JP7169135B2 - 軟磁性フェライト複合材の製造方法 - Google Patents

軟磁性フェライト複合材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、軟磁性フェライト複合材の製造方法に関する。
従来、軟磁性フェライト材料は、モーター、トランス、インダクタ、チョークコイルに例示される電磁変換部品や、ノイズ吸収体として使用されてきた。近年では、部品の小型化、部品の特性向上、部品への磁気特性の付与を目的として、金属、セラミックス、樹脂等の様々な基材と、軟磁性フェライト材料とを組み合わせた複合材料が検討されている。
また、複合化する基材の形状も、粒子状、板状、パイプ状等、様々である。
軟磁性フェライトとの複合化にあたり、複合化手法も、種々存在する。例えば、めっき法、ミリング法、噴霧法、ゾルゲル法、共沈法等が例示される。特に(1)Feイオンと水分子の加水分解反応や、Feイオンとヒドロキシルイオンの加水分解反応を利用するめっき法、(2)噴霧法、(3)共沈法は、複雑な形状の基材に対してもフェライトを形成可能であり、有用性は高い。
ところで、加水分解反応を利用するめっき法では、軟磁性フェライトであるスピネルフェライト以外にα-Feをはじめとする金属酸化物が副生成物として発生することが知られている。
従来は、軟磁性フェライトの生成においてFeイオンを溶解させた溶液の初期のpHを制御することでスピネルフェライトを生成してきた。ところが、軟磁性フェライト生成反応の進行とともにプロトンが生成するため、反応溶液中のpHは徐々に酸性に移行する問題があった。
軟磁性フェライトの生成は中性からアルカリ性条件下で進行するため、酸性への変化は副生成物の発生を助長してしまう。そのため、軟磁性フェライトの生成反応中に、pHを制御して副生成物の発生を抑制しながら軟磁性フェライトを生成する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2005-64396号公報
しかし、この文献の技術を、基材の表面に軟磁性フェライトが配された軟磁性フェライト複合材の製造方法に適用しても、軟磁性フェライトの純度は必ずしも十分とは言えず、軟磁性フェライトの純度を向上させる新たな技術が切望されていた。軟磁性フェライトの純度を向上させること、すなわち副生成物の発生を抑制することで、軟磁性フェライト複合材の磁気特性の向上が期待される。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、軟磁性フェライトの純度を向上させることを目的とする。本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
〔1〕基材の表面に軟磁性フェライト部が形成された軟磁性フェライト複合材の製造方法であって、
鉄イオン、及び2価の金属イオン(鉄イオンを除く)を含有する水溶液Aと、
酸化剤としての亜硝酸塩を含有する水溶液Bと、
酢酸カリウム及び酢酸アンモニウムのうちの少なくとも1種を含有する水溶液Cと、
を用い、
前記水溶液Cに前記基材を入れた状態とし、この状態で前記水溶液Cに、前記水溶液A及び前記水溶液Bを入れて混合液とし、前記混合液中で軟磁性フェライト部を形成する軟磁性フェライト複合材の製造方法において、
前記水溶液Aの活量は、3×10-1以上10×10-1以下であり、
前記混合液のpHは、軟磁性フェライト部の形成中、6以上12以下に維持されており、
前記混合液の電位は、軟磁性フェライト部の形成中、-600mV以上300mV以下に維持されていることを特徴とする軟磁性フェライト複合材の製造方法。
〔2〕基材の表面に軟磁性フェライト部が形成された軟磁性フェライト複合材の製造方法であって、
鉄イオン、及び2価の金属イオン(鉄イオンを除く)を含有する水溶液Dと、
酢酸カリウム及び酢酸アンモニウムのうちの少なくとも1種と、酸化剤としての亜硝酸塩と、を含有する水溶液Eと、
を用い、
前記基材に、前記水溶液Dと前記水溶液Eとを少なくとも1回ずつ交互に塗布し、前記水溶液Dと前記水溶液Eとを反応させて軟磁性フェライト部を形成する軟磁性フェライト複合材の製造方法において、
前記水溶液Dの活量は、3×10-1以上10×10-1以下であり、
前記水溶液EのpHは、6以上12以下であり、
前記水溶液D及び前記水溶液Eに由来し、反応後に残った廃液の電位は、軟磁性フェライト部の形成中-600mV以上300mV以下に維持されていることを特徴とする軟磁性フェライト複合材の製造方法。
〔3〕前記2価の金属イオンはNi、Zn、Mn、Co、Mg及びCuからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の軟磁性フェライト複合材の製造方法。
〔4〕軟磁性フェライト部の生成における反応温度は、20℃以上100℃以下であることを特徴とする〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の軟磁性フェライト複合材の製造方法。
上記〔1〕及び〔2〕の軟磁性フェライト複合材の製造方法によれば、軟磁性フェライト部形成時のpH変動が抑制され、金属イオンが錯形成によって安定化されるから、副反応が抑制される。よって、軟磁性フェライト部の純度を向上させることができる。
2価の金属イオンを、Ni、Zn、Mn、Co、Mg及びCuからなる群より選択される1種以上とすることによって、所望の種類の軟磁性フェライト部を形成できる。
反応温度を、20℃以上100℃以下とすると、次の効果を奏する。すなわち、この温度範囲内では、軟磁性フェライト部の純度が更に向上する傾向にある。しかも、反応温度をこの範囲とすると、軟磁性フェライト部の生成反応の速度をコントロールして、軟磁性フェライト部の膜厚を制御できる。
軟磁性フェライト部を形成する前の被めっき物(実施例1に用いた金属粒子)のFE-SEMによる表面観察像である(10000倍)。 実施例1における複合粒子のFE-SEMによる表面観察像である(10000倍)。 実施例1における複合粒子のXRD測定結果を示す図(粉末X線回折ピーク)である。
以下、本発明を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
1.第1実施形態
第1実施形態の軟磁性フェライト複合材の製造方法(以下「第1実施形態の製造方法」ともいう)について説明する。
第1実施形態の製造方法は、基材の表面に軟磁性フェライト部が形成された軟磁性フェライト複合材の製造方法である。なお、以下の説明においては、「軟磁性フェライト複合材」を単に「複合材」という場合がある。第1実施形態の製造方法は、鉄イオン、及び2価の金属イオン(鉄イオンを除く)を含有する水溶液Aと、酸化剤としての亜硝酸塩を含有する水溶液Bと、酢酸カリウム及び酢酸アンモニウムのうちの少なくとも1種を含有する水溶液Cと、を用いる。
そして、第1実施形態の製造方法では、水溶液Cに基材を入れた状態とし、この状態で水溶液Cに、水溶液A及び水溶液Bを入れて混合液とし、混合液中で軟磁性フェライト部を形成する。第1実施形態の製造方法では、水溶液Aの活量は、3×10-1以上10×10-1以下であり、混合液のpHは、軟磁性フェライト部の形成中、6以上12以下に維持されており、混合液の電位は、軟磁性フェライト部の形成中、-600mV以上300mV以下に維持されていることを特徴とする。
(1)基材(被めっき物)
基材は、特に限定されない。基材としては、例えば、金属、樹脂、セラミックス等を幅広く用いることができる。
金属としては、例えば、純鉄、ステンレス、Ni合金等を幅広く用いることができる。金属は、鉄を含有した金属(合金)が好ましい。鉄を含有する金属を基材に用いると、軟磁性フェライト部が鉄酸化物であるため、基材と軟磁性フェライト部との親和性が高くなり、両者の接着性が向上する。
上述のように、基材に、樹脂、セラミックス等も使用できる。これらの材質の基材は界面自由エネルギーが小さいため、軟磁性フェライト部の形成が困難な場合がある。よって、これらの基材を使用する際は、基材の表面を、プラズマ処理したり、シランカップリング処理したり、酸塩基による表面酸化物層の除去処理をしたりして、基材表面に軟磁性フェライト部を形成しやすくすることが好ましい。
また、基材の形状は、特に限定されない。基材の形状としては、例えば、粒子状、板状、凹凸が入り込んだ複雑な形状を採用できる。基材の大きさは、特に限定されない。
(2)軟磁性フェライト部
本実施形態では、基材の表面に軟磁性フェライト部(例えば軟磁性フェライト膜)が配されている。軟磁性フェライト部で被覆された基材は、軟磁性材料としての特性を得ることになる。よって、軟磁性フェライト部で被覆された基材は、トランスやノイズ吸収体等として使用できる。
軟磁性フェライト部の材料は、特に限定されない。軟磁性フェライト部の材料は、マグネタイト、Niフェライト、Znフェライト、Mnフェライト、Ni-Znフェライト、及びMn-Znフェライトからなる群より選ばれた1種以上が好ましい。更には、軟磁性フェライト複合材料をノイズ吸収体として使用する場合は、電気抵抗率が10Ω・cm以上の軟磁性フェライトを用いるのが好ましい。そのため、Niフェライト、Znフェライト、Mnフェライト、Ni-Znフェライト、及びMn-Znフェライトからなる群より選ばれた1種以上がより好ましい。
軟磁性フェライトとしては、例えば、下記式〔1〕又は〔2〕の軟磁性フェライトを好適に用いることができる。

〔1〕 Fe
〔2〕 M-Zn-Fe(3-x-y)
(但し、式中、Mは、Ni又はMnであり、0≦x≦1、0≦y≦1である。)
(3)水溶液A
水溶液Aは、鉄イオン、及び2価の金属イオン(鉄イオンを除く)を含有する。
鉄イオンとしては、二価鉄イオン(Fe2+)が挙げられるが、三価鉄イオン(Fe3+)を含有していてもよい。二価の鉄イオン源となる化合物としては、特に限定されないが、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)等を好適に挙げることができる。
2価の金属イオン(鉄イオンを除く)は、特に限定されないが、マンガンイオン(Mn2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、ニッケルイオン(Ni2+)、コバルトイオン(Co2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、及び銅イオン(Cu2+)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
マンガンイオン源となる化合物は、特に限定されないが、塩化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン等を好適に挙げることができる。
亜鉛イオン源となる化合物は、特に限定されないが、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛等を好適に挙げることができる。
ニッケルイオン源となる化合物は、特に限定されないが、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル等を好適に挙げることができる。
コバルトイオン源となる化合物は、特に限定されないが、塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト等を好適に挙げることができる。
マグネシウムイオン源となる化合物は、特に限定されないが、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム等を好適に挙げることができる。
銅イオン源となる化合物は、特に限定されないが、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅等を好適に挙げることができる。
鉄イオンの濃度は、反応速度の観点から、0.005~0.1mol/Lが好ましく、0.01~0.08mol/Lがより好ましく、0.015~0.07mol/Lが更に好ましい。
2価の金属イオン(鉄イオンを除く)の合計濃度は、反応速度の観点から、0.0075~0.15mol/Lが好ましく、0.015~0.12mol/Lがより好ましく、0.0225~0.105mol/Lが更に好ましい。
(4)水溶液B
水溶液Bは、酸化剤としての亜硝酸塩を含有する。
亜硝酸塩は、酸化能力を有していれば特に限定されない。亜硝酸塩としては、亜硝酸カリウム、及び亜硝酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの亜硝酸塩は、酸化力が強いため、軟磁性フェライト部を形成しにくい基材(例えば、軟磁性金属粒子)に対しても、軟磁性フェライト部を形成できるからである。
水溶液Bにおける亜硝酸塩の濃度は、副生成物抑制の観点から、0.001~0.125mol/Lが好ましく、0.002~0.05mol/Lがより好ましく、0.005~0.03mol/Lが更に好ましい。
水溶液Bは、酢酸カリウム、水酸化カリウムを含有していてもよい。水溶液Bは、
軟磁性フェライト以外の副生成物の生成を抑制するという観点から、pH=10~12に調整されていることが好ましい。
(5)水溶液C
水溶液Cは、酢酸カリウム及び酢酸アンモニウムのうちの少なくとも1種を含有する。
水溶液Cにおける、酢酸カリウム及び酢酸アンモニウムの合計濃度は、めっき液のpH変動抑制の観点から、0.011~2.5mol/Lが好ましく、0.05~1.0mol/Lがより好ましく、0.1~0.5mol/Lが更に好ましい。
水溶液Cは、水酸化カリウムを含有していてもよい。水溶液Cは、軟磁性フェライト以外の副生成物の生成を抑制するという観点から、pH=10~12に調整されていることが好ましい。
(6)軟磁性フェライト部の形成
実施形態1の製造方法では、水溶液Cに基材を入れた状態とし、この状態で水溶液Cに、水溶液A及び水溶液Bを入れて混合液とし、混合液中で軟磁性フェライト部を形成する。
軟磁性フェライトは、各種金属イオンと、水又はヒドロキシルイオンとの反応によって生成する。反応式の一例は次式の通りになる。以下の反応式から分かるように、軟磁性フェライトの生成は、Hイオンが関与するため、pHに依存する電気化学反応であることが分かる。

2++2Fe2++8HO→MFe+8H+2e
(7)実施形態1の製造方法の特徴
ここで、実施形態1の製造方法の特徴について説明する。
混合液のpHは、軟磁性フェライト部の形成中、6以上12以下に維持されている。実施形態1の製造方法では、水溶液Cは緩衝液とされているため、水溶液Cに、水溶液A及び水溶液Bを入れてもpHの変動が抑制される。混合液のpHは、7以上12以下が好ましく、8以上12以下がより好ましい。
混合液の電位は、軟磁性フェライト部の形成中、-600mV以上300mV以下に維持されている。混合液の電位は、-500mV以上200mV以下が好ましく、-300mV以上0mV以下がより好ましい。
混合液のpH及び電位をこれらの範囲内とすると、膜厚が略均一な軟磁性フェライト部を形成できる。
なお、混合液の電位が-600mV未満の場合、酸化亜鉛やマグネタイトが生成される。マグネタイトはフェライトであるが、複合フェライトほどの電気抵抗や磁気特性を有していない。逆に電位が300mVよりも大きい場合、α-Fe、水酸化ニッケル、水酸化鉄が生成される。
混合液の電位は、水溶液Aの濃度、水溶液Bの濃度、水溶液Cの濃度、混合液のpH、反応温度、後述する水溶液Aの活量(イオン強度)によって調整することができる。また、電極電位を電析法により調整してもよい。
なお、電位の計算方法を以下に示す。反応で使用する原料の濃度が活量や電位に影響する。
Figure 0007169135000001
水溶液Aの活量(イオン強度)は、3×10-1以上10×10-1以下であるが、4×10-1以上9×10-1以下が好ましく、5×10-1以上8×10-1以下がより好ましい。
活量を3×10-1以上とすることで、反応に関与する原料を十分に確保し、軟磁性フェライト生成反応を適切な速度で進行できる。また、活量を10×10-1以下とすることで、軟磁性フェライトの生成反応の速度をコントロールして、軟磁性フェライト部の膜厚を制御できる。なお、水溶液Aの活量によって、軟磁性フェライトが生成されるpH-電位の領域が変化するが、水溶液Aの活量を上述の特定の範囲にすると、副生成物の少ない高純度な軟磁性フェライト部を得ることができる。
(8)軟磁性フェライト部の生成における反応温度
軟磁性フェライト部の生成における反応温度は、20℃以上100℃以下であることが好ましく、30℃以上90℃以下であることがより好ましく、40℃以上80℃以下であることが更に好ましい。この温度範囲では、軟磁性フェライト部の純度が更に向上する傾向にある。また、この温度範囲では、軟磁性フェライトの生成反応の速度をコントロールして、軟磁性フェライト部の膜厚を制御できる。
なお、本実施形態では、反応温度とは、水溶液Cに、水溶液A及び水溶液Bを入れた混合液の温度を意味する。
(9)本実施形態の製造方法の効果
本実施形態の製造方法によれば、反応時のpH変動が抑制され、金属イオンが錯形成によって安定化されるから、副反応が抑制される。よって、軟磁性フェライト部の純度を向上させることができる。従って、この製造方法によって、製造された軟磁性フェライト複合材の磁性特性が向上する。
2.第2実施形態
第2実施形態の軟磁性フェライト複合材の製造方法(以下「第2実施形態の製造方法」ともいう)について説明する。
第2実施形態の製造方法は、基材の表面に軟磁性フェライト部が形成された軟磁性フェライト複合材の製造方法である。第2実施形態の製造方法は、鉄イオン、及び2価の金属イオン(鉄イオンを除く)を含有する水溶液D、酢酸カリウム及び酢酸アンモニウムのうちの少なくとも1種と、酸化剤としての亜硝酸塩とを含有する水溶液E、を用いる。
そして、第2実施形態の製造方法では、基材に、水溶液Dと水溶液Eとを少なくとも1回ずつ交互に塗布し、水溶液Dと水溶液Eとを反応させて軟磁性フェライト部を形成する。第2実施形態の製造方法では、水溶液Dの活量は3×10-1以上10×10-1以下であり、水溶液EのpHは6以上12以下であり、水溶液D及び水溶液Eに由来し、反応後に残った廃液の電位は、軟磁性フェライト部の形成中-600mV以上300mV以下に維持されていることを特徴とする。
(1)基材(被めっき物)
基材については、上述の「1.(1)基材(被めっき物)」の記載を、そのまま適用する。
(2)軟磁性フェライト
軟磁性フェライトについては、上述の「1.(2)軟磁性フェライト」の記載を、そのまま適用する。
(3)水溶液D
水溶液Dは、鉄イオン、及び2価の金属イオン(鉄イオンを除く)を含有する。
鉄イオンとしては、二価鉄イオン(Fe2+)が挙げられるが、三価鉄イオン(Fe3+)を含有していてもよい。二価の鉄イオン源となる化合物としては、特に限定されないが、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)等を好適に挙げることができる。
2価の金属イオン(鉄イオンを除く)は、特に限定されないが、マンガンイオン(Mn2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、ニッケルイオン(Ni2+)、コバルトイオン(Co2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、及び銅イオン(Cu2+)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
マンガンイオン源となる化合物は、特に限定されないが、塩化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン等を好適に挙げることができる。
亜鉛イオン源となる化合物は、特に限定されないが、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛等を好適に挙げることができる。
ニッケルイオン源となる化合物は、特に限定されないが、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル等を好適に挙げることができる。
コバルトイオン源となる化合物は、特に限定されないが、塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト等を好適に挙げることができる。
マグネシウムイオン源となる化合物は、特に限定されないが、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム等を好適に挙げることができる。
銅イオン源となる化合物は、特に限定されないが、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅等を好適に挙げることができる。
鉄イオンの濃度は、反応速度の観点から、0.005~0.1mol/Lが好ましく、0.01~0.08mol/Lがより好ましく、0.015~0.07mol/Lが更に好ましい。
2価の金属イオン(鉄イオンを除く)の合計濃度は、反応速度の観点から、0.0075~0.15mol/Lが好ましく、0.015~0.12mol/Lがより好ましく、0.0225~0.105mol/Lが更に好ましい。
(4)水溶液E
水溶液Eは、酢酸カリウム及び酢酸アンモニウムのうちの少なくとも1種と、及び酸化剤としての亜硝酸塩とを含有する水溶液である。
水溶液Eにおける、酢酸カリウム及び酢酸アンモニウムの合計濃度は、めっき液のpH変動抑制の観点から、0.001~0.025mol/Lが好ましく、0.002~0.05mol/Lがより好ましく、0.005~0.03mol/Lが更に好ましい。
水溶液Eは、水酸化カリウムを含有していてもよい。
水溶液Eは、酸化剤としての亜硝酸塩を含有する。亜硝酸塩は、酸化能力を有していれば特に限定されない。亜硝酸カリウム、及び亜硝酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの亜硝酸塩は、酸化力が強いため、軟磁性フェライト部を形成しにくい基材(例えば、軟磁性金属粒子)に対しても、軟磁性フェライト部を形成できるからである。
水溶液Eにおける亜硝酸塩の濃度は、副生成物抑制の観点から、0.011~2.5mol/Lが好ましく、0.05~1.0mol/Lがより好ましく、0.1~0.5mol/Lが更に好ましい。
(5)軟磁性フェライト部の形成
実施形態2の製造方法では、基材に、水溶液Dと水溶液Eとを少なくとも1回ずつ交互に塗布して、軟磁性フェライト部を形成する。
塗布に際して、塗布の順番は限定されず、水溶液Dを塗布した後に水溶液Eを塗布してもよいし、水溶液Eを塗布した後に水溶液Dを塗布してもよい。
交互に塗布する回数は、水溶液Dと水溶液Eとを少なくとも1回ずつ塗布すれば、特に限定されず、それぞれ2回以上塗布してもよい。また、塗布の合計回数は、水溶液Dと水溶液Eで相違していてもよい。例えば、水溶液Dを10回塗布し、水溶液Eを11回塗布してもよい。
塗布の方法は、特に限定されない。例えば、スプレー法、ディップ法、バーコート法、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、パッド印刷、メタルマスク印刷、リソグラフィー等が挙げられる。
また、1回の塗布における塗布量は特に限定されない。1回の水溶液Dの塗布量を例えば5~100g/mとし、1回の水溶液Eの塗布量を例えば5~100g/mとすることができる。
水溶液Dと水溶液Eとを交互に塗布することによって、下記式の電気化学反応が進行して、軟磁性フェライト部が生成する。

2++2Fe2++8HO→MFe+8H+2e
(6)実施形態2の製造方法の特徴
ここで、実施形態2の製造方法の特徴について説明する。
水溶液EのpHは、6以上12以下であり、7以上12以下が好ましく、8以上12以下がより好ましい。水溶液EのpHをこの範囲にすると、軟磁性フェライト部の純度を向上できる。
水溶液D及び水溶液Eに由来する廃液の電位は、軟磁性フェライト部の形成中-600mV以上300mV以下に維持されている。廃液の電位は、-500mV以上200mV以下が好ましく、-300mV以上0mV以下がより好ましい。廃液の電位をこの範囲内とすると、軟磁性フェライト部が形成されている最中の水溶液D及び水溶液Eの混合液の電位も、この廃液の電位に近くなり、その結果、膜厚が略均一な軟磁性フェライト部を形成できる。
なお、廃液の電位が-600mV未満の場合、酸化亜鉛やマグネタイトが生成される。マグネタイトはフェライトであるが、複合フェライトほどの電気抵抗や磁気特性を有していない。逆に電位が300mVよりも大きい場合、α-Fe、水酸化ニッケル、水酸化鉄が生成される。
廃液の電位は、水溶液Dの濃度、水溶液Eの濃度、水溶液DのpH、水溶液EのpH、反応温度、後述する水溶液Dの活量(イオン強度)によって調整することができる。また、電極電位を電析法により調整してもよい。
なお、電位の計算方法は、「1.(7)実施形態1の製造方法の特徴」の欄で記載した方法を採用する。
水溶液Dの活量(イオン強度)は、3×10-1以上10×10-1以下であるが、4×10-1以上9×10-1以下が好ましく、5×10-1以上8×10-1以下がより好ましい。
活量を3×10-1以上とすることで、反応に関与する原料を十分に確保し、軟磁性フェライト生成反応を適切な速度で進行できる。また、活量を10×10-1以下とすることで、軟磁性フェライトの生成反応の速度をコントロールして、軟磁性フェライト部の膜厚を制御できる。なお、水溶液Dの活量によって、軟磁性フェライト部が生成されるpH-電位の領域が変化するが、水溶液Dの活量を上述の特定の範囲にすると、副生成物の少ない高純度な軟磁性フェライト部を得ることができる。
(7)軟磁性フェライト部の生成における反応温度
軟磁性フェライト部の生成における反応温度は、20℃以上100℃以下であることが好ましく、30℃以上90℃以下であることがより好ましく、40℃以上80℃以下であることが更に好ましい。この温度範囲では、軟磁性フェライト部の純度が更に向上する傾向にある。また、この温度範囲では、軟磁性フェライト部の生成反応の速度をコントロールして、軟磁性フェライト部の膜厚を制御できる。
なお、本実施形態では、反応温度とは、基材上で、水溶液Dと水溶液Eとが混合してできた混合液の温度を意味する。
(8)本実施形態の製造方法の効果
本実施形態の製造方法によれば、反応時のpH変動が抑制され、金属イオンが錯形成によって安定化されるから、副反応が抑制される。よって、軟磁性フェライト部の純度を向上させることができる。従って、この製造方法によって、製造された軟磁性フェライト複合材の磁性特性が向上する。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
なお、被めっき物(基材)の表面に軟磁性フェライト部が形成されていることは、FE-SEM(走査電子顕微鏡)による表面観察で確認した。また、軟磁性フェライト部の同定は、XRD測定(X線回折)により行った(リガク製RINT2000)。軟磁性フェライト部中の副生成物(不純物)の同定もXRD測定により行った。
1.実施例及び比較例の試料の作製、及び評価
(1)実施例1(第1実施形態に対応する実施例)
被めっき物(基材)には、水アトマイズ法によって作製したFe-5.5質量%Si-4.0質量%Cr粒子(平均粒子径:10μm、以下、実施例1における説明では、単に「金属粒子」ともいう)を使用した。
100mLの酢酸カリウム水溶液を水酸化カリウムによってpH=11に調整して、水溶液C(pH調整液、緩衝液)とした。水溶液Cに金属粒子10gを分散させた。
純水100mLに所定量の塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄(II)を添加し、十分に溶解させて水溶液A(反応液)とした。水溶液Aの活量は、6.7×10-1であった。同様に純水100mLに酸化剤としての亜硝酸カリウムを加えて水溶液B(酸化液)とした。
金属粒子が分散された水溶液Cに窒素を流しながら、水溶液Cを70℃に加熱しつつ撹拌し、この水溶液Cに対して、水溶液Aと水溶液Bを滴下して、金属粒子表面に軟磁性フェライト部を形成させた。この際、水溶液C(混合液)の電位をモニターして、水溶液Cの電位が-50mVとなる様に水溶液Bの添加スピードを調整した。反応は25分間行い、得られた粒子を純水で洗浄した後、磁石にて回収した。この後、粒子を乾燥させ粉砕と篩通しを行って、軟磁性フェライト部で被覆した複合粒子(軟磁性フェライト複合材)を得た。
なお、水溶液のpHはpHメータにより測定し、水溶液の電位はORPメータにより測定した(以下、同様)。
反応後の水溶液Cを目視で確認し、α-酸化鉄に由来する赤色結晶が無いことを確認した。
FE-SEMによって、複合粒子の全面に緻密な膜が存在することを確認した。図1に、実施例1の軟磁性フェライト部形成前の金属粒子の表面観察像をに示す。図1から、軟磁性フェライト部形成前の金属粒子の表面には、凹凸がほとんどないことが分かる。図2に、実施例1の複合粒子の表面観察像を示す。図2の複合粒子では、微細な凹凸構造を有する膜が形成されていることが確認できる。この実施例1の複合粒子をXRD測定したところ、図3の回折ピークが観察された。回折ピークのうち三角印をつけたものは、Ni-Znフェライトに由来するピークであった。図3のうち、丸印をつけたものは、Fe-Si-Cr合金の金属粒子に由来するピークであった。また、図3に示すように、実施例1の複合粒子のXRDの測定結果から、複合粒子の軟磁性フェライト部に副生成物(α-酸化鉄等)に由来するピークが無いことを確認した。
なお、以下の実施例2-4においては、FE-SEMによる表面写真、及びXRD測定結果の図を省略する。これらの実施例2-4のいずれにおいても、後述するように、実施例1と同様に、軟磁性フェライト部が形成されており、軟磁性フェライト部中に副生成物がほとんど生成していないことを確認している。
(2)実施例2(第2実施形態に対応する実施例)
被めっき物(基材)には、プラズマ処理で表面に水酸基を形成したガラス基板を使用した。
純水100mLに所定量の塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄(II)を添加し、十分に溶解させて水溶液Dとした。水溶液Dの活量は、3.1×10-1であった。
また、100mLの酢酸カリウム水溶液を調整し、水酸化カリウムによってpH=9に調整してpH調整液(緩衝液)を得た。このpH調整液に、酸化剤として亜硝酸カリウムを加えて水溶液Eとした。水溶液Eにおける亜硝酸カリウムの濃度は、後述する廃液の電位が-50mVとなる様に調整した。
ガラス基板に水溶液Dと水溶液Eを交互に噴霧して、その表面に軟磁性フェライト部を析出させた。噴霧する際には、ガラス基板を70℃に加熱した。なお、噴霧した水溶液D、及び水溶液Eは、ガラス基板を回転させたり、ガラス基板の表面に送風したりすることにより、随時除去している。このようにして除去した液を集めて廃液とした。廃液の電位をモニターして、この電位が-50mVに維持されていることを確認しながら、反応を進めた。反応は、25分間にわたり行った。反応終了後、ガラス基板を純水で洗浄して軟磁性フェライト部で被覆したガラス基板(軟磁性フェライト複合材)を得た。
反応後の廃液を目視で確認し、α-酸化鉄に由来する赤色結晶が無いことを確認した。
FE-SEM測定により、ガラス基板の全面に緻密な軟磁性フェライトの膜(軟磁性フェライト部)が存在することを確認した。
また、ガラス基板に被覆された軟磁性フェライト部のXRDの測定結果から、軟磁性フェライト部に副生成物(α-酸化鉄等)に由来するピークが無いことを確認した。
(3)実施例3(第1実施形態に対応する実施例)
被めっき物(基材)には、水アトマイズ法によって作製したFe-5.5質量%Si-4.0質量%Cr粒子(平均粒子径:10μm、以下、実施例3における説明では、単に「金属粒子」ともいう)を使用した。
100mLの酢酸カリウム水溶液を水酸化カリウムによってpH=11に調整して、水溶液C(pH調整液、緩衝液)とした。水溶液Cに金属粒子10gを分散させた。
純水100mLに所定量の塩化マンガン、塩化銅、塩化亜鉛、塩化鉄(II)を添加し、十分に溶解させて水溶液A(反応液)とした。水溶液Aの活量は、6.7×10-1であった。同様に純水100mLに酸化剤としての亜硝酸カリウムを加えて水溶液B(酸化液)とした。
金属粒子が分散された水溶液Cに窒素を流しながら、水溶液Cを70℃に加熱しつつ撹拌し、この水溶液Cに対して、水溶液Aと水溶液Bを滴下して、金属粒子表面に軟磁性フェライト部を形成させた。この際、水溶液C(混合液)の電位をモニターして、水溶液Cの電位が-50mVとなる様に水溶液Bの添加スピードを調整した。反応は25分間行い、得られた粒子を純水で洗浄した後、磁石にて回収した。この後、金属粒子を乾燥させ粉砕と篩通しを行って、軟磁性フェライト部で被覆した複合粒子(軟磁性フェライト複合材)を得た。
反応後の水溶液Cを目視で確認し、α-酸化鉄に由来する赤色結晶が無いことを確認した。
FE-SEM測定により複合粒子の全面に緻密な膜が存在することを確認した。
また、複合粒子のXRDの測定結果から、複合粒子の軟磁性フェライト部に副生成物(α-酸化鉄等)に由来するピークが無いことを確認した。
(4)実施例4(第2実施形態に対応する実施例)
被めっき物(基材)には、プラズマ処理で表面に水酸基を形成したガラス基板を使用した。
純水100mLに所定量の塩化コバルト、塩化亜鉛、塩化鉄(II)を添加し、十分に溶解させて水溶液Dとした。水溶液Dの活量は、3.1×10-1であった。
また、100mLの酢酸カリウム水溶液を調整し、水酸化カリウムによってpH=9に調整してpH調整液(緩衝液)を得た。このpH調整液に、酸化剤として亜硝酸カリウムを加えて水溶液Eとした。水溶液Eにおける亜硝酸カリウムの濃度は、後述する廃液の電位が-50mVとなる様に調整した。
ガラス基板に水溶液Dと水溶液Eを交互に噴霧して、その表面に軟磁性フェライトを析出させた。噴霧する際には、ガラス基板を70℃に加熱した。なお、噴霧した水溶液D、及び水溶液Eは、ガラス基板を回転させたり、ガラス基板の表面に送風したりすることにより、随時除去している。このようにして除去した液を集めて廃液とした。廃液の電位をモニターして、この電位が-50mVに維持されていることを確認しながら、反応を進めた。反応は、25分間にわたり行った。反応終了後、ガラス基板を純水で洗浄して軟磁性フェライト部で被覆したガラス基板(軟磁性フェライト複合材)を得た。
反応後の廃液を目視で確認し、α-酸化鉄に由来する赤色結晶が無いことを確認した。
FE-SEM測定により、ガラス基板の全面に緻密な軟磁性フェライトの膜(軟磁性フェライト部)が存在することを確認した。
また、ガラス基板に被覆された軟磁性フェライト部のXRDの測定結果から、軟磁性フェライト部に副生成物(α-酸化鉄等)に由来するピークが無いことを確認した。
(5)比較例1
被めっき物(基材)には、水アトマイズ法によって作製したFe-5.5質量%Si-4.0質量%Cr粒子(平均粒子径:10μm、以下、比較例1における説明では、単に「金属粒子」ともいう)を使用した。
100mLの酢酸カリウム水溶液を塩酸によってpH=4に調整して、水溶液C(pH調整液)とした。水溶液Cに金属粒子10gを分散させた。
純水100mLに所定量の塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄(II)を添加し、十分に溶解させて水溶液A(反応液)とした。水溶液Aの活量は、6.7×10-1であった。同様に純水100mLに酸化剤としての亜硝酸カリウムを加えて水溶液B(酸化液)とした。
金属粒子が分散された水溶液Cに窒素を流しながら、水溶液Cを70℃に加熱しつつ撹拌し、この水溶液Cに対して、水溶液Aと水溶液Bを滴下して、金属粒子表面に軟磁性フェライトを形成させた。この際、水溶液C(混合液)の電位をモニターして、水溶液Cの電位が-90mVとなる様に水溶液Bの濃度を調整した。反応は25分間行い、得られた粒子を純水で洗浄した後、磁石にて回収した。この後、粒子を乾燥させ粉砕と篩通しを行って、複合粒子を得た。
反応後の水溶液Cを目視で確認したところ、α-酸化鉄に由来する赤色~茶色の結晶が大量に生成していることが確認された。
FE-SEM測定により複合粒子の全面には膜が形成されていないことを確認した。
また、複合粒子のXRDの測定結果では、Ni-Znフェライトに由来するピークは、ほとんど観察されなかった。
(6)比較例2
被めっき物(基材)には、プラズマ処理で表面に水酸基を形成したガラス基板を使用した。
純水100mLに所定量の塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄(II)を添加し、十分に溶解させて水溶液Dとした。水溶液Dの活量は、6.7×10-1であった。
また、100mLの酢酸カリウム水溶液を調整し、塩酸によってpH=4に調整してpH調整液を得た。このpH調整液に、酸化剤として亜硝酸カリウムを加えて水溶液Eとした。水溶液Eにおける亜硝酸カリウムの濃度は、後述する廃液の電位が-90mVとなる様に調整した。
ガラス基板に水溶液Dと水溶液Eを交互に噴霧して、その表面に軟磁性フェライトを析出させた。噴霧する際には、ガラス基板を70℃に加熱した。なお、噴霧した水溶液D、及び水溶液Eは、ガラス基板を回転させたり、ガラス基板の表面に送風したりすることにより、随時除去している。このようにして除去した液を集めて廃液とした。廃液の電位をモニターして、この電位が-90mVに維持されていることを確認しながら、反応を進めた。反応は、25分間にわたり行った。反応終了後、ガラス基板を純水で洗浄した。
反応後の廃液を目視で確認したところ、α-酸化鉄に由来する赤色~茶色の結晶が大量に生成していることが確認された。
FE-SEM測定により、ガラス基板表面の全面には膜が形成されていないことを確認した。
また、反応後のガラス基板表面のXRDの測定結果では、Ni-Znフェライトに由来するピークは、ほとんど観察されなかった。
(7)比較例3
被めっき物(基材)には、水アトマイズ法によって作製したFe-5.5質量%Si-4.0質量%Cr粒子(平均粒子径:10μm、以下、比較例3における説明では、単に「金属粒子」ともいう)を使用した。
100mLの酢酸カリウム水溶液を塩化カリウムによってpH=11に調整して、水溶液C(pH調整液)とした。水溶液Cに金属粒子10gを分散させた。
純水100mLに所定量の塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄(II)を添加し、十分に溶解させて水溶液A(反応液)とした。水溶液Aの活量は、13.0×10-1であった。同様に純水100mLに還元剤としての硫化水素ナトリウムを加えて水溶液B’(還元液)とした。
金属粒子が分散された水溶液Cに窒素を流しながら、水溶液Cを70℃に加熱しつつ撹拌し、この水溶液Cに対して、水溶液Aと水溶液B’を滴下して、金属粒子表面に軟磁性フェライト部を形成させた。この際、水溶液C(混合液)の電位をモニターして、水溶液Cの電位が-700mVとなる様に水溶液B’の濃度を調整した。反応は25分間行い、得られた粒子を純水で洗浄した後、磁石にて回収した。この後、粒子を乾燥させ粉砕と篩通しを行って、複合粒子を得た。
反応後の水溶液Cを目視で確認したところ、α-酸化鉄に由来する赤色~茶色の結晶が大量に生成していることが確認された。
FE-SEM測定により複合粒子の全面には膜が形成されていないことを確認した。
また、複合粒子のXRDの測定結果では、Ni-Znフェライトに由来するピークは、ほとんど観察されなかった。
2.実施例及び比較例の試料の作製、及び評価のまとめ
実施例及び比較例の試料の作製、及び評価をまとめて下記表1に記載する。
Figure 0007169135000002
表1において、「pH」は、それぞれ次の水溶液のpHを示す。
実施例1の「pH」:水溶液C(混合液)のpH
実施例2の「pH」:水溶液EのpH
実施例3の「pH」:水溶液C(混合液)のpH
実施例4の「pH」:水溶液EのpH
比較例1の「pH」:水溶液C(混合液)のpH
比較例2の「pH」:水溶液EのpH
比較例3の「pH」:水溶液C(混合液)のpH
表1において、「電位」は、それぞれ次の水溶液の電位を示す。
実施例1の「電位」:水溶液C(混合液)の電位
実施例2の「電位」:廃液の電位
実施例3の「電位」:水溶液C(混合液)の電位
実施例4の「電位」:廃液の電位
比較例1の「電位」:水溶液C(混合液)の電位
比較例2の「電位」:廃液の電位
比較例3の「電位」:水溶液C(混合液)の電位
表1において、「活量」は、それぞれ次の水溶液の活量を示す。
実施例1の「活量」:水溶液Aの活量
実施例2の「活量」:水溶液Dの活量
実施例3の「活量」:水溶液Aの活量
実施例4の「活量」:水溶液Dの活量
比較例1の「活量」:水溶液Aの活量
比較例2の「活量」:水溶液Dの活量
比較例3の「活量」:水溶液Aの活量
表1において、「膜形成」における「○」「×」は、次の状態を示す。
○:被めっき物の表面全体に、膜が存在している。
×:被めっき物の表面全体には、膜が存在していない。
表1において、「副生成物」における「○」「×」は、次の状態を示す。
○:副生成物たるα-酸化鉄の生成は確認されなかった。
×:副生成物たるα-酸化鉄の生成が確認された。
表1において、「組成」は、各実施例及び各比較例で生成した軟磁性フェライト部の組成を示している。なお、比較例1~3では、軟磁性フェライト部は僅かに生成したに過ぎなかった。
3.考察
第1実施形態に対応する実施例1,3では、(1)水溶液Aの活量が、3×10-1以上10×10-1以下とされており、(2)混合液のpHが、軟磁性フェライト部の形成中、6以上12以下に維持されており、(3)混合液の電位が、軟磁性フェライト部の形成中、-600mV以上300mV以下に維持されている。これらの要件を全て満たすと、純度の高い軟磁性フェライト部で被覆された複合材を製造できた。一方、pHに関する要件を満たさない比較例1、電位及び活量に関する要件を満たさない比較例3は、純度の高い軟磁性フェライト部で被覆された複合材は製造できなかった。
第2実施形態に対応する実施例2,4では、(1)水溶液Dの活量が、3×10-1以上10×10-1以下とされており、(2)水溶液EのpHが、6以上12以下とされており、(3)水溶液D及び水溶液Eに由来する廃液の電位が、軟磁性フェライト部の形成中、-600mV以上300mV以下に維持されている。これらの要件を全て満たすと、純度の高い軟磁性フェライト部で被覆された複合材を製造できた。一方、pHに関する要件を満たさない比較例2は、純度の高い軟磁性フェライト部で被覆された複合材を製造できなかった。
以上のように、実施例1-4の方法では、純度の高い軟磁性フェライト部を形成させるために、pH、電位、活量(イオン強度)をコントロールしている。発明者らは、この結果を裏付けるために、pH-電位図を描写して検証した。その結果、実施例1-4の条件で、高純度の軟磁性フェライト部が得られることを確認できた。
4.実施例の効果
本実施例の製造方法によれば、軟磁性フェライト複合材の軟磁性フェライト部の純度を高めることができる。
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
本発明は、モーターコア、トランス、チョークコイル、ノイズ吸収体等の用途に使用される軟磁性フェライト複合材の製造方法として好適に使用される。

Claims (4)

  1. 基材の表面に軟磁性フェライト部が形成された軟磁性フェライト複合材の製造方法であって、
    鉄イオン、及び2価の金属イオン(鉄イオンを除く)を含有する水溶液Aと、
    酸化剤としての亜硝酸塩を含有する水溶液Bと、
    酢酸カリウム及び酢酸アンモニウムのうちの少なくとも1種を含有する水溶液Cと、
    を用い、
    前記水溶液Cに前記基材を入れた状態とし、この状態で前記水溶液Cに、前記水溶液A及び前記水溶液Bを入れて混合液とし、前記混合液中で軟磁性フェライト部を形成する軟磁性フェライト複合材の製造方法において、
    前記水溶液Aの活量は、3×10-1以上10×10-1以下であり、
    前記混合液のpHは、軟磁性フェライト部の形成中、6以上12以下に維持されており、
    前記混合液の電位は、軟磁性フェライト部の形成中、-600mV以上300mV以下に維持されていることを特徴とする軟磁性フェライト複合材の製造方法。
  2. 基材の表面に軟磁性フェライト部が形成された軟磁性フェライト複合材の製造方法であって、
    鉄イオン、及び2価の金属イオン(鉄イオンを除く)を含有する水溶液Dと、
    酢酸カリウム及び酢酸アンモニウムのうちの少なくとも1種と、酸化剤としての亜硝酸塩と、を含有する水溶液Eと、
    を用い、
    前記基材に、前記水溶液Dと前記水溶液Eとを少なくとも1回ずつ交互に塗布し、前記水溶液Dと前記水溶液Eとを反応させて軟磁性フェライト部を形成する軟磁性フェライト複合材の製造方法において、
    前記水溶液Dの活量は、3×10-1以上10×10-1以下であり、
    前記水溶液EのpHは、6以上12以下であり、
    前記水溶液D及び前記水溶液Eに由来し、反応後に残った廃液の電位は、軟磁性フェライト部の形成中-600mV以上300mV以下に維持されていることを特徴とする軟磁性フェライト複合材の製造方法。
  3. 前記2価の金属イオンはNi、Zn、Mn、Co、Mg及びCuからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の軟磁性フェライト複合材の製造方法。
  4. 軟磁性フェライト部の生成における反応温度は、20℃以上100℃以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の軟磁性フェライト複合材の製造方法。
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