JP7156342B2 - 薄肉管用フェライト系ステンレス鋼板およびこれを用いてなる薄肉管 - Google Patents

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Description

本発明は、薄肉管用フェライト系ステンレス鋼板およびこれを用いてなる薄肉管に関し、特に、従来、銅管が用いられてきた用途において、銅管の代替となりうるステンレス鋼薄肉管用のフェライト系ステンレス鋼板に関する。
近年、新興国の電力インフラ需要の増大や、自動車のEV化を背景に、電線、導線用の銅の需要が増加し、銅の需給がひっ迫した状態が続いている。今後も、銅需要は増加することが予想され、銅価格高騰に対応した銅の使用量削減は重要な課題となっている。
銅特有の性能として、良好な電気伝導性がある。この特性を利用した電線、導線については、銅から他の材料への置き換えは容易ではない。一方で、ガス給湯器や電気温水器などで使用されている水や熱媒を流す配管としての銅管は、他材料、特にフェライト系ステンレス鋼への置き換えが進められている。
配管に使用される金属管には、耐食性、溶接性、ろう付け性が求められる。耐食性については、銅に対して優位となる適切なフェライト系ステンレス鋼を選定すればよいため、銅からの置き換えにあたって問題とはならない。一方で、溶接性、ろう付け性は、一般にフェライト系ステンレス鋼が劣位であるため改善が必要となる。
溶接性に優れたフェライト系ステンレス鋼としては、例えば、特許文献1において、表層20nm以内の範囲にCaが濃化している溶接性に優れたフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
ろう付け性に優れたフェライト系ステンレス鋼として、例えば、特許文献2において、Al、Ti含有量を厳しく制限したろう付け用フェライト系ステンレス鋼が開示されている。また、特許文献3には、表面皮膜の厚さとCr、Si、Alのカチオン分率を規定したろう付け性に優れたフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
しかしながら、これらのフェライト系ステンレス鋼を用いても、良好な溶接性とろう付け性を両立させることは困難であった。
特開2009-91654号公報 特開2011-157616号公報 国際公開第2014/157104号
フェライト系ステンレス鋼を用いて銅の代替を行う上で、良好な溶接性と良好なろう付け性が求められるが、上記のように従来のステンレス鋼では、溶接性とろう付け性の両立について十分ではない場合があった。
本発明は、良好な溶接性と良好なろう付け性を有し、薄肉管用として適したフェライト系ステンレス鋼板を提供することを目的とする。
フェライト系ステンレス鋼を用いて銅の代替を行う上で、良好な溶接性と良好なろう付け性が求められる。本発明では、溶接性とろう付け性の両立について鋭意検討を行った。
一般的には銅管には板厚0.8~2.0mmの銅板が用いられる。この銅管と同程度の曲げ性を得るために薄肉ステンレス管には板0.6mm程度のステンレス鋼板が用いられる。しかし、板厚の薄いステンレス鋼板を用いて管の製造を行うにあたって、造管溶接において溶け落ちによる溶接不良が発生するという問題が生じた。そこで、鋭意検討の結果、ステンレス鋼中のO濃度が0.0050%以下になると溶接の溶融池の対流が変化し、薄肉管における造管溶接でも溶接不良が発生しにくいことを見出した。すなわち、Oが0.0050%以下であるフェライト系ステンレス鋼板を用いれば、良好な溶接性の薄肉管用ステンレス鋼板がえられることを明らかにした。
続いて、Niろうによるろう付け性を検討した。本発明では、鋼中のOを極度に低減しているため、一般的にはOとの化合物として鋼中に存在している元素が固溶状態で存在しやすくなっている。その中でも特に固溶Alはろう付け処理の際に表面に酸化皮膜を形成しろう付け性を低下させるので、本発明においては、良好なろう付け性を得るために厳格な管理によるAlの低減が必要であることを見出した。鋭意検討の結果、フェライト系ステンレス鋼中のAl含有量(質量%)とO含有量(質量%)の関係が、Al<4.0×Oを満たす場合に良好なろう付け性のフェライト系ステンレス鋼板が得られることが明らかとなった。
以上の結果から、薄肉管用として好適な溶接性とろう付け性が良好なフェライト系ステンレス鋼板を発明するに至った。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]質量%で、
C:0.001~0.015%、
Si:0.01~0.80%、
Mn:0.01~0.40%、
P:0.04%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.001~0.010%、
Cr:18.0~24.0%、
Ti:0.010%以下、
Nb:0.05~0.40%、
N:0.001~0.015%、
O:0.0050%以下を含有し、かつ、以下の式(1)を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する、薄肉管用フェライト系ステンレス鋼板。
Al/O<4.0 ・・・(1)
ただし、式(1)中のAl、Oは、各元素の含有量(質量%)を示す。
[2]前記成分組成は、質量%で、さらに、
Ni:0~3.00%、
Mo:0~3.00%、
Cu:0~1.00%、
W:0~0.50%、
Co:0~0.50%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、[1]に記載の薄肉管用フェライト系ステンレス鋼板。
[3]前記成分組成は、質量%で、さらに、
V:0~0.50%、
Zr:0~0.50%、
REM:0~0.10%、
B:0~0.010%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、[1]または[2]に記載の薄肉管用フェライト系ステンレス鋼板。
[4]前記[1]~[3]のいずれかに記載の薄肉管用フェライト系ステンレス鋼板を用いてなる薄肉管。
本発明によれば、良好な溶接性と良好なろう付け性を有し、薄肉管用として適したフェライト系ステンレス鋼板を提供できる。
本発明によれば、銅の配管の代替に好適なステンレス鋼薄肉管に用いるのに好適な溶接性とろう付け性の良好なフェライト系ステンレス鋼板が得られる。
図1は、造管溶接後の溶接ビード断面における溶接ビードの垂れ(垂れ量)を説明する説明図である。
以下に本発明を詳細に説明する。なお、各元素の含有量を示す%は特に断らない限り質量%を意味する。
C:0.001~0.015%
Cは鋼に不可避的に含まれる元素である。Cの含有量が多いと強度が向上し、少ないと加工性が向上する。配管として適度な強度を得るためには0.001%以上のCの含有が適当である。一方で、0.015%を超えるCの含有は、固溶炭素の増加に加えて、Nb炭窒化物の析出による析出強化により、過度の強度上昇が起こる。本発明において良好な管の加工性を得るためには過度の強度上昇は好ましくないため、0.015%以下のCの含有が適当である。よって、C含有量は0.001~0.015%とした。C含有量は、好ましくは0.002%以上である。また、C含有量は、好ましくは0.010%以下である。
Si:0.01~0.80%
Siは脱酸に有用な元素である。本発明においては鋼中の酸素低減のための重要な元素である。その効果は0.01%以上のSiの含有で得られる。一方で、過剰のSiの含有は、ろう付け処理中にステンレス鋼表面に酸化皮膜を形成し、ろうの広がりを阻害して、ろう付け性を低下させる。Si含有量を0.80%以下とすることで、ろう付け性の低下を抑制しやすくなる。よって、Si含有量は、0.01~0.80%とした。Si含有量は、好ましくは0.10%以上である。また、Si含有量は、好ましくは0.60%以下である。
Mn:0.01~0.40%
Mnは、鋼に不可避的に含まれる元素であり、強度を上昇させる。配管として適度な強度を得るためには、0.01%以上のMnの含有が適当である。一方で、0.40%を超える過剰なMnの含有は、固溶強化による過剰な強度上昇を招き、本発明の良好な管の加工性を得ることが困難となる。よって、Mn含有量は、0.01~0.40%とした。Mn含有量は、好ましくは0.02%以上である。また、Mn含有量は、好ましくは0.20%以下である。
P:0.04%以下
Pは、鋼に不可避的に含まれる元素であり、ステンレス鋼の耐食性を低下させる元素である。よって、Pの含有量は、少ないほど好ましく、0.04%以下とした。P含有量は、好ましくは0.03%以下である。下限については特に限定されるものではないが、過度の脱Pは製造コストの増加を招くので、P含有量の下限は0.01%程度とすることが好適である。
S:0.01%以下
Sは、鋼に不可避的に含まれる元素であるが、0.01%超の含有はCaSやMnSなどの水溶性硫化物の形成が促進され耐食性を低下させる。よって、S含有量は、0.01%以下とした。下限については特に限定されるものではないが、過度の脱Sは製造コストの増加を招くので、S含有量の下限は0.001%程度とすることが好適である。
Al:0.001~0.010%
Alは、脱酸に有用な元素であり、本発明においては鋼中の酸素濃度を低減するための重要な元素である。その効果は、Alの含有量が0.001%以上で得られる。一方で、Alの含有量が0.010%を超えるとろう付け処理の際に表面に酸化皮膜を形成しやすくなり、ろう付け性が低下する。よって、Al含有量は、0.001~0.010%とした。Al含有量は、好ましくは0.005%以下である。
Cr:18.0~24.0%
Crは、ステンレス鋼の耐食性を決定付ける重要な元素である。銅相当の耐食性を得るために18.0%以上のCrの含有が必要である。一方で、過剰のCrの含有は、加工性を低下させるため、24.0%以下のCrの含有が適当である。よって、Cr含有量は、18.0~24.0%とした。Cr含有量は、好ましくは19.0%以上である。また、Cr含有量は、好ましくは23.0%以下である。
Ti:0.010%以下
Tiは、ろう付け処理の際にステンレス鋼表面に酸化物を形成し、ろう付け性を低下させる元素である。0.010%を超えるTiの含有はろう付け性の低下が顕著となる。よって、Ti含有量は0.010%以下とした。Ti含有量は、好ましくは0.008%以下である。このようにTi含有量の上限を規制するためには、Tiを原料として添加しないだけでは不十分で、溶解原料のTi含有量を厳しく規制する必要がある。溶解原料としてスクラップを用いる場合は、Tiを含有しないスクラップを用いることが好ましい。さらに、出鋼する際の炉の状態を厳しく管理する必要がある。炉内(炉壁)にTi酸化物が残留していると、溶鋼の組成によっては前記Ti酸化物が還元され、溶鋼中に0.010%超のTiが不可避的に含まれてしまう場合がある。炉壁のTi酸化物は、Ti含有鋼(鋼中のTi含有量がおおよそ0.1%以上の鋼)を出鋼する際に生成する。そのため、本発明の成分組成を有する鋼(本発明鋼)を出鋼する際は、Ti含有鋼を出鋼したことが無い炉を使用するか、またはその直前にTiを含有しない鋼(鋼中のTi含有量が0.1%未満の鋼)を出鋼した後に出鋼する必要がある。本発明鋼の出鋼のために毎回新しい炉を使用することは工業上現実的ではないため、本発明鋼の出鋼の直前にはTi含有鋼を出鋼しないこととする。直前の出鋼がTi含有鋼でなければ、鋼中に取り込まれるTi量を0.010%以下に規制することが出来る。よって、Tiを含有しない鋼を出鋼した後に、本発明鋼を出鋼することとする。好ましくは二回以上Tiを含有しない鋼を出鋼した後に、本発明鋼を出鋼する。
Nb:0.05~0.40%
Nbは、C、Nと優先的に結合してCr炭窒化物の析出による耐食性の低下を抑制する元素である。その効果は0.05%以上のNbの含有で得られる。一方で、過剰のNbの含有は固溶強化による強度の上昇に加えて、微細なNb炭窒化物の析出による析出強化を引き起こしさらなる強度上昇を招く。0.40%超えのNbの含有で強度の上昇は顕著となるため、Nbの含有量は0.40%以下が適切である。よって、Nb含有量は、0.05~0.40%とした。Nb含有量は、好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは0.15%以上である。また、Nb含有量は、好ましくは0.35%以下であり、より好ましくは、0.30%以下である。
N:0.001~0.015%
Nは、Cと同様に固溶強化により鋼の強度を上昇させる効果がある。その効果はNの含有量が0.001%以上で得られる。一方で、0.015%を超えるNの含有は、固溶窒素の増加に加えて、Nb炭窒化物の析出による析出強化により、過度の強度上昇が起こる。本発明において良好な管の加工性を得るためには過度の強度上昇は好ましくないため、0.015%以下のNの含有が適当である。よって、N含有量は、0.001~0.015%とした。N含有量は、好ましくは0.002%以上である。また、N含有量は、好ましくは0.010%以下である。
O:0.0050%以下
O(酸素)は、溶接の際の溶融池の対流方向に影響を与え、溶接溶け込み性を変化させる元素である。本発明においては、板厚0.6mm以下の造管溶接において、Oの含有量を0.0050%以下とすると、溶接溶け落ちが抑制されることを見出した。これは、溶融池表面の対流方向が外向きに変化したことで深さ方向への溶け込みが抑制されたためと考えられる。よって、O含有量は、0.0050%以下とした。O含有量は、好ましくは0.0040%以下であり、より好ましくは0.0030%以下である。O含有量を低減することで、造管溶接後の管内面での溶接ビードの垂れをより低減でき、良好な溶接部が得られ、より良好な溶接性が得られる。また、過剰のOの低減は脱酸時間増加により製造が困難となるため、O含有量は0.0005%以上が好ましい。
Al/O<4.0 ・・・(1)
本発明においては薄肉配管の造管溶接性を確保するため、Oを極度に低減している。そのため、鋼中のAlの存在状態としては、一般的なステンレス鋼と比較して酸化物のAlが少なく、固溶Alが多くなっている。固溶Alはろう付け処理の際に表面に酸化皮膜を形成し、ろう付け性を低下させるため、通常であればろう付けに影響を与えない含有量までAlを低減してもろう付け性が不適である場合があった。検討の結果、Oの含有量(質量%)に対するAlの含有量(質量%)の比が4.0未満、すなわちAl/O<4.0の場合に良好なろう付け性が得られることを見出した。よって、Al/O<4.0とした。より好ましくは、Al/O<3.0である。
なお、上記式(1)および不等式中のAl、Oは、それぞれAlの含有量(質量%)、Oの含有量(質量%)を示す。
本発明の薄肉管用フェライト系ステンレス鋼板(以下、単に、本発明のフェライト系ステンレス鋼板ともいう。)は、上記成分を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することが好ましい。
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、上記成分に加えて、さらに、Ni、Mo、Cu、W、Coのうちから選ばれる1種または2種以上を、それぞれ下記の範囲で含有することができる。
Ni:0~3.00%
Niは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素であり、不動態皮膜が形成できず活性溶解が起こる腐食環境において腐食の進行を抑制する元素である。しかし、3.00%超のNiの含有では、応力腐食割れが発生するため配管には適さない。よって、Niを含有する場合、Ni含有量は0~3.00%とした。Ni含有量は、好ましくは、0.10%以上である。また、Ni含有量は、好ましくは2.00%以下である。
Mo:0~3.00%
Moは、不動態皮膜の再不動態化を促進し、ステンレス鋼の耐食性を向上する元素である。しかし、Moの含有量が3.00%を超えると強度が増加し、加工性が低下する。よって、Moを含有する場合、Mo含有量は0~3.00%とした。Mo含有量は、好ましくは0.10%以上である。また、Mo含有量は、好ましくは2.00%以下である。
Cu:0~1.00%
Cuは、腐食の発生後に腐食個所に析出し、腐食の進展を抑制する元素である。一方で、1.00%を超えるCuの含有は金属Cuの介在物が鋼中に生成し、腐食起点となって発銹性を低下させる。よって、Cuを含有する場合、Cu含有量は0~1.00%とした。Cu含有量は、好ましくは0.10%以上である。また、Cu含有量は、好ましくは0.80%以下である。
W:0~0.50%
Wは、Moと同様に耐食性を向上する効果がある。しかし、0.50%を超える過剰のWの含有は強度を上昇させ、加工性を低下させる。よって、Wを含有する場合、W含有量は0~0.50%とした。W含有量は、好ましくは0.10%以上である。また、W含有量は、好ましくは0.40%以下である。
Co:0~0.50%
Coは、靭性を向上させる元素である。しかし、0.50%を超えてCoを含有させると加工性が低下する。よって、Coを含有する場合、Co含有量は0~0.50%とした。Co含有量は、好ましくは0.01%以上である。また、Co含有量は、好ましくは0.20%以下である。
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、上記成分に加えて、さらに、V、Zr、REM、Bのうちから選ばれる1種または2種以上を、それぞれ下記の範囲で含有することができる。
V:0~0.50%
Vは、VNを形成することでCr窒化物の析出による耐食性の低下を抑制する元素である。しかし、0.50%を超える過剰なVの含有は、加工性が低下する。よって、Vを含有する場合、V含有量は0~0.50%とした。V含有量は、好ましくは0.01%以上である。また、V含有量は、好ましくは0.30%以下である。
Zr:0~0.50%
Zrは、C、Nと結合して、鋭敏化を抑制する効果がある。しかし、0.50%を超える過剰のZrの含有は加工性を低下させるうえ、非常に高価な元素であるためコストの増大を招く。よって、Zrを含有する場合、Zr含有量は0~0.50%とした。Zr含有量は、好ましくは0.10%以上である。また、Zr含有量は0.30%以下である。
REM:0~0.10%
REM(希土類金属:Rare Earth Metals)は耐酸化性を向上する元素である。しかし、0.10%を超える過剰のREMの含有は酸洗性などの製造性を低下させるうえ、コストの増大を招く。よって、REMを含有する場合、REM含有量は0~0.10%とした。REM含有量は、好ましくは0.01%以上である。また、REM含有量は、好ましくは0.02%以下である。
B:0~0.010%
Bは二次加工脆性を改善する元素である。しかし、0.010%を超える過剰のBの含有は、固溶強化による加工性低下を引き起こす。よって、Bを含有する場合、B含有量は0~0.010%とした。B含有量は、好ましくは0.001%以上である。また、B含有量は、好ましくは0.008%以下である。
本発明のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法は常法に従えばよいが、以下に好適な製造方法の一例を示す。
本発明のフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、基本的に通常のフェライト系ステンレス鋼の製造方法であれば好適に用いることができ、特に限定されるものではない。例えば、転炉または電気炉等公知の溶解炉で鋼を溶製し、あるいはさらに取鍋精錬または真空精錬等の二次精錬を経て上述した本発明の成分組成を有する鋼とし、連続鋳造法あるいは造塊-分塊圧延法で鋼片(鋼スラブ)とする。このとき、スクラップを使用する場合はTiを含有しないものを選ぶことが好ましい。さらに、精錬を行う炉は新しく炉壁を張り替えたもの、または一回以上Tiを含有しない鋼(Ti含有量:0.1%未満)を出鋼した後の炉を使用する。さらに、O含有量を本発明の範囲に規制するために、VOD法あるいはAOD法により二次精錬を行うことが好ましい。
次に、上述した本発明の成分組成を有する鋼スラブを、熱間圧延して熱延板とし、該熱延板に必要に応じて熱延板焼鈍、酸洗を施す。その後、該熱延板に冷間圧延を施しフェライト系ステンレス鋼冷延板とする。一例として、上記成分組成のステンレス鋼スラブを1100~1300℃に加熱後、板厚2.0~10.0mmになるように熱間圧延を施す。こうして作製した熱間圧延鋼帯(熱延板)を900~1100℃の温度で熱延板焼鈍し酸洗を行い、スケールを除去する。その後、板厚0.1~0.6mmになるように冷間圧延を行い、900~1100℃の温度で冷延板焼鈍を行う。冷延板焼鈍後には酸洗を行い、スケールを除去する。これら製造工程の中間、および、最後にはショットブラストやベンディングによる脱スケール処理、グラインダや研磨ベルトによる研削・研磨処理、スキンパス圧延を行ってもよい。また、冷延板焼鈍を光輝焼鈍とすることもできる。光輝焼鈍とした場合は酸洗を省略することができる。
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、良好な溶接性と良好なろう付け性を有し、特に薄肉管用として適する。本発明のフェライト系ステンレス鋼板の板厚は、0.6mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましい。また、本発明のフェライト系ステンレス鋼板の板厚は、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。本発明のフェライト系ステンレス鋼板によれば、板厚0.6mm以下の造管溶接においても溶け落ちによる溶接不良が抑制され良好な溶接性が得られる。
また、本発明のフェライト系ステンレス鋼板の引張強さ(TS)は、360MPa以上であることが好ましい。また、TSは、720MPa以下であることが好ましい。伸び(El)は20%以上であることが好ましい。なお、引張強度、伸びは、JIS Z 2241に準拠して測定できる。
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、適宜、造管、溶接、ろう付け等の加工が施されて薄肉管とされる。本発明のフェライト系ステンレス鋼板を用いてなる薄肉管の肉厚は、一例として、0.6mm以下である。本発明の薄肉管は、銅管が用いられてきた用途において銅管の代替として好適に用いられ得る。
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
表1に示す成分組成のステンレス鋼を実験室において真空溶製し、分解圧延によって板厚30mmのシートバーとした。作製したシートバーを1200℃に加熱したのち、熱間圧延によって板厚3.0mmの熱延板とした。熱延板は1050℃の温度で、均熱時間60sの条件で熱延板焼鈍した。その後、冷間圧延により板厚0.5mmの冷延板とし、焼鈍温度1000℃の温度で、均熱時間60sの条件で冷延板焼鈍した後、中性塩電解、硝弗酸浸漬によりスケールを除去し供試材とした。
(溶接性評価)
供試材から長さ800mm、直径22mmのパイプを造管した。造管溶接はTIG溶接で行った。溶接条件は、溶接速度800mm/min、溶接電流80Aとし、パイプ内面、外面のいずれもArガスでシールドした。なお、後掲の表1に示すNo.21では、O(酸素)含有量が本発明の範囲外であったため、溶け落ちが発生し、造管できなかった(溶接性評価結果:×)。No.21以外の鋼種については、いずれも造管が可能であり、良好な溶接性が得られた。さらに、No.21以外の鋼種について、造管溶接後の溶接ビード断面を観察したところ、No.4、19の鋼種では、パイプ内面方向に0.05mm以上の溶接ビードの垂れ量が観察された(溶接性評価結果:〇)。なお、前記溶接ビードの垂れ量は、図1に示すように、溶接ビード断面の内面側端部を結んだ直線(直線L)からのパイプ内面方向への溶接ビードの垂れの最大長さである。No.4、19以外の鋼種については、パイプ内面方向に0.05mm以上の溶接ビードの垂れ量が観察されず、溶接ビードの垂れがより低減されたより良好な溶接部が得られた(溶接性評価結果:◎)。この溶接性評価において、溶接性評価結果×を不合格とし、溶接性評価結果〇を合格(溶接性に優れる)、◎を合格(溶接性に特に優れる)と評価した。
(ろう付け性評価)
供試材から50×50mmの試験片を採取し、JIS Z 3191に準拠したろうのぬれ広がり試験を行った。試験片を水平に置き、試験片の表面中央部にNiろうBNi-1(JIS Z 3265)を0.1g設置し、真空炉でろう付け熱処理を行った。前記真空炉の真空度は10-2Pa、加熱温度は1100℃、均熱時間は10minとした。ろうのろう付け後の直径dとろう付け前の直径dを測定し、その比(d/d)×100をろう広がり率(%)とした。ろう広がり率が130%以上を良好なろう付け性を有する(ろう付け性評価合格)と判断し、それ以外をろう付け性評価不合格と判断した。
Figure 0007156342000001
上述したように、O(酸素)含有量が本発明の範囲から外れるNo.21では、溶け落ちが発生し、造管できなかった(溶接性評価結果:×)。また、Al含有量が本発明の範囲から外れるNo.19、Ti含有量が本発明の範囲から外れるNo.20、Al/O<4.0を満たさないNo.22、No.23では、ろう広がり率が130%未満となり、良好なろう付け性が得られなかった。
以上の結果から、本発明によれば、良好な溶接性と良好なろう付け性を両立し、薄肉管用として適したフェライト系ステンレス鋼板が得られることが確認された。本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、良好な溶接性と良好なろう付け性を有し、銅の配管の代替に好適なステンレス鋼薄肉管に用いるのに好適である。
本発明によれば、銅配管の代替として、ガス給湯器、電気温水器、エアコンなどの銅配管が用いられる用途に用いることができる薄肉管用のフェライト系ステンレス鋼板が得られる。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.001~0.015%、
    Si:0.01~0.80%、
    Mn:0.01~0.40%、
    P:0.04%以下、
    S:0.01%以下、
    Al:0.001~0.010%、
    Cr:18.0~24.0%、
    Ti:0.010%以下、
    Nb:0.05~0.40%、
    N:0.001~0.015%、
    O:0.0050%以下を含有し、かつ、以下の式(1)を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する、薄肉管用フェライト系ステンレス鋼板。
    Al/O<4.0 ・・・(1)
    ただし、式(1)中のAl、Oは、各元素の含有量(質量%)を示す。
  2. 前記成分組成は、質量%で、さらに、
    Ni:0~3.00%、
    Mo:0~3.00%、
    Cu:0~1.00%、
    W:0~0.50%、
    Co:0~0.50%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の薄肉管用フェライト系ステンレス鋼板。
  3. 前記成分組成は、質量%で、さらに、
    V:0~0.50%、
    Zr:0~0.50%、
    REM:0~0.10%、
    B:0~0.010%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1または2に記載の薄肉管用フェライト系ステンレス鋼板。
  4. 請求項1~3のいずれかに記載の薄肉管用フェライト系ステンレス鋼板を用いてなる薄肉管。
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