JP6609913B2 - 水素発生用電極およびその製造方法並びにこれを用いた電気分解方法 - Google Patents

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Description

本発明は水の電気分解又は食塩などのアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解に使用する水素発生用電極およびその製造方法並びにこれを用いた電気分解方法に関するものである。
水又はアルカリ金属塩化物水溶液電解工業は電力多消費型産業であり、省エネルギー化のために様々な技術開発が行われている。その省エネルギー化の手段とは、理論分解電圧、液抵抗、隔膜抵抗、陽極過電圧、及び、陰極過電圧などで構成される電解電圧を実質的に低減することである。特に、過電圧の低減に関しては、その過電圧値が電極の触媒材料や電極表面のモルフォロジーに左右されることから、その改良についてこれまで多くの研究開発が行われてきた。イオン交換膜法食塩電解においては、陽極過電圧の低減に盛んな研究開発が行われてきた結果、陽極過電圧が低く、耐久性に優れた寸法安定性電極[例えば、ペルメレック電極社製のDSE電極(登録商標)]が完成し、既に食塩電解工業を初め広い電解工業分野で利用されている。
一方、陰極過電圧を低減するための水素発生用電極、いわゆる活性陰極に関してもこれまで多くの提案がなされている。一般的に水素過電圧を低下させる手段としては、担持触媒の活性向上と反応比表面積の増加であり、活性向上には、導電性基材上に特定組成の金属混合物、金属合金、金属酸化物あるいはこれらの混合物からなる高活性触媒の担持、比表面積増加はその担持方法により向上させており、主な担持方法としては、触媒成分や金属塩を溶解させた浴から触媒成分を電析させる電気めっき法、金属塩溶液に触媒物質を分散させた浴から触媒成分を電気泳動電着させる分散めっき法、溶融状態の触媒物質を基材に直接溶射する溶射法、金属塩の溶液などを塗布、焼成する熱分解法が挙げられる。
従来、鉄陰極の約400mVという水素過電圧より低い水素過電圧の電極として、例えば、電気めっき法で導電性基材表面に、ニッケルと鉄、コバルト、インジウムとの組み合わせに加えてアミノ酸、カルボン酸、アミンなどの有機化合物を含んだ物質を担持したものが開示されている(特許文献1)。しかし、これらは担持物を非常に厚くすることが必要なため、めっき応力による電極の変形や担持物の剥離が起こりやすいことや、これらの卑金属は活性が低いため、卑金属の合金化による活性向上だけでは水素過電圧を低下させる効果としては不十分なものであった。
また、ニッケルとモリブデンからなる合金層をアークイオンプレーティング法で担持したものが開示されている(特許文献2)が、初期水素過電圧は十分低いものの長期電解運転における水素過電圧上昇、いわゆる耐久性に課題があった。
一方、ニッケルおよび/又はコバルトと、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、シリコンから選ばれる成分、および白金等の貴金属から選ばれる3成分合金からなる水素発生用電極が開示されている(特許文献3)。この電極は、前記3成分からなる合金からアルミニウム、亜鉛、マグネシウム、シリコンから選ばれる成分を溶出・除去し、ラネー型ニッケルおよび/又はラネー型コバルト触媒を水素発生用電極に使用することを骨子としたもので、貴金属成分をモル比で0.4未満微量添加することによって、ニッケルおよび/又はコバルトが水酸化ニッケルあるいは水酸化コバルトに変質することによる電極活性の劣化を阻止することで耐久性向上を図ったものである。しかし、この電極はニッケルおよび/又はコバルトの比表面積の増加によって水素過電圧を低減しているため、触媒から成分を除去する工程が必要なことや、担持物を数十〜数百μmまで厚くする必要があり、製作コストが非常に高いなどの問題があった。なお、特許文献3には、貴金属成分をモル比で0.4以上にしても、水素発生過電圧の低減効果は無いと記載されている。
この他に、白金族金属酸化物とNi等の酸化物との混合物や複合酸化物を使用することが従来から提案されてきた。例えば、特許文献4には、白金族金属化合物とNi等の金属化合物の混合溶液を塗布乾燥してから該金属化合物を酸化するに十分な条件、すなわち、空気や酸素等の酸化性気流中且つ高温で加熱処理し白金族金属酸化物とNi酸化物等との混合酸化物や複合酸化物からなる電極を製造する方法が提案されている。特許文献4の実施例3には、塩化白金酸と塩化ニッケルと塩化ルテニウムの混合溶液をニッケル基材状に塗布し乾燥した後、470〜480℃で熱分解して製作した白金とニッケルとルテニウムの酸化物が被覆された水素発生用電極が開示されており、特許文献4に記載された熱力学計算による実際の絶対再現性電圧から過電圧に換算すると、1週目の過電圧は42mVと十分満足できるものの、電解経過と共に過電圧が上昇しており、6週目の水素発生過電圧は87mV、11週目以降は97mVである。従って、5kA/m以上の電流密度で使用した場合、過電圧は低くとも100mV以上と予想され、改善すべき課題があった。
一方、上記の他にも、貴金属族元素と卑金属元素を複数組み合わせた水素発生用電極が従来から提案されている。例えば、特許文献5には、1種類の貴金属又は2種類若しくは3種類以上の貴金属の混合物若しくは合金からなる貴金属沈着物や、該貴金属沈着物にNi等の1種類又は2種類以上の卑金属を含んだ沈着物をNi等の導電性基材上に沈着させた水素発生用電極が提案されている。しかし、これらの水素発生用電極は、電解液中の鉄等の不純物による被毒を受け易いという課題を持つことが知られている(特許文献6)。
この様に、従来から、貴金属を担持して成る水素過電圧が低い水素発生用電極が提案されているが、白金を担持して成る水素発生用電極は電解液中に存在する微量の鉄イオンに対して敏感に被毒の影響を受け易く、鉄イオン濃度が1ppm以下の微量濃度でも水素過電圧は上昇するため、電解液中に鉄イオンが混入しやすいアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解工業等での使用に更なる改善が検討されている。
そのため、電解液中の鉄イオンによる被毒防止を目的に幅広く検討が成され、様々な提案が成されている。例えば、低い水素過電圧を有する水素発生陰極をアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解に用いた場合の、該陰極上への鉄の析出と陰極液中の鉄イオンとの関係を検討し、陰極液中の鉄イオン濃度が0.5ppm以下の場合には鉄の析出が防止可能であることを見出し、低水素過電圧陰極を用い、且つ、陰極液中の鉄イオン濃度を0.5ppm以下に維持しながら電解するアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解方法が提案されている(特許文献6)。かかる発明により、鉄イオンに対して敏感に被毒の影響を受ける水素発生用電極も、アルカリ金属塩化物水溶液の電気分解工業等での使用が可能になった。しかし、特許文献6の提案を実施するためには、陰極液に接する部分の少なくとも陽分極される箇所に高Ni系ステンレス或いはNi等の材料を用いたり、停止時に防食電流を流したりする等が必要であり、経済的観点から改善すべき課題があった。
また、鉄イオンにより過電圧が上昇した水素発生用電極から鉄を除去する方法が検討され、鉄の析出で水素過電圧が悪化した水素発生用電極から鉄を除去し再利用する提案が成されてきた。例えば、表面上に析出された鉄と反応し、且つそれを可溶化する液体媒体と接触させることからなる陰極表面に析出された鉄を除去する方法が提案された(特許文献7)。この方法を用いることにより、鉄イオンにより過電圧が上昇した水素発生用電極の再利用が可能となったが、当該提案を実施するためには電気分解を頻繁に停止する必要があり、長期間連続で安定に操業することが出来ない。従って、この場合も経済的観点から改善すべき課題があった。
さらに、水素発生用電極自体に鉄イオンが付着しがたい、或いは、付着しても性能が劣化しない特性を付与するための試みが従来から広く行われてきた。例えば、白金およびルテニウムと、金又は銀の少なくとも一方を含む触媒、或いは、さらに有機ポリマーの粒子を含む触媒を導電性基材に担持した水素発生用電極が提案された(特許文献8)。該水素発生用電極は陰極液中に鉄イオンが存在しても過電圧の上昇は極僅かであり、アルカリ金属塩化物水溶液の電気分解のエネルギー使用量を削減しうる点においては確かに優れた特性を有する水素発生用電極である。しかし、白金、金および銀は何れも高価な材料であり、これにポリテトラフルオロエチレンを含ませる場合は、なお一層、高価となる。従って、この場合もなお、経済的観点から改善すべき課題があった。
一方、白金とセリウムからなる触媒を用いた水素発生用電極が提案されている(特許文献9)。当該白金とセリウムの触媒からなる水素発生用電極は、過電圧が低く且つ鉄イオンによる影響は抑制され、アルカリ金属塩化物水溶液の電気分解用の水素発生用電極として優れた性能を示す。またさらに、白金とセリウムとパラジウムからなる触媒層を用いた水素発生用電極が提案されている(特許文献10)。当該白金とセリウムとパラジウムからなる触媒を用いた水素発生用電極は、白金とセリウムのみからなる触媒を用いた水素発生用電極より、水素過電圧がさらに20mV程度低下しており、非常に優れた性能をもつ。
また、鉄イオンの被毒の影響が小さい水素発生用電極として、ニッケル、コバルト、銅、銀および鉄の群から選ばれる一種の金属と白金からなる白金合金、あるいは遷移金属元素と白金との非晶質物質からなる水素発生電極が提案されている(特許文献11)。
しかしながら、鉄イオンの被毒の影響がまだ大きく、逆電流耐性が十分でなく、水素発生電極の更なる改良が望まれている。
以上述べてきた通り、水又はアルカリ金属塩化物水溶液電解工業の電力消費量を削減する目的で、従来から様々な水素発生用電極および水素発生用電極の使用方法が提案されてきたが、従来の水素発生用電極は水素過電圧特性と、陰極液中の鉄イオンに対する耐被毒性能や起動・停止を余儀なくされる工業的な使用において十分な耐久性を兼ね備え、工業的に満足し得る特性を持つ水素発生用電極は、依然得られていなかった。
特許第3319370号公報 特許第3358465号公報 特開昭59−25985号公報 特開昭59−232284号公報 特開昭57−23083号公報 特開昭60−56082号公報 特開昭60−59090号公報 特開昭63−72897号公報 特開2000−239882公報 特許第5042389号公報 特開2005−330575公報
本発明の目的は、水又はアルカリ金属塩化物水溶液電解工業等で使用可能な、水素過電圧が十分に低く、且つ、鉄イオンによる被毒の影響がなく、さらに、運転中や起動・停止中にも水素過電圧の上昇や担持物の脱落がなく、耐久性に優れた水素発生用電極、該水素発生電極の製造方法、並びに、該水素発生用電極を陰極に用いた電解方法を提供し、水又はアルカリ金属塩化物水溶液電解工業等の電力消費量を削減することにある。特に、熱分解による、白金とニッケル等の遷移金属からなる触媒が担持されて成る水素発生用活性陰極の改良を図り、水素過電圧が低く、且つ、鉄イオンによる被毒耐性や電解運転中や停止・起動操作中に流れる逆電流への耐性を向上させ、電極耐久性が向上した水素発生用電極を提供することにある。
本発明は、導電性基材上に、白金、ニッケルおよびパラジウムを主成分とする触媒層が担持されてなる水素発生用電極に関するものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
導電性基材上に、白金、ニッケルおよびパラジウムからなる触媒層が担持された水素発生用電極は、例えば、導電性基材上に、白金化合物溶液とニッケル化合物溶液とパラジウム化合物溶液を塗布し、200℃以下の温度で乾燥し、その後200℃を超え700℃以下の温度で熱分解して得られた触媒層前駆体の還元処理により触媒層を形成還元処理することにより得られ、還元後のその触媒層は、白金とニッケルとパラジウムの合金が主成分となっている。前記触媒層は水素発生用電極として優れた性能を有する。
さらに、上記還元処理については、電気化学的還元であることが好ましく、水又はアルカリ金属塩化物水溶液を電気分解するときの電気化学的還元であることがより好ましい。
尚、還元後の触媒層中の白金とニッケルとパラジウムの合金の割合について、詳細は不明であるが、X線回折結果によれば、大部分が白金とニッケルとパラジウムの合金であり、一部、酸化ニッケルとして残存し、X線ピークが存在しないアモルファス金属、または、水またはアルカリ金属水酸化物水溶液中での長時間の電解後には、白金、ニッケル及びパラジウム合金の表面上に水酸化物が形成されている可能性もあると考える。
また、水素過電圧が低いため、触媒層中のパラジウムの含有量は1モル%以上55モル%以下の範囲が好ましく、水素過電圧が更に低く、鉄被毒耐性に優れているため、触媒層中のパラジウムの含有量が4〜48モル%、ニッケル含有量が48〜4モル%、残部が白金であることが更に好ましい。
さらに、上記還元処理については、電気化学的還元であることが好ましく、水又はアルカリ金属塩化物水溶液を電気分解するときの電気分解電気化学的還元であることがより好ましい。
本発明で用いる導電性基材は、例えばニッケル、鉄、銅、チタンやステンレス合金鋼が挙げられ、特にアルカリ性溶液に対して耐食性の優れたニッケルが好ましい。導電性基材の形状は、特に限定されるものではなく、一般に電解槽の電極に合せた形状でよく、例えば平板、曲板等が使用可能である。
また、本発明で用いる導電性基材は、多孔板が好ましく、例えば、エキスパンドメタル、パンチメタル、網等が使用できる。
本発明の水素発生用電極を製造する方法は、導電性基材上に、白金とニッケルとパラジウムからなる触媒層を担持することが出来ればどの様な製造方法でもよい。例えば、電気めっき法、分散めっき法、溶射法、熱分解法、アークイオンプレーティング法などを用いることができる。しかし、これらの既知の製造方法を用いる場合、導電性基材上に白金とニッケルとパラジウムからなる触媒層を担持するためには、製造条件や原料を鋭意検討し設定する必要がある。単に既知の製造方法を適用しただけでは、本発明が提供する、導電性基材上に、白金とニッケルとパラジウムからなる触媒層を担持した水素発生用電極を製造することは出来ない。
以下、本発明が提供する、導電性基材上に、白金とニッケルとパラジウムからなる触媒層を担持した水素発生用電極を製造する具体的方法を、熱分解法を例に説明する。
本発明で言う熱分解法とは、基材上に、白金化合物溶液とニッケル化合物溶液とパラジウム化合物溶液を塗布し、乾燥し、熱分解を行う一連の操作を言う。
導電性基材は、予め基材表面を粗面化することが好ましい。これは、粗面化によって接触表面積を大きくでき、基材と担持物の密着性が向上するためである。粗面化の手段としては特に限定されず、公知の方法、例えばサンドブラスト処理、蓚酸、塩酸溶液などによりエッチング処理し、水洗、乾燥する方法を用いることができる。
本発明の水素発生用電極の製造方法に用いる白金化合物は、塩化白金酸、ジニトロジアミン白金などを用いることができる。特にアンミン錯体を形成するジニトロジアンミン白金を用いると、還元処理後の白金合金の結晶子径を例えば200オングストローム以下まで微細化し、反応比表面積を増大させられるため好ましい。これは、前記ジニトロジアミン白金は熱分解温度が約550℃と高いために、熱分解中の白金の凝集を抑制し、熱分解後に白金とニッケルとパラジウムが均一に混合した被膜が得られ、還元処理により微細な結晶子径の合金が得られるためと推定される。
一方、本発明の製造方法に用いるニッケル化合物およびパラジウム化合物としては特に限定されず、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、酢酸塩、スルファミン酸塩などを用いることができる。
さらに、白金化合物とニッケル化合物とパラジウム化合物を溶解させる場合の溶媒としては、担持物の表面積を高めるためには、これらの原料が完全に溶解できるものが好ましく、水あるいは硝酸、塩酸、硫酸、酢酸溶液などの無機酸、さらにメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの有機溶媒、あるいはこれらを混合物として用いることもできる。また、塗布液中へ基材金属の溶解を抑制する目的で塗布液のpHを調製して用いてもよく、担持物の表面積を高めるためにリシン、クエン酸などの錯塩を添加し、ニッケルおよびパラジウムを錯体化させてもよい。
前記化合物溶液を導電性基材に塗布する方法は、白金化合物溶液とニッケル化合物溶液とパラジウム化合物溶液を別々に刷毛などを用いて導電性基材に塗布してもよいし、白金化合物とニッケル化合物とパラジウム化合物の混合溶液を調製し、刷毛などを用いて導電性基材に塗布してもよい。また、前記の刷毛塗り以外にスプレー法、ディップコート法など、全ての既知の方法を好適に用いることができる。
塗布後の乾燥温度は200℃以下の温度で5〜60分間行えばよく、150℃以下の乾燥温度が好ましい。
乾燥後の熱分解温度は200℃を超え700℃以下の範囲で5〜60分間行えばよいが、好ましくは350℃を超え500℃以下の範囲で行うとよい。例えば、ジニトロジアミン白金溶液を用いた場合、ジニトロジアミン白金の熱分解温度は550℃であり、500℃以下で熱分解を行うことで白金のシンタリングが抑制され、水素過電圧がより一層低い水素発生用電極を得ることができる。
上記の塗布、乾燥、および熱分解の一連の操作を1回又は数回繰り返す。熱分解操作を繰り返す回数は特に限定されないが、低い水素過電圧を得るためには還元処理後の合金の担持量で0.5g/m以上となるまで熱分解操作を繰り返すことが好ましく、1g/m以上となるまで熱分解操作を繰り返すことがさらに好ましい。
熱分解した後、担持物(触媒層前駆体)を金属状態に還元、合金化させることを目的とした還元処理を行う。還元処理方法は特に限定されないが、ヒドラジン、ギ酸、蓚酸などの還元力の強い物質との接触による化学還元法、白金とニッケルとパラジウムに対し、還元電位を与える電気化学還元法を用いることができる。
例えば、電気化学還元法は白金とニッケルとパラジウムからなる担持物(触媒層前駆体)の還元に必要な電位を与える方法である。水溶液中の白金とニッケルとパラジウムの標準電極電位はすでに開示されており(「電気化学便覧」 第5版 丸善出版 第92〜95頁)、還元に必要な電位は標準電極電位から見積もることが可能である。
熱分解後の担持物(触媒層前駆体)を金属状態に還元、合金化させるにあたり、電気化学的還元法が電解をしながら熱分解後の担持物(触媒層前駆体)を金属状態に還元、合金化が実施でき、電解とは別に上記担持物還元処理をしなくても済むので、便利である。
この電気化学的還元処理は、通常、水又はアルカリ金属塩化物水溶液中での電気化学的還元処理で実施される。
この様にして得られる本発明の水素発生用電極は、水又は食塩などのアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解用途において水素発生用電極として用いると、低水素過電圧が得られると共に、陰極液中に鉄イオンを混入させない特別な工夫をすることなく低過電圧特性を長期間安定に維持し、且つ、停止や再起動操作時に触媒が剥離や脱落を生じることもない、すなわち、水素過電圧性能と耐久性に極めて優れた水素発生用電極である。
従って、水又は食塩などのアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解工業分野において、水素発生用電極を本発明が提供する水素発生用電極に変更するのみで、当該電気分解工業の所要エネルギーを容易に低減可能となる。
尚、水又は食塩などのアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解工業とは、水素発生用電極を陰極として使用し、隔膜を挟んで陽極を配置した電解槽で水又はアルカリ金属塩化物水溶液を電気分解し、前記陰極上から水素ガスおよびアルカリ金属水酸化物水溶液を生成し、陽極上から酸素ガス又は塩素ガスを生成する所謂、食塩電解が代表的な電気分解工業の例である。
その隔膜として、電流効率や低い電解槽電圧によるエネルギー効率の面で、陽イオン交換膜を使用することが好ましい。
本発明の導電性基材上に、白金、ニッケルおよびパラジウムを主成分とする触媒層が担持されてなる水素発生用電極は、低い水素過電圧性能を有し、且つ、耐久性に優れた水素発生用電極であり、その電極は、導電性基板上に触媒層前駆体を形成後、還元処理を行い前記触媒層を形成させる簡便な方法により製造可能であり、この様にして得られる本発明の水素発生用電極は、従来の白金系触媒の欠点とされていた電解液中の鉄イオンの被毒によって、水素過電圧が上昇することがなく、さらに、電解運転中や停止・起動操作中に流れる逆電流により触媒が剥離・脱落することもない。そのため、白金が本来有する低水素過電圧特性を長期間に渡り安定に維持でき、特に年間数回の停止、再起動の際に流れる逆電流や陰極液中への鉄混入が余儀なくされる水又はアルカリ金属水溶液の電気分解工業等の所要エネルギーを大幅に削減可能である。
実施例1の水素発生電極のX線回折チャートを示す図である。
以下の実施例により、本発明を具体的に説明する。
尚、各評価は下記に示す方法で実施した。
(水素過電圧測定)
32wt%水酸化ナトリウム水溶液の電解液(容量約1L)を用いて、対極にNi、温度88℃、電流密度6.0kA/mの条件で10分間、水電解を行い、カレントインタラプター法により、水素過電圧を測定した。
(鉄被毒耐性評価)
上記方法で水素過電圧を測定した後、32wt%水酸化ナトリウム水溶液の電解液(容量約100mL)中に鉄標準液(関東化学株式会社製、Fe:1000mg/l)を添加し鉄濃度が10ppmになるようにし、その電解液中で対極にNi、電流密度6.0kA/mという条件で2時間水電解をさせ、再び上記方法で水素過電圧を測定し、先に測定した水素過電圧との差を求め、その値を鉄被毒による過電圧上昇値とし、この過電圧上昇値により、鉄被毒耐性評価を実施した。
(逆電流耐性評価)
上記方法で水素過電圧を測定した後、0.5M硫酸ナトリウム中で、対極にPt、参照電極に飽和カロメル電極、走査電位−1.0Vから0.6V vs SCE、走査速度50mV/s、初期電位0.1V vs SCE、サイクル数250サイクルという条件でサイクリックボルタンメトリーを行い、再び上記方法で水素過電圧を測定し、先に測定した水素過電圧との差を求め、その値を逆電流による過電圧上昇値とし、この過電圧上昇値により、逆電流耐性評価を実施した。
また、上記方法で水素過電圧を測定したものと、上記方法で水素過電圧の測定の後にサイクリックボルタンメトリー測定を実施し再び水素過電圧を測定したものを、王水で溶解させ、ICP発光分析装置(パーキンエルマー社製、型式optima3000)を用いて担持量を求め、それらの値から白金量の変化率を求め、その値を逆電流による白金の残存率とした。
実施例1
導電性基材として、ニッケルエキスパンドメッシュ(5.0×5.0cm)を用い、粗面化処理として、10wt%の塩酸溶液を用いて温度50℃で15分間エッチングした後、水洗、乾燥した。
次いで、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製)と硝酸ニッケル6水和物と硝酸パラジウム2水和物(小島化学薬品製)と水を用いて、白金が34モル%、ニッケルが34モル%とパラジウムが32モル%の塗布液を調製した。
次いで、この塗布液を前記ニッケルエキスパンドメッシュに刷毛を用い全面に塗布し、熱風式乾燥機内で80℃15分間乾燥後、箱型マッフル炉(アドバンテック東洋製 型式KM−600、内容積27L)を用いて空気流通下のもと500℃で15分熱分解した。この一連の操作を5回繰り返した。
上記の様に得られた水素発生用電極を、32wt%水酸化ナトリウム水溶液の電解液(容量約1L)を用いて、対極にNi、温度88℃、電流密度6.0kA/mの条件で10分間、水電解を行った後に、水素発生電極を取り出して、乾燥し、そのX線回折を実施した時のX線回折チャートを図1に示す。
この図1から、白金とニッケルとパラジウムの合金が主ピークであるが、NiOのピークも存在している事が明らかとなった。
水素過電圧測定を行うと、水素過電圧は76.6mVであり、さらに、鉄被毒による過電圧上昇量は13.4mV、逆電流による過電圧上昇量は0mV、逆電流による白金の残存率は100%であった。この結果は表1に示す。
実施例2−5
実施例1において、白金、ニッケルとパラジウムの組成をそれぞれ表1に記載の組成とした以外は実施例1と同様の操作で電極を作製した。
実施例2では、水素過電圧測定を行うと水素過電圧は80.3mVであり、さらに、鉄被毒による過電圧上昇量は19.9mV、逆電流による過電圧上昇量は7.8mV、逆電流による白金の残存率は100%であった。この結果は表1に示す。
実施例3では、水素過電圧測定を行うと水素過電圧は72.8mVであり、さらに、鉄被毒による過電圧上昇量は18.3mV、逆電流による過電圧上昇量は10.2mV、逆電流による白金の残存率は100%であった。この結果は表1に示す。
実施例4では、水素過電圧測定を行うと水素過電圧は70.3mVであり、さらに、鉄被毒による過電圧上昇量は12.1mV、逆電流による過電圧上昇量は12.1mV、逆電流による白金の残存率は86%であった。この結果は表1に示す。
実施例5では、水素過電圧測定を行うと水素過電圧は77.5mVであり、さらに、鉄被毒による過電圧上昇量は9.1mV、逆電流による過電圧上昇量は5.4mV、逆電流による白金の残存率は90%であった。この結果は表1に示す。
比較例1
実施例1において、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液と硝酸ニッケル6水和物と水を用いて、白金が50モル%、ニッケルが50モル%の塗布液を調製し、これを塗布した以外は、実施例1と同様の操作で電極を作製した。
水素過電圧測定を行うと、水素過電圧は82.9mVであり、さらに、鉄被毒による過電圧上昇量は20.0mV、逆電流による過電圧上昇量は16.4mV、逆電流による白金の残存率は93%であった。この結果は表1に示す。
比較例2
実施例1において、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液と硝酸パラジウム2水和物と水を用いて、白金が50モル%、パラジウムが50モル%の塗布液を調製し、これを塗布した以外は、実施例1と同様の操作で電極を作製した。
水素過電圧測定を行うと、水素過電圧は84.4mVであった。この結果は表1に示す。
Figure 0006609913
全ての実施例において、水素過電圧が比較例の範囲の水素過電圧より低くなっており、加えて、鉄被毒による過電圧上昇量、逆電流による過電圧上昇量は比較例1での結果より低い値となっている。よって、本発明の水素発生用電極は優れた水素過電圧性能と鉄被毒および逆電流に対する耐久性を有することが示された。
特に、表1の水素過電圧値に注目すると実施例3および実施例4が好ましく、Pdの含有量が4〜20モル%、Niが48〜40モル%、残部がPtである組成の触媒層が担持されてなる水素発生用電極が、鉄被毒耐性に注目すると実施例4および実施例5が好ましく、Pdの含有量が4〜48モル%、Niが48〜4モル%、残部がPtである組成の触媒層が担持されてなる水素発生用電極が好ましく、逆電流による白金残存量に注目すると実施例1および実施例3が好ましく、Pdの含有量が20〜32モル%、Niが40〜34モル%、残部がPtである組成の触媒層が担持されてなる水素発生用電極が好ましい。
本発明の水素発生用電極は、水の電気分解又は食塩などのアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解に使用でき、食塩電解工業を初めてとして広範な電解工業に利用される可能性を有する。
1:基板(ニッケル)に帰属するピーク
2:合金(白金−ニッケル−パラジウム合金)に帰属するピーク
3:NiOに帰属するピーク

Claims (7)

  1. 導電性基材上に、白金、ニッケルおよびパラジウムを主成分とし、かつ、白金、ニッケルおよびパラジウムが合金の状態である触媒層が担持されてなる水素発生用電極。
  2. 前記触媒層中のパラジウム含有量が1モル%以上55モル%以下であることを特徴とする請求項1に記載の水素発生用電極。
  3. 前記触媒層中のパラジウム含有量が4〜48モル%、ニッケル含有量が48〜4モル%、残部が白金であることを特徴とする請求項1に記載の水素発生用電極。
  4. 導電性基板上に触媒層前駆体を形成後、還元処理を行い前記触媒層を形成することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の水素発生用電極の製造方法。
  5. 還元処理が、水又はアルカリ金属塩化物水溶液中での電気化学的還元処理であることを特徴とする請求項に記載の水素発生用電極の製造方法。
  6. 請求項1〜のいずれか1項に記載の水素発生用電極を陰極として使用し、隔膜を挟んで陽極を配置した電解槽で水又はアルカリ金属塩化物水溶液を電気分解し、前記陰極上から水素ガスおよびアルカリ金属水酸化物水溶液を生成し、陽極上から酸素ガス又は塩素ガスを生成する電解方法。
  7. 前記隔膜が陽イオン交換膜であることを特徴とする請求項に記載の電解方法。
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