JP7194321B2 - トンネル発破音の低減方法及び低減装置 - Google Patents

トンネル発破音の低減方法及び低減装置 Download PDF

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特許法第30条第2項適用 日本音響学会2017年秋季研究発表会 論文集に掲載(発行日:平成29年9月11日 第901~902頁、一般社団法人日本音響学会)
本発明は、トンネル発破音の低減方法に関し、詳しくは、トンネル坑内で発破掘削を行う工事において、この発破音が外部に漏れ出すことを防止ないし抑制するための方法に関する。
トンネルの掘削工事では、硬い岩盤等を破壊するために発破が用いられる。この発破によって大きな発破音が生じるため、この発破音が外部に漏れ出すことを防止ないし軽減するため、種々の措置が採られている。
例えば、トンネル坑口付近に防音扉を設置し、発破音が漏れ出すことを防止ないし低減する技術が知られている。
特許文献1(特開平11-336467)には、「トンネルの坑口に、トンネル横断面の大部分を占める開閉扉体とこの開閉扉体よりも若干小さい開口を有する門型の反力壁体を設け、前記開閉扉体はトンネル軸方向に起倒可能に下部をトンネル底面に枢着し、起立状態で前記反力壁体に支持させ、転倒状態で地面に敷設してなる簡易式トンネル防音扉」が開示されている。
この技術によれば、比較的簡単で安価な構成により、高い遮音効果が得られると共に、比較的広い開口部が得られて、坑内作業への支障を少なくすることができる。
しかし、特許文献1に記載の技術では、防音効果が十分でないばかりか、発破の際に防音扉を閉じなければならず、その間の車両通行や作業員の出入りができないなど、作業効率が低下するという問題があった。
一方で、作業効率を低下させずに、発破音を効率よく低減させる技術も提案されている。
特許文献2(特開2012-177221)には、「トンネルの坑口と切羽との間に設置され、前記切羽側で発生する騒音を消音するトンネルサイレンサであって、トンネル坑内にトンネル軸方向と略平行に設置され、トンネル軸方向に向けて通路を画成する周面に多数の貫通孔を有するダクトと、前記ダクトの両端開口の周囲にそれぞれトンネル軸方向と略直角に設置され、前記ダクトの外側のトンネル内空断面を閉鎖する2つの隔壁と、を備え、前記ダクト及び前記各隔壁によるトンネル坑内の断面変化により、前記切羽側で発生する騒音を消音し、前記ダクトにより形成される前記通路の周面の多数の貫通孔と、前記多数の貫通孔の背後に前記ダクト、前記各隔壁、及び前記ダクト周囲のトンネル内壁とにより包囲される閉鎖空洞部との作用により、前記切羽側で発生する騒音を共鳴吸音する」という技術が開示されている。
この技術は、いわゆる共鳴器を利用した発破音の低減手段である。
この技術によれば、発破時にも開口を閉じる必要がないので、トンネルの掘削工事の作業効率を低下させることなく、発破音などの騒音を効率よく低減することができる。
しかし、特許文献2に記載の技術では、共鳴器型の消音原理から、特定の周波数に対する消音効果は高いといえるが、その他の周波数での効果が十分でない、即ち消音効果のある帯域が狭いという問題があった。更に、共鳴器型を採用していることから、管路に貫通孔等を設けて空洞部と接続する、枝管を設けるなどの必要があり、構造が複雑になるという問題があった。
また、特許文献1及び2に記載された技術は、発破音を低減させる目的のためだけに防音扉又はトンネルサイレンサを用意し、これを坑口又は坑内に設置する必要があるという問題があった。工事の途中で、これらの防音扉又はトンネルサイレンサを別の場所に移す必要が生じた際には、その移動作業も重労働で長時間を要するという問題もあった。
特開平11-336467 特開2012-177221
そこで、本発明の課題は、トンネル坑内で発生した発破音を低減させる方法であって、発破音の低減効果を広帯域化することができると共に、発破作業中であっても坑内での作業効率を低下させることがなく、かつ、これらの効果をトンネル工事で使用される既存設備を利用して得ることができる、というトンネル発破音の低減方法を提供することにある。
上記本発明の課題は、下記の手段により達成される。
1.トンネルの坑口又は坑内に少なくとも2つの隔壁が対向して設けられることによって拡張室が形成され、
前記隔壁に設けられた開口に、管路が設置され、
前記管路の幅及び高さが、少なくとも車両が通行可能な寸法に設定されると共に、
前記隔壁が、トンネル坑内を移動可能な工作物に設置された構成であることを特徴とするトンネル発破音の低減方法。
2.隔壁の端部に全周にわたって設けられ、隔壁の面方向に対して垂直の方向に延伸された板体である延伸板が設けられたことを特徴とする請求項1に記載のトンネル発破音の低減方法。
3.延伸板が、他の隔壁が設置された方向に延伸するように設けられたことを特徴とする請求項2に記載のトンネル発破音の低減方法。
4.相対向する2つの隔壁の両方に、延伸板が設けられ、
一方の隔壁に設けられた延伸板は、他方の隔壁が設置された方向に延伸するように設けられ、
他方の隔壁に設けられた延伸板は、一方の隔壁が設置された方向に延伸するように設けられた構成であることを特徴とする請求項2又は3に記載のトンネル発破音の低減方法。
5.隔壁、管路又は延伸板を形成する板材が、ハニカム構造を有する芯材と、この芯材を挟み込む上板と下板の2枚の薄板から構成されたハニカム・サンドイッチ構造であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のトンネル発破音の低減方法。
6.芯材のハニカム構造を構成するハニカム壁に壁透孔が設けられ、
前記壁透孔は、隣接するハニカム個室を連通させるように複数設けられ、
前記壁透孔が設けられたハニカム個室の薄板には薄板透孔が設けられ、
これらの壁透孔と薄板透孔によって連通された空間にハニカム管路が形成されたことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のトンネル発破音の低減方法。
7.壁透孔が、ハニカム壁の上部と下部の交互に配設されたことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のトンネル発破音の低減方法。
8.薄板透孔が、薄板の上板と下板の各1箇所に配設され、拡張室型のハニカム管路が形成されたことを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のトンネル発破音の低減方法。
9.薄板透孔が、薄板の上板又は下板のいずれか一方に1箇所のみ配設され、共鳴管・閉管型のハニカム管路が形成されたことを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のトンネル発破音の低減方法。
10.薄板透孔が、薄板の上板又は下板のいずれか一方に2箇所配設され、共鳴管・開管型のハニカム管路が形成されたことを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のトンネル発破音の低減方法。
11.請求項9又は10に記載の板材が積層され、2層構造を有する1枚の板材が形成された構成であって、薄板透孔が配設されていない面同士が固着されることによって積層された構成であることを特徴とするトンネル発破音の低減方法。
12.管路が、拡張室の切羽側の外側に設置される入口管又は拡張室の坑口側の外側に設置される出口管であることを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載のトンネル発破音の低減方法。
13.管路が、拡張室の内側に設置される挿入管であることを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載のトンネル発破音の低減方法。
14.入口管、出口管及び挿入管の全てを備えた構成であることを特徴とする請求項1~13のいずれかに記載のトンネル発破音の低減方法。
15.入口管、出口管又は挿入管のそれぞれの長さが、異なる長さであることを特徴とする請求項1~14のいずれかに記載のトンネル発破音の低減方法。
16.管路が、任意の長さに伸縮可能な構成であることを特徴とする請求項1~15のいずれかに記載のトンネル発破音の低減方法。
17.管路が、複数の短管が摺動することによって伸縮可能な構成であることを特徴とする請求項16に記載のトンネル発破音の低減方法。
18.管路が、蛇腹に形成されることによって伸縮可能な構成であることを特徴とする請求項16に記載のトンネル発破音の低減方法。
19.管路が、隔壁の開口に対して脱着可能な構成であることを特徴とする請求項1~18のいずれかに記載のトンネル発破音の低減方法。
20.対向して設けられた隔壁の間隔が、変更可能な構成であることを特徴とする請求項1~19のいずれかに記載のトンネル発破音の低減方法。
21.工作物が、セントルであることを特徴とする請求項1~20のいずれかに記載のトンネル発破音の低減方法。
22.少なくとも2つの隔壁が対向して設けられることによって拡張室が形成され、
前記隔壁に設けられた開口に、管路が設置され、
前記管路の幅及び高さが、少なくとも車両が通行可能な寸法に設定されると共に、
前記隔壁が、トンネル坑内を移動可能な工作物に設置された構成であることを特徴とするトンネル発破音の低減装置。
上記1に示す発明によれば、発破音の低減手段として拡張室型消音器の原理を採用することによって、広帯域の周波数に及んで発破音の低減効果(「消音効果」ということもある。)を得ることができる。
また、拡張室型消音器の原理を採用することによって、発破作業中であっても隔壁の開口を閉じる必要がなく、更に、この開口と管路の幅及び高さは車両が通行可能な寸法に設定されていることから、車両の往来や坑内の作業に影響を及ぼさず、作業効率を低下させることがない。
更にまた、隔壁がトンネル坑内を移動可能な工作物に設置された構成であるため、トンネル工事で使用される既存設備を利用することで新たな工作物を建造する必要がなく、コスト低減に貢献すると共に、設置や移動が容易であるという効果がある。
上記2に示す発明によれば、隔壁に延伸板が設けられることによって、隔壁、延伸板及び地面に囲われた空間が拡張室の役割を果たし、発破音の低減効果を向上させることができる。
トンネル内に隔壁を設けた場合に、トンネルの掘削面と隔壁との間に隙間が生ずることを避けられず、この隙間の存在によって消音効果が減少するおそれがある。これに対して、上記延伸板を設けて、隔壁、延伸板及び地面に囲われた空間を拡張室とすることができれば、消音効果の減少分を補うことができるし、さらなる消音効果を得ることもできる。
上記3に示す発明によれば、延伸板の設置方向を、他の隔壁が設置された方向にすることで、延伸板等によって得られる空間が拡張室として作用する確度を高めることができる。
上記4に示す発明によれば、2つの隔壁に設けられる延伸板が、相互に向かい合う格好となり、それぞれが拡張室の役割を果たすので、消音効果の向上、特に、消音効果が得られる周波数帯域を広げることができる。
上記5に示す発明によれば、隔壁、管路又は延伸板を形成する板材をハニカム・サンドイッチ構造とすることで、軽量でありながら高い剛性を有する板材を得ることができる。
上記6に示す発明によれば、板材の内部にハニカム管路を形成することによって、この部分が消音器として働き、更なる消音効果を得ることができる。
上記7に示す発明によれば、壁透孔を、ハニカム壁の上部と下部の交互に配設することによって、消音器としての効果を高めることができる。
上記8に示す発明によれば、透孔を薄板の上板と下板の各1箇所に配設することによって、拡張室型のハニカム管路を形成することができる。
上記9に示す発明によれば、透孔を薄板の上板又は下板のいずれか一方に1箇所のみ配設することによって、共鳴管・閉管型のハニカム管路を形成することができる。
上記10に示す発明によれば、透孔を薄板の上板又は下板のいずれか一方に2箇所配設
することによって、共鳴管・開管型のハニカム管路を形成することができる。
上記11に示す発明によれば、共鳴管型の消音器の作用効果を有する板材を積層し、2槽構造としたことにより、これを隔壁、管路又は延伸板の板材として使用すれば、幅広い帯域に対する消音特性を調整することができるので、広い周波数範囲にわたって減音効果の拡大化かつ平坦化を図ることができる。即ち、管路長等が異なる複数の共鳴管を設置したことと同様の効果を得ることができ、広い周波数範囲にわたって減音効果の拡大化かつ平坦化を図ることができる。
上記12に示す発明によれば、管路が、拡張室の外側に設置される構成、即ち、拡張室の切羽側の外側に設置される入口管又は拡張室の坑口側の外側に設置される出口管が接続される構成であり、
上記13に示す発明によれば、管路が、拡張室の内側に設置される構成、即ち、拡張室に挿入管が接続される構成であり、
上記14に示す発明によれば、拡張室に入口管、出口管及び挿入管が接続される構成であり、
それぞれの構成によって、消音器構造の挿入損失(IL:Insertion Loss[dB])が幅広い周波数帯において大きくなり、発破音の低減効果をより広帯域にまで及ぼすことができる。詳しくは後述する。
上記15に示す発明によれば、入口管、出口管又は挿入管のそれぞれの長さを異なる長さにすることで、各管路が有する消音特性により、消音効果が生じない周波数を減少させることができる。即ち、発破音の低減効果を更に広帯域にまで及ぼすことができる。詳しくは後述する。
上記16に示す発明によれば、管路を任意の長さに伸縮することで、発破音の低減効果が及ぶ周波数帯を変化させることができ、発破音の周波数特性に応じて、又は消音効果が生じない周波数を把握した上で、その周波数に消音効果が及ぶように管路の長さを調整すれば、発破音の低減効果を向上させることができる。
上記17に示す発明によれば、管路を複数の短管を長手方向に接続し、これらを摺動することによって管路の長さを伸縮することができる。この方法によれば、管路を簡単な操作で伸縮することができ、発破音の周波数特性に応じた変更が容易である。
上記18に示す発明によれば、管路を蛇腹の形態とすることで、管路の長さを伸縮することができる。この方法によれば、管路を簡単な操作で伸縮することができ、発破音の周波数特性に応じた変更が容易である。
上記19に示す発明によれば、トンネル坑内を移動可能な工作物に隔壁を設置する際や、
隔壁が設置された工作物を移動させる場合などに、管路を取り外すことで移動の妨げになることを防止することができる。
上記20に示す発明によれば、隔壁の間隔を任意の長さに変更することで、発破音の低減効果が及ぶ周波数帯を変化させることができ、発破音の周波数特性に応じて隔壁の間隔の距離を調整すれば、発破音の低減効果を向上させることができる。また、トンネルの内径に応じて、隔壁の間隔を変更することもできる。
上記21に示す発明によれば、山岳トンネル等の掘削後に用いられ、覆工コンクリート打ち込み作業のためにトンネル坑内を移動する型枠であるセントルに隔壁を設置すれば、
既存設備を利用して発破音を低減させることができる。
上記22に示す発明によれば、上記1に示す発明と同様に、広帯域の周波数に及んで発破音の低減効果を得ることができ、発破作業中であっても隔壁の開口を閉じる必要がないため作業効率を低下させることがなく、トンネル工事で使用される既存設備を利用できると共に、設置や移動が容易という利点を有するトンネル発破音の低減装置を提供することができる。
本発明に係るトンネル発破音の減音装置の一実施例を表す概略斜視図 本発明に係るトンネル発破音の減音装置の一実施例を表す概略A-A端面図 管路の設置位置を例示する概略A-A端面図 それぞれの管路の長さを説明する概略A-A端面図 管路の長さを変えた消音器構造による消音効果を説明する模式図及び周波数特性グラフ 消音器構造の挿入損失ILを求める対象である音響管内音場を表す模式図 消音器構造の挿入損失ILを求めるための等価回路を表す模式図 シミュレーション及び検証実験に用いた管路要素を説明する概略A-A端面図 シミュレーション結果を表す周波数特性グラフ 検証実験結果を表す周波数特性グラフ
隔壁とトンネルの掘削面との間に生じた隙間の存在を表す概略説明図 隔壁に延伸板が設けられたトンネル発破音の減音装置の一実施例を表す概略斜視図 隔壁に延伸板が設けられたトンネル発破音の減音装置の一実施例を表す概略説明図(その1) 隔壁に延伸板が設けられたトンネル発破音の減音装置の一実施例を表す概略説明図(その2) ハニカム・サンドイッチ構造を採用した板材の一実施例を表す概略斜視図 ハニカム・サンドイッチ構造を採用した板材の一実施例を表す平面図及び概略B-B断面図(拡張室型) ハニカム・サンドイッチ構造を採用した板材の一実施例を表す平面図及び概略C-C断面図(共鳴管・開管型) ハニカム・サンドイッチ構造を採用した板材の一実施例を表す平面図及び概略D-D断面図(共鳴管・閉管型) 2層構造を採用した板材の一実施例を表す概略断面図
添付の図面に従って、本発明の実施例を詳細に説明する。
図1は、本発明に係るトンネル発破音の低減装置1の一実施例を表す概略斜視図であり、トンネルTの坑内に2枚の隔壁2が対向して設けられ、これらの隔壁2の開口21に、管路3が設置された状態を表わしている。2つの隔壁2に挟まれた空間が、拡張室4である。図2は、図1に示されたA-A線の概略端面図である。
本発明は、トンネル発破音の低減装置1を、掘削工事中のトンネルに1台、又は2台以上設置して、トンネルの切羽側で生ずる発破音が、坑口側に漏れ出すことを防止ないし抑制するための方法に関するものである。
隔壁2は、図1~2に示されるように、トンネル坑内又は坑口に少なくとも2つの対で設けられる。隔壁2は、トンネルTの坑道方向に対して略直交する方向に並べられ、対を
成す隔壁2は、略平行に対向して設置される。
隔壁2は、トンネルTの開口(断面)の形状及び大きさと略同一であり、多くの場合、トンネルの開口の形状は馬蹄型、卵型又は円型であるため、隔壁2の形状も馬蹄型、卵型又は円型といったアーチ形状が採用される。
隔壁2は、トンネルTの側壁面ないし天井面に対して隙間なく設置されることが好ましい。
隔壁2とトンネルTの側壁面ないし天井面に隙間が生ずる場合は、その隙間を公知公用の手段を用いて塞ぐことが好ましい。隙間を塞ぐ手段として、取り外しが可能な手段が好ましく、例えば、取り外しが容易に可能なスペーサー部材を用いる他、取り外しによる移動性を考慮した埋め戻し材を用いる手段を挙げることができる。
なお、この隙間が生ずることによって、その隙間の大きさや範囲によって消音効果に影響を及ぼす場合があるものの、本発明の消音効果が直ちになくなるものではない。
対を成す隔壁2の間隔は、トンネルの内径よりも長さが大となるよう設置されることが好ましい。これは、本発明が採用する拡張室型消音器(膨張型消音器)の説明において、空洞の内部を音波が平面波として軸方向に進行し、これが端面で反射して進行波との干渉が行われることを前提とした考えがあるためである。ただし、上記条件に該当しなくても、現実的には消音効果がないとは言い切れず、本発明はかかる条件に限定されるものではなく、トンネルの内径と長さが同じ場合でも、トンネルの内径が長さよりも大となる場合も本発明の範囲に含まれる。
対を成す隔壁2の間隔は、変更可能な構成であることが好ましい。隔壁2の間隔を任意の長さに変更することで、発破音の低減効果が及ぶ周波数帯を変化させることができ、発破音の周波数特性に応じて隔壁2の間隔の距離を調整すれば、発破音の低減効果を向上させることができる。また、前述の通り、隔壁2の間隔は、トンネルの内径よりも長さが大となるよう設置されることが好ましいので、トンネルの内径に応じて隔壁2の間隔を変更することもできる。
隔壁2には、図1~2に示されるように、工事車両の通行が可能な程度の幅及び高さを有する開口21が設けられる。開口21の形状に限定はないが、後述する管路3の形状や大きさに対応して設けられる。特に、隔壁2と管路3との間に隙間が生じることは好ましくないため、隔壁2の開口21は、管路3の開口31と又は管路3の外周の形状と一致していることが好ましい。ただし、隔壁2の開口21と管路3の開口31との大きさや形状が一致していなくても、スペーサー部材やアジャスター部材等を用いて、両者に生じた隙間を埋める手段を採用してもよい。
隔壁2は、トンネル坑内を移動可能な工作物(以下、「移動工作物」ともいう。図示しない。)に設置される。トンネル坑内を移動可能な工作物として、例えば、移動セントル、シート台車、養生台車が挙げられる。
隔壁2は、1台の移動工作物の坑口側と切羽側にそれぞれ設置してもよいし、1つの隔壁2を設置した移動工作物を2台用意し、これらで対を成す隔壁2を形成してもよい。
例示した移動セントル、シート台車、養生台車には、トンネル工事期間中の一部の期間において使用され、着工から竣工に至るまで常時使用されるわけではない。よって、これらの移動工作物が使用されない期間に、隔壁2を設置して、トンネル発破音の低減装置1の一部として利用されることが好ましい。
隔壁2が移動工作物に設置される構成を採用することによって、トンネル工事で使用される既存設備を利用することで新たな工作物を建造する必要がなく、コスト低減に貢献す
ると共に、設置や移動が容易であるという効果がある。
管路3は、隔壁2の開口21に設置される。管路3は、図1~2に示されるように、隔壁2の開口21に挿通される態様で設置することができる。また、図には示されないが、隔壁2の壁面に管路3の端面を接地し、これを公知公用の手段を用いて固定する方法で設置してもよい。
管路3には、少なくとも車両Cの通行が可能な程度の幅及び高さを有する開口21が設けられる。即ち、管路3は、車両Cや作業員の通路、ベルトコンベヤの敷設路等を兼ねる。
特に、トンネル工事に使用される工事車両が通行可能な幅及び高さを有することが好ましく、幅は5.5m以上、高さは4m以上あることが好ましい。ただし、管路3をベルトコンベヤ、風管、配管用スペースとして利用することも排除せず、例えば幅及びは高さが1m程度の小さな開口21となることもある。
管路3の形状に限定はないが、隔壁の開口21の形状や大きさに対応していることが好ましい。特に、隔壁2と管路3との間に隙間が生じることは好ましくないため、管路3の開口31又は管路3の外周の形状は、隔壁2の開口と一致していることが好ましい。ただし、隔壁2の開口と管路3の開口31との大きさや形状が一致していなくても、スペーサー部材やアジャスター部材等公知公用の手段を用いて、両者に生じた隙間を生める手段を採用してもよい。
続いて、管路3の種別について説明する。
管路3は、2つの隔壁に挟まれた空間である拡張室4の外側に設置することができ、この拡張室4の外側に取り付けられた管路3のうち、拡張室の切羽側の外側に設置されるものを入口管32、拡張室の坑口側の外側に設置されるものを出口管33と呼称する(図1~2参照。)。
また、管路3は、拡張室4の内側に設置することができ、この拡張室3の内側に取り付けられた管路3を挿入管34と呼称する(図1~2参照。)。
図1~2では、1つ部材からなる管路3を、隔壁2を貫通する態様で設置しており、拡張室の外側を出口管33、内側を挿入管34としているが、隔壁2の内側と外側にそれぞれ別部材の管路3を設置し、これらが隔壁2の開口21を介して連通する態様で設置されてもよい。即ち、隔壁2の内側と外側とで、入口管32と挿入管34又は出口管33と挿入管34が接続された構成とすることができる。
管路3を設置する位置として、図3に示すとおり、8つの組み合わせが考えられる。
図3(a)は、切羽側の隔壁2に入口管32が、坑口側の隔壁2に出口管33が取り付けられた態様である。図3(b)は、切羽側の隔壁2に入口管32が、坑口側の隔壁2に出口管33と挿入管34が取り付けられた態様である。図3(c)は、切羽側の隔壁2に入口管32と挿入管34が、坑口側の隔壁2に出口管33が取り付けられた態様である。図3(d)は、切羽側の隔壁2に入口管32と挿入管34が、坑口側の隔壁2に出口管33と挿入管34が取り付けられた態様である。
続いて、図3(e)は、切羽側の隔壁2に入口管32が取り付けられ、坑口側の隔壁2には管路が取り付けられない態様である。図3(f)は、切羽側の隔壁2には管路が取り付けられず、坑口側の隔壁2に出口管33が取り付けられた態様である。図3(g)は、切羽側の隔壁2に入口管32が、坑口側の隔壁2に挿入管34が取り付けられた態様である。図3(h)は、切羽側の隔壁2に挿入管34が、坑口側の隔壁2に出口管33が取り付けられた態様である。
管路3の長さについて説明する。
管路3の長さについて限定はないが、それぞれの管路3の長さが異なる構成とすることが好ましい。図4を参照しながら詳述すると、入口管32の長さXと、出口管33の長さYと、挿入管34の長さZとが、異なる長さであることが好ましい。異なる長さを有する各管路による異なる消音特性により、消音効果が生じない周波数を減少させることができる。即ち、発破音の低減効果を更に広帯域にまで及ぼすことができる。この点については、後述する検証実験において効果を確認している。
上記効果が生ずる原理について、以下に詳述する。ここでは、消音器単体の音響的透過損失TL(Transmission Loss[dB])を用いて、消音効果を説明する。透過損失TLが大きければ消音効果が大きく、TLが小さければ消音効果が小さく、TLが0であれば消音効果がないといえる。
音響的透過損失TLは、次式で求めることができる。
Figure 0007194321000001
ここで、Sは拡張室の断面積、lは拡張室の長さ、Sは管路の断面積、ωは角周波数、cは音速をそれぞれ表す。
即ち、TLを大きくするには、拡張比m=S/Sを大きくすることが必要となる。
以下、図5に従って説明する。
図5は、左列には、消音器構造の模式図が、右列には、左列に示された模式図に対応した透過損失TLの周波数特性が示されている。
図5(a)の消音器構造は、拡張室4に、入口管32と出口管33が取り付けられた構成である。この構成のTL周波数特性をみると、f1、2f1、3f1及び4f1にてTLが0であり、この周波数に対しては消音効果がないといえる。
次に、図5(b)の消音器構造は、拡張室4に、入口管32と出口管33が取り付けられ、更に切羽側の隔壁2に挿入管34が取り付けられた構成である。そして、拡張室4の長さをlMとすると、挿入管34の長さはlM/4である。
この構成のTL周波数特性をみると、図5(a)の構成に比して、2f1のTLが0でなくなっている。即ち、図5(a)の構成において消音効果が生じない周波数2f1を消すことができた。
また同様に、数1によれば、挿入管34の長さはlM/4の場合には、2f1、6f1、10f1・・・の周波数に対して効果がある。
次に、図5(c)の消音器構造は、図5(b)と同じく、入口管32と出口管33が取り付けられ、更に切羽側の隔壁2に挿入管34が取り付けられた構成である。ただし、拡張室4の長さをlMとすると、挿入管34の長さはlM/2である点で異なる。
この構成のTL周波数特性をみると、図5(a)の構成に比して、f1及び3f1のTLが0でなくなっている。即ち、図5(a)の構成において消音効果が生じない周波数f1及び3f1を消すことができた。
また同様に、数1によれば、挿入管34の長さはlM/2の場合には、f1、3f1、5f1・・・の周波数に対して効果がある。
次に、図5(d)の消音器構造は、入口管32と出口管33が取り付けられ、更に切羽側
と坑口側の隔壁2にそれぞれ挿入管34が取り付けられた構成である。そして、拡張室4の長さをlMとすると、切羽側の挿入管34の長さはlM/2であり、坑口側の挿入管34の長さはlM/4である。
この構成のTL周波数特性をみると、図5(a)の構成に比して、f1、2f1及び3f1のTLが0でなくなっている。即ち、図5(a)の構成において消音効果が生じない周波数f1、2f1及び3f1を消すことができた。
また同様に、数1によれば、lM/4とlM/2の長さの挿入管34場合には、f1、2f1、3f1、5f1、6f1、7f1・・・の周波数に対して効果があり、残る周波数は4f1、8f1・・・と非常に少なくなる。図5(d)の構成に、入口管32や出口管33を加える、又は、これらの順序を組み替えることによって、4f1、8f1・・・に対する効果を得ることもでき、組み合わせ次第で、あらゆる周波数帯に対して消音効果をもたらすことができる。
上述の通り、入口管32、出口管33又は挿入管34といった管路3の長さや組み合わせについて、異なる要素を持たせることによって、消音効果が生じない周波数を減少させることができ、発破音の低減効果を広帯域化することができる。
管路3は、隔壁の開口21に対して脱着可能な構成であることが好ましい。かかる構成により、移動工作物に隔壁2を設置する際や、隔壁2が設置された移動工作物を移動させる場合などに、管路3を取り外すことで作業を円滑且つ迅速に行うことができる。
上記脱着する手段について限定はなく、この種の技術分野において公知公用の脱着手段を特別の制限なく採用することができる。
管路3は、任意の長さに伸縮可能であることが好ましい。管路3の長さにより、発破音減音の周波数特性は異なるので、発破音が大きい又は減音したい周波数帯域に効果を及ぼすために、管路3の長さを伸縮して調整することが好ましい。
管路3の伸縮手段については、例えば、スライド方式や蛇腹方式を挙げることができる。
スライド方式は、例えば、管路3を複数の短管(管路3全体の長さよりも十分に短い長さで形成された管。)を接続することによって形成し、これらを摺動することによって伸縮する構成である。隣に位置する短管は径が異なるように形成し、径が大なる短管と、径が小なる短管とが摺動によって重なり合うことができる構成とすれば、管路3の長さを伸縮することができる。
また、スライド方式の他の例として、管路3を複数の側板及び天板を接続することによって形成し、これらを雨戸や障子などの引き戸を戸袋へ引き込む要領で、管路3を伸縮する構成を挙げることができる。この場合の側板及び天板も、管路3全体の長さよりも十分短い長さで形成された板である。また、側板及び天板は、管路3の長手方向に形成されたレール上を摺動する構成としてもよい。トンネル坑内にレールを敷くことが困難な場合は上吊式とし、この上吊りされたレールも伸縮可能とする構成を採用してもよい。
蛇腹方式は、山折りと谷折りを繰り返した形状の構成である。一般に知られている蛇腹の仕組みと同様、この構成により、管路3の長さを伸縮することができる。管路3の伸縮手段として、蛇腹方式を採用する場合は、管路3を比較的柔らかい金属や合成樹脂によって形成することが好ましい。
その他、管路3の伸縮手段として、管路3の側板や天板を折れ戸の如き構成としたり、側板や天板を脱着して長さを調整する手段を採用してもよい。
拡張室4は、図1等に示されるように、2つの隔壁2に挟まれた空間であり、隔壁2以
外の面は、側壁41と底面42によって閉じられている。
側壁41は、コンクリート打設等によって人工的に設けられた面であってもよいし、掘削によって表れた土面や岩面であってもよい。また、拡張室4の側壁41を形成するため、隔壁2と共に減音装置1の一部として新設してもよい。更にまた、移動工作物に形成された人工的な面、特に、移動セントルに設けられた型枠を利用してもよい。
底面42は、コンクリート打設やアスファルト舗装等がされた面であってもよいし、地面Gであってもよい。
なお、前述のとおり、拡張室4は、対を成す隔壁2の間隔が、トンネルの内径(拡張室4の内径)よりも長さが大となるよう形成することが好ましい。
次に、本発明に係るトンネル発破音の低減方法について、低減効果の解析方法を説明する。
本発明に用いられる管路系消音器の音響的特性については、等価回路を用いた解析法が適用可能である。なお、ここでは、トンネル断面寸法より十分に長い波長を有する周波数範囲のみを扱うことにする。
図6に示されるような音響管内音場は、図7に示される等価回路で表すことができる。よって、回路終端のインピーダンスにおける消費電力を求めることによって、消音器の有無による音響特性の変化の評価が可能となる。
図7における縦続接続要素(騒音対策後)の四端子定数をA,B,C,Dとして、騒音対策装置を含まない管路系(騒音対策前)の四端子定数をA’,B’,C’,D’で表すことにすると、消音器構造の挿入損失IL(Insertion Loss[dB])は、音響系の等価回路に基づき次式で求めることができる。
Figure 0007194321000002
ここで、Z,Zは、音源部のインピーダンス、管路出口端の放射インピーダンスを表す。
続いて、上記解析方法を用いた計算(シミュレーション)結果について説明する。
トンネルを想定した主管路内に、図8に示す管路2の各要素を設定する場合において、それぞれの挿入損失ILの計算結果を図9に示す。
図8(a)に示す消音器構造は、開口21を有する隔壁2のみを設けた例である。この場合における計算結果を、図9に点線で示す。この計算結果によると、検討する周波数において、ILが大幅に変化することはなくほぼ一様な周波数特性となった。
図8(b)に示す消音器構造は、対を成す隔壁2にそれぞれ入口管32と出口管33を設置した例である。この場合における計算結果を、図9に薄色の実線で示す。この計算結果によれば、周期的にILが大きくなる特性となった。これは、拡張室型消音器の特徴と合致する。また、付加した管路周囲の共鳴効果によって、640Hz付近でILが大きく
なった。
図8(c)に示す消音器構造は、切羽側の隔壁2に入口管32を、坑口側の隔壁2に出口管33と挿入管34を設置した例である。この場合における計算結果を、図9に濃色の実線で示す。この計算結果によれば、400Hz付近に加えて1kHz付近でILが増加した。これは、異なる長さの管路要素を設置することによって、共鳴効果のためILが大きくなる周波数(周波数帯域)を増やすこと、即ち広帯域に減音効果が認められたためである。
最後に、計算モデルと同様の装置を用いて、計算結果を検証するための実験を行った。
実験には、トンネルを想定した主管路として、直径300mmの円形ダクトを使用した。円形ダクト内に、隔壁2や管路3を設置して実験を行った。図10に、実験結果を示す。図10においても図9と同様に、図8(a)に対応した結果は点線で、(b)に対応した結果は薄色の実線で、(c)に対応した結果は濃色の実線で示す。
図10に示す検証実験結果によれば、隔壁2に入口管32と出口管33を加えると(図8(b)の構成)、ILに周期的特性が認められた。更に、坑口側の隔壁2に挿入管34を設けることによって(図8(c)の構成)、400Hz付近に加えて、1kHz付近でILが増加した。
以上の検証結果より、実験においても、計算結果と同様に、隔壁2に入口管32、出口管33及び/又は挿入管34を設置した消音器構造によって、減音特性の広帯域化が可能であることが確認できた。
以上の通り、トンネルを想定した管路内に消音器構造を適用し、その等価回路解析及び縮尺ダクト装置を用いた実験を行った。
その結果、解析結果と実験結果とは同様の傾向を示し、トンネルを想定した管路内に消音器構造を適用することによって、減音特性の広帯域化が可能であることが確認できた。
続いて、本発明に係るトンネル発破音の低減方法及びトンネル発破音の低減装置の他の実施例について説明する。
上述した本発明に係るトンネル発破音の低減方法及びトンネル発破音の低減装置の実施例の場合、図11に示されるように、隔壁2とトンネルTの掘削面Taとの間には隙間Sが生じる場合があり、この隙間Sの存在により、トンネル発破音の低減効果が損なわれる場合がある。
図2や図4に示される実施例では、隔壁2と拡張室4の側壁41との間に隙間はなく、拡張室4としては理想的な環境である。しかし、実際の現場では、トンネルTの掘削面Taが、拡張室4の側壁41に相当するので、隔壁2と側壁41(トンネルTの掘削面)との間に隙間Sが生ずることは避けられない。
隔壁2とトンネルTの掘削面Taの間に生じた隙間Sを、モルタルやスペーサー部材等で埋めるということも可能だが、掘削面は平滑ではないため完全に隙間Sを塞ぐことが困難であることに加え、この隙間Sを埋める作業に工数を費やすことが、工期の遅れやコストの上昇を招く原因になりかねず、現実的ではない。
そこで、かかる問題を解決するため、以下の構成を採用することができる。
図12に示されるように、隔壁2に延伸板5を設ける手段を採用することができる。
延伸板5は、隔壁の端部22に全周にわたって設けられ、隔壁2の面方向に対して垂直の方向に延伸された態様の板体である。延伸板5の延伸方向について換言すれば、トンネ
ルTの軸方向に延伸された態様ということもできる。
延伸板5は、隔壁2の端部22に沿って設けられるため、この端部22の形状に対応する形態となる。隔壁2は、トンネルTの掘削面Taに対応した形状であり、トンネルTの掘削面Taは一般的には半円の形状やかまぼこ型の形状であることから、延伸板5の形状も、半円状やかまぼこ状となる。
図13に示されるように、隔壁2に延伸板5を設けることにより、隔壁2、トンネルTの地面G及び延伸板5によって管路が形成され、この管路が拡張室4となる。この構成により、拡張室4が得られることで、上述した拡張室型消音器の原理により、更なる減音効果を得ることができる。
延伸板5の長さ(トンネル軸方向の長さ)に限定はないが、この長さを伸縮することにより、減音の対象となる周波数帯域を変えることができる。即ち、延伸板5の長さにより、発破音減音の周波数特性は異なるので、発破音が大きい又は減音したい周波数帯域に効果を及ぼすために、延伸板5の長さを伸縮して調整することが好ましい。
この構成では、隔壁2と延伸板5により拡張室4が得られなければならない。よって、2つの隔壁2が対を成す構成において、一方の隔壁2の延伸板5は、他方の隔壁2が設置された方向に延伸するように設けられる。また、他方の隔壁2の延伸板5もまた、一方の隔壁2が設置された方向に延伸するように設けられる。
図13では、隔壁2の坑口側及び切羽側の両方に延伸板5が設けられた構成であるが、図14に示されるように、いずれか一方に延伸板5が設けられればよく、この延伸板5が設けられる方向は、他方の隔壁2が設置された方向である。
また、図13~14では、2つの隔壁2の両方に延伸板5が設けられた構成であるが、一方の隔壁2のみに延伸板5が設けられた構成であってもよい。
続いて、隔壁2、管路3(入口管32、出口管33又は挿入管34)又は延伸板5を形成する板材6について説明する。
隔壁2等を形成する板材6には、発破による衝撃に耐え得るため又はトンネルTの断面積ほどもある大きな面積を板状で形成するために、高い剛性が必要である。剛性を高めるためには、硬く剛性が高い金属を用い、この金属にも十分な厚さが必要となるため、重量が増加することになる。
一方で、隔壁2等は、トンネルTへの設置作業や移動作業を考慮すると、軽量である方が作業効率がよい。
即ち、板材6には、高い剛性が要求されると共に、軽量であることも求められる。
かかる条件を満たすため、隔壁2、管路3(入口管32、出口管33又は挿入管34)又は延伸板5を形成する板材6は、ハニカム・サンドイッチ構造を採用することが好ましい。
ハニカム・サンドイッチ構造とは、ハニカム構造とサンドイッチ構造を利用した構造である。ハニカム構造とは、狭義には蜂の巣状の正六角形又は正六角柱を隙間なく並べた構造であるが、本発明においては、正六角柱等に限らず三角柱、四角柱等の立体図形を隙間なく並べた構造をいう。
隔壁2等の板材6は、図15に示されるように、このハニカム構造を芯材61とし、この芯材61を2枚の薄板62(上板62a及び下板62b)で挟んだハニカム・サンドイ
ッチ構造を採用することが好ましい。この構成によれば、軽量でありながら高い剛性を有する板材6を得ることができる。
なお、2枚の薄板62について、上板62aと下板62bと記載することもあるが、これは説明の都合上、上板と下板という表現を使用するものであって、使用する方向について上下の限定はないし、薄板6を立てて使用する場合には上下ではなく左右の関係になることもある。
なおまた、図15は、上板62aと下板62bが透明として描かれており、薄板6によって外観からは内部が観察できない芯材61についても、薄板6の下部に表わされている。
板材6を構成する芯材61と薄板62の材質に限定はなく、この種の技術分野で用いられる公知公用の材料を特別の制限無く採用することができる。例えば、鉄、ステンレス又はアルミニウム等の金属材料を採用することができる。また、芯材61と薄板62を、異なる材料としてもよい。
次に、上述したハニカム・サンドイッチ構造を採用した板材6を用いて、更なる減音効果を得ることができる構成について説明する。
ここで、芯材61を構成する各部について説明する。
芯材61は、上述のとおりハニカム構造を有するが、このハニカム構造を構成する立体図形からなる1つの空間をハニカム個室61aと呼称する。そして、このハニカム個室61aを隔てる壁をハニカム壁61bと呼称する。
ハニカム壁61bに、透孔を設けることが好ましい。このハニカム壁61bに設けられた透孔を、壁透孔61cと呼称する。壁透孔61cは、図16~18に示されるように、隣接するハニカム個室61aを連通させるように複数設けられる。
この壁透孔61cが設けられたハニカム壁61bによって隔てられるハニカム個室61aの薄板62部分にも、透孔を設けることが好ましい。この薄板62に設けられた透孔を、薄板透孔62cと呼称する。薄板透孔62cは、図16~18に示されるように、薄板62の上板62a又は下板62bのいずれか一方に又は両方に配設される。
上述した壁透孔61cと薄板透孔62cによって、複数のハニカム個室61aが1つに連なった管の如き空間が生ずる。この空間を、ハニカム管路63と呼称する。
ハニカム管路63は、薄板透孔62cが配設される位置によって、拡張室型の消音器又は共鳴管型の消音器として作用する。この構成を有する板材6を、隔壁2、管路3(入口管32、出口管33又は挿入管34)又は延伸板5に使用すれば、発破音の更なる減音効果を得ることができる。
壁透孔61cと薄板透孔62cを配設位置について、以下に詳述する。
まず、図16に示される構成について説明する。
壁透孔61cは、図16の概略平面図に示されるように、平面視直線状に配設される。
また、図16の概略B-B断面図に示されるように、板材6を側面視した場合に、ハニカム壁61bの上部と、ハニカム壁61bの下部に対して、交互に配設されることが好ましい。なお、ハニカム壁61bの上部と下部とは、芯材61を挟持する薄板62の上板62a及び下板62bと同様に、これは説明の都合上、上部と下部という表現を使用するものであって、使用する方向について上下の限定はないし、薄板6を立てて使用する場合には上下ではなく左右の関係になることもある(以下、図17及び18に示される構成にお
いて同じ。)。
薄板透孔62cは、図16の概略平面図及び概略B-B断面図に示されるように、1つが上板62aに、もう1つが下板62bに配設される。これにより、板材6の上板62a側と下板62b側とがハニカム管路63によって通じる構成、換言すれば、音圧方向に板材を貫通する構成となる。
なお、図16の概略B-B断面図に示された矢印(上板62aに設けられた薄板透孔62cから、下板62bに設けられた薄板透孔62cまでをつなぐ矢印。)は、発破により生じた音波が通過可能な通路を表わし、この通路がハニカム管路63である(以下、図17及び18に示される構成において同じ。)。
図16に示される構成の板材6におけるハニカム管路63は、拡張室型消音器の管路に相当する。即ち、図16に示される構成の板材6は、拡張室型消音器として、発破音を低減するように作用する。
次に、図17に示される構成について説明する。
壁透孔61cは、図16の構成と同様、図17の概略平面図に示されるように、平面視直線状に配設される。
また、図17の概略C-C断面図に示されるように、板材6を側面視した場合に、ハニカム壁61bの上部と、ハニカム壁61bの下部に対して、交互に配設されることが好ましい。
図17における構成と図16における構成との相違点は、薄板62に設けられた薄板透孔62cの配設位置である。
薄板透孔62cは、図17の概略平面図及び概略C-C断面図に示されるように、薄板の上板62a又は下板62bのいずれか一方に2箇所配設される。これにより、板材6の上板62a側と下板62b側とは、ハニカム管路63によって通じない構成、換言すれば、音圧方向に板材6を貫通しない構成となる。
図17に示される構成の板材6におけるハニカム管路63は、共鳴管・開管型の管路に相当する。即ち、図17に示される構成の板材6は、共鳴管・開管型消音器として、発破音を低減するように作用する。共鳴管・開管型消音器の原理については、公知のとおりである。
次に、図18に示される構成について説明する。
壁透孔61cは、図16~17の構成と同様、図18の概略平面図に示されるように、平面視直線状に配設される。
また、図18の概略D-D断面図に示されるように、板材6を側面視した場合に、ハニカム壁61bの上部と、ハニカム壁61bの下部に対して、交互に配設されることが好ましい。
図18における構成と図16~17における構成との相違点は、薄板62に設けられた薄板透孔62cの配設位置である。
薄板透孔62cは、図18の概略平面図及び概略D-D断面図に示されるように、薄板の上板62a又は下板62bのいずれか一方に1箇所のみ配設される。これにより、板材6の上板62a側と下板62b側とは、ハニカム管路63によって通じない構成、換言すれば、音圧方向に板材6を貫通しない構成となる。
図18に示される構成の板材6におけるハニカム管路63は、共鳴管・閉管型の管路に相当する。即ち、図18に示される構成の板材6は、共鳴管・閉管型消音器として、発破音を低減するように作用する。共鳴管・閉管型消音器の原理については、公知のとおりである。
図16~18に示される構成により、板材6は、軽量でありながら高い剛性を確保すると共に、ハニカム構造の空洞(ハニカム個室61a)を利用してハニカム管路63を形成することによって、減音機能をも付加されるものである。
また、薄板透孔62cの数や径を調整することによって、ハニカム管路63の管路長や断面積を調整することができ、所定の管路長や面積を設定することができるので、騒音の原因となっている周波数を狙って、消音効果を及ぼすことも可能である。
次に、図17~18に示される共鳴管型の消音器構造を有する板材6を応用した実施例について説明する。
図19に示される構成は、2層構造を有する板材7の一実施例である。
図19に示される2層構造を有する板材7は、図17に示される共鳴管・開管型消音器の構造を有する板材6を積層することにより1枚の板材として形成された実施例である。詳しくは、板材6の薄板透孔が配設されていない面(上板又は下板)同士が固着されることによって積層された構成である。
この2層構造を有する板材7を、隔壁2、管路3又は延伸板5の板材として使用すれば、幅広い帯域に対する消音特性を調整することができるので、広い周波数範囲にわたって減音効果の拡大化かつ平坦化を図ることができる。即ち、管路長等が異なる複数の共鳴管を設置したことと同様の効果を得ることができ、広い周波数範囲にわたって減音効果の拡大化かつ平坦化を図ることができる。尚、拡大化という用語は、減音量を増加させる意で用いたものであり、周波数帯域を広げる意ではない。尚また、平坦化という用語は、広帯域に及んで減音効果を調整することができ、広い周波数範囲の中でどの周波数をとっても同程度に優れた減音効果を発揮するよう調整することができるという意であり、効果を得ることができる周波数範囲の平滑化と置き換えて解釈してもよい。
図19に示される実施例は、図17に示される共鳴管・開管型消音器の構造を有する板材6を積層した構成であるが、図18に示される共鳴管・閉管型消音器の構造を有する板材6を積層した構成でもよいし、図17に示される共鳴管・開管型消音器の構造を有する板材6と図18に示される共鳴管・閉管型消音器の構造を有する板材6とを積層した構成であってもよい。
図15~19に示されるハニカム・サンドイッチ構造を有する板材6又は2層構造を有する板材7について、芯材61のハニカム個室61aに、樹脂を充填した構成を採用してもよい。
ハニカム個室61aに樹脂を充填することによって、板材6・7の重量を調整することができ、特に重量を増すことによって遮音効果の向上に寄与することができる。また、板材6・7の剛性を向上させることもできる。
1 トンネル発破音の低減装置
2 隔壁
21 隔壁の開口
22 隔壁の端部
3 管路
31 管路の開口
32 入口管
33 出口管
34 挿入管
4 拡張室
41 側壁
42 底面
5 延伸板
6 板材
61 芯材
61a ハニカム個室
61b ハニカム壁
61c 壁透孔
62 薄板
62a 上板
62b 下板
62c 薄板透孔
63 ハニカム管路
7 2層構造の板材
C 車両
T トンネル
Ta 掘削面
S 隙間
G 地面
X 入口管の長さ
Y 出口管の長さ
Z 挿入管の長さ

Claims (6)

  1. トンネルの坑口又は坑内に少なくとも2つの隔壁が対向して設けられることによって拡張室が形成され、
    前記隔壁に設けられた開口に、管路が設置され、
    前記管路の幅及び高さが、少なくとも車両が通行可能な寸法に設定されると共に、
    前記隔壁が、トンネル坑内を移動可能な工作物に設置された構成であり、
    隔壁の端部に全周にわたって設けられ、隔壁の面方向に対して垂直の方向に延伸された板体である延伸板が設けられたことを特徴とするトンネル発破音の低減方法。
  2. 延伸板が、他の隔壁が設置された方向に延伸するように設けられたことを特徴とする請求項に記載のトンネル発破音の低減方法。
  3. 相対向する2つの隔壁の両方に、延伸板が設けられ、
    一方の隔壁に設けられた延伸板は、他方の隔壁が設置された方向に延伸するように設けられ、
    他方の隔壁に設けられた延伸板は、一方の隔壁が設置された方向に延伸するように設けられた構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載のトンネル発破音の低減方法。
  4. 少なくとも2つの隔壁が対向して設けられることによって拡張室が形成され、
    前記隔壁に設けられた開口に、管路が設置され、
    前記管路の幅及び高さが、少なくとも車両が通行可能な寸法に設定されると共に、
    前記隔壁が、トンネル坑内を移動可能な工作物に設置され、
    隔壁の端部に全周にわたって設けられ、隔壁の面方向に対して垂直の方向に延伸された板体である延伸板が設けられた構成であることを特徴とするトンネル発破音の低減装置。
  5. 延伸板が、他の隔壁が設置された方向に延伸するように設けられたことを特徴とする請求項4に記載のトンネル発破音の低減装置。
  6. 相対向する2つの隔壁の両方に、延伸板が設けられ、
    一方の隔壁に設けられた延伸板は、他方の隔壁が設置された方向に延伸するように設けられ、
    他方の隔壁に設けられた延伸板は、一方の隔壁が設置された方向に延伸するように設けられた構成であることを特徴とする請求項4又は5に記載のトンネル発破音の低減装置。

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