JP7243803B1 - プレス成形品の割れ判定方法及びプレス成形品の割れ対策決定方法 - Google Patents

プレス成形品の割れ判定方法及びプレス成形品の割れ対策決定方法 Download PDF

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Abstract

Figure 0007243803000001
【課題】プレス成形品に発生した又は発生すると予測された割れがプレス成形時又はスプリングバック時に発生するものであるかを判定するプレス成形品の割れ判定方法と、該割れ判定に基づいてプレス成形品の割れ対策を決定するプレス成形品の割れ対策決定方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形品の割れ判定方法は、割れが発生したプレス成形品21の割れ対策を決定するものであって、プレス成形品21における割れ発生部位である曲げ部23のプレス成形過程での応力状態を再現するように試験片31のプレス成形を行い、試験片31の応力状態再現部33における微小き裂の発生の有無を判定し(P1)、応力状態再現部33に微小き裂の発生有りと判定された場合、プレス成形過程での割れと判定し、応力状態再現部33に微小き裂の発生無しと判定された場合、プレス成形後のスプリングバックでの割れと判定する(P3)。
【選択図】 図1

Description

本発明は、金属板のプレス成形により割れが発生した又は発生すると予測されたプレス成形品に生じる割れを判定するプレス成形品の割れ判定方法、及び、該割れ判定に基づいてプレス成形品の割れ対策を決定するプレス成形品の割れ対策決定方法に関する。
金属板をプレス成形したプレス成形品に発生する数mmの大きさの割れは、プレス成形品の外観を悪化させるだけでなく、脆性破壊や疲労破壊の起点となり得るため、このような割れは存在しないことが望ましい。
これまでに、プレス成形品の割れを防ぐために、プレス成形時における割れ発生の予測と評価に関する技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、金属製の板材の曲げ変形後の曲げ戻し変形時における曲げ内側の曲げ内割れを評価する方法と、このような曲げ内割れの発生を予測する方法が開示されている。
また、特許文献2には、せん断加工された金属板にプレス成形を施して、目的のプレス成形部品を製造する際における、せん断端面での曲げ割れを評価する技術が開示されている。
特許5900751号公報 WO2020/174841号公報
一般に、プレス成形時における数mmの大きさの割れは、プレス成形品における割れが生じる部位に発生した数十μmの大きさの微小なき裂(以下、微小き裂と称す)に起因するものであり、割れ発生を抑制又は防止する対策を行うためには、プレス成形時における微小き裂の発生を把握する必要がある。
図6に、金属板11を曲げ成形したプレス成形品21を示す。発明者らはプレス成形中に発生する割れに関して鋭意検討した結果、(1)プレス成形中に曲げ成形した曲げ部23に割れが発生する場合と、(2)プレス成形して金型から離型した後のプレス成形品21のスプリングバック時に曲げ部23に割れが発生する場合、とに分けられることを見出した。
そして、(1)プレス成形中の割れは、金属板11の曲げ成形中に曲げ部23に生じたひずみが割れ限界値を超えることにより、図7に示すように、曲げ部23の曲げ内側の表面に発生する微小き裂に起因するものである。
これに対し、(2)スプリングバック時の割れは、プレス成形中に曲げ部23の曲げ内側の表面に生じる強い圧縮応力の作用によって金属板が脆化を起こし、当該金属板の初期欠陥やプレス成形中に曲げ部23に発生した微小き裂を起点として、圧縮応力からスプリングバックによる引張応力への反転をきっかけとして発生するものである。
このように、プレス成形中の割れとスプリングバック時の割れは発生メカニズムが異なるため、プレス成形品に発生した割れを抑制する割れ対策についても異なった手段で行うことが必要である。
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されている技術は、割れに至る微小き裂の発生がプレス成形中又はスプリングバック時のどちらで起こったのかを判定することができない。そのため、例えばスプリングバック時に割れが発生しているにも関わらず、プレス成形中に微小き裂が発生して割れが生じたと判定された場合、プレス成形品に発生した割れを抑制するための有効な割れ対策を施すことができない場合があった。
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、金属板のプレス成形により割れが発生した又は割れが発生すると予測されたプレス成形品において、当該割れが前記金属板のプレス成形時に発生したものであるのか、あるいは、スプリングバック時に発生したものであるかを判定するプレス成形品の割れ判定方法を提案することを目的とする。さらに、判定した結果に基づいて当該プレス成形品における割れを抑制するために講じる割れ対策を決定するプレス成形品の割れ対策決定方法を提案することを目的とする。
(1)本発明に係るプレス成形品の割れ判定方法は、金属板のプレス成形により割れが発生した又は割れが発生すると予測されたプレス成形品に生じる割れ対策を決定するためのものであって、
前記プレス成形品における割れが発生した又は割れが発生すると予測される割れ発生部位のプレス成形過程での応力状態を前記金属板の試験片のプレス成形により再現し、該試験片の応力状態再現部における微小き裂の発生の有無を判定する応力状態再現試験プロセスと、
前記応力状態再現試験プロセスにおいて前記試験片の前記応力状態再現部に微小き裂の発生が有ると判定された場合、前記プレス成形品のプレス成形過程での割れと判定し、前記試験片の前記応力状態再現部に微小き裂の発生が無いと判定された場合、前記プレス成形品のプレス成形後のスプリングバックでの割れと判定する割れ判定プロセスと、を含むことを特徴とするものである。
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記応力状態再現試験プロセスは、前記プレス成形品における前記割れ発生部位の応力状態を前記試験片のプレス成形により再現する応力状態再現プレス成形工程と、前記試験片の前記応力状態再現部における微小き裂発生の有無を判定する微小き裂発生有無判定工程と、を有し、
前記応力状態再現プレス成形工程は、
パンチと、ダイと、前記パンチ又は前記ダイに成形荷重を負荷する成形荷重負荷部と、成形荷重を負荷したままの成形状態を保持する成形荷重保持部と、を有する金型を用い、前記パンチと前記ダイとの間に前記試験片を配置した状態で前記成形荷重負荷部により前記パンチを前記ダイ側に押し込み、前記プレス成形品の前記割れ発生部位の応力状態を前記試験片に再現する成形荷重負荷ステップと、
該成形荷重負荷ステップにおいて前記試験片に対する成形荷重を負荷して前記割れ発生部位の応力状態を再現した成形状態を前記成形荷重保持部により保持する成形状態保持ステップと、を有し、
前記微小き裂発生有無判定工程は、
前記成形状態を保持した前記試験片における前記応力状態再現部の断面又は側面の顕微鏡観察を行い、微小き裂の発生の有無を判定する試験片顕微鏡観察ステップを有することを特徴とするものである。
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記プレス成形品は、前記金属板の曲げ成形により形成された曲げ部を有し、該曲げ部が前記割れ発生部位であることを特徴とするものである。
(4)本発明に係るプレス成形品の割れ対策決定方法は、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のプレス成形品の割れ判定方法を用い、金属板のプレス成形により割れが発生した又は割れが発生すると予測されたプレス成形品に講じる割れ対策を決定するものであって、
前記割れ判定プロセスにおいて前記プレス成形品のプレス成形過程での割れと判定された場合、前記プレス成形品のプレス成形過程での前記割れ発生部位における微小き裂の発生を抑制する対策を前記プレス成形品の割れ対策として決定し、前記プレス成形品のプレス成形後のスプリングバックでの割れと判定された場合、前記プレス成形品のプレス成形後のスプリングバックを抑制する対策を前記プレス成形品の割れ対策として決定する割れ対策決定プロセス、を含むことを特徴とするものである。
本発明においては、プレス成形品に発生する割れに対して、プレス成形過程において発生する割れと、プレス成形した後のスプリングバック時に発生する割れと、を区別して判定することができる。これにより、プレス成形品における割れ発生を効果的に抑制するために講じる割れ対策を決定することができる。
また、本発明によれば、プレス成形品の設計段階において該プレス成形品に割れが発生すると懸念される部位の割れ対策を予め決定することによって、プレス成形品の性能を効率的に高めることができる。
本発明の実施の形態1に係るプレス成形品の割れ判定方法の処理の流れを説明するフロー図である。 本発明の実施の形態1に係るプレス成形品の割れ対策判定方法において、割れが発生したプレス成形品の応力状態を試験片のプレス成形により再現する工程を説明する図である。 本発明の実施の形態2に係るプレス成形品の割れ対策決定方法の処理の流れを説明するフロー図である。 本発明の実施の形態2の他の態様に係るプレス成形品の割れ対策決定方法の処理の流れを説明するフロー図である。 実施例において、成形対象としたプレス成形品を示す図である。 本発明で対象とするプレス成形品に発生する割れについて説明する図である((a)プレス成形前、(b)プレス成形中、(c)スプリングバック後)。 曲げ成形したプレス成形品の曲げ部に発生する微小き裂を説明する図である。
[実施の形態1]
本発明の実施の形態1に係るプレス成形品の割れ判定方法は、金属板のプレス成形により割れが発生したプレス成形品に生じる割れ対策を決定するためのものであって、図1に示すように、応力状態再現試験プロセスP1と、割れ判定プロセスP3と、を含むものである。
以下、図6に示すように、金型1を用いて金属板11を曲げ成形して形成された曲げ部23を有するプレス成形品21において、曲げ部23に割れが発生した場合について説明する。
<応力状態再現試験プロセス>
応力状態再現試験プロセスP1は、プレス成形品21における割れ発生部位である曲げ部23のプレス成形過程での応力状態を、一例として図2に示すように、金属板の試験片31のプレス成形により再現し、試験片31の応力状態再現部33における微小き裂の発生の有無を判定するものである。
本実施の形態において、応力状態再現試験プロセスP1は、図1に示すように、応力状態再現プレス成形工程S11と、微小き裂発生有無判定工程S13と、を有する。
≪応力状態再現プレス成形工程≫
応力状態再現プレス成形工程S11は、プレス成形品21における割れ発生部位である曲げ部23の応力状態を試験片31のプレス成形により再現する工程であり、図1に示すように、成形荷重負荷ステップS11aと、成形状態保持ステップS11bと、を有する。
(成形荷重負荷ステップ)
成形荷重負荷ステップS11aは、図2に示すように、パンチ3と、ダイ5と、パンチ3に成形荷重を負荷する成形荷重負荷部7と、成形荷重を負荷したままの成形状態を保持する成形荷重保持部9と、を有する金型1を用い、パンチ3に成形荷重を負荷して試験片31をプレス成形し、試験片31にプレス成形品21の割れ発生部位である曲げ部23の応力状態を再現するステップである。
本実施の形態において、成形荷重負荷ステップS11aは、図2(a)~(b)に示すように、金型1を用いて、試験片31に対しV字の自由曲げ成形を行うことにより、プレス成形品21の曲げ部23の応力状態を再現した応力状態再現部33を形成する。
成形荷重負荷部7は、図2(a)に示すように、成形用ボルト7aと支持板7bと、支持ボルト7cと、を備えている。そして、支持板7bの中央には、成形用ボルト7aと係合するネジ穴7dが設けられ、支持板7bの四隅には支持ボルト7cが挿通する通し穴7eが設けられている。
成形荷重保持部9は、図2(a)に示すように、固定用ナット9aと、支持ボルト9bと、スペーサー9cと、を備えている。なお、支持ボルト9bは、成形荷重負荷部7の支持ボルト7cと共通する。
パンチ3は、図2(a)に示すように、プレス成形方向に凸のV字状のワーク部3aと、成形用ボルト7aが当接して成形荷重を受けるパンチベース部3bと、を有している。
ワーク部3aの先端R部3cの曲率は、図6に示すように、プレス成形品21のプレス成形に用いた金型51におけるプレス成形品21の曲げ部23を成形する曲げ成形部53の曲率とする。
また、試験片31をV字状に曲げ成形する曲げ角度は、プレス成形品21の曲げ部23の曲げ角度と同等の曲げ角度となるパンチ3の押しこみ量を予備試験又は数値解析により予め決定し、その押しこみ量を実現する長さのスペーサー9cをパンチ3とダイ5との間に挿入することにより設定する。
ダイ5は、図2(a)に示すように、試験片31を支持する肩部5aと、パンチ3及び試験片31を逃がす凹部5bと、成形荷重負荷部7の支持ボルト7cが固定されるダイベース部5cと、を有している。
肩部5aの曲げ半径は特に規定されるものではないが、型かじりが起こらないように試験片31の板厚以上となるように決定するとよい。
また、凹部5bの深さは、パンチ3を所定の押し込み量で押し込んだ後に底部5dに試験片31が接触しないように決定するとよい。
そして、本実施の形態において、成形荷重負荷ステップS11aは、まず、パンチ3とダイ5の間に試験片31を配置した後、成形用ボルト7aによりパンチ3に成形荷重を負荷してパンチ3をダイ5の凹部5bに押し込み、試験片31のV字の自由曲げ成形を行い、プレス成形品21の曲げ部23の応力状態を再現した応力状態再現部33を形成する。
(成形状態保持ステップ)
成形状態保持ステップS11bは、図2(c)に示すように、成形荷重負荷ステップS11aにおいてプレス成形品21の曲げ部23の応力状態を再現した成形状態の試験片31を成形荷重負荷部7により保持するステップである。
本実施の形態では、図2(c)に示すように、成形荷重負荷ステップS11aにおいて試験片31に対して所定の曲げ角度まで曲げ成形を行った後、固定用ナット9aを締め込むことで、応力状態再現部33にプレス成形品21の曲げ部23の応力状態を再現した成形状態を保持する。
≪微小き裂発生有無判定工程≫
微小き裂発生有無判定工程S13は、試験片31の応力状態再現部33における微小き裂の発生の有無を判定する工程である。
本実施の形態において、微小き裂発生有無判定工程S13は、図1に示すように、樹脂埋込ステップS13aと、試験片顕微鏡観察ステップS13bと、を有する。
(樹脂埋込ステップ)
樹脂埋込ステップS13aは、図2(d)に示すように、応力状態再現プレス成形工程S11においてプレス成形品21の曲げ部23の応力状態を再現した成形状態で保持された試験片31と、パンチ3及びダイ5と、の間の空隙部35に樹脂を充填し、試験片31を樹脂37に埋め込むステップである。
樹脂埋込ステップS13aにおいて、試験片31を埋め込む樹脂37としては、導電樹脂を例示することができる。導電樹脂でなくとも観察は可能であるが、数十μmのき裂は電子顕微鏡を用いて観察することが望ましく、電子顕微鏡を用いる際は導電樹脂を用いる必要がある。
(試験片顕微鏡観察ステップ)
試験片顕微鏡観察ステップS13bは、試験片31の応力状態再現部33の顕微鏡観察を行い、微小き裂の発生の有無を判定するステップである。
本実施の形態では、樹脂埋込ステップS13aにおいて樹脂37に埋め込まれた試験片31を切断することにより試験片31の応力状態再現部33の断面を露出し、露出した断面を研磨した後に顕微鏡観察を行う。これにより、試験片31を容易に切断して断面を観察することができる。
<割れ判定プロセス>
割れ判定プロセスP3は、応力状態再現試験プロセスP1において試験片31の応力状態再現部33に微小き裂の発生が有ると判定された場合、プレス成形品21のプレス成形過程での割れと判定し、試験片31の応力状態再現部33に微小き裂の発生が無いと判定された場合、プレス成形品21のプレス成形後のスプリングバックでの割れと判定するものである。
このように、本実施の形態1に係るプレス成形品の割れ判定方法によれば、金属板のプレス成形により割れが発生したプレス成形品21について、割れ発生部位である曲げ部23の応力状態を試験片31のプレス成形により再現し、試験片31の応力状態再現部33における微小き裂の発生の有無を判定することにより、プレス成形過程において発生する割れと、プレス成形した後のスプリングバック時に発生する割れと、を区別して判定することができる。
なお、上記の説明は、パンチ3に成形荷重を負荷するものであったが、本発明は、ダイ5に成形荷重を負荷する成形荷重負荷部を設けてもよい。この場合、ダイ5に成形荷重を負荷することでパンチ3側に移動させ試験片31をプレス成形する。
また、本実施の形態1は、微小き裂発生有無判定工程S13において、成形状態を保持した試験片31を樹脂37に埋め込み(S13a)、樹脂37に埋め込まれた試験片31を切断して試験片31の応力状態再現部33の断面を露出し、露出した断面を研磨した後に顕微鏡観察を行うことで(S13b)、応力状態再現部33における微小き裂の発生の有無を判定するものであった。
もっとも、本発明に係るプレス成形品の割れ判定方法は、成形状態を保持した試験片31を樹脂に埋め込まずに、試験片31を切断して断面を観察するものであってもよいし、試験片31の側面に微小き裂が発生している場合には試験片31を切断せずに応力状態再現部33の側面を観察するものであってもよい。
また、本発明に係るプレス成形品の割れ判定方法は、プレス成形品21の割れ発生部位である曲げ部23に割れが発生した時の応力状態が試験片31の応力状態再現部33に再現されているものであればよい。そのため、金型1の成形下死点における試験片31の成形状態を保持するものに限らず、成形途中の成形状態を保持するものであってもよい。
なお、本発明に係るプレス成形品の割れ判定方法は、前述した本実施の形態の応力状態再現試験プロセスP1のように金型1を用いて試験片31に対しV字の自由曲げ成形を行うものに限らず、割れが発生した又は割れが発生すると予測されるプレス成形品の割れ発生部位の応力状態を再現することができるものであれば、試験片のプレス成形方法を限定するものではない。
[実施の形態2]
本発明の実施の形態2に係るプレス成形品の割れ対策決定方法は、前述した実施の形態1に係るプレス成形品の割れ判定方法を用い、金属板のプレス成形により割れが発生したプレス成形品に講じる割れ対策を決定するものであって、図3に示すように、割れ対策決定プロセスP5を含むものである。
以下、前述した実施の形態1と同様、図6に示すプレス成形品21の曲げ部23に割れが発生した場合について説明する。
<割れ対策決定プロセス>
割れ対策決定プロセスP5は、割れ判定プロセスP3においてプレス成形品21のプレス成形過程での割れと判定された場合、プレス成形品21のプレス成形過程での割れ発生部位である曲げ部23における微小き裂の発生を抑制する対策をプレス成形品21の割れ対策として決定し、割れ判定プロセスP3においてプレス成形品21のプレス成形後のスプリングバックでの割れと判定された場合、プレス成形品21のプレス成形後のスプリングバックを抑制する対策をプレス成形品21の割れ対策として決定するものである。
本実施の形態2では、図3に示すように、試験片顕微鏡観察ステップS13bでの試験片31の微小き裂発生の有無の判定に基づいた割れ判定プロセスP3での割れ判定に応じて、割れ対策を決定する。
プレス成形過程における微小き裂の発生を抑制する対策に関しては、特に限定されるものではなく、例えば特許文献1に記載されているように、プレス成形品のプレス成形時のひずみ又は応力を基準とし、当該基準となるひずみ又は応力が発生するようにプレス成形を行うことが挙げられる。
プレス成形した後のスプリングバックを抑制する対策に関しても、特に限定されるものではないが、例えば、以下の公知文献1に記載されているように、曲げ時又は曲げ後に引っ張り力を付与する、曲げ時又は曲げ後に圧縮力を加えるといった対策や、以下の公知文献2に記載されているように、工具(金型)のクリアランス内で発生する逆曲げ現象を利用する、縦壁の張力を成形過程において変化させる、下死点において板厚方向に圧縮応力を負荷する決め押しといった対策、等を適用することができる。
(公知文献1)中哲夫、村上英正、橋本友彰、高張力鋼板の曲げにおけるスプリングバックに及ぼす引張力の影響、弓削商船高等専門学校紀要、第34号(平成24年)、p.1
(公知文献2)吉田亨、片山知久、橋本浩二、栗山幸久、高強度鋼板の形状凍結性改善技術、新日鉄技報、第378号(2003)、9.25
なお、スプリングバックを抑制する対策についての注意すべき点として、プレス成形品の割れ発生部位の周囲におけるスプリングゴー等とを組み合わせてプレス成形品全体としてスプリングバックを抑制する対策は好ましくない。この理由は、スプリングバックにより割れ発生部位に発生した割れは、当該割れ発生部位における局所的なスプリングバックのみに起因するものであり、プレス成形品全体のスプリングバックを抑制する対策を施したとしても、割れ発生部位のスプリングバックが抑制されるとは限らないためである。
以上、本実施の形態2に係るプレス成形品の割れ対策決定方法によれば、金属板のプレス成形により割れが発生したプレス成形品21について、プレス成形過程において発生する割れと、プレス成形した後のスプリングバック時に発生する割れと、を区別して判定することにより、プレス成形品における割れ発生を効果的に抑制するために講じる割れ対策を決定することができる。
なお、本実施の形態2において、プレス成形品21は、金属板の曲げ成形により形成された曲げ部23を有するものであり、曲げ部23に割れが発生した場合を対象としたものであった。もっとも、本発明は、曲げ成形により形成された曲げ部に限らず、他の成形方法により形成された部位における割れ発生についても、当該部位の応力状態を再現して微小き裂の発生の有無を判定することにより、プレス成形品における割れ発生を抑制するための割れ対策を適切に決定することができる。
例えば、絞り成形では、引張荷重が発生するため、曲げ成形の曲げ部位と比較すると割れ発生の危険性は低くなるものの、曲げ内割れが発生する可能性があるため、本発明を絞り成形により成形された曲げ部位に適用することができる。
[他の態様]
上記の本実施の形態1及び実施の形態2は、実際に金属板をプレス成形したプレス成形品に割れが発生した場合を対象とするものであった。
もっとも、本発明は、プレス成形割れ予測方法(特許文献1等)により割れが発生するとされたプレス成形品の割れ発生部位について、当該割れ発生部位の応力状態を再現した試験片における微小き裂の有無を判定することにより、プレス成形による割れとスプリングバックによる割れとを区別して割れ発生を判定するものであってもよいし、さらには、該判定に応じてプレス成形品の割れ対策を決定するものであってもよい。
また、上記の説明は、応力状態再現試験プロセスにおいて、応力状態を再現した試験片の応力状態再現部位における微小き裂の発生の有無により、プレス成形過程での割れの発生と、プレス成形後のスプリングバックによる割れの発生と、を区別して判定するものであった。
そこで、本実施の形態1に係るプレス成形品の割れ判定方法の他の態様として、割れ判定プロセスは、成形状態を保持した試験片31の応力状態再現部33に微小き裂の発生が無いと判定された場合、プレス成形品21の曲げ部23の応力状態を試験片31に再現する成形荷重負荷ステップS11aを再度行い、応力状態を再現した試験片31の成形状態を保持せずに成形荷重を除荷してスプリングバックさせ、応力状態再現部33の断面又は側面の顕微鏡観察を行うことにより微小き裂の発生の有無を判定するものであってもよい。
そして、本実施の形態1に係るプレス成形品の割れ判定方法の他の態様は、スプリングバックさせた試験片31の応力状態再現部33において、微小き裂の発生が有ると判定された場合、プレス成形品21のプレス成形後のスプリングバックでの割れと判定し、微小き裂の発生が無いと判定された場合、プレス成形品21のプレス成形過程及びプレス成形後のスプリングバックのいずれにおいても割れは無いと判定する。
さらに、本実施の形態2に係るプレス成形品の割れ対策決定方法の他の態様として、本実施の形態1に係るプレス成形品の割れ判定方法の他の態様を用い、金属板のプレス成形により割れが発生した又は割れが発生すると予測されたプレス成形品21に講じる割れ対策を決定するものであって、本実施の形態1に係るプレス成形品の割れ判定方法の他の態様の割れ判定プロセスにおける割れ判定に基づいて、プレス成形品の割れ対策を決定する割れ対策決定プロセス、を含むものであってもよい。
本実施の形態2に係るプレス成形品の割れ対策決定方法の他の態様の具体的な手順を、図4に基づいて説明する。
まず、前述した実施の形態1の応力状態再現試験プロセスP1と同様に、図2に示すように、プレス成形品21の割れ発生部位である曲げ部23のプレス成形過程における応力状態を再現するように試験片31をプレス成形し(S11)、試験片31の応力状態再現部33における微小き裂発生の有無を判定する(S13)。
そして、試験片31の応力状態再現部33に微小き裂の発生が無かった場合(S71)、応力状態を再現した試験片31をスプリングバックさせ(S73)、スプリングバックによる試験片31の応力状態再現部33における微小き裂の有無を判定する(S75)。
試験片31のスプリングバックによる試験片31の応力状態再現部33における微小き裂発生の有無を判定するには、図2に示すように、試験片31をプレス成形した後、成形状態を保持せずに成形用ボルト7aを緩めて試験片31をスプリングバックさせ、その後、試験片31を取り出して応力状態再現部33を観察する。このとき、試験片31は樹脂37に埋め込んでもよい。
そして、応力状態再現部33に微小き裂が観察された場合、スプリングバックによる割れ発生有りと判定する。
これに対し、スプリングバックさせた試験片31の応力状態再現部33に微小き裂が観察されなかった場合、プレス成形品21の曲げ部23に割れの発生無しと判定する。
そして、応力状態を再現した試験片31の応力状態再現部33に微小き裂の発生が有り、プレス成形品21のプレス成形過程での割れと判定された場合(S91)、プレス成形品21のプレス成形過程での割れ発生部位である曲げ部23における微小き裂の発生を抑制する対策をプレス成形品21の割れ対策として決定する(S93)。
これに対し、スプリングバックさせた試験片31に微小き裂の発生があり、プレス成形品21のプレス成形後のスプリングバックでの割れと判定された場合(S95)、プレス成形品21のプレス成形後のスプリングバックを抑制する対策をプレス成形品21の割れ対策として決定する(S97)。
さらに、プレス成形品21の曲げ部23に割れが発生すると予測されたものの、プレス成形品21のプレス成形過程及びプレス成形後のスプリングバックのいずれにおいても割れは無いと判定された場合(S99)、プレス成形品21の曲げ部23には割れが発生しないと考えられるため、割れ対策としては何も行わないと決定する(S101)。
このように、プレス成形品を製造する前の設計段階において、該プレス成形品に割れが発生すると予測された割れ発生部位の割れ対策を予め決定することによって、プレス成形品の性能を効率的に高めることができる。
本発明の作用効果について確認するための実験を行ったので、これについて以下に説明する。
本実施例では、引張強度の異なる2種類の金属板(金属板A及び金属板B)を供試材とし、図5に示すような、天板部43と、天板部43の両端から曲げ部45を介して連続する一対の縦壁部47とを有してなる略コ字断面形状であり、天板部43に屈曲凹部49が形成されたプレス成形品41をプレス成形した。
プレス成形品41の成形工程として、まず、第一成形工程において金属板A及び金属板Bを曲げ成形して屈曲凹部49を形成した。続いて、第二成形工程において屈曲凹部49が形成された金属板A及び金属板Bを曲げ成形して曲げ部45を形成した。ここで、屈曲凹部49は、曲げ半径3mm、曲げ角度90°であり、曲げ部45は、曲げ半径10mm、曲げ角度90°とした。
そして、プレス成形品41における割れ発生の有無を確認したところ、屈曲凹部49の曲げ内側に割れが発生していた。
そこで、図2に示す金型1を用いて、金属板A及び金属板Bそれぞれについての試験片31をV字状の自由曲げ成形を施すプレス成形を行い、プレス成形品41における割れ発生部位である屈曲凹部49の応力状態を再現した。
金型1のパンチ3の先端R部3cの曲率半径は3mmとし、曲げ成形後の曲げ角度は90度となるようにスペーサー9cの長さを設定した。
そして、曲げ成形した後の成形状態を保持した試験片31と、成形状態を保持せずに金型1から取り出してスプリングバックさせた試験片31と、のそれぞれについて、目視又は顕微鏡により試験片31の断面を観察し、割れ発生の有無を判定した。
そして、成形状態を保持した試験片31に微小き裂の発生が見られた場合、プレス成形中に割れが発生したと判定した。
これに対し、成形状態を保持した試験片31には微小き裂の発生が見られず、スプリングバックした後の試験片31にのみ微小き裂の発生が見られた場合、スプリングバックにより割れが発生したと判定した。
なお、成形状態を保持した試験片31とスプリングバックさせた試験片31の双方とも、50μm以上の長さの微小き裂が確認された場合、微小き裂の発生有りと判定した。
表1及び表2に、金属板A及び金属板Bそれぞれの試験片31における微小き裂発生の有無の判定結果を示す。
Figure 0007243803000002
Figure 0007243803000003
金属板Aの試験片31においては、表1に示すように、目視では微小き裂は観察されなかったが、顕微鏡観察では微小き裂の発生が確認された。このことから、金属板Aの試験片31においては、プレス成形中に微小き裂の発生有りと判定された。
金属板Aの試験片31に発生した微小き裂の模式図を図7に示す。微小き裂は成形下死点の状態で応力状態再現部33の曲げ内側の表面の凹凸の底に発生していた。そのため、金属板Aを用いたプレス成形品41については、プレス成形過程における微小き裂発生を抑制する対策を割れ発生の対策として決定した。
そこで、本実施例では、金属板Aを用いたプレス成形品41についての割れ発生対策として、プレス成形品41の屈曲凹部49の曲げ半径を3mmから4mmに変更することとした。その結果、屈曲凹部49の曲げ内側に発生するひずみを緩和することで、屈曲凹部49に割れを発生させずにプレス成形品41をプレス成形することができた。
一方、金属板Bの試験片31においては、表2に示すように、成形状態を保持した状態では目視観察及び顕微鏡観察のいずれにおいても応力状態再現部33に微小き裂の発生は見られなかった。しかしながら、スプリングバックさせた試験片31の応力状態再現部33を顕微鏡観察したところ、応力状態再現部33の曲げ内側に微小き裂の発生が見られた(図7参照)。そのため、金属板Bを用いたプレス成形品41については、スプリングバックを抑制する対策を割れ発生の対策として決定した。
そこで、本実施例では、プレス成形品41の曲げ部45を曲げ成形して天板部43と縦壁部47を形成した後、公知文献1に記載されているように、曲げ時に引っ張り力を付与するために、天板部43に屈曲凹部49を張出成形(天板部43の材料の流動を拘束しながら屈曲凹部49を曲げ成形)を行うという対策を講じることとした。引っ張り力を付与することにより、曲げ内側表面での座屈及びしわの発生を抑制することができ、微小き裂の発生を抑制することができる。この対策により、屈曲凹部49は成形過程において引っ張り力が付与される引張曲げ成形により形成されることになる。その結果、屈曲凹部49に割れを発生させずにプレス成形品41をプレス成形することができた。
1 金型
3 パンチ
3a ワーク部
3b パンチベース部
3c 先端R部
5 ダイ
5a 肩部
5b 凹部
5c ダイベース部
5d 底部
7 成形荷重負荷部
7a 成形用ボルト
7b 支持板
7c 支持ボルト
7d ネジ穴
7e 通し穴
9 成形荷重保持部
9a 固定用ナット
9b 支持ボルト
9c スペーサー
11 金属板
21 プレス成形品
23 曲げ部
31 試験片
33 応力状態再現部
35 空隙部
37 樹脂
41 プレス成形品
43 天板部
45 曲げ部
47 縦壁部
49 屈曲凹部
51 金型
53 曲げ成形部

Claims (2)

  1. 金属板のプレス曲げ成形により形成された曲げ部の曲げ内側の表面に割れが発生した又は割れが発生すると予測されたプレス成形品に生じる割れ対策を決定するためのプレス成形品の割れ判定方法であって、
    前記プレス成形品は、前記金属板の曲げ成形により形成された曲げ部を有し、
    前記プレス成形品における割れが発生した又は割れが発生すると予測される割れ発生部位を前記曲げ部の曲げ内側の表面とし、該割れ発生部位のプレス成形過程又はスプリングバックした後での応力状態を前記金属板の試験片のプレス成形により再現し、該試験片の応力状態再現部における微小き裂の発生の有無を判定する応力状態再現試験プロセスと、
    前記応力状態再現試験プロセスにおいてプレス成形過程の応力状態を再現して、前記試験片の前記応力状態再現部に微小き裂の発生が有ると判定された場合、前記プレス成形品のプレス成形過程での前記曲げ部の曲げ内側の表面割れと判定し、前記試験片の前記応力状態再現部に微小き裂の発生が無いと判定され、前記応力状態再現試験においてスプリングバックした後の応力状態を再現して、該試験片の前記応力状態再現部に微小き裂の発生が有ると判定された場合、前記プレス成形品のプレス成形後のスプリングバックでの前記曲げ部の曲げ内側の表面割れと判定する割れ判定プロセスと、を含み、
    前記応力状態再現試験プロセスは、前記プレス成形品における前記割れ発生部位の応力状態を前記試験片のプレス成形により再現する応力状態再現プレス成形工程と、前記試験片の前記応力状態再現部における微小き裂発生の有無を判定する微小き裂発生有無判定工程と、を有し、
    前記応力状態再現プレス成形工程は、
    パンチと、ダイと、前記パンチ又は前記ダイに成形荷重を負荷する成形荷重負荷部と、成形荷重を負荷したままの成形状態を保持する成形荷重保持部と、を有する金型を用い、前記パンチと前記ダイとの間に前記試験片を配置した状態で前記成形荷重負荷部により前記パンチを前記ダイ側に押し込み、前記プレス成形品の前記割れ発生部位の応力状態を前記試験片に再現する成形荷重負荷ステップと、
    該成形荷重負荷ステップにおいて前記試験片に対する成形荷重を負荷して前記割れ発生部位の応力状態を再現した成形状態、又は該成形状態から成形荷重を除荷したスプリングバックさせた応力状態を前記成形荷重保持部により保持する成形状態保持ステップと、を有し、
    前記微小き裂発生有無判定工程は、
    前記成形状態又はスプリングバックさせた応力状態を保持した前記試験片における前記応力状態再現部の断面又は側面の顕微鏡観察を行い、微小き裂の発生の有無を判定する試験片顕微鏡観察ステップを有することを特徴とするプレス成形品の割れ判定方法。
  2. 請求項1に記載のプレス成形品の割れ判定方法を用い、金属板のプレス成形により割れが発生した又は割れが発生すると予測されたプレス成形品に講じる割れ対策を決定するプレス成形品の割れ対策決定方法であって、
    前記割れ判定プロセスにおいて前記プレス成形品のプレス成形過程での割れと判定された場合、前記プレス成形品のプレス成形過程での前記割れ発生部位における微小き裂の発生を抑制する対策を前記プレス成形品の割れ対策として決定し、前記プレス成形品のプレス成形後のスプリングバックでの割れと判定された場合、前記プレス成形品のプレス成形後のスプリングバックを抑制する対策を前記プレス成形品の割れ対策として決定する割れ対策決定プロセス、を含むことを特徴とするプレス成形品の割れ対策決定方法。
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