JP7135596B2 - 水素発生用電極の製造方法及び水素発生用電極を用いた電気分解方法 - Google Patents

水素発生用電極の製造方法及び水素発生用電極を用いた電気分解方法 Download PDF

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Description

本発明は水の電気分解又は食塩などのアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解に使用する水素発生用電極の製造方法及び水素発生用電極を用いた電気分解方法に関するものである。
水又はアルカリ金属塩化物水溶液の電解工業は電力多消費型産業であり、省エネルギー化のために様々な技術開発が行われている。その省エネルギー化の手段とは、電解電圧の低減、及び/又は、電流効率の向上により、電解時に発生する電力ロスを削減することである。例えば、食塩電解工業において、電流効率は95%以上で操業されており、向上余地は少ない。それに対し、電解電圧は理論分解電圧の約2.3Vに対し3.0V前後で操業されており、電圧削減余地が大きく、電圧を削減するための研究開発が盛んに成されている。
中でも、陰極過電圧を低減するための水素発生用電極、いわゆる活性陰極に関しこれまで多くの提案がなされ、近年、導電性基材上に担持された白金を含む触媒層からなる活性陰極が提案されている。
例えば、特許文献1には「導電性基材上に、白金と遷移金属元素との白金合金が担持されてなる」水素発生用電極が提案されている。
また、特許文献2には「導電性基材上に、白金、ニッケルおよびパラジウムを主成分とする触媒層が担持されてなる」水素発生用電極が提案されている。
これらの水素発生用電極は、何れも、長期間にわたり十分な低水素過電圧性能が得られる優れた特性を有し、水又はアルカリ金属塩化物水溶液の電解工業の省エネルギー化に貢献している。
しかし、いずれの水素発生用電極も、製造過程において「水又はアルカリ金属塩化物水溶液中での電気化学的還元処理」を行うが、該電気化学的還元処理により、時として、本来の特性が得られない場合があった。すなわち、電気化学的還元処理を行い製造された導電性基材上に担持された白金を含む触媒層からなる水素発生用陰極で、本来より5~30mVも高い水素過電圧性能を示す場合が有り、本来の低水素過電圧性能を安定的に得られる水素発生用電極の製造方法が求められている。
特開2005-330575号公報 特開2015-143389号公報
本発明の目的は、水又はアルカリ金属塩化物水溶液電解工業等で使用可能で、低水素過電圧性能を安定的に得られる、導電性基材上に担持された白金を含む触媒層からなる水素発生用電極の製造方法を提供することにある。
発明者は上記の課題を解決するために、導電性基材上に担持された白金を含む触媒層からなる水素発生用電極の製造方法について、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、導電性基材上に担持された白金を含む触媒層と、pHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液とを接触させることを特徴とする水素発生用電極の製造方法である。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の水素発生用電極の製造方法は、導電性基材上に担持された白金を含む触媒層と、pHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液とを接触させることが必須である。
本発明に用いる水溶液はpHが2.5~4.0であることが必須である。pHが2.5未満の場合は導電性基材が腐食したり、触媒層が脱落したりして、本発明の効果が得られない。また、pHが4.0を超える場合は安定的に低過電圧性能を得ることができない。好ましくはpHが2.9~3.5であり、より好ましくはpHが2.9~3.3である。なお、水溶液のpHは市販のpH計で測定すればよい。
本発明では、水溶液のpHを2.5~4.0にできれば、その方法に限定はない。所謂、酸を適量添加すればよい。例えば、塩酸、硝酸、硫酸などの鉱酸や、ぎ酸、酢酸、クエン酸、アスパラギン酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸などの有機酸の1種以上を水に添加し、pHを2.5~4.0にすればよい。
本発明に用いる水溶液は酸化還元電位、すなわちORPが100mV以下であることが必須である。ORPが100mVを超える場合は安定的に低過電圧性能を得ることができない。好ましくはORPが50mV以下である。ORPの下限はない。なお、水溶液のORPは市販のORP計で測定すればよい。
本発明では、水溶液のORPを100mV以下にできれば、その方法に限定はない。例えば、水に酸を添加し、pHを2.5~4.0に調整した時点で、ORPが100mV以下になっていればそのまま本発明に使用可能である。
しかし、通常、ORPは100mVを超えるため、例えば、所謂、還元剤を適量添加し、ORPを100mV以下に調整する。例えば、アスコルビン酸ナトリウム、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウムなどの還元剤を添加し、ORPを100mV以下にすればよい。ORPを100mV以下に調整する別の方法としては、例えば、窒素やアルゴン等の不活性ガスを吹込むこともできる。これらのORPを100mV以下に調整する方法のうち、コスト面から、還元剤を添加する方法が好ましい。
上記の通り、酸、及び/又は、還元剤を水に添加し、pHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液を作製し、前記水溶液を導電性基材上に担持された白金を含む触媒層に接触させればよい。
前記触媒層と前記水溶液とを接触させる方法に特に制約はない。例えば、適当な容器に前記水溶液を入れ、その中に前記触媒層が担持された導電性基材を一定時間投入すればよい。
水溶液の温度は、水溶液の融点を超え、沸点未満であればよい。温度が高いと還元剤が分解する場合があるので、好ましくは40℃以下であり、さらに好ましくは、10~35℃であり、所謂、室温でよく、特段の加熱や冷却は不要である。
水溶液と接触させる時間に特段の制約はないが、本発明の効果をより発揮させるため、1時間以上が好ましい。また、基材の腐食を防ぐために、240時間以下が好ましい。特に好ましくは10時間以上、48時間以下である。
本発明に用いる触媒層は白金を含むことが必須である。白金を含むことで水素発生時の過電圧が極めて低い水素発生用電極が製造可能である。また、好ましくは、前記触媒層はニッケル、パラジウムの少なくとも何れか一方を含むものであり、特に好ましくは、前記触媒層は白金、ニッケル及びパラジウムを含むものである。
前記触媒層は導電性基材に担持されていることが必須である。用いられる導電性基材の材質は、例えば、ニッケル、鉄、銅、チタン、ステンレス合金鋼が挙げられ、特にアルカリ性溶液に対して耐食性の優れたニッケルが好ましい。
導電性基材の形状は、特に限定されるものではなく、一般に電解槽の電極に合せた形状でよく、例えば、平板、曲板等が使用可能である。
また、用いられる導電性基材は、多孔板が好ましく、例えば、エキスパンドメタル、パンチングメタル、網等が使用できる。
前記導電性基材に前記触媒層を担持する方法は特に制約はなく、特許文献1や特許文献2に記載の従来手法(触媒成分を含有した液を基材に塗布し、熱分解する)を、適宜、用いればよい。前記触媒層の組成も特に制約はなく、特許文献1や特許文献2に記載の従来組成(白金と、ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種の遷移金属元素との白金合金であって、白金合金中の白金含有量が、モル比で0.40~0.99の範囲、または、白金、ニッケルおよびパラジウムを主成分とする触媒層)が本発明に好ましく適用可能である。
前記触媒層を担持する方法は、例えば、白金を含む触媒層形成用液を前記導電性基材上に塗布、乾燥、熱分解し、導電性基材上に触媒層を形成することができる。前記触媒層形成用液にはニッケル、パラジウムの何れか一方、または、両方を含んでもよい。熱分解は、例えば、350~500℃で5~60分が例示される。前記塗布、乾燥、熱分解の一連の作業を、所定回数繰り返せばよく、例えば、2~15回繰り返せばよい。
触媒層形成用液は、例えば、白金化合物、ニッケル化合物、パラジウム化合物を溶媒に溶解することで作製できる。
触媒層形成用液の作製に用いられる白金化合物は、例えば、塩化白金酸、ジニトロジアミン白金などの白金塩等を用いることができる。特にアンミン錯体を形成するジニトロジアンミン白金を用いると、還元処理後の白金合金の結晶子径を例えば200オングストローム以下まで微細化し、反応比表面積を増大させられるため好ましい。これは、前記ジニトロジアミン白金は熱分解温度が約550℃と高いために、熱分解中の白金の凝集が抑制される。
触媒層形成用液の作製に用いられるニッケル化合物、パラジウム化合物は、触媒層の組成が均一になり易く、また、担持物の表面積を高め易い等のため、溶媒に可溶な原料が好ましく、例えば、ニッケル塩、ニッケル微粒子、パラジウム塩、パラジウム微粒子等があげられる。ニッケル塩、パラジウム塩における塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、酢酸塩、スルファミン酸塩などの塩類等を用いることができる。
前記溶媒は白金化合物とニッケル化合物とパラジウム化合物が完全に溶解できるものが好ましく、水、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、酢酸などの有機溶媒、またはこれらを混合物として用いることもできる。また、塗布液中へ基材金属の溶解を抑制する目的で触媒層形成用液のpHを調製して用いてもよく、担持物の表面積を高めるためにリシン、クエン酸等の錯塩を添加し、ニッケルおよびパラジウムを錯体化させてもよい。
本発明の水素発生用電極の製造方法で形成される触媒層の組成(白金、ニッケル及びパラジウムの比率)は、触媒層形成用液の組成で定まるため、触媒層形成用液の白金、ニッケル及びパラジウムは、所望の水素発生用電極の触媒層の組成と同一に調整すればよい。また、触媒層形成用液の金属成分濃度は、特に限定されるものではなく、例えば、白金濃度を40~80g/Lとし、ニッケル及びパラジウムを白金に対して所望の比率になるようにすればよい。
前記導電性基材は、予め基材表面を粗面化することが好ましい。これは、粗面化によって接触表面積を大きくでき、基材と担持物の密着性が向上するためである。粗面化の手段としては特に限定されず、公知の方法、例えば、サンドブラスト処理、蓚酸、塩酸溶液などによりエッチング処理し、水洗、乾燥する方法等を用いることができる。
前記触媒層形成用液を前記導電性基材に塗布する方法は、例えば、白金塩を、必要であれば、ニッケル塩とパラジウム塩をも含む触媒層形成用液を、刷毛などを用いて導電性基材に塗布してもよい。また、刷毛塗り以外にスプレー法、ディップコート法など、全ての既知の方法を好適に用いることができる。
塗布後の乾燥温度は、例えば、200℃以下の温度で5~60分間行えばよく、150℃以下の乾燥温度が好ましい。
乾燥後の熱分解温度は、例えば、200℃を超え700℃以下の範囲で5~60分間行えばよいが、好ましくは350℃を超え500℃以下の範囲で行うとよい。例えば、ジニトロジアミン白金溶液を用いた場合、ジニトロジアミン白金の熱分解温度は550℃であり、500℃以下で熱分解を行うことで白金のシンタリングが抑制され、水素過電圧がより一層低い水素発生用電極を得ることができる。
本発明では、前記触媒層形成用液の塗布量、塗布回数は特に制約はなく、例えば、導電基材の投影面積あたり13~31mL/mに制御して塗布した後、乾燥、熱分解する工程を4~8回繰返し、最終的な触媒層重量として10g/m以上とすればよい。触媒層の重量は、12g/m以上が好ましく、14g/m以上であることがさらに好ましい。
また、触媒層形成用液は基材の片面のみに塗布しても良いが、特に基材が多孔板の場合は、両面に塗布することが好ましい。
本発明では、前記塗布、乾燥、熱分解を終えた後、300~500℃で0.2~8時間、焼成を行ってもよい。
前記方法などにより導電性基材に形成した触媒層について、金属状態に還元、合金化させることを目的とした還元処理を行うことが好ましい。還元処理方法は特に限定されないが、例えば、ヒドラジン、ギ酸、蓚酸などの還元力の強い物質との接触による化学還元法、白金とニッケルとパラジウムに対し、還元電位を与える電気化学的還元法等を用いることができる。好ましくは、水又はアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解をするときの陰極に用いて行う電気化学的還元法が好ましい。なお、本発明でいう「水の電気分解」とは、「純水の電気分解」ではなく、「NaOH、KOH、HCl、HSO等の電解質を含む水の電気分解」を意味する。例えば、前記の導電性基材上に担持された白金を含む触媒層をイオン交換膜法食塩電解槽に陰極として取り付け、食塩電解を行えば、前記触媒層が電気化学的に還元される。
食塩電解条件は、特に制約はなく、イオン交換膜法食塩電解の電解条件をそのまま適用すればよい。例えば、温度:70~90℃、電解電流密度:1~10kA/m2で実施すればよく、好ましくは、温度:80~88℃、電解電流密度:3~8kA/m2である。触媒層の還元時間は、特に制約はないが、3分間以上継続すればよく、時間の上限はない。
特許文献1や特許文献2に記載の水素発生用電極は優れた性能を発揮するものの、従来の製造方法で製作すると、場合によっては80mVを超える過電圧を示す場合がある。ところが、本発明の製造方法(請求項1)を適用することによって、80mV未満の優れた過電圧を示す水素発生用電極が容易に得られる。
従来の製造方法では80mVを超える過電圧を示す場合がある原因は必ずしも明確でないが、前記還元処理時に鉄などで被毒されることがあるためと想定される。このため、電気化学的還元を施したのち、触媒を脱落させることなく被毒物質を除去する工程が必須である。本発明の製造方法である、導電性基材上に担持された白金を含む触媒層と、pHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液とを接触させることで、触媒を脱落させることなく被毒物質が除去されるものと推定している。
従って、本発明は水又はアルカリ金属塩化物水溶液中での電気化学的還元処理を施した後、pHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液と前記触媒層を接触させることが好ましい。触媒層の還元時間は、前記の如く、3分間以上継続すればよく、還元処理を3分間で止め、その後、pHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液と前記触媒層を接触させてもよい。
また、導電性基材上に担持された白金を含む触媒層は、一定期間、水又はアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解の陰極として使用した後のものであっても、pHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液と接触させることで本発明の効果を得ることができる。この触媒層は、前記した触媒層の電気化学的還元処理を施した後のものであってもよく、電気化学的還元処理を施さないものでもよい。さらに、この触媒層をpHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液に接触させる前に、電気化学的還元処理を施してもよく、電気化学的還元処理を施さなくてもよい。例えば、触媒の還元が終了した後、4~8年間、水又はアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解の陰極として使用した後に、pHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液と前記触媒層を接触させることによって、水素発生過電圧が80mV未満の水素発生用電極を得ることができる。
導電性基材上に担持された白金を含む触媒層を、pHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液と接触させる場合には、当該触媒層を、水又はアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解に用いる電解セルから取り外し、pHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液と接触させることで、本発明の効果を得ることができる。その他の方法として、当該触媒層を、水又はアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解に用いる電解セルから取り外すことなく、前記導電性基材上に担持された白金を含む触媒層が陰極として装着された状態で、pHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液と接触させることでも本発明の効果を得ることができる。電解セルから取り外さない場合は、電解セルから前記導電性基材上に担持された白金を含む触媒層の取り外しや再取り付けが不要となり、陰極製造がより簡便に実施可能である。
例えば、前記導電性基材上に担持された白金を含む触媒層が陰極として装着された状態で、ビニールシートを隔膜に用いて電解セルを組み立て、陰極室にpHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液を満たせば、前記触媒層とpHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液を接触させることが可能である。
また、例えば、前記導電性基材上に担持された白金を含む触媒層が陰極として装着された状態で、2つの陰極を、各々、対向させた状態で電解セルを組み立て、該陰極室にpHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液を満すことでも、前記触媒層とpHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液を接触させることが可能である。
上記の方法で陰極を製造した後、電解セルを解体し、例えば、陽イオン交換膜を隔膜に用いて電解セルを組み立て、水又はアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解を実施すれば、従来よりも低電圧で電気分解を実施することが可能である。
本発明の水素発生用電極は、水又はアルカリ金属塩化物水溶液を電気分解し、前記陰極上から水素ガス及びアルカリ金属水酸化物水溶液を生成し、陽極上から酸素ガス又は塩素ガスを生成することを特徴とする電解、すなわち、隔膜を挟んで陽極を配置した電解槽で水又は食塩などのアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解での用途において、水素発生用電極として用いると、低水素過電圧が得られると共に、陰極液中に鉄イオンを混入させない特別な工夫をすることなく低過電圧特性を長期間安定に維持し、かつ、停止や再起動操作時に触媒が剥離や脱落を生じることもない、すなわち、水素過電圧性能と耐久性に極めて優れた水素発生用電極である。ここで、隔膜とは、代表的に、陽イオンを選択的に透過する陽イオン交換膜などが挙げられる。
従って、水又は食塩などのアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解工業分野において、水素発生用電極を本発明が提供する製造方法で製造された水素発生用電極に変更するのみで、当該電気分解工業の所要エネルギーが低減可能となる。
本発明によれば、初期の水素過電圧が十分に低く、かつ、耐久性に優れた水素発生用電極が容易に得られ、水又はアルカリ金属水溶液の電気分解工業等の所要エネルギーを大幅に削減可能である。
以下の実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
<導電性基材>
導電性基材はニッケルエキスパンドメタルを用いた。ニッケルエキスパンドメタルは、前処理として、10wt%の塩酸溶液を用いて温度50℃で10分間エッチングした後、水洗、乾燥した。
<触媒層形成用液の作製>
白金とニッケルを含む触媒層形成用液は、白金含有量が100g/Lのジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製)60mLに硝酸ニッケル6水和物8.94gを溶解し、次いで、水を用いて100mLにメスアップして作製した(白金:50モル%、ニッケル:50モル%)。
白金、ニッケル及びパラジウムを含む触媒層形成用液は、白金含有量が100g/Lのジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製)60mLに硝酸ニッケル6水和物8.94gと硝酸パラジウム2水和物(小島化学薬品製)0.82gを溶解し、次いで、水を用いて100mLにメスアップして作製した(白金:48モル%、ニッケル:48モル%、パラジウム:4モル%)。
<水素発生過電圧の測定>
32wt%水酸化ナトリウム水溶液の電解液(容量約1L)を用いて、対極にNi、温度88℃、電流密度6.0kA/mの条件で10分間、水電解を行い、カレントインタラプター法により、水素発生過電圧を測定した。
<pHの測定>
水溶液のpHは、ポータブル型pHメーター(D-72:株式会社堀場製作所製)に防水プラスチックpH電極(9265-10D:株式会社堀場製作所製)を取付けて測定した。
<ORPの測定>
水溶液のORPは、ポータブル型pHメーター(D-72:株式会社堀場製作所製)に防水白金複合形のORP電極(9300-10D:株式会社堀場製作所製)を取付けて測定した。
実施例1
<触媒層形成用液の作製>で作製した、白金とニッケルを含む触媒層形成用液(白金:50モル%、ニッケル:50モル%)を、ローラーを用いて、1.2m×0.4mのニッケルエキスパンドメタルの片面に10mL/mの塗布量で塗布し、引き続き、ニッケルエキスパンドメタルの他方の面に10mL/mの塗布量で塗布し、熱風式乾燥機内で80℃にて10分間乾燥後、箱型焼成炉を用いて空気流通下のもと400℃で10分間熱分解した。この一連の操作を6回繰り返し、導電性基材上に触媒層を形成した。
次に、前記操作により触媒層を形成した導電性基材から5cm×6cmを切出し、イオン交換膜法食塩電解セルの陰極として取り付けた。前記食塩電解セルの陽極、イオン交換膜は何れも5cm×6cmであった。
前記食塩電解セルの陽極室に飽和塩水を、陰極室に水を供給しながら、18Aの電解電流を印加し、触媒層の電気化学的還元を施した。この時、陰極室、陽極室の温度は88℃、陽極液出口の食塩濃度は200g/L、陰極室出口の水酸化ナトリウム濃度は33wt%であった。また、陰極室に供給した水には鉄が約10ppm存在していた。前記条件で食塩電解を8日間継続し、電解セルを解体し前記触媒層を形成した導電性基材を取り出した。
次に、500mLの水に、クエン酸を13.2gとアスコルビン酸ナトリウムを9.8g溶解させた。この液はpHが3.1で、ORPが45mVであった。
前記のpHが3.1で、ORPが45mVの水溶液中に、電気化学的還元が終了した前記触媒層を形成した導電性基材を浸漬し、室温で24時間、前記液と前記触媒層を接触させ、水素発生用電極を製造した。
その後、前記水素発生用電極の水素発生過電圧を測定した結果、74mVであった。
比較例1
pHが3.1で、ORPが45mVの水溶液と、電気化学的還元が終了した触媒層を接触させなかった以外は実施例1と同様に水素発生用電極を製造し、水素発生過電圧を測定した結果、85mVであった。
実施例2
pHが3.1で、ORPが45mVの水溶液の代わりに、500mLの水にアスコルビン酸を36.0gとアスコルビン酸ナトリウムを5.0g溶解させた水溶液を前記触媒層に接触させた以外は実施例1と同様に水素発生用電極を製造し、水素発生過電圧を測定した結果、75mVであった。
なお、前記水溶液はpHが3.2で、ORPが37mVであった。
実施例3
pHが3.1で、ORPが45mVの水溶液の代わりに、500mLの水にエリソルビン酸を37.5gとエリソルビン酸ナトリウム・1水和物を5.9g溶解させた水溶液を前記触媒層に接触させた以外は実施例1と同様に水素発生用電極を製造し、水素発生過電圧を測定した結果、71mVであった。
なお、前記水溶液はpHが3.2で、ORPが21mVであった。
比較例2
pHが3.1で、ORPが45mVの水溶液の代わりに、500mLの水にアスコルビン酸を0.67gとアスコルビン酸ナトリウムを1.0g溶解させた水溶液を前記触媒層に接触させた以外は実施例1と同様に水素発生用電極を製造し、水素発生過電圧を測定した結果、84mVであった。
なお、前記水溶液はpHが4.3で、ORPが33mVであった。
比較例3
pHが3.1で、ORPが45mVの水溶液の代わりに、500mLの水にアスコルビン酸を0.33g溶解させた水溶液を前記触媒層に接触させた以外は実施例1と同様に水素発生用電極を製造し、水素発生過電圧を測定した結果、81mVであった。
なお、前記水溶液はpHが3.4で、ORPが160mVであった。
比較例4
pHが3.1で、ORPが45mVの水溶液の代わりに、500mLに10%硫酸を滴下し、pHを3.3にした水溶液を前記触媒層に接触させた以外は実施例1と同様に水素発生用電極を製造し、水素発生過電圧を測定した結果、83mVであった。
なお、前記水溶液はpHが3.3で、ORPが255mVであった。
実施例4
白金とニッケルを含む触媒層形成用液(白金:50モル%、ニッケル:50モル%)の代わりに、<触媒層形成用液の作製>で作製した白金、ニッケル及びパラジウムを含む触媒層形成用液(白金:48モル%、ニッケル:48モル%、パラジウム:4モル%)を用いた以外は実施例1と同様に水素発生用電極を製造し、水素発生過電圧を測定した結果、65mVであった。
比較例5
pHが3.1で、ORPが45mVの水溶液と、電気化学的還元が終了した触媒層を接触させなかった以外は実施例4と同様に水素発生用電極を製造し、水素発生過電圧を測定した結果、81mVであった。
実施例と比較例の結果から、本発明の製造方法を適用した場合、水素発生過電圧が80mV以下の低い値が得られるが、本発明の製造方法の範囲を逸脱すると、水素過電圧が80mVを超えることが分かった。
実施例5
pHが3.1で、ORPが45mVの水溶液の代わりに、500mLの水にエリソルビン酸を20.8gとエリソルビン酸ナトリウム・1水和物を5.8g溶解させた水溶液を前記触媒層に接触させた以外は実施例1と同様に水素発生用電極を製造し、水素発生過電圧を測定した結果、79mVであった。
なお、前記水溶液はpHが3.5で、ORPが63mVであった。
実施例6
pHが3.1で、ORPが45mVの水溶液の代わりに、500mLの水にエリソルビン酸を42.5gとエリソルビン酸ナトリウム・1水和物を3.3g溶解させた水溶液を、46時間、前記触媒層に接触させた以外は実施例1と同様に水素発生用電極を製造し、水素発生過電圧を測定した結果、71mVであった。
なお、前記水溶液はpHが2.9で、ORPが52mVであった。
実施例7
pHが3.1で、ORPが45mVの水溶液の代わりに、500mLの水にエリソルビン酸を42.5gとエリソルビン酸ナトリウム・1水和物を1.7g溶解させた水溶液を、46時間、前記触媒層に接触させた以外は実施例1と同様に水素発生用電極を製造し、水素発生過電圧を測定した結果、72mVであった。
なお、前記水溶液はpHが2.6で、ORPが42mVであった。
比較例6
pHが3.1で、ORPが45mVの水溶液の代わりに、500mLの水にエリソルビン酸を42.5g溶解させた水溶液に窒素ガスを吹き込みORPを調整した液と、46時間、前記触媒層に接触させた以外は実施例1と同様に水素発生用電極を製造し、水素発生過電圧を測定した結果、81mVであった。
なお、前記水溶液はエリソルビン酸溶解後にpHが2.3であり、ORPは110mVから、窒素ガスを吹き込み98mVに調整した。
実施例8
<触媒層形成用液の作製>で作製した、白金とニッケルを含む触媒層形成用液(白金:50モル%、ニッケル:50モル%)を、ローラーを用いて、1.4m×0.4mのニッケルエキスパンドメタルの片面に10mL/mの塗布量で塗布し、引き続き、ニッケルエキスパンドメタルの他方の面に10mL/mの塗布量で塗布し、熱風式乾燥機内で80℃にて10分間乾燥後、箱型焼成炉を用いて空気流通下のもと400℃で10分間熱分解した。この一連の操作を6回繰り返し、導電性基材上に触媒層を形成した。
次に、前記操作により触媒層を形成した導電性基材6枚をイオン交換膜法食塩電解セルの陰極として取り付けた。前記食塩電解セルの陽極、イオン交換膜は何れも面積が3.3mであった。
前記食塩電解セルの陽極室に飽和塩水を、陰極室に水を供給しながら、1kAの電解電流を印加し、触媒層の電気化学的還元を施した。次いで、電流を16.4kAに増し、陰極室、陽極室の温度は88℃、陽極液出口の食塩濃度は200g/L、陰極室出口の水酸化ナトリウム濃度は33wt%に調整しながら、食塩電解を7年間実施した。次いで、前記電解セルを解体し、前記触媒層を形成した導電性基材を取り出した。
次に、500mLの水に、エリソルビン酸を39.2gとエリソルビン酸ナトリウム・1水和物を6.2g溶解させた。この液はpHが3.2で、ORPが45mVであった。
前記電解セルから取り出した前記触媒層を形成した導電性基材から5cm×6cmを切出し、前記のpHが3.1で、ORPが45mVの水溶液中に浸漬し、室温で24時間、前記液と前記触媒層を接触させ、水素発生用電極を製造した。
その後、前記水素発生用電極の水素発生過電圧を測定した結果、77mVであった。
比較例7
pHが3.2で、ORPが45mVの水溶液と、前記電解セルから取り出した前記触媒層とを接触させなかった以外は実施例8と同様に水素発生用電極を製造し、水素発生過電圧を測定した結果、104mVであった。
実施例9
実施例8と同様に導電性基材に触媒層を形成し、さらに、実施例8と同様に食塩電解を7年間実施した後に電解セルを解体した。
次いで、導電性基材に担持された触媒層が電解セルの陰極として装着された状態で、ビニールシートを隔膜に用いて電解セルを組み立てた。
次に、2mの水に、エリソルビン酸を150kgとエリソルビン酸ナトリウム・1水和物を20kg溶解させた。この液はpHが3.0で、ORPが43mVであった。
前記電解セルの陰極室に、前記のpHが3.0で、ORPが43mVの水溶液を満たし、室温で24時間、前記液と前記触媒層を接触させ、水素発生用電極を製造した。
前記電解セルを解体し、陽イオン交換膜を隔膜に用いて電解セルを組み立て、電流を16.4kA、陰極室、陽極室の温度は88℃、陽極液出口の食塩濃度は200g/L、陰極室出口の水酸化ナトリウム濃度は32wt%に調整しながら、食塩電解を実施したところ、電解電圧は2.97Vを示した。
比較例8
pHが3.0で、ORPが43mVの水溶液の代わりに、pHが7.2で、ORPが250mVの純水を前記触媒層に接触させた以外は実施例9と同様に水素発生用電極を製造した。
前記電解セルを解体し、実施例9と同様に、陽イオン交換膜を隔膜に用いて電解セルを組み立て、電流を16.4kA、陰極室、陽極室の温度は88℃、陽極液出口の食塩濃度は200g/L、陰極室出口の水酸化ナトリウム濃度は32wt%に調整しながら、食塩電解を実施したところ、電解電圧は3.02Vを示し、実施例9に比べ50mV高い値を示した。
実施例9では本発明の製造方法により水素発生用電極を製造したが、比較例8では本発明の製造方法とは異なっていた。その他の条件は同じであったため、実施例9の電解電圧が比較例8の電解電圧に比較して50mVも低い値を示した理由は、実施例9で製造された水素発生用電極が優れた性能を有することを示すものといえた。
本発明の製造方法で得られた水素発生用電極は、水の電気分解又は食塩などのアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解に使用でき、食塩電解工業を始めとして広範な電解工業に利用される可能性を有する。

Claims (7)

  1. 導電性基材上に白金を含む触媒層を担持し、次いで、導電性基材上に担持された白金を含む触媒層と、pHが2.5~4.0で、ORPが100mV以下の水溶液とを接触させることを特徴とする水素発生用電極の製造方法。
  2. 前記導電性基材上に担持された白金を含む触媒層が、水又はアルカリ金属塩化物水溶液中での電気化学的還元処理を施した後のものであることを特徴とする請求項1に記載の水素発生用電極の製造方法。
  3. 前記導電性基材上に担持された白金を含む触媒層が、水又はアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解の陰極として使用した後のものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水素発生用電極の製造方法。
  4. 前記導電性基材上に担持された白金を含む触媒層が、電解セルの陰極として装着された状態であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかの項に記載の水素発生用電極の製造方法。
  5. 前記導電性基材上に担持された白金を含む触媒層が、ニッケル及び/又はパラジウムを含むことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかの項に記載の水素発生用電極の製造方法。
  6. 請求項1~請求項5のいずれかの項に記載の水素発生用電極の製造方法により得た水素発生用電極を陰極として使用し、隔膜を挟んで陽極を配置した電解槽で水又はアルカリ金属塩化物水溶液を電気分解し、前記陰極上から水素ガス及びアルカリ金属水酸化物水溶液を生成し、陽極上から酸素ガス又は塩素ガスを生成することを特徴とする電気分解方法。
  7. 隔膜が陽イオン交換膜であることを特徴とする請求項6に記載の電気分解方法。
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