以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明は、基材上に設けられた既存被膜面(凹凸模様及び/または多色模様を有する既存被膜面)に対し、特定の被覆材を塗付して新設被膜を形成する被膜形成方法である。
このような既存被膜面に対し、従来の透明コーティング剤によって塗り替えを行っても、元来劣化しやすい部分では、変色、ひび割れ等を抑制することは困難であり、ひび割れについては、既存被膜面に生じていた微細なひび割れが経時的に進行してしまうおそれもある。このようなひび割れは、塗り替え後の被膜にも波及しやすく、そうすると新設被膜による美観性、遮水性等が損われ、基材の長寿命化等の点においても十分な効果が得られ難くなる。
これに対し、本発明では、既存被膜面の凹凸模様や多色模様を活かしつつ、既存被膜面に起因する変色、ひび割れ等の劣化を抑制し、長期にわたり美観性を保持することができ、基材の長寿命化等を図ることも可能となる。このような効果は、本発明の特定新設被膜によって、太陽光や水等への耐性が十分に付与されること等によって奏されるものと考えられる。
本発明では、基材上に設けられた既存被膜面を塗装対象とする。このような既存被膜面としては、例えば、建築物、土木構造物等の基材表面に形成されたものが挙げられ、特に、太陽光や水等の影響を受けやすい外装面(外壁、屋根等)に形成されたものが好適である。基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、板状基材等が挙げられる。このうち、板状基材としては、例えば、セメントボード、押出成形板、スレート板、PC板、ALC板、繊維強化セメント板、金属系サイディングボード、窯業系サイディングボード、セラミック板、珪酸カルシウム板、プラスチックボード、硬質木片セメント板、塩ビ押出サイディングボード、合板等が挙げられる。本発明は、基材が板状基材である場合に、特に有用である。
既存被膜面が複数の板状基材で構成される場合、板状基材どうしの継ぎ目は、シーリング材、乾式目地材等の目地材等が充填されたものであってもよい。このうちシーリング材としては、例えば、シリコーン系シーリング材、変性シリコーン系シーリング材、ポリサルファイド系シーリング材、変性ポリサルファイド系シーリング材、アクリルウレタン系シーリング材、ポリウレタン系シーリング材、SBR系シーリング材、ブチルゴム系シーリング材等が挙げられる。
既存被膜面は、凹凸模様及び/または多色模様を有するものである。このような既存被膜は、1種または2種以上のコーティング剤によって形成されたものである。コーティング剤としては、着色ないし無着色、あるいは不透明ないし透明等の種々のものが使用でき、例えば、酢酸ビニル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等から選ばれる1種以上の樹脂を含むもの等が挙げられる。既存被膜面は、1層または2層以上の被膜であり、例えば、着色被膜層、透明被膜層等が積層されたものであってもよい。
凹凸模様としては、種々のものが挙げられ、例えばタイル調模様、レンガ調模様、石目調模様、岩石調模様、木目調模様、幾何学的模様、縞模様、格子模様、水玉模様、砂壁模様、ゆず肌模様、さざ波模様等の他、動植物等をデザイン化した図形模様等が挙げられる。具体的に、凹凸模様を正面から見たときの凸部の形状としては、例えば正方形、長方形、円形、楕円形、三角形、菱形、多角形、不定形等の形状が挙げられる。また、凹凸模様における凸部の断面形状としては、例えば台形、正方形、長方形、半円形、波形、階段形、三角形、山形、不定形等が挙げられる。凹凸模様における凹部は、平坦で目地を形成するもの等であってもよい。凹部と凸部との高低差は、各々の部位で一定であっても相違していてもよいが、好ましくは20mm以下、より好ましくは1~15mm程度である。このような凹凸模様は、基材、既存被膜のいずれか一方または両方に付されたものであればよい。
多色模様は、少なくとも2色以上の色彩が視認可能な状態で混在する模様であり、例えば、2色以上の斑点が混在する模様、背景色上に斑点(1色または2色以上)が散在する模様、2色以上に塗り分けられた模様(例えば、島状模様、線状模様、タイル調模様、レンガ調模様、石目調模様、岩石調模様、木目調模様、幾何学的模様、縞模様、格子模様、ランダム模様等)等が挙げられる。このような多色模様は、例えば、各種印刷手法(インクジェット印刷等)で形成されたものであってもよいし、石材調仕上塗材、多彩模様塗料等の装飾性コーティング剤によって形成されたものであってもよい。
本発明は、上述のような既存被膜面が経年劣化した際の塗り替え方法(改装方法)として、好ましく適用できる。経年劣化の程度は、特に限定されるものではないが、壁面として概ね5年以上(さらには8年以上)使用されたものは、本発明の対象として好適である。既存被膜面がシーリング材等の目地材を有する場合、既存の目地材をそのまま残しておいてもよいが、新設被膜の形成前に新たな目地材を打設することもできるし、既存の目地材の表面に塗装等の処理を施すこともできる。
本発明では、上述のような既存被膜面に対し、特定の被覆材を塗付して新設被膜を形成する。
本発明における被覆材は、ポリオール化合物と、脂肪族ポリイソシアネート化合物及び脂環族ポリイソシアネート化合物から選ばれる1種以上のポリイソシアネート化合物とを含む。これら両成分は、樹脂成分であり、被膜形成時に反応硬化して、架橋被膜を形成し、太陽光や水等への耐性に寄与するものである。
ポリオール化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、含フッ素ポリオール、ポリイソプレンポリオール、カーボネートポリオール等が挙げられ、これらの1種または2種以上が使用できる。ポリオール化合物の水酸基価は、好ましくは10~200KOHmg/g、より好ましくは20~100KOHmg/gである。なお、水酸基価は、樹脂固形分1gに含まれる水酸基と等モルの水酸化カリウムのmg数によって表される値である。
本発明では、ポリオール化合物としてアクリルポリオール、及び含フッ素ポリオールから選ばれる1種以上を含むことが望ましい。
アクリルポリオールとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、水酸基含有モノマーと、必要に応じその他のモノマーとを構成成分として含み、これらを重合したものが使用できる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(メタ)アクリロイル基とアルキル基とを有する化合物であり、当該アルキル基の形態としては、例えば、直鎖状、分岐状、環状等が挙げられる。なお、本発明では、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルとを併せて(メタ)アクリル酸アルキルエステルと表記している。モノマーとは、重合性不飽和二重結合を有する化合物の総称である。
このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の炭素数1~2のアルキル基を有するもの、あるいは、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸t-ペンチル、(メタ)アクリル酸1-エチルプロピル、(メタ)アクリル酸2-メチルブチル、(メタ)アクリル酸3-メチルブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルブチル、(メタ)アクリル酸2-メチルペンチル、(メタ)アクリル酸4-メチルペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸n-ウンデシル、(メタ)アクリル酸n-ラウリル等の炭素数3以上のアルキル基を有するもの等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。
上記水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。
上記その他のモノマーとしては、例えば、カルボキシル基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、ピリジン系モノマー、ニトリル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、カルボニル基含有モノマー、アルコキシシリル基含有モノマー、芳香族モノマー、紫外線吸収性基含有モノマー、光安定性基含有モノマー等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。なお、フッ素原子を有するアクリルポリオールは、含フッ素ポリオールに包含される。
アクリルポリオールとしては、炭素数3以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)(以下「(a)成分」ともいう)を、アクリルポリオールの構成成分中に20重量%以上含むものが好ましい。このような(a)成分としては、炭素数4以上(より好ましくは4以上8以下)のアルキル基を有するものが、より好適である。
アクリルポリオールにおける(a)成分の比率は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは25~99重量%、さらに好ましくは30~98重量%である。(a)成分が上記比率であれば、水に対する耐性等を高めることができ、変色、ひび割れ等の劣化抑制、美観性保持等の効果向上の点でも好適である。なお、本発明において、「α~β」は「α以上β以下」と同義である。
(a)成分には、炭素数4以上のアルキル主鎖を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a’)(以下「(a’)成分」ともいう)が包含されるが、このような(a’)成分の比率は、アクリルポリオールの構成成分中3~50重量%であることが好ましく、より好ましくは5~45重量%、さらに好ましくは8~40重量%である。(a’)成分が上記比率であれば、水に対する耐性、ひび割れ防止性、遮水性等を確保しつつ、耐汚染性等を高めることができる。このような(a’)成分は、そのアルキル部分が、直鎖状または分枝状のアルキル基(環状を除く)であって、主鎖(最も長い炭素直鎖)の炭素数が4以上である。
(a’)成分は、アルキル部分に炭素数4以上のアルキル主鎖を有する。(a’)成分のアルキル部分は、このようなアルキル主鎖を有する限り、種々の側鎖(例えば、アルキル主鎖よりも少ない炭素数のアルキル基等)を有するものであってもよい。(a’)成分としては、上述の(a)成分のうち、このような条件を満たすものが挙げられ、例えば、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-メチルブチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸3-メチルブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸2-メチルペンチル、(メタ)アクリル酸4-メチルペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸n-ウンデシル、(メタ)アクリル酸n-ラウリル等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。
ポリオール化合物としてアクリルポリオールを含む場合、アクリルポリオールは、固形分換算にて、ポリオール化合物中に30重量%以上含まれることが望ましく、50重量%以上含まれることがより望ましく、70重量%以上含まれることがさらに望ましい。本発明では、ポリオール化合物としてアクリルポリオールのみを用いることもできる。
含フッ素ポリオールは、フッ素原子と水酸基を有するポリオール化合物である。含フッ素ポリオールの使用により、太陽光や水に対する耐性等を高めることができ、変色、ひび割れ等の劣化抑制、美観性保持等の効果向上の点で好適である。このような含フッ素ポリオールは、例えば、フルオロオレフィン類、フルオロアルキル基含有アクリル系モノマー等のフッ素含有モノマーと、水酸基含有モノマーと、必要に応じてその他のモノマーとを共重合することにより得ることができる。
このうち、フルオロオレフィン類としては、例えば、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロピレン、2,2,3,3-テトラフルオロプロピレン、1,1,2-トリフルオロプロピレン、3,3,3-トリフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、1-クロロ-1,2-ジフルオロエチレン、1,1-ジクロロ-2,2-ジフルオロエチレン等が挙げられる。フルオロアルキル基含有アクリル系単量体としては、例えば、パーフルオロメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロイソノニルメチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。
水酸基含有モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシペンチルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル;エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、トリエチレングリコールモノアリルエーテル等のヒドロキシアリルエーテル;上述と同様の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。
ポリオール化合物として含フッ素ポリオールを含む場合、含フッ素ポリオールのみを含む態様であってもよいし、アクリルポリオールと含フッ素ポリオールとを含む態様であってもよい。このうち、アクリルポリオールと含フッ素ポリオールとを含む態様では、太陽光や水への耐性をいっそう高めることができ、さらに長期にわたり十分な密着性等を確保することができ、本発明の効果向上化の点で好適である。この場合、アクリルポリオールは、固形分換算にて、ポリオール化合物中に30~99重量%含まれることが望ましく、50~97重量%以上含まれることがより望ましく、70~95重量%含まれることがさらに望ましい。含フッ素ポリオールは、固形分換算にて、ポリオール化合物中に1~70重量%含まれることが望ましく、3~50重量%含まれることがより望ましく、5~30重量%含まれることがさらに望ましい。
本発明における被覆材では、ポリイソシアネート化合物として、脂肪族ポリイソシアネート化合物及び脂環族ポリイソシアネート化合物から選ばれる1種以上を使用する。ポリイソシアネート化合物は、1分子中に2以上のイソシアネート基を有するものであり、上記ポリオール化合物と架橋反応して新設被膜を形成するものである。
脂肪族ポリイソシアネート化合物とは、脂肪族ジイソシアネート及びその誘導体の総称である。脂肪族ジイソシアネートとしては、飽和脂肪族基を有するジイソシアネート化合物が使用でき、例えば、1,4-ジイソシアナトブタン、1,5-ジイソシアナトペンタン、1,6-ジイソシアナトヘキサン、1,6-ジイソシアナト-2,2,4-トリメチルヘキサン、2,6-ジイソシアナトヘキサン酸メチル等が挙げられる。脂肪族ジイソシアネート誘導体は、脂肪族ジイソシアネートを反応(例えば、ウレタン化反応、アロファネート化反応、イソシアヌレート化反応等)させて得られる化合物である。脂肪族ジイソシアネート誘導体は、例えば、脂肪族ジイソシアネート、モノアルコール、ポリオール等の反応により得ることができる。
脂環族ポリイソシアネート化合物とは、脂環族ジイソシアネート及びその誘導体の総称である。脂環族ジイソシアネートとしては、環状脂肪族基を有するジイソシアネート化合物が使用でき、例えば、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4-ジイソシアナトシクロヘキサン等が挙げられる。脂環族ジイソシアネート誘導体は、脂環族ジイソシアネートを反応(例えば、ウレタン化反応、アロファネート化反応、イソシアヌレート化反応等)させて得られる化合物である。脂環族ジイソシアネート誘導体は、例えば、脂環族ジイソシアネート、モノアルコール、ポリオール等の反応により得ることができる。
本発明におけるポリイソシアネート化合物としては、脂肪族ジイソシアネート誘導体及び脂環族ジイソシアネート誘導体から選ばれる1種以上が好適である。さらに、このようなポリイソシアネート化合物としては、アロファネート基を有するもの、アロファネート基及びイソシアヌレート基を有するもの等が好適である。
本発明におけるポリイソシアネート化合物は、その数平均官能基数が2~3であることが望ましく、2.05~2.6であることがより望ましく、2.1~2.5であることがさらに望ましい。このようなポリイソシアネート化合物の使用により、太陽光や水に対する耐性、ひび割れ防止性、さらには耐汚染性等を高めることができ、本発明の効果向上化を図ることができる。
本発明におけるポリイソシアネート化合物の数平均官能基数は、以下の式で求められる値である。なお、下記式中、ポリイソシアネートの数平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)によって測定される値である。NCO含有率は、ポリイソシアネート化合物中のNCO基の割合を質量%で表したものである。式中の42は、NCO基の分子量である。
<式>数平均官能基数=(数平均分子量×NCO含有量(%)/100)/42
ポリイソシアネート化合物の混合比率は、ポリオール化合物の水酸基に対する、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基の当量比、すなわちNCO/OH比を考慮して設定すればよい。NCO/OH比は、好ましくは0.6~1.4、より好ましくは0.8~1.2である。このような比率であれば、本発明の効果を十分に得ることができる。
本発明における被覆材は、可視光透過性を有する被膜を形成するものである。これにより、透明性を有する被膜を形成することができ、既存被膜面の色調(多色模様等)を活かした仕上りを得ることが可能となる。この可視光透過性は、既存被膜面が視認できる程度であればよく、被膜は無色透明、着色透明のいずれであってもよく、また艶有り、艶消し(7分艶、5分艶、3分艶等を含む)のいずれであってもよい。着色透明の被膜は、例えば、着色顔料、染料等を含む被覆材によって形成できる。艶消しの被膜は、例えば、体質顔料、艶消し剤等を含む被覆材によって形成できる。
可視光透過性の程度は、可視光透過率で示すことができる。可視光透過率は、好ましくは30%以上、より好ましくは35~100%、さらに好ましくは40~95%である。なお、可視光透過率は、膜厚30μmの被膜について、波長580nmの光の透過率を、分光光度計を用いて測定した値(被膜なし(空気)の場合を透過率100%とする)である。
このような可視光透過性を得るには、例えば、被覆材中の着色顔料比率を低く設定すればよい。被覆材中の着色顔料比率は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは0~3重量%である。被覆材が着色顔料を含まない態様も好適である。
本発明における被覆材は、紫外線透過率が30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは0~15%である被膜を形成するものである。本発明では、紫外線透過率が上記範囲内であることにより、太陽光に対する耐性等を高めることができ、変色、ひび割れ等の劣化抑制、美観性保持等の効果を得ることが可能となる。なお、紫外線透過率は、膜厚30μmの被膜について、波長350nmの光の透過率を、分光光度計を用いて測定した値(被膜なし(空気)の場合を透過率100%とする)である。
このような紫外線透過率を得る手段としては、例えば、
(1)紫外線吸収性基を有する樹脂成分を含有する被覆材を使用する。
(2)紫外線吸収剤を含有する被覆材を使用する。
(3)紫外線遮蔽性粉体を含む被覆材を使用する。
等が挙げられる。これらの手段は、単独で採用してもよいし、組み合わせて採用してもよい。
上記(1)では、例えば、樹脂構成成分中に紫外線吸収性基含有モノマーを含むポリオール化合物等を使用すればよい。この場合、ポリオール化合物中における紫外線吸収性基含有モノマーの比率は、好ましくは0.05~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%である。
上記(2)における紫外線吸収剤(重合性不飽和二重結合を有する化合物を除く)としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、マロン酸エステル系紫外線吸収剤、シュウ酸アニリド系紫外線吸収剤等が挙げられる。このうち、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-ドデシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、4-ドデシルオキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ステアリルオキシベンゾフェノン等が挙げられる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシアルキルエステル、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、メチル3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートとポリエチレングリコールの反応生成物等が挙げられる。トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2-(4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヒドロキシフェニル誘導体、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4,6-ビス-(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンと(2-エチルヘキシル)-グリシド酸エステルの反応生成物、2,4-ビス「2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル]-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3-5-トリアジン等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。紫外線吸収剤の混合比率は、樹脂成分(ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物の総量)100重量部に対し、好ましくは0.05~10重量部、より好ましくは0.1~5重量部である。
上記(3)における紫外線遮蔽性粉体としては、紫外線を吸収及び/または反射する性能を有するものが使用でき、例えば、アルミナ、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、オキシ塩化ビスマス、リン酸亜鉛、雲母、寒水石、タルク、珪藻土、白土、カオリン、クレー、陶土、バライト粉、珪砂、珪石粉、ホワイトカーボン、金属粉、有機樹脂粉体等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。紫外線遮蔽性粉体の平均粒子径は、好ましくは1~200nmである。上記(3)においては、可視光透過性が確保できる範囲内で、紫外線遮蔽性粉体の混合比率を設定することが望ましい。
本発明における被覆材は、上記成分以外に、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内において、必要に応じ、公知の添加剤、例えば、骨材、色粒、着色顔料、体質顔料、染料、艶消し剤、増粘剤、湿潤剤、凍結防止剤、造膜助剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、光安定剤、酸化防止剤、密着性付与剤、低汚染化剤、親水化剤、撥水剤、架橋剤、硬化促進剤、触媒、溶剤等を含むものであってもよい。
本発明における被覆材は、ポリオール化合物を含む主剤、ポリイソシアネート化合物を含む硬化剤からなる形態とし、塗付時(被膜形成時)にこれらを混合して用いることが望ましい。各種添加剤は、主剤、硬化剤のいずれか、または両方に適宜混合することができる。
本発明における被覆材は、伸び率20%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上である被膜を形成するものである。本発明では、伸び率が上記範囲内であることにより、水に対する耐性等を高めることができ、変色、ひび割れ等の劣化抑制、美観性保持等の効果を得ることが可能となる。伸び率の上限は、好ましくは300%以下、より好ましくは200%以下である。伸び率の上限がこのような範囲内であることにより、耐汚染性等の点で好適である。
なお、本発明における伸び率は、JIS A6909「7.26伸び試験」の「標準時の伸び試験」の方法によって測定した値(23℃時の伸び率)である。ただし、試験片としては、乾燥膜厚80μmのものを使用する。
本発明では、このような被覆材を塗付(塗装)することにより、新設被膜を形成する。被覆材としては、上述の条件を満たす1種または2種以上の被覆材が使用できる。本発明では、このような被覆材を塗り重ねることもできる。例えば、1種の被覆材を複数回塗り重ねてもよいし、2種以上の被覆材を塗り重ねてもよい。塗り重ねを行う際には、適宜インターバルを設け、被膜を乾燥させることもできる。
このような被覆材によって形成される新設被膜の膜厚(塗り重ねた場合は、塗り重ね後の合計膜厚)は、好ましくは30μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは60μm以上、特に好ましくは65μm超、最も好ましくは70μm以上である。膜厚の下限が上記範囲内であることにより、新設被膜に、太陽光や水への耐性が十分に付与され、既存被膜面に起因する変色、ひび割れ等の劣化抑制、長期にわたる美観性保持等の点で好適である。新設被膜の膜厚の上限は特に限定されないが、好ましくは300μm以下、より好ましくは250μm以下、さらに好ましくは200μm以下である。膜厚の上限が上記範囲内であれば、既存被膜面の凹凸模様等を活かした仕上りを得ることができる。なお、本発明における膜厚は、乾燥膜厚のことであり、1種または2種以上の被覆材を塗り重ねた場合は、塗り重ね後の合計乾燥膜厚である。
被覆材の塗付においては、公知の塗装器具を用いることができる。塗装器具としては、例えば、スプレー、ローラー、刷毛等を使用することができる。被覆材の塗付け量、塗り重ね数等は、最終的な膜厚が上記範囲内となるように設定することが望ましい。被覆材の塗付け量は、好ましくは0.1~0.6kg/m2、より好ましくは0.15~0.5kg/m2である。被覆材の塗り重ね数は、好ましくは1~3回である。塗装時には、被覆材を必要に応じ適宜希釈することもできる。被覆材塗付後の乾燥は、常温(好ましくは0~50℃、より好ましくは5~45℃)で行えばよく、必要に応じ加熱することもできる。
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
被覆材として、以下のものを用意した。
・被覆材1:ポリオール化合物1{アクリルポリオール(アクリル酸アルキルエステル・メタクリル酸アクリルエステル・メタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル共重合体)の分散液、樹脂構成成分中(a)成分62重量%、(a’)成分18重量%、水酸基価40KOHmg/g、固形分50重量%}、紫外線吸収剤、光安定剤、増粘剤、消泡剤、及び溶剤を含む主剤と、ポリイソシアネート化合物1{脂肪族ポリイソシアネート化合物(1,6-ジイソシアナトヘキサン誘導体)、数平均官能基数2.2、固形分100重量%}、及び溶剤を含む硬化剤との混合物(NCO/OH比1.0)。可視光透過率64%、紫外線透過率6%。伸び率120%。
・被覆材2:ポリオール化合物1(同上)、ポリオール化合物2{含フッ素ポリオールの分散液、水酸基価35KOHmg/g、固形分50重量%}、紫外線吸収剤、光安定剤、増粘剤、消泡剤、及び溶剤を含む主剤{ポリオール化合物中のアクリルポリオール比率70重量%、含フッ素ポリオール比率30重量%(固形分換算)}と、ポリイソシアネート化合物1(同上)、及び溶剤を含む硬化剤との混合物(NCO/OH比1.0)。可視光透過率65%、紫外線透過率5%。伸び率130%。
・被覆材3:ポリオール化合物3{アクリルポリオール(アクリル酸アルキルエステル・メタクリル酸アクリルエステル・メタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル共重合体)の分散液、樹脂構成成分中(a)成分62重量%、(a’)成分54重量%、水酸基価40KOHmg/g、固形分50重量%}、紫外線吸収剤、光安定剤、増粘剤、消泡剤、及び溶剤を含む主剤と、ポリイソシアネート化合物2{脂肪族ポリイソシアネート化合物(1,6-ジイソシアナトヘキサン誘導体)、数平均官能基数2.6、固形分100重量%}、及び溶剤を含む硬化剤との混合物(NCO/OH比1.0)。可視光透過率63%、紫外線透過率6%。伸び率45%。
・被覆材4:ポリオール化合物1(同上)、紫外線吸収剤、光安定剤、増粘剤、消泡剤、及び溶剤を含む主剤と、ポリイソシアネート化合物1(同上)、及び溶剤を含む硬化剤との混合物(NCO/OH比1.0)。可視光透過率66%、紫外線透過率25%。伸び率120%。なお、被覆材4では、被覆材1よりも紫外線吸収剤の混合量を減じて、紫外線透過率が上記値となるように調製した。
・被覆材5:ポリオール化合物4{アクリルポリオール(アクリル酸アルキルエステル・メタクリル酸アクリルエステル・メタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル共重合体)の分散液、樹脂構成成分中(a)成分18重量%、(a’)成分10重量%、水酸基価40KOHmg/g、固形分50重量%}、紫外線吸収剤、光安定剤、増粘剤、消泡剤、及び溶剤を含む主剤と、ポリイソシアネート化合物2(同上)、及び溶剤を含む硬化剤との混合物(NCO/OH比1.0)。可視光透過率62%、紫外線透過率5%。伸び率8%。
[試験I]
(実施例1)
既存被膜面として、屋外曝露により劣化した窯業系サイディングボート(表面にタイル調の凹凸模様を有し、凹部には黒色のアクリル系樹脂被膜、凸部には褐色のアクリル系樹脂被膜を有するもの)を用意した。この既存被膜面の全面に対し、被覆材1を乾燥膜厚が75μmとなるようにスプレー塗装し(塗り重ね数2回)、7日間乾燥養生することにより、試験体を作製した。なお、塗装ないし養生の工程は、すべて標準状態(気温23℃、相対湿度50%)下で行った。
この試験体について、促進耐候性試験機としてアイスーパーUVテスター(岩崎電気株式会社製)を用い、光照射6時間・結露2時間(計8時間)を1サイクルとして40サイクルまで促進試験を行った。この際、40サイクル終了時点での試験体表面の外観変化(ひび割れの状態)を観察するとともに、促進前後の色差を測定した。外観変化については、「A:変化なし」、「D:ひび割れが進行」とする4段階(優;A>B>C>D;劣)にて評価した。また、色差については、「A:色差1未満」、「B:色差1以上3未満」、「C:色差3以上10未満」、「D:色差10以上」として評価した。試験結果を表1に示す。
(実施例2~4)
被覆材1に代えて、それぞれ被覆材2~4を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験体を作製し、同様の試験を行った。試験結果を表1に示す。
(実施例5)
乾燥膜厚が25μmとなるように塗装した以外は、実施例1と同様の方法で試験体を作製し、同様の試験を行った。試験結果を表1に示す。
(比較例1)
被覆材1に代えて被覆材5を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験体を作製し、同様の試験を行った。試験結果を表1に示す。
[試験II]
実施例1~5の試験体について3か月間屋外曝露を行い、試験体表面の汚れ等による外観変化を観察し、汚れの程度が軽微であったものを「A」とする4段階(優;A>B>C>D;劣)で評価した。試験結果を表1に示す。
実施例1~5(特に実施例1~2)では、既存被膜面の凹凸模様や多色模様を活かしつつ、ひび割れ、変色等を抑制することができ、試験後においても美観性を保持することができた。