JP7141473B2 - 電動車用消音部材 - Google Patents
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Description
エンジン(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン)を用いる自動車においては、エンジン音に起因する200Hz付近の低周波の音が騒音として支配的であった。これに対して、電動車では、低周波のエンジン音によるマスキングがなくなるため、高周波側の音が聞こえやすくなるという特徴がある。
さらに、電動車は、電気で駆動させるためにモーター、インバーター、および、コンバーターが搭載される。これらはその回転数および/または搬送周波数にしたがって数kHzの高周波領域に狭帯域かつ強い音を発することが知られている。また、ギア音やワイヤーハーネス等の電装系の音も特定周波数の狭帯域の音を発する場合が多く、電動車では、これらの音もエンジン音によるマスキングがなくなったために聞こえやすくなっている。
また、エアコンや部品冷却などに用いられるファンからもその羽枚数と回転速度によって狭帯域騒音が生じることが知られている。この音もエンジン音によるマスキング効果がなくなることで目立ちやすくなる。
例えば、特許文献1には、自動車のエンジンルームを開閉する自動車用フードであって、フード本体の少なくとも一部が樹脂製のハニカム構造体により構成され、ハニカム構造体が、隔壁により互いに区画されて筒状をなす多数のセルからなるハニカム部と、ハニカム部のエンジンに近い側に配置される内封止板部と、ハニカム部のエンジンから遠い側に配置されて、内封止板部とともに同ハニカム部を挟み込んで各セルを封止する外封止板部とを備え、内封止板部には、その厚み方向に延びて、同内封止板部よりもエンジン側の空間とセルの内部空間とを連通させる貫通孔が設けられており、内封止板部と外封止板部との間隔は、エンジンに対向する箇所では、同エンジンの周辺箇所に対向する箇所よりも大きく設定されている自動車用フードが記載されている。特許文献1には、ハニカム構造体の各セルはヘルムホルツ共鳴器を構成し、エンジンルーム内で発生する音を消音することが記載されている。
これに対して、特許文献1~4に記載されるような、ヘルムホルツ共鳴器を用いて、モーター、インバーター、および、コンバーター等から発生する特定周波数の狭帯域な音を低減することが考えられる。しかしながら、本発明者らの検討によれば、ヘルムホルツ共鳴器による消音は、1つの共鳴周波数に対応する狭帯域な1つの吸音ピークを生じるのみである。そのため、複数の周波数に対応できないという問題があることがわかった。また、ヘルムホルツ共鳴器はその共鳴メカニズム上、表面に厚みを持った貫通孔が必要である。そのため、背面空間のほかに厚みを持った板が必要になる。このために、背面空間以上に厚くなってしまうという問題がある。
電動車内に配置された音源から発生する音を消音する膜型共鳴構造体を有し、
音源は、狭帯域な音を発生するものであり、
膜型共鳴構造体は、音源と同じ空間内、もしくは、電動車の車室内に配置されており、
膜型共鳴構造体は、少なくとも1枚の膜状部材と、膜状部材を振動可能に支持する枠体と、膜状部材に対面して枠体に設置される背面板と、を有し、
膜状部材、枠体、および、背面板は、膜状部材、枠体、および、背面板に囲まれる背面空間を形成しており、
膜型共鳴構造体の膜状部材による膜振動によって、音源から発生する音を消音し、
前記膜状部材の膜振動の、少なくとも1つの高次振動モードの周波数における吸音率が、基本振動モードの周波数における吸音率よりも高い電動車用消音部材。
[2] 膜型共鳴構造体は、音源と同じ空間内に配置される[1]に記載の電動車用消音部材。
[3] 音源が、電動車用モーター、電動車用モーター用インバーターおよびコンバーター、ならびに、電動車用モーターに電力を供給する電動車用バッテリー用のインバーターおよびコンバーターの少なくとも1つである[1]または[2]に記載の電動車用消音部材。
[4] 電動車は、電動車用モーターを配置するための空間を形成するモーターコンパートメントを有し、
膜型共鳴構造体が、モーターコンパートメント内に配置される[3]に記載の電動車用消音部材。
[5] 膜状部材、および、枠体の少なくとも一方に貫通孔が形成されている[1]~[4]のいずれかに記載の電動車用消音部材。
[6] 音源が発生する狭帯域な音のピーク周波数の波長をλとすると、
膜状部材の表面に垂直な方向において、背面空間の厚みが、λ/6以下である[1]~[5]のいずれかに記載の電動車用消音部材。
[7] 音源が発生する狭帯域な音のピーク周波数が1000Hz以上である[1]~[6]のいずれかに記載の電動車用消音部材。
[8] 膜型共鳴構造体に取り付けられる多孔質吸音体を有する[1]~[7]のいずれかに記載の電動車用消音部材。
[9] 膜型共鳴構造体が電動車のボンネットに取り付けられている[1]~[8]のいずれかに記載の電動車用消音部品。
[10] 膜型共鳴構造体が電動車の電動車用モーターのカバー、および、電動車用モーター用インバーターのカバーの少なくとも一方に取り付けられている[1]~[8]のいずれかに記載の電動車用消音部品。
[11] 枠体および背面板の少なくとも一方が電動車の部品と一体的に形成されている[1]~[10]に記載の電動車用消音部材。
[12] 背面板が、電動車のボンネットである[11]に記載の電動車用消音部材。
[13] 枠体が電動車のボンネットと一体的に形成されている[11]または[12]に記載の電動車用消音部材。
[14] 膜型共鳴構造体の平均厚みが10mm以下である[1]~[13]のいずれかに記載の電動車用消音部材。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、例えば、「45°」、「平行」、「垂直」あるいは「直交」等の角度は、特に記載がなければ、厳密な角度との差異が5度未満の範囲内であることを意味する。厳密な角度との差異は、4度未満であることが好ましく、3度未満であることがより好ましい。
本明細書において、「同じ」、「同一」は、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。また、本明細書において、「全部」、「いずれも」または「全面」などというとき、100%である場合のほか、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含み、例えば99%以上、95%以上、または90%以上である場合を含むものとする。
本発明の電動車用消音部材は、
電動車内に配置された音源から発生する音を消音する膜型共鳴構造体を有し、
音源は、狭帯域な音を発生するものであり、
膜型共鳴構造体は、音源と同じ空間内、もしくは、電動車の車室内に配置されており、
膜型共鳴構造体は、少なくとも1枚の膜状部材と、膜状部材を振動可能に支持する枠体と、膜状部材に対面して枠体に設置される背面板と、を有し、
膜状部材、枠体、および、背面板は、膜状部材、枠体、および、背面板に囲まれる背面空間を形成しており、
膜型共鳴構造体の膜状部材による膜振動の共鳴周波数は、音源から発生する音の周波数に応じた周波数である電動車用消音部材である。
電動車とは、動力源としてモーター(以下、電動車用モーターという)を有する自動車であり、エンジン(ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジン)と電動車用モーターとを動力源として有するいわゆるハイブリッド車、電動車用モーターを動力源として有する電気自動車である。電動車においては、基本的に、電動車用モーターに供給するための電力を貯蔵するバッテリー(以下、電動車用バッテリーという)を有している。また、バッテリーに電力を供給する形態としては、外部から直接バッテリーに電力を供給するもの(いわゆる電気自動車)であってもよいし、内蔵するエンジンによって発電機を駆動してバッテリーに電力を供給するものであってもよいし、内蔵する燃料電池によって発電しバッテリーに電力を供給するものであってもよい。また、バッテリーを有さず、燃料電池によって発電した電力を直接、電動車用モーターに供給して、電動車用モーターを駆動するもの(いわゆる燃料電池車)であってもよい。
また、エンジンと電動車用モーターとを有する電動車としては、エンジンと電動車用モーターとを同時にまたは切り替えて動力源として用いるものであってもよいし、エンジンを発電するために用い、電動車用モーターのみによって駆動するものであってもよい。
・動力源として用いられる電動車用モーター
・電動車用モーターに供給される電力を、直流から交流へ、あるいは、周波数の異なる交流へ変換する回路であるインバーター、および/または、交流から直流へ変換する回路であるコンバーター
・電動車用モーターに電力を供給する電動車用バッテリーに供給される電力、および/または、電動車用バッテリーから出力される電力を変換するインバーターおよび/またはコンバーター
・電動車用モーターからタイヤに伝達される動力(回転)を減速、および/または、増速してタイヤに伝えるためのギヤ
・電動車用バッテリーから電動車用モーターへ電力を共有するための電線であるワイヤーハーネス
・電動車で用いられるファン、特に回転数と羽枚数で決定されるピーク騒音
これらの音源が発生する狭帯域な音のピーク周波数は1000Hz以上であり、より多くは、1.5kHz~12kHzであり、さらに多くは、2kHz~10kHzである。
モーターの騒音のように回転によって発する狭帯域音は回転数に対して複数の高次次数音がなるために、複数の狭帯域音の音源となることも多い。
なお、以下の説明では、電動車用モーターを単にモーターともいう。また、電動車用バッテリーを単にバッテリーともいう。また、電動車用モーター用のインバーター、電動車用バッテリー用のインバーターをまとめてインバーターともいう。また、電動車用モーター用のコンバーター、電動車用バッテリー用のコンバーターをまとめてコンバーターともいう。
音源が、モーターの場合には、回転数に応じた周波数の音(電磁騒音)を発生する。このとき、発生する音の周波数は、必ずしも回転数またはその倍数に限るわけではないが、回転数を大きくすることで音も高くなっていくなどの強い関連性が見られる。
すなわち、音源はそれぞれ、音源に固有の周波数の音を発生する。
指標としては、Tone to Noise Ratio(TNR)がECMA-74あるいはISO 7779に定められている。これに基づいて、ピーク音と周辺周波数音の音量差を評価すればよい。その上で3dB以上の差がある場合に狭帯域音として取り扱う。
また、狭帯域音が周波数軸で密集していて上記手法で評価しづらい場合には、同じくECMA-74あるいはISO 7779に定められているProminence ratioによって、狭帯域音と周辺音の比較を行うことができる。このような場合もこの差分が3dB以上の大きさである場合に、狭帯域音として取り扱えばよい。
音源が固有の狭帯域な音を発するかは、例えば下記のような実験を行うことで特定することができる。
音源単体で音を発することができる場合には、音源を無響室もしくは半無響室内、もしくはウレタン等の吸音体で囲んだ状況に配置する。周辺を吸音体とすることで、部屋や測定系の反射干渉による影響を排除する。その上で、音源を鳴らし、離れた位置からマイクで測定を行い、音圧と周波数との関係(周波数特性)を取得する。音源と測定系のサイズによりマイクとの距離は適宜選択できるが、30cm程度以上離れて測定することが望ましい。
電動車を動かす形でしか音が発しない場合には、評価を車室内の運転手耳位置にマイクを取り付けて評価することが望ましい。
音源の周波数特性において、音圧が極大値(ピーク)となる周波数をピーク周波数と呼ぶ。その極大値が周辺の周波数での音と比較して3dB以上大きい場合には、そのピーク周波数音が十分に人間に認識できるため、狭帯域な音を発生する音源といえる。5dB以上であればより認識でき、10dB以上であればさらに認識できる。評価は上記のように、TNRもしくはProminence Ratioを用いて評価することができる。
例えば、日本機械学会誌 2007. 7 Vol. 110 No.1064、「ハイブリッド車の振動騒音現象とその低減技術」にモーター電磁騒音とスイッチングノイズ騒音が挙げられており、その原因と典型的な騒音周波数が開示されている。記載されている比較表により、数百Hz~数kHzであるモーター電磁騒音、数kHz~十数kHzであるスイッチングノイズが他の騒音の周波数より高周波側にある騒音であることが開示されている。
また、例えば、トヨタ自動車PRIUSのマニュアル(2015)のP.30に「ハイブリッド車特有の音と振動について」として「エンジンルームからの電気モーターの作動音(加速時の"キーン"音、減速時の"ヒューン"音)」が開示されている。
また、電気自動車である日産自動車LEAFのマニュアル(2011)のEV-9に「音と振動について」として「モータールームから発生するモーターの音」が開示されている。
このように、自動車がハイブリッド化、電気自動車化することによって、従来にはなかった高周波側の、特定周波数の狭帯域な音が車室内にも聞こえる大きさで発生している。
以下、本発明の電動車用消音部材の一例について、図1~図5を用いて説明する。
図1は、本発明の電動車用消音部材の一例を含む電動車の一部を示す模式的な断面図である。図2は、図1に示す電動車の側面断面図である。図3は、図1に示す電動車用消音部材が有する膜型共鳴構造体を拡大して示す模式的な断面図である。図4は、膜型共鳴構造体の模式的な斜視図である。図5は、図4に示す膜型共鳴構造体のB-B線断面図である。なお、図1、図2において、説明のため電動車の一部(電動車に含まれる部品)の図示を省略している。また、図4において説明のため膜状部材16の図示を一部省略している。
電動車用モーター102は電動車に用いられている各種の公知のモーターである。
また、モーターコンパートメント104内には電動車用モーター102以外に、電動車用モーター用インバーターおよびコンバーター、電動車用モーターに電力を供給する電動車用バッテリー、ならびに、電動車用バッテリー用インバーターおよびコンバーター等の電動車が有する各種装置が配置されていてもよい。
ボンネット106は、公知の電動車において用いられる各種の構成を取り得る。例えば、モーターコンパートメント104の上部を開閉可能にするためのヒンジ、閉鎖時にボンネット106を車体に保持するロック機構等を有する。
また、図1および図2に示す例では、ボンネット106の電動車用モーター102側の面には、膜型共鳴構造体10を含む電動車用消音部材50が取り付けられている。
図1および図2に示す例では、音源は電動車用モーター102であり、膜型共鳴構造体10は、電動車用モーター102が発生する狭帯域な音を消音する。
図1および図2に示す例では、膜型共鳴構造体10は、モーターコンパートメント104内、すなわち、音源と同じ空間内に配置されている。
図3~図5に示す例では、枠体18および背面板22は、一体的に形成されているため、円柱形状で一面に底面を有する開口部20が形成された形状である。すなわち、枠体18および背面板22を一体化した部材は一面が開放された有底の円筒形状である。
膜状部材16は膜状の部材であり、枠体18の、開口部20が形成された開口面19を覆って周縁部を枠体18に固定されて振動可能に支持されている。
したがって、膜型共鳴構造体10において、膜状部材16の膜振動の共鳴周波数は、音源が発生する音の周波数に応じて設定される。例えば、インバーターおよびコンバーターのように音源が特定の周波数で狭帯域な音を発生する場合には、その音のピーク周波数に合わせて膜振動の共鳴周波数を設定すればよい。
一方、電動車用モーターのように動作状態に応じてピーク周波数が変動する場合には、例えば、交通法規で制限速度が決まっている場合は、その速度での電動車用モーターの回転数に合わせて、膜振動の共鳴周波数を設定することができる。例えば、日本の一般道での制限速度はおおむね60km/h、高速道路での制限速度はおおむね100km/hであるため、電動車がこの速度で走行している状態での電動車用モーターの回転数に合わせて膜振動の共鳴周波数を設定すればよい。
あるいは、電動車用モーターの筺体の共振周波数、および、モーターカバーの共振周波数等では、電動車用モーターが発生する音が、これらの共振によって外に放射されやすい。従って、電動車用モーターが発生する音が外に放射されやすい周波数に合わせて、膜振動の共鳴周波数を設定してもよい。
従来の自動車で用いられているフェルト、および、シンサレート等の多孔質吸音体による吸音では、このような特定周波数の狭帯域な音を吸音するのは難しいという問題があった。
膜型共鳴構造体10における膜振動では、基本振動モードの周波数における共鳴のみでなく、高次振動モードの周波数、すなわち、第2次、第3次固有振動数等の高次の固有振動数における共鳴が生じる。そのため、膜型共鳴構造体10は、基本振動モードの周波数に加えて、高次振動モードの周波数においても消音することが可能である。そのため、複数の周波数に対応することが可能である。
また、例えば、膜型共鳴構造体10を第2次固有振動数と第3次固有振動数とが近くなるように設計することで、第2次固有振動数と第3次固有振動数の間の周波数帯域でも吸音による消音効果が得られるため、モーター等の動作状態に応じて音のピーク周波数が変動する場合であっても膜型共鳴構造体10は十分に消音することができる。
また、狙いの狭帯域音がその空間内で強い共鳴現象を生じない場合であっても、その空間内には音の疎密が生じる。その場合にも音圧の腹になる部位に配置することで、自由空間内あるいは別の空間に膜型共鳴体を配置した場合と比較して、消音効果を大きくすることができる。
また、図1~図3に示す例においては、膜型共鳴構造体10は、ボンネット106の電動車用モーター102(音源)側の面に配置される構成としたが、これに限定はされない。例えば、電動車用モーターを覆うモーターカバーを有する場合には、膜型共鳴構造体10は、モーターカバーに配置されてもよい。また、膜型共鳴構造体10は、モーターカバー内部(モーター筺体とモーターカバーとの間)に配置することもできる。
例えば、図6に示す例のように、インバーター112が電動車用モーター102と一体的に配置されていてもよい。インバーター112が電動車用モーター102と一体的に配置されている場合にも、膜型共鳴構造体10は、ボンネット106に配置されるのが好ましい。
あるいは、例えば、電動車用モーター102、および、インバーター112を音源とした場合には、前述のとおり、電動車用モーターが発生する音の周波数と、インバーターが発生する音の周波数とが近くなると、その周波数の音が大きくなる。そのため、インバーターが発生する周波数の音を消音可能な1種の膜型共鳴構造体を配置する構成としてもよい。
例えば、図3に示す例では、膜型共鳴構造体10は、別体としてボンネット104に取り付けられる構成としたが、図7に示すように、背面板をボンネット106と一体化して、すなわち、ボンネット106を背面板として用いる構成としてもよい。あるいはさらに、図8に示すように、枠体18をボンネット106と一体的に形成してもよい。
膜振動を利用する消音手段でこのような高い周波数の音を消音する場合には、膜の硬さ、および、膜の大きさ等を調整して膜振動の固有振動数を高くすることが考えられる。
具体的には、基本振動モードの膜振動を利用して高い周波数の音を吸音するためには、膜をより硬く厚くして基本振動モードにおける周波数(第1次固有振動数)を高くする必要がある。しかしながら、本発明者らの検討によれば、膜を硬く厚くしすぎると膜によって音が反射されやすくなってしまう。そのため、基本振動モードの周波数が高くなるほど、膜振動による音の吸収(吸音率)が小さくなってしまう。
よって、従来の設計理論に基づいた基本振動モードを用いた膜振動を利用した消音手段では、高周波で大きな吸音は難しいことが明らかになった。この特性は、高周波特定音の消音に用いるには不向きな特性である。
本発明者らの検討によると、この問題は基本振動モードにおいて顕著にみられることがわかった。
また、高次振動モードの固有振動数は、膜の硬さが変わっても変化しにくいため、高次振動モードの膜振動を利用することによって、周囲の環境の変化により膜の硬さが変わっても高次固有振動数の変化が小さく、消音できる周波数の変化量を小さくすることができる。すなわち、環境の変化に対してロバスト性を高くすることができる。そのため、電動車のモーターコンパートメント内のような温度変化が大きい空間内に膜型共鳴構造体を配置した場合でも高い消音効果を得ることができる。
膜の条件(厚み、硬さ、大きさ、固定方法等)によって決定される基本振動モードと高次振動モードの周波数帯があり、どのモードによる周波数が強く励起されて吸音に寄与するかが背面空間の距離(厚み)等によって決定される。これを以下に説明する。
数式で表現すると、膜の音響インピーダンスをZm、背面空間の音響インピーダンスをZbとすると、合計の音響インピーダンスZt=Zm+Zbとして記述される。この合計の音響インピーダンスが媒質の流体(空気など)の音響インピーダンスに一致するときに共鳴現象が生じる。ここで、膜の音響インピーダンスZmについては膜部分によって決定され、例えば基本振動モードについては膜の質量による運動方程式に従う成分(質量則)と、膜が固定されていることによってばねのような引っ張りに支配される成分(剛性則)が一致した時に共鳴が生じる。高次振動モードも同様に、基本振動より複雑な膜振動の形状による共鳴である。
膜の厚みが大きいなど、膜に高次振動モードが発生しにくい場合は、基本振動モードとなる帯域は広くなる。しかし、膜が硬く反射されやすいために吸音が小さくなることは上述のとおりである。膜の厚みを薄くするなど、膜に高次振動モードが発生しやすい条件とすると、基本振動モードが発生する周波数帯域幅は小さくなり、高次振動モードが高周波域に存在する状態となる。
これらをまとめると、膜部分によってどの周波数領域で基本振動となり、別の帯域では高次振動となるかが決まる。そして、背面空間によってどの周波数帯の音を励起しやすいかが決まるためにそれを高次振動に対応する周波数とすることで、高次振動モードに起因する吸音率を大きくすることができるというのが今回のメカニズムである。
よって、高次振動モードを励起するように膜と背面空間をともに決定する必要がある。
膜型共鳴構造体10の計算モデルにおいて、枠体18は、図4に示すような円筒形状で、開口部の直径が20mmとした。膜状部材16は厚み50μmとし、ヤング率はPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムのヤング率である4.5GPaとした。
なお、計算モデルは二次元軸対称構造計算モデルとした。
結果を図9に示す。図9は、各計算モデルにおいて吸音率が最大となる周波数(以下、ピーク周波数という)と、このピーク周波数における吸音率とをプロットしたグラフである。
図9に示すように、高い周波数でも高い吸収率が得られることがわかる。
図10に、各計算モデルのピーク周波数と背面空間の厚みとの関係を両対数でプロットし、振動モードの次数ごとにラインを引いたグラフを示す。また、図11および図12には、背面空間の厚みが7mm、5mm、3mm、2mm、1mm、0.5mmの場合の各計算モデルにおける周波数と吸音率との関係を表すグラフを示す。
また、膜厚が薄く、したがって膜の硬さが小さい系となるため、高周波側でも反射が小さく大きな吸音率が生じていると考えられる。
また、図11および図12から、背面空間の厚みが小さいほど基本振動モードにおける周波数での吸音率が低くなり、高次の振動モードにおける周波数での吸音率が高くなっていることがわかる。
また、図12の背面空間の厚みが0.5mmの場合では、9kHz以上の非常に高い周波数領域でほぼ100%という大きな吸音率が得られることがわかる。
また、図11および図12から、高次振動モードは複数存在し、それぞれの周波数において高い吸音ピーク(吸音率の極大値)を示すことがわかる。よって、高い吸音ピークが重なって、比較的広帯域に渡って吸音効果を示すことも分かる。
振動モードが基本振動モードであるか高次振動モードであるかは、膜状部材の状態から判別することができる。基本振動モードにおける膜振動では、膜の重心部が最も大きな振幅を持ち、周辺の固定端部付近の振幅が小さい。また、膜状部材は全ての領域において同じ方向に速度を持つ。一方、高次振動モードにおける膜振動では、膜状部材は、位置によって逆方向に速度を持つ部分が存在する。
または、基本振動モードは膜の固定部が振動の節となり、他の膜面上には節が存在しない。一方で高次振動モードでは上記の定義により固定部のほかに膜上にも振動の節となる部分が存在するため、下記に示した手法で実際に計測することができる。
振動モードの解析は、レーザー干渉を用いて膜振動を測定することで、振動モードの直接観測が可能である。もしくは、膜面状に塩や白色の微粒子をまいて振動させることで節の位置が可視化されるので、この手法を用いても直接観測が可能である。このモードの可視化はクラドニ図形として知られている。
また、円形膜や矩形膜では解析的に周波数を求めることもできる。有限要素法計算などの数値計算法を用いれば、任意の膜の形状について各振動モードにおける周波数を求めることができる。
音響管の直径を細くするほど高周波まで測定することが可能である。今回は高周波まで吸音率特性を測定する必要があるために、直径20mmの音響管を選択する。
なお、背面空間24の厚みが一様でない場合には、平均値が上記範囲であればよい。
一方で、膜の厚みが薄すぎると取り扱いが難しくなる。膜厚は1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。
膜状部材16のヤング率は、1000Pa~1000GPaであることが好ましく、10000Pa~500GPaであることがより好ましく、1MPa~300GPaであることが最も好ましい。
膜状部材16の密度は、10kg/m3~30000kg/m3であることが好ましく、100kg/m3~20000kg/m3であることがより好ましく、500kg/m3~10000kg/m3であることが最も好ましい。
膜状部材16の大きさ(膜振動する領域の大きさ)、すなわち、枠体18の開口断面の大きさは、円相当直径(図5中La)で1mm~100mmが好ましく、3mm~70mmがより好ましく、5mm~50mmがさらに好ましい。
膜状部材のヤング率をE(Pa)とし、厚みをt(m)とし、背面空間の厚み(背面距離)をd(m)とし、膜状部材が振動する領域の円相当直径、すなわち、膜状部材が枠体に固定されている場合には枠体の開口部の円相当直径をΦ(m)として、これらのパラメータを種々変更して有限要素法計算ソフトCOMSOL ver.5.3(COMSOL Inc.)の音響モジュールを用いてシミュレーションを行い、高次振動モードが励起される条件を求めた。
具体的には、3次元空間内に音響管を模擬した円柱状の導波路を設定し、その端部に背面空間部、膜状部材部を設置する。その端部はサウンドハード面とすることで反射端とする。膜状部材部は構造力学モジュール計算の対象として、その周囲の空気部とは音響構造連成面とすることで、音響構造相互作用を強連成で計算した。また、膜状部材部はその端部を固定拘束条件とすることで、周辺を抑えられた膜振動を計算した。
その音響管のもう一端は平面波放射面とし、入力エネルギーと、反射してくる反射エネルギーをその面上で求めた。入力エネルギーを1に規格化したときに、吸音率は1-反射率として求めることができる。
この条件を基にして、周波数を変化させて吸音率の周波数依存性を計算した。その依存性で低周波側から吸音ピークが第一次、第二次とつけることができる。また、膜面の固体振動パターンも確認することで第一次モードであることをそれぞれ確認している。
このような計算設定下で、(E,t,d)をパラメトリックに変化させて計算させることで、それぞれの吸音ピーク位置を求めた。
その結果、膜状部材のヤング率をE(Pa)とし、厚みをt(m)とし、背面空間の厚み(背面距離)をd(m)とし、膜状部材が振動する領域の円相当直径、すなわち、膜状部材が枠体に固定されている場合には枠体の開口部の円相当直径をΦ(m)とすると、膜状部材の硬さE×t3(Pa・m3)を、21.6×d-1.25×Φ4.15以下とすることが好ましいことがわかった。この条件とすることで、基本振動モードの吸音率より高次振動モードの吸音率を大きくすることができる。まず、ヤング率および厚み等の単独パラメータではなく、E×t3が膜の硬さを支配するパラメータであることが分かった。次に、背面距離に対する依存性と枠体(開口部)のサイズ(膜の振動可能部分の大きさに等しい)に対する依存性の、硬さに与える影響が上記式の係数で表されることが分かった。これらを基にして、検討した結果、高次振動モードの吸音率を基本振動モードの吸音率より大きくするには上式の範囲を満たす必要があることを明らかにした。さらに、係数aを用いて、a×d-1.25×Φ4.15と表すと、係数aが、11.1以下、8.4以下、7.4以下、6.3以下、5.0以下、4.2以下、3.2以下と係数aが小さくなるほど好ましいことがわかった。この範囲に限定することで、さらに高次振動モードの吸音率が基本振動モードの吸音率に対して大きくなる。
また、膜状部材の硬さE×t3(Pa・m3)は、2.49×10-7以上であることが好ましく、7.03×10-7以上であることがより好ましく、4.98×10-6以上であることがさらに好ましく、1.11×10-5以上であることがよりさらに好ましく、3.52×10-5以上であることが特に好ましく、1.40×10-4以上であることが最も好ましいことがわかった。膜が柔らかすぎると、膜の質量のみが機能して振動バネ要素が機能しない、すなわち質量と背面空間のみの共鳴となる。この場合、最大吸音率が小さくなる傾向であることが分かった。よって、吸音率を大きくするためにはこれらの条件を満たす必要がある。
膜状部材の硬さを上記範囲とすることで、膜型共鳴構造体10において高次振動モードを好適に励起することができる。
なお、以下の説明において、基本振動モードの周波数における吸音率よりも吸音率が高い高次振動モードを単に「高次振動モード」とも言い、その周波数を単に「高次振動モードの周波数」とも言う。
複数の高次振動モードの周波数で吸音率が20%以上とすることで、複数の周波数で吸音することができる。
さらに、吸音率が20%以上となる高次振動モードが連続して存在する場合に、これら高次振動モードの周波数の間の帯域全域で吸音率が20%以上となるのが好ましい。
これによって、広帯域に吸音効果を得ることができる。
本発明において可聴域とは、20Hz~20000Hzである。
例えば、図14に示す例のように、膜状部材16に貫通孔17が形成されていてもよい。
貫通孔17を設けることで、ピーク周波数を調整することができる。
膜部分に貫通孔を形成することで、空気伝搬音による伝搬が生じる。これによって膜の音響インピーダンスが変化する。また、貫通孔によって膜の質量が減少する。これらによって、共鳴周波数が変化したと考えられる。従って、貫通孔の大きさによってもピーク周波数をコントロールができる。
この場合、貫通孔の位置によって吸音率および吸音ピーク周波数(以下、吸音スペクトルともいう)が変化する。例えば、中央の位置に貫通孔を形成した場合の方が、端部近傍の位置に貫通孔を形成した場合よりも、貫通孔を形成しない場合に比べて吸音スペクトルの変化量が大きくなる。
また、振動部分面積に対して貫通孔17の面積は50%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
貫通孔は複数あいていても同様に調整をすることができる。
また、切断部の長さは、膜状部材が振動する領域が完全に分割されない長さであれば限定はないが、枠直径に対して90%未満であることが好ましい。
また、切断部は1つ形成されるものであってもよいし、2以上形成されていてもよい。
膜状部材に切断部を形成することで吸音する周波数をブロード化(広帯域化)することができる。
あるいは、図16に示す例のように、背面板22に貫通孔17が形成されていてもよい。
これによって膜型共鳴構造体内外の通気性を確保し、温湿度変化あるいは気圧変化等による各部の膨張(特に膜状部材)、結露等を防ぐことができる。
また、図18に示す例のように、背面板22が電動車の部品(ボンネット106)に直接取り付けられている場合、ならびに、背面板22および/または枠体18が電動車の部品(ボンネット106)と一体化した構成の場合にも、枠体18の、電動車の部品付近の位置に貫通穴17をあけることによって、その部位の風が弱いために風切り音も小さくなる。
なお、図21~図23に示す例では、膜型共鳴構造体は、各防音セルの枠体を一体化した構成としたが、これに限定はされず、異なる周波数帯域で消音する独立した防音セルを並べたり敷き詰めたりすることでも、複数の周波数に対応させることができる。
背面空間24に多孔質吸音体26を配置することで、ピーク吸音率が小さくなる代わりに低周波側に広帯域化することができる。
多孔質吸音体の流れ抵抗は、1cm厚の多孔質吸音体の垂直入射吸音率を測定し、Mikiモデル(J. Acoust. Soc. Jpn., 11(1) pp.19-24 (1990))でフィッティングすることで評価することができる。または「ISO 9053」に従って評価してもよい。
また、枠材料として各種ハニカムコア材料を用いることもできる。ハニカムコア材料は軽量で高剛性材料として用いられているため、既製品の入手が容易である。アルミハニカムコア、FRPハニカムコア、ペーパーハニカムコア(新日本フエザーコア株式会社製、昭和飛行機工業株式会社製など)、熱可塑性樹脂(PP,PET,PE,PCなど)ハニカムコア(岐阜プラスチック工業株式会社製TECCELLなど)など様々な素材で形成されたハニカムコア材料を枠体として使用することが可能である。
また、枠材料として、空気を含む構造体、すなわち、発泡材料、中空材料、多孔質材料等を用いることもできる。多数の膜型の膜型共鳴構造体を用いる場合に各セル間で通気しないためにはたとえば独立気泡の発泡材料などを用いて枠を形成することができる。例えば、独立気泡ポリウレタン、独立気泡ポリスチレン、独立気泡ポリプロピレン、独立気泡ポリエチレン、独立気泡ゴムスポンジなど様々な素材を選ぶことができる。独立気泡体を用いることで、連続気泡体と比較すると音、水、気体等を通さず、また構造強度が大きいため、枠材料として用いるには適している。また、上述した多孔質吸音体が十分な支持性を有する場合は、枠体を多孔質吸音体のみで形成しても良く、多孔質吸音体と枠体の材料として挙げたものを、例えば混合、混錬等により組み合わせて用いても良い。このように、内部に空気を含む材料系を用いることでデバイスを軽量化することができる。また、断熱性を付与することができる。
背面板の厚み(図5中のt1)も特に制限的ではない。
また、金属材料を用いる場合には、錆びの抑制等の観点から、表面に金属めっきを施してもよい。
また、自動車(電動車)においては、接着剤が多用されているため、それらを使用することもできる。構造用接着剤として、エポキシ接着剤、ウレタン接着剤等の自動車に用いられて実績のあるものを用いることで、自動車用途の耐久性に耐えうる性能を出すことができる。また、一液性接着剤を用いてもよいし、硬化温度を常温程度に低くするために二液性接着剤を用いることもできる。例えば、スリーエム社3M Scotch-Weldシリーズを選ぶことができる。
両面テープに関しても、従来、自動車に用いられている両面テープを用いることもできる。例えば、スリーエム社スコッチ(登録商標) 強力両面テープ[自動車内装用] SCP-15、スコッチ 強力両面テープ [自動車外装用] KCA-15、スコッチ 超強力両面テープ プレミアゴールド [自動車内装用] KCR-15などを選択することができる。
さらに、枠体18、背面板22および/または膜状部材16に反射防止コートあるいは反射防止構造をつけても良い。例えば、誘電体多層膜による光学干渉を用いた反射防止コートをすることができる。可視光を反射防止することで、枠体18、背面板22および/または膜状部材16の視認性がさらに下げて目立たなくすることができる。
このようにして透明な膜型共鳴構造体を例えば窓部材に取り付けたり、代替として用いることができる。
本発明において膜型共鳴構造体10は好ましくは、モーターコンパートメント104内に配置される。前述のとおり、モーターコンパートメント104内は温度変化が大きく、温度によって枠材料および膜状部材16の材料の物性が変化すると、膜振動の共鳴周波数が変化してしまい、所望の消音効果を得られなくなるおそれがある。
さらに、枠材料と膜状部材とで異質の部材を用いる場合には、環境温度に於ける熱膨張係数(線熱膨張係数)が同程度であることが望ましい。
枠材料及び膜状部材との間で熱膨張係数が大きく異なると、環境温度が変化した場合に枠体および背面板と膜状部材の変位量が異なるため、膜に歪みが生じ易くなる。歪み及び張力変化は、膜の共鳴周波数に影響を与えるため、温度変化に伴って消音周波数が変化し易くなり、また温度が元の温度に戻っても歪みが緩和せずに消音周波数が変化したままになる場合がある。
これに対して、熱膨張係数が同程度である場合には、温度変化に対して枠体および背面板と膜状材料とが同様に伸び縮みするために歪みが生じ難くなる結果、環境温度の変化に対して安定した消音特性を発現できる。
熱膨張係数の指標として線膨張率が知られており、線膨張率は、例えばJIS K 7197等公知の方法で測定することができる。枠体と膜状材料との線膨張率の差は、使用する環境温度域に於いて9ppm/K以下であることが好ましく、5ppm/K以下であることがより好ましく、3ppm/K以下であることが特に好ましい。このような範囲から部材を選定することで、使用する環境温度で安定した消音特性を発現できる。
<膜型共鳴構造体の作製>
厚み3mmのアクリル板(株式会社光製)を用意し、20mm×20mmの開口部を6×11個有する枠体を作製した。加工はレーザーカッターを用いて行った。全体サイズは300mm×180mmとした。
背面板として厚み2mmのアクリル板を300mm×180mmのサイズに加工し、枠体の一方の面に取り付けた。取り付けは両面テープ(アスクル製 現場のチカラ)を用いて行った。
膜状部材として、厚み50μmのPETフィルム(東レ株式会社製ルミラー)を300mm×180mmのサイズに切り出した。膜状部材を枠体の他方の面に両面テープで取り付けた。
これにより、厚み50μmの膜状部材が20mm×20mmのサイズで膜振動部を構成し、背面距離が3mmの膜型共鳴構造体を6×11個配列した構造となる。
作製した構造体の垂直入射吸音率を測定した。音響管測定として、JIS A 1405-2に従った垂直入射吸音率の測定系を作製して評価を行った。これと同様の測定は日本音響エンジニアリング製WinZacMTXを用いて行うことができる。音響管の内部直径は2cmとし、その音響管端部に上記膜型共鳴構造体の膜面を音響入射面側として配置し、垂直入射吸音率評価を行った。結果を図25に示した。この膜型共鳴構造体は、3kHzと4kHzにほぼ100%の大きな吸音率を有するものであることがわかる。この膜型共鳴構造体は、1.7kHz付近の吸音が基本振動の吸音率であり、この膜型共鳴構造体は基本振動の吸音率より高次振動の吸音率が大きくなるように設計したものである。
また、図25から、この膜型共鳴構造体では3kHzと4kHzとの間の周波数帯域でも高い吸音率が得られており、特定の周波数帯域を吸音するものでありつつ、ある程度の帯域幅で吸音できることがわかる。
作製した膜型共鳴構造体を電動車に組み込んで以下のようにして消音量を評価した。
電動車として日産自動車製リーフ(2017年型)を用いた。リーフのモーターコンパートメント内は、ほぼ中央部下側にモーターがあり、その上にインバーターが積み重ねられている。実車走行によって、モーターおよびインバータともに1kHz以上の高周波帯に複数本の強い単周波音成分を発することが分かっている。このリーフは、一般の自動車と同様に、モーターコンパートメントの下部には開放部が存在し、また、モーターコンパートメントから車室内に通気している孔部、ボンネット側方部に発泡ウレタンが詰められた開放部などが存在する。本実験の目的は、このような複雑な形状をした電動車のように、モーターコンパートメントから車室内への音伝達経路について複数のパスが存在する状況において、特定音騒音を抑制できることを示すことにある。上記複数のパスは、ダッシュインシュレータ部などを振動させて伝わる経路、一度モーターコンパートメント外に音が出て再度車室内に侵入する経路、モーターコンパートメントから車室内に孔部を通って直接空気伝搬音として伝わる経路などが存在する。
マイクロホンは小野測器製のMI-1431を用いた。配置場所は音源付近としてインバーターカバー部に3本、車室外に1本、車室内の運転手耳位置に3本固定して測定した。複数本のマイクロホンを配置した理由は、特に高周波音に関して波長サイズが小さいことにより場所依存性が大きい可能性があるためである。以下の結果では、車室内耳位置のマイクロホンのデータを平均化した結果を示す。
分析は、1/3オクターブバンド(周波数重みづけFLAT)と、狭帯域スペクトルの双方を同時に行った。
比較例1では、膜型共鳴構造体に代えて、自動車の防音材としてよく用いられる3M社製シンサレート(PPS-200)を用いた。シンサレートの厚みは13mmである。このシンサレート背面に、背面板を取り付けた。背面板は、実施例1の背面板と同様にしてアクリル板を加工して作製した。これを実施例1と同じ面積にレーザーカッターで加工した。加工後の防音材を、実施例1と同じ位置に取り付けて上記と同様の測定を行った。
比較例2として、リーフに元々取り付けられていたフェルト系防音材を用いた。元の取り付け状態にし、実施例1と同様の測定を行った。このフェルト系防音材自体の厚みは最大30mm程度であり、さらに背面に空間ができるような取り付け方となっている。
比較例1および比較例2の測定結果を図27に示す。また、図27には実施例1の結果も示す。最も薄い実施例1の膜型吸音構造体が、4kHzの消音ピークにおいて高い消音量が得られることがわかる。また、1/3オクターブバンドでの評価結果を表1に示す。1/3オクターブバンド評価での消音量においても実施例1は比較例1および2を上回っていることがわかる。
このように、本発明の電動車用消音部材は、従来の多孔質吸音体に対して、薄くかつ高い消音効果を有することがわかる。特に、現在市販されている電動車の吸音体に対して厚みを1/10として、かつ高い消音効果が得られており、ピーク音の消音には優れた構造であることがわかる。
背面空間の厚み(すなわち、アクリル板の厚み)を5mmとし、枠体の開口部のサイズを30mm×30mmとし、膜状部材(PETフィルム)の厚みを100μmとし、4×8個配列した構成とした以外は、実施例1と同様にして膜型共鳴構造体を作製し、実施例1と同様にして消音量を測定した。
実施例2の膜型共鳴構造体は、2kHz近傍に吸音ピークを有する。
結果を図29に示す。
背面空間の厚み(すなわち、アクリル板の厚み)を2mmとし、6×11個配列した構成とした以外は、実施例1と同様にして膜型共鳴構造体を作製し、実施例1と同様にして消音量を測定した。
実施例3の膜型共鳴構造体は、4.5kHz近傍に吸音ピークを有する。
結果を図30に示す。
前述のとおり、狭帯域な音を消音する構造として、ヘルムホルツ共鳴構造が知られてり、先行文献に挙げたように自動車に用いる試みも行われている。そこで、比較例3として、ヘルムホルツ共鳴構造を作製して、実施例1と同様の評価を行った。
狙いの周波数を4kHzとした。
表面板は、厚み3mmのアクリル板に直径6mmの貫通孔を有するものとした。中間枠は厚み3mm、枠サイズ20mmのアクリル枠構造とした。背面板は厚み2mmのアクリル板とした。すなわち、20mm×20mm×3mmの内部空間と、直径6mm、長さ3mmの開口部とを有するヘルムホルツ共鳴構造とした。配列は実施例1に合わせて、6×11個配列した。
さらに、図31から、3kHz付近においては、実施例1は別の振動次数によって消音効果を有しているが、比較例1は複数の周波数帯域に共鳴を持つことができないために消音効果がないことがわかる。
このように、本発明の電動車用消音部材が有する膜型吸音構造体は、ヘルムホルツ共鳴構造に対して、軽量薄型であること、複数の周波数の消音ができることで優位性があることがわかる。
膜型共鳴構造体とヘルムホルツ共鳴体との比較として、風切り音の効果を見るために以下の実験を行った。
DC軸流ファン(三洋電気社製 San Ace 60,Model:9GA0612P1J03)を用意し、そのファンをダクト(開口断面60mm×60mm、長さ145mm)の一方の端面に取り付けた。ダクトの他方の端部にマイクロフォン(アコー社製)を配置し、なにもデバイスがない状態(参考例)、壁面の一部を膜型共鳴構造体とした状態(実施例4)、壁面の一部をヘルムホルツ共鳴体とした状態(比較例4)について音量を測定し比較を行なった。ここで膜型共鳴構造体、および、ヘルムホルツ共鳴体の共鳴周波数は1.5kHzに合わせた。膜型共鳴構造体については2次振動モードでの共鳴周波数である。
ヘルムホルツ共鳴体は、膜型共鳴構造体と体積が同一になるように設計した。即ち、表面板の厚みが2mm、背面距離を3mmとして、背面空間はΦ26mmの円柱状空洞であり、表面板には孔径2.5mm、厚み2mmの貫通穴(共鳴穴)が形成されるものとした。
また、膜型共鳴構造体およびヘルムホルツ共鳴体ともに、ダクトの一方の端面側の側面に取り付けた。
この状態で周波数と音量との関係を測定した。
図33に結果を示す。図33に示すグラフにおいて、横軸の周波数軸は、ノイズ除去のために20Hzごとに平均化処理をしている。
一方で、ヘルムホルツ共鳴体の場合は、ピーク周波数付近1kHz幅の帯域全体にわたって、元の音より音量が増幅している。これが風切り音の増幅である。最大5dB以上の増幅がみられ、聴感でも変化が大きかった。ヘルムホルツ共鳴体の開口部で、風によって広い周波数スペクトルにわたるホワイトノイズ状の風切り音がまず生じる。その風切り音の中で、ヘルムホルツ共鳴体の共鳴周波数付近の音が、ヘルムホルツ共鳴体によって増幅されて再放射される。これによって、共鳴ピーク付近で大きな風切り音が生じている。
このように、ヘルムホルツ共鳴体では風があると大きな風切り音を共鳴周波数を中心にして生じる一方で、膜型共鳴構造体では風切り音が生じないというメリットがあることがわかる。よって、ファンの風、あるいは、電動車の走行による風がある中で消音のために共鳴体を用いる場合には、膜型共鳴構造体を用いることで、大きな風切り音を発することなく、所望のピーク周波数の音を消音することができることがわかる。
実施例5では、広帯域な消音特性を有する多孔質吸音体と、ピーク音に対する強い消音効果を有する膜型共鳴構造体を組み合わせた場合について検討した。
膜型共鳴構造体の膜面に、比較例1で用いたシンサレート(PPS-200)を重ねた構成とした以外は、実施例1と同様にして電動車用消音部材を作製し、実施例1と同様の評価を行った。その際、シンサレートが膜振動を押さえこまないように、シンサレートを膜型共鳴構造体の外枠のみにテープで接着した。
結果を図34に示す。なお、図34に示す消音量は、リファレンスを比較例1(シンサレートを配置した構成)として求めた。
このように、膜型共鳴構造体と多孔質吸音体とを積層させることで、ピーク消音と広帯域消音が全体域に渡って実現できることがわかる。
以上より本発明の効果は明らかである。
16、16a~16f 膜状部材
17 貫通孔
18、30a~30d 枠体
19 開口面
20 開口部
22 背面板
24、24a~24c 背面空間
26、26a、26b 多孔質吸音体
50 電動車用消音部材
100 電動車
102 電動車用モーター
104 モーターコンパートメント
106 ボンネット
108 車室
110 タイヤ
112 インバーター
114 スペーサー
Claims (14)
- 電動車用消音部材であって、
電動車内に配置された音源から発生する音を消音する膜型共鳴構造体を有し、
前記音源は、狭帯域な音を発生するものであり、
前記膜型共鳴構造体は、前記音源と同じ空間内、もしくは、前記電動車の車室内に配置されており、
前記膜型共鳴構造体は、少なくとも1枚の膜状部材と、前記膜状部材を振動可能に支持する枠体と、前記膜状部材に対面して前記枠体に設置される背面板と、を有し、
前記膜状部材、前記枠体、および、前記背面板は、前記膜状部材、前記枠体、および、前記背面板に囲まれる背面空間を形成しており、
前記膜型共鳴構造体の前記膜状部材による膜振動によって、前記音源から発生する音を消音し、
前記膜状部材の膜振動の、少なくとも1つの高次振動モードの周波数における吸音率が、基本振動モードの周波数における吸音率よりも高い電動車用消音部材。 - 前記膜型共鳴構造体は、前記音源と同じ空間内に配置される請求項1に記載の電動車用消音部材。
- 前記音源が、電動車用モーター、前記電動車用モーター用インバーターおよびコンバーター、ならびに、前記電動車用モーターに電力を供給する電動車用バッテリー用のインバーターおよびコンバーターの少なくとも1つである請求項1または2に記載の電動車用消音部材。
- 前記電動車は、前記電動車用モーターを配置するための空間を形成するモーターコンパートメントを有し、
前記膜型共鳴構造体が、前記モーターコンパートメント内に配置される請求項3に記載の電動車用消音部材。 - 前記膜状部材、および、前記枠体の少なくとも一方に貫通孔が形成されている請求項1~4のいずれか一項に記載の電動車用消音部材。
- 前記音源が発生する狭帯域な音のピーク周波数の波長をλとすると、
前記膜状部材の表面に垂直な方向において、前記背面空間の厚みが、λ/6以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の電動車用消音部材。 - 前記音源が発生する狭帯域な音のピーク周波数が1000Hz以上である請求項1~6のいずれか一項に記載の電動車用消音部材。
- 前記膜型共鳴構造体に取り付けられる多孔質吸音体を有する請求項1~7のいずれか一項に記載の電動車用消音部材。
- 前記膜型共鳴構造体が前記電動車のボンネットに取り付けられている請求項1~8のいずれか一項に記載の電動車用消音部材。
- 前記膜型共鳴構造体が前記電動車の電動車用モーターのカバー、および、前記電動車用モーター用インバーターのカバーの少なくとも一方に取り付けられている請求項3~8のいずれか一項に記載の電動車用消音部材。
- 前記枠体および前記背面板の少なくとも一方が前記電動車の部品と一体的に形成されている請求項1~10のいずれか一項に記載の電動車用消音部材。
- 前記背面板が、前記電動車のボンネットである請求項11に記載の電動車用消音部材。
- 前記枠体が前記電動車のボンネットと一体的に形成されている請求項11または12に記載の電動車用消音部材。
- 前記膜型共鳴構造体の平均厚みが10mm以下である請求項1~13のいずれか一項に記載の電動車用消音部材。
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