JP4766532B1 - 地盤注入工法 - Google Patents

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Abstract

【課題】中空部を有する土中構造物を耐久性に優れたシリカグラウトで耐震補強する際における、反応生成物による土中構造物の劣化を抑制するとともに、注入領域全体の反応生成物量を最小限にすることにより、注入領域全体におけるシリカグラウトの反応生成物の影響を最小限に抑制して、コンクリートの劣化防止と水質保全との両立を図ることができる地盤注入工法を提供する。
【解決手段】既存または建造予定の土中構造物の周囲を囲む地盤中に、キレート剤を有効成分とする非アルカリ性シリカ溶液を注入する地盤注入工法であって、土中構造物が少なくとも一部について地下水面下に存在し、土中構造物を構成する壁面のうち、一面が地盤に面し、かつ、他の一面が大気に面している地盤注入工法である。非アルカリ性シリカ溶液を、地盤中のキレート剤の含有量が土中構造物の表面1mあたり36g以上となるよう注入する。
【選択図】図1

Description

本発明は、地盤注入工法(以下、単に「注入工法」とも称する)に関し、詳しくは、地下水中に含まれるコンクリート構造物や土中埋設物を劣化させるイオン、特に、海水や硫酸イオン等から、既存のまたは地盤改良後に建造されるコンクリート構造物や土中埋設物を防護するための地盤注入工法に関する。特に、リン酸化合物等のキレート剤を含むキレート系非アルカリ性シリカ(以下「マスキングシリカ溶液」と称する)によってコンクリート表面のCa2+やMg2+を取り込んでコンクリート表面にシリカの防護被覆層(以下「マスキングシリカ」と称する)を形成して、地下水面下に存在するコンクリート構造物の劣化または劣化コンクリート構造物の補修を防ぐことができるとともに、反応生成物を最小限にすることができる環境保全性の高い地盤注入工法に関する。さらには、地盤中の耐震補強を施すべきインフラ、例えば、電信・電話が設けられている共同溝や、トンネル、地中管、ガス管、マンホール、上下水道管等の中空部を有するコンクリート構造物やコンクリート枕、鋼管杭等の、地下水面下に存在するコンクリートや金属からなる中空構造物(土中構造物を構成する壁面のうち、一面が地盤に面し、かつ、他の一面が大気に面しているものを意味する)の劣化防止が可能な地盤改良工法に関する。
軟弱地盤の基礎の強化や、掘削時の地盤安定および液状化対策工事に適用される技術として、非アルカリ性シリカグラウトによる地盤改良技術が知られている。非アルカリ性シリカグラウトが地盤中に注入され、固結されると、この固結体は、地盤中に先行して存在するコンクリート構造物や土中埋設物(各種管路、地中線、マンホール等)に接触する。また、コンクリート構造物や土中埋設物が、あらかじめ固結された地盤を掘削して建造される場合にも、固結体はコンクリート構造物や土中埋設物に接触する。この場合、酸性シリカグラウト中の反応生成物が、溶出して、これらコンクリート構造物や土中埋設物に接触したり、地下水中に溶出して、コンクリート構造物や土中埋設物に接触し、水質に影響を生ずることがある。なお、本発明において、コンクリート構造物とは、コンクリートからできた構造物であり、トンネル等の地下構造物、擁壁、護岸構造物、住宅、道路、タンク等の構造物の他、劣化したり亀裂を生じたコンクリート構造物等も含むものである。
一般に、地盤中に存在するコンクリート構造物は、アルカリを溶出して中性化する傾向にある。また、コンクリート構造物にアルカリ性の水ガラス系グラウトの固結体が接触すると、コンクリート構造物から溶出するアルカリによって、水ガラスゲルのシリカ分が溶解する傾向がある。すなわち、水ガラス系グラウトの水ガラス材料は仮設用では問題ないが、長期耐久性の観点から見た場合、地盤中に存在する、または、掘削後に構築されるコンクリート構造物のアルカリに影響されやすい。
そこで、水ガラスをイオン交換処理によってアルカリを除去した活性シリカグラウト、水ガラスと酸を混合してなる酸性シリカグラウト、さらには酸性シリカにpH緩衡剤やアルカリ剤を加えて中性でゲル化時間を調整する非アルカリ性シリカグラウトが提案されている。かかるシリカグラウトは、ゲル化時間が長く、広範囲な浸透性に優れ、かつ、水ガラスグラウトの劣化要因となるアルカリを酸で除去しているため、長いゲル化時間で長期耐久性に優れ、広範囲な耐久性に優れた固結領域が得られる点で、他のアルカリ領域の水ガラスグラウトでは得られない特異な特性を有するものである。
すなわち、水ガラスを素材とするグラウトにおいては、劣化要因である水ガラス中のアルカリを脱アルカリして、酸性シリカグラウトにすることで、長期耐久性が得られるものとなる。これが、シリカゾルグラウトである。これに対し、水ガラス中のアルカリをイオン交換処理して更に増粒し、コロイド化することによって、その耐久性はより向上する。これが、シリカコロイドである。このシリカコロイドを主材として酸や塩基を加えて活性化したグラウトが、活性シリカコロイドであり、恒久グラウトとして使用されている。図13に、シリカ溶液のpHとゲルタイムとの関係を示すグラフを示す。
一般の溶液型アルカリ系注入材は、耐久性に劣り、ゲル化時間は短い。これに対し、酸性シリカゾルは長期耐久性に優れ、活性シリカコロイドは恒久性に優れる。液状化対策工のように広範囲の浸透注入には、脱アルカリによる長時間ゲル化が必要であり、アルカリの中和と長時間ゲル化には酸が用いられる。しかし、酸として硫酸を用いた場合、硫酸イオンがコンクリートに対して悪影響を与えることが既に知られている。硫酸塩を含む土壌および水がコンクリートに及ぼす作用は、下記表中に示すとおりである。
また、シリカ溶液は、酸性領域では、酸の多少でゲル化時間が大きな影響を受けるので、ゲル化時間のコントロールが難しく、わずかな酸の量の違いによりpHが大幅に変動してゲル化時間が大幅に変化する。そのため、酸性反応剤(以下、「硬化剤」とも称する)を多く用いて、pH1〜3付近で安定した長いゲル化時間を持つシリカ用溶液を用いている。この場合、反応生成物が多く生ずるので、コンクリートに対する悪影響のみならず、水質保全の点からも好ましくない。
酸性シリカ溶液の酸性反応剤としては、水ガラスのアルカリの中和を効率的に行うために、硫酸、リン酸またはこれらの混合物が用いられ、あるいはこれらの酸性塩が用いられる。この場合、酸性シリカ溶液の反応生成物は、不溶性のシリカと、硫酸ソーダまたはリン酸ソーダ等の水溶性の無機塩、あるいは過剰の酸である。これらの水溶性の反応生成物は、地下水の水質や地中構造物に何らかの影響を与えることが懸念される。また、酸性雨の影響、温泉地帯や火山滞積物中のトンネル、石炭灰上の埋立地の建築物基礎等による硫酸イオンの影響、あるいは海水等の影響で、コンクリート構造物の中性化や劣化が生ずることはよく知られている。
一方で、近年、地震の多発に伴い、コンクリート構造物や土中埋設物等の液状化対策工等の耐震補強が社会的問題になってきている。これを解決するためには、大容量の土を経済的に土粒子間に浸透させて、耐久性のある地盤を形成することが要求される。そのために、数時間から十数時間という長いゲル化時間を有する耐久性グラウトを、注入孔間隔を広範囲(1.5m〜4m)とし、低吐出で土粒子間に浸透させながら固結しなくてはならない。このためには、水ガラスの劣化要因であるアルカリを酸で除去して、数時間〜十数時間のゲル化時間を持ちながら耐久性に優れた酸性領域のシリカ溶液であるシリカゾルや、水ガラスをイオン交換処理して脱アルカリし、更に増粒したシリカコロイドを用いる必要がある。この場合、長いゲル化時間を得るために低いpHの酸性値を設定しなくてはならないので、酸性領域のシリカ溶液のコンクリート構造物への影響を検討する必要があり、過剰の硫酸または硫酸ソーダ等の水溶性反応生成物が地下水に溶出することによる環境負荷や、コンクリート構造物または土中埋設物への影響が課題となる。
このような背景に基づいて、本発明者らは、地下水中に硫酸イオンや海水が含まれている場合、あるいは硫酸イオンを含む注入材を地下水面下の地盤中に注入した場合における、ゲル化したゲル中の反応生成物の挙動と、そのコンクリート構造物等に対する影響とを永年にわたり研究した結果、以下のようなことを見出した。
(1)無限に開放された地盤条件下での地下水面下では、地盤中に注入された溶液型酸性シリカグラウトのゲル中で形成された反応生成物は、時間とともにゲル中から地下水中に溶出し、拡散し、希釈されて、その結果、かかる反応生成物の濃度は低減する。反応生成物の濃度が、周辺構造物に対し悪影響を生ずる期間よりも速く低減すれば、実際上問題は生じない。
(2)開放された地盤条件下では反応生成物の濃度の低減は速いが、閉塞された領域では反応生成物は拡散されにくく、希釈されにくい。また、濃度が濃くなる条件下では、反応生成物は周辺構造物に影響を与えやすい。
(3)コンクリート構造物等により一方が閉塞された地盤条件下では、反応生成物は拘束されやすく、地下水中で開放された領域の方向に拡散する。
上記知見に基づき、本発明者らは、硫酸イオンのコンクリートに対する悪影響を防止するために、リン酸化合物や金属イオン封鎖剤を含むシリカグラウトのコンクリートに対する影響を研究した結果、このようなシリカグラウトに起因してコンクリート表面に生ずる白色の被覆層(マスキングシリカ)が、コンクリートを保護することを見出した。この知見に基づき、本発明者らは、特許文献1において、キレート剤を含有せしめてなるシリカ溶液(マスキングシリカ溶液)を地盤中に注入し、地盤を固結するとともに、地盤中のコンクリート建造物やセメント硬化物の表面に防護被膜(マスキングシリカ)を形成する地盤注入方法を提案している。
特許第3072346号公報
ところで、地盤の地下水面下に設けられた共同溝やトンネル、雨水溝、ガス、水道、電信、電話の管路のように中空部を有するコンクリート構造物において、コンクリートの劣化や、亀裂の発生、目地の劣化などがある場合には、シリカグラウト中に硫酸イオンが含まれていたり、地下水に硫酸イオンや塩が含まれていると、これらを含む地下水がコンクリートの割れ目や劣化部分を通してコンクリート構造物の中空部に流入した後、気乾状態によって硫酸塩やNaClが濃縮されて、コンクリートをさらに劣化させると考えられる。
すなわち、中空部を有する土中構造物が地下水面下に存在する場合、このような土中構造物に硫酸イオンが流入すると、中空部で水分が蒸散して硫酸イオンが濃縮されるために、大きな問題を生ずる。したがって、かかる土中構造物の耐震補強を図るためには、このようなプロセスに基づく土中構造物の劣化を抑制することが重要となる。上記特許文献1に記載の技術によれば、コンクリート等からのアルカリの溶出を防止し、接触するグラウトのシリカゲルの劣化・弱化を防止する効果が得られるが、上記特許文献1では、このような中空部を有する土中構造物については考慮されておらず、かかる点で十分なものではなかった。
そこで本発明の目的は、中空部を有する土中構造物を耐久性に優れたシリカグラウトで耐震補強する際における、反応生成物による土中構造物の劣化を抑制するとともに、注入領域全体の反応生成物量を最小限にすることにより、注入領域全体におけるシリカグラウトの反応生成物の影響を最小限に抑制して、コンクリートの劣化防止と水質保全との両立を図ることができる地盤注入工法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下のようなことを見出した。
すなわち、地下水面下の中空部を有する土中構造物において、図14に示すように固結層を設けた場合、コンクリートは、それ自体、少ないながらも透水性を有するので、地下水面下で水圧が作用することで中空部に反応生成物が流入したり、または、コンクリート躯体が中空部等の大気と硫酸を含む固結層とに挟まれることで、硫酸固結層中の硫酸イオンが、地下水とともに、コンクリート層を通して中空部に流入する場合がある。特に、コンクリートが劣化していたり、亀裂が生じていたり、目地が劣化していると、その傾向は著しい。この場合、中空部に流入した硫酸塩やNaClは、気乾してコンクリートを急速に劣化させる。
これに対し、図1に示すように、コンクリートと硫酸固結層との間にキレート剤を含むシリカ層が存在すると、まず、キレート成分がシリカ分および地下水とともにコンクリート中、あるいは割れ目や劣化部分に侵入し、コンクリート表面のCa,Mgイオンと反応して、表面や亀裂部分にマスキングシリカ(リン酸カルシウムシリケートやハイドロキシアパタイト)を充填して不透水化し、硫酸イオンのコンクリートに対する浸食を防ぐことになる。
本発明者らは、上記観点からさらに、固結地盤における反応生成物をできるだけ少なくし、中空部を有する土中構造物の補修や補強を効果的に行うとともに、地下水の挙動を利用して少ない注入量で、コンクリート表面にコンクリートに対する保護機能を有する被膜層を形成するための検討を行った。その結果、キレート剤を含む非アルカリ性シリカ溶液を用いて、コンクリート構造物または埋設管等の土中構造物の近傍部に特定の範囲で改良地盤を設けるとともに、非アルカリ性シリカ溶液の注入条件を所定に設定して、地下水面下にある中空部内に、地下水が水圧によって浸潤する特性を利用して、コンクリートの保護機能を有する注入液の反応生成物をコンクリート表面のCa、Mgと反応せしめることにより、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の地盤注入工法は、既存または建造予定のコンクリートを用いた土中構造物の周囲を囲む地盤中に、キレート剤を有効成分とする非アルカリ性シリカ溶液を注入する地盤注入工法であって、前記土中構造物が少なくとも一部について地下水面下に存在し、該土中構造物を構成する壁面のうち、一面が地盤に面し、かつ、他の一面が大気に面している地盤注入工法において、pH10以下の前記非アルカリ性シリカ溶液を、前記地盤中の前記キレート剤の含有量が前記土中構造物の表面1mあたり36g以上となるよう注入し、前記土中構造物の表面に防護被膜を形成するとともに、該土中構造物の近傍部に改良地盤を設けることを特徴とするものである。
本発明の地盤注入工法においては、前記非アルカリ性シリカ溶液中の前記キレート剤のイオンの含有量を3000ppm以上とするとともに、前記土中構造物の表面からの固結層の厚さを、ホモゲルに換算して1cm以上とすることが好ましい。
また、本発明の地盤注入工法においては、少なくとも前記キレート剤を含むシリカ溶液成分を、該キレート剤以外のシリカ溶液成分に先行して、前記土中構造物に接触させることも好ましい。
さらに、本発明の地盤注入工法においては、前記非アルカリ性シリカ溶液のシリカ濃度[SiO](質量%)が、次式、
(A)2質量%≦[SiO]≦50質量%
を満足し、該非アルカリ性シリカ溶液が前記キレート剤としてリン酸化合物を含み、かつ、該非アルカリ性シリカ溶液のリンイオン濃度[P](ppm)が、次式、
(B)3000ppm≦[P]≦120000ppm
を満足することが好ましい。
本発明の地盤注入工法においては、前記土中構造物の表面からの固結層の厚さを、0.5m以上とすることが好ましい。また、前記非アルカリ性シリカ溶液のうち前記リン酸化合物を含む組成分を前記土中建造物の周囲を囲む地盤中に注入した後に、該リン酸化合物含有組成分の注入領域の周囲に、前記非アルカリ性シリカ溶液のうち硫酸化合物を有効成分とする組成分を注入するにあたり、該硫酸化合物含有組成分のリンイオン濃度[P](ppm)を、次式、
(C)0≦[P]≦30000ppm
で示される範囲とすることが好ましい。
さらに、本発明においては、前記非アルカリ性シリカ溶液が水ガラスに起因するシリカを含み、該非アルカリ性シリカ溶液のシリカ濃度[SiO](質量%)が、次式、
(D)2質量%≦[SiO]≦10質量%
を満足することが好ましい。さらにまた、前記非アルカリ性シリカ溶液のうち前記リン酸化合物を含む組成分のリンイオン濃度[P](ppm)とシリカ濃度[SiO](質量%)とが、次式、
[P]/[SiO]=60〜5000
を満足することがより好ましい。
本発明の地盤注入工法は、前記土中構造物の、液状化対策工、劣化防止または補修工に好適に用いることができる。また、本発明の地盤注入工法においては、前記非アルカリ性シリカ溶液を注入するに先立って、前記土中構造物の地盤に接する側の面の周囲の地盤中に、セメント系グラウトを注入することが好ましい。さらに、前記土中構造物の、液状化対策工、劣化防止または補修工を、前記土中構造物の大気に面する側の面から該土中構造物内に設けられた注入孔より、前記非アルカリ性シリカ溶液を注入して行うことも好ましい。
さらにまた、本発明の地盤注入工法においては、前記土中構造物の大気に面する側の面から該土中構造物内に設けられた、吐出口を有する複数の注入孔を介して、複数の注入地点に同時注入する多点地盤同時注入を用いて前記非アルカリ性シリカ溶液を注入するにあたり、
集中注入プラントから複数の注入管路を介して接続された複数の注入管と、前記複数の注入地点に前記非アルカリ性シリカ溶液を液送して、該複数の注入地点に該非アルカリ性シリカ溶液を注入する複数のユニットポンプと、前記複数の注入地点における前記非アルカリ性シリカ溶液の流量および/または圧力を計測する流量・圧力計測装置と、前記複数のユニットポンプを一括管理する集中管理装置と、を備える注入設備を用いて、
前記複数のユニットポンプを作動させて、該複数のユニットポンプの作動を、前記流量・圧力計測装置からの情報に基づき、前記集中管理装置によって制御しつつ、前記複数の注入地点に前記非アルカリ性シリカ溶液を同時注入するかまたは選択して注入する手法を好適に用いることができる。
本発明によれば、上記構成としたことにより、注入領域全体におけるシリカグラウトの反応生成物の生成量を最小限に抑えて水質を保全しつつ、中空部を有する土中構造物の表面またはその劣化部や亀裂部内に、土中構造物を保護する効果のある強固な保護膜ないし充填物を形成して、土中構造物の補強効果を得ることができるとともに、シリカのゲル耐久性により優れた固結を可能にする地盤注入工法を提供することが可能となった。
中空部を有するコンクリート構造物と硫酸固結層との間にキレート剤入り非アルカリシリカ溶液の固結層を形成し、コンクリート構造物の表面や劣化、亀裂部分にマスキングシリカを形成した地盤を示す説明図である。 非アルカリ性シリカ溶液を、地下構造物の周辺に注入する方法を示す説明図である。 非アルカリ性シリカ溶液を、地下構造物の周辺に注入する他の方法を示す説明図である。 多点地盤同時注入による地盤強化方法の一例を示す概念図である。 多点地盤同時注入による地盤強化方法の一例を示す他の概念図である。 非アルカリ性シリカ溶液を住宅の周りの基礎地盤に注入する方法を示す説明図である。 非アルカリ性シリカ溶液を道路の周りの地盤に注入する方法を示す説明図である。 非アルカリ性シリカ溶液をタンク状構造物の周りの地盤に注入する方法を示す説明図である。 キレート剤(リン酸)、硫酸、硫酸(キレート剤入り))の酸量とゲルタイムとの関係を示すグラフである。 キレート剤(リン酸)、硫酸、硫酸(キレート剤入り))のpHとゲルタイムとの関係を示すグラフである。 モルタル供試体に非アルカリ性シリカ溶液を注入した密閉容器を示す説明図である。 実施例2で用いた実験装置を示す説明図である。 活性シリカコロイドおよび水ガラスのpHとゲルタイムとの関係を示す説明図である。 中空部を有するコンクリート構造物の近傍に硫酸固結層を形成した地盤を示す説明図である。
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
前述したように、非アルカリ性シリカ溶液を用いた固結地盤が、特に遮蔽物のない地下水面下の砂地盤や砂礫地盤内を流動している地下水などと接すると、水溶性反応生成物は短期間で溶出されやすい(開放系地盤)。しかし、コンクリート構造物、土中埋設物またはコンクリート杭に阻まれたり、構造物直下の地盤(閉塞系地盤)、または、粘性土が併在している地盤(複合系地盤)では、固結物からの遊離成分が溶出、拡散しにくく、水溶性反応生成物は長期にわたって地盤中にとどまりやすい(閉塞系地盤)。
そのため、閉塞系地盤または複合系地盤においては、地下水での希釈が少なかったり、または、遅かったりした場合、溶出した水溶性反応生成物が、コンクリート構造物等に好ましくない影響を与えるおそれがある。また、開放系地盤でも複合系地盤でも、水溶性反応生成物が多量であると、環境負荷上好ましくない。さらに、固結領域が広範囲である場合、地盤の透水性が少ない場合にも反応生成物は存在しやすく、コンクリートに影響を与えやすい。
そこで、上述したように、本発明者らは、先に、特許文献1において、コンクリート構造物等を保護し、あるいはコンクリートからのアルカリの溶出によるシリカゲルの劣化を抑制する技術として、キレート剤を使用したシリカグラウトを提案している。キレート水溶液のみではコンクリートに被覆膜を形成しない。しかし、水ガラス、活性珪酸、コロイダルシリカ等のシリカ溶液に硬化剤としてキレート剤を使用した場合、キレート剤が非アルカリ性シリカ溶液中にあると、コンクリート表面のMgやCaイオンがシリカとともにコンクリート表面に強固に取り込まれた状態の被覆膜が生成され、地盤を固結する。このとき、このシリカ溶液中のシリカ分子またはシリカコロイドは、キレート剤のキレート作用によって、地盤中に先行して存在するコンクリート構造物またはグラウト注入後に構築したコンクリート構造物等の表面に存在する主としてカルシウムやマグネシウムを取り込むことで、コンクリート表面に、シリカとPとMg、Caからなる防護被膜を形成するのである。このような被覆膜は、注入後の地盤を掘削してコンクリートを打設した場合でも、その後にコンクリート表面に形成される。
キレート剤を含む非アルカリ性シリカ溶液は、コンクリート表面のCa2+やMg2+と反応して、コンクリート表面に防護被覆(マスキングシリカ)を形成する。
キレート剤としてはリン酸系化合物が用いられることが多いが、その一例であるヘキサメタリン酸ソーダは、コンクリート表面のようにCa、Mgイオンが存在すると、キレート作用によってCa、Mgを封鎖してNaイオンを放出し、Ca++、Mg++は、コンクリート表面にシリカ分とともに以下に示すような不溶性の錯体を形成して、内外からのイオンの溶出並びに侵入を阻止する。
同様に、リン酸を用いた場合でも、コンクリート表面のCa、Mgイオンとキレート剤は、以下のように反応して、コンクリート表面にマスキングシリカを形成する。
かかる現象は、地下水中またはシリカ溶液中にSO 2−やCl等が存在していても同様である。そのため、コンクリート構造物等の外部から内部へのSO 2−や海水(Cl)等の浸入を遮断し、かつ、コンクリート構造物等の内部から外部へのアルカリの溶出を遮断できる。このようなコンクリート表面の被覆層がコンクリート内部からのアルカリの溶出を遮断するという現象は、コンクリート表面に被覆膜が形成されている場合に、養生水が長期にわたって中性値を呈することによって実証される。この結果、シリカグラウトに含有される反応生成物中に硫酸イオンが存在していても、または、地下水中に硫酸イオンや海水が存在していても、コンクリート構造物等の劣化およびコンクリート内部からのアルカリの溶出による中性化を防止できるとともに、シリカ溶液のゲル化物についても、コンクリート構造物等からのアルカリの溶出によるシリカゲルの溶解を防止することができ、地下水を中性領域に保つことができる。このコンクリート構造物等の表面に形成された被覆層は、刃で削り取らなくてはならないほど、シリカ分とコンクリート表面に存在するCaイオンやMgイオンとが、キレート作用によりコンクリート表面に対しきわめて強固に結合して形成されている。硫酸イオンや塩素イオンの存在する地盤において、コンクリート表面に生成した防護被覆(白色皮膜層,マスキングシリカ)の分析結果の一例を、下記表2に示す。
リン酸は、水ガラスと混合すると、それ自体で水ガラスのアルカリを中和して酸性シリカ溶液を形成するとともに、シリカ分とコンクリート表面のCaイオン、Mgイオンとともにコンクリート被覆膜を形成して、地下水中に存在するSO 2−やClからコンクリートを保護することができる。また、リン酸およびリン酸化合物は、硫酸イオンの共存下において、上述のようにコンクリート表面に保護膜をつくる。この場合、シリカ溶液中に含まれる硫酸は水ガラスのアルカリを中和する作用を分担し、リン酸化合物はアルカリを除去したシリカ分とともにコンクリート表面にキレート作用で被覆層を形成する役割を分担するものと思われる。特に、リン酸とヘキサメタリン酸ソーダとを併用、または、リン酸と他のキレート剤とを併用したシリカ溶液は、優れたキレート効果による被覆層を形成する。
本発明で使用される非アルカリ性シリカ溶液は、水ガラス、活性シリカ、コロイダルシリカ、あるいはこれらの混合物であり、水ガラスは通常工業用として使用されるモル比SiO/NaO=2〜6のものである。
また、上記非アルカリ性シリカ溶液は、水ガラスのアルカリを除去した酸性シリカ溶液、または、酸性シリカ溶液にアルカリを加えたものである。かかる非アルカリ性シリカ溶液は、水ガラス中のアルカリを酸で除去したシリカ溶液、水ガラスをイオン交換樹脂またはイオン交換膜で脱アルカリした酸性活性シリカ、酸性活性シリカに水ガラスを加えたアルカリ性シリカ、アルカリ性シリカを加熱増粒したコロイダルシリカ、水ガラスと酸とを混合した酸性シリカの酸の一部またはすべてを、陰イオン交換樹脂または陰イオン交換膜で脱した活性シリカ、これらに水ガラスと酸とを混合した酸性シリカ溶液、あるいはこれらのコロイド状のシリカ溶液に水ガラスと酸とからなる酸性シリカゾル溶液を加えた酸性シリカ溶液をいう。または、金属シリカ溶液であってもよい。具体的には、シリカ溶液をイオン交換樹脂またはイオン交換膜に通過させ、得られる活性珪酸水溶液を加熱等によって数万あるいはそれ以上の分子量に縮合し、アルカリまたは水ガラスを加えて弱アルカリ性に安定化させ、20〜30質量%のSiO濃度に濃縮したコロイダルシリカと酸とを混合した酸性シリカ溶液、上記コロイダルシリカと水ガラスと酸との混合物からなる酸性シリカ溶液、または、酸性活性シリカと水ガラスと酸とからなる酸性シリカを用いることができる。
かかるコロイダルシリカは、通常、pHが中性ないしは10付近の弱アルカリ性を呈するが、酸や酸性塩を添加することにより酸性を呈するようにすることもできる。また、活性珪酸(活性シリカ)とコロイダルシリカと水ガラスとの2種または3種とを混合して、それに酸を加えて中性または酸性シリカ溶液としてもよいし、コロイダルシリカや活性珪酸に水ガラスと酸とを混合した酸性水ガラスを加えた酸性シリカ溶液でもよい。さらに、コロイダルシリカの粒径は1nm〜80nmのもの、あるいはこれらを混在させたものを用いることができ、また、Al変性コロイダルシリカを用いることもできる。
本発明におけるキレート作用のある非アルカリ性シリカ溶液とは、中性から弱酸性であって、pH10以下、好ましくはpH6以下に調整されたものをいう。
また、本発明では、硫酸やリン酸でアルカリを除去した非アルカリ性シリカに、リン酸以外のキレート剤を併用してマスキングシリカを形成することもできる。リン酸以外のキレート剤は酸性が弱いので、単独でアルカリを除去するためには多量を必要とする。これに対して、リン酸はアルカリを除去するのみならず、リン酸単独でマスキング作用を持つので、効果的なマスキングシリカを形成できる。リン酸化合物やキレート剤は、シリカとともにコンクリートにマスキングシリカを形成し、共存する硫酸や地下水中に存在する硫酸イオンによるコンクリートの劣化を防ぐことができる。リン酸化合物のうちヘキサメタリン酸塩はキレート剤であって、キレート作用によってコンクリート表面にマスキングシリカを形成するが、リン酸やその他のリン酸化合物も同様な効果を持つ被覆を形成するために、本発明では、リン酸化合物もキレート剤とみなし、これを含むシリカ溶液を非アルカリ性シリカ溶液(マスキングシリカ溶液)という。そのため、リン酸以外のキレート剤は、リン酸または硫酸と併用して非アルカリ性シリカ溶液を形成する。かかる非アルカリ性シリカ溶液としては、リン酸またはリン酸塩を用いることが、他のキレート剤を用いるより効果的である。
本発明に用いられるキレート剤とは、キレート効果を有するものであり、例えば、リン酸、各種の酸性リン酸塩、中性リン酸塩、塩基性リン酸塩が挙げられ、テトラポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、酸性ヘキサメタリン酸塩、酸性ピロリン酸塩等の縮合リン酸塩類等を挙げることができ、縮合リン酸塩類がナトリウム塩であることが好ましい。非アルカリ性シリカ溶液を形成するリン酸化合物としては、ヘキサメタリン酸ソーダが、特に強固なマスキングシリカを形成するため、好ましい。また、キレート剤としては、上記リン酸化合物の他に、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸、グルコン酸、酒石酸またはこれらの塩類等を挙げることができ、本発明においては、リン酸化合物が、シリカ溶液の存在下でコンクリート表面に最も効果的な被覆を形成する。
また、本発明においては、キレート効果のない硬化剤を併用することができる。かかる硬化剤としては、硫酸等の硫化物、塩酸等の塩化物、酸性塩、炭酸塩、重炭酸塩、炭酸ガス、炭酸水、アルミン酸塩、グリオキザール、エチレンカーボネートのような炭酸エステル、多価酢酸エステル等が挙げられる。さらにこの他、セメント、石灰、スラグ等も、硬化剤として単独で、または他の硬化剤と併用して、用いることができる。この場合、上記リン酸系化合物等のキレート効果のある化合物とキレート効果のない硬化剤とを混合して、注入する地盤の環境によって混合比を選択すればよい。さらに、コンクリート構造物等の土中構造物の周辺部に非アルカリ性シリカ溶液を注入し、その外側領域に任意のアルカリ系の水ガラス注入剤やセメント等の溶液型グラウトを注入することもできる。もちろん、例えば、ウレタン系樹脂やアクリル酸塩等のゲル化機能のある高分子材料を加えてもよい。
本発明の地盤注入工法において、具体的には、土中構造物の周囲を囲む地盤中に、上記キレート剤を有効成分とする非アルカリ性シリカ溶液を注入して地盤を改良するにあたり、非アルカリ性シリカ溶液を、地盤中のキレート剤の含有量が、土中構造物の表面1mあたり36g以上、好適には50g〜1000gとなるよう注入する。これにより、シリカグラウトの水溶性反応生成物の影響を最小限に抑えるとともに、水質の環境負荷を抑えつつ、コンクリート構造物を保持し、かつ、耐久性に優れた固結を可能にすることができる。上記地盤中のキレート剤の含有量が36g未満であると、硫酸イオンや海水を浸入させないためのマスキングシリカが十分に形成されない可能性があり、本発明の所期の効果が得られない。
また、本発明の地盤注入工法においては、非アルカリ性シリカ溶液中のキレート剤のイオンの含有量を3000ppm以上、好適には3000ppm〜120000ppmとするとともに、土中構造物の表面からの固結層の厚さを、ホモゲルに換算して1cm以上、好適には1cm〜30cmとすることによっても、上記と同様の効果を得ることができる。上記地盤中のキレート剤のイオンの含有量が3000ppm未満であるか、または、上記固結層の厚さが1cm未満であると、部分的に気泡や未注入領域ができ、その部分から地下水が入りこみ、硫酸イオンや海水とコンクリート構造物が接してしまい、本発明の所期の効果が得られない。
さらに、本発明の地盤注入工法においては、非アルカリ性シリカ溶液のうち、少なくとも上記キレート剤を含むシリカ溶液成分を、キレート剤以外のシリカ溶液成分に先行して、土中構造物に接触させることによっても、硫酸イオンの浸入に先行して土中構造物の表面にマスキングシリカを形成することができ、上記と同様の効果が得られるものである。
さらにまた、本発明の地盤注入工法においては、上記非アルカリ性シリカ溶液のシリカ濃度[SiO](質量%)が、2質量%≦[SiO]≦50質量%を満足するとともに、キレート剤としてリン酸化合物を含む非アルカリ性シリカ溶液のリンイオン濃度[P](ppm)が、3000ppm≦[P]≦120000ppmを満足するものとすることによっても、本発明の所期の効果を得ることができる。本発明において、強固な被覆膜を作製するためにはシリカ濃度も重要である。これにより、シリカグラウトの水溶性反応生成物の影響を最小限に抑制して、水質の環境負荷を抑え、コンクリート構造物を保持するとともに耐久性に優れた固結を可能にすることができる。
この場合、非アルカリ性シリカ溶液のうちリン酸化合物を含む組成分を土中建造物の周囲を囲む地盤中に注入した後に、このリン酸化合物含有組成分の注入領域の周囲に、非アルカリ性シリカ溶液のうち硫酸化合物を有効成分とする組成分を注入することが好ましい。この硫酸化合物含有組成分のリンイオン濃度[P](ppm)は、0≦[P]≦30000ppmの範囲内とする。これにより、硫酸イオンおよび/または海水からの土中構造物への影響を防護して、さらに、反応生成物を低減することができる。
また、この場合、非アルカリ性シリカ溶液が水ガラスに起因するシリカを含み、この非アルカリ性シリカ溶液のシリカ濃度[SiO](質量%)が、2質量%≦[SiO]≦10質量%を満足することも好ましい。これにより、キレート剤と結合してコンクリート構造物表面に被膜をつくるために十分な量のマスキングシリカを形成する効果を得ることができる。
さらに、この場合、非アルカリ性シリカ溶液のうちリン酸化合物を含む組成分のリンイオン濃度[P](ppm)とシリカ濃度[SiO](質量%)との比を、[P]/[SiO]=60〜5000の範囲内とすることで、金属イオン封鎖剤により、より強固な膜を形成することが可能となる。さらにまた、上記リン酸イオンを含有する固結層の土中構造物の表面からの厚さは、0.5m以上、例えば、1m以上、注入領域の半分の長さ以下とすることが好ましく、これにより、より確実にコンクリートを防護する効果を得ることができる。
また、本発明においては、注入領域全体におけるキレート剤の使用量を最小限に抑え、かつ、リン酸化合物と共存する硫酸化合物の合計量を最小限に抑えるための、土中構造物と注入領域との位置関係を考慮した酸性反応剤を含むシリカ溶液の組合せが重要である。さらに、マスキングシリカ溶液は、硫酸や海水の存在下でも、コンクリート表面のCaやMgイオンと反応して、キレート反応により、コンクリート表面に食い込んだ強固な被覆層を形成する。このようなコンクリート保護効果のあるマスキングシリカの形成には、pHが非アルカリ性、好ましくは酸性であることが必要である。シリカ溶液中にアルカリが残存する場合には、コンクリート表面における被覆層の形成が不充分で、コンクリートの防護効果が少なくなる。
そのため、本発明の地盤注入工法は、主剤であるシリカ溶液と、リン酸化合物、若しくは、リン酸化合物および硫酸化合物を有効成分とする非アルカリ性シリカ溶液を用いて、pH値を中性〜酸性領域にすることによりゲル化する性質を利用した地盤注入工法であり、または、注入地盤領域に、リン酸化合物を有効成分とする非アルカリ性シリカ溶液と、硫酸を有効成分とする非アルカリ性シリカ溶液とを併用して、地盤を固結する地盤注入工法である。
本発明の地盤注入工法は、土中構造物の、液状化対策工、劣化防止または劣化後の補修工などに好適に用いることができ、地盤中の地下水に含まれる硫酸イオンや塩素イオンから、土中構造物を防護する効果を得ることができるものである。特には本発明は、中空部を有し、注入液の組成分がこの中空部に地下水とともに浸潤または流入する、地下構造物の補修や液状化防止に適している。
なお、本発明においては、上記非アルカリ性シリカ溶液を地盤中に注入するに先立って、コンクリート構造物等の土中構造物の地盤に接する側の面の周囲の地盤中に、セメント系グラウトを注入することも好ましい。ここで、コンクリート表面とは、コンクリート構造物の中で、地盤と接触している面をいう。
本発明においては、非アルカリ性シリカ溶液を用いた固結地盤が地下水等と接した場合に溶出される水溶性反応生成物を問題とするので、土中構造物が少なくとも一部について地下水面下に存在する場合を前提としている。また、土中構造物を構成する壁面のうち、一面が地盤に面し、かつ、他の一面が大気に面しているとは、上述したような中空部を有する構造物の他、後述するような、一部分が土中に構築され、他の部分が地上に構築されている構造物も含む概念である。さらに、本明細書中では基本的にコンクリート構造物について説明しているが、本発明における土中構造物とは、前述したように金属等からなる構造物も含むものであり、この場合にも、コンクリート構造物の場合と同様に、本発明を適用することで、所期の効果が得られるものである。
本発明の適用できるコンクリート構造物等の土中構造物としては、中空部を有するトンネル、地下鉄、山岳トンネル、シールド、電気や電話回線の地中管、ガス、上下水管等のインフラ設備の共同溝、さらには、舗装地盤の下部等が挙げられる。以下に、具体例を示す。
図2は、共同溝を構築するに当たって、非アルカリ性シリカ溶液を地盤に注入して、固結した状態を示す図である。注入管6で、掘削後に構築する予定のコンクリート構造物10の周辺領域8に、キレート効果のある非アルカリ性シリカ溶液を注入し、その周辺部の領域にキレート効果の弱い(またはキレート効果のない)非アルカリ性シリカグラウトの注入領域9を設けた場合を示す。
また、図3は、非アルカリ性シリカ溶液を、地下構造物の周りの地盤に注入する方法を示す図である。この場合、図示するように、地下構造物10の大気に面する側の面から削孔して、地下構造物10内に注入孔を設け、この注入孔より、注入を行うことができる。すなわち、地下水がSO 2−や海水を含む地盤24、または、火山滞積物中に構築されたトンネルのコンクリート10の劣化を防ぐために、または、老朽化した共同溝や地下トンネルを修復するために、トンネル25内部から削孔して、地下構造物10の周りの地盤(拘束系領域)の領域8に、キレート効果のある非アルカリ性シリカ溶液(マスキングシリカ溶液)を注入する。また、地盤中のコンクリート10が地下水や注入液に含まれる硫酸イオンや塩素イオンによって劣化する可能性があるため、コンクリート10の地盤に接する側の面の周囲の地盤に非アルカリ性シリカ溶液を注入して、コンクリートの劣化の防止または補修を行う。さらに、非アルカリ性シリカ溶液を注入するに先立って、コンクリート10の地盤に接する側の面の周囲の地盤中にセメント系グラウトを注入することもできる。
注入は、トンネル内に設置された注入管6に、注入システム28から送液管27を通して行うことができるので、トンネルの機能を維持したまま、注入を行うことができる。この注入システム28としては、各注入地点の地盤中に地盤注入材を注入するための複数の注入管と、当該各注入管同士を相互に接続するための複数の送液管と、当該送液管を介して各注入地点に地盤注入材を液送するとともに、注入管を介して地盤中に注入材を注入するための複数のユニットポンプと、各注入地点において地盤注入材の流路を切り換えるための複数の流路切換えバルブと、送液される地盤注入材の流量および/または圧力を計測するための流量・圧力計測装置と、これらユニットポンプ、流路切換えバルブおよび流量・圧力計測装置を制御するための集中管理装置を備えた多連注入装置を用いることができる。この装置において、上記ユニットポンプを作動させて、当該ユニットポンプおよび流量・圧力計測装置を集中管理装置によって制御しつつ、地盤注入材を、当該地盤注入材の流路を切換えながら複数の注入地点に同時にかつ連続的に注入することができる。また、送液管27を長く設計することで、離れた場所からも注入を制御できる。このため、地下鉄や、下水道、電話回線等のインフラにおいても、これらの機能を有したまま地盤改良を行うことができる。なお、図中の符号26は車を示す。
図4,図5は、多点地盤同時注入による地盤強化方法の一例を示す概念図である。図中、符号31は、地盤中に非アルカリ性シリカ溶液を注入すべく対象地盤の各注入地点(注入ポイント)に設置された注入管を示す。
図4,図5においては、6台のユニットポンプU1〜U6が配置され、それぞれが個々に動力源35を備え、かつ、それぞれが送液管33および送液管34を介して注入材貯蔵槽32および各注入地点の注入管31に接続されている。また、注入管31は、それぞれ配置された各送液管33に、流路切換えバルブ38を介して36本接続されている。なお、符号37は流量・圧力計測装置、39は監視盤、40はユニットポンプの駆動指示系統、41は流量指示系統、42は注入液バルブ開閉系統をそれぞれ示す。
したがって、この方法では、集中管理装置36による一括管理の下に、36台のユニットポンプU1〜U6により、計6×6=36本の注入管31によって、非アルカリ性シリカ溶液の同時・連続注入が可能になるため、装置の軽量化および作業性の飛躍的向上が可能になる。また、各注入地点の流路切換えバルブ38を連続的に作動させることにより、各Y1〜6軸上の任意の注入管31への、選択的かつ連続的送液が可能になる。
さらに、複数の各Y軸方向の送液管33と各X軸方向の送液管34とを平面格子状に配置するとともに、送液管33と送液管34との各交点に注入管31を設置することにより、注入管31を任意に選択することが可能となるため、地盤に対応した、または、地中構造物の存在にも考慮した注入材の注入も可能になり、緻密な地盤改良を行なうことができる。
なお、注入地点が多く、しかも、注入地点の間隔が狭いほうが、所定範囲の土を効率的かつ確実に締め固めることはできるが、注入地点の数や間隔は、対象地盤の性状や経済性を考慮して、適宜決定することができる。通常、注入管の間隔は、地盤の性状等に応じて0.5m〜4.0m程度の範囲で適宜設定することが好ましい。但し、所定領域の土を拘束して締め固めるには、図5に示すように、少なくとも3箇所に注入地点を設けることが好ましい。
この注入システムを用いれば、図示するように、所定の注入領域に多数の注入孔を設置しさえすれば、中空部に営業線や注入溝を配して中空部を使用しながら、注入作業は特定の集中管理室、または、地上部から行うことができる。
図6は、非アルカリ性シリカ溶液を、住宅の周りの基礎地盤に注入する方法を示す図である。構造物(住宅)13の周りの基礎地盤(拘束系領域)に、キレート効果のある非アルカリ性シリカ溶液(マスキングシリカ溶液)8を注入して地盤を改良したものである。さらに、構造物13に接しない地盤(開放系領域)には、キレート効果の弱い(またはキレート効果のない)非アルカリ性シリカ溶液9を注入した。
改良する地盤において、周囲に地下水の流れがあり、イオンの拡散がおこる地盤を開放系領域とし、周囲に構造物、不透水の地盤、注入材による改良地盤等が存在してイオンの拡散が起こらない地盤、あるいは拡散が緩やかである地盤を拘束系領域とする場合、拘束系領域は長期においてイオンが構造物に接する可能性があるので、キレート効果のある非アルカリ性シリカ溶液を注入することで、構造物への影響を抑えることができる。特に、地盤内に硫酸イオンや塩素イオンを多く含む場合や、構造物の周囲に硫酸系の注入材で改良を行うことにより構造物近傍が閉塞領域となる場合においては、構造物近傍にキレート効果のある非アルカリ性シリカ溶液を注入した領域を設けることが効果的である。
図7は、非アルカリ性シリカ溶液を、道路や飛行場滑走路の近傍の地盤に注入する方法を示す図である。道路14の近傍の地盤(拘束系地盤)の下方の未固結領域18下に、キレート効果のある非アルカリ性シリカ溶液(マスキングシリカ溶液)8を注入して、地盤を改良した。また、道路14が護岸のコンクリート構造物に相当する場合も同様である。さらに、その下の地盤(開放系領域)には、キレート効果の弱い(あるいはキレート効果のない)非アルカリ性シリカ溶液9を注入した。
図8は、非アルカリ性シリカ溶液を、タンクの基礎の地盤に注入する方法を示す図である。タンク等のタンク状構造物15の直下の地盤(拘束系領域)に、キレート効果のある非アルカリ性シリカグラウト8を注入して地盤を改良した(内部直下改良ゾーン)。また、タンク等の構造物15に接しない外周並びに下方の層(開放系領域)の地盤には、キレート効果の弱い(またはキレート効果のない)非アルカリ性シリカ溶液9を注入した(外部改良ゾーン)。なお、図中、符号8aはキレート効果のある非アルカリ性シリカ溶液(マスキングシリカ溶液)、16は液状化層、17は非液状化層を、それぞれ示す。
以下、本発明を実施例によって詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(反応生成物について)
(実験例1)
シリカ溶液(水ガラス)62mlに、酸性中和剤としての硫酸、キレート剤入り硫酸およびキレート剤を、水でそれぞれ希釈して加え、全量が400mlとなるよう配合して、ゲルタイムおよびpHを測定した。このときのシリカ濃度は、配合液が6質量%となるように調整した。その結果を、図9および図10に示す。ここで、キレート剤は75%リン酸であり、硫酸は75%硫酸である。
図9は、硫酸、キレート剤入り硫酸およびキレート剤のそれぞれの酸量とゲルタイムとの関係を示す図である。また、図10は、硫酸、キレート剤入り硫酸およびキレート剤のそれぞれのpHと(20℃)ゲルタイムとの関係を示す図であり、下記実施例1(配合1,配合4,配合5)に基づくものである。
図10からわかるように、硫酸単独、キレート剤入り硫酸およびキレート剤単独のいずれの場合も、pHとゲルタイムとの関係は同様であり、pHが低くなるほどゲルタイムが長く、pH3付近で1000分のゲルタイムが得られている。また、硬化剤としてリン酸のみを使用した場合、同一pHでは、硫酸を使用した場合に比べ、シリカ溶液に対して多量に添加することが必要となる(図9および10参照)。ゲル化時間とpHとの関係は、リン酸の場合も硫酸の場合も強度は殆んど同じである(図10参照)。一方、ゲル化時間を調節することは、リン酸の方が硫酸よりも容易である(図9参照)。これに対し、硫酸はゲル化時間の調節が難しいが、少量の添加量の違いでpHを大きく動かすことができ、同一シリカ濃度、同一pH、同一ゲルタイムで単位注入地盤体積における硫酸使用量は、リン酸を使用する場合よりも少なくてすむ。そのため、水溶反応生成物の量も少なくてすみ、またコストも低く抑えられる。
(反応生成物の溶出)
(実験例2)
地盤中に注入した薬液成分のうち、ゲルを構成しない成分や未反応で残留する成分は、ゲルの中に閉じ込められていたり、ゲルと土粒子との間隙に存在したり、または、それらの表面に付着して固結物中に留まっているが、固結物が地下水中にさらされると、これらのゲル化にあずかったシリカ以外の反応生成物は、地下水中に浸出し拡散する。固結物からの反応生成物の溶出の例を以下に示す。
(測定条件)
非アルカリ性シリカ溶液と豊浦砂とを混合し、直径5cm×高さ10cmの供試体を作製して、10倍の水で養生した。28日後に、水中に溶出した成分を測定した。硫酸を使用した場合(下記表4中に示す配合1)と、キレート剤としてリン酸を使用した場合(下記表4中に示す配合5)との、添加量に対する溶出率を測定した結果を、下記表3に示す。
浸透28日後の固結標準砂の養生水における溶出したPO 3−、SO 2−は、約40〜50%であった。また、SiOの溶出は殆んどなく、Naはほぼ全量が溶出した。実際の地盤に注入した場合、薬液成分のうち、ゲルの構成要素とならない化学成分、すなわち、水ガラスのNaや水溶性反応生成物は、比較的早く溶出して地下水で希釈され、地下水の開放方向に拡散が早く進むが、閉鎖された地盤中では、これらの成分が残留しやすいことがわかる。
したがって、酸性中和剤の添加量は硫酸の方が少ないことから、シリカ溶液の固結砂から溶出する反応生成物も、硫酸を使用した場合の方が少なくなることがわかる。以上の試験結果より、コンクリート構造体等の周辺の注入領域を固結するに当たって、水溶性反応生成物を少なくし、かつ、コンクリートの劣化を防ぐためには、コンクリート構造体等の近傍領域にキレート剤含有シリカ溶液を注入し、コンクリート構造体等から離れた領域では硫酸含有非アルカリ性シリカ溶液、または、リン酸化合物および/または金属イオン封鎖剤をコンクリート近傍よりも少なく含有するシリカ溶液で固結することが有効であることがわかる。実際には、地盤中で大きな固結体が形成されるので、反応生成物の溶出は、固結体が大きいほど、また、地盤の遮水性が小さいほど長期間になり、さらに、構造物で遮蔽されていれば、やはり長期にわたり地下構造物や水質に影響を与えるものとなる。
(実施例1)
中空部を有するコンクリート構造物への非アルカリ性シリカ溶液中のリン酸化合物によるマスキング効果を観察するため、図11に示す実験装置を用いて、コンクリートモルタルへの影響を観察した。まず、内部に直径1cmの空洞5を持つ直径5cm、高さ10cmの筒状のモルタル供試体1を、体積500cm(直径m=7cm、高さ13cm)の容器中に設置し、モルタル供試体1の外周にモルタル供試体1と同体積に相当する厚み1cmとなるようにキレート系非アルカリ性シリカ2Aを充填しゲル化させた後、その周囲を非キレート系非アルカリ性シリカ溶液2Bで充填しゲル化させた。モルタルへの影響が側面のみになるように、モルタル供試体1、キレート系非アルカリ性シリカ固結体2A、非キレート系非アルカリ性シリカ固結体2Bの上部をパラフィン4にて密閉し、一年経過後のモルタル供試体への影響を観察した。また、地下水存在下でのコンクリート構造物への薬液2A,2Bの影響を観察するため、直径n=20cmの密閉容器3に上記固結物を入れ、ゲルの周囲に養生水19を2000ml充填し、一年経過後のコンクリートへの影響を評価した。
図11の容器中に充填した薬液2A,2Bとしては、下記表4に示す配合のものを下記表5に示す組み合わせで使用し、シリカ溶液に硬化剤として、硫酸単独、リン酸単独、硫酸およびリン酸双方をそれぞれ配合して、ゲル化時間を約1日とした。下記表4中、シリカ溶液は3号水ガラス、硫酸は75%硫酸、キレート剤は75%リン酸をそれぞれ使用した。また、下記表5中、硬化剤中のキレート剤としては、リン酸系化合物であるリン酸を用いた。
キレート濃度(リンイオン濃度)の違いによる密閉状態でのモルタル供試体1への影響を、養生後の外観および中空モルタルの一軸圧縮強度にて評価した。一年経過後の結果を、下記表5に示す。モルタル供試体への影響は、同養生期間にて水養生したモルタルと比較して、以下のように評価した。また、固結体2Aの一年後のpHを測定した結果も、併せて下記表5に示す。
○: 同等、もしくはそれ以上の強度を発現し、外観に変化がないもの。
△: 同等の強度を発現し、外観に一部劣化がみられるもの。
×: 部分的に破損がみられるもの。
※1)キレート剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを使用
※2)配合11:シリカ濃度1質量%
※3)配合12:シリカ濃度2質量%
※4)容器内部のゲル化物のpH
上記表5より、以下のことがわかる。
比較例1−1では、密閉養生、水養生ともに、1年後にはpHは11以上に達し、モルタル供試体1の一部が損壊した。比較例1−2では、密閉養生、水養生ともに、1年後の外観上の劣化が一部見られ、ゲルのpHは10に達した。一方、実施例1−2〜実施例1−7および実施例1−9では、密閉養生、水養生ともに、養生したモルタル供試体1の表面に白色の被覆が見られ、1年後(3年後も同様)でのゲルのpH値はほぼ中性値を保ち、一軸圧縮強度の経過時間に対する上昇が、比較例1−1のイオン交換水で養生したモルタル供試体1よりも上回る結果も得られた。
実施例1−1、1−8は、固結体2Aにおいてマスキングシリカを形成する最少量のキレート剤を添加したもので、密閉養生した場合にはモルタル供試体1の表面に白色の被覆が見られ、強度の劣化は見られなかったが、コンクリート表面に若干の劣化が見られた。水養生した場合には、コンクリートの劣化は見られなかった。比較例1−3は、密閉養生、水養生ともにアルカリ側でゲル化したものであるが、コンクリート表面に白色の被覆は殆んど形成されておらず、1年後の劣化が見られた。
この結果より、実施例1−1〜実施例1−9では、白色の被膜の作用によりコンクリート中のアルカリが溶出せず、同時にSO 2−のコンクリートへの侵入を防止できることがわかった。これに対して、キレート剤なしの比較例1−1、1−2は、コンクリート中のアルカリが溶出して劣化(中性化)が生じている。この結果より、キレート濃度3000ppm未満では白色の被覆の形成が不充分で、コンクリートの劣化を抑えることができないことがわかる。また、比較例1−3より、アルカリ領域では、キレート濃度が3000ppm以上でも白色の被覆が殆んど形成されず、または、白色の被覆の形成が不充分で、硫酸の存在下ではコンクリートの劣化を抑えることができない。以上から、マスキングシリカ溶液としての効果は、アルカリを除去した非アルカリ性シリカ溶液を使用した場合において、著しいことがわかる。また、実施例1−11において固結体2Aにシリカ濃度1質量%の配合11を、実施例1−12において固結体2Aにシリカ濃度2質量%の配合12を、それぞれ用いた結果、実施例1−11ではコンクリート表面に白色の被覆が僅かに形成され、ゲルのpHの上昇が見られたのに対し、実施例1−12では白色の被覆が形成され、ゲルのpHの上昇が起こらず、コンクリートの劣化が見られなかった。この結果より、マスキングシリカの生成にはキレート濃度とシリカ濃度との両方が関係しており、シリカ濃度として2質量%以上が好ましいことがわかる。
以上から、本発明におけるマスキングシリカのコンクリートの保護効果は、上記条件下においてゲルがSO 2−を含む薬液や養生水中に置かれても、それ自体でコンクリートを長期にわたって保護することができ、地下水によってSO 2―濃度が10倍〜100倍に希釈されて最終的に消滅するまで、コンクリートを保護できることがわかる。
また、ゲル中の硫酸イオンが地下水中に溶出し、地下水中に拡散して反応生成物の濃度が充分希釈されることで、コンクリートの劣化は殆んど生じなくなる。しかし、実際の地盤条件によっては、そのような地下水中へのSO 2−の溶出や拡散が生じない場合、または、それまでに長期間かかる場合が生ずる。これに対し、本発明では、かかる場合においても、マスキングシリカによりコンクリートの劣化を防ぐことができる。また、火山堆積物中のトンネル等において、地下水中に30000ppmの濃度という高いSO 2−が存在する場合でも、マスキングシリカによりコンクリートの劣化が抑制できることがわかる。
さらに、以上の実験において、薬液2A,2B中でモルタル供試体1を養生してモルタル供試体1が劣化する場合は、養生水もpHが10以上あるいは11以上の高アルカリを呈することがわかった。これは、劣化によって、モルタル供試体1中のCa2+が外側に溶出するためと思われる。しかし、キレート剤(リンイオン)を3000ppm以上含有した薬液2A(非アルカリ性シリカ溶液)では、ゲル中に高濃度の硫酸イオンが共存しても、養生水は中性値を示し、モルタル供試体1の劣化が見られないことがわかった。また、このことより、リンイオンを3000ppm以上含む非アルカリ性シリカ溶液によるゲル化物、あるいは固結体でコンクリートを被覆した場合、地下水または地盤中に高濃度の硫酸イオンが存在していても、コンクリートを保護する効果があることがわかった。したがって、キレート効果のある3000ppm以上リンイオンを含む非アルカリ性シリカ溶液(マスキングシリカ溶液)でコンクリートの周辺を覆った場合には、閉塞状態で地下水の希釈がなくても、硫酸イオンによるコンクリートの劣化を防ぐことができる。周囲に地下水等の水がある場合には、ゲル中のSO 2−は、時間をかけてコンクリート構造物等より遠い領域の開放領域の方向に拡散して、コンクリートに悪影響を生じないまでに希釈される。
また、上記表5および図11より、モルタル供試体1の表面積と、薬液2A,2B中のリン酸系化合物濃度および硫酸イオン濃度から、単位表面積あたりのリン酸イオン量および硫酸イオン量を求めた。その結果を、下記表6に示す。
上記実施例1−1〜実施例1−12より、コンクリート構造物等の周辺部の地盤、または、掘削後コンクリート構造物等を構築する地盤の地盤改良において、使用する薬液2A中の硬化剤は、上記表4〜6および図11より、モルタル供試体1の単位面積当たり36g/mのキレート量以上で、強固な防護層を供試体表面に形成して、コンクリートを保護できることがわかる。また、この値はコンクリートの単位面積1mあたり4.3Lに相当し、固結土(固結砂とした場合)(Dr=60%、間隙率0.43、間隙充填率100%、配合4のシリカ溶液による固結厚さ1cm/cm)の注入量に相当する。したがって、実際の注入において、コンクリート構造物1mに対して、3000ppm〜100000ppmのリンイオンを含有する非アルカリ性シリカ溶液を、ホモゲルに換算して1cm以上の固結厚さに注入すれば、コンクリートを地下水中のSO 2−イオンあるいはゲル中のSO 2−イオンから防護できることがわかる。
さらに言えば、コンクリート構造物等に対して3000ppm以上のリンイオンを含有するシリカ溶液を注入して、コンクリート表面1m当り36g以上のリン酸イオンを含有する固結層を形成すれば、コンクリートを保護できることがわかる。また、このようなリン酸イオンを含有する固結土層をコンクリート表面に0.5m以上形成すれば、コンクリートを防護することができる。実際の注入においては、コンクリート壁面に沿って削孔した注入孔から地盤中に非アルカリ性シリカ溶液を注入することもでき、コンクリート壁面から削孔してコンクリート背面の地盤中に非アルカリ性シリカ溶液を注入してコンクリート面にマスキングシリカを形成できる。
(実施例2)
キレート系非アルカリ性シリカ溶液のゲルが、周辺に存在するSO 2−のコンクリートに対する影響を遮断する効果を、確認する実験を行った。図12に示すように密閉容器20に模擬地盤(高さ30cm×幅50cm×長さ105cm)を作製し、この模擬地盤中に、固結領域22として厚み10cm、固結領域23として厚み40cmで、合わせて75Lの固結領域を作製し、コンクリート領域21において、固結領域22に接していない面に厚み5cmの中空部5を設けた。また、固結領域23において、固結領域22に接していない面に養生水19を充填した。なお、改良層には豊浦砂を用い、Dr=60%に調整した。また、間隙率は0.43とした。固結領域22および固結領域23に使用した薬液を、下記表7に示す。
非アルカリ領域における注入地盤の強度は、シリカ濃度で一義的に決まることがわかっている。また、注入地盤の改良に当たっては、改良目的に対してシリカ濃度と固結範囲を定める。したがって、ここでは、注入領域におけるシリカ濃度と固結範囲を、比較例2−1〜2−3および実施例2−1〜2−2において一定とした。また、マスキングシリカが、先行してコンクリートから溶出するCa++、やMg++と反応してマスキングシリカを形成し、後続の硫酸イオンのコンクリート層への侵入を防止していることを確認するために、比較例2−4として、コンクリート層近傍の固結領域22に硫酸反応剤のみ使用した酸性シリカ溶液(実施例2の配合1)を厚さ40cmに注入し、固結領域23にマスキングシリカ溶液(実施例2の配合4)を厚さ10cmに注入した。
コンクリートへの影響試験は、1年後にコンクリート層から供試体(直径5cm×10cm)を成形して強度を測定し、同養生期間、水中にて養生したコンクリートモルタルの強度と比較して、強度低下が見られたものを×、強度が同じであったものを○とした。
比較例2−1〜2−4、実施例2−1〜2−2の硬化剤の総イオン量とコンクリート強度との比較を、下記表8に示す。総イオン量は、間隙率0.43としたとき、改良層75Lに注入する薬液32.25L中の硫酸イオンとリン酸イオンとの総和である。
上記表中に示すように、比較例2−1、比較例2−4ではコンクリートの強度低下が見られ、特にコンクリート層の亀裂部分に表面が剥離する大きな劣化が見られ、コンクリート表面に白色結晶は見られなかった。比較例2−2および2−3では強度低下が見られず、コンクリート表面に白色結晶が見られた。また、実施例2−1および2−2においては、コンクリート構造物の近傍に非アルカリ性シリカ溶液による固結領域を設けたものは、コンクリートの強度低下が見られず、コンクリート表面に白色結晶がみられた。さらに、総イオン量が比較例2−2および2−3と比べて少ないことがわかった。すなわち、実施例2−1では、注入領域をコンクリート構造物から近い領域とコンクリート構造物から遠い領域とに分け、それぞれ配合3の非アルカリ性シリカ溶液と、配合1の非アルカリ性シリカ溶液とで固結することにより、配合3のみで全体の固結領域を固結するよりも全体の反応生成物を低減させることが可能となった。このように、コンクリート構造物の近傍に非アルカリ性シリカ溶液による固結領域を設けることで、硫酸のコンクリートへの影響を防ぐことができ、また、総イオン量を少なくすることができる。
また、実施例2−1と比較例2−4との結果を比較すると、同範囲の地盤を同量の硫酸イオンおよびリン酸イオンを配合した注入材で注入したにもかかわらず、比較例2−4ではコンクリート強度の低下が見られた。また、コンクリート表面の白色結晶は、実施例2−1には見られたものの、比較例2−4には見られなかった。この結果より、コンクリート層から離れた地盤にキレート材を有効とする非アルカリ性シリカを注入した場合、コンクリート層表面にマスキングシリカが形成される前に硫酸イオンが浸入して、コンクリートの劣化を引き起こしたと考えられる。
上記のことから、本発明においては、コンクリート層に対して、他のイオンに先行してキレート材を有効成分とする非アルカリ性シリカが接触することにより、マスキングシリカを形成して、後続して浸透するイオンがコンクリート層に浸透するのを防ぐことができることがわかる。
1 モルタル供試体
2A,2B 非アルカリ性シリカ溶液(固結体)
3 密閉容器
4 パラフィン
5 空洞(中空部)
6 注入管
7 共同溝
8 キレート効果のある非アルカリ性シリカ溶液の注入領域
8a キレート効果のある非アルカリ性シリカ溶液(マスキングシリカ溶液)
9 キレート効果の弱い(又はキレート効果のない)非アルカリ性シリカ溶液の注入領域
10 地下構造物
11 構造物
12 斜面の擁壁
13 住宅
14 道路
15 タンク状構造物
16 液状化層
17 非液状化層
18 未固結領域
19 養生水
20 密閉容器
21 コンクリート領域
22,23 固結領域
24 地下水がSO 2−や海水を含む地盤
25 トンネル
26 車
27 送液管
28 注入システム
31 注入管
32 注入材貯蔵槽
33,34 送液管
35 ユニットポンプの動力源
36 集中管理装置
37 流量・圧力計測装置
38 流路切換えバルブ
39 監視盤
40 ユニットポンプの駆動指示系統
41 流量指示系統
42 注入液バルブ開閉系統
U1〜U6 ユニットポンプ
P 注入地点( ポイント)

Claims (12)

  1. 既存または建造予定のコンクリートを用いた土中構造物の周囲を囲む地盤中に、キレート剤を有効成分とする非アルカリ性シリカ溶液を注入する地盤注入工法であって、
    前記土中構造物が少なくとも一部について地下水面下に存在し、該土中構造物を構成する壁面のうち、一面が地盤に面し、かつ、他の一面が大気に面している地盤注入工法において、
    pH10以下の前記非アルカリ性シリカ溶液を、前記地盤中の前記キレート剤の含有量が前記土中構造物の表面1mあたり36g以上となるよう注入し、前記土中構造物の表面に防護被膜を形成するとともに、該土中構造物の近傍部に改良地盤を設けることを特徴とする地盤注入工法。
  2. 記非アルカリ性シリカ溶液中の前記キレート剤のイオンの含有量を3000ppm以上とするとともに、前記土中構造物の表面からの固結層の厚さを、ホモゲルに換算して1cm以上とする請求項1記載の地盤注入工法。
  3. 前記土中構造物の表面からの固結層の厚さを、0.5m以上とする請求項1または2記載の地盤注入工法。
  4. なくとも前記キレート剤を含むシリカ溶液成分を、該キレート剤以外のシリカ溶液成分に先行して、前記土中構造物に接触させる請求項1〜3のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
  5. 記非アルカリ性シリカ溶液のシリカ濃度[SiO](質量%)が、次式、
    (A)2質量%≦[SiO]≦50質量%
    を満足し、該非アルカリ性シリカ溶液が前記キレート剤としてリン酸化合物を含み、かつ、該非アルカリ性シリカ溶液のリンイオン濃度[P](ppm)が、次式、
    (B)3000ppm≦[P]≦120000ppm
    を満足する請求項1〜4のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
  6. 前記非アルカリ性シリカ溶液のうち前記リン酸化合物を含む組成分を前記土中建造物の周囲を囲む地盤中に注入した後に、該リン酸化合物含有組成分の注入領域の周囲に、前記非アルカリ性シリカ溶液のうち硫酸化合物を有効成分とする組成分を注入するにあたり、該硫酸化合物含有組成分のリンイオン濃度[P](ppm)を、次式、
    (C)0≦[P]≦30000ppm
    で示される範囲とする請求項5記載の地盤注入工法。
  7. 前記非アルカリ性シリカ溶液が水ガラスに起因するシリカを含み、該非アルカリ性シリカ溶液のシリカ濃度[SiO](質量%)が、次式、
    (D)2質量%≦[SiO]≦10質量%
    を満足する請求項5または6記載の地盤注入工法。
  8. 前記非アルカリ性シリカ溶液のうち前記リン酸化合物を含む組成分のリンイオン濃度[P](ppm)とシリカ濃度[SiO](質量%)とが、次式、
    [P]/[SiO]=60〜5000
    を満足する請求項5〜7のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
  9. 前記土中構造物の、液状化対策工、劣化防止または補修工に用いられる請求項1〜8のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
  10. 前記土中構造物の、液状化対策工、劣化防止または補修工を、前記土中構造物の大気に面する側の面から該土中構造物内に設けられた注入孔より、前記非アルカリ性シリカ溶液を注入して行う請求項記載の地盤注入工法。
  11. 前記非アルカリ性シリカ溶液を注入するに先立って、前記土中構造物の地盤に接する側の面の周囲の地盤中に、セメント系グラウトを注入する請求項1〜10のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
  12. 前記土中構造物の大気に面する側の面から該土中構造物内に設けられた、吐出口を有する複数の注入孔を介して、複数の注入地点に同時注入する多点地盤同時注入を用いて前記非アルカリ性シリカ溶液を注入するにあたり、
    集中注入プラントから複数の注入管路を介して接続された複数の注入管と、前記複数の注入地点に前記非アルカリ性シリカ溶液を液送して、該複数の注入地点に該非アルカリ性シリカ溶液を注入する複数のユニットポンプと、前記複数の注入地点における前記非アルカリ性シリカ溶液の流量および/または圧力を計測する流量・圧力計測装置と、前記複数のユニットポンプを一括管理する集中管理装置と、を備える注入設備を用いて、
    前記複数のユニットポンプを作動させて、該複数のユニットポンプの作動を、前記流量・圧力計測装置からの情報に基づき、前記集中管理装置によって制御しつつ、前記複数の注入地点に前記非アルカリ性シリカ溶液を同時注入するかまたは選択して注入する請求項1〜11のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
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