JP7147031B2 - 細胞の培養方法 - Google Patents

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Description

本発明は、細胞の培養方法、細胞支持複合体の製造方法、培養細胞および細胞支持複合体に関する。
近年、腎不全患者の腎機能を代替するバイオ人工腎臓として、中空糸膜等のポリマー膜と近位尿細管上皮細胞等の腎臓細胞(腎機能を有する細胞)をハイブリッド化したモジュールの開発が進められている。特に、バイオ人工腎臓の製造や供給、使用を考慮すると、数週間以上にわたって腎機能を維持できるバイオ人工腎臓が必要になる。
また、生体に投与された薬剤は、生体内で作用した後、近位尿細管で血液から尿中に排出される。このため、近位尿細管細胞は、薬剤の影響を受けやすく、薬剤の毒性によって損傷する可能性がある。このため、新薬開発において、近位尿細管細胞に対する候補物質の毒性や、薬物の代謝を予測するモジュールの開発は非常に有用である。上述したポリマー膜と尿細管上皮細胞のハイブリッドモジュールは、この薬物評価モジュールとしても好適に採用し得る。
バイオ人工腎臓や薬物評価モジュールを作製する上で、これらの装置に用いられる近位尿細管上皮細胞を大量に培養することが求められる。また、近位尿細管上皮細胞に限らず、近年研究開発が盛んに行われている胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞についても、大量に培養することが求められる。細胞を大量に培養する技術として、特許文献1には、細胞を含む培養液を収納する培養槽と、培養槽の底部に設けられる攪拌羽とを有する培養装置が開示されている。この培養装置は、攪拌羽の形状を工夫して細胞が受けるせん断応力(シェアストレス)を低減したスピナーフラスコである。
国際公開第2013/187359号
本発明者は、スピナーフラスコを用いた近位尿細管上皮細胞や多能性幹細胞の攪拌培養について鋭意研究を重ねた結果、これらの細胞が有する能力や性質を良好に保持した状態にある細胞を大量培養する新規な培養技術に想到した。
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、能力や性質を良好に保持する細胞の大量培養に関する技術を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明のある態様は細胞の培養方法である。当該培養方法は、培養容器に細胞が非接着の状態で細胞懸濁液の攪拌と静止とを繰り返しながら細胞を培養して、細胞の凝集体を形成する工程を含む。この態様によれば、能力や性質を良好に保持する細胞を大量培養することができる。
上記態様において、攪拌と静止との繰り返し培養の後に、細胞懸濁液を攪拌し続けながら凝集体の状態で細胞を培養する工程をさらに含んでもよい。また、静止の時間は、5分超480分未満であってもよい。また、培養容器は、細胞懸濁液を攪拌するための攪拌羽を有し、攪拌羽の回転速度は、20rpm超であってもよい。また、攪拌によって細胞に負荷されるせん断応力は、絶対値で0.3N/m以下であってもよい。また、細胞の培養期間は、5日以上14日以下であってもよい。また、凝集体を構成する細胞の数は、500個以上5000個以下であってもよい。また、凝集体の大きさは、100μm以上350μm以下であってもよい。
本発明の別の態様は、細胞支持複合体の製造方法である。当該製造方法は、ラミニン分子、基底膜マトリックス混合物、コラーゲン分子およびこれらのいずれかの断片からなる群から選択される1種以上を含むコーティング剤を基材の少なくとも一部に塗布する工程と、上記いずれかの態様の細胞の培養方法で形成された凝集体を個々の培養細胞に分離する工程と、コーティング剤を塗布した基材に培養細胞を播種し、基材上で培養細胞を培養して、培養細胞の単層構造を形成する工程と、を含む。
本発明のさらに別の態様は、培養細胞である。当該培養細胞は、培養容器に細胞が非接着の状態で細胞懸濁液の攪拌と静止とを繰り返しながら細胞を培養し、細胞の凝集体を形成することで作製される。
本発明のさらに別の態様は、細胞支持複合体である。当該細胞支持複合体は、基材と、基材の少なくとも一部を被覆する、ラミニン分子、基底膜マトリックス混合物、コラーゲン分子およびこれらのいずれかの断片からなる群から選択される1種以上を含むコーティング剤層と、コーティング剤層を介して基材に付着する上記態様の培養細胞とを備える。
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
本発明によれば、能力や性質を良好に保持する細胞の大量培養に関する技術を提供することができる。
図1(A)および図1(B)は、参考例に係る細胞支持複合体の構造を模式的に示す図である。 図2(A)~図2(C)は、実施の形態に係る培養細胞と、この培養細胞を含む細胞支持複合体の構成を模式的に示す図である。 図3(A)~図3(D)は、実施の形態に係る細胞の培養方法および細胞支持複合体の製造方法の工程図である。 図4(A)~図4(C)は、実施の形態に係る細胞の培養方法および細胞支持複合体の製造方法の工程図である。 図5(A)~図5(F)は、実施の形態に係る細胞支持複合体の採用例を模式的に示す図である。 細胞を接着培養した場合における遺伝子発現量の経時変化を示す図である。 凝集体を構成する細胞における遺伝子発現量の経時変化を示す図である。 凝集体を構成する細胞における遺伝子発現量の経時変化を示す図である。 図9(A)は、連続攪拌培養および静置浮遊培養における凝集体形成の有無を示す図である。図9(B)は、連続攪拌培養の細胞と静置浮遊培養の細胞との光学顕微鏡画像である。図9(C)は、連続攪拌培養した細胞における遺伝子発現量の経時変化を示す図である。 凝集体の連続攪拌培養によって得られた細胞における遺伝子発現量を示す図である。 種々の条件の間欠攪拌培養によって得られた細胞の光学顕微鏡画像である。 種々の条件の間欠攪拌培養における凝集体形成の有無を示す図である。 種々の静止時間で間欠攪拌培養した細胞における遺伝子発現量を示す図である。 種々の攪拌速度で攪拌培養した細胞における遺伝子発現量を示す図である。 図15(A)および図15(B)は、種々の静止時間でのヒトiPS細胞の間欠攪拌培養によって得られた細胞の光学顕微鏡画像である。
本発明者は、腎臓細胞の培養技術について考察し、以下のような認識を得た。すなわち、腎臓から酵素処理により単離された近位尿細管上皮細胞等の腎臓細胞(初代培養細胞)は、生体内環境の消失や、シャーレ上での二次元培養といった培養環境により、脱分化して機能が徐々に消失する。このため、腎臓細胞を単に培養するだけでは、生理機能が不十分な細胞が増えるだけである。脱分化した細胞を用いてバイオ人工腎臓を製造した場合、血漿中の有用成分の再吸収機能が十分に高くないものとなる可能性がある。また、脱分化した細胞を用いて薬物評価モジュールを製造した場合、高い精度で薬物動態や毒性反応を示さない可能性がある。
これに対し本発明者は、特定の培養を行うことで、脱分化した腎臓細胞の生理機能を回復させられることができ、また生理機能がより良好な状態にある腎臓細胞を大量に獲得できることを見出した。
また、腎臓から単離された近位尿細管上皮細胞は、本来の円柱状の細胞構造を維持できず、扁平形状に変化する。さらに、近位尿細管上皮細胞をシャーレや人工膜上に播種すると、単層上皮構造を消失して細胞間に隙間が生じたり、細胞が重層化したりする。このような現象が生じることで、バイオ人工腎臓において有用成分の再吸収機能が劣化し得る。また、薬物評価モジュールの精度が低下し得る。これに対し本発明者は、生理機能が回復した近位尿細管上皮細胞を用いて、基材上に安定した単層上皮構造を形成する技術を見出した。
また、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞についても、同様に特定の培養を行うことで、多分化能が良好な状態にある細胞を大量に獲得できることを見出した。実施の形態は、このような思索に基づいて案出されたものである。
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、この用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。
図1(A)および図1(B)は、参考例に係る細胞支持複合体の構造を模式的に示す図である。図1(A)には、一般的なコーティング剤を用いた場合の細胞支持複合体が図示されている。図1(B)には、コーティング剤を用いない場合の細胞支持複合体が図示されている。図1(A)に示すように、従来公知の一般的なコーティング剤102をコーティングした人工膜等の基材104に、近位尿細管上皮細胞106を播種して得られる細胞支持複合体100aでは、近位尿細管上皮細胞106が重層化したり、細胞間に隙間が空いてしまうことがあった。図1(B)に示すように、コーティング剤102を塗布していない基材104に近位尿細管上皮細胞106を播種して得られる細胞支持複合体100bにおいても同様に、近位尿細管上皮細胞106の重層化や隙間の発生があった。
近位尿細管上皮細胞106が重層化した領域では、細胞頂端膜側から細胞基底膜側への、トランスポーターを介した有用物質の移動が妨げられ得る(矢印P)。また、隣り合う近位尿細管上皮細胞106の隙間において、基材104を介した濃度依存性の物質移動が生じ得る(矢印Q)。
図2(A)~図2(C)は、実施の形態に係る培養細胞と、この培養細胞を含む細胞支持複合体の構成を模式的に示す図である。図2(A)には、水透過性を有する基材、言い換えれば水透過性が相対的に高い基材を用いた場合の細胞支持複合体が図示されている。図2(B)には、水透過性を有しない基材、言い換えれば水透過性が相対的に低い基材を用いた場合の細胞支持複合体であって、短時間経過した状態が図示されている。図2(C)には、水透過性を有しない基材を用いた場合の細胞支持複合体であって、長時間経過した状態が図示されている。
細胞支持複合体10は、基材12と、コーティング剤層14と、培養細胞16とを備える。
[基材]
基材12は、例えば人工材料で構成される。図2(A)に示すように、基材12は、水や各種イオンに対する透過性を有する。また、基材12は、糖や低分子タンパク質に対する透過性も有することが好ましい。このような基材12を備える細胞支持複合体10は、例えばバイオ人工腎臓として利用することができる。細胞頂端膜側に存在する有用物質50は、培養細胞16が備える細胞頂端膜側のトランスポーター18および細胞基底膜側のトランスポーター20と、基材12とを介して細胞支持複合体10を通過し、細胞基底膜側に移動する。
各種の物質に対する透過性を持たせるために、基材12には、例えば孔が設けられる。基材12に設けられる孔の平均孔径は、好ましくは5μm以下である。平均孔径を5μm以下とすることで、培養細胞16が基材12を通過するおそれを低減することができる。このような基材12として、例えばTranswell(Corning社:平均孔径0.4μm又は3.0μm)を用いることができる。
また、図2(B)および図2(C)に示すように、基材12は、水や各種イオンに対する透過性を有しなくてもよい。このような基材12を備える細胞支持複合体10は、例えば、薬物の代謝(培養細胞16による薬物の取込量等)や毒性を評価する薬物評価モジュールとして利用することができる。基材12には、水透過性を有しないシャーレやウェルプレート等を用いることができる。細胞頂端膜側に存在する有用物質50は、培養細胞16のトランスポーター18を介して培養細胞16の内部に取り込まれる。使用開始から短時間のうちは、培養細胞16のトランスポーター20を介した有用物質50の細胞基底膜側への移動が少ないため、図2(B)に示すように培養細胞16の層に変形は生じない。一方、長時間経過すると、トランスポーター20を介した有用物質50の移動量が増えるが、有用物質50は基材12を通過できないため、図2(C)に示すように培養細胞16の層が浮き上がってドーム22が形成される。
基材12を構成する素材としては、特に限定されないが、例えばポリスチレン、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル(PET)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレン、ポリスルホン(PSf)、ポリエーテルスルホン(PES)等が例示される。また、基材12の形態としては、特に限定されないが、例えば培養ウェルプレート、培養シャーレ、中空糸膜、Transwell、平膜等の人工膜や、微細流路チップ、中実粒子、中空粒子等が例示される。
[コーティング剤層]
コーティング剤層14は、コーティング剤で構成される層である。コーティング剤層14は、基材12の少なくとも一部を被覆する。コーティング剤層14は、基材12の表面に接着して基材12に固定される。前記「基材12の少なくとも一部」とは、例えば、平面または曲面を有する基材12の少なくとも1つの面を意味する。基材12が平板状である場合には、「基材12の少なくとも一部」は、例えば平板の少なくとも一方の主表面を意味する。基材12が円筒状である場合には、「基材12の少なくとも一部」は、例えば円筒の内側面又は外側面の少なくとも一方を意味する。
コーティング剤は、ラミニン分子、基底膜マトリックス混合物、コラーゲン分子およびこれらのいずれかの断片からなる群から選択される1種以上の接着分子を含む。コーティング剤層14がこれらの接着分子を含有することで、培養細胞16の単層構造をより確実に形成することができる。
(ラミニン分子)
ラミニン分子は、α鎖、β鎖、γ鎖をそれぞれ1本ずつ持つヘテロ三量体構造をとる。現時点では5種類のα鎖、3種類のβ鎖、3種類のγ鎖が同定されている。ラミニン分子は、これらの組合せによって少なくとも12種類のアイソフォームを形成することが知られている。本実施の形態では、ラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、ラミニン311、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511、ラミニン521およびこれらの断片のうち1つ以上から選択される。
なお、ラミニン分子には、上述したアイソフォームの1か所以上に所定の修飾基が付加された、ラミニンの改変体(改変ラミニン)も含まれる。改変体には、遺伝子組み換え体、すなわち組み換え遺伝子から得られたタンパク質に変異を導入したタンパク質や、遺伝子組み換え体の部分タンパク質、遺伝子組み換え体由来のペプチドを有するタンパク質も含まれる。
ラミニン分子のアイソフォームのうち、ラミニン311、ラミニン511およびラミニン521は、細胞間のバリア機能の指標である電気抵抗値がラミニン111よりも高いため、より好ましい。また、ラミニン511およびラミニン521は、例えばラミニン111と比較してコストが安いため、より好ましい。
コーティング剤におけるラミニン分子の濃度と、基材12に対するラミニン分子の接着量とは、細胞支持複合体10が実用期間の間その性能を維持できるように、適宜調整される。ラミニン分子の接着量は、コーティング剤におけるラミニン分子の濃度を調整することで、制御することができる。細胞支持複合体10の実用期間は、好ましくは基材12上での培養細胞16の培養開始から2週間以上であり、より好ましくは3週間以上であり、さらに好ましくは4週間以上である。
基材12に対するラミニン分子の接着量は、当業者に公知の方法を用いて測定することができる。例えば、ラミニン分子を含むコーティング剤が基材12に塗布された後、4℃にて一晩静置することでコーティング剤層14が形成される。そして、基材12に接着したラミニン分子の量が、例えば2-D Quant Kit(GE Healthcare社)を用いて定量される。
ラミニン111の場合、濃度を3.0μg/ml以上として、約0.15μg/cm以上の接着量とすることが好ましい。これにより、接着分子としての機能をより確実に発揮させることができる。また、培養細胞16の単層構造を約15日以上維持することができる。また、濃度を4.0μg/ml以上として、約0.19μg/cm以上の接着量とすることがより好ましい。これにより、培養細胞16の単層構造を28日以上維持することができる。
ラミニン211の場合、濃度を8.0μg/ml超として、約0.45μg/cm超の接着量とすることが好ましい。これにより、接着分子としての機能をより確実に発揮させることができる。また、培養細胞16の単層構造を約15日以上維持することができる。また、濃度を10μg/ml以上として、約0.52μg/cm以上の接着量とすることがより好ましい。これにより、培養細胞16の単層構造を28日以上維持することができる。
ラミニン221の場合、濃度を8.0μg/ml超として、約0.30μg/cm超の接着量とすることが好ましい。これにより、接着分子としての機能をより確実に発揮させることができる。また、培養細胞16の単層構造を約15日以上維持することができる。また、濃度を10μg/ml以上として、約0.34μg/cm以上の接着量とすることがより好ましい。これにより、培養細胞16の単層構造を18日以上維持することができる。
ラミニン311の場合、濃度を約2.5μg/ml以上として、約0.10μg/cm以上の接着量とすることが好ましい。これにより、接着分子としての機能をより確実に発揮させることができる。また、培養細胞16の単層構造を約15日以上維持することができる。また、濃度を4.0μg/ml以上として、約0.15μg/cm以上の接着量とすることがより好ましい。これにより、培養細胞16の単層構造を28日以上維持することができる。
ラミニン332の場合、濃度を8.0μg/ml以上とすることが好ましい。これにより、接着分子としての機能をより確実に発揮させることができる。また、培養細胞16の単層構造を15日以上維持することができる。また、濃度を10μg/ml以上とすることがより好ましい。これにより、培養細胞16の単層構造を18日以上維持することができる。
ラミニン421の場合、濃度を5.0μg/ml以上として、約0.50μg/cm以上の接着量とすることが好ましい。これにより、接着分子としての機能をより確実に発揮させることができる。また、培養細胞16の単層構造を15日以上維持することができる。また、濃度を6.0μg/ml以上として、約0.54μg/cm以上の接着量とすることがより好ましい。これにより、培養細胞16の単層構造を18日以上維持することができる。また、濃度を10μg/ml以上として、約0.69μg/cm以上の接着量とすることがさらに好ましい。これにより、培養細胞16の単層構造を28日以上維持することができる。
ラミニン511の場合、濃度を約8.0μg/ml超として、約0.30μg/cm超の接着量とすることが好ましい。これにより、接着分子としての機能をより確実に発揮させることができる。また、培養細胞16の単層構造を約15日以上維持することができる。また、濃度を10μg/ml以上として、約0.32μg/cm以上の接着量とすることがより好ましい。これにより、培養細胞16の単層構造を18日以上維持することができる。
ラミニン521の場合、濃度を約4.5μg/ml以上として、約0.40μg/cm以上の接着量とすることが好ましい。これにより、接着分子としての機能をより確実に発揮させることができる。また、培養細胞16の単層構造を約15日以上維持することができる。また、濃度を5.0μg/ml以上として0.44μg/cm以上の接着量とすることがより好ましい。これにより、培養細胞16の単層構造を28日以上維持することができる。
なお、各ラミニン分子の市販品の濃度を考慮すると、100μg/mlを超える濃度では処理が煩雑となり、またコストがかかる。このため各ラミニン分子の濃度は、100μg/ml以下であることが好ましい。
ラミニン分子として改変ラミニンが使用される場合、修飾基は、例えば増殖因子結合分子又は細胞接着分子である。このような改変ラミニンを用いた場合にも、改変されていないラミニン分子と同様の作用効果を奏することができる。
コーティング剤に含有させる接着因子として、ラミニン分子の断片が用いられてもよい。ラミニン分子の断片としては、例えば完全長ラミニンのうちドメインIの細胞接着部位(インテグリン結合部位)を含むE8領域の改変体(ラミニン***-E8と表記する)が例示される。このような改変体として、例えばラミニン111-E8、ラミニン211-E8、ラミニン421-E8およびラミニン521-E8が挙げられる。これらの分子量は、いずれも完全長ラミニンの1/5程度である。
ラミニン分子の断片としてラミニン511のE8領域の改変体(ラミニン511-E8)が使用される場合、市販のラミニン511-E8(iMatrix-511:株式会社ニッピ)の濃度を考慮すると、濃度を約1.4μg/ml以上約500μg/ml以下として、0.15μg/cm以上31.18μg/cm以下の接着量とするが好ましい。ラミニン511-E8の濃度を約1.4μg/ml以上とすることで、接着分子としての機能をより確実に発揮させることができる。また、ラミニン511-E8の濃度を約500μg/ml以下とすることで、コーティング剤の調製が難しくなることを回避することができる。また、これにより、培養細胞16の単層構造を28日以上維持することができる。また、濃度を約2.5μg/ml以上約50μg/ml以下として、0.21μg/cm以上6.21μg/cm以下の接着量とすることがより好ましい。
ラミニン分子の断片としては、E8領域の改変体だけでなく、細胞接着活性を有するラミニンペプチド、あるいは細胞活性部位のみをペプチド合成したものを用いることもできる。このようなラミニンペプチドとしては、例えばβ鎖のドメインIIIに由来するYIGSR含有ペプチド、β鎖のドメインIIIに由来するPDSGR含有ペプチド、β鎖のドメインIIIに由来するRYVVLPR含有ペプチド、α鎖のドメインIIIに由来するRGD含有ペプチド、γ鎖のドメインIに由来するKAFDITYVRLKF含有ペプチド、α鎖のドメインIに由来するIKVAV含有ペプチドおよびβ鎖のドメインIに由来するLRE含有ペプチド等が例示される。ラミニンペプチドの濃度は、例えば約0.5~約500μg/mlである。なお、ラミニン分子の断片の大きさは、特に制限されない。
ラミニン分子の断片を用いる場合、完全長のラミニン分子に比べて分子量が小さいため、より安定したコーティングが可能となる。また、微細領域に対してコーティングしやすくなる。また、接着分子の凝集が生じにくくなるため、コーティング斑の形成を抑制することができる。これらにより、培養細胞16の単層構造が不均一になることを抑制することができる。また、ラミニン分子の断片を用いることで、高濃度且つ高密度にて接着分子をコーティングすることができる。さらに、リコンビナントタンパク質は、分子量が小さいほど生産効率および精製効率が上昇する。このため、ラミニン分子の断片を用いることで、細胞支持複合体10の製造コストをより低下させることができる。
完全長ラミニン分子とラミニン分子の断片とはそれぞれ、複数のアイソフォームが混合されて用いられてもよい。また、完全長ラミニン分子とラミニン分子の断片とが混合されて用いられてもよい。また、異なる種類の完全長ラミニンおよび/またはラミニン分子の断片を含む複数のコーティング剤を基材12に塗布して、含有するラミニン種の異なる複数のコーティング剤層14が積層されてもよい。
(基底膜マトリックス混合物)
基底膜マトリックス混合物は、マウス肉腫から抽出された細胞外マトリックスタンパク質の混合物である。基底膜マトリックス混合物は、ラミニンと、コラーゲンIVと、エンタクチンとを主な構成成分として含む。基底膜マトリックス混合物としては、Matrigel(登録商標:Corning社)が例示される。
Matrigelとは、細胞外マトリックスタンパク質を豊富に含むEngelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫から抽出された、可溶性の基底膜マトリックスをいう。本実施の形態において、Matrigelには、成長因子を含む通常のMatrigelに加えて、このMatrigelと比べて成長因子が低減されたMatrigel(Growth Factor Reduced Matrigel Matrix)も含まれる。以下では適宜、通常のMatrigelを第1Matrigelと称し、成長因子が低減されたMatrigelを第2Matrigelと称する。第1Matrigelおよび第2Matrigelは、例えばCorning社から入手することができる。第1Matrigelは、ラミニンを約56%、コラーゲンIVを約31%、エンタクチンを約8%含む。一方、第2Matrigelは、ラミニンを約61%、コラーゲンIVを約30%、エンタクチンを約7%含む。
また、基底膜マトリックス混合物としては、ラミニンと、コラーゲンIVと、エンタクチンとが約56~約61:約30~約31:約7~約8の質量比にて混合された混合物を用いることもできる。
コーティング剤における基底膜マトリックス混合物の濃度と、基材12に対する基底膜マトリックス混合物の接着量とは、細胞支持複合体10が実用期間の間その性能を維持できるように、適宜調整される。基底膜マトリックス混合物の接着量は、コーティング剤における基底膜マトリックス混合物の濃度を調整することで、制御することができる。
第1Matrigelの場合、濃度を0μg/ml超3000μg/ml以下として、0μg/cm超約34.85μg/cm以下の接着量とすることが好ましい。第1Matrigelの濃度を3000μg/ml以下とすることで、第1Matrigelがゲル化して培養細胞16が凝集化するおそれを低減することができる。また、濃度を5.0μg/ml以上2000μg/ml以下として、約0.5μg/cm以上約25μg/cm以下の接着量とすることがより好ましい。また、濃度を5.0μg/ml以上1000μg/ml以下として、約0.5μg/cm以上約16.04μg/cm以下の接着量とすることがさらに好ましい。これにより、培養細胞16の単層構造を28日以上維持することができる。
第2Matrigelの場合、濃度を20μg/ml超1000μg/ml以下として、1.36μg/cm超30.6μg/cm以下の接着量とすることが好ましい。第2Matrigelの濃度を20μg/ml超とすることで、接着分子としての機能をより確実に発揮させることができる。また、第2Matrigelの濃度を1000μg/ml以下とすることで、第2Matrigelがゲル化して培養細胞16が凝集化するおそれを低減することができる。また、濃度を40μg/ml以上1000μg/ml以下として、3.15μg/cm以上30.6μg/cm以下の接着量とすることがより好ましい。これにより、培養細胞16の単層構造を28日以上維持することができる。
コーティング剤に含有させる接着因子として、基底膜マトリックス混合物の断片が用いられてもよい。基底膜マトリックス混合物の断片とは、ラミニンの断片、コラーゲンIVの断片およびエンタクチンの断片の少なくとも1つが混合されたものを意味する。また、基底膜マトリックス混合物の完全体と断片とはそれぞれ、複数種が混合されて用いられてもよい。また、完全体と断片とが混合されて用いられてもよい。また、異なる種類の完全体および/または断片を含む複数のコーティング剤を基材12に塗布して、含有する混合物種の異なる複数のコーティング剤層14が積層されてもよい。
(コラーゲン分子)
コラーゲン分子としては、コラーゲンIおよびコラーゲンIV等が例示される。これらは、例えば新田ゼラチン株式会社から入手することができる。コーティング剤におけるコラーゲン分子の濃度と、基材12に対するコラーゲン分子の接着量とは、細胞支持複合体10が実用期間の間その性能を維持できるように、適宜調整される。コラーゲン分子の接着量は、コーティング剤におけるコラーゲン分子の濃度を調整することで、制御することができる。
コラーゲンIの場合、濃度を750μg/ml超3000μg/ml以下として、約50μg/cm超138μg/cm以下の接着量とすることが好ましい。コラーゲンIの濃度を750μg/ml超とすることで、接着分子としての機能をより確実に発揮させることができる。また、コラーゲンIの濃度を3000μg/ml以下とすることで、コラーゲンIの高い粘性に起因してコーティング剤の均一な塗布が困難になることをより確実に回避することができる。また、これにより、培養細胞16の単層構造を15日以上維持することができる。また、濃度を1000μg/ml以上3000μg/ml以下として、65.4μg/cm以上138μg/cm以下の接着量とすることがより好ましい。これにより、培養細胞16の単層構造を28日以上維持することができる。
コラーゲンIVの場合、濃度を500μg/ml超3000μg/ml以下として、19.2μg/cm超121μg/cm以下の接着量とすることが好ましい。コラーゲンIVの濃度を500μg/ml超とすることで、接着分子としての機能をより確実に発揮させることができる。また、コラーゲンIVの濃度を3000μg/ml以下とすることで、コラーゲンIVの高い粘性に起因してコーティング剤の均一な塗布が困難になることをより確実に回避することができる。また、これにより、培養細胞16の単層構造を15日以上維持することができる。また、濃度を750μg/ml以上3000μg/ml以下として、約25μg/cm以上121μg/cm以下の接着量とすることがより好ましい。これにより、培養細胞16の単層構造を28日以上維持することができる。
コーティング剤に含有させる接着因子として、コラーゲン分子の断片が用いられてもよい。また、コラーゲン分子の完全体と断片とはそれぞれ、複数種が混合されて用いられてもよい。また、完全体と断片とが混合されて用いられてもよい。また、異なる種類の完全体および/または断片を含む複数のコーティング剤を基材12に塗布して、含有するコラーゲン種の異なる複数のコーティング剤層14が積層されてもよい。
上述したラミニン分子、基底膜マトリックス混合物、コラーゲン分子およびこれらの断片は、それぞれ単独で、又は2種以上を混合して用いられてもよい。また、コーティング剤には、ゼラチン等の他の接着タンパク質がさらに混合されてもよい。
[培養細胞]
培養細胞16は、コーティング剤層14を介して基材12に付着する。培養細胞16は、コーティング剤層14によって基材12に固定される。培養細胞16は、細胞頂端膜側に位置するトランスポーター18と、細胞基底膜側に位置するトランスポーター20とを有する。
培養細胞16は、基になる細胞が一例として腎臓細胞である場合、培養容器に腎臓細胞が非接着の状態で細胞懸濁液の攪拌と静止とを繰り返しながら腎臓細胞を培養し、腎臓細胞の凝集体を形成することで作製される。培養細胞16は、細胞支持複合体10に使用される上で、生理機能を保持している必要がある。一方で、腎臓細胞を生体内環境とは異なる環境で培養すると、脱分化して生理機能が低下していく。これに対し、腎臓細胞を培養容器に非接着の状態で間欠的に攪拌しながら培養することで、腎臓細胞の凝集体を形成することができ、これにより腎臓細胞の低下した生理機能を回復させることができる。なお、培養により低下した生理機能が少しでも改善されていれば、本実施の形態における「回復」に含まれる。また、「攪拌」は、細胞懸濁液中の細胞を動かす(変位させる)ことを意味し、細胞懸濁液の振とう等も含まれる。
より具体的には、細胞懸濁液(言い換えれば培地)を間欠攪拌しながら腎臓細胞を浮遊状態で培養すると、腎臓細胞が凝集体を形成する。例えば、腎臓細胞の凝集体は、培養1日目(すなわち24時間以内)に形成される。そして、凝集体の状態で腎臓細胞を培養することで、腎臓細胞の生理機能を回復させることができる。したがって、培養細胞16は、腎臓細胞の生理機能を有する細胞である。細胞の培養方法については後に詳細に説明する。なお、前記「浮遊」とは、細胞が培養容器の壁面に接着していない状態を意味する。したがって、「浮遊」には、細胞が培養容器の壁面に接触しているが、培地の対流等で容易に壁面から離間できる状態が含まれる。
培養細胞16の基になる腎臓細胞には、組織由来の腎臓細胞や、iPS細胞またはES細胞由来の腎臓細胞が含まれる。また、腎臓細胞には、例えば近位尿細管系、遠位尿細管系および集合管系の上皮細胞の少なくとも1つが含まれる。より具体的には、腎臓細胞としては、例えば腎臓から採取、単離したヒト近位尿細管上皮細胞、ヒト遠位尿細管上皮細胞およびヒト集合管上皮細胞や、ヒトiPS細胞またはヒトES細胞から分化誘導した近位尿細管上皮細胞、遠位尿細管上皮細胞および集合管上皮細胞が例示される。より好ましくは、腎臓細胞は、近位尿細管上皮細胞である。また、腎臓細胞には、上述した腎臓細胞の不死化細胞、株化細胞(HK-2細胞等)、特定のトランスポーター等のタンパク質を発現させるために腎臓細胞に遺伝子導入した形質転換細胞、および腎前駆細胞が含まれる。さらに、腎臓細胞としては、ヒト由来の腎臓細胞に代えて、他動物種由来の細胞(MDCK細胞、LLC-PK1細胞、JTC-12細胞等)を用いることもできる。
培養細胞16は、基材12上で、実質的に重層化することなくコンフルエントな単層を形成する。前記「実質的に」とは、重層化による物質の移動効率の低下が問題とならない程度に単層構造が維持されていることを意味し、必ずしも重層化が全く生じていないことを意味するものではない。また、前記「コンフルエント」とは、培養細胞16の培養面全体に対して細胞の占める面積の割合が100%であること、すなわち培養面いっぱいに隙間なく細胞が増殖した状態を意味する。細胞がコンフルエントの状態にあるか否かは、当業者であれば容易に判断することができる。
(細胞の培養方法および細胞支持複合体の製造方法)
図3(A)~図3(D)および図4(A)~図4(C)は、実施の形態に係る細胞の培養方法および細胞支持複合体の製造方法の工程図である。本実施の形態に係る細胞の培養方法は、培養容器に細胞が非接着の状態で細胞懸濁液の攪拌と静止とを繰り返しながら細胞を培養して、細胞の凝集体を形成する工程を含む。当該培養方法により、生理機能を有する状態にある培養細胞16を作製することができる。
また、本実施の形態に係る細胞支持複合体の製造方法は、本実施の形態に係る細胞の培養方法で形成された培養細胞16の凝集体30を個々の培養細胞16に分離する工程と、コーティング剤を基材12の少なくとも一部に塗布する工程と、コーティング剤を塗布した基材12に培養細胞16を播種し、基材12上で培養細胞16を培養して、培養細胞16の単層構造を形成する工程とを含む。
具体的には、図3(A)に示すように、腎臓細胞24を培養容器26に播種する。培養容器26は、細胞懸濁液を攪拌するための攪拌羽27を有する、いわゆるスピナーフラスコである。培養容器26としては、攪拌培養(振とう培養を含む)が可能な、スピナーフラスコ、大型ステンレス培養槽、細胞培養ボトル、細胞培養バッグ等を用いることができる。培養容器26には、培地28が添加される。培地28としては従来公知の培地を用いることができる。近位尿細管細胞を培養する場合であれば、例えばREGM(Lonza社)、EpiCM(ScienCell社)、KeratinocyteSFM(Life Technologies社)等を用いることができる。また、細胞培養に必要な従来公知の材料を適宜使用することができる。
続いて、図3(B)に示すように、攪拌羽27を回転させる前に所定時間だけ腎臓細胞24を静置する。静置時間は、例えば5分超~600分未満である。培養容器26に腎臓細胞24を播種した直後は、腎臓細胞24は他の細胞と接着していない単細胞の状態にある。この状態で攪拌羽27を回転させると、腎臓細胞24が受けるシェアストレスやダメージが大きくなる傾向にある。また、攪拌前に静置時間を設けることで、腎臓細胞24同士の接着を促すことができる。これにより、腎臓細胞24にかかる負荷を軽減することができるとともに、後々の凝集体30の形成を促進させることができる。
続いて、図3(C)に示すように、攪拌羽27を間欠的に回転させることで、腎臓細胞24を含む培地28、つまり細胞懸濁液の攪拌(図3(C)における左側の状態)と静止(図3(C)における右側の状態)とを繰り返しながら、腎臓細胞24を培養する。攪拌と静置のサイクルは、好ましくは2サイクル以上である。このとき、腎臓細胞24は培養容器26に非接着の状態で浮遊培養される。
細胞懸濁液の静止中、腎臓細胞24は沈降して互いに接着し、凝集体30が形成される。静止期間の繰り返しにより、凝集体30が徐々に成長していく。細胞懸濁液の攪拌中、腎臓細胞24は浮遊する。このため、腎臓細胞24同士の接触時間は短く、また、せん断応力がかかる。これにより、腎臓細胞24同士の接着が阻害され、凝集体30の成長が抑制される。腎臓細胞24同士の接着には、単体の腎臓細胞24同士の接着と、凝集体30中の腎臓細胞24と単体の腎臓細胞24との接着(つまり、既に形成されている凝集体30への腎臓細胞24の接着)とが含まれる。
したがって、細胞懸濁液の攪拌と静止とを繰り返すことで、一度に大量の凝集体30を形成することができるとともに、各凝集体30の大きさを調整することができる。攪拌と静止との繰り返し、すなわち間欠攪拌工程は、例えば1時間以上10時間以下の時間実施される。間欠攪拌工程を1時間以上とすることで、より確実に凝集体30を形成させることができる。また、間欠攪拌工程を10時間以下とすることで、凝集体30の大きさが過大になることをより確実に回避することができる。
凝集体30の大きさが過大になると、凝集体30の内部に位置する細胞が低栄養、低酸素の状態に陥りやすく、細胞死を助長することにつながる。また、培養細胞16の性能の均質化が困難となり、目的とする細胞の収率が低下し得る。また、凝集体30が過大になると、凝集体30同士の接着が助長され、均質な培養細胞16の獲得がますます困難になり得る。
間欠攪拌工程によって得られる凝集体30を構成する腎臓細胞24の数は、好ましくは500個以上5000個以下である。また、凝集体30の大きさは、好ましくは100μm以上350μm以下である。凝集体30の構成細胞数と大きさとには相関がある。凝集体30の大きさは、構成細胞数が500個以上5000個以下のとき、おおよそ100μm以上350μm以下となる。凝集体30の大きさは、凝集体30の最大幅と定義される。すなわち、凝集体30の大きさは、凝集体30の外縁上の2点をつなぐ直線のうち最大のものの長さである。なお、凝集体30は略球形であるため、以下では適宜、凝集体30の大きさを便宜的に凝集体30の直径という。
凝集体30の構成細胞数を500個以上、あるいは直径を100μm以上とすることで、培地交換の際などに細胞凝集体が古い培地とともに吸引されてしまうことをより確実に回避することができる。また、構成細胞数を5000個以下、あるいは直径を350μm以下とすることで、より良好な生理機能を有する培養細胞16を得ることができる。凝集体30の構成細胞数および直径は、培養容器26中の細胞密度を調整することで制御することができる。細胞密度は、例えば5000個/ml以上500000個/ml以下である。細胞密度を5000個/ml以上とすることで、静置中に腎臓細胞24同士をより確実に接触させることができる。また、細胞密度を500000個/ml以下とすることで、腎臓細胞24同士の過剰な接触を回避して、凝集体30が過大になることや凝集体30同士が接着することを抑制することができる。
細胞懸濁液を攪拌する際、攪拌羽27の回転速度は、好ましくは20rpm超であり、より好ましくは30rpm以上である。これにより、沈殿した腎臓細胞24および凝集体30をより確実に浮遊させることができる。この結果、凝集体30が過剰に大きくなることを抑制することができる。また、攪拌羽27の回転速度は、好ましくは100rpm以下であり、より好ましくは75rpm以下である。これにより、細胞懸濁液の攪拌によって腎臓細胞24が過剰なダメージを受けることを回避することができる。
また、間欠攪拌工程における静止の時間は、好ましくは5分超480分未満である。静止時間を5分超とすることで、腎臓細胞24同士をより確実に接着させることができ、したがって凝集体30をより確実に形成することができる。また、静止時間を480分未満とすることで、腎臓細胞24の凝集が進み過ぎて凝集体30が過大になることや、凝集体30同士が接着することをより確実に回避することができる。また、静止時間は、より好ましくは10分以上240分以下であり、さらに好ましくは10分以上60分未満であり、さらに好ましくは10分以上30分以下である。
間欠攪拌工程における攪拌の時間は、好ましくは1分以上30分以下である。攪拌時間を1分以上とすることで、腎臓細胞24をより確実に浮遊、分散させることができる。したがって、凝集体30の成長をより確実に抑制することができる。また、攪拌時間を30分以下とすることで、細胞懸濁液の攪拌によって腎臓細胞24に与えるダメージを低減することができる。
間欠攪拌工程の終了後、図3(D)に示すように、細胞懸濁液を攪拌し続けながら凝集体30の状態で腎臓細胞24を培養する。つまり、連続攪拌工程が実施される。連続攪拌工程では、間欠攪拌工程における攪拌期間と同様に、腎臓細胞24同士の接着が阻害される。また、凝集体30同士の接着も阻害される。したがって、間欠攪拌工程に続いて連続攪拌工程を設けることで、凝集体30が過大になることを回避しながら、腎臓細胞24の生理機能をより確実に回復させることができる。連続攪拌工程中、必要に応じて培地交換する。例えば、近位尿細管細胞の培養では、培地28は2~3日毎に交換される。iPS細胞の培養では、培地28は毎日交換される。培地交換は、凝集体30を含む培地を全量回収した後、遠心分離によって凝集体30を沈降させることで行うことができる。
間欠攪拌工程および連続攪拌工程において、攪拌によって細胞に負荷されるせん断応力は、好ましくは、絶対値で0.3N/m以下である。せん断応力は、下式(1)を用いて最大値(ζmax)を算出することができる。
ζmax=5.33ρ(εν)1/2 (1)
式(1)中、ρ=培養液密度、ν=培養液粘度、εは下式(2)を用いて算出される。
ε=N /V (2)
式(2)中、N=無次元動力数、D=dissipation volume、N=撹拌羽形状、V=分布容積である。
また、流体解析ソフトを用い、培養液密度、培養液粘度、フラスコ形状(アスペクト比)、撹拌羽形状、攪拌羽直径、フラスコの壁面条件、および撹拌羽回転数を変数として、適宜に値を入力することによっても、スピナーフラスコにおけるせん断応力の最大値や分布を求めることができる。
100mlサイズのスピナーフラスコに80mlの培地を添加し、回転数75rpmで攪拌した場合、せん断応力の最大値は、0.29N/mであった。同様に回転数30rpmで攪拌した場合のせん断応力の最大値は、0.12N/mであった。パラメーターは、Stem Cell Research(2013) 11, 1103-1116を参考にした。
培養容器26への播種(図3(A)に示す工程)から連続攪拌工程の終了までの期間、すなわち腎臓細胞24の培養期間は、好ましくは5日以上である(すなわち120時間以上)。また、腎臓細胞24の培養期間は、好ましくは14日以下(すなわち336時間以下)、より好ましくは10日以下(すなわち240時間以下)である。培養期間を5日以上とすることで、生理機能が良好な状態にある培養細胞16をより確実に得ることができる。また、培養期間を14日以下とすることで、生理機能が強く発現した状態にある培養細胞16を得ることができる。さらに、培養期間を10日以下とすることで、生理機能がより強く発現した状態にある培養細胞16を得ることができる。間欠攪拌工程および連続攪拌工程における培養条件は、例えば37℃、5%COである。
培養容器26は、細胞非接着処理が施されているか、細胞非接着材料で構成されていることが好ましい。これにより、凝集体30をより確実に形成させることができる。細胞非接着処理としては、容器表面への細胞非接着ハイドロゲルコーティング処理、MPC(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)コーティング処理、プロテオセーブ(登録商標)SSコーティング処理、鏡面研磨処理等が例示される。細胞非接着材料としては、ガラス等が例示される。また、細胞非接着材料としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン-ビニルアセテートコポリマー、ポリ(エチレン-エチルアクリレート)コポリマー、ポリ(エチレン-メタアクリレート)コポリマー、ポリ(エチレン酢酸ビニル)コポリマー、およびこれらのポリマーの2種以上の混合物といった高分子材料が例示される。
続いて、図4(A)に示すように、上述した細胞の培養方法で形成された凝集体30を個々の培養細胞16に分離する。凝集体30から個々の培養細胞16への分離は、トリプシン/EDTA、Accutase、EDTA、TrypLE Select等を用いて凝集体30を酵素処理することで行うことができる。処理に用いる酵素の濃度は、培養細胞16の種類に応じて適宜設定することができる。しかしながら、酵素濃度が高い場合、培養細胞16の単離が容易になる一方、培養細胞16の細胞表面タンパク質が損傷するおそれが高まる。このため、酵素濃度はできるだけ低いことが望ましい。
続いて、図4(B)に示すように、ラミニン分子、基底膜マトリックス混合物、コラーゲン分子およびこれらのいずれかの断片からなる群から選択される1種以上の接着分子を含むコーティング剤を基材12の少なくとも一部に塗布する。この塗布工程により、基材12の表面にコーティング剤層14が形成される。なお、培養細胞16の単離工程と、コーティング剤の塗布工程とは、互いに独立に実施することができる。すなわち、両工程はいずれが先に実施されてもよく、また並行して実施されてもよい。
そして、図4(C)に示すように、コーティング剤を塗布した基材12に培養細胞16を播種し、基材12上で培養細胞16を培養して、培養細胞16の単層構造を形成する。培養細胞16は、例えば約1.0×10~約1.0×10個/cmの細胞密度となるように基材12に播種される。培養期間は、例えば1日以上60日以下である。培養細胞16は、基材12上でコンフルエントになるまで増殖した後、コンフルエントの状態を維持する。また、培養細胞16は、例えば培地としてREGM(Lonza社)を用いて、37℃、5%CO条件下で培養される。
なお、図4(C)に示す工程において、培養細胞16と所定の接着分子とを含む細胞懸濁液を基材12に載置することで、基材12に培養細胞16を播種してもよい。細胞懸濁液に所定の接着分子を散在させることで、培養細胞16同士の接着や培養細胞16と基材12との接着が接着分子によって補強される。これにより、培養細胞16のコンフルエントな単層(以下では適宜、細胞単層という)の形状を安定的に維持することができる。細胞単層は、培養細胞16を基材12に播種した日から、通常1日以内(すなわち24時間以内)に形成される。細胞懸濁液は、培養細胞16と接着分子との接触を促進させるために、基材12への載置前に所定時間静置または振盪してもよい。静置または振盪する時間は、特に限定されないが、例えば室温または37℃で30分以下である。なお、細胞懸濁液に所定の接着分子を添加する場合には、図4(B)に示す塗布工程を省略することも可能である。つまり、最終的に得られる細胞支持複合体10において、コーティング剤層14を省略することができる。
細胞懸濁液には、培地が含まれる。培地としては公知の培地、例えばREGM(Lonza社)、EpiCM(ScienCell社)、KeratinocyteSFM(Life Technologies社)、StemFit(味の素社)等を用いることができる。また、細胞培養に必要な従来公知の材料を適宜、細胞懸濁液に含有させることができる。
細胞懸濁液に含まれる接着分子は、ラミニン分子の断片(断片化ラミニン)、基底膜マトリックス混合物の断片(断片化基底膜マトリックス混合物)および基底膜マトリックス混合物の完全体(完全長基底膜マトリックス混合物)からなる群から選択される1種以上を含む。
(ラミニン分子の断片)
本実施の形態における断片化ラミニンは、ラミニン分子の完全体(完全長ラミニン)であるラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、ラミニン311、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511およびラミニン521の各断片のうち1種以上が選択される。なお、上述の通り、ラミニン分子には上述したアイソフォームの1カ所以上に所定の修飾基が付加された改変体(改変ラミニン)も含まれる。修飾基は、例えば増殖因子結合分子または細胞接着分子である。
断片化ラミニンとしては、E8領域の改変体が例示される。このような断片化ラミニンとしては、例えばラミニン111-E8、ラミニン211-E8、ラミニン411-E8、ラミニン421-E8、ラミニン511-E8およびラミニン521-E8が挙げられる。断片化ラミニンとしては、E8領域の改変体だけでなく、細胞接着活性を有するラミニンペプチド、あるいは細胞活性部位のみをペプチド合成したものを用いることもできる。このようなラミニンペプチドとしては、YIGSR含有ペプチド、PDSGR含有ペプチド、RYVVLPR含有ペプチド、RGD含有ペプチド、KAFDITYVRLKF含有ペプチド、IKVAV含有ペプチドおよびLRE含有ペプチド等が例示される。
(基底膜マトリックス混合物の断片および完全体)
断片化基底膜マトリックス混合物のもととなる完全長基底膜マトリックス混合物は、上述の通りラミニンと、コラーゲンIVと、エンタクチンとを主な構成成分として含む。また、断片化基底膜マトリックス混合物は、ラミニンの断片、コラーゲンIVの断片およびエンタクチンの断片の少なくとも1つが混合されたものである。基底膜マトリックス混合物としては、通常のMatrigelである第1Matrigelと、成長因子が低減されたMatrigelである第2Matrigelとが含まれる。また、基底膜マトリックス混合物としては、ラミニンと、コラーゲンIVと、エンタクチンとが約56~約61:約30~約31:約7~約8の質量比にて混合された混合物を用いることもできる。
断片化ラミニンおよび断片化基底膜マトリックス混合物は、それぞれの完全体に比べて分子量が小さい。このため、より微細な領域に進入することができる。また、接着分子の凝集が生じにくくなるため、接着分子をより均一に細胞懸濁液に分散させることができる。これらにより、培養細胞16のコンフルエントな単層をより安定的に維持することができる。
上述したラミニン分子の断片、基底膜マトリックス混合物の断片および基底膜マトリックス混合物の完全体は、それぞれ単独で、または2種以上を混合して用いることができる。また、断片化ラミニンは、1種類のアイソフォームが単独で用いられてもよいし、複数のアイソフォームが混合されて用いられてもよい。同様に、断片化基底膜マトリックス混合物および完全長基底膜マトリックス混合物は、それぞれ1種類が単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
細胞懸濁液における接着分子の濃度は、好ましくは基材12の培養面の単位面積(1cm)当たり0.04μg以上、つまり0.04μg/cm以上となる濃度であり、より好ましくは0.22μg/cm超、さらに好ましくは0.66μg/cm超となる濃度である。接着分子の濃度を0.04μg/cm以上とすることで、接着分子の機能をより確実に発揮させて、細胞単層の構造をより確実に維持することができる。また、接着分子の濃度を0.22μg/cm超、さらには0.66μg/cm超とすることで、細胞単層の構造を維持できる日数を延ばすことができる。
特に、接着分子の濃度を0.66μg/cm超とした場合、より確実に細胞支持複合体10の実用期間の間、細胞単層の構造を維持することができる。なお、接着分子の濃度は、さらに好ましくは1.97μg/cm以上である。これにより、細胞単層の構造を維持できる期間をより一層確実に細胞支持複合体10の実用期間以上とすることができる。また、接着分子の濃度は、例えば22μg/cm以下である。
[細胞支持複合体が用いられた装置]
図5(A)~図5(F)は、実施の形態に係る細胞支持複合体の採用例を模式的に示す図である。なお、図5(A)~図5(F)では、細胞支持複合体が組み込まれた構造の一部を図示している。本実施の形態に係る細胞支持複合体10は、様々な装置に適用することができる。
例えば、図5(A)は、Transwell32を備える第1装置34に細胞支持複合体10が組み込まれた様子を図示している。Transwell32の構造は従来公知であるため、詳細な説明は省略する。第1装置34では、培養細胞16が配置された側に、所定物質を含む第1液体36が供給される。第1液体36中の所定物質は、培養細胞16に取り込まれて細胞支持複合体10を通過し、細胞支持複合体10を挟んで第1液体36とは反対側に位置する第2液体38に移動する。第1装置34は例えば、細胞の機能や、薬物の取込・排出を微量液量で調べる薬物評価モジュールとして使用可能である。
図5(B)は、基材12として中空糸膜が用いられた細胞支持複合体10が第2装置40に組み込まれた様子を図示している。第2装置40では、基材12としての中空糸膜の管腔内にコーティング剤層14と培養細胞16の単層構造とが形成されている。第2装置40は、中空糸膜の管腔内に液体を流すことによって、この液体中にある所定物質を培養細胞16で取り込んで、中空糸膜の管腔外へ移動させることができる。第2装置40は例えば、血液濾過器で濾過した血漿成分中から有用物質を回収する、バイオ人工腎臓モジュールとして使用可能である。
図5(C)は、微細流路チップ42に細胞支持複合体10が組み込まれた様子を図示している。微細流路チップ42では、基材12が微細流路を構成している。そして、微細流路の内壁にコーティング剤層14と培養細胞16の単層構造とが形成されている。微細流路チップ42では、流路内、すなわち培養細胞16が配置された側に微量の液体が流される。そして、液体中の所定物質が培養細胞16に取り込まれる。微細流路チップ42は例えば、細胞の機能や、薬物の取込・排出を微量液量で調べる薬物評価モジュールとして使用可能である。
図5(D)は、細胞支持複合体10が中空マイクロキャリア44を構成している様子を図示している。また、図5(E)は、細胞支持複合体10が中実マイクロキャリア46を構成している様子を図示している。中空マイクロキャリア44および中実マイクロキャリア46では、基材12がキャリア本体を構成している。そして、基材12の外表面にコーティング剤層14および培養細胞16の単層構造が形成されている。中空マイクロキャリア44および中実マイクロキャリア46では、培養細胞16が配置された側に微量の液体が流される。そして、液体中の所定物質が培養細胞16に取り込まれる。中空マイクロキャリア44および中実マイクロキャリア46は例えば、細胞の機能や、薬物の取込・排出を微量液量で調べる薬物評価モジュールとして使用可能である。
図5(F)は、ウェルプレート48に細胞支持複合体10が組み込まれた様子を図示している。ウェルプレート48では、細胞支持複合体10がウェル底面に配置される。この状態で、培養細胞16はウェルの上側を向く。ウェルプレート48では、ウェル内に微量の液体49が注入される。そして、液体49中の所定物質が培養細胞16に取り込まれる。ウェルプレート48は例えば、細胞の機能や、薬物の取込・排出を微量液量で調べる薬物評価モジュールとして使用可能である。なお、ウェルプレート48に代えて、培養ディッシュ(シャーレ等)に細胞支持複合体10が組み込まれてもよい。
上述の、細胞支持複合体10を組み込んだモジュールは、第2装置40のように適宜カートリッジに収容されて使用される。
以上説明したように、本実施の形態に係る細胞の培養方法は、培養容器に細胞が非接着の状態で細胞懸濁液の攪拌と静止とを繰り返しながら細胞を培養し、細胞の凝集体を形成する工程を含む。このように、細胞懸濁液を間欠攪拌しながら腎臓細胞24を浮遊状態で培養することで、細胞懸濁液の攪拌停止中に腎臓細胞24同士が接触する可能性を高め、凝集体30の形成を促すことができる。これにより、一度に大量の凝集体30をより確実に形成することができる。
凝集体30を形成することで、培養により低下した腎臓細胞24の生理機能を回復させることができる。また、腎臓細胞24を単細胞の状態で攪拌培養すると、攪拌時のせん断応力によって腎臓細胞24が細胞死に至りやすい。これに対し、凝集体30を形成させることで、細胞死を低減することができる。これにより、生理機能が従来に比べて良好な状態にある培養細胞16を大量に獲得することができる。また、得られた高機能細胞を用いて細胞支持複合体10を製造することで、高性能なバイオ人工臓器やインビトロ評価系を提供することができる。
また、本実施の形態は、細胞懸濁液を攪拌し続けながら凝集体30の状態で腎臓細胞24を培養する工程をさらに含む。腎臓細胞24の生理機能の十分な回復には、凝集体30の状態で腎臓細胞24を所定の時間培養することが必要である。一方で、間欠攪拌工程は、凝集体30の成長を伴う。このため、生理機能の十分な回復を期待できる時間だけ間欠攪拌工程を継続すると、凝集体30の大きさが過大となってしまうおそれがある。本発明者は、凝集体30の大きさが過大になると、生理機能の回復が阻害されることを見出している。これに対し、本実施の形態では、間欠攪拌工程に続いて連続攪拌工程が実施される。連続攪拌工程では、腎臓細胞24同士の接着が阻害されるため、凝集体30の成長が抑制される。したがって、凝集体30が過大になることを回避しながら、腎臓細胞24の生理機能をより確実に回復させることができる。
また、本実施の形態では、間欠攪拌工程における静止の時間は、5分超480分未満に設定される。これにより、腎臓細胞24同士をより確実に接着させることができ、また凝集体30の大きさが過大になることをより確実に回避することができる。また、間欠攪拌工程において細胞懸濁液を攪拌する際、培養容器26の攪拌羽27の回転速度は、20rpm超に設定される。これにより、沈殿した腎臓細胞24および凝集体30をより確実に浮遊させることができ、凝集体30の大きさをより確実に調整することができる。
また、本実施の形態の培養方法では、腎臓細胞24の培養期間は、5日以上14日以下である。これにより、腎臓細胞24の生理機能をより確実に回復させられるとともに、生理機能が強く発現した状態にある培養細胞16を得ることができる。また、細胞は一般に、凝集状態が長く続くとその状態を記憶してしまい、凝集しやすくなる傾向にある。これに対し、培養期間を14日以下とすることで、培養細胞16が凝集体30から単離し難くなることと、単離後に再凝集し易くなることと、を抑制することができる。
また、本実施の形態の培養方法では、凝集体30を構成する腎臓細胞24の数は、500個以上5000個以下である。また、凝集体30の大きさは、100μm以上350μm以下である。これにより、細胞培養の作業性を向上させることができるとともに、良好な生理機能を有する培養細胞16をより確実に作製することができる。
また、本実施の形態に係る細胞支持複合体10の製造方法は、ラミニン分子、基底膜マトリックス混合物、コラーゲン分子およびこれらのいずれかの断片からなる群から選択される1種以上を含むコーティング剤を基材12に塗布する工程と、本実施の形態の培養方法で形成された培養細胞16の凝集体30を個々の培養細胞16に分離する工程と、基材12に培養細胞16を播種し、基材12上で培養細胞16を培養して、培養細胞16の単層構造を形成する工程とを含む。このように、所定の接着分子を含むコーティング剤を基材12に塗布してコーティング剤層14を形成することで、基材12上に培養細胞16の単層構造を安定的に形成することができる。よって、培養細胞16の単層構造の安定性が向上した細胞支持複合体10を提供することができる。また、基材12上には、高生理機能を有する培養細胞16からなる単層膜が形成されている。このため、高機能な細胞支持複合体10を得ることができる。
本実施の形態の細胞支持複合体10の製造方法によれば、培養細胞16の単層構造が安定して得られる。このため、培養細胞16が基材12上でコンフルエントに達したことを顕微鏡観察により確認する必要がない。また、基材12には人工膜を利用できる。このため、所望形状の細胞支持複合体10を容易に製造することができる。また、同一構造の細胞支持複合体10を大量に製造することができる。
なお、基材として、ヒト、ヒツジ、ブタ等の小腸粘膜下組織を脱細胞化した生物学的足場を用いることも考えられる。しかしながら、このような生物学的足場は、生体由来であるため同一構造のものを大量に製造することが困難である。このため、人工腎臓等の臨床用途に不向きである。また、小腸粘膜下組織は、動物種差あるいは個体差により、個々に形状が異なる。このため、細胞の播種面積も個々に変化し得る。よって、播種細胞数の制御が難しい。また、形状が複雑であり、また透明素材でもないため、細胞の観察が困難である。よって、細胞の観察が必要な薬物評価システムへの利用に不向きである。
本実施の形態では、腎臓細胞24を浮遊培養する場合を例に挙げて説明したが、細胞の種類は腎臓細胞24に限定されない。例えば、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞、多能性幹細胞から分化した組織幹細胞、前駆細胞および組織細胞等についても、間欠攪拌工程を含む培養方法によって培養することで、多分化能が良好な状態にある細胞を大量に獲得することができる。また、組織幹細胞、前駆細胞および組織細胞は、腎臓以外の組織に関するものであってもよい。
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれるものである。上述の実施の形態と以下の変形例との組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
[近位尿細管上皮細胞における遺伝子発現の解析:試験1]
試験1により、ヒト近位尿細管上皮細胞における生理機能の低下を確認した。まず、ヒト近位尿細管上皮細胞(Lonza社)を、ゼラチン溶液(シグマ社)でコーティングした60mmシャーレ(Corning社)に100000個播種した。そして、培地としてREGM(Lonza社)を用いて37℃、5%COの条件下で培養した。
RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)を用いて、播種直後(すなわち0時間)と培養4日(すなわち96時間)のヒト近位尿細管上皮細胞からmRNAを抽出し、精製した。続いて、QuantiTect Reverse Transcription Kit(QIAGEN社)を用いて、精製したmRNAからcDNAを合成した。これらのcDNAを鋳型とし、Thermal Cycler Dice Real Time System I(タカラバイオ株式会社)を用いて、リアルタイムPCR法にてAQP1、CD13、SGLT2、Na/K ATPase、PEPT1、MDR1、OAT1、OCTN2、E-cadherinおよびZO-1の各遺伝子の発現量を測定した。
これらの遺伝子は、腎臓細胞の生理機能に関連する遺伝子である。具体的には、AQP1(aquaporin 1)は、水の輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。CD13(alanyl aminopeptidase)は、タンパク質のペプチド化に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。SGLT2(sodium glucose cotransporter 2)は、ナトリウムおよびグルコースの輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。Na/K ATPaseは、イオンの輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。PEPT1(peptide transporter 1)は、ペプチドの輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。MDR1(multiple drug resistance 1)、OAT1(organic anion transporter 1)およびOCTN2(organic cation transporter novel 1)は、薬剤の輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。E-cadherinおよびZO-1(zonula occludens-1)は、細胞間結合に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。
各遺伝子について、播種直後の発現量に対する培養4日の発現量の比率(day4/day0)を算出した。結果を図6に示す。図6は、細胞を接着培養した場合における遺伝子発現量の経時変化を示す図である。図6に示すように、全ての遺伝子において比率は1を下回っていた。すなわち、培養4日の各遺伝子の発現量は、培養直後に比べて低下していた。この結果から、ヒト近位尿細管上皮細胞は、シャーレでの二次元培養によって遺伝子発現量が低下すること、すなわち脱分化することが示された。なお、播種直後であっても、ヒト近位尿細管上皮細胞の生理機能はある程度低下していると推察される。
[凝集体を構成する細胞における遺伝子発現量の測定:試験2]
試験2により、ヒト近位尿細管上皮細胞の浮遊培養による生理機能の回復を確認した。まず、ヒト近位尿細管上皮細胞(Lonza社)の懸濁液の細胞濃度を異ならせて複数調製した。各細胞懸濁液における濃度は、5000、10000、25000、50000、100000、250000個/mlとした。細胞非接着処理が施された96ウェルU底プレート(住友ベークライト社)に、各細胞懸濁液を100μl滴下して、細胞を播種した。これにより、各プレートにおける細胞数は500個/ウェル、1000個/ウェル、2500個/ウェル、5000個/ウェル、10000個/ウェル、25000個/ウェルとなった。そして、培地としてREGM(Lonza社)を用いて37℃、5%COの条件下で培養した(浮遊培養)。培地は2日毎に交換した。
また、ゼラチン溶液(シグマ社)でコーティングした96ウェル平底プレート(Corning社)に、細胞濃度を10000個/mlに調整した細胞懸濁液を100μl滴下して、細胞を播種した。したがって、細胞数は1000個/ウェルである。そして、培地としてREGM(Lonza社)を用いて37℃、5%COの条件下で培養した(接着培養)。培地は2日毎に交換した。これを比較例(コントロール)とした。
各プレートについて、細胞を光学顕微鏡で観察した。浮遊培養では、ヒト近位尿細管上皮細胞が凝集体を形成することが確認された。一方、接着培養では、凝集体は形成されなかった。
また、凝集体が形成された各プレートについて、播種7日の凝集体の直径を測定した。凝集体の直径は、デジタルマイクロスコープVHX-500(KEYENCE社)の計測ソフトを用いて測定した。各細胞数のプレートにおける凝集体10個の直径、すなわち最大幅を測定し、最大値と最小値とを求めた。その結果、凝集体のおおよその直径は、細胞数500個/ウェル(すなわち凝集体の構成細胞数が500個)で100~180μmであった。また、細胞数1000個/ウェル(すなわち凝集体の構成細胞数が1000個)で150~220μmであった。また、細胞数2500個/ウェル(すなわち凝集体の構成細胞数が2500個)で220~300μmであった。また、細胞数5000個/ウェル(すなわち凝集体の構成細胞数が5000個)で260~350μmであった。また、細胞数10000個/ウェル(すなわち凝集体の構成細胞数が10000個)で370~480μmであった。また、細胞数25000個/ウェル(すなわち凝集体の構成細胞数が25000個)で460~610μmであった。
また、凝集体が形成された各プレートにおける播種3,7,14日(すなわち72,168,336時間)の凝集体について、凝集体を構成する細胞の数を計測した。具体的には、0.1%トリプシン溶液で凝集体の構成細胞を単一化した後、TC20全自動セルカウンター(バイオラッド社)を用いて、凝集体20個について細胞数を計測し、その平均値を凝集体の構成細胞数とした。その結果、凝集体の構成細胞数は、14日間ほとんど変化がないことが確認された。なお、凝集体の直径も14日間ほとんど変化がないことが確認された。
また、各プレートについて、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)を用いて、播種直後(すなわち0時間)のヒト近位尿細管上皮細胞と、培養3,7日(すなわち72,168時間)の凝集体を構成するヒト近位尿細管上皮細胞からmRNAを抽出し、精製した。続いて、QuantiTect Reverse Transcription Kit(QIAGEN社)を用いて、精製したmRNAからcDNAを合成した。これらのcDNAを鋳型とし、Thermal Cycler Dice Real Time System I(タカラバイオ株式会社)を用いて、リアルタイムPCR法にてAQP1、SGLT2およびOAT1の各遺伝子の発現量を測定した。
各遺伝子について、播種直後の発現量に対する培養3日の発現量の比率(day3/day0)と、播種直後の発現量に対する培養7日の発現量の比率(day7/day0)とを算出した。結果を図7に示す。図7は、凝集体を構成する細胞における遺伝子発現量の経時変化を示す図である。
図7に示すように、AQP1遺伝子およびSGLT2遺伝子については、いずれの細胞数およびいずれの培養日数においても、細胞を接着培養した比較例に比べて細胞を浮遊培養した場合の方が発現量が多いことが確認された。特に、培養7日ではその傾向が顕著であった。OAT1遺伝子については、培養3日では比較例の方が発現量が多いが、培養7日では、細胞数25000個/ウェルを除いて、細胞を浮遊培養した方が発現量が多かった。したがって、細胞を接着培養する場合に比べて浮遊培養する場合の方が、細胞の生理機能が回復する傾向にあることが確認された。
また、各遺伝子の培養7日の結果から、細胞数が500個/ウェル以上5000個/ウェル以下の場合に、AQP1遺伝子とOAT1遺伝子の発現量が顕著に増大することが確認された。このことから、細胞数を上記範囲とすることで生理機能がより良好になることが確認された。
[凝集体を構成する細胞における遺伝子発現量の経時変化の解析:試験3]
試験3により、ヒト近位尿細管上皮細胞の浮遊培養による生理機能の回復を確認した。まず、細胞濃度を10000個/mlに調整したヒト近位尿細管上皮細胞(Lonza社)の懸濁液を調製した。この細胞懸濁液を、細胞非接着処理が施された96ウェルU底プレート(住友ベークライト社)に100μl滴下して、細胞を播種した(したがって、細胞数は1000個/ウェル)。そして、培地としてREGM(Lonza社)を用いて37℃、5%COの条件下で培養した(浮遊培養)。培地は2日毎に交換した。
RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)を用いて、播種直後(すなわち0時間)のヒト近位尿細管上皮細胞と、培養3,4,5,6,7,8,10,12,14日(すなわち72,96,120,144,168,192,240,288,336時間)の凝集体を構成するヒト近位尿細管上皮細胞からmRNAを抽出し、精製した。続いて、QuantiTect Reverse Transcription Kit(QIAGEN社)を用いて、精製したmRNAからcDNAを合成した。これらのcDNAを鋳型とし、Thermal Cycler Dice Real Time System I(タカラバイオ株式会社)を用いて、リアルタイムPCR法にてAQP1、SGLT2およびOAT1の各遺伝子の発現量を測定した。
各遺伝子について、播種直後の発現量に対する培養M日(M=3,4,5,6,7,8,10,12,14)の発現量の比率(dayM/day0)を算出した。結果を図8に示す。図8は、凝集体を構成する細胞における遺伝子発現量の経時変化を示す図である。
図8に示すように、AQP1遺伝子とOAT1遺伝子とは、培養5日で急激に発現量が上昇することが確認された。SGLT2遺伝子についても、培養5日で高い発現量であった。このことから、ヒト近位尿細管上皮細胞の培養期間を5日以上とすることで、生理機能のより改善された細胞が得られることが確認された。また、AQP1遺伝子とOAT1遺伝子とは、培養10日を過ぎると発現量が減少傾向に転じることが確認された。このことから、ヒト近位尿細管上皮細胞の培養期間は10日以下がより好ましいことが確認された。なお、AQP1遺伝子およびOAT1遺伝子の発現量は、培養12,14日であっても播種直後に比べれば高い値ではあった。したがって、ヒト近位尿細管上皮細胞の培養期間は14日以下が好ましく、10日以下がより好ましいことが確認された。
[連続攪拌培養のみでのヒト近位尿細管上皮細胞の培養:試験4]
試験4により、連続攪拌培養のみを行った場合の凝集体形成の有無と、得られた細胞における遺伝子発現とを確認した。まず、細胞濃度を100000個/mlに調整したヒト近位尿細管上皮細胞(Lonza社)の懸濁液を用意した。懸濁液の培地には、REGM(Lonza社)を用いた。この細胞懸濁液を、100mlスピナーフラスコ(INTEGRA社)に80ml添加した。そして、播種後直ちに所定の回転速度で攪拌羽を回転させながら、37℃、5%COの条件下で連続攪拌培養した。攪拌羽の回転速度は、30、40、60、75rpmとした。培地は3日毎に交換した。
また、細胞非接着処理が施された96ウェルU底プレート(住友ベークライト社)に、細胞密度10000個/mlのヒト近位尿細管上皮細胞(Lonza社)の懸濁液を200μl添加して、7日間静置培養した(静置浮遊培養)。これをコントロールとした。
培養3,7日後、スピナーフラスコ中の細胞懸濁液を細胞非接着処理が施された24ウェル平底プレート(住友ベークライト社)に移した。そして、細胞形態を顕微鏡観察した。また、コントロールについては、他のプレートに移すことなく、そのまま細胞形態を顕微鏡観察した。そして、凝集体が形成された場合を「○」と評価し、凝集体が形成されなかった場合を「×」と評価した。結果を図9(A)に示す。また、代表例としてスピナーフラスコ中、回転速度60rpmで7日間培養した細胞の顕微鏡像と、コントロールの細胞の顕微鏡像とを図9(B)に示す。
図9(A)は、連続攪拌培養および静置浮遊培養における凝集体形成の有無を示す図である。図9(B)は、連続攪拌培養の細胞と静置浮遊培養の細胞との光学顕微鏡画像である。図9(A)および図9(B)に示すように、静置浮遊培養では、ヒト近位尿細管上皮細胞が凝集体を形成することが確認された。一方、連続攪拌培養では、いずれの攪拌速度であっても凝集体が形成されないことが確認された。連続攪拌培養の場合、単細胞のまま浮遊していた。
また、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)を用いて、連続攪拌培養3,7日の細胞とコントロールの細胞とからmRNAを抽出し、精製した。続いて、QuantiTect Reverse Transcription Kit(QIAGEN社)を用いて、精製したmRNAからcDNAを合成した。これらのcDNAを鋳型とし、Thermal Cycler Dice Real Time System I(タカラバイオ株式会社)を用いて、リアルタイムPCR法にてAQP1およびOAT1の各遺伝子の発現量を測定した。各遺伝子について、コントロールの発現量に対する培養3日の発現量の比率と、コントロールの発現量に対する培養7日の発現量の比率とを算出した。結果を図9(C)に示す。
図9(C)は、連続攪拌培養した細胞における遺伝子発現量の経時変化を示す図である。図9(C)に示すように、連続攪拌培養では、いずれの攪拌速度であっても、静置浮遊培養した細胞に比べて各遺伝子の発現量が低いことが確認された。
[凝集体を連続攪拌培養して得た細胞における遺伝子発現量の解析:試験5]
試験5により、攪拌培養が凝集体を構成する細胞に与える影響を確認した。まず、細胞濃度を10000個/mlに調整したヒト近位尿細管上皮細胞(Lonza社)の懸濁液を用意した。懸濁液の培地には、REGM(Lonza社)を用いた。この細胞懸濁液を、非接着処理が施された96ウェルU底プレート(住友ベークライト社)に200μl滴下して、細胞を播種した。そして、37℃、5%COの条件下で3日間、静置浮遊培養した。
これにより得られた凝集体を、100mlスピナーフラスコ(INTEGRA社)に移した。そして、所定の回転速度で攪拌羽を回転させながら、37℃、5%COの条件下で4日間、連続攪拌培養した。したがって、合計の培養期間は7日間となった。攪拌羽の回転速度は、30、40、60、75rpmとした。
RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)を用いて、連続攪拌培養4日の細胞からmRNAを抽出し、精製した。続いて、QuantiTect Reverse Transcription Kit(QIAGEN社)を用いて、精製したmRNAからcDNAを合成した。これらのcDNAを鋳型とし、Thermal Cycler Dice Real Time System I(タカラバイオ株式会社)を用いて、リアルタイムPCR法にてAQP1およびOAT1の各遺伝子の発現量を測定した。各遺伝子について、試験4で用いたコントロール(7日間の静置浮遊培養)の発現量に対する発現量の比率を算出した。結果を図10に示す。
図10は、凝集体の連続攪拌培養によって得られた細胞における遺伝子発現量を示す図である。図10に示すように、静置浮遊培養で形成した細胞の凝集体に連続攪拌培養を施した場合、連続攪拌培養を施さない場合と同程度に、細胞が各遺伝子を発現することが確認された。つまり、細胞懸濁液の攪拌自体は、細胞の遺伝子発現に影響がないことが確認された。このことから、シャーレ等で増殖させた細胞を単細胞の状態でスピナーフラスコに投入し、フラスコ内で凝集体を形成させつつ攪拌浮遊培養する培養システムの実現を予測することができた。この培養システムによれば、静置浮遊培養で形成する細胞と同程度の遺伝子活性をもつ培養細胞を一度に大量生成することができる。
[種々の条件での細胞の間欠攪拌培養:試験6]
試験6により、種々の条件で間欠攪拌培養した際の細胞の形態を確認し、凝集体形成に好適な培養条件を検討した。まず、細胞濃度を100000個/mlに調整したヒト近位尿細管上皮細胞(Lonza社)の懸濁液を用意した。懸濁液の培地には、REGM(Lonza社)を用いた。この細胞懸濁液を100mlスピナーフラスコ(INTEGRA社)に80ml添加した。その後、10分間静置した。
続いて、第1の実験系として、10分間の攪拌と所定分間の静止(静置)とを繰り返す間欠攪拌培養を10時間行った。静止時間は、0,5,10,30,60,120,240,480分間とした。静止0分間は、連続攪拌培養を意味する。攪拌時の攪拌翼の回転速度(攪拌スピード)は、40rpmとした。
また、第2の実験系として、所定攪拌速度での10分間の攪拌と10分間の静止とを繰り返す間欠攪拌培養を10時間行った。攪拌翼の回転速度は、20,30,40,60,75rpmとした。
第1、第2の実験系のいずれも、間欠攪拌培養の後に、37℃、5%COの条件下で7日間の連続攪拌培養を行った。連続攪拌培養における攪拌翼の回転速度は、間欠攪拌培養と同じ速度に設定した。培地は2日毎に交換した。連続攪拌培養の終了後、スピナーフラスコ中の細胞懸濁液を、細胞非接着処理が施された24ウェル平底プレート(住友ベークライト社)に移した。そして、細胞形態を顕微鏡観察した。結果を図11に示す。図11は、種々の条件の間欠攪拌培養によって得られた細胞の光学顕微鏡画像である。
また、顕微鏡観察によって、均一な大きさの凝集体が形成された場合を「○」と評価し、不均一な大きさの凝集体が形成された場合を「△」と評価し、凝集体が形成されなかった場合を「×」と評価した。なお、不均一な大きさの凝集体には、凝集体同士の接着により形成される過大な凝集体と、細胞同士の接着が十分に進まなかった結果として得られる過小な凝集体とが含まれる。結果を図12に示す。図12は、種々の条件の間欠攪拌培養における凝集体形成の有無を示す図である。
図11および図12に示すように、間欠攪拌培養の静止時間が0分であった場合、つまり連続攪拌培養のみが行われた場合、攪拌スピードが30,40,60,75rpmでは、凝集体は形成されなかった。このことから、均一な大きさの複数の凝集体を得るためには、間欠攪拌培養が必要であることが確認された。
攪拌スピードが20rpmのときは、連続攪拌培養のみ(静止時間0分)でも不均一ながら凝集体が形成された。また、攪拌スピードが20rpmの場合、間欠攪拌培養の静止時間がいずれの場合であっても、不均一且つ過大な大きさの凝集体が形成された。図11における、攪拌停止時間10分且つ攪拌スピード20rpmの顕微鏡画像における白枠内の塊が、不均一な大きさの凝集体である。このことから、攪拌スピード20rpmは、細胞および凝集体を浮遊させて凝集体サイズをコントロールする上では、不十分であることが確認された。つまり、攪拌スピードが20rpmの場合、静止培養に近い状態となったため、凝集体同士の接着を抑制することができず、不均一且つ過大な凝集体が形成されたと考えられる。
また、攪拌スピードが20rpm超であっても、静止時間が5分のときは不均一且つ過小な大きさの凝集体が形成された。このことから、静止時間5分は、細胞同士を確実に接着させる上では、不十分であることが確認された。また、攪拌スピードが20rpm超であっても、静止時間が480分のときは不均一且つ過大な大きさの凝集体が形成された。図11における、攪拌スピード40rpm且つ攪拌停止時間480分の顕微鏡画像における白枠内の塊が、不均一な大きさの凝集体である。このことから、静止時間480分は、凝集体同士の接着をより確実に回避する上では、長すぎることが確認された。
攪拌スピードの増加につれて、均一な大きさの凝集体を形成可能な静止時間の長さが増えることが確認された。具体的には、攪拌スピード30rpmでは、静止時間10分および30分で、均一な大きさの凝集体が形成された。攪拌スピード40,60,75rpmでは、それぞれ静止時間10分~240分で均一な大きさの凝集体が形成された。
細胞は、静止時間中に沈降して他の細胞と接着する。これにより凝集体が形成される。このため、静止時間が長いほど、凝集体の成長時間は長くなる。したがって、本試験の結果は、攪拌スピードが20rpm超、さらには30rpmであれば、静止時間を60分未満としたときに形成される大きさの凝集体をより確実に浮遊させられることを示している。つまり、攪拌スピードが20rpm超、さらには30rpmであれば、静止時間60分未満で形成される凝集体同士の接着を阻害して、均一な大きさの凝集体を維持することができる。また、攪拌スピードが40rpm以上であれば、静止時間が480分未満で形成される凝集体をより確実に浮遊させて、凝集体同士の接着を回避することができる。
[静止時間が異なる間欠攪拌培養で得られた細胞における遺伝子発現量の解析:試験7]
試験7により、種々の静止時間で間欠攪拌培養した際の細胞における遺伝子発現量の変化を確認した。まず、細胞濃度を100000個/mlに調整したヒト近位尿細管上皮細胞(Lonza社)の懸濁液を用意した。懸濁液の培地には、REGM(Lonza社)を用いた。この細胞懸濁液を、100mlスピナーフラスコ(INTEGRA社)に80ml添加した。その後、10分間静置した。
続いて、10分間の攪拌と所定分間の静止とを繰り返す間欠攪拌培養を10時間行った。静止時間(攪拌停止時間)は、0,5,10,60,240分間とした。静止0分間は、連続攪拌培養を意味する。攪拌時の攪拌翼の回転速度(攪拌スピード)は、40rpmとした。間欠攪拌培養の後に、37℃、5%COの条件下で7日間の連続攪拌培養を行った。連続攪拌培養における攪拌翼の回転速度は、間欠攪拌培養と同じ速度に設定した。培地は2日毎に交換した。試験6でも示されたように、攪拌スピード40rpmの場合、静止時間0,5分では均一な大きさの凝集体が形成されず、静止時間10,60,240分では均一な大きさの凝集体が形成された。
連続攪拌培養の終了後、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)を用いて、細胞からmRNAを抽出し、精製した。続いて、QuantiTect Reverse Transcription Kit(QIAGEN社)を用いて、精製したmRNAからcDNAを合成した。これらのcDNAを鋳型とし、Thermal Cycler Dice Real Time System I(タカラバイオ株式会社)を用いて、リアルタイムPCR法にてAQP1およびOAT1の各遺伝子の発現量を測定した。各遺伝子について、試験4で用いたコントロール(7日間の静置浮遊培養)の発現量に対する発現量の比率を算出した。結果を図13に示す。
図13は、種々の静止時間で間欠攪拌培養した細胞における遺伝子発現量を示す図である。図13に示すように、静止時間0,5分の間欠攪拌培養で得られた細胞では、コントロールに比べて各遺伝子の発現量は低いことが確認された。一方、静止時間10,60,240分では、各遺伝子の発現量はコントロールと同程度であることが確認された。これは、静止時間0,5分では凝集体の形成が不十分であったのに対し、静止時間10,60,240分では均一な大きさの凝集体が形成されたためと考えられる。
[攪拌速度が異なる間欠攪拌培養で得られた細胞における遺伝子発現量の解析:試験8]
試験8により、種々の攪拌スピードで間欠攪拌培養した際の細胞における遺伝子発現量の変化を確認した。まず、細胞濃度を100000個/mlに調整したヒト近位尿細管上皮細胞(Lonza社)の懸濁液を用意した。懸濁液の培地には、REGM(Lonza社)を用いた。この細胞懸濁液を100mlスピナーフラスコ(INTEGRA社)に80ml添加した。その後、10分間静置した。
続いて、10分間の攪拌と10分間の静止とを繰り返す間欠攪拌培養を10時間行った。攪拌翼の回転速度(攪拌スピード)は、30,40,60,75rpmとした。間欠攪拌培養の後に、37℃、5%COの条件下で7日間の連続攪拌培養を行った。連続攪拌培養における攪拌翼の回転速度は、間欠攪拌培養と同じ速度に設定した。培地は2日毎に交換した。試験6でも示されたように、静止時間10分では、攪拌スピード30,40,60,75rpmの全てで、均一な大きさの凝集体が形成された。
連続攪拌培養の終了後、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)を用いて、細胞からmRNAを抽出し、精製した。続いて、QuantiTect Reverse Transcription Kit(QIAGEN社)を用いて、精製したmRNAからcDNAを合成した。これらのcDNAを鋳型とし、Thermal Cycler Dice Real Time System I(タカラバイオ株式会社)を用いて、リアルタイムPCR法にてAQP1およびOAT1の各遺伝子の発現量を測定した。各遺伝子について、試験4で用いたコントロール(7日間の静置浮遊培養)の発現量に対する発現量の比率を算出した。結果を図14に示す。
図14は、種々の攪拌速度で攪拌培養した細胞における遺伝子発現量を示す図である。図14に示すように、いずれの攪拌スピードの間欠攪拌培養で得られた細胞でも、各遺伝子の発現量はコントロールと同程度であることが確認された。このことから、細胞の凝集体が形成されさえすれば、攪拌スピードによる遺伝子発現量への影響は小さいことが確認された。なお、攪拌スピードが遅くなるほど、凝集体のサイズが大きくなることが確認された。
[種々の静止時間でのヒトiPS細胞の間欠攪拌培養:試験9]
試験9により、ヒトiPS細胞を間欠攪拌培養した際の細胞の形態を確認した。まず、細胞濃度を100000個/mlに調整したヒトiPS細胞の懸濁液を用意した。懸濁液の培地には、10μMのY-27632(コスモバイオ社)を添加したStemFit(味の素社)を用いた。Y-27632は、ROCK(Rho-associated coiled-coil forming kinase)阻害剤であり、ヒトiPS細胞の細胞死を抑制する。この細胞懸濁液を複数の100mlスピナーフラスコ(INTEGRA社)に50ml添加した。したがって、各フラスコにおける初期細胞数は5×10個である。
その後、一部のスピナーフラスコについては10分間静置した後、1分間の攪拌と10分間の静止とを繰り返す間欠攪拌培養を1.5時間行った。残りのスピナーフラスコについては15分間静置した後、1分間の攪拌と15分間の静止とを繰り返す間欠攪拌培養を1.5時間行った。攪拌時の攪拌翼の回転速度は、それぞれ40rpmとした。培地は毎日交換した。
いずれのスピナーフラスコについても、間欠攪拌培養の後に37℃、5%COの条件下で5日間の連続攪拌培養を行った。連続攪拌培養における攪拌翼の回転速度は、間欠攪拌培養と同じ速度に設定した。培地は2日毎に交換した。連続攪拌培養の終了後、スピナーフラスコ中の細胞懸濁液を、細胞非接着処理が施された24ウェル平底プレート(住友ベークライト社)に移した。そして、細胞形態を顕微鏡観察した。
結果を図15(A)および図15(B)に示す。図15(A)および図15(B)は、種々の静止時間でのヒトiPS細胞の間欠攪拌培養によって得られた細胞の光学顕微鏡画像である。図15(A)は、静止時間10分の結果であり、図15(B)は、静止時間15分の結果である。図15(A)および図15(B)において、複数の黒色円形塊のそれぞれがヒトiPS細胞の凝集体である。よって、本試験により、間欠攪拌培養によってヒトiPS細胞の凝集体を形成できることが確認された。
また、連続攪拌培養の終了後にスピナーフラスコ内の凝集体を全量回収し、Accutase(Lonza社)で12分間処理することで細胞を単一化した。そして、TC20全自動セルカウンター(Bio-RAD社)で細胞数を計測した。この結果、静止時間10分の間欠攪拌培養を施した場合の細胞数は2.6×10個であり、静止時間15分の間欠攪拌培養を施した場合の細胞数は3.3×10個であった。したがって、各間欠攪拌培養により、初期細胞数から5.2倍、6.6倍の細胞増加が得られた。
[試験9とはY-27632の濃度を異ならせた場合のヒトiPS細胞の間欠攪拌培養:試験10]
Y-27632は、ヒトiPS細胞の細胞死を抑制する。このため、Y-27632は、ヒトiPS細胞の凝集化を促進する作用を有する。そこで、試験10により、Y-27632の影響を弱めた条件下でも間欠攪拌培養によってヒトiPS細胞の凝集体を形成できるか確認した。
まず、細胞濃度を100000個/mlに調整したヒトiPS細胞の懸濁液を用意した。懸濁液の培地には、2μMのY-27632(コスモバイオ社)を添加したStemFit(味の素社)を用いた。したがって、Y-27632の濃度は、試験9で用いた培地における濃度の5分の1である。この細胞懸濁液を100mlスピナーフラスコ(INTEGRA社)に50ml添加した。したがって、初期細胞数は5×10個である。その後、60分間静置した。続いて、1分間の攪拌と60分間の静止とを繰り返す間欠攪拌培養を5時間行った。攪拌時の攪拌翼の回転速度は、40rpmとした。培地は毎日交換した。
間欠攪拌培養の後に37℃、5%COの条件下で5日間の連続攪拌培養を行った。連続攪拌培養における攪拌翼の回転速度は、間欠攪拌培養と同じ速度に設定した。培地は2日毎に交換した。連続攪拌培養の終了後、スピナーフラスコ中の細胞懸濁液を、細胞非接着処理が施された24ウェル平底プレート(住友ベークライト社)に移した。そして、細胞形態を顕微鏡観察した。この結果、ヒトiPS細胞の凝集体が観察された。よって、培地中のY-27632の濃度を低下させても、間欠攪拌培養によってヒトiPS細胞の凝集体を形成できることが確認された。このことから、ヒトiPS細胞の凝集化は間欠攪拌培養の影響が支配的であると推察することができる。
また、連続攪拌培養の終了後にスピナーフラスコ内の凝集体を全量回収し、Accutase(Lonza社)で12分間処理することで細胞を単一化した。そして、TC20全自動セルカウンター(Bio-RAD社)で細胞数を計測した。この結果、細胞数は1.8×10個であった。したがって、間欠攪拌培養により、初期細胞数から3.6倍の細胞増加が得られた。
本発明は、細胞の培養方法、細胞支持複合体の製造方法、培養細胞および細胞支持複合体に関する。
10 細胞支持複合体、 12 基材、 14 コーティング剤層、 16 培養細胞、 24 腎臓細胞、 26 培養容器、 27 攪拌羽、 28 培地、 30 凝集体。

Claims (11)

  1. 培養容器に近位尿細管上皮細胞が非接着の状態で細胞懸濁液の攪拌と静止とを繰り返しながら前記近位尿細管上皮細胞を培養して、前記近位尿細管上皮細胞の凝集体を形成する工程を含むことを特徴とする細胞の培養方法。
  2. 前記攪拌と静止との繰り返し培養の後に、前記細胞懸濁液を攪拌し続けながら前記凝集体の状態で前記近位尿細管上皮細胞を培養する工程をさらに含む請求項1に記載の細胞の培養方法。
  3. 前記静止の時間は、5分超480分未満である請求項1または2に記載の細胞の培養方法。
  4. 前記培養容器は、前記細胞懸濁液を攪拌するための攪拌羽を有し、
    前記攪拌羽の回転速度は、20rpm超である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の細胞の培養方法。
  5. 前記攪拌によって前記近位尿細管上皮細胞に負荷されるせん断応力は、絶対値で0.3N/m以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の細胞の培養方法。
  6. 前記近位尿細管上皮細胞の培養期間は、5日以上14日以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の細胞の培養方法。
  7. 前記凝集体を構成する前記近位尿細管上皮細胞の数は、500個以上5000個以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の細胞の培養方法。
  8. 前記凝集体の大きさは、100μm以上350μm以下である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の細胞の培養方法。
  9. 前記近位尿細管上皮細胞は脱分化している細胞であり、前記凝集体の形成により前記近位尿細管上皮細胞の生理機能を回復させる請求項1乃至8のいずれか1項に記載の細胞の培養方法。
  10. 前記凝集体を形成する工程において支持体を用いずに前記凝集体を形成する請求項1乃至9のいずれか1項に記載の細胞の培養方法。
  11. 前記静止の時間は、10分以上30分以下である請求項1乃至10のいずれか1項に記載の細胞の培養方法。
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