JP2012167336A - 高強度鋼管用鋼板及び高強度鋼管 - Google Patents

高強度鋼管用鋼板及び高強度鋼管 Download PDF

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Abstract

【課題】優れた耐HIC性を有する高強度鋼管用鋼板及び高強度鋼管を提供する。
【解決手段】本発明による高強度鋼管は、質量%で、C:0.020〜0.070%、Si:0.05〜0.50%、Mn:1.10〜1.60%、P:0.008%以下、S:0.0006%以下、Cu:0.05〜0.50%、Cr:0.05〜0.50%、Ni:0.05〜1.00%、Mo0.50%以下、Nb:0.005〜0.080%、V:0.005〜0.080%、Ti:0.005〜0.030%、N:0.0015〜0.0070%、Al:0.005〜0.060%及びCa:0.0005〜0.0060%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たす。
0.6<Cu+Cr+Ni+Mo<1.5 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
【選択図】図1

Description

本発明は、高強度鋼管用鋼板及び高強度鋼管に関し、さらに詳しくは、耐水素誘起割れ性に優れた高強度鋼管用鋼板及び高強度鋼管に関する。
近年生産される原油や天然ガスは、湿潤な硫化水素(HS)を含む。掘削された原油や天然ガスを搬送するパイプラインでは、硫化水素は、水素誘起割れ(Hydrogen Induced Cracking:以下、HICと称する)の起因となる。そのため、パイプライン用鋼管は、耐HIC性を要求される。
HICの発生要因は以下のとおり推定される。硫化水素を含む環境にパイプラインが配置された場合、イオン化された水素がパイプラインを構成する鋼管の鋼中に侵入する。侵入した水素は、鋼中のMnS等の介在物にトラップされ、水素分子になる。イオン化された水素が水素分子になるときに、ガス圧が発生する。ガス圧により、鋼中に高応力が発生し、HICが発生する。
耐HIC性に優れた鋼材を製造する技術は、たとえば、特開昭54−110119号公報(特許文献1)、特開昭61−60866号公報(特許文献2)、特開平9−57410号公報(特許文献3)、特開平6−220577号公報(特許文献4)、特開平9−209037号公報(特許文献5)及び特開2003−226922号公報(特許文献6)に開示されている。
特許文献1は、溶鋼に、Caと共にCeを含有する製造方法を開示する。これにより、鋼中のMnS系介在物が球状化され、耐HIC性が向上すると記載されている。
特許文献2は、Niと、Cr及び/又はMoとを含有するラインパイプ用鋼材を開示する。これにより、鋼中への水素の侵入が抑制され、耐HIC性が向上すると記載されている。
特許文献3は、連続鋳造で鋳片を製造するとき、凝固完了点手前近傍で圧下ロールにより鋳片を20mm以上圧下する製造方法を開示する。これにより、HICの発生原因となる中心偏析が減少すると記載されている。
特許文献4は、鋼中の平均Mn含有量に対する偏析部のMn含有量の比を1.20以下にする高張力鋼板の製造方法を開示する。これにより、耐HIC性が向上すると記載されている。
特許文献5は、鋼中のCu含有量を0.05%以下とし、適量のNi及びMoを鋼に含有する製造方法を開示する。これにより、水素の鋼中への侵入を抑制し、耐HIC性が向上すると記載されている。
特許文献6は、鋼をフェライト組織にして、かつ、Cに対するMo、Ti、Nb及びV含有量を適正化する製造方法を開示する。フェライト組織により、耐HIC性が向上し、Mo、Ti、Nb及びVにより高強度が得られると記載されている。
特開昭54−110119号公報 特開昭61−60866号公報 特開平9−57410号公報 特開平6−220577号公報 特開平9−209037号公報 特開2003−226922号公報
しかしながら、上述の特許文献に開示された技術では、高強度を有し、かつ、優れた耐HIC性を有する高強度鋼管が得られない場合がある。たとえば、鋼中のC含有量及びMn含有量を低減し、C偏析やMn偏析を抑制すれば、ある程度の耐HIC性は得られるものの、高い強度が得られにくい。
つまり、上述の技術では、高強度、及び、優れた耐HIC性を有し、さらには厚肉の鋼管を製造することは困難である。
本発明の目的は、優れた耐HIC性を有する高強度鋼管用鋼板及び高強度鋼管を提供することである。
課題を解決するための手段及び発明の効果
本発明による高強度鋼管用鋼板は、質量%で、C:0.020〜0.070%、Si:0.05〜0.50%、Mn:1.10〜1.60%、P:0.008%以下、S:0.0006%以下、Cu:0.05〜0.50%、Cr:0.05〜0.50%、Ni:0.05〜1.00%、Mo0.50%以下、Nb:0.005〜0.080%、V:0.005〜0.080%、Ti:0.005〜0.030%、N:0.0015〜0.0070%、Al:0.005〜0.060%及びCa:0.0005〜0.0060%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たす。
0.6<Cu+Cr+Ni+Mo<1.5 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
本発明による高強度鋼管用鋼板は、優れた耐HIC性を有する。
本発明による高強度鋼管は、管状に成形された上述の高強度鋼管用鋼板である母材と、溶接金属とを備える。溶接金属は、質量%で、C:0.010〜0.150%、Si:0.02〜0.60%、Mn:0.60〜3.00%、Ni:0.10〜2.00%、Ti:0.003〜0.030%及びAl:0.004〜0.080%を含有する。溶接金属の腐食電位は、母材に対して貴である。
この場合、溶接金属の腐食が抑制され、溶接金属の耐HIC性が向上する。
好ましくは、母材の肉厚は30.00mm以上であり、母材の周方向の引張強度は、570MPa以上である。
この場合、高強度鋼管は、厚肉であるにも関わらず、優れた耐HIC性を有する。
図1は、P含有量と割れ面積率との関係を示す図である。 図2は、S含有量と割れ面積率との関係を示す図である。 図3は、本実施の形態による高強度鋼管の溶接金属と母材とのNi含有量差と、溶接金属と母材との腐食電位差との関係を示す図である。
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。以下、元素の含有量の「%」は、質量%を意味する。
[本実施の形態による高強度鋼管用鋼板及び高強度鋼管の概要]
本発明者らは、鋼管が耐HIC性を有するとともに厚肉にするためには、C及びMnの含有量を低減してC及びMnの偏析を抑制するだけでなく、P及びSの含有量も低減してP及びSの偏析も抑制すべきと考えた。
図1は、鋼中のP含有量と割れ面積率CARとの関係を示す図であり、図2は、鋼中のS含有量と割れ面積率CARとの関係を示す図である。割れ面積率CAR(%)は、式(A)により定義される。一般的に、割れ面積率CARが小さいほど、耐HIC性に優れる。
割れ面積率CAR=試験片に発生したHICの面積/試験片の面積 (A)
図1は、以下の試験方法により得られた。P含有量以外の化学組成が、上述の本発明の高強度鋼管用鋼板の化学組成の範囲内であり、P含有量を変化させた複数の供試材を溶製した。各供試材のP含有量以外の化学組成は、ほぼ同じであった。
各供試材を用いて、後述の製造方法により鋼板を製造した。各鋼板から、厚さ10mm、幅20mm、長さ100mmの試験片を採取した。採取された試験片を用いて、HIC試験を実施した。pHが4.0で5%の食塩水を含有し、HS分圧が0.01×10Pa(残部は窒素)の気体で飽和させた、25℃の酢酸水溶液を試験液として準備した。準備された試験液に試験片を96時間浸漬した。浸漬後、各試験片中に発生したHICを超音波探傷法により測定し、式(A)に基づいて割れ面積率CARを求めた。なお、式(A)中の試験片の面積は20mm×100mmとした。各試験片のP含有量と、式(A)により得られた割れ面積率CARとをグラフにプロットし、図1を得た。
図2は、以下の試験方法により得られた。S含有量以外の化学組成が本発明の高強度鋼管用鋼板の化学組成の範囲内であり、S含有量を変化させた複数の供試材を溶製した。各供試材のS含有量以外の化学組成は、ほぼ同じであった。各供試材を用いて、図1と同じ条件で鋼板を製造し、試験片を採取した。そして、試験片のHIC試験を実施した。各試験片のS含有量と、式(A)により得られた割れ面積率CARとをグラフにプロットし、図2を得た。
図1及び図2中の横軸は、それぞれP含有量(%)、S含有量(%)を示す。縦軸は割れ面積率CAR(%)を示す。
図1を参照して、P含有量が低下するに従い、割れ面積率CARは顕著に低下した。より具体的には、P含有量が0.008%に低下するまで、P含有量の低下に伴い、割れ面積率CARは顕著に低下した。一方、P含有量が0.008%以下になったとき、割れ面積率CARは、P含有量の低下と共に低下して5.0%以下となるものの、その低下の度合いはそれほど大きくなかった。要するに、図1中の曲線C1は、P含有量=0.008%近傍に変曲点を有した。
同様に、図2を参照して、S含有量が0.0006%に低下するまで、割れ面積率CARは顕著に低下した。そして、S含有量が0.0006%以下になったとき、割れ面積率CARは、5.0%以下になった。つまり、図2中の曲線C2は、S含有量=0.0006%近傍に変曲点を有した。
以上より、P含有量を0.008%以下とし、S含有量を0.0006%以下とすれば、耐HIC性が顕著に向上することが判明した。P含有量及びS含有量を上記範囲まで低減することにより、P及びSの偏析が顕著に抑制されるためである。したがって、本発明者らは、P含有量を0.008%以下として、かつ、S含有量を0.0006%以下とすれば、製造工程中において偏析を生じやすい厚肉の鋼管であっても、優れた耐HIC性を示すと考えた。
本発明者らはさらに、鋼管の周方向の引張強度をAPI規格のX70グレード以上(570MPa以上)にするために、C及びMn以外であって耐HIC性に影響の少ない元素で、鋼の強度を上げるべきと考えた。検討した結果、本発明者らは、式(1)を満たせば、鋼管の周方向の引張強度が570MPa以上となり、かつ、優れた耐HIC性が得られ、しかも、鋼管の肉厚が30.00mm以上であっても、上述の高強度及び優れた耐HIC性が得られることを見出した。
0.6<Cu+Cr+Ni+Mo<1.5 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
本発明者らは、以上の知見に基づいて、本発明による高強度鋼管用鋼板及び高強度鋼管を完成させた。以下、本発明による高強度鋼管用鋼板及び高強度鋼管の詳細を説明する。
[高強度鋼管用鋼板の化学組成]
本発明による高強度鋼管用鋼板は、以下の化学組成を有する。上述のとおり、元素に関する%は、質量%を意味する。
C:0.020〜0.070%
炭素(C)は鋼の強度を高める。C含有量が0.020%以上であれば、パイプライン用鋼管として必要な強度が得られる。一方、Cが過剰に含有されれば、連続鋳造により製造された鋳片の厚み中心部に、マクロ偏析が形成されやすくなる。マクロ偏析は、HICの発生起点となる。したがって、C含有量は、0.020〜0.070%である。好ましいC含有量は、0.020%を超え、0.070%未満である。C含有量のさらに好ましい下限は0.030%であり、さらに好ましくは、0.040%である。C含有量のさらに好ましい上限は、0.065%であり、さらに好ましくは、0.060%である。
Si:0.05〜0.50%
シリコン(Si)は鋼を脱酸する。Siはさらに、鋼の強度を高める。一方、Siが過剰に含有されれば、縞状マルテンサイトが生成し、HAZ靭性が低下する。さらに、Siが過剰に含有されれば、TiNが生成しやすくなる。TiNが生成されると、TiNを核として、Nb炭窒化物が生成されやすくなる。つまり、Siが過剰に含有されれば、耐HIC性が低下する。したがって、Si含有量は、0.05〜0.50%である。好ましいSi含有量は、0.05%を超え、0.50%未満である。Si含有量のさらに好ましい下限は、0.010%である。Si含有量のさらに好ましい上限は、0.40%である。
Mn:1.10〜1.60%
Mnは鋼の強度を高める。一方、Mnが過剰に含有されれば、鋳造時に、Mnが鋼の中心偏析部で濃化しやすく、鋼の耐HIC性を低下する。したがって、Mn含有量は、1.10〜1.60%である。好ましいMn含有量は、1.10%を超え、1.60%未満である。Mn含有量のさらに好ましい下限は、1.15%であり、さらに好ましくは、1.20%である。Mn含有量のさらに好ましい上限は、1.50%であり、さらに好ましくは1.40%である。
P:0.008%以下
燐(P)は不純物である。鋼が凝固するとき、固溶界面におけるPの分配係数は小さい。そのため、Pは鋼の中心偏析部で濃化しやすく、耐HIC性を低下する。つまり、Pの偏析により、鋼の耐HIC性が低下する。そのため、Pの含有量はなるべく低い方が好ましい。したがって、P含有量は、0.008%以下である。好ましいP含有量は0.008%未満であり、さらに好ましくは、0.007%以下であり、さらに好ましくは、0.006%以下であり、さらに好ましくは、0.005%以下である。
S:0.0006%以下
硫黄(S)は不純物である。Sは、Pと同様に、鋼の中心偏析部に濃化しやすい。Sはさらに、鋼の中心偏析部でMnSを形成する。MnSは、HICの発生起点となる。そのため、S含有量はなるべく低い方が好ましい。したがって、S含有量は、0.0006%以下である。好ましいS含有量は、0.0006%未満であり、さらに好ましくは、0.0005%以下であり、さらに好ましくは、0.0004%以下である。
Cu:0.05〜0.50%
銅(Cu)は、鋼の焼入れ性を向上し、鋼の強度を高める。一方、Cuが過剰に含有されれば、鋼の熱間加工性や被削性が低下する。Cuが過剰に含有されればさらに、連続鋳造時において、鋳片の表面が割れやすくなる。したがって、Cu含有量は、0.05〜0.50%である。好ましいCu含有量は、0.05%を超え、0.50%未満である。Cu含有量のさらに好ましい下限は、0.10%であり、さらに好ましくは、0.15%である。Cu含有量のさらに好ましい上限は、0.45%であり、さらに好ましくは、0.40%である。
Cr:0.05〜0.50%
クロム(Cr)は、鋼の強度を大幅に高める。Crはさらに、鋼の靭性を高める。一方、Crが過剰に含有されれば、溶接性が低下し、溶接割れが発生しやすくなる。したがって、Cr含有量は、0.05〜0.50%である。好ましいCr含有量は、0.05%を超え、0.50%未満である。好ましいCr含有量の下限は、0.10%であり、さらに好ましくは、0.15%である。鋼の溶接性の低下を抑制する場合、Cr含有量の好ましい上限は、0.45%であり、さらに好ましくは0.40%である。
Ni:0.05〜1.00%
ニッケル(Ni)は、固溶強化により鋼の強度を高める。Niはさらに、鋼の靭性を高める。一方、Niが過剰に含有されれば、その効果は飽和し、さらに過剰に含有されれば、鋼の溶接性が低下する。したがって、Ni含有量は、0.05〜1.00%である。好ましいNi含有量は、0.05%を超え、1.00%未満である。Ni含有量の好ましい下限は、0.10%であり、さらに好ましくは、0.15%である。Ni含有量の好ましい上限は、0.80%であり、さらに好ましくは、0.60%である。
Mo:0.50%以下
モリブデン(Mo)は、選択元素である。Moは、鋼の焼入れ性を向上し、鋼の強度を高める。さらに、Moのミクロ偏析は生じにくいため、Moは、中心偏析に起因するHICの発生を抑制する。一方、Moは高価であるため、製造コストを増大させる。したがって、Mo含有量は、0.50%以下である。好ましいMo含有量は、0.50%未満である。Mo含有量の好ましい下限は、0.02%である。Mo含有量のさらに好ましい上限は、0.30%以下である。
Nb:0.005〜0.080%
ニオブ(Nb)は、鋼中で炭窒化物を形成する。Nb炭窒化物は、鋼の強度及び靭性を高める。Nbは特に、鋼板のミクロ組織を制御する。一方、Nbが過剰に含有されれば、Nb炭窒化物が粗大化して、耐HIC性が低下する。したがって、Nb含有量は、0.005〜0.080%である。好ましいNb含有量は、0.005%を超え、0.080%未満である。Nb含有量のさらに好ましい下限は、0.010%であり、さらに好ましくは、0.020%である。Nb含有量のさらに好ましい上限は、0.060%であり、さらに好ましくは、0.050%である。
V:0.005〜0.080%
バナジウム(V)は、鋼中に固溶したり、炭窒化物を形成したりすることにより、鋼の強度を高める。一方、Vが過剰に含有されれば、溶接熱影響部でV炭窒化物が粗大化し、鋼の靭性が低下する。したがって、V含有量は、0.005〜0.080%である。好ましいV含有量は、0.005%を超え、0.080%未満である。V含有量のさらに好ましい下限は、0.010%であり、さらに好ましくは、0.020%である。V含有量のさらに好ましい上限は、0.060%であり、さらに好ましくは、0.050%である。
Ti:0.005〜0.030%
チタン(Ti)は、鋼の強度を高める。Tiはさらに、窒素(N)と結合してTiNを形成する。TiNは、NbNやAlNの生成を抑制する。NbNやAlNは、連続鋳造時においてγ粒界に動的析出し、鋳片の表面割れを引き起こすので、Tiは、NbN及びAlNによる鋳片の表面割れも抑制する。一方、Tiが過剰に含有されれば、溶接靭性が低下する。さらに、Tiが過剰に含有され、過剰にTiNが生成されれば、TiNが核となり、粗大なNb炭窒化物が生成される。粗大なNb炭窒化物は、耐HIC性を低下する。さらに、過剰にTiが含有されると、過剰なTi炭窒化物が形成される。Ti炭窒化物も、Nb炭窒化物と同様に、耐HIC性を低下する。したがって、Ti含有量は、0.005〜0.030%である。好ましいTi含有量は、0.005%を超え、0.030%未満である。Ti含有量のさらに好ましい下限は、0.008%である。Ti含有量のさらに好ましい上限は、0.025%である。
N:0.0015〜0.0070%
窒素(N)は、転炉等を用いて大気中で溶製する場合、鋼中に不可避的に含有される。NはAlやTi等と結合し、窒化物を形成する。これらの窒化物は、熱間加工工程において、結晶粒を微細化する。一方、Nが過剰に含有されれば、粗大なNb窒化物、Nb炭窒化物が形成され、耐HIC性が低下する。Nが過剰に含有されればさらに、上述のとおり、連続鋳造時において、Nb窒化物やAl窒化物がγ粒界に過剰に動的析出し、鋳片表面割れを引き起こす。したがって、N含有量は、0.0015〜0.0070%である。好ましいN含有量は、0.0015%を超え、0.0070%未満である。N含有量のさらに好ましい下限は、0.0020%であり、さらに好ましくは、0.0025%である。N含有量のさらに好ましい上限は、0.0050%であり、さらに好ましくは、0.0040%である。
Al:0.005〜0.060%
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。Alはさらに、鋳造時における鋼中のCa含有量の歩留まりを高め、鋼の耐HIC性を向上する。Al含有量が少なすぎれば、鋼が十分に脱酸されず、鋼中のCaの歩留まりが低下する。鋼中のCa含有量の歩留まりが低下すれば、硫化物が生成しやすくなり、又は、Sの偏析が生じやすくなる。硫化物やS偏析は、耐HIC性を低下する。一方、Alが過剰に含有されれば、脱酸により生成されるアルミナが過剰に生成され、HICの起点となる。したがって、Al含有量は、0.005〜0.060%である。好ましいAl含有量は、0.005%を超え、0.060%未満である。Al含有量のさらに好ましい下限は、0.010%であり、さらに好ましくは、0.015%である。Al含有量のさらの好ましい上限は、0.050%であり、さらに好ましくは、0.045%である。
なお、本実施の形態におけるAl含有量とは、sol.Al(酸可溶Al)の含有量を意味する。
Ca:0.0005%〜0.0060%
カルシウム(Ca)は、HICの発生起点となるMnSの形態を球状に制御し、HICの発生を抑制する。Caはさらに、CaSを形成し、MnSの生成を抑制する。一方、Caが過剰に含有されれば、その効果は飽和し、製造コストが増加する。したがって、Ca含有量は、0.0005%〜0.0060%である。好ましいCa含有量は、0.0005%を超え、0.0060%未満である。Ca含有量のさらに好ましい下限は、0.0010%である。Ca含有量のさらに好ましい上限は、0.0040%である。
本実施の形態による高強度鋼管の化学組成の残部はFe及び不純物からなる。ここでいう不純物は、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップ、あるいは製造過程の環境等から混入される元素をいう。
本実施の形態による高強度鋼管の化学組成はさらに、式(1)を満たす。
0.6<Cu+Cr+Ni+Mo<1.5 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
F1=Cu+Cr+Ni+Moと定義する。F1値が0.6%以下であれば、鋼板を管状とした鋼管の周方向の降伏強度が570MPa未満になる。一方、F1値が1.5%以上となれば、鋼板の強度が過剰に高くなり、その結果、耐HIC性が低下する。
F1値が式(1)を満たせば、鋼管の肉厚が30mm以上であっても、鋼管の周方向の降伏強度は570MPa以上になる。さらに、Cu、Cr、Ni及びMoの耐HIC性への影響は、他の合金元素と比較して小さいため、優れた耐HIC性が得られる。
[高強度用鋼板の組織]
本発明による高強度鋼管用鋼板の組織は、ベイニティックフェライト単相である。ここでいう単相とは、ベイニティックフェライトと、介在物や析出物とを含有する。本発明による高強度鋼管用鋼板の組織は、マルテンサイト等の低温変態組織を含有しない。そのため、CやMn、P及びS等の中心偏析の発生が抑制される。
[高強度鋼管]
本発明による高強度鋼管は溶接管である。高強度鋼管は、管状に成形された上述の高強度鋼管用鋼板である母材と、溶接部とを備える。溶接部は鋼管長手方向に延びる直線状であってもよいし、鋼管に対してスパイラル状であってもよい。溶接部は、熱影響部(HAZ)と溶接金属とを含む。要するに、本発明による高強度鋼管は、母材と、溶接金属とを備える。以下、溶接金属について詳述する。
[溶接金属の化学組成]
高強度鋼管の溶接金属の化学組成は、以下の元素を含有する。
C:0.010〜0.150%
炭素(C)は、溶接金属の強度を高める。一方、Cが過剰に含有されれば、溶接金属の靭性が低下する。したがって、C含有量は、0.010〜0.150%である。
Si:0.02〜0.60%
シリコン(Si)は、溶接金属を脱酸する。Si含有量が少なすぎれば、溶接金属に空気が混入し、欠陥を形成する。一方、Siが過剰に含有されれば、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Si含有量は、0.02〜0.60%である。
Mn:0.60〜3.00%
マンガン(Mn)は、溶接金属の強度と靭性とを高める。Mnはさらに、フェライトの析出核となる複合酸化物を形成する。Mnが複合酸化物を形成すると、フェライトが形成され、鋼の靭性が高める。一方、Mnが過剰に含有されれば、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Mn含有量は、0.60〜3.00%である。
Ni:0.10〜2.00%
ニッケル(Ni)は、溶接金属の強度と靭性とを高める。一方、Niが過剰に含有されれば、鋼の溶接性が低下する。したがって、Ni含有量は、0.10〜2.00%である。好ましくは、溶接金属のNi含有量は、母材のNi含有量よりも高い。さらに好ましくは、溶接金属のNi含有量は、母材のNi含有量よりも0.2%以上高い。この場合、溶接金属の腐食電位が母材の腐食電位よりも高くなる。そのため、溶接金属の腐食が抑制される。
Ti:0.003〜0.030%
チタン(Ti)は、溶接金属の靭性を高める。具体的には、Tiは複合酸化物を形成する。複合酸化物は、フェライトの析出核となる。Tiにより複合酸化物が形成されると、フェライトが形成され、溶接金属の靭性が高まる。一方、Tiが過剰に含有されれば、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Ti含有量は、0.003〜0.030%である。
Al:0.004〜0.080%
アルミニウム(Al)は、Tiと同様に、複合酸化物を形成する。そのため、Alは溶接金属の靭性を高める。一方、Alが過剰に含有されれば、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Al含有量は、0.004〜0.080%である。
溶接金属の化学組成の残部はFe及び不純物である。
溶接金属の化学組成はさらに、上述の元素以外の元素を含有してもよい。たとえば、母材である上述の高強度鋼管用鋼板の化学組成に含まれる元素を、上述の範囲内で含有してもよい。溶接金属の化学組成はまた、ボロン(B)を適量含有してもよい。
さらに、溶接金属の腐食電位は、母材(高強度鋼管用鋼板)に対して貴である。溶接鋼管において、溶接金属の表面積は、母材の表面積よりも顕著に小さい。一般的に、互いに電気的に接触した異なる種類の金属同士が、同一の腐食環境で腐食されるとき、表面積が小さい方が、より腐食(ガルバニック腐食)される。したがって、溶接鋼管において、溶接金属は、母材よりも腐食されやすい。
溶接金属の腐食電位が、母材に対して貴である場合、つまり、溶接金属の腐食電位が母材の腐食電位よりも高い場合、溶接金属は腐食されにくい。好ましくは、溶接金属の腐食電位は、母材の腐食電位よりも0.005V以上高い。この場合、溶接金属は腐食されにくく、その結果、溶接金属の耐HIC性が向上する。
図3は、溶接金属のNi含有量と母材のNi含有量との差分と、溶接金属の腐食電位と母材の腐食電位との差分との関係を示す図である。図3は、以下の方法により得られた。
本発明の高強度鋼管用鋼板の化学組成を満たす母材を準備した。さらに、本発明の溶接金属の化学組成を満たし、かつ、Ni含有量のみが異なる3種類の溶接部材を準備した。母材及び溶接部材からそれぞれ、試験片を採取した。採取した試験片を用いて、腐食電位を測定した。具体的には、試験浴槽、ポテンショスタット、対極電極、基準電極を備えた周知の電解装置を使用した。試験浴槽内に試験片を浸漬して、各試験片の腐食電位を測定した。測定された3種類の溶接部材の電位と、母材の電位とに基づいて、図3のグラフを得た。
図3を参照して、溶接金属のNi含有量が母材のNi含有量よりも0.2%以上高ければ、溶接金属の腐食電位は、母材の腐食電位よりも0.005V以上になり、母材に対して十分に貴となった。したがって、一例としては、溶接部材のNi含有量が母材のNi含有量よりも0.2%以上高ければ、溶接金属のガルバニック腐食を抑制でき、溶接金属の耐HIC性が向上する。
本例では、溶接金属のNi含有量を母材のNi含有量よりも高くして、溶接金属を母材に対して貴とした。しかしながら、Ni以外の他の合金元素の含有量を高くして、溶接金属を母材に対して貴としてもよい。本例でNiを採用した理由は、Niは、溶接金属の靭性及び耐HIC性を損なうことなく、溶接金属を貴とできるためである。
[製造方法]
本実施の形態による高強度鋼管用鋼板及び高強度鋼管の製造方法について説明する。上述した本発明の高強度鋼管用鋼板の化学組成を満たす溶鋼を連続鋳造法により鋳片にする(連続鋳造工程)。製造された鋳片を圧延して高強度鋼管用鋼板にする(圧延工程)。高強度鋼管用鋼板を製管して高強度鋼管にする(製管工程)。以下、それぞれの工程について詳細に説明する。
[連続鋳造工程]
周知の方法により精錬された溶鋼を連続鋳造法により鋳片(スラブ)にする。このとき、連続鋳造中のスラブ内の未凝固溶鋼を電磁攪拌し、かつ、最終凝固位置近傍でスラブを圧下してもよい。この場合、P偏析度及びS偏析度が、より低減される。
[圧延工程]
連続鋳造工程で製造されたスラブを加熱炉で加熱する(加熱工程)。加熱されたスラブを圧延機で圧延して鋼板にする(加工工程)。圧延後の鋼板を直ちに冷却する(冷却工程)。冷却後、必要に応じて焼き戻しを実施する(焼き戻し工程)。以下に示す加熱工程、加工工程、冷却工程及び焼き戻し工程に基づいて圧延工程を実施すれば、高強度鋼管用鋼板は上述の組織を有する。
[加熱工程]
加熱炉でのスラブの加熱温度は1000〜1250℃にする。加熱温度が高すぎれば、オーステナイト粒が粗大化するため、結晶粒を微細化できない。一方、加熱温度が低すぎれば、圧延中の結晶粒の微細化及び圧延後の析出強化に寄与するNbを固溶できない。つまり、加熱温度を1000〜1250℃にすることで、オーステナイト粒の粗大化を抑制し、かつ、Nbを固溶させることができる。
好ましくは、加熱温度T(℃)は、以下の式(2)を満たす。
6770/(2.26−log(Nb×C))−73>T≧6770/(2.26−log(Nb×C))−273 (2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
この場合、鋼中のNbが固溶しやすい。
スラブに対してソーキング(均熱)を実施してもよい。好ましい均熱温度は1000〜1300℃であり、均熱時間は20〜50時間である。この場合、C、Mn、P、S等の偏析が抑制される。
[加工工程]
圧延中の素材温度はオーステナイト未再結晶温度域とする。オーステナイト未再結晶温度域とは、圧延等の加工により導入された高密度の転位が界面の移動を伴いながら急激に消失する温度域であり、具体的には、Ar3点−60℃〜Ar3点の温度域である。
r3点は、以下の式(3)で定義される。
r3=910−310×C−80×Mn−20×Cu−15×Cr−55×Ni−80×Mo+0.35−(t−8) (3)
ここで、式(3)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。また、記号tには、最終圧延完了後の鋼板の厚さ(mm)が代入される。
圧延率(%)は特に限定されない。一般的に圧延率は50%以上である。圧延率は以下の式(4)で定義される。
圧延率={スラブの断面積(厚さ×幅)}/{最終圧延完了後の鋼板の断面積(厚さ×幅)}×100 (4)
[冷却工程]
最終圧延完了後、速やかに鋼板を冷却する。つまり、加速冷却を実施する。圧延後の冷却速度は、10〜50℃/secとするのが好ましい。冷却速度が遅すぎれば、鋼板の組織が、ベイニティックフェライト単相になりにくい。一方、冷却速度が速すぎれば、表面硬さが過剰に高くなる。冷却方法はたとえば水冷である。
鋼板温度が400〜600℃になったとき、上記冷却速度での冷却を停止し、その後は放冷するのが好ましい。放冷時の焼き戻し効果により靭性がより向上し、水素性欠陥の発生を抑制できるからである。
[焼き戻し工程]
冷却後、必要に応じてAc1点未満で焼き戻しを実施する。たとえば、表面硬さや靭性を調整する必要がある場合、焼き戻しを実施する。なお、焼き戻しは必須の処理ではないため、焼き戻し処理を実施しなくてもよい。
[製管工程]
上述の圧延工程により製造された鋼板をUプレス、Oプレス等により成形しオープンパイプにする。続いて、オープンパイプの長手方向の両端面をサブマージアーク溶接法等の周知の溶接法により、上述の溶接金属を含む溶接部を形成する。以上の工程により溶接鋼管である高強度鋼管が製造される。溶接部が形成された高強度鋼管に対して焼き入れを実施し、必要に応じて焼き戻しを実施する。
上述の製管工程以外の方法により高強度鋼管を製造してもよい。たとえば、鋼板をスパイラル状に成形し、溶接してもよい。
表1に示す溶鋼を連続鋳造してスラブを製造した。
Figure 2012167336
表1中のF1値(%)は、F1=Cu+Cr+Ni+Moを示す。試験番号1〜3の鋼の化学組成は、本発明の範囲内であり、かつ、F1値が式(1)を満たした。一方、試験番号4及び5の鋼の化学組成は、本発明の範囲内であったものの、F1値が式(1)の下限未満であった。
試験番号6〜11の鋼は、化学組成内の何れかの元素の含有量が、本発明の範囲外であった。具体的には、試験番号6の鋼では、C含有量及びP含有量が本発明の上限を超えた。またCu含有量及びNi含有量が本発明の下限未満であった。試験番号7の鋼では、Mn含有量が本発明の上限を超えた。さらに、Cr含有量が本発明の下限未満であった。試験番号8の鋼では、P含有量及びS含有量が本発明の上限を超えた。さらに、Cr含有量及びCa含有量が本発明の下限未満であった。試験番号9の鋼では、Mn含有量が本発明の下限未満であった。試験番号10の鋼では、P含有量が本発明の上限を超えた。試験番号11では、S含有量が本発明の上限を超えた。
試験番号12の鋼の化学組成は、本発明の化学組成の範囲内であった。しかしながら、F1値が式(1)の上限を超えた。
製造された各試験番号のスラブの厚さは250〜300mmであり、幅は1300〜2300mmであった。各試験番号の鋳造速度は、0.6〜1.0m/minであった。
製造されたスラブを1200℃の加熱炉内で300分加熱した。加熱後、スラブを熱間圧延して鋼板を製造した。圧延率は、70%以上であった。
圧延後、直ちに水冷を実施し、10〜40℃/secの冷却速度で鋼板を冷却した。鋼板の温度が400〜600℃になったとき、上記冷却速度での冷却を停止し、その後は常温になるまで放冷した。
製造された鋼板を管状に成形した。サブマージアーク溶接法により、溶接金属を含む溶接部を形成し、溶接溶鋼管(以下、単に鋼管という)を製造した。本実施例では、溶接部は鋼管の軸方向に直線状に延在した。各試験番号の鋼管の溶接部の溶接金属の化学組成は、いずれも、本発明の範囲内であった。表2に、試験番号1、2及び6の溶接金属の化学組成を示す。
Figure 2012167336
表2に示すとおり、各試験番号の溶接金属の化学組成のうち、C、Si、Mn、Ni、Ti及びAlはいずれも、本発明の溶接金属の化学組成の範囲内であった。各試験番号の溶接金属の化学組成はさらに、P、S、Cu、Cr、Mo、Nb、V、N、B及びCaを含有し、残部はFe及び不純物であった。上述のとおり、試験番号1、2及び6以外の他の試験番号の溶接金属の化学組成も、本発明の範囲内であった。
製造された各試験番号の鋼管の肉厚を測定した。具体的には、鋼管の軸方向から見て、溶接部の両脇位置と、溶接金属から鋼管の中心軸まわりで180℃回転した位置との3箇所で、肉厚を測定した。測定された肉厚の平均を、その試験番号の鋼管の肉厚WT(mm)と定義した。各試験番号の肉厚WTを表1に示す。なお、鋼管の肉厚は、母材である高強度鋼管用鋼板の厚さに相当した。
[強度試験]
JISZ2201に準拠した引張試験片を、製造された鋼管から採取した。引張試験片は、鋼管の肉厚中央部から鋼管軸方向と垂直な方向(鋼管の周方向)に採取した。得られた引張試験片を用いて、常温で引張試験を実施し、鋼管周方向の引張強度(MPa)を測定した。
[P偏析度及びS偏析度]
各試験番号の鋼管のP偏析度を以下の方法で求めた。鋼管の横断面(鋼管軸方向と垂直方向の断面)から、鋼管の肉厚中央部を含むサンプルを採取した。採取されたサンプルに対してマクロエッチを実施し、肉厚中心部の偏析線を確認した。偏析線内の任意の5箇所でEPMAによる線分析を実施し、5箇所のPの偏析ピーク値の算術平均値をP(t/2)と定義した。
次に、鋼管の横断面から、肉厚1/4部分(鋼管外面から内面に向かって肉厚の1/4の地点)を含むサンプルを採取した。採取されたサンプルに対して、JISG0321に準拠した製品分析を実施して、P濃度を求めた。求めたP濃度は、鋼管のうち、実質的に偏析のない部分のP濃度に相当した。求めたP濃度をP(t/4)と定義した。
得られたP(t/2)、P(t/4)を利用して、式(5)により、P偏析度を求めた。
P偏析度=P(t/2)/P(t/4) (5)
同様の方法により、各試験番号の鋼管の肉厚中央部のS濃度値であるS(t/2)と、肉厚の1/4部分のS濃度値であるS(t/4)とを求めた。そして、式(6)によりS偏析度を求めた。
S偏析度=S(t/2)/S(t/4) (6)
[HIC試験]
各試験番号の鋼管から試験片(厚さ10mm、幅20mm、長さ100mm)を採取した。採取された試験片を用いてHIC試験を行った。pHが4.0で5%の食塩水を含有し、HS分圧が0.01×10Pa(残部は窒素)の気体で飽和させた、25℃の酢酸水溶液を試験液として準備した。準備された試験液に試験片を96時間浸漬した。試験後の各試験片に発生したHICの面積を超音波探傷法により測定し、式(A)より割れ面積率CARを求めた。なお、式(A)中の試験片の面積は20mm×100mmとした。
[試験結果]
表1中の試験結果を示す。表1中の「偏析度」欄に、P偏析度及びS偏析度を示す。「引張強度」欄に、引張強度(MPa)を示す。「CAR」欄に、HIC試験により得られた割れ面積率CAR(%)を示す。
表1を参照して、試験番号1〜3の鋼管の化学組成は本発明の範囲内であり、かつ、F1値が式(1)を満たした。そのため、試験番号1〜3の鋼管の肉厚は30.00mm以上であったものの、引張強度は570MPa以上であり、さらに、P偏析度及びS偏析度は1.15未満であり、CARはいずれも5%以下(0%)であった。
一方、試験番号4及び試験番号5の鋼管の化学組成は本発明の範囲内であったものの、F1値が式(1)の下限未満であった。試験番号4の鋼管の肉厚は30.00mm以上であったため、引張強度が570MPa未満であった。しかしながら、試験番号5の鋼管の肉厚は30.00mm未満であったため、引張強度が570MPa以上であった。
試験番号6の鋼管では、C含有量及びP含有量が本発明の上限を超えた。そのため、P偏析度が1.15以上であった。さらに、S偏析度も1.15以上であった。その結果、CARが5%を超えた。C含有量が高いため、鋼中心部にマクロ偏析部が発生し、これによりP、Sがマクロ偏析部で濃化したため、耐HIC性が低かったと推定される。
試験番号7の鋼管では、Mn含有量が本発明の上限を超えた。そのため、CARが5%を超えた。Mn偏析により耐HIC性が低かったと推定される。
試験番号8の鋼管では、P含有量及びS含有量が本発明の上限を超えた。そのため、P偏析度及びS偏析度が1.15以上であり、CARが5%を超えた。さらに、F1値が本発明の下限未満であったため、引張強度が570MPa未満であった。
試験番号9の鋼管では、Mn含有量が本発明の下限未満であった。そのため、引張強度が570MPa未満であった。
試験番号10の鋼管では、P含有量が本発明の上限を超えた。そのため、P偏析度が1.15以上であり、CARが5%を超えた。試験番号11の鋼管では、S含有量が本発明の上限を超えた。そのため、S偏析度が1.15以上であり、CARが5%を超えた。
試験番号12の鋼管の化学組成は本発明の範囲内であったものの、F1値が式(1)の上限を超えた。そのため、CARが5%を超えた。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。

Claims (3)

  1. 質量%で、C:0.020〜0.070%、Si:0.05〜0.50%、Mn:1.10〜1.60%、P:0.008%以下、S:0.0006%以下、Cu:0.05〜0.50%、Cr:0.05〜0.50%、Ni:0.05〜1.00%、Mo0.50%以下、Nb:0.005〜0.080%、V:0.005〜0.080%、Ti:0.005〜0.030%、N:0.0015〜0.0070%、Al:0.005〜0.060%及びCa:0.0005〜0.0060%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たす、高強度鋼管用鋼板。
    0.6<Cu+Cr+Ni+Mo<1.5 (1)
    ここで、式(1)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
  2. 管状に成形された請求項1に記載の高強度鋼管用鋼板である母材と、溶接金属とを備え、
    前記溶接金属は、
    質量%で、C:0.010〜0.150%、Si:0.02〜0.60%、Mn:0.60〜3.00%、Ni:0.10〜2.00%、Ti:0.003〜0.030%及びAl:0.004〜0.080%を含有し、
    前記溶接金属の腐食電位は、前記母材に対して貴である、高強度鋼管。
  3. 請求項2に記載の高強度鋼管であって、
    前記母材の肉厚は30.00mm以上であり、前記母材の周方向の引張強度は、570MPa以上である、高強度鋼管。
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