JP7215817B2 - セラミドアグリコン含有組成物及び製造方法 - Google Patents
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Description
β-グルコシルセラミドは生体内、特に皮膚に取り込まれた後、生体に存在するグルコセレブロシダーゼ等の酵素によってグルコースが切り出され、セラミドアグリコンを生成して種々の有用な生理活性を発揮する。しかしながらグルコセレブロシダーゼの存在量は特に加齢とともに減少すること、あるいは、スフィンゴ糖脂質のβ-グルコシル基の存在が脂溶性を低下させるため経皮吸収されにくく、あらかじめ脱グルコシル化してセラミドアグリコン(遊離セラミド)として投与することが望ましい。
グルコシルセラミドが体内に取り込まれる際には、腸に存在する分解酵素や、腸内細菌の作用によって糖部分が切られてからセラミドアグリコンとして腸管壁から吸収されると考えられている。つまり、経口的に利用する際にも、あらかじめ糖部分を除去したセラミドアグリコン(遊離セラミド)が望ましいのである。
また、配糖体からβ-グルコシダーゼを用いて末端の糖を選択的に除去する方法が、種々のアグリコンの製造に用いられることが開示されている(特許文献1及び非特許文献1)が、β-グルコシルセラミドに適用された例はない。
しかしながら、これまでにEGCaseを安価に大量に入手する手段、例えば酵素遺伝子を組みこんだ微生物を用いた大量製造方法などは知られておらず、したがって工業的にスフィンゴ糖脂質からセラミドアグリコンを酵素反応で遊離させる生産方法は存在しなかった。
こうして得られた醗酵粕をアルコール等で抽出するセラミドアグリコン含有物の製造法が報告されている(特許文献6及び7)。
本発明は、かかる知見に基づいて鋭意検討を重ねることにより完成したものである。
(1)スフィンゴ糖脂質含有組成物に、黒麹菌由来の酵素を作用させて得られるセラミドアグリコン含有組成物;
(2)スフィンゴ糖脂質が、β-グルコシルセラミドである上記(1)記載のセラミドアグリコン含有組成物;
(3)黒麹菌由来の酵素が、アスペルギルス(Aspergillus)由来の、β-グルコシダーゼ活性を有する酵素である上記(1)記載のセラミドアグリコン含有組成物;
(4)スフィンゴ糖脂質含有組成物に、黒麹菌由来の酵素を作用させることからなるセラミドアグリコン含有組成物の製造方法;
(5)スフィンゴ糖脂質がβ-グルコシルセラミドである上記(4)記載のセラミドアグリコン含有組成物の製造方法;及び、
(6)黒麹菌の酵素が、アスペルギルス(Aspergillus)由来の、β-グルコシダーゼ活性を有する酵素である上記(4)記載のセラミドアグリコン含有組成物の製造方法。
したがって、本発明によって生産されたセラミド含有組成物は、化粧品や機能性食品用原料として利用することができる。特に、本発明のセラミドアグリコン含有組成物は、その製造方法において、全て食品製造に用いられる物質のみを使用して取得することが可能であるので、安全性が特に重視される化粧品原料や機能性食品原料として、極めて有用なものである。
また、安価な食品加工用酵素を用い、操作も簡便であることから、自然界では極めて希少なヒト型類似の遊離セラミドを任意の割合で含有する組成物を、工業的に大量に得ることができるのである。
まず本発明の原料であるスフィンゴ糖脂質含有組成物は、植物由来でも動物由来でも特に限定されないが、本発明の目的からすると、糖残基が存在する糖脂質の含有比の高い植物由来のものであることが望ましい。なかでも酵素反応が進みやすいという点から、スフィンゴ糖脂質がグルコセレブロシド(β-グルコシルセラミド)であることが好ましい。すなわち原料として具体的には、米、大豆、モモ、トウモロコシ、麦、コンニャク、パイナップル等から由来するβ-グルコシルセラミドが挙げられる。
黒麹菌の中でもアスペルギルス(Aspergillus)が好ましい。さらに具体的には、Aspergillus saitoi由来の食品加工用酵素「モルシンF」(キッコーマンバイオケミファ(株))、Aspergillus niger 由来の食品加工用酵素「スミチームBGA」(新日本化学工業(株))、Aspergillus niger 由来の食品加工用酵素「セルラーゼA」(天野エンザイム(株))等が例として挙げられるが、特に反応性が高いことから、「モルシンF」が好ましい。
両者を溶かすことができる溶媒の例としては、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキサイド)が、また、主にグルコシルセラミド類を溶かす溶媒の例としては、n-ヘキサン、トルエン、アセトン、エチルメチルケトン、テトラヒドロフラン、1,2-ジオキサン、n-ブタノール、1,2-ジクロロエタン等が挙げられる。
反応時間としては、原料のグルコシルセラミドが消失するまで反応を継続することができるが、必ずしもすべて消失させなくても良い。反応時間としては1日~30日が例として挙げられる。
得られた濾液の溶媒を、常圧又は減圧留去、凍結乾燥、スプレードライ等の方法で除去すれば、粗生成物が得られる。粗生成物はそのままセラミドアグリコン含有組成物として使用しても良いが、必要に応じて、シリカゲル、ODS、アルミナなどの担体を用いたクロマトグラフィー、イオン交換樹脂や合成吸着材等を用いた脱吸着、溶解度差を用いた沈殿処理、再結晶等の方法を用いた精製処理を行っても良い。
特に、本発明のセラミドアグリコン含有組成物は、その製造方法において、全て食品製造に用いられる物質のみを使用して取得することが可能であることから、安全性が特に重視される化粧品原料や機能性食品原料として、極めて有用なものである。
(1)コメ由来スフィンゴ糖脂質(オカヤス(株)製、グルコシルセラミド含量77.2%)3.0gをn-ヘキサン15mLに溶解し、ガラス製容器に入れて攪拌した。
(2)ここに0.1M酢酸緩衝液(pH4.5)60mLを加え、さらに食品加工用酵素(キッコーマンバイオケミファ(株)製、商品名「モルシンF」)を0.45g加え、40℃で良くかき混ぜながら2日間反応させた。次いで攪拌を止め、分液ロートを用いて水層を除去した。
(3)上記(2)の操作を5回繰り返したのち、ヘキサン層を綿栓でろ過して不溶物を除去し、次いでロータリーエバポレーターで減圧下、濃縮乾固したところ、反応粗製物としてオイル状の物質が2.8g得られた。
(4)得られた粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し(メルク社製シリカゲル60、140g)、クロロホルム:メタノール:水(65:3:0.3)で溶出することにより、セラミドアグリコン画分1.04gを得た(収率57%)。また原料のグルコシルセラミド画分0.60gを得た(回収率26%)。
表1中、「反応前(1HexCer)」と表示するものが原料であるコメ由来スフィンゴ糖脂質の結果であり、「反応後(Cer)」と表示するものが、得られたセラミドアグリコン画分の結果である。
Cer:セラミドアグリコン
SG:スフィンゴシン
FA:2-ヒドロキシ脂肪酸
M+H:分子量+H
その他、5種類のコメ由来のスフィンゴ脂質が生成していることが確認された。
その他の、セラミドアグリコンの原料となる5種類のスフィンゴ糖脂質も同定された。
同様に原料であるコメ由来スフィンゴ糖脂質(オカヤス(株)製)200mgの精密精製を分取ODSカラムクロマトグラフィーによって行い、主画分30mgを得た。
(1)モモ由来スフィンゴ糖脂質(オカヤス(株)製、グルコシルセラミド含量37%)1.0gをトルエン20mLに溶解し、ガラス製容器に入れて攪拌した。
(2)ここに0.1M酢酸緩衝液(pH4.5)20mLを加え、さらに食品加工用酵素(キッコーマンバイオケミファ(株)製、商品名「モルシンF」)を0.15g加え、50℃で良くかき混ぜながら24時間反応させた。次いで攪拌を止め、分液ロートを用いて水層を除去した。
(3)上記の(2)の操作を3回繰り返したのち、トルエン層を綿栓でろ過して不溶物を除去し、次いでロータリーエバポレーターで減圧下、濃縮乾固したところ、反応粗製物としてオイル状の物質が0.9g得られた。
(4)得られた粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し(メルク社製シリカゲル60、50g)、クロロホルム:メタノール:水(90:10:1)で溶出することにより、セラミドアグリコン画分110mgを得た(収率38%)。また原料のグルコシルセラミド画分75mgを得た(分子量714として回収率20%)。
(1)大豆由来スフィンゴ糖脂質(長良サイエンス(株)製、グルコシルセラミド含量100%)100mgをガラス製容器に入れて、蒸留水10mLを加えて懸濁し、そこにステアリン酸ナトリウム50mg、界面活性剤40mgを加え、攪拌し、溶解させた。
(2)ここに食品加工用酵素(天野エンザイム(株)製、商品名「セルラーゼA」)を100mg加え、55℃で良くかき混ぜながら3日間反応させた。
攪拌を止め、ロータリーエバポレーターで減圧下、濃縮乾固したところ、反応粗製物としてオイル状の物質95mgを得た。
(3)得られた粗製物をシリカゲルクロマトグラフィーに供し(メルク社製シリカゲル60、10g)、クロロホルム:メタノール:水(90:10:1)で溶出することにより、セラミドアグリコン画分11mgを得た(収率14%)。なお原料のグルコシルセラミド画分が残存していたが、その分離は行わなかった。
(1)コメ由来スフィンゴ糖脂質(オカヤス(株)製、グルコシルセラミド含量77.2%)100mgをn-ヘキサン0.5mLに溶解し、ガラス製容器に入れて攪拌した。
(2)ここに0.02Mトリス-リン酸緩衝液(pH7.5)2mLを加え、さらにエンドグリコセラミダーゼI(EGCaseI,BioLabs Inc.製)を10mg加え、40℃で良くかき混ぜながら2日間反応させた。次いで攪拌を止め、コマゴメピペットを用いて水層を除去した。
(3)上記の(2)の操作を3回繰り返したのち、ヘキサン層を綿栓でろ過して不溶物除去し、次いでロータリーエバポレーターで減圧下、濃縮乾固したところ、反応粗製物としてオイル状の物質が90mg得られた。
(4)得られた粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し(メルク社製シリカゲル60、10g)、クロロホルム:メタノール:水(65:3:0.3)で溶出することにより、遊離セラミド画分23mgを得た(収率38%)。なお原料のグルコシルセラミド画分が残存していたが、その分離は行わなかった。
(5)上記の(4)で得られた遊離セラミド画分と実施例1の(4)で得られたセラミドアグリコン画分をシリカゲル薄層クロマログラフィー分析(メルク社製TLCSilicagel60、Glassplate、展開溶媒;クロロホルム:メタノール:水(65:10:0.3))に供した。発色は硫酸噴霧-加熱法を用いた。その結果、両者のRf値が完全に一致した。すなわち、コメ由来グルコシルセラミドに対するモルシンF、或いはエンドグリコセラミダーゼIによる反応により、同一のセラミドアグリコンが生成することが判明した。
(1)コメ由来スフィンゴ糖脂質(オカヤス(株)製、グルコシルセラミド含量77.2%)100mgをn-ヘキサン0.5mLに溶解し、ガラス製容器に入れて攪拌した。
(2)ここに0.1M酢酸緩衝液2mLを加え、さらに下記表2に記載の各種加水分解酵素を各々100mg加え、良くかき混ぜながら3日間反応させた。液性と温度は、それぞれ用いた酵素の至適条件を適用した。
(3)得られた反応液のヘキサン層を綿栓でろ過したのち、n-ヘキサンを0.5mL加えて混合し分析用試液とした。この分析試液1μLをシリカゲル薄層クロマログラフィー分析(メルク社製TLCSilicagel60、Glassplate、展開溶媒;クロロホルム:メタノール:水(65:10:0.3))に供した。発色は硫酸噴霧-加熱法を用いた。セラミドアグリコンは、Rf=0.57付近に橙褐色のスポットとして検出された。
シリカゲル薄層クロマログラフィー分析の結果を下記表2に示した。
表2から明らかなように、エンドグリコセラミダーゼI、アスペルギルス由来のモルシンF、スミチームBGA、およびセルラーゼA以外の加水分解酵素からは、いずれもセラミドアグリコンが生成しないことが示された。
〇:反応が進行
△:若干反応が進行
×:殆ど~全く反応せず
特に、本発明のセラミドアグリコン含有組成物は、その製造方法において、全て食品製造に用いられる物質のみを使用して取得することが可能であることから、安全性が特に重視される化粧品原料や機能性食品原料として、極めて有用なものである。
また、安全で安価な食品加工用酵素を用い、操作も簡便であることから、自然界では極めて希少なヒト型類似の遊離セラミドを任意の割合で含有する組成物を、工業的に大量に得ることができる点で、その産業上の利用性は多大なものである。
Claims (3)
- スフィンゴ糖脂質組成物に、黒麹菌由来の酵素を作用させることからなるセラミドアグリコン含有組成物の製造方法。
- スフィンゴ糖脂質が、β-グルコシルセラミドである請求項1記載のセラミドアグリコン含有組成物の製造方法。
- 黒麹菌の酵素が、アスペルギルス(Aspergillus)由来のβ-グルコシダーゼ活性を有する酵素である請求項1記載のセラミドアグリコン含有組成物の製造方法。
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