JP7215920B2 - Al-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材 - Google Patents

Al-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材 Download PDF

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Description

本発明は、耐曲げ圧壊性と耐食性に優れたAl-Mg-Si系高強度アルミニウム合金中空押出材およびその製造方法に関する。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「中空押出材の押出方向に平行な断面」の語は、中空押出材の横断面形状が、例えば、日の字形状、目の字形状、田の字形状(図3、4参照)等のように中空空間内にリブが設けられている場合には、このようなリブを避けた位置での押出方向に平行な断面(管壁肉部の断面)を意味するものである。例えば中空押出材の横断面形状が田の字形状(図3、4参照)である場合には、図4におけるII-II線での断面を意味する。
Al-Mg-Si系(6000系)アルミニウム合金は、強度を有しながら耐食性やリサイクル性に優れる点で実用的な合金であることから、高強度と耐食性が要求される車両、船舶、自動車、自動二輪車等の輸送機の構造材として用いられている。
Al-Mg-Si系(6000系)アルミニウム合金の中では、特にA6061が多用されているが、車体構造の軽量化による輸送効率向上のために、更なる軽量化が求められており、そのために材料としての高強度化を図ることが要求されている。このような高強度化を図るべく、アルミニウム合金の添加金属種及びその含有率の変更等による改良が検討されている。
自動車等の輸送機に用いられるAl-Mg-Si系(6000系)アルミニウム合金押出材としては、特許文献1、2に記載のものが挙げられる。特許文献1では、熱間押出方向と平行な断面における繊維状組織の面積比率が95%以上である構成とすることで、耐力350MPa以上の高強度を実現する方法が提案されている。また、特許文献2では、押出材の厚み方向断面における組織が主として繊維状組織であり、表層部の再結晶組織の厚さが片側500μm以下である構成とすることで、0.2%耐力が270~330MPaであるアルミニウム合金押出材が提案されている。
特許第6022882号公報 特許第5473718号公報
ところで、輸送機の構造材としてのアルミニウム合金押出材の高強度化を図ったことにより生じ得るデメリットとしては、材料の靱性が低下して耐圧壊性が低下することが挙げられる。輸送機の構造材の中でも、特に自動車のフレーム材においては、アルミニウム合金材自体の靱性が不十分であると、衝突時の衝撃を十分に吸収することができずに車体に大きな損傷を与えることが懸念される。
衝撃吸収部材(エネルギー吸収部材)としての中空押出材の靱性を評価する指標として曲げ圧壊特性が挙げられる。JIS Z2248に規定される曲げ試験において、割れが発生しない限界曲げR値(mm)が小さい程、衝撃時の割れによる荷重抜けがなくエネルギーをより高く吸収できるため、衝撃吸収部材としての性能が高く評価される。
上記特許文献1に記載のアルミニウム合金押出材は、耐力350MPa以上の高強度を実現しているが、衝撃吸収部材として必要な曲げ圧壊特性に関しては開示がなされておらず、更に衝撃吸収部材としての性能をも十分に向上させるにはいかなる構成にすればよいかについての知見は、特許文献1からは得られない。
また、特許文献2に記載のアルミニウム合金押出材は、主にMnとZrを添加することで繊維状組織に制御して、高強度と耐圧壊性を向上させているが、耐力が270~330MPaの範囲であるために、一般にフレーム材に使用される鉄系材料と比較して強度が低いために、鉄系材料と同等の強度や剛性を確保しようとすると、逆に軽量化を図ることが困難になるという難点があった。また、特許文献2の実施例では、耐力350MPa以上を実現した場合、限界曲げR値が10mmになっており、このように特許文献2の技術では、高強度を実現しようとすると、耐曲げ圧壊性が大幅に低下しており、衝撃吸収部材としての性能が十分に得られるものではなかった。
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、耐曲げ圧壊性と耐食性に優れると共に高強度であるAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材およびその製造方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
[1]Si:0.80質量%~1.25質量%、Mg:0.65質量%~1.20質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Mn:0.40質量%~0.80質量%、Cu:0.01質量%~0.60質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、Ti:0.01質量%~0.10質量%を含有し、Zrの含有率が0.05質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金中空押出材であって、
前記アルミニウム合金中のSiの含有率を「α」(質量%)とし、前記アルミニウム合金中のMgの含有率を「β」(質量%)としたとき、
0.90≧α-(β/1.73)≧0.19 式(1)
1.90≧β+(β/1.73)≧1.00 式(2)
上記式(1)及び式(2)を満たし、
前記アルミニウム合金中空押出材の押出方向に平行な断面において金属組織は繊維状組織を有し、かつ前記断面の全体面積に占める前記繊維状組織の面積の割合が80%以上であり、
前記アルミニウム合金中空押出材の0.2%耐力が330MPa以上であり、
前記アルミニウム合金中空押出材についてJIS Z2248-2006に準拠した曲げ試験で測定される限界曲げRが5.0mm以下であることを特徴とするAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材。
[2]Si:0.80質量%~1.25質量%、Mg:0.65質量%~1.20質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Mn:0.40質量%~0.80質量%、Cu:0.01質量%~0.60質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、Ti:0.01質量%~0.10質量%を含有し、Zrの含有率が0.05質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を得る溶湯形成工程と、
前記得られた溶湯を鋳造加工することによってビレットを得る鋳造工程と、
前記ビレットを480℃~530℃の温度に2時間~15時間保持する均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、
前記均質化熱処理後のビレットを150℃/時間以上の平均冷却速度で200℃以下まで冷却する冷却工程と、
前記冷却工程を経たビレットを500℃~560℃にした状態で5m/分~15m/分の押出速度で熱間押出加工を行って中空押出材を得る押出工程と、
前記得られた中空押出材の温度を500℃~570℃にした状態から10℃/秒~500℃/秒の冷却速度で150℃以下まで急冷する急冷工程と、
前記急冷工程を経た中空押出材を150℃~210℃の温度で1時間~24時間加熱する時効処理工程と、を含み、
前記溶湯を形成する前記アルミニウム合金は、該アルミニウム合金中のSiの含有率を「α」(質量%)とし、前記アルミニウム合金中のMgの含有率を「β」(質量%)としたとき、
0.90≧α-(β/1.73)≧0.19 式(1)
1.90≧β+(β/1.73)≧1.00 式(2)
上記式(1)及び式(2)を満たすものであることを特徴とするAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材の製造方法。
[1]の発明では、耐曲げ圧壊性と耐食性に優れると共に高強度であるAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材を提供できる。この中空押出材は、限界曲げRが5.0mm以下であるから、衝撃吸収部材として十分な性能を確保できている。
[2]の発明では、上記[1]の発明に係るAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材を製造できる。即ち、耐曲げ圧壊性と耐食性に優れると共に高強度であるAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材を製造できる。
本発明に係るAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材の一例を示す斜視図である。 中空押出材から曲げ試験用試験片を採取する手法を示す斜視図である。 本発明に係るAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材の他の例を示す斜視図である。 図3の中空押出材の正面図である。 実施例21のAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材の縦断面(押出方向に平行に切断した縦断面)の金属組織写真である。
本発明に係るアルミニウム合金中空押出材は、Si:0.80質量%~1.25質量%、Mg:0.65質量%~1.20質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Mn:0.40質量%~0.80質量%、Cu:0.01質量%~0.60質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、Ti:0.01質量%~0.10質量%を含有し、Zrの含有率が0.05質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金中空押出材であって、前記アルミニウム合金中のSiの含有率を「α」(質量%)とし、前記アルミニウム合金中のMgの含有率を「β」(質量%)としたとき、
0.90≧α-(β/1.73)≧0.19 式(1)
1.90≧β+(β/1.73)≧1.00 式(2)
上記式(1)及び式(2)を満たし、前記アルミニウム合金中空押出材の押出方向に平行な断面において金属組織は繊維状組織を有し、かつ前記断面の全体面積に占める前記繊維状組織の面積の割合が80%以上であり、前記アルミニウム合金中空押出材の0.2%耐力が330MPa以上であり、前記アルミニウム合金中空押出材についてJIS Z2248(2006年)に準拠した曲げ試験で測定される限界曲げRが5.0mm以下であることを特徴とする。
上記構成のアルミニウム合金中空押出材は、耐曲げ圧壊性と耐食性に優れると共に高強度であるから、例えば、自動車、鉄道等の車両の車体の構造材(フレーム等)として好適である。
本発明のアルミニウム合金中空押出材において、上記式(1)及び式(2)を満たす必要がある。上記式(1)及び式(2)を満たすことは、本発明に係る耐曲げ圧壊性と耐食性に優れ、高強度であるAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材を得るために必須の構成要件である。即ち、「α-(β/1.73)」の式で算出される数値が0.19より小さい場合には、時効処理による強度向上効果が少ないものとなり、十分な高強度が得られない。一方、「α-(β/1.73)」の式で算出される数値が0.90を超えると、Siに起因する粒界析出物が粗大化することにより、熱間押出加工時の押出性が悪くなり中空押出材に外観不良が発生したり、中空押出材の靱性が低下して耐曲げ圧壊性が不十分なものとなる。また、「β+(β/1.73)」の式で算出される数値が1.00より小さい場合には、Mg2Si系析出物が少なくなることによって時効処理による強度向上効果が少ないものとなり、十分な高強度が得られない。一方、「β+(β/1.73)」の式で算出される数値が1.90を超えると、Mg2Si系析出物が過剰となることにより、熱間押出加工時の押出性が悪くなり中空押出材に外観不良が発生したり、中空押出材の靱性が低下して耐曲げ圧壊性が不十分なものとなる。中でも、0.85≧α-(β/1.73)≧0.24および1.82≧β+(β/1.73)≧1.09の関係式を満たす組成になっているのが好ましい。さらに、0.80≧α-(β/1.73)≧0.29および1.74≧β+(β/1.73)≧1.18の関係式を満たす組成になっているのが特に好ましい。
なお、アルミニウム合金の組成(各成分の含有率範囲の限定意義等)については、本発明の製造方法を説明した後の段落においてまとめて詳細に説明する。
本発明において、アルミニウム合金中空押出材1の押出方向に平行な断面において金属組織は繊維状組織を有し、かつ前記断面の全体面積に占める前記繊維状組織の面積の割合が80%以上になっていることが重要である。繊維状組織の面積の割合が80%以上であることで、330MPa以上の大きい0.2%耐力を実現できると共に優れた耐曲げ圧壊性を得ることができる。図5に、本発明に係るアルミニウム合金中空押出材の縦断面(押出方向と平行な縦断面)の金属組織写真の一例を示す。前記繊維状組織とは、押出による繊維状組織が再結晶せずに残った状態の組織である。図5では、中空押出材の縦断面の金属組織写真において、管壁の外側の表層部および内側の表層部が「再結晶組織」になっており、これら表層部以外の芯部が「繊維状組織」になっている。中でも、前記断面の全体面積に占める前記繊維状組織の面積の割合が85%以上であるのが好ましい。
本発明のアルミニウム合金中空押出材の0.2%耐力は、330MPa以上である。上述した特定の金属組成を備え、且つ上記式(1)及び式(2)を満たしていること等によって、このような高強度を実現できる。このような高強度は、一般にフレームに使用されている鉄系材料と比較しても強度に遜色がなく、耐曲げ圧壊性にも優れたものとなる。中でも、アルミニウム合金中空押出材の0.2%耐力は350MPa以上であるのが好ましい。
本発明のアルミニウム合金中空押出材のJIS Z2248-2006に準拠した曲げ試験で測定される限界曲げRは5.0mm以下である。上述した特定の構成を備えていることによって、限界曲げRが5.0mm以下という優れた耐曲げ圧壊性を実現できるものである。中でも、前記アルミニウム合金中空押出材の限界曲げRは4.0mm以下であるのが好ましい。
本発明に係るアルミニウム合金中空押出材1の一実施形態を図1に示す。この図1に示すアルミニウム合金中空押出材1は、横断面形状の外形が矩形状のいわゆる角パイプ形状であるが、特にこのような形状に限定されるものではない。前記中空押出材1の断面形状としては、特に限定されるものではないが、車両構造部材の軽量化を実現できて、且つ構造材としての十分な剛性と強度を確保できる断面形状を採用するのが好ましく、具体的には断面形状として、例えば、口の字形状(図1参照)、日の字形状、目の字形状、田の字形状(図3、4参照)、円形状、楕円形状等の中空断面形状等が挙げられる。前記中空押出材1のサイズは、断面形状の外接円の直径が15mm~570mmの範囲に設計されるのが好ましい。前記中空押出材1の肉厚Tは、2mm~10mmの範囲に設定されるのが好ましい。肉厚Tが2mm以上であることで押出後の強制冷却時の熱収縮の影響で変形が生じるのを防止できると共に、肉厚Tが10mm以下であることで軽量性を確保できる。
次に、本発明に係る、アルミニウム合金中空押出材1の製造方法について説明する。本製造方法は、Si:0.80質量%~1.25質量%、Mg:0.65質量%~1.20質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Mn:0.40質量%~0.80質量%、Cu:0.01質量%~0.60質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、Ti:0.01質量%~0.10質量%を含有し、Zrの含有率が0.05質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を得る溶湯形成工程と、前記アルミニウム合金溶湯を鋳造加工することによってビレットを得る鋳造工程と、を含む。
(溶湯形成工程)
前記溶湯形成工程では、Si:0.80質量%~1.25質量%、Mg:0.65質量%~1.20質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Mn:0.40質量%~0.80質量%、Cu:0.01質量%~0.60質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、Ti:0.01質量%~0.10質量%を含有し、Zrの含有率が0.05質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなる組成となるように溶解調製されたアルミニウム合金溶湯を得る。かつ、前記アルミニウム合金溶湯は、該合金中のSiの含有率を「α」(質量%)とし、前記アルミニウム合金中のMgの含有率を「β」(質量%)としたとき、
0.90≧α-(β/1.73)≧0.19 式(1)
1.90≧β+(β/1.73)≧1.00 式(2)
上記式(1)及び式(2)を満たしている必要がある。
中でも、0.85≧α-(β/1.73)≧0.24および1.82≧β+(β/1.73)≧1.09の関係式を満たす組成になっているのが好ましい。さらに、0.80≧α-(β/1.73)≧0.29および1.74≧β+(β/1.73)≧1.18の関係式を満たす組成になっているのが特に好ましい。
(鋳造工程)
次に、前記得られた溶湯を鋳造加工することによって鋳造材を得る(鋳造工程)。鋳造方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよく、例えば、連続鋳造圧延法、ホットトップ鋳造法、フロート鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等が挙げられる。この鋳造工程において、冷却速度の速い鋳造加工を行うことによって鋳塊(ビレット)中に形成される金属組織や晶出物の結晶粒径を小さくするのが好ましい。
以下、順に、均質化熱処理工程、冷却工程、押出工程、急冷工程、時効処理工程を実施する。
(均質化熱処理工程)
得られたビレットに対して均質化熱処理を行う。即ち、ビレットを480℃~530℃の温度で2時間~15時間保持する均質化熱処理を行う。480℃未満では、鋳塊ビレットの軟化が不十分となり、熱間押出加工時の圧力が著しく高くなって、外観品質が低下するし、生産性も低下する。一方、530℃を超えると、MnとCrの析出物が粗大化することで再結晶を抑制する効果が低下し、再結晶の発生により、中空押出材1の靱性が低下するし、高強度も得られ難い。中でも、均質化熱処理の温度は、485℃~525℃に設定するのが好ましい。
また、均質化熱処理の時間が2時間未満では、鋳塊ビレットの軟化が不十分となり、熱間押出加工時の圧力が著しく高くなって、外観品質が低下するし、生産性も低下する。また、2時間未満では、鋳塊組織中の結晶粒内の偏析を無くして均質化することが不十分になり、中空押出材1の靱性が低下するし、高強度も得られ難い。一方、均質化熱処理の時間が15時間を超えると、均質化熱処理によるそれ以上の効果は得られず、かえって生産性を低下させるものとなる。
(冷却工程)
次に、前記均質化熱処理後のビレットを150℃/時間以上の平均冷却速度で200℃以下の温度まで冷却する。平均冷却速度は、大きい方がより好ましい。この冷却工程における冷却方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ファン冷却、ミスト冷却などが挙げられる。このようにビレットを150℃/時間以上の平均冷却速度で強制冷却する理由は、均質化熱処理後の冷却過程で固溶元素の析出物が粗大に成長するのを抑制するためである。粗大成長を抑制することで、後の時効処理による強度向上を十分に実現できると共に、中空押出材の靱性を十分に確保できて十分な耐曲げ圧壊性が得られる。
(押出工程)
前記冷却工程を経たビレットを500℃~560℃にした状態で5m/分~15m/分の押出速度で熱間押出加工を行って中空押出材を得る。加熱温度が500℃未満では、鋳塊に添加されている元素がマトリックス中に溶けずに残留することで時効処理による強度向上を実現できない。一方、加熱温度が560℃を超えると、押出加工後の加工発熱により中空押出材に局所的に共晶融解(バーニング)が発生する恐れがある。従って、熱間押出加工時の加熱温度は500℃~560℃に設定する。中でも、熱間押出加工時の加熱温度は510℃~550℃に設定するのが好ましい。なお、ビレットの加熱時間は、特に限定されるものではないが、加熱装置が押出工程のオンライン上に設置されていることを考慮して、良好な生産性を確保できる時間に設定されるが、30分以内に設定されるのが好ましく、15分以内に設定されるのが特に好ましい。
前記熱間押出加工の際の押出速度は、5m/分~15m/分に設定する。押出速度は、生産性を考慮すると、速ければ速いほど好ましいものの、押出速度が15m/分を超えると、中空押出材の表面に剥離や割れが生じる恐れがある。一方、押出速度が5m/分未満では、生産性が低下する。
(急冷工程)
前記熱間押出加工後の中空押出材の温度が500℃~570℃になっていることを要する。金型から排出された直後の中空押出材の温度を非接触温度計または接触温度計で計測する。この計測温度が500℃未満では、鋳塊に添加されている元素がマトリックス中に溶けずに残留することで時効処理による強度向上を実現できない。前記計測温度が570℃を超えている場合には、中空押出材に局所的に共晶融解(バーニング)が発生する恐れがある。中でも、前記熱間押出加工後の中空押出材の温度が510℃~560℃になっているのが好ましい。
前記熱間押出加工直後の500℃~570℃の温度の中空押出材を10℃/秒~500℃/秒の冷却速度で150℃以下まで急冷する。このような急冷は、例えば、押出出口側に設置してある冷却装置を用いて実施することができる。このような条件での急冷は、中空押出材の金属組織が繊維状組織を有し、かつ中空押出材の断面の全体面積に占める繊維状組織の面積の割合が80%以上である金属組織を形成させる上で重要な工程である。この急冷工程において、冷却速度が10℃/秒未満では、冷却時の焼き入れが不十分となって、中空押出材の靱性が低下するし、高強度も得られ難い。一方、冷却速度が500℃/秒を超えると、肉厚の厚い部分と薄い部分で熱収縮差による変形が生じて寸法精度が悪くなる。
前記急冷工程における冷却方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ファン空冷、ミスト冷却、シャワー冷却、液体窒素冷却、水冷等の方法が挙げられる。また、前記例示の冷却方法を適宜組み合わせて急冷を実施するようにしてもよい。
前記急冷工程において、前記中空押出材の冷却速度を50℃/秒~500℃/秒に設定するのが好ましく、100℃/秒~500℃/秒に設定するのが特に好ましい。
(時効処理工程)
次に、前記急冷工程を経た中空押出材を150℃~210℃の温度で1時間~24時間加熱して時効処理を行う。時効処理温度が150℃未満では、析出物が微細になりすぎて時効硬化が十分になされず、高強度の中空押出材が得られなくなる。一方、時効処理温度が210℃を超えると、過時効処理となって析出物が粗大化して、高強度の中空押出材が得られなくなる。また、時効処理時間が1時間未満では、亜時効処理となって高強度の中空押出材が得られなくなる。時効処理時間が24時間を超えると、過時効処理となって高強度の中空押出材が得られなくなる。中でも、前記時効処理温度を160℃~200℃に設定するのが好ましい。また、前記時効処理時間は1時間~16時間に設定するのが好ましい。
なお、本発明の上記製造方法において、押出工程以降に、溶体化処理や焼き入れ処理を行うと、形成された繊維状組織が損なわれてしまうので、このような溶体化処理や焼き入れ処理を行うのは望ましくない。
また、本発明の上記製造方法において、例えば、自動車、鉄道等の車両の車体構造材(フレーム等)等として適用するために、必要に応じて、押出工程以降に、引抜加工、切削加工、曲げ加工、潰し加工、溶接加工、機械締結加工等のうちの1種又は2種以上の加工を実施してもよい。
次に、上述した本発明に係るアルミニウム合金中空押出材および本発明に係るアルミニウム合金中空押出材の製造方法における「アルミニウム合金」の組成について、以下詳述する。前記アルミニウム合金は、Si:0.80質量%~1.25質量%、Mg:0.65質量%~1.20質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Mn:0.40質量%~0.80質量%、Cu:0.01質量%~0.60質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、Ti:0.01質量%~0.10質量%を含有し、Zrの含有率が0.05質量%以下であり、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金である。
前記Siは、Mgと共存してMg2Si系析出物を形成し、中空押出材1の強度向上に寄与する。Siは、上述したとおりMgの含有量に対してMg2Siを生成する量を超えて過剰に添加することにより、時効処理による強度向上を十分に実現できることから、Si含有率は、0.80質量%以上に設定する。一方、Si含有率が1.25質量%を超えると、Siの粒界析出が多くなり、中空押出材の靱性が低下するし、熱間押出加工時の押出性が悪くなる。従って、Si含有率は、0.80質量%~1.25質量%に設定する。中でも、Si含有率は、0.95質量%~1.20質量%に設定するのが好ましく、1.02質量%~1.17質量%に設定するのがより好ましい。
前記Mgは、Siと共存してMg2Si系析出物を形成し、中空押出材1の強度向上に寄与する。Mg含有率が0.65質量%より小さいと、析出強化の効果が十分に得られず高強度を確保することができない。一方、Mg含有率が1.20質量%を超えると、Mg2Si系析出物が増加し過ぎることによって、中空押出材の靱性を低下させるし、熱間押出加工時の押出圧力が著しく高くなることにより外観品質を低下させたり生産性を低下させる。従って、Mg含有率は、0.65質量%~1.20質量%に設定する。中でも、Mg含有率は、0.75質量%~1.15質量%に設定するのが好ましく、0.85質量%~1.10質量%に設定するのがより好ましい。
前記Feは、AlFeSi相として晶出することで結晶粒の粗大化を防止する効果がある。Fe含有率が0.15質量%より小さいと、結晶粒の粗大化防止効果が十分に得られない。一方、Fe含有率が0.30質量%を超えると、粗大な金属間化合物を生成し、中空押出材の靱性を低下させるし、熱間押出加工時にピックアップと呼ばれる外観不良が発生する恐れがある。従って、Fe含有率は、0.15質量%~0.30質量%に設定する。中でも、Fe含有率は、0.15質量%~0.25質量%に設定するのが好ましい。
前記Mnは、AlMnSi相として晶出し、晶出しないMnは析出して再結晶を抑制する効果がある。この再結晶を抑制する作用により、熱間押出加工後の組織を繊維状組織化できることで高強度を実現できる。Mn含有率が0.40質量%より小さいと、上記の再結晶抑制効果が得られなくなり、再結晶組織が粗大化して成長することで強度が低下する(高強度を確保できない)上に、組織制御が困難になり繊維状組織と再結晶組織とが混合した組織状態になって靱性が低下する。一方、Mn含有率が0.80質量%を超えると、粗大な金属間化合物を生成し、中空押出材の靱性を低下させる。従って、Mn含有率は、0.40質量%~0.80質量%に設定する。中でも、Mn含有率は、0.40質量%~0.70質量%に設定するのが好ましく、0.40質量%~0.60質量%に設定するのがより好ましい。なお、Mnは、同様の効果を有するCrと複合的に添加することにより、上記の効果を相乗的に向上させることができる。
前記Cuは、Mg2Si系析出物の見かけの過飽和量を増加させ、Mg2Si析出量を増加させることによって最終製品の中空押出材の時効硬化を著しく促進させる。Cu含有率が0.01質量%より小さいと、時効硬化が十分に得られない。一方、Cu含有率が0.60質量%を超えると、中空押出材の靱性が低下するし、熱間押出加工時の押出性が悪くなる。また、過度に添加量を増やし過ぎると、耐食性を低下させ、粒界腐食の感受性を高め、応力腐食割れを引き起こす恐れがある。従って、Cu含有率は、0.01質量%~0.60質量%に設定する。中でも、Cu含有率は、0.10質量%~0.50質量%に設定するのが好ましく、0.30質量%~0.50質量%に設定するのがより好ましい。
前記Crは、AlCrSi相として晶出し、晶出しないCrは析出して再結晶を抑制する効果がある。この再結晶を抑制する作用により、熱間押出加工後の組織を繊維状組織化できることで高強度を実現できる。Cr含有率が0.09質量%より小さいと、上記の再結晶抑制効果が得られなくなり、再結晶組織が粗大化して成長することで強度が低下する(高強度を確保できない)上に、組織制御が困難になり繊維状組織と再結晶組織とが混合した組織状態になって靱性が低下する。一方、Cr含有率が0.21質量%を超えると、粗大な金属間化合物を生成し、中空押出材の靱性を低下させる。従って、Cr含有率は、0.09質量%~0.21質量%に設定する。中でも、Cr含有率は、0.11質量%~0.19質量%に設定するのが好ましい。なお、Crは、同様の効果を有するMnと複合的に添加することにより、上記の効果を相乗的に向上させることができる。
前記Tiは、結晶粒の微細化を図る上で有効な元素であり、また鋳造棒(ビレット)に鋳塊割れが発生することを防止する。Ti含有率が0.01質量%より小さいと、上記効果が得られなくなる恐れがある。一方、Ti含有率が0.10質量%を超えると、粗大なTi化合物が晶出し、中空押出材の靱性を低下させる。従って、Ti含有率は、0.01質量%~0.10質量%に設定する。なお、Tiを含有させる際に比較的混入しやすいB(硼素)を含む場合は、B含有率は、0.0001質量%~0.03質量%の範囲に設定するのが好ましい。
前記B(硼素)は、Tiとの共存により結晶粒の微細化を図る上で有効な元素である。B含有率が0.0001質量%より小さいと、結晶粒の微細化の効果が十分に得られない恐れがある。一方、B含有率が0.03質量%を超えると、TiB2が過剰に生成されて切削加工性が低下する恐れがある。従って、B含有率は、0.0001質量%~0.03質量%の範囲に設定するのが好ましい。
前記Zrは、MnやCrと同様に再結晶を抑制する効果を有する元素であるが、このZrの含有率は0.05質量%以下に設定する。Zr含有率が0.05質量%を超えると、上述したTiの結晶粒微細化効果を阻害する上に、中空押出材の靱性を低下させる。従って、Zr含有率は0.05質量%以下に設定する。Zr非含有であってもよい(Zr含有率は0質量%であってもよい)。中でも、Zr含有率は0.01質量%以下(0質量%を含む;即ちZr非含有を含む)に設定するのが好ましい。
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
<実施例1>
Si:0.95質量%、Fe:0.20質量%、Cu:0.40質量%、Mn:0.50質量%、Mg:0.65質量%、Cr:0.15質量%、Zr:0.01質量%、Ti:0.02質量%、Al:97.12質量%を含有し、不可避不純物を含有するアルミニウム合金(表1で合金No.A)を加熱してアルミニウム合金溶湯を得た後、該アルミニウム合金溶湯を用いてホットトップ鋳造法により直径156mm、長さ450mmの鋳塊ビレットを作製した。
次に、前記鋳塊ビレットに対して500℃で7時間の均質化熱処理を行った(均質化熱処理工程;表2の製造条件No.1参照)。前記均質化熱処理工程を経た後の鋳塊ビレットを200℃/時間の鋳塊冷却速度で鋳塊が200℃以下の温度になるまで強制冷却を行った(冷却工程;表2の製造条件No.1参照)。次に、前記冷却工程を経た鋳塊ビレットに、鋳塊加熱温度530℃、押出速度10m/分の条件で熱間押出加工を行うことによって、縦45mm×横45mmの角パイプ形状で、角部のRが1.5mm、管壁厚さ(肉厚)Tが2.5mmの中空押出材(図1、2参照)を得た(押出工程;表2の製造条件No.1参照)。次いで、前記熱間押出加工で得られた540℃の中空押出材(押出ダイス出口での中空押出材の温度を接触温度計で測定した)を400℃/秒の冷却速度で150℃以下の温度になるまで急冷した(急冷工程;表2の製造条件No.1参照)。前記急冷工程を経た中空押出材を400mmの長さに切断した後、180℃で6時間加熱して時効処理を行った(時効処理工程;表2の製造条件No.1参照)。こうして図1に示すAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材1を得た。
<実施例2>
前記アルミニウム合金溶湯として、表3に示す合金No.Bのアルミニウム合金の溶湯を用いた以外は、実施例1と同様にして(製造条件は実施例1と同じ製造条件No.1を採用)、図1に示すAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材1を得た。前記合金No.Bのアルミニウム合金の組成は、表1に示したとおりである。
<実施例3~19、比較例1~14>
前記アルミニウム合金溶湯として、表3に示す各合金No.のアルミニウム合金(各合金No.のアルミニウム合金の組成はそれぞれ表1に示したとおりである)の溶湯を用いた以外は、実施例1と同様にして(製造条件は実施例1と同じ製造条件No.1を採用)、図1に示すAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材1を得た。
<実施例20>
前記アルミニウム合金溶湯として、表4に示す合金No.Gのアルミニウム合金の溶湯を用いると共に、製造条件として製造条件No.2(表2参照)を採用した以外は、実施例1と同様にして、図1に示すAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材1を得た。前記合金No.Gのアルミニウム合金の組成は、表1に示したとおりである。
<実施例21~29、比較例15~24>
製造条件として、表4に示す各製造条件No.の製造条件(各製造条件No.の製造条件は表2に示したとおりである)を採用した以外は、実施例20と同様にして(合金No.Gのアルミニウム合金溶湯を使用した)、図1に示すAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材1を得た。
なお、各実施例、各比較例において、急冷工程での押出材冷却速度の調整は、放冷、ファン空冷、ミスト空冷、シャワー空冷、液体窒素冷却、水冷等の各種冷却方法から適宜最適な手法を選択して行った。
Figure 0007215920000001
Figure 0007215920000002
Figure 0007215920000003
Figure 0007215920000004
上記のようにして得られた各アルミニウム合金中空押出材について、下記測定法により「中空押出材の断面の全体面積に占める繊維状組織の面積の割合」を測定すると共に、下記評価法に基づいて各種評価を行った。
<中空押出材の断面の全体面積に占める繊維状組織の面積の割合の測定法>
中空押出材について該中空押出材の押出方向に平行な断面(図1におけるZ-Z線の断面)を切り出した後、中空押出材の前記断面(切断面)を鏡面研磨し、次いで電解エッチングを行った後、断面(切断面)を光学顕微鏡で観察した。図5に、実施例21のアルミニウム合金中空押出材の断面(切断面)の光学顕微鏡を用いた金属組織写真を示す。図5の金属組織写真は、任意の倍率を設定して中空押出材の管壁の厚さ(T=2.5mm)を全て含む領域の視野にて撮影した光学顕微鏡写真である。図5に示すとおり、内部に押出方向に略平行に伸びる繊維状の組織(繊維状組織)が認められると共に、前記繊維状組織の上下両側の表層部のそれぞれに再結晶組織(繊維状組織とは色調も形態も相違する表層組織)が認められた(図5参照)。
各中空押出材の前記断面(切断面)の光学顕微鏡を用いた金属組織写真において、複数視野における画像解析から、前記断面における全体面積に占める繊維状組織の面積の割合を求め、該割合が80%以上であるものを「繊維状組織」と判定し(表3、4参照)、前記割合が20%以上80%未満であるもの(繊維状組織以外の組織が再結晶組織であるもの)を「混合組織」と判定し、前記割合が20%未満であるもの(繊維状組織以外の組織が再結晶組織であるもの)を「再結晶組織」と判定した(表3、4参照)。
<0.2%耐力の測定法>
JIS Z2241-2011に準拠して室温(25℃)で引張試験を行うことによって0.2%耐力(MPa)を測定した。即ち、図2に示すように、得られた中空押出材1からJIS Z2201-1998に記載の方法によりJIS5号試験片10を採取した。このJIS5号試験片10の大きさは、平行部の幅(W)25mm×平行部の長さ(L)60mm×厚さ(T)2.5mmとした(図2参照)。また、試験片において標点間距離を50mmに設定した。前記試験片についてインストロン型引張試験機を用いて該試験片(中空押出材の一部)の押出方向に引張試験を行った。引張試験速度は、2mm/分に設定し、耐力測定以降は10mm/分に設定した。JIS5号試験片のn数を3個として、3つの試験片の平均値を「0.2%耐力」とした(表3、4参照)。なお、表3、4において、0.2%耐力が350MPa以上であるものを「◎」と表記し、0.2%耐力が330MPa以上350MPa未満であるものを「○」と表記し、0.2%耐力が330MPa未満であるものを「×」と表記した。
<押出材の外観評価法>
得られたアルミニウム合金中空押出材の表面を目視で観察し、押出材の表面の剥離の有無、角部の割れの有無を調べ、下記判定基準に基づいて中空押出材の外観品質を評価した。
(判定基準)
「○」…剥離がなく、角部の割れも無かった
「×」…剥離および角部の割れのうち、いずれか一方又は両方の現象が生じていた。
<耐食性評価法>
得られたアルミニウム合金中空押出材における幅方向の中心位置から幅方向の一方の方向に4mmの長さ(幅4mm)×長さ(押出方向の長さ)45mm×厚さ2.5mmの試験片および前記幅方向の中心位置から幅方向の他方の方向に4mmの長さ(幅4mm)×長さ(押出方向の長さ)45mm×厚さ2.5mmの試験片の2つの試験片(n=2)を得た。
液温が90℃に設定された耐食性試験液(CrO3の濃度が36g/L、K2Cr27の濃度が30g/L、NaClの濃度が3g/Lの水溶液)中に前記2つの試験片をそれぞれ10時間浸漬した。この時、前記2つの試験片のそれぞれの上面に上方側から90%の耐力を負荷した状態で耐食性試験液中に10時間浸漬した。10時間浸漬後に2つの試験片を取り出し、応力腐食割れの有無を目視で、もしくは目視で判定がつかない場合は光学顕微鏡による断面観察による方法で調べて、下記判定基準に基づいて中空押出材の耐食性を評価した。
(判定基準)
「○」…2つの試験片の両方において応力腐食割れの発生がなかった。
「×」…2つの試験片のうち、少なくとも一方の試験片で応力腐食割れの発生が認められた。
<曲げ性評価法(曲げ試験方法)>
JIS Z2248-2006に準拠して押曲げ法で180°曲げ試験を行った。即ち、図2に示すように、得られた中空押出材1からJIS3号試験片10を採取した。このJIS3号試験片10の大きさは、幅(W)30mm×長さ(L)200mm×厚さ(T)2.5mmとした(図2参照)。前記試験片(中空押出材の一部)について油圧万能試験機を用いて180°曲げ試験を行った。この曲げ試験は、曲げ線が(中空押出材の)押出方向になるようにし、曲げR部の外側部位に割れによる破断が発生しない限界曲げR(最小内側半径R)(mm)を測定し、下記判定基準に基づいて曲げ性を評価した。
(判定基準)
「◎」…限界曲げR値が3.0mm以下である
「○」…限界曲げR値が3.0mmを超えて5.0mm以下である
「△」…限界曲げR値が5.0mmを超えて5.5mm未満である
「×」…限界曲げR値が5.5mm以上である。
<総合評価>
「0.2%耐力」、「押出材の外観」、「耐食性」、「曲げ性(耐曲げ圧壊性)」の4つの評価項目のうち、1項目以上に「×」の評価結果があったものを「不合格」とし、4つの評価項目の全てにおいて「×」の評価結果が無かったものを「合格」とした。
表から明らかなように、本発明の実施例1~29のAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材は、外観品質が良好で、0.2%耐力が330MPa以上であって高強度であり、耐食性に優れていると共に、耐曲げ圧壊性にも優れていた。
これに対し、比較例1~14では、アルミニウム合金組成が本発明の規定範囲を逸脱しているので、総合評価が不合格であった。具体的には、比較例1、2では、Si含有率が本発明の規定範囲より小さいため、0.2%耐力が不十分であった。比較例3では、Si含有率が本発明の規定範囲より大きいため、「α-(β/1.73)」の数値も本発明の規定範囲より大きくなっており、押出材外観および曲げ性に劣っていた。比較例4では、Cu含有率が本発明の規定範囲より大きいため、押出材外観および曲げ性に劣っていた。比較例5では、Mg含有率が本発明の規定範囲より大きいため、「β+(β/1.73)」の数値も本発明の規定範囲より大きくなっており、押出材外観および曲げ性に劣っていた。比較例6では、Cr含有率が本発明の規定範囲より小さく、Zr含有率が本発明の規定範囲より大きいため、曲げ性に劣っていた。比較例7では、Mn含有率が本発明の規定範囲より小さく、Zr含有率が本発明の規定範囲より大きいため、曲げ性に劣っていた。比較例8では、Mn含有率が本発明の規定範囲より大きいため、曲げ性に劣っていた。比較例9では、Mg含有率が本発明の規定範囲より小さいため、「β+(β/1.73)」の数値も本発明の規定範囲より小さくなっており、0.2%耐力が不十分であった。比較例10では、Si含有率が本発明の規定範囲より小さいため、「α-(β/1.73)」の数値も本発明の規定範囲より小さくなっており、0.2%耐力が不十分であった。比較例11では、Fe含有率が本発明の規定範囲より大きいため、押出材外観に劣っていたし、Mn含有率が本発明の規定範囲より小さいため、金属組織形態が混合組織形態となっており、曲げ性に劣っていた。比較例12では、Mn含有率が本発明の規定範囲より小さいため、金属組織形態が再結晶組織形態となり、また「α-(β/1.73)」の数値が本発明の規定範囲より小さいため、0.2%耐力が不十分であった。比較例13では、Mn含有率及びCr含有率が本発明の規定範囲より小さいため、金属組織形態が再結晶組織形態となり、またSi含有率及びMg含有率が本発明の規定範囲より小さく、「β+(β/1.73)」の数値も本発明の規定範囲より小さくなっているため、0.2%耐力が不十分であった。また、比較例14では、Ti含有率が本発明の規定範囲より大きいため、曲げ性に劣っていた(表3参照)。
また、比較例15~24では、本発明の製造方法におけるアルミニウム合金組成の規定範囲は満たしているものの、その他の製造条件が本発明の製造方法の規定範囲を逸脱しているので、総合評価が不合格であった。具体的には、比較例15では、均質化熱処理温度が本発明の規定範囲より小さいため、熱間押出加工性が悪化して、押出材外観および曲げ性に劣っていた。比較例16では、均質化熱処理温度が本発明の規定範囲より大きいため、再結晶抑制効果が少なく、金属組織形態が混合組織形態となっており、曲げ性に劣っていた。比較例17では、均質化熱処理時間が本発明の規定範囲より小さいため、鋳塊ビレットの軟化が十分に進まないことで熱間押出加工性が悪化し、剥離や割れが発生する等、押出材外観に劣っていた。比較例18では、押出工程での鋳塊加熱温度が本発明の規定範囲より低く、急冷工程での急冷開始時の中空押出材の温度が本発明の規定範囲より低いため、熱間押出加工性が悪化し、剥離や割れが発生する等、押出材外観に劣っていた。比較例19では、押出工程での鋳塊加熱温度が本発明の規定範囲より高く、急冷工程での急冷開始時の中空押出材の温度が本発明の規定範囲より高いため、中空押出材に局所的に共晶融解(バーニング)が生じたと推測され、剥離や割れが発生する等、押出材外観に劣っていたし、靱性の低下によって曲げ性にも劣っていた。比較例20では、押出工程での押出速度が本発明の規定範囲より大きく、押出時の加工発熱量が過大となって次の急冷工程での急冷開始時の中空押出材の温度が本発明の規定範囲より高くなってしまい、中空押出材に局所的に共晶融解(バーニング)が生じたと推測され、剥離や割れが発生する等、押出材外観に劣っていたし、靱性の低下によって曲げ性にも劣っていた。比較例21では、急冷工程での中空押出材の冷却速度が本発明の規定範囲より小さいため、この急冷時に析出物が粗大化したために、0.2%耐力が不十分である上に、曲げ性にも劣っていた。比較例22では、時効処理温度が本発明の規定範囲より低いため、0.2%耐力が不十分であった。また、比較例22では、時効処理時間が本発明の規定範囲より長いため、過度の時効処理となって0.2%耐力をさらに低下させた可能性がある。比較例23では、時効処理温度が本発明の規定範囲より高いため、0.2%耐力が不十分であった。また、比較例23では、時効処理時間が本発明の規定範囲より短いため、時効処理が十分になされず、0.2%耐力をさらに低下させたと考えられる。比較例24では、冷却工程での鋳塊冷却速度が本発明の規定範囲より遅いため、均質化熱処理後の冷却過程で析出物が粗大に成長するのを抑制できず、曲げ性に劣っていた(表4参照)。
本発明に係るAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材および本発明の製造方法で得られるAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材は、耐曲げ圧壊性と耐食性に優れると共に高強度であり、従来の鉄系材料と比較しても強度に遜色がなく、さらに耐曲げ圧壊性に優れているので、従来の鉄系材料の代替材として好適に使用できる。例えば、車両、船舶、自動車、自動二輪車等の輸送機の車体の構造材(フレーム等)として使用することで車体の軽量化を図ることができる。
1…アルミニウム合金中空押出材

Claims (1)

  1. Si:0.80質量%~1.25質量%、Mg:0.65質量%~1.20質量%、Fe:0.15質量%~0.30質量%、Mn:0.40質量%~0.80質量%、Cu:0.01質量%~0.60質量%、Cr:0.09質量%~0.21質量%、Ti:0.01質量%~0.10質量%を含有し、Zrの含有率が0.05質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金中空押出材であって、
    前記アルミニウム合金中のSiの含有率を「α」(質量%)とし、前記アルミニウム合金中のMgの含有率を「β」(質量%)としたとき、
    0.90≧α-(β/1.73)≧0.19 式(1)
    1.90≧β+(β/1.73)≧1.00 式(2)
    上記式(1)及び式(2)を満たし、
    前記アルミニウム合金中空押出材の押出方向に平行な断面において金属組織は繊維状組織を有し、かつ前記断面の全体面積に占める前記繊維状組織の面積の割合が80%以上であり、
    前記アルミニウム合金中空押出材の0.2%耐力が330MPa以上であり、
    前記アルミニウム合金中空押出材についてJIS Z2248-2006に準拠した曲げ試験で測定される限界曲げRが5.0mm以下であることを特徴とするAl-Mg-Si系アルミニウム合金中空押出材。
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