JP7062052B2 - 細胞の培養方法および細胞支持複合体の製造方法 - Google Patents

細胞の培養方法および細胞支持複合体の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、細胞の培養方法、細胞支持複合体の製造方法、培養細胞および細胞支持複合体に関する。
近年、腎不全患者の腎機能を代替するバイオ人工腎臓として、中空糸膜等のポリマー膜と近位尿細管上皮細胞等の腎臓細胞(腎機能を有する細胞)をハイブリッド化したモジュールの開発が進められている。このようなハイブリッドモジュール、特にバイオ人工腎臓では、その製造や供給、使用を考慮すると、数週間以上にわたって腎機能を維持できるものが求められる。
また、生体に投与された薬剤は、生体内で作用した後、近位尿細管で血液から尿中に排出される。このため、近位尿細管の細胞は、薬剤の影響を受けやすく、薬剤の毒性によって損傷する可能性がある。このため、新薬開発において、近位尿細管の細胞に対する候補物質の毒性や、近位尿細管の細胞を介した薬物の代謝を予測するモジュールの開発は非常に有用である。これに対し、上述したポリマー膜と近位尿細管上皮細胞のハイブリッドモジュールは、この薬物評価モジュールとしても好適に採用し得る。
バイオ人工腎臓や薬物評価モジュールに用いられる近位尿細管上皮細胞に関して、特許文献1には、細胞周期制御因子の遺伝子発現を抑制することで、十分な数の近位尿細管上皮細胞が得られるように当該細胞の分裂寿命を延長する培養技術が開示されている。
特開2011-50358号公報
本発明者は、腎臓細胞の培養技術について鋭意研究を重ねた結果、従来の培養技術では、培養により腎臓細胞の生理機能が低下してしまい、このためバイオ人工腎臓や薬物評価モジュールへ利用可能な培養細胞の作製が困難であることを見出した。そして、本発明者は、腎臓細胞をコンフルエント且つ単層の状態で所定期間培養することで、培養により低下した生理機能を回復させられることを見出した。一方、この方法で生理機能の回復を図るためには、細胞の単層状態を安定的に維持できることが望まれる。
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、細胞の単層状態を安定的に維持するための技術を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明のある態様は細胞の培養方法である。当該培養方法は、ラミニン分子の断片、基底膜マトリックス混合物の断片および基底膜マトリックス混合物の完全体からなる群から選択される1種以上の接着分子と、腎臓細胞とを含む細胞懸濁液を基材の培養面に載置する工程と、基材上で腎臓細胞を培養して、細胞のコンフルエントな単層を形成する工程とを含む。この態様によれば、細胞の単層状態を安定的に維持することができる。
上記態様において、細胞懸濁液におけるラミニン分子の断片の濃度は、培養面の単位面積当たり0.66μg超となる濃度であってもよい。また、細胞懸濁液における基底膜マトリックス混合物の完全体の濃度は、培養面の単位面積当たり1.3μg超1053μg未満となる濃度であってもよい。また、細胞接着性物質を培養面に塗布する工程をさらに含み、細胞懸濁液を培養面に載置する工程では、細胞接着性物質を塗布した培養面に細胞懸濁液を載置してもよい。
本発明の別の態様は、細胞支持複合体の製造方法である。当該製造方法は、基材と、基材の培養面に積層される培養細胞のコンフルエントな単層と、を備える細胞支持複合体の製造方法であって、上記いずれかの態様の細胞の培養方法によって基材に細胞のコンフルエントな単層を形成する工程を含む。
本発明のさらに別の態様は、培養細胞である。当該培養細胞は、上記いずれかの態様の細胞の培養方法によって作製される。
本発明のさらに別の態様は、細胞支持複合体である。当該細胞支持複合体は、基材と、基材の培養面に積層される、上記態様の培養細胞のコンフルエントな単層とを備える。
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
本発明によれば、細胞の単層状態を安定的に維持することができる。
図1(A)および図1(B)は、参考例に係る細胞支持複合体の構造を模式的に示す図である。 図2(A)~図2(C)は、実施の形態に係る培養細胞と、この培養細胞を含む細胞支持複合体の構造を模式的に示す図である。 図3(A)~図3(D)は、実施の形態に係る細胞の培養方法および細胞支持複合体の製造方法の第1の工程例を示す図である。 図4(A)~図4(D)は、実施の形態に係る細胞の培養方法および細胞支持複合体の製造方法の第2の工程例を示す図である。 図5(A)~図5(F)は、実施の形態に係る細胞支持複合体の採用例を模式的に示す図である。 ヒト近位尿細管上皮細胞を接着培養した場合における遺伝子発現量の経時変化を示す図である。 細胞単層の状態で培養した際のヒト近位尿細管上皮細胞における遺伝子発現量の経時変化を示す図である。 接着分子の濃度と細胞単層の状態の経時変化との関係を示す図である。 培養17日の細胞の光学顕微鏡画像である。 コーティング剤層を形成した場合の接着分子の濃度と細胞単層の状態の経時変化との関係を示す図である。 培養17日の細胞の光学顕微鏡画像である。 完全長ラミニンの濃度と細胞単層の状態の経時変化との関係を示す図である。 培養17日の細胞の光学顕微鏡画像である。 第1,2Matrigelの濃度と細胞単層の状態の経時変化との関係を示す図である。 培養17日の細胞の光学顕微鏡画像である。
本発明者は、腎臓細胞の培養技術について考察し、以下のような認識を得た。すなわち、腎臓から酵素処理により単離された近位尿細管上皮細胞等の腎臓細胞(初代培養細胞)は、生体内環境の消失や、シャーレ上での二次元培養といった培養環境により、脱分化して機能が徐々に消失する。このため、腎臓細胞を単に培養するだけでは、生理機能が不十分な細胞が増えるだけである。脱分化した細胞を用いてバイオ人工腎臓を製造した場合、血漿中の有用成分の再吸収機能が十分に高くないものとなる可能性がある。また、脱分化した細胞を用いて薬物評価モジュールを製造した場合、高い精度で薬物動態や毒性反応を示さない可能性がある。
これに対し本発明者は、一旦機能が低下してもコンフルエントな単層の状態で所定の長期間培養を継続することで、脱分化した腎臓細胞の生理機能を回復させられるという、驚くべき事実を見出した。また、本発明者は、単層状態での培養による生理機能の回復を実現する上で、特定の培養を行うことで、細胞の単層状態を安定的に維持できることを見出した。
また、腎臓から単離された近位尿細管上皮細胞は、本来の円柱状の細胞構造を維持できず、扁平形状に変化する。さらに、近位尿細管上皮細胞をシャーレや人工膜上に播種すると、単層上皮構造を消失して細胞間に隙間が生じたり、細胞が重層化したりする。このような現象が生じることで、バイオ人工腎臓において有用成分の再吸収機能が劣化し得る。また、薬物評価モジュールの精度が低下し得る。これに対し本発明者は、生理機能が回復した近位尿細管上皮細胞を用いて、基材上に安定した単層上皮構造を形成する技術を見出した。実施の形態は、このような思索に基づいて案出されたものである。
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、この用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。
図1(A)および図1(B)は、参考例に係る細胞支持複合体の構造を模式的に示す図である。図1(A)には、コーティング剤を予め塗布した基材に細胞を播種する一般的な方法で製造した細胞支持複合体が図示されている。図1(B)には、コーティング剤を塗布しない基材に細胞を播種する一般的な方法で製造した細胞支持複合体が図示されている。
図1(A)に示す細胞支持複合体100aは、コーティング剤102をコーティングした人工膜等の基材104に、特定の接着分子を含まない近位尿細管上皮細胞106の懸濁液を滴下して得られる。この細胞支持複合体100aでは、近位尿細管上皮細胞106が重層化したり、細胞間に隙間が空いてしまうことがあった。図1(B)に示す細胞支持複合体100bは、コーティング剤102を塗布していない基材104に、特定の接着分子を含まない近位尿細管上皮細胞106の懸濁液を滴下して得られる。この細胞支持複合体100bにおいても同様に、近位尿細管上皮細胞106の重層化や隙間の発生があった。
近位尿細管上皮細胞106が重層化した領域では、細胞頂端膜側から細胞基底膜側への、トランスポーターを介した有用物質の移動が妨げられ得る(矢印P)。また、隣り合う近位尿細管上皮細胞106の隙間において、基材104を介した濃度依存性の物質移動が生じ得る(矢印Q)。
図2(A)~図2(C)は、実施の形態に係る培養細胞と、この培養細胞を含む細胞支持複合体の構造を模式的に示す図である。図2(A)には、水透過性を有する基材、言い換えれば水透過性が相対的に高い基材を用いた場合の細胞支持複合体が図示されている。図2(B)には、水透過性を有しない基材、言い換えれば水透過性が相対的に低い基材を用いた場合の細胞支持複合体であって、短時間経過した状態が図示されている。図2(C)には、水透過性を有しない基材を用いた場合の細胞支持複合体であって、長時間経過した状態が図示されている。
細胞支持複合体10は、基材12と、コーティング剤層14と、培養細胞のコンフルエントな単層15(以下では適宜、細胞単層15と称する)とを備える。
[基材]
基材12は、例えば人工材料で構成される。基材12は、細胞が播種される培養面12aを有する。培養面12aは、例えば、平面または曲面を有する基材12の少なくとも1つの表面を意味する。基材12が平板状である場合には、培養面12aは、例えば平板の少なくとも一方の主表面を意味する。基材12が円筒状である場合には、培養面12aは、例えば円筒の内側面または外側面の少なくとも一方を意味する。
図2(A)に示すように、基材12は、水や各種イオンに対する透過性を有する。また、基材12は、糖や低分子タンパク質に対する透過性も有することが好ましい。このような基材12を備える細胞支持複合体10は、例えばバイオ人工腎臓として利用することができる。細胞頂端膜側に存在する有用物質50は、細胞単層15を構成する培養細胞16が備える細胞頂端膜側のトランスポーター18および細胞基底膜側のトランスポーター20と、基材12とを介して細胞支持複合体10を通過し、細胞基底膜側に移動する。
各種の物質に対する透過性を持たせるために、基材12には、例えば孔が設けられる。基材12に設けられる孔の平均孔径は、好ましくは5μm以下である。平均孔径を5μm以下とすることで、培養細胞16が基材12を通過するおそれを低減することができる。このような基材12として、例えばTranswell(Corning社:平均孔径0.4μmまたは3.0μm)を用いることができる。
また、図2(B)および図2(C)に示すように、基材12は、水や各種イオンに対する透過性を有しなくてもよい。このような基材12を備える細胞支持複合体10は、例えば、薬物の代謝(培養細胞16による薬物の取込量等)や毒性を評価する薬物評価モジュールとして利用することができる。基材12には、水透過性を有しないシャーレやウェルプレート等を用いることができる。細胞頂端膜側に存在する有用物質50は、培養細胞16のトランスポーター18を介して培養細胞16の内部に取り込まれる。使用開始から短時間のうちは、培養細胞16のトランスポーター20を介した有用物質50の細胞基底膜側への移動が少ないため、図2(B)に示すように細胞単層15に変形は生じない。一方、長時間経過すると、トランスポーター20を介した有用物質50の移動量が増えるが、有用物質50は基材12を通過できないため、図2(C)に示すように細胞単層15が浮き上がってドーム22が形成される。
基材12を構成する素材としては、特に限定されないが、例えばポリスチレン、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル(PET)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレン、ポリスルホン(PSf)、ポリエーテルスルホン(PES)等が例示される。また、基材12の形態としては、特に限定されないが、例えば培養ウェルプレート、培養シャーレ、中空糸膜、Transwell、平膜等の人工膜や、微細流路チップ、中実粒子、中空粒子等が例示される。
[コーティング剤層]
コーティング剤層14は、所定の細胞接着性物質で構成される層である。細胞接着性物質については、後に詳細に説明する。コーティング剤層14は、少なくとも基材12の培養面12aを被覆する。コーティング剤層14は、基材12の培養面12aに接着して基材12に固定される。コーティング剤層14を設けることで、腎臓細胞の懸濁液への後述する接着分子の添加量を減らしながら、培養細胞16の重層化や隙間の発生をより確実に抑制することができる。つまり、細胞単層15をより確実に形成し、維持することができる。なお、コーティング剤層14は、省略することができる。
[細胞単層]
細胞単層15は、基材12の培養面12aに積層される、培養細胞16のコンフルエントな単層である。培養細胞16は、コーティング剤層14を介して基材12の培養面12aに付着する。すなわち、培養細胞16は、コーティング剤層14によって基材12に固定される。なお、コーティング剤層14が省略される場合には、培養細胞16は、直に基材12に接着する。また、いずれの場合であっても、培養細胞16の基材12への固定には、後述する接着分子(図示せず)も寄与する。培養細胞16は、細胞頂端膜側に位置するトランスポーター18と、細胞基底膜側に位置するトランスポーター20とを有する。
培養細胞16は、本実施の形態に係る細胞の培養方法によって作製される。具体的には、培養細胞16は、特定の接着分子と腎臓細胞とを含む細胞懸濁液を基材12の培養面12a上に載置し、基材12上で腎臓細胞を培養して、培養細胞16のコンフルエントな単層を形成し、この状態で所定期間培養することで作製される。
培養細胞16は、細胞支持複合体10に使用される上で、腎臓細胞の生理機能を保持している必要がある。一方で、腎臓細胞を生体内環境とは異なる環境で培養すると、脱分化して生理機能が低下していく。これに対し、上述のように培養細胞16をコンフルエント且つ単層の状態で所定期間培養することで、腎臓細胞の低下した生理機能を回復させることができる。細胞の培養方法については後に詳細に説明する。なお、培養により低下した生理機能が少しでも改善されていれば、本実施の形態における「回復」に含まれる。
培養細胞16の基になる腎臓細胞には、組織由来の腎臓細胞や、iPS細胞、ES細胞またはMuse細胞等の幹細胞由来の腎臓細胞が含まれる。また、腎臓細胞には、例えば近位尿細管系、遠位尿細管系および集合管系の上皮細胞の少なくとも1つが含まれる。より具体的には、腎臓細胞としては、例えば腎臓から採取、単離したヒト近位尿細管上皮細胞、ヒト遠位尿細管上皮細胞およびヒト集合管上皮細胞や、ヒトiPS細胞、ヒトES細胞またはヒトMuse細部から分化誘導した近位尿細管上皮細胞、遠位尿細管上皮細胞および集合管上皮細胞が例示される。より好ましくは、腎臓細胞は、近位尿細管上皮細胞である。また、腎臓細胞には、上述した腎臓細胞の不死化細胞、株化細胞(HK-2細胞等)、特定のトランスポーター等のタンパク質を発現させるために腎臓細胞に遺伝子導入した形質転換細胞、および腎前駆細胞が含まれる。さらに、腎臓細胞としては、ヒト由来の腎臓細胞に代えて、他動物種由来の細胞(MDCK細胞、LLC-PK1細胞、JTC-12細胞等)を用いることもできる。
前記「単層」は、好ましくは培養細胞16の重層化が全く生じていない層である。しかしながら、前記「単層」には、重層化による物質の移動効率の低下が問題とならない程度に一部が重層化した構造(実質的な単層)も含めることができる。また、前記「コンフルエント」とは、好ましくは観察画像の全面積に対する観察画像内の培養細胞16の占有領域の面積が100%の状態である。例えば、前記「コンフルエント」とは、培養面12a全体に対して細胞の占める面積の割合が100%であること、すなわち培養面12aいっぱいに隙間なく細胞が増殖した状態を意味する。しかしながら、前記「コンフルエント」には、隣り合う細胞の隙間における濃度依存性の物質移動の発生が問題とならない程度に一部に隙間を有する状態(実質的なコンフルエント)も含めることができる。単層か否かおよびコンフルエントか否かは、当業者であれば容易に判断することができる。
(細胞の培養方法および細胞支持複合体の製造方法)
図3(A)~図3(D)は、実施の形態に係る細胞の培養方法および細胞支持複合体の製造方法の第1の工程例を示す図である。本実施の形態に係る細胞の培養方法は、特定の接着分子と、上述した腎臓細胞とを含む細胞懸濁液を基材12の培養面12a上に載置する工程と、基材12上で腎臓細胞を培養して、細胞のコンフルエントな単層を形成する工程とを含む。当該培養方法により、細胞のコンフルエントな単層を安定的に維持することができる。したがって、細胞の単層状態を長期間維持することができる。そして、この状態で所定期間培養することで、生理機能を有する状態にある培養細胞16を作製することができる。
また、本実施の形態に係る細胞支持複合体の製造方法は、本実施の形態に係る細胞の培養方法によって基材12に細胞単層15を形成する工程を含む。つまり、本実施の形態の細胞支持複合体の製造方法では、腎臓細胞の培養に用いる基材12を細胞支持複合体10の基材12として利用している。したがって、培養細胞16の作製方法をそのまま細胞支持複合体10の製造方法と解釈することができる。
具体的には、図3(A)に示すように、培養面12aを有する基材12を用意する。培養面12aには、細胞接着性物質は塗布されていない。つまり、培養面12aには、コーティング剤層14は形成されていない。基材12は、最終的に得られる細胞支持複合体10の一部を構成する。
続いて、図3(B)に示すように、腎臓細胞24と接着分子26とを含む細胞懸濁液28を、基材12の培養面12aに載置する。例えば、細胞懸濁液28が培養面12aに滴下される。これにより、培養面12aに腎臓細胞24を播種する。細胞懸濁液28は、腎臓細胞24と接着分子26との接触を促進させるために、培養面12aへの載置前に所定時間静置または振盪してもよい。静置または振盪する時間は、特に限定されないが、例えば室温または37℃で30分以下である。
細胞懸濁液28には、培地が含まれる。培地としては公知の培地、例えばREGM(Lonza社)、EpiCM(ScienCell社)、KeratinocyteSFM(Life Technologies社)等を用いることができる。また、細胞培養に必要な公知の材料を適宜、細胞懸濁液28に含有させることができる。
腎臓細胞24は、公知の方法により入手することができる。あるいは、腎臓細胞24の市販品を使用してもよい。腎臓細胞24の播種密度は、好ましくは10000個/cm以上300000個/cm以下である。播種密度を10000個/cm以上とすることで、細胞単層15をより確実に形成することができる。また、細胞単層15が形成されるまでの時間が著しく長期化することを抑制することができる。また、播種密度を300000個/cm以下とすることで、腎臓細胞24が培養面12aに接着せずに凝集することを抑制することができる。
接着分子26は、ラミニン分子の断片、基底膜マトリックス混合物の断片および基底膜マトリックス混合物の完全体からなる群から選択される1種以上を含む。以下では適宜、ラミニン分子の断片および基底膜マトリックス混合物の断片を、それぞれ断片化ラミニン、断片化基底膜マトリックス混合物という。また、以下では適宜、各断片のもととなるラミニン分子の完全体および基底膜マトリックス混合物の完全体を、それぞれ完全長ラミニン、完全長基底膜マトリックス混合物という。
(ラミニン分子の断片)
断片化ラミニンのもととなる完全長ラミニンは、α鎖、β鎖、γ鎖をそれぞれ1本ずつ持つヘテロ三量体構造をとる。現時点では5種類のα鎖、3種類のβ鎖、3種類のγ鎖が同定されている。ラミニン分子は、これらの組合せによって少なくとも12種類のアイソフォームを形成することが知られている。本実施の形態における断片化ラミニンは、ラミニン111、ラミニン211、ラミニン221、ラミニン311、ラミニン332、ラミニン421、ラミニン511およびラミニン521の各断片のうち1種以上が選択される。
なお、ラミニン分子には、上述したアイソフォームの1カ所以上に所定の修飾基が付加された改変体(改変ラミニン)も含まれる。改変体には、遺伝子組み換え体、すなわち組み換え遺伝子から得られたタンパク質に変異を導入したタンパク質や、遺伝子組み換え体の部分タンパク質、遺伝子組み換え体由来のペプチドを有するタンパク質も含まれる。修飾基は、例えば増殖因子結合分子または細胞接着分子である。
断片化ラミニンとしては、例えば完全長ラミニンのうちドメインIの細胞接着部位(インテグリン結合部位)を含むE8領域の改変体(ラミニン***-E8と表記する)が例示される。このような断片化ラミニンとしては、例えばラミニン111-E8、ラミニン211-E8、ラミニン411-E8、ラミニン421-E8、ラミニン511-E8およびラミニン521-E8が挙げられる。これらの分子量は、いずれも完全長ラミニンの1/5程度である。ラミニン分子の断片としてラミニン511-E8が使用される場合、例えば市販のラミニン511-E8(iMatrix-511:株式会社ニッピ)を使用することができる。
断片化ラミニンとしては、E8領域の改変体だけでなく、細胞接着活性を有するラミニンペプチド、あるいは細胞活性部位のみをペプチド合成したものを用いることもできる。このようなラミニンペプチドとしては、例えばβ鎖のドメインIIIに由来するYIGSR含有ペプチド、β鎖のドメインIIIに由来するPDSGR含有ペプチド、β鎖のドメインIIIに由来するRYVVLPR含有ペプチド、α鎖のドメインIIIに由来するRGD含有ペプチド、γ鎖のドメインIに由来するKAFDITYVRLKF含有ペプチド、α鎖のドメインIに由来するIKVAV含有ペプチドおよびβ鎖のドメインIに由来するLRE含有ペプチド等が例示される。
(基底膜マトリックス混合物の断片および完全体)
断片化基底膜マトリックス混合物のもととなる完全長基底膜マトリックス混合物は、マウス肉腫から抽出された細胞外マトリックスタンパク質の混合物である。完全長基底膜マトリックス混合物は、ラミニンと、コラーゲンIVと、エンタクチンとを主な構成成分として含む。断片化基底膜マトリックス混合物は、ラミニンの断片、コラーゲンIVの断片およびエンタクチンの断片の少なくとも1つが混合されたものである。基底膜マトリックス混合物としては、Matrigel(登録商標:Corning社)が例示される。
Matrigelとは、細胞外マトリックスタンパク質を豊富に含むEngelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫から抽出された、可溶性の基底膜マトリックスをいう。本実施の形態において、Matrigelには、成長因子を含む通常のMatrigelに加えて、このMatrigelと比べて成長因子が低減されたMatrigel(Growth Factor Reduced Matrigel Matrix)も含まれる。以下では適宜、通常のMatrigelを第1Matrigelと称し、成長因子が低減されたMatrigelを第2Matrigelと称する。第1Matrigelおよび第2Matrigelは、例えばCorning社から入手することができる。第1Matrigelは、ラミニンを約56%、コラーゲンIVを約31%、エンタクチンを約8%含む。一方、第2Matrigelは、ラミニンを約61%、コラーゲンIVを約30%、エンタクチンを約7%含む。
また、基底膜マトリックス混合物としては、ラミニンと、コラーゲンIVと、エンタクチンとが約56~約61:約30~約31:約7~約8の質量比にて混合された混合物を用いることもできる。
断片化ラミニンおよび断片化基底膜マトリックス混合物は、それぞれの完全体に比べて分子量が小さい。このため、より微細な領域に進入することができる。また、接着分子の凝集が生じにくくなるため、接着分子26をより均一に細胞懸濁液28に分散させることができる。これらにより、細胞単層15をより安定的に維持することができる。
上述したラミニン分子の断片、基底膜マトリックス混合物の断片および基底膜マトリックス混合物の完全体は、それぞれ単独で、または2種以上を混合して用いることができる。また、断片化ラミニンは、1種類のアイソフォームが単独で用いられてもよいし、複数のアイソフォームが混合されて用いられてもよい。同様に、断片化基底膜マトリックス混合物および完全長基底膜マトリックス混合物は、それぞれ1種類が単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
細胞懸濁液28における接着分子26の濃度は、好ましくは培養面12aの単位面積(1cm)当たり0.04μg以上、つまり0.04μg/cm以上となる濃度であり、より好ましくは0.22μg/cm超、さらに好ましくは0.66μg/cm超となる濃度である。接着分子26の濃度を0.04μg/cm以上とすることで、接着分子26の機能をより確実に発揮させて、細胞単層15の構造をより確実に維持することができる。また、接着分子26の濃度を0.22μg/cm超、さらには0.66μg/cm超とすることで、細胞単層15の構造を維持できる日数を延ばすことができる。
特に、接着分子26の濃度を0.66μg/cm超とした場合、より確実に細胞支持複合体10の実用期間の間、細胞単層15の構造を維持することができる。細胞支持複合体10の実用期間は、好ましくは細胞単層15が形成されてから16日以上である。なお、接着分子26の濃度は、さらに好ましくは1.97μg/cm以上である。これにより、細胞単層15の構造を維持できる期間を、より一層確実に細胞支持複合体10の実用期間以上とすることができる。また、接着分子26の濃度は、例えば22μg/cm以下である。
細胞懸濁液28を培養面12aに滴下した後、図3(C)に示すように、培養面12aに播種された腎臓細胞24を培養する。培養条件は、例えば37℃、5%COである。培養期間中、培地は定期的に交換することが好ましい。例えば、培地は毎日あるいは2日毎に交換される。
その結果、図3(D)に示すように、培養細胞16のコンフルエントな単層、つまり細胞単層15が得られる。細胞懸濁液28には接着分子26が散在している。このため、腎臓細胞24同士の接着や腎臓細胞24と培養面12aとの接着が、接着分子26によって補強される。これにより、細胞単層15の形状、つまり培養細胞16の単層状態を安定的に維持することができる。細胞単層15は、腎臓細胞24を基材12に播種した日から、通常1日以内(すなわち24時間以内)に形成される。以上の工程により、基材12と、基材12の培養面12aに積層される培養細胞16のコンフルエントな単層とを備える細胞支持複合体10を得ることができる。
上述した第1の工程例によれば、図2(A)等に図示するコーティング剤層14を有しない細胞支持複合体10が得られる。一方、コーティング剤層14を有する細胞支持複合体10は、以下に説明する第2の工程例によって製造することができる。図4(A)~図4(D)は、実施の形態に係る細胞の培養方法および細胞支持複合体の製造方法の第2の工程例を示す図である。以下に説明する第2の工程例は、第1の工程例における各工程に加えて、細胞接着性物質30を培養面12aに塗布する工程をさらに含む。
具体的には、図4(A)に示すように、基材12の培養面12aに細胞接着性物質30を塗布して、コーティング剤層14を形成する。基材12およびコーティング剤層14は、最終的に得られる細胞支持複合体10の一部を構成する。細胞接着性物質30としては、公知の細胞接着性タンパク質を用いることができる。
より具体的には、細胞接着性物質30として、コラーゲン、ゼラチン等の細胞外基質タンパク質;血清、血清アルブミン、トランスフェリン等の血漿成分;EGF(Epidermal Growth Factor)、HGF(Hepatocyte Growth Factor)、BMP(Bone Morphogenetic Protein)等の細胞成長因子が例示される。細胞接着性物質30は、それぞれ単独で、または2種以上を混合して用いることができる。細胞接着性物質30を構成するタンパク質は、ヒト由来であることが好ましい。また、細胞接着性物質30は、接着分子26と同じ、ラミニン分子の断片、基底膜マトリックス混合物の断片および基底膜マトリックス混合物の完全体であってもよい。
細胞接着性物質30は、例えば細胞接着性物質30を含有する溶液の態様で、培養面12aに塗布される。細胞接着性物質30を含有する溶液は、細胞接着性物質30の活性を低下させない水系溶液であることが好ましい。具体的には、中性緩衝液や細胞培養用培地が例示される。中性緩衝液としては、PBS(Phosphate buffered saline)等のリン酸溶液、SSC(Standard Saline Citrate)等のクエン酸溶液、TBE(Tris-borate-EDTA)等のホウ酸溶液、TE(Tris-EDTA Buffer)等のトリス緩衝液、HEPES等が例示される。また、細胞培養用培地としては、DMEM、D-MEM/Ham‘s F-12、MEM、α-MEM、IMDM、GMEM、REGM、EpiCM、KeratinocyteSFM等が例示される。
一般に、細胞培養用培地には、細胞接着性物質30としての機能を有する細胞成長因子が含まれる。このため、基材12の培養面12aに培地を塗布することで、コーティング剤層14を形成することができる。このとき、コーティング剤層14の形成に用いる培地は、細胞懸濁液28に含まれる培地と同一のものであることが好ましい。この場合、コーティング剤層14の形成後、基板上に培地を残したまま、続く細胞懸濁液28の滴下を実施することができる。
コーティング剤層14の形成方法、言い換えれば培養面12aの馴化処理方法は、特に限定されない。例えば、基材12の培養面12aに細胞接着性物質30の溶液を接触させ、所定温度で所定時間、振盪または静置する。処理温度および処理時間は特に限定されないが、例えば4℃で12時間以上、もしくは37℃で2時間以上である。これにより、培養面12aにコーティング剤層14が形成される。
続いて、図4(B)に示すように、腎臓細胞24と接着分子26とを含む細胞懸濁液28を基材12の培養面12aに載置する。培養面12a上にはコーティング剤層14が形成されているため、腎臓細胞24はコーティング剤層14上に播種される。腎臓細胞24および接着分子26の種類、腎臓細胞24の播種密度、接着分子26の濃度等は、第1の工程例と同様である。
そして、図4(C)に示すように、培養面12aに播種された腎臓細胞24を培養する。培養条件は、第1の工程例と同様である。
その結果、図4(D)に示すように、細胞単層15が得られる。細胞懸濁液28には接着分子26が散在している。このため、腎臓細胞24同士の接着や腎臓細胞24とコーティング剤層14との接着が、接着分子26によって補強される。これにより、培養細胞16の単層状態を安定的に維持することができる。
また、基材12に対する腎臓細胞24の接着は、コーティング剤層14によっても補強される。このため、接着分子26の使用量を削減しながら、培養細胞16の単層状態を安定的に維持することができる。細胞単層15は、腎臓細胞24を基材12に播種した日から、通常1日以内(すなわち24時間以内)に形成される。以上の工程により、基材12と、コーティング剤層14と、細胞単層15とがこの順に積層された構造を有する細胞支持複合体10を得ることができる。
好ましくは、細胞の培養方法および細胞支持複合体の製造方法は、細胞単層15が形成された状態で、16日以上60日以下の期間培養する工程を含む。これにより、生体内環境の消失等によって脱分化した腎臓細胞24の生理機能を回復させることができる。つまり、細胞単層15が形成された直後の培養細胞16よりも生理機能の高い発現状態にある培養細胞16を得ることができる。
培養期間を16日以上とすることで、生理機能が回復した培養細胞16をより確実に得ることができる。また、より幅広く生理機能を回復させることができる。また、培養期間を60日以下とすることで、細胞単層15の構造、すなわち培養細胞16のコンフルエントで且つ重層化していない状態をより確実に維持することができる。なお、別処理で生理機能を回復させた腎臓細胞24を培養面12aに播種してもよい。この場合には、16日以上の培養期間を経ずに、例えば培養1日後であっても、細胞支持複合体10として使用することができる。
細胞単層15における培養細胞16の密度は、好ましくは25000個/cm以上75000個/cm以下である。細胞密度を25000個/cm以上とすることで、細胞単層15をより確実に形成することができる。また、細胞単層15における細胞同士の十分な接着状態を得ることができる。これにより、生理機能が回復した培養細胞16をより確実に形成することができる。また、細胞密度を75000個/cm以下とすることで、培養細胞16の凝集体の形成を抑制することができる。当該凝集体の形成を抑制することで、凝集体の周囲に隙間が生じることを抑制でき、よって細胞単層15の構造をより確実に維持することができる。
また、細胞単層15の構造を維持できることで、基材12および細胞単層15の積層体、ならびに基材12、コーティング剤層14および細胞単層15の積層体を、そのまま細胞支持複合体10として用いることができる。
[細胞支持複合体が用いられた装置]
図5(A)~図5(F)は、実施の形態に係る細胞支持複合体の採用例を模式的に示す図である。なお、図5(A)~図5(F)では、細胞支持複合体が組み込まれた構造の一部を図示している。本実施の形態に係る細胞支持複合体10は、様々な装置に適用することができる。
例えば、図5(A)は、Transwell32を備える第1装置34に細胞支持複合体10が組み込まれた様子を図示している。Transwell32の構造は公知であるため、詳細な説明は省略する。第1装置34では、細胞単層15が配置された側に、所定物質を含む第1液体36が供給される。第1液体36中の所定物質は、培養細胞16に取り込まれて細胞支持複合体10を通過し、細胞支持複合体10を挟んで第1液体36とは反対側に位置する第2液体38に移動する。第1装置34は例えば、細胞の機能や、薬物の取込・排出を微量液量で調べる薬物評価モジュールとして使用可能である。
図5(B)は、基材12として中空糸膜が用いられた細胞支持複合体10が第2装置40に組み込まれた様子を図示している。第2装置40では、基材12としての中空糸膜の管腔内にコーティング剤層14と細胞単層15とが形成されている。第2装置40は、中空糸膜の管腔内に液体を流すことによって、この液体中にある所定物質を培養細胞16で取り込んで、中空糸膜の管腔外へ移動させることができる。第2装置40は例えば、血液濾過器で濾過した血漿成分中から有用物質を回収するバイオ人工腎臓モジュールとして使用可能である。
図5(C)は、微細流路チップ42に細胞支持複合体10が組み込まれた様子を図示している。微細流路チップ42では、基材12が微細流路を構成している。そして、微細流路の内壁にコーティング剤層14と細胞単層15とが形成されている。微細流路チップ42では、流路内、すなわち培養細胞16が配置された側に微量の液体が流される。そして、液体中の所定物質が培養細胞16に取り込まれる。微細流路チップ42は例えば、細胞の機能や、薬物の取込・排出を微量液量で調べる薬物評価モジュールとして使用可能である。
図5(D)は、細胞支持複合体10が中空マイクロキャリア44を構成している様子を図示している。また、図5(E)は、細胞支持複合体10が中実マイクロキャリア46を構成している様子を図示している。中空マイクロキャリア44および中実マイクロキャリア46では、基材12がキャリア本体を構成している。そして、基材12の外表面にコーティング剤層14および細胞単層15が形成されている。中空マイクロキャリア44および中実マイクロキャリア46では、培養細胞16が配置された側に微量の液体が流される。そして、液体中の所定物質が培養細胞16に取り込まれる。中空マイクロキャリア44および中実マイクロキャリア46は例えば、細胞の機能や、薬物の取込・排出を微量液量で調べる薬物評価モジュールとして使用可能である。
図5(F)は、ウェルプレート48に細胞支持複合体10が組み込まれた様子を図示している。ウェルプレート48では、細胞支持複合体10がウェル底面に配置される。この状態で、細胞単層15はウェルの上側を向く。ウェルプレート48では、ウェル内に微量の液体49が注入される。そして、液体49中の所定物質が培養細胞16に取り込まれる。ウェルプレート48は例えば、細胞の機能や、薬物の取込・排出を微量液量で調べる薬物評価モジュールとして使用可能である。なお、ウェルプレート48に代えて、培養ディッシュ(シャーレ等)に細胞支持複合体10が組み込まれてもよい。
上述の、細胞支持複合体10を組み込んだモジュールは、第2装置40のように適宜カートリッジに収容されて使用される。
以上説明したように、本実施の形態に係る細胞の培養方法は、ラミニン分子の断片、基底膜マトリックス混合物の断片および基底膜マトリックス混合物の完全体からなる群から選択される1種以上の接着分子26と、腎臓細胞24とを含む細胞懸濁液28を基材12の培養面12a上に載置する工程と、基材12上で腎臓細胞24を培養して、細胞のコンフルエントな単層を形成する工程とを含む。このように、接着分子26を細胞懸濁液28に添加するという簡単な処理で、細胞の単層状態を安定的に維持することができる。これにより、培養によって低下した腎臓細胞24の生理機能をより確実に回復させることができる。
本実施の形態の培養方法では、脱分化して生理機能を消失した腎臓細胞24をコンフルエント且つ単層の状態で培養することで、生理機能を再獲得、言い換えれば再分化させている。したがって、本実施の形態の培養方法によれば、生理機能が従来に比べて良好な状態にある培養細胞16を獲得することができる。
また、細胞単層15を安定的に維持する方法としては、接着分子26の溶液を予め培養面12aに塗布して腎臓細胞24を培養すること、つまり接着分子26からなるコーティング剤層14上で腎臓細胞24を播種することが考えられる。しかしながら、この方法では、接着分子26の溶液を乾燥させる過程で溶液に偏りが生じ、これが接着分子26の塗布むらにつながることがあった。接着分子26の塗布むらがあると、培養面12aには、腎臓細胞24が接着しやすい部分と腎臓細胞24が接着し難い部分とが形成される。この結果、コーティング剤層14の一部の領域が腎臓細胞24の凝集化の基点となってしまい、細胞単層15を安定的に維持することが困難となる場合があった。
接着分子26の局在を防ぐために、培養面12aへの接着分子溶液の添加量を増やすことが考えられるが、この場合は培養細胞16や細胞支持複合体10の製造コストの増加につながる。また、バイオ人工腎臓や薬物動態評価モジュールでは、比較的複雑な形状の基材12が用いられる。この場合、基材12の表面のうち、培養面12a以外の表面にも接着分子26が塗布され得る。この結果、接着分子26の使用量が増え、コスト増加につながる。これに対し、細胞懸濁液28に接着分子26を添加する態様であれば、接着分子26の使用量の増加を抑えながら、培養面12a上や腎臓細胞24の周囲に接着分子26を均一に分散させることができる。よって、コストの増加を抑えながら、細胞単層15の構造を安定的に維持することができる。
また、本実施の形態に係る細胞支持複合体10の製造方法は、本実施の形態に係る細胞の培養方法によって基材12に細胞単層15を形成する工程を含む。このように、本実施の形態に係る細胞の培養方法によって得られる高機能細胞を用いて細胞支持複合体10を製造することで、高性能なバイオ人工臓器やインビトロ評価系を提供することができる。また、細胞単層15の安定性が向上するため、培養細胞16が基材12上でコンフルエントに達したことを顕微鏡観察により確認する手間を省くことができる。よって、所望形状の細胞支持複合体10を容易に製造することができる。また、同一構造の細胞支持複合体10を大量に製造することができる。
また、本実施の形態の一例は、細胞接着性物質30を培養面12aに塗布する工程をさらに含む。そして、細胞接着性物質30を塗布した培養面12aに細胞懸濁液28を載置する。このように、細胞懸濁液28を載置する前に、培養面12aに馴化処理を施すことで、細胞単層15の構造をより長期間、安定的に維持することができる。また、細胞単層15の構造を安定的に維持するために必要な接着分子26の使用量を低減させることができる。
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれるものである。上述の実施の形態と以下の変形例との組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
[近位尿細管上皮細胞における遺伝子発現の解析:試験1]
試験1により、近位尿細管上皮細胞における生理機能の低下を確認した。まず、ゼラチン溶液(シグマ社)でコーティングした60mmシャーレ(Corning社)にヒト近位尿細管上皮細胞(Lonza社)を100000個播種した。そして、培地としてREGM(Lonza社)を用いて37℃、5%COの条件下で培養した。
RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)を用いて、播種直後(すなわち0時間)と培養4日(すなわち96時間)の近位尿細管上皮細胞からmRNAを抽出し、精製した。続いて、QuantiTect Reverse Transcription Kit(QIAGEN社)を用いて、精製したmRNAからcDNAを合成した。これらのcDNAを鋳型とし、Thermal Cycler Dice Real Time System I(タカラバイオ株式会社)を用いて、リアルタイムPCR法にてAQP1、CD13、SGLT2、Na/K ATPase、PEPT1、MDR1、OAT1、OCTN2、E-cadherinおよびZO-1の各遺伝子の発現量を測定した。
これらの遺伝子は、腎臓細胞の生理機能に関連する遺伝子である。具体的には、AQP1(aquaporin 1)は、水の輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。CD13(alanyl aminopeptidase)は、タンパク質のペプチド化に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。SGLT2(sodium glucose cotransporter 2)は、ナトリウムおよびグルコースの輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。Na/K ATPaseは、イオンの輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。PEPT1(peptide transporter 1)は、ペプチドの輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。MDR1(multiple drug resistance 1)、OAT1(organic anion transporter 1)およびOCTN2(organic cation transporter novel 1)は、薬剤の輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。E-cadherinおよびZO-1(zonula occludens-1)は、細胞間結合に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。
各遺伝子について、播種直後の発現量に対する培養4日の発現量の比率(day4/day0)を算出した。結果を図6に示す。図6は、ヒト近位尿細管上皮細胞を接着培養した場合における遺伝子発現量の経時変化を示す図である。図6に示すように、全ての遺伝子において比率は1を下回っていた。すなわち、培養4日の各遺伝子の発現量は、培養直後に比べて低下していた。この結果から、近位尿細管上皮細胞は、シャーレでの二次元培養によって遺伝子発現量が低下すること、すなわち脱分化することが示された。なお、播種直後であっても、近位尿細管上皮細胞の生理機能はある程度低下していると推察される。
[遺伝子発現量の経時変化解析:試験2]
試験2により、遺伝子発現量の変化から、近位尿細管上皮細胞の長期培養による生理機能の回復を確認した。まず、試験1と同様にして脱分化させたヒト近位尿細管上皮細胞(Lonza社)の懸濁液を調製した。また、20μg/mlに調整したラミニン511-E8溶液(ニッピ社)で、12ウェルのTranswell(Corning社)の培養面をコーティングした。このTranswellに、調製した細胞懸濁液を滴下した。細胞の播種数は200000個(播種密度は179000個/cm)とした。培地としてREGM(Lonza社)を用いて37℃、5%COの条件下で培養し、細胞単層を形成した。そして、細胞単層が形成された日から56日間培養した。培地は2日毎に交換した。
細胞を光学顕微鏡観察したところ、ほぼ1日のうちにコンフルエントに達することが確認された。したがって、播種からの培養期間を細胞単層形成日からの培養期間と捉えることができる。細胞単層が形成された直後(すなわち0時間)の近位尿細管上皮細胞と、単層形成日から培養4,10,16,56日(すなわち96,240,384,1344時間)の近位尿細管上皮細胞とから、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)を用いてmRNAを抽出し、精製した。続いて、QuantiTect Reverse Transcription Kit(QIAGEN社)を用いて、精製したmRNAからcDNAを合成した。これらのcDNAを鋳型とし、Thermal Cycler Dice Real Time System I(タカラバイオ株式会社)を用いて、リアルタイムPCR法にてAQP1、SGLT2、Na/K ATPase、megalin、MDR1、OAT1、OCT2およびE-cadherinの各遺伝子の発現量を測定した。なお、megalinおよびOCT2の両遺伝子は、近位尿細管上皮細胞のマーカーである。具体的には、megalinは、タンパク質の再吸収に関与する受容体タンパク質をコードする遺伝子である。OCT2(organic cation transporter 2)は、薬剤の輸送に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。
各遺伝子について、細胞単層が形成された直後の発現量に対する培養M日(M=4,10,16,56)の発現量の比率(dM/d0)を算出した。結果を図7に示す。図7は、細胞単層の状態で培養した際のヒト近位尿細管上皮細胞における遺伝子発現量の経時変化を示す図である。
図7に示すように、E-cadherinを除く各遺伝子は、培養10日までに比べて培養16日で急激に発現量が上昇することが確認された。E-cadherin遺伝子についても、培養16日で高い発現量であった。このことから、ヒト近位尿細管上皮細胞がコンフルエントな単層を形成している状態で16日以上培養することで、生理機能の改善された細胞がより確実に得られることが確認された。また、培養56日においても、ほとんどの遺伝子について、高い発現量が維持されていることが確認された。したがって、培養56日においても、生理機能の改善された細胞が得られることが確認された。
[細胞懸濁液への接着分子の添加による効果の解析:試験3]
試験3により、細胞懸濁液への接着分子の添加による細胞単層の形成への影響を確認した。まず、10cmシャーレ(Corning社)にヒト近位尿細管細胞(Lonza社)を播種して、6日間、培養した。そして、0.1%トリプシン溶液(Lonza社)で細胞を剥離し、回収した。回収した細胞にREGM(Lonza社)を添加し、細胞濃度3×10個/mlの細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液に、ラミニン511-E8(iMatrix-511、ニッピ社)を所定濃度となるように添加した。ラミニン511-E8の濃度は、0、0.2、0.8、1.7、2.5、7.5、17、33、83μg/mlとした。この濃度は、培養面の単位面積当たりの添加量(L511量/cm)に換算すると、0.00、0.04、0.22、0.44、0.66、1.97、4.39、8,76、21.92μg/cmである。
各ラミニン濃度の細胞懸濁液をCorning(登録商標)CellBIND(登録商標)24ウェルプレート(Corning社)に500μl播種した。24ウェルプレートは、包装を開封した直後のものを用いた。すなわち、コーティング剤層を形成していないプレートを用いた。そして37℃、5%COの条件下で培養した。培地は毎日交換した。
各プレートについて、播種から1、3、7、10、13、17、30、60日経過後の細胞の状態を顕微鏡観察した。そして、細胞単層が維持されている場合を「○」と評価した。また、一部に凝集化の兆候が見られたが、生理機能の回復や細胞支持複合体としての使用に支障のない程度である場合、つまり実質的な単層が維持されている場合を「△」と評価した。また、生理機能の回復や細胞支持複合体としての使用に支障がでる程度に凝集化した場合を「×」と評価した。すなわち、「○」と「△」は合格であり、「×」は不合格である。結果を図8に示す。また、代表例として、播種から17日経過後の各プレートにおける細胞の光学顕微鏡画像(倍率×100)を図9に示す。図8は、接着分子の濃度と細胞単層の状態の経時変化との関係を示す図である。図9は、培養17日の細胞の光学顕微鏡画像である。
図8に示すように、接着分子としてのラミニン511-E8を細胞懸濁液に添加しなかった場合(0μg/cm)、培養10日で細胞の凝集体が観察された。これに対し、添加量0.04μg/cmでラミニン511-E8を細胞懸濁液に添加した場合、培養10日では凝集体は観察されず、培養13日で凝集体が観察された。このことから、接着分子を細胞懸濁液に添加することで、細胞単層を安定化させることができ、単層の維持期間を延長できることが確認された。
また、添加量0.22μg/cmでは培養13日で凝集体が観察されたが、添加量0.44μg/cmでは培養13日で凝集体が観察されなかった。このことから、接着分子としての断片化ラミニンの濃度は0.22μg/cm超がより好ましいことが確認された。また、添加量0.66μg/cmでは培養17日で凝集体が観察されたが、添加量1.97μg/cmでは培養17日で凝集体が観察されなかった(図9も参照)。このことから、接着分子としての断片化ラミニンの濃度は0.66μg/cm超がさらに好ましいことが確認された。また、添加量1.97μg/cmでは培養60日で凝集体が観察されたが、添加量4.39μg/cmでは培養60日で凝集体が観察されなかった。このことから、接着分子としての断片化ラミニンの濃度は1.97μg/cm超がさらに好ましいことが確認された。
[接着分子の添加とコーティング剤層との組み合わせによる効果の解析:試験4]
試験4により、細胞懸濁液への接着分子の添加と、基材に形成したコーティング剤層との組み合わせによる、細胞単層への影響を確認した。まず、試験3と同様にして、細胞濃度3×10個/mlの細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液に、試験3と同濃度となるようにラミニン511-E8(iMatrix-511、ニッピ社)を添加した。
また、Corning(登録商標)CellBIND(登録商標)24ウェルプレート(Corning社)に、REGM(Lonza社)を300μl添加し、4℃で24時間静置した。続いて、細胞播種2時間前に37℃で静置して、細胞播種直前にREGMを除去した。これにより、24ウェルプレートの培養面にコーティング剤層を形成した。そして、コーティング剤層を形成したプレートに各ラミニン濃度の細胞懸濁液を500μl播種した。その後、37℃、5%COの条件下で培養した。培地は毎日に交換した。
各プレートについて、播種から1、3、7、10、13、17、30、60日経過後の細胞の状態を顕微鏡観察し、試験3と同様に細胞の状態を評価した。結果を図10に示す。また、代表例として、播種から17日経過後の各プレートにおける細胞の光学顕微鏡画像(倍率×100)を図11に示す。図10は、コーティング剤層を形成した場合の接着分子の濃度と細胞単層の状態の経時変化との関係を示す図である。図11は、培養17日の細胞の光学顕微鏡画像である。
図10に示すように、ラミニン添加量0.22μg/cmでは、コーティング剤層がないときは培養13日で凝集体が観察されたが(図8参照)、コーティング剤層があるときは培養13日で凝集体が観察されなかった。基材にコーティング剤層を設けた場合、添加量0.22μg/cmでは培養17日で凝集体が観察された。また、添加量0.44μg/cmおよび0.66μg/cmでは、コーティング剤層がないときは培養17日で凝集体が観察されたが(図8参照)、コーティング剤層があるときは培養17日で凝集体が観察されなかった(図11も参照)。基材にコーティング剤層を設けた場合、添加量0.44μg/cmおよび0.66μg/cmでは、培養60日でも凝集体が観察されなかった。
このことから、細胞懸濁液を載置する前に基材の培養面にコーティング剤層を形成することで、細胞単層の構造をより長期間、安定的に維持できることが確認された。また、例えば培養17日では、コーティング剤層がないときは添加量0.66μg/cm以下で凝集体が観察されたが、コーティング剤層があるときは添加量0.22μg/cm以下で凝集体が観察された。つまり、コーティング剤層を設けることで、細胞単層の維持に必要な接着分子の量を低減できることが確認された。
なお、本試験における添加量0.00μg/cmでの培養は、接着分子を細胞懸濁液に添加せず、且つコーティング処理が施されたプレートを用いる点で、試験2と同条件である。一方で、本試験では培養10日で凝集体が観察されたが、試験2では培養56日後も細胞単層が維持された。この差は、試験2と本試験とで、細胞接着性物質の塗布量が異なることや、用いた細胞ロットの凝集化傾向が異なることが原因であると推察される。しかしながら、細胞懸濁液への接着分子の添加によって細胞単層を安定化できることは、本試験から理解することができる。
[接着分子の種類の解析:試験5]
試験5により、細胞単層の構造維持に有効な接着分子の種類を確認した。本試験では、ラミニン511-E8に代えて完全長ラミニンであるラミニン511(Biolamina社)を用い、一部のラミニン濃度での試験を省略した点を除いて、試験3と同様に各ラミニン濃度の細胞懸濁液を調製し、細胞を播種し、培養した。試験5で確認したラミニン濃度は、0、0.8、2.5、7.5、33μg/ml(0.00、0.22、0.66、1.97、8,76μg/cm)である。
各プレートについて、播種から1、3、7、10、13、17、30、60日経過後の細胞の状態を顕微鏡観察し、試験3と同様に細胞の状態を評価した。結果を図12に示す。また、代表例として、播種から17日経過後の各プレートにおける細胞の光学顕微鏡画像(倍率×100)を図13に示す。図12は、完全長ラミニンの濃度と細胞単層の状態の経時変化との関係を示す図である。図13は、培養17日の細胞の光学顕微鏡画像である。
図12および図13に示すように、完全長ラミニンを細胞懸濁液に添加した場合には、断片化ラミニンを添加した際に見られたような、細胞単層の形状維持効果は認められなかった。このことから、細胞単層の形状を長期間にわたって安定的に維持するためには、ラミニン分子の断片を細胞懸濁液に添加する必要があることが確認された。なお、本発明者は、断片化基底膜マトリックス混合物および完全長基底膜マトリックス混合物についても、断片化ラミニンと同様の効果が得られることを確認している。完全長基底膜マトリックス混合物の効果については、以下の試験6で説明する。
[細胞懸濁液への完全長基底膜マトリックス混合物の添加による効果の解析:試験6]
試験6により、細胞懸濁液への完全長基底膜マトリックス混合物の添加による細胞単層の形成への影響を確認した。まず、10cmシャーレ(Corning社)にヒト近位尿細管細胞(Lonza社)を播種して、6日間、培養した。そして、0.1%トリプシン溶液(Thermo Fisher Scientific社)で細胞を剥離し、回収した。回収した細胞にREGM(Lonza社)を添加し、細胞濃度3×10個/mlの細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液に、完全長基底膜マトリックス混合物として第1Matrigel(Corning社)または第2Matrigel(Corning社)を所定濃度となるように添加した。上述の通り、第1Matrigelは、成長因子を含む通常のMatrigelであり、第2Matrigelは、第1Matrigelと比べて成長因子が低減されたMatrigel(Growth Factor Reduced Matrigel Matrix)である。
細胞懸濁液中の第1Matrigelの濃度は、5.0、25、100、500、1000、2500、5000μg/mlとした。この濃度は、培養面の単位面積当たりの添加量(第1Matrigel量/cm)に換算すると、1.3、6.6、26、132、263、658、1316μg/cmである。また、細胞懸濁液中の第2Matrigelの濃度は、5.0、25、100、400、1000、2500、4000μg/mlとした。この濃度は、培養面の単位面積当たりの添加量(第2Matrigel量/cm)に換算すると、1.3、6.6、26、105、263、658、1053μg/cmである。
各細胞懸濁液を、Corning(登録商標)CellBIND(登録商標)24ウェルプレート(Corning社)に500μl播種した。この24ウェルプレートは、コーティング剤層を形成していないプレートである。そして37℃、5%COの条件下で培養した。培地は2日毎に交換した。
各プレートについて、播種から3、7、10、13、17、21日経過後の細胞の接着状態を顕微鏡観察した。そして、試験3と同様に細胞の状態を評価した。結果を図14に示す。また、代表例として、播種から17日経過後の一部のプレートにおける細胞の光学顕微鏡画像(倍率×100)を図15に示す。図14は、第1,2Matrigelの濃度と細胞単層の状態の経時変化との関係を示す図である。図15は、培養17日の細胞の光学顕微鏡画像である。
図15に示すように、添加量1.3μg/cmで第1Matrigelまたは第2Matrigelを細胞懸濁液に添加した場合、培養17日で細胞の凝集体が観察された。また、添加量1316μg/cmで第1Matrigelを細胞懸濁液に添加した場合、および添加量1053μg/cmで第2Matrigelを細胞懸濁液に添加した場合、培養17日で細胞が網目状に整列していることが観察された。つまり、細胞単層が維持されないことが観察された。一方、添加量132μg/cmで第1Matrigelを細胞懸濁液に添加した場合、および添加量105μg/cmで第2Matrigelを細胞懸濁液に添加した場合、培養17日で細胞が単層を形成していることが観察された。
また、図14に示すように、第1Matrigelまたは第2Matrigelを細胞懸濁液に添加量1.3μg/cmで添加した場合、培養10日以降で細胞の凝集体が確認された。また、添加量1316μg/cmで第1Matrigelを細胞懸濁液に添加した場合、および添加量1053μg/cmで第2Matrigelを細胞懸濁液に添加した場合、培養3日目で細胞が網目状に分布し、培養21日までこの状態が維持されることが確認された。以上のことから、接着分子としての完全長基底膜マトリックス混合物の添加濃度は、1.3μg/cm超、1053μg/cm未満であることが好ましいことが確認された。
また、第1Matrigelおよび第2Matrigelのいずれにおいても、添加量6.6μg/cm以上658μg/cm以下では、培養21日まで実質的に細胞単層が維持されることが観察された。このことから、接着分子としての完全長基底膜マトリックス混合物の濃度は、6.6μg/cm以上、658μg/cm以下であることがより好ましいことが確認された。
さらに、第1Matrigelおよび第2Matrigelのいずれにおいても、添加量6.6μg/cmでは培養21日までの間に細胞単層の一部が崩れることが確認された(第1Matrigelでは培養17日で△評価、第2Matrigelでは培養13日で△評価)。一方で、添加量26μg/cmでは、培養21日までの間に細胞単層の崩れは観察されなかった。このことから、接着分子としての完全長基底膜マトリックス混合物の濃度は、6.6μg/cm超であることがさらに好ましく、26μg/cm以上であることがより一層好ましいことが確認された。
また、第2Matrigelでは、添加量658μg/cmで培養13日目に細胞単層の一部が網目状になることが確認された。一方で、添加量263μg/cmでは、培養21日までの間に細胞単層の崩れは観察されなかった。このことから、接着分子としての第2Matrigelの濃度は、658μg/cm未満であることがさらに好ましく、263μg/cm以下であることがより一層好ましいことが確認された。
本発明は、細胞の培養方法、細胞支持複合体の製造方法、培養細胞および細胞支持複合体に関する。
10 細胞支持複合体、 12 基材、 12a 培養面、 14 コーティング剤層、 15 細胞単層、 16 培養細胞、 24 腎臓細胞、 26 接着分子、 28 細胞懸濁液、 30 細胞接着性物質。

Claims (7)

  1. ラミニン分子の断片および基底膜マトリックス混合物の完全体からなる群から選択される1種以上の接着分子と、近位尿細管上皮細胞とを含む細胞懸濁液を基材の培養面に載置する工程と、
    前記基材上で前記近位尿細管上皮細胞を培養して、細胞のコンフルエントな単層を形成する工程と、
    を含み、
    前記ラミニン分子の断片は、完全長ラミニン511のうちドメインIの細胞接着部位を含むE8領域の改変体であり、
    前記接着分子が前記ラミニン分子の断片を含む場合、前記細胞懸濁液における前記ラミニン分子の断片の濃度は、前記培養面に対して0.44μg/cm 以上となる濃度であり、
    前記接着分子が前記基底膜マトリックス混合物の完全体を含む場合、前記細胞懸濁液における前記基底膜マトリックス混合物の完全体の濃度は、前記培養面に対して6.6μg/cm 以上658μg/cm 以下となる濃度であることを特徴とする細胞の培養方法。
  2. 前記接着分子が前記ラミニン分子の断片を含む場合、前記細胞懸濁液における前記ラミニン分子の断片の濃度は、前記培養面に対して0.66μg/cm 以上となる濃度である請求項1に記載の細胞の培養方法。
  3. 前記接着分子が前記ラミニン分子の断片を含む場合、前記細胞懸濁液における前記ラミニン分子の断片の濃度は、前記培養面に対して1.97μg/cm 以上となる濃度である請求項1に記載の細胞の培養方法。
  4. 前記接着分子が前記ラミニン分子の断片を含む場合、前記細胞懸濁液における前記ラミニン分子の断片の濃度は、前記培養面に対して4.39μg/cm 以上となる濃度である請求項1に記載の細胞の培養方法。
  5. 前記接着分子が前記基底膜マトリックス混合物の完全体を含む場合、前記細胞懸濁液における前記基底膜マトリックス混合物の完全体の濃度は、前記培養面に対して26μg/cm 以上263μg/cm 以下となる濃度である請求項1に記載の細胞の培養方法。
  6. 細胞接着性物質を、前記培養面に塗布する工程をさらに含み、
    前記載置する工程では、前記細胞接着性物質を塗布した前記培養面に前記細胞懸濁液を載置する請求項1乃至のいずれか1項に記載の細胞の培養方法。
  7. 基材と、前記基材の培養面に積層される培養細胞のコンフルエントな単層と、を備える細胞支持複合体の製造方法であって、
    請求項1乃至のいずれか1項に記載の細胞の培養方法によって前記基材に前記単層を形成する工程を含むことを特徴とする細胞支持複合体の製造方法。
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