実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
<ケーブルの構成>
図1は、ケーブル1の構成例を示す図である。
図1において、ケーブル1は、信号が伝搬する信号線として機能する導体線10と、導体線10の周囲(外周)を覆う絶縁層11と、絶縁層11の周囲(外周)を覆うシールド層12と、シールド層12の一部の周囲(外周)を覆うシース13とを有している。
導体線10は、例えば、銅線、銅合金線、アルミニウム線やアルミニウム合金線から構成されている。一方、絶縁層11は、例えば、ポリエチレン樹脂やフッ素樹脂などから構成されている。また、シールド層12は、例えば、銅からなるめっき層から構成されている一方、シース13は、絶縁樹脂から構成されている。なお、シース13は、ジャケットとも呼ばれる。
シールド層12は、金属箔テープから構成されることが多いが、近年では、導体線10を伝搬する信号の伝送特性を向上する観点から、金属箔テープに替えて、めっき層からシールド層12を構成することが検討されている。
以下では、まず、シールド層12をめっき層から構成すると、導体線10を伝搬する信号の伝送特性が向上する理由について説明する。
例えば、シールド層12を金属箔テープから構成する場合、金属箔テープは、絶縁層11と固着していないことから、金属箔テープに緩みが生じやすい。そして、金属箔テープに緩みが生じると、絶縁層11とシールド層12との間に空隙(空気層)が生じることがある。
この点に関し、絶縁層11とシールド層12との間に空隙が存在すると、空隙の誘電率が絶縁層の誘電率よりも小さいことに起因して、空隙を含む絶縁層の実質的な誘電率が低下することになる。このことは、ケーブル1の電気長が長くなることを意味する。すなわち、絶縁層11とシールド層12との間に空隙が存在すると、ケーブル1の実効的な電気長が長くなる結果、ケーブル1の長さを設計値通りに設計しても、導体線10を伝搬する信号に位相ずれが生じることになる。このことは、導体線10を伝搬する信号の伝送特性が低下することを意味する。したがって、ケーブル1の伝送特性を向上するためには、絶縁層11とシールド層12との間に空隙が形成されないように、シールド層12を絶縁層11に固着することが検討されている。具体的には、シールド層12を金属箔テープから構成するのではなく、めっき層から形成することが検討されている。例えば、無電解めっき法を使用することにより、絶縁層11の表面にめっき層を形成することができる。このとき、めっき層は、絶縁層11に固着するように形成されることから、シールド層12をめっき層から形成する構成によれば、絶縁層11とシールド層12との間に空隙が生じることを抑制できる。この結果、シールド層12をめっき層から形成するケーブル1によれば、空隙に起因する信号の位相ずれを抑制できることから、ケーブル1における信号伝送特性を向上することができる。以上の理由から、金属箔テープに替えて、めっき層からシールド層12を構成することにより、導体線10を伝搬する信号の伝送特性を向上できることがわかる。
さらに、シールド層12をめっき層から構成する場合、シールド層12を金属箔テープから構成する場合に比べて、シールド層12の膜厚を薄くできる。このことから、シールド層12をめっき層から構成するケーブル1によれば、ケーブル1の細径化および軽量化を図ることができるという利点も得られる。
<ケーブルの端部の構成>
上述したケーブル1は、両端部において、導体線10とシールド層12のそれぞれがプリント基板やコネクタに接続される。このため、ケーブル1の端部は、導体線10とシールド層12のそれぞれがプリント基板やコネクタに接続できるように加工されている。
以下では、プリント基板やコネクタに接続できるように加工されたケーブル1の端部の構成について、図面を参照しながら説明する。
図2は、ケーブル1の端部の構成を説明する図である。
図2において、ケーブル1の端部には、例えば、ケーブル1をプリント基板やコネクタに接続するための接続領域100が形成されている。この接続領域100は、導体線10が露出した導体線露出領域101と、シールド層12が露出したシールド層露出領域102から構成されている。そして、ケーブル1は、導体線露出領域101とシールド層露出領域102のそれぞれをプリント基板やコネクタに接続することによって、プリント基板やコネクタと電気的に接続される。具体的に、ケーブル1は、導体線露出領域101とシールド層露出領域102のそれぞれをプリント基板やコネクタに半田接続することによって、プリント基板やコネクタと電気的に接続される。
<めっき層からなるシールド層の半田接続の困難性>
ところが、めっき層からなるシールド層をプリント基板やコネクタに半田接続する際には、電気的な接続に加えて、機械的な接続強度も確保する必要がある。すなわち、めっき層をプリント基板やコネクタに半田接続する際には、半田とめっき層との接続を確実に行なう必要がある。この点に関し、めっき層の表面には、めっき層の成膜に伴う微小な突起が形成されていることから、めっき層の表面は平坦ではない。この結果、めっき層と半田との確実な接続を実現するための半田処理技術の難易度が高くなる。具体的には、めっき層の表面に対して、長時間の高温加熱処理と高活性のフラックスの採用が要求される。したがって、めっき層からなるシールド層12を使用するケーブル1では、シールド層12をプリント基板やコネクタに半田接続する技術的困難性が高くなる。
<予備半田技術の有用性>
このようにプリント基板やコネクタに半田接続する難易度の高いケーブル1では、予めケーブル1の絶縁層11、シールド層12、およびシース13から露出した導体線10の少なくとも一部の外周(導体線露出領域101に露出している導体線10の表面)と、ケーブル1のシース13から露出したシールド層12の少なくとも一部の外周(シールド層露出領域102に露出しているシールド層12の表面)と、を覆うように薄く半田層を形成することが検討されている。本明細書では、この技術を予備半田技術と呼ぶことにする。
例えば、図3は、予備半田技術を使用して、ケーブル1の導体線露出領域101に露出している導体線10の表面と、ケーブル1のシールド層露出領域102に露出しているシールド層12の表面とに半田層30が形成されている様子を模式的に示す図である。特に、図3においては、ドットを用いて描いた領域は、半田層30が形成されていることを示している。
このような予備半田技術を使用すると、ケーブル1をプリント基板やコネクタに半田接続する際に、例えば、めっき層から構成されるシールド層12自体と実装半田とが接続するのではなく、シールド層12の表面に形成された半田層30と実装半田とが接続することになる。このことから、予備半田技術を使用することにより、比較的短時間で、かつ、低温の半田接続が可能となる結果、半田接続工程での不具合の発生を低減できる利点が得られる。
特に、ケーブル1をプリント基板やコネクタに半田接続する際に不具合が発生すると、ケーブル1だけでなく、プリント基板やコネクタも不良品となってしまうため、製造コストに与える影響が大きい。この点に関し、予備半田技術を使用すると、半田接続工程での不具合の発生を低減できることから、ケーブル1をプリント基板やコネクタに半田接続する際に発生する不具合に起因して、プリント基板自体やコネクタ自体が不良品となってしまうことを防止できる。このことは、予備半田技術を使用することにより、プリント基板自体やコネクタ自体が不良品となってしまう割合を低減できることを意味し、これによって、予備半田技術は、製造コストの削減に寄与する点で有用な技術であることがわかる。
また、予備半田技術を使用することにより、半田接続作業が容易となるため、作業者が高度な技術を習得しなくても、半田接続作業を行なうことができるとともに、半田接続作業の機械化も容易になる。
さらには、予備半田技術を使用することにより、比較的短時間で、かつ、低温の半田接続が可能となる。このことから、低活性のフラックスを使用することができるようになるため、半田接続後のフラックス残渣の洗浄を不要とすることができる。
<予備半田技術を使用したケーブルの製造方法>
続いて、上述した予備半田技術を使用したケーブルの製造方法について説明する。
図4は、予備半田技術を使用したケーブルの製造工程を示すフローチャートである。
図4において、まず、例えば、銅線や銅合金線からなる導体線を準備する(S101)。そして、導体線に周囲を覆うように絶縁層を形成する(S102)。この絶縁層は、例えば、ポリエチレン樹脂から形成することができる。次に、例えば、無電解めっき法を使用することにより、絶縁層の表面を覆うようにめっき層を形成する(S103)。このめっき層は、シールド層となる。ここで、めっき層は、複数層から形成されていてもよい。例えば、無電解めっき法によって形成されためっき層の外周に、電界めっき法によってめっき層を形成してもよい。続いて、めっき層からなるシールド層を覆うようにシースを形成する(S104)。このシースは、絶縁樹脂から形成することができる。以上のようにして、ケーブルを製造することができる。
次に、以下の工程では、ケーブルの端部を加工する工程が実施される。具体的には、まず、例えば、機械的手段を使用することにより、めっき層が露出するシールド層露出領域と、導体線が露出する導体線露出領域とを含む接続領域をケーブルの端部に形成する(S105)。その後、接続領域において露出するめっき層の表面と導体線の表面にフラックスを塗布する(S106)。そして、溶融半田内にフラックスを塗布しためっき層の表面と導体線の表面とを浸漬する(S107)。これにより、例えば、図3に示すように、ケーブル1の接続領域100において露出するシールド層12(めっき層)の表面と導体線10の表面にドットで示されている半田層30が形成される。ここで、予備半田技術では、所定の半田合金が使用され、かつ、溶融半田の温度およびケーブル1の浸漬時間を制御することにより、半田層30の膜厚が制御される。一方、ケーブル1の接続領域100において露出する絶縁層11の表面は、半田を弾くため、半田層30は形成されない。これにより、溶融半田内にフラックスを塗布しためっき層の表面と導体線10の表面とを浸漬しても、導体線10とシールド層12とがショートすることはない。以上のようにして、ケーブル1の端部から露出する導体線10の表面とシールド層12の表面とに半田層30を形成したケーブル1を製造することができる。
<改善の検討>
上述した予備半田技術は、ケーブル1をプリント基板やコネクタに半田接続する際に、半田接続工程での不具合の発生を低減できる点で有用である。一方、シールド層を絶縁層に固着させる技術は、導体線を伝搬する信号の伝送特性を向上できる点で有用である。特に、シールド層を絶縁層に固着させる技術は、例えば、シールド層をめっき層から形成する技術として具現化されるが、このシールド層をめっき層から形成する技術を採用すると、ケーブル1をプリント基板やコネクタに半田接続する技術的困難性が高くなることから、シールド層をめっき層から形成する技術を採用するにあたっては、予備半田技術は必要不可欠な技術である。すなわち、導体線を伝搬する信号の伝送特性を向上することと半田接続工程での不具合の発生を低減することとを両立する観点からは、シールド層をめっき層から形成する技術と予備半田技術とを組み合わせる必要がある。
この点に関し、本発明者が検討したところ、シールド層をめっき層から形成する技術と予備半田技術とを組み合わせると、ケーブル1の信頼性を向上する観点から改善の余地が顕在化することを本発明者は新たに見出したので、以下に、この点について説明する。
例えば、図5は、図3に示すケーブル1のシールド層露出領域102の一断面(ケーブル1の延在方向と直交する断面)で切断した断面図である。図5に示すように、ケーブル1のシールド層露出領域においては、導体線10の周囲を覆うように絶縁層11が形成され、かつ、この絶縁層11の周囲を覆うようにめっき層からなるシールド層12が形成されている。そして、このシールド層12の表面に半田層を形成するために、予備半田技術が使用される。予備半田技術では、例えば、図4に示すように、フラックスの塗布工程を実施した後、溶融半田に浸漬する工程が実施される。すなわち、予備半田技術が使用されると、図5に示すめっき層からなるシールド層12の表面は、溶融半田に浸漬される。この結果、シールド層12の表面は、約300℃という溶融半田の温度に曝される。さらには、シールド層12だけでなく、シールド層12で覆われている絶縁層11にも約300℃という高温が伝わる。このとき、絶縁層11は、例えば、ポリエチレン樹脂から構成されているため、約300℃という高温が絶縁層11に加わると、絶縁層11を構成するポリエチレンが体積膨張し、かつ、溶融状態となり、絶縁層11の体積が数%以上も増大する。
図6は、絶縁層11の体積が膨張する状態を誇張して模式的に示す図である。
図6に示すように、絶縁層11の体積が増大しても、シールド層12が絶縁層11に固着していると、絶縁層11の体積の増大に起因してシールド層12に加わる引張応力を緩和することができず、シールド層12は、ひび割れ等の損傷を受けてしまう。つまり、シールド層12が絶縁層11に固着していると、シールド層12は、絶縁層11の体積膨張に対する周方向の追従性(柔軟性)を持つことが困難となる結果、絶縁層11の体積膨張に起因するシールド層12の損傷が生じるのである。特に、シールド層12をめっき層から構成する場合、めっき層の膜厚は、約3μmと非常に薄いことから、絶縁層11の体積膨張に起因するシールド層12の損傷が生じやすくなる。このようなシールド層12の損傷現象は、シールド層12が絶縁層11に固着しているからこそ生じやすくなる現象であり、例えば、シールド層12を金属箔テープから構成する場合には顕在化しにくい現象である。
なぜなら、金属箔テープは、絶縁層11に固着されておらず、例えば、絶縁層11が体積膨張しても、金属箔テープは緩むことによって、絶縁層11の体積膨張を吸収することができるからである。さらには、金属箔テープの膜厚は、約10μmであり、約3μmのめっき層の膜厚に比べて厚いため、損傷に対する耐性が大きいと考えられるからである。
以上のことから、シールド層12を絶縁層11に固着させる技術と予備半田技術とを組み合わせると、絶縁層11の体積膨張に起因するシールド層12の損傷が改善の余地として顕在化することがわかる。そして、シールド層12が損傷を受けると、ケーブル1とプリント基板やコネクタとの機械的な接触が損なわれることなる。また、シールド層12が損傷すると、電気的にもケーブル1のシールド層12とプリント基板やコネクタとの間に断線や接続不良が発生するとともにケーブル1の伝送特性の低下も引き起こされることになる。したがって、導体線を伝搬する信号の伝送特性を向上することと半田接続工程での不具合の発生を低減することとを両立するためには、単に、シールド層12を絶縁層11に固着させる技術と予備半田技術とを組み合わせるだけでは不充分であり、さらなる工夫が必要とされる。
特に、シールド層12を絶縁層11に固着させる技術として、シールド層12をめっき層から形成する技術を採用すると、めっき層の膜厚が非常に薄くて絶縁層11の体積膨張に起因する損傷に対する耐性が弱まるという要因も加わって、シールド層12の損傷がさらに顕在化しやすくなる。つまり、シールド層12をめっき層から形成する技術では、シールド層12に金属箔テープを使用する場合よりも、シールド層12の膜厚を薄くできる結果、ケーブル1の細径化および軽量化を図ることができる点で有効である。一方で、シールド層12の膜厚を薄くできるということは、絶縁層11の体積膨張に起因する損傷に対する耐性が弱まるという要因を招くことにもなるのである。したがって、シールド層12を絶縁層11に固着させる技術として、シールド層12をめっき層から形成する技術を採用するには、さらに、ケーブル1の細径化および軽量化を図ることができる利点を維持しながら、導体線を伝搬する信号の伝送特性を向上することと半田接続工程での不具合の発生を低減することとを両立する工夫が必要とされる。すなわち、シールド層12を絶縁層11に固着させる技術として、シールド層12をめっき層から形成する技術を採用する場合には、シールド層12の膜厚を薄くしながらも、絶縁層11の体積膨張に起因するシールド層12の損傷を効果的に抑制するための工夫が必要とされる。
そこで、本実施の形態では、上述した改善の余地に対する工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明することにする。
<実施の形態におけるケーブルの構成>
図7は、本実施の形態におけるケーブル1の構成を示す図である。
図7において、本実施の形態におけるケーブル1の端部には、例えば、ケーブル1をプリント基板やコネクタに接続するための接続領域100が形成されている。この接続領域100は、導体線10が露出した導体線露出領域101と、シールド層12が露出したシールド層露出領域102から構成されている。導体線露出領域101において露出している導体線10の表面と、シールド層露出領域102において露出しているシールド層12の表面には、半田層30が形成されている。図7では、この半田層30が形成されている領域がドットを用いて描いた領域として図示されている。
ここで、シールド層露出領域102に形成されているシールド層12には、スリット20が形成されている。このスリット20は、例えば、ケーブル1の長手方向に延在する直線形状から構成されている。そして、このように構成されているスリット20は、絶縁層11の膨張に対して周方向の幅が増大する。すなわち、本実施の形態において、ケーブル1の端部に形成されているシース13から露出したシールド層12(シールド層露出領域102のシールド層12)には、絶縁層11の膨張に対して周方向の幅が増大するスリット20が形成されたスリット形成領域が含まれている。
例えば、図7に示すように、シールド層12のスリット形成領域には、複数のスリット20が絶縁層11の周方向に沿って等間隔に形成されている。具体的に、例えば、複数のスリット20は、絶縁層11の周方向に沿って、約0.5mm間隔で形成されている。そして、複数のスリット20のそれぞれは、ケーブル1の長手方向に延在している。このように構成されているスリット20の深さは、例えば、シールド層12の膜厚以上であり、スリット20の底部は絶縁層11にまで達している。つまり、本実施の形態におけるケーブル1では、スリット20によって、シールド層露出領域102に形成されているシールド層12は、複数の部位に分割されていることになる。ただし、シールド層12が複数の部位に分割されていても、めっき層から構成されているシールド層12自体は、絶縁層11に固着しているため、複数の部位のそれぞれも絶縁層11に固着している。したがって、スリット20によって分割された複数の部位のそれぞれは、絶縁層11から剥離することはない。さらに、本実施の形態では、スリット20の底部から絶縁層11から露出しているため、シールド層露出領域102に形成されているシールド層12は、絶縁層11の周囲を囲む構成とはなっていない。このため、シールド層12によるシールド効果が得られるか疑問となる。この点に関し、本実施の形態におけるケーブル1をプリント基板やコネクタに半田接続する際、シールド層露出領域102に形成されている複数の部位は、半田によって接続される。すなわち、スリット20によって分割されたシールド層12は、半田によって覆われている。このことから、本実施の形態におけるケーブル1をプリント基板やコネクタに半田接続した後においては、スリット20によって分割されたシールド層12は、半田によって絶縁層11の周囲を囲む構成が実現される。この結果、シールド層露出領域102に存在するシールド層12にスリット20を形成しても、シールド層12によるシールド効果を実現することができる。
<実施の形態における特徴>
続いて、本実施の形態における特徴点について説明する。
本実施の形態における特徴点は、例えば、図7に示すように、シールド層露出領域102に形成されているシールド層12にスリット20が形成されている点にある。特に、本実施の形態では、例えば、シールド層露出領域102において、シールド層12に形成されているスリット20は、ケーブル1の長手方向に延在する直線形状から構成され、かつ、スリット20の膜厚がシールド層12の膜厚以上である。言い換えれば、本実施の形態では、例えば、シールド層露出領域102において、シールド層12に形成されているスリット20は、ケーブル1の長手方向に延在する直線形状から構成され、かつ、スリット20の底部から絶縁層11が露出している。これにより、本実施の形態における特徴点によれば、シールド層露出領域102に形成されているシールド層12が複数の部位に分割される結果、絶縁層11の体積膨張に起因するシールド層12の損傷を抑制できる。この結果、本実施の形態における特徴点によれば、ケーブル1の信頼性を向上できる。
以下に、このメカニズムについて、図面を参照しながら説明する。
図8は、図7に示すケーブル1のシールド層露出領域102の一断面(ケーブル1の長手方向と直交する断面)で切断した断面図である。図8に示すように、ケーブル1のシールド層露出領域においては、導体線10の周囲を覆うように絶縁層11が形成され、かつ、この絶縁層11の表面にシールド層12が形成されている。図8において、このシールド層12は、スリット20によって複数の部位21に分割されている。ここで、図8において、スリット20の幅を「W1」とする。また、図8において、複数の部位21のそれぞれの周方向の長さを「L1」とする。すなわち、図8に示すように、シールド層12を構成する複数の部位21は、絶縁層11の周方向に「L1」の長さをそれぞれ有するとともに、スリット20の幅「W1」だけ離れて等間隔に形成されている。
この状態で、例えば、このシールド層12の表面に半田層を形成するために、予備半田技術が使用される。予備半田技術では、ケーブル1の接続領域(導体線露出領域とシールド層露出領域)が溶融半田に浸漬される。この結果、シールド層12の表面は、約300℃という溶融半田の温度に曝されるとともに、絶縁層11にも約300℃という高温が伝わる。このとき、絶縁層11は、例えば、ポリエチレン樹脂から構成されているため、約300℃という高温が絶縁層11に加わると、絶縁層11を構成するポリエチレンが体積膨張し、かつ、溶融状態となり、絶縁層11の体積が数%以上も増大する。
図9は、絶縁層11の体積が膨張する状態を誇張して模式的に示す図である。
図9に示すように、本実施の形態における特徴点によれば、スリット20によって、シールド層露出領域102に形成されているシールド層12が複数の部位21に分割されている。このことから、図9に示すように、絶縁層11の体積の増大に起因する絶縁層11の周方向の長さの増大は、スリット20の幅が「W1」から「W2」に増大する分と、シールド層12を構成する複数の部位21のそれぞれの周方向の幅が「L1」から「L2」に増大する分とに分散される。このことは、本実施の形態における特徴点を有する構成によれば、スリット20が形成されてなくて、絶縁層11の体積の増大に起因する絶縁層11の周方向の長さの増大がすべてシールド層12の周方向の幅の変化に費やされる構成よりも、シールド層12に加わる応力が小さくなることを意味する。すなわち、本実施の形態における特徴点を採用すると、スリット20によって複数の部位21に分割されたシールド層12自体には、絶縁層11の体積が増大しても、シールド層12を損傷させるような応力が加わらないことになる。このように、本実施の形態における特徴点によれば、シールド層露出領域102に形成されているシールド層12が複数の部位21に分割される結果、絶縁層11の体積膨張に起因するシールド層12の損傷を効果的に抑制できる。
特に、絶縁層11の体積膨張に起因するシールド層12の損傷を効果的に抑制する観点からは、シールド層露出領域102に形成されているシールド層12に対して、複数のスリット20を等間隔で形成することが望ましい。以下に、この理由を説明する。
まず、シールド層12にスリット20を形成しない場合、絶縁層11の体積の増大に起因する絶縁層11の周方向の長さの増大がすべてシールド層12の周方向の幅の変化に費やされる。この結果、例えば、シールド層12の周方向の幅の変化が生じると、絶縁層11の体積の増大に起因して、シールド層12が損傷を受けやすくなる。
次に、シールド層12に、周方向の幅が「W」である1つのスリット20を形成する場合においては、絶縁層11の体積の増大に起因する絶縁層11の周方向の長さの増大が生じると、絶縁層11の周方向の長さの増大は、スリット20の周方向の幅の変化と、シールド層12の周方向の幅の変化に分散される。したがって、スリット20を形成することによって、シールド層12の周方向の幅の変化は、スリット20を形成しない構成に比べて小さくなる。このことは、スリット20を形成することにより、絶縁層11の体積の増大に起因するシールド層12の周方向の幅の変化が小さくなることを意味する。したがって、スリット20を形成すると、シールド層12の損傷が抑制されることが理解される。
ここで、シールド層12の周方向の幅の変化を小さくするためには、シールド層12の周方向の長さ自体を小さくすればいい。この点に関し、シールド層12の周方向の長さ自体を小さくするためには、周方向の幅が「W」のスリット20を複数形成することが考えられるが、この場合、複数のスリット20による占有面積が大きくなる。したがって、シールド層12によるシールド効果を充分に発揮させる観点からは、必要以上にスリット20を形成することは望ましいとは言えない。さらに、複数のスリット20による占有面積が大きくなると、シールド層12に半田層を付けにくくなることから、この観点からも、必要以上にスリット20を形成することは望ましいとは言えない。
そこで、例えば、周方向の幅が「W/n」のスリット20をn個形成することを考えると、n個のスリット20を合わせた周方向の幅は、「W/n×n=W」であり、周方向の幅が「W」のスリット20を1つ形成した場合とスリット20の占有面積は変化しない。したがって、周方向の幅が「W/n」のスリット20をn個形成する構成を採用しても、周方向の幅が「W」のスリット20を1個形成する構成とほぼ同等のシールド効果が得られる。
一方、例えば、シールド層12の周方向の長さを「L」とすると、n個のスリット20によって、シールド層12は、n個の部位21に分割されることになる。ここで、シールド層12は、n個のスリット20によって、n個の部位21に等分割することが望ましい。なぜなら、n個の部位21に等分割することにより、n個の部位21のそれぞれにおける周方向の幅の変化を同等にすることができるからである。そして、n個のスリット20によって、シールド層12をn個の部位21に等分割すると、n個の部位21のそれぞれの周方向の長さは、「L/n」となる。この場合、例えば、絶縁層11の体積の増大に起因する絶縁層11の周方向の長さの増大が生じるとすると、n個の部位21のそれぞれの周方向の幅の変化は、シールド層12全体の周方向の幅の変化の1/nとなる。したがって、シールド層12を等分割する個数(n個)を大きくすれば、n個の部位21のそれぞれの周方向の幅の変化を小さくできることがわかる。例えば、絶縁層11の周方向において、0.5mm以下の間隔でスリット20を形成することが望ましい。
以上のことから、シールド層12におけるシールド効果を維持しながら、絶縁層11の体積膨張に起因するシールド層12の損傷を効果的に抑制するためには、シールド層露出領域102に形成されているシールド層12に対して、複数のスリット20を等間隔で形成することが望ましいことがわかる。ただし、シールド層12を等分割する個数(n個)を大きくしすぎると、n個の部位21のそれぞれの大きさが小さくなるとともに、n個のスリット20のそれぞれの周方向の幅も小さくなって製造することが困難となる。したがって、製造容易性も考慮して、シールド層露出領域102に形成されているシールド層12に対して、複数のスリット20を等間隔で形成することが望ましい。
本実施の形態では、例えば、図7に示すように、シールド層露出領域102に形成されているシールド層12にスリット20が形成されている一方、ケーブル1のシールド層露出領域102以外のその他の領域に形成されているシールド層12には、スリット20が形成されていない。
以下に、この理由について説明する。
例えば、シールド層露出領域102は、ケーブル1をプリント基板やコネクタに半田接続する際に使用される領域である。そして、予備半田技術を使用することにより、予めシールド層露出領域102に形成されているシールド層12の表面には、半田層30が形成される。このとき、ケーブル1のシールド層露出領域102は、溶融半田に浸漬されるため、シールド層12に被覆されている絶縁層11の体積膨張が生じる。そして、絶縁層11の体積膨張によってシールド層12が損傷を受けないように、シールド層12にスリット20が形成されている。したがって、シールド層露出領域102に形成されているシールド層12には、スリット20を形成する必要がある。
一方、ケーブル1のシールド層露出領域102以外のその他の領域に形成されているシールド層12は、ケーブル1をプリント基板やコネクタに半田接続する際に使用される領域ではなく、予備半田技術によって、シールド層12の表面に半田層30が形成されることもない。つまり、ケーブル1のシールド層露出領域102以外のその他の領域に形成されているシールド層12は、溶融半田に浸漬されることがないため、絶縁層11の体積膨張に起因するシールド層12の損傷が顕在化しない。このことから、ケーブル1のシールド層露出領域102以外のその他の領域に形成されているシールド層12には、スリット20を形成する必要がないのである。言い換えれば、シース13で被覆されているシールド層12は、溶融半田に浸漬されることはないため、スリット20を形成する必要がないのである。逆に、シース13で覆われているシールド層12にまでスリット20を形成すると、シールド層12によるシールド効果が低下し、ケーブル1の伝送特性が低下してしまう。
以上のことから、本実施の形態では、絶縁層11の体積膨張に起因するシールド層12の損傷が顕在化する必要最小限の領域(シールド層露出領域102)に形成されているシールド層12にだけスリット20を形成している。ここで、シールド層露出領域102では、シールド層12にスリット20が形成されているため、シールド層12によるシールド効果が低下することが懸念される。この点に関し、シールド層露出領域102は、プリント基板やコネクタと半田接続される領域であり、半田接続によって、シールド層露出領域102に形成されているスリット20には、実装半田が埋め込まれる。したがって、半田接続によるスリット20への実装半田の埋め込みによって、シールド層12のシールド効果を確保することができる。したがって、シールド層露出領域102にスリット20を形成しても、シールド層12によるシールド効果を発揮することができる。
<スリットの形成方法>
次に、スリットの形成方法の一例について説明する。
本実施の形態におけるケーブルの製造工程には、ケーブルのシースから露出したシールド層のスリット形成領域に、絶縁層の膨張に対して周方向の幅が増大するスリットを形成する工程が含まれている。このスリットを形成する工程は、例えば、めっき法を使用してシールド層を形成する工程と、シールド層を覆うシースを形成する工程と、シールド層露出領域におけるシールド層の外周に形成されているシースを機械的に除去する工程とを有するケーブルの製造工程において、シースを機械的に除去する工程に組み込むことができる。
すなわち、本実施の形態では、シールド層露出領域に形成されているシースを機械的に除去する工程において、スリット形成領域にスリットを形成する。例えば、シースを機械的に除去する治具に対して、機械的にシールド層にスリットを形成する機能を付加する。そして、この治具を使用して、シールド層露出領域に形成されているシースを機械的に除去しながら、露出されるシールド層にスリットを形成する。このようにして、本実施の形態におけるスリットをシールド層露出領域に形成されているシールド層に形成できる。
なお、シールド層を露出させた後に、シールド層のスリット形成領域にスリットを形成してもよい。
続いて、スリットの形成方法の別の例について説明する。
スリットの形成方法の別の例においては、例えば、めっき法を使用してシールド層を形成する工程にスリットを形成する工程を組み込んでいる。
図10は、シールド層にスリットを形成する工程の流れを示すフローチャートである。
図10において、まず、絶縁層上に触媒活性元素を付着させる(S201)。触媒活性元素としては、例えば、パラジウムを挙げることができる。
次に、絶縁層上に付着した触媒活性元素の付着量を調整する(S202)。具体的には、スリット形成領域に対応する絶縁層の第1付着領域に付着させる触媒活性元素の第1付着量を、絶縁層のその他の領域に付着させる触媒活性元素の第2付着量よりも少なくする。このとき、第1付着量を第2付着量よりも少なくする手段としては、例えば、狭小ノズルを使用したドライアイスブラスト法、サンドブラスト法、ウェットブラスト法などを用いることができる。また、絶縁層を損傷させないニードルなどを触媒活性元素が付着した絶縁層の表面で摺動させることにより、第1付着量を第2付着量よりも少なくすることもできる。さらには、第1付着量を第2付着量よりも少なくする手段としては、例えば、レーザ照射法やコロナ放電暴露法などを使用することもできる。
続いて、無電解めっき法を使用することにより、触媒活性元素が付着した絶縁層の表面にめっき層を形成する(S203)。このめっき層は、シールド層となる。ここで、本実施の形態では、スリット形成領域に対応する絶縁層の第1付着領域に付着させる触媒活性元素の第1付着量を、絶縁層のその他の領域に付着させる触媒活性元素の第2付着量よりも少なくする工程が実施されているため、スリット形成領域にスリットを形成することができる。すなわち、スリット形成領域に対応する絶縁層の第1付着領域においては、触媒活性元素であるパラジウムの第1付着量が少ないことから、第1付着領域におけるめっき層の成長が抑制される。この結果、絶縁層の第1付着領域には、めっき層が形成されにくくなる一方、絶縁層のその他の領域には、めっき層が形成される。この結果、絶縁層の表面上には、スリットを有するめっき層が形成されることになる。このようにして、本実施の形態によれば、絶縁層上にめっき層からなるシールド層を形成しながら、シールド層にスリットを形成することができる。
図11は、単位面積当たりのパラジウム付着量とめっき被覆率との関係を示すグラフである。図11において、横軸は、単位面積当たりのパラジウム付着量(μg/cm2)を示しており、縦軸は、めっき被覆率(%)を示している。また、図11において、実線は、めっき被覆率が0%に至る単位面積当たりのパラジウム付着量(μg/cm2)の変化の一例を示す曲線(2次曲線近似)であり、実線においては、めっき被覆率が0%になるパラジウム付着量は、0.17(μg/cm2)である。一方、点線は、実線に対する直線近似を示す直線であり、この直線においては、めっき被覆率が0%になるパラジウム付着量は、0.233(μg/cm2)である。
図11に示すように、単位面積当たりのパラジウム付着量を低減すると、めっき被覆率(%)が低くなることがわかる。したがって、めっき層にスリットを形成する場合、スリットを形成するスリット形成領域におけるパラジウム付着量を低減すれば、このスリット形成領域には、めっき層が形成されにくくなることがわかる。特に、めっき層にスリットを形成する場合、スリット形成領域におけるパラジウム付着量を0.233μg/cm2以下に調整することにより、めっき層にスリットを形成しやすくなることがわかる。さらに言えば、めっき層にスリットを形成する場合、スリット形成領域におけるパラジウム付着量を0.17μg/cm2以下に調整することが望ましい。
<変形例1>
図12は、実施の形態の変形例1におけるケーブル1aのシールド層露出領域の一断面(ケーブル1の長手方向と直交する断面)で切断した断面図である。
図12において、変形例1におけるケーブル1aにおいても、シールド層露出領域に形成されているシールド層12にスリット20aが形成されている。ただし、本変形例1において、スリット20aの底面は、シールド層12の下層に位置する絶縁層11にまでは達していない。この結果、図12に示すように、本変形例1において、シールド層12に形成されたスリット20aは、シールド層12の膜厚が薄い薄膜部22を構成することになる。すなわち、本変形例1において、シールド層12は、スリット20aが形成されることによって膜厚が薄くなる薄膜部22と、スリット20aが形成されていないために薄膜部よりも膜厚が厚くなる厚膜部23とを有することになる。
ここで、めっき層の膜厚を薄くすると延性が大きくなることから、例えば、本変形例1のようにスリット20aを構成する場合も、薄膜部22におけるめっき層の伸縮性が増大することにより、絶縁層11の体積膨張に起因するシールド層12の損傷を抑制できる。
<変形例2>
図13は、実施の形態の変形例2におけるケーブル1bの構成を示す図である。
図13に示すように、本変形例2におけるケーブル1bでも、シールド層露出領域102に形成されているシールド層12にスリット20bが形成されている。このとき、本変形例2におけるスリット20bは、ケーブル1の延在方向(長手方向)に進行する螺旋形状を有するように構成されている。このように構成されているスリット20bによっても、絶縁層11の膨張に対して周方向の幅が増大することから、絶縁層11の体積膨張に起因するシールド層12の損傷を抑制できる。
<変形例3>
図14は、実施の形態の変形例3におけるケーブル1cの構成を示す図である。
図14に示すように、本変形例3におけるケーブル1cでも、シールド層露出領域102に形成されているシールド層12にスリット20cが形成されている。このとき、本変形例3におけるスリット20cは、ケーブル1の延在方向(長手方向)に進行するメッシュ形状を有するように構成されている。このように構成されているスリット20cによっても、絶縁層11の膨張に対して周方向の幅が増大することから、絶縁層11の体積膨張に起因するシールド層12の損傷を抑制できる。
<変形例4>
実施の形態では、実施の形態における技術的思想を同軸ケーブルであるケーブル1に適用する例について説明したが、実施の形態における技術的思想は、これに限らず、例えば、差動信号伝送用ケーブルにも幅広く適用することができる。
図15は、本変形例4における差動信号伝送用ケーブル2の構成を示す図である。
図15において、本変形例4におけるケーブル2は、導体線10aおよび導体線10bを有しており、この一対の導体線(導体線10aと導体線10b)に差動信号が伝送する。
図15に示すように、本変形例4におけるケーブル2でも、シールド層露出領域102に形成されているシールド層12にスリット20dが形成されている。したがって、本変形例4においても、絶縁層11の膨張に対してスリット20dの周方向の幅が増大することから、絶縁層11の体積膨張に起因するシールド層12の損傷を抑制できる。
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。