以下、本実施形態について図に基づいて説明する。説明に用いる各図は概念図であり、各部の形状は厳密なものではない。本実施形態の車両用制動装置1は、図1に示すように、マスタシリンダ(「シリンダユニット」に相当する)2と、フルード供給部3と、アクチュエータ4と、ホイールシリンダ51、52、53、54と、第1液路601と、第2液路602と、第1ブレーキECU81と、第2ブレーキECU82と、を備えている。
マスタシリンダ2は、前輪Wfのホイールシリンダ51、52にフルードを供給するように構成された液圧発生装置である。マスタシリンダ2は、入力ピストン20と、シリンダ21と、マスタピストン(「ピストン」に相当する)22と、リザーバ23と、スプリング24と、を備えている。入力ピストン20は、ピストン部材であって、ブレーキ操作部材であるブレーキペダル11の作動に連動してシリンダ21内を摺動する。車両用制動装置1には、ブレーキペダル11のストロークを検出するストロークセンサ12が設けられている。
シリンダ21は、内部空間がマスタピストン22により、入力室211と出力室212とに区画されたシリンダ部材である。より詳細に、シリンダ21の内部には、入力室211、出力室212、離間室213、及び反力室214が形成されている。入力室211及び出力室212については後述する。
離間室213は、入力ピストン20とマスタピストン22とで区画されている。マスタピストン22と入力ピストン20とは、所定距離だけ離間してすなわち離間室213を介して、対向配置されている。離間室213は、液路71及びノーマルクローズ型の電磁弁72を介してストロークシミュレータ73に接続されている。離間室213の液圧であって入力ピストン20の前進に対する反力は、電磁弁72が開状態において、ストロークシミュレータ73により形成される。液路71に接続された圧力センサ78は、離間室213の液圧である離間圧(反力圧)、及びブレーキペダル11に対するドライバの踏力を検出する。
反力室214は、マスタピストン22により区画されている。反力室214は、マスタピストン22が前進すると容積が減少し、マスタピストン22が後退すると容積が増大するように形成されている。反力室214は、液路74及びノーマルオープン型の電磁弁75を介してリザーバ76に接続されている。液路74のうち電磁弁75と反力室214との間の部分は、液路77を介して、液路71の電磁弁72とストロークシミュレータ73との間の部分と接続されている。液路74に接続された圧力センサ79は、反力室214の液圧を検出する。
マスタピストン22は、シリンダ21内に配置されたピストン部材である。マスタピストン22は、出力室212の容積を変化させるようにシリンダ21内を摺動し、入力室211内の液圧に対応する力で駆動されて、出力室212に液圧である出力圧(以下「マスタ圧」とも称する)を発生させる。マスタピストン22は、入力室211と反力室214とを区画するように、他の部位より大径に形成された大径部221を有している。
入力室211は、いわゆるサーボ室であって、マスタピストン22の大径部221の後方側に形成されている。入力室211は、大径部221を介して、反力室214と対向するように形成されている。入力室211の液圧である入力圧(以下「サーボ圧」とも称する)は、大径部221の後端面を押圧し、マスタピストン22を前進させる力である駆動力となる。入力室211には、後述する接続液路65を介してフルード供給部3が接続されている。
出力室212は、いわゆるマスタ室であって、シリンダ21の底面側すなわちマスタピストン22の前方に形成されている。出力室212は、マスタピストン22が前進すると容積が減少し、マスタピストン22が後退すると容積が増大するように形成されている。
出力室212は、第2供給路62を介して、アクチュエータ4に接続されている。
このように、マスタシリンダ2は、シリンダ21と、シリンダ21内を入力室211と出力室212とに区画するように配置されて、入力室211内の液圧であるサーボ圧と出力室212内の液圧であるマスタ圧との差に応じてシリンダ21内を摺動可能なマスタピストン22と、を有している。
リザーバ23は、フルードを貯留しているタンクであり、大気圧に保たれている。リザーバ23と出力室212とをつなぐ液路は、マスタピストン22が初期位置にある場合に連通され、マスタピストン22が初期位置から所定距離前進すると遮断される。スプリング24は、マスタピストン22を初期位置に向けて(すなわち後方に)押圧する。マスタピストン22の初期位置は、ブレーキ操作が為されていない状態で、マスタピストン22が停止している位置である。
例えば電源失陥が発生した場合は、各電磁弁72、75、35、36が非通電状態となるため、電磁弁72は閉弁され、電磁弁75は開弁される。これにより、離間室213が密閉されて、入力ピストン20とマスタピストン22との離間距離が固定され、且つ反力室214がリザーバ76に連通される。この離間距離がロックされた状態(以下「離間ロック状態」という)では、入力ピストン20の前進に応じてマスタピストン22も前進する。つまり、離間ロック状態では、ドライバの踏力だけでマスタ圧を発生させることができる。離間ロック状態では、マスタピストン22が、ドライバの制動操作による操作駆動力のみにより駆動される。離間ロック状態は、電源失陥時だけでなく、第1ブレーキECU81の制御によっても形成できる。つまり、第1ブレーキECU81は、離間ロック状態と通常状態とを切り替えることができる。
このように、車両用制動装置1は、操作駆動力のマスタピストン22への伝達を許可又は遮断する遮断機構70を備えている。遮断機構70は、ドライバの制動操作に連動する入力ピストン20と、入力ピストン20とマスタピストン22との間に離間室213を区画する離間室区画部25と、離間室213を密閉又は開放する電磁弁72と、を備えている。本実施形態の離間室区画部25は、入力ピストン20の前端面、マスタピストン22の後端面、及びシリンダ21で構成されるといえる。また、車両用制動装置1は、マスタピストン22の前進により容積が縮小する反力室214に接続されたストロークシミュレータ73と、反力室214とリザーバ76との接続を開閉する電磁弁75と、を有する反力発生機構13を備えている。換言すると、車両用制動装置1は、離間室213に電磁弁72を介して接続されたストロークシミュレータ73と、電磁弁72とストロークシミュレータ73とを接続する液路71に接続され、マスタピストン22の前進により容積が縮小する反力室214と、反力室214とリザーバ76との接続を開閉する電磁弁75と、を備えている。反力発生機構13は、離間室213、電磁弁72、ストロークシミュレータ73、反力室214、及び電磁弁75を備えているといえる。
フルード供給部3は、アクチュエータ4及び接続液路65にフルードを供給する装置である。フルード供給部3は、第1供給路61を介して、アクチュエータ4内の第1液圧回路63にフルードを供給する。第1液圧回路63は、ホイールシリンダ53、54に接続されている。接続液路65は、第1供給路61と、マスタシリンダ2の入力室211とを接続する液路である。後述する電磁弁36が開状態である場合又は電磁弁36がない場合、フルード供給部3が接続液路65に供給したフルードは、第1液圧回路63と入力室211とに供給される。
フルード供給部3は、モータ31と、ポンプ32と、リザーバ33と、環状液路34と、電磁弁(「弁部」に相当する)35と、電磁弁36と、を備えている。モータ31は、第1ブレーキECU81により駆動が制御され、ポンプ32を駆動させる電動モータである。ポンプ32は、モータ31の駆動力により駆動する。ポンプ32は、リザーバ33に貯留されたフルードを吸入し、環状液路34を介して、第1供給路61及び接続液路65に吐出する。環状液路34は、ポンプ32の吐出口と吸入口とをつなぐ液路であって、液路341、342、343、344で構成されている。
液路341は、ポンプ32の吐出口と第1供給路61及び接続液路65とを接続している。液路342は、接続液路65とリザーバ33とを接続している。液路342には、電磁弁35が設けられている。液路343は、接続液路65のうち液路341と液路342とを接続している部分である。つまり、接続液路65は、入力室211と環状液路34とを接続する液路650と、環状液路34の一部である液路343と、で構成されている。液路343すなわち接続液路65の一部の区間には、電磁弁36が設けられている。液路344は、リザーバ33とポンプ32の吸入口とを接続している。
液路341には、液路341及び第1供給路61の液圧を検出する圧力センサ37が設けられている。圧力センサ37が検出する液圧は、ポンプ32が第1液圧回路63及び接続液路65に供給する液圧といえる。なお、入力室211の液圧であるサーボ圧は、電磁弁36の制御状態によって変動する。また、リザーバ33、リザーバ76、及びリザーバ23は、1つの共通リザーバ(例えばリザーバ23)で構成されもよい。
電磁弁35及び電磁弁36は、ノーマルオープン型の電磁弁であって、上下流間の差圧を制御できるリニア弁である。電磁弁35及び電磁弁36は、第1ブレーキECU81からの制御電流の大きさに基づいて、上流側の液圧を下流側の液圧より高くする。電磁弁35及び電磁弁36の目標差圧は、制御電流の大きさによって決まる。電磁弁35及び電磁弁36は、制御電流に応じて液路に絞り状態を形成するといえる。
第1液路601は、入力室211とホイールシリンダ(「第1ホイールシリンダ」に相当する)53、54とを接続する流路である。第1液路601は、接続液路65、第1供給路61、及び第1液圧回路63で構成されている。第1液路601は、第1系統又はリア系統ともいえる。本実施形態のリア系統は、いわゆるバイワイヤ構成になっている。
第2液路602は、出力室212とホイールシリンダ(「第2ホイールシリンダ」に相当する)51、52とを接続する流路である。第2液路602は、第2系統又はフロント系統ともいえる。第2液路602は、第2供給路62及び第2液圧回路64で構成されている。第2供給路62は、出力室212と第2液圧回路64とを接続する流路である。第2液圧回路64は、第2供給路62とホイールシリンダ51、52とを接続する流路である。
第1液路601と第2液路602とは、直接的に接続されていない。つまり、第1液路601と第2液路602とは、液圧を伝達するように2つの系統(液路)間でフルードが流通できる構成にはなっていない。なお、第1液路601と第2液路602とは、例えばリザーバ23を介して接続することが可能であるが、この場合、流通するフルードの液圧はリザーバ23でリセットされて伝達されない。
上記のように、フルード供給部3は、第1液路601にフルードを供給可能に構成されている。詳細に、フルード供給部3は、モータ31と、モータ31の回転数に応じた吐出量で第1液路601にフルードを供給するポンプ32と、を有している。また、マスタシリンダ2は、モータ31の作動によるサーボ駆動力とドライバの制動操作による操作駆動力とにより駆動されるマスタピストン22と、マスタピストン22が摺動可能に収納されているシリンダ21と、マスタピストン22とシリンダ21とにより区画されてホイールシリンダ51、52に接続される出力室212と、を有している。
第1ブレーキECU81は、ストロークに対して目標ホイール圧を設定すると、電磁弁35の目標差圧を制御し、ポンプ32を駆動する。これにより、電磁弁35の下流側の液圧であるリザーバ33の液圧(ここでは大気圧)に対して、電磁弁35の上流側(ポンプ32側)の液圧を目標差圧分だけ高くすることができる。また、第1ブレーキECU81は、アクチュエータ4を用いずに第1液路601と第2液路602とで異なる液圧を発生させる場合、電磁弁36の目標差圧を制御し、ポンプ32を駆動する。これにより、電磁弁36の下流側である電磁弁36と電磁弁35の間の液路の液圧、すなわちサーボ圧に対して、電磁弁36の上流側(ポンプ32側)の液圧を目標差圧分だけ高くすることができる。
第1ブレーキECU81は、前後輪Wf、Wrで同様のホイール圧を発生させる場合、電磁弁35を制御し、電磁弁36を制御しない。電磁弁36は、例えば前輪Wfに発生させる回生制動力を考慮して、前輪Wfのホイールシリンダ51、52の液圧を、後輪Wrのホイールシリンダ53、54の液圧より低く制御する際に用いられる。
アクチュエータ4は、各ホイール圧を加圧可能に構成されたいわゆるESCアクチュエータである。アクチュエータ4は、第1液圧回路63と、第1液圧回路63に対してフルード流通不可に構成された第2液圧回路64と、を備えている。各液圧回路63、64には、図示略の電磁弁、ポンプ、及び調圧リザーバ等が設けられている。第2ブレーキECU82が各液圧回路63、64に配置された電磁弁及びポンプを制御することで、各ホイール圧を加圧、減圧、又は保持することができる。また、アクチュエータ4は、第2ブレーキECU82の指令に基づき、アンチスキッド制御や横滑り防止制御を実行することができる。第2液圧回路64又は第2供給路62には、マスタ圧を検出する圧力センサ641が設けられている。
第1ブレーキECU81及び第2ブレーキECU82は、それぞれCPUやメモリ等を備える電子制御ユニットである。第1ブレーキECU81は、ストロークセンサ12及び圧力センサ37、78等の各種センサからの情報に基づいて、主にフルード供給部3を制御する装置である。第2ブレーキECU82は、ストロークセンサ12及び圧力センサ641等の各種センサからの情報に基づいて、主にアクチュエータ4を制御する装置である。第1ブレーキECU81及び第2ブレーキECU82は、ブレーキペダル11が操作されると、ストローク及び/又は踏力に応じて、目標減速度及び目標ホイール圧を設定する。また、第1ブレーキECU81は、通常時は、電磁弁72を開弁させ、電磁弁75を閉弁させる。これにより、反力室214とリザーバ76との間が遮断され、離間室213及び反力室214とストロークシミュレータ73との間が連通する。離間室213及び反力室214には、ブレーキペダル11の操作に応じた液圧(離間圧)が発生する。
第1ブレーキECU81は、回生制動力が発生しない場合、目標ホイール圧に応じて、フルード供給部3のポンプ32及び電磁弁35を制御する。この場合、電磁弁36は、制御されず、非通電による開状態が維持される。第1ブレーキECU81は、ポンプ32を駆動させるとともに、電磁弁35の目標差圧を目標ホイール圧に対応して設定し、電磁弁35に目標差圧に対応する制御電流を印加する。
ポンプ32は、リザーバ33からフルードを吸入し、第1液路601にフルードを供給する。ポンプ32から吐出されたフルードは、第1液圧回路63に供給されるとともに、接続液路65を介して入力室211にも供給される。入力室211及び第1液路601には、電磁弁35の目標差圧に応じた液圧が発生する。
上記制御によりサーボ圧が上昇すると、マスタピストン22が前進し、出力室212の縮小によりマスタ圧が上昇する。つまり、出力室212と接続された第2液路602の液圧も上昇する。ポンプ32と電磁弁35の制御により、サーボ圧(上流圧)に対応する液圧が、第1液路601を介してホイールシリンダ53、54に発生し、第2液路602を介してホイールシリンダ51、52に発生する。
このように、第1ブレーキECU81は、目標ホイール圧を達成し、目標減速度を達成するようにブレーキ制御を実行する。なお、厳密には、マスタピストン22の摺動抵抗などにより、第2液路602の液圧が第1液路601の液圧より若干低くなる。また、ハイブリッド車両など、回生制動装置を備える車両においては、前輪Wfの目標減速度(目標制動力)が回生制動力と液圧制動力との和で達成されるように、電磁弁36の目標差圧が制御される。また、第2ブレーキECU82は、圧力センサ641の検出値に基づいて、各ホイール圧を推定する。また、第1ブレーキECU81は、圧力センサ37の検出値に基づいて、各ホイール圧を推定する。第2ブレーキECU82は、アクチュエータの制御状況を考慮して各ホイール圧を推定する。
(異常検出処理)
ここで、マスタシリンダ2は、マスタ圧(入力圧)がサーボ圧(出力圧)よりも大きい状態である差圧発生状態を形成可能に構成されている。各電磁弁が非通電状態である離間ロック状態では、電磁弁72、35、36が閉弁し、電磁弁75が開弁している。また、フルード供給部3は停止している。この状態で、ブレーキペダル11が操作されると、作業者の踏力(操作駆動力)のみでマスタピストン22が前進する。マスタピストン22が前進する際、入力室211の容積の拡大に伴い、入力圧が負圧となり、液路342及び第1液路601を介して、リザーバ33から入力室211にフルードが供給される。液路342は、第1液路601から分岐した分岐路に相当する。
入力室211は、リザーバ33からのフルード供給により、結果としてサーボ圧を大気圧に保ちつつ拡大する。一方、出力室212は、マスタピストン22の前進により容積が縮小し、マスタ圧が増大する。これにより、マスタシリンダ2に差圧発生状態が形成される。この差圧発生状態におけるマスタピストン22の位置を「差圧位置」と称する。差圧発生状態は、ブレーキ操作が解除された際にマスタピストン22が初期位置に向けて摺動する状態ともいえる。また、差圧位置は、正常時にマスタ圧の増大が確認できる位置であって、任意の位置である。また、本実施形態の差圧発生状態において、サーボ圧は大気圧以上である。
第1ブレーキECU81は、取得部91と、検出部92と、を備えている。取得部91は、第1液路601内の液圧(液圧情報)を取得する。取得部91は、さらに第2液路602内の液圧(液圧情報)を取得する。取得部91は、離間ロック状態において、圧力センサ78の検出値に基づいて、マスタ圧を推定できる。また、取得部91は、圧力センサ37の検出値に基づいて、サーボ圧を推定できる。このため、取得部91は、サーボ圧に対応する第1液路601内の液圧と、マスタ圧に対応する第2液路602内の液圧とを取得できる。
検出部92は、取得部91が取得した第1液路601の液圧(以下「第1液圧」とも称する)に基づいて、第1液路601の異常を検出する。また、検出部92は、取得部91が取得した第2液路602の液圧(以下「第2液圧」とも称する)に基づいて、第2液路602の異常を検出する。検出部92は、第1液圧の液圧変化量に基づいて第1液路601の異常の有無を判定し、第2液圧の液圧変化量に基づいて第2液路602の異常の有無を判定する。
詳細に、離間ロック状態で作業者がブレーキペダル11を操作することで、マスタピストン22を初期位置から差圧位置まで摺動させる。この際、上記のように、サーボ圧が大気圧で維持されつつ、マスタ圧が増大する。検出部92は、マスタピストン22を初期位置から差圧位置まで摺動する際における、ストロークセンサ12の検出値であるストロークと、第2液圧の増大量とに基づいて、第2液路602の異常を検出する。
第2液路602が正常であれば、予め記憶されたホイールシリンダ51、52のPV特性(圧力と容積の関係)に対応するように、ストロークの増大すなわちフルード流入量の増大に応じて第2液圧が増大する。第2液路602が異常である場合、例えば第2液路602にエアが混入している又は液漏れが発生している場合、フルード流入量の増大に対する第2液圧の増大量が小さくなる。例えばエアが混入している場合、ストロークの増大初期に第2液圧が増大しにくくなり、最終的な第2液圧の増大量も小さくなる。検出部92は、第2液圧の増大量が第2閾値未満である場合、第2液路602が異常であると判定する。このように、検出部92は、第2液路602の異常を検出する。
検出部92は、第2液路602が正常であった場合、続けて第1液路601の異常の有無を判定する。詳細に、図2に示すように、検出部92は、マスタピストン22が差圧位置にある際に、電磁弁35を閉弁させ、液路342を遮断する。続いて作業者がブレーキペダル11の操作を解除することで、サーボ圧とマスタ圧との差により、マスタピストン22を差圧位置から初期位置に向けて摺動させる。そして、マスタピストン22は、サーボ圧とマスタ圧とがつりあった状態になると停止する。サーボ圧とマスタ圧とがつりあった状態とは、サーボ圧とマスタ圧とが同レベルの値になってマスタピストン22が停止している状態である。この状態では、サーボ圧とマスタ圧は一定となる。サーボ圧とマスタ圧とがつりあった状態におけるマスタピストン22の位置を「つりあい位置」と称する。
マスタピストン22が差圧位置からつりあい位置まで摺動する間、入力室211の容積は縮小する。これに伴い、入力室211のフルードは、電磁弁35の閉弁によりリザーバ33には供給されず、第1液路601を介してホイールシリンダ53、54に供給される。第1液路601が正常であれば、予め記憶されたホイールシリンダ53、54のPV特性に対応するように、ストロークの変化すなわちフルード流入量の増大に応じて第1液圧が増大する。マスタピストン22はつりあい位置で停止し、入力ピストン20は初期位置に戻る。また、離間室213内の液圧である離間圧は、大気圧となる。
一方、図3に示すように、第1液路601が異常であれば、第1液圧の増大量が正常時よりも小さくなる。第1液路601が異常である場合、例えば、第1液圧が増大せず、マスタピストン22が初期位置まで戻り、第1液圧と第2液圧が大気圧でつりあうこともある。なお、図2及び図3は、説明のための概念図である。また、時間T1、T2、T3、T4、T5は、図2と図3とで同じタイミングを表している。
検出部92は、第1液圧の増大量が第1閾値未満である場合、第1液路601が異常であると判定する。このように、検出部92は、差圧位置からつりあい位置までマスタピストン22が摺動する際の第1液圧の増大量に基づいて、第1液路601の異常を検出する。また、検出部92は、差圧発生状態で電磁弁35を閉弁し、マスタピストン22が差圧位置からつりあい位置まで摺動する際の第1液圧の増大量に基づいて、第1液路601の異常の有無を判定する異常判定制御を実行するともいえる。なお、第1液圧の増大量は第2液圧の減少量に相当するため、検出部92は、第2液圧の減少量を取得することで第1液圧の増大量を取得することもできる。また、液圧変化量と閾値とを比較することで異常を検出できるため、一定の踏力で踏み込むことでストロークを検出しなくてもよい。
本実施形態の異常検出処理(異常判定方法)は、差圧形成ステップと、第1判定ステップと、閉弁ステップと、差圧解除ステップと、第2判定ステップと、を含むといえる。差圧形成ステップは、ブレーキペダル11の操作によりマスタピストン22を初期位置から差圧位置まで摺動させて、マスタシリンダ2に差圧発生状態を形成するステップである。第1判定ステップは、差圧形成ステップ実行中における第2液圧の増大量に基づいて、第2液路602の異常の有無を判定するステップである。閉弁ステップは、第2液路602が正常であった場合に、差圧発生状態で電磁弁35を閉弁するステップである。差圧解除ステップは、閉弁ステップの後にブレーキペダル11の操作を解除して、マスタピストン22を差圧位置からつりあい位置まで摺動させるステップである。第2判定ステップは、差圧解除ステップ実行中における第1液圧の増大量に基づいて、第1液路601の異常の有無を判定するステップである。異常検出処理を実行する車両用制動装置1は、異常検出装置であるともいえる。
(効果)
本実施形態の車両用制動装置1は、シリンダ21及びマスタピストン22を有し、マスタ圧がサーボ圧よりも大きい状態である差圧発生状態を形成可能に構成されたマスタシリンダ2と、第1液路601と、第2液路602と、第1液路601にフルードを供給可能なフルード供給部3と、第1液路601内の液圧を取得する取得部91と、差圧発生状態におけるマスタピストン22の位置である差圧位置から、入力圧と出力圧とがつりあった状態におけるマスタピストン22の位置であるつりあい位置までマスタピストン22が摺動する際の第1液路601内の液圧変化量に基づいて、第1液路601の異常を検出する検出部92と、を備えている。
この構成によれば、マスタピストン22の差圧位置からつりあい位置までの摺動により、入力室211の容積が減少し、入力室211のフルードが第1液路601及びホイールシリンダ53、54に供給される。これにより、第1液路601内の液圧が増大する。第1液路601にエアの混入や液漏れ等の異常がある場合、正常の場合と比較して、第1液圧の増大量が小さくなる。この増大量を検出することで、第1液路601の異常を精度良く検出することができる。また、出力室212のフルードは、マスタピストン22を初期位置から差圧位置まで摺動させる際に、第2液路602及びホイールシリンダ51、52に供給される。この際、第2液圧が増大する。この増大量を検出することで、第2液路602の異常も精度良く検出することができる。このように、本実施形態によれば、直接的に接続されていない2つの系統(第1液路601及び第2液路602)をもつ構成において、エア混入等の異常を検出することができる。
また、本実施形態において、マスタシリンダ2は、ブレーキペダル11の操作に応じてマスタ圧が変化するように構成されている。すなわち、マスタシリンダ2は、離間ロック状態を形成可能に構成されている。そして、マスタピストン22は、ブレーキペダル11の操作に応じて初期位置から差圧位置に摺動し、ブレーキペダル11の操作が解除されることに応じて差圧位置からつりあい位置まで摺動する。この構成によれば、作業者がブレーキペダル11の操作速度を容易に調整できる。このため、ブレーキペダル11をゆっくりと踏み込むことができ、ストロークや液圧増大量を容易に調整することができる。
また、ブレーキ操作速度を遅くすることで、液圧とフルード流入量との関係を精度良く検出でき、第2液路602の異常検出を精度良く実行できる。また、ブレーキ操作速度を遅くすることで、後述する学習部93の学習機能も向上させることができる。また、1回のブレーキペダル11の操作により、すなわち簡易な操作により、第1液路601及び第2液路602の両方の異常検出処理を実行することができる。
また、本実施形態の車両用制動装置1は、フルード供給部3に含まれフルードを貯蔵するリザーバ33と、第1液路601とリザーバ33とを接続する液路342と、液路342上に設けられ、差圧発生状態において液路342を遮断するように閉弁される電磁弁35と、を備えている。この構成により、差圧発生状態から、電磁弁35を閉弁してブレーキペダル11の操作を解除するだけで、第1液路601の異常検出を実行することができる。
また、本実施形態において、取得部91は、第2液路602の液圧を取得し、検出部92は、マスタピストン22が初期位置から差圧位置まで摺動した際の第2液路602内の液圧変化量に基づいて、第2液路602の異常を検出する。この構成により、各液路601、602の異常を検出することができる。
また、第1ブレーキECU81は、さらに学習部93を備えている。学習部93は、第1液路601の異常判定に用いた第1液路601内の液圧変化量、及び第2液路の異常検出に用いた第2液路602内の液圧変化量に基づいて、ホイールシリンダ51~54の特性(例えばPV特性)を取得し、記憶する。学習部93は、異常検出処理(異常判定処理)が行われるごとに、ホイールシリンダ51~54の特性を演算し、更新することができる。異常検出処理は、例えば、車両を工場から出荷する際や、車両のメンテナンスを行う際に実行される。ホイールシリンダ51~54の特性は、使用期間の増大とともに変化する可能性がある。また、初期に記憶された特性に誤差がある場合がある。学習部93をもつことにより、ホイールシリンダ51~54の特性を最新の状態に更新することができる。
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、フルード供給部3は、ポンプ32を備える構成に代えて、モータでピストンを駆動させてシリンダ内のフルードを吐出する電動シリンダであってもよい。フルード供給部3は、電動で(モータ駆動により)第1液路601にフルードを供給できる装置といえる。また、電磁弁35に代えて、手動で開閉切り替え可能な弁機構を設けてもよい。
また、取得部91及び検出部92は、第2ブレーキECU82に設けられてもよい。この場合、取得部91は、圧力センサ641の検出値に基づいて、第1液圧及び第2液圧を取得する。これは、第1液圧の増大量が、第2液圧の減少量に対応するためである。同様に、学習部93も任意のECUに設けられてもよい。また、第1ブレーキECU81及び第2ブレーキECU82は、1つのECUで構成されてもよい。また、ブレーキペダル11の操作は、作業者に代えて、機械(例えば踏力を調整できる装置)が行ってもよい。また、用語として、液路や液圧回路は、流路、油路、管路、液圧路、又は配管等に置換できる。
また、マスタピストン22の初期位置から差圧位置までの摺動は、ブレーキペダル11の操作に代えて、フルード供給部3のフルード供給によって実行されてもよい。例えば、第1液圧回路63におけるホイールシリンダ53、54と第1供給路61とを接続する部分に設けられた電磁弁と、電磁弁35とを閉弁させて、ポンプ32から第1液路601にフルードを供給する。サーボ圧及びマスタ圧が所定圧まで増圧されたところで、ポンプ32を停止し、第1液圧回路63の電磁弁を開弁させると、入力室211のフルードがホイールシリンダ53、54に流入する。これにより、サーボ圧が低下し、差圧発生状態が形成され、マスタピストン22がつりあい位置まで後退する。この際の第1液圧の変化量に基づいて異常を検出してもよい。ただし、このケースよりもブレーキペダル11の操作を利用した異常検出処理のほうが、ストロークを把握できる分、入力室211から流出するフルードの量を推定しやすく、特性検出精度が高い。