JP7146202B1 - 地盤注入材および地盤注入工法 - Google Patents

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  • Consolidation Of Soil By Introduction Of Solidifying Substances Into Soil (AREA)
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Abstract

【課題】従来の発明をさらに発展せしめ、注入地盤の環境負荷を低減するために、従来の定性的な技術を定量的技術として、環境保全型の地盤注入工法および地盤注入材を提供する。【解決手段】シリカ濃度が1~40w/vol%、pHが1~10である非アルカリシリカグラウトからなり、地盤に注入して地盤改良領域を形成する地盤注入材である。地盤注入材は、地盤注入材由来の水溶性反応生成物の濃度が、地盤改良領域内で環境に影響を及ぼさない程度の水溶性反応生成物を含み、かつ、地盤状況に対して注入目的を満たすシリカ濃度と適用する施工法に適合した配合処方からなる。【選択図】なし

Description

本発明は、非アルカリシリカグラウトを用いた耐久グラウトおよび耐久グラウト注入工法であって、環境負荷の少ない、または、環境負荷を低減した、耐久性に優れた地盤注入材および地盤注入工法に関するものである。
近年、薬液注入工法が本設注入工として、護岸や建造物直下、都市のインフラなどの液状化対策工に恒久グラウトが採用されるケースが増えてきた。また、仮設注入においても耐久グラウトとして、その適用範囲が拡がるにつれ、地下水や地下埋設物、海産生物等への影響などの環境保全性が要求される。
本設注入、特に液状化対策工は、経済性を得るために大きな注入孔間隔(1.0~3.0m)で、数時間~十数時間の連続注入による広範囲浸透固結を行うため(表17)、それが可能な長いゲル化時間で、しかも長期耐久性を保持する溶液型シリカグラウトを用いなくてはならない(図1、図2)。また、掘削工事においても既存のコンクリート構造物周辺部、直下部の或いは今後コンクリート構造物を構築する予定の地盤の地盤改良において、長いゲル化による浸透性、長期耐久性と水中固結性に優れたシリカグラウトの適用が要求される。永年にわたる研究の結果、脱アルカリした非アルカリシリカ溶液が適合することが実証されている。脱アルカリにはイオン交換法や金属シリカ法によるコロイダル法と酸性中和剤による中和法(シリカゾル法)とがある(図1、図2)。
恒久グラウトとして用いられる活性複合シリカ(コロイドと水ガラスを含有するシリカグラウト)も中酸性系水ガラスグラウト(水ガラスと酸を有効成分とするシリカゾルグラウト)も水ガラスの中和剤として酸を用いる。酸としては、硫酸またはリン酸や無機酸性塩、或いは有機酸や有機酸の塩を用いているが、経済性を考慮して硫酸を用いる場合が多い。また、助剤として各種無機塩や有機酸の塩、アルカリに対して酸として作用する酢酸エステルや炭酸エステル等のエステル類、グリオキザール等のアルデヒド類等の有機反応剤を用いることもある。
非アルカリシリカグラウトは、主剤として水ガラス、シリカコロイドのいずれか、または複数を用いたものであり、シリカゲルの劣化要因となるアルカリを除去したグラウトである。図1、図2に、非アルカリシリカグラウトの特性を示す。水ガラスのアルカリの除去は、酸による中和、或いは、イオン交換法または金属シリカ法によるシリカコロイド化によって行われるが、後者はいずれもアルカリが無視できるほど少ないので、水ガラスの酸による中和が主となる。酸としては、硫酸が経済的であるため、主として使用される。このため本出願人は、硫酸イオンの環境に対する影響を配慮した環境保全型の耐久性に優れた非アルカリシリカグラウトおよび地盤注入工法の開発を行った。
本出願人はすでに、非アルカリシリカグラウトにおける硫酸イオンのコンクリート構造物に対する影響を低減する工法や保護工法について出願を行っている(特許文献1~6)。
しかし、地盤注入の実際においては、硫酸イオンを含む非アルカリシリカグラウトが地中構造物に対して影響を及ぼさない程度の硫酸イオンを含み、かつ、地中に注入するにあたって地盤注入の目的と注入方式、注入設計、浸透を可能にするゲルタイムに適合する配合処方からなる地盤注入材でなくては、耐久性と環境保全性とを同時に満たすことができない。
なお、本明細書中、以下の名称は、強化土エンジニヤリング株式会社の登録商標である。恒久グラウト(登録第4354870号、登録第4360797号)、耐久シリカ(登録第5925766号)、本設(登録第5153955号)、コロイダル(登録第5274223号、登録第5255070号)、シリカゾル(登録第4044042号)、複合シリカ(登録第4334170号)、活性シリカ(登録第4263001号)、活性複合シリカ(登録第5490920号、登録第5497092号)、複合注入(登録第3057154号)、非アルカリシリカ(登録第6322403号)、マスキングシリカ(登録第4629139号)、マスキングセパレート(登録第5381384号)、活性シリカコロイド(商標登録第4295262号、商標登録第4189116号)。
特許第5277380号公報 特許第5309384号公報 特許第4948661号公報 特許第4766532号公報 特許第4827039号公報 特許第4780803号公報
本発明は、上記の先願発明をさらに発展せしめ、注入地盤の環境負荷を低減するために、従来の定性的な技術を定量的技術として、耐久性に優れた環境保全型の耐久グラウト地盤注入材および耐久グラウト地盤注入工法を提供することを目的とする。
本発明者らは、永年にわたる室内実験、野外試験を通して、硫酸を含む耐久性のある非アルカリシリカグラウトがコンクリート構造物に対して影響を及ぼさない程度の硫酸イオン濃度を含み、かつ、地盤に注入するにあたって注入目的を満たすシリカ濃度、多様な地盤状況において適用する注入方式、注入設計、浸透可能なゲルタイムに適合するシリカ濃度、硫酸イオン濃度の配合処方からなる非アルカリシリカグラウトでなくてはならないという課題に取り組んできた成果から、今回の発明に到ったものである。
本発明は、水ガラスのアルカリを酸で中和した非アルカリシリカグラウトであって、地盤状況に対し、注入目的を満たす強度を有し、適用する注入工法、注入設計に適合し、かつ、浸透性、固結性、耐久性に優れていると共に環境保全に優れた配合処方からなる耐久グラウトおよび耐久グラウト地盤注入工法に係る発明である。
以下に、本発明の概略について述べるものとする。
本発明者らは、地盤中に注入された非アルカリシリカグラウトの硫酸イオン濃度が地下水で希釈されて低減することを、ホモゲル、サンドゲルからの硫酸イオンの水中への溶出率とゲル中の残存率の実験によって確認し(図4)、注入液の硫酸イオン濃度は地盤中に注入された後はゲルから溶出して時間と共に比較的短期間に低減することを数値的に実証した(図4、表7)。
次に、ゲルからの硫酸イオンの低減要因をYとし(表10)、Yを残存率△とした場合、硫酸イオン濃度(a)の地盤注入材を地盤中に注入した場合の残存硫酸イオン濃度(△)(表10)から注入地盤の硫酸イオン濃度(X)を設定して、その濃度がモルタル供試体に影響する濃度(W)以下になる注入液の配合処方を設定するものとした。
硫酸イオンの低減要因には地盤状況、地下水状況が影響するところから、それを具体的に把握するために、注入地盤中の地盤状況、地下水状況に対応して適応する非アルカリシリカ溶液のタイプを設定した(表4)。次に、硫酸イオンの低減要因(Y)を△としてまとめて(表10)、それぞれの△に対して、地盤中の硫酸イオン(X)を算出して、(X)がコンクリート構造物に安全かを確認し、安全でなければ安全な手段を付与するものとした(図20~図29)。
しかし、そのX値がコンクリートに対して安全でも、実際の施工にあたっては、その硫酸イオン濃度の注入材が種々の地盤条件下で注入目的を満たす強度(図3(d))を得るシリカ濃度を持ち(図1(c)、図3)、注入方式(図11、図12、表6)、注入設計(表17)、浸透を可能にするゲルタイム(図1(b)(c)、図6~図10、図32、図33)等の条件に適合する配合処方からなる非アルカリシリカグラウトでなくてはならない。このため本発明者らは、水ガラスのモル比、水ガラス濃度、pH、硫酸イオン濃度、ゲルタイム、固結強度の関係を明らかにし(図1(b)(c))、さらに、具体的な水ガラス濃度、硫酸イオン濃度、ゲルタイムの試験例(図1、図6~図10、表11)と、注入方式、注入設計、浸透試験法および浸透試験結果(図13~図17)、耐久試験結果(図3(c))から、コンクリートに影響を生じない硫酸イオンを含む注入液の配合処方を設定することを可能にしたものである。
以上より、従来の環境保全型注入材または注入工法は定性的技術であったが、本発明によって定量的技術になったものである。なお、本発明では、注入方式、注入設計(表16、表17、図11、図12、図32)、浸透を可能にするゲルタイムの設定(図6~図10)等のいずれかまたは複数を、「施工法」と表現した。
一般に化学物質は、コンクリートの耐久性に対して多かれ少なかれ何らかの影響をもつ。薬液注入工法に用いる注入材には化学薬品が使用されるが、注入材のコンクリートに対する影響は、単に化学薬品とコンクリートとの関係と同列に論じることはできない。
薬液注入で一般的に用いられている反応剤である硫酸化合物、重炭酸塩、塩化物等は、いずれもそれ自体をコンクリートに作用させ続ければ多かれ少なかれ悪影響をもつ。これらのうち硫酸化合物について言えば、硫安(硫酸アンモニウム)等の肥料や食品添加物も含め、近代の化学工業における基本材料であって、工業用排水や建設工事における排水の中和処理剤としても、広く一般に用いられている。なお、硫酸イオンは自然界に広く存在し、海水では2.649(‰、g/kg)、河川では15.11mg/L程度は含有されている(「工業用水と排水処理」、日本工業新聞社、P.4,5)。
また、硫酸イオンは温泉土、火山堆積物、河川の底土、ボタ山等に広く分布しており、これらがコンクリートに悪影響を及ぼすといった文献上の記載は、これらが実質的に無限に存在し、一定の濃度で半永久的にコンクリートに作用し続ける場合について論じているのである。
コンクリートの脆化原因について、コンクリートが脆化、膨張、破壊を引き起こすのは、硫酸塩による劣化によるものとして知られている。この反応でエトリンガイトが生成する際に、大きな膨張圧が生じる。この膨張圧により、コンクリートが破壊される。また、乾湿が繰り返されると、局部的な破壊、硫酸塩のコンクリートへの滲入が繰り返され、破壊が進行する。
これに対し、薬液注入材として考える場合、上述の条件とは以下の点で異なることを考慮する必要がある。
i)地盤中に注入される薬液は、注入地盤全体の地下水からみた場合、量的にも極めて限定されたものであり、また、注入期間や場所的にも限定されたものであって、コンクリートに永続的に作用し続けるものではない。
ii)地盤中に注入された注入液は、土粒子間に浸透した後にゲルを形成する。ゲル化物のうちゲルを構成したシリカ分を除く水溶性反応生成物は、急速に地下水中に溶出する。コンクリート構造物に対する影響は、注入液のpHによるものではなく、水溶性反応生成物である硫酸イオンの濃度による。シリカグラウトの水溶性反応生成物および濃度は、シリカ分の組成、反応剤の組成、ゲルタイム等、配合処方によって異なる。
iii)ゲルから地下水中に溶出した硫酸イオンは、地下水中で拡散して濃度が低下し、それとともにゲル中に残存する硫酸イオン濃度は低下し、最終的には消散する(図4、図5および自然界の硫酸イオン濃度)。
iv)以上の理由により、地盤に注入された注入材のうちゲル化物を形成するシリカ分を除いた硫酸イオンは、地下水による希釈・拡散によって比較的短期間のうちに急速に濃度が低下し、一定濃度でいつまでもコンクリートに作用するものではない。
v)しかし、シリカゲルからの硫酸イオンの地下水への溶出速度は、地盤条件や地下水条件等によって異なる。従って、環境保全型の耐久性や固結性に優れた地盤注入材は、pHが非アルカリ領域(pHが1~10)であって、硫酸イオンが注入地盤において地盤条件や地下水条件下でコンクリート構造物への影響を及ぼさない濃度であり、かつ、注入目的や注入方式、注入設計(図32)、浸透を可能にするゲルタイム等、施工法に適合する配合処方からなる注入材であることが要求される。前述したように、本発明においては、注入方式、注入設計、浸透を可能にするゲルタイムの設定、のいずれかまたは複数を、「施工法」として表現する。
このような点から、本発明者らは本発明に到達した。
本発明の地盤注入材は、シリカ濃度が1~40w/vol%、pHが1~10である非アルカリシリカグラウトからなり、地盤に注入して地盤改良領域を形成する地盤注入材であって、
前記地盤注入材は、該地盤注入材由来の水溶性反応生成物の濃度が、前記地盤改良領域内で環境に影響を及ぼさない程度の水溶性反応生成物を含み、かつ、地盤状況に対して注入目的を満たすシリカ濃度と適用する施工法に適合した配合処方からなることを特徴とするものである。
本発明においては、前記地盤注入材が、水ガラスまたはシリカコロイドのうちのいずれかまたは複数のシリカ成分と、該シリカ成分中のアルカリを中和する酸性剤を有効成分として含み、該地盤注入材由来の水溶性反応生成物である硫酸イオンの濃度が、該地盤改良領域内で構造物に影響を及ぼさない程度の硫酸イオンを含み、かつ、前記地盤状況において注入目的を満たすシリカ濃度を有するとともに、適用される施工法に適合する浸透性を有するゲルタイムを可能にする配合処方からなるものとすることが好ましい。
本発明においては、前記地盤改良領域における前記地盤注入材由来の水溶性反応生成物としての硫酸イオンの濃度が、地盤中においてコンクリートに影響を及ぼさない程度の硫酸イオンを含み、かつ、注入目的を満たす強度を得るシリカ濃度、および、適用する施工法に適合する浸透性を得る配合処方からなることが好ましい。
本発明においては、前記酸性剤が、硫酸化合物または非硫酸化合物のうちのいずれかまたは複数であることが好ましい。
本発明においては、前記非硫酸化合物が、硫酸以外の無機酸、有機酸またはこれらの酸性塩のうちのいずれかまたは複数であることが好ましい。
本発明においては、前記地盤注入材が、リン酸化合物、金属イオン封鎖剤およびキレート剤のうちのいずれかまたは複数を有効成分とすることが好ましい。
本発明において、前記地盤注入材は、前記地盤改良領域における前記地盤注入材由来の水溶性反応生成物としての硫酸イオンの濃度が、以下の手法によって、地盤中において、前記環境に影響を及ぼさない程度の濃度、または、該環境および前記構造物に影響を及ぼさない程度の濃度に調整されるとともに、注入地盤に対して注入目的を満たすシリカ濃度および適用する施工法に適合する配合処方を有するものであることが好ましい。
1)前記地盤改良領域内に含まれるカルシウムと前記地盤注入材中の硫酸イオンとが前記地盤中で硫酸カルシウムとなって固定されることで該地盤中の硫酸イオン濃度を低減する。
2)前記地盤改良領域に、セメントベントナイト、カルシウムシリケート若しくはスラグ系のカルシウム含有の懸濁型注入材またはカルシウム含有の溶液型注入材を一次注入した後、前記地盤注入材を二次注入材として注入し、該懸濁型注入材またはカルシウム含有の溶液型注入材の注入量により該硫酸イオンを含有する地盤注入材の注入率を低減することによって、該地盤注入材由来の水溶性反応生成物としての硫酸イオンの濃度を低減する。
3)前記地盤改良領域内に、非硫酸系注入材の注入部分、低硫酸系注入材の注入部分または注入材の非注入部分を設けて、該地盤改良領域内の硫酸イオンを低減する。
4)前記地盤改良領域から地下水中に硫酸イオンが溶出して、該地盤改良領域中の硫酸イオンが低減することを想定する。
5)前記地盤注入材に含まれるシリカ成分の一部または全部をシリカコロイドで置き換えて、該地盤改良領域内の硫酸イオンを低減する。
6)前記地盤注入材に含まれる反応剤として、非硫酸化合物および硫酸化合物のうちのいずれかまたは双方を用いる。
7)前記地盤改良領域内または前記地盤注入材中で硫酸イオンを固定して、該地盤改良領域内の硫酸イオンを低減する。例えば、一次注入によるセメント、または、カルシウム含有注入材により硫酸イオン含有二次注入材中の硫酸イオンを固定して、注入地盤中の硫酸イオンの濃度を環境に影響を及ぼさないと想定される濃度まで低減することができる。
8)前記地盤改良領域を、アルカリ系水ガラスグラウトおよび硫酸系の前記地盤注入材の注入によって地盤改良するものとし、該アルカリ系水ガラスグラウトの注入率を、該硫酸系の地盤注入材由来の水溶性反応生成物の濃度が環境に影響を及ぼさない程度の濃度まで低減する注入率とする。
9)前記地盤注入材中の硫酸イオンの一部または全部を非硫酸イオンで置き換える。
10)前記地盤注入材中に、例えば、カルシウム材を加えて、硫酸イオンの一部または全部を捕捉する。
11)前記地盤改良領域内のコンクリート構造物の周辺部について、下記(1)~(5)のうちのいずれかまたは複数を併用することにより、該地盤改良領域内の硫酸系の前記地盤注入材の硫酸イオン濃度を、該コンクリート構造物に影響を及ぼさないと想定される濃度まで低減する。
(1)水ガラス系注入材
(2)懸濁系注入材
(3)低硫酸化合物系注入材
(4)硫酸化合物系注入材および非硫酸化合物系注入材の併用
(5)リン酸化合物、金属イオン封鎖剤およびキレート剤のうちのいずれかまたは複数を含む注入材
12)前記地盤改良領域内のコンクリート構造物の周辺部を、リン酸化合物、金属イオン封鎖剤およびキレート剤のうちのいずれかまたは複数を含む非アルカリシリカグラウトで固結する。
本発明において、前記地盤注入材は、前記地盤改良領域内のコンクリート構造物、地盤状況、地下水状況および注入条件のうちのいずれかまたは複数に基づき、該地盤改良領域内の硫酸イオンの濃度が前記地盤注入材由来の水溶性反応生成物の挙動に対応して前記コンクリート構造物への影響を低減できる量となり、かつ、採用する施工法に適合した配合処方からなるものであることが好ましい。
本発明においては、前記地盤注入材が、前記地盤改良領域内の硫酸イオン濃度(X)が最大値W以下となるような硫酸イオンの濃度(a)を有し、かつ、適用する前記地盤および施工法において注入目的を満たす配合処方からなることが好ましい。
本発明において、前記地盤注入材は、下記(1)~(6)のうちのいずれかまたは複数の手法によって、注入地盤状況および地下水状況に応じて、前記地盤改良領域または注入固結体における前記地盤注入材由来の水溶性反応生成物の濃度が、コンクリート構造物への影響を及ぼさない程度の濃度に調整されており、前記地盤状況および注入目的を満たすシリカ濃度を有するとともに適用する施工法に適合し、かつ、浸透性を有するゲルタイムを可能にする配合処方からなるものとする。
(1)注入目的および前記地盤状況からのシリカ濃度の設定。
(2)前記地盤改良領域における水溶性反応生成物のコンクリート構造物への影響を低減する要因(Y)における水溶性反応生成物の溶出率(α)と残存率(△)の設定。
(3)コンクリート構造物に影響を及ぼさないと想定される前記地盤における硫酸イオン濃度の最大値(W)の設定。
(4)地盤条件および前記低減要因(Y)からの、前記地盤における硫酸イオン濃度(X)の設定。
(5)W≧X(=A×a×Y)を満たす前記地盤注入材の硫酸イオンの濃度(a)の設定。
(6)注入目的、地盤状況および適用する施工法に適合した、注入目的を満たすシリカ濃度と硫酸イオンの濃度(a)に対応する前記地盤注入材の配合処方の設定。
このようにして本発明の注入材は、注入地盤において、注入目的を満たすシリカ濃度(図1(c)、図3)と適用する施工法(注入方式(図11、図12)、注入設計(表16、表17)、浸透を可能にするゲルタイム(図1(b)、(c)、図6~図10))に適合した注入液の配合処方における硫酸イオン濃度(a)を地盤に注入した場合の地盤中における硫酸イオンの残存率から、地中構造物の安全性を満たす配合処方を設定することができる。また、設定した地盤注入材の配合処方が注入目的、地盤状況、施工法(注入工法、注入設計、ゲルタイム)に適合し、かつ、コンクリートに対して安全かどうかを確認することができる。
本発明の地盤注入材は、前記地盤改良領域内のコンクリート構造物、地盤状況、地下水状況および注入条件のうちのいずれかまたは複数に基づき、前記地盤注入材由来の水溶性反応生成物の挙動に対応して該水溶性反応生成物の環境への影響を低減する要因(Y)を定量的に設定し、環境への影響を低減するとともに、地盤状況および適用する施工法に適合する注入目的を満たすシリカ濃度と硫酸イオンの濃度(a)に対応する配合処方からなるものとすることができる。
本発明においては、前記地盤改良領域内のコンクリート構造物への硫酸イオンの影響を低減する要因(Y)における水溶性反応生成物の溶出率を(α)、残存率を(△)として、前記低減要因(Y)として下記△1~△7のうちのいずれかまたは複数を設定することができる。
=A×a W≧X
=A×a×Y W≧X
A: 注入率(%)/100
a:注入材中の硫酸イオン濃度(ppm)
,X:注入地盤中の硫酸イオン濃度
△1:前記地盤改良領域内に非注入部分を設け、非注入部分の比率をα(=溶出率)としたときの、改良地盤中における硫酸イオンの残存率 △1=1-α
△2:地下水中に硫酸イオンが溶出する溶出率をαとしたときの、前記地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △2=1-α
△3:前記地盤改良領域内における硫酸イオンの固定率をα(=溶出率)としたときの、該地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △3=1-α
△4:前記地盤改良領域内における非硫酸系注入材、または、低硫酸系注入材による硫酸系注入材の硫酸イオンの置換率をα(=溶出率)としたとき、該地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △4=1-α
△5:前記地盤注入材中のシリカ成分のコロイドによる置換率をα(=溶出率)としたとき、前記地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △5=1-α
△6:前記地盤注入材中において硫酸イオンの一部または全部を捕捉し、その捕捉率をα(=溶出率)としたとき、前記地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △6=1-α
△7:前記地盤改良領域内の前記地盤注入材の注入率を低減し、該注入率の低減率をα(=溶出率)としたとき、該地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △7=1-α
なお、本発明において、ゲルからの硫酸イオンの溶出率という表現は、ゲル中の硫酸イオンの低減率という表現に置き換えることができる。
本発明の地盤注入材は、前記地盤改良領域または注入固結体中の硫酸イオン濃度(X)が、コンクリート構造物に影響を及ぼさないと想定される最大値W以下となるような硫酸イオンの濃度(a)を有し、かつ、適用する前記地盤状況および適用する施工法において注入目的を満たす配合処方を有することが好ましい。
本発明の地盤注入材は、シリカ濃度1~40w/vol%、硫酸イオン濃度50,000~5,000ppmの硫酸系注入材からなる非アルカリ性シリカグラウトであって、前記地盤改良領域または注入固結体における硫酸イオン濃度(X)が、コンクリート構造物に影響を及ぼさないと想定される最大値Wに対しW≧Xを満たす硫酸イオン濃度(a)を含有し、かつ、注入目的を満たすシリカ濃度と適用する地盤状況および施工法において注入目的を満たす配合処方を有することが好ましい。
本発明の地盤注入材は、硫酸イオン濃度が50,000~5,000ppmの範囲内の非アルカリシリカグラウトであって、該非アルカリシリカグラウトを注入した地盤の硫酸イオン濃度が構造物に影響を及ぼさない程度の硫酸イオンを含み、かつ、注入目的を満たすシリカ濃度と適用する地盤状況および施工法に適合する配合処方からなることが好ましい。
本発明の地盤注入材は、シリカ濃度が注入目的を満たす濃度であり、かつ、硫酸イオン濃度が注入地盤において、環境に対して影響を及ぼさない程度の硫酸イオンを含み、該注入地盤における土中ゲルタイムが施工法に適合する配合処方からなることが好ましい。
本発明の地盤注入工法は、上記地盤注入材を、地盤に注入することを特徴とするものである。
本発明の地盤注入工法においては、前記地盤注入材由来の硫酸イオンの濃度を(a)とし、前記地盤改良領域または注入固結体における硫酸イオン濃度を(X)として、コンクリート構造物に影響を及ぼさないと想定される硫酸イオン濃度Xの最大値をWとし、前記地盤中の水溶性反応生成物の低減要因を(Y)とし、低減要因(Y)はゲルからの該水溶性反応生成物としての硫酸イオンの溶出率(α)およびゲル中の硫酸イオンの残存率(△)に関わるものとして(△=1-α)、(Y)は下記△1~△7のうちのいずれかまたは複数を設定することができる。
=A×a W≧X
=A×a×Y W≧X
A: 注入率(%)/100
a:注入液中の硫酸イオン濃度(ppm)
,X:注入地盤中の硫酸イオン濃度
:注入地盤中で注入液の硫酸イオン濃度が希釈されることなく地盤中に残存された場合の地盤中の硫酸イオンの濃度
:注入地盤中で注入液の硫酸イオン濃度が低減された注入地盤中の硫酸イオン濃度
△1:前記地盤改良領域内に非注入部分を設け、非注入部分の比率をαとしたときの、改良地盤中における硫酸イオンの残存率 △1=1-α(ここでαは注入地盤のゲルからの硫酸イオンの溶出率に相当する)
△2:地下水中に硫酸イオンが溶出する溶出率をαとしたときの、前記地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △2=1-α(ここでαは注入地盤のゲルからの硫酸イオンの溶出率に相当する)
△3:前記地盤改良領域内における硫酸イオンの固定率をαとしたときの、該地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △3=1-α(ここでαは注入地盤のゲルからの硫酸イオンの溶出率に相当する)
△4:前記地盤改良領域内における非硫酸系注入材、または、低硫酸系注入材による硫酸系注入材の硫酸イオンの置換率をαとしたとき、該地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △4=1-α(ここでαは注入地盤のゲルからの硫酸イオンの溶出率に相当する)
△5:前記地盤注入材中のシリカ成分のコロイドによる置換率をαとしたとき、前記地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △5=1-α(ここでαは注入地盤のゲルからの硫酸イオンの溶出率に相当する)
△6:前記地盤注入材中において硫酸イオンの一部または全部を捕捉し、その捕捉率をαとしたとき、前記地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △6=1-α(ここでαは注入地盤のゲルからの硫酸イオンの溶出率に相当する)
△7:前記地盤改良領域内の前記地盤注入材の注入率を低減し、該注入率の低減率をαとしたとき、該地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △7=1-α(ここでαは注入地盤のゲルからの硫酸イオンの溶出率に相当する)
なお、上記において、非注入部分の比率、ゲル中の硫酸イオンの低減率、固定率、置換率、捕捉率という表現をゲルからの硫酸イオンの溶出率αという表現と同一とした。なぜならば、いずれも注入地盤全体におけるゲルからの硫酸イオン濃度が低減することになるから、注入地盤全体として硫酸イオンが溶出したことと同じであり、地盤改良領域全体における地中構造物に影響する硫酸イオンが少なくなったことを意味しているからである。
また、上記において、濃縮系で硫酸イオンが増大する場合は、硫酸イオン低減要因Yは硫酸イオンの変動率と表現することができる。その場合は、非硫酸系反応剤を用いるか若しくは併用する非硫酸系反応剤を増やすか、または、カルシウム含有懸濁液やカルシウム含有溶液型グラウトの併用により注入地盤中の硫酸イオン濃度がコンクリートに影響を生じない注入地盤の硫酸イオン濃度に低減する配合処方からなる注入材を用いるものとする。
本発明においては、前記地盤に非硫酸系注入材を注入するとともに、該非硫酸系注入材の注入部分にアルカリ系水ガラスグラウトを注入し、該アルカリ系水ガラスグラウトとして、含まれるアルカリ分の量が、該注入部分周辺の酸性シリカグラウトに含まれる酸分によってほとんど中和されるものを用いることが好ましい。これにより、アルカリ系水ガラスのアルカリ分が中和されることによって耐久性を付与し、かつ、強度を増加せしめることができる。
本発明においては、図31に示すように、前記地盤改良領域を、硫酸系注入材とともにアルカリ系グラウト、カルシウム含有グラウトまたは懸濁型グラウトのいずれかまたは複数の非硫酸系注入材を併用して注入するものとし、該アルカリ系グラウト、カルシウム含有グラウトまたは懸濁型グラウトの注入率をAとし、前記酸性シリカグラウトの注入率をAとし、
前記アルカリ系グラウトを用いる場合は、アルカリが前記酸性シリカグラウトの酸により中和されることによって、該アルカリ系グラウトの耐久性が得られるものとし、該酸性シリカグラウトの注入率Aにおいて硫酸イオンが構造物に影響を生じないと想定される注入率になるように設定するものとし、
非硫酸系注入材として、前記カルシウム含有グラウトまたは懸濁型グラウトを用いる場合は、注入率Aを、前記酸性シリカグラウトの注入率Aにおいて硫酸イオンが構造物に影響を生じないと想定される注入率となるように設定することによって、
前記地盤改良領域の耐久性と環境保全性が得られるものとすることができる。
また、上記において地盤改良領域の硫酸イオン濃度は、硫酸イオン含有注入液の注入率が減少することによって低減するのみならず、硫酸イオンがカルシウムによって硫酸カルシウムとして捕捉(固定)されることによっても低減する。
さらに、同様に一次注入においてカルシウム含有グラウトとして懸濁型グラウトを用いる場合も、地盤改良領域の硫酸イオン濃度は、全注入率から一次注入材の注入率を除いた硫酸イオン含有注入材による二次注入材の注入率が低減したことによる硫酸イオンの低減の他に、二次注入材の硫酸イオンが一次注入材のカルシウムによって捕捉(固定)されることによっても低減される(表1、△3,4,6,7)。
本発明によれば、水ガラスまたはシリカコロイドのうちのいずれかまたは複数のシリカ成分と、該シリカ成分中のアルカリを中和する酸性剤を有効成分として含み(図1、図2)、この地盤注入材由来の水溶性反応生成物の硫酸イオン濃度(表11、図10、表13)が、地盤改良領域内で構造物に影響を及ぼさないと想定される濃度であって(表10)、かつ、地盤状況および注入目的を満たす強度を得るシリカ濃度(図1(c)、図3)を有するとともに適用される施工法(注入方式(図11、図12、表16)、注入設計(表16、表17、図32)および浸透を可能にするゲルタイム(図1、図6~図10))に適合した配合処方からなる地盤注入材とすることで、環境保全性に優れた耐久地盤注入工法が可能になった。
本発明の地盤注入材は、シリカ濃度1~40w/vol%、水ガラス、シリカコロイドの1種または複数を主成分とし、主成分のアルカリを除去する中和剤として硫酸またはリン酸の1種または複数を有効成分とする非アルカリ性シリカグラウトであって(図1、図2)、地盤注入領域または注入固結体における硫酸イオン濃度(X)が、コンクリート構造物に影響を及ぼさないと想定される最大値Wに対しW≧Xとなる硫酸イオン濃度(a)を有し、かつ、注入地盤状況と注入目的を満たすシリカ濃度を有し、適用する注入工法、注入設計に適合したゲルタイムと浸透性を有する配合処方からなる地盤注入材とすることができる。
本発明によれば、注入地盤の環境負荷を低減した、環境保全型の地盤注入工法および地盤注入材を提供することが可能となった。
非アルカリシリカグラウトのゲル化特性を示す。 [H]/[SiOとゲルタイムの関係を示す。 水ガラス(n=3)のモル濃度とpHとゲルタイムと強度の関係を示す。 シリカグラウトのゲルタイムとpHと耐久性の関係を示す。 活性複合シリカの固結強度と経時的強度変化と種々の固結土の強度試験結果を示す。 ホモゲル、サンドゲルからのSO --の溶出率と残存率を示す。 水中養生したホモゲルのSO --の経時的変化を示す。 非アルカリシリカグラウトの反応剤添加量とpHとゲルタイムの関係を示す。 土中Ca含有量と土中ゲルタイムGTと土中pHを示す。 シリカゾルグラウトのホモゲルとサンドゲルのゲルタイムを示す。 各種現場土における活性複合シリカグラウトのpHと土中ゲルタイムを示す。 非アルカリシリカグラウトにおける酸の種類とゲルタイムの関係の例を示す。 各種浸透注入工法の例を示す。 複数の注入孔からの同時浸透注入工法の例を示す。 供試体作製装置を示す。 浸透法による固結供試体の作製状況を示す。 浸透法による注入液浸透試験装置を示す。 一次元注入試験状況を示す。 浸透距離および一軸圧縮強度を示す。 養生試験方法を示す。 養生試験における養生状況を示す。 金属イオン封鎖剤含有非アルカリシリカグラウト中に長期間養生後のモルタル供試体の状況を示す。 養生条件の違いによるモルタルの強度と養生液のpHの経時的変化を示す。 中和剤の種類が養生液のpHに与える影響を示す。 金属イオン封鎖剤含有シリカゾル中に養生したモルタル供試体の3年後の状況を示す。 金属イオン封鎖剤含有シリカゾル中に16年半養生後のモルタル供試体の状況を示す。 ホモゲルに浸漬養生したモルタル供試体表面の被覆のX線チャートを示す。 ヘキサメタリン酸ソーダと金属イオン封鎖剤の効果を示す。 モルタル供試体を被覆した金属イオン封鎖剤含有シリカグラウトのサンドゲルの硫酸イオンに対する保護作用を示す。 マスキングシリカによるコンクリート保護効果とマスキングセパレート法を示す。 モルタル供試体と金属イオン封鎖剤含有非アルカリ活性複合シリカ中に半没状態にした養生試験方法を示す。 浸漬3年後の状況を示す。 注入領域における注入液の注入部分の区分を示す。 土粒子間浸透限界注入速度と注入圧力を示す。 非アルカリシリカグラウトの浸透固結性を示す。 シリカ溶液を用いた注入液の希釈による導電率の変化を示す。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明は、地盤注入材を地盤に注入して地盤改良領域を形成する地盤注入工法、および、地盤に注入して地盤改良領域を形成する地盤注入材の改良に関する。
本発明においては、シリカ濃度が1~40w/vol%、pHが1~10である非アルカリシリカグラウトからなる地盤注入材を用いることができる。
本発明の地盤注入材としては、地盤改良領域または注入固結体中における地盤注入材由来の水溶性反応生成物の濃度が、環境または地盤改良領域内の構造物に影響を及ぼさないと想定される濃度まで低減され、かつ、地盤状況に対して注入目的を満たすシリカ濃度と適用する地盤状況および施工法に適合した浸透性を有するゲルタイムを可能にする配合処方からなるものを用いる。上記地盤注入材としては、水ガラスまたはシリカコロイドのうちのいずれかまたは複数のシリカ成分と、これらシリカ成分中のアルカリを中和する酸性剤と、を有効成分として含むものが好ましい。ここで、本発明において、注入目的を満たすシリカ濃度は、上記シリカ濃度1~40w/vol%の範囲で設定する。また、種々の硫酸イオン濃度の硫酸ナトリウム溶液中にコンクリートを養生した結果では、コンクリートに影響を及ぼさないと想定される硫酸イオンの濃度は、注入地盤の濃度で8000ppm以下であり、好ましくは5000ppm以下である。この値は、硫酸ナトリウム溶液中に養生して硫酸イオンの濃度が地下水で希釈されない条件に対応する。実際には地下水で希釈されるので、8,000ppmを基準に考えれば問題ないと考えられる([表9]、図4、図5)。
上記非アルカリシリカグラウトとは、シリカコロイドおよび/または水ガラスを有効成分とするpHが1~10のシリカグラウトをいう。
本発明において、酸性~中性とは、pHが1~10の範囲を意味する。シリカ濃度が1~40w/vol%でpHが1~10を呈する。シリカコロイドはコロイドを安定化させるため、わずかのアルカリを含むのみでpHが10付近で供給されるので、pHが10付近までを中性と称している。水ガラスはシリカ濃度が1~50w/wt%でpH11~12を呈するが、酸を加えて水ガラスのアルカリを除去すると、pH1~8.5付近となる(図1(a))。従って、水ガラスおよび/またはシリカコロイドを有効成分とする非アルカリシリカグラウトはシリカ濃度が1~40w/vol%でpHが1~10となる(図2)。従って、シリカコロイドと水ガラスとを有効成分とする非アルカリシリカグラウトはシリカ濃度が高くても、シリカコロイドのアルカリは無視できるほど少ないので、実質はそのアルカリは水ガラス濃度で決まる。また、シリカコロイドは中性塩でもゲル化する。従って、シリカコロイドと水ガラスのいずれか1種または複数を有効成分として含む非アルカリシリカグラウトはシリカ濃度が1~40w/vol%でpHが1~10となり、その範囲内で配合を設定することができる。
また、硫酸を用いた非アルカリシリカグラウトのシリカ濃度とpHとゲルタイムと強度の関係を、図1(b)、図1(c)に示す。また、図10、表13(a),(b)にも配合例を示した。これらより、水ガラスおよび硫酸を用いた非アルカリシリカグラウトにおいて、水ガラス濃度に対応して硫酸イオンの濃度とpHとゲルタイムの関係を知ることができる。
非アルカリシリカグラウトは、(1)水ガラスのアルカリを酸で除去して得た酸性~中性のシリカ溶液を素材として用いるタイプと、(2)水ガラスをイオン交換法で脱アルカリしたpHが2~5の弱酸性~中性のシリカコロイドまたはそれをさらに濃縮して微量のアルカリで安定化した中性~弱アルカリ性のシリカコロイドや、金属シリカ、地熱水由来のシリカ等を素材として用いるタイプ(これらを、本発明では「シリカコロイド」と表現する)と、(3)シリカコロイドと水ガラスのシリカとを有効成分とする複合シリカを素材として用いるタイプと、がある。非アルカリシリカグラウトは、上記シリカ成分として、それ自体アルカリをほとんど含まないシリカコロイドは勿論のこと、特に、水ガラスのアルカリを酸で除去して用いることによって、優れた耐久性や水中固結性、地下水を中性領域に保つ等の、きわめて特色のある注入効果を発揮する(図1、図2)。このため、耐久シリカグラウトを注入する工法を、耐久シリカグラウト注入工法と表現している。
非アルカリシリカグラウ卜における、水ガラスのアルカリは、現場で水ガラスと硫酸系中和剤を混合して、水ガラス中のアルカリを除去して製造する。このため、非アルカリシリカグラウトは、通常のアルカリ領域の水ガラスグラウトには見られない以下の特性を生ずる。
(1)水ガラス中のアルカリが除去されているため、含有するシリカ分の全量が析出してゲル化にあずかることと、水で希釈されて低濃度でもゲル化するため、地下水面下においても確実に固結する。従って、シリカ濃度が小さくても地下水面下の地盤中でもシリカが析出して確実に固結する(図1)。
(2)注入されたグラウトは酸性で長いゲル化時間でも地盤中でpHが中性方向に移行し、ゲル化が促進して確実に固結する(図1、図8、図9)。
(3)水ガラスのアルカリが除去されているため、一度形成されたゲルは、ゲル中のアルカリで再度溶解されることがなく、長期耐久性に優れている(図3(c)(イ)、(ロ))。
(4)地下水のpHをほとんど中性領域に保つ(図1、図2)。
(5)ゲル化時間は瞬結~長結まで可能なため、二重管瞬結工法、二重管瞬結・緩結複合注入工法、二重管ダブルパッカ工法等の全ての工法に適用できる(図11、図12、表16)。
(6)魚、動物、植物に対する安全性が極めて高い。
非アルカリシリカグラウトにおける注入効果を得られるシリカ濃度は1~40w/vol%であるが、通常、2~30w/vol%である。その水ガラス濃度、または、水ガラスとシリカコロイドとの混合液のアルカリ分を中和して酸性~中性(pHが1~10)を呈する注入材における硫酸イオンの濃度は、通常、約50,000~5,000ppmであるが、図1(b)~(c)より、適用するシリカ濃度とpH、ゲルタイム、強度の関係から、必要とするシリカ濃度と硫酸イオン濃度を知ることができる(図1(b)~(c))。
表1~3に、上述した地盤条件に適用する非アルカリシリカグラウトを示す。
Figure 0007146202000001
Figure 0007146202000002
Figure 0007146202000003
酸性剤としては、硫酸化合物または非硫酸化合物のうちのいずれかまたは複数を用いることができ、このうち非硫酸化合物としては、硫酸以外の無機酸、有機酸またはこれらの酸性塩のうちのいずれかまたは複数を用いることができる。具体的には、硫酸化合物として、硫酸や硫酸系の酸性塩、非硫酸化合物として、リン酸等の非硫酸系の無機酸、クエン酸やコハク酸やフマル酸等の有機酸や有機酸塩、AlClやFeCl等の無機非硫酸系酸性塩等を用いることができる。また、上記地盤注入材は、リン酸化合物、金属イオン封鎖剤およびキレート剤のうちのいずれかまたは複数を有効成分とすることもできる。リン酸化合物や金属イオン封鎖剤、キレート剤は、コンクリートのCaと反応して、コンクリートの表面に不溶性被覆を形成し、コンクリート内部への硫酸イオンの侵入とコンクリート内部からのCa分の溶出を防いで、硫酸イオンからコンクリートを保護する機能をもつ(図23、図24、図25、図26)。
金属イオン封鎖剤としては、リン酸化合物、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、プロピレンジアミン四酢酸、ビス(2-ヒドロキシフェニル酢酸)エチレンジアミン、コハク酸、これらの塩類、脂肪族オキシカルボン酸およびその塩類、縮合リン酸塩等が挙げられる。
脂肪族オキシカルボン酸類としては、酒石酸、クエン酸、コハク酸、グルコン酸、ジヒドロキシエチルグリシン酸等、およびその塩、縮合リン酸塩としては、ピロリン酸、トリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸等のポリリン酸の塩があるが、具体的には、ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、酸性ヘキサメタリン酸ナトリウムまたはこれらのカリウム塩等である。
本発明に用いられるリン酸化合物および/またはキレート剤は、キレート効果を有するものであり、例えば、リン酸、各種の酸性リン酸塩、中性リン酸塩、塩基性リン酸塩が挙げられ、テトラポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、酸性ヘキサメタリン酸塩、酸性ピロリン酸塩等の縮合リン酸塩類等を挙げることができ、縮合リン酸塩類がナトリウム塩であることが好ましい。非アルカリ性シリカ溶液を形成するリン酸化合物としては、ヘキサメタリン酸ソーダが、特に強固なマスキングシリカを形成するため、好ましい。また、キレート剤としては、上記リン酸化合物の他に、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸、グルコン酸、酒石酸またはこれらの塩類等を挙げることができ、本発明においては、リン酸化合物がシリカ溶液の存在下でコンクリート表面に最も効果的な被覆を形成する。このようにして、環境条件に応じた組成を選定して、コンクリート構造物の近傍における耐久性地盤を形成することができる。なお、上記は一例を示したものであって、本発明がこれらの例によって制限されるものではないのはもちろんである。
図26により、非アルカリシリカグラウトにおけるヘキサメタリン酸ソーダと金属イオン封鎖剤の機能を説明する。本発明では、キレート剤は、金属イオン封鎖剤として説明する(図26(b))。図23、図24に、金属イオン封鎖剤(リン酸)を含有する硫酸含有シリカグラウトのモルタル供試体と同体積のホモゲル中に3年、16年間養生したモルタル供試体の劣化を生じない状況を示し、モルタル表面の被覆の分析結果を、表14および図25に示す。なお、本発明における非アルカリシリカグラウトには、上述した酸や塩の他に、以下の任意のゲル化調整剤を用いることができる。ゲル化調整剤として、各種無機酸、有機酸の他に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、その他各種塩、例えば、炭酸塩、重炭酸塩、アルミニウム塩、ポリ塩化アルミニウム塩、塩化物、アルミン酸塩等任意の塩を用いることができる。
このうち水酸化マグネシウム等の難溶性アルカリ材は、シリカグラウトに添加して図10の曲線を緩やかにし、ゲルタイムの調整を容易にすることができる。
また、pH調整剤、あるいはゲル化時間調整剤としては、下記の例に示すように塩(無機塩、有機塩、塩基性塩、中性塩、酸性塩等)、アルコール類、苛性ソーダのようなアルカリ類等を用いることができ、珪酸と反応したり、pHを変動せしめたり、あるいは他の化学的、電気化学的作用により、珪酸ゲルを形成せしめたり、ゲル化時間を変動せしめたり、流動性を変動せしめたり、固結性を増大せしめたりするものをいう。
以下の例は一例を示すものであり、これらに限定されるものではない。
無機塩:
酸性塩、中性塩、塩基性塩など。
塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カリ、塩化アルミニウムなどの塩化物、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩、アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリウムなどのアルミン酸塩、塩化アンモニウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどの塩酸塩、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウムなどの塩素酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸アンモニウムなどの炭酸塩、重硫酸ナトリウム、重硫酸カリウム、重硫酸アンモニウムなどの重硫酸塩、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、重亜硫酸アンモニウムなどの重亜硫酸塩、ケイフッ化ナトリウム、ケイフッ化カリウムなどのケイフッ酸塩、珪酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アルミニウム塩等の珪酸塩、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウムなどのホウ酸塩、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸水素アンモニウムなどのリン酸水素塩、ピロ硫酸ナトリウム、ピロ硫酸カリウム、ピロ硫酸アンモニウムなどのピロ硫酸塩、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸アンモニウムなどのピロリン酸塩、重クロム酸ナトリウム、重クロム酸カリウム、重クロム酸アンモニウムなどの重クロム酸塩、過マンガン酸カリ、過マンガン酸ナトリウムなどの過マンガン酸塩等。
有機塩:
酢酸ソーダ、コハク酸ソーダ、ギ酸カリ、ギ酸ソーダ等。
なお、これらはpH調整剤、あるいはゲル化時間調節剤として作用する他、強度増強剤としての効果もある。
上記のような地盤注入材を用いて地盤改良領域を形成するにあたり、本発明者らは、地盤注入材に含まれる成分と地盤との関係について、以下のような検討を行った。
[実験1]
シリカゾルグラウト(水ガラス+硫酸系の非アルカリシリカグラウト)のゲルからのSO --の溶出試験
(1)溶出方法
試験に用いたシリカゾル配合液を表5に示す。また、表5のシリカゾルによる固結豊浦砂を表6に示す。φ6.8cm、L12.7cm(容積430cm)のポリプロピレン容器に約φ5×h10cmの表5、表6によるホモゲルまたはサンドゲルを入れ、それに水200mLを注水して、ゲル中の硫酸イオンが地下水に拡散あるいは地下水が流動している場合を想定して、定期的に水交換して、1,3,7,28,60日経過時に水のSO --を測定した。水交換は、1日目、3日目、7日目、28日目とし、SO --濃度測定後に行った。
(2)試験結果
シリカゾルグラウトは、地盤中に注入した場合、ゲル中のNaイオンとSO --は地下水中に短期間のうちに溶出してしまい、不溶性のシリカ分のみでゲルとして残る。
地下水中に溶出したSO --は、地下水中に拡散されて短期間のうちに消滅するとみなしてよい(図4、表7)。
実験によれば、ほぼ1日で40%のSO --が溶出し(ゲル中残存率ほぼ60%)、1ヶ月で85%が溶出し(ゲル中残存率ほぼ15%)、2ケ月でほぼ100%が溶出する(ゲル中残存率ほぼ0%)。以上において、注入地盤中において注入液中に含有する硫酸イオン濃度よりも注入した地盤中における硫酸イオンが低減する要因を(Y)とすると、(Y)は硫酸イオンのゲルからの溶出率(α)とゲル中の硫酸イオンの残存率(=△)にかかわることが判る(△=1-α)。
Figure 0007146202000004
Figure 0007146202000005
Figure 0007146202000006
Figure 0007146202000007
[実験2]
さらに、本発明者らは、径5cm×高さ10cmの硫酸系シリカゾルグラウト(硫酸イオン濃度50000ppm)ホモゲルの供試体を水中養生し、供試体中の硫酸イオン濃度を1日後、7日後、28日後に測定した(図5)。
図5は、養生水交換することなく養生水が無限に多かった場合を想定したゲル中のSO --の経時的変化を示す曲線である。この結果より、ゲル中の硫酸イオンは、このような条件下では比較的短期間に拡散することがわかる。
上記結果により、固結体(サンドゲル)から硫酸イオンが地下水中に溶出して、最終的には、注入液が含有する硫酸イオン濃度(a)より地盤改良領域全体の硫酸イオン濃度(X)は低くなることが判った。実際の現場では、注入地盤の硫酸イオンの濃度は、最終的に硫酸イオン濃度勾配によっては、地盤改良領域全体に拡散して均一化することが判る。一方、固結体の大きさ、土質の透水性、地下水状況によるが、地盤中のゲルからの硫酸イオンの溶脱率(ゲル中の硫酸イオンの低減率α)が大きくなるほど、ゲル中の硫酸イオンの残存率(△)は低減する(△=1-α)。ゲル中に残存する硫酸イオン濃度は、最終的には固結領域の外に濃度勾配によって拡散し、消滅することになる。したがって、注入対象地盤全体の硫酸イオン濃度とコンクリートの影響を考えればよいことになる。
[実験3]
ゲルから溶出した硫酸イオンが地下水で急速に希釈されて最終的に消散されると想定される場合
非アルカリシリカグラウトで固結した注入地盤を掘削してコンクリートを打設した場合の状況を知るために、コンクリート供試体(モルタル供試体)を砂中に埋め込んだ状態にてシリカゾルグラウトにより固結した固結体を長期間水中養生した後、モルタルの外側の固結砂を壊し、内部のコンクリート供試体(モルタル供試体)の外観形状を観察し、一軸圧縮強度試験を行った(図18~図24)。
直径5cm、長さ10cm(約200cm)のモルタル供試体を、50,000ppmの濃度の硫酸イオンを含む100ccのシリカゾルグラウトで固結した豊浦砂300cmの固結体で包み(図18(b))、2,500ccの水中で2ケずつ養生した(図18(c))。
これは、大きなコンクリート構造物を小さなコンクリート片に切り刻んで、そのそれぞれの表面に薬液を作用させたに等しく、きわめて厳しい条件に設定したことになる。
また、この場合、シリカゾルグラウト中の硫酸イオンが全量養生水中に溶出したと仮定して、硫酸イオンの濃度は約3,700ppmとなり、従ってこのモルタル供試体は、50,000ppmから3,700ppmの濃度に変化する硫酸イオンを含む水中に養生したこととなる。1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、1年後にモルタル供試体の外側の固結砂を破壊し、内部のモルタル供試体の外観形状を観察し、一軸圧縮強度試験を行ったところ、強度低下や外観形状の変化はみられなかった。
すなわち、50,000ppmの硫酸イオン中であっても、それが希釈されて3,700ppmの硫酸イオン濃度中では、モルタル供試体に悪影響を生じないことを示している。
永久保存用供試体を、l年8ヶ月後にモルタル供試体の外側の固結砂を破壊してその内部の供試体の外観形状を観察した後、壊した固結砂とともにそのまま養生をして経時的にモルタル供試体の外観形状を観察し続けたが、5年6ヶ月経過後に至るもいずれも特に外観形状の変化は生じていなかった。この現場では、地下水が固結体に比べて大量であることと流動していることによって、硫酸イオンが拡散して消散すればコンクリートに対する影響はほとんどなくなると想定される(表10のY=△2、図4、図5)。
[硫酸イオンのコンクリートに対する影響]
[実験4]
地下水が停滞(または滞留)したまま地下水の流動がほとんどない場合を想定して、水溶性反応生成物である硫酸ナトリウム水溶液の濃度が1年間変化することなくコンクリート(モルタル)に作用すると仮定して、硫酸イオン濃度が10,000ppm、8,000ppm、5,000ppm、3,000ppm、0ppmの硫酸ソーダ水溶液に表8(a)のモルタル供試体を1年間養生して、一軸圧縮強度試験を行い、コンクリートに対する影響を調べた。
地下水による希釈がない場合、実験では、SO --でコンクリートに外見上の変化が生ずるのは、10,000ppmでは6ヶ月以内であり、8,000ppmでは1年でわずかではあるが変化が出る。
表9に、硫酸ナトリウム水溶液にコンクリート供試体を浸漬し、硫酸イオンの濃度によるコンクリートの影響を観察した結果を示す。これより、地下水による希釈がない場合、1年以内でコンクリート構造物に影響を与える硫酸イオン濃度は10,000ppm以上であって、5,000ppm以下は1年以上でも影響はほとんどなかった。表9において、硫酸ナトリウムの濃度が8,000ppmの場合は、1年でわずかに影響を生ずる濃度であるが、実際には地下水による硫酸イオンの希釈が生ずるので、注入地盤の硫酸イオン濃度が8,000ppm以下ならば、モルタル供試体に問題を生じないとみなしてよいと考えられる(図4、図5)。
Figure 0007146202000008
Figure 0007146202000009
○:外観形状に異常なし
△:一部表面が剥離している
×:表面の剥離が著しい
[注入地盤における非アルカリシリカグラウトのコンクリートに対する影響]
水ガラスグラウトの劣化要因となるアルカリを酸性中和剤で除去した非アルカリシリカグラウトには、酸性中和剤として、(1)硫酸、(2)リン酸、(3)硫酸とリン酸の混酸、(4)非硫酸系酸、(5)非硫酸系酸性塩、(6)上記(1)~(5)のいずれかの併用が用いられる(表1~表3)。
これらの中和剤のうち、経済性を考慮して硫酸系が用いられる場合が多い。一般には、硫酸イオンはコンクリート構造物に悪影響をもつと考えられているが、地盤注入において、ゲル中の硫酸イオンは急速に地下水に希釈され、コンクリートに影響しない濃度に至り、最終的には、消散する。しかるに、その硫酸イオンの地下水における消散の速度は、土質(地盤状況)、地下水の状況等、適用する注入材に依存するところから、注入材のコンクリートに対する影響は、注入材そのものの硫酸イオンのみならず経時的変化も考慮した注入地盤領域全体における硫酸イオン濃度をも考慮する必要があり、注入目的を満たし適用する注入方式に適合したゲル化の挙動を示す配合処方の注入材を用いた環境保全型非アルカリシリカ地盤注入工法が要求される。
[金属イオン封鎖剤を含有する非アルカリシリカグラウト]
上述したように、硫酸イオンは、数か月内に養生水中に溶出して、ほぼ一定値になると思われる。実験では、サンドゲルもホモゲルもSO --の溶出率はほとんど差がない(図4、図5)。実際の現場では、固結物に対して地下水が極めて多く、地下水が流動して希釈される場合は、溶出と拡散の速度は早くなると思われるが、その希釈速度やSO --のゲル中残存率は、地盤条件や地下水条件や注入領域の大きさ等が影響することを考慮する必要がある。従って、希釈を伴わない場合でも、モルタル供試体にほとんど影響を生じないシリカグラウトの検討が有効となる。それが、金属イオン封鎖剤を含有する非アルカリシリカグラウトの適用である。
実験5により、表8(a)のモルタル供試体を同体積の金属イオン封鎖剤を含有する非アルカリシリカのゲル中に養生して(図18(a))コンクリート表面に析出した被膜に関して、外観観察を行った結果、いずれの注入材においてもモルタル表面に白色の被膜が形成されていることを確認した(図23、図24)。そこで、比較のために、同様の条件でII(非硫酸系・リン酸系、表1、No.2)、IIα(硫酸・リン酸系、表1、No.3)およびIIδ(硫酸系、表1、No.1)の非アルカリシリカに養生したモルタル供試体の被膜を採取し、その成分を蛍光X線法にて、結晶構造をX線回折法にて測定を行った(図25、表14)。
表14に被膜成分を、図25にX線回折チャートを示す。これらの測定結果より、モルタル表面の被膜は、IIでハイドロキシアパタイト、IIαではハイドロキシアパタイトやリン酸カルシウム、IIδではカルサイトやヴァテライトであると思われる。
なお、これらのII、IIαの被覆は、被膜形成は金属イオン封鎖剤によってなされるものであり、特に、リン酸、リン酸ソーダやヘキサメタリン酸ソーダ、リン酸塩が顕著である。また、クエン酸やコハク酸等の有機酸や有機酸塩も効果的である。図26に、ヘキサメタリン酸ソーダの例として、金属イオン封鎖剤の機能を示す。金属イオン封鎖剤を含む非アルカリシリカグラウトは、モルタル表面に存在するカルシウムやマグネシウムのイオンとキレート結合することにより不動態化するとともに、注入材に含まれるシリカと反応し、モルタル内からのCaイオンの溶出を抑え、外部からの硫酸イオンの侵入を抑える難溶性の被膜を形成するものと考えられる。
[実験5]
金属イオン封鎖剤を含むシリカ溶液は、コンクリート表面にマスキングシリカ(金属イオン封鎖剤含有非アルカリシリカグラウト)による不溶性被膜を形成し、コンクリートを保護する効果があることを確認した。
1)試験概要
表8(a)に示すモルタル供試体を1ヶ月間水中養生した後、3本を一組とし、表12(a)、表13(a)に示すシリカグラウト溶液の600mLのホモゲル(養生媒体)に浸漬し、1年間養生した。中和剤Aは金属イオン封鎖剤の効果が期待されるリン酸であるが、中和剤Bはこの効果は期待されない硫酸である。以上の条件の供試体を用いて、外観観察および養生媒体のpH測定を実施した。Case1の養生媒体はイオン交換水である。この試験は、モルタル供試体を浸漬しているシリカグラウトのホモゲル(養生媒体)は密閉状態で硫酸イオンの希釈は生じない状態で行っている。
2)試験結果
2-1)外観観察
浸漬1年後の供試体の状況を、表13(c)に示す。Case1、2、3、4に変状は見られなかったが、Case5は上部にひび割れが確認された。また、Case2、3、4、5は、供試体表面に白色の結晶物の付着が見られた。
2-2)養生媒体のpH
養生媒体のpH測定結果を、表13(b)に示す。モルタル供試体を養生したイオン交換水のpHが13以上であるのに対し、マスキング効果が期待されるCase2は中性値を示した。一方で、中和剤A・Bの混合物を用いたCase3、4では、中和剤Bの混合率が高いほど養生媒体のpHは高く、中和剤Bのみを配合したCase5の養生水が最も高いpH値を示した(図22)。
マスキング効果は、モルタル供試体表面にマスキングシリカによる不溶性被膜を形成することにより、モルタルからのアルカリの溶出を遮断し中性化を抑制するとともに、中和剤の硫酸イオンの侵入を防ぎ、モルタルを保護していることが判った。
また、表13(c)は、表13(a)の酸性シリカグラウト中に養生したモルタル供試体の外観観察を示す。表13(c)より酸性反応剤(中和剤)中の硫酸イオンの混入率(%)を0、50、66、100とした場合の金属イオン封鎖剤の効果が判る。この結果、硫酸イオンがモルタルに悪影響をもたらす硫酸イオンの15,000ppmの存在下でも、金属イオン封鎖剤の効果でモルタルを保護していることが判る。
この結果より、リン酸イオンが硫酸イオンの5割(Case4)、硫酸イオンと同量(Case3)、もちろん全量(Case2)あればコンクリートに問題は生じない。
[実験6]
金属イオン封鎖剤を含む非アルカリシリカグラウトのゲル中のモルタル供試体の強度試験
表13(d)のモルタルを、表15に示す金属イオン封鎖剤を含む非アルカリシリカグラウトを図18の養生方法で16年養生した養生試験の状況を図19、図20に、その間の養生水のpHと強度比を図21に、それぞれ示した。モルタル供試体を養生した蒸留水のpHは12付近であるが、硫酸塩水溶液中で崩壊する場合のpHは13以上となり、モルタル中のアルカリが溶出していることが判る。それに対して、金属イオン封鎖剤を含む非アルカリシリカにより被覆されている場合、pHはほぼ中性値を保っている。この結果より、上記シリカはモルタル中のアルカリの溶出を遮断(中性化を抑制)するとともに、モルタル内部への硫酸イオンの侵入を防いでいると考えられる。以上より、実験5と同様の金属イオン封鎖剤の機能が確認された(表15、図18~図21、図23~図26)。
[実験7]
モルタル供試体を金属イオン封鎖剤含有シリカグラウトの同体積のサンドゲル中に包み硫酸系シリカグラウトのサンドゲル中に養生した場合の金属イオン封鎖剤の効果
図27(a)に示すように、表8(a)のモルタルを表11の△印の金属イオン封鎖剤を含む表12のシリカグラウトのサンドゲルで包み、それを表11の〇印の硫酸系シリカグラウトのホモゲル内で養生した(図27(b))。6ヶ月後にホモゲル、サンドゲルを解体して(図27(c))、モルタルを観察したところ、変化はなく、表面には、上記金属イオン封鎖剤を含むシリカ(マスキングシリカ)による白色被覆が形成されて(図27(d))、モルタルに変状は見られなかった。モルタル表面にフェノールフタレインを噴霧しても赤色反応を生じず、さらにモルタルに傷を付けて(図27(d))フェノールフタレインを噴霧したところ、傷部のみがコンクリート内部のアルカリを示す赤色反応を呈した。また、取り出したモルタル供試体を水に浸漬したところ、養生水のpHは中性付近を呈した。このことから、マスキングシリカ層が硫酸イオンのモルタル内部への侵入を防ぐとともに、モルタル供試体内部からのアルカリの溶出を防いでいることが判った。この実験は、実施工において図28に対応する。
[実験8]
モルタル供試体が金属イオン封鎖剤含有のゲル中に半没状態における実験例を示す(図29、図30)。
a)ホモゲル浸漬養生(図29(a))
600mL密閉容器の真中に5cmφ×10cmのモルタル供試体(表8(a))を置き、表1のNo.2の金属イオン封鎖剤系シリカグラウトを400mL入れて、所定期間養生する。
1年経過後、ホモゲルを破壊して中のコンクリート供試体を取り出し、コンクリート供試体の状態を観察した。
b)ホモゲル同一体積中養生(図29(b))
1)300mL密閉容器の真中に3cmφ×6cmのモルタル供試体(表8(a)浸漬試験用モルタル)を置き、表1のNo.2の金属イオン封鎖剤系シリカグラウトを50mL入れて所定期間養生する。グラウトが供試体の高さ半分位までくるようにする。
2)供試体はパラフィンを用いてグラウト上部を密閉し、蒸発を防いだ状態にする。
上記a)、b)ともに、養生後3年経てもモルタル表面に保護膜を形成し、モルタルに劣化は生じなかった(図30)。
[環境保全型非アルカリシリカ注入工法]
コンクリート構造物の接触部等の直近部では、コンクリート構造物と周辺部の注入による不透水性の固結部で拘束されているため、ゲル中の硫酸イオンは希釈の程度が少なく長期間ゲル中に残存すると思われるが、徐々に地盤改良領域の外周部から硫酸イオンが濃度勾配によって周辺地下水中に溶出して、地盤改良領域全体の硫酸イオン濃度は低下し、それにつれてコンクリート構造物直近部の固結体中の硫酸イオンは少なくなる。しかしながら、コンクリート直近部の硫酸イオン濃度の低減速度は、前述の要件によって異なるので不明確である。このため、コンクリート直近部や接触部では、コンクリート構造物と硫酸系非アルカリ性シリカグラウトの固結部分の間の領域にリン酸系等、金属イオン封鎖剤系、非硫酸系やカルシウム系(セメント系も含む)等の非アルカリ性シリカグラウトによる固結部を介在させることが好ましい。この場合、コンクリートを硫酸イオンがアタックする前にリン酸イオンがコンクリートに到達してコンクリートのカルシウム分と反応し、シリカ分とともにキレート効果による防護皮膜をコンクリート表面に形成して、硫酸イオンを遮断することが判った。
従来、コンクリートに対する安全性も含めて、環境保全型注入工法は定性的には論じてきたが、定量的な技術とするには至っていない。それは、地盤条件や地下水条件があまりにも複雑で、長期的な地盤との関係やゲル化後に変化するシリカゲルの化学的、物理的変化や地盤とのゲル化反応が複雑であることや、注入目的や注入方式に対応した配合処方の設定が困難であったからである。本発明者らは、これらの要因を明らかにして定量的に環境保全に優れた注入技術を確立することを目指して、本発明を完成したものである。
以下に本発明を詳述する。
本発明は、本発明者らによる先願発明である特許第5277380号に記載の技術をさらに発展させたものである。
従来、シリカグラウトは、単に注入素材の組み合わせによるゲル化を対象としていた。それに対して上記先願は、コンクリートの劣化を防ぐために、注入地盤全体における硫酸イオンを低減することを可能にした非アルカリシリカグラウトを用いた地盤注入工法である。
本発明は、従来の定性的であったコンクリートの劣化を低減する考えから注入地盤と注入材の定量的条件を見出して注入地盤におけるコンクリートの劣化防止を容易にするものであって、注入地盤における、ゲルからの硫酸イオンの溶出と残存に着目し、注入地盤における環境に対する影響を低減する注入材の配合処方を定量的に設定した地盤注入工法および地盤注入材に関する。
注入液が十分な非アルカリ領域のシリカグラウトのゲル化可能なシリカ濃度は0.5~40w/vol%であるが、充分な浸透性のある注入効果を得るには、1~40w/vol%が好ましい。このシリカ濃度で十分な浸透可能なゲルタイムを得るには、硫酸単独で水ガラスのアルカリを除去するに十分な硫酸イオン濃度は5,000~50,000ppmとなる。
注入目的を満たすには、採用する注入方式に適合した浸透性を呈するゲルタイムを有し、要求される固結強度を得られるシリカ濃度が必要となる。ところで、注入目的が高い固結強度を要求するほど、シリカ濃度を高くしなくてはならず、高い浸透性を得るための長いゲルタイムほど、耐久性を得るために酸性度を強くしてシリカのアルカリを中和する必要がある(図1(b))。従って、注入液の酸の濃度は、環境保全性からみた場合少ないほど好ましいが、注入目的からみた場合少なければ良いものではない。特に、強度の点では、シリカコロイドに比べて水ガラスの濃度が大きく影響するため、経済的に水ガラスのアルカリを中和するために硫酸が用いられる。このように、注入材の硫酸イオン濃度(a)が過少ならば注入目的を満たすことができず、濃度(a)が高すぎれば環境保全上、好ましくはない。従って、地盤注入材として、水ガラスおよび/またはシリカコロイドのアルカリを中和する酸性剤を有効成分として含む非アルカリシリカグラウトであって、地盤注入材由来の水溶性反応生成物の濃度が、地盤改良領域内で環境、特には構造物に影響を及ぼさないと想定される濃度まで低減され、かつ、注入目的を満たすシリカ濃度を有する配合処方からなるものを用いるものとする。特には、地盤および適用される注入方式から得られる注入目的を満たすシリカ濃度を有するとともに、浸透性が確保できるゲルタイムを有する配合処方からなるものを用いる。
上述したように、注入地盤で地下水が停滞状態であって、水溶性反応生成物の濃度が希釈されないと想定した条件下では、コンクリートに影響を生ずると考えられる(表9、表13(c)Case(5))。従って、このような場合は非硫酸性または金属イオン封鎖剤系(表13(c)Case2、Case3、Case4)を用いればよいことが判る。
一方、本発明者らは、地盤中に注入されたシリカ溶液の硫酸イオンは注入地盤内で地下水に比較的短期間に希釈されて、SOイオンは最終的にほぼ拡散し、コンクリートに悪影響をもたらさないことを見出した(図4、図5、実験1~3)。
しかし、地下水による固結領域におけるSOイオンの減少は、(1)ゲル中のSOの濃度、地盤中におけるSOの濃度、地盤状況、注入範囲、地下水条件、コンクリートの条件、コンクリートとの位置関係によって異なる。さらに、注入目的、注入方式に適合する配合処方によっても異なる。このため、本発明者らは、環境負荷を低減して、コンクリート構造物に影響する要因を以下のように定量的に把握して低減することを可能にした。
本発明者らによる先願発明より、従来、コンクリートに影響をもたらす要因が知られていた。また、その要因に基づいて硫酸イオンの低減を行うことも知られていた。しかし、その要因に基づき注入目的とコンクリートに対する安全性を満たす定量的配合処方からなる注入液の設定までには至っていない。その理由は前述したとおりである。これに対し、本発明者らは、実験2、図4から以下に示すように、注入材のゲル化物から溶出するSOイオンの経時的挙動を解明し、溶出した硫酸イオンの地盤中における挙動を地盤改良領域の地盤状況、地下水状況より開放系、停滞系、濃縮系と分類し、かつ、注入地盤における硫酸イオンの定量的低減要因(Y)とゲル中の硫酸イオンの溶出率と残存率を設定し、さらに、その硫酸イオン濃度とシリカ濃度による注入液のゲルタイムと固結強度と地盤への浸透性が、注入目的と適用する注入方式に対応し改良地盤内に残存した硫酸イオンがコンクリートに影響を及ぼさないような硫酸イオン濃度以下となる硫酸イオン濃度を含有する配合処方からなる注入材を地盤に注入することによって、環境負荷の少ない、長期耐久性に優れた地盤注入工法を可能にしたものである。
経時的に地中コンクリートに影響を及ぼす要因(Y)は、地下水状況、地盤状況が最も影響が大きいため、以下の5通り(A,B,C,D,E)の地盤条件を想定することができる。すなわち、地盤改良領域内のコンクリート構造物、地盤状況、地下水状況および注入条件のうちのいずれか(表10の△8~△10等)または複数に基づき、地盤注入材由来の水溶性反応生成物の挙動に対応して注入地盤における水溶性反応生成物の環境への影響を低減する要因を定量的に設定し、地盤に注入する注入材の配合処方が環境、特にコンクリート構造物への影響を低減するとともに、地盤状況および適用する施工法に適合する注入目的を満たすシリカ濃度と硫酸イオンの濃度(a)に対応する配合処方からなるものを用いることが好ましい。
(A)開放系:注入地盤中のゲル化物から注入範囲外へ容易に溶出する場合、地下水がコンクリート構造物よりも外方向に流れている場合。例えば、海岸や河川が近く、その方向に流れている場合、潮の干満で地下水位が変動している場合、動水勾配が外側方向である場合、または、砂礫等、透水性の大きい地盤の場合には、硫酸イオンは比較的短期間、1~2ヶ月以内に低減する。本発明者らの室内実験によれば、1~2ヶ月以内に硫酸イオンはほとんど全量拡散する(図4、図5、表7)。最終的には、自然界の硫酸イオン濃度に収斂するとみてよい。従って、表1の硫酸系を用いても、注入地盤中のSOイオンは短期間に低減しやすい。しかし、実際の現場では、硫酸イオンの溶出速度は地盤条件、地下水要件、固結範囲の大きさが影響すると思われるため、これらの条件等が不明確な場合、表1の2、3、または1、2、3と4、5の併用を用いるのが望ましい。また、後述するように、表12の注入率のうちの懸濁型カルシウム含有一次注入材の注入率を増やして、硫酸イオン含有シリカグラウトの二次注入率を低減すると同時にカルシウムによる硫酸イオンの固定を図ることができる。なお、薬液注入地盤において、注入領域から10m離れた位置の検査孔における水質変化は通常1~2ヶ月でほぼ一定になるところから、注入地盤におけるゲルからの反応生成物の濃度は、通常1~2ヶ月で拡散によってほぼ一定になるとみなしてよい。従って、図4、図5より1/10以下になるとみなしてよい。
(B)停滞系(滞留系):地下水流がほとんどなく、停滞している場合、この領域のSOイオンは遅かれ早かれ、イオン濃度の勾配が低い方向、すなわち、注入範囲外への方向に移動して、希釈され、最終的には影響のない濃度まで低減するものの、その溶出速度は不明である。この場合、表1の2、3か表1の1、2、3と表4のE、Fの併用系を用いるのが好ましい。これによって、コンクリートに影響のない濃度まで希釈するまでの間、または、その後もコンクリートを保護することができる。または、硫酸イオンが希釈されなくても、そのままコンクリートを保護することができる。
(C)濃縮系:硫酸イオンの低減が生じず、むしろ濃縮する可能性が高い場合は、コンクリートの表面から浸透した硫酸イオンが乾燥濃縮を繰り返して濃縮される場合である。この場合は、表1の2または3や、表4のE、FやGの併用を用いることが好ましい。
また、コンクリートが高品質の場合、硫酸イオンは侵入せず問題を生じない(表8(b))。
(D)注入範囲内に非注入部分を設け、未固結部を残しておいて、硫酸イオンがその部分に拡散して全体の硫酸イオン濃度を低減する。
(E)注入範囲内地盤のカルシウム含有量または地盤にあらかじめ注入したカルシウム含有注入材によるカルシウム含有量によって、注入材中の硫酸イオンを硫酸カルシウムとして不動態化する。注入範囲内にカルシウム含有アルカリ注入領域を設けて、注入材中の硫酸イオンを硫酸カルシウムとして不動態化する。または、地盤中に含有するカルシウムと注入材中の硫酸イオンが硫酸カルシウムとなって不動態化することによって、硫酸イオン濃度を低減する。注入材の気中pHは、地盤中に注入した場合、土のpHによってpHが中性方向に移行して、土中ゲルタイムGTは短縮するが(図7、図8、図9)、その他に土の成分、特に、注入対象地盤のCa含有量が大きく影響する。図7は、非アルカリシリカグラウトを注入した現場における実際の例を示す。このデータより、地盤中の硫酸イオンは施工完了後、最終的には硫酸イオンが低減し、その硫酸イオンの低減率は、例えば、SO --イオン20,000ppmの配合処方を用いる場合、図10のシリカグラウトでCaイオンが10,000ppmの場合、ほぼ硫酸イオン濃度は半減、または1/3に減るとみなすことができる。
(F)コンクリート構造物の周辺に表1の2、3、4、5を注入して、コンクリートへの侵入を防ぎ、硫酸イオンを不動態化する。
また、金属イオン封鎖剤のうち、特に、ヘキサメタリン酸ソーダを含む非アルカリシリカでは、ゲル化物からの硫酸イオンの溶出量が初期において極めて少なく、用いた硫酸イオン濃度の30%である。このため、コンクリートの保護機能が極めて高い。この理由は、コンクリート表面に形成されたカルシウムと結合したハイドロキシアパタイトの強固な構造の中に、SO --イオンが取り込まれたものと推察される。
なお、上記における地下水状況は、以下のようにして把握することができる。注入地盤に設けた注入孔と注入領域や注入領域より離れた位置に設けた観測井戸から注入液或いは検出液を採取して、地下水中の注入液の成分やpHを分析して、溶出の有無、溶出速度や希釈の程度を推定できる。例えば、注入孔から染料や電解質等の検出液を注入して、注入領域から離れた観測井戸から地下水を採取して、導電率や濃度を測定して検出したり、また、潮の干満による、地盤中の地下水位の変動で判断できる。また、コンクリート構造物内部に漏出した漏出水を分析することによっても判断できる。このように拡散速度や希釈速度や希釈度を知るために、電気伝導度の測定やpH測定をセンサーとして使用できる。図34は、シリカ溶液の濃度と導電率の関係を示す。注入孔からシリカ溶液を注入して、観測井の採取液から導電率を測定して、地下水状況や希釈状況を把握できる。もちろん、過去の実績からも判断することができる。
また、上記において地盤改良領域の硫酸イオン濃度は、硫酸イオン含有注入液の注入率が減少することによって低減するのみならず、硫酸イオンがカルシウムによって硫酸カルシウムとして捕捉(固定)されることによっても低減する。
さらに、同様に一次注入においてカルシウム含有グラウトとして懸濁型グラウトを用いる場合も、地盤改良領域の硫酸イオン濃度は、全注入率から一次注入材の注入率を除いた硫酸イオン含有注入材による二次注入材の注入率が低減したことによる硫酸イオンの低減の他に、二次注入材の硫酸イオンが一次注入材のカルシウムによって捕捉(固定)されることによっても低減される(表1、△3,4,6,7)。
注入領域からのSO --の溶出は、SO --の濃度勾配により、濃度が低い周辺部から行われるので、注入前の地盤(注入領域の外側の領域)の透水性が大きいほど、急速に溶出する地盤とみてよい。なお、注入地盤は、通常、透水性が低下しており(k=10-7~10-8m/sec)、一般には注入対象地盤の透水性が高い程(k=10-4~10-5m/sec以上)、注入地盤が海岸や河川に近い場合は潮の干満により、地下水が流動して、硫酸イオンは急速に前述した自然状態のレベルに低減する。
また、地盤条件が複雑であるため地下水の希釈条件の判断が困難な場合、希釈率を少なめ、例えば、図4、図5より、1/10とか、1/2にとるとか、または、表4において、表1の、分類No.2、No.3やNo.5を併用して用いるのが安全側となる。また、コンクリート構造物に接していて、注入領域の透水性は低いため硫酸イオンが注入領域外に流出する期間が不明確な場合、表1の2や3の注入材を適用するか、あるいは表4のEやFを併用するのが好ましい。
かかる知見に基づき、本発明者らはさらに鋭意検討をした結果、下記のように非アルカリシリカグラウトの配合処方を構成することにより、上記課題を解消することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のさらなる地盤注入工法は、コンクリート構造物の近接部または掘削後にコンクリート構造物を構築する予定の近接部に硫酸イオンを含む非アルカリ性シリカ系注入材を注入することにより地盤改良領域を形成する地盤注入工法において、pHが1~10である非アルカリ性シリカ注入材を、地盤改良領域全体の硫酸イオン濃度の平均値(X)がW以下とし、(X)の値が8,000ppm以下、さらに好ましくは(X)の値が5000ppm以下になり、かつ、注入目的を満たし注入方式に適合する硫酸イオンの含有量を有する配合処方からなる注入材、並びに、注入材の設定法およびそれを用いた注入工法である。ここで、Wは、耐久地盤に要求される耐久期間やコンクリート構造物の重要性を考慮して、環境上の安全性を想定した地盤改良領域における地盤注入材由来の水溶性反応生成物、特には硫酸イオンの最大濃度であり、X≦Wとなる値とする。また、非アルカリ性とは、pHが10以下を意味する。
本発明において、上記硫酸イオンを含む非アルカリ性シリカ系注入材は、水ガラスおよび/またはシリカコロイドを有効成分として含有し、水ガラスまたは水ガラスとコロイドに起因するシリカ分が1~40w/vol%、好ましくは2~30w/vol%であることが好ましい。また、本発明においては、上記硫酸イオンを含む非アルカリ性シリカ系注入材を、地盤改良領域に部分的に注入することによって注入領域全体における硫酸イオン濃度を低減することができる(図31(a)~(d)、[表10]の△1に相当)。この場合、非硫酸系注入材の注入部分をアルカリ系水ガラスグラウト(例えば、水ガラス-重曹系)とすると、図31の注入部分の網掛け部の過剰の硫酸イオンが水ガラスグラウトの過剰のアルカリを中和して強度増加と耐久性の向上に役立つ効果がある。また、注入地盤における硫酸イオンの地下水中への溶出((表10)のα2)を考慮すれば、注入地盤の硫酸イオンが経時的に低減すること([表10]の△2に相当)を想定することができる。また、本発明においては、硫酸イオンを含まないシリカ系注入材または硫酸イオン濃度が上記硫酸イオンを含む注入材より少ないシリカ系注入材を、上記硫酸イオンを含む非アルカリ性シリカ系注入材が注入されている注入領域の一部に置き換えて注入することができる(図31、[表10]の△4に相当)。さらに、本発明においては、硫酸イオンの固定化材としてカルシウム(セメント系を含む)を有効成分とする注入材を注入することができる([表10]の△3に相当)。この場合、硫酸イオンの固定材として硫酸イオンを低減することに加えてカルシウム含有注入液の注入量分が硫酸イオン含有注入液に置き換わる(△4に相当)という効果がある。また、カルシウム含有地盤に硫酸イオンを含有する注入材を注入することにより、地盤中のカルシウムイオンと注入材中の硫酸イオンを硫酸カルシウムとして不動態化して硫酸イオンを低減することができる(△3に相当)。さらに、本発明においては、上記硫酸イオンを含む非アルカリ性シリカ系注入材は、シリカコロイドを含むことによって、硫酸イオンの含有量を低減できる。なぜならば、コロイドは微量のアルカリによって安定化しているが、そのアルカリ量はほとんど無視できるからである([表10]の△5に相当)。また、本発明においては、上記硫酸イオンを含まないかまたは硫酸イオン濃度が少ない非アルカリ性シリカ注入材が、リン酸またはリン酸化合物を有効成分として含むことが好ましい([表10]の△4に相当)。さらにまた、本発明においては、コンクリート構造物と上記硫酸イオンを含む非アルカリシリカ系注入材を注入する領域の間の領域にリン酸若しくはリン酸化合物、または、金属イオン封鎖剤を有効成分とする注入材を注入することが好ましい(図31(b)、[表10]の△4に相当)。
なお、上記硫酸イオン濃度が少ない硫酸イオンを含む非アルカリシリカ系注入材とは、注入材中のシリカコロイドおよび/または水ガラス中のアルカリを中和するに必要とする硫酸イオン濃度より硫酸イオン濃度が低い非アルカリシリカ注入材をいう。
以上の研究結果に基づき、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、コンクリート構造物を構築する予定部の近接部に硫酸イオンを含む非アルカリ性シリカ系注入材の配合処方を以下の注入設計で行って注入することにより環境負荷を低減し、長期耐久性に優れ、かつ、注入目的を満たす地盤改良効果を得る地盤固結領域を定量的に形成する注入材と地盤注入工法を発明した。これにより、コンクリートに接する硫酸イオンを低減することで、コンクリート構造物を保護することを可能にした。勿論、本発明は、コンクリート構造物とは関係ない地盤条件においても、環境に優れた地盤注入工法に適用できる。
本発明者らは、硫酸イオン等の水溶性反応生成物のコンクリートに対する影響は、注入対象地盤における固結土、または、地盤改良領域全体の硫酸イオン濃度に依存し(pHではない)、その濃度をXとし、地盤改良領域内における硫酸イオンの溶出率(低減率)をαとし、改良地盤中の硫酸イオンの残存率を△として、コンクリートに対する影響を低減する要因Yを明らかにした(表10)。このYを定量化して、硫酸系非アルカリ性シリカ注入材による固結土の注入後の改良地盤中の硫酸イオン濃度X、X(ppm)が、注入地盤においてコンクリート構造物に影響を及ぼさないと想定される硫酸イオン濃度の最大値W以下になり、かつ、注入目的を満たし、適用地盤および注入方式に適合する硫酸イオン濃度(a)を含有する配合処方からなる非アルカリシリカグラウト、並びに、地盤改良設計方法、および、それを用いた非アルカリ性シリカ系注入材の注入方法の実用化が可能になった。これにより、従来、定性的に行っていた環境保全型シリカグラウトおよび注入工法に対し、本願発明では、定量的設計および地盤改良を可能にしたものである。なお、本発明において、「コンクリート構造物に影響を及ぼさないかまは影響を及ぼさないことが想定される」という意味は、コンクリート構造物の外見的破損または強度の低下等、実質的な破損を生じないという意味である。
[配合設定法]
地盤注入材由来の硫酸イオン等の水溶性反応生成物の濃度(a)を、地盤注入領域または注入固結体における硫酸イオン等の水溶性反応生成物の濃度(X)としてコンクリート構造物に影響を及ぼさないと想定される硫酸イオン濃度Xの最大値をWとし(W≧X)、地盤中の水溶性反応生成物の低減する要因を(Y)とし、水溶性反応生成物の低減率を(α)とし、反応生成物の残存率を△とし、低減要因(Y)はゲルからの該水溶性反応生成物としての硫酸イオンの溶出率(α)およびゲル中の硫酸イオンの残存率(△)に関わるものとして(△=1-α)、低減要因(Y)として下記△1~△7のうちのいずれかまたは複数を設定する。なお、注入率Aは注入土量1m当たりの注入率を意味しているが、地盤が不均質で逸脱しやすい地盤や、地下水により逸脱しやすい地盤、浸透しにくい地盤、注入目的の重要度によって、表12bを標準として変動させることができる。
=A×a・・・式(1)
:地盤注入領域または注入固結体中の硫酸イオン濃度(ppm)
A: 注入率(%)/100(例えば、注入地盤1m当たりの注入量を400Lとすれば、注入率A=0.4となる。)
a:注入材中の硫酸イオン濃度(ppm)
≦W・・・式(2)
注入地盤中における硫酸イオンの低減する要因を(Y)とし、硫酸イオンの溶出率α、ゲル中の硫酸イオンの残存率を△とすると、
=A×a×Y・・・式(3)
:地盤改良領域全体または注入固結体中の硫酸イオン濃度(ppm)
A: 注入率(%)/100
a:注入材中の硫酸イオン濃度(ppm)
Yを△とすれば、△は、下記改良地盤中の水溶性反応生成物(硫酸イオン)の残存率である。
≦W・・・式(4)
,Wは、構造物の重要度、地盤条件、地下水条件、地中構造物の位置関係、地中構造物の構造や表10の△8、△9、△10も加味して、水溶性反応生成物の濃度がコンクリート構造物に悪影響を及ぼさないと想定される最大値(許容値)として定めるものとする。
としては、表9および上述の記載に基づき8,000ppm、または、地盤状況、地下水状況を考慮して5000ppmとしてもよい。いずれにせよ、表10の△8~△10も考慮して、適切な値を設定することができる。非アルカリシリカグラウトの水ガラス濃度が高ければ、また、ゲル化時間が長ければ、硫酸を多く必要とするので、中性または酸性領域のpHに設定するために必要とする酸性剤の量は、シリカ分のアルカリ含有量や設定するゲルタイムが関係する。
なお、ここでは、前述したようにシリカコロイドおよび/または水ガラスを有効成分とするシリカ溶液のアルカリは実質的に水ガラスのアルカリであるため、改良地盤を注入目的を達するシリカ濃度1~40w/vol%で硫酸イオンのみのシリカグラウト(シリカゾルグラウト)で固結する場合、シリカ濃度、pH、硫酸濃度、ゲルタイム、固結強度の基本は図1(b)(c)より知ることができるが、通常、硫酸イオン濃度50,000~5,000ppmが用いられる改良地盤中の硫酸イオンを低減する要因(Y)として、表10に溶出率をαとし、残存率を△として、(Y)として△1~△10にまとめた。上記において、注入率Aの標準的数値を、表12(b)に示す。このうち溶液型の注入率は、一次注入材の注入率も含む値である。従って、一次注入材として懸濁型注入材、または、カルシウム系の注入材の注入率(α=溶出率に相当(注入率の低減率))を多くすれば、硫酸イオン含有シリカグラウトの注入率が低減する。従って、地盤中の硫酸イオンの残存率は、△7=1-αとなる。
Figure 0007146202000010
非アルカリシリカグラウトが実用性のあるサンドゲル強度を得るには、シリカ濃度が1~40w/vol%である。この濃度のシリカグラウトのpHを非アルカリ領域にするには、硫酸イオン濃度は硫酸単独で行う場合、通常、a=50,000ppm~5,000ppmが用いられる(図1(b)、図1(c))。
この場合、注入地盤の硫酸イオンによる濃度Xは、注入率A=0.4とした場合、
=A×a=0.4×(50,000~5,000)
=20,000~2,000ppm
従って、W=5,000ppmとすると、地盤条件、地下水条件が表4のBまたはCの場合は表1の2または3を用いて、注入地盤の硫酸イオン濃度が8,000ppm以下あるいは5,000ppm以下であって、かつ、注入目的と注入方式(表17、表16、図11、図12)に適合する注入液の硫酸イオン濃度(a)である配合処方を設定した注入材を設定して注入しなくてはならない。
地下水条件が表4におけるAまたはBの場合、注入地盤における、コンクリート構造物への影響を生じない最大の硫酸イオンの値をWとし、注入液の硫酸イオン濃度をaとし、注入地盤における硫酸イオン濃度をXとし、環境への影響を低減する要因をY(表10)とすると、注入地盤において、W≧Xとなる硫酸イオン濃度を有する注入材の配合処方の設定例を、以下に示す。
[具体例]
地盤中の硫酸イオンの環境への影響を低減する要因Yを設定して、Xが5,000ppm以下となる硫酸イオンを含有する注入材が注入目的を満たし、かつ、注入方式を可能とする硫酸イオン濃度がaとなるように配合設定を行う。
注入材の硫酸イオン濃度がa=50,000のとき、
=50,000×0.4=20,000
α=0.9ならば、Y=△2=0.1
従って、X=2,000≦Wとなる。
従って、a=50,000ppmの注入液を地盤に注入したとき、1年以内に10倍に希釈されることが想定されるならば(△2=0.1)、X=5,000ppm以内になり、問題ないことが判る。しかし、そのような想定が困難な地盤状況や地下水状況と想定されたら、Yとして△4や△5或いは△7を適用すればよい。
以下に、コンクリート構造物に非アルカリシリカグラウトが悪影響を及ぼさないための注入材の配合設定の手法を示す(表10)。下記(1)~(6)のうちのいずれかまたは複数の手法によって、注入地盤状況および地下水状況に応じて、地盤注入材を、地盤改良領域または注入固結体における地盤注入材由来の水溶性反応生成物が、コンクリート構造物への影響を及ぼさないと想定される濃度まで低減される配合処方に設定することができる。
(1)注入目的と注入地盤状況から要求される強度を得られるシリカ濃度の設定。
(2)地盤改良領域における硫酸イオン等の水溶性反応生成物のコンクリート構造物への影響を低減する要因(Y)における硫酸イオン等の水溶性反応生成物のゲルからの溶出率(α)とゲル中の残存率(△)の種類および数値の設定。
(3)コンクリート構造物または環境に影響を及ぼさないと想定される注入地盤における硫酸イオン濃度の最大値(W)の設定。
(4)地盤条件および低減要因(Y)からの、地盤における硫酸イオン濃度(X)の設定。但し、W≧X=A×a×Y
(5)W≧Xを満たす地盤注入材由来の硫酸イオンの濃度(a)の設定。
(6)コンクリートに対して安全でかつ注入目的、地盤状況および適用する施工法に適合した、注入方式、注入設計を可能にする、注入目的を満たすシリカ濃度と硫酸イオンの濃度(a)に対応する前記地盤注入材の配合処方の設定。
<具体例>
硫酸系非アルカリ性シリカ注入材の注入後の改良地盤中の硫酸イオン濃度X(ppm)は、硫酸イオン濃度の低減がない場合は、式(1)より、硫酸イオン濃度の低減があると想定される場合は、式(2)より、求めるものとする。
=A×a・・・式(1)
ここで、Aは注入材による注入率(%)/100、aは注入材の硫酸イオン濃度(ppm)である。
例えば、A=0.4とすると、
=A×a=0.4a、a=X/A=5,000/0.4=12,500、
従って、X≦5,000ppmとすると、注入材の硫酸イオン濃度はa≦12,500ppmでなくてはならない。例えば、シリカ濃度1~2w/vol%なら配合が可能である(図3(a))。
注入目的に対応できるシリカグラウトとして、SiO濃度6w/vol%の配合を用いるとする。W≧X=A×a×Y(=△)とし、地盤条件、地下水条件を考慮して、W=5,000ppmとなる注入材の配合設計を行うものとする。
硫酸イオンの低減要因Y(=△)とし、図4、図5より、硫酸イオン濃度は1年以内に10倍に希釈されるとみなせば、硫酸イオンの90%溶出することになり(溶出率=α2=0.9)、硫酸イオンの残存率△2=1-0.9=0.1となる。図10の1の曲線で、表11の〇印の配合、硫酸イオン濃度21,000~28,000ppmを用いて、地盤中の硫酸イオンはX=a×0.4×0.1=872~1,120ppmとなり、W≧X=872~1,120ppmとなり、問題ない。また、粘性土がある地盤で安全をみて△2=0.3とすると、
=A×a×Y(=△2(=0.3))=0.4×(21,000~28,000ppm)×0.3=2,520~3,360ppmとなる。
従って、図10の曲線1の範囲、および、表11の〇印の配合を用いればよいことがわかる。また、適用条件が表4のBまたはCの場合、すなわち、注入地盤が停滞状態または濃縮状態の場合は、図10の曲線3の配合(表11、×印)を用いるか、安全を考慮して、曲線4の配合(表11△印)の配合を用いればよいことが判る。
上述したように、式(2)によって、注入目的および施工法、地盤条件から注入設計に用いようとする配合処方がコンクリートに対して安全な設計が可能になり、定量的注入設計により環境負荷を低減した地盤注入が可能になる。
式(2)でX=5,000ppmとなる硫酸イオン濃度aのシリカグラウトを算出する。通常、水ガラスのシリカ濃度が1~50w/wt%の場合、硫酸単独で非アルカリ領域にする場合、硫酸イオン濃度が50,000~5,000ppm必要である。従って、50,000~5,000ppmで注入地盤の硫酸イオン濃度Xは、地下水が停滞下では、注入率t=0.4とすれば、20,000~2,000ppmとなる。この値を5,000ppm以下にするためには、水ガラスのシリカ濃度の半分をコロイドで置き換えれば、注入液の硫酸イオン濃度は半分(△5=0.5)となり、注入地盤の硫酸イオン濃度(X)は10,000~1,000ppmとなる。また、注入液の硫酸イオン濃度の半分をリン酸やクエン酸、コハク酸、AlCl、FeCl等の非硫酸系で置き換えれば(△4=0.5)、注入地盤の硫酸イオンは10,000~1,000ppmとなる。上記を併用すれば(△4=0.5、△5=0.5)注入地盤の硫酸イオンは5,000~500ppm≦Wとなる。なお、さらに上記において地下水で1/10に希釈されるとすれば、注入率A=0.4とすれば硫酸イオン濃度は2,000~200ppm<Wとなる。
このように、硫酸の一部をリン酸等の無機酸や有機酸、AlCl、FeCl等の無機塩または有機物の酸性を呈する塩で置換えればよいことが判る。また、金属イオン封鎖剤を用いれば、前述したように、硫酸イオンを低減しなくてもコンクリートを保護できる。
また、一例として、地盤条件が開放系で注入率45%とし、そのうち10%を懸濁系のセメントベントナイト(CB)を一次注入の注入率として、二次注入としての、硫酸系シリカグラウトの注入率を低減した。同現場でCBが脈状に正常に固結していた。この場合、注入率A(=0.45)のうち0.1を一次注入材(CB)、0.35を二次注入材(シリカゾルグラウト)とした。使用したシリカゾルグラウトの反応剤は、硫酸イオン単独で(表1のNo.1)注入液の配合は、表11の〇印、図10の1ライン、ゲルタイム約1,000分、硫酸イオン含有量25,000ppmのシリカグラウトの注入である。注入率A=45%とし、CB:シリカゾルグラウトの注入率をそれぞれ10%、35%とした。一次注入(CB)の注入率0.1、二次注入(シリカゾルグラウト)の注入率を0.35とすれば、地盤中の硫酸イオン濃度X=25,000×0.35=8,750ppmとなる。地下水で10倍に希釈されて硫酸イオンの溶出率α=0.9となり、従って、地盤中の硫酸イオンの残存率は△2=1-0.9=0.1となる。従って、注入地盤の硫酸イオン濃度X=8,750×0.1=875<W、となる。または、一次注入材の注入により透水性が低下して硫酸イオンの溶出率α=0.5となり、従って、注入地盤の硫酸イオンの残存率を△2=1-0.5=0.5とすれば、X=8,750×0.5=4,375<Wとなる。以上より、一次注入材を注入して硫酸系シリカグラウトを地盤に注入して硫酸イオンの地盤中の濃度がW=5,000ppm以内になるように地盤状況に対応して溶出率を想定して、一次注入材の注入率を設定すればよいことが判る。同様のことを、カルシウムシリケート系やスラグ系等の懸濁型グラウトやカルシウム系グラウトまたはカルシウム含有の溶液型注入材を一次注入材として用いて行うことができる。また、一次注入でセメントグラウトや石灰やスラグ等のカルシウム含有材を注入すれば、注入液の注入率0.4のうち、0.1(α4=0.1)を一次注入材として注入すると、シリカグラウトの注入率は0.3となる。さらに、セメントや石灰やスラグのCa分と硫酸イオンが反応して、注入率0.4のうちの0.1の硫酸イオンがCaSOとして固定される(α3=0.1)と想定すると、地盤中の硫酸イオン濃度の残存率△3=0.2となる。従って、X=25,000×0.2=5,000ppmである。従って、25,000ppmのシリカグラウトを注入すると、地盤の硫酸イオンはX=5,000≦Wとなる。なお、Caを含有する地盤に注入する場合のCaイオンによる硫酸イオンの固定率は、硫酸系注入液をCaイオン含有土と混合して予測することができる。
具体的には、図31に示すように、地盤改良領域2を、例えば、未改良部分3と改良部分4とが等しくなるように区切ることで、硫酸イオンを未改良部分に拡散させ、5000ppm以下とすることもできる(△1=0.5)。また、図31の未改良部分3に非硫酸系シリカ溶液を注入してもよい(△4)。例えば、水ガラス-重ソー系のアルカリ系水ガラスグラウトやその他の水ガラス-無機塩、無機酸、有機系反応剤等を未改良領域に注入してもよい(図31(a)(b)(c)(d))。この場合、アルカリ系水ガラスグラウトは、アルカリ領域で未反応水ガラスやアルカリが残存しているため耐久性はないが、周辺部の過剰の酸がゲル中に侵入してアルカリを中和して、耐久性を向上することができる。この場合、非硫酸系注入材の注入部分に注入されるアルカリ系水ガラスグラウトのアルカリ分の量が、注入部分周辺の酸性シリカグラウトの酸分の量と同じかまたは少ないことが好ましい。なぜならば、アルカリ分が多ければ、酸性シリカのゲルを劣化する恐れがあるからである。これを確認するには、図18(b)に示すように、アルカリ系水ガラスグラウトのゲルを同体積の酸性シリカグラウトのサンドゲルで包んだ後、アルカリ系水ガラスグラウトのサンドゲルの強度が増加することを確認すればよい。
すなわち、例えば、地盤改良領域を、硫酸系注入材とともにアルカリ系グラウト、カルシウム含有グラウトまたは懸濁型グラウトのいずれかまたは複数の非硫酸系注入材を併用して注入するものとし、アルカリ系グラウト、カルシウム含有グラウトまたは懸濁型グラウトの注入率をAとし、酸性シリカグラウトの注入率をAとする。アルカリ系グラウトを用いる場合は、アルカリが酸性シリカグラウトの酸により中和されることによって、アルカリ系グラウトの耐久性が得られるものとし、酸性シリカグラウトの注入率Aにおいて硫酸イオンが構造物に影響を生じないと想定される注入率になるように設定する。また、非硫酸系注入材として、カルシウム含有グラウトまたは懸濁型グラウトを用いる場合は、注入率Aを、酸性シリカグラウトの注入率Aにおいて硫酸イオンが構造物に影響を生じないと想定される注入率となるように設定する。これにより、地盤改良領域の耐久性が得られるものとすることができる。
また、上記において地盤改良領域の硫酸イオン濃度は、硫酸イオン含有注入液の注入率が減少することによって低減するのみならず、硫酸イオンがカルシウムによって硫酸カルシウムとして捕捉(固定)されることによっても低減する。
さらに、同様に一次注入においてカルシウム含有グラウトとして懸濁型グラウトを用いる場合も、地盤改良領域の硫酸イオン濃度は、全注入率から一次注入材の注入率を除いた硫酸イオン含有注入材による二次注入材の注入率が低減したことによる硫酸イオンの低減の他に、二次注入材の硫酸イオンが一次注入材のカルシウムによって捕捉(固定)されることによっても低減される(表1、△3,4,6,7)。
以上より、本発明においては、コンクリートに影響を与えない地盤改良領域全体の硫酸イオン濃度の平均Xの値をW以下であるとすると、Wは8,000ppm以下または5,000ppm以下とし、或いは、このWの値は地盤条件、地下水条件、コンクリート構造物の構造と位置関係、水質条件、土質条件または実績等によって定めることができる。また、地盤改良領域の硫酸系非アルカリシリカ注入材が注入されていない領域に、アルカリ性シリカ注入材またはリン酸系注入材のように金属イオン封鎖材を含む注入材やカルシウムやセメント、スラグを含むアルカリ性懸濁液を注入することもでき、さらに、硫酸系非アルカリ性シリカ注入材はリン酸化合物または金属封鎖剤を含んでもよく、さらにまた、硫酸系非アルカリ性シリカ注入材に用いられるシリカ化合物は、水ガラスおよび/またはシリカコロイドを有効成分とするpHが1~10のシリカグラウトからなるものとする。また、地盤改良領域内のコンクリート構造物の周辺部について、下記(1)~(5)のうちのいずれかまたは複数を併用することにより、地盤改良領域内の硫酸系の地盤注入材の硫酸イオン濃度を、コンクリート構造物に影響を及ぼさないと想定される濃度まで低減することもできる。
(1)水ガラス系注入材
(2)懸濁系注入材
(3)低硫酸化合物系注入材
(4)硫酸化合物系注入材および非硫酸化合物系注入材の併用
(5)リン酸化合物、金属イオン封鎖剤およびキレート剤のうちのいずれかまたは複数を含む注入材
[環境保全に優れた非アルカリシリカグラウトの注入設計例]
[環境保全性]
(1)シリカ濃度:6w/vol%(シリカコロイド:水ガラス=1:1)
(2)地盤条件:停滞系~開放系
(3)注入率1=A/100=0.4
(4)X=a×A×Y
a:注入材中の硫酸イオン濃度、X:改良地盤中の硫酸イオン濃度、Y:注入地盤中の硫酸イオン濃度低減要因、α:地盤中の硫酸イオンの溶出率、△:地盤中の硫酸イオンの残存率
(5)Y=△4=0.5 硫酸:リン酸=1:1
(6)W=5000ppm
:注入地盤中のコンクリート構造物に影響を及ぼさないと想定される硫酸イオン濃度
(7)X≦W
(8)X≦Wを満たし、かつ、注入目的、施工条件、地盤条件、注入設計、注入方式、浸透固結性、長期耐久性を満たす配合処方からなる注入材の設定。
(9)ゲルタイム:気中ゲルタイムGT1000分(図1、図9、図10)、土中ゲルタイムGT10~1,000分(図9)、注入方式:ダブルパッカ法(図11(a)、表16、表17)、注入速度:10L/min(図32の限界注入圧力以内)
(10)[注入材の処方]非アルカリシリカのシリカ成分の構成 シリカコロイドのシリカ:
シリカ濃度:6w/vol%(表12a、図10)
水ガラスとシリカコロイドのシリカ濃度比=1:1(図10、表11)
反応剤配合量とゲルタイム 16L/400L(図10、表11の記号×)
硫酸:リン酸=1:1(図10)(Y:△4=0.5)
[地盤改良効果]
設計強度qu=0.1MN/m(相対密度60%)
安全率2として室内試験目標強度 qu=0.2MN/mとする。
[注入目的、地盤条件、注入条件に適合する環境保全性に優れた耐久性が得られる注入材の配合処方の設定]
気中ゲルタイムGTと反応剤配合量の関係(図10、No.3ライン、表11、記号X)より、注入液の配合を設定する。この場合、Yは△4=0.5とすれば、
=A×a×Y(=△4)=0.4×a×0.5=0.2×a≦W=5,000
従って、a≦25,000
以上より、a=25,000(表11の記号×、図10、No.3ライン)ならば、改良地盤の硫酸イオン濃度は5,000ppm以下となる。
以上より、注入液400L当たり シリカ濃度6w/vol%、コロイド:水ガラス=1:1、硫酸配合量20000ppm、リン酸配合量20000ppm、気中ゲルタイムGT=1000分(20℃)の配合となる(表11、表12a、図10)。
この配合で従来の浸透固結効果が得られた実績より(図9)、気中ゲルタイム(GT=1,000分)は土中ゲルタイムGT=300分~10分の範囲におさまる、表16、図11(a)のダブルパッカ注入方式(点注入)を用いて、毎分吐出量が10分で土粒子間浸透限界内の注入速度(図32)で、注入孔間隔2m、注入速度10L/min、1ステージ当たりの注入時間80分(表17)で、土中ゲルタイムが気中ゲルタイム(GT0)1,000分から、土中ゲルタイムが300分~10分に短縮しても(図9)、図33の乗越浸透固結効果により、注入量に相当する固結体を形成し、注入目的を達する浸透性に優れた耐久性固結効果を発現する(図3(c)、図14、図16)。なお、表16、図11、図12は注入方式の例を示すものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
(11)浸透試験
試験条件
試験装置:図15、図16の長さ1.0m、直径0.05mのアクリルモールド中に相対密度60%になるように現場砂を充填し、水で飽和した後に透水係数を求める目的で水圧50kPaで水を注水した(図16)。その結果、透水係数k=3.23-5m/secを得た。その後、上記シリカグラウトを50kPaで注入した結果を、図17に示す。以上より、浸透長1mで設計強度100kN/m、室内目標強度200kN/mを満たす強度が得られることがわかった。
(12)シリカグラウトの設定配合の決定
相対密度60.0%、現場採取土、現場土のpH4.44、設計強度qu=100kN/m、室内目標強度qu=100×2=200kN/mとした。
以上の条件で、表11の記号Xおよび図10の曲線3の配合でゲルタイムと強度試験を行った。その結果を、図3(c)イに示す。これにより、設計強度をqu=100kN/m、安全率を2として、室内目標強度を200kN/mを満たすためには、シリカ濃度を6w/vol%にすればよいことがわかった。この結果より、シリカグラウトの設定配合を表11、記号Xとした。この場合、硫酸イオン濃度は7.0~7.6L/400L、硫酸イオン濃度は20,000ppmで、18,000~25,000の範囲に入る。また、ゲルタイムは図10の通りである。さらに、浸透試験(図15、図16、図17)より充分な浸透固結性が得られることが判った。さらにまた、以上より、現場採取土を用いて複数の配合による室内試験を行い、そのデータに基づいて、現場の実際において目標とする設計強度を得て、配合設計ができることがわかった。なお、図3(a)(b)は、活性複合シリカ(活性複合シリカとは、シリカコロイドおよび/または水ガラスを有効成分とするpHが1~10の非アルカリシリカグラウトをいう)を用いた固結豊浦砂の相対密度とシリカ濃度と一軸圧縮強度の関係を示し、図3(c)は、強度の長期持続に関する耐久性を示す。また、図3(d)は、固結現場採取土のシリカ濃度と一軸圧縮強度を示す。また、図6は、非アルカリシリカグラウトの反応剤添加量とpHとゲルタイムの関係を、図7は、シリカ濃度と気中ゲルタイムの関係を示す(活性シリカコロイドとは、シリカコロイドを有効成分とする非アルカリシリカグラウトをいう)。これらは、図14、図15、図16によって現場採取土毎に強度データ並びに浸透試験データが得られ、図3(d)、図8、図9の注入効果が得られた実績データとともに、本発明による改良地盤における環境保全性とともに注入目的、地盤条件と注入方式に適合した配合処方からなる注入材の設定を可能にしたものである。
[環境保全型注入設計の手順例]
(1)注入目的を満たす強度を得るシリカ濃度の設定:
対象となる地盤改良領域の現場採取土を用いて要求される設計強度に対するシリカ濃度を設定する。
(2)水溶性反応生成物が環境に影響を及ぼさないと想定される注入後の地盤中における硫酸イオンの許容濃度(W)の設定。
(3)改良地盤における注入率の設定:
非アルカリシリカグラウトの注入率を設定する。
(4)地盤中のCa含有量の設定:
注入前の地盤中のカルシウムおよび/またはカルシウム系懸濁型注入材のカルシウム量の測定。
(5)注入地盤における硫酸イオンの低減要因(Y)の設定。(溶出率=低減率(α)と残存率(△))
(6)硫酸系非アルカリシリカグラウトと地盤中のカルシウムによる硫酸カルシウムの形成による注入地盤中における硫酸イオン濃度の低減率(α3)と残存率(△3)。
(7)地下水による硫酸イオン濃度の希釈による注入地盤中の硫酸イオン濃度の低減率(α2)と残存率(△2)。
(8)シリカグラウトのシリカ分の一部または全部をシリカコロイドに置き換えることによる注入地盤中の硫酸イオン濃度の低減率(α5)と残存率(△5)。
(9)硫酸系シリカグラウトの一部または全部を金属イオン封鎖剤含有非アルカリシリカグラウトまたは非硫酸系注入材で置き換えることによる注入地盤中の硫酸イオン濃度の低減(α4)と残存率(△4)。
(10)注入目的を満たすシリカ濃度と反応剤の種類と濃度とゲルタイム(気中ゲルタイム、土中ゲルタイム)、注入方式、注入設計に対応した浸透性を可能にする施工法に適合する配合処方の設定。なお、以上において、溶出率(α)は低減率に相当する。
(11)環境保全型注入材並びに注入工法の設定。
ここで、(6)、(7)、(8)、(9)のいずれかまたは複数にて、(2)を満たすならば、(10)、(11)へ進むことができる。
また、(6)、(7)、(8)にて、(2)を満たさなければ、(9)へ進むことができる。
さらに、(6)、(7)、(8)、(9)の手順の順序は問わない。
さらにまた、以上は手順の具体例であって、その順序は問わないものとする。また、(Y)(α)(△)については表10を参照。
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(発明の効果)
従来、シリカグラウトは単に注入材の素材の組み合わせによるゲル化や効果を対象としていた。それに対し、本発明者らは先願発明によって、地盤中の硫酸イオンがコンクリートに影響をもたらす要因を見出し、それに基づき注入材を地盤に注入した場合のコンクリートに対する安全性を評価する地盤注入工法を提案した。しかし、上記発明はその要因に基づき注入目的を満たし、かつ、注入地盤や採用する注入方式に適合した硫酸イオン濃度からなるコンクリートに対する安全性を満たす配合処方からなる定量的注入液および注入工法の発明には至っていなかった。その理由は、多様な地盤条件下で注入目的と耐久性と環境保全性を同等に満たす要因があまりに多く複雑だったからである。これに対し、今回、本発明者らは、注入材のゲル化物から溶出するSOイオンの挙動を解明し、硫酸イオンの地盤中における挙動に対応して注入地盤における硫酸イオンの定量的低減要因(Y)として溶出率または低減率(α)と残存率(△)を設定し、さらに、その注入地盤中における硫酸イオンの残存濃度がコンクリートに影響を及ぼさない硫酸イオン濃度以下となる値(W)であって、それを満たす注入液の硫酸イオン濃度(a)を設定し、さらに、その注入液がその硫酸イオン濃度とシリカ濃度のゲルタイムと固結強度と地盤への浸透性が注入目的と適用する注入方式に対応した、改良地盤におけるコンクリートに影響を及ぼさない硫酸イオン濃度以下となる硫酸イオン濃度を含有する配合処方からなる長期耐久性に優れた注入材を地盤に注入することによって、環境負荷の少ない定量的注入設計による地盤注入工法を可能にしたものである。

Claims (1)

  1. コンクリート構造物の近接部または掘削後にコンクリート構造物を構築する予定の近接部の地盤に、硫酸イオンを含み、シリカ濃度が1~40w/vol%、pHが1~10である非アルカリシリカグラウトを地盤注入材として注入して地盤改良領域を形成する地盤注入工法であって、
    前記地盤改良領域の地盤状況および地下水状況から、地盤内に溶出した前記硫酸イオンの該地盤中における挙動に基づき、注入地盤を下記の(1)開放系、(2)停滞系または(3)濃縮系のいずれかに分類し、
    (1)開放系:地下水が前記コンクリート構造物よりも外方向に流れており、硫酸イオン濃度が低減していく地盤
    (2)停滞系:地下水流が停滞しており、硫酸イオン濃度がほとんど変化しない地盤
    (3)濃縮系:硫酸イオンが前記コンクリート構造物の表面から浸透して濃縮され、硫酸イオン濃度が増大していく地盤
    前記分類された注入地盤のタイプに応じ、該注入地盤における硫酸イオンの低減要因(Y)として、下記△1~△7のうちから選ばれるいずれかまたは複数を設定し、
    △1:前記地盤改良領域内に非注入部分を設け、非注入部分の比率を硫酸イオンの溶出率α としたときの、改良地盤中における硫酸イオンの残存率 △1=1-α
    △2:地下水中に硫酸イオンが溶出する溶出率をα としたときの、前記地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △2=1-α
    △3:前記地盤改良領域内における硫酸イオンの固定率を溶出率α としたときの、該地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △3=1-α
    △4:前記地盤改良領域内における非硫酸系注入材、または、低硫酸系注入材による硫酸系注入材の硫酸イオンの置換率を溶出率α としたとき、該地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △4=1-α
    △5:前記地盤注入材中のシリカ成分のコロイドによる置換率を溶出率α としたとき、前記地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △5=1-α
    △6:前記地盤注入材中において硫酸イオンの一部または全部を捕捉し、その捕捉率を溶出率α としたとき、前記地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △6=1-α
    △7:前記地盤改良領域内の前記地盤注入材の注入率を低減し、該注入率の低減率を溶出率α としたとき、該地盤改良領域内における硫酸イオンの残存率 △7=1-α
    前記注入地盤に応じて設定された前記低減要因(Y)に基づき、
    前記地盤注入材として、該地盤注入材由来の硫酸イオンの濃度が、前記地盤改良領域内で環境に影響を及ぼさない程度の硫酸イオンの濃度である、前記地盤改良領域に残存する硫酸イオン濃度の平均値(X)の値が8,000ppm以下になるような濃度とされ、かつ、地盤状況に対して注入目的を満たすシリカ濃度および適用する施工法に適合した配合処方からなるものを選択することを特徴とする地盤注入工法
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