JP7136184B2 - 無アルカリガラス基板 - Google Patents

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Description

本発明は、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:TFT)等の形成に適したガラス基板に関する。
各種ディスプレイ用ガラス基板として、特にガラス基板上にTFT等の薄膜を形成する場合には、アルカリ金属成分をほとんど含有しないホウケイ酸ガラス基板(いわゆる無アルカリガラス基板)が用いられている。アルカリ金属成分を多く含有するガラス基板を用いると、ガラス中のアルカリ金属成分が膜特性を劣化させ、TFTの信頼性の低下を招くためである。また、ディスプレイ用ガラス基板には、歪点が高いことや、耐酸性が高いことも求められる。
高歪点で耐酸性にも優れる無アルカリガラスは、ガラス原料を1400~1800℃といった高温で溶融する必要があり、高品質のガラス基板を効率よく生産するのが容易ではない。特許文献1には、無アルカリガラスにアルカリ金属酸化物を200~2000ppm含有させ、バーナーの燃焼炎による加熱と、溶融ガラスに通電することによる加熱を併用して、ガラスを溶融する方法が記載されている。
ガラスを板状に成形する方法として、フロート法が知られている。フロート法では、フロートバス(以下、単に「バス」ということがある)内の溶融金属(たとえば溶融スズ)上に連続的に供給される溶融ガラスを、溶融金属上で流動させて板状に成形する。
溶融金属上で成形されたガラスリボンは、次にローラーを用いて搬送される。その際、ローラーに接する部分に傷が付きやすいことが知られている。
このような傷を防止する方法として、ガラス基板裏面に亜硫酸ガス(SOガス)を吹き付け、ガラス中に存在するアルカリ金属(例えば、ナトリウム等)と反応させ、ガラス基板の裏面に硫酸ナトリウムを形成し、それを保護膜として働かせる方法が知られている(例えば、特許文献2)。また、特許文献3には、ディスプレイ基板用ガラスの表面に四ホウ酸ナトリウム等を吹き付けてから亜硫酸ガスを吹き付ける方法が記載されている。
国際公開第2013/084832号 国際公開第2002/051767号 国際公開第2008/004480号
しかしながら、特許文献2に記載の方法はガラス中に存在するアルカリ金属量がきわめて少ない無アルカリガラス基板の製造には適用することができない。また、特許文献3に記載の方法は無アルカリガラス基板にも適用できるが、ガラスリボンの表面に2種類のガスを吹き付けることから、工程が煩雑であり、装置も複雑になる。
また最近は、TFT特性やガラス基板特性に対する要求が一層高くなっており、ガラス基板上のTFTの特性維持とガラスの溶融性向上との両立が一層難しくなっている。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、アルカリ金属成分によるTFTの信頼性の低下が少なく、傷も少なく、生産性にも優れた高品質の無アルカリガラス基板を提供することを目的とする。
本発明者らは鋭意検討の結果、歪点及び50~350℃での平均熱膨張係数が所定の範囲内であり、特定の組成を有し、かつ、少なくとも一方のガラス基板表面のNaO量がガラス基板内部のNaO量より20質量ppm以上少ないガラス基板により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、歪点が650℃以上であり、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7~45×10-7/℃である無アルカリガラスであって、酸化物基準の質量%表示でSiOを54~66%、Alを10~25%、Bを0.1~12%、MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群から選択される1以上の成分を合計で7~25%含有し、NaOを150~2000質量ppm含有し、少なくとも一方の主面におけるガラス基板表面のNaO量がガラス基板内部のNaO量より40質量ppm以上少ない無アルカリガラス基板である。
本発明の無アルカリガラス基板は、特定の組成を有し、かつ、少なくとも一方のガラス基板表面のNaO量がガラス基板内部のNaO量より20質量ppm以上少ないことにより、ガラス基板表面の傷が少なく、アルカリ金属成分によるTFTの信頼性の低下も抑制できる。
図1は、ガラス基板の厚さ方向の23Na30Siとの信号強度比プロファイルの一例を示す図である。 図2は、ガラス基板表面付近のNaO含有量プロファイルの一例を示す図である。 図3は、フロート法によるガラス製造装置を示す概念図である。 図4は、ガラス基板表面に形成したTFTの信頼性試験における閾値電圧の変動量とそのガラス基板表面のNaO量との関係の一例である。 図5は、TFT素子の模式図を示す。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
本明細書において、ガラス組成は原則として、酸化物基準の質量%表示で表し、本明細書中においてガラス組成について用いられる「%」、「ppm」は、特記のない限り「質量%」、「質量ppm」を意味する。
本明細書において、「無アルカリガラス」はリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属成分の含有量が、酸化物換算で5000ppm以下であるガラスをいう。
本明細書において「ガラスリボン」は溶融ガラスを板状に成形したものをいう。ガラスリボンは、冷却され、切断等されてガラス基板となる。
「ボトム面」は、フロート法で製造されるガラスリボンまたはガラス基板において、フロートバス内で溶融金属に接していた表面である。「トップ面」は、ボトム面に対向する表面である。
本明細書において、ガラス基板のNaO含有量は、ガラス基板を粉末化し、得られたガラス粉末を硫酸、硝酸およびフッ化水素酸で加熱分解した後、硫酸白煙が生じるまで濃縮し、希硝酸に溶かした定容液を得て、定容液中のNa濃度をICP質量分析法で定量して求められる[単位:質量ppm]。
「ガラス基板内部のNaO含有量」は、上記方法で求められたガラス基板のNaO含有量と等しい。
「ガラス基板表面のNaO含有量」は、評価対象ガラス基板の一部を切り出し、5%フッ化水素水溶液を用いて表面から約10μm(具体的には8~12μm)エッチングしたものを標準試料として、後述のC60スパッタを用いた飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)法で得られるNa含有量プロファイルから求められる。
具体的には、ガラスのNa含有量プロファイルより求まる、表面からの深さが0.25μmから0.30μmの領域における平均NaO含有量をガラス基板表面のNaO含有量とする。
図1は、以下の手順で求めたガラス基板の厚さ方向の23Na30Siとの信号強度比プロファイルである。
すなわち、本ガラス基板から5枚の小片を切り出し、そのうち4枚につき5%フッ化水素水溶液を用いて表面をエッチングした。5枚の小片についてエッチング時間を変えることで、ガラス基板表面からそれぞれ1μm、3μm、5μm、10μmエッチングされるようにした。エッチング厚さはマイクロメータを用いて測定した。
各小片について、C60スパッタを用いた飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)法で23Na30Siとの信号強度比を測定した結果をプロットすると図1のようになる。Siはこのガラス基板の主成分であり、その含有量はガラス基板の厚み方向においてほぼ一様であるため、23Na30Siとの信号強度比はNa含有量のプロファイルを示すものとみなせる。
図1から、ガラス基板表面からおよそ5μm程度の深さまでの領域では、それよりも深い部分と比較してNa含有量が少なくなっているが、約10μm程度以上の深さでは、Na含有量は変動しないことがわかる。
ガラス基板表面のNaO含有量を求める方法としては、評価対象ガラス基板の一部を切り出し、5%フッ化水素水溶液を用いて表面から約10μm(具体的には8~12μm)エッチングしたものをNaO定量用標準試料として、エッチングしていないガラス基板について、スパッタ時間に対する23Na30Siとの信号強度比を測定することでガラス基板表面付近のNa含有量プロファイルを測定する方法が挙げられる。
約10μm程度以上の深さではNa含有量が変動しないことから、標準試料について得られる23Na30Siとの信号強度比は、IPC質量分析法で求められたNaO含有量に相当する。したがって、その値を用いて信号強度比をNaO含有量に換算できる。また、TOF-SIMS測定後に、表面形状測定装置(たとえばVeeco社製;Dektak150)を用いてC60スパッタで削られた深さを測定すると、スパッタ時間をガラス表面からの深さに変換できる。
これによって、図2に示すようなNaO含有量プロファイルが得られる。このようにして得られたNaO含有量プロファイルにおける、表面からの深さが0.25μmから0.30μmの領域の平均NaO量をガラス表面のNaO量とする。
本明細書において、ガラス基板の「β-OH値」は、次の方法で得られる。
すなわち、赤外分光光度計を用いてガラス基板の赤外線透過率を測定し、波数3500~3700cm-1における透過率の極小値をI[単位:%]、波数4000cm-1における透過率をI[単位:%]、ガラス基板の厚さをd[単位:mm]とすると、β-OH値は、-(log(I/I))/d[単位:mm-1]である。
[ガラス基板の製造方法]
まず、本発明の理解を助けるため、本発明の無アルカリガラス基板(以下、「本発明のガラス基板」ともいう)の製造方法の一態様としてフロート法によるガラス基板の製造方法について説明するが、本発明のガラス基板の製造方法はこれに限定されない。
フロート法によるガラス基板製造は、
(I)原材料を溶解して、溶融ガラスを製造する「溶解工程」と、
(II)フロートバスに溶融ガラスを導入して、ガラスリボンを形成する「成形工程」と、
(III)徐冷炉でガラスリボンを徐冷する「徐冷工程」と、を有する。
以下、フロート法によるガラス製造装置の例を示す概念図である図3を用いて各工程について説明する。
<溶解工程>
溶解工程では、所望のガラス組成に合わせて調合、混合されたガラス原料を、溶解窯3に投入することにより、溶融ガラス4が得られる。溶解窯3の温度は、使用するガラス原料により適宜調節すればよいが、例えば1400℃~1600℃程度である。
<成型工程>
成形工程では、溶融スズ1を満たしたフロートバス2の溶融スズ面上に、溶解窯3から溶融ガラス4を連続的に流入させてガラスリボンを形成する。
溶融金属上で形成されたガラスリボンは、搬送ローラー5によって徐冷炉6に運ばれ、徐冷されるが、ガラスリボンがフロートバス2を出てから搬送ローラー5に接触するまでの間に、ガラスリボンのボトム面に対して、SOガスを吹き付けることが好ましい。
上記SOガスの吹き付けにより、ガラス表面に存在するNaOがSOガスと反応し、ガラス表面に硫酸ナトリウムが形成する。当該硫酸ナトリウムは、ガラスリボンと搬送ローラー5が接触することによりガラスリボンに傷がつくことを防ぐ作用を有し、さらに水洗にて簡単に除去できるため、ガラス基板の品質にも影響を及ぼさない。
ここで、NaOの含有量が少ない無アルカリガラス基板である本発明のガラス基板の製造工程において、ガラス基板の傷を防ぐために十分な量の硫酸ナトリウムをガラス表面に形成させるには、例えば、フロートバス内の水蒸気濃度、フロートバス2の上流側及び下流側の温度、溶融ガラス4の滞留時間、溶融スズ1中の溶存酸素濃度等を適宜調整することにより、ガラス内部のNaOがボトム面の付近に移動して偏在し、SOガスの吹き付けによりガラス表面に硫酸ナトリウムを十分に生成させることが可能となり、傷の少ないガラス基板が得られる。
また、ガラス内部のNaOをボトム面の付近に移動させて偏在させることにより、ガラス表面から溶融スズへ拡散するNaOの量を多くすることができ、ガラス基板全体に含まれるNaOの量を減らすことができる。
フロートバス2の上流側及び下流側の温度、溶融ガラス4の滞留時間、溶融スズ1中の溶存酸素濃度の条件としては、具体的には例えば、下記(1)~(4)が挙げられる。
(1)フロートバス2の上流側の温度は、1400℃~900℃が好ましく、より好ましくは1300℃~1000℃、さらに好ましくは1250℃~1100℃である。フロートバス2の上流側の温度とは、上流のガラスリボンの温度を示し、放射温度計により測定できる。
(2)フロートバス2の下流側の温度は、600℃~850℃が好ましく、より好ましくは650℃~850℃、さらに好ましくは700℃~800℃である。フロートバス2の下流側の温度とは、下流のガラスリボンの温度を示し、放射温度計により測定できる。
(3)溶融ガラス4の滞留時間は、5分~60分が好ましく、より好ましくは10分~40分、さらに好ましくは15分~30分である。
(4)溶融スズ1中の溶存酸素濃度は、10ppm以下が好ましく、より好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは3ppm以下、最も好ましくは0ppmである。溶融スズ1中の溶存酸素濃度は錫中酸素濃度計(Redox)により測定できる。
SOガスの吹き付けによりガラス基板のボトム面の付近に集まったNaOは硫酸ナトリウムとなりガラス基板外部に出ていく。したがって、上記方法で得られたガラス基板は、ボトム面側のガラス表面のNaO量がガラス内部のNaO量より少なくなっており、具体的には20質量ppm以上少なく、40質量ppm以上少ないことが好ましく、90質量ppm以上少ないことがより好ましい。
なお、通常TFT製造時の熱処理の温度は400℃~500℃であるが、SOガスを吹き付ける際のガラスリボンの温度は約600℃~750℃であり、TFT製造時の熱処理の温度より高い。そのため、SOガスの吹き付けにより、TFT製造時の熱処理時にガラス基板中のNaイオンが拡散してくる深さよりも、さらに深い位置に存在するNaイオンをSOと反応させて除去することができる。
したがって、上記方法により得られたガラス基板を用いてTFTを製造すると、熱処理時におけるガラス中のNaイオンのTFTへの拡散が少なく、閾値電圧の変動を抑制できるため、信頼性に優れるTFTを製造することができる。
<徐冷工程>
徐冷工程では、搬送ローラー5により運ばれてきたガラスリボンを、徐冷炉6で徐冷して、本発明のガラス基板を得ることができる。徐冷炉6の温度は特に限定はされないが、例えば一般的なフロート法での条件と同様に、徐冷炉6の上流側では550~750℃、下流側では200~300℃とすることができる。
[ガラス組成]
次に、本発明のガラス基板のガラス組成について説明する。
本発明のガラス基板は、酸化物基準の質量%表示でSiOを54~66%、Alを10~25%、Bを0.1~12%、MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群から選択される1以上の成分を合計で7~25%含有し、NaOを150~2000質量ppm含有し、少なくとも一方のガラス表面のNaO量がガラス内部のNaO量より20質量ppm以上少ない。
以下に、各成分について詳しく説明する。
<SiO
SiOは、無アルカリガラスの必須成分である。
本発明のガラス基板においてSiOの含有量が少なくなると、歪点が低く、熱膨張係数が大きく、密度が大きくなる。したがって、本発明のガラス基板のSiOの含有量は54%以上であり、57%以上が好ましく、58%以上がより好ましい。
一方、SiOの含有量が多くなるとガラスの粘度が高くなり、ガラス粘度が10dPa・sとなる温度Tや10dPa・sとなる温度Tが上昇し、失透温度が上昇する。したがって、本発明のガラス基板のSiOの含有量は66%以下であり、好ましくは63%以下、より好ましくは62%以下である。
<Al
本発明のガラス基板においてAlの含有量が少なくなるとガラスの分相が生じるようになり、また、歪点も低下する。したがって、本発明のガラス基板のAlの含有量は10%以上であり、14%以上が好ましく、15%以上がより好ましい。
一方、Alの含有量が多くなると、ガラス粘度が10dPa・sとなる温度Tや10dPa・sとなる温度Tが上昇し、または失透温度が上昇するおそれがある。したがって、本発明のガラス基板のAlの含有量は25%以下であり、21%以下が好ましく、18%以下がより好ましい。
<B
本発明のガラス基板においてBの含有量が少なくなるとガラスの粘度が高くなり、失透温度が上がる。したがって、本発明のガラス基板のBの含有量は0.1%以上であり、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましい。また、特にバッファードフッ酸を用いたエッチングによってヘイズが発生することを防止する観点から、3%以上が好ましく、5%以上がより好ましい。
一方、Bの含有量が多くなると歪点が低下する。したがって、本発明のガラス基板のBの含有量は12%以下であり、好ましくは11%以下、より好ましくは9%以下である。また、歪点を特に高くしたい場合には、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
<MgO、CaO、SrOおよびBaO>
本発明のガラス基板において、MgO、CaO、SrOおよびBaOはいずれも必須ではないが、これらの成分はガラスの粘度を下げ、化学的耐久性を維持する効果を有する。したがって、本発明のガラス基板においてこれらの成分の合計の含有量は7%以上であり、9%以上が好ましく、12%以上がより好ましい。
一方、これらの成分を過剰に含有するとガラスの熱膨張係数が過大になる。したがって、本発明のガラス基板においてこれらの成分の合計の含有量は25%以下であり、21%以下が好ましく、18%以下がより好ましい。
MgOは、アルカリ土類酸化物の中ではガラスの熱膨張係数を大きくする効果が比較的小さい成分である。又、ガラスの密度を低く維持したままヤング率を大きくすることができる成分でもある。MgOの含有量は好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上である。一方、MgOの含有量を少なくすることで失透温度を低下させられるため、MgOの含有量は好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下である。
CaOは、熱膨張係数や密度をあまり大きくせずにヤング率を大きくすることができる成分である。CaOの含有量は、2%以上が好ましく、3%以上がより好ましい。一方、CaO含有量を少なくすると、ガラスが失透しにくくなる。そのためCaOの含有量は、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは6%以下である。
SrOは、ガラスの失透温度を上昇させずに粘度を下げる効果があり、6%以上含有することが好ましい。一方、SrOの含有量を低くすることで熱膨張係数を小さくできるため、SrOの含有量は好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは9%以下である。
BaOは、粘度を下げる成分であるが、BaOの含有量を低くすることで熱膨張係数を小さくできるため、BaOの含有量は好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下である。また、特にガラス基板の軽量化等の目的で密度を小さくしたい場合には、0.5%以下が好ましく、実質的に含有しないことがより好ましい。
<NaO>
通常、ガラス基板上にTFTを形成した場合はその後に熱処理を行うが、ガラス中にNaOが多く含まれると、該熱処理の際にガラス中のNaイオンがTFTに拡散してTFTの閾値電圧が変動するため、TFTの信頼性が低下する。したがって、本発明のガラス基板においてNaO含有量は2000質量ppm以下であり、1000質量ppm以下が好ましく、800質量ppm以下がより好ましい。
一方、ガラスのNaO含有量が過少であると、ガラスの溶融特性が劣化する。したがって、本発明のガラス基板においてNaO含有量は150質量ppm以上であり、300質量ppm以上が好ましく、500質量ppm以上がより好ましい。
上述のとおり、本発明のガラス基板は、少なくとも一方の主面におけるガラス基板表面のNaO量をガラス基板内部のNaO量より20質量ppm以上少なくすることにより、ガラス基板表面の傷を少なくすることができる。
したがって、本発明のガラス基板は少なくとも一方の主面におけるガラス基板表面のNaO量がガラス基板内部のNaO量より20質量ppm以上少なく、好ましくは40質量ppm以上、より好ましくは90質量ppm以上少ないものとする。
本発明のガラス基板では、NaO含有量を上記した範囲とすることにより、ガラス基板上にTFTを形成した場合のTFTの信頼性の低下を防いでいるが、TFTの信頼性に特に影響を及ぼすのはガラス基板表面に存在するNaOである。よって本発明のガラス基板においては、少なくとも一方の主面における、ガラス基板表面のNaO量をガラス基板内部のNaO量より少なくすることで、TFTの信頼性の低下をより一層抑制することができる。
TFTの信頼性は、たとえばBT試験(bias temperature stress test)で評価できる。図4は、ガラス基板のボトム面側表面に低温ポリシリコン薄膜トランジスタ(LTPS-TFT)を形成し、正バイアスを印加してBT試験を行った際の、閾値電圧の変動量とガラス基板表面のNaO含有量の関係を示した図である。
ここで、このLTPS-TFTの構造は、標準的なトップゲートコプレナー構造であり、ソースドレーン領域はホウ素をイオン注入して形成し、pチャネルTFTを形成したものである。ポリシリコン膜は、プラズマCVD法によって得られた厚さ50nmのアモルファスシリコン膜に、XeClエキシマレーザ(波長308nm)を照射して結晶化させたものである。
また、ガラス基板とシリコン膜の間には、バリア膜として、厚さ100nmの酸化シリコン膜を形成する。LTPS-TFTは、現在主流となっている非晶質シリコンTFTと比較して高温で処理されること等から、ガラス基板表面のNaO含有量の影響をより強く受けるという特徴がある。
図4より、ガラス基板表面のNaO含有量が小さいほど閾値電圧の変動量が少なく、即ち、TFTの信頼性が高い。また、この特徴はガラス基板表面のNaO含有量が小さいほど顕著であることがわかる。
したがって、本発明のガラス基板において、少なくとも一方の主面におけるガラス基板表面のNaO量は500質量ppm以下が好ましく、300質量ppm以下がより好ましく、250質量ppm以下がさらに好ましい。
<その他の成分>
本発明のガラス基板は無アルカリガラスであるが、アルカリ金属酸化物はガラス原料中の不純物として、不可避的に混入することが知られている。通常、原料中から不純物として混入するアルカリ金属酸化物の大半を占めるのはNaOであるが、LiO、KOを含有する場合もある。これらを含有する場合は、NaOを含めたアルカリ金属酸化物の総量は、5000質量ppm以下であり、2000質量ppm以下が好ましく、1000質量ppm以下がより好ましく、800質量ppm以下がさらに好ましい。
また、本発明のガラス基板は、本発明の効果を奏する範囲でF、Cl、SO、SnO、ZrO等を含有してもよい。
[ガラス基板の物性]
続いて、本発明のガラス基板の物性について説明する。
本発明のガラス基板は、歪点が650℃以上であり、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7~45×10-7/℃である。
<歪点>
本発明のガラス基板において、歪点が低いと、ディスプレイ等の薄膜形成工程でガラス基板が高温にさらされる際に、ガラス基板の変形およびガラスの構造安定化に伴う収縮(熱収縮)が起こりやすくなる。したがって、本発明のガラス基板の歪点は650℃以上であり、660℃以上が好ましく、670℃以上がより好ましい。
一方、歪点が低いと、成形装置の温度を低くすることができるため、成形装置の寿命を改善することができるという利点もあり、歪点は高くしすぎないことが好ましい。したがって、本発明のガラス基板の歪点は800℃以下が好ましく、750℃以下がより好ましく、730℃以下がさらに好ましい。
なお、歪点はJIS R3103-2(2001年)に規定されている方法に従い、繊維引き伸ばし法を用いて測定できる。
<50~350℃での平均熱膨張係数>
耐熱衝撃性に優れ、TFTパネル製造時の生産性も優れるガラス基板とするため、本発明のガラス基板の50~350℃での平均熱膨張係数は30×10-7~45×10-7/℃とする。本発明のガラス基板の50~350℃での平均熱膨張係数は33×10-7/℃以上とすることが好ましく、35×10-7/℃以上とすることがより好ましい。また、42×10-7/℃以下とすることが好ましく、40×10-7/℃以下とすることがより好ましい。
なお、平均熱膨張係数はASTM E831に規定されている方法に従い、熱膨張計を用いて測定できる。
<密度>
本発明のガラス基板の密度は特に限定されないが、製品の軽量化を実現し、比弾性率を高める観点から、3.0g/cm以下が好ましい。より好ましくは2.8g/cm以下、さらに好ましくは2.6g/cm以下である。
<粘度が10ポイズ(dPa・s)となる温度T
また本発明のガラス基板は、粘度ηが10ポイズ(dPa・s)となる温度Tが比較的低いので溶解が容易である。温度Tは溶解性の観点から、1800℃以下が好ましく、より好ましくは1750℃以下、さらに好ましくは1700℃以下、特に好ましくは1680℃以下である。
<粘度ηが10ポイズ(dPa・s)となる温度T
本発明のガラス基板は粘度ηが10ポイズ(dPa・s)となる温度Tが比較的低いのでフロート成形に適している。温度Tはフロート成形性の観点から、好ましくは1350℃以下、より好ましくは1325℃以下、さらに好ましくは1300℃以下、特に好ましくは1290℃以下である。
なお、温度Tおよび温度Tは、ASTM C965-96に規定されている方法に従い、回転粘度計を用いて測定できる。
<ヤング率>
本発明のガラス基板のヤング率は、70GPa以上、さらには75GPa以上が好ましい。ヤング率はJIS Z2280(1993年)に規定されている方法に従い、超音波パルス法により測定できる。
<光弾性定数>
本発明のガラス基板の光弾性定数は、33nm/MPa/cm以下が好ましい。
液晶ディスプレイパネル製造工程や液晶ディスプレイ装置使用時に発生した応力によってガラス基板が複屈折性を有することにより、黒の表示がグレーになり、液晶ディスプレイのコントラストが低下する現象が認められることがある。
光弾性定数を33nm/MPa/cm以下とすることにより、この現象を小さく抑えることができるため、好ましい。また、光弾性定数はより好ましくは32nm/MPa/cm以下、さらに好ましくは30nm/MPa/cm以下である。
本発明のガラス基板の光弾性定数は、他の物性確保の容易性を考慮すると、21nm/MPa/cm以上が好ましく、23nm/MPa/cm以上がより好ましい。なお、光弾性定数は円板圧縮法により測定波長546nmにて測定する。
<比誘電率>
本発明のガラス基板をインセル型のタッチパネル(液晶ディスプレイパネル内にタッチセンサを内蔵したもの)に適用する場合、タッチセンサのセンシング感度の向上、駆動電圧の低下、省電力化の観点から、ガラス基板の比誘電率が高いほうがよい。
したがって、本発明のガラス基板の比誘電率は5.0以上とすることが好ましく、5.5以上とすることがより好ましく、5.7以上とすることがさらに好ましい。なお、比誘電率はJIS C-2141(1992年)に記載の方法で測定できる。
<β-OH値>
本発明のガラス基板のβ-OH値は、ガラス基板の要求特性に応じて適宜選択できる。ガラス基板の歪点を高くする観点からはβ-OH値が低いことが好ましい。具体的には、β-OH値は0.50mm-1以下が好ましく、0.45mm-1以下がより好ましく、0.40mm-1以下がさらに好ましい。
β-OH値は、原料溶融時の各種条件、たとえば、ガラス原料中の水分量、溶解窯中の水蒸気濃度、溶解窯における溶融ガラスの滞在時間等によって調節できる。
[TFTの製造方法]
次に、本発明の理解を助けるため、ガラス基板を用いたTFT素子10の製造方法について、図5に示すトップゲートコプラナー型のLTPS-TFTの製造方法を一例に挙げて説明するが、本発明のガラス基板の用途はこれに限定されない。
必要な場合はまず、ガラス基板11の一方の主面上にバリア膜12を成膜する。バリア膜12は、例えば酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素またはアルミナ等で構成されるが、省略されてもよい。次に、バリア膜12(またはガラス基板11)上に、半導体としてアモルファスシリコン層が形成される。
次に、熱処理を施すことでアモルファスシリコン層中の水素濃度を減少させると、後続プロセスにおける膜剥がれ等を防ぐことができる。この熱処理は、例えば450~600℃の範囲で行われる。次に、レーザアニールによりアモルファスシリコンを結晶化してポリシリコン層13を得る。レーザアニールは、例えば、波長308nmのエキシマレーザを照射する方法で行われる。その後、ポリシリコン層13を所定の形状にパターニングする。パターニングは、たとえばフォトリソグラフィーおよびエッチング法等により行われる。続いて、絶縁膜と導電膜を形成する。この絶縁膜は例えば、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナで構成され、後にゲート絶縁膜14aとなる。絶縁膜の厚さは、例えば30~600nmである。また導電膜は、例えばクロム、モリブデン、アルミニウム、銅、銀等の金属またはそれらを含む合金等で構成され、後にパターニングされてゲート電極15となる。導電膜の厚さは、例えば30~600nmである。
ゲート電極15の形成後、ポリシリコン層13のゲート電極15から突出している部分について、電気抵抗値を下げる処理(低抵抗化処理)を行う。低抵抗化処理は、例えばB(ホウ素)イオンをポリシリコン層13にイオン注入する等の方法で行われる。さらに、熱処理によって注入されたイオンが活性化される。この熱処理は、例えば450~600℃で10~60分処理すればよい。
次に、層間絶縁膜14bを形成する。層間絶縁膜14bは、例えば酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素またはアルミナ等で構成される。層間絶縁膜14bは、ゲート電極15の両側でポリシリコン層13の突出部分の一部が露出するようにパターニングされる。
次に、ソース電極16およびドレイン電極17を形成する。これらの電極は、例えばクロム、モリブデン、アルミニウム、銅、銀等の金属またはそれらを含む合金等で構成された導電膜を製膜した後にパターニングして形成される。
次に、それらを覆うように、パッシベーション膜18を形成する。パッシベーション膜18は、例えば、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナで構成される。その厚さは例えば30~600nmである。
以上のようにしてTFT素子10が製造できる。
[ガラス基板の用途]
本発明のガラス基板の用途は特に限定されないが、液晶表示装置等のディスプレイ用のガラス基板等として有用である。
以下に、本発明の例を挙げて本発明の効果についてより具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
ガラス原料を溶解し、フロート法で成形して例1~5のガラス基板を得た。なお、いずれの例もフロート法においてガラスリボンがフロートバスを出てから搬送ローラーに接触するまでの間に、ガラスリボンのボトム面に対してSOガスの吹き付けを行った。
得られたガラス基板の組成を酸化物基準の質量%表示で、表1に示す。なお、例1は、従来の製造条件で製造したものであり、例2、3はフロートバス内の水蒸気濃度がやや高くなるようにして製造したものであり、例4、5はフロートバス内の水蒸気濃度をさらに高くして製造したものである。
なお、フロート法で得られるガラス基板においてSiO、Al、B、MgO、CaO、SrOおよびBaOについてはガラス溶融過程で組成がほぼ変動しないため、これらの成分の含有量は、ガラス原料の配合量から求めた。
ガラス基板内部のNaO量については、得られたガラス基板を粉末化し、得られたガラス粉末を硫酸、硝酸およびフッ化水素酸で加熱分解した後、硫酸白煙が生じるまで濃縮し、希硝酸に溶かした定容液を得て、定容液中のNa濃度をICP質量分析法で定量して求めた[単位:質量ppm]。
ガラス基板表面のNaO量については、ガラス基板のボトム面側の表面のNaO量をC60スパッタTOF-SIMS法を用いて、前述の方法で測定した。測定条件は以下のとおりとした。
測定装置:ION-TOF社製 TOF.SIMS5
一次イオン種:Bi
一次イオンの加速電圧:25kV
一次イオンの電流値:1pA(at 10kHz)
一次イオンのラスターサイズ:20×20μm
一次イオンのバンチング:あり
スパッタイオン種:C60 ++
スパッタイオンの加速電圧:10kV
スパッタイオンの電流値:1.1nA(at 10kHz)
スパッタイオンのラスターサイズ:100×100μm
スパッタモード:non-interlaced mode
真空度:5.0×10-6mbar
例1~5のガラス基板について、β-OH値、密度、ヤング率、50~350℃における平均熱膨張係数、T、T、ガラス転移点、歪点、光弾性定数、比誘電率を測定した結果を表1に示す。
Figure 0007136184000001
(傷つきやすさの評価)
ガラス基板表面のNaOと雰囲気中のSOとの反応で硫酸塩が生成し、硫酸塩が緩衝潤滑材となって傷を防止すると考える。ガラス基板表面の硫酸塩量を測定し、傷つき易さを評価する。硫酸塩量が多い程、傷を抑制する効果が高いと考える。ガラス基板表面の硫酸塩量は、蛍光X線を用いたS量測定で測定できる。
S量測定は、蛍光X線分析装置(メーカ:リガク、型式:ZSX-PrimusII)を使用し、測定条件は、Target Rh 管電圧は50KV、管電流は60mVとした。光学条件は、アッテネーター1/1、スリットS4とし、分光結晶Ge、検出器はPCとした。
いくつかのスタンダードサンプルを用いて検量線を作成し、検量線を用いて各サンプルの硫酸塩量を測定した。各サンプルのS量測定の結果は、以下の表2に示す。
Figure 0007136184000002
次に、各サンプルについて、摩擦摩耗試験機(メーカ:(株)新東科学製、型式:TYPE40(高温仕様))を用いて傷の付き易さを評価した。
測定温度:600℃
引掻き圧子:窒化ケイ素製ピン(先端半径 25ミクロン)
荷重条件:10g
圧子移動速度:30mm/min
各サンプルの傷の付き易さ評価の結果は、例1には強い傷が発生し、例2~例5には傷が発生しなかった。例1においては、生成する硫酸塩量が少ないため、傷つき易いという結果となった。
すなわち、ガラス基板表面のNaO量とガラス基板内部のNaO量の差が20未満である例1のガラス基板は、ボトム面表面の硫酸ナトリウムの生成が不十分であったため傷が付きやすく、品質管理上の問題があった。
例2及び3のガラス基板は、ボトム面表面に硫酸ナトリウムが生成したため傷が付きにくかった。例4及び5のガラス基板はボトム面表面に硫酸ナトリウムが多量に生成したため、さらに傷付きにくかった。
また、例2~5のいずれのガラス基板も表面NaO量が十分に小さいことからボトム面上にTFTを形成した場合のTFT特性の低下が少ないことが考えられ、例3及び5のガラス基板は、特に表面NaO量が特に小さいため、TFT特性の低下が特に少ないことが考えられる。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2018年3月9日出願の日本特許出願(特願2018-043493)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
100…フロートガラス製造装置
1…溶融スズ
2…フロートバス
3…溶解窯
4…溶融ガラス
5…搬送ローラー
6…徐冷炉
10…TFT素子
11…ガラス基板
12…バリア膜
13…ポリシリコン層
14…絶縁層
14a…ゲート絶縁膜
14b…層間絶縁膜
15…ゲート電極
16…ソース電極
17…ドレイン電極
18…パッシベーション膜

Claims (8)

  1. 歪点が650℃以上であり、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7~45×10-7/℃である無アルカリガラス基板であって、
    酸化物基準の質量%表示で
    SiOを54~66%、
    Alを10~25%、
    を0.1~12%、
    MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群から選択される1以上の成分を合計で7~25%含有し、
    NaOを150~2000質量ppm含有し、
    少なくとも一方の主面におけるガラス基板表面のNaO量がガラス基板内部のNaO量より40質量ppm以上少ない無アルカリガラス基板。
  2. 少なくとも一方の主面におけるガラス表面のNaO量が500質量ppm以下である請求項1の無アルカリガラス基板。
  3. ガラス基板内部のNaO量が300質量ppm以上である請求項1または2に記載の無アルカリガラス基板。
  4. ガラス粘度が10dPa・sとなる温度Tが1350℃以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の無アルカリガラス基板。
  5. ガラス粘度が10dPa・sとなる温度Tが1800℃以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の無アルカリガラス基板。
  6. β-OH値が0.50mm-1以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の無アルカリガラス基板。
  7. フロート法で得られた請求項1~6のいずれか一項に記載の無アルカリガラス基板。
  8. 前記一方の主面がボトム面である請求項7に記載の無アルカリガラス基板。
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