体のみからなることが特に好ましい。
グラフト鎖との反応基は、グラフト鎖の種類等に応じて、適宜、公知の反応基を用いることができる。例えば、グラフト鎖を原子移動ラジカル重合によって形成する場合、ブロモ基等のハロゲン基をグラフト鎖との反応基として用いることができる。
主鎖に用いる前記ビニル系ポリマーとしては、グラフト鎖との反応基を有するポリアルケン、グラフト鎖との反応基を有するポリスチレン及びその誘導体(フェニル基上に置換基を有するポリスチレン)、グラフト鎖との反応基を有するポリ(ビニルエステル化合物)、グラフト鎖との反応基を有するポリ(ビニルピリジン)、グラフト鎖との反応基を有するポリ(ビニルケトン化合物)、グラフト鎖との反応基を有するポリ(N−ビニル化合物)、窒素原子上にグラフト鎖との反応基を有する置換基を有するポリアクリルアミド、グラフト鎖との反応基を有するポリアクリル酸エステル、窒素原子上にグラフト鎖との反応基を有する置換基を有するポリメタクリルアミド、グラフト鎖との反応基を有するポリメタクリル酸エステル等を挙げることができる。
より具体的な態様として、グラフトポリマーの主鎖には、ポリ(2−(2−ブロモイソブチリルオキシ)エチルメタクリレート)等のポリ(ハロアルキルカルボニルオキシアルキルアクリレート)を用いることができる。
濃厚ポリマーブラシの主鎖の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(PDI)は、表面占有率が0.1以上であれば特に限定されない。例えば、主鎖のMnは100〜10万、典型的には1万〜5万、主鎖のPDIは1.0〜5.0、典型的には1.0〜1.5、を挙げることができる。なお、主鎖のMn及びPDIは、実施例に記載の条件により、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定することができる。
濃厚ポリマーブラシのグラフト鎖は、グラフト密度及びグラフト鎖の重合度を容易に調整できる点で、ビニル系単量体より製造したグラフト鎖であることが好ましい。ビニル系単量体でグラフト鎖を形成する場合、原子移動ラジカル重合(ATRP)、可逆移動触媒重合法(RTCP)等のリビングラジカル重合(LRP)を用いてグラフト鎖を形成することにより、有効グラフト密度及びグラフト鎖の重合度を調整することが比較的容易である。
グラフト鎖を構成するビニル系単量体としては、ハロゲン基を有していてもよいアルケン;スチレン及びその誘導体(フェニル基上に置換基を有するスチレン);ビニルエステル化合物;2−、3−、4−ビニルピリジン等のビニルピリジン;ビニルケトン化合物;N−ビニル化合物;アクリロニトリル;アクリル酸;窒素原子上に置換基を有していてもよいアクリルアミド:ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルアクリレート等のアクリル酸エステル;アクリル酸アルカリ金属塩、アクリル酸アルカリ土類金属塩又はアクリル酸アミン塩等のアクリル酸塩;メタクリロニトリル;メタクリル酸;窒素原子上に置換基を有していてもよいメタクリルアミド;ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;メタクリル酸アルカリ金属塩、メタクリル酸アルカリ土類金属塩又はメタクリル酸アミン塩等のメタクリル酸塩;マレイン酸及びその誘導体(無水マレイン酸等)等を挙げることができる。グラフト鎖を構成する単量体として、これらのビニル系単量体を1種又は2種以上用いることができる。
前記ハロゲン基を有していてもよいアルケンとしては、エチレン、プロピレン、1−ヘキセン、シクロヘキセン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプロピレン、フッ化ビニル等を挙げることができる。
前記スチレン誘導体としては、o−、m−、p−スチレンスルホン酸、o−、m−、p−アミノスチレン、α−メチルスチレン等を挙げることができる。
前記ビニルエステル化合物としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酪酸ビニル等を挙げることができる。
前記ビニルケトン化合物としては、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン等を挙げることができる。
前記N−ビニル化合物としては、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、等を挙げることができる。
前記窒素上に置換基を有していてもよいアクリルアミドとしては、アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等を挙げることができる。
前記アクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−オクチルアクリレート2−メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2−イソシアノエチルアクリレート、2−(アセトアセトキシ)エチルアクリレート、2−(リン酸)エチルアクリレート、トリアルコキシシリルプロピルアクリレート、ジアルコキシメチルシリルプロピルアクリレート、2−(N,N−ジエチル−N−メチルアミノ)エチルアクリレート/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CFSO )塩、2−(N−エチル−N−メチル−N−水素化アミノ)エチルアクリレート/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CFSO )塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアクリレート/フルオロハイドロジェネーション((FH))塩、N−エチル−N−メチルピロリジニウムアクリレート/フルオロハイドロジェネーション((FH))塩等を挙げることができる。
前記窒素上に置換基を有していてもよいメタクリルアミドとしては、メタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等を挙げることができる。
前記メタクリル酸エステルとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2−イソシアノエチルメタクリレート、2−(アセトアセトキシ)エチルメタクリレート、2−(リン酸)エチルメタクリレート、トリアルコキシシリルプロピルメタクリレート、ジアルコキシメチルシリルプロピルメタクリレート、2−(N,N−ジエチル−N−メチルアミノ)エチルメタクリレート/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CFSO )塩、2−(N−エチル−N−メチル−N−水素化アミノ)エチルメタクリレート/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CFSO )塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメタクリレート/フルオロハイドロジェネーション((FH))塩、N−エチル−N−メチルピロリジニウムメタクリレート/フルオロハイドロジェネーション((FH))塩等を挙げることができる。
グラフト鎖の重合度は、例えば、1〜90であることが好ましく、1〜30であることがより好ましい。グラフト鎖の重合度は後述する方法により求められる。重合度が大きすぎると、表面占有率は小さくなる傾向がある。
グラフト鎖の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(PDI)は、表面占有率が0.1以上である限り、特に限定されない。例えば、グラフト鎖のMnは100〜100000であることが好ましく、100〜50000であることがより好ましく、100〜20000であることがさらに好ましい。単量体の種類によって単量体単位毎の分子量が変動するため、グラフト鎖のMnの好ましい範囲も変動する。また、グラフト鎖のPDIは、グラフト鎖によって形成されるグラフトポリマー側面の均一性ひいては要求特性の向上の観点より、2.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.3以下であることがさらに好ましい。グラフト鎖のMn及びPDIは後述の方法により求めることが可能である。
濃厚ポリマーブラシは、本発明の生体適合性材料を得るために用いられるコーティング剤として用いられる。そのため、濃厚ポリマーブラシ同士での架橋及び/又は濃厚ポリマーブラシと基材との結合のための反応性の置換基(架橋基)を有していることが好ましい。このような架橋基としては、アジド基、ハロゲン基(好ましくはブロモ基)等を挙げることができる。当該架橋基は、主鎖及びグラフト鎖のいずれに有していてもよい。また、主鎖が有する未反応の前記グラフト鎖との反応基を架橋基として用いることも、グラフト鎖をリビングラジカル重合で形成した際にグラフト鎖の末端に残る反応基を架橋基として用いることもできる。
2.グラフトポリマーの製造法
濃厚ポリマーブラシは、表面占有率が0.1以上であれば、グラフトポリマーの製造方法として公知の方法により、製造することができる。グラフト密度及びグラフト鎖の重合度を比較的容易に調整できる観点より、主鎖を形成するポリマーに設けた複数の反応基を開始点にして、重合反応を行うことでグラフト鎖を形成する方法(グラフトフロム法)が好ましい。
濃厚ポリマーブラシの主鎖を製造する方法は、公知の方法を広く使用することができる。グラフト鎖との反応基を導入する観点より、ポリマーブラシの主鎖は、グラフト鎖との反応基を有する単量体のみ、又はグラフト鎖との反応基を有する単量体とグラフト鎖との反応基を有していない単量体との混合物を、公知の重合方法を用いて重合させることにより得られる。有効グラフト密度が低下すると、表面占有率も低下するため、主鎖の製造に用いる単量体全体に対するグラフト鎖との反応基を有していない単量体の割合は90モル%以下であることが好ましく、50モル%以下であることがより好ましい。濃厚ポリマーブラシの主鎖ポリマー及びその重合度等は前述の通りである。
濃厚ポリマーブラシのグラフト鎖は、主鎖が有する反応基に対して、単量体を重合していく方法により形成することが好ましい。当該方法としては、主鎖が有するグラフト鎖との反応基の種類によって、適切な方法を用いることができる。主鎖が有するグラフト鎖との反応基がハロゲン原子(ブロモ基等)である場合、原子移動ラジカル重合等のリビングラジカル重合により、グラフト鎖を形成することができる。リビングラジカル重合により、グラフト鎖を形成することにより、開始効率を高くすることができ、また、グラフト鎖の重合度を制御することも可能である。
リビングラジカル重合の方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、主鎖ポリマーとグラフト鎖を形成する単量体とを銅触媒の存在下、重合させることにより、グラフト鎖を形成することができる。
リビングラジカル重合により、グラフト鎖を形成する場合、グラフト鎖を構成するビニル系単量体の使用量及び反応時間を適宜設定することで、重合度を調整することができる。重合度を低く抑えることで、表面占有率は通常大きくなる。
3.表面占有率の算出
本発明で規定される表面占有率(σ)とは、下記式(1):
(式中、σは下記式(2):
(式(2)中、αは、グラフト鎖部分の繰り返し単位の長さである)
より求められる有効グラフト密度[鎖/nm]を示す。グラフト鎖部分の単量体1個当たりの体積(v[nm])は、下記式(3):
より求められる。)
により求められる。
式(1)について、グラフト鎖部分がビニル系単量体から構成される場合には、グラフト鎖部分の繰返し単位の長さは、0.25nmとなる。そのため、より具体的には、式(1’):
(式(1’)中、σは下記式(2’):
より求められる。)
により求められる。
グラフト鎖部分の重合度は、単一の反応基を有する化合物を用いて、グラフト鎖部分のみからなるポリマーを得て、その重合度を測定することにより、求めることができる。具体的には、主鎖に対してグラフト鎖を形成する際に、主鎖のポリマー以外に、単一の反応基を有する化合物を用意し、主鎖ポリマーと当該化合物との存在下、重合反応を行うことにより、グラフトポリマーに加えて、グラフト鎖部分のみからなるポリマーを得ることができる。グラフト鎖部分のみからなるポリマーは、グラフトポリマーとその重合度、数平均分子量及び分子量分布が等しいと考えられるため、グラフト鎖部分のみからなるポリマーの重合度をグラフト鎖の重合度と仮定できる(図3)。例えば、主鎖として、ポリ(2−(2−ブロモイソブチリルオキシ)エチルメタクリレート)を用いる場合、単一の反応基を有する化合物として、2−ブロモイソ酪酸エチルを用い、2−ブロモイソ酪酸エチルを開始点として得られるポリマーの重合度を求めることで、グラフト鎖部分の重合度を測定することができる。
なお、この際に、単一の反応基を有する化合物を開始点として得られるポリマーの数平均分子量(Mn)及び分子量分布(PDI)を求めることで、グラフト鎖の数平均分子量及び分子量分布を求めることもできる。ここでMn及びPDIの測定は、実施例に記載の条件によりGPCを用いて行うことができる。
グラフトポリマーの主鎖部分は、グラフト鎖を有する単量体単位及びグラフト鎖を有していない単量体単位に2分することができる。グラフト鎖を有していない単量体は、グラフト鎖との反応基を有しているが未反応であった単量体単位とグラフト鎖との反応基を有していない単量体単位とにさらに分けることができる。即ち、下記構造(A):
(式中、Pmはグラフト鎖との分岐点を有する単量体単位、Pmはグラフト鎖との反応基を有しているが未反応であった単量体単位、Pmはグラフト鎖との反応基を有していない単量体単位である。Pgはグラフト鎖を形成する単量体単位である。n1、n2及びn3はそれぞれ1以上の整数を示し、n4は0以上の整数を示す。)
として表すことができる(なお、n2個のPm、n3個のPm及びn4個のPmは連続している必要はない)。ここで、グラフト鎖部分の重合度は、n1で示される。
グラフト効率とは、主鎖の単量体単位全体に対するグラフト鎖を有する単量体単位(Pm)の割合(n2/(n2+n3+n4))である。即ち、グラフト効率とは、主鎖に含まれるグラフト鎖との反応基を有する単量体単位(Pm及びPm)の内、グラフト鎖と反応した単量体単位(Pm)の割合を示す開始効率(n2/(n2+n3))、及び主鎖に含まれる単量体単位全体に対するグラフト鎖との反応基を有する単量体単位(Pm及びPm)の割合((n2+n3)/(n2+n3+n4))より求めることができる。主鎖がグラフト鎖との反応基を有する単量体単位のみからなる(n4=0)場合、グラフト効率は開始効率に等しい。濃厚ポリマーブラシのグラフト効率は、表面占有率が0.1以上であれば限定されない。例えば、表面占有率が低くなることを防ぐ点で、グラフト効率は、0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましい。グラフト効率の上限は、n4=0の場合、通常1である。
主鎖に含まれる単量体単位全体に対するグラフト鎖との反応基を有する単量体単位の割合は、主鎖ポリマーのNMRを測定することにより、決定することができる。
開始効率、グラフト鎖部分の重合度は、NMR及びGPCの測定値より求められた重合率を元に算出することができる。
重合率は、NMRによりグラフト鎖の単量体単位と未反応の単量体単位との比を測定することで、又は溶媒と未反応の単量体単位との比を測定することで、用いた単量体に対するグラフト鎖に結合した単量体のモル量の比として求められる。また、重合率はGPCのピーク面積から算出することが可能である。
具体的には、GPCのピーク面積より、前記単一の反応基を有する化合物を開始点として得られるポリマーの重合率を求め、主鎖のポリマーの開始効率が100%と仮定した重合率を、主鎖のポリマーと単一の反応基を有する化合物との仕込み比から、GPCによる重合率の概算値を算出する。NMRによりグラフト鎖の単量体単位と未反応の単量体単位との比を測定することで、又は溶媒と未反応の単量体単位との比を測定することで、用いた単量体に対するグラフト鎖に結合した単量体のモル量の比として、NMRによる重合率を求める。NMRによる重合率と、GPCによる重合率の概算値を比較することで、開始効率が求められる。
このように求めたグラフトポリマーの開始効率、重合率(NMRによる重合率)及びグラフト鎖を構成する単量体単位の分子量より、グラフト鎖部分の重合度を計算することができる。
また、グラフト鎖部分の重合度は、飛行時間型質量分析計(TOF−MASS)又は多角光散乱器(MALLS)が備わったGPCによってグラフトポリマーの絶対分子量を決定し、単量体単位との比を算出することでも決定できる。
グラフト鎖を形成する単量体がビニル系単量体である場合、グラフト鎖部分の単量体の長さは、ビニル基の0.25nmである。
グラフト鎖部分の単量体のバルク密度は、グラフト鎖の原料である単量体の室温(例えば、20〜30℃)におけるバルク密度である。
4.コーティング剤
本発明の生体適合性材料(特に生物及び/又は生体物質付着抑制用生体性適合材料)を得るために用いられるコーティング剤は、前記表面占有率が0.1以上である、グラフトポリマーを含む主剤成分、及び架橋剤を含む架橋成分からなる。
架橋剤は主剤中に含まれていてもよいが、保存安定性に優れるという観点から、主剤及び架橋剤を其々含む二液型のコーティング剤であることが好ましい。また、グラフトポリマーとして濃厚ポリマーブラシを用いることにより、生物及び/又は生体物質付着抑制作用を付与することができる。
濃厚ポリマーブラシは、ハロゲン基、アジド基等の架橋基を有しており、架橋剤と反応することにより、生体適合性材料を得ることができる。具体的には、基材上に当該濃厚ポリマーブラシを含むコーティング剤及び架橋剤を塗布等した後、濃厚ポリマーブラシ又は基材表面とこれらの架橋基を反応させることにより、基材上にコーティング層を形成することが可能である。基材上に本発明のコーティング剤を塗布等する方法としては、スピンコーティング、印刷法等の公知の方法を用いることができる。
基材上にコーティング層を形成する方法としては、具体的には、ハロゲン原子を用いて架橋する方法、アジド基を用いて架橋する方法を挙げることができる。ハロゲン原子を用いた架橋及びアジド基を用いた架橋は、併用することができる。
4.1.ハロゲン原子を用いた架橋及びコーティング
本発明のコーティング剤は、濃厚ポリマーブラシ同士が架橋されている。架橋は、末端にハロゲン原子が存在する場合、該ハロゲン原子同士を、架橋剤を介してカップリング反応により行うことができる。当該カップリング反応により、濃厚ポリマーブラシ同士が架橋することで濃厚ポリマーブラシのゲルを形成することができ、又、基板上に導入したハロゲン原子と濃厚ポリマーブラシが有するハロゲン原子とがカップリング反応を行うことで基板上に濃厚ポリマーブラシをコーティングすることができる。ハロゲン原子同士のカップリング反応の条件としては、例えば、Tetra.Letters, 2006, 47, 5565に記載されているようなテトラジエチルアミノエタンを用いて、一定時間反応させる方法を用いることができる。
濃厚ポリマーブラシを何等かの基材上に固定する場合には、基材上にハロゲン原子を導入することにより行うことができ、その方法としては、例えば、シリコン基板に3−(2−ブロモ−2−イソブチリルオキシ)プロピルトリエトキシシラン(BPE)等のハロ置換アルキルトリアルコキシシランを反応させる方法等を挙げることができる。
4.2.アジド基を用いたコーティング
濃厚ポリマーブラシが架橋基としてアジド基を有する場合、アジド基が基材と共有結合を形成して、基材上に濃厚ポリマーブラシをコーティングすることが可能である。
例えば、ポリカーボネート(PC)等が基材である場合、架橋基であるアジド基が、ポリカーボネート中の任意の炭化水素基と共有結合を形成することで基材のコーティングができる。
また、濃厚ポリマーブラシが架橋基としてアジド基を有していない場合であっても、2個以上のフェニルアジド基を有する2官能性の低分子を架橋剤として用いることで、基材上の有機基及び濃厚ポリマーブラシ、又は濃厚ポリマーブラシ同士を共有結合により架橋することができる。
濃厚ポリマーブラシ同士が、グラフト鎖の端部において架橋されている場合、その架橋密度、即ち、架橋剤当量/グラフトポリマーの端部架橋性基当量が、1.0未満であっても、細胞の付着を防ぐ効果の点で、架橋密度が1.0の架橋膜と遜色がない。さらに、架橋密度を低く設定しても、生体内での膜の膨潤が生じず、引いては膜損傷を起こすことなく、細胞付着抑制効果を十分に発揮することができる。具体的な架橋密度の範囲としては、0.2以上であればよく、好ましくは、0.2〜0.7である。ここで、該架橋密度の上限は理論値1である。なお、後述する実施例で用いた2,2’-(エタン-1,2-ジイルビス(オキシ))ビス(エタン-2,1-ジイル)ビス4-アジドベンゾエート)[(2,2’-ethan-1,2-diylbis(oxy))bis(ethane-2,1-diyl)bis(4-azidobenzoate)]のように、架橋部位がグラフト鎖端部に限定されない化合物を用いた場合には、上記架橋密度を用いて論じることはできないが、架橋特性に関し興味深い現象が観察されている。
前記コーティング層の厚みは特に限定されず、適宜、用途に応じて設定することができる。例えば、コーティング層の厚みは、10nm〜10μm等を挙げることができる。
5.生体適合性材料
本発明の生体適合性材料は、前記のコーティング剤に含まれる主剤と架橋剤を、例えば加熱下で、反応させることによって製造することができる。生体適合性材料の具体例としては、前記のコーティング剤の人工関節へのコーティング;病気診断キット(イムノクロマトグラフィー等)のコーティング;人工補助心臓のコーティング;カテーテル、細胞培養用シャーレ、ソフトコンタクトレンズケース、注射器等のタンパク、細胞等による生物及び/又は生体物質付着を避けるべき材料へのコーティング等を行うことにより、得ることができる。また、例えば抗菌材料として適用することも可能である。
以下、実施例を示して、本発明をさらに説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
なお、下記において、重合体の平均分子量、分子量分散度(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算として求めた。GPCの測定条件は、以下のDMF系GPC又はTHF系GPCを用いた。
・DMF系GPC
カラム:Shodex社LF804 (300×80 mm; bead size = 6μm)、流速:0.8 ml/min(40℃)、溶出液:10mM LiCL ジメチルホルムアミド溶液、標準試料:PMMA。
・THF系GPC
カラム:Shodex社KF804L (300×80 mm; bead size = 7μm)、流速:0.8 ml/min(40℃)、溶出液:テトラヒドロフラン、標準試料:PMMA。
[製造例1]
<主鎖ポリマー(PBIEM[1])の製造>
アルゴン雰囲気下、2−(2−ブロモイソブチリルオキシ)エチル メタクリレート(BIEM) 5.0g(17.9mmol)、ジチオ安息香酸 α−クミル 48.8mg(1.79×10−1mmol)及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN) 5.88mg(3.58×10−2mmol)をトルエンに溶解させ、トルエン溶液(溶液中の単量体含有量が50重量%)を得た。得られたトルエン溶液を60℃のオイルバスで加熱しながら、21時間攪拌した。反応後、反応混合物の平均分子量及び分子量分布をDMF系GPCにより測定したところ、数平均分子量(Mn)は11000、分子量分布(PDI)は1.19であった。また、NMR測定により重合率を求めたところ、36.1%であった(重合度で36)。
上記反応混合物を、貧溶媒であるメタノールを用いて、再沈回収により精製し、ポリ(2−(2−ブロモイソブチリルオキシ)エチル メタクリレート)を得た(収量:1.28g、収率:25.6%;以下、「PBIEM[1]」とする)。
<ボトルブラシポリマーの製造>
ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(PEGMA) 8.55g(18mmol)、PBIEM[1] 100mg(Mn=11000、 臭素末端換算で0.36mmol)、4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジル(dNbipy) 294.2mg(0.72mmol)、臭化銅(I) 41mg(0.29mmol)及び臭化銅(II) 16.8mg(0.07mmol)をグローブボックス内でアニソールに溶解させ、アニソール溶液 17.1g(溶液中の単量体含有量が33重量%)を得た。得られたアニソール溶液を65℃のオイルバスで加熱しながら1時間又は1.5時間攪拌した。反応後、数平均分子量及び分子量分布をDMF系GPCにより測定し、NMR測定により重合率を求めた。結果は下記表1の通りであった。アルミナカラムを用いて反応混合物から銅錯体を除去し、得られた溶液をジエチルエーテル/ヘキサン=2/7の混合溶媒で再沈回収することで、ボトルブラシポリマー(BBP1及びBBP2)を得た。
<架橋膜の製造>
3−(2−ブロモ−2−イソブチリルオキシ)プロピルトリエトキシシラン (BPE)及びアンモニア水(アンモニア濃度:28重量%)をエタノールに溶解し、エタノール溶液(BPE 1.0重量%かつアンモニア水6.0重量%(アンモニア換算で1.68重量%))を得た。得られたエタノール溶液にシリコン基板(1cm×1cm)を18時間浸漬した後、エタノールで基板を超音波洗浄し、基板を乾燥させることで、BPEを固定化したシリコン基板を得た。
ボトルブラシポリマー 0.0971g及びテトラジエチルアミノエタン(TDAE) 0.0316gをトルエンに溶解し、トルエン溶液 17.66g(ボトルブラシポリマー 0.5重量%、TDAE 0.2重量%)を得た。BPEを固定化したシリコン基板にトルエン溶液をスピンコートした(回転数 1500rpm、30秒)。その後、基板を真空条件下、110℃で12時間置くことで、スピンコート膜を架橋した。さらに架橋したスピンコート膜をクロロホルムで超音波洗浄した。なお、超音波洗浄の前後では、膜厚に変化は見られなかった。
以上の操作をボトルブラシポリマー BBP1及びBBP2のそれぞれで行い、ボトルブラシポリマー BBP1の架橋膜を有する基板(CPB基板1)と、ボトルブラシポリマー BBP2の架橋膜を有する基板(CPB基板2)を得た。架橋膜の製造のイメージを図4に示す。
[試験例1]
<細胞接着試験>
CPB基板を24ウェルマルチプレートに並べ、70%エタノール水溶液で滅菌した(1ウェル=約2cm)。滅菌後、サンプルを滅菌水、リン酸緩衝食塩水(PBS)で十分に洗浄した。次に、ヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC) 2万個/ウェルを播種した。24時間後、PBSでサンプルを3回洗浄し、接着細胞を4%パラホルムアルデヒドにより固定化した。細胞核は4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で青色に蛍光染色し、細胞骨格はファロイジンで赤色に蛍光染色し、蛍光顕微鏡により観察した。観察の結果、細胞付着による蛍光は観測されなかった。CPB基板1の蛍光顕微鏡による観察結果を図5に、CPB基板2の蛍光顕微鏡による観察結果を図6に示した。
[製造例2]
<主鎖ポリマー(PBIEM[2])の製造>
アルゴン雰囲気下、BIEM 10.0g(35.8mmol)、ジチオ安息香酸 α−クミル 97.58mg(3.58×10−1mmol)及びAIBN 11.7mg(7.16×10−2mmol)をトルエンに溶解させ、トルエン溶液(溶液中の単量体含有量が50重量%)を得た。得られたトルエン溶液を60℃のオイルバスで加熱しながら、21時間攪拌した。反応後、反応混合物の平均分子量及び分子量分布をTHF系GPCにより測定したところ、数平均分子量(Mn)は21000、分子量分布(PDI)は1.12であった。また、NMR測定により重合率を求めたところ、78%であった(重合度で78)。
上記反応混合物を、貧溶媒であるメタノールを用いて、再沈回収により精製し、ポリ(2−(2−ブロモイソブチリルオキシ)エチル メタクリレート)を得た(以下、「PBIEM[2]」とする)。
<ボトルブラシポリマー(濃厚ポリマーブラシ;CPB)の製造>
(開始効率及び側鎖の重合度算出)
PEGMA 1.24g(2.67mmol)、PBIEM[2] 21.8mg(Mn=21000、 臭素末端換算で7.81×10−2mmol)、2−ブロモイソ酪酸エチル(EBIB) 1.69mg(8.7×10−3mmol)、dNbipy 70mg(1.71×10−1mmol)、臭化銅(I) 10mg(6.97×10−2mmol)及び臭化銅(II) 3.74mg(1.67×10−2mmol)をグローブボックス内でアニソールに溶解させ、アニソール溶液 2.48g(溶液中の単量体含有量が33重量%)を得た。得られたアニソール溶液を65℃のオイルバスで加熱しながら1時間攪拌した。反応後、数平均分子量及び分子量分布をDMF系GPCにより測定し、NMR測定により重合率を求めた。結果は下記表2の通りであった。
ここで、フリー体はEBIBを開始点として得られるポリマーであり、ボトルブラシ体はPBIEM[2]を開始点として得られるポリマーである。フリー体のGPCピークより、フリー体の重合度を求めると、重合度:16であった。このフリー体の重合度をボトルブラシ体の側鎖の重合度とみなし(なお、重合率から開始効率100%と仮定して算出した重合度は9)、重合率から開始効率を算出すると開始効率:52%であった。即ち、PBIEM[2]が有する臭素末端の52%から重合反応が開始したと考えられる。
(濃厚ポリマーブラシの製造)
PEGMA 10g(21.05mmol)、PBIEM[2] 0.1957g(Mn=21000、 臭素末端換算で0.7018mmol)、dNbipy 0.5736g(1.404mmol)、臭化銅(I) 0.1611g(1.123mmol)及び臭化銅(II) 0.0502g(0.2246mmol)をグローブボックス内でアニソールに溶解させ、アニソール溶液 20g(溶液中の単量体含有量が33重量%)を得た。得られたアニソール溶液を65℃のオイルバスで加熱しながら40分間攪拌した。反応後、数平均分子量及び分子量分布をDMF系GPCにより測定し、NMR測定により重合率を求めた。結果は下記表3の通りであった。
反応混合物をヘキサン及びジエチルエーテルの混合溶液(ヘキサン/ジエチルエーテル=70/30(重量比))で再沈回収により精製することで、ボトルブラシポリマー(BBP3)を得た(収量:1.30g、収率:57.7%、Mn=129800、PDI=1.1)。
<架橋膜の製造>
BPE及びアンモニア水(アンモニア濃度:28重量%)をエタノールに溶解し、エタノール溶液(BPE 1.0重量%かつアンモニア水1.0重量%(アンモニア換算で1.68重量%))を得た。得られたエタノール溶液にシリコン基板(1cm×1cm)を18時間浸漬した後、エタノールで基板を超音波洗浄し、基板を乾燥させることで、BPEを固定化したシリコン基板を得た。
ボトルブラシポリマー BBP3及びTDAEを溶媒に溶解し、ボトルブラシポリマー溶液を得た。BPEを固定化したシリコン基板にボトルブラシポリマー溶液をスピンコートした(回転数 4000rpm、30秒)。その後、基板を真空条件下、120℃で12時間置くことで、スピンコート膜を架橋した。架橋したスピンコート膜をクロロホルムに一晩浸漬して洗浄し、洗浄前後の膜厚をエリプソメーターにて測定した。その後、エタノールでさらに2時間浸漬して洗浄した。スピンコートに用いた溶液及び得られた膜厚を表4に示す。
ボトルブラシポリマー BBP3及び式:
で表わされるフェニルアジド基を有する2官能性の低分子化合物(PhAz linker)を溶媒に溶解し、ボトルブラシポリマー溶液を得た。上記方法によりBPEを固定化したシリコン基板にボトルブラシポリマー溶液をスピンコートした(回転数 4000rpm、30秒)。その後、基板を真空条件下、120℃で12時間置くことで、スピンコート膜を架橋した。架橋したスピンコート膜をクロロホルムに一晩浸漬して洗浄し、洗浄前後の膜厚をエリプソメーターにて測定した。その後、エタノールでさらに2時間浸漬して洗浄した。スピンコートに用いた溶液及び得られた膜厚を表5に示す。
[製造例3(参考例)]
<表面占有率が0.1未満であるボトルブラシポリマー(「準希薄ポリマーブラシ;SDPB」という)の製造>
<開始効率及び側鎖の重合度算出>
PEGMA 6.0g(12.6mmol)、PBIEM[2] 16.2mg(Mn=21000、 臭素末端換算で5.806×10−2mmol)、EBIB 1.03mg(8.7×10−3mmol)、dNbipy 43mg(1.053×10−1mmol)、臭化銅(I) 12.1mg(8.421×10−2mmol)及び臭化銅(II) 3.8mg(1.684×10−2mmol)をグローブボックス内でアニソールに溶解させ、アニソール溶液 5.0g(溶液中の単量体含有量が45.5重量%)を得た。得られたアニソール溶液を65℃のオイルバスで加熱しながら1〜3時間攪拌した。反応後、数平均分子量及び分子量分布をDMF系GPCにより測定し、NMR測定により重合率を求めた。結果は下記表6の通りであった。
<準希薄ポリマーブラシ(SDPB)の製造>
PEGMA 18g(37.89 mmol)、PBIEM[2] 52.9mg(Mn=21000、 臭素末端換算で1.895×10−1mmol)、dNbipy 0.1549g(3.789×10−1mmol)、臭化銅(I) 43.5mg(3.032×10−1mmol)及び臭化銅(II) 13.5mg(6.063×10−2)をグローブボックス内でアニソールに溶解させ、アニソール溶液 15g(溶液中の単量体含有量が65.2重量%)を得た。得られたアニソール溶液を65℃のオイルバスで加熱しながら3時間攪拌した。反応後、数平均分子量及び分子量分布をDMF系GPCにより測定し、NMR測定により重合率を求めた。結果は下記表7の通りであった。
アルミナカラムを用いて反応混合物から銅錯体を除去し、得られた溶液をジエチルエーテル/ヘキサン=2/7(重量比)の混合溶液を用いた再沈回収により精製することで、ボトルブラシポリマー(BBP4)を得た(収量:0.54g、収率:11%;Mn=609000、PDI=1.26)。
<架橋膜の製造>
BPE及びアンモニア水(アンモニア濃度:28重量%)をエタノールに溶解し、エタノール溶液(BPE 1.0重量%かつアンモニア水1.0重量%(アンモニア換算で1.68重量%))を得た。得られたエタノール溶液にシリコン基板(1cm×1cm)を18時間浸漬した後、エタノールで基板を超音波洗浄し、基板を乾燥させることで、BPEを固定化したシリコン基板を得た。
ボトルブラシポリマー BBP4及びTDAEを溶媒に溶解し、ボトルブラシポリマー溶液を得た。BPEを固定化したシリコン基板にボトルブラシポリマー溶液をスピンコートした(回転数 4000rpm、30秒)。その後、基板を真空条件下、120℃で12時間置くことで、スピンコート膜を架橋した。架橋したスピンコート膜をクロロホルムに一晩浸漬して洗浄し、洗浄前後の膜厚をエリプソメーターにて測定した。その後、エタノールでさらに2時間浸漬して洗浄した。スピンコートに用いた溶液及び得られた膜厚を表8に示す。
[試験例2]
上記製造例2及び3で得られた基板(基板2、4、5、6及び8)をファルコン24ウェルマルチプレート (1ウェル=約2cm)に並べ、70%エタノール水溶液で滅菌した。滅菌後、サンプルは滅菌水、PBSで洗浄した。次にマウス繊維芽細胞(L929) 5万個/cmを播種した。24時間後、PBSでサンプルを3回洗浄し、接着細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した。細胞核はDAPIで青色に蛍光染色し、細胞骨格はファロイジンで赤色に蛍光染色し、蛍光顕微鏡により観察した。蛍光顕微鏡による観察結果を図7に示す。なお、TCPS(和光純薬株式会社製; プラスチックシート、トルエン耐性)上に接着した細胞数は播種数とほぼ一致していたことを確認した。また、付着した細胞数をグラフにまとめ、図8に示す。
[試験例3]
<ボトルブラシポリマーの表面占有率>
ボトルブラシポリマーBBP1〜BBP4に対して、下記式に基づき表面占有率(σ)を求めた。σが0.1より大きい値のとき濃厚ポリマーブラシ(CPB)と定義される。
<表面占有率の算出>
表面占有率:
(式(1’)中、σは、有効グラフト密度[鎖/nm]:
を示し、グラフト鎖部分の単量体1個当たりの体積(v[nm]):
を示す。)
グラフト効率は、主鎖が単一重合体の場合、開始効率に等しい。PEGMAでは、vは0.73(nm)あり、単量体の長さはビニル基の0.25nmである。
結果を表9に示す。ここで、BBP1〜BBP4の開始効率は全て0.52として、結果を求めた。なお、BBP1の開始効率52%での重合度の試算値は17、BBP2の開始効率52%での重合度の試算値は29である。
以上の通り、表面占有率σが大きく濃厚ポリマーブラシと定義できるBBP1〜3でのみ、細胞接着が認められないことが分かる。
[試験例4]
<架橋剤濃度と乾燥膜厚の評価>
ボトルブラシポリマー(BBP3)、TDAEをアニソールに溶解し、BPEを固定化したシリコン基板にスピンコートした(回転数4000rpm、30秒)。このとき、ボトルブラシポリマーの濃度は5wt%に固定し、ブラシ鎖末端の臭素に対してTDAE濃度を下記表10となるように変化させた。スピンコート後、基板は真空条件下、120℃で2時間置くことで、架橋処理を行った。架橋膜はクロロホルムに一晩浸漬して洗浄し、洗浄前後で膜厚がほとんど変化しないことを確認した(表10)。
<架橋剤濃度と膨潤膜厚>
上述の「架橋剤濃度と乾燥膜厚の評価」の条件で、BPE固定化シリコン基板に架橋膜を作製した。各膜の乾燥膜厚を表11に示す。得られた架橋膜はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、エリプソメーター測定によりその膨潤膜厚を評価した(表11)。図9にTDAE濃度に対する膨潤度(膨潤膜厚)をプロットしたグラフを示す。横軸は、ボトルブラシポリマーに対するTDAEのモル比を示し、縦軸は膨潤度を示す。また縦軸は乾燥膜厚で規格化している。表11及び図9の結果より、乾燥膜厚に対する膨潤度はTDAE濃度に依らず、およそ2.5倍であった。
<生体適合性(細胞接着)>
前記「架橋剤濃度と乾燥膜厚の評価」で作製した架橋膜について、架橋膜表面に対する細胞接着特性を評価した。ボトルブラシ架橋膜をコートしたシリコン基板(1×1 cm、各3枚)をファルコン24ウェルマルチプレート(1well=ca 2cm)に並べ、70%エタノール水溶液で滅菌した。滅菌後、サンプルは滅菌水、PBSで洗浄した。次にマウス繊維芽細胞(L929)1万個/cmを播種した。24時間後、PBSでサンプルを3回洗浄し、接着細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した。細胞核はDAPIで青色に、細胞骨格はファロイジンで赤色に蛍光染色し、蛍光顕微鏡により観察した。接着細胞数をプロットしたグラフを図10に示す。縦軸のL929細胞の接着数はTCPS上に接着した細胞数で規格化した。TDAE濃度によらず、細胞はほとんど接着しないことがわかった。
<抗菌性試験(大腸菌の接着試験)>
次に表10の架橋膜表面に対する抗菌性を評価した。ボトルブラシ架橋膜をコートしたシリコン基板(1x1 cm2, 各3枚)をファルコン24ウェルマルチプレート(1well=ca 2cm)に並べ、70%エタノール水溶液で滅菌した。滅菌後、サンプルは滅菌水、PBSで洗浄した。次に濁度を1.0に調整した大腸菌を1ml播種した。37℃のインキュベーターに静置1時間後、PBSでサンプルを3回洗浄し、接着した大腸菌を4%パラホルムアルデヒドで固定した。凍結乾燥後、各表面のSEM観察を行った。図11に各表面のSEM画像を示す。TCPSの表面には大腸菌が著しく接着するのに対し、ボトルブラシ表面にはほとんど接着しないことがわかった。
[試験例5]
<光反応性架橋剤の濃度と乾燥膜厚の評価>
ボトルブラシポリマー(BBP3)、光反応性架橋剤(PhAz-linker:(2,2’-ethan-1,2-diylbis(oxy))bis(ethane-2,1-diyl)bis(4-azidobenzoate))をエタノールに溶解し、アミノプロピルトリエトキシシラン(AMP)を固定化したシリコン基板にスピンコートした(回転数4000rpm、30秒)。このとき、ボトルポリマーブラシの濃度を3wt%に固定し、架橋剤濃度を表12に示すように変化させた。スピンコート後、紫外線を20秒照射し、架橋処理を行った。架橋膜はクロロホルムに一晩浸漬して洗浄し、洗浄前後で膜厚がほとんど変化しないことを確認した。
<架橋剤濃度と膨潤膜厚>
上述の条件で、AMP固定化シリコン基板に架橋膜を作成した。各膜の乾燥膜厚を表13に示す。得られた架橋膜はPBS中、エリプソメーター測定によりその膨潤膜厚を評価した(表13)。図12に架橋剤濃度に対する膨潤膜厚の図を示す。縦軸は乾燥膜厚で規格化している。架橋剤濃度1.0wt%以上では、PBSにほとんど膨潤しないことがわかった。架橋剤濃度1.0wt%以下においても、膨潤度は1.25程度とあまり膨潤しないことがわかった。これは、架橋剤がボトルブラシ同士だけでなく、グラフト鎖の隙間に入り、グラフト鎖間でも架橋反応するためだと考えられる。
<生体適合性(細胞接着)>
次に表13のボトルブラシ架橋膜に対する細胞接着特性を評価した。架橋膜をコートしたシリコン基板(1x1 cm2, 各3枚)をファルコン24ウェルマルチプレート(1well=ca 2 cm2)に並べ、70%エタノール水溶液で滅菌した。滅菌後、サンプルは滅菌水、PBSで洗浄した。次にマウス繊維芽細胞(L929)1万個/cm2を播種した。24時間後、PBSでサンプルを3回洗浄し、接着細胞を4%パラホルムアルデヒトで固定した。細胞核はDAPIで青色に、細胞骨格はファロイジンで赤色に蛍光染色し、蛍光顕微鏡により接着細胞を観察した。接着細胞数を図13に示す。縦軸のL929細胞の接着数はTCPS上に接着した細胞数で規格化した。膨潤度が異なるにも関わらず、いずれのボトルブラシ表面にも細胞はほとんど接着しないことがわかった。
<抗菌性:大腸菌の接着>
次に表13の架橋膜表面に対する抗菌性を評価した。ボトルブラシ架橋膜をコートしたシリコン基板(1x1 cm2, 各3枚)をファルコン24ウェルマルチプレート(1well=ca 2 cm2)に並べ、70%エタノール水溶液で滅菌した。滅菌後、サンプルは滅菌水、PBSで洗浄した。次に濁度を1.0に調整した大腸菌を1ml播種した。37℃のインキュベーターに静置1時間後、PBSでサンプルを3回洗浄し、接着した大腸菌を4%パラホルムアルデヒトで固定した。凍結乾燥後、各表面のSEM観察を行った(図13)。TCPSの表面には大腸菌が著しく接着するのに対し、ボトルブラシ表面にはほとんど接着しないことがわかった。
本発明の生体性適合材料は、生物及び/又は生体物質付着を抑えることが可能である。また、架橋密度をかなり低くしても膨潤度が上がらず、生体適合性の効果を奏するため、工程管理上の許容度が高く、製造コストも期待できる。さらに、本発明のコーティング剤は、濃厚ポリマーブラシと架橋剤を含み、該生体適合材料を形成するのに好適である。

Claims (7)

  1. ビニル系単量体から構成されるグラフト鎖を有し、
    下記式(1):
    (式(1)中、σは、有効グラフト密度[鎖/nm]である)
    で定義される表面占有率(σ)が0.1以上である、グラフトポリマーを含み、少なくとも一部のグラフトポリマー鎖間が架橋されてなる生体適合性材料。
  2. 前記表面占有率が0.1以上1.0以下である、請求項1に記載の生体適合性材料。
  3. 生物及び/又は生体物質付着抑制用に用いられる、請求項1又は2に記載の生体適合性材料。
  4. 前記グラフトポリマーの主鎖がビニル系ポリマーである、請求項1〜3のいずれかに記載の生体適合性材料。
  5. 前記グラフトポリマー鎖間がグラフト鎖の端部において架橋されており、その架橋密度が1未満である、請求項1〜4のいずれかに記載の生体適合性材料。
  6. 前記架橋密度が0.2〜0.7である、請求項5に記載の生体適合性材料。
  7. ビニル系単量体から構成されるグラフト鎖を有し、
    下記式(1):
    (式(1)中、σは、有効グラフト密度[鎖/nm]である)
    で定義される表面占有率(σ)が0.1以上である、グラフトポリマーを含む主剤成分、及び
    架橋剤を含む架橋成分
    からなる生体適合性コーティング剤。
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