JP7167482B2 - 窒化用非調質鋼およびクランクシャフト - Google Patents
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Description
このため、クランクシャフトの製造に用いられる鋼材には強度とともに十分な曲げ矯正性が求められる。ここで曲げ矯正性とは、窒化処理や軟窒化処理を施すことで生じる変形(曲り)の矯正加工(元の形状に戻す加工)を、容易且つ厳密に行うことができることを意味する。矯正性が低い場合、変形矯正の際に、元の形状に戻らなかったり、部品表面に疲労強度の低下に繋がる亀裂が入ったりする。
F1≧0.30・・式(1)
F2≧11.9・・式(2)
但しF1=0.20[C]+0.04[Mn]+0.18[Cu]+[Cr]
F2=-13[C]-25[Si]+3[Mn]+2[Cu]+5[Ni]-15[Cr]+15
(F1,F2の式中[ ]は、[ ]内元素の含有質量%を表す)
本発明者が、窒化層の性状が曲げ矯正性に及ぼす影響を調べたところ、化合物層の厚みの減少に伴い曲げ矯正性が高まること、また化合物層に占めるγ′相の比率の増加に伴い曲げ矯正性が高まることを確認した。そして、化合物層の厚みの減少および化合物層に占めるγ′相の比率の増加は、いずれも鋼中のCu量を増やすことで実現可能であることを見出した。
「請求項1の化学成分について」
C:0.20~0.50%
Cは、強度を高めるのに有効な元素である。必要な強度を得るには0.20%以上の添加を必要とする。但し、過剰な添加は鍛造硬度が高くなりすぎ機械加工性が悪化する。また曲げ矯正性も悪化する。このため、その上限を0.50%とする。好適なCの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.30~0.45%である。
Siは、鋼の脱酸元素として有効な元素である。また硬度を高める効果もある。その効果を得るため0.05%以上の添加が必要である。但し、0.60%より多く添加されると曲げ矯正性の悪化を招くため、その上限を0.60%とする。好適なSiの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.05~0.35%である。
Cuは、化合物層の厚さ・構造を変化させ曲げ矯正性を高めるのに有効な元素である。またCuは耐力を高める効果もある。これらの効果を得るため0.60%以上添加する。
但し、過剰な添加は熱間鍛造後の硬さが高くなり被削性の低下を招くほか、コストアップの要因にもなることから、その上限を1.20%とする。好適なCuの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.70~1.10%である。
図1(A)では、0.40C-0.10Si-1.40Mn-0.50Ni-0.050S-0.15Cr-0.025Ti-0.025Nを基本成分とし、Cu量を0.15%、0.49%、0.99%、1.5%と変化させた4種類の試験片を、600℃、2時間の条件でガス軟窒化処理した際、試験片表面に形成された化合物層の厚みを示している。同図によれば、Cu量の増加に伴い化合物層の厚みが減少していることが分かる。
図1(B)では、上記4種類の試験片での化合物層に占めるε相の比率およびγ′相の比率を示している。同図によれば、Cu量の増加に伴い化合物層に占めるγ′相の比率が増加(一方、ε相の比率が低下)していることが分かる。
この図2を見ても、鋼中のCu含有量を高めることで、形成される化合物層の厚さを薄くするとともに化合物層に占めるγ′相の比率を高めることが可能であることが分かる。
尚、図2において、拡散層の、化合物層と接する領域の一部において、他とは異なる色で表されているのは、N濃度の高い領域に生じたオーステナイトである。
Niは、窒化層におけるパーライト延性を高めて曲げ矯正性を向上させるために有効な元素である。その効果を得るため0.01%以上含有させる。但し、過剰な添加は熱間鍛造後の硬さが高くなり被削性の低下を招くほか、コストアップの要因にもなることから、その上限を1.00%とする。好適なNiの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.20~1.00%である。
Mnは、強度を高めるのに有効な元素である。またNiと同様に曲げ矯正性を向上させる効果がある。またMn系硫化物を形成し被削性を向上させる効果もある。
0.80%より少ないと疲労強度が低下し、1.70%より多いと高硬度化により機械加工性の悪化を招き、また曲げ矯正性が悪化する。このため含有量は0.80~1.70%とする。好適なMnの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.90~1.60%である。
Sは、鋼材中で硫化物を形成し機械加工性を向上させる効果がある。その効果を得るため0.001%以上添加する。但し、過剰な添加は介在物量を増加させ疲労強度の低下を招くため、その上限を0.20%とする。好適なSの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.030~0.100%である。
Crは、疲労強度向上に寄与する元素である。その効果を得るため0.05%以上添加する。但し、過剰に添加すると窒化物が多量に生成し曲げ矯正性の悪化を招くため、その上限を0.50%とする。好適なCrの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.05~0.30%である。
Tiは、鍛造時のオーステナイト粒の粗大化を防止し、曲げ矯正性向上に寄与する元素である。その効果を得るため0.002%以上添加する。但し、過剰な添加はコストアップの要因となるため、その上限を0.040%とする。好適なTiの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.005~0.035%である。
Nは、鍛造時のオーステナイト粒の粗大化を防止し、曲げ矯正性向上に寄与する元素である。その効果を得るため0.005%以上添加する。但し、過剰な添加は粗大な炭窒化物を生成し、疲労強度低下の要因となるため、その上限を0.040%とする。好適なNの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.007~0.035%である。
但しF1=0.20[C]+0.04[Mn]+0.18[Cu]+[Cr]
F1は、疲労強度に関する指数である。C,Mn,Cu,Crは、疲労強度を高める効果がある。C,Mn,Cu,Crの係数は、それぞれ疲労強度向上に対する寄与度を表している。本発明では、F1の値を0.30以上とすることで700MPa以上の高い曲げ疲労強度を得ることができる。F1の値は、好ましくは0.35以上である。
但しF2=-13[C]-25[Si]+3[Mn]+2[Cu]+5[Ni]-15[Cr]+15
F2は、曲げ矯正性に関する指数である。Cuは化合物層厚さ・構造を変化させ、またMn,Niはマトリックスの延性を高めて、それぞれ曲げ矯正性を高める効果がある。
一方、C,Si,Crは、曲げ矯正性を悪化させる元素である。
F2におけるC,Si,Mn,Cu,Ni,Crの係数は、それぞれ曲げ矯正性向上に対する寄与度を表している。本発明では、F2の値が11.9以上あれば実際のクランクシャフト製造工程において、亀裂の発生なく矯正加工を行なうことができるとの知見の下、指数F2の下限値を11.9と規定している。F2の値は、好ましくは12.0以上である。
一般に、非調質鋼を用いたクランクシャフトは、熱間鍛造→機械加工→研削仕上→軟窒化→曲げ矯正(室温)→研磨仕上げの各工程を経て製造されるが、本発明の窒化用非調質鋼は、曲げ矯正性に優れているため、軟窒化処理の後に曲げ矯正加工を経て製造されるクランクシャフトに好適に用いることができる。
Mo:0.10%以下
Moは、強度向上に寄与する元素である。但し、過剰に添加すると硬度が高くなり被削性が悪化するため、添加量は0.10%以下とする。
Alは、溶製時の脱酸剤として使用される元素である。但し、過剰に添加されると軟窒化時に窒化物が生成し曲げ矯正性が悪化するため、その上限を0.05%とする。
Caは、被削性を向上させる効果を有する元素である。その効果を得るためには0.0003%以上添加する必要がある。但し、過剰に添加しても効果は飽和するため、上限を0.0060%とする。
Pbは、被削性を向上させる効果を有する元素である。但し、0.300%より多く添加しても効果は飽和するため、その上限を0.300%とする。
真空誘導溶解炉にて下記表1に示す化学成分の鋼塊150kgを溶製し、熱間で粗鍛造してΦ70mmの丸棒に加工し、その後大気中で放冷して室温まで冷却した。その後、
Φ70mm丸棒材を図3に示すように1250℃加熱し、1000~1150℃の温度で鍛造し、45mm角の棒状片を作製した。熱間鍛造後は大気中で放冷して室温まで冷却した。棒状片の鍛造後の組織はフェライト・パーライトであった。
次に45mm角の棒状片に機械加工を施し、図4に示す形状の試験片10を作製した。
上記のようにして作製した試験片10に対しガス軟窒化処理を行った。
ガス軟窒化処理は、オリエンタルエンヂニアリング(株)製の多目的表面改質装置を使用し、(NH3+CO2+N2)の混合ガスを用いて、図5で示すように600℃で120分保持して行なった、その後、試験片10を120℃の油中にて冷却した。
得られた軟窒化後の試験片を用いて、曲げ疲労強度および曲げ矯正性について評価した。
軟窒化後の試験片を用いて、JIS Z 2274に準拠した方法で小野式回転曲げ疲労試験を行った。試験条件は回転数2500rpm,試験温度は室温の条件である。
疲労強度の評価は、繰返し数107回で破断しない最大応力を疲労限度とし、疲労限度が700MPa以上であった場合を「○」、700MPa未満であった場合を「×」とした。その結果が表1に示してある。尚、表中ではこれら○、×の評価と併せて、括弧書きで実際に測定された疲労限度(単位:MPa)も併せて示してある。
曲げ疲労強度の評価と同様に、軟窒化後の試験片10を用いて曲げ矯正性を評価した。図6に示すように試験片10の平行部14両側のR部12,12に歪ゲージを接着した後、試験片10の両端部を支点間距離182mmで支持した状態で、平行部14に治具を用いて下向きの荷重を加え、R部12,12に接着した何れかの歪ゲージが断線した時点での平行部14の下向きの変位量δ(mm)を測定した。
ここで、変位量δ(mm)と試験片10の表層硬さ(Hv)との間には、δ=-0.1[Hv]+38.6で表される比例関係があり、その傾きは略一定であることから、この評価では、上記変位量δに加えて試験に供した試験片10の硬さ(Hv)を求め、上記関係式を利用して表層硬さ0Hvのときの変位量を算出し、これを同一硬さに換算した場合の各試験片の限界変位量δ0とした。
ここで評価基準となる限界変位量δ0の値を28mmとしたのは、限界変位量δ0がこれ以上あれば、実際のクランクシャフト製造工程において、亀裂の発生なく矯正加工を行なうことができるとの知見に基づいている。
比較例1は、Cu量とN量、更に曲げ矯正性を表す指数F2の値が本発明の下限値を下回っており、曲げ矯正性の評価が「×」であった。
比較例2は、Cu量が本発明の上限値を上回って過剰に添加されるも、曲げ矯正性を表す指数F2の値は本発明の下限値を下回っている例である。この比較例2においても、曲げ矯正性の評価が「×」であった。
比較例6は、Ti量が本発明の上限値を上回って過剰に添加される一方、Cu量と曲げ矯正性を表す指数F2の値が本発明の下限値を下回っている例であるが、曲げ矯正性の評価が「×」であった。
Claims (3)
- 質量%で
C:0.20~0.50%
Si:0.05~0.60%
Mn:0.80~1.70%
S:0.001~0.20%
Cu:0.60~1.20%
Ni:0.01~1.00%
Cr:0.05~0.50%
Ti:0.002~0.040%
N:0.005~0.040%
残部がFe及び不可避的不純物であり、且つ下記式(1),式(2)を満たし、
主としてフェライト・パーライトの2相組織からなることを特徴とする窒化用非調質鋼。
F1≧0.30・・式(1)
F2≧11.9・・式(2)
但しF1=0.20[C]+0.04[Mn]+0.18[Cu]+[Cr]
F2=-13[C]-25[Si]+3[Mn]+2[Cu]+5[Ni]-15[Cr]+15
(F1,F2の式中[ ]は、[ ]内元素の含有質量%を表す) - 請求項1において、質量%で
Mo:0.10%以下
Al:0.05%以下
Ca:0.0003~0.0060%
Pb:0.300%以下
の何れか1種若しくは2種以上を更に含有することを特徴とする窒化用非調質鋼。 - 請求項1,2の何れかに記載の鋼からなり、表層に窒化層が形成されていることを特徴とするクランクシャフト。
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