JP7218224B2 - 溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関する。
近年、電化製品、建築材料、自動車等の広い分野において、素地鋼板の表面に溶融亜鉛めっきを施した溶融亜鉛めっき鋼板に、合金化処理を施した溶融亜鉛めっき鋼板が使用されている。この合金化処理を施した溶融亜鉛めっき鋼板は、強度、溶接性、塗装後の耐食性などに優れるため、例えば、自動車の分野では、骨格部材などに用いられている。
この溶融亜鉛めっき鋼板の合金化度は、鋼板放射率に密接に関係することが知られている。そのため、従来、放射温度計と放射率に依存しない温度計から放射率を算出し、放射率から合金化度を推定し、合金化炉の入熱量を制御する方法が提案されている(特開平7-150329号公報参照)。また、熱間圧延後の冷却工程で、コイルの先端および尾端での冷却量を減少させるような長手方向で温度分布があるような材料に対して予め入熱量を設定することにより上述の制御による応答遅れを補正する方法が開示されている(特開平5-65615号公報参照)。
特開平7-150329号公報 特開平5-65615号公報
しかしながら、鋼板の放射率は、鋼板表層部の酸化状態により大きく変化する。また、鋼板表層部の酸化状態は、熱間圧延後の冷却時の温度分布以外にも、コイルを冷却する過程での温度履歴や焼鈍工程前に表層スケールを除去する酸洗工程が入ることにより変化する。従って、鋼板表層部の酸化状態を把握することなく合金化処理を行うと、合金化むらなど合金化不良が生じるおそれがある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、合金化不良の発生を抑制し、表面性状に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法の提供を目的とする。
本発明者らは、上述したように、鋼板表面が粒界酸化することにより、合金元素が酸化され、母材中の鉄が溶融亜鉛めっき層へ拡散しやすくなることから、これらの情報を網羅した状態で合金化での入熱量を制御することが必要と考え、粒界酸化層と合金化の条件を検討した。その結果、溶融亜鉛めっき鋼板の焼鈍前の鋼板表面に残存する粒界酸化層の厚みによって同じ焼鈍条件、溶融亜鉛めっき条件で処理した場合に、合金化の開始温度、終了温度が異なることを知得した。また、成分が同じ鋼種で、粒界酸化層の厚みを0μm~11μmまでの範囲で焼鈍工程から合金化処理工程までを行った場合、粒界酸化層の厚みが厚いと合金化開始温度は低くなり、粒界酸化層の厚みが薄くなるについて合金化温度が高温化することを知得した。さらに、実験により、粒界酸化層の厚みの異なる鋼材を母材として、溶融亜鉛めっき付着量を同一条件として合金化させた場合に、同じ入熱量でも粒界酸化層の厚みの違いにより合金化度及び鋼板の温度上昇にも違いが認められ、粒界酸化層の厚みの違いによる鉄の拡散に違いがあることを見出した。この知見に基づき、これらを実験及び拡散理論に基づくモデル式で表現することにより、合金化に必要な入熱量を算出することができることに想到した。
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、帯状の熱間圧延鋼板をコイル状に巻き取る工程と、上記巻取工程後の鋼板を冷却する工程と、上記冷却工程後の鋼板を冷間圧延する工程と、上記冷間圧延工程後の鋼板を焼鈍する工程と、上記焼鈍工程後の鋼板の表面に溶融亜鉛めっきする工程と、上記溶融亜鉛めっき工程後の鋼板を合金化炉で加熱して合金化処理を行う工程とを備え、上記合金化処理を行う工程が、上記焼鈍工程前の鋼板の粒界酸化層の厚みに応じて、上記合金化炉への入熱量を決定する工程を備える溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
当該溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、上記合金化処理を行う工程が、上記焼鈍工程前の鋼板の粒界酸化層の厚みに応じて、上記合金化炉への入熱量を決定するので、確実に合金化処理を行うことができる。その結果、合金化むらなどの合金化不良を効果的に抑制できるので、表面性状に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
上記入熱量を決定する工程が、上記粒界酸化層の厚みに応じて合金化温度又は合金化度を予測し、予測した合金化温度となるように上記合金化炉への入熱量を決定する工程であることが好ましい。このように、予測した合金化温度となるように上記合金化炉への入熱量を決定することで、より確実に合金化処理を行うことができる。
上記粒界酸化層の厚みと上記合金化炉におけるヒートパターンとに基づく予測式に基づいて上記合金化度を予測する工程又は上記粒界酸化層の厚みと上記めっきされた鋼板の温度と上記めっきされた鋼板の放射率との関係式に基づいて上記合金化度を予測する工程をさらに備えるとよい。このように、上記粒界酸化層の厚みと上記合金化炉におけるヒートパターンとに基づく予測式に基づいて上記合金化度を予測する工程又は上記粒界酸化層の厚みと上記めっきされた鋼板の温度と上記めっきされた鋼板の放射率との関係式に基づいて上記合金化度を予測する工程をさらに備えることで、より確実に合金化処理を行うことができる。
上記合金化処理を行う工程で、予測した上記合金化温度と実際の合金化温度との乖離又は予測した上記合金化度と実際の合金化度との乖離が生じた場合にその乖離を補償するように、上記合金化処理した鋼板の入熱量を調整することが好ましい。合金化処理工程で、予測した上記合金化温度と実際の合金化温度との乖離又は予測した上記合金化度と実際の合金化度との乖離が生じた場合にその乖離を補償するように、上記合金化処理した鋼板の入熱量を調整することで、より合金化の精度を向上し、表面性状に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
上記合金化処理を行う工程で、上記めっきされた鋼板の幅方向及び長手方向における粒界酸化層の厚み分布に基づいて上記合金化炉におけるヒートパターンを決定することが好ましい。鋼板の粒界酸化は、熱間圧延後にコイル状に巻取りを行った後の冷却過程で進行することから、同一のコイルでも長手方向及び幅方向における位置によって冷却速度が異なることにより粒界酸化層の厚みも異なってくる。そのため、合金化がうまく進行せず、めっき不良となるおそれがある。従って、上記合金化処理工程で、上記めっきされた鋼板の幅方向及び長手方向における粒界酸化層の厚み分布に基づいて上記合金化炉におけるヒートパターンを決定することで、鋼板の粒界酸化層の厚みムラによる合金化の不具合を抑制することができる。従って、より合金化の精度を向上し、表面性状に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、合金化不良の発生を抑制し、表面性状に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
図1は、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法の一実施形態の工程を示す概略図である。 図2は、粒界酸化層の厚み、鋼板温度及び鋼板放射率との関係の一例を示すグラフである。 図3は、合金化温度毎のヒートパターンを示すグラフである。 図4は、合金化炉の鋼板温度履歴及び鋼板温度昇温速度の一例を示すグラフである。 図5は、粒界酸化層の厚み、目標とする合金化温度、及び放射率変曲点の関係の一例を示すグラフである。 図6は、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法の一実施形態の工程を示すフローチャートである。 図7は、ヒートパターン例と合金化度の実測とを示す図である。 図8は、合金化度の実測値と予測値との関係を示す図である。 図9は、合金化度と鋼板放射率の関係を示す図である。
以下、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法の実施形態について詳説する。
<溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法>
本発明の一実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、図6に示すように、帯状の熱間圧延鋼板をコイル状に巻き取る工程(S1)と、上記巻取工程後の鋼板を冷却する工程(S2)と、上記冷却工程後の鋼板を冷間圧延する工程(S3)と、上記冷間圧延工程後の鋼板を焼鈍する工程(S4)と、上記焼鈍工程後の鋼板の表面に溶融亜鉛めっきする工程(S5)と、上記溶融亜鉛めっき工程後のめっきされた鋼板を合金化炉で加熱して合金化処理を行う工程(S6)とを備える。また、上記合金化処理工程(S6)が、上記焼鈍工程前の鋼板の粒界酸化層の厚みに応じて合金化温度又は合金化度を予測し、上記めっきされた鋼板が予測した合金化温度となるように上記合金化炉の入熱量を決定する工程(図示しない)と、上記粒界酸化層の厚みと上記合金化炉におけるヒートパターンに基づく予測式に基づいて上記合金化度を予測する工程(図示しない)又はめっきされた鋼板の温度と放射率との関係式に基づいて上記合金化度を予測する工程(図示しない)を備える。また、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、熱間圧延鋼板を酸洗槽の酸によって洗浄する酸洗工程(図示しない)を有していてもよい。
図1は、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法の一実施形態の工程を示す概略図である。本実施形態の冷間圧延方法においては、例えば、図1に示すような溶融亜鉛めっきラインを構築した溶融亜鉛めっき鋼板の製造装置1が挙げられる。図1(1)は、冷却工程から冷間圧延工程までのラインを示し、図1(2)は、焼鈍工程から合金化処理工程までのラインを示す。図1(1)に示すように、溶融亜鉛めっき鋼板の製造装置1では、一方のリールに巻き取られて冷却された熱間圧延後の鋼板2のコイル3を繰出して、他方のリールに鋼板2の一端を巻き取り、冷間圧延工程後の鋼板2のコイル11が形成される。鋼板2は両リール間を通板方向Rに走行する。また、溶融亜鉛めっき鋼板の製造装置1は、コイル状に巻き取られた帯状の熱間圧延鋼板2を巻き戻す工程中に酸洗槽6と、連続圧延機10とがこの順に配置されている。連続圧延機10は、熱間圧延鋼板2の通板方向Rに複数対の冷間圧延ロールを配置させた構成とすることができる。また、図1(2)に示すように、鋼板2が連続焼鈍炉15、溶融亜鉛浴18、及び合金化炉20をこの順で通過することによって、鋼板2の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。
[巻取工程]
巻取工程では、帯状の熱間圧延鋼板2をコイル状に巻き取る。
熱間圧延鋼板2は、熱間圧延が施された帯状の鋼板である。この熱間圧延では、スラブを加熱し、圧延することで熱間圧延鋼板2を形成する。具体的には、まず加熱炉を用いてスラブを900℃以上1300℃以下の範囲で加熱し、このとき発生する1次スケールをデスケーラーで除去する。次に、この加熱したスラブを900℃以上1300℃以下の温度範囲で粗圧延した後、表面に発生する2次スケールをデスケーラーで除去する。さらに、粗圧延したスラブを800℃以上1200℃以下で仕上げ圧延を行って熱間圧延鋼板2を得る。
熱間圧延鋼板2の組成としては特に限定されないが、例えば炭素、ケイ素、マンガン、リン、硫黄、窒素、アルミニウム、チタン及びホウ素、並びに残部が鉄及び不可避的不純物である組成を有する。
熱間圧延工程後の帯状の鋼板2は、高温下でコイル状に巻き取られる。熱間圧延鋼板2の巻取り温度は、特に限定されないが、400℃~700℃の範囲で操業される場合が多い。また、最表部には加熱炉起因で生成する酸化スケール層があり、スケール層より下部への酸素の供給はこのスケールから酸素が脱離し供給されるため、貧酸素下でかつ温度域が400℃~700℃での酸化反応となる。従って、鉄の酸化速度は遅く、易酸化性元素の酸化が優先的に起きることになる。
[冷却工程]
冷却工程では、上記巻取工程後の鋼板2を冷却する。巻き取られた鋼板2は、コイル3の状態のまま常温まで冷却される。コイルは、次工程の冷間圧延工程に搬送されるまでに、冷却される。この冷却過程で、ケイ素やマンガンなどの易酸化性元素が含まれた場合に粒界で易酸化性元素が酸化物を生成する。一般に、粒界に雰囲気からの酸素が拡散し、粒界界面で母材から易酸化性元素が拡散し、酸素と結合し酸化物を作った状態を粒界酸化と呼ぶ。粒界酸化は、酸素の拡散により進行するため、鋼板表層から進行する。粒界酸化の進行した領域は、易酸化性元素が母材より少なくなり、易酸化性元素が欠乏した領域(以下、粒界酸化層ともいう)となる。
[冷間圧延工程]
冷間圧延工程では、上記冷却工程後の鋼板2を冷間圧延する。
次に、上記冷却後の上記熱間圧延鋼板2を冷間圧延する。熱間圧延鋼板2は、通板中に連続圧延機10の圧延ロールに挟まれることで、冷間圧延が行われる。
冷間圧延工程では、冷間圧延の前にコイルから繰り出された熱間圧延鋼板2の延性を確保するための加熱工程や、熱間圧延鋼板2を酸洗槽6の酸によって洗浄する酸洗工程を有していてもよい。酸洗工程を行うことで、加熱工程で形成された熱間圧延鋼板2の表面の酸化皮膜が酸洗槽6で溶解し除去される。また、生成された粒界酸化層は、酸洗工程で表層の酸化皮膜と共に粒界酸化も一部除去される。粒界酸化層の酸への溶解は、粒界に酸が浸潤し粒界部分が溶解し、ある程度溶解すると粒界に沿って脱離するような溶解となり、完全に粒界酸化を除去しない状態では表層は粒界に応じた凸凹状態の粒界酸化層として残る。この凸凹状態の粒界酸化層は、冷間圧延した後でも残存し、この残存した粒界酸化層の厚みが重要となる。
[焼鈍工程]
焼鈍工程では、上記冷間圧延工程後の鋼板2を搬送しながら連続焼鈍炉15内で焼鈍する。始めに、予熱炉内で母材鋼板表面の油分を燃焼除去した後、非酸化性雰囲気または還元性雰囲気の焼鈍炉内で加熱して再結晶焼鈍を行う。
一般的に、溶融亜鉛めっき鋼板を合金化する場合は、めっき浴に装入する前に焼鈍工程で鋼板表層を還元しておく必要がある。還元が不十分の場合は、溶融亜鉛との密着性がとれず不めっきなどのめっき不良が発生する。そのため、冷間圧延を完了したコイルは、次工程の焼鈍炉内で焼成する際に還元雰囲気ガス下で処理される。
[溶融亜鉛めっき工程]
溶融亜鉛めっき工程では、上記焼鈍工程後の鋼板2の表面に耐食性を向上させるための溶融亜鉛めっきが施される。溶融亜鉛めっきは、上記焼鈍工程後の鋼板2を連続的に溶融亜鉛浴18に浸漬させることによって溶融亜鉛めっき処理を行う。めっき処理は、めっき温度が通常400℃~480℃程度の溶融亜鉛めっき浴に浸漬することによって行われる。めっき処理後、鋼板を放冷することによってめっき層を固化させる。
[合金化処理工程]
合金化処理工程では、溶融亜鉛めっき工程後の鋼板2を合金化炉20で加熱して合金化処理を行う。具体的には、溶融亜鉛めっき工程後の鋼板2は、溶融亜鉛浴18から鋼板2を引き上げ、ワイピングにより亜鉛付着量の調整を行った後に、合金化炉20で加熱して亜鉛めっき層への鉄の拡散を促進させることによって、めっき層を亜鉛と鉄の合金層に変化させる。合金化は、鋼板表層に付着した亜鉛層中に母材中の鉄が加熱により拡散し亜鉛と鉄が合金化することである。そのため、合金化の進行には、鉄が拡散できる温度まで上昇させる必要がある。
合金化処理工程は、上記焼鈍前の鋼板の粒界酸化層の厚みに応じて、上記合金化炉への入熱量を決定する工程を備える。
[入熱量決定工程]
入熱量決定工程は、上記粒界酸化層の厚みに応じて合金化温度又は合金化度を予測し、上記めっきされた鋼板が予測した合金化温度となるように上記合金化炉への入熱量を決定する。「粒界酸化層の厚みに応じて」とは、例えば、実測した粒界酸化層の厚みに基づいてもよく、推定した粒界酸化層の厚みに基づいてもよいし、実験シミュレーション、計算などにより求めた粒界酸化層の厚みと入熱量の関係を求めたテーブルに基づいてもよいことを意味する。具体的には、例えば粒界酸化層の厚みは、鋼板の成分及び熱間圧延の条件と粒界酸化層の厚みとの実績に基づく対応データから推定することができる。粒界酸化層の厚みは、同一条件で処理された鋼板で実測した条件を用いることや、理論や実測値に基づいて作成した計算モデルなどで算出する方法などにより求めることができる。
(合金化温度の予測)
本発明者らは、この合金化の際に、焼鈍炉に入る前の鋼板表面に生成する粒界酸化層の厚みが合金化に強く影響することを見出した。鋼板は、構成成分および製品用途が決定するとその材料特性が得られるよう焼鈍条件を決定する。よって、焼鈍条件はあまり大きく変動させることができない。そのため、合金化不良が発生した場合は、合金化炉の供給熱量を調整する方法が一般的である。これに対して、本発明者らは、焼鈍前の鋼板表面の粒界酸化層の厚みに注目し、既知の粒界酸化層の厚みの鋼板を同じ焼鈍条件、めっき付着させた後、合金化炉を再現して加熱したところ、鋼板表面の粒界酸化層の厚みに応じて合金化開始温度が変化することを見出した。
図4は、めっきされた鋼板を加熱した時の温度履歴を測定した結果をまとめた合金化炉の鋼板温度履歴及び鋼板温度上昇速度の一例を示すグラフである。昇温速度には変曲点(1)及び変曲点(2)があり、変曲点(1)は合金化開始による放射率変化開始温度であり、変曲点(2)は合金化完了による放射率変化終了の温度であると推定される。
図5は、図4の鋼板温度履歴を、粒界酸化層の厚みが10.7μmの場合と同様に測定することによって粒界酸化層の厚み毎に求めた結果をまとめた、粒界酸化層の厚み、目標とする合金化温度、及び放射率変曲点の関係の一例を示すグラフである。図5から、上記変曲点は粒界酸化層の厚みにより異なり、粒界酸化層の厚みが増加するに伴い低温側へシフトしていることが看取できる。図5の直線Bは、粒界酸化層の厚み毎の合金化開始を示す変異点(1)の温度を例えば、直線で結んだものであり、鋼板温度yと粒界酸化層の厚みxとの関係は、y=-7.9x+589で示される。また、直線Aは、粒界酸化層の厚み毎の合金化完了を示す変異点(2)の温度を直線で結んだものであり、鋼板温度yと粒界酸化層の厚みxとの関係は、y=-7.4x+698で示される。従って、合金化可能な温度は、直線Bで示される温度以上かつ直線Aで示される温度以下の範囲で表され、ラボ試験あるいは実機での合金化判定結果より、目標合金化温度を定式化し、鋼板到達温度が上記目標合金化温度以上であれば合金化が達成されることになる。この近似式は、鋼種成分、適用粒界酸化厚み等に応じて適宜、近似式の形式を選択すればよい。これらの結果より、粒界酸化層の厚みに応じて必要となる合金化温度を予め算出しておくことで、熱量や燃焼量、合金化炉内での滞在時間等の合金化炉の条件を鋼板温度予測計算等に基づいて適正かつ効率よく設定でき、また、めっき品質も安定させることが可能となる。
図4及び図5の結果から合金化完了温度よりも放射率変化終了温度が大きく、合金化完了後に遅れて放射率が変化することが看取できる(文献にも同様の結果有(鉄と鋼、70(1984)、(1727))。図2に示されるグラフは、図4及び図5の結果から鋼板の温度予測モデルに用いる放射率を定式化したものである。このときの粒界酸化層の厚みがパラメータ(母数、媒介変数)となる。このように、粒界酸化層の厚みに応じた鋼板温度と鋼板放射率との関係を例えば図2のように定式化しておけば、粒界酸化層の厚みに応じて合金化温度を容易に予測することが可能となり、予測した合金化温度となるように合金化炉への入熱量を決定することが可能となる。具体的には、図2には、粒界酸化層の代表的な厚みについて、鋼板温度-放射率曲線が示されている。この鋼板温度-放射率曲線では、放射率が変化する領域が一定の傾きを有する直線で示され、この直線が粒界酸化層の厚みに応じて、横軸(鋼板温度軸)方向に平行移動する。そこで、粒界酸化層の厚みが判った(推定された)場合、例えば、図2のグラフにおいて、鋼板温度-放射率曲線の放射率が変化する領域に当該粒界酸化層の厚みに相当する直線を引くと、この直線に対応する鋼板温度領域の中に合金化温度が存在することになる。そこで、例えば、図5の「目標とする合金化温度」を考慮して、直線に対応する鋼板温度の領域の中ほどの温度を概ね妥当な合金化温度として予測することができる。
図3は、上記加熱実験に基づいて鋼板の合金化に必要な合金化温度と必要滞在時間とを達成するために粒界酸化層の厚み毎に設定したヒートパターン条件の一例を示すものである。図3の合金化温度は、合金化温度実測実験結果(図示しない)に基づいて粒界酸化層の厚み毎の合金化温度を算出したものである。
(入熱量の決定)
上記合金化温度及び後述する合金化度に達するように上記合金化炉への入熱量を調整する。なお、鋼板の受熱量は、鋼板の放射率に依存する。亜鉛の場合は低い放射率であるが、合金化が進行するに従い放射率が高くなるため、合金化が進行するに伴い、鋼板の受熱量も増加する。従って、合金化温度を予測する場合、鋼板の放射率を考慮することが重要となる。
めっきされた鋼板の入熱量の調整は、合金化温度に応じてバーナー、赤外線等の加熱手段の熱量や燃焼量、合金化炉内での滞在時間(1通板速度)を調整することにより設定される。なお、合金化炉内での滞在時間は、ラボ試験あるいは実機での合金化温度範囲における滞在時間と合金化判定結果に基づいて定められる。
(合金化度の予測)
本発明者らは鋭意研究の結果、上記粒界酸化層の厚みと上記合金化炉におけるヒートパターンに基づいて合金化度の予測式を作成できることを見出した。また、めっきされた鋼板は合金化の進行とともに鋼板放射率が増加することに着目し、合金化度の異なる鋼板サンプルの放射率を調査したところ合金化度と鋼板放射率の関係を見出した。
具体的には、上記粒界酸化層の厚みと上記合金化炉におけるヒートパターンとに基づく予測式に基づいて上記合金化度を予測する。
図7に示されるグラフは、ヒートパターン例と合金化度の実測例の一例を示すグラフである。粒界酸化層の厚みが異なる鋼板サンプルを上記ヒートパターン条件に基づいて加熱し、合金化度を実測した。この実測に基づき合金化度の予測式を作成した。この予測式は、後述する実施例の実験2において詳しく説明する。図8に示されるグラフは、合金化度の実測及び予測の関係の一例を示すグラフである。この結果から、上記予測式による予測が合金化度の実測値に近いことが明らかとなった。
図9に示されるグラフは、合金化度と鋼板放射率の関係の一例を示すグラフである。この結果から、放射率から合金化度を予測することができることが分かった。
(入熱量の決定)
上記合金化度に達するように上記合金化炉への入熱量を調整する。なお、入熱量の調整は、上述の上記合金化温度の予測における入熱量の調整と同様である。
(補償入熱量)
上記合金化処理工程では、予測した上記合金化温度と実際の合金化温度との乖離又は予測した上記合金化度と実際の合金化度との乖離が生じた場合にその乖離を補償するように、上記合金化処理した鋼板の入熱量を調整することが好ましい。予測した上記合金化温度と実際の合金化温度との乖離又は予測した上記合金化度と実際の合金化度との乖離が生じた場合にその乖離を補償するように、上記合金化処理した鋼板の入熱量を調整することにより、より合金化の精度を向上し、表面性状に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
上記合金化処理工程では、上記めっきされた鋼板の幅方向及び長手方向における粒界酸化層の厚み分布に基づいて上記合金化炉におけるヒートパターンを決定することが好ましい。粒界酸化層の厚み分布は、同一条件で処理された鋼板で実測した条件を用いることや、理論や実測値に基づいて作成した計算モデルなどで算出する方法などにより求めることができる。鋼板の粒界酸化は、熱間圧延後にコイル状に巻取りを行った後の冷却過程で進行することから、コイルの最外層及び最内層に相当する鋼板の先端部及び尾端部においては、冷却速度が速いために粒界酸化層は薄くなる一方、鋼板の長手方向中央部においては、粒界酸化層が厚くなる。また、コイル側面部に相当する鋼板の幅方向の端部側でも冷却速度が速いために粒界酸化層は薄くなる一方、鋼板幅中央部ほど粒界酸化層が厚くなる。従って、同一のコイルでも長手方向、幅方向で粒界酸化層の厚みが異なるため、合金化がうまく進行せず、めっき不良となるおそれがある。従って、上記合金化処理工程で、上記めっきされた鋼板の幅方向及び長手方向における粒界酸化層の厚み分布に基づいて上記合金化炉におけるヒートパターンを決定することで、鋼板の粒界酸化層の厚みムラによる合金化の不具合を抑制することができる。従って、合金化の精度をより向上し、表面性状に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
上記めっきされた鋼板の幅方向の入熱量を調整する方法としては、例えば合金炉に装入する前にエッジバーナで鋼板幅方向端部を加熱したり、鋼板幅方向を燃焼量調整可能なバーナーで加熱することが挙げられる。
一方、上記めっきされた鋼板の長手方向の入熱量を調整する方法としては、例えばバーナー燃焼量及び通板速度調整を行うことが挙げられる。
当該溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法よれば、合金化不良の発生を抑制し、表面性状に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。また、今回の発明により、予め焼鈍前の粒界酸化層の厚みを把握しておけば、合金化温度及び合金化度が予測でき、合金化炉の条件(熱量や燃焼量、合金化炉内での滞在時間など)を鋼板温度度予測計算等に基づき適正に設定でき、また、めっき品質も安定させることが可能となる。
さらに、従来、合金化の制御については、経験に基づいて合金化の具合を見ながら通板速度を調整しながら行っているが、当該溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、上記鋼板温度度予測計算等に基づき予め条件を設定した上で合金化処理工程が行われるので、生産効率及び歩留まりの向上を図ることができる。
<利点>
当該溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、表面性状に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を確実に製造することができる。当該溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法により、特に自動車、家電製品、建材等の分野で有用な表面性状に優れる溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実験1)
表1に記載の化学組成を有する鋼のスラブを1200℃に加熱して溶製した。
Figure 0007218224000001
これらのスラブを920℃で熱間圧延した後、650℃で巻取った。次に、酸洗によるデスケーリング処理を60秒~180秒間行った。次に、冷間圧延を行うことで1.4mmの厚さの溶融亜鉛めっき鋼板における素地鋼板に相当する冷延鋼板(原板)を得た。
このようにして得た冷延鋼板から、表2に示すように粒界酸化層の厚みが異なる供試サンプルA、B、C、D(70×150mm)を切り出し、溶融亜鉛めっき前の焼鈍を再現して5%H含有Nガスによる露点-45℃の還元性雰囲気下にて650℃で50秒間均熱保持した。
Figure 0007218224000002
次に、Al濃度0.13%、浴温460℃の溶融亜鉛めっき浴に浸漬した後、供試サンプルA、B、C、Dに熱電対を取り付け、図3に示す粒界酸化層の厚み毎に設定されたヒートパターンに従い、合金化処理を行った。目標とする合金化温度を到達鋼板温度とした。ヒートパターンを設定するために必要な項目条件である合金化を行うために必要な予測温度範囲及びこの予測温度範囲での必要滞在時間が異なる実施例1~実施例9及び比較例1~比較例5について合金化の評価を行った。
(合金化の評価)
合金化の評価基準として、めっき層に対する鉄の含有量(質量%)で評価し、鉄の含有量が8質量%以上になったときを合金化完了とした。合金化が完了した場合は○とし、完了していない場合を×とした。
これらの評価結果を表3に示す。
Figure 0007218224000003
[評価結果]
表3に示すように、到達鋼板温度が予測合金化温度の範囲内であり、かつ予測合金化温度範囲滞在時間が必要滞在時間以上であった実施例1~実施例9は、合金化が達成できたことがわかる。一方、到達鋼板温度が予測合金化温度に達していない、又は予測合金化温度範囲滞在時間が必要滞在時間よりも短く、合金化は開始しているものの必要滞在時間を具備していない比較例1~比較例5は、合金化が達成できず不十分であることが示された。
(実験2)
粒界酸化層の厚みが異なるめっき鋼板サンプルを用いて合金化度の予測式を作成した。
上記実験1と同様の手順で得た粒界酸化層の厚みが2.3μmと10.7μmの供試サンプルを複数用意した。供試サンプルに直接熱電対を取り付け、図3に示す粒界酸化層の厚み毎に設定されたヒートパターンに従い、昇温温度をプログラムによって制御して合金化処理を行った。粒界酸化層の厚みが、2.3μmと10.7μmの供試サンプルについて合金化温度が575℃、600℃、625℃及び650℃のヒートパターンで加熱して、合金化度を求めた。
合金化度の実測及び予測結果を表4に示す。また、ヒートパターン例と合金化度の実測を図7に示す。合金化度の予測式は、以下(1)式から(3)式の通りとし、粒界酸化層の厚み毎に予測式のパラメータを同定した(表5)。
Figure 0007218224000004
(予測式)
Figure 0007218224000005
Fe:合金化度(亜鉛中のFe濃度)、K:反応速度、A,B[-]:定数、
:加熱温度、t:経過時間(加熱時間+保持時間)
Figure 0007218224000006
[評価結果]
この結果から、粒界酸化層の厚みと、合金化温度及び経過時間(加熱時間及び保持時間)から予測式に基づいて実測値に近い合金化度を予測できることが示された。なお、他の粒界酸化層の厚みについても、上記手順により、定数A及びBを同定することにより、予測式(1)~(3)を適用して、合金化度を予測することができる。
(実験3)
合金化度の異なる鋼板サンプルを用いて合金化と放射率の関係を調査した。
上記実験1と同様の手順で得た合金化度の異なる供試サンプルを用意した。供試サンプルに熱電対を取り付け、ヒータで加熱し、一定温度になったときの板温を非加熱面から放射温度計で測定し、熱電対指示値と放射温度計指示値が一致する放射率を調査した。表6及び図8に実験概要と実験結果を示す。
Figure 0007218224000007
[評価結果]
この実験結果から、合金化度の実測と予測との関係が図9のようになることが示された。図9の式は、例えば、以下のように利用することができる。実際の製造工程において、溶融亜鉛めっきされた鋼板を、バーナーを用いて追加加熱する際に、リアルタイムで放射率を測定し、図9の式を用いて放射率を合金化度に換算することにより、当該鋼板を所望の合金化度に処理することができる。
以上のように、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、合金化不良の発生を抑制し、良好に合金化処理を行うことができる。従って、表面性状に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、特に自動車、家電製品、建材等の分野で有用な表面性状に優れる溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
1 溶融亜鉛めっき鋼板の製造装置
2 鋼板
3 コイル
6 酸洗槽
10 連続圧延機
11 冷間圧延鋼板のコイル
15 連続焼鈍炉
18 溶融亜鉛浴
20 合金化炉

Claims (4)

  1. 帯状の熱間圧延鋼板をコイル状に巻き取る工程と、
    上記巻取工程後の鋼板を冷却する工程と、
    上記冷却工程後の鋼板を冷間圧延する工程と、
    上記冷間圧延工程後の鋼板を焼鈍する工程と、
    上記焼鈍工程後の鋼板の表面に溶融亜鉛めっきする工程と、
    上記溶融亜鉛めっき工程後のめっきされた鋼板を合金化炉で加熱して合金化処理を行う工程と
    を備え、
    上記合金化処理を行う工程が、
    上記冷間圧延工程後の冷延鋼板の粒界酸化層の厚みに応じて上記合金化炉への入熱量を決定する手順を含み、
    上記入熱量決定手順で、
    上記粒界酸化層の厚みに応じて合金化温度又は合金化度を予測し、上記めっきされた鋼板が予測した合金化温度となるように上記合金化炉への入熱量を決定する溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  2. 上記入熱量決定手順で
    上記粒界酸化層の厚みと上記合金化炉におけるヒートパターンとに基づく予測式に基づいて上記合金化度を予測する工程、又は上記粒界酸化層の厚みと上記めっきされた鋼板の温度と上記めっきされた鋼板の放射率との関係式に基づいて上記合金化度を予測する請求項に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  3. 上記合金化処理を行う工程で、予測した上記合金化温度と実際の合金化温度との乖離又は予測した上記合金化度と実際の合金化度との乖離が生じた場合に、その乖離を補償するように上記合金化処理した鋼板の入熱量を調整する請求項又は請求項に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  4. 上記合金化処理を行う工程で、上記めっきされた鋼板の幅方向及び長手方向における上記粒界酸化層の厚み分布に基づいて、上記合金化炉におけるヒートパターンを決定する請求項1、請求項2又は請求項3に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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