JP2020080298A - マイクロ波処理装置、マイクロ波処理方法及び化学反応方法 - Google Patents

マイクロ波処理装置、マイクロ波処理方法及び化学反応方法 Download PDF

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Abstract

【課題】マイクロ波の定在波を利用して、従来の定在波加熱に比べて格段に広い領域に配置した被処理対象物の略全体を優れたエネルギー効率で加熱できるマイクロ波処理装置を提供する。【解決手段】シングルモード定在波を利用して被処理対象物を処理するマイクロ波処理装置であって、前記シングルモード定在波がTMmn0(m、nは1以上の整数)もしくはTEm0p(m、pは1以上の整数)モードの定在波であり、前記シングルモード定在波を形成する空胴共振器と、前記シングルモード定在波の共振周波数と一致したマイクロ波を前記空胴共振器内に供給するマイクロ波供給手段と、被処理対象物の状態変化から生じる共振周波数の変化に基づいて、磁界が極大となる位置を一定位置に制御する制御部とを有し、磁界が極大となる位置に被処理対象物を配する、マイクロ波処理装置。【選択図】図1

Description

本発明は、マイクロ波処理装置、マイクロ波処理方法及び化学反応方法に関する。
マイクロ波の利用技術は、電子レンジのような家庭用の装置から利用が広まり、その後、産業用の加熱システムなどとして、実用的な開発、利用が研究されている。例えば、加熱システムとして利用する場合、マイクロ波照射により、被加熱対象物が直接発熱するため短時間に加熱でき、また熱伝導に起因する温度ムラを少なくできる利点がある。更に、非接触で加熱できる、マイクロ波吸収の良いものだけを選択的に加熱できるなどの利点がある。
電磁波であるマイクロ波は、波長周期でエネルギー強度が変化するため、加熱ムラが発生しやすい。このため、被加熱対象物の位置を時間的に移動させることによって、電磁波を乱反射するなど対策が行われることが多い。
この加熱ムラの問題に対処するため、マイクロ波の定在波を利用することが検討されている。例えば、特許文献1には、空胴共振器を用いたマイクロ波加熱装置が記載されている。この技術では、円筒型空胴共振器内に、中心軸に平行な軸対象のマイクロ波電界を発生させ、電界強度が集中する部分に配した円管内で化学反応を進行させる。また特許文献2には、空胴共振器内に形成されるシングルモード定在波の電界強度が極大となる部分に沿って流通管を配し、流通管内に流体を流通させることにより当該流体を迅速かつ均一に加熱する流通型のマイクロ波利用化学反応装置が記載されている。さらに特許文献3には、マイクロ波発生器の発振周波数を空胴共振器の現在の共振周波数に一致させるように制御する帰還制御手段を用いることが記載されている。これによって、TM010の共振状態を常に維持し、高精度の熱処理が可能になるとされている。
このように空胴共振器を用いることにより、内部に定在波を形成して被加熱対象物を均一に、高効率に加熱する技術が開発されている。
特開2005−322582号公報 特開2010−207735号公報 特開2009−80997号公報
上記のように、シングルモードの定在波による電場を形成し、その電界強度の極大部分を利用することにより、被加熱対象物に対してマイクロ波を集中的に照射することが可能となり、被加熱対象物を迅速かつ効率的に加熱することができる。しかし、電界強度が極大になる部分を利用した場合、例えば、円筒型空胴共振器の中心軸方向に均一な加熱はできるが、その中心軸に直交する方向に電界強度が極大となる範囲は狭い範囲に限られる。特に被加熱対象物の誘電率(比誘電率:ε’)が大きい場合、被加熱対象物中のマイクロ波の波長をλとした場合、真空中のマイクロ波の波長λに対してλ=λ/√(ε’×μ’)と短くなり、被加熱対象物の中心軸に直行する方向の寸法を長くとることができなくなる(μ’は被加熱対象物の比透磁率)。たとえば、水ではε′=80、エタノールではε’=10程度であり、多くの被加熱対象物は、電界強度を極大とできる範囲は狭い範囲となる。また、被加熱対象物の誘電損率(ε’’)が大きい場合、被加熱対象物内でマイクロ波が減衰し、定在波が形成されなくなるため、シングルモードでのマイクロ波処理ができなくなる。
そのため、被加熱対象物の体積が大きい場合には、被加熱対象物を局所的に加熱することはできても、その全体を均一に加熱することは難しい。
そこで本発明は、マイクロ波の定在波を利用して、上記特許文献記載の技術をはじめ従来の定在波加熱に比べて格段に広い領域に配置した被処理対象物の略全体を優れたエネルギー効率で加熱できるマイクロ波処理装置を提供することを課題とする。また本発明は、上記マイクロ波処理装置を利用したマイクロ波処理方法及び化学反応方法を提供することを課題とする。
本発明の上記課題は下記の手段により解決される。
[1]
シングルモード定在波を利用して被処理対象物を処理するマイクロ波処理装置であって、
前記シングルモード定在波がTMmn0(m、nは1以上の整数)もしくはTEm0p(m、pは1以上の整数)モードの定在波であり、
前記シングルモード定在波を形成する空胴共振器と、
前記シングルモード定在波の共振周波数と一致したマイクロ波を前記空胴共振器内に供給するマイクロ波供給手段と、
前記空胴共振器の共振周波数に基づいて、前記マイクロ波供給手段により供給するマイクロ波の周波数を制御する制御部とを有し、
前記被処理対象物を磁界強度が極大となる位置に沿って配する、マイクロ波処理装置。
[2]
前記空胴共振器は円筒型空胴共振器もしくは角筒型空胴共振器である[1]記載のマイクロ波処理装置。
[3]
前記空胴共振器において、磁界強度が極大となる位置が、該空胴共振器の中心軸と一致する[1]又は[2]に記載のマイクロ波処理装置。
[4]
前記被処理対象物を管の内部に配する[1]〜[3]のいずれかに記載のマイクロ波処理装置。
[5]
前記管の内径が2mm以上である[4]に記載のマイクロ波処理装置。
[6]
前記マイクロ波処理装置が、前記被処理対象物をマイクロ波により加熱して、化学反応を生じさせる化学反応装置である、[1]〜[5]のいずれかに記載のマイクロ波処理装置。
[7]
[1]〜[6]のいずれかに記載のマイクロ波処理装置を用いて、前記被処理対象物の温度を制御するマイクロ波処理方法。
[8]
前記被処理対象物が、照射するマイクロ波の波長をλとしたとき内径がλ/4以下の管内に保持された液体である[7]に記載のマイクロ波処理方法。
[9]
前記被処理対象物が、内径30mm以下の管内に保持された液体である[8]に記載のマイクロ波処理方法。
[10]
前記空胴共振器において、磁界強度が極大となる位置が、当該空胴共振器の中心軸と一致する[9]に記載のマイクロ波処理方法。
[11]
前記処理対象物の温度を制御することによって、前記被処理対象物の反応を促進もしくは停止する[7]〜[10]いずれかに記載のマイクロ波処理方法。
[12]
空胴共振器内にマイクロ波を供給してシングルモードの定在波を形成し、該定在波を用いて被処理対象物を処理するマイクロ波処理方法であって、
前記定在波はTMmn0(m、nは1以上の整数)又はTEm0p(m、pは1以上の整数)のシングルモードであり、
前記空胴共振器の共振周波数に基づいて該空胴共振器内に供給するマイクロ波の周波数を制御し、
前記被処理対象物を磁界強度が極大となる位置に配して処理するマイクロ波処理方法。
[13]
空胴共振器内にマイクロ波を供給してシングルモードの定在波を形成し、該定在波を用いて被処理対象物を処理する化学反応方法であって、
前記定在波はTMmn0(m、nは1以上の整数)又はTEm0p(m、pは1以上の整数)のシングルモードであり、
前記空胴共振器の共振周波数に基づいて該空胴共振器内に供給するマイクロ波の周波数を制御し、
前記被処理対象物を前記磁界強度が極大となる位置に配して処理することによって化学反応を生じさせることを含む、化学反応方法。
[14]
前記空胴共振器において、磁界強度が極大となる位置が、該空胴共振器の中心軸と一致する[13]に記載の化学反応方法。
本発明のマイクロ波処理装置及びマイクロ波処理方法によれば、従来に比べて格段に広い領域に被処理対象物を配置して、この被処理対象物の略全体を高いエネルギー効率で処理することができる。
また、本発明の化学反応方法によれば、従来に比べて格段に広い領域に化学反応にかかわる被処理対象物を配置して、この被処理対象物の略全体を高いエネルギー効率で処理することにより、効率的かつ高精度に化学反応を生じさせることができる。
本発明のマイクロ波処理装置の好ましい一実施形態を模式的に示した断面図である。 (A)図は円筒型空胴共振器におけるTM110モードの定在波の電界分布を模式的に示した図及び電界強度分布を示したグラフであり、(B)図は円筒型空胴共振器におけるTM110の定在波の磁界分布を模式的に示した図及び磁界強度分布を示したグラフである。 矩形型空胴共振器におけるTE102モードの定在波の電界分布と磁界分布を模式的に示した図及び電界強度分布を示したグラフであり、(B)図は矩形型空胴共振器におけるTE102モードの定在波の磁界分布を模式的に示した図及び磁界強度分布を示したグラフである。 図1に示した装置(実施例2)における、内径が1〜8mmの管にエチレングリコールが充填されている状態の空胴共振器の順方向の伝送特性を示した図であり、縦軸はS21の値であり、横軸はマイクロ波の周波数である。 図1に示した装置(比較例2)における、内径が1〜8mmの管にエチレングリコールが充填されている状態の空胴共振器の順方向の伝送特性を示した図であり、縦軸はS21の値であり、横軸はマイクロ波の周波数である。 図1に示した装置(実施例3)における、内径が1mmの管にイオン交換水、エチレングリコール、ドデカンがそれぞれに充填されている状態の空胴共振器の順方向の伝送特性を示した図であり、縦軸はS21の値であり、横軸はマイクロ波の周波数である。 比較例の装置(比較例3)における、内径が1mmの管にイオン交換水、エチレングリコール、ドデカンがそれぞれに充填されている状態の空胴共振器の順方向の伝送特性を示した図であり、縦軸はS21の値であり、横軸はマイクロ波の周波数である。 本発明のマイクロ波処理装置の好ましい別の一実施形態の空胴共振器及び反応管を模式的に示した断面図である。 図8に示した装置(実施例4)を用いて、内径が8mm、外径10mmの管(試験管)に、イオン交換水(図9(A)参照)、塩化ナトリウム10質量%水溶液(図9(B)参照)をそれぞれに入れた状態における昇温特性を示した図であり、縦軸は温度であり、横軸はマイクロ波加熱の時間である。 図8に示した装置(実施例4)を用いて、内径が8mm、外径10mmの管(試験管)に、エチレングリコール(図10(C)参照)、ヘキサン(図10(D)参照)をそれぞれに入れた状態における昇温特性を示した図であり、縦軸は温度であり、横軸はマイクロ波加熱の時間である。 図1に示した装置(TM110モードの実施例5、TM010モードの比較例4)における、内径が8mm、外径10mmの管にカーボン担持パラジウム触媒の粉末が充填されている状態の昇温特性を示した図であり、縦軸は温度であり、横軸はマイクロ波加熱の時間である。 図1に示した装置(実施例6)における、内径が8mm、外径10mmの管にカーボン粉末が充填されている状態の昇温特性を示した図であり、縦軸は温度であり、横軸はマイクロ波加熱の時間である。 実施例6における空胴共振器の順方向の伝送特性を示した図であり、縦軸はS21の値であり、横軸はマイクロ波の周波数である。 比較例5における空胴共振器の順方向の伝送特性を示した図であり、縦軸はS21の値であり、横軸はマイクロ波の周波数である。 本発明のマイクロ波処理装置の好ましい別の一実施形態の空胴共振器及び反応容器を模式的に示した断面図である。 上側の図面は、図15に示した装置において、空胴共振器内に内径が23mm、高さ3mmの円筒を配し(実施例7)、円筒内に電解鉄粉が充填されている状態の昇温特性を示した図面代用写真であり、縦軸は温度であり、横軸は下側の図面のA−A線における測定位置(熱分布画像のピクセル)を示した図である。また、下側の図面は、電解鉄粉の温度分布を示した熱分布画像を示した図面代用写真である。 紫外可視分光法(UV−visスペクトル法)による実施例8の反応溶液のUV−visスペクトル図である。 透過型電子顕微鏡(TEM)によって撮影した実施例8における銀ナノ粒子合成後の反応溶液の図面代用写真である。 図1に示した装置(TM110モードの実施例9)において被処理対象物として、イオン液体である1−Butyl−3−methylimidazolium trifluoroacetate(流速60ml/h)をマイクロ波照射電力50Wで処理したときの、温度上昇の時間変化を示した図である。 図1に示した装置(TM110モードの実施例9)において被処理対象物として、イオン液体であるN,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(流速60ml/h)をマイクロ波照射電力70Wで処理したときの、温度上昇の時間変化を示した図である。 図1に示した装置(TM110モードの実施例10)において被処理対象物として水素吸蔵能のあるイットリウム−ニッケル合金をマイクロ波照射電力100Wで処理したときの、温度上昇の時間変化を示した図である。 図1に示した装置(実施例10)における、内径が6mmの石英管に水素吸蔵能があるイットリウム−ニッケル(YNi)合金を挿入前後の空胴共振器の順方向の伝送特性(S21)を示した図であり、縦軸はS21の値であり、横軸はマイクロ波の周波数である。 実施例11にて用いたマイクロ波処理装置1(1D)の基本形態を模式的に示した概略断面図である。 実施例11によって作製したゼオライトの合成物のX線回折パターンを示した図であり、縦軸に回折X線強度(Intensity)を示し、横軸に回折角度(2θ degree/CuKn)を示した。 実施例11によって作製したゼオライトの合成物のSEM像を示した図である。 比較例6のゼオライト原料溶液の加熱時における温度、入射波の出力、反射波の出力及び共振周波数の時間変化を示した図である。 実施例12によって作製したゼオライトの合成物のX線回折パターンを示した図であり、縦軸に回折X線強度(Intensity)を示し、横軸に回折角度(2θ degree/CuKn)を示した。 実施例12によって作製したゼオライトの合成物のSEM像を示した図である。
本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して以下に説明する。本発明は、本発明で規定されること以外、下記実施形態に限定されるものではない。また、各図面に示される装置の形態は、本発明の理解を容易にするための模式図であり、各構成部材のサイズおよび相対的な大小関係等は説明の便宜上大小を変えている場合があり、実際の関係をそのまま示すものではない。また、本発明で規定する事項以外はこれらの図面に示された外形、形状に限定されるものでもない。
マイクロ波処理においては、上述したように、特に被処理対象物の誘電率(比誘電率:ε’)が大きい場合、電界強度が極大となる領域を広く取れない場合があり、また定在波が形成されないことがあるため、被処理対象物の体積に限界があった。特に化学反応に利用される溶媒である水やアルコール類は誘電率が大きいものが多く、被処理対象物の体積の制約は、大量処理(スケールアップ)時の制約となっている。一方、化学反応に利用される溶媒の透磁率(比透磁率:μ’)は1のものが多く、また磁性損失(μ’’)は0のものが多い。このことは、マイクロ波処理する際、磁界極大の位置に体積の大きい被処理対象物を設置しても、定在波の形成に影響を及ぼすことが少なくなることが期待される。
本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。以下、詳細に説明する。
[マイクロ波処理装置]
図1に示すように、マイクロ波処理装置1(1A)は、空胴共振器2及び該空胴共振器2内に定在波を形成することができる周波数のマイクロ波を供給するマイクロ波供給手段3を有する。マイクロ波供給手段3は、マイクロ波を出力するマイクロ波発生器4、出力したマイクロ波を空胴共振器2内に供給するアンテナ5を含む。マイクロ波発生器4には、マイクロ波を発振するマイクロ波発振器が備えられ、さらに、マイクロ波発振器を制御する制御部11、マイクロ波の減衰レベルを調節する減衰器、マイクロ波電力を増幅する増幅器、反射波を吸収するアイソレータ、反射波を抑制する整合器等(図示せず)を備えてもよい。
空胴共振器2は、その内部のマイクロ波照射空間2Aに定在波を形成する。定在波は、TMmn0モード(m、nは1以上の整数である)又はTEm0pモード(m、pは1以上の整数である)のシングルモードである。
例えば、マイクロ波照射空間2Aの中心軸Cにおいて、かつ空胴共振器2内に形成される定在波のエネルギー(磁界強度)が極大となる。また中心軸C方向には定在波エネルギーが均一となる。このエネルギーが極大でかつ均一となる部分又はその近傍に沿って管6が配される。管6は、例えば、孔が貫通した両端が開放された筒状体である。管6内(内部空間6A)には被処理対象物31(図面では矢印で示す)が配される。例えば、TM1n0モード(nは1以上の整数)の定在波が発生する円筒形の空胴共振器2の場合の中心軸Cにおける磁界強度が極大となり、中心軸Cに沿って磁界強度が均一になる。
一例として筒状態(円筒型)空胴共振器内のTM110モードの定在波の電界分布と磁界分布を図2に示す。TM110モードの定在波の電界分布はx軸上に2つのピークがあるが、中心軸C(図上x=0)の位置では電界強度は0となっている。一方、磁界分布は、中心軸Cの位置で磁界強度が極大となっていることがわかる。中心軸C(図では紙面に対して上下方向)に沿って電界強度は0であり、磁界強度は極大値で均一となる(図示せず)。
このため、管6は中心軸Cに沿って配されることが好ましい。この管6内の内部空間6Aには、被処理対象物31が配される。被処理対象物31が配されるとは、内部空間6Aに被処理対象物31が存在することを意味し、被処理対象物31が管6内に静置している状態も、被処理対象物31が管6内を流動している状態も含む意味である。被処理対象物31は、管6の内部空間6A内のすべてを満たしていてもよく、または一部を満たしていてもよい。
なお、図1には管6を設けた形態を示したが、管6を設けず、被処理対象物の種類に応じて、当該被処理対象物を自立させた状態で配することもできる。また、管6は管内に被処理対象物を流通させる形態でなければ、管6を孔が貫通した形状とする必要はなく、例えば、一端を閉じた形状(例えば試験管の形状)とすることができる。
断面が矩形の角筒型(以下、矩形型ともいう)空胴共振器におけるTE102モードの定在波の電界分布と磁界分布を図3に示す。図2と同様、中心軸Cの位置で電界強度が0、磁界強度が極大となっており、中心軸C(図では紙面に対して上下方向)に沿って電界強度は0であり、磁界強度は極大値で均一となっている(図示せず)。
なお、矩形型空胴共振器においてTEm0pモード(mは1以上、pは3以上の整数)においては、電界が0、磁界が極大となる軸は中心軸C以外にも存在しており、該軸においても同様の作用が期待される。しかし、中心軸以外ではその位置を特定するのは、中心軸Cを特定するより難しくなるため、本発明は中心軸位置に被処理対象物を配置することがより好ましいといえる。矩形型空胴共振器において中心軸位置と磁界が極大となる位置が一致する定在波はTEm0pモード(mは1以上の整数、pは2以上の偶数)である。
マイクロ波供給口2Sには、高周波を印加することができるアンテナ5を有することが好ましい。アンテナ5は、ケーブル7を介してマイクロ波発生器4と接続することができる。なお、アンテナ5は、マイクロ波発生器4と電気的に接続されていれば、その接続形態は問わない。以下「接続」とは、特に断りがない限り、電気的接続を意味する。
マイクロ波発生器4から発せられたマイクロ波をアンテナ5から空胴共振器2内に供給することができる。マイクロ波発生器4では、増幅器(図示せず)によってマイクロ波電力を調整することができ、それによって空胴共振器2内に形成される定在波のエネルギー強度分布を制御することが可能となる。
定在波は、空胴共振器2内に上述したTMモードまたはTEモードの定在波が形成される周波数とすることができる。
また図1に示す形態において、アンテナ5のかわりに導波管を用いたマイクロ波供給口を設置した形態とすることもできる。供給するマイクロ波の周波数を伝送できる角筒型導波管もしくは円筒型導波管と空胴共振器とを適切な開口部を有したアイリスを介して配することで、マイクロ波発振器からのマイクロ波エネルギーを空胴共振器2に導入することができる。
なお、上記の各形態は、本発明のマイクロ波処理装置1の一例を説明したものであり、本発明のマイクロ波処理装置1は、本発明で規定すること以外は、上記の形態に何ら限定されるものではない。
また、磁界を利用したマイクロ波処理を行う場合は、TMmn0モード(mおよびnは1以上の整数)を用いることが好ましい。なかでも円筒型空胴共振器におけるTM110モードの定在波および矩形型空胴共振器におけるTE102モードは、中心軸C部分が磁界極大となるため、被処理対象物を設置する位置を決定しやすい。
被処理対象物は、空胴共振器2の内部の磁界強度に対応させて、磁界強度の強い部分に配される。特に、空胴共振器2内に形成された磁界強度が極大になる領域に配せば、より効率的な加熱が可能になる。例えば、被処理対象物が、磁性を有する物質の場合には磁界エネルギーを吸収することで、より効率的な加熱となる。被処理対象物が金属やイオンを含む物質などで電気伝導性を有する場合、磁界により物質内に誘起された電流によるジュール熱で発熱させることができ、より効率的な加熱が可能になる。
上記中心軸C方向に直交する方向における管6の内部空間6Aの最大長さ(管6の断面が円形の場合は内径)は、空胴共振器内に定在波が形成できれば特に制限されない。例えば、2.45GHz帯であれば80mm以下とすることができ、60mm以下が好ましく、30mm以下がより好ましく、10mm以下がさらに好ましく。8mm以下としてもよい。また、管6の上記最大長さは通常は0.2mm以上であり、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは2mm以上、さらに好ましくは2.5mm以上、特に好ましくは3mm以上である。このように管の内径を大きくしても、磁界加熱では効率的な加熱が可能になる。また、管の内径は、該マイクロ波の波長をλとした場合、2λ/3以下とすることができ、λ/2以下が好ましく、λ/4以下がより好ましい。また、管6の上記最大長さは通常はλ/40以上であり、好ましくはλ/24以上、より好ましくはλ/6以上である。ただし、λ以上とした場合は目的とするTMmn0モード(mおよびnは1以上の整数)以外の定在波、例えばTMmnpモード(mもしくはnは1以上の整数、pは1以上の整数)が形成されることもあるため、供給するマイクロ波の周波数は、目的外の共振周波数と3MHz以上とすることが望ましい。もしくは目的共振周波数をf[Hz]とした場合は、目的外の共振周波数を0.001f以上とすることが望ましい。
なお、反応管を太くした場合は、磁界加熱だけでなく電界による作用も受けることがある。このため、電界による作用が障害になる場合(一例として電気伝導性のマイクロ波処理対象物でのスパークの発生)は、その影響を考慮して反応管径を細くしたほうがよい。
一方、反応管長を短くする場合や反応管径を細くした場合は、マイクロ波吸収体積が減少するため、十分な発熱効果が得られないことがある。このため、マイクロ波処理による加熱を対象とする場合は、目的温度に到達するよう、マイクロ波吸収体積が十分となる反応管の長さや太さに調整するか、照射するマイクロ波出力を高める必要がある。
上記中心軸C方向に直交する方向における被処理対象物の最大長さの好ましい範囲は、上記中心軸C方向に直交する方向における管6の内部空間6Aの最大長さと同じである。この場合、被処理対象物は管6内に配されていてもよく、被処理対象物の種類によっては(例えば管6に囲まれていなくても被処理対象物がその形状を保てる場合)管6を設けずに、空胴共振器内に被処理対象物を配することもできる。本発明において、「中心軸C方向に直交する方向における管6の内部空間6Aの最大長さ」は、中心軸C方向に直交する方向における管6断面の内周(内部空間6A断面の外周)において、ある1点から別の1点までの距離が最大となる長さである。また、「中心軸C方向に直交する方向における被処理対象物の最大長さ」は、中心軸C方向に直交する方向における被処理対象物断面の外周において、ある1点から別の1点までの距離が最大となる長さである。
上記のマイクロ波処理装置1では、内部に被処理対象物(図示せず)が存在し、又は被処理対象物が流通する管6を配した空胴共振器2に対して、マイクロ波発生器4からマイクロ波を供給し、空胴共振器2内に上記の定在波を形成する。例えば、この定在波の磁界強度が極大となる部分に沿って管6を設けることにより、管6内の被処理対象物31を高いエネルギー効率で処理することができる。上記マイクロ波処理装置1では、空胴共振器2に設けられたマイクロ波供給口2Sから定在波を形成するマイクロ波がマイクロ波照射空間2A内に供給される。
定在波の周波数は、例えば、2.45GHz帯の周波数であり、空胴共振器2内に定在波を形成できればよい。TM1n0モードの定在波が形成されることが好ましく、TM110、TM120、TM130のモードの定在波が形成されることがより好ましい。なかでも中心軸Cに磁界強度のピークが位置するという理由から、円筒型空胴共振器におけるTM110モードの定在波が形成されることがさらに好ましい。また、同様の理由で矩形型空胴共振器におけるTM102モードの定在波が形成されることも好ましい。
上記マイクロ波処理装置1Aにおいて、マイクロ波発生器4から供給されるマイクロ波は、周波数を調整して供給される。周波数の調整により、空胴共振器2内に形成される定在波の磁界強度分布を所望の分布状態に制御することができる。またマイクロ波電力の出力によって定在波の強度を調整することができる。つまり、被処理対象物31の加熱状態を制御することが可能になる。
具体的には、下記の制御部11によって制御することができる。制御部11は、例えば、マイクロ波発生器4に内蔵されていても、又は別体に構成されていてもよい。この制御部11は、空胴共振器2のマイクロ波照射空間2A内に形成された定在波の周波数(共振周波数)に基づいて、マイクロ波発生器4から発生するマイクロ波の周波数を調整する。そしてマイクロ波発振器(図示せず)より調整された周波数のマイクロ波が発振される。マイクロ波照射空間2A内の定在波の周波数(共振周波数)を検出するため、空胴共振器2には検出部12が配されていることが好ましい。検出部12は、マイクロ波照射空間2A内部のエネルギー強度を計測し、その信号を処理して周波数を検出するものであればよい。またマイクロ波発生器4は、温度測定器42の値をもとにマイクロ波出力を調整することもできる。この方法として、マイクロ波発振器(図示せず)とマイクロ波増幅器(図示せず)の間に設置した減衰器(図示せず)の減衰率を調整することもできる。
本発明のマイクロ波処理装置1の構成について詳説する。
<空胴共振器>
マイクロ波処理装置に用いる空胴共振器2の形状は、一つ以上のマイクロ波供給口2Sを有し、マイクロ波を供給した際にシングルモードの定在波が形成されるものであれば特に制限はない。例えば、円筒形又は角筒形の空胴共振器を用いることができる。本明細書において円筒形の空胴共振器とは、該空胴共振器の中心軸Cに垂直な内側断面形状が円形であるものの他、当該断面形状が楕円形もしくは長円形であるものを含む意味に用いる。また、角筒形の空胴共振器は、中心軸Cに直角な内側断面形状が多角形であるものを意味し、当該断面形状が4〜10角形であることが好ましい。また、多角形の角が、丸みを帯びた形状であってもよい。
空胴共振器2の大きさも上記説明した形態において、目的に応じて適宜に設計することができる。空胴共振器2において中心軸Cの方向の長さは特に限定されないが、短すぎると空胴共振器2内に十分なマイクロ波電力を供給できないことがある。また供給するマイクロ波の波長をλとしたとき、長さがλ以上の場合は、その方向に向かって磁界分布が極大をもつ高次の定在波が形成される共振周波数と、目的の定在波の共振周波数を分離する必要がある。このため、中心軸C方向の空胴共振器の寸法はλ以下とすることが好ましい。
マイクロ波供給口2Sが二つ以上の場合は、お互いの位相を制御することで形成される時間平均的な定在波を用いてもよい。
空胴共振器2は電気抵抗率の小さいものが望ましく、通常は金属製であり、一例として、アルミニウム、銅、鉄、マグネシウム、黄銅、ステンレス、若しくはそれらの合金等を用いることができる。又は、樹脂やセラミック、金属の表面に電気抵抗率の小さい物質をめっき、蒸着などによりコーティングしてもよい。コーティングには銀、銅、金、スズ、ロジウムを含む材を用いることができる。
<マイクロ波発生器>
本発明のマイクロ波処理装置1は、マイクロ波発生器4から発生したマイクロ波をマイクロ波供給口2Sからアンテナ5を介して空胴共振器2のマイクロ波照射空間2A内に供給される。マイクロ波発生器4は、前述したように、マイクロ波発振器を備え、またマイクロ波発振器を制御する制御部を備えてもよく、さらに減衰器、増幅器、アイソレータ、整合器等を備えていてもよい。もしくは、空胴共振器2にアイリス(図示せず)を介して接続した導波管(図示せず)を用いてマイクロ波照射空間2A内にマイクロ波を供給してもよい。
<マイクロ波発振器>
上記マイクロ波発生器4に含まれるマイクロ波発振器(図示せず)としては、発振周波数を2.45GHz帯の範囲内にて調整できるマイクロ波発振器を挙げることができる。例えば、半導体固体素子を用いたマイクロ波発振器や、マグネトロン等のマイクロ波発振器を用いることができる。マイクロ波の周波数を微調整できるという観点から、半導体固体素子を用いたマイクロ波発生器を用いることが好ましい。半導体固体素子を用いたマイクロ波発振器としては、例えばガンダイオード、アバランシェダイオード(インパットダイオード)、等を用いたマイクロ波発生器が挙げられる。もしくは、MHz帯ではコイルとコンデンサからなるLC回路による発振回路も用いることができる。また、これらの素子と周波数制御機構をパッケージ化したVCO(Voltage Controlled Oscillator)やPLL(Phase Lockd Loop)回路等も挙げることができる。マイクロ波発振器によって発生されるマイクロ波は、周波数が2.45GHz帯のマイクロ波に限定されるものではなく、915MHz帯、5.8GHz帯等、その他の周波数帯のマイクロ波を発生するものも、適宜、用いることができる。
<減衰器>
減衰器(アッテネータ)は、被処理対象物の温度を調節するように減衰レベルを調節し、最終のマイクロ波電力を決定する。マイクロ波増幅器の入り口レベルを減衰器で調節することで、最終出力を調節するものである。減衰器を用いないマイクロ波調整手段として、マイクロ波増幅器の増幅率を調整する方法もある。
<制御部>
制御部11は、共振周波数の変化に基づいて、マイクロ波供給手段により供給するマイクロ波の周波数を制御する。この共振周波数の変化は、被処理対象物の、形状、組成、相及び温度等の状態の少なくともいずれかが変動することによって被処理対象物の誘電率が変化することによる。この誘電率の変化によって、磁界が極大となる周波数が変化し得るため、磁界が極大となる位置を一定位置に制御する。
磁界の極大位置を一定位置に制御するには、マイクロ波発振器から発生するマイクロ波を、空胴共振器のマイクロ波照射空間2A内に形成された定在波の周波数に一致するように調整する方法がある。この一致するとは、完全に一致することが好ましいが、ある範囲内、例えば0.1〜0.2%以内の差がある場合も周波数が一致している範ちゅうに含むものとする。
例えば、検出部12によって、検出された信号を解析して、マイクロ波発振器へ送る周波数信号を決定する。そして、周波数を一致させたマイクロ波をマイクロ波発振器より発振させて、マイクロ波照射空間2A内に照射する。
制御部11の機能は上記に限定されることはなく、マイクロ波処理装置の各種機能を制御することもできる。
上記制御部11における制御方法の具体的一例を説明する。検出部12によってマイクロ波照射空間2A内のマイクロ波のエネルギー強度に比例した出力信号を検出する。一方、マイクロ波照射空間2Aに供給するマイクロ波は、マイクロ波発振器から発振したマイクロ波もしくはマイクロ波発振器から発振したマイクロ波を増幅器によって増幅したマイクロ波である。このとき、マイクロ波発生器4から発生する周波数を例えば2.45GHz帯全域又は2.45GHz帯の一部の帯域で掃引すると、検出部12からのエネルギー強度の出力信号は極大値をもつ分布を得る。この極大値はマイクロ波照射空間2A内に定在波が形成できていることを意味しているので、あらかじめTM110モードの定在波の共振周波数と比較することで所定のモードの共振周波数を検出することができる。制御部11によって、このマイクロ波発生器4から発生するマイクロ波の周波数が、検出したマイクロ波の周波数に一致するように、マイクロ波発振器よりマイクロ波を発振する。
もしくは制御部11では、検出部12からの出力信号を用いず、マイクロ波発生器4と空胴共振器2の間に設置する反射波検出器(図示せず)からの反射波信号を用いることもできる。この場合、反射波が小さい、つまり反射波の周波数が極小値となることが、空胴共振器2内にエネルギーが供給され定在波が形成されていることを意味する。したがって、マイクロ波の反射波の極小値からマイクロ波の共振器周波数を導出することもできる。
このようにして、検出部12によって検出される極大値、もしくは反射波検出器(図示せず)によって検出される極小値から導出したマイクロ波の共振周波数に一致した周波数のマイクロ波を、マイクロ波発生器4のマイクロ波発振器から発振させるようにする。または検出したマイクロ波の共振周波数に一致した周波数のマイクロ波を増幅器から出力させるようにする。
そして、マイクロ波照射空間2A内に共振周波数に一致させた周波数のマイクロ波を供給する。
共振周波数を検出するための操作は定期的に行うことが望ましい。外乱が大きい場合や温度変化、流量変化、組成変化等の状態変化が大きい場合、マイクロ波処理を開始した直後は短い周期、例えば1秒以下の周期で行うことが望ましい。一方、外乱が少ない場合や、温度変化、流量変化、組成変化等の状態変化が少ない場合、マイクロ波処理を開始し十分な時間が経過し安定したのちは、長い周期、例えば1分おきに行ってもよい。
共振周波数を検出するためにマイクロ波発生器4からのマイクロ波の周波数を掃引する場合、掃引周波数の幅は狭いほうが望ましい。しかし変動が大きく、掃引周波数の幅が狭すぎる場合には、掃引周波数内に極大値が見つからないことがある。その場合は掃引周波数幅を広げて、再度掃引することで共振周波数を検出することも望ましい。
<マイクロ波増幅器>
マイクロ波発生器4には、マイクロ波発振器から発生したマイクロ波を増幅する増幅器を備えることが好ましい。このマイクロ波増幅器の構成に特に制限はないが、例えば、高周波用電界効果トランジスタ(FET)を有する高周波トランジスタ回路で構成されることが、例えば小型化において好ましい。またマイクロ波増幅器31の出力電力は、適宜設定することができる。照射するマイクロ波電力を調整する手段として、マイクロ波増幅器の入力段手前に減衰器を設けてもよい。もしくはマイクロ波増幅器の増幅率を調整する手段を用いてもよい。
<アイソレータ>
アイソレータは、マイクロ波発振器にて発生する反射波の影響を抑制(例えば吸収)してマイクロ波増幅器を保護するものであり、一方向(アンテナ5方向)にマイクロ波が供給されるようにするものである。このアイソレータの代わりにサーキュレータを用いることもできる。サーキュレータを用いる場合には3つのポートのうち一つのポートに終端抵抗(ダミーロード)を接続する。残りの2つのポートが入力と出力になる。マイクロ波増幅器や、配線、ケーブル、コネクタ類が反射波に対して損傷を受けないレベルであれば、アイソレータもしくはサーキュレータを設けなくてもよい。
<整合器>
整合器は反射波が発生しないように反射波を抑制する機能を有する。整合器としては、可変式のスタブチューナやスラグチューナもしくはEHチューナ等用いることができる。また、被処理対象物のマイクロ波吸収特性が大きく変化しない場合は、固定式の整合器を用いることもできる。また、被処理対象物を設置した際、一時的に整合器を調整できる半固定式の整合器を用いることができる。
例えば、回路基板上にマイクロストリップラインによって構成された線路と、該線路のインピーダンス(例えば、Sパラメータ)を調整するコンデンサとを有する構成をとることができる。また、線路には、線路のインピーダンスを調整するための線路パターン調整部を配してもよい。
マイクロ波増幅器や配線、ケーブル、コネクタ類が反射波に対して損傷を受けないレベルであれば、整合器を設けなくてもよい。
<アンテナ>
円筒形の空胴共振器2の中心軸Cに平行な壁面(円筒の内面)又はその近傍には、マイクロ波供給口2Sが設けられている。マイクロ波供給口2Sを通じてマイクロ波照射空間2Aには、高周波を印加することができるアンテナ5が配されていることが好ましい。アンテナとしては磁界励起アンテナ、例えばループアンテナ、または電界励起アンテナ、例えばモノポールアンテナやダイポールアンテナ等を用いることが好ましい。アンテナ5の入力端は、整合器の線路の出力端に接続されている。
もしくは空胴共振器2にアイリスを設けた導波管を用いてマイクロ波供給口2Sを構成することもできる。
通常、マイクロ波発振器から発せられたマイクロ波を、マイクロ波増幅器、アイソレータ、整合器を介してアンテナ5を通してマイクロ波照射空間2A内に供給する。
マイクロ波処理空胴2A内の上記アンテナ5を磁界励起アンテナとなるループアンテナとする場合の端部は空胴共振器壁面など接地電位と接続することが好ましい。このアンテナ5にマイクロ波(高周波)を印加することで、例えばループアンテナのループ内に磁界が励振され空胴共振器内に定在波を形成する形態とすることができる。
マイクロ波処理空胴2A内の上記アンテナ5を電界励起のモノポールアンテナ、ダイポールアンテナとする場合、端部は空胴共振器壁面に接続せず、オープンとすることが好ましい。
上記アンテナ5をループアンテナとして構成する場合の端面は空胴共振器壁面など接地電位と接続することが好ましい。アンテナ5にマイクロ波(高周波)を印加することで、ループアンテナのループ内に磁界が励振され空胴共振器2内に定在波を形成する形態とすることができる。
例えば、上記の円筒状の空胴共振器2においてTM110のシングルモード定在波を形成させた場合、中心軸Cにおいて、磁界強度が極大になり、中心軸C方向に磁界強度が均一になる。したがって、管6において、その内部に存在し、又は流通する被処理対象物31を、均一に、高効率にマイクロ波加熱することが可能になる。
なお、マイクロ波発生器4から導波管を用いてマイクロ波供給口2Sにマイクロ波を供給してもよい。
上記構成では、マイクロ波発振器とアンテナ5との間に配した整合器(図示せず)やアイソレータ(図示せず)は、反射波が問題とならない場合には設置しなくてもよい。
さらに上記構成では、装置を小型化するために、空胴共振器2と一体に構成された筐体内に、マイクロ波増幅器、アイソレータ、整合器、アンテナ等を配することが好ましい。
<被処理対象物>
本発明のマイクロ波処理装置1では、被処理対象物(例えば、管内に配された被加熱対象物)は、空胴共振器2内部に定在波の磁界強度に対応させて配される。特に、空胴共振器2内に形成された定在波の磁界強度が極大になる部分に沿って配せば、より効率的な加熱が可能になる。
図1に示す形態のマイクロ波処理装置1Aにおいては、管6内に配される被加熱対象物31に特に制限はなく、液体、固体、粉末およびそれらの混合物を挙げることができる。もしくは、管6内にあらかじめ設置したハニカム構造体、触媒等(図示せず)を挙げることができる。
被加熱対象物31を管6内に流通させる場合、送液手段(例えば、送液ポンプ)41等を用いて被加熱対象物31を搬送することで連続的に被加熱対象物の温度を制御することができる。多くの化学反応は温度により反応の進行を制御することができるため、本発明のマイクロ波処理装置1は化学反応の制御に好適に用いることができる。
被加熱対象物はそれ自体で形状を維持できるものであれば、管内に配する必要はない。例えば、被加熱対象物が繊維状の固体であれば、管等の支持がなくても共振器内の搬送が可能である。
被加熱対象物をハニカム構造体とした場合には、マイクロ波処理装置は、例えば、ハニカム構造体を通過するガス状物質の温度制御をするために用いることができる。また、被加熱対象物を触媒とした場合には、後述するように、触媒の作用による化学反応を生じさせるために用いることができる。触媒は、ハニカム構造体に担持させた形態とすることも好ましい。
[マイクロ波処理方法]
マイクロ波処理方法は、空胴共振器内にマイクロ波を照射して、該空胴共振器内にTMmn0モード(m、nは1以上の整数)又はTEm0pモード(m、pは1以上の整数)のシングルモードの定在波を形成し、該定在波を用いて被処理対象物を処理する。マイクロ波には、例えば2.45GHz帯の周波数のマイクロ波を用いる。また定在波のエネルギー(磁界)強度が極大となる部分に沿って被処理対象物を配する。
このマイクロ波処理方法には、上述のマイクロ波処理装置1A又は後述するマイクロ波処理装置1Bを用いることが好ましい。以下、マイクロ波処理装置1Aの場合を説明するが、マイクロ波処理装置1Bの場合もマイクロ波処理装置1Aと同様に適用できる。
具体的には、上記マイクロ波処理装置1Aを用いて被処理対象物31の加熱を行うことができる。まずマイクロ波発生器4から上記のように周波数を調整して供給されるマイクロ波を、空胴共振器2のマイクロ波照射空間2A内に供給する。周波数の調整により、空胴共振器2内に形成される定在波の磁界強度分布を所望の分布状態に制御することができ、またマイクロ波の出力によって定在波の強度を調整することができる。つまり、管6内(内部空間6A)の被処理対象物31の、例えば加熱状態(温度)を制御することが可能になる。
上記マイクロ波の周波数は、例えば上記2.45GHz帯の周波数であり、マイクロ波照射空間2A内に特定のシングルモード定在波を形成することができるものである。
[化学反応方法]
化学反応方法は、空胴共振器内にマイクロ波を照射して、該空胴共振器内にTMmn0モード(m、nは1以上の整数)又はTEm0pモード(m、pは1以上の整数)のシングルモードの定在波を形成する。そして、該定在波を用いて被処理対象物を処理する。この処理は、主に加熱処理であるが、例えば吸熱反応により分子の結合を切るような処理も含む。以下、化学反応方法の説明では、被処理対象物を被加熱対象物として説明する。マイクロ波には例えば2.45GHz帯の周波数のマイクロ波を用いる。定在波の磁界強度が極大となる部分に沿って被加熱対象物を配し、該被加熱対象物を加熱することにより化学反応を生じさせることを含む。
上記化学反応方法には、マイクロ波処理装置1A又は1Bを用いることが好ましい。以下、マイクロ波処理装置1Aの場合を説明するが、マイクロ波処理装置1Bの場合もマイクロ波処理装置1Aと同様に適用できる。
化学反応方法としては、被加熱対象物の温度を制御することによって、被加熱対象物が関わる反応を促進もしくは停止することができる。例えば、被加熱対象物の温度を高めることによって反応を促進し、加熱を停止して温度を下げることによって反応を停止することができる。
化学反応方法にマイクロ波処理装置1Aを適用する場合、図示はしていないが、例えば、管(反応管ともいう)6の一端に反応原料を供給する反応原料供給口を有し、他端には反応生成物を排出する反応生成物排出口を設ける。反応原料といては、液体状原料、気体状原料、又はこれらに同伴した固体粉末原料を挙げることができる。
また空胴共振器2内にマイクロ波を透過する材料からなる反応管6を設置し、この反応管6の一端が反応原料供給口と連なり、他端が反応生成物排出口と連なる形態とすることもできる。マイクロ波を透過する材料としては、石英等のガラス材料、テフロン(登録商標)等の樹脂材料、アルミナ等のセラミック材料を挙げることができる。
反応原料は、例えば、供給口に設けた送液手段41により導入することができ、また、排出口に吸引手段(例えば、吸引ポンプ)(図示せず)等を設けて吸引することにより、反応原料供給口から原料を吸引する形態とすることもできる。
上記化学反応としては、転移反応、置換反応、付加反応、環化反応、縮合反応、還元反応、酸化反応、水素化反応、接触還元反応、異性化反応、開裂反応、不均化反応、接触分解反応、選択的触媒還元反応、選択的酸化反応、ラセミ化反応、等が例示される。さらに高分子合成に用いられるラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合、無機反応等が例示されるが、これらに限定されず種々の化学反応が挙げられる。また、触媒の作用を利用した触媒反応であることも好ましい。
化学反応の具体例を挙げると、水素貯蔵合金おける水素放出反応、揮発性有機物質を酸化分解する反応、窒素酸化物を窒素と酸素に還元する反応、硫黄酸化物をカルシウムに固定化する反応、重油を軽質化する反応等を挙げることができる。また、シェールガスの改質反応による低級炭化水素の製造、天然ガスからの合成ガス(一酸化炭素および水素の混合ガス)製造、炭化水素を原料とした合成ガスの製造、石炭および石炭から製造した成分からの合成ガス製造が挙げられる。また、石油類からの合成ガス製造に関する反応、合成ガスからのアルコール、アルデヒド、カルボン酸、エーテル、アルカン等の製造、二酸化炭素を化学品に変換する反応が挙げられる。さらに、炭化水素の部分酸化による含酸素化合物の製造、飽和炭化水素の変換による不飽和炭化水素の製造、芳香環同士もしくは芳香環と脂肪族を繋ぐカップリングによる液晶化合物、発光材料等の製造に関する反応が挙げられる。またさらに、水素を重水素に置換した標識化合物等の製造に関する製造、不飽和炭化水素を含むモノマーからのオリゴマーおよびポリマー製造に関する重合反応、無機金属化合物の還元による金属微粒子製造に関する無機反応などを挙げることができる。 上記の化学反応は、通常、マイクロ波照射によって目的の反応を生じる反応原料を加熱することにより化学反応を生じさせることができる。または触媒に反応原料を通し、それにマイクロ波照射することによって化学反応を生じさせることができる。例えば、上述した反応管の中に反応原料を供給し、マイクロ波照射によって定在波を形成し、定在波の磁界強度の極大部分によって反応管内の該反応原料を加熱して、化学反応を生じさせることができる。または反応管内に触媒を配し、この触媒に反応原料を通し、上記同様に定在波の磁界強度の極大部分によって反応原料を加熱することによって、もしくは触媒を加熱することによって化学反応を生じさせることができる。
上記の化学反応それ自体は公知であり、本発明の化学反応方法には、加熱状態の制御以外は、公知の化学反応を広く適用することができる。
本発明の化学反応方法において、反応時間、反応温度、反応基質、反応媒体等の条件は、目的の化学反応に応じて適宜に設定すればよい。例えば、化学ハンドブック(鈴木周一・向山光昭編、朝倉書店、2005年)、マイクロ波化学プロセス技術II(竹内和彦、和田雄二監修、シーエムシー出版、2013年)、特開2010−215677号公報、特開2011−137226号公報等を参照し、化学反応条件を適宜に設定することができる。
本発明のマイクロ波処理装置1は、空胴共振器2内に上述した被加熱対象物31を配し、空胴共振器2内に形成した定在波によって、この被加熱対象物31を局所的に又はこの被加熱対象物31の略全体を加熱する形態とすることができる。また、上記被加熱対象物31の加熱により化学反応を生じさせるマイクロ波化学反応装置として用いて、化学反応が生じる形態とすることができる。被加熱対象物31の加熱により生じる化学反応は、被加熱対象物31自体が化学反応を起こして反応生成物を生じてもよく、または加熱した被加熱対象物31の作用(典型的には触媒作用)により化学反応が生じる形態としてもよい。
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。
[実施例1]
実施例1では、図1に示したマイクロ波処理装置1Aを用いた。マイクロ波処理装置1Aの空胴共振器2には、内部に円筒型のマイクロ波照射空間2Aを有する金属製の空胴共振器を用いた。このマイクロ波照射空間2Aは、TM110モードと呼ばれる定在波が形成できるように、マイクロ波発振器の周波数帯に応じた内径を設定した。マイクロ波照射空間2Aの内径とは、円筒型のマイクロ波照射空間の中心軸Cに直交する方向の断面形状である円形の直径をいう。
マイクロ波照射空間2の中心軸Cに沿って貫通するように、石英ガラスやポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の管6を設置した。流体が、管6を流通できるように、管6の一方側(図面では上側)に送液手段41として送液ポンプを取り付けた。管6の反対側(図面では下側)には、流体の温度を計測できるように、温度測定器42として空胴共振器2から出口2OUTから1cmの位置に熱電対(K型、直径0.25mm)を取り付けた。また、マイクロ波照射空間2A内部のエネルギー強度を計測するために、検出部12を取り付けた。
マイクロ波発生器4に備えたマイクロ波発振器には、周波数を調整できるVCO発振器(Voltage Controlled Oscillator)を用いた。マイクロ波発振器の発振周波数は、空胴共振器2内にTM110モードの定在波が維持できる周波数となるように、検出部12からの信号を制御して調整した。
マイクロ波発生器4と空胴共振器2の大きさに関して、半導体式マイクロ波発生器(2.3〜2.7GHz、最大出力100W)を用い、内径146mm、管6への照射長さは20mmの空胴共振器2を用いた。管6はPTFE製の内径1mm、2mm、3mmのものを用い、磁界が極大となる中心軸C上に沿って設置した。
実施例1では、管6内に、液体の流速100ml/hにて、イオン交換水(導電率40μS/m)及び塩化ナトリウム10質量%水溶液(導電率0.20S/m)をそれぞれに流し、マイクロ波出力を20Wに設定して上記各液体の加熱を行った。表1に、それぞれの液体を加熱した場合のマイクロ波出力あたりの温度上昇率を示した。温度上昇率は、到達温度から開始温度を引いた温度上昇量(℃)を、さらにマイクロ波出力(W)で除した値である。いずれの液体も管6の内径が大きくなるにつれて温度上昇率は高くなった。また、同じ管6の内径で比較すると、導電率が高い塩化ナトリウム水溶液の方が、イオン交換水よりも温度上昇率は10倍以上高い値となった。磁界加熱では管6の内径が大きく、導電率の高い液体ほど加熱されやすいことがわかった。
[比較例1]
比較例1は、空胴共振器2にTM010モードの定在波を形成する空胴共振器に換えた以外、実施例1に用いたのと同じ構成の装置を用いた。この場合、電界強度の極大部(磁界の極小部)が中心軸Cに沿って形成され、この中心軸Cに沿って管6が配されることになる。この装置を用いて、イオン交換水および塩化ナトリウム10質量%水溶液の電界加熱を行った。すなわち、空胴共振器が異なる以外、実施例1と同様にマイクロ波加熱を行った。
空胴共振器の大きさに関して、内径92mm、管6への照射長さは10mmのキャビティを用いた。管6は実施例1と同様に、PTFE製の内径1mm、2mm、3mmのものを用い、電界が極大となる中心軸C上に沿って設置した。
実施例1と同様に、流速100ml/h、マイクロ波出力20Wにて、イオン交換水と塩化ナトリウム10質量%水溶液の加熱を行った。上記表1に、それぞれの液体を加熱した場合のマイクロ波出力あたりの温度上昇率を示す。いずれの液体も管6の内径が大きくなるにつれて温度上昇率は小さくなり、加熱の効率は低下した。また、同じ管径で比較すると、イオン交換水と塩化ナトリウム10質量%水溶液の温度上昇率の差は1.5倍以内であり、液体の導電率の温度上昇率への影響は、TM110モードを用いた磁界加熱よりも小さいことがわかった。
[実施例2]
本実施例2では有機溶媒の加熱例として、エチレングリコールの加熱を行った。実施例1と同様の装置構成にて、PTFE製の内径1mm、2mm、3mm、4mmの管6および、石英ガラス製の内径8mmの管6を用い、磁界が極大となる中心軸上に沿って管6を設置した。エチレングリコールの流速は100ml/h、マイクロ波出力は20Wに設定して加熱を行った。表2に、マイクロ波出力あたりの温度上昇率を示す。有機溶媒の加熱においても、管径が大きくなるにつれて温度上昇率は高くなることがわかった。
空胴共振器2内での定在波の形成状態を確認するために、ネットワークアナライザ(Agilent Technologies製、E5071C)を用いて、S21の波形を調べた。S21は、マイクロ波の、[伝送波電圧]/[入射波電圧](順方向の伝送波特性)である。空胴共振器2内に定在波が形成されている場合、S21は上に凸の波形を示す。図4に、内径1〜8mmの管6にエチレングリコールが充填されている状態におけるS21の波形を示した。内径1〜8mmのすべての管において、上に凸の形状を示したことから、定在波が形成されており、シングルモードにてマイクロ波加熱がなされていることがわかった。このように定在波により加熱できる被加熱対象物の容積を格段に大きくできることがわかった。なお、管の内径が1mm、2mmのS21の波形は、3mm、4mmのS21の波形にほぼ重なっていた。
[比較例2]
比較例2は、比較例1と同様の装置構成にて、エチレングリコールの加熱を行った。PTFE製の内径1mm、2mm、3mm、4mmの管および、石英ガラス製の内径8mmの管6を用い、TM010モードの電界が極大となる中心軸上に設置した。エチレングリコールの流速は100ml/h、マイクロ波出力を20Wに設定して加熱を行った。上記表2に、マイクロ波出力あたりの温度上昇率を示す。管6の内径が大きくなるにつれて温度上昇率は低くなった。
比較例2では、実施例2と同様に、空胴共振器2内での定在波の形成状態を確認するために、ネットワークアナライザを用いてS21の波形を調べた。図5は、内径1〜8mmの管6にエチレングリコールを充填した場合のS21の波形を示している。内径3mm以下の管6では、S21の波形は上に凸の形状を示したことから、定在波が形成されており、シングルモードでのマイクロ波加熱がなされていることがわかった。しかし、内径4mm以上の管6では、バックグラウンドレベル(約−70dB以下)まで強度は低下した。また、内径4mm以上の管6を用いた場合のグラフは、ほぼ平らな形状を示しており、定在波が形成されているシングルモードの状態ではなく、マルチモードの状態にてマイクロ波加熱がなされていることがわかった。
次に、実施例2の図4と比較例2の図5とを比較すると、同じ被処理対象物であっても磁界が極大となる位置に被処理対象物を配置した場合、電界が極大となる位置に配置した場合よりも定在波形成への影響が少ないことが実証された。このため、磁界が極大となる位置へは、より大きな体積の被処理対象物を設置し、マイクロ波処理が可能となり、大量処理やスケールアップに好ましいことが確認できた。
[実施例3]
実施例3は、液体の種類を変えた場合の空胴共振器2内での定在波の形成状態を確認するために、ネットワークアナライザを用いてS21の波形を調べた。図6は、実施例1と同じ装置構成にて、内径1mm、外形3mmの管にイオン交換水、エチレングリコール、ドデカンをそれぞれに充填した場合のS21の波形を示している。液体の種類や量を変えた場合においても共振周波数の値は、ほとんど変化しなかった。
実施例1の装置構成を用いる場合(実施例1〜3の場合)、マイクロ波発生器の周波数帯が狭い場合でも、様々な溶液を一種類の空胴共振器にて加熱可能であり、産業利用上の汎用性が高い装置であるとわかった。
[比較例3]
比較例3では、比較例1と同じ装置構成にて、液体の種類を変えた場合の空胴共振器2内での定在波の形成状態を確認するために、ネットワークアナライザを用いてS21の波形を調べた。図7は、内径1mmの管に、イオン交換水、エチレングリコール、ドデカンをそれぞれに充填した場合のS21の波形を示している。液体の種類によって、共振周波数の値は異なっていた。磁界によるマイクロ波加熱では共振周波数の変化が小さいのに対して、電界によるマイクロ波加熱の場合、液体の種類や量による共振周波数の変化が大きいことがわかった。
[実施例4]
実施例4では、図8に示したマイクロ波処理装置1Bを用いて、被加熱対象物31として液体の加熱を行った。このマイクロ波処理装置1Bは、管内に液を流通させないこと以外は、上記マイクロ波処理装置1Aと同様の構成とした。このマイクロ波処理装置は、マイクロ波発振器(図示せず)、TM110モードの空胴共振器2、マグネティックスターラー51からなるバッチ式のマイクロ波処理装置を用いた。マグネティックスターラー51は、管6内の液を撹拌する撹拌子52が備えた。管6には外径10mm内径8mmの石英製の試験管を用い、空胴共振器2の中心軸に沿って設置し、液体の加熱を行った。温度計測には放射温度計(ジャパンセンサー社製TMHX−CN0500(商品名))(図8に図示せず)を用い、管6の表面温度を測定した。加熱液体として、イオン交換水、塩化ナトリウム10質量%水溶液、エチレングリコール、ヘキサンを用いた。各1mlを試験管に入れて、撹拌子にて撹拌した。空胴共振器2の照射高さ20mmに対し、試験管内の液体の高さも20mmであった。図9(A)にイオン交換水、図9(B)に塩化ナトリウム10質量%水溶液、図10(C)にエチレングリコール、図10(D)にヘキサンの昇温特性を示した。イオン交換水、塩化ナトリウム10質量%水溶液およびエチレングリコールは沸点近傍まで昇温し、また、マイクロ波加熱が難しいとされる非極性溶媒のヘキサンも加熱されることがわかった。以上より、TM110モードの本発明のマイクロ波処理装置1(1B)は内径が大きな管の加熱もできることから、試験管を用いたバッチ式マイクロ波加熱にも適していることがわかった。
[実施例5]
本実施例では固体(粉末)のマイクロ波加熱を行った。実施例1と同様のマイクロ波処理装置1Aを用いて、外径10mm内径8mmの石英製の管6にパラジウム粒子が5質量%担持されているカーボン担持パラジウム触媒(株式会社アミル製)の粉体を充填して管内に保持した状態で、マイクロ波照射空間2の中心軸Cに沿って設置し加熱を行った。温度計測には放射温度計(図1に図示せず)を用い、管6の表面温度を測定した。なお、管6内でのカーボン担持パラジウム触媒の充填密度は、3.7g/cmであった。図11に、マイクロ波加熱時の昇温特性を示した。マイクロ波出力60Wにて約15秒加熱後の到達温度は約500℃であった。
[比較例4]
比較例1と同様の、TM010モードの定在波を形成する空胴共振器2を用いた装置にて、実施例5と同様の管6を用いて、管6内にカーボン担持パラジウム触媒を充填して管内に保持した状態で、実施例5と同様に管6を配してマイクロ波加熱を行った。そのマイクロ波加熱時の昇温特性を図11に合わせて示した。マイクロ波出力60Wにて約15秒加熱後の到達温度は約300℃であった。
[実施例6]
本実施例ではカーボン粉末のマイクロ波加熱を行った。実施例1の装置構成にて、外径10mm内径8mmの石英管内にカーボン粉末を充填し、マイクロ波照射空間2の中心軸Cに沿って設置し加熱を行った。そして温度計測には放射温度計(図1に図示せず)を用い、管6の表面温度を測定した。なお、管6内でのカーボン粉末の充填密度は、2.5g/cmであった。図12に、設定温度450℃としてマイクロ波加熱時の昇温特性を示す。約10秒間の加熱で設定温度の450℃に到達した。
空胴共振器2内での定在波の形成状態を確認するために、ネットワークアナライザを用いてS21の波形を調べた。図13にカーボン粉末を充填した管6を設置した場合および、設置していない場合のS21の波形を示す。2つの波形はほぼ重なり合っており、カーボン粉末を充填した管6を設置した際も定在波は安定して形成されていることがわかった。また、固体(粉末)のマイクロ波加熱においても、TM110モードの定在波を形成し、この定在波の磁界極大部で被加熱対象物を加熱することにより、効率の良いマイクロ波加熱ができることがわかった。
[比較例5]
実施例6の比較例として、TM010モードの定在波を形成する空胴共振器2に実施例6で用いたカーボン粉末を充填した管6を設置した場合および、設置していない場合のS21の波形を図14に示す。上記のカーボン粉末を充填した管6の設置によりS21の強度は大きく低下した。
[実施例7]
本実施例7では、図15に示すマイクロ波処理装置1(1C)を用いて、金属粉末(電解鉄粉)のマイクロ波加熱を行った。マイクロ波処理装置1Cの空胴共振器2は内径146mm高さ20mmのTM110モードの定在波を形成する空胴共振器である。その空胴共振器2の中心軸Cに反応容器8の中心軸を合わせて該反応容器8を設置し、反応容器8の内部に被処理対象物31として電解鉄粉を充填し、マイクロ波加熱を行った。反応容器8には、内径23mm、高さ3mmのポリイミド製の円環状のリングを用い、電解鉄粉を充填した後、反応容器8上部を覆って閉じるように石英製の厚さ1mmの蓋9を配した。反応容器8内に充填した電解鉄粉の総量は2.1gであった。マイクロ波出力50Wで10秒間照射後に蓋9を外した空胴共振器2の上面側より撮影した電解鉄粉の熱分布画像を図16に示す。約160℃まで均質な熱分布で昇温し、本装置は一般的なマイクロ波加熱では火花が生じやすい金属粉末の加熱にも適することがわかった。
[実施例8]
実施例1と同様の装置1Aを用いた化学反応例として、金属ナノ粒子(銀ナノ粒子)のマイクロ波加熱合成を行った。エチレングリコールに硝酸銀400mM、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量10000)8質量%を溶解させた原料液体を用いて、130℃、20ml/h(滞留時間:約33秒)にてマイクロ波加熱を行った。内径3mmのPTFE製の反応管6を用い、温度は反応管表面を放射温度計にて計測した。加熱後の反応溶液の評価には、紫外可視(UV−vis)吸光光度計(日立ハイテクノロジーズ製U−3310)および透過型電子顕微鏡(TEM、FEI製TECNAI G2)を用いた。
図17に反応溶液の紫外可視(UV−vis)スペクトルを示す。波長400nm前後に銀ナノ粒子の表面プラズモン共鳴に起因したピークが確認された。また図18に反応溶液のTEM像を示す。粒子径20〜60nmの銀ナノ粒子(写真中の黒色及び濃いグレイ色の部分)が合成されていることを確認した。なお、金属ナノ粒子の連続合成では反応管内への金属析出が生じやすく、本実験においても30分間の連続合成後、反応管内壁に金属析出が見られた。一般的に用いられる電界によるマイクロ波加熱の場合、反応管内に金属析出が生じるとスパークなどの異常加熱を生じうる。一方で、本実験ではスパークなどの異常加熱は見られなかった。磁界によるマイクロ波加熱の場合、反応管内に金属析出が生じた場合においてもスパークなどの異常加熱は生じにくいといえる。以上より、TM110モードのマイクロ波処理装置1Aは、内径が大きな反応管を用いた金属ナノ粒子合成装置として適していることがわかった。
[実施例9]
本実施例9ではイオン液体の加熱例として、20℃で液体状態である1−Butyl−3−methylimidazolium trifluoroacetate(導電率0.12S/m)とN,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(導電率0.10S/m)の加熱を行った。実施例1と同様の装置構成にて、PTFE製の内径2mmの管6を用い、磁界が極大となる中心軸上に沿って管6を設置した。イオン液体の流速は60ml/h、マイクロ波出力は50Wもしくは70Wに設定して加熱を行った。図19に1−Butyl−3−methylimidazolium trifluoroacetateをマイクロ波出力50Wで加熱した場合の昇温特性を、図20にN,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドをマイクロ波出力70Wで加熱した場合の昇温特性を示す。いずれのイオン液体も温度上昇を示し、本装置は一般的に高い電気伝導性を有するイオン液体の加熱に適することがわかった。
[実施例10]
本実施例では水素吸蔵性のある合金金属粒子のマイクロ波加熱を行った。実施例1の装置構成にて、外径8mm内径6mmの石英管内にYNiを(アルドリッチ社製)1.5gを反応管に充填(石英管内での高さは、約20mm)し、TM110モードのキャビティにて、水素吸蔵合金のマイクロ波磁界加熱を行った。マイクロ波照射空間2の中心軸Cに沿って設置し加熱条件を100Wに一定にして加熱した。温度計測には放射温度計(図1に図示せず)を用い、管6の表面温度を測定した。なお、管6内での水素吸蔵合金の充填密度は約2.7g/cmであった。図21に、設定温度200℃としてマイクロ波加熱時の昇温特性を示す。約20秒間の加熱で設定温度の200℃に到達した。これは、当該マイクロ波処理装置が水素吸蔵合金であっても水素吸蔵及び放出反応できる温度域を形成することができることを示す好適の事例である。
空胴共振器2内での定在波の形成状態を確認するために、ネットワークアナライザを用いてS21の波形を調べた。図22に水素吸蔵合金を充填した管6を設置した場合および、設置していない場合のS21の波形を示した。2つの波形はほぼ重なり合っており、水素吸蔵合金を充填した管6を設置した際も定在波は安定して形成され、水素吸蔵及び放出化学反応を発生せしめることを示す好例である。
[実施例11]
実施例11では、図23に示したマイクロ波処理装置1Dを用いて、ゼオライトのマイクロ波加熱合成を行った。このマイクロ波処理装置1Dは、反応管6の出口部に圧力計61と排圧弁62を備えていること以外は、上記マイクロ波処理装置1Aと同様の構成とした。すなわち、マイクロ波発振器4、TM110モードの空胴共振器2、圧力計61、排圧弁62からなる加圧可能なフロー式マイクロ波処理装置である。反応管6には外径6mm、内径4mmの石英製の反応管を用い、その反応管6を空胴共振器2の中心軸Cに沿って設置した。そして反応管6内にて、ゼオライト原料溶液の加熱を行った。原料溶液は、塩化アルミニウム六水和物、コロイダルシリカ30質量%溶液、水酸化ナトリウムをそれぞれ純水に溶解させて、それらを、Na:Al:Si:HO=4:1:1:53となるように混合した後、室温にて24時間撹拌して作製した。その後、送液手段41にダブルプランジャーポンプを用いて10ml/hの流量にて原料溶液を送液し、設定温度を150℃にしてマイクロ波加熱を行った。温度計測には放射温度計(図示せず)を用い、反応管6の表面温度を測定した。なお、排圧弁を調整することで、加熱時の反応管内部の圧力を0.5から0.8MPaの範囲で保持した。加熱後の溶液を遠心分離することで沈殿物を回収し、純水を用いて数回、遠心分離での洗浄を繰り返した。その後に、沈殿物を乾燥させて粒子解析を行った。粒子解析には、X線回折装置(Rigaku製SmartLab)および走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ製S−4800)を用いた。
ゼオライト原料溶液加熱時の温度、入射波の出力、反射波の出力及び共振周波数の時間変化に関して、設定温度である150℃に対して±2℃での温度制御が可能であり、また反射波は小さく、効率の良いマイクロ波加熱が可能であった。なお、沸点近傍での加熱合成のため、反応管内部の圧力が飽和蒸気圧に近い場合には気泡が生じうる。本実験においても合成途中で数個の気泡が発生したが、気泡発生に伴う温度や共振周波数の変動は小さく、安定した加熱制御が可能であった。図24に合成物のX線回折パターンを示す。SOD型ゼオライトの合成を示すピークが確認された。また図25にゼオライトの合成物のSEM像を示す。粒子径500nm前後のSOD型のゼオライト微粒子が合成されていることを確認した。
一般的にゼオライト原料液は多くのイオンを含み、高い電気伝導性を有することから、磁界加熱が、効率の良い加熱に適していることがわかった。
[比較例6]
実施例11の比較例として、電界によるマイクロ波加熱合成を行った。TM010モードの定在波を形成する空胴共振器2を用いる以外は実施例11と同じ装置構成にて、ゼオライト原料液の加熱を行った。反応管6には外径3mm内径1mmの石英製の反応管を用い、空胴共振器2の中心軸Cに沿って設置した。そして、実施例11と同じゼオライト原料溶液の加熱を行った。設定温度は150℃、流速は6ml/h(滞留時間:約60秒)に設定してマイクロ波加熱を行い、加熱時の反応管内部の圧力を0.5〜0.8MPaの範囲内に保持した。図26にゼオライト原料液加熱時の温度、入射波の出力、反射波の出力及び共振周波数の時間変化を示す。実施例11と同じ最大出力100Wのマイクロ波発振器にもかかわらず、温度は110℃前後までしか上昇せず、また反射波が大きくなった。
このように電界加熱では、十分な加熱ができなかった。
[実施例12]
実施例12では、実施例11とは異なる原料液を用いて、ゼオライトのマイクロ波加熱合成を行った。装置構成は、実施例11と同じものを用いた。原料溶液は、アルミン酸ナトリウム、コロイダルシリカ30質量%溶液、水酸化ナトリウムをそれぞれ純水に溶解させて、それらを、Na:Al:Si:HO=4:1:1:125となるように混合した後、室温にて24時間撹拌して作製した。60ml/hの流量にて原料溶液を送液し、設定温度を140℃にしてマイクロ波加熱を行った。なお、排圧弁を調整することで、加熱時の反応管内部の圧力を0.5から0.8MPaの範囲で保持した。加熱後の溶液を遠心分離することで沈殿物を回収し、純水を用いて数回、遠心分離での洗浄を繰り返した。その後に、沈殿物を乾燥させて粒子解析を行った。粒子解析には、X線回折装置および走査型電子顕微鏡を用いた。
図27に合成物のX線回折パターンを示す。LTA型ゼオライトの単相の合成を示すピークが確認された。また図28にゼオライトの合成物のSEM像を示す。粒子径400nm前後のLTA型のゼオライト微粒子が合成されていることを確認した。
1、1A、1B、1C、1D マイクロ波処理装置
2 空胴共振器
2A マイクロ波照射空間
OUT 出口
2S マイクロ波供給口
3 マイクロ波供給手段
4 マイクロ波発生器
5 アンテナ
6 管、反応管
6A 内部空間
7 ケーブル
8 反応容器
9 蓋
11 制御部
12 検出部
31 被処理対象物(被加熱対象物)
41 送液手段
42 温度測定器
61 圧力計
62 排圧弁
C 中心軸

Claims (14)

  1. シングルモード定在波を利用して被処理対象物を処理するマイクロ波処理装置であって、
    前記シングルモード定在波がTMmn0(m、nは1以上の整数)もしくはTEm0p(m、pは1以上の整数)モードの定在波であり、
    前記シングルモード定在波を形成する空胴共振器と、
    前記シングルモード定在波の共振周波数と一致したマイクロ波を前記空胴共振器内に供給するマイクロ波供給手段と、
    前記空胴共振器の共振周波数に基づいて、前記マイクロ波供給手段により供給するマイクロ波の周波数を制御する制御部とを有し、
    前記被処理対象物を磁界強度が極大となる位置に沿って配する、マイクロ波処理装置。
  2. 前記空胴共振器は円筒型空胴共振器もしくは角筒型空胴共振器である請求項1記載のマイクロ波処理装置。
  3. 前記空胴共振器において、磁界強度が極大となる位置が、該空胴共振器の中心軸と一致する請求項1又は2に記載のマイクロ波処理装置。
  4. 前記被処理対象物を管の内部に配する請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロ波処理装置。
  5. 前記管の内径が2mm以上である請求項4に記載のマイクロ波処理装置。
  6. 前記マイクロ波処理装置が、前記被処理対象物をマイクロ波により加熱して、化学反応を生じさせる化学反応装置である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロ波処理装置。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のマイクロ波処理装置を用いて、前記被処理対象物の温度を制御するマイクロ波処理方法。
  8. 前記被処理対象物が、照射するマイクロ波の波長をλとしたとき内径がλ/4以下の管内に保持された液体である請求項7に記載のマイクロ波処理方法。
  9. 前記被処理対象物が、内径30mm以下の管内に保持された液体である請求項8に記載のマイクロ波処理方法。
  10. 前記空胴共振器において、磁界強度が極大となる位置が、当該空胴共振器の中心軸と一致する請求項9に記載のマイクロ波処理方法。
  11. 前記被処理対象物の温度を制御することによって、前記被処理対象物の反応を促進もしくは停止する請求項7〜10のいずれか1項に記載のマイクロ波処理方法。
  12. 空胴共振器内にマイクロ波を供給してシングルモードの定在波を形成し、該定在波を用いて被処理対象物を処理するマイクロ波処理方法であって、
    前記定在波はTMmn0(m、nは1以上の整数)又はTEm0p(m、pは1以上の整数)のシングルモードであり、
    前記空胴共振器の共振周波数に基づいて該空胴共振器内に供給するマイクロ波の周波数を制御し、
    前記被処理対象物を前記磁界強度が極大となる位置に配して処理するマイクロ波処理方法。
  13. 空胴共振器内にマイクロ波を供給してシングルモードの定在波を形成し、該定在波を用いて被処理対象物を処理する化学反応方法であって、
    前記定在波はTMmn0(m、nは1以上の整数)又はTEm0p(m、pは1以上の整数)のシングルモードであり、
    前記空胴共振器の共振周波数に基づいて該空胴共振器内に供給するマイクロ波の周波数を制御し、
    前記被処理対象物を前記磁界強度が極大となる位置に配して処理することによって化学反応を生じさせることを含む、化学反応方法。
  14. 前記空胴共振器において、磁界強度が極大となる位置が、該空胴共振器の中心軸と一致する請求項13に記載の化学反応方法。
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