JP7127073B2 - 防音構造体 - Google Patents
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Description
電子機器等は、騒音の発生源となる電子回路、パワーエレクトロニクス、若しくは電気モーター等を有しており、電子回路、パワーエレクトロニクス及び電気モーター等(以下、音源ともいう)は、それぞれ固有の周波数で大きな音量の音を発生する。電気系の出力を大きくすると、この周波数の音量がさらに大きくなるため騒音として問題となる。
例えば、電気モーターの場合には、回転数に応じた周波数の騒音(電磁騒音)が生じる。インバーターの場合には、キャリア周波数に応じた騒音(スイッチングノイズ)が生じる。ファンの場合には、回転数に応じた周波数の騒音が生じる。これらの騒音は、近い周波数の音と比べて音量が大きくなる。
しかしながら、各種電子機器の音源は、それぞれ固有の周波数において大きな音量の音を発生する。特に、各種電子機器の高速化及び大出力化で、固有の周波数の音が非常に高くなり大きくなる。
例えば、特許文献1には、貫通孔が形成された枠体と、貫通孔の一方の開口を覆う吸音材を有し、吸音材の第一の貯蔵弾性率E1が9.7×106以上であり、第二の貯蔵弾性率E2が346以下である吸音体が記載されている。この吸音体は、音波が吸音体に入射されると、共振(膜振動)が生じることによって吸音するものである(特許文献1の段落[0009]、図1等)。
例えば、特許文献2には、振動板を含む第一の吸音部と、第一の吸音部を振動板要素とする第二の吸音部とを備えた吸音装置が記載されている。特許文献2に記載の吸音装置によれば、第一の吸音部と第二の吸音部とがそれぞれ特定の共振周波数を持つので広い周波数帯域の音を吸音することが可能である(特許文献2の請求項1、明細書第2頁の左段第2行目~第7行目等)。
より詳しく説明すると、膜の硬さ及び大きさ等を調整して膜振動を利用した吸音を行う場合、基本振動モードの膜振動が主として吸音に寄与する。このとき、基本振動モードの周波数が高くなるほど、音が膜面にて反射されるために膜振動による吸音率が小さくなることが判明した。
このため、特許文献1に記載の吸音体のように基本振動モードの膜振動を利用して吸音する場合には、膜の厚み等のパラメータを単に調整して膜振動の固有振動数を高くしただけでは、比較的高周波数の音に対して十分な吸音効果が得られないと考えられる。
したがって、膜の形状及び背面空間の大きさ等を適宜設定して基本振動モード及び高次振動モードの膜振動によって吸音すれば、高周波数の音であっても効率よく吸音することが可能になる。
一方、前述したように、電気モーター及びインバーターをはじめとする電気機器等では、互いに周波数が異なる複数の音が発生することがある。かかる場合、それぞれの周波数の音を基本振動モード及び高次振動モードの膜振動によって吸音する上で、各周波数が膜振動の振動モードにおける周波数(ピーク周波数)と一致していなければ、複数の周波数の音を同時に吸音することが難しくなる。しかしながら、対象とする騒音の発生源の振動モード(高次振動モード)及び騒音の周波数に、膜振動の振動モードにおける振動の周波数を複数の周波数において一致させることは、これまで困難であった。
前述した特許文献2に記載の吸音装置は、複数の周波数の音を同時に吸音し得るものではあるが、第二の吸音部が第一の吸音部を振動板要素として有する構造であり、主として基本振動モードでの膜振動によって吸音するものであるため、比較的低周波の音を吸音するものと考えられる。また、振動板要素に第一の吸音部を組み込むことで、第二の吸音部(振動板要素)の質量が重くなる。第二の吸音部の質量が重くなると、その吸音周波数が低周波側にシフトする。つまり、特許文献2に記載の吸音装置では、基本振動モードを利用する通常の吸音構造である第一の吸音部と、基本振動モードの吸音周波数よりもさらに低周波側にシフトさせた第二の吸音部と、を組み合わせて吸音を行うものと考えられる。このため、特許文献2に記載の吸音装置を単に利用したとしても、高周波数の音を吸音するというニーズには応えられないと考えられる。
また、1つの膜状部材のヤング率をEとし、1つの膜状部材の厚みをtとし、背面空間の厚みをdとし、1つの膜状部材が振動する領域の円相当直径をΦとすると、1つの膜状部材の硬さE×t3が、21.6×d-1.25×Φ4.15以下であることが好ましい。ここで、ヤング率Eの単位はPaであり、厚みtの単位はm(メートル)であり、背面空間の厚みdの単位はm(メートル)であり、円相当直径Φの単位はm(メートル)であり、膜状部材の硬さE×t3の単位はPa・m3である。
また、1つの膜状部材の硬さE×t3(Pa・m3)が、2.49×10-7以上であると好ましい。
また、支持体は、開口部を有する内側枠体を備え、1つの膜状部材が、内側枠体の端位置で開口部を囲んでいる開口面に固定されており、背面空間が、1つの膜状部材と内側枠体とに囲まれていることが好ましい。
また、防音構造体が吸音可能な周波数帯域は、複数存在し、防音構造体が吸音可能な複数の周波数帯域の中には、1つの膜状部材が高次振動モードにて膜振動したときの第一の吸音周波数帯域と、隣り合う2つの膜状部材が膜間空間を挟んで互いに逆位相となって膜振動したときの第二の吸音周波数帯域と、が含まれていることが好ましい。
支持体は、1つの膜状部材が固定された開口面とは反対側で内側枠体の開口部を塞ぐ底壁を有することが好ましい。
また、背面空間が閉じられた閉空間であることが好ましい。
また、支持体及び前記底壁の少なくとも一方に貫通孔が設けられていることが好ましい。
また、膜状部材が並ぶ方向における防音構造体の全長が10mm以下であることが好ましい。
また、背面空間と膜間空間を合計した合計厚みが10mm以下であることが好ましい。
また、膜状部材の厚みが100μm以下であることが好ましい。
また、複数の膜状部材のうち、少なくとも2つ以上の膜状部材の間において、膜部分の平均面密度が互いに異なっており、膜部分の平均面密度がより大きい膜状部材は、背面空間寄りにある支持体の一端の側に配置され、膜部分の平均面密度がより小さい膜状部材は、背面空間からより離れている支持体の他端の側に配置されていることが好ましい。
また、複数の膜状部材のうち、背面空間寄りにある支持体の一端から最も離れた位置にある膜状部材に貫通孔が形成されていることが好ましい。
また、背面空間及び膜間空間のうちの少なくとも一方の空間中、少なくとも一部に配置された多孔質吸音体を更に有することが好ましい。
また、前記複数の膜状部材のうち、背面空間寄りにある支持体の一端から最も離れた位置にある膜状部材は、防音構造体の背面空間からより離れている方の端をなしていることが好ましい。
また、支持体は、筒状の外側枠体を備えており、隣り合う2つの膜状部材は、外側枠体を介して互いに対向していることが好ましい。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明は、そのような実施態様に限定されるものではない。すなわち、以下では、本発明の防音構造体についての種々の実施形態を挙げて説明するが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、また、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良又は変更をしてもよいのは勿論である。
また、本明細書において、例えば、「45°」、「平行」、「垂直」あるいは「直交」等の角度は、特に断る場合を除き、厳密な角度との差異が5度未満の範囲内であることを意味する。厳密な角度との差異は、4度未満であることが好ましく、3度未満であることがより好ましい。
また、本明細書において、「同じ」、「同一」及び「一致」は、本発明が属する技術分野において一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。
また、本明細書において、「全部」、「いずれも」又は「全面」などというとき、100%である場合のほか、本発明が属する技術分野において一般的に許容される誤差範囲を含み、例えば99%以上、95%以上、又は90%以上である場合を含むものとする。
また、後述する支持体の内側端は、本発明の「支持体の一端」に相当し、外側端は、本発明の「支持体の他端」に相当する。
本発明の防音構造体は、複数の膜状部材と、複数の膜状部材をそれぞれ支持する支持体と、を有する。また、本発明の防音構造体は、複数の膜状部材のうち、隣り合う2つの膜状部材の間に挟まれている膜間空間と、複数の膜状部材のうち、支持体内において支持体の内側端にある1つの膜状部材と支持体の内側端との間に形成された背面空間と、を有する。そして、本発明の防音構造体は、支持体の内側端が閉じられた状態で複数の膜状部材がそれぞれ膜振動することで吸音するものである。
電子機器としては、空調機(エアコン)、エアコン室外機、給湯器、換気扇、冷蔵庫、掃除機、空気清浄機、扇風機、食洗機、電子レンジ、洗濯機、テレビ、携帯電話、スマートフォン、プリンター等の家庭用電気機器;複写機、プロジェクター、デスクトップPC(パーソナルコンピューター)、ノートPC、モニター、シュレッダー等のオフィス機器、サーバー、スーパーコンピューター等の大電力を使用するコンピューター機器、恒温槽、環境試験機、乾燥機、超音波洗浄機、遠心分離機、洗浄機、スピンコーター、バーコーター、及び搬送機等の科学実験機器が挙げられる。
輸送機器としては、自動車、バイク、電車、飛行機、船舶、自転車(特に電気自転車)、及びパーソナルモビリティー等が挙げられる。
移動体としては、民生用ロボット(掃除用途、愛玩用途又は案内用途などのコミュニケーション用途、自動車椅子等の移動補助用途など)、及び工業用ロボット等が挙げられる。
また、使用者への通知又は警告を発する意味で、特定の少なくとも1つ以上の単周波音を通知音、警告音として発するように設定された機器にも用いることができる。
また、金属体及び機械がそのサイズに応じた周波数にて共振振動したとき、それに起因して比較的大きな音量で発せられる少なくとも1つ以上の単周波音が騒音として問題となるが、このような騒音に対しても本発明の防音構造体は適用可能である。
また、上述した機器が入っている部屋、工場、及び、車庫等にも本発明の防音構造体が適用可能である。
音源が、インバーター等の電子部品の場合には、キャリア周波数に応じた音(スイッチングノイズ)を発生する。
音源が、電気モーターの場合には、回転数に応じた周波数の音(電磁騒音)を発生する。
音源が、金属体の場合には、共振振動モード(1次共鳴モード)に応じた周波数の音(単周波数騒音)を発生する。
すなわち、音源はそれぞれ、音源に固有の周波数の音を発生する。
また、インバーター等の交流電気信号を受ける部分は、その交流の周波数に対応する音を発振する場合が多い。また、金属棒等の金属体では、そのサイズに応じた共振振動が生じ、その結果として単一周波数の音が強く発せられる。よって、回転系、交流回路系及び金属体は、音源に固有の周波数を有する音源といえる。
より一般的なこととして、音源が固有の周波数を有するかは下記のような実験を行うことができる。
音源を無響室若しくは半無響室内、あるいはウレタン等の吸音体で囲んだ状況に配置する。周辺を吸音体とすることで、部屋及び測定系の反射干渉による影響を排除する。その上で、音源を鳴らし、離れた位置からマイクで測定を行って、周波数情報を取得する。音源と測定系のサイズによりマイクとの距離は適宜選択できるが、30cm程度以上離れて測定することが望ましい。
音源の周波数情報において、極大値をピークと呼び、その周波数をピーク周波数と呼ぶ。その極大値が周辺の周波数での音と比較して3dB以上大きい場合には、そのピーク周波数音が十分に人間に認識できるため、固有の周波数を有する音源といえる。5dB以上であればより認識でき、10dB以上であればさらに認識できる。周辺の周波数との比較は、信号のノイズ及び揺らぎを除いて極小となるなかで最も近い周波数における極小値と、極大値の差分で評価する。
また、自然界に環境音として頻繁に存在するホワイトノイズ及びピンクノイズに対して、特定の周波数成分のみの音がより強く発せられる狭周波数帯の騒音は、人間が検知し易く、不快な印象を与えるものとされるため、そのような音を除去することは重要となる。
他にもタイヤ内部の空間、及び、スポーツ用途ボールの内部の空洞などによって共鳴が生じることで、振動が加えられたときに空洞共鳴及びその高次モードに対応する音が大きく発振して生じる場合もある。
本発明の構造は、騒音を発する電子部品あるいはモーターに直接取り付けることで用いることができる。また、ダクト部及びスリーブなどの通風部に配置して透過音の消音に用いることもできる。また、開口のある箱体(各種電子機器を入れる箱、若しくは部屋など)の壁部に取り付けて、箱体から放射して出てくる騒音に対する消音構造として用いることもできる。また、部屋の壁に取り付けて部屋内部の騒音を抑制するなどに用いることもできる。これに限定されずに用いることももちろん可能である。
本発明の防音構造体の一例について、図1、図2及び図3を参照しながら説明する。
図1は、本発明の防音構造体の一例(以下、防音構造体10)を示す模式的な斜視図である。図2は、防音構造体10の分解斜視図である。図3は、図1に図示した防音構造体10のI-I線断面図である。
防音構造体10は、図1~図3に示すように、複数の膜状部材12と支持体16とを有する。複数の膜状部材12は、隣り合う膜状部材同士が互いに離間した状態で、各膜状部材の表面の法線方向が揃うように重ねられている。ここで、「重ねる」とは、複数の膜状部材12をそれぞれの表面の法線方向から見たときに、複数の膜状部材12のうちの一つと残りの膜状部材との間に重なり領域が存在している状態を意味する。言い換えれば、積層した複数の膜状部材12の各々をある平面(仮想平面)に対して投影したときに、その平面上において各膜状部材が部分的又は全体的に一致しているとき、複数の膜状部材12が重なっていることになる。
また、図1~図3に図示の防音構造体10において、複数の膜状部材12は、2つの膜状部材からなる。以下では、より内側に位置する膜状部材を内側膜14と呼ぶこととし、より外側に位置する膜状部材を外側膜15と呼ぶこととする。ここで、内側膜14は、本発明の「1つの膜状部材」に該当する。また、内側膜14及び外側膜15は、本発明の「隣接する2つの膜状部材」に該当する。
内側膜14及び外側膜15は、図2に示すように外形が円形となった薄膜体によって構成されている。
なお、複数の膜状部材12を構成する膜の数は、2つに限定されるものではなく、3つ以上であってもよい。また、各膜状部材の形状(具体的には、膜状部分のうち、膜振動する膜部分12aの形状)は、特に制限的ではなく、例えば、正方形、長方形、ひし形、又は平行四辺形等の他の四角形、正三角形、二等辺三角形、又は直角三角形等の三角形、正五角形、又は正六角形等の正多角形を含む多角形、若しくは楕円形等であってもよいし、不定形であってもよい。
なお、剛体には、それに類似する剛性体が含まれる。つまり、内側膜14及び外側膜15に対して硬さが十分に大きいために吸音時には内側膜14及び外側膜15の各々の膜振動と比較して揺れ幅が小さく実質的に揺れを無視できる剛性体を枠体として用いてもよい。具体的には、吸音時における枠体の変位量が、振動時における内側膜14及び外側膜15の各々の振幅の約1/100を下回れば、そのような枠体は、実質上剛体とみなし得る。ここで、変位量は、対象部材のヤング率(縦弾性係数)及び断面二次モーメントの積に反比例し、断面二次モーメントは、対象部材の厚みの三乗値と対象部材の幅との積に比例する。つまり、ヤング率(単位はGpa)をEとし、厚み(単位はm)をhとし、横幅(単位はm)をwとし、下記式(1)によって値Iを算出したとき、枠体について算出した値Iが、内側膜14及び外側膜15の各々について算出した値Iの約100倍を超えた場合に、その枠体は、実質上剛体としてみなし得ることになる。
I=E×w×h3 (1)
内側膜14及び外側膜15の縁部は、固定端部であり、剛体である枠体に固定されているために振動しないことになる。縁部が振動しない(静止している)かどうかは、レーザー干渉を用いた測定によって確認することができ、あるいは、膜面上に白色の塩又は微粒子を撒いて内側膜14及び外側膜15を膜振動させた際に内側膜14及び外側膜15の縁部で塩又は微粒子が静置していることを観測することで視覚的に確認することができる。
また、支持体16は、内側膜14が固定された開口面21とは反対側で内側枠体18の開口部20を塞ぐ底壁22を備えている。内側枠体18及び底壁22は、それぞれ別体であり、一体化のために接合されたものであってもよく、あるいは同一部品によって構成されており当初から一体化されたものであってもよい。また、底壁22は、板状部材によって構成されてもよく、あるいはフィルムのような薄厚の部材によって構成されてもよい。
外側枠体19の、内側枠体18とは反対側に位置する開口面21には、外側膜15の縁部(外縁部)が固定されている。これにより、外側膜15は、その膜部分12aが膜振動可能な状態で外側枠体19に支持されることとなる。また、外側膜15は、図1に示すように、防音構造体10の外側の端(換言すると、後述する背面空間24からより離れている方の端)をなしており、音源に対して露出している。このように外側膜15が防音構造体10の外側の端をなしていれば、本発明の効果を発揮させつつ、厚み方向において防音構造体10のサイズをよりコンパクト化することが可能となる。
さらに、図3に示すように、内側膜14と底壁22との間(換言すると、内側膜14と支持体16の内側端との間)には、背面空間24が形成されている。背面空間24は、内側膜14と内側枠体18と底壁22とによって囲まれた空間であり、図3に図示の例では、閉じられた閉空間となっている。
なお、支持体16の端と背面空間24との位置関係について説明しておくと、図3から分かるように、支持体16の内側端は、厚み方向において背面空間24寄りにある端(一端)に相当し、支持体16の外側端は、背面空間からより離れている端(他端)に相当する。
ここで、第一の吸音部とは、内側膜14、内側枠体18及び背面空間24によって構成された吸音部である。第一の吸音部は、背面空間24が閉空間となった構成(つまり、支持体16の内側端が閉じた構成)の下で内側膜14が高次振動モードにて振動することにより、比較的高周波数(例えば、3kHz~5kHz)の音を吸音する。つまり、第一の吸音周波数帯域は、高次振動モードでの内側膜14の膜振動を主因とする吸音周波数帯域に相当する。
なお、付言しておくと、第一の吸音周波数帯域は、内側膜14及び外側膜15(すなわち、互いに隣り合う2つの膜状部材)が同一方向に振動したときの吸音周波数帯域と一致する。なお、内側膜14及び外側膜15の各々の振動方向については、ハイスピードカメラにて膜振動の様子を撮影することで直接観察することができ、あるいは、シミュレーションにて膜振動の方向を計算によって可視化することも可能である。
以下、各吸音部について詳しく説明する。
第一の吸音部は、第一の吸音周波数帯域(例えば3kHz~5kHz付近)の音を選択的に吸音する。第一の吸音部では、背面空間24が閉空間となった構成の下で内側膜14が膜振動することになっている。比較的高周波側で吸音するためには、そのときの膜振動の、1kHz以上に存在する少なくとも1つの高次振動モードの周波数における吸音率が、基本振動モードの周波数における吸音率よりも高くなっていることが望ましい。このような構成に至った経緯を以下に詳述する。
消音手段として一般的に用いられる多孔質吸音体は、広い周波数で消音する。その反面、多孔質吸音体を用いた消音手段では、音源に固有の周波数の騒音を十分に消音できずに他の周波数よりも相対的に聞こえ易くなってしまうという問題があった。また、多孔質吸音体を用いてより大きな音を小さくするためには、多量の多孔質吸音体を用いる必要があり、小型軽量化するのが難しくなるという問題があった。
ここで、各種電子機器の更なる高速化及び大出力化に伴い、上述した電子回路及び電気モーター等が発生する騒音の周波数は、より高い周波数となっている。膜振動を利用する消音手段で高周波数の音を消音する場合には、膜状部材の硬さ及び大きさ等を調整して膜振動の固有振動数を高くすることが考えられる。
具体的には、高周波数の音を吸音するためには、膜振動の固有振動数を高くする必要がある。ここで、従来の膜振動を利用する消音手段においては、主に基本振動モードの膜振動を利用して吸音するものであった。基本振動モードの膜振動を利用する場合には、膜状部材をより硬くして基本振動モードにおける周波数(第一次固有振動数)を高くする必要がある。
しかしながら、本発明者らの検討によれば、膜状部材を硬くし過ぎると膜面にて音が反射され易くなってしまう。そのため、図4に示すように、基本振動モードの周波数が高くなるほど、膜振動による音の吸収(吸音率)が小さくなってしまう。
したがって、特許文献1に記載の吸音体をはじめ、従来の設計理論に基づいた基本振動モードを用いた膜振動を利用した消音手段では、高周波で大きな吸音が難しいことが明らかになった。この特性は、高周波特定音の消音に用いるには不向きな特性である。
つまり、第一の吸音部は、高次振動モードの周波数、すなわち、第二次、及び第三次固有振動数等の高次の固有振動数における吸音率を高くして、高次振動モードの膜振動によって吸音する構成となっている。これにより、第一の吸音部では、内側膜14を硬く(又は厚く)する必要がなく、音が膜面にて反射されるのを抑制でき、高周波数の音に対しても高い吸音効果を得ることができる。
また、単層膜構造である第一の吸音部は、膜振動を利用して吸音するものであるため、小型軽量なものでありながらも、特定の周波数の音を好適に消音できる。
内側膜14に相当する膜状部材(以下、単に「膜状部材」ともいう)の厚み、硬さ、大きさ及び固定方法等によって決定される基本振動モードと高次振動モードの周波数帯域があり、どのモードによる周波数が強く励起されて吸音に寄与するかが背面空間の厚み等によって決定される。これを以下に説明する。
数式で表現すると、膜状部材の音響インピーダンスをZmとし、背面空間の音響インピーダンスをZbとすると、合計の音響インピーダンスZt=Zm+Zbとして記述される。この合計の音響インピーダンスが媒質の流体(空気など)の音響インピーダンスに一致するときに共鳴現象が生じる。ここで、膜状部材の音響インピーダンスZmについては、膜状部材の仕様によって決定され、例えば基本振動モードについては膜状部材の質量による運動方程式に従う成分(質量則)と、膜状部材が固定されていることによってばねのような引っ張りに支配される成分(剛性則)が一致した時に共鳴が生じる。高次振動モードも同様に、基本振動より複雑な膜振動の形状による共鳴である。
膜状部材の厚みが大きいなど、膜状部材に高次振動モードが発生し難い場合は、基本振動モードとなる帯域は広くなる。しかし、膜状部材が硬く反射され易いために吸音が小さくなることは、上述のとおりである。膜状部材の厚みを薄くするなど、膜状部材にとって高次振動モードが発生し易い条件とすると、基本振動モードが発生する周波数帯域幅が小さくなり、高次振動モードが高周波域に存在する状態となる。
これらをまとめると、膜状部材の仕様によってどの周波数領域で基本振動となり、別の帯域では高次振動となるかが決まる。そして、背面空間によってどの周波数帯の音を励起し易いかが決まるためにそれを高次振動に対応する周波数とすることで、高次振動モードに起因する吸音率を大きくすることができるというのが、第一の吸音部の吸音メカニズムである。
よって、高次振動モードを励起するように膜状部材及び背面空間をともに決定する必要がある。
防音構造体10の計算モデルに関して説明すると、枠体を円筒形状とし、開口部の直径を20mmとし、膜状部材を厚み50μmとし、膜状部材のヤング率をPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムのヤング率である4.5GPaとした。なお、計算モデルは二次元軸対称構造計算モデルとした。
結果を図5に示す。図5は、各計算モデルにおいて吸音率が最大となる周波数(以下、ピーク周波数という)と、このピーク周波数における吸音率とをプロットしたグラフである。なお、図中、最も左にあるプロットは、背面空間の厚みが10mmであるときの計算値を示し、プロットが右に向かうほど背面空間の厚みが0.5mmずつ減少し、最も右にあるプロットは、背面空間の厚みが0.5mmであるときの計算値を示している。
図5に示すように、高周波数の音に対しても高い吸収率が得られることが分かった。
図6に、各計算モデルのピーク周波数と背面空間の厚みとの関係を両対数でプロットし、振動モードの次数ごとにラインを引いたグラフを示す。また、図7及び図8には、背面空間の厚みが7mm、5mm、3mm、2mm、1mm、及び0.5mmの場合の各計算モデルにおける周波数と吸音率との関係を表すグラフを示す。
また、膜厚が薄い構成は、膜状部材の硬さが小さい系となる。こうした系では、高周波の音に対する反射が小さくなる結果、大きな吸音率が得られるようになると考えられる。
また、図7及び図8から、背面空間の厚みが薄いほど基本振動モードにおける周波数での吸音率が低くなり、高次の振動モードにおける周波数での吸音率が高くなっていることが分かる。
また、図8の背面空間の厚みが0.5mmである場合では、9kHz以上の非常に高い周波数領域でほぼ100%という大きな吸音率が得られることが分かる。
また、図7及び図8から、高次振動モードは複数存在し、それぞれの周波数において高い吸音ピーク(吸音率の極大値)を示すことが分かる。さらに、図7及び図8に図示のケースでは、高い吸音ピークが重なる結果、比較的広帯域に亘って吸音効果が得られる。
振動モードが基本振動モードであるか高次振動モードであるかは、膜状部材の状態から判別することができる。基本振動モードにおける膜振動では、膜状部材の重心部が最も大きな振幅を持ち、周辺の固定端部(縁部)付近の振幅が小さい。また、膜状部材は全ての領域において同じ方向に速度を持つ。一方、高次振動モードにおける膜振動では、膜状部材は、位置によって逆方向に速度を持つ部分が存在する。
また、基本振動モードは、固定されている膜状部材の縁部が振動の節となり、膜部分12a上には節が存在しない。一方、高次振動モードでは上記の定義により縁部(固定端部)のほかに膜部分12a上にも振動の節となる部分が存在するため、下記に示した手法で実際に計測することができる。
振動モードの解析は、レーザー干渉を用いて膜振動を測定することで、振動モードの直接観測が可能である。若しくは、膜面状に白色の塩又は微粒子を撒いて振動させることで節の位置が可視化されるので、この手法を用いても直接観測が可能である。このモードの可視化はクラドニ図形として知られている。
また、円形膜あるいは矩形膜については、各振動モードにおける周波数を解析的に求めることもできる。さらに、有限要素法計算などの数値計算法を用いれば、任意の膜の形状について各振動モードにおける周波数を求めることができる。
音響管の直径を細くするほど高周波まで測定することが可能である。今回は高周波まで吸音率特性を測定する必要があるために、直径20mmの音響管を選択する。
なお、背面空間24の厚みが一様でない場合には、平均値が上記範囲であればよい。
内側膜14のヤング率は、1000Pa~1000GPaであることが好ましく、10000Pa~500GPaであることがより好ましく、1MPa~300GPaであることが最も好ましい。
内側膜14の密度は、10kg/m3~30000kg/m3であることが好ましく、100kg/m3~20000kg/m3であることがより好ましく、500kg/m3~10000kg/m3であることが最も好ましい。
なお、以下の説明において、基本振動モードの周波数における吸音率よりも吸音率が高い高次振動モードを単に「高次振動モード」とも言い、その周波数を単に「高次振動モードの周波数」とも言う。
複数の高次振動モードの周波数で吸音率が20%以上とすることで、複数の周波数で吸音することができる。
さらに、吸音率が20%以上となる高次振動モードが連続して存在する場合に、これら高次振動モードの周波数の間の帯域全域で吸音率が20%以上となるのが好ましい。
これによって、広帯域に吸音効果を得ることができる。
第二の吸音部は、内側膜14及び外側膜15の双方が膜間空間26を挟んで互いに逆位相となって膜振動することにより、膜間空間26(膜間音場)と膜振動との相互作用が得られる結果、第一の吸音周波数帯域よりも高い周波数帯域で吸音する。
また、第一の吸音周波数帯域の音が入射された場合には、上記の吸音が行われる結果、図9に示すように、防音構造体10の内部において最も内側(背面側)の領域で音圧が最大となる。
以上のような膜振動が生じることで、図11に示すように、膜間空間26内を流れる空気伝播音の速度ベクトルの、厚み方向における成分が、互いに打ち消され、厚み方向の直交方向における成分のみが残るようになる。これにより、膜間空間26内に空気伝播音が留まり、結果として、図10に示すように、防音構造体10の内部空間中、膜間空間26で音圧が最大となる。
なお、図10に図示の膜振動は、内側膜14と外側膜15とを積層して背面空間24とともに膜間空間26を設けることで初めて現れる。
図9、図10及び図11は、いずれも、有限要素法計算ソフトCOMSOL ver.5.3(COMSOL Inc.)の音響モジュールを用いてシミュレーションを行った結果を示している。具体的には、内側膜14及び外側膜15がいずれも円形状であり、かつ背面空間24が閉空間となった太鼓状構造を前提として、音響と構造の連成解析計算を行った。このとき、内側膜14及び外側膜15に関しては構造力学計算を行い、背面空間24及び膜間空間26に関しては音の空気伝播を計算し、これらの音響計算と構造計算を強連成で結び付ける形でシミュレーションを行った。なお、計算モデルは二次元軸対称構造計算モデルとした。ちなみに、図9及び図10は、構造全体の断面図を示しているが、図11は、左側端が側壁、右側端が円筒対称の対称軸となり、すなわち構造全体の半分のサイズに対応する断面図を示している。
また、防音構造体10の計算モデルに関して説明すると、内側枠体18及び外側枠体19を円筒形状とし、開口部20の直径を20mmとした。また、内側膜14及び外側膜15の各々について、厚み50μmとし、ヤング率をPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムのヤング率である4.5GPaとした。また、背面空間24及び膜間空間26の各々の厚みを2mmとした。
評価は、垂直入射吸音率測定配置によって行い、吸音率の最大値とその時の周波数を計算によって求めた。
さらに、本発明の防音構造体10は、第一の吸音部に重ねられた第二の吸音部において内側膜14及び外側膜15が互いに逆位相となって膜振動して膜間空間26内に空気伝播音を閉じ込める結果、より高周波の音(例えば、9kHz)を吸音することができる。これにより、本発明の防音構造体10は、高周波である第一の吸音周波数帯域、及び、より高周波である第二の周波数帯域の双方において同時に吸音することができるため、より広帯域に亘って吸音することが可能である。かかる点を含め、以下、本発明の防音構造体10の有効性について、図12~図14を参照しながら詳しく説明する。
図12及び図13は、第一の吸音部のみを備える防音構造体(すなわち、膜間空間26を備えず単層膜構造のみからなる防音構造体であり、以下、「参考例に係る防音構造体」という)における周波数と吸音率との関係を示すグラフである。図14は、本発明の一例に係る防音構造体10における周波数と吸音率との関係を示すグラフである。
図12~図14の各図に示すグラフは、前述の音響管測定法に則り、音響管端部に防音構造体を膜面が表側(音響入射側)に向いた状態で配置して、垂直入射吸音率及びその周波数を測定することで得られる。
本発明の一例に係る防音構造体10は、二層膜構造であり、厚み方向の内側から順に底壁22、内側枠体18、内側膜14、外側枠体19及び外側膜15が配設されている。内側枠体18及び外側枠体19は、円筒形状のアクリル板からなり、各々の開口部20の直径は、20mmであり、内側膜14及び外側膜15は、厚み50μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムである。底壁22は、内側枠体18の開口部20の内側端を塞ぐ板部材によって構成されている。つまり、本発明の一例に係る防音構造体10では、背面空間24が閉空間となっている。また、本発明の一例に係る防音構造体10では、背面空間24及び膜間空間26の各々の厚みが2mmとなっている。
一方、前述した特許文献2の吸音装置(特に、特許文献2の図3に図示の吸音装置)は、第一の吸音部が振動板を背面で支持した第一の弾性体を有し、第二の吸音部が第二の弾性体を前面で支持した振動板と、この振動板を背面から支持した第二の弾性体とを備えている。第一の吸音部では、振動板が基本振動モードにて振動する。また、振動板要素に第一の吸音部を組み込むことで、第二の吸音部(振動板要素)の質量が重くなる。第二の吸音部の質量が重くなると、その吸音周波数が低周波側にシフトする。つまり、特許文献2に記載の吸音装置では、基本振動モードを利用する通常の吸音構造である第一の吸音部と、基本振動モードの吸音周波数よりもさらに低周波側にシフトさせた第二の吸音部と、を組み合わせて吸音を行い、比較的低周波数の音を吸収することになる。
これに対して、本発明の防音構造体10では、内側膜14及び外側膜15を支持する枠体が剛体となっており、上述のように、より高周波数の音を効果的に吸音可能である。かかる点において、本発明の防音構造体10は、特許文献2の吸音装置と比べて優位性を有することになる。
なお、特許文献2の吸音装置に対する本発明の防音構造体10の優位性に関する根拠については、後述する「シミュレーション2」の項にて改めて説明するが、シミュレーションにより、ゴムのような弾性体によって枠体を構成した場合、剛体によって枠体を構成した場合に比べて高周波帯域での吸音率が低くなることが明らかとなった。このことからも、本発明の防音構造体10が、特許文献2の吸音装置では十分に吸音し得ない高周波数の音を効果的に吸音できることが伺える。
これに対して、本発明の防音構造体10であれば、上述のように各吸音周波数帯域で吸音ピークの周波数を適宜変更することができるため、金属棒由来の単純騒音を吸音するのに好適なピーク周波数を設定することで、膜型共鳴体であっても適切に整数倍で現れるピーク騒音を吸音することが可能となる。
なお、膜間空間26の厚みが一様でない場合には、平均値が上記範囲であればよい。
また、内側膜14と外側膜15との間で膜部分12aの平均面密度が異なる場合には、内側膜14の膜部分12aの平均面密度がより大きく、外側膜15の膜部分12aの平均面密度がより小さくなっているのが望ましい。
また、外側膜15での音の反射率が大きくなってしまうと、音が内側膜14まで届かずに外側膜15にて反射する(つまり、内側膜14が膜振動できない)ことになってしまう。このため、内側膜14及び外側膜15の間で特性が異なる場合には、音がより透過し易い特性を有する膜状部材を外側膜15として用いるのが望ましい。すなわち、外側膜15として用いる膜状部材については、内側膜14として用いる膜状部材と比較して、より薄いもの、ヤング率及び密度がより小さいもの、若しくは膜部分12aのサイズがより大きいものを用いるのが好ましい。
なお、本発明において可聴域とは、20Hz~20000Hzである。
なお、防音構造体10の全長の下限値については、内側膜14及び外側膜15を適切に支持し得る以上、特に限定されるものではないが、0.1mm以上であるのが好ましく、0.3mm以上であるのがさらに好ましい。
その結果、1つの膜状部材(例えば、内側膜14)のヤング率をE(Pa)とし、1つの膜状部材の厚みをt(m)とし、背面空間の厚み(背面距離)をd(m)とし、1つの膜状部材が振動する領域の円相当直径、すなわち、膜状部材が枠体(例えば、内側枠体18)に固定されている場合には枠体の開口部の円総長直径をΦ(m)とすると、1つの膜状部材の硬さE×t3(Pa・m3)を、21.6×d-1.25×Φ4.15以下とすることが好ましいことが分かった。さらに、係数aを用いて、a×d-1.25×Φ4.15と表すと、係数aが、11.1以下、8.4以下、7.4以下、6.3以下、5.0以下、4.2以下、3.2以下と係数aが小さくなるほど好ましいことが分かった。
また、1つの膜状部材の硬さE×t3(Pa・m3)は、2.49×10-7以上であることが好ましく、7.03×10-7以上であることがより好ましく、4.98×10-6以上であることがさらに好ましく、1.11×10-5以上であることがよりさらに好ましく、3.52×10-5以上であることが特に好ましく、1.40×10-4以上であることが最も好ましいことがわかった。
1つの膜状部材(以下、単に膜状部材という)の硬さを上記範囲とすることで、防音構造体10において高次振動モードを好適に励起することができる。この点について、以下詳細に説明する。
膜状部材の硬さは、(膜状部材のヤング率)×(膜状部材の厚み)3で表される物性である。また、膜状部材の重さは、(膜状部材の密度)×(膜状部材の厚み)に比例する物性である。
ここで、膜状部材の硬さは、ゼロテンションとした場合、すなわち、伸ばされることなく、例えば、膜状部材を台にただ乗せた状態で枠体に取り付けた場合に当てはまる。張力をかけながら膜状部材を枠体に取り付けた場合は、上記の膜状部材のヤング率に対して張力込の補正をすれば同様に扱うことができる。
膜状部材の厚みヤング率及び密度は、厚み50μm、ヤング率4.5GPa、密度1.4g/cm3(PET膜に相当)を基準として膜状部材の厚みに合わせて変更した。枠体の開口部の直径は20mmとした。
図32には、背面距離が2mmの場合の結果を示し、図33には、背面距離が5mmの場合の結果を示す。
また、その左側、すなわち膜状部材のヤング率が小さい側で吸音率が高くなっている帯状の領域は、二次振動モードに起因する吸音が生じたものである。さらに、その左側で吸音率が高くなっている帯状の領域は、三次振動モードに起因する吸音が生じたものである。さらに、左側に行くにしたがって、すなわち膜状部材が柔らかくなるにしたがって、高次の振動モードに起因する吸音が生じている。
図34から、膜状部材のヤング率が高い、すなわち膜状部材が硬いと、基本振動モードによる吸音が支配的になり、膜状部材が柔らかくなるほど高次振動モードによる吸音が支配的になることが分かる。
図35及び図36からも、膜状部材が硬いと、基本振動モードによる吸音が支配的になり、膜状部材が柔らかくなるほど高次振動モードによる吸音が支配的になることが分かる。
また、膜状部材の硬さが柔らかい側(100MPa~5GPaの範囲)では膜状部材の硬さが変わっても吸音周波数がほとんど変化せず、異なる次数の振動モードに切り替わることが分かる。よって、環境の変化等で膜の柔らかさが大きく変化しても吸音周波数をほぼ変化せずに用いることができる。
また、膜状部材が柔らかい領域ではピークの吸音率が小さくなることが分かる。これは、膜状部材の屈曲による吸音が小さくなり膜状部材のマス(重さ)のみが重要になってしまうためである。
さらに、図34~図36の対比から、背面距離が大きくなるほど、ピーク周波数が低くなることが分かる。すなわち、背面距離によってピーク周波数を調整できることが分かる。
さらに、背面距離4mm、5mm、6mm、8mm、12mmの場合についても、上記と同様にして膜状部材のヤング率を種々変更してシミュレーションを行い、吸音率を求めて、高次(二次)振動モードによる吸音率が基本振動モードによる吸音率よりも高くなるヤング率を読み取った。結果を図37及び表1に示す。
図37は、高次振動モードにおける吸音率が基本振動モードにおける吸音率よりも高くなる背面距離とヤング率の値をプロットしたグラフである。なお、背面距離が8mm、10mm、12mmの場合には、基本振動モードの吸音率は膜状部材のヤング率が低くなるにつれて下がるが、さらに低くなると吸音率が一旦高くなる領域が存在する。そのため、膜状部材のヤング率が低い領域で、高次振動モードにおける吸音率と基本振動モードにおける吸音率とが再逆転する領域が存在する。
高次振動吸音優位領域と基本振動吸音優位領域との境界線を近似式で表すと、y=86.733×x-1.25であった。
膜状部材のヤング率をE(Pa)とし、膜状部材の厚みをt(m)とし、背面空間の厚み(背面距離)をd(m)とすると、上記式は、E×t3(Pa・m3)≦1.926×10-6×d-1.25となる。
背面距離を3mmとし、枠体の開口部の直径を15mm、20mm、25mm、30mmとした場合それぞれで、上記と同様に膜状部材のヤング率を種々変更してシミュレーションを行い、吸音率を算出し、図34に示すようなグラフを求めた。求めたグラフから高次振動モードによる吸音率が基本振動モードによる吸音率よりも高くなるヤング率を読み取った。
ヤング率を膜状部材の硬さ(Pa・m3)に変換して、枠直径(m)と膜状部材の硬さのグラフに、高次振動モードにおける吸音率が基本振動モードにおける吸音率よりも高くなる点をプロットした。結果を図39に示す。図39において、プロットされた点を結ぶ線を近似式で表すと、y=31917×x4.15であった。
他の背面距離についても同様のシミュレーションを行って高次振動吸音優位領域と基本振動吸音優位領域との境界線を表す近似式を求めたところ、係数は異なるものの、変数xにかかる指数は、4.15で一定であった。
すなわち、膜状部材の硬さE×t3(Pa・m3)を21.6×d-1.25×Φ4.15以下とすることで、高次振動モードにおける吸音率が基本振動モードにおける吸音率よりも高くすることができる。
なお、枠直径Φは枠体の開口部の直径であり、すなわち、膜状部材が振動する領域の直径である。なお、開口部の形状が円形以外の場合には、円相当直径をΦとして用いればよい。
ここで、円相当直径とは、膜振動部領域の面積を求めて、それと等しい面積となる円の直径を算出することで求めることができる。
膜状部材の密度を2.8g/cm3とし、膜状部材の厚みを50μmとし、枠体の開口部の直径を20mmとし、背面距離を2mmとして、膜状部材のヤング率を100MPaから1000GPaまで変更してシミュレーションを行い、吸音率を求めた。結果を図41に示す。
図41と、膜状部材の密度のみが異なる図34との対比から、膜状部材の密度が大きくなることで、すなわち膜状部材の質量が大きくなることで、膜が柔らかい領域での周波数が低周波側にシフトしていることが分かる。なお、図34に示したシミュレーションの場合が3.4kHzであり、図41に示したシミュレーションの場合が4.9kHzである。
したがって、膜状部材の密度に対して吸音ピーク周波数は依存するが、基本振動モードにおける吸音率より高次振動モードにおける吸音率が大きくなるヤング率と背面距離との関係は、変わらないことが分かった。
以上から、上記で求めた関係式E×t3(Pa・m3)≦21.6×d-1.25×Φ4.15は、膜状部材の密度が変化しても適用できることが分かる。
ここでは、基本振動モード吸音と2次振動モード吸音の吸音率に関して、関係式E×t3≦21.6×d-1.25×Φ4.15という関係式を求めた。同様にして、右辺の係数を膜の硬さ(ヤング率×厚みの3乗)に対して求めることができる。すなわち、右辺の係数をaとして、E×t3=a×d-1.25×Φ4.15から、ある条件を満たすヤング率Eおよび膜の厚みtに対応する係数aは、a=(E×t3)/(d-1.25×Φ4.15)から求めることができる。
この係数aとヤング率との関係を背面距離2mm、背面距離3mmのそれぞれについて求めた。
吸音倍率とヤング率との関係を背面距離2mm、背面距離3mmのそれぞれについて求めた。
上記で求めた係数aとヤング率との関係と、ヤング率と吸音倍率との関係から、係数aと吸音倍率との関係を、背面距離2mm、背面距離3mmのそれぞれについて求めた。結果を図48に示す。
ここで、表3から分かるように、係数aは、11.1以下、8.4以下、7.4以下、6.3以下、5.0以下、4.2以下、3.2以下となることが好ましい。
また、別の観点で係数aが9.3以下の場合に、3次振動吸音が基本振動吸音率を上回る。よって、係数aが9.3以下であることも好ましい。
まず、上述した膜状部材の密度が1.4g/cm3の場合のシミュレーション結果において、図34等からヤング率が100MPaの場合の吸音ピーク周波数を読み取った。結果を図43に示す。図43は背面距離とヤング率100MPaでの吸音ピーク周波数との関係を表すグラフである。
ここで、膜のない単純な気柱共鳴管との比較を行う。例えば、背面距離2mmの防汚構造体を、気柱共鳴管の長さ2mmの場合の気柱共鳴と比較する。背面距離2mmの場合、気柱共鳴管での共鳴周波数は開口端補正を加えても10600Hz付近となる。なお、気柱共鳴の共鳴周波数も図43にプロットした。
一方で、膜を極端に柔らかくすると吸音率が低下する。これは、膜振動が高次に移り変わる中で膜振動の腹と節のピッチが細かくなっていき、振動による曲がりが小さくなることで吸音効果が小さくなっていることが原因である。
図44から、気柱共鳴管と比較して吸音ピーク周波数が小さくなるため、背面距離が小さいコンパクトな吸音構造を実現することができる。
また、図44に示すグラフから近似式を求めると、膜が柔らかい領域では、吸音ピーク周波数は背面距離の0.5乗によく比例することが分かる。
表4に、最大吸音率が40%、50%、70%、80%、90%を超えるヤング率と対応する膜の硬さ、さらに膜の最大吸音の振動モード次数が移り変わっても吸音率が90%を超えたままとなる硬さも示した。
表4から、膜状部材の硬さE×t3(Pa・m3)は、2.49×10-7以上であることが好ましく、7.03×10-7以上であることがより好ましく、4.98×10-6以上であることがさらに好ましく、1.11×10-5以上であることがよりさらに好ましく、3.52×10-5以上であることが特に好ましく、1.40×10-4以上であることが最も好ましいことが分かる。
<枠体材料及び壁材料>
内側枠体18及び外側枠体19の材料(以下、枠体材料)、及び、底壁22の材料(以下、壁材料)としては、金属材料、樹脂材料、強化プラスチック材料、及び、カーボンファイバ等を挙げることができる。金属材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、マグネシウム、タングステン、鉄、スチール、クロム、クロムモリブデン、ニクロムモリブデン、銅、及び、これらの合金等の金属材料を挙げることができる。また、樹脂材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリアミドイド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリイミド、ABS樹脂(アクリロニトリル (Acrylonitrile)、ブタジエン (Butadiene)、スチレン (Styrene)共重合合成樹脂)、ポリプロピレン、及び、トリアセチルセルロース等の樹脂材料を挙げることができる。また、強化プラスチック材料としては、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)、及び、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)を挙げることができる。また、天然ゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)及びシリコーンゴム等、並びに、これらの架橋構造体を含むゴム類を挙げることができる。
また、枠体材料及び壁材料として各種ハニカムコア材料を用いることもできる。ハニカムコア材料は軽量で高剛性材料として用いられているため、既製品の入手が容易である。アルミハニカムコア、FRPハニカムコア、ペーパーハニカムコア(新日本フエザーコア株式会社製、昭和飛行機工業株式会社製など)、熱可塑性樹脂(具体的には、PP(ポリプロピレン)、PET(ポリエチレンテレフタラート)、PE(ポリエチレン)、PC(ポリカーボネート)など)、ハニカムコア(岐阜プラスチック工業株式会社製TECCELL等)など様々な素材で形成されたハニカムコア材料を枠体材料及び壁材料として使用することが可能である。
また、枠材料としては、空気を含む構造体、すなわち発泡材料、中空材料及び多孔質材料等を用いることもできる。多数の膜型の防音構造体を用いる場合に各セル間で通気しないためには、例えば独立気泡の発泡材料などを用いて枠を形成することができる。例えば、独立気泡ポリウレタン、独立気泡ポリスチレン、独立気泡ポリプロピレン、独立気泡ポリエチレン、及び独立気泡ゴムスポンジなど様々な素材を選ぶことができる。独立気泡体は、連続気泡体と比較すると音、水及び気体等を通さず、また構造強度が大きいため、枠材料として用いるには適している。また、上述した多孔質吸音体が十分な支持性を有する場合は、枠体を多孔質吸音体のみで形成しても良く、多孔質吸音体及び枠体の材料として挙げたものを、例えば混合又は混錬等により組み合わせて用いても良い。このように内部に空気を含む材料系を用いることでデバイスを軽量化することができる。また、断熱性を付与することができる。
内側膜14及び外側膜15の材料(以下、膜材料)としては、アルミニウム、チタン、ニッケル、パーマロイ、42アロイ、コバール、ニクロム、銅、ベリリウム、リン青銅、黄銅、洋白、錫、亜鉛、鉄、タンタル、ニオブ、モリブデン、ジルコニウム、金、銀、白金、パラジウム、鋼鉄、タングステン、鉛、及び、イリジウム等の各種金属、あるいはPET(ポリエチレンテレフタレート)、TAC(トリアセチルセルロース)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、PE(ポリエチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PMP(ポリメチルペンテン)、COP(シクロオレフィンポリマー)、ゼオノア、ポリカーボネート、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PAR(ポリアリレート)、アラミド、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PES(ポリエーテルサルフォン)、ナイロン、PEs(ポリエステル)、COC(環状オレフィン・コポリマー)、ジアセチルセルロース、ニトロセルロース、セルロース誘導体、ポリアミド、ポリアミドイミド、POM(ポリオキシメチレン)、PEI(ポリエーテルイミド)、ポリロタキサン(スライドリングマテリアルなど)及びポリイミド等の樹脂材料等が利用可能である。さらに、薄膜ガラスなどのガラス材料、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)及びGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)のような繊維強化プラスチック材料を用いることもできる。また、天然ゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、及びシリコーンゴム等、並びに、これらの架橋構造体を含むゴム類を用いることができる。あるいは、これらを組合せた材料を膜材料として用いてもよい。
なお、熱、紫外線、及び外部振動等に対する耐久性が優れている観点から、耐久性を要求される用途においては金属材料を膜材料として用いるのが好ましい。また、金属材料を用いる場合には、錆びの抑制等の観点から、表面に金属めっきを施してもよい。
さらに、内側枠体18と外側枠体19、及び/又は膜状部材内側膜14と外側膜15に反射防止コートあるいは反射防止構造をつけても良い。例えば、誘電体多層膜による光学干渉を用いた反射防止コートを用いることができる。可視光を反射防止することで、内側枠体18と外側枠体19、及び/又は膜状部材内側膜14及び外側膜15の視認性をさらに下げて目立たなくすることができる。
このようにして透明な防音構造体を例えば窓部材に取り付けたり、代替品として用いたりすることができる。
さらに、枠体と膜状部材とで異質の部材を用いる場合には、環境温度における熱膨張係数(線熱膨張係数)が同程度であることが望ましい。枠体及び膜状部材との間で熱膨張係数が大きく異なると、環境温度が変化した場合に枠体と膜状部材の変位量が異なるため、膜に歪みが生じ易くなる。歪み及び張力変化は、膜の共鳴周波数に影響を与えるため、温度変化に伴って消音周波数が変化し易くなり、また温度が元の温度に戻っても歪みが緩和せずに消音周波数が変化したままになる場合がある。
これに対して、熱膨張係数が同程度である場合には、温度変化に対して枠体と膜状材料が同様に伸び縮みするために歪みが生じ難くなる結果、環境温度の変化に対して安定した消音特性を発現できる。
熱膨張係数の指標としては線膨張率が知られており、線膨張率は、例えばJIS K 7197等公知の方法で測定することができる。枠体と膜状材料との線膨張係数の差は、使用する環境温度域において9ppm/K以下であることが好ましく、5ppm/K以下であることがより好ましく、3ppm/K以下であることが特に好ましい。このような範囲から部材を選定することで、使用する環境温度で安定した消音特性を発現できる。
以上までに本発明の一例に係る防音構造体(すなわち、防音構造体10)の構成について説明してきたが、その内容は、あくまでも本発明の防音構造体の構成例の1つに過ぎず、他の構成も考えられる。以下では、本発明の防音構造体の変形例について説明する。
また、支持体16は、円筒状枠体に限定されず、平板(ベース板)からなるものであってもよい。かかる構成を採用する場合、内側膜14及び外側膜15のうちの少なくとも1つを湾曲させて端部を支持体16に固定すれば、湾曲させた方の膜状部材を膜振動可能に支持することが可能となる。
また、支持体16を構成する枠体については、円筒形状に限定されるものではなく、内側膜14及び外側膜15を振動可能に支持できるものである以上、種々の形状とすることが可能である。例えば、角筒形状(直方体の外形形状で開口部20が形成された形状)の枠体を用いてもよい。
また、上記のような構成により、特に膜状部材に開口を設けた場合には、防音構造体10における吸音ピークの周波数を変えることが可能となる。
具体的に説明すると、図15及び図16に図示した防音構造体10の構成のように内側膜14又は外側膜15に貫通孔28を設けると、ピーク周波数を調整することができる。より詳しく説明すると、内側膜14又は外側膜15の膜部分12aに貫通孔28を形成すると、当該膜部分12aの音響インピーダンスが変化する。また、貫通孔28によって膜状部材の質量が減少する。これらの事象に起因して膜状部材の共鳴周波数が変化するものと考えられ、結果としてピーク周波数が変化することになる。
なお、図15及び図16は、本発明の防音構造体10の変形例を示す図であり、図3に図示の断面と同位置の断面を示す模式図である。
また、膜部分12aの面積に対する貫通孔28の面積の割合は、50%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
図15に図示の構成を説明すると、外側膜15のみに貫通孔28が形成されている。そのため、内側膜14及び外側膜15の間で膜部分12aの平均面密度が互いに異なっている。具体的には、外側膜15では、貫通孔28が形成されている分、膜部分12aの平均面密度が内側膜14よりも小さくなっている。ここで、膜部分12aの平均面密度は、膜部分12aの質量をその外縁によって囲まれる面積にて除すことで算出される。
以上のように図15に図示の防音構造体10では、膜部分12aの平均面密度がより大きい内側膜14が、防音構造体10において背面空間24寄りの端(一端)に近い位置に配置されている。他方、膜部分12aの平均面密度がより小さい外側膜15は、防音構造体10において膜間空間26寄りの端(他端)に近い位置に配置されている。
上記の構成では、膜部分12aの平均面密度がより小さくなることで外側膜15を空気伝播音が通過し易くなり、また、貫通孔28が形成されていることでより一層音が通過し易くなっている。他方、内側膜14では、外側膜15に比して音が通り難くなっている。つまり、図15に図示の構成では、空気伝播音が膜間空間26に入り込み易くなる反面、内側膜14を通過して膜間空間26の外に出難くなる。この結果、膜間空間26に閉じ込められる音が増大する結果、膜間に音を閉じ込める音場モードでの吸音効果が助長されることになる。この結果、膜間空間26と膜振動との相互作用による吸音効果が高まり、高周波数側の吸音ピークにおいて高い吸音率が得られるようになる。
なお、貫通孔28は、複数形成されていてもよく、その場合には、それぞれの貫通孔28のサイズを上記と同様に調整をすることが可能である。
背面空間24に多孔質吸音体30を配置することで、吸音ピークでの吸音率が小さくなる代わりに低周波側に広帯域化することが可能となる。
なお、多孔質吸音体30が配置される空間は、背面空間24に限られず、膜間空間26に配置されていてもよい。すなわち、多孔質吸音体30は、背面空間24及び膜間空間26のうちの少なくとも一方の空間中、少なくとも一部に配置されていればよい。
多孔質吸音体30の流れ抵抗は、1cm厚の多孔質吸音体30の垂直入射吸音率を測定し、Mikiモデル(J. Acoust. Soc. Jpn., 11(1) pp.19-24 (1990))でフィッティングすることで評価することができる。あるいは、「ISO 9053」に従って評価してもよい。
なお、以下の実施例で挙げる材料、使用量、割合、処理内容、及び処理手順等については、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
下記の実施例では、多層膜構造である本発明の防音構造体について、その構成及び効果を説明するが、それに先立って、単層膜構造の防音構造体の構成等を参考例として説明することとする。
<単層膜構造の防音構造体の作製>
膜状部材として、厚み50μmのPETフィルム(東レ株式会社製ルミラー)を外径40mmの円形状に切り出した。
支持体を構成する枠体は、次のようにして作製した。
厚み2mmのアクリル板(株式会社光製)を用意し、レーザーカッターを用いて、内径20mm、外径40mmのドーナツ状(リング形状)の板を1枚作製した。
作製したドーナツ状の板(枠体)の一方の開口面に、ドーナツ状の板の外縁とPETフィルム(膜状部材)の外縁とを一致させた状態で、PETフィルムを両面テープ(アスクル製現場のチカラ)で貼り合せわせた。
以上の手順により、PETフィルム(膜状部材)の厚みが50μmであり、ドーナツ状の板(枠体)の開口部が直径20mmの円形であり、かつ背面空間の厚みが2mmである防音構造体を作製した。なお、参考例1に係る防音構造体では、背面空間を閉空間とした。
作製した防音構造体を評価するため、防音構造体を用いて音響管測定を行った。具体的には、JIS A 1405-2に従った垂直入射吸音率の測定系を作製して評価を行った。これと同様の測定は、日本音響エンジニアリング製WinZacMTXを用いることが可能である。音響管の内部直径は2cmとし、その音響管端部に防音構造体を、膜状部材が音響入射面側に向くように配置した上で、垂直入射吸音率の評価を行った。このとき、垂直入射吸音率の測定法に従って、防音構造体の背面(厚み方向内側の端)に厚み100mmのアルミニウム板からなる剛体を押し付けた状態で垂直入射吸音率測定を行った。すなわち、背面空間が閉空間となった構造の防音構造体に対して垂直入射吸音率の測定を行った。
参考例1での測定結果(測定した周波数と吸音率との関係)は、既出の図12に示す通りである。
なお、防音構造体の背面に厚み100mmのアルミニウム板からなる剛体を押し付ける構造に代えて、下記の構成で同様に垂直入射吸音率測定を行った。
レーザーカッターを用いて、外径40mmの円形状の板を1枚作製し、前述したドーナツ状の板の外縁と円形状の板の外縁とを外径を一致させた状態で、両面テープ(アスクル製現場のチカラ)を用いて、ドーナッツ状の板の、膜状部材とは反対側の面に円形状の板を貼り合わせて枠体を作製した。
上記の構成においても、防音構造体の背面に厚み100mmのアルミニウム板からなる剛体を押し付けた構造と同じ測定結果が得られた。
背面空間の厚みを4mmとした以外は、参考例1と同様にして単層膜構造の防音構造体を作製し、垂直入射吸音率の測定を行った。なお、背面空間の厚みの変更については、ドーナッツ状の板を複数枚重ねることで行った。
参考例2での測定結果(測定した周波数と吸音率との関係)は、既出の図13に示す通りである。
図12及び図13から分かるように、参考例1及び参考例2に係る単層膜構造の防音構造体では、3kHz~5kHz付近で吸音ピークが複数存在し、各ピークの周波数で高次の振動モードにおける吸音がなされる構造となっており、大きな吸音率が得られている。一方、8kHz付近に存在する吸音ピークでは、吸音率が50%未満となる。これは、単層膜構造の防音構造体の場合、ある特定の周波数帯域では、基本振動モード及び高次振動モードの膜振動によって比較的高い吸音率が得られる反面、より高周波帯域の吸音ピークでは吸音率が低くなることを示している。
参考例1での防音構造体の作製手順に倣って、ドーナツ状の板(枠体)を2つ、PETフィルム(膜状部材)を2つずつ作製した。各ドーナツ状の板は、内径が20mmであり、外径が40mmであり、厚みが2mmである円筒形状をなしている。また、各PETフィルムは、厚みが50μmであり、直径が40mmである円形状をなしている。また、レーザーカッターを用いて、外径40mmの円形状の板を1枚作製した。
そして、厚み方向外側から順に、PETフィルム、ドーナツ状の板、PETフィルム、ドーナツ状の板及び円形状の板を、各々の外縁が一致するように積み重ね、その後、隣接する部材同士を両面テープにて貼り合わせた。
以上の手順により、外側膜及び内側膜の各々の厚みが50μmであり、それぞれの膜部分(振動する領域)の直径が20mmであり、外側枠体及び内側枠体の各々の外径が40mmで、背面空間の厚みが2mmであり、かつ膜間空間の厚みが2mmである防音構造体を作製した。すなわち、実施例1の防音構造体は、二層膜構造の防音構造体であり、参考例1の防音構造体を2つ重ねた構造となっている。
また、実施例1の防音構造体に対して垂直入射吸音率の測定を行った。
実施例1での測定結果(測定した周波数と吸音率との関係)は、既出の図14に示す通りである。
図14から分かるように、実施例1に係る防音構造体では、3kHz~5kHzの周波数帯域に現れる複数の吸音ピークの各々で高い吸音率を示すとともに、8.5kHz付近に現れる吸音ピークでも70%以上の吸音率を示している。
このように、本発明の防音構造体は、二層膜構造とすることにより、比較的高周波数の音を複数の周波数帯域で同時に吸音することが可能である。この結果、膜振動を利用する共鳴型の防音構造体であるにもかかわらず広帯域に亘って大きな吸音効果が得られるようになる。
膜間空間の厚みを4mmとした以外は実施例1と同様にして防音構造体を作製し、垂直入射吸音率の測定を行った。
なお、外側枠体として用いるドーナツ状の板については、その厚みを2mmではなく、4mmとした。
実施例2での測定結果(測定した周波数と吸音率との関係)を表すグラフを図18に示す。
外側膜に直径4mmの貫通孔を設けた以外は実施例1と同様にして防音構造体を作製し、垂直入射吸音率の測定を行った。
なお、貫通孔は、ポンチにより、外側に位置する膜状部材の径方向中央部に形成した。
実施例3での測定結果(測定した周波数と吸音率との関係)を表すグラフを図19に示す。
このように外側膜に貫通孔を設けることにより、空気伝播音が貫通孔を直接通過することが可能となり、また、外側膜の膜部分の音響インピーダンスが大きく変化する。この結果、外側膜の材質及び厚み、並びに支持体のサイズを変化させなくても、外側膜に貫通孔を形成するだけで、外側膜の吸音に関与する性質を変えることが可能となる。
膜間空間の厚みを4mmとした以外は実施例3と同様にして防音構造体を作製し、垂直入射吸音率の測定を行った。
なお、外側枠体として用いるドーナツ状の板については、その厚みを2mmではなく、4mmとした。
実施例4での測定結果(測定した周波数と吸音率との関係)を表すグラフを図20に示す。
図20に示すように、実施例4の防音構造体では、実施例1及び実施例2と同様、第一の吸音ピークが5kHz以下の周波数帯域に出現している。なお、第一の吸音ピークの発現周波数については、実施例3と実施例4の間で大した差異はない。一方、第二の吸音ピークの周波数については、実施例4の方が実施例3に比べてより低い周波数にシフトしている。このことから、第二の吸音ピークの周波数は、主として、内側膜及び外側膜と膜間空間とによって決定されると考えられる。
背面空間の厚みを4mmとした以外は実施例3と同様にして防音構造体を作製し、垂直入射吸音率の測定を行った。
なお、内側枠体として用いるドーナツ状の板については、その厚みを2mmではなく、4mmとした。
実施例5での測定結果(測定した周波数と吸音率との関係)を表すグラフを図21に示す。
図21に示すように、実施例5の防音構造体では、実施例3と比べて、第二の吸音ピークの周波数がほぼ変化していない。一方、第一の吸音ピークの周波数については、実施例5の方が実施例3に比べてより低い周波数にシフトしている。このことから、第一の吸音ピークの周波数は、主として、内側膜と背面空間内の空気層とによって決定されると考えられる。
貫通孔を外側膜ではなく、内側膜に設けた以外は実施例5と同様にして防音構造体を作製し、垂直入射吸音率の測定を行った。
実施例6での測定結果(測定した周波数と吸音率との関係)を表すグラフを図22に示す。
図22に示すように、実施例6の防音構造体では、第一の吸音ピークでの吸音率が、実施例5の場合に近い値となっている。一方、第二の吸音ピークでの吸音率は、実施例5の方がより高い値となっている。実施例5の防音構造体では、外側膜に貫通孔が設けられている分、外側膜では内側膜よりも膜部分の平均面密度が小さくなっており、そのため、外側膜を空気伝播音が通り易くなっていると考えられる。また、実施例5の防音構造体では、外側膜に貫通孔が設けられているために音が外側膜をより一層通り易くなると考えられる。これにより、多層膜構造を採用する場合には、実施例5のように外側膜を音が通り易い構造とし、内側膜を音が通り難い構造とすることで、防音構造体の内部まで音が到達するようになり、結果として、吸音効果(特に、第二の吸音周波数帯域での吸音効果)がより大きくなる。
これに対して、実施例6の防音構造体では、外側膜の方が内側膜よりも音が通り難くなっているため、外側膜での音の反射率が大きくなり、結果として防音構造体内での吸音効果がより小さくなる。
上述した実施例1の防音構造体の構造に関して、下記のシミュレーションを行った。
シミュレーションは、有限要素法計算ソフトCOMSOL ver.5.3(COMSOL Inc.)の音響モジュールを用いることとし、シミュレーションに際して各種の設計を行った。具体的には、円形状の膜状部材が取り付けられ、かつ背面空間が閉空間となった太鼓状構造の防音構造体における吸音効果(具体的には、吸音率)について、シミュレーションを行った。
より詳しくは、音響と構造の連成計算を行い、構造力学計算は膜構造に関して行い、背面空間については音の空気伝搬を計算することでシミュレーションを行った。この際、膜状部材の硬さ(厳密には、ヤング率)及び厚み、背面空間の厚み、膜間空間の厚み、並びに内側枠体及び外側枠体に形成された開口部の直径(換言すると、内側膜及び外側膜の各々の膜部分の大きさ)をパラメータとして数値計算を行った。各パラメータの値は、実施例1に従って設定し、内側膜及び外側膜のヤング率をPETフィルムのヤング率である4.5GPaとし、内側膜及び外側膜の厚みを50μmとし、膜部分の大きさをφ20mmとし、背面空間及び膜間空間のそれぞれの厚みを2mmとした。また、防音構造体の配置については、垂直入射吸音率測定における配置をシミュレーションで実装し、吸音率を計算した。なお、計算モデルは二次元軸対称構造計算モデルとした。
上記シミュレーションの結果(計算した周波数と吸音率との関係)を図23に示す。なお、図23では、シミュレーション結果を実線にて示すとともに、対比情報として、実測結果(実施例1での垂直入射吸音率の測定結果)を点線にて示している。
図23に示すように、実測結果ではシミュレーション結果に比べて、吸音ピークの数が多く、各ピークにおける吸音率の変化度合いが大きくなっているものの、全体としての傾向は実測結果とシミュレーション結果との間で略一致している。すなわち、実測結果及びシミュレーション結果のいずれにおいても、3kHz付近に吸音ピークが存在し、さらに8kHz付近にも吸音ピークが存在している。つまり、シミュレーションにより、実測結果と同様に、実施例1の防音構造体(すなわち、多層膜構造)では大きく分けて2つの吸音周波数帯域にて吸音が生じることが明らかとなった。
内側膜及び外側膜の枠体(支持体)が剛体からなる場合、及び、枠体が弾性体(具体的には、シリコーンゴム)からなる場合のそれぞれに対して、シミュレーション1と同様のシミュレーション(シミュレーション2)を行った。具体的には、上記2つの場合のそれぞれにおいて、第一の吸音周波数帯域(例えば、2kHz~4.5kHz)の音、及び第二の吸音周波数帯域(例えば、6kHz~9kHz)の音を入射したときの吸音率を計算した。
枠体の材質を変えてシミュレーションしたときの、第一の吸音周波数帯域及び第二の吸音周波数帯域の各々における吸音率を表6に示す。
以上により、特許文献2に記載の吸音装置のように振動体を弾性体によって支持する構成では、高周波数帯域(特に、第二の吸音周波数帯域である6kHz~9kHzの範囲)で十分な吸音率が得られない。これに対して、剛体が枠体(支持体)を構成する本発明の防音構造体では、高周波数帯域であっても十分な吸音率が得られることが分かった。
背面空間及び膜間空間の各々の厚みを変えながら、シミュレーション1と同様のシミュレーション(シミュレーション3)を行った。
背面空間及び膜間空間の各々の厚みが1mmであるときのシミュレーション結果を図24に示し、背面空間及び膜間空間の各々の厚みが3mmであるときのシミュレーション結果を図25に示す。
図24及び図25から分かるように、背面空間及び膜間空間の各々の厚みを変えても、実施例1の構造と同様に、二層膜構造の防音構造体では大きく分けて2つの吸音周波数帯域にて吸音が生じていることが分かった。また、背面空間及び膜間空間の各々の厚みが小さくなるほど、それぞれの周波数帯域における吸音ピークの周波数がより高周波数にシフトすることが分かった。
さらに、背面空間と膜間空間の厚みの合計(以下、合計厚み)を1mm~30mmの範囲で変化させてシミュレーションしたときの、第一の吸音ピーク及び第二の吸音ピークのそれぞれの周波数、並びに、各ピークでの吸音率を表7に示す。
なお、各シミュレーションでは、防音構造体が二層膜構造であることとし、内側膜の膜面(内側膜において、外側を向いている方の表面)が厚み方向において防音構造体の中央位置に配置されていることとした。例えば、実施例1は、合計厚みが4mmであるケースに相当する。
以上のことから、合計厚みについては、10mm以下であることが好ましく、7mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましい。
図26に示すように、吸音ピークの周波数は、合計厚みに応じて変化し、合計厚みをxとし、第一の吸音ピークの周波数をy1とし、第二の吸音ピークの周波数をy2としたときに、合計厚みと各吸音ピークの周波数との対応関係は、下記式(2)、(3)によって近似することが可能である。
y1=5577.4*x-0.472 (2)
y2=15436*x-0.519 (3)
なお、上記の式(2)は、合計厚みと第一の吸音ピークの周波数との対応関係を近似したものであり、式(3)は、合計厚みと第二の吸音ピークの周波数との対応関係を近似したものである。
上述した実施例3の防音構造体の構造に関して、シミュレーション1と同様のシミュレーション(シミュレーション4)を行った。貫通孔に関しては、比較的穴径が小さいものであるため、COMSOLの音響モジュール内の熱粘性音響計算を適用し、貫通孔内部での熱粘性摩擦による吸音効果を含めて、より正確にシミュレーションを行った。
上記シミュレーションの結果(計算した周波数と吸音率との関係)を図27に示す。なお、図27では、シミュレーション結果を実線にて示すとともに、対比情報として、実測結果(実施例3での垂直入射吸音率の測定結果)を点線にて示している。
図27に示すように、シミュレーション4では、シミュレーション1と同様に、実測結果の方がシミュレーション結果に比べて吸音ピークの数が多くなり、各ピークにおける吸音率の変化度合いが大きくなっている。そうではあるものの、シミュレーション4では、全体としての傾向が実測結果とシミュレーション結果との間で略一致している。すなわち、シミュレーション結果及び実測結果のいずれにおいても、吸音周波数帯域が大きく2つ分かれて存在しており、それぞれの周波数帯域がシミュレーション結果と実測結果との間で概ね一致している。
図28に示すように、第一の吸音ピークの周波数で吸音が行われる際は、内側膜の背面側、すなわち背面空間における音圧が大きくなる。これは、第一の周波数帯域での吸音は、内側膜と背面空間とによって構成される吸音構造(膜型吸音構造)が主に寄与していることを反映している。
一方、図29に示すように、第二の吸音ピークの周波数で吸音が行われる際は、膜間空間における音圧が大きくなる。これは、第二の周波数帯域での吸音は、内側膜及び外側膜と膜間空間とによって構成される吸音構造が主に寄与していることを反映している。
以上のように、シミュレーションによって、各吸音ピークの周波数の音が入射されたときの防音構造体内部の音圧の大きさを可視化することにより、各吸音ピークの周波数では、防音構造体中のどこの構造(メカニズム)が主に吸音に寄与しているかを明らかにすることが可能となる。
貫通孔のサイズ(直径)を1mm~10mmの範囲で変えながら、シミュレーション4と同様のシミュレーション(シミュレーション5)を行った。
貫通孔のサイズが2mmであるときのシミュレーション結果を図30に示し、貫通孔のサイズが10mmであるときのシミュレーション結果を図31に示す。
さらに、貫通孔のサイズを変えながらシミュレーションしたときの、第一の吸音ピーク及び第二の吸音ピークの各々の周波数を表8に示す。
12 複数の膜状部材
12a 膜部分
14 内側膜
15 外側膜
16 支持体
18 内側枠体
19 外側枠体(筒状枠体)
20 開口部
21 開口面
22 底壁
24 背面空間
26 膜間空間
28 貫通孔
30 多孔質吸音体
Claims (16)
- 防音構造体であって、
互いに離間した状態で重ねられた複数の膜状部材と、
剛体により構成され、前記複数の膜状部材をそれぞれ膜振動可能に支持する支持体と、
前記複数の膜状部材のうち、隣り合う2つの膜状部材の間に挟まれている膜間空間と、
前記複数の膜状部材のうち、音源からより離れている側にある1つの膜状部材と前記支持体の一端との間に形成された背面空間と、を有し、
前記支持体の一端が閉じられた状態で前記複数の膜状部材がそれぞれ膜振動することで吸音し、
前記1つの膜状部材の振動の、1kHz以上に存在する少なくとも1つの高次振動モードの周波数における吸音率が、基本振動モードの周波数における吸音率よりも高く、
前記防音構造体が吸音可能な周波数帯域は、複数存在し、
前記防音構造体が吸音可能な複数の周波数帯域の中には、
前記1つの膜状部材が高次振動モードにて膜振動したときの第一の吸音周波数帯域と、
前記隣り合う2つの膜状部材が前記膜間空間を挟んで互いに逆位相となって膜振動したときの第二の吸音周波数帯域と、が含まれている、防音構造体。 - 前記1つの膜状部材のヤング率をEとし、前記1つの膜状部材の厚みをtとし、前記背面空間の厚みをdとし、前記1つの膜状部材が振動する領域の円相当直径をΦとすると、
前記1つの膜状部材の硬さE×t3が、21.6×d-1.25×Φ4.15以下である請求項1に記載の防音構造体。 - 前記1つの膜状部材の硬さE×t3が、2.49×10-7以上である請求項2に記載の防音構造体。
- 前記支持体は、開口部を有する内側枠体を備え、
前記1つの膜状部材が、前記内側枠体の端位置で前記開口部を囲んでいる開口面に固定されており、
前記背面空間が、前記1つの膜状部材と前記内側枠体とに囲まれている請求項1乃至3のいずれか一項に記載の防音構造体。 - 前記支持体は、前記1つの膜状部材が固定された前記開口面とは反対側で前記内側枠体の前記開口部を塞ぐ底壁を有する請求項4に記載の防音構造体。
- 前記背面空間が閉じられた閉空間である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の防音構造体。
- 前記支持体及び前記底壁の少なくとも一方に貫通孔が設けられている請求項5に記載の防音構造体。
- 前記膜間空間及び前記背面空間のそれぞれの厚みが10mm以下である請求項1乃至7のいずれか一項に記載の防音構造体。
- 前記膜状部材が並ぶ方向における前記防音構造体の全長が10mm以下である請求項1乃至8のいずれか一項に記載の防音構造体。
- 前記膜状部材の厚みが100μm以下である請求項1乃至9のいずれか一項に記載の防音構造体。
- 前記背面空間と前記膜間空間を合計した合計厚みが10mm以下である請求項1乃至10のいずれか一項に記載の防音構造体。
- 前記複数の膜状部材のうち、少なくとも2つ以上の膜状部材の間において、膜部分の平均面密度が互いに異なっており、
前記膜部分の平均面密度がより大きい膜状部材は、前記背面空間寄りにある前記支持体の一端の側に配置され、前記膜部分の平均面密度がより小さい膜状部材は、前記背面空間からより離れている前記支持体の他端の側に配置されている請求項1乃至11のいずれか一項に記載の防音構造体。 - 前記複数の膜状部材のうち、前記背面空間寄りにある前記支持体の一端から最も離れた位置にある膜状部材に貫通孔が形成されている請求項1乃至12のいずれか一項に記載の防音構造体。
- 前記背面空間及び前記膜間空間のうちの少なくとも一方の空間中、少なくとも一部に配置された多孔質吸音体を更に有する請求項1乃至13のいずれか一項に記載の防音構造体。
- 前記複数の膜状部材のうち、前記背面空間寄りにある前記支持体の一端から最も離れた位置にある膜状部材は、前記防音構造体の前記背面空間からより離れている端をなしている請求項1乃至14のいずれか一項に記載の防音構造体。
- 前記支持体は、筒状の外側枠体を備えており、
前記隣り合う2つの膜状部材は、前記外側枠体を介して互いに対向している請求項1乃至15のいずれか一項に記載の防音構造体。
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