以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態の一態様について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
[1.車両の構成]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る車両1の全体構成について説明する。図1は、本実施形態に係る車両1の全体構成を示す概略図である。
本実施形態では、車両1が動力源としてエンジンおよびモータの双方を備えたハイブリッド車両、特に、シリーズ・パラレル式(パワースプリット式)のハイブリッド自動車である例について説明する。しかし、本発明の車両は、ハイブリッド車両の例に限定されず、動力源としてエンジンのみを備えた車両、または、動力源としてモータのみを備えた電気車両など、各種の動力源を有する車両に適用可能である。
図1に示すように、車両1は、エンジン10と、動力分割機構12と、減速機構(トランスミッション)14と、第1モータジェネレータ16と、第1インバータ18と、バッテリ20と、第2インバータ22と、第2モータジェネレータ24と、制御部26とを備える。さらに、車両1は、ディファレンシャルギヤ34と、ドライブシャフト36と、駆動輪(前輪30および後輪32)とを備える。
エンジン10は、車両1を走行させるための駆動力を発生させる。例えば、エンジン10は、ガソリンまたは軽油などの燃料を燃焼させて、ピストンを往復運動させる。当該ピストンの往復運動の動力は、エンジン10の出力軸に接続されたコネクティングロッドを通じて、クランクシャフトの回転運動の動力に変換される。エンジン10により生成された回転動力は、動力分割機構12に伝達される。
動力分割機構12は、エンジン10の回転動力を、第1モータジェネレータ16を回転させる動力と、前輪30および後輪32を回転させる動力とに分割する。動力分割機構12は、エンジン10、減速機構14および第1モータジェネレータ16に接続されている。動力分割機構12は、例えば、サンギヤ、プラネタリギヤ、リングギヤ、キャリア等からなる遊星歯車機構を備える。かかる動力分割機構12は、エンジン10から伝達される動力を分割して、減速機構14と第1モータジェネレータ16に伝達する。
減速機構14は、エンジン10または第2モータジェネレータ24等の動力源から伝達される回転動力のトルクや回転数等を変換し、当該変換された回転動力を出力軸へと伝達する。減速機構14は、歯車や軸などからなる複数のギヤ機構を備えた組立部品である。減速機構14は、例えば、多段の減速機構でもよく、または無段変速機構(CVT;Continuously Variable Transmission)でもよい。例えば、減速機構14は、動力分割機構12または第2モータジェネレータ24の出力軸の回転速度を複数段階で減速し、減速された回転動力を出力する。減速機構14は、減速された回転動力を、ディファレンシャルギヤ34およびドライブシャフト36等を介して前輪30および後輪32に伝達する。このようにして、エンジン10または第2モータジェネレータ24等の動力源が発生させた駆動力により、車両1が走行する。
第1モータジェネレータ16は、モータおよび発電機として機能できるが、主に発電機として機能する。第1モータジェネレータ16は、エンジン10から動力分割機構12を介して伝達される動力を用いて、バッテリ20に蓄電するための電力を発生させる。第1モータジェネレータ16の回転子が動力分割機構12のサンギヤの回転に伴って回転することにより、第1モータジェネレータ16は、交流電力を発生させ、第1インバータ18に出力する。
第1インバータ18は、第1モータジェネレータ16およびバッテリ20に電気的に接続されている。第1インバータ18は、第1モータジェネレータ16によって発電された交流電力を直流電力に変換して、バッテリ20に出力する。
バッテリ20は、電力を充放電可能な二次電池である。バッテリ20としては、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池または鉛蓄電池が用いられるが、これら以外の電池が用いられてもよい。バッテリ20は、第1モータジェネレータ16から第1インバータ18を介して供給された直流電力を蓄電する。バッテリ20に蓄電された電力は、主に、車両1を走行させるための駆動力を発生させるために用いられる。なお、バッテリ20は、車両1に設けられる各種の補器(例えば、空調機器または音響機器等)と電気的に接続されていてもよく、当該補器はバッテリ20から供給される電力を用いて動作してもよい。
バッテリ20は、第2インバータ22を介して第2モータジェネレータ24に電気的に接続されている。第2インバータ22は、バッテリ20から供給された直流電力を交流電力に変換して、第2モータジェネレータ24に出力する。
第2モータジェネレータ24は、モータおよび発電機として機能できるが、主にモータとして機能する。第2モータジェネレータ24は、バッテリ20の電力を用いて、車両1を走行させるための駆動力を発生させる。第2モータジェネレータ24の回転子は、減速機構14に接続されている。第2モータジェネレータ24により生成された回転動力は、減速機構14に伝達される。
制御部26は、車両1に設けられる各装置を制御する。制御部26は、例えば、プロセッサ、記憶素子等が搭載された半導体集積回路で構成される。制御部26は、物理的に1つの電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)で構成されてもよい。あるいは、制御部26は、複数のECU(例えば、エンジンECU、モータECU、トランスミッションECU等)で構成されて、制御部26の制御機能が複数のECUに分担されてもよい。ECUは、中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)、CPUが使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶するROM(Read Only Memory)、CPUによる演算処理において適宜変化するパラメータ等を一時記憶するRAM(Random Access Memory)等を備えてもよい。制御部26は、車両1に搭載される制御対象の各装置を制御するために、例えば、CAN(Controller Area Network)通信を用いて、各装置と通信することができる。
[2.カプセル構造の構成]
次に、図2を参照して、本実施形態に係る車両1に設けられる冷却対象を覆うカプセル構造(防音および冷却機構)について説明する。図2は、本実施形態に係る車両1のカプセル構造を示す模式図である。
図2に示すように、カプセル構造は、車両1に設けられる各種の冷却対象(例えば、エンジン10、減速機構14、バッテリ20等)の周囲を覆うためのカバー構造である。このカプセル構造は、主として、冷却対象を冷却若しくは保温等する温度制御機能と、冷却対象から発生する音を遮断する防音機能を有するが、それ以外にも、冷却対象を保護する機能、防塵機能または防水機能などを有してもよい。
冷却対象は、その動作に伴って発熱する装置であり、冷却対象となる装置である。冷却対象が音を発生する装置である場合には、冷却対象は、カプセル構造による防音対象装置にもなりうる。本実施形態では、冷却対象が、主に、エンジン10、減速機構14、バッテリ20である例について説明する。しかし、本発明の冷却対象は、かかる例に限定されず、冷却が求められる装置、もしくは当該装置に付随して設けられる装置であれば、車両1に搭載される任意の装置であってよい。
図2に示すように、本実施形態に係る車両1のカプセル構造は、ケース50と、外気流路52と、通気口54と、温度計56と、弁60とを備える。
まず、ケース50の構成について説明する。ケース50は、複数の冷却対象を収容するための収容部材である。ケース50の内部空間51は、冷却対象を収容するための収容室として機能する。本実施形態では、1つのケース50が設けられる例について説明するが、ケースの設置数は2つ以上であってもよい。
ケース50は、例えば、上面、下面、前面、後面および左右両側面を有する略直方体形状の箱状であり、冷却対象の全周を覆う。これにより、ケース50内で冷却対象をほぼ気密に収容することができるとともに、冷却対象から発生する音がケース50の外部に漏れないように遮蔽することもできる。
なお、ケースの形状は、本実施形態に係るケース50のように直方体形状でなくても、冷却対象の周囲を覆うことができる形状であれば、任意の形状であってよい。また、防音性の向上の観点からは、できるだけケースに開口部を設けない方が好ましいが、ケースの一部に、通気用または装置連結用の開口部が形成されていてもよい。また、車両1の他の部材(例えばエンジンカバー、アンダーカバー、フロアパネル等)とケースを連結することによって、冷却対象を覆う構造であってもよく、この場合、ケース自体の1面または複数面が開口していてもよい。
ケース50の素材としては、アルミニウム、チタン、スチール等の金属、または合成樹脂などを用いることができる。ケース50を構成する壁面は、防音壁として機能するので、ケース50を防音性を有する素材で形成してもよいし、金属性のケース50に、防音性を有する部材を取り付けてもよい。なお、本実施形態に係るケース50の内壁は吸音材で形成されているが、その詳細は後述する。
ケース50は、外気流路52に隣接して設けられる。図2の例では、ケース50の上面53が外気流路52と接しており、当該ケース50の上面53と外気流路52の境界部分に通気口54が形成されている。ケース50内には冷却対象が収容される。図2の例では、1つのケース50内にエンジン10、減速機構14およびバッテリ20が収容される。
エンジン10、減速機構14およびバッテリ20は、その動作に応じて発熱する装置であり、その動作状況や動作環境によっては、冷却することが求められる冷却対象となりうる。エンジン10は、車両1の前方に配置され、その出力軸に減速機構14が接続されている。また、バッテリ20は、車両1の後方に配置される。説明の便宜上、図2の例では、エンジン10、減速機構14、バッテリ20を、その順に単純に並べて図示してあるが、車両1内におけるこれら冷却対象の配置は、適宜変更されてもよい。
また、図2では図示を省略しているが、エンジン10、減速機構14およびバッテリ20以外の装置を、ケース50内に収容してもよい。例えば、減速機構14以外にも、モータや発電機(例えば、図1に示した第1モータジェネレータ16、第2モータジェネレータ24)、またはギヤ機構(例えば、図1に示した動力分割機構12)等を、ケース50内に収容してもよい。また、バッテリ20以外にも、インバータ(例えば、図1に示した第1インバータ18、第2インバータ22)またはコンバータ等を、ケース50内に収容してもよい。ケース50内に収容される装置は、車両の種類や、搭載される装置構成、設置スペースの制約等に応じて、適宜変更可能である。
次に、上記ケース50内に収容された冷却対象を冷却または保温するための冷却機構の構成について説明する。
外気流路52は、車両1の外部の空気(即ち、外気)を車両1内のケース50に沿って流通させるための流路である。外気流路52は、車両1の前後方向X(以下、単に「車両前後方向X」という場合もある。)に延びるように配置され、車両前方から車両1内に導入された外気を、車両後方に向けて誘導する。
外気流路52の車両前後方向Xの長さは、ケース50の車両前後方向Xの長さよりも長い。外気流路52の幅は、ケース50の幅と同程度である。ここで、「幅」とは、車両1の幅方向Y(図2の紙面に対して垂直方向。以下、単に「車幅方向Y」という場合もある。)の長さである。外気流路52の先端開口(吸気口)は、車両1の前部側に配置され、例えば、フロントグリル等の周辺に配置されてもよい。外気流路52の後端開口(排気口)は、車両1の後部側に配置され、例えば、アンダーカバー等の周辺に車外に露出して配置されてもよい。フロントグリルの吸気口等から流入した外気が、外気流路52の先端開口から外気流路52内に導入され、外気流路52の後端開口から車外に排出される。
外気流路52内を流れる外気は、ケース50内に収容された冷却対象を空冷するための冷媒として機能する。当該空冷時の熱交換により昇温した空気は、外気流路52内を車両後方に向けて流れて、外気流路52の後端開口から排出される。車両1の走行に伴い車両1前方から車両1内に流入する走行風を用いて、外気流路52内に外気を流通させてもよい。あるいは、ファン等により強制的に発生させた空気流を用いて、外気流路52内に外気を流通させてもよい。
通気口54は、上記のケース50の内部空間51と外気流路52とを連通させるための開口部である。通気口54は、ケース50と外気流路52との境界部分に形成され、ケース50の内部空間51と外気流路52とを連通させる。本実施形態では、ケース50に形成される開口部は、1つの通気口54のみである。これにより、ケース50の防音性を高めることができる。
温度計56は、ケース50内に配置され、ケース50の内部空間51の温度Tを検出する。温度計56により検出された温度Tは、制御部26に出力される。制御部26は、温度計56による検出温度(ケース50の内部空間51の温度T)に基づいて、弁60の開閉動作を制御する。この開閉制御の詳細は後述する。
弁60は、通気口54を開閉するための開閉機構であり、通気口54に回動可能に設けられる。弁60は、制御部26の指令に応じて回動して、通気口54を開閉する。かかる弁60の開閉動作により、ケース50の内部空間51と外気流路52との連通状態を切り替えることができる。
弁60は、通気口54において、回動軸65を中心に回動可能に設けられる。当該回動軸65は、外気流路52における外気の流通方向(即ち、車両前後方向X)に対して交差する方向に延びる軸である。例えば、図2に示す弁60は、外気の流通方向に対して垂直な方向(即ち、車幅方向Y)に延びる回動軸65を中心に回動可能である。弁60は、例えば、電動の回転式弁であり、不図示のアクチュエータ等の駆動装置により回動する。弁60の回動動作(開閉動作)は、制御部26により制御される。
上記構成の通気口54と弁60を設けることにより、外気流路52の外気をケース50の内部空間51に流入させたり、ケース50の内部空間51の空気を外気流路52に流出させたり、これら空気の流れを遮断したりできる。これにより、ケース50の内部空間51の温度を制御し、ケース50内の冷却対象を空冷したり、保温したりできるようになる。
[3.冷却機構の構成]
次に、図3、図4を参照して、本実施形態に係るカプセル構造の冷却機構の構成について、より詳細に説明する。図3は、本実施形態に係る弁60により通気口54を閉鎖した状態を示す模式図である。図4は、本実施形態に係る弁60により通気口54を開放した状態を示す模式図である。なお、説明の便宜上、図3、図4では、ケース50、外気流路52、通気口54、弁60および吸音部材70を図示し、温度計56、エンジン10、減速機構14およびバッテリ20等の図示は省略してある。
図3および図4に示すように、本実施形態に係るカプセル構造の冷却機構は、ケース50と、外気流路52と、通気口54と、弁60と、吸音部材70とを備える。
通気口54は、ケース50の上面53に部分的に形成される開口部である。通気口54は、車両前後方向Xよりも車幅方向Yに細長い矩形帯状の開口部である。通気口54の車両前後方向Xの長さは、ケース50の上面53の車両前後方向Xの長さに比べて十分に小さく、例えば3分の1以下である。一方、通気口54の幅(車幅方向Yの長さ)は、ケース50の上面53の幅(車幅方向Yの長さ)と略同一か、または若干小さい程度である。通気口54は、ケース50の上面53における車両前後方向Xの中央付近に配置されることが好ましい。これにより、外気流路52から通気口54を通じてケース50内に外気を好適に導入し、ケース50内で外気を円滑に循環させ、再び通気口54から外気流路52に好適に排出することができる。
弁60は、通気口54を開放および閉鎖するための開閉部材であり、例えばシャッター部材として機能する。1つの弁60と1つの通気口54が対をなし、1つのケース50に対して1対の弁60と通気口54が設けられる。弁60は、回動軸65と、回動軸65を中心に回動可能に設けられる弁体61とを備える。弁体61と回動軸65は一体構成されてもよいし、別部材で構成されてもよい。弁体61と回動軸65の材質としては、例えば、金属または合成樹脂等を用いることができるが、特に限定されない。
回動軸65は、外気流路52における外気の流通方向に対して交差する方向、例えば、当該流通方向に対して垂直方向(即ち、車幅方向Y)に延びる。回動軸65と通気口54は、ケース50の上面53と同一平面上に配置されることが好ましい。これにより、弁60を閉じたときに(図3参照。)、弁体61をケース50の上面53に対して面一となるように配置できるので、当該弁体61により通気口54を、ほぼ密閉状態で適切に閉鎖することができる。
弁体61は、通気口54を開閉するための可動式の板状部材(可動羽根)である。弁体61の大きさおよび形状は、通気口54の大きさおよび形状に対応している。具体的には、弁体61は、車幅方向Yに細長い矩形平板状の部材であり、通気口54内に配置可能な大きさおよび形状を有する。外気の流通方向に対して交差する方向(例えば車幅方向Y)における弁体61の幅は、当該車幅方向Yにおける通気口54の幅と略同一か、または若干小さい程度である。上記のように通気口54が車幅方向Yに細長い帯状の開口部であれば、弁体61も、当該通気口54のほぼ全体を閉鎖できるような細長い帯状の部材で形成される。
弁体61は、回動軸65を基準として一側部分61aと他側部分61bとが同一形状を有し、回動軸65を中心に点対称な形状である。しかし、かかる例に限定されず、一側部分61aと他側部分61bが非対称な形状であってもよい。
かかる弁体61を通気口54内で回動軸65を中心に回動させることにより、通気口54を開閉して、ケース50の内部空間51と外気流路52との連通状態を切替可能である。通気口54内で弁体61が回動したときに、弁体61がケース50の上面53や外気流路52の内壁面と干渉せず、かつ、通気口54を適切に閉鎖できるように、弁体61の大きさや形状等が調整されている。
次に、外気流路52およびケース50内で外気を円滑に流動させるための構成について説明する。
上記板状の弁体61の一方の側面には、凹曲面62(第1凹曲面)が形成され、他方の側面には凹曲面63(第2凹曲面)が形成されている。このため、弁体61の中央部よりも両端部の方が、厚くなっている。凹曲面62、63は、一定の曲率を有する円弧状の曲面、複数の曲率を有する曲面、放物面または双曲面のいずれであってもよいし、これらの曲面の組み合わせであってもよいし、あるいは、その他任意の曲面であってもよい。本実施形態では、凹曲面62、63は対称な形状を有するが、非対称であってもよい。
凹曲面62、63は、空気を誘導する機能を有する。図4に示すように、弁60の開放状態において、弁体61の一方の側面の凹曲面62は、外気流路52を流れる外気を、外気流路52から通気口54の上流側部分54aを通じてケース50内に誘導する機能を有する。弁体61の他方の側面の凹曲面63は、ケース50の内部空間51を流れる空気を、ケース50内から通気口54の下流側部分54bを通じて外気流路52に誘導する機能を有する。なお、通気口54の上流側部分54aとは、通気口54のうち、外気流路52内の外気の流通方向における、回動軸65よりも上流側の部分である。下流側部分54bとは、通気口54のうち、当該流通方向における回動軸65よりも下流側の部分である。
このように、本実施形態に係る弁60を開放した状態では、1つの通気口54が、外気の流入口(上流側部分54a)および流出口(下流側部分54b)として兼用される。これにより、ケース50における通気用の開口部の数を1つだけに削減できるので、カプセル構造の冷却機構の構成を簡素化でき、装置コストを低減できる。さらに、ケース50に形成される開口部の数と開口面積を大幅に低減でき、カプセル構造による密閉性が高くなる。よって、弁60が開放状態であっても、ケース50内から外部に音が漏れにくくなり、カプセル構造による防音効果を高めることができる。
さらに、ケース50内において、開放状態の弁60の下方には、吸音部材70が設けられている。吸音部材70は、吸音材で形成された部材である。吸音材としては、例えば、グラスウール、ロックウール、ウレタンフォーム、フェルト、石綿板、木毛板など、音が通り抜けるときに音のエネルギーを減衰させる各種の材料を用いることができる。かかる吸音部材70をケース50内に配置することにより、ケース50内に収容された冷却対象(エンジン10、減速機構14、バッテリ20等)から発生した音を、吸音部材70により吸収して、防音効果をより向上できる。
本実施形態に係る吸音部材70は、上記の吸音機能に加えて、ケース50内の空気の流動を誘導する誘導部材としても機能する。図4に示すように、吸音部材70は、開放状態の弁60の弁体61の下側部分(他側部分61b)に隣接して配置される。吸音部材70は、例えば、略台形の断面形状を有する。この吸音部材70の車両前後方向Xの両側面には、傾斜面72、73が形成されている。傾斜面72、73はそれぞれ、弁体61の凹曲面62、63に対応する。下方に向かうにつれて吸音部材70が幅広になるように、傾斜面72、73が傾斜している。傾斜面72、73は、平坦面または曲面のいずれであってもよい。
このように、吸音部材70は、開放状態の弁60の弁体61に対応する配置および形状であり、弁体61と吸音部材70で協働して、通気口54周辺の空気の流動を誘導する。詳細には、図4に示すように、弁60の開放状態では、凹曲面62と傾斜面72とが隣接して略面一となるように配置される。これにより、外気流路52内を流れる外気を、通気口54の上流側部分54aを通じてケース50内に誘導する1つの誘導面が形成される。同様に、凹曲面63と傾斜面73とが隣接して略面一となるように配置される。これにより、ケース50内を流れる空気を、通気口54の下流側部分54bを通じて外気流路52に誘導する1つの誘導面が形成される。
また、空気流を誘導する誘導部材として、ケース50の内壁面57にも、複数の凹曲面58(第3凹曲面)が形成されている。図4に示す例では、ケース50内の四隅にそれぞれ、凹曲面58が形成されている。この4つの凹曲面58も、上記凹曲面62、63と同様、円弧状の曲面、複数の曲率を有する曲面、放物面、双曲面、またはこれらの曲面の組み合わせなど、任意の曲面であってよい。円滑な流動の観点からは、4つの凹曲面58は、同一の曲面形状を有し、相互に対称に配置されることが好ましい。本実施形態では、内壁面57のうち一部(四隅部分)を凹曲面58で形成しているが、内壁面57の全体を凹曲面で形成してもよい。
かかる凹曲面58は、上記通気口54の上流側部分54aからケース50内に流入した外気を、ケース50内で循環させて、通気口54の下流側部分54bに誘導するための誘導面として機能する。かかる凹曲面58により、ケース50内で外気を所定の湾曲方向(図4の例では反時計回り方向)に円滑に循環させることができる。
また、ケース50の内壁59は、吸音材で形成されてもよい。内壁59の吸音材の材質は、上述した吸音部材70の吸音材と同様な素材を用いればよい。ケース50の内壁59を吸音材で形成することにより、ケース50内に収容された冷却対象(エンジン10、減速機構14、バッテリ20等)から発生した音を、ケース50の内壁59により吸収して、防音効果をより向上できる。
[4.弁の開閉状態に応じた空気流]
次に、図3、図4を参照して、本実施形態に係る弁60の開閉制御と、弁60の開閉状態に応じた空気の流れについて、より詳細に説明する。
上述したように、ケース50内に設けられた温度計56(図2参照。)により、ケース50の内部空間51の温度Tが検出される。制御部26は、温度計56により検出された温度Tが所定の上限温度以上であるか否かを判定する。この結果、温度Tが上限温度未満である場合には、制御部26は、図3に示すように弁60により通気口54を閉鎖する。一方、温度Tが上限温度以上である場合には、制御部26は、図4に示すように弁60により通気口54を開放する。
(1)閉鎖状態
図3に示すように、弁60により通気口54を閉鎖した状態では、弁体61がケース50の上面53と略平行になり、通気口54のほぼ全体が弁体61により閉鎖される。この結果、外気流路52内を車両後方に向かって流れる外気は、ケース50内に流入することなく、通り抜ける。
ケース50の上面53には、通気口54の上流側の端部に隣接して、緩斜面を有する突出部53aが形成されている。この突出部53aの高さは、閉鎖状態の弁体61の一側部分61a(左側部分)の端面の高さと略同一である。これにより、外気流路52を流れる外気は、突出部53aの緩斜面に沿って円滑に流動し、弁体61の一側部分61aの端面に衝突することがない。したがって、外気流路52を流れる外気の圧力損失を抑制できる。
このように、弁60を閉鎖状態にすることにより、ケース50内の冷却対象を外気に晒すことがないので、冷却対象を保温、暖気することができる。例えば、車両1がEVモードで走行しているときに、エンジン10が冷えてしまっているときには、弁60を閉鎖状態とすればよい。これにより、ケース50内の温度Tを下げることなく、バッテリ20等の熱でエンジン10を暖気することができる。
(2)開放状態
図4に示すように、弁60により通気口54を開放した状態では、弁体61がケース50の上面53に対して略垂直に起立する。このとき、回動軸65を基準として弁体61の一側部分61a(上側部分)は、外気流路52内に配置され、弁体61の他側部分61b(下側部分)はケース50内に配置される。この結果、通気口54のほぼ全体が開放される。
さらに、弁体61の一側部分61a(上側部分)により、外気流路52の少なくとも一部が遮断される。特に、図4に示すように、弁体61の一側部分61aの上端が、外気流路52の上側の内壁面の近傍に配置される場合には、弁体61の一側部分61aにより、外気流路52のほぼ全体が遮断される。このため、外気流路52を流れる外気が弁体61により堰き止められて、通気口54からケース50内に強制的に取り込まれる。
かかる弁60の開放状態では、外気流路52を流れる外気が、通気口54の上流側部分54aからケース50内に流入しつつ、ケース50内を循環した空気が、通気口54の下流側部分54bから外気流路52に流出する。
この際、外気流路52からケース50内に外気を円滑に導入するために、上記起立した弁体61の配置や、当該弁体61の凹曲面62、吸音部材70の傾斜面72などが、寄与する。つまり、上記のように起立配置された弁体61の一側部分61aが外気流路52を遮断しているので、外気流路52を車両後方に向けて流れる外気は、弁体61により堰き止められ、通気口54の上流側部分54aを通じてケース50内に誘導される。このとき、外気流路52からケース50内に流入する外気は、弁体61の凹曲面62と吸音部材70の傾斜面72に沿って円滑に流動し、ケース50内に導入される。
次いで、ケース50内に流入した空気(外気)は、ケース50の内壁面57に沿って流動し、ケース50内を循環する。このとき、ケース50の内壁面57の例えば四隅に凹曲面58が形成されているので、当該空気は、凹曲面58に沿って円滑に流動しながら、その流動方向を変え、ケース50内を円滑に循環する。かかる外気の循環により熱交換が生じ、冷却対象が冷却される。
さらに、ケース50内から外気流路52に空気を円滑に排出するために、上記起立した弁体61の配置や、当該弁体61の凹曲面63、吸音部材70の傾斜面73などが、寄与する。つまり、ケース50内を循環した空気は、吸音部材70の傾斜面73と弁体61の凹曲面63に沿って円滑に流動し、通気口54の下流側部分54bを通じて外気流路52に排出される。そして、起立配置された弁体61の一側部分61aが外気流路52を遮断しているので、外気流路52に排出された外気は、外気流路52内で逆流することなく、車両後方に向けて流動する。
以上のように、外気流路52からケース50内への外気の流入時、ケース50内における空気の循環時、および、ケース50内から外気流路52への空気の流出時に、外気を円滑に流動させ、空気流動を促進することができる。これにより、空気流の圧力損失を抑制できるとともに、外気を冷却対象に向けて効率よく流動させることができる。従って、本実施形態のように1つケース50に1つの開閉機構(一対の通気口54と弁60)だけを設置するという簡素な冷却機構であっても、ケース50内の冷却対象を効率的に冷却できる。
[5.他の実施形態]
次に、図5を参照して、本発明の第2の実施形態に係る車両1に設けられる冷却対象を覆うカプセル構造について説明する。図5は、第2の実施形態に係る車両1のカプセル構造を示す模式図である。
上記第1の実施形態では、エンジン10、減速機構14、バッテリ20を1つのケース50に収容する例について説明した。しかし、かかる例に限定されず、例えば、複数の冷却対象を2つ以上のケース50に分けて収容してもよい。以下、第2の実施形態では、複数の冷却対象を2つのケース50A、50Bに分けて収容する例について説明する。なお、第2の実施形態では、ケース50の設置数以外の構成は、上記第1の実施形態と実質的に同一であるので、詳細説明は省略する。
図5に示すように、第2の実施形態では、2つのケース50A、50Bが、1つの外気流路52に隣接して設けられる。これら2つのケース50A、50Bは、車両前後方向X(外気の流通方向)に連続的に並設されている。ケース50A(第1ケース)は、外気流路52の上流側(車両前後方向Xの前方側)に配置される。ケース50B(第2ケース)は、外気流路52の下流側(車両前後方向Xの後方側)に、ケース50Aと隣接して配置される。
このように相隣接する複数のケース50A、50Bの作製方法は、特に限定されない。例えば、図5に示すように、1つの箱型のケースの内部に1つの隔壁55を設け、当該ケースの内部空間を2つの内部空間51に区画することで、相隣接する2つのケース50A、50Bを作製してもよい。あるいは、2つの箱型のケースを車両前後方向Xに連結することにより、相隣接するケースを作製してもよい。ケースの設置数が3つ以上である場合も同様にして、相隣接する複数のケースを作製できる。
また、2つのケース50A、50Bを用いる場合、例えば、図5に示すように、エンジン10および減速機構14を共にケース50Aに収容し、バッテリ20をケース50Bに収容してもよい。あるいは、エンジン10をケース50Aに収容し、減速機構14およびバッテリ20を共にケース50Bに収容してもよい。
図5に示すように、ケース50A、50Bにはそれぞれ、第1の実施形態と同様に、通気口54A、54B、弁60A、60B、吸音部材70A、70B等が設置されている。また、ケース50A、50Bの内部空間51A、51Bの温度TA、TBを検出する温度計56A、56Bが設置されている。
制御部26は、各温度計56A、56Bにより検出される温度TA、TBに基づいて、各弁60A、弁60Bの開閉を制御する。例えば、図5に示すように、温度TAが所定の上限温度以上であれば、弁60Aを開放してケース50A内に外気を導入し、エンジン10および減速機構14を冷却してもよい。また、温度TBが所定の上限温度未満であれば、弁60Bを閉鎖してケース50B内に外気を導入せず、バッテリ20を保温してもよい。
このように、第2の実施形態によれば、複数のケース50A、50Bを用いることにより、各ケース50A、50B内を個別に冷却/保温することが可能となる。従って、車両1の走行状況や各装置の動作状況に応じて、複数の冷却対象の発熱状況が個別に変化したときであっても、各ケース50A、50B内の温度TA、TBの変化に応じて柔軟に対応して、各ケース50A、50B内の冷却の有無を個別に制御することができる。
[6.まとめ]
以上、本実施形態に係る車両1における、エンジン10、減速機構14およびバッテリ20等の冷却対象となる装置(パワーユニット)を覆うカプセル構造と、その冷却機構について、詳細に説明した。
本実施形態に係るカプセル構造によれば、1つのケース50に対して1つの通気口54と1つの弁60だけを設ける。そして、当該1つの通気口54を、空気の流入口、兼、流出口として利用し、1つの弁60により通気口54を開閉することによって、ケース50の内部空間51の温度を制御する。これにより、一対の通気口54および弁60のみで、ケース50内に収容されている冷却対象を、効率良く冷却および保温することが可能である。
加えて、本実施形態では、ケース50によりパワーユニットのほぼ全周を覆い、ケース50に形成される開口部(通気口54)の設置数が1つであり、その開口面積も小さい。このため、ケース50の防音性が高く、ケース50内のパワーユニットから車外に放出される音を効果的に抑制することもできる。
よって、本実施形態によれば、カプセル構造における開口部(通気口54)やその開閉機構(弁60)の設置数を低減しつつ、ケース50内の温度制御と防音性能を両立することが可能である。
また、車両前後方向Xに外気を流通させる外気流路52に面したケース50の上面53に通気口54を形成する。当該通気口54内に収まるように弁体61を配置し、その弁体61は車幅方向Yに延びる回動軸65を中心に回動可能である。そして、図4に示したように、弁60を開放状態にしたとき、起立した弁体61の一側部分61aは外気流路52内に配置され、他側部分61bはケース50内に配置される。このため、外気流路52内を車両前方から後方に向けて流れる走行風(外気)は、起立した弁体61の一側部分61aによって、ケース50内に効率良く導入される。
さらに、本実施形態では、空気流を誘導する誘導部材として、弁体61の凹曲面62、63、吸音部材70の傾斜面72、73、内壁面57の凹曲面58等が設けられている。これにより、外気流路52とケース50間での外気の導入および排出時、並びにケース50内における外気の循環時に、空気を円滑に流動させて、ケース50に対する外気の導入、循環、排出を促進できる。従って、ケース50内の冷却対象を、さらに効率良く冷却できる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
なお、上記実施形態では、ケース50の上面に沿って1つの外気流路52が設けられ、弁60は、外気流路52の位置に合わせてケース50の上面側に配置される例について説明した。しかし、本発明は、かかる例に限定されない。外気流路52は、ケース50の左側面、右側面、底面、前面または後面に沿って設けられてもよい。また、複数の外気流路52がケース50の周辺に設けられてもよい。外気流路52がケース50の左側面、右側面、底面、前面または後面に沿って配置される場合には、通気口54と弁60も、外気流路52の位置に合わせて、ケース50の側面側、底面側、前面側または後面側に配置されてもよい。
また、上記実施形態では、弁体61の凹曲面62、63(第1、第2凹曲面)およびケース50の内壁面57の凹曲面58(第3凹曲面)は、曲面のみで形成されていたが、凹面形状であれば、曲面と平面の組み合わせであってもよい。