以下、本発明の実施の形態について説明する。
なお、実施の形態において、表1及び表2の同一欄に記載の数値は、数量の大きさを示すものであり、基本的に材料に違いはないので、ここでは重複する説明を省略する。
本発明の実施の形態に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂及びその可塑剤を主材とし、更に、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラを必須成分として含有するものである。
ここで、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂としては、平均重合度が1800~2300の範囲内にあり、かつ、酢酸ビニル残基含有量が8質量%以上、10質量%以下の範囲内である塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂が好ましい。重合度が低いと、耐チッピング性を満足させる強度や伸び率が不足する。一方、重合度が大きいものは、ゲル化が遅く、低温短時間で加熱した際に強靭な塗膜とならず、当然、耐チッピング性も確保できない。また、酢酸ビニル残基含有量が少ないものは、塗膜の接着性(付着性、密着性)が不足する。一方で、酢酸ビニル残基含有量が多いものは、低温加熱での可塑剤の吸収性(低温溶融性、膨潤ゲル化性)に劣り、耐チッピング性を満足するための強度や伸び率が不足する。
塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂の平均重合度が1800~2300の範囲内にあり、かつ、塩化ビニルと共重合する酢酸ビニルの含有量が8質量%以上、10質量%以下の範囲内であれば、塗膜の付着性を確保しつつ、低温加熱した場合でも、可塑剤の吸収性が高いことで所定の伸び率及び強度を確保でき耐チッピング性を十分に満足する強靭な塗膜が得られる。より好ましくは、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂の平均重合度が1800~2000の範囲内であり、酢酸ビニル残基含有量が8.5質量%以上、9質量%以下の範囲内であるものである。
なお、上記平均重合度は、JIS K 6721に準拠して測定されたものである。
また、酢酸ビニル残基含有量(VAc含量)は、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂の商品、例えば、ペースト状の塩ビ(PVC)樹脂100mgと、それに臭化カリウム10mgを混合して、すりつぶし、成形した測定サンプルに対し、赤外分光光度計(例えば、島津(社)製の『FTIR-8100A』)を用いて赤外線吸収スペクトルを測定し、下記(A)式より算出された値である。
ペースト状の塩ビ(PVC)樹脂に含有する酢酸ビニル残基含有量(質量%)
=(3.73×b/a+0.024)×1.04・・・(A)
a:1430cm-1付近のC-H面内変角による吸収ピークトップのAbs.値
b:1740cm-1付近のC=O伸縮による吸収ピークトップのAbs.値
また、この塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂は、その一次粒子径が中位径(平均粒子径)で、0.1~10μmの範囲内にあるものが好ましい。このような粒子サイズのものでは、非多孔質のものとなるから、チキソトロピー効果に優れ、良好な塗布性と、粘度の経時変化が少ない良好な貯蔵安定性が得られる。より好ましくは、0.1~5μm、更に好ましくは、0.1~2μmの範囲内である。
更に、この所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂は、プラスチゾル組成物中に固形分換算で10質量%~50質量%の範囲内で含有されるのが好ましい。塩化ビニル系樹脂の含有量が低すぎる場合、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラを添加することによる耐チッピング性の低下を補うことができず、自動車用のアンダーコート等に要求される耐ピッチング性を十分に確保できない。更に、塗膜の接着性も低下する。一方で、含有量が多すぎる場合には、プラスチゾル組成物の貯蔵安定性が低下したり、プラスチゾル組成物の粘性が過大となってスプレー塗装の場合において使用される材料圧送装置からの吐出性が悪くなり塗布作業性が低下したりする。プラスチゾル組成物中に塩化ビニル系樹脂を15質量%~40質量%の範囲内で配合することで、プラスチゾル組成物において、夏季の高温時における長期間の保存にも耐え得る優れた良好な貯蔵安定性を確保でき、かつ、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラを含有しても自動車用のアンダーコート等に要求される耐ピッチング性及び接着性が十分に確保された塗膜を形成できる。より好ましくは、塩化ビニル系樹脂の含有量がプラスチゾル組成物中において、15質量%~40質量%の範囲内であり、更に好ましくは、20質量%~35質量%の範囲内である。
なお、本発明を実施する場合には、平均重合度が1800~2300の範囲内にあり、かつ、酢酸ビニル残基含有量が8質量%以上、10質量%以下である塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂以外にも、塩化ビニル系樹脂を配合、含有することも可能である。即ち、平均重合度が1800~2300の範囲内にあり、かつ、酢酸ビニル残基含有量が8質量%以上、10質量%以下である塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂の1種を単独で用いることに限定されず、それ以外の塩化ビニル系樹脂を適宜組み合わせて使用することも可能である。
この塩化ビニル系樹脂(PVC)としては、塩化ビニルや塩化ビニリデンの単独重合体、または、共重合体、即ち、塩化ビニルや塩化ビニリデンと他のビニル系単量体との共重合体である。塩化ビニルや塩化ビニリデンと共重合させるビニル系単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類、ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類、ジエチルマレエート等のマレイン酸エステル類、ジブチルフマレート等のフマル酸エステル類、メチルアクリレート、エチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸アルキルエステル類、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-ジヒドロキシエチルメタクリルアミド等のアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルアミド類、アクリロニトリル等が挙げられる。また、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂であっても、平均重合度が1800~2300の範囲内にあり、かつ、酢酸ビニル残基含有量が8質量%以上、10質量%以下である塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂以外のものを別に含有、配合してもよい。
そして、所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、即ち、塩化ビニル系樹脂を可塑化する可塑剤としては、基本的には、この種のプラスチゾル組成物を形成するために一般に使用されている任意のものを使用することができる。即ち、本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物に用いる可塑剤としては、所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂の柔軟性を増し、耐候性を改良するものであればよく、例えば、フタル酸、トリメット酸、アジピン酸等の酸とオクタノール、ノナノール、高級混合アルコール等のアルコールとから合成される化合物(エステル)が使用される。具体的には、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘキシルフタレート(DHP)、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジ-n-オクチルフタレート(DnOP)、ジイソオクチルフタレート(DIOP)、ジデシルフタレート(DDP)、ジノニルフタレート(DNP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ビス-2-エチルヘキシルフタレート(DEHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、C6~C10混合高級アルコールフタレート、ブチルベンジルフタレート(BBP)、オクチルベンジルフタレート、ノニルベンジルフタレート、ジメチルシクロヘキシルフタレート(DMCHP)等のフタル酸エステル系や、ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジオクチルアゼレート(DOZ)、ジオクチルセバケート(DOS)等の直鎖二塩基酸エステル類や、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリオクチルホスフェート(TOF)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、モノオクチルジフェニルホスフェート、モノブチル-ジキシレニルホスフェート(B-Z-X)等のリン酸エステル系や、トリオクチルトリメリテート(TOTM)、トリ-n-オクチルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート等の安息香酸エステル系や、ブチルフタルブチルグリコレート(BPBG)、トリブチル・クエン酸エステル、トリオクチル・アセチルクエン酸エステル、トリメット酸エステル、クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステルC6~C10脂肪酸のトリ又はテトラエチレングリコールエステル、アルキルスルホン酸エステル、メチルアセチルリシノレート等のエステル類や、大豆油等の不飽和脂肪酸グリセライドの二重結合を過酸化水素や過酢酸でエポキシ化したもの(ESBO)、ブチルまたはオクチルのアルキルオレイン酸エステル等のエポキシ化合物等のエポキシ化植物油、アジピン酸のような二塩基酸のプロピレングリコールエステル単位を直鎖状に連結した平均分子量500~8000程度の粘稠な低重合度ポリエステル系(例えば、アジピン酸ポリエステル、フタル酸系ポリエステル)、メザモール(登録商標)等のアルキルスルホン酸系等を使用できる。これらの1種を単独使用しても良いし、2種以上を適宜組み合わせて使用することも可能である。中でも、常温で液状の物質が望ましく、フタル酸エステルは最も一般的な可塑剤で入手も容易で安価であり、また、塩化ビニル系樹脂の均一な分散を可能とし、安定した塩化ビニル系プラスチゾルを形成することができる。環境負荷とならない点、取扱い易さ、溶解性、塗装性、貯蔵安定性等の観点からすると、フタル酸エステルの中でも、可塑化効率、加工性、低温溶解性(ゲル化溶融性)に優れるフタル酸ジイソノニル(DINP)や、耐熱性や粘度安定性に優れるジオクチルフタレート(DOP)がより好適である。
このような可塑剤は、プラスチゾル組成物の所望とする粘度特性、硬化性、塗膜強度等に応じて適宜選択され、また、その配合量が設定されるが、配合量が少なすぎると、プラスチゾル組成物の貯蔵安定性や塗布作業性が低下したり、塗膜の柔軟性、伸び率が低下したりする。特に、現状の焼付け条件よりも低温短時間で焼付けたときに、耐チッピング性、強度、耐衝撃性等の良好な塗膜性能を発揮できなくなる。一方で、配合量が多すぎても、垂れ等が生じやすくなり、耐チッピング性、強度、耐衝撃性等の塗膜性能を発揮できなくなる。
このため、可塑剤の配合量は、所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂(固形分)を100質量部に対し、好ましくは、40~400質量部、より好ましくは、80~250質量部、更に好ましくは、90~180質量部の範囲内で配合される。それらの範囲内であれば、良好な塗布作業性を確保でき、硬化後の塗膜を軟質にして適度な柔軟性(弾性)が得られ、かつ、現状の焼付け条件よりも低温短時間で焼付けたときであっても、耐チッピング性、耐衝撃性、強度等の塗膜性能を確保できる。
また、熱膨張性マイクロカプセルとしては、塗装後の焼付け時の加熱によってシェル(殻)が軟化すると共に、シェル中の気化物質が気体に変化してその圧力(蒸気圧)でシェルが膨張する材料から形成され、熱によって膨張が制御できるものであればよい。即ち、熱膨張性マイクロカプセルは、そのシェルが所定の温度によって軟化し、また、内部の液状物が気化するものであればよく、例えば、アクリル系、アクリロニトリル系等の熱可塑性樹脂により構成されるシェル(殻壁、外殻)の内部(コア)に、シェルを構成する熱可塑性樹脂の軟化温度以下の沸点を有する気化物質(例えば、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、イソヘキサン、n-オクタン、n-デカン、n-ドデカン等の脂肪族炭化水素や、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素や、塩化メチル、塩化エチル等の塩素化炭化水素;1,1,1,2-テトラフロロエタン、1,1-ジフロロエタン等のフッ素化炭化水素等の低沸点炭化水素等)が封入された構造を有する未膨張の熱可塑性樹脂マイクロカプセルが使用される。この熱膨張性の熱可塑性樹脂マイクロカプセルは、コアに気化物質を包含した熱可塑性樹脂からなるシェル構造を有するカプセル状のものであり、被塗装面への塗布後に、シェルの軟化温度以上に加熱することにより所定の温度域になると、シェルが軟化し、シェルの内部に包含された気化物質が気体に変化し、そのシェル内の気体の圧力(膨張力・蒸気圧)の増加によってシェルが膨張して容積が増大し、中空状の熱可塑性樹脂マイクロバルーンとなるものである。
なお、この熱膨張性マイクロカプセルのシェルを構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル塩化ビニリデン共重合体、アクリロニトリルメタクリル酸メチル共重合体、アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリルアミド、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリルメタクリル酸、メチル共重合体等が使用される。また、シェルにはその他の成分が含まれていても良く、熱膨張性マイクロカプセルの製造方法も特に問われない。市販の未膨張の熱膨張性マイクロカプセルを入手して使用することも可能であるし、従来公知の方法により製造し、それを用いることも可能である。例えば、アクリロニトリルや塩化ビニル等のラジカル重合性単量体と、任意の架橋剤(例えば、ジビニルベンゼン、(ポリ)エチレングリコール(ジ)メタアクリレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMP)、トリアクリルホルマール(TAF)等)及び重合開始剤を含む単量体混合物と、発泡剤(有機溶剤)とを混合して得られた混合物を、適当な分散安定剤等を含む水系懸濁液中で懸濁重合させることにより熱膨張性マイクロカプセルを製造し、それを用いることも可能である。
更に、熱可塑性樹脂からなるシェル(外殻)が炭酸カルシウム等の無機粉末で被覆されていてもよい。即ち、熱可塑性樹脂からなるシェル表面に無機粉体を付着したハイブリットのもの、詳しくは、シェルの熱可塑性樹脂を無機金属塩や金属酸化物、例えば、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン等で被覆したものを用いてもよい。
そして、本実施の形態においては、このような熱膨張性マイクロカプセル(未膨張マイクロカプセル)として、膨張開始温度が、85℃~110℃、好ましくは、90℃~100℃の範囲内にあり、かつ、最大膨張温度が、120℃~140℃、好ましくは、125℃~135℃の範囲内にある低温膨張マイクロカプセルと、膨張開始温度が95℃~120℃、好ましくは、100℃~115℃の範囲内にあり、かつ、最大膨張温度が、145℃~170℃、好ましくは、150℃~165℃の範囲内にある高温膨張マイクロカプセルとを併用する。
低温膨張マイクロカプセルと高温膨張マイクロカプセルの関係は、低温膨張マイクロカプセルが、高温膨張マイクロカプセルよりも先に所定の低い温度で膨張を開始するものであり、高温膨張マイクロカプセルが、低温膨張マイクロカプセルよりも後で、即ち、低温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度よりも高い温度で、膨張を開始するものである。このとき、高温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度は、低温膨張マイクロカプセルの最大膨張温度よりも低く、低温膨張マイクロカプセルの膨張が最大に達する前に高温膨張マイクロカプセルの膨張が開始される。更に、高温膨張マイクロカプセルは、その最大膨張温度が、低温膨張マイクロカプセルの最大膨張温度よりも高い温度に設定されている。
このように、所定の膨張開始温度及び最大膨張温度を有する低温膨張マイクロカプセルと、低温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度よりも高い所定の温度で膨張を開始し、最大膨張温度が低温膨張マイクロカプセルの最大膨張温度よりも低い所定の温度である高温膨張マイクロカプセルとを併用することで、焼付け時の加熱により、初めに、低温膨張マイクロカプセルが膨張を開始し、その膨張の途中から、高温膨張マイクロカプセルの膨張が開始される。このとき、高温膨張マイクロカプセルの膨張は、低温膨張マイクロカプセルの膨張が完了する前に開始される設定であり、低温膨張マイクロカプセルの膨張開始と、高温膨張マイクロカプセルの膨張開始の間に時間差がある。そして、このように低温膨張マイクロカプセルの膨張が完了する前に高温膨張マイクロカプセルが膨張を開始していることで、低温膨張マイクロカプセルの配合量を多くしなくとも、所定厚みの厚膜化が可能となる。更に、低温膨張マイクロカプセルの配合量を多くしなくともよいから、塗膜の伸び率、耐チッピング性を確保できる。加えて、膨張開始温度や最大膨張温度を異にする低温膨張マイクロカプセルと高温膨張マイクロカプセルを併用することで、焼付け後の硬化した塗膜において粒子サイズのバラつきがあるから音の減衰効果、幅広い周波数の音域を遮音できる効果が期待できる。
例えば、高温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度は、低温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度よりも、好ましくは、5℃以上、35℃以下、より好ましくは、10℃以上、25℃以下の範囲内で高い温度であり、低温膨張マイクロカプセルの最大膨張温度よりも好ましくは、5℃以上、40℃以下、より好ましくは、10℃以上、35℃以下の範囲内で低い温度である。
ここで、低温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度が、85℃~110℃、好ましくは90℃~100℃の範囲内にあり、かつ、最大膨張温度が、120℃~140℃、好ましくは、125℃~135℃の範囲内にある一方で、高温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度が、95℃~120℃、好ましくは、100℃~115℃範囲内にあり、かつ、最大膨張温度が、145℃~170℃、好ましくは、150℃~165℃の範囲内にあるから、自動車の塗装工程における現状の焼付け条件(例えば、130℃~140℃×15分~20分間)よりも低温短時間(例えば、120℃~125℃×5分~15分間)で焼付けたときには、低温膨張マイクロカプセル及び高温膨張マイクロカプセルが共に膨張した状態であるが、膨張開始前と比べ高温膨張マイクロカプセルよりも低温膨張マイクロカプセルが高い膨張倍率で膨張した状態にあり、高温膨張マイクロカプセルは膨張の途中であるのに対し、低温膨張マイクロカプセルは膨張の完了に近い状態または膨張が完了しその最大膨張状態が保持されている状態にある。これより、現状の焼付け条件(例えば、130℃~140℃×15分~20分間)より低温短時間(例えば、120℃~125℃×5分~15分間)で焼付けたときでも、プラスチゾル組成物のコーティング膜が厚膜化され所定の防音性を確保することができる。
一方、現状の焼付け条件(例えば、130℃~140℃×15分~20分間)で焼付けたときでは、低温膨張マイクロカプセルの膨張が完了して収縮に転じているも、高温膨張マイクロカプセルが膨張の完了に近い状態または膨張が完了しその最大膨張状態が保持されている状態にあり、膨張開始前と比べ低温膨張マイクロカプセルよりも高温膨張マイクロカプセルが高い膨張倍率で膨張した状態にある。これより、現状の焼付け条件(例えば、130℃~140℃×15分~20分間)で焼付けたときでも、プラスチゾル組成物のコーティング膜が厚膜化され所定の防音性を確保することができる。
特に、本発明者らの実験研究によれば、低温膨張マイクロカプセルの最大膨張温度は、現状の焼付け条件よりも低温とするその低温の焼付け温度に対し、それよりも高い温度に設定され、また、高温膨張マイクロカプセルの最大膨張温度も、現状の高温の焼付け温度に対し、それよりも高い温度に設定することで、焼付け時の熱量に対応できて目的の熱膨張性マイクロカプセルを収縮する前の高い膨張率に制御できる。即ち、現状の焼付け条件よりも低温の焼付け温度で焼付けたときには低温膨張マイクロカプセルが収縮に転じることなく最大膨張状態が保持されている状態或いは膨張の完了に近い状態にあり、また、現状の焼付け条件である高温の焼付け温度で焼付けたときには高温膨張マイクロカプセルが収縮に転じることなく最大膨張状態が保持されている状態或いは膨張の完了に近い状態にあり、広範囲の温度帯の焼付け条件でプラスチゾル組成物のコーティング膜を厚膜化することができる。
そして、本発明者らの鋭意実験研の結果、低温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度が、85℃~110℃、好ましくは、90℃~100℃の範囲内にあり、最大膨張温度が、120℃~140℃、好ましくは、125℃~135℃の範囲内にあれば、かつ、高温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度が、95℃~120℃、好ましくは、100℃~115℃範囲内にあり、最大膨張温度が、145℃~170℃、好ましくは、150℃~165℃の範囲内にあれば、現状の焼付け条件より低温短時間(例えば、120℃~125℃×5分~15分間)で焼付けたときでも、最大膨張状態または膨張完了に近い状態の低温膨張マイクロカプセルと膨張途中の高温膨張マイクロカプセルによって、プラスチゾル組成物のコーティング膜の膜厚が所定の厚膜となり、防音性を確保でき、更に、現状の焼付け条件(例えば、130℃~140℃×15分~20分間)で焼付けときでも、高温膨張マイクロカプセルが最大膨張状態または膨張完了に近い状態にあることで、プラスチゾル組成物のコーティング膜の膜厚が所定の厚膜となり、防音性を確保できた。
特に、現状よりも低温の焼付け温度においては低温膨張マイクロカプセルが収縮する前の高い膨張率とすることができ、また、現状の高温の焼付け温度においては高温膨張マイクロカプセルが収縮する前の高い膨張率とすることができ、それら低温膨張マイクロカプセル及び高温膨張マイクロカプセルがより少ない配合量で所望の厚みの厚膜を効率よく得ることができるから、高い塗膜の伸び率、耐チッピング性と防音性を両立できる。
更に、高温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度が低温膨張マイクロカプセルの最大膨張温度よりも低い温度に設定されていることにより、低温膨張マイクロカプセルの配合量を多くしなくとも低温短時間(例えば、120℃~125℃×5分~15分間)で焼付けたときの塗膜の厚膜化を確保できるから、より優れた塗膜の伸び率、耐チッピング性と防音性の両特性を兼ね備えた塗膜とすることができる。
このような所定温度で膨張する低温膨張マイクロカプセルは、その中位径が、好ましくは、5μm~20μm、より好ましくは、7μm~18μm、更に好ましくは、9μm~15μmの範囲内にあるものが使用される。即ち、十分な膨張が得られて防音機能を発揮する所望の厚みを確保するには、その中位径が5μm以上のものが好ましく、より好ましくは7μm以上のものであり、更に好ましくは、9μm以上のものである。また、所望の防音性を発揮させる配合量からして、良好な耐チッピング性を確保するためには、50μm以下のものが好ましく、より好ましくは20μm以下のものであり、更に好ましくは、15μm以下のものである。このように中位径が5μm~20μmの範囲内のものにあっては、膨張によって最大時には、例えば、3倍~5倍程度に体積膨張するため、十分な膨張が得られて安定した防音性が発揮され、かつ、良好な耐チッピング性が確保される。
このような低温膨張マイクロカプセルは、所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を100質量部に対し、好ましくは、1~5質量部、より好ましくは、1.5~3.5質量部、更に好ましくは、2~3.1質量部の範囲内で配合される。低温膨張マイクロカプセルの配合量が少なすぎると、現状よりも低温短時間(例えば、120℃~125℃×5分~15分間)で焼付けたときに、低温膨張マイクロカプセルの膨張による塗膜の厚膜化効果(塗膜の膨張率)が少なくて、十分な防音性を確保できない。一方で、低温膨張マイクロカプセルの配合量が多すぎると、塗膜の伸び率や耐チッピング性が低下する。優れた防音性を確保しつつ、良好な耐チッピング性を確保するためには、低温膨張マイクロカプセルの配合量が、所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を100質量部に対し、好ましくは、1~5質量部の範囲内、より好ましくは、1.5~3.5質量部、更に好ましくは、2~3.1質量部の範囲内である。
また、低温膨張マイクロカプセルよりも所定の高い温度で膨張を開始する高温膨張マイクロカプセルは、その中位径が、好ましくは、30μm~50μm、より好ましくは、32μm~48μm、更に好ましくは、35μm~45μmの範囲内にあるものが使用される。即ち、十分な膨張が得られて防音機能を発揮する所望の厚みを確保するには、その中位径が30μm以上のものが好ましく、より好ましくは32μm以上のものであり、更に好ましくは、35μm以上のものである。また、所望の防音性を発揮させる配合量からして、良好な耐チッピング性を確保するためには、50μm以下のものが好ましく、より好ましくは48μm以下のものであり、更に好ましくは、45μm以下のものである。このように中位径が30μm~50μmの範囲内のものにあっては、膨張によって最大時には、例えば、5倍~10倍程度に体積膨張するため、十分な膨張が得られて安定した防音性が発揮され、かつ、良好な耐チッピング性が確保される。
このような高温膨張マイクロカプセルにおいては、所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を100質量部に対し、好ましくは、0.5~4.5質量部、より好ましくは、1~4質量部、更に好ましくは、1.5~3質量部の範囲内で配合される。高温膨張マイクロカプセルの配合量が少なすぎると、現状の高温長時間(例えば、130℃~140℃×15分~20分間)の焼付けで、高温膨張マイクロカプセルの膨張による塗膜の厚膜化効果(塗膜の膨張率)が少なくて、十分な防音性を確保できない。一方で、高温膨張マイクロカプセルの配合量が多すぎると、塗膜の伸び率や耐チッピング性が低下する。優れた防音性を確保しつつ、良好な耐チッピング性を確保するためには、高温膨張マイクロカプセルの配合量が、所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を100質量部に対し、好ましくは、0.5~4.5質量部の範囲内、より好ましくは、1~4質量部質量部、更に好ましくは、1.5~3質量部の範囲内である。特に、このような配合量によって、現状より低温短時間で焼付けたときでも、高温膨張マイクロカプセルの膨張効果による厚膜効果も期待できる。よって、低温膨張マイクロカプセルの配合量を多くしなくても、所望の厚みの厚膜を得られることから、耐チッピング効果を向上させることも可能となる。
中空フィラ(中空粒子)としては、焼付け乾燥時の熱によっても溶融したり膨張したりすることがなく所定の中空度が維持される中空状のバルーンであればよく、例えば、ガラスバルーン、ホウ珪酸ソーダ系のシリカバルーン、シラス等のガラス質火山砕屑物を焼成発泡させてなるシラスバルーン等の外殻が無機質無機中空状フィラ(無機系中空粒子、無機中空体、無機質微小中空体)や、塩化ビニリデン、アクリルニトリル、ポリビニリデンクロライド、またはこれらの共重合体等の有機合成樹脂からなるプラスチック中空体等の有機中空状フィラが使用される。なお、これらは1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用することが可能である。
この中空フィラは、その中位径が10μm~80μmの範囲内にあるものを用いるのが好ましい。即ち、少ない配合量でも所望の高い軽量効果を確保し、また、所望の耐圧強度を有してスプレー塗装でも破壊されることなく、適度な流動特性で良好な塗布作業性を確保するためには10μm以上が好ましい。一方で、乾燥後の塗膜強度等の特性を確保し、また、スプレー塗装の場合において目詰まりを生じさせることなく均一なスプレーパターンを形成して塗布作業性を良好とするためには、80μm以下が好ましい。より好ましくは、10μm~65μm、更に好ましくは、15μm~60μmの範囲内である。
更に、この中空フィラは、その真比重が0.1~0.8の範囲内であるものが好ましい。即ち、取扱性や作業性の観点から0.1以上が好ましく、より好ましくは、0.2以上である。一方で、配合量が少なくても所望の高い軽量効果を確保する観点から、0.8以下が好ましく、より好ましくは、0.6以下である。
中空フィラの配合量は、所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を100質量部に対して、10重量部~50重量部の範囲内とするのが好ましい。中空フィラの配合量が少なすぎる場合、比重低減効果が小さく、所望とする低比重を確保できない。一方で、配合量が多すぎる場合、耐チッピング性を満足させる伸び率が低下する。中空フィラの配合量が所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を100質量部に対して10重量部~50重量部の範囲内であれば、良好な耐チッピング性を確保しつつ、比重低減効果が高いものとなり塗膜重量を極めて小さくできる。また、均一な分散が可能であり、塗布作業性も良好で塗布ムラを少なくし、良好な塗膜外観を得ることができる。より好ましい中空フィラの配合量は、所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂に対して、12重量部~35重量部の範囲内であり、更に好ましくは、15質量部~30質量部の範囲内である。プラスチゾル組成物中における中空フィラの含有量は、高い耐チッピング性及び低比重効果からして、好ましくは、5質量%~8質量%、より好ましくは、5.5質量%~7.5質量%、更に好ましくは、6質量%~7質量%の範囲内である。
更に、このような塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を主剤とする本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物においては、適宜、接着性付与剤、レオロジ制御剤、水分吸収剤、溶剤等が配合される。
被塗布物に対する接着性(密着性、付着性)を向上させるための接着性付与剤としては、特に、耐チッピング用、アンダーコート用等の塩化ビニル系プラスチゾル組成物からなる塗料が、一般に、電着塗装等による下塗り塗装後に施されることから、例えば、カチオン型電着塗装面に対して優れた接着性を発現するブロックイソシアネート(例えば、キシレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、メチルキシレンジイソシアネート等)や、ポリアミド、ポリアミン、ポリオール等のアミド化合物等が使用されるが、塗布目的等に応じて、アクリル系、イミン系、アミン系のものを使用することも可能である。これらは1種を単独で用いても良いし、2種以上を適宜組み合わせて使用することも可能である。
ここで、ブロックイソシアネートは、塗料用硬化剤としても一般に用いられているものであり、比較的低分子のポリイソシアネート成分をメチルエチルケトンオキシム(MEKO)等のブロック剤でブロックしたものである。そして、そのポリイソシアネート成分としては、ヘキサメチレンジアミン(HDI)等の脂肪族ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)等の芳香族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添TDI等の脂環式ジイソシアネート、または、これらのジイソシアネートのビューレット体、イソシアヌレート体、エチレングリコール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールとのアダクト体、或いは、ウレタンプレポリマ等が挙げられる。これらの中でも、接着性付与剤としては、ウレタンプレポリマをブロックしたブロックウレタンプレポリマを、一般に最も好適に使用することができる。このようなブロックイソシアネートでは、加熱焼付け時の温度でブロックイソシアネートのブロック剤が解離され、再生されたイソシアネート成分のイソシアネート基が、カチオン型電着塗装塗膜に残存する活性水素と結合する等によって、その電着塗装面に対するプラスチゾル組成物から形成される塗膜の接着性を向上させることができる。
また、ポリアミドは、エポキシ樹脂等の硬化剤としても一般に使用される活性アミノ基及びアミド基を含有するポリアミド化合物であり、一般的に、リノール酸等の不飽和脂肪酸を熱重合したダイマー酸またはトリマー酸等の重合脂肪酸とポリアミンとの反応生成物であるポリアミドアミンが使用される。このようなポリアミドでは、それに含有される活性アミノ基やアミド基がカチオン型電着塗装塗膜の極性基(アミノ基、カルボキシル基、水酸基等)と水素結合して、塗膜の接着性を向上させることができる。
特に、ブロックイソシアネート及びポリアミドを併用した場合には、ポリアミドがブロックイソシアネートの解離を促進するから優れた接着性を発現させることも可能である。更に、ブロックポリウレタン樹脂及びポリアミドの併用では、塗膜の耐水性を向上させることも可能である。
このような接着性付与剤は、被塗布物の特性、所望の接着性等に応じた配合量に設定されるが、特に、カチオン型電着塗装膜との優れた接着性を確保するためには、プラスチゾル組成物中に、0.4%~10質量%が好ましく、より好ましくは、0.5~5質量%、更に好ましくは、1~2質量%の範囲内である。また、所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を100質量部に対しては、好ましくは、0.1~20質量部の範囲内、より好ましくは、1~10質量部の範囲内、更に好ましくは、3~7質量部の範囲内である。
ただし、ポリアミドの場合には吸湿性が高いことから、余り多く用いると焼付け時に膨れが生じる等、耐吸湿発泡性が低下する。そのため、プラスチゾル組成物全体に対して、4質量%以下であることが好ましい。即ち、ポリアミドは、プラスチゾル組成物全体中に、0.4~4質量%の含有が好ましい。より好ましくは0.5~1質量%の含有である。
また、鋼板の接合部、継目部、へミング部等に塗布、充填されるシーリング用等では、防錆油が付着したままの油面鋼板等に適用される場合、油面鋼板に対する十分な接着性を得るために、接着性付与剤として、ビスフェノールA型やビスフェノールF型等のエポキシ樹脂(変性タイプのものも含まれる)とその硬化剤、例えば、ジシアンジアミン、グアニジン誘導体、トリアジン誘導体、ピリミジン誘導体、4,4´-ジアミノジフェニルスルホン、酸ヒドラジド化合物、イミダゾール系化合物等のポリアミンまたはポリアミノアミドからなる潜在性硬化剤を使用することも可能である。なお、エポキシ樹脂及びその硬化剤に加え、鋼板の亜鉛系メッキ表面、軟鋼表面、有機被膜表面等に対して塗布する場合でも高い接着性が得られるように、脂肪族系ブロックイソシアネート、チタネート系カップリング剤、有機スズ系安定剤(例えば、ジブチルスズジラウリレート、ジオクチルスズラウレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズフタレート等のアルキルスズ、有機スズメルカプタイド等)を添加する場合もある。
また、被塗布物に塗布した際の垂れ止め性能付与のためにレオロジ制御剤、チキソ(チキソトロピー)剤としては、コロイダル炭酸カルシウム(超微粒子炭酸カルシウム)が配合される。このようなコロイダル炭酸カルシウムとしては、一般的に平均粒径0.1μm以下の合成又は沈降炭酸カルシウムが用いられ、基本的には、従来のこの種の塩化ビニル系プラスチゾル組成物に使用されているもの、例えば、立方体形状の沈降性炭酸カルシウム等が使用される。チキソ性の観点からすると、コロイダル炭酸カルシウムは、例えば、BET比表面積が10~40m2/gの範囲内、より好ましくは、13~30m2/gの範囲内のものが使用される。このような、コロイダル炭酸カルシウムは、組成物全体に対し、好ましくは、1~30質量%、より好ましくは、5~25質量%、更に好ましくは、10~20質量%の範囲内で配合される。所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂100質量部に対しては、好ましくは、10~150質量部、より好ましくは、20~120質量部、更に好ましくは、30~100質量部の範囲内で配合される。
このコロイダル炭酸カルシウムは、塩化ビニル系プラスチゾル組成物にチキソ性(チキソトロピー性)を付与し、その組成物の低剪断速度下(静止時)での粘度を高くする一方で、高剪断速度下での粘度を低くする。即ち、低剪断速度下(静止状態)では、配合されたコロイダル炭酸カルシウム微粒子が組成物中で互いに緩く結合(凝集)して三次元構造(微分散コロイド状構造)を形成するため、組成物の粘度を高くするが、この微粒子間の結合力は弱いため、高剪断速度下では、その高剪断力によって構造の一部また全部が破壊されて流動性が増大し、見掛けの粘度が低下する。これにより、塗布作業に適した粘度、流動特性が得られる。したがって、調製や塗装の際に高速での剪断が与えられた組成物は見かけの粘度が低下して塗布作業に適した粘度で塗布できる一方で、被塗装物に付着した後には、そのチキソ性(時間依存性)によって、構造が回復され、組成物の粘度が元の高い状態にもどることで、塗布後の垂れを防止することができる。
更に、プラスチゾル組成物に吸湿された水分を捕獲し、水分による塗膜の膨れを防止する耐吸湿発泡性向上のための水分吸収剤としては、例えば、水和反応により水と結合する性質を有する酸化カルシムや酸化マグネシウム等が好適である。
この水分吸収剤の配合は、組成物全体に対し、好ましくは、0.1~15質量%、より好ましくは、1~10質量%、更に好ましくは、2~5質量%の範囲内である。所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂100質量部に対しては、好ましくは、1~50質量部、好ましくは、2~30質量部、より好ましくは、5~20質量部の範囲内である。
また、溶剤(減粘剤)は、配合材料を混ぜ易くしたり、塗布作業性や貯蔵安定性を改善したり、塗装後の塗膜のレベリング性(平滑性)の向上、即ち、塗膜の外観性の向上を図ったりするために用いられる。このような溶剤としては、塗布作業性、塗布性等の観点から、炭化水素系、アルコール等が好ましく、例えば、ナフサ、テレピン油、パラフィン、ミネラルスピリット等の石油系溶剤や、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン等の脂肪族炭化水素系溶剤や、アルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤等の比較的高沸点の有機溶剤等が使用される。増粘性やチキソトロピー効果の観点からすると、非極性の炭化水素、例えば、パラフィン系炭化水素等が好ましい。
このような溶剤の配合は、多すぎると垂れ性を損なうことになるため、組成物全体に対し、例えば、好ましくは、10質量%以下、より好ましくは、7質量%以下で配合される。一方、溶剤が少なすぎると、分散性や塗布に適した粘度特性を確保できず、貯蔵安定性も低下するから、好ましくは、3質量%以上、より好ましくは、5質量%以上で配合される。
更に、本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物においては、その他、必要に応じ、顔料、レベリング剤、充填剤、安定剤等を適宜配合することも可能である。
顔料としては、着色顔料、体質顔料、防錆顔料、機能性顔料等がある。
このときの着色顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛有機系のアゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、二酸化チタン、カドミウムイエロー、フタロシアニンブルー等が使用できる。
防錆顔料としては、例えば、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、ポリリン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛カルシウム、オルトリン酸亜鉛、ポリリン酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、酸化亜鉛、リン・ケイ酸亜鉛、リン酸アルミニウム亜鉛、リン酸カルシウム亜鉛、シアナミド亜鉛カルシウム、メタホウ酸バリウム、アミノリン酸マグネシウム等が使用できる。環境保護の観点からクロム系等の有害重金属を含まない防錆顔料が望ましい。
体質顔料としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、クレー、シリカ、珪藻土、アルミナ、バリタ、ニ酸化ケイ素等が使用できる。特に、タルクは塗膜内で多くの層の積み重なりを形成し、その配列により形成される層の緻密性によって腐食因子の侵入を防止することができる。
塗膜のレベリング性(平滑性)、塗膜の仕上がり外観性をより向上するためのレベリング剤としては、シリコン樹脂、ダイマー変性エポキシ樹脂等がある。このようなレベリング剤は、組成物全体に対し、例えば、15質量%以下、好ましくは、12質量%以下、より好ましくは、10質量%以下で添加することで、耐垂れ性を損なうことなく、塗膜の仕上がり外観性の向上を可能とする。
また、組成物量の調節(増量)、塗布作業性や塗布性の改善、塗膜強度等のための各種充填剤を配合することも可能である。このような充填剤としては、例えば、重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩及び硫酸塩、マイカ、シリカ、タルク、珪藻土、カオリン、クレイ、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、グラファイト、ヒル石、ゼオライト、カルシウムメタシリケート、ゾノライト、チタン酸カリ、ロックウール、ガラスファイバー、カーボンファイバー、アルミニウムシリケート、アラミドファイバー、セルロース粉、粉末ゴム、塩化ビニリデン、アクリルニトリル、ポリビニリデンクロライド、またはこれらの共重合体等の合成樹脂(プラスチック)等からなる既膨張樹脂マイクロカプセル(熱膨張性微小球)等の熱可塑性樹脂バルーンやフェノールバルーン等の樹脂バルーン、発泡剤等が使用される。これらは1種を単独で使用してもよいし2種以上を適宜組み合わせて使用することも可能である。充填剤の形状も特に限定されず、球状、楕円球状、線状、不定形状とが挙げられ、更に、中実体及び中空体のいずれであってもよい。
このような充填剤の配合は、具体的用途等に応じて適宜設定されるが、多すぎると均一な塗布が困難となったり、塗膜が脆くなり柔軟性、接着性、耐チッピング性等の塗膜特性が低下したりすることから、組成物全体に対し、例えば、50質量%以下、好ましくは、40質量%以下であり、より好ましくは、35質量%以下である。所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂100質量部に対しては、好ましくは、10~150質量部、より好ましくは、20~120質量部、更に好ましくは、30~100質量部の範囲内で配合される。
更に、充填剤として、塗膜の低比重化、塗膜の厚膜化、防音性の向上、組成物に吸湿された水分の抜け道(水抜け通路)形成等のために、中空粒子、未膨張の熱膨張性マイクロカプセル、発泡剤等を配合することも可能である。中空粒子としては、具体的には、塗布後の焼付け加熱によっても膨張して破裂することなく所定の中空度が維持されるものとして、例えば、ホウ珪酸ソーダ系のシリカバルーン、ガラスバルーン、シラス等のガラス質火山砕屑物を焼成発泡させてなるシラスバルーン等の外殻が無機質で形成された無機系中空粒子(無機質微小中空体)や、塩化ビニリデン、アクリルニトリル、ポリビニリデンクロライド、またはこれらの共重合体等の合成樹脂(プラスチック)等からなる既膨張樹脂マイクロカプセル(熱膨張性微小球)等の熱可塑性樹脂バルーンやフェノールバルーン等の樹脂バルーンまたは炭素中空球等、外殻が有機質で形成された有機系中空粒子が使用される。
更にまた、安定剤としては、亜鉛、鉛、バリウム、スズ、カルシウム等の金属塩(金属石ケン類)、エポキシ系安定剤、無機酸塩類、有機金属化合物等がある。最も一般的なものは、ジブチルスズジラウレート等の有機スズ系化合物、三塩基性硫酸鉛等である。なお、これらの安定剤は、ブロックイソシアネートが接着性付与剤として用いられる場合、焼付け硬化時のそのブロック剤の解離を促進する触媒としても作用する。
このような配合材料からなる本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、従来公知の混合分散機、混練機、例えば、ニーダー、ディスパー、プラネタリーミキサー、アトライター、ボールミル、グレンミル、ブレンダー、2軸ミキサー、縦型高速攪拌機、ロールミル、ディゾルバー等を用いて材料を均一に混合分散して調製される。
そして、本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、例えば、自動車車体等の耐チッピング用塗料組成物、アンダーコート用塗料組成物、或いは、シーリング用塗料組成物等として適用することができ、所定の部位に塗布され、焼付け後に硬化した塗膜となる。
なお、このような配合組成からなる本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、2液ではなく1液として使用できるので、取り扱いが容易である。また、加熱するまでは形状調整等が可能であるから、任意の塗布形状を選択できる。当然、塗装ロボットの使用或いは刷毛塗りが可能であり、密閉型に入れて成形させる必要がないから、開放型として膜形成でき、耐チッピング用、アンダーコート用、シーリング用として使用できる。
本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物からなる塗料の所定部位への塗装形態、塗装手段としては、従来公知の塗装方法、例えば、刷毛塗り、ローラー塗装、浸漬等のコーティング塗装や、エアレススプレー、エアスプレー等のスプレー塗装、静電塗装等による施工が可能である。
例えば、耐チッピング用、アンダーコート用の塩化ビニル系プラスチゾル組成物であると、自動車の床裏部、ホイルハウス部、フロント部、リアフェンダー部、フロントエプロン部等のフロアアンダーや、サイドシル部(ロッカーパネル部)、ドアの下部の側面等に塗布適用される。また、シーリング用の塩化ビニル系プラスチゾル組成物であれば、車体を構成する鋼板の接合部、継ぎ目、エッジ部等に塗布適用される。
このような鋼板等の基材に塗布された塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、焼付け乾燥によって硬化され、硬化塗膜となる。
特に、耐チッピング用、アンダーコート用、シーリング用の塩化ビニル系プラスチゾル組成物として、自動車の鋼板表面、例えば、自動車のホイルハウス部や床裏部等の車体の下部構造部等に塗装するにあたっては、自動車製造ラインの塗装ラインにおいて、脱脂工程、化成処理工程及び電着塗装による下塗り塗装工程を終えた鋼板の電着塗装面に塗布される。その後、その上に、車体外板部の中塗り塗装または仕上げ塗装等が実施され、そして、中塗り塗装または仕上げ塗装等の焼付け乾燥と併せて、塩化ビニル系プラスチゾル組成物のコーティング膜が加熱されることにより硬化塗膜となる。即ち、鋼板等の電着塗装面に対し塩化ビニル系プラスチゾル組成物が塗布され、その上に、中塗りや上塗りの塗料が重ねられてから焼付け硬化されることで塗膜性能が成立する。このときの塩化ビニル系プラスチゾル組成物から形成された硬化塗膜の厚み(乾燥塗膜厚み)は、例えば、300μm以上、3000μm以下である。
なお、例えば、耐チッピング用、アンダーコート用の塗料であれば、小石、砂利等の衝突による衝撃を吸収、緩和し上層の塗料の剥離を防止する。シーリング用の塗料であれば、接合部等に対してシール機能(水密、気密)を発揮する。また、必要に応じて、中塗り塗料、上塗り塗料等の焼付け硬化よりも前で、電着塗装面に塗布した直後に塩化ビニル系プラスチゾル組成物の塗布膜を予備硬化(プレ加熱)する場合もある。
ここで、本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物においては、熱膨張性マイクロカプセルを含有するため、塩化ビニル系プラスチゾル組成物を所定部位に塗布した後、塗装の焼付け工程にて塩化ビニル系プラスチゾル組成物のコーティング膜が焼き付けられると、焼付けの加熱によりコーティング膜の温度が上がり、熱膨張性マイクロカプセルの殻(シェル)を構成する熱可塑性樹脂等の軟化が開始すると共に、殻に内包されている低沸点炭化水素等の気化物質がガス化を始めて内圧が上がり、その圧力でシェルが膨張して中空状のマイクロバルーンとなり、この膨張した中空状のマイクロバルーンによって、所定部位に塗布した塩化ビニル系プラスチゾル組成物のコーティング膜は膨張し、焼付け前よりも厚み(嵩)が増して厚膜化され、比重が低下した塗膜が得られる。即ち、塗布量を増大させてコーティング層の厚膜化を行うのではなく、熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張を利用してコーティング膜の厚膜化を行っていることで、塗膜重量を増大させることなく厚膜化できることから、焼付け前よりもコーティング膜の比重は小さくなり、塗膜重量を増大させることなく塗膜比重を低減できる。加えて、焼付け時には体積変化しない中空フィラが配合されていることで、厚膜であっても塗膜重量(乾燥塗膜比重)は小さく軽量なものとなる。即ち、中空フィラの配合により、熱膨張性マイクロカプセルを多量に配合せずとも極めて比重が小さく軽量である塗膜を形成でき、塗膜の防音性及び軽量性を両立させることができる。
また、このように熱膨張性マイクロカプセルが焼付け時の加熱で膨張することによって、コーティング膜が厚膜化されるため、焼付け前における所望のコーティング部位へのプラスチゾル組成物の塗布は薄膜塗布が可能となる。これにより、塗布量を軽減できると共に、プラスチゾル組成物の粘度を低く設定しても良好な塗布作業性及び塗布性(タレ性等)が得られる。
こうして、本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張を利用して、コーティング膜を厚膜化することにより、また、中空フィラの配合により、塗膜重量を増大させることなく、車体に小石や砂利等が衝突したときに発生するスプラッシュノイズ等を減少させる防音性が高い塗膜を形成できる。
即ち、本実施の形態においては、防音性確保のために、塗布量を増大させてコーティング層の厚膜化を行うのではなく、熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張を利用してコーティング層の厚膜化を行っていることで、塗膜重量を増大させることなく厚膜化できることから、厚膜化による塗膜重量の増大が抑制されて塗膜比重を低減できる。更に、中空フィラを併用したことで、熱膨張性マイクロカプセルを多量に配合せずとも極めて比重が小さく軽量である塗膜を形成でき、塗膜の防音性及び軽量性を両立させることができる。
特に、本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物においては、膨張開始温度が85℃以上、110℃以下、かつ、最大膨張温度が120℃以上、140℃以下の範囲内である低温膨張マイクロカプセルと、低温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度より高く低温膨張マイクロカプセルの最大膨張温度より低い温度で膨張が開始し、その膨張開始温度が95℃以上、120℃以下の範囲内で、かつ、最大膨張温度が低温膨張マイクロカプセルよりも高い温度で145℃以上、170℃以下の範囲内である高温膨張マイクロカプセルとを併用したことにより、現状の焼付け乾燥条件が、例えば、130~140℃の温度で15~20分間の加熱条件であるのに対し、それよりも低温短時間の加熱条件、例えば、120~125℃の温度で10~15分間の焼付け乾燥としても、低温膨張マイクロカプセルの最大膨張状態、または、それに近い膨張状態が得られることで、プラスチゾル組成物のコーティング膜は膨張し厚い膜厚の硬化塗膜が得られる。また、現状の焼付け乾燥条件、例えば、130~140℃の温度で15~20分間の焼付け乾燥としても、高温膨張マイクロカプセルの最大膨張状態、または、それに近い膨張状態が得られることで、プラスチゾル組成物のコーティング膜は膨張し厚い膜厚の硬化塗膜が得られる。
よって、焼付け乾燥条件が低温短時間化されても、更には、現状の焼付け乾燥条件であっても、塗布量を増大させることなく防音性が高い塗膜を形成できる。
また、本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、平均重合度及び酢酸ビニル残基含有量を特定した塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を用いたことにより、可塑剤の吸収特性が高いことで、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂のゲル溶融が促進されて低温度でも均一相となるために、焼付け乾燥条件が低温短時間化されても、塗膜の伸び率及び強度(抗張力)を確保して、耐チッピング性を良好なものとすることができる。加えて、低温で塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂の溶融が進行されることで、現状の焼付け条件より低温短時間化されても、塗膜中の低温膨張カプセルを十分に膨張させることができ低温膨張カプセルの少ない配合量でも塗膜を十分に厚膜化できる。
更に、熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張を利用した塗膜の厚膜化と、中空フィラの配合との併用により、塗膜重量を増大させることなく塗膜比重を低減させるものであるから、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラの少ない配合で高い塗膜の低比重効果を得ることができ、軽量性と耐チッピング性の両立を可能とする。
更にまた、低温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度が85℃以上、110℃以下、かつ、最大膨張温度が120℃以上、140℃以下の範囲内であるから、低温側の焼付け温度(例えば、120~125℃の温度で10~15分間)においては低温膨張マイクロカプセルが収縮する前の高い膨張率、大きなバルーンサイズとすることができ、また、高温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度が95℃以上、120℃以下の範囲内で、かつ、最大膨張温度が145℃以上、170℃以下の範囲内であるから、高温側の焼付け温度(例えば、130~140℃の温度で15~20分間)においては高温膨張マイクロカプセルが収縮する前の高い膨張率、大きなバルーンサイズとすることができ、それら低温膨張マイクロカプセル及び高温膨張マイクロカプセルがより少ない配合量で所望の厚みの厚膜を効率よく得ることができ、高い塗膜の伸び率、耐チッピング性と防音性を両立できる。
加えて、高温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度が低温膨張マイクロカプセルの最大膨張温度よりも低い温度に設定されていることにより、低温膨張マイクロカプセルの配合量を多くしなくとも低温短時間(例えば、120℃~125℃×5分~15分間)で焼付けたときの塗膜の厚膜化を確保できるから、より優れた塗膜の伸び率、耐チッピング性と防音性の両特性を兼ね備えた塗膜とすることができる。
また、所定の平均重合度及び酢酸ビニル残基含有量である塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を用いたことで、低温で塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂の溶融が進行されるから、現状の焼付け条件より低温短時間化されても、塗膜中の低温膨張カプセルを十分に膨張させることができる。このため、低温膨張カプセルの少ない配合量でも塗膜を十分に厚膜化できる。故に、塗膜の耐チッピング性を満足する伸び率及び強度を良好にできる。
そして、このような本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物から形成された塗膜においては、焼付けの温度条件によって膨張サイズを異にする低温膨張マイクロカプセルと高温膨張マイクロカプセルの含有により、更には、中空フィラの含有により、サイズが異なる粒子の分布によって、音の減衰効果、幅広い周波数の音域を遮音できる効果や、小石や砂利等による衝撃に対する抵抗が高められて小石や砂利が塗膜を突き破って被塗布面を損傷させることを防止する効果を期待できる。
また、化学発泡剤によって塗膜を膨張させて厚膜化を図る場合にあっては、化学発泡剤が加熱によって分解されることでガスを発生して塗膜を膨張させるものであることから、自動車ラインの昇温条件、塗装箇所、塗布量等に左右されて、気泡が連続しやすく、また、不均一で大きな気泡となりやすい。即ち、気泡の制御が難しく、防音性及び耐チッピング性等の特性を安定的に確保するのが容易でない。特に、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度が低い場合には、ガス発生により形成された発泡体を捕捉するのが困難で脱泡しやすいため、所望の厚みを有した厚膜を得るのが困難である。
これに対し、熱膨張性マイクロカプセルにおいては、加熱によって内部の気化物質を気化させその圧力でシェルを膨張させて中空状のマイクロバルーンとし、塗膜を膨張させるものであることから、加熱硬化条件、塗装箇所、塗布量等の塗装条件や加熱硬化時の粘度等に左右され難く、膨張した中空状のマイクロバルーンは均一で小さな独立気泡となりやすい。即ち、塩化ビニル系プラスチゾル組成物の粘度が低くても、バルーン膜によって中空状のバルーンが塗膜内に保持され所望とする厚みを有する塗膜を得ることができる。このため、化学発泡剤の発泡によって厚膜化を行う場合よりも、防音性及び耐チッピング性等の特性を安定的に確保できる。そして、塗装条件や粘度等に左右され難いことから、その添加量のみならず粒度分布、粒径を調節することによっても、熱膨張性マイクロカプセルの膨張を容易に制御することができ、膜厚や塗膜特性の制御が容易にできる。よって、本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物においては、その粘度を低く設定することが可能であり、それ故に、貯蔵安定性を向上させることも可能である。
そして、中空フィラと熱膨張性マイクロカプセルとの併用では、上述したようにそれらの少ない配合量で高い塗膜比重の低減効果が得られることから、塗布作業性を低下させることなく、軽量性の向上が可能であり、更に、空隙を制御し易いことで安定した低比重化を可能とする。
こうして、本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、広範囲の焼付け温度条件で、防音性が高く、かつ、低比重でありながら耐チッピング性が良好な塗膜を形成できる。即ち、現状の焼付け条件より低温短時間化されても、更には、現状の焼付け条件であっても、自動車の鋼板に対して小石や砂利等が衝突した際のスプラッシュノイズを減少させる防音性を発揮できるのみならず、軽量であり、しかも、耐チッピング性も良好な塗膜を得ることができる。そして、このように、現状の焼付け条件より低温短時間化されても、更には、現状の焼付け条件であっても、良好な塗膜性能、即ち、耐チッピング性、防音性及び軽量性を確保できることから、塗装プラントの生産ラインにおいて、塗料の材料切り替え時の切込みに対応できる。即ち、車両の生産性、作業性を低下させることなく、車両塗装に適用できる。加えて、現状の焼付け条件より低温短時間化されても所定の塗膜性能を確保できることで、二酸化炭素排出の削減、省エネルギ化が可能であり、自然環境に与える負荷を軽減でき、製造コストの低減化も可能である。
更には、例えば、ボディとバンパのように従来別々の乾燥温度条件で焼付けていた部品に対して、本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物を一体に塗装して低温で焼付けても、塗膜の耐チッピング性、防音性及び軽量性といった性能を確保することが可能となる。即ち、従来焼付けの乾燥条件を異にしている部品について低温の焼付け乾燥条件側に合わせて低温で焼付けたときでも所定の塗膜性能を確保できる。よって、従来焼付けの乾燥条件を異にしていた部品をまとめて一体塗装して、一体の焼付けを可能とする。これにより、大幅に生産性を向上でき、更に、二酸化炭素排出の削減、省エネルギ化、即ち、自然環境の負荷の軽減化が可能であり、製造コストの低減化も可能である。
以下、本発明の実施の形態に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物について、実施例を挙げて具体的に説明する。
本発明の実施例に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を含有した塩化ビニル系樹脂ペースト、可塑剤、熱膨張性マイクロカプセル、中空フィラ、レオロジ制御剤、接着性付与剤、溶剤、添加剤(水分吸収剤、顔料)を配合したものである。
表1の上段に示す配合量で実施例1乃至実施例7に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を調製した。また、比較のために、表2の上段に示す配合量で比較例1乃至比較例5に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物も併せて調製した。
具体的に、本実施例1~7においては、平均重合度が1900であり、酢酸ビニル残基含有量が9質量%である塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを含有した塩化ビニル系樹脂ペースト(東ソー(株)製『リューロンペーストG50』)を配合した。また、実施例4では、平均重合度が1800であり、酢酸ビニル残基含有量が7質量%以上、8質量%未満である塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Bを含有した塩化ビニル系樹脂ペースト(東ソー(株)製『リューロンペーストR954』)も配合した。なお、これら塩化ビニル系樹脂ペーストは、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を可塑剤、安定剤等と共に混練してなるものであるが、その樹脂分(固形分)は、98.5質量%以上であることから、1.5質量%以下なら誤差範囲であるとし、以下では、単純に四捨五入して100質量%が樹脂分と仮定し配合比を算出している。また、塩化ビニル系樹脂ペーストに含まれている可塑剤とは別に、フタル酸ジオクチル((株)ジェイ・プラス製;『DINP』)を表1や表2に示した配合量で配合した。
更に、熱膨張性マイクロカプセルとして、気化物質としての液状の低沸点炭化水素をアクリルニトリル-塩化ビニリデン共重合体からなる熱可塑性高分子殻(シェル)で包み込んだマイクロカプセルを配合し、本実施例では、膨張開始温度が90~100℃、最大膨張温度が125~135℃である熱膨張性マイクロカプセルA(松本油脂製薬(株)製;『マツモトマイクロスフェアーF-48D』(平均粒子径(商品表示)が9~15μm,120℃×2分での膨張倍率が4倍)と、膨張開始温度が100~115℃、最大膨張温度が150~165℃である熱膨張性マイクロカプセルB(松本油脂製薬(株)製;『マツモトマイクロスフェアーFN-78D』(平均粒子径(商品表示)が35~45μm,140℃×2分での膨張倍率が8倍)とを併用した。
また、中空フィラとして、ソーダ石灰硼珪酸ガラス(住友3M(株)製;『グラスバブルズVS5500 45KG』、真密度:0.38g/cm3、平均粒子径(D50)(商品表示):40μm)を配合した。
加えて、レオロジ制御剤として、コロイダル炭酸カルシウム(丸尾カルシウム(株)製;『カルファインN-350』、脂肪酸表面処理炭酸カルシウム(立方体状))を配合し、また、接着性付与剤(密着性付与剤)として、ポリアミドアミン(エボニック(株)製;『ヌーリーボンド272』)及びブロックウレタンプレポリマ(三洋化成工業(株)製;『ケミオックスKA2123』)を使用した。また、溶剤として、パラフィン系炭化水素であるイソパラフィン、ノルマルパラフィン混合溶剤(ジャパンケムテック(株)製;『オクサゾールS』)を配合した。更に、水分吸収剤として、酸化カルシウム(井上石灰工業(株)製;『QC-X』)を配合し、顔料として、カーボンブラック(三菱化学(株)製;『MA-100』)を配合した。
表1の上段に示した配合組成により、実施例1では、プラスチゾル組成物中の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aの含有量は29.1質量%である。また、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを100質量部に対して膨張温度が低温側の熱膨張性マイクロカプセルAが2.36質量部、膨張温度が高温側の熱膨張性マイクロカプセルBが1.64質量部、中空フィラが21.27質量部の割合で配合されている。
実施例2は、実施例1と比較して、溶剤の配合量のみを変えたものである。即ち、実施例1よりも溶剤の配合量を少なくし、その他の配合量は実施例1と同じとしたものである。この実施例2における配合では、プラスチゾル組成物中の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aの含有量は29.7質量%である。また、実施例1と同様、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを100質量部に対しては、膨張温度が低温側の熱膨張性マイクロカプセルAが2.36質量部、膨張温度が高温側の熱膨張性マイクロカプセルBが1.64質量部、中空フィラが21.27質量部の割合で配合されている。
実施例3は、実施例1と比較して、塩化ビニル樹脂系ペーストの配合量と中空フィラの配合量のみを変えたものである。即ち、実施例1よりも塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aの配合量を多くし、また、中空フィラの配合量を多くし、その他の配合量は実施例1と同じとしたものである。この実施例3における配合では、プラスチゾル組成物中に塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを32.2質量%含有する。また、この塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを100質量部に対して、膨張温度が低温側の熱膨張性マイクロカプセルAが2.03質量部、膨張温度が高温側の熱膨張性マイクロカプセルBが1.41質量部、中空フィラが19.06質量部の割合で配合されている。
実施例4は、実施例1と比較して、中空フィラの配合量を変え、また、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを含有した塩化ビニル系樹脂ペーストに加え、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Bを含有した塩化ビニル系樹脂ペーストを配合したものである。即ち、実施例1よりも中空フィラの配合量を多くし、また、実施例1と同じ配合量の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを含有した塩化ビニル系樹脂ペーストに加え、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Bを含有した塩化ビニル系樹脂ペーストを配合したものである。その他の配合量は実施例1と同じとしたものである。この実施例4における配合では、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aをプラスチゾル組成物中に27.7質量%含有し、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを100質量部に対して膨張温度が低温側の熱膨張性マイクロカプセルAが2.36質量部、膨張温度が高温側の熱膨張性マイクロカプセルBが1.64質量部、中空フィラが21.27質量部の割合で配合されている。
実施例5は、実施例1と比較して、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを含有した塩化ビニル系樹脂ペーストの配合量のみを変えたものである。即ち、実施例1よりも塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aの配合量を少なくし、その他の配合量は実施例1と同じとしたものである。この実施例5における配合では、プラスチゾル組成物中に塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aの含有量が24.7質量%である。また、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを100質量部に対して膨張温度が低温側の熱膨張性マイクロカプセルAが2.95質量部、膨張温度が高温側の熱膨張性マイクロカプセルBが2.05質量部、中空フィラが26.59質量部の割合で配合されている。
実施例6は、実施例1と比較して、膨張温度が低温側の熱膨張性マイクロカプセルAの配合量のみを変えたものである。即ち、実施例1よりも膨張温度が低温側の熱膨張性マイクロカプセルAの配合量を多くし、その他の配合量は実施例1と同じとしたものである。この実施例6における配合では、プラスチゾル組成物中における塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aの含有量が29.0質量%である。また、この塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを100質量部に対して、膨張温度が低温側の熱膨張性マイクロカプセルAが3.09質量部、膨張温度が高温側の熱膨張性マイクロカプセルBが1.64質量部、中空フィラが21.27質量部の割合で配合されている。
実施例7は、実施例1と比較して、膨張温度が高温側の熱膨張性マイクロカプセルBの配合量のみを変えたものである。即ち、実施例1よりも膨張温度が高温側の熱膨張性マイクロカプセルBの配合量を多くし、その他の配合量は実施例1と同じとしたものである。この実施例7における配合では、プラスチゾル組成物中における塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aの含有量が29.0質量%である。また、この塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを100質量部に対して膨張温度が低温側の熱膨張性マイクロカプセルAが2.36質量部、膨張温度が高温側の熱膨張性マイクロカプセルBが2.36質量部、中空フィラが21.27質量部の割合で配合されている。
一方、表2の上段で示したように、比較例1の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを配合せず、平均重合度が1800、酢酸ビニル残基含有量が7質量%以上、8質量%未満の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Bを含有した塩化ビニル系樹脂ペーストを配合したものである。この比較例1では、樹脂Bの塩化ビニル系樹脂ペーストの配合量を実施例1で配合した樹脂Aの塩化ビニル系樹脂ペーストの配合量と同一とした。そのほかの配合は、実施例1と同じである。
この比較例1の配合においては、プラスチゾル組成物中に塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Bの含有量が29.1質量%である。そして、この塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Bを100質量部に対して膨張温度が低温側の熱膨張性マイクロカプセルAが2.36質量部、膨張温度が高温側の熱膨張性マイクロカプセルBが1.64質量部、中空フィラが21.27質量部の割合で配合されている。
比較例2の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、実施例で用いた膨張開始温度が90~100℃、最大膨張温度が125~135℃である熱膨張性マイクロカプセルAに替えて、膨張開始温度が70~80℃、最大膨張温度が110~120℃である熱膨張性マイクロカプセルC(松本油脂製薬(株)製;『マツモトマイクロスフェアーF-36D』(平均粒子径(商品表示)が10~16μm,120℃×10分での膨張倍率が8倍)を用いたものである。この比較例2では、熱膨張性マイクロカプセルCの配合量を実施例1で配合した熱膨張性マイクロカプセルAと同一量とした。そのほかの配合は、実施例1と同じである。
この比較例2の配合においては、プラスチゾル組成物中に塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aの含有量が29.1質量%である。そして、この塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを100質量部に対して、膨張温度が低温側の熱膨張性マイクロカプセルCが2.36質量部、膨張温度が高温側の熱膨張性マイクロカプセルBが1.64質量部、中空フィラが21.27質量部の割合で配合されている。
比較例3の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、実施例で用いた膨張開始温度が10~115℃、最大膨張温度が150~165℃である熱膨張性マイクロカプセルBに替えて、膨張開始温度が120~135℃、最大膨張温度が175~185℃である熱膨張性マイクロカプセルD(松本油脂製薬(株)製;『マツモトマイクロスフェアーFN-105』、平均粒子径(商品表示):35~45μm)を用いたものである。この比較例3では、熱膨張性マイクロカプセルDの配合量を実施例1で配合した熱膨張性マイクロカプセルBと同一量とした。そのほかの配合は、実施例1と同じである。
この比較例3の配合においては、プラスチゾル組成物中に塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aの含有量が29.1質量%である。そして、この塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを100質量部に対して、膨張温度が低温側の熱膨張性マイクロカプセルAが2.36質量部、膨張温度が高温側の熱膨張性マイクロカプセルDが1.64質量部、中空フィラが21.27質量部の割合で配合されている。
また、比較例4の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、実施例1と比較し、熱膨張性マイクロカプセルとして、膨張開始温度が90~100℃、最大膨張温度が125~135℃である熱膨張性マイクロカプセルAのみを使用したものである。この比較例4では、熱膨張性マイクロカプセルAの配合量は実施例1と同一である。熱膨張性マイクロカプセル以外の配合は、実施例1と同じである。
この比較例4の配合においては、プラスチゾル組成物中に塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aの含有量が29.2質量%である。そして、この塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを100質量部に対して、熱膨張性マイクロカプセルAが2.36質量部、中空フィラが21.27質量部の割合で配合されており、熱膨張性マイクロカプセルBを含有しないものである。
更に、比較例5の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、実施例1と比較し、熱膨張性マイクロカプセルとして、膨張開始温度が100~115℃、最大膨張温度が150~165℃である熱膨張性マイクロカプセルBのみを使用したものである。この比較例5では、熱膨張性マイクロカプセルBの配合量は実施例1と同一である。熱膨張性マイクロカプセル以外の配合は、実施例1と同じである。
この比較例5の配合においては、プラスチゾル組成物中に塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aの含有量が29.1質量%である。そして、この塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを100質量部に対して、膨張温度が高温側の熱膨張性マイクロカプセルBが1.64質量部、中空フィラが21.27質量部の割合で配合されており、熱膨張性マイクロカプセルAを含有しないものである。
そして、これら実施例1乃至実施例7及び比較例1乃至比較例5の塩化ビニル系プラスチゾル組成物により形成される塗膜の特性(性能)を評価した。即ち、表1及び表2の下段に示したように、塗膜の接着性、伸び率、抗張力、耐チッピング性、防音性についての評価を実施した。また、実施例1乃至実施例7及び比較例1乃至比較例5に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物の貯蔵安定性、wet比重についても、評価を行った。なお、これらの評価を行うにあたり、表1及び表2に示した配合材料からなる各種の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、混合分散機のプラネタリーミキサーを用いて材料を均一に混合分散することにより調製を行った。
塩化ビニル系プラスチゾル組成物から形成された塗膜の接着性については、引っ張り剪断接着強さ試験で評価した。
具体的には、まず、電着塗装された鋼板からなる試験パネル(25mm×100mm×1.0mm)を2枚用意し、その1枚に混合調製された塩化ビニル系プラスチゾル組成物を塗布し、更に別の1枚を平行に重ね合わせて直線状に接合し、それら試験パネルを120℃×14分間の焼付け条件、または、140℃×20分間の焼付け条件で乾燥機による加熱乾燥を行うことで、試験パネルに塗布した塩化ビニル系プラスチゾル組成物のコーティング膜(塗布膜)を加熱硬化させ、接着力測定用の試験サンプルを作製した。なお、ここでは、加熱硬化した塗膜の厚みが3mmとなるように塩化ビニル系プラスチゾル組成物の塗布を行った。
そして、接着力の測定では、引張り試験機(島津製作所製)を用いて、試験サンプルに対し、それが破断するまで長手方向に引張り(引張速度50mm/分)、破断した時の剪断接着力(MPa)を測定すると共に、破断面を目視で観察し、破壊の状態、即ち、凝集破壊(CF)または界面破壊(AF)の判定を行った。試験サンプルが判断したときの剪断接着力が0.2MPaを超え、破壊形態が凝集破壊(CF)であれば接着性が良好であると判断し、合格(○)と評価した。剪断接着力が0.2MPa以下であったり、破壊形態が界面破壊(BF)であったりした場合には、接着性が低いと判断し不合格(×)と評価した。
伸び率及び抗張力の測定に際しては、まず、表面が平滑な厚さ0.8~1.0mmの鋼板に離型紙を貼付け、その上に混合調製した塩化ビニル系プラスチゾル組成物を気泡が入らないように厚さ2~3mmで塗布し、そして、乾燥機で120℃×14分間、または、140℃×20分間の焼付けを行った。その後、室温(常温)で20~24時間放置したのち、JIS K6251に規定されたダンベル2号形で打ち抜きを行って、伸び率及び抗張力測定用の試験片を作製した。
伸び率及び抗張力の測定では、試験片の長軸方向の中央から片側10mmの位置に2本標線を付し(標線間距離は20mm)、標線が付された試験片を万能引張試験機につかみ間隔50mmで取付けた。そして、室温(20℃)下で、引張速度50mm/分の速さで引張り、試験片の塗膜が破断した時の最大荷重及び標線間隔距離を測定し、次式(1)により伸び率(チャック間距離に対する引張前のチャック間距離の比率(%))を算出し、また、次式(2)により抗張力(引張り強さ)を算出した。
伸び率(%)=(破断時の標線間の長さ(mm)-20)÷20×100
・・(1)
抗張力(MPa=N/mm2)=最大荷重(N)÷試験片の断面積(mm2)
・・(2)
このときの伸び率は、それが大きいほど破断するまでの伸びが大きいとされ、100%以上であれば合格(〇)と判断し、100%未満を不合格(×)と判断した。
また、抗張力は、0.2MPa以上であれば合格(〇)と判断し、0.2MPa未満を不合格(×)と判断した。
耐チッピング性については、70mm×150mm×0.8mmの電着塗装鋼板に対し、混合調製後の塩化ビニル系プラスチゾル組成物を1mmの厚みで塗布し、乾燥機で120℃×14分間、または、140℃×20分間の焼付けを行った。その後、20℃に冷却し、硬化した塗膜が形成された鋼板をその載置面に対して60°の角度に固定した。そして、鋼板の塗膜中央部の上2mの高さから、JIS B 1181に規定されたM4真鍮ナットを、直径2cmのパイプを通して落下させ、塗膜の素地に達する穴があいた時点で落下させたナットの総重量を測定した。ナット落下重量40kg以上でも塗膜にチッピングが生じない場合は合格(〇)と判断し、ナット落下重量40kg未満で塗膜にチッピングが生じた場合には不合格(×)と判定した。
防音性については、まず、300mm×300mm×1.6mmの電着塗装鋼板の表面における中央部分の190mm×190mmの範囲に、混合調製後の塩化ビニル系プラスチゾル組成物を1.3mmの膜厚で塗装し、乾燥機で120℃×14分間、または、140℃×20分間で焼付けを行い、その後、20℃に冷却することで、硬化した塗膜が形成された試験用塗装板を作製した。
そして、この試験用塗装板をその載置面(基準面)に対して45°の角度で保持し、試験用塗装板の塗膜中央部の上2mの高さから直径8mmの鋼球を落下させ、鋼球が試験用塗装板の塗膜に衝突した時の衝撃音を、試験用塗装板の中心から横水平方向に200mm離れた位置に設置したマイクロホンにより測定した。このときの衝撃音が75dB以下であった場合には合格(〇)と判断し、75dBを超えた場合には不合格(×)と判定した。なお、衝撃音の測定は、以下の条件にて実施した。
測定条件:Chシングルモード(800ライン)、周波数レンジ10kHz
データ取り込み条件:時間長80ms
窓関数:矩型ウインドウ
8回平均周波数分析:1/3オクターブ
A特性補正
プラスチゾル組成物の貯蔵安定性(粘度安定性)については、粘度測定器としてB型回転粘度計(東機産業(株)製)を用い、35℃で10日間、容器にて密閉保存(静置)したときの初期からの増粘率(粘度変化率)で評価した。即ち、調製後の塩化ビニル系プラスチゾル組成物について20℃における初期粘度をB型回転粘度計(20rpmで1分)で測定した後、この塩化ビニル系プラスチゾル組成物を密閉容器に入れて35℃で10日間保存し、その後、20℃まで冷却して、初期と同様、B型回転粘度計(20rpmで1分間)で粘度を測定した。そして、初期からの増粘率を次式(3)にしたがって算出した。
増粘率(%)=[(10日後の粘度-初期粘度)÷初期粘度]×100 ‥‥(3)
このときの増粘率が30%以下のものは合格(〇)と判断し、35%を超えるものは不合格(×)と判定した。
また、比重については、混合調製後の塩化ビニル系プラスチゾル組成物のWet比重を、比重カップ法により20℃で測定し算出(重量/体積)した。Wet比重が1.10以下のものを合格(〇)と判断し、1.10を超えるものは不合格(×)と判定した。
表1の下段に示したように、実施例1乃至実施例7に係るプラスチゾル組成物では、何れも、プラスチゾル組成物のWet比重が1.10以下と低比重であり、また、35℃で10日間保存したときの増粘率が30%以下と低くて貯蔵安定性に優れていた。よって、夏季の高温時における長期間の保存にも耐えることができ、自動車用アンダーコート等として好適である。
そして、自動車の塗装工程における現状の焼付け条件として、即ち、電気加熱炉で一般的な車体外板部の中塗り塗装または仕上げ塗装の現状の焼付け条件として、例えば、140℃×20分間の焼付け条件が採用されているところ、実施例1乃至実施例7に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、何れも、140℃×20分間の焼付けにより得られた塗膜のみならず、現状の焼付けよりも低温短時間の焼付け条件である120℃×14分間の焼付けにより得られた塗膜においても、防音性、耐チッピング性、軽量性及び接着性が合格(○)の評価であった。
即ち、実施例1乃至実施例7に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、120℃×14分間の条件で焼付けられた塗膜及び140℃×20分間の条件で焼付けられた塗膜の何れにおいても、鋼球を衝突させた防音性試験にて75dB以下の高い防音性を示した。
更に、120℃×14分間の焼付けを行って形成された塗膜及び140℃×20分間の焼付けを行って形成された塗膜の何れにおいても、その伸び率が100%以上であり、また、抗張力が、0.2MPa以上であり、耐チッピング試験の落下ナット重量40kg以上でもチッピングが生じない結果となり、これら高い伸び率、高い抗張力及びナット落下の耐チッピング試験により優れた耐チッピング性を示すことが分かった。
加えて、120℃×14分間の条件で焼付けられた塗膜及び140℃×20分間の条件で焼付けられた塗膜の何れにおいても、接着性試験において破断した時の剪断接着力が0.2MPa以上でその破壊状態も凝集破壊(CF)であり高い接着性が示された。
このように、実施例1乃至実施例7に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物では、120℃×14分間の焼付け条件及び140℃×20分間の焼付け条件の何れの焼付け条件でも所望の塗膜物性(防音性、伸び率、抗張力、耐チッピング性、接着性、軽量性)を満足し、また同時に、プラスチゾル組成物の貯蔵安定性を満足するものであった。
即ち、実施例1乃至実施例7に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、120℃×14分間の条件で焼付けられた塗膜及び140℃×20分間の条件で焼付けられた塗膜の何れにおいても、比重が小さい中空フィラの配合と熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張による塗膜重量を増大させることのない厚膜化により高い軽量性を備えたうえ、焼付け条件に対応して膨張の温度条件を異にする熱膨張性マイクロカプセルA及び熱膨張性マイクロカプセルBの体積膨張による塗膜の厚膜化によって自動車用アンダーコート等として要求される防音性を十分に満足し、更に、所定の平均重合度及び酢酸ビニル残基含有量の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂の配合により伸び率、抗張力、耐チッピング性を十分に満足するものである。また、被塗布物に対する接着性も良好であり、その高い伸び率からして振動耐久性にも優れるものである。
これに対し、表2の下段に示したように、比較例1乃至比較例5に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物では、自動車用アンダーコート等として要求される塗膜の物性、特性に不足があり、実用に適さない結果となった。
即ち、実施例1乃至実施例7で配合した平均重合度が1900であり、酢酸ビニル残基含有量が9質量%である塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aに替えて平均重合度が1800であり、酢酸ビニル残基含有量が7%以上、8質量%未満の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Bを用いた比較例1では、上記評価試験のうち、120℃×14分間の焼付け条件で得られた塗膜及び140℃×20分間の焼付け条件で得られた塗膜の何れも、その伸び率が不足していた。伸び率が不足すると、塗膜の強靭性や柔軟性に劣り、基材の振動等に対する追従性が低くて塗膜割れが生じやすかったり、所望とする高い耐チッピング性を確保できなくなったりし、塗膜性能に劣るものとなる。このため、比較例1では、実施例1よりも耐チッピング性能に劣る結果となっている。
この比較例1と実施例1~7との比較から、平均重合度及び酢酸ビニル残基含有量が特定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を用いることで、120℃×14分間の焼付け条件で焼付けてなる塗膜及び140℃×12分間の焼付け条件で焼付けてなる塗膜の何れも、高い伸び率を有するものとなることが分かる。即ち、実施例1~7で用いた塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aによれば、その平均重合度が1800~2300の範囲内にあり、酢酸ビニル残基含有量が8質量%以上、10質量%以下の範囲内にあることで、可塑剤との相溶性が良くて低温で可塑剤を吸収し始め、それにより低温の焼付け条件でも塗膜の所定の伸び率が確保されるものと推測される。そして、低温で可塑剤の吸収が促進されることにより低温でも溶融が進行することになるから、現状の焼付け条件よりも低温短時間の焼付け条件としても、塗膜の溶融が十分に均一になっていることで、強靭なものとなり、十分に高い耐チッピング性を発揮できるものと考えられれる。
このように、1800~2300の範囲内の平均重合度であり、8質量%以上、10質量%以下の範囲内の酢酸ビニル残基含有量である塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を配合したプラスチゾル組成物によれば、120℃×14分間及び140℃×20分間の何れの焼付け条件でも、高い伸び率、抗張力を有する強靭な塗膜を形成できて、所望とする高い耐チッピング性を確保することができる。なお、実施例3及び実施例4の比較からも、平均重合度が1900であり、酢酸ビニル残基含有量が9質量%である塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aの使用による伸び率の向上効果が分かる。
また、熱膨張性カプセルとして、膨張開始温度が100~115℃、最大膨張温度が150~165℃である熱膨張性マイクロカプセルBと膨張開始温度が70~80℃、最大膨張温度が110~120℃である熱膨張性マイクロカプセルCとを併用した比較例2では、上記評価試験のうち、140℃×20分間の焼付け条件で得られた塗膜の物性は良好な結果であるも、120℃×14分間の条件で焼付けてなる塗膜では、実施例より防音性に劣る結果となった。これは、120℃×14分間の焼付け条件では、膨張開始温度が100~115℃、最大膨張温度が150~165℃である熱膨張性マイクロカプセルBは膨張途中で十分に高い膨張倍率まで膨張していないうえ、膨張開始温度が70~80℃、最大膨張温度が110~120℃である熱膨張性マイクロカプセルCは最大膨張に達した後に収縮に転じたことで塗膜が薄膜化し、所望の厚膜とならなかったためである。
更に、熱膨張性マイクロカプセルとして、膨張開始温度が90~100℃、最大膨張温度が125~135℃である熱膨張性マイクロカプセルAと膨張開始温度が120~135℃、最大膨張温度が175~185℃である熱膨張性マイクロカプセルDとを併用した比較例3では、上記評価試験のうち、120℃×14分間焼付けてなる塗膜の物性は良好な結果であるも、140℃×20分間の焼付け条件で焼付けてなる塗膜では、実施例より防音性に劣る結果となった。これは、140℃×20分間の焼付け条件では、膨張開始温度が90~100℃、最大膨張温度が125~135℃である熱膨張性マイクロカプセルAは最大膨張に達した後に収縮に転じているうえ、膨張開始温度が120~135℃、最大膨張温度が175~185℃である熱膨張性マイクロカプセルDは膨張途中で十分に高い膨張倍率まで膨張しておらず、所望の厚膜とならなかったためである。
更にまた、熱膨張性マイクロカプセルとして、膨張開始温度が90~100℃、最大膨張温度が125~135℃である熱膨張性マイクロカプセルAのみを使用した比較例4では、上記評価試験のうち、120℃×14分間の焼付け条件で焼付けてなる塗膜の物性は良好な結果であるも、140℃×20分間の焼付け条件で焼付けてなる塗膜では、実施例より防音性が劣る結果となった。この比較例4においては、140℃×20分間の焼付け条件では、膨張開始温度が90~100℃、最大膨張温度が125~135℃である熱膨張性マイクロカプセルAは最大膨張に達した後に収縮に転じたことで塗膜が薄膜化し、所望の塗膜厚みが得られないことにより、防音性が低いものである。
加えて、熱膨張性マイクロカプセルとして、膨張開始温度が100~115℃、最大膨張温度が150~165℃である熱膨張性マイクロカプセルBのみを使用した比較例5では、上記評価試験のうち、140℃×20分間の焼付け条件で焼付けてなる塗膜の物性は良好な結果であるも、120℃×14分間の焼付け条件で焼付けてなる塗膜では、実施例より防音性が劣る結果となった。この比較例5においては、120℃×14分間の焼付け条件では、膨張開始温度が100~115℃、最大膨張温度が150~165℃である熱膨張性マイクロカプセルBは膨張途中で十分に高い膨張倍率まで膨張していないことで所定の塗膜厚みとならず、防音性が低いものである。
こうして、比較例2~比較例5との比較から、実施例1~実施例7では、熱膨張性マイクロカプセルとして、膨張開始温度が90~100℃、最大膨張温度が125~135℃である熱膨張性マイクロカプセルA及び膨張開始温度が100~115℃、最大膨張温度が150~165℃である熱膨張性マイクロカプセルBを併用したことにより、車体に塗布したプラスチゾル組成物からなるコーティング膜を自動車の塗装工程における現状の焼付け条件(140℃×20分間)で焼付けたときでも、更には、現状の焼付け条件より低温短時間の焼付け条件(120℃×14分間)で焼付けたときでも、焼付けの加熱条件に対応した所定の熱膨張性マイクロカプセルA及び熱膨張性マイクロカプセルBの膨張によってコーティング膜が十分に厚膜化され、自動車用のアンダーコート等として要求される防音性能を満足できるものとなることが分かる。
なお、実施例1、実施例3及び実施例4を比較してみると、中空フィラや塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂の配合量が多いことで、伸び率が低下している。即ち、実施例3では、実施例1よりも塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを多くし、また、中空フィラの配合量を多くしたことで伸び率が低下している。但し、実施例3では、実施例1よりも塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを多く配合したことで、耐チッピング性は向上している。
また、実施例4では、実施例1の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aの配合量に加え、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Bを配合し、また、中空フィラの配合量を多くしたことで伸び率が低下しており、その低下量は、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Bの配合により実施例4の方が大きくなっている。但し、実施例4では、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を多く配合したことで、耐チッピング性は向上している。
こうして、実施例1、実施例3及び実施例4を比較してみると、中空フィラや塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂の配合量が増えると伸び率が低下する。伸び率が低下すると、塗膜の強靭性や柔軟性に劣り、基材の振動等に対する追従性が低くて塗膜割れが生じやすかったり、所望とする高い耐チッピング性を確保できなくなったりし、塗膜性能に劣るものとなる。このため、本発明者らの実験研究によれば、中空フィラの配合量は、平均重合度が1800~2300の範囲内にあり、酢酸ビニル残基含有量が8質量%以上、10質量%以下の範囲内にある塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を100重量部に対し、50質量部以下が好ましい。より好ましくは、35質量部以下であり、更に好ましくは、30質量部以下である。一方で、比重低減効果の観点からすれば、中空フィラの配合量は、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを100重量部に対し、10質量部以上が好ましく、より好ましくは、12質量部以上であり、更に好ましくは、15質量部以上である。
また、実施例1、実施例3、実施例4、及び実施例5の比較から、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aの配合量が少なくなると、耐チッピング性、抗張力、接着性が低下してくる。このため、本発明者らの実験研究によれば、平均重合度が1800~2300の範囲内にあり、酢酸ビニル残基含有量が8質量%以上、10質量%以下の範囲内にある塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂の含有量は、プラスチゾル組成物中において、5質量%以上が好ましく、より好ましくは、20質量%以上であり、更に好ましくは、24質量%以上である。これより、塗膜の良好な接着性、強度及び耐チッピング性を確保できる。一方で、貯蔵安定性、塗布作業性及び伸び率を確保する観点からして、所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂の含有量は、プラスチゾル組成物中において、50質量%以下が好ましく、より好ましくは、40質量%以下であり、更に好ましくは、35質量%以下である。
更に、実施例1及び実施例6の比較から、所定の熱膨張性マイクロカプセルAの配合量を多くすると、低温短時間(120℃×14分間)で焼付けてなる塗膜の伸び率や、耐チッピング性や、接着性が低下してくる。なお、実施例6では、低温短時間(120℃×14分間)で焼付けてなる塗膜において、実施例1より防音性が低下しているが、これは熱膨張性マイクロカプセルAの配合量の増大により伸び率が低下したことで、弾性が低下し、それのために、振動を吸収する防音性が低下したものと推測される。
また、実施例1及び実施例7の比較から、所定の熱膨張性マイクロカプセルBの配合量を多くしても、高温長時間(140℃×20分間)で焼付けてなる塗膜の伸び率や、耐チッピング性や、抗張力が低下してくる。なお、実施例7でも、高温長時間(140℃×20分間)で焼付けてなる塗膜において、実施例1より防音性が低下しているが、これも熱膨張性マイクロカプセルBの配合量の増大により伸び率が低下したことで、弾性が低下し、そのために、振動を吸収する防音性が低下したものと推測される。
このため、本発明者らの実験研究によれば、平均重合度が1800~2300の範囲内にあり、酢酸ビニル残基含有量が8質量%以上、10質量%以下の範囲内にある塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を100質量部に対し、膨張開始温度が85℃以上、110℃以下、かつ、最大膨張温度が120℃以上、140℃以下の範囲内である低温膨張マイクロカプセルは5質量部以下が好ましく、より好ましくは、3.5質量部以下であり、更に好ましくは、3.1質量部以下である。これより、現状の焼付け条件よりも低温短時間の焼付け条件で、塗膜の良好な接着性、伸び率及び耐チッピング性を確保しつつ、防音性が高く軽量な塗膜を得ることができる。
一方で、低温短時間の焼付け条件で防音性を確保する観点からして、所定の低温膨張マイクロカプセルは、所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を100質量部に対し、1質量部以上が好ましく、より好ましくは、1.5質量部以上であり、更に好ましくは、2質量部以上である。
また、平均重合度が1800~2300の範囲内にあり、酢酸ビニル残基含有量が8質量%以上、10質量%以下の範囲内にある塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を100質量部に対し、膨張開始温度が95℃以上、120℃以下の範囲内で、かつ、最大膨張温度が145℃以上、170℃以下の範囲内である高温膨張マイクロカプセルは4.5質量部以下が好ましく、より好ましくは、4質量部以下であり、更に好ましくは、3質量部以下である。これより、現状の高温長時間の焼付け条件で、塗膜の良好な接着性、強度及び耐チッピング性を確保しつつ、防音性が高く軽量な塗膜を得ることができる。
一方で、現状の高温長時間の焼付け条件で防音性を確保する観点からして、所定の高温膨張マイクロカプセルは、所定の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を100質量部に対し、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは、1質量部以上であり、更に好ましくは、1.5質量部以上である。
なお、所定の熱膨張性マイクロカプセルAは、所定の熱膨張性マイクロカプセルBの粒子径より小さく、最大膨張時の膨張倍率も小さいため、現状の高温長時間の焼付け条件及びそれよりも低温短時間の焼付け条件で塗布膜の厚膜化による防音性を確保するため低温膨張マイクロカプセル/高温膨張マイクロカプセルの配合率は、低温膨張マイクロカプセル/高温膨張マイクロカプセル=1~2が好ましく、より好ましくは、低温膨張マイクロカプセル/高温膨張マイクロカプセル=1~1.5である。
こうして、実施例1~実施例7の塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、所定の膨張開始温度及び最大膨張温度の熱膨張性マイクロカプセルA及び熱膨張性マイクロカプセルBの併用によって、現状の焼付け条件よりも低温短時間の焼付け条件(実施例1~7においては120℃×14分間維持で焼付け)であっても、更には、高温長時間である現状の焼付け条件(実施例1~7においては140℃×20分間維持で焼付け)であっても、熱膨張性マイクロカプセルA及び熱膨張性マイクロカプセルBの体積膨張を利用した塗膜の膨張による厚膜化により、防音性が確保されたものである。
また、所定の平均重合度及び酢酸ビニル残基含有量の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂は可塑剤との相溶性が大きく、可塑剤を吸収し易い特性であるから、低温条件で樹脂の溶融が均一に促進されることで、現状の焼付け条件より低温短時間化しても、塗膜の伸び率や抗張力(強度)が確保され、良好な耐チッピング性が得られた。
特に、熱膨張性マイクロカプセルAの膨張開始温度が85℃以上、110℃以下、かつ、最大膨張温度が120℃以上、140℃以下の範囲内であるから、低温側の焼付け温度(実施例1~7においては120℃×14分間維持で焼付け)においては低温膨張マイクロカプセルAを収縮する前の高い膨張率、大きなバルーンサイズとすることができ、また、熱膨張性マイクロカプセルBの膨張開始温度が95℃以上、120℃以下の範囲内で、かつ、最大膨張温度が145℃以上、170℃以下の範囲内であるから、高温側の焼付け温度(実施例1~7においては140℃×20分間維持で焼付け)においては高温膨張マイクロカプセルBを収縮する前の高い膨張率、大きなバルーンサイズとすることができ、それら低温膨張マイクロカプセルA及び高温膨張マイクロカプセルBの少ない配合量で所望の厚みの厚膜が得られた。
また、熱膨張性マイクロカプセルBの膨張開始温度が熱膨張性マイクロカプセルAの最大膨張温度よりも低い温度に設定されていることで、低温短時間の焼付け条件では、最大膨張状態または最大膨張に近い状態の熱膨張性マイクロカプセルAに加え、膨張途中の熱膨張性マイクロカプセルBによっても塗膜の膨張を可能とするから、低温膨張マイクロカプセルの少ない配合量で低温短時間(実施例1~7においては120℃×14分間維持で焼付け)で焼付けたときの塗膜の厚膜化が確保された。
更に、所定の平均重合度及び酢酸ビニル残基含有量である塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂Aを用いたことで、低温で塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂の溶融が進行されるから、現状の焼付け条件より低温短時間化されても、塗膜中の低温膨張カプセルAを十分に膨張させることができる。このため、低温膨張カプセルAの少ない配合量でも塗膜を十分に厚膜化できる。
更に、中空フィラが配合されていることで熱膨張性マイクロカプセルA,Bを多量に配合せずとも低比重化が実現された。
こうして、実施例1~実施例7の塩化ビニル系プラスチゾル組成物においては、熱膨張性マイクロカプセルA,Bの少ない配合量で塗膜の厚膜化による防音性及び軽量性を確保できることでも、塗膜の伸び率や抗張力(強度)を確保して、優れた耐チッピング性を得ることができた。
更に、実施例1~実施例7の塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、このように中空フィラの配合及及び熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張による塗膜の厚膜化によって、塗布重量を増大させることなく低比重化が実現され、防音性及び軽量性を兼ね備えた塗膜となる。
こうして、実施例1~実施例7の塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、広範囲の温度条件で塗膜の防音性及び低比重化を確保しつつ、耐チッピング性も良好である。
以上説明してきたように、上記実施の形態及びその実施例に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、少なくとも、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂と、その可塑剤と、加熱により膨張する熱膨張性マイクロカプセルと、中空フィラとを含有し、加熱によって硬化した塗膜となる塩化ビニル系プラスチゾル組成物であって、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂は、平均重合度が1800~2300の範囲内であり、酢酸ビニル残基含有量が8質量%以上、10質量%以下であり、熱膨張性マイクロカプセルは、膨張開始温度が85℃以上、110℃以下、かつ、最大膨張温度が120℃以上、140℃以下の範囲内である低温膨張マイクロカプセルと、低温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度より高く最大膨張温度より低い温度で膨張が開始し、その膨張開始温度が95℃以上、120℃以下の範囲内で、かつ、最大膨張温度が低温膨張マイクロカプセルよりも高い温度の145℃以上、170℃以下の範囲内である高温膨張マイクロカプセルとの併用であるものである。
上記実施の形態及びその実施例に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、熱膨張性マイクロカプセルとして、膨張開始温度が85℃以上、110℃以下、かつ、最大膨張温度が120℃以上、140℃以下の範囲内である低温膨張マイクロカプセルと、低温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度より高く最大膨張温度より低い温度で膨張が開始し、その膨張開始温度が95℃以上、120℃以下の範囲内で、かつ、最大膨張温度が低温膨張マイクロカプセルよりも高い温度で145℃以上、170℃以下の範囲内である高温膨張マイクロカプセルとを併用したことから、所定部位への塗布後に塗装工程で焼付けをすると、その焼付け乾燥時の熱によって、最初に、低温膨張マイクロカプセルが膨張を開始し、更に温度が上昇すると、次に、高温膨張マイクロカプセルが膨張を開始する。
ここで、焼付け乾燥時の熱による温度上昇に伴い、それら低温膨張マイクロカプセル及び高温膨張マイクロカプセルの膨張は次第に大きくなり、所定の温度で、膨張が完了して膨張倍率が最大となるが、高温膨張マイクロカプセルの膨張開始温度が、低温膨張マイクロカプセルの最大膨張温度よりも低い温度であるから、低温膨張マイクロカプセルの膨張が完了、最大となる前に、高温膨張マイクロカプセルの膨張が始まる。
そして、低温膨張マイクカプセルの最大膨張温度は、120℃以上、140℃以下の範囲内にあり、高温膨張マイクカプセルの最大膨張温度は、145℃以上、170℃以下の範囲内にあるものであるから、自動車の塗装工程における現状の焼付け乾燥条件、例えば、130℃~140℃で15~20分間維持の焼付け条件よりも低温短時間の焼付け乾燥条件、例えば、120~125℃の温度で5~15分間で焼付けたときには、高温膨張マイクカプセルが膨張途中であるのに対し、低温膨張マイクロカプセルは膨張の完了に近い状態または膨張が完了しその最大膨張状態が保持されている状態、即ち、内部に含まれていた気化物質が気化し内圧と殻(シェル)の圧が釣り合った膨張状態を保持している中空状のマイクロバルーンの状態にある。したがって、現状の焼付け乾燥条件より低温短時間化したときでも、大きく膨張したこの低温膨張マイクロカプセルにより、更には、膨張途中の高温膨張マイクロカプセルにより、所定部位に塗布したプラスチゾル組成物のコーティング膜は膨張して厚膜となり、防音性を確保できる。
また、高温膨張マイクカプセルの最大膨張温度が、145℃以上、170℃以下の範囲内にあることで、現状の焼付け乾燥条件、例えば、130℃~140℃で15~20分間維持の焼付け条件で焼付けたときでも、高温膨張マイクロカプセルが膨張の完了に近い状態または膨張が完了しその最大膨張状態が保持されている状態、即ち、内部に含まれていた気化物質が気化し内圧と殻(シェル)の圧が釣り合った膨張状態を保持している中空状のマイクロバルーンの状態にある。したがって、現状の焼付け乾燥条件においては、低温膨張マイクロカプセルが最大膨張に達した後に収縮に転じていたとしても、大きく膨張した高温膨張マイクロカプセルにより、所定部位に塗布したプラスチゾル組成物のコーティング膜は膨張して厚膜となり、防音性を確保できる。
即ち、低温膨張マイクロカプセルのみでは、現状の焼付け乾燥条件とすると、最大膨張に達したのち収縮に転ずるために薄膜となり、防音性を確保できず現状の焼付け条件に対応できないが、高温膨張マイクロカプセルを併用していることによって、現状の焼付け乾燥条件において、低温膨張マイクロカプセルが収縮に転じても、高温膨張マイクロカプセルのバルーンによって、所定の厚膜を保持して防音性を確保できる。
こうして、焼付け条件が低温短時間化されても、更には、現状の高温長時間の焼付け条件であっても、低温膨張マイクロカプセル及び高温膨張マイクロカプセルの体積膨張を利用して厚膜化できることで塗布重量を増大させることなく安定して防音性が高い塗膜を形成できる。更には中空フィラを配合していることで、極めて比重が小さくて軽量である塗膜を形成できる。
更に、平均重合度が1800~2300の範囲内にあり、酢酸ビニル残基含有量が8質量%以上、10質量%以下である塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂を用いたことによって、そのような塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂では可塑剤を吸収しやすい特性であることで、より低温側で溶融の進行が促進されるから、焼付け条件が低温短時間化されても、良好な伸び率を得ることができ、良好な耐チッピング性を確保できる。
こうして上記実施の形態及びその実施例に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、広範囲の焼付け温度条件で、防音性が高く、かつ、軽量でありながら耐チッピング性が良好な塗膜を形成できる。そして、塗膜の低比重化によって車両の軽量化を図ることができることから、自動車等の燃料の向上にも貢献できる。
また、熱膨張性マイクロカプセルは、塗装条件や加熱硬化時の粘度等の影響を殆ど受けることなく膨張して均一で小さな独立気泡の中空状のマイクロバルーンとなる。即ち、中空状のマイクロバルーンの気泡制御が容易であることから、上記実施の形態及びその実施例に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、塗膜の特性も安定する。
ここで、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂は、プラスチゾル組成物中に固形分換算で10質量%~50質量%の範囲内で含有するのが好ましい。より好ましくは、15質量%~40質量%の範囲内であり、更に好ましくは、20質量%~35質量%の範囲内である。そのような範囲内であれば、プラスチゾル組成物の夏季の高温時における長期間の保存にも耐えうる優れた良好な貯蔵安定性を確保でき、かつ、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラが添加されていても自動車用のアンダーコート等に要求される耐ピッチング性及び接着性を十分に確保できる塗膜となる。
また、熱膨張性マイクロカプセルは、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂(固形分)100質量部に対し、低温膨張マイクロカプセルが1質量部~5質量部の範囲内で配合され、高温膨張マイクロカプセルが0.5質量部~4.5質量部の範囲内で配合されるのが好ましい。当該範囲内であれば、現状の焼付け条件においても、更には、現状の焼付け条件より低温短時間の焼付け条件においても、塗膜の伸び率や耐チッピング性を損なうことなく、低温膨張マイクロカプセル及び高温膨張マイクロカプセルの膨張による塗膜の十分な厚膜化効果(塗膜の膨張率)を得て優れた防音性を確保できる。
より好ましくは、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂(固形分)100質量部に対し、低温膨張マイクロカプセルの配合量が1.5~3.5質量部、更に好ましくは、2~3.1質量部の範囲内であり、高温膨張マイクロカプセルの配合量が、より好ましくは、1~4質量部、更に好ましくは、1.5~3質量部の範囲内である。
更に、熱膨張性マイクロカプセルは、低温膨張マイクロカプセルの中位径が5~20μmの範囲内にあり、高温膨張マイクロカプセルの中位径が30~50μmの範囲内にあるものが好ましい。当該範囲内にあれば、自動車用のアンダーコート等に要求される良好な耐チッピング性を維持しながら、十分な膨張が得られて安定した防音性が発揮される。
より好ましくは、低温膨張マイクロカプセルの中位径が7~18μm、更に好ましくは、9~15μmの範囲内にあるものであり、高温膨張マイクロカプセルの中位径が、より好ましくは、32~48μm、更に好ましくは、35~45μmの範囲内にあるものである。
また、中空フィラは、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂(固形分)100質量部に対し、10質量部~50質量部の範囲内で配合されるのが好ましい。当該範囲内であれば、自動車用のアンダーコート等に要求される塗膜の伸び率や耐チッピング性を損なうことなく、低比重化効果が得られる。
より好ましくは、中空フィラの配合量が塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂(固形分)100質量部に対し、12質量部~35質量部の範囲内、更に好ましくは、15質量部~30質量部の範囲内である。
更にまた、中空フィラは、その粒径が中位径で10μm~80μmの範囲内にあり、真比重が0.1~0.8の範囲内であるものが好ましい。中空フィラの中位径が10μm~80μmの範囲内にあれば、所望の耐圧強度を有しスプレー塗装等によっても破壊され難く、塗膜強度等の特性を確保できる。また、中空フィラの真比重が0.1~0.8の範囲内であれば、取扱性や作業性が良好で、少ない配合量でも高い軽量効果が得られ、かつ、耐チッピング性を確保できる。よって、塗布作業性を損なうことなく、塗膜強度、耐チッピング性等の塗膜性能を確保しつつ、安定して高い比重低減効果が得られる。そして、このように粒径が中位径で10μm~80μmの範囲内にあり、真比重が0.1~0.8の範囲内である中空フィラの配合では、塗布作業性を損なうことなく、軽量でありながら塗膜の良好な耐チッピング性及び強度を確保できる。
なお、上記実施の形態及び実施例では、自動車用アンダーコート等の塗料としての適用について説明してきたが、それ以外、例えば、シーリング剤や接着剤等としての適用も可能である。
更に、本発明を実施するに際しては、塩化ビニル系プラスチゾル組成物のその他の部分の構成、成分、配合、材質、製造方法等についても、本実施例に限定されるものではない。そして、本発明の実施の形態及び実施例で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。