JP7201519B2 - 貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法 - Google Patents
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非常に保存性の良い生物体の部分として貝殻は、種々の機能を有しており、太古の昔から、貨幣、装身具、容器、玩具、生薬などに活用されてきていることは、遺跡の中から産出する様々な遺品などによって証明される有用な素材であることに相違ないものの、青森県における帆立貝養殖産業は、青森県や青森県ほたて流通振興協会、漁業者など、官民一体の施策により、陸奥湾における養殖、加工産業が安定生産体制になり、平成27年には168億5,763万円と、漁獲高では北海道に次ぎ全国第2位、特に養殖物帆立貝では第1位であり、その結果、大量の貝殻が発生、堆積し続けていてその処分が追いつかない状態にあって、それら堆積する貝殻の有効活用が喫緊の課題になり続けて久しいものの、未だ決定的な手法が見出されないままにあって、これまでにも、古来から知られるとおりの種々の機能を有する帆立貝の貝殻は、融雪剤、土壌改良剤、肥料、舗装材、壁材、塗料、消臭剤、抗菌剤、食品添加物、塗料、人工漁礁または採苗コレクタ等といった各方面での有効活用がなされてきているにも拘わらず、さらなる活用法が待望視されている実情に変わりがなく、貝殻の新たな面での展開が求められている。
こうした状況を反映し、その打開策となるような提案もこれまでに散見されない訳ではない。
例えば、下記に列挙する特許文献1(1)、(2)に提案されているものなどが散見される。
その中の特許文献1(1)の文献「貝殻から球場の炭酸カルシウムを製造する方法」で開示する技術は、貝殻を強酸で溶解し、これに炭酸アンモニウムを添加するようにした、言わば「無機化学反応」を利用して比較的容易に球状の人工貝殻を作出するようにするものであり、また、特許文献1(2)「異方的炭酸カルシウムの結晶」に記載のように、炭酸カルシウム結晶を製造する方法などが知られている。
これまでに提案され、実用化されてきている貝殻、特にホタテ貝殻は、ホタテ貝養殖産業の一大産地である青森県において大量廃棄物として長い間に亘って問題視され続けてきており、例えば、御当地での有効利用として凍結防止剤への応用なども実施されてきてはいたものの、ホタテ貝殻から凍結防止剤を製造するには、洗浄、粉砕、焼成などの経費のかさむ工程を経なければならず、一般的な塩化カルシウムや塩化ナトリウムなどの凍結防止剤に比較して価格差で約8倍にも達してしまうことなどから普及には至らず終いであり、ホタテ貝殻の御当地に適った、より低コストの活用手段が求め続けられてきている現状にあり、長らく青森県に在住するものとして、その問題に大いに関心を抱いてきた。
しかしながら、これまでに提案されている、例えば上記したような従来技術では、炭酸カルシウム結晶を貝殻が有する天然の結晶に十分に近づけることができないため、それら製造方法による、これまでに知られた炭酸カルシウム結晶を用いた材料では、天然の貝殻を用いた素材固有の機能、特に脱臭効果や抗菌効果を積極的に引き出すまでには至っていない。
この発明では、天然の貝殻の結晶に、より近い炭酸カルシウム結晶の製造を実現化できる、貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法、および、その製造過程で得られる中間生成物を提供することを目的とし、その固有の機能である脱臭効果や抗菌効果の有効活用を図るようにし、地方の主要産業である農業への活用を果たすことができるようにして、大量廃棄物である貝殻、特に青森にあってはホタテ貝殻の有効利用を促進しようとするものである。
即ち、カルボキシル基(-COOH)をもつ有機酸溶液に貝殻を浸漬し、飽和溶解液および該貝殻の有機基質を抽出する抽出工程と、前記抽出工程で抽出された当該有機基質に炭酸イオンおよびカルシウムイオンを含む水溶液を添加する添加工程と、前記添加工程で水溶液の添加された有機基質を加熱処理し、該水溶液を蒸発させる蒸発工程とが含まれている構成を要旨とする貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法となる。
第1実施形態の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法は、抽出工程と、添加工程と、蒸発工程とを含む。
抽出工程は、貝殻を、カルボキシル基をもつ有機酸溶液に浸漬することにより当該貝殻の有機基質を抽出する工程である。この例では、貝殻は、帆立貝の貝殻である。なお、貝殻は、帆立貝と異なる貝(例えば、牡蠣、又は、アコヤ貝等)の貝殻であってもよい。そして、抽出工程を経て得られた飽和溶解液または有機基質の少なくとも何れか一方が、この発明の中間生成物となる。
なお、水溶液は、人工海水と異なる水溶液(例えば、天然海水等)であってもよい。
このようにして、貝殻由来の炭酸カルシウム結晶が製造される。
貝は、海水を用いて貝殻を形成する。したがって、上記製造方法によれば、貝が貝殻を形成する方法に、貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法を近づけることができる。これにより、貝殻由来の炭酸カルシウム結晶を貝殻が有する結晶に、より一層近づけることができる。
これによれば、有機基質を高い純度にて抽出できる。これにより、貝殻由来の炭酸カルシウム結晶を貝殻が有する結晶に、より一層近づけることができる。
第2実施形態の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法は、添加工程が、第1実施形態の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法と相違する。
第2実施形態の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法における添加工程は、抽出工程にて抽出された有機基質に界面活性剤を添加する工程と、当該界面活性剤が添加された有機基質を擂り潰す工程と、当該擂り潰された有機基質に、炭酸イオンおよびカルシウムイオンを含む水溶液を添加する工程とを含む。
この例では、界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤である。この例では、界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウム(Sodium Dodecyl Sulfate;SDS)である。なお、界面活性剤は、該SDS以外の界面活性剤であってもよい。
次いで、貝殻を、破砕することなく容器(この例では、容量が9Lである容器)に投入し、次ぎに、カルボキシル基をもつ有機酸溶液を用意した。この例では、カルボキシル基をもつ有機酸溶液は、工業用酢酸(この例では、純度が99%である酢酸)を水道水で希釈することにより、モル濃度が1mol/Lとなるように調整されたものである。
この例では、貝殻を、カルボキシル基をもつ有機酸溶液に浸漬させてから1週間が経過する毎に、容器内のカルボキシル基をもつ有機酸溶液(飽和溶解液)を、新しい前記と同量(この例では、容器の実容積(8L)と貝殻の重量(2Kg)の溶解容積比(R=2kg/8L=0.25kg/Lの条件で)のカルボキシル基をもつ新たな有機酸溶液に入れ替えた。
有機基質は、キチンと、タンパク質と、色素とを含む複合体であると推定される。有機基質の乾物重(換言すると、乾燥重量)は、原料である貝殻の乾物重に対して0.5%ないし1%であった。
そして、0.5mol/Lの塩化ナトリウム(NaCl)と、0.011mol/Lの塩化カリウム(KCl)とが溶解した人工海水に、最終濃度が0.01mol/Lの塩化カルシウム(CaCl2)と、0.008mol/Lの炭酸水素ナトリウム(NaHCO3))となるように調整した炭酸カルシウム結晶化溶液を加え、板ガラスに載置された有機基質に添加した。
このようにして、貝殻由来の炭酸カルシウム結晶が製造された。
製造された貝殻由来の炭酸カルシウム結晶は、方解石の結晶構造を示し、帆立貝の貝殻の主要部分を占める方解石層に類似することが判った。
実施例2の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法において、有機基質を取得するまでの工程は、実施例1と同様である。
その後、陰イオン性界面活性剤が添加された有機基質をすり鉢にて擂り潰すことにより、ゼリー状の有機基質を取得した。
そして、取得されたゼリー状の有機基質を板ガラスに塗布してから、0.5mol/Lの塩化ナトリウム(NaCl)と、0.011mol/Lの塩化カリウム(KCl)とが溶解した人工海水をに、最終濃度が0.01mol/Lの塩化カルシウム(CaCl2)と、0.008mol/Lの炭酸水素ナトリウム(NaHCO3))となるように調整した炭酸カルシウム結晶化溶液を加え、板ガラスに塗布された有機基質に添加した。
さらに、有機基質に添加された人工海水を過飽和状態にするため、板ガラスを25℃ないし30℃の温度にて加熱することにより、人工海水を蒸発させて、貝殻由来の炭酸カルシウム結晶が製造された。
製造された貝殻由来の炭酸カルシウム結晶は、方解石の結晶構造を示し、帆立貝の貝殻の主要部分を占める方解石層に類似することが判った。
この発明の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法における抽出工程にて取得された有機基質について説明を加える。
有機基質は、昆虫類の外骨格又はカニ殻の構造(例えば、非特許文献1(1)を参照)を参考にすると、キチン、タンパク質、および色素の複合体であると推定される。
図3に表されるように、5%以上の組成比を有するアミノ酸は、約27%のアスパラギン酸(「Asp」と略記)と、約18%のセリン(「Ser」と略記)と、約16%のグリシン(「Gly」と略記)と、約9%のホスホセリン(「P-Ser」と略記)と、約9%のリシン(「Lyc」と略記)と、約5%のグルタミン酸(「Gly」と略記)と、である。5%以上の組成比を有するアミノ酸群の組成比の総和は、約84%である。
当該タンパク質は、43個のアミノ酸からなり、記号列「LDTDKDLEFHLDSLLNAAEDGGGGDAAGAEEAAPAADLSGGSK」により表される。アミノ酸毎の、記号列における記号および個数は、表1のように表される。
当該タンパク質は、7個のアスパラギン酸と、4個のグルタミン酸と、3個のセリンとを含む。これらの14個のアミノ酸は、43個のアミノ酸の約1/3の数である。
したがって、当該タンパク質は、「生物鉱化」と呼ばれる現象に寄与するタンパク質であることが推定される。
この発明の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法における抽出工程にて取得された飽和溶解液について説明を加える。
先ず、抽出工程にて取得された飽和溶解液の成分を調べた。飽和溶解液の成分は、図4のように表される。
図4においては、飽和溶解液の成分に加えて、比較対象として、帆立貝の貝殻を、粒径が数mmとなるように破砕した粒状体の成分と、帆立貝の貝殻を、粒径が0.1mm以下となるように破砕し、1000℃にて焼成することによって粉末化した焼成粉末の成分とも表される。
また、この飽和溶解液が、メチルメルカプタンおよび硫化水素に対して脱臭効果を示さなかった理由は、メチルメルカプタンが難溶解性のガスであるため、硫化水素がカルシウムイオンと配位結合しないためと夫々推定される。
腸炎ビブリオは、魚介類において増殖することがある。腸管出血性大腸菌 O157は、肉類において増殖することがある。リステリア属菌は、低温(例えば、4℃)にて、食肉、乳製品、および、野菜において増殖することがある。芽胞菌は、高温(例えば、100℃)に対する耐性を有する。
芽胞菌は、苛酷な条件において高い耐久性を有する細胞膜を形成することが知られている。このため、飽和溶解液の芽胞菌に対する抗菌効果は、他の細菌に比較して低下したと推定される。
実施例1および実施例2において、カルボキシル基をもつ有機酸溶液は、工業用酢酸を用いて生成された。
ところで、例えば、食品残渣から抽出された有機酸を用いてカルボキシル基をもつ有機酸溶液を生成することは、資源循環の観点から望ましいと言える。また、カルボキシル基をもつ有機酸溶液を生成するコストを抑制することも期待される。
表7に表されるように、100gの酒粕には、0.03gのクエン酸と、0.03gのリンゴ酸と、0.02gの酢酸と、0.03gのコハク酸とが含まれていた。酒粕には、多種類の有機酸が含まれることが分かった。
例えば、上述した実施形態に、この発明の趣旨を逸脱しない範囲内において当業者が理解し得る様々な変更が加えられて良く、また、この発明の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法を用いて製造された貝殻由来の炭酸カルシウム結晶は、人工貝殻の製造等の工業において用いられても良いし、接骨等の医療において用いられても良い。
叙述の如く、この発明の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法は、その新規な構成によって所期の目的を遍く達成可能とするものであり、しかも製造作業も容易で、従前までの貝殻由来の炭酸カルシウム製造の技術に比較して大型の粉砕機や焼成炉などを一切必要としないから、大幅にその生産性を高め、天然の貝殻由来の炭酸カルシウムと、同等の科学的物性を有する炭酸カルシウム結晶をより効率的に生産し、低廉化して遥かに経済的に提供できることとなり、ホタテ貝の生産地など、産業廃棄物となって大量に野積みされた貝殻を経済的に処理する方法を模索する漁協や地方公共団体はもとより、同様の問題を抱える食品加工業界や養殖業界においても高く評価され、様々な技術分野において広範に渡って利用、普及していくものになると予想される。
Claims (10)
- カルボキシル基をもつ有機酸溶液に貝殻を浸漬し、飽和溶解液および該貝殻の有機基質を抽出する抽出工程と、前記抽出工程で抽出された当該有機基質に炭酸イオンおよびカルシウムイオンを含む水溶液を添加する添加工程と、前記添加工程で水溶液の添加された有機基質の該水溶液を蒸発させる蒸発工程とが含まれていることを特徴とする貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法。
- 1M濃度(1モル/L)としたカルボキシル基をもつ有機酸溶液の所定容量に対して貝殻の所定重量を浸漬して飽和溶解液および該貝殻の有機基質を抽出する抽出工程と、前記抽出工程で抽出された当該有機基質に、炭酸イオンおよびカルシウムイオンを含む水溶液を添加する添加工程と、前記添加工程で水溶液の添加された有機基質を加熱処理し、該水溶液を蒸発させる蒸発工程とが含まれていることを特徴とする貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法。
- 1M濃度(1モル/L)としたカルボキシル基をもつ有機酸溶液の所定容量に対して貝殻の所定重量を浸漬し、中和反応が飽和するのを炭酸ガスの気泡発生がなくなることにより判断し、中和反応が飽和したと判断した後に飽和溶解液および有機基質と1回目の抽出を終えた貝殻とを分離し、1M濃度(1モル/L)としたカルボキシル基をもつ新たな有機酸溶液の所定容量に対して該1回目の抽出を終えた貝殻の所定重量を浸漬し、中和反応が飽和するのを炭酸ガスの気泡発生がなくなることにより判断し、中和反応が飽和したと判断した後に飽和溶解液および有機基質と2回目の抽出を終えた貝殻とを分離するという工程を複数回に渡って繰り返し、1M濃度(1モル/L)としたカルボキシル基をもつ新たな有機酸溶液と貝殻との中和反応が、弱まったか、または、無くなったかの何れか一方と判断するまで複数回に渡って貝殻の有機基質を抽出する抽出工程と、前記抽出工程で複数回に渡って抽出された当該有機基質に、炭酸イオンおよびカルシウムイオンを含む水溶液を添加する添加工程と、前記添加工程で水溶液の添加された有機基質を加熱処理し、該水溶液を蒸発させる蒸発工程とが含まれていることを特徴とする貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法。
- 抽出工程は、抽出対象となる貝殻に対し、所定濃度のカルボキシル基をもつ有機酸溶液を、炭酸ガスの発生が収まる毎に入れ替え、それら貝殻が完全に溶解するまで繰り返されるようにした、請求項1または2何れか一記載の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法。
- 抽出工程は、カルボキシル基をもつ有機酸溶液の容量と貝殻の重量との割合が、溶解容積比(溶解槽の実容積と貝殻の重量との比率)で0.25kg/Lとなるようにした、請求項1ないし4何れか一記載の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法。
- 抽出工程は、全て常温下で行い、カルボキシル基をもつ有機酸溶液の所定容量に対して貝殻の所定重量を浸漬し、中和反応が飽和するのを炭酸ガスの気泡発生がなくなることにより判断し、中和反応が飽和したと判断した後に飽和溶解液および有機基質と貝殻とを分離する工程を1週間単位で4回繰り返し、合計1箇月間に渡って貝殻の有機基質を抽出するようにした、請求項5を選択した請求項3記載の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法。
- 抽出工程にて、カルボキシル基をもつ有機酸溶液が、果実の搾り滓から生成されたカルボキシル基をもつ有機酸溶液、または、酒粕から生成されたカルボキシル基をもつ有機酸溶液の少なくとも何れか一方とされた、請求項1ないし6何れか一記載の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法。
- 抽出工程は、カルボキシル基をもつ有機酸溶液に浸漬され、表面の被膜が軟化した貝殻の表面にブラシを掛け、同貝殻の表面の被膜を除去する工程を含むものとした、請求項1ないし7何れか一記載の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法。
- 添加工程が、当該有機基質に界面活性剤を添加する工程と、前記工程で界面活性剤が添加された有機基質を擂り潰す工程と、前記工程で擂り潰された有機基質に炭酸イオンおよびカルシウムイオンを含む水溶液を添加する工程とを含むものとした、請求項1ないし7何れか一記載の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法。
- 添加工程にて、炭酸イオンおよびカルシウムイオンを含む水溶液は、人工海水によるものとした、請求項1ないし8何れか一記載の貝殻由来の炭酸カルシウム結晶の製造方法。
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