JP7177637B2 - 有機顔料処理装置及び有機顔料処理方法 - Google Patents
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Description
有機顔料の色や着色性能は、有機顔料の結晶形や粒子径の影響を受けやすい。例えば、有機顔料粒子は合成や粉砕処理された直後において、一次粒子が小さすぎると分散性や発色性に劣るものとなりやすい。また、結晶多形を示す有機顔料の場合は、結晶形によって色味が異なるために、結晶形が揃っていない状態では着色剤として用いることはできない。そのため、一般的に有機顔料は、製造段階において所望の結晶形や粒径へと制御する仕上げ処理(顔料化工程とも称す)を経て製造される。
顔料化工程に用いられる装置として、例えば、ロールミル、ジェットミル、ピンミル、ニーダー、エクストルーダー、アトライター、サンドミル、ピンミル、ジェットミル、バッチ反応釜、連続槽などが挙げられる。これらの装置により有機顔料粒子に対して粉砕、摩砕、加熱などのエネルギーを投入することができる。
加熱操作を精密制御する方法として、従来から、微細流路(例えば内径数十μm~1mm程度)を処理場とするマイクロリアクターが知られている。マイクロリアクターを用いた処理系では、微細流路を外側から加熱し、流路壁面からの熱伝導により流路内部の有機顔料粒子を加熱する。しかし、微細流路ゆえに処理能力が限定的であり、目的の有機顔料粒子の量産には不向きである。さらにマイクロリアクターは有機顔料粒子による流路の閉塞の問題も発生しやすく、この流路の閉塞は連続運転における大きな問題となる。
流路壁面を介した熱伝導に頼らずエネルギーを供給する方法としてはマイクロ波照射の利用が挙げられる。なかでもマイクロ波の定在波を利用して電界強度が極大となる部分に沿って有機顔料粒子を配して加熱することにより、加熱のエネルギー効率を格段に高めることができる。例えば、特許文献1には、2.45GHzのマイクロ波に基づいて設計されたシングルモードキャビティ(空胴共振器)を用いて形成した定在波によって、内径1mmの流通管内を流通する有機顔料粒子の分散液を加熱し、有機顔料粒子を所望の結晶形へと変換させることが記載されている。
[1]
空胴共振器と、該空胴共振器内を貫通し有機顔料粒子が流通する流通管とを備える有機顔料処理装置であって、
前記空胴共振器内には300~1000MHzの周波数のマイクロ波が照射されて、該空胴共振器内にTM0n0(nは1以上の整数)又はTE10n(nは1以上の整数)のシングルモードの定在波が形成され、
前記流通管は前記定在波の電界強度が極大となる部分に沿って配され、該流通管内の少なくとも一部に、該流通管内を流通する前記有機顔料粒子の流れを整流する整流機構を有する有機顔料処理装置。
[2]
前記流通管を、前記有機顔料粒子の分散液が流通する[1]に記載の有機顔料処理装置。
[3]
前記分散液の分散媒が前記定在波によって発熱する物質であり、及び/又は、前記分散液が前記定在波によって発熱する物質を含有する[2]に記載の有機顔料処理装置。
[4]
前記定在波による電界強度が一定となる方向に対して直交する方向において、前記流通管内の最大径が3mm以上100mm以下である[1]~[3]のいずれかに記載の有機顔料処理装置。
[5]
前記流通管の出口に背圧弁を備える[1]~[4]のいずれかに記載の有機顔料処理装置。
[6]
前記有機顔料粒子を、前記有機顔料粒子の粒子成長及び/又は結晶転移が生じる温度以上に加熱する[1]~[5]のいずれかに記載の有機顔料処理装置。
[7]
前記有機顔料処理装置は、
前記空胴共振器が直列に複数配され、該複数の空胴共振器には、各空胴共振器に対してマイクロ波が各別に供給され、
前記流通管は、前記複数の空胴共振器の直列連結方向でかつ該複数の空胴共振器内に形成される定在波の電界強度が極大となる部分に沿って、該複数の空胴共振器を貫通して配される[1]~[6]のいずれかに記載の有機顔料処理装置。
[8]
空胴共振器内に915MHz帯の周波数のマイクロ波を照射して、該空胴共振器内にTM0n0(nは1以上の整数)又はTE10n(nは1以上の整数)のシングルモードの定在波を形成し、該定在波の電界強度が極大となる部分に沿って配された流通管内を流通する有機顔料粒子を整流しながら加熱することを含む、有機顔料処理方法。
[9]
前記有機顔料粒子を、前記有機顔料粒子の粒子成長及び/又は結晶転移が生じる温度以上に加熱する[8]に記載の有機顔料処理方法。
[10]
前記流通管に前記有機顔料粒子の分散液を流通させる[8]又は[9]に記載の有機顔料処理方法。
[11]
前記分散液は、導電率が10-5S/m以上もしくは誘電損率が0.01以上である[10]に記載の有機顔料処理方法。
[12]
前記分散液の分散媒が前記定在波によって発熱する物質であり、及び/又は、前記分散液が前記定在波によって発熱する物質を含有する[10]又は[11]に記載の有機顔料処理方法。
[13]
前記有機顔料粒子は、前記定在波によって加熱される前の平均粒径が5000nm以下である[8]~[12]のいずれかに記載の有機顔料処理方法。
図1に示すように、有機顔料処理装置1(1A)は、空胴共振器2、該空胴共振器2に設けたマイクロ波供給口3、及び該空胴共振器2内に定在波を形成することができる周波数のマイクロ波を発生するマイクロ波発生器4を有する。このマイクロ波発生器4には、マイクロ波電力を増幅する増幅器(図示せず)を備えてもよい。
例えば、円筒型のマイクロ波照射空間2Aの中心軸Cにおいて、空胴共振器2内に形成される定在波のエネルギー(電界)強度が極大となる。また中心軸C方向に定在波のエネルギーが均一となる。このエネルギーが極大でありかつ均一となる部分(本発明において「エネルギーが極大でありかつ均一となる部分」という場合、エネルギーが極大でありかつ均一となる部分とその近傍を含む意味である)に流通管6が配される。流通管6は、好ましくは円管状をなしている。流通管6の流路6A(内部空間6A)内には有機顔料粒子が流通する。この有機顔料粒子は、分散媒中に分散された分散液31として流路6A内を流通することが好ましい。以下、有機顔料粒子の分散液を流通させる形態について説明する。
マイクロ波発生器4から発生したマイクロ波を、ケーブル7を介してアンテナ5からマイクロ波照射空間2Aに供給することができる。マイクロ波発生器4や増幅器(図示せず)によってマイクロ波電力を調整することができ、それによってマイクロ波照射空間2A内に形成される定在波の例えば電界強度分布を制御することが可能となる。
また図1に示す形態において、アンテナ5のかわりに図示していない導波管を用いたマイクロ波供給口を設置した形態とすることもできる。供給するマイクロ波の周波数を伝送できる矩形導波管もしくは円筒導波管と空胴共振器とを適切な開口部を有したアイリスを介して接続することで、マイクロ波発生器からのマイクロ波エネルギーを空胴共振器内に導入することができる。
なお、上記の各形態は、本発明の有機顔料処理装置1の一例を説明したものであり、本発明の有機顔料処理装置1は、本発明で規定すること以外は、上記の形態に何ら限定されるものではない。
本発明において、「中心軸C方向に直交する方向における流通管6の流路6Aの最大径」は、中心軸C方向に直交する方向における流通管6の断面の内周(流路6A断面の外周)において、ある1点から別の1点までの距離が最大となる長さである。
具体的には、好ましくは、下記のフィードバック制御部11によって制御することができる。フィードバック制御部11は、例えば、マイクロ波発生器4に内蔵されていても、又はマイクロ波発生器4とは別体に構成されていてもよい。このフィードバック制御部11は、マイクロ波発生器4から発生するマイクロ波もしくは該マイクロ波を増幅する増幅器(図示せず)から発生するマイクロ波を、空胴共振器2のマイクロ波照射空間2A内に形成された定在波の共振周波数に一致させることができる。この一致させるとは、完全に一致することが好ましいが、ある範囲内、例えば2MHz以内で一致する場合も含むものとする。そして、周波数を一致させたマイクロ波をマイクロ波照射空間2A内に照射させるものである。そのため、空胴共振器2には、マイクロ波照射空間2A内の定在波の周波数を検出する検出部12が配されていることが好ましい。検出部12には、マイクロ波照射空間2A内部の電界強度を計測し、その信号を処理して周波数を検出するものであればよい。
このようにして、検出部12によって検出したマイクロ波の共振周波数に一致した周波数のマイクロ波を、マイクロ波発生器4から発生させるようにする。または検出したマイクロ波の共振周波数に一致した周波数のマイクロ波を増幅器から発生させるようにする。
そして、マイクロ波照射空間2A内に周波数を一致させたマイクロ波を供給する。
共振周波数を検出するための操作は定期的に行うことが望ましい。外乱が大きい場合や温度変化、流量変化、組成変化が大きい場合、マイクロ波処理を開始した直後は短い周期たとえば1秒以下で行うことが望ましい。一方外乱が少ない場合や、温度変化、流量変化、組成変化が少ない場合、マイクロ波処理を開始し十分時間が経過し安定したのちは、長い周期、たとえば1分おきで行ってもよい。
共振周波数を検出するためにマイクロ波発生器4からのマイクロ波の周波数を掃引する場合、掃引周波数の幅は狭いほうが望ましい。しかし変動が大きい場合は掃引周波数の幅が少ない場合は掃引周波数内に極大値が見つからない場合がある。その場合は掃引周波数幅を広げて、再度掃引することで共振周波数を検出することも望ましい。
<空胴共振器>
有機顔料処理装置1に用いる空胴共振器(空胴共振器)2の形状は、一つのマイクロ波供給口3を有し、マイクロ波を供給した際にシングルモードの定在波が形成されるものであれば特に制限はない。例えば、マイクロ波照射空間2Aが円筒形又は角筒形の空胴共振器2を用いることができる。本明細書において円筒形の空胴共振器とは、該空胴共振器の中心軸Cに直角な内側断面形状が円形であるものの他、当該断面形状が楕円形もしくは長円形であるものを含む意味に用いる。また、角筒形の空胴共振器は、中心軸Cに直角な内側断面形状が多角形であるものを意味し、当該断面形状が4~10角形であることが好ましい。また、多角形の角が、丸みを帯びた形状であってもよい。
空胴共振器2の大きさも上記説明した形態において、目的に応じて適宜に設計することができる。空胴共振器2は電気抵抗率の小さいものが望ましく、通常は金属製であり、一例として、アルミニウム、銅、鉄、マグネシウム、黄銅、ステンレス、若しくはそれらの合金等を用いることができる。又は、樹脂やセラミック、金属の表面に電気抵抗率の小さい物質をめっき、蒸着などによりコーティングしてもよい。コーティングには銀、銅、金、スズ、ロジウムを含む材を用いることができる。
本発明の有機顔料処理装置1は、マイクロ波発生器4又はマイクロ波増幅器(図示せず)から発生したマイクロ波をマイクロ波供給口3からアンテナ5を介して空胴共振器2内のマイクロ波照射空間2Aに供給される。
例えば、上記の円筒状の空胴共振器においてTM010のシングルモード定在波を形成させた場合、中心軸Cにおいて、電界強度が最大になり、中心軸C方向に電界強度が均一になる。したがって、流通管6において、その内部を流通する有機顔料粒子が分散される分散液31を、均一に、高効率にマイクロ波加熱することが可能になる。
上記整流機構51において未反応部分が生じることを防ぐために得られる好ましいシャープ化された滞留時間の分布とは、例えば平均滞留時間の3/4より短い時間で流通管6を出口まで到達する流体が全体の25%以下である。より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。なお滞留時間分布は、一般的に用いられるトレーサー法等により実験的に確認することができる。
図5に示す流通管6の流路6A内に配した上記整流機構51を構成するラインミキサー53としては、ノリタケカンパニーリミテッド社製のスタティックミキサー、SATAKE LINE MIXIER(佐竹化学機械工業社製)、などが挙げられる。このラインミキサー53のエレメント53A,53Bには、捻り羽状のものなど一般的なものを用いることができる。上記ラインミキサーを用いた場合はエレメント53A、53Bで流体が分割されるが、上記整流を目的とする場合は各エレメント53A、53Bを2回以上通過させることが好ましく、より好ましくは3回以上であり、さらに好ましくは4回以上である。
一例として図9(A)~(F)に示すような球体を扁平にした曲面体(例えば、扁平な長円回転体)57Aを有する構造体を流路6Aの中心部(図8(A)、(B)参照)や流路6の内壁面6W(図8(A)、(B)参照)に配置する。図9(A)、(B)に示す曲面構造物56(56-1)は、曲面体57Aを中心にして、流路の内壁面6Wに支持される円柱状の支持体57B、57Cを、曲面体57Aを挟んで、例えば、対向する位置に直線状に配したものである。
図9(C)、(D)に示す曲面構造物56(56-2)は、流路の内壁面6Wに、複数(例えば、4個)の曲面体(例えば、長円回転体)57Dを、等間隔に配したものである。
図9(E)、(F)に示す曲面構造物56(56-3)は、流路の内壁面6Wに支持される、円柱状を支持体57E、57Fを十字に構成したものである。
上記カルマン渦を発生させるための最適な上記構造は流体の流速や粘度などにより変化することから具体的な構造は限定されないが、圧力損失が小さい方が好ましい。つまり開口面積が大きいほうが好ましい。開口面積は、流路6の断面積から上流側からみた曲面構造物56の投影面積を引いた面積であり、流路断面積の1/5以上であることが好ましく、1/4以上であることがより好ましい。また、曲面構造物56として、市販のジェイエムエス社製のスタティックミキサー2800などを用いることでもカルマン渦を発生させ整流することができる。
すなわち、図11に示すように、有機顔料処理装置1(1B)は、上記した有機顔料処理装置1Aを複数段に構成したものであり、具体的には複数の空胴共振器2を積層状態に、直列に配したものである。図面では一例として、3個の空胴共振器21、22、23を上下方向に順に積層したものを示した。空胴共振器2の個数は3個に限定されるものではない。空胴共振器2の個数は、2個以上数千個程度まで積層することも可能である。複数の空胴共振器2には、直列連結方向にてかつ各空胴共振器2内に形成される定在波のエネルギーが極大となり、軸方向には均一となる部分に貫通する流通管6が配されている。この場合、流通管6内に有機顔料粒子が流通する。例えば、TM0n0モード(nは1以上の整数)の定在波が発生する円筒形の空胴共振器2の場合、円筒の中心軸Cの電界強度が極大となり該中心軸Cに沿っては電界強度が均一となるため、流通管6は円筒形の中心軸Cにそって(中心軸上に)配されることが好ましい。
各空胴共振器2には、それぞれにマイクロ波発生器4が配され、各空胴共振器2に対して個別にマイクロ波が供給される。マイクロ波周波数には915MHz帯の周波数が用いられる。
上記有機顔料処理装置1Bは有機顔料処理装置1と同様に、流通管6の入口6IN側には、図示はしていない配管を介して原料タンクが接続され、その配管には送液ポンプが配されていることが好ましい。また、流通管6の出口6OUT側には、図示はしていない配管を介して処理済みの有機顔料粒子を収納する受け容器が接続されることが好ましい。また受け容器に接続する配管には有機顔料粒子を冷却する冷却器を備え、冷却器の上流側及び下流側には有機顔料粒子の温度を測定する温度測定器が設置されていることが好ましい。
例えば、前述の図1に示したように、空胴共振器2の前段(上流側)における空胴共振器2を貫通する流通管6内に整流機構51を配することが好ましい。
また前述の図3に示したように、空胴共振器2を貫通する流通管6の空胴共振器2内及びその前段と後段とにわたって整流機構51を配することが好ましい。
また、図12に示すように、複数の空胴共振器2のそれぞれの前段及び後段に位置する流通管6内に複数の整流機構51を配することが好ましい。
さらに、図13に示すように、複数の空胴共振器2内に配された流通管6内の位置に整流機構51を配することが好ましい。
上記図3に示した有機顔料処理装置1は、整流機構51以外は前述の図1に示した有機顔料処理装置1Aと同様に構成され、上記図12及び13に示した有機顔料処理装置1は、整流機構51以外は前述の図11に示した有機顔料処理装置1Bと同様に構成される。
なお、マイクロ波供給口3から供給されるマイクロ波の周波数は、空胴共振器2内に特定のシングルモード定在波を形成することができるものである。またマイクロ波処理装置1Bにおける各空胴共振器内に形成される定在波の種類(モード)は、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
有機顔料処理方法は、空胴共振器2内のマイクロ波照射空間2Aにマイクロ波を照射する。そして、該マイクロ波照射空間2A内にTM0n0(nは1以上の整数)又はTE10n(nは1以上の整数)のシングルモードの定在波を形成する。該定在波を用いて有機顔料粒子を処理する。マイクロ波には915MHz帯の周波数のマイクロ波を用いる。また定在波のエネルギー(電界)強度が極大となる部分に沿って流通管6を配する。
有機顔料処理方法には、上述の有機顔料処理装置1A又は1Bを用いることが好ましい。以下、有機顔料処理装置1Aの場合を説明するが、有機顔料処理装置1Bを用いた場合も有機顔料処理装置1Aと同様に適用できる。
具体的には、上記有機顔料処理装置1Aを用いて流通管6内の有機顔料粒子を含む分散液31の加熱を行うことができる。まずマイクロ波発生器4から上記のように周波数を調整して供給されるマイクロ波を、空胴共振器2のマイクロ波照射空間2A内に供給する。周波数の調整により、空胴共振器2内に形成される定在波の電界強度分布を所望の分布状態に制御することができ、またマイクロ波の出力によって定在波の強度を調整することができる。つまり、流通管6内(内部空間6A)の分散液31の加熱状態(温度)を精密に制御することが可能になる。この温度制御によって、有機顔料粒子の反応を制御することができる。
上記マイクロ波の周波数は上記915MHz帯の周波数であり、マイクロ波照射空間2A内に特定のシングルモード定在波を形成することができるものである。なお、有機顔料処理装置1Bの場合、各空胴共振器内に形成される定在波の種類(モード)は、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
本発明に用いる有機顔料に特に制限はなく、着色材料として用いられる有機顔料を広く用いることができる。
有機顔料の加熱による結晶転移は熱力学的作用によって生じる。そのため、本発明に用いることができる有機顔料は特に限定されるものではなく、とりうる結晶型が複数存在するすべての有機顔料に応用できる。代表的な有機顔料としては例えば、アゾ顔料、多環式顔料等が挙げられる。これらの有機顔料は、例えば、特開2016-193962号公報の段落[0016]及び[0017]に記載されているものを挙げることができる。
有機顔料は一般的に分子の対象性が高く、マイクロ波の吸収性は低い。したがって、好ましくは、マイクロ波を吸収する媒体中に有機顔料を分散した状態の有機顔料粒子の分散液を調製し、この分散液を流通管内に流通させてマイクロ波の定在波により加熱することが好ましい。
例えば銅フタロシアニンの場合、化学合成後の顔料(「粗顔料」や「クルード」と呼ばれる)の粒子サイズは実用される粒子サイズよりも相当に大きい(例えば10~100倍以上の粒子直径)。そのため、粉砕等よる微細化処理を行うが、それによって微細化とともに結晶形も変わってしまう(一般に合成直後はβ型、微細化処理後はα型)。そこで微細化処理後に加熱処理で所望の結晶に変化させるとともに粒子径サイズも微細化工程で小さくなりすぎている場合は所望のものに整える必要が生じる。
ただし、顔料によっては合成直後の粒子が小さいために、微細化処理を経ずに加熱で粒子サイズを大きくするだけで良いものもある。
溶媒の沸点を超える温度で加熱処理を行う場合は、流通管6の流路6A内を加圧することが好ましい。
流路6A内の加圧手段として流通管6の出口6OUTに背圧弁(図示せず)を設けることが好ましい。背圧弁は、定量ポンプの吐出配管上に設置され、オーバーフィード現象やサイホン現象を防止する圧力調整弁であり、圧力(背圧)をかけることにより、規定量より過大に吐出されることを防ぐことができる。オーバーフィード現象とは、吐出の勢い(慣性)によって、ポンプが停止しても液体が流れ続ける現象のことである。また、サイホン現象とは、ポンプ吐出側配管の先端位置が、吸込側タンクの液面より低い場合に、ポンプを止めても薬液が自然に吸い出されて流れ続ける現象のことである。
定在波を吸収するエネルギーは下記式1中のPによって示されるため、導電率や誘電損率の高い分散液を用いることが好ましい。分散液としては、導電率が、10-5S/m以上が好ましく、10-4S/m以上がより好ましく、10-3S/m以上がさらに好ましい。ただし、導電率が105S/mより大きいと定在波形成を阻害するため不適切である。また誘電損率(比誘電率εrと誘電正接tanδを掛けた値)が、0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、1以上がさらに好ましい。例えば、水、電解質が溶解した水溶液(酸、アルカリ、塩類)、極性液体類として、N-メチル-2ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどのアミド類、1-プロパノール、エタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、メチルエチルケトンなどのケトン類、エーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類が挙げられ、上記のうち2種以上の混合した媒質であってもよい。
定在波の吸収性を高めるための添加剤として上記のものにイオン液体や塩類などの電解質、磁性材料の粒子(酸化鉄等)、導電性材料の粒子(カーボン)などを加えてもよい。
さらにはトルエン、キシレンなどの無極性液体であっても上記の液体や添加剤を加えたものを分散液として用いることができる。
有機顔料粒子の分散液には、目的の結晶形の顔料、顔料分散剤、粘度調整剤、定在波により発熱する物質を加えることもできる。
顔料を加熱する温度は、顔料粒子の成長や結晶転移が生じる温度であればいずれでもよい。温度が低すぎると、粒子成長や結晶転移が遅くなり加熱時間が増大することになることから、例えば50℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上である。他方、温度が高すぎる場合は顔料が分解してしまうため、通常は300℃以下であり、好ましくは250℃以下であり、より好ましくは200℃以下である。
顔料結晶の同定はCu-Kα線によるX線回折法(XRD)によって行った。
透過型電子顕微鏡を用いて視野内の有機顔料粒子を撮影し、二次元画像上の有機顔料粒子の一次粒子の50個につき、その最大径(長径)を各々求め、その平均値を平均粒径とした。また一定視野における個数から粒子径の分布を統計的に求めることもできる。
実施例1~3には、前述の図1に示した有機顔料処理装置1を用いた。
流通管6は外径10mm、内径6mmの石英ガラス製の流通管を用い、流通管6の整流機構51として、外径3mm、内径2mm、長さ2mmのフッ素樹脂製リング40個を充填した。
銅フタロシアニン15部を96質量%濃硫酸(和光純薬工業株式会社製)100mLに溶解した顔料溶解液を氷水1000部にマグネチックスターラーにて激しく撹拌しながら加え、顔料分散液を得た。顔料分散液を水で十分ろ過して洗浄し、顔料ケーキを得た。顔料ケーキを90℃で一晩(8時間)乾燥し、乾燥顔料を得た。XRDによって結晶形を確認するとα型に特徴的である2θ=6.8°、7.3°のピークを検出し、その他の結晶由来のピークは検出されなかったことからα型であることを確認した。上記乾燥顔料の平均粒径は35nmであった。
C.I.ピグメントレッド254の15部をジメチルスルホキシド319質量部(和光純薬工業株式会社製)とナトリウムメトキシドの28質量%メタノール溶液11質量部(シグマアルドリッチ社製)との混合溶媒中に90℃で溶解させた顔料溶解液を得た。顔料溶解液を4℃の5質量%塩酸水溶液1200質量部にマグネチックスターラーにて激しく撹拌しながら加え、顔料分散液を得た。顔料分散液を水で十分ろ過で洗浄し、顔料ケーキを得た。XRDによって結晶形を確認するとβ型に特徴的な2θ=5.8°が検出され、その他の結晶由来のピークは検出されなかったことからβ型であることを確認した。上記乾燥顔料の平均粒径は40nmであった。
製造例1で得たα型銅フタロシアニン200部をN-メチル-2-ピロリドン1000部に加えて分散し、分散液とした。有機顔料処理装置には、図1に示した有機顔料処理装置1を用いた。この空胴共振器2は、915MHz帯のマイクロ波を照射してTM010の定在波が形成されるものを用い、マイクロ波照射空間2Aの中心軸C方向の高さは5cmのものを用いた。また流通管6には、外径が10mm、内径が6mmの石英管を用いた。この流通管6の空胴共振器内に配される部分の長さは40mmである。送液手段63の送液ポンプには、モーノポンプ(兵神装備社製2NL型(商品名))を用いて流通管6に通液し、空胴共振器2内にて加熱処理を行った。このとき流量と流通管6の流路6Aの容積とから計算される平均滞留時間は15秒であった。また、マイクロ波加熱部の後段部分の温度(温度測定器41の測定温度)は160℃であり、所望の温度に制御できた。配管64の出口64OUTから得た分散液を純水でろ過洗浄し、顔料ケーキを得た。顔料ケーキを90℃で一晩(8時間)乾燥し、乾燥顔料を得た。乾燥顔料の結晶をXRDによって確認したところ、α型由来のピーク2θ=7.3°が検出されなくなっており、β型の特徴的なピークである2θ=7.0°、9.2°を検出した。したがって、全てβ型に変換されていることを確認した。上記の乾燥顔料の平均粒径は145nmであった。
製造例1で得たα型銅フタロシアニン100部と平均粒径80nmのDIC株式会社製ε型銅フタロシアニン(FASTOGEN BLUE AE-8(商品名))100部をN-メチル-2-ピロリドン1000部に加えて分散した分散液を被処理対象物とした。実施例1と同様の有機顔料処理装置1(図1参照)を用いて加熱処理を行った。このときの流量と流通管6の流路6Aの容積とから計算される平均滞留時間は15秒であった。また、マイクロ波加熱部の後段部分の温度(温度測定器41の測定温度)は130℃であり、所望の温度に制御できた。配管64の出口64OUTから得た分散液をろ過洗浄し顔料ケーキを得た。顔料ケーキを90℃で一晩(8時間)乾燥し、乾燥顔料を得た。乾燥顔料の結晶をXRDによって確認したところ全てε型の銅フタロシアニンに変換されていた。XRDによりα型由来のピーク2θ=7.3°が検出されなくなっており、ε型の特徴的なピークである2θ=7.6°、9.2°を検出した。したがって全てε型に変換されたことを確認した。上記乾燥顔料の平均粒径は115nmであった。
製造例2のとおりに合成したβ型ピグメントレッド254を10部、それをエチレングリコール100部に加えて分散した分散液を被処理対象物とした。実施例1と同様の有機顔料処理装置1(図1参照)を用いて加熱処理を行った。このときの流量と流通管6の流路6Aの容積とから計算される平均滞留時間は2秒であった。また、マイクロ波加熱部の後段部分の温度(温度測定器41の測定温度)は150℃であり、所望の温度に制御できた。配管64の出口64OUTから得た分散液をろ過洗浄し顔料ケーキを得た。顔料ケーキを90℃で一晩(8時間)乾燥し、乾燥顔料を得た。乾燥顔料の結晶をXRDによって確認したところ、α型に特徴的なピーク2θ=7.4°のピークが検出され、β型に特徴的な2θ=5.8°のピークは検出されなかった。すなわち全てα型に変換されていた。上記乾燥顔料の平均粒径は80nmであった。
上記の図2に示した整流機構を配していない有機顔料処理装置1Cを用いて加熱を行った以外は実施例1と同様に行った。すなわち、有機顔料処理装置1Cは実施例1にて用いた有機顔料処理装置1A(図1参照)から整流機構51を除いたものである。得られた乾燥顔料にはβ型も確認されたが、原料であるα型由来のピーク2θ=7.3°が検出され、結晶変化が完了していない顔料が残っていることを確認した。滞留時間に分布が生じ、十分に加熱処理されず配管64の出口64OUTに到達した顔料があったと推定される。
[比較例2]
上記の図2に示した比較例1で用いた有機顔料処理装置1Cを用いて加熱を行い、流量から計算される平均滞留時間を30秒とした以外は実施例1と同様に行った。得られた乾燥顔料は全てβ型であったが、平均粒径が500nm以上の粗大粒子となった。
[比較例3]
上記の図2に示した比較例1で用いた有機顔料処理装置1Cを用いて加熱した以外は実施例2と同様に行った。得られた乾燥顔料にはε型も確認されたが原料由来のα型結晶が残っていることをXRDによって確認した。
[比較例4]
上記の図2に示した比較例1で用いた有機顔料処理装置1Cを用いて加熱した以外は実施例3と同様に行った。得られた顔料に原料由来のβ型結晶が残っていることをXRDによって確認した。
上記各実施例1~3及び各比較例1~4の加熱後の結晶構造及び加熱後のそれぞれの平均粒径は表1のようになった。
2、21,22、23 空胴共振器
2A マイクロ波処理空間
3 マイクロ波供給口
4 マイクロ波発生器
5 アンテナ
6 流通管
6A 流路
6IN 入口
6OUT 出口
7 ケーブル
11 フィードバック制御部
12 検出部
31 有機顔料粒子の分散液(分散液)
41、42 温度測定器
51 整流機構
52 充填物
53 ラインミキサー
53A、53B エレメント
54 多孔板
55 孔
56、56-1~56-3 曲面構造物
57A、57D 曲面体
57B、57C、57E、57F 支持体
58、58A、58B 配管
59 円柱状構造物
61 原料タンク
62、64配管
63 送液手段
65 受け容器
66 冷却器
C 中心軸
Claims (12)
- 空胴共振器と、該空胴共振器内を貫通し有機顔料粒子が流通する流通管とを備える有機顔料処理装置であって、
前記空胴共振器内には300~1000MHzの周波数のマイクロ波が照射されて、該空胴共振器内にTM0n0(nは1以上の整数)又はTE10n(nは1以上の整数)のシングルモードの定在波が形成され、
前記流通管は前記定在波の電界強度が極大となる部分に沿って配され、該流通管内の少なくとも一部に、該流通管内を流通する前記有機顔料粒子の流れを整流する整流機構を有し、
前記定在波による電界強度が一定となる方向に対して直交する方向において、前記流通管内の最大径が3mm以上100mm以下である、有機顔料処理装置。 - 前記流通管を、前記有機顔料粒子の分散液が流通する請求項1に記載の有機顔料処理装置。
- 前記分散液の分散媒が前記定在波によって発熱する物質であり、及び/又は、前記分散液が前記定在波によって発熱する物質を含有する、請求項2に記載の有機顔料処理装置。
- 前記流通管の出口に背圧弁を備える請求項1~3のいずれか1項に記載の有機顔料処理装置。
- 前記有機顔料粒子を、前記有機顔料粒子の粒子成長及び/又は結晶転移が生じる温度以上に加熱する請求項1~4のいずれか1項に記載の有機顔料の処理装置。
- 前記有機顔料処理装置は、
前記空胴共振器が直列に複数配され、該複数の空胴共振器には、各空胴共振器に対してマイクロ波が各別に供給され、
前記流通管は、前記複数の空胴共振器の直列連結方向でかつ該複数の空胴共振器内に形成される定在波の電界強度が極大となる部分に沿って、該複数の空胴共振器を貫通して配される請求項1~5のいずれか1項に記載の有機顔料処理装置。 - 空胴共振器内に300~1000MHz帯の周波数のマイクロ波を照射して、該空胴共振器内にTM0n0(nは1以上の整数)又はTE10n(nは1以上の整数)のシングルモードの定在波を形成し、該定在波の電界強度が極大となる部分に沿って配された流通管内を流通する有機顔料粒子を整流しながら加熱することを含み、前記定在波による電界強度が一定となる方向に対して直交する方向において、前記流通管内の最大径を3mm以上100mm以下とする、有機顔料処理方法。
- 前記有機顔料粒子を、前記有機顔料粒子の粒子成長及び/又は結晶転移が生じる温度以上に加熱する請求項7に記載の有機顔料処理方法。
- 前記流通管に前記有機顔料粒子の分散液を流通させる請求項7又は8に記載の有機顔料処理方法。
- 前記分散液は、導電率が10-5S/m以上、もしくは誘電損率が0.01以上である請求項9に記載の有機顔料処理方法。
- 前記分散液の分散媒が前記定在波によって発熱する物質であり、及び/又は、前記分散液が前記定在波によって発熱する物質を含有する請求項9又は10に記載の有機顔料処方法。
- 前記有機顔料粒子は、前記定在波によって加熱される前の平均粒径が5000nm以下である請求項7~11のいずれか1項に記載の有機顔料処理方法。
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