JP2006118022A - 水素発生用電極、水素発生用電極前駆体およびこれらの製造方法並びにこれを用いた電解方法 - Google Patents
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Abstract
【目的】水又はアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解用途において水素過電圧が十分に低く、鉄イオンによる被毒の影響や基材と触媒層の密着性などの耐久性に優れた水素発生用電極、水素発生用電極前駆体およびこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】導電性基材上に、ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種の金属と白金からなる白金合金が担持され、白金合金中の白金含有量が、モル比で0.40〜0.99の範囲である水素発生用電極を用いる。当該電極は導電性基材上に、ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群からばれる一種の金属化合物溶液とアンミン錯体を形成する白金化合物溶液を塗布し、乾燥後、200〜700℃で熱分解した後、還元処理することによって得られる。
【選択図】図1
【解決手段】導電性基材上に、ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種の金属と白金からなる白金合金が担持され、白金合金中の白金含有量が、モル比で0.40〜0.99の範囲である水素発生用電極を用いる。当該電極は導電性基材上に、ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群からばれる一種の金属化合物溶液とアンミン錯体を形成する白金化合物溶液を塗布し、乾燥後、200〜700℃で熱分解した後、還元処理することによって得られる。
【選択図】図1
Description
本願発明は水の電気分解又は食塩などのアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解に使用する水素発生用電極、水素発生用電極前駆体およびこれらの製造方法並びにこれを用いた電気分解方法に関するものである。
水又はアルカリ金属塩化物水溶液電解工業は電力多消費型産業であり、省エネルギー化のために様々な技術開発が行われている。その省エネルギー化の手段とは、理論分解電圧、液抵抗、隔膜抵抗、陽極過電圧、陰極過電圧などで構成される電解電圧を実質的に低減することである。特に、過電圧の低減に関しては、その過電圧値が電極の触媒材料や電極表面のモルフォロジーに左右されることから、その改良についてこれまで多くの研究開発が行われてきた。イオン交換膜法食塩電解においては、陽極過電圧の低減に盛んな研究開発が行われてきた結果、陽極過電圧が低く、耐久性に優れた寸法安定性電極[例えば、ペルメレック電極社製のDSE電極(登録商標)]が完成し、既に食塩電解工業を初め広い分野で利用されている。
一方、陰極過電圧を低減するための水素発生用電極、いわゆる活性陰極に関してもこれまで多くの提案がなされている(例えば、特許文献1)。一般的に水素過電圧を低減させる手段としては、担持触媒の活性向上と反応比表面積の増加であり、活性向上には、導電性基材上に特定組成の金属混合物、金属合金、酸化物あるいはこれらの混合物からなる高活性触媒の担持、比表面積増加はその担持方法により向上させており、主な担持方法としては、活性成分や金属塩を溶解させた浴から触媒成分を電析させる電気めっき法、金属塩溶液に活性物質を分散させた浴から触媒成分を電気泳動電着させる分散めっき法、溶融状態の触媒物質を基材に直接溶射する溶射法、金属塩の溶液などを塗布、焼成する熱分解法が挙げられる。
従来、鉄陰極の約400mVという水素過電圧を150〜200mVまで低減可能な電極として、例えば、電気めっき法で導電性基材表面に鉄、コバルト、ニッケルの遷移金属とタングステン、モリブデンの合金層を担持する方法が開示されている(特許文献1)。更に、電気めっき法で導電性基材表面に、ニッケルと鉄、コバルト、インジウムとの組み合わせに加えてアミノ酸、カルボン酸、アミンなどの有機化合物を含んだ物質を担持したものが開示されている(特許文献2)。しかし、これらは担持物を非常に厚くすることが必要なため、めっき応力による電極の変形や担持物の剥離が起こりうることや、これらの卑金属は活性が低いため、卑金属の合金化による活性向上だけでは水素過電圧を低下させる効果をさらに向上させる必要がある。
また、ニッケルとモリブデンからなる合金層をアークイオンプレーティング法で担持したものが開示されている(特許文献3)が、初期水素過電圧は十分低いものの長期電解運転における水素過電圧上昇、いわゆる耐久性に課題を有するのが実状である。
一方、高活性触媒である白金を使用すると水素過電圧が低減できることは古くから知られていたが、電解液中に存在する微量の不純物、特に鉄イオンに対して敏感に被毒の影響を受け、1ppm以下の微量濃度でも水素過電圧は上昇するため、電解液中に鉄イオンが混入しやすいアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解工業等での使用は不可能とされていた。
白金とセリウム酸化物からなる触媒を担持した水素発生用電極が、水素過電圧が低く、電解液中の鉄イオンの被毒もなくアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解用の水素発生用電極として優れた性能を示すことが開示されている(特許文献4)が、アルカリ金属塩化物水溶液の電気分解工業等での使用に更なる改善が検討されている。
さらに、白金を合金化させた電極触媒としては、リン酸型燃料電池あるいは直接メタノール燃料電池において、カソードに酸素還元反応触媒、アノードに水素酸化触媒として用いられている。
例えばリン酸型燃料電池の場合、カーボン担体上に白金−イリジウムおよび/又はロジウム固溶体合金触媒を担持した電極が、合金の固溶度が高く、白金−卑金属合金担持カーボン触媒に比べて、電気化学的酸素還元活性が高く、電解質であるリン酸への溶出が少なく合金保持率を維持し、耐久性に優れることが開示されて、(特許文献5)直接メタノール燃料電池の場合、カーボン粉末を担体上に十分に固溶させた白金−ルテニウム合金を担持した触媒が、CO被毒による電気化学的水素酸化活性の低下が少ないことが開示されている。(特許文献6)
しかし、これら燃料電池におけるカソード及びアノードにおける電極反応は、酸素還元反応と水素酸化反応であり、本発明の水又はアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解における水素発生反応とは電極反応が異なるものである。さらに、電極の形状も異なり、水素発生用電極のメッシュ状、板状の導電性金属基材上に触媒を担持、被覆させたものであるのに対し、燃料電池用電極は、カーボン担体上に白金と第二元素を担持し、900℃といった高温の熱処理によって十分に固溶、合金化させた後、この粉末にバインダー等を加え板状に成形したガス拡散電極である。
しかし、これら燃料電池におけるカソード及びアノードにおける電極反応は、酸素還元反応と水素酸化反応であり、本発明の水又はアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解における水素発生反応とは電極反応が異なるものである。さらに、電極の形状も異なり、水素発生用電極のメッシュ状、板状の導電性金属基材上に触媒を担持、被覆させたものであるのに対し、燃料電池用電極は、カーボン担体上に白金と第二元素を担持し、900℃といった高温の熱処理によって十分に固溶、合金化させた後、この粉末にバインダー等を加え板状に成形したガス拡散電極である。
その他、電解用不溶性アノードとして、銅基材上に白金−モリブデン−鉄族金属からなる三元合金を誘起共析現象を利用した電気めっき法によって被覆する方法は開示されているが、燃料電池同様に本発明の水素発生用電極とは電極反応系が異なるものである(特許文献7)。
以上、水又はアルカリ金属塩化物水溶液電解工業の電力消費量を削減する目的で、従来から様々な水素発生用電極及び水素発生用電極の使用方法が提案されてきたが、水素過電圧特性が低く、陰極苛性溶液中の鉄イオンの被毒による水素過電圧上昇がないことに加え、苛性溶液中への触媒成分の溶出からイオン交換膜への沈着、汚染によって電解電圧上昇を起こさないことに対し、工業的に、より満足できる水素発生用電極が望まれている。
本発明の目的は、水又はアルカリ金属塩化物水溶液電解工業等で使用可能な、水素過電圧が十分に低く、且つ、鉄イオンによる被毒の影響がなく、さらに、運転中や起動・停止中にも水素過電圧の上昇や担持物の脱落がなく耐久性に優れた水素発生用電極、水素発生用電極前駆体およびこれらの製造方法、並びに、該水素発生用電極を陰極に用いた電解方法を提供し、水又はアルカリ金属塩化物水溶液電解工業等の電力消費量を削減することにある。
本発明者は、上記問題点を解決するため鋭意検討した結果、導電性基材上に、白金とニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種の金属(以下、添加金属と記す。)と白金とからなる白金合金が担持されてなり、且つ、以下の式(1)で定義される白金合金の固溶度(式(1)ではXとし、%にて算出する。)が95%以上である水素発生用電極が優れた低水素過電圧性能を有し、鉄イオンによる被毒によって水素過電圧の上昇がないばかりでなく、苛性溶液中において不溶性に優れるため、イオン交換膜汚染による電解電圧上昇がないことを見出した。
C=A+B×(2.265−A) (2)
(式(2)中、2.265は白金の(111)面間隔の測定値(単位はオングストローム)であり、Aは添加金属の(111)面間隔の測定値(単位はオングストローム)であり、Bは白金合金中の白金含有量である。)
さらに、本発明の水素発生用電極において、添加金属と白金とからなる白金合金中の白金含有量が、モル比で0.35〜0.99であれば、より好適である。
また、導電性基材上に、添加金属化合物とアンミン錯体を形成する白金化合物を含有する溶液を塗布し、乾燥、熱分解した後、還元性雰囲気下400℃以下の温度で熱処理(以下、還元熱処理と記す)することによって、従来、十分に固溶した白金合金を得るために必須であった高温熱処理を行う必要がなく、十分に固溶した白金合金が担持された上記の水素発生電極が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の水素発生用電極は、導電性基材上に、白金と添加金属からなる白金合金が担持され、且つ、白金合金の固溶度が95%以上である。例えば、導電性基材上に、上記の添加金属の化合物とアンミン錯体を形成する白金化合物を含有する溶液とを塗布し、乾燥、熱分解した後、還元雰囲気下において50℃以上400℃以下の温度で熱処理することによって得られ、その担持物は添加金属と金属白金との混合物や添加金属酸化物と白金との混合酸化物或いは複合酸化物等で存在するのではなく、添加金属と白金とが固溶した白金合金であり、且つ、白金合金の固溶度が95%以上であり、水素発生用電極として優れた触媒となることに加えて、苛性中で触媒成分の溶出がなく不溶性に優れる。
本発明においては、添加金属と白金からなる白金合金は、原料等から混入する不可避不純物を含む添加金属と白金の白金合金を当然包含されるものである。また、本発明の白金合金は、白金合金中の白金含有量はモル比で0.35〜0.99の範囲であることが必須である。白金合金中の白金含有量がモル比で0.35未満の場合は水素過電圧が高くなったり、耐久性が劣るため、本発明の効果が得られない。逆に、白金合金中の白金含有量がモル比で0.99を越えると、初期の水素過電圧は同等であるが、電解液中の鉄イオンにより過電圧が上昇するなど、耐久性が劣り、本発明の効果が得られない。
なお、本発明で言う白金合金中の白金含有量とは、白金合金中の白金のモル数を、白金合金を構成する全元素(不可避不純物を除く)の合計モル数で除したものを意味する。すなわち、例えば、不可避不純物を除き添加金属と白金の2成分からなる白金合金の白金含有量は、(白金モル数)/(白金モル数+添加金属モル数)で計算される値を意味する。また、例えば、不可避不純物を除き白金と成分Xと成分Yとの3元系からなる白金合金の白金含有量は、(白金モル数)/(白金モル数+成分Xモル数+成分Yモル数)で計算される値を示す。
白金合金に関して、白金は多くの金属元素と固溶体や金属間化合物といった合金相を形成し、その組成比と温度によって合金相は多様に変化する。これらは全率固溶体型、析出型、包晶反応型、共晶反応型、偏晶反応型といった合金状態図で開示されている。
例えば、白金とコバルトを組み合わせた合金の場合、その合金状態図は析出型に属し、白金とコバルトは、いかなる組成比においても固溶した合金を形成する。また、白金とコバルト以外にも、ニッケル、銅、銀、鉄等の多くの元素と白金は、いかなる組成比においても固溶した合金を形成する(長崎誠三、平林眞 編著 「二元合金状態図集」、アグネ技術センター出版、第2版、第13、112、136、152、230頁)。
本発明の「ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種の金属と白金からなる白金合金」とは、ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種の金属と白金が固溶し、合金化したものであり、例えば金属白金のCuKα線によるX線主回折ピークである(111)面間隔のシフトから同定可能である。
本発明の「ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種の金属と白金からなる白金合金」とは、ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種の金属と白金が固溶し、合金化したものであり、例えば金属白金のCuKα線によるX線主回折ピークである(111)面間隔のシフトから同定可能である。
具体的には、金属白金の結晶構造はASTMカード、No.4−0802に開示されているように面心立方格子であり、CuKα線による主回折ピークである(111)面間隔は2.265オングストロームである。この金属白金に原子半径の異なる金属が固溶、合金化することにより、金属白金の格子は膨張、収縮する。従って、(111)面間隔の変化から合金化の有無を確認することができる。
さらに、白金合金の固溶度の指標として、連続固溶体の格子面間隔、或いは格子定数の変化は組成比と比例関係を有する、所謂、Vegard則によって見積もることができる。
例えば、白金とニッケルからなる合金の場合、面心立方格子である白金とニッケルの各(111)面間隔はそれぞれ2.265オングストローム、2.034オングストロームであり、白金−ニッケル合金の固溶度100%に相当する(111)面間隔は、この面間隔の間で組成比に比例し変化する。計算上、白金:ニッケルの割合が1:1の場合、固溶度100%に相当する(111)面間隔は、2.1495オングストロームとなる。また、これらは面心立方格子であるため格子定数からも同様に固溶度を求めることができる。実際は上記した、式(1)、(2)により、白金合金の固溶度を求めることができる。
本発明の導電性基材は、例えばニッケル、鉄、銅、チタンやステンレス合金鋼が挙げられ、特にアルカリ性溶液に対して耐食性の優れたニッケルが好ましい。導電性基材の形状は、特に限定されるものではなく、一般に電解槽の電極に合せた形状でよく、例えば平板、曲板等が使用可能であり、これらのエキスパンドメタル、パンチメタル、網等が使用できる。
本発明の水素発生用電極を製造する方法は、導電性基材上に、添加金属と白金からなる白金合金を担持することが出来ればどの様な製造方法でもよい。例えば、電気めっき法、分散めっき法、溶射法、熱分解法、アークイオンプレーティング法などを用いることができる。しかし、これらの既知の製造方法を用いる場合、導電性基材上に添加金属と白金からなる、固溶度の高い白金合金を担持するためには、製造条件や原料を鋭意検討し設定する必要がある。単に既知の製造方法を適用しただけでは、本発明が提供する、導電性基材上に、添加金属と白金からなる固溶度が95%以上の白金合金を担持した水素発生用電極を製造することは出来ない。
以下、本発明が提供する水素発生用電極を製造する方法について、熱分解法を中心に詳細に説明する。
まず、導電性基材は、基材表面を予め粗面化することが好ましい。これは、粗面化によって接触表面積を大きくでき基材と担持物の密着性が向上するためである。粗面化の手段としては特に限定されず公知の方法、例えばサンドブラスト処理、蓚酸、塩酸溶液などによるエッチング処理し、水洗、乾燥して用いることができる。
本発明の添加金属化合物とアンミン錯体を形成する白金化合物を含有する溶液について、まず、アンミン錯体を形成する白金化合物として、例えばジニトロジアンミン白金、テトラアンミン白金、ヘキサアンミン白金水酸塩が挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を選択する。溶媒は水でも良いし、アルコール等の有機溶媒でも、これらを混合して使用してもよい。しかし、単独ではアンミン錯体を形成しない白金化合物、例えば、塩化白金、塩化白金酸等の溶液を用いた場合は、グリシン、クエン酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩のような錯塩等の添加によって白金を錯体化させることで本発明の効果を得ることができる。アンミン錯体を形成する白金化合物の中でも、ジニトロジアンミン白金を用いると、還元熱処理後の白金合金の結晶子径を例えば200オングストローム以下まで微細化し、反応比表面積が増大するため好ましい。これは、前記ジニトロジアミン白金は熱分解温度が約550℃と高いために、熱分解中の白金の凝集を抑制し、熱分解後に添加金属と白金が均一に混合した被膜が得られ、還元熱処理により微細な結晶子径の白金合金が得られるためである。
また、本発明の製造方法に用いる添加金属化合物としては特に限定されず、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、酢酸塩、スルファミン酸塩などを用いることができる。
さらに、白金化合物、添加金属化合物を溶解させる場合の溶媒としては、担持物の表面積を高めるためには、これらの原料が完全に溶解できるものが好ましく、水あるいは硝酸、塩酸、硫酸、酢酸溶液などの無機酸、さらにメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの有機溶媒、あるいはこれらを混合物して用いることもできる。また、塗布液中へ基材金属の溶解を抑制する目的で塗布液のpHを調製して用いてもよく、担持物の表面積を高めるためにリシン、クエン酸、などの錯塩を添加し添加金属を錯体化させても良い。
前記化合物溶液を導電性基材に塗布する方法は、前記添加金属化合物溶液と前記アンミン錯体を形成する白金化合物溶液とを別々に刷毛などを用いて導電性基材に塗布してもよいし、添加金属化合物と白金化合物との混合溶液を調製し刷毛などを用いて導電性基材に塗布してもよい。また、前記の刷毛塗り以外にスプレー法、ディップコート法など、全ての既知の方法を好適に用いることができる。
次いで、塗布後の導電性基材を乾燥するが、乾燥温度は、200℃以下の温度が好ましく、150℃以下がさらに好ましく、この温度において1〜10分間行えば良い。
次いで熱分解を行い、熱分解は白金の凝集を抑制し、基材と担持層の密着性を高めるには、空気流通下で200℃〜700℃以下の温度範囲で5〜60分間行えば良い。
上記の塗布、乾燥、及び、熱分解の一連の操作を1回又は数回繰り返す。塗布〜熱分解操作を繰り返す回数は特に限定されないが、低い水素過電圧を得るためには白金合金の担持量で0.5g/m2以上となるまで塗布〜熱分解操作を繰り返すことが好ましく、1g/m2以上となるまで繰り返すことがさらに好ましい。
なお、以降では、上記の熱分解操作で基材に担持された物質を「熱分解後の担持物」と、上記操作により得られる熱分解後の担持物が担持された基材を「熱分解後の基材」と記載する場合がある。熱分解後の担持物の添加金属と白金の存在状態は、必ずしも明確ではないが、熱分解後の担持物のCuKα線によるX線回折パターンは、添加金属の回折パターン、白金金属の回折パターン、及び、添加金属と白金合金の回折パターンの何れとも異なり、非晶質状態を示す回折パターンを示し(図6)、熱分解後の担持物中の添加金属と白金は何れも金属状態ではなく、価数の高い状態で存在していると推察される。
また、このような熱分解後の基材は、本発明の水素発生用電極の前駆体ともいうべきものであって、導電性基材上に、ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種の金属元素と白金とからなる非晶質物質が担持されてなる。これは、導電性基材上に、ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種の金属の化合物とアンミン錯体を形成する白金化合物を含有する溶液とを塗布し、乾燥、熱分解することで得られる。さらに、以下に記すように、この水素発生用電極前駆体を、還元雰囲気下において50℃以上400℃以下の温度で熱処理することで、上記した本発明の水素発生用電極を製造することができる。
前記非晶質物質の熱分解後の担持物を金属状態に還元し、白金合金の固溶度を95%以上まで高めることを目的とした還元熱処理を行う。還元熱処理方法は特に限定されないが、管状炉、箱型マッフル炉を用いればよい。還元雰囲気の形成は、管状炉などに水素、一酸化炭素、メタンなどの還元性ガスの流通下で熱処理すれば良い。還元性ガスを流通しない場合、熱分解後、酸化状態にある担持物が金属状態に還元されず本発明の白金合金が形成されない。
また、還元熱処理温度は、400℃以下の温度で行えば良く熱処理温度が400℃以上になると担持物は、白金は合金化するものの導電性基材との合金化の進行、白金合金が凝集するなどの理由から単一相の白金合金が得られない。
さらに、還元熱処理時間は、白金合金の固溶度が95%以上になるまでの時間行えば良く、熱処理時間として5分以上、好ましくは30分以上行うことが好ましい。
本発明の添加金属元素と白金とからなる非晶質物質で構成される熱分解処理後の担持物の還元処理方法は、勿論、上記方法に限定されるものではなく、添加金属元素と白金とを還元し、且つ、白金合金の固溶度が95%以上になる限り、あらゆる還元処理方法が好ましく適用できる。しかし、例えば、ヒドラジン、ギ酸、蓚酸などの還元力の強い物質との接触による化学還元法、白金と添加金属に対し、還元電位を与える電気化学還元法で還元処理を実施した場合には、白金合金は得られるものの、白金合金の固溶度が95%より低くなりやすく、通常、固溶度が50〜94%の白金合金となり、本発明の水素発生用電極を得る事は困難である。
また、本発明の水素発生用電極は、勿論、熱分解後の基材を電解槽に装着した後に、還元処理を行い水素発生用電極を製造することも可能である。しかし、本発明の好ましい還元処理の1例である、還元雰囲気下において50℃以上400℃以下の温度で熱処理する方法を採用する場合、熱分解処理後の基材を還元処理前に電解槽に装着すると、還元処理に大型の装置が必要となったり、還元処理時に水素発生用電極以外の電解槽構成部品等に不具合が生じる場合もあり、好ましい方法とは言い難い。従って、本発明の水素発生用電極は、通常、熱分解後の担持物の還元処理を実施した後に電解槽に装着する方が有利である。
また、本発明の水素発生用電極は電気めっき法によっても製造でき、次に、その製造方法について説明する。
電気めっき法は、金属イオンを含有するめっき浴中に浸漬した電極にカソード電流を与えることによって、めっき浴中の金属イオンが金属へ還元し電極上に電析させる方法である。
本発明の白金合金は、白金とニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種の金属(以下、添加金属と記す)を含有するめっき浴を用いて共電析によって被覆させるが、共電析させるには各金属の標準電極電位、または析出平衡電位が近いことが必須である。
しかし、水溶液中の各金属元素の標準電極電位(「電気化学便覧」 第5版 丸善出版 第92〜95頁)からもわかるように、白金は標準電極電位が貴で電析し易いのに対し、ニッケル、コバルト及び鉄は標準電極電位が卑であり、互いの標準電極電位が約1.5V離れていることから、これを共電析させることは困難である。しかしながら、めっき浴中において白金を錯体化させ白金の析出平衡電位を標準電極電位から卑にすること、即ち、pH=8においてSCE基準で0.5Vより卑にすることによって、ニッケル、コバルト、鉄の標準電極電位に近くなり共電析が可能となる。特に、錯体化した白金の析出平衡電位と添加金属の析出平衡電位を近づけること、即ち、pH=8における析出平衡電位の差を0.5V以下にすることが、効率よく共電析するのに好ましい。
尚、本願発明において、白金および添加金属の析出平衡電位は、めっき浴中に電極を浸漬した時の電位、即ち、浸漬電位で測定し、白金および添加金属の析出平衡電位をその浸漬電位に置き換える。
まず、用いる導電性基材や粗面化については、熱分解法と同様にすれば良く、基剤と電析物の密着性を向上させるため、アンカー効果を目的とした下地メッキを施しても良い。
まず、用いる導電性基材や粗面化については、熱分解法と同様にすれば良く、基剤と電析物の密着性を向上させるため、アンカー効果を目的とした下地メッキを施しても良い。
次に、本発明で用いるめっき浴について、白金はめっき浴中で錯体化し、浸漬電位をSCE基準で0.5Vより卑にすることが必須である。白金を錯体化させる方法は特に限定されず、例えばアンミン錯体を形成する白金化合物であるジニトロジアンミン白金、テトラアンミン白金、ヘキサアンミン白金水酸塩を溶解させるか、塩化白金酸のような無機酸にグリシン、クエン酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩のような錯塩を添加し白金を錯体化させて用いることができる。
また、ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄化合物は、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、酢酸塩、スルファミン酸塩等の溶解性塩を用いれば良く、めっき浴のpHは導電性基材の溶解を防止するためにpH=3以上が好ましい。pHの調製は、アンモニア、ホウ酸塩、リン酸塩などのpH緩衝剤を用いて調製すればよいが、pHが中性〜アルカリ性で水酸化物などの沈殿を生成する場合、グリシン、クエン酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩のような錯塩を添加し錯体化すれば良い。
めっき浴中の各成分の濃度は特に限定されず、0.001〜1モル/リットルの範囲が例示でき、導電性を安定化するため塩化カリウムなどの電解質を添加すれば良い。
めっき条件について、固溶度95%以上の白金合金を得るためには、めっき時のカソード電極電位がSCE基準で−1.0Vよりも卑な電位を維持しながら電気めっきを行うことが必須である。めっき時のカソード電極電位がSCE基準で−1.0Vよりも貴な場合、白金合金の固溶度で95%以上が得られず本発明の水素発生用電極が得られなくなるためである。従って、めっき浴温度、めっき時間、電流密度などの条件については、めっき時のカソード電極電位がSCE基準で−1.0Vよりも卑な電位を維持できる条件であれば良い。また、これらめっき浴温度、めっき時間、電流密度、めっき浴組成などの条件を変更することによって、共電析で担持した白金合金の組成、担持量など目的に応じて制御することも可能である。
上記の電気めっき法で本発明の水素発生電極を製造する場合、導電性基材のみに電気めっきを施し、水素発生用電極を製造した後に電解槽に装着しても良い。一方、予め導電性基材を電解槽の陰極室に装着し、導電性基材と陰極室内壁に電気めっきを施す事も可能である。
この様にして得られる本発明の水素発生用電極は、水又は食塩などのアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解用途において水素発生用電極として用いると、低水素過電圧が得られると共に、陰極液中に鉄イオンに対する被毒による水素過電圧上昇がないばかりでなく、苛性溶液中における不溶性に優れるため、イオン交換膜汚染による電解電圧上昇のない水素発生用電極である。
本発明によって、低い水素過電圧性能を有し、且つ、鉄イオンによる被毒の影響がないばかりか、苛性溶液中への不溶性に優れた水素発生用電極が容易に得られる。
本発明の水素発生用電極は、従来の白金系触媒の欠点とされていた電解液中の鉄イオンの被毒による水素過電圧が上昇するという問題点を解決したことだけでなく、苛性溶液中での不溶性に優れるため、イオン膜に対する溶出成分の沈着、汚染による電解電圧上昇を防止でき、製品である苛性溶液中に溶出成分の混入も回避できる。従って、白金が本来有する低水素過電圧特性を長期間に渡り安定に維持でき、特に年間数回の停止、再起動や陰極液中への鉄混入が余儀なくされる水又はアルカリ金属水溶液の電気分解工業等の所要エネルギーを大幅に削減可能である。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例により何等限定されるものではない。
尚、各評価は下記に示す方法で実施した。
(結晶構造)
得られた電極表面について、CuKα線によるX線回折装置(型式MXP3 マックサイエンス社製)を用いて、加速電圧40kV、加速電流30mA、ステップ間隔0.04deg、サンプリング時間3sec、測定範囲2θ=20〜60°の範囲を測定した。回折図からブラッグの式より主回折ピークである(111)面間隔を計算した。また、熱分解メッシュ表面は、電極表面と同一の装置、同一の測定条件でX線回折測定を実施した。
(担持量および白金含有量)
コバルト、銅、鉄を添加した電極は、担持部を王水溶解した後にICP発光分析装置(パーキンエルマー社製、型式optima3000)を用い、ニッケル、銀を添加した電極については、EPMA(堀場製作所製、型式EMAX−5770W)を用いて白金、添加金属元素の含有量を定量し担持量を求め、担持物中の白金含有量は以下の式(3)によって計算した。
得られた電極表面について、CuKα線によるX線回折装置(型式MXP3 マックサイエンス社製)を用いて、加速電圧40kV、加速電流30mA、ステップ間隔0.04deg、サンプリング時間3sec、測定範囲2θ=20〜60°の範囲を測定した。回折図からブラッグの式より主回折ピークである(111)面間隔を計算した。また、熱分解メッシュ表面は、電極表面と同一の装置、同一の測定条件でX線回折測定を実施した。
(担持量および白金含有量)
コバルト、銅、鉄を添加した電極は、担持部を王水溶解した後にICP発光分析装置(パーキンエルマー社製、型式optima3000)を用い、ニッケル、銀を添加した電極については、EPMA(堀場製作所製、型式EMAX−5770W)を用いて白金、添加金属元素の含有量を定量し担持量を求め、担持物中の白金含有量は以下の式(3)によって計算した。
尚、本発明の実施例および比較例における還元処理後の担持量は、5g/m2〜50g/m2の範囲であった。
白金含有量=白金/(白金+添加金属) モル比 (3)
(白金合金の固溶度計算)
面心立方構造の金属白金および各添加金属の(111)面間隔と参照データベースを以下の表1に示す。
(白金合金の固溶度計算)
面心立方構造の金属白金および各添加金属の(111)面間隔と参照データベースを以下の表1に示す。
(食塩電解試験)
得られた電極を4cm×7.5cmに切り出し、小型試験槽でイオン交換膜法食塩電解試験を実施した。該陰極と同一サイズの陽極はペルメレック電極社製のDSE(登録商標)、フッ素系陽イオン交換膜はDuPont社製のN−962を使用し該膜の有効電解面積は該陰極と同一とした。陽極とフッ素系陽イオン交換膜は密着し、フッ素系陽イオン交換膜と陰極間の距離は2mmとした。陽極室には310g/リットルの精製食塩水を供給し200g/リットルで排出されるように流量を調整した。陰極室へは純水を供給し、出口の水酸化ナトリウム水溶液濃度が32重量%となるように純水供給量を調整した。この際に鉄イオン濃度は0.035ppm以下であった。陽極室及び陰極室は、内部ヒーターで90℃に調整し、電解電流密度は6kA/m2の一定で食塩電解試験を実施した。
(鉄イオンに対する被毒試験)
鉄イオンに対する被毒試験として、上記食塩電解試験にしたがって10日間電解した後に、陰極室へ供給していた純水を鉄標準液(関東化学株式会社製、Fe:1000ppm)を純水で20倍に希釈した水溶液に切り替え出口の水酸化ナトリウム水溶液濃度が32重量%、鉄イオン濃度が6ppmとなるようにを調整しながら電解を10日間行った。
得られた電極を4cm×7.5cmに切り出し、小型試験槽でイオン交換膜法食塩電解試験を実施した。該陰極と同一サイズの陽極はペルメレック電極社製のDSE(登録商標)、フッ素系陽イオン交換膜はDuPont社製のN−962を使用し該膜の有効電解面積は該陰極と同一とした。陽極とフッ素系陽イオン交換膜は密着し、フッ素系陽イオン交換膜と陰極間の距離は2mmとした。陽極室には310g/リットルの精製食塩水を供給し200g/リットルで排出されるように流量を調整した。陰極室へは純水を供給し、出口の水酸化ナトリウム水溶液濃度が32重量%となるように純水供給量を調整した。この際に鉄イオン濃度は0.035ppm以下であった。陽極室及び陰極室は、内部ヒーターで90℃に調整し、電解電流密度は6kA/m2の一定で食塩電解試験を実施した。
(鉄イオンに対する被毒試験)
鉄イオンに対する被毒試験として、上記食塩電解試験にしたがって10日間電解した後に、陰極室へ供給していた純水を鉄標準液(関東化学株式会社製、Fe:1000ppm)を純水で20倍に希釈した水溶液に切り替え出口の水酸化ナトリウム水溶液濃度が32重量%、鉄イオン濃度が6ppmとなるようにを調整しながら電解を10日間行った。
(水素過電圧)
食塩電解試験および鉄イオンに対する被毒試験における水素過電圧の測定は、陰極質内にルギン管を挿入し、試験中の水素発生用陰極表面付近の電位をカレントインタラプター法により測定し、平衡電位との差分を水素過電圧とした。
食塩電解試験および鉄イオンに対する被毒試験における水素過電圧の測定は、陰極質内にルギン管を挿入し、試験中の水素発生用陰極表面付近の電位をカレントインタラプター法により測定し、平衡電位との差分を水素過電圧とした。
実施例1
導電性基材として、ニッケルエキスパンドメッシュ(10×10cm)を用い、粗面化処理として、10wt%の塩酸溶液を用いて温度50℃で15分間エッチングした後、水洗、乾燥した。
導電性基材として、ニッケルエキスパンドメッシュ(10×10cm)を用い、粗面化処理として、10wt%の塩酸溶液を用いて温度50℃で15分間エッチングした後、水洗、乾燥した。
次いで、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製、白金濃度:4.5重量%、溶媒:8重量%硝酸溶液)と硝酸コバルト6水和物と水を用いて白金含有量がモル比で0.5、混合液中の白金とコバルトの合計濃度が金属換算で5wt%の塗布液を調製した。
次いで、この塗布液を前記ニッケルエキスパンドメッシュに刷毛を用い全面に塗布し、熱風式乾燥機内で80℃15分間乾燥後、箱型マッフル炉(アドバンテック東洋製 型式KM−600、内容積27L)を用いて空気流通下のもと500℃で15分熱分解した。この一連の操作を5回繰り返した。この熱分解後の担持物のXRDパターンを図6に示した。
次いで、この熱分解後の基材から4.5×10cmサイズに切出し、直径5cm、長さ60cmの管状炉を用いて、水素ガスを3vol%混合した窒素ガスを1.5L/分で供給しながら300℃の温度で1時間保持し、還元熱処理し、合金化した水素発生用電極を作製し、上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表3に示した。
実施例2〜4
実施例1で作製した熱分解後の基材を用いて、還元処理条件を変更し水素発生用電極を作製した。各々の還元処理条件と、上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表3に、白金合金のXRDパターンを図1に示した。
実施例1で作製した熱分解後の基材を用いて、還元処理条件を変更し水素発生用電極を作製した。各々の還元処理条件と、上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表3に、白金合金のXRDパターンを図1に示した。
実施例5〜9
添加金属、還元熱処理条件を変更した以外は実施例1と同様の操作で実施した。添加金属化合物はすべて硝酸塩化合物で行ない、上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表3に、実施例5、及び、実施例7〜9の白金合金のXRDパターンを図2に示した。また、各添加金属での熱分解後の基材のXRDパターンを図5に示した。なお、実施例5と6は、同一の熱分解後の基材を切り出して使用した。
添加金属、還元熱処理条件を変更した以外は実施例1と同様の操作で実施した。添加金属化合物はすべて硝酸塩化合物で行ない、上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表3に、実施例5、及び、実施例7〜9の白金合金のXRDパターンを図2に示した。また、各添加金属での熱分解後の基材のXRDパターンを図5に示した。なお、実施例5と6は、同一の熱分解後の基材を切り出して使用した。
実施例10
(浸漬電位の測定)
濃度0.005モル/リットルのジニトロジアンミン白金硝酸溶液200mLにアンモニア水溶液を添加しpH=8に調製した溶液に、2cm2の白金電極を2枚浸漬し、1mA/cm2の電流密度で1時間予備電解を実施した後、窒素をバブリングしながら、25℃においてジニトロジアンミン白金硝酸溶液の浸漬電位を測定したところ、pH=8で、SCE基準0.210Vであった。
(浸漬電位の測定)
濃度0.005モル/リットルのジニトロジアンミン白金硝酸溶液200mLにアンモニア水溶液を添加しpH=8に調製した溶液に、2cm2の白金電極を2枚浸漬し、1mA/cm2の電流密度で1時間予備電解を実施した後、窒素をバブリングしながら、25℃においてジニトロジアンミン白金硝酸溶液の浸漬電位を測定したところ、pH=8で、SCE基準0.210Vであった。
溶液を硝酸コバルトとグリシンを各0.005モル/リットルの濃度に調製した溶液に変更し同様の方法で浸漬電位を測定したところ、pH=8でSCE基準−0.080Vであった。どちらの浸漬電位もSCE基準で0.50Vより卑であった。
導電性基材として、ニッケルエキスパンドメッシュ(10×5cm)をカソードとして用いて、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製、白金濃度:4.5重量%、溶媒:8重量%硝酸溶液)と硝酸コバルト6水和物、クエン酸三ナトリウム、グリシン、リン酸二水素アンモニウムをもちいて、以下の表2に示すメッキ浴中の各濃度に調製した後に、10%アンモニア水溶液を用いメッキ浴のpHを8に調製した。
実施例11
硝酸コバルト・6水和物を硝酸ニッケル・6水和物に変更した以外は実施例10と同様の操作で実施した。
実施例10と同様の方法で、浸漬電位を測定した。
濃度0.005モル/リットルのジニトロジアンミン白金硝酸溶液200mLにアンモニア水溶液を添加しpH=8に調製した溶液に、2cm2の白金電極を2枚浸漬し、1mA/cm2の電流密度で1時間予備電解を実施した後、窒素をバブリングしながら、25℃においてジニトロジアンミン白金硝酸溶液の浸漬電位を測定したところ、pH=8で、SCE基準0.210Vであった。
溶液を硝酸ニッケルとグリシンを各0.005モル/リットルの濃度に調製した溶液に変更し同様の方法で浸漬電位を測定したところ、pH=8でSCE基準0.053Vであった。どちらの浸漬電位もSCE基準で0.50Vより卑であった。 どちらの浸漬電位もSCE基準で0.50Vより卑であり、その差も0.50V以下であった。
めっき中におけるカソード電極電位を測定した結果、SCE基準で−1.3Vであった。得られた、電析物を水洗し、上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表3に、白金合金のXRDパターンを図3に示した。
さらに、実施例1〜11について食塩電解試験を200日間実施した結果、電解電圧は3.00〜3.01V、電流効率96〜97%で安定に推移し、水素過電圧は70〜80mVの範囲であった。さらに、試験後の陰極室内の苛性溶液、及びイオン交換膜への着色は確認されず、解体後、水素発生用電極の白金含有量に変化はなかった。
また、鉄イオンに対する被毒試験を行ったが、電解電圧、電流効率に変化はなかった。
比較例1
実施例1で作成した熱分解後の基材から4.5×10cmサイズに切出し、88℃、32wt%水酸化ナトリウム水液中において、−1.0V(vs 1N−NaOH、Hg/HgO)の電位で5分間保持し、電解還元処理によって白金とコバルトを合金化させ水素発生用電極を作製し、上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表4に、白金合金のXRDパターンを図4に示した。
実施例1で作成した熱分解後の基材から4.5×10cmサイズに切出し、88℃、32wt%水酸化ナトリウム水液中において、−1.0V(vs 1N−NaOH、Hg/HgO)の電位で5分間保持し、電解還元処理によって白金とコバルトを合金化させ水素発生用電極を作製し、上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表4に、白金合金のXRDパターンを図4に示した。
比較例2〜7
塗布液の白金含有量を変更した以外は、実施例1と同様に熱分解後の基材を作製した。それ以外は、比較例1と同様に水素発生用電極を作製した。上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表4に示した。
比較例8
比較例8は実施例5で作製した熱分解後の基材を使用した以外は比較例1と同様の操作で実施した。添加金属化合物はすべて硝酸塩化合物で行ない、上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表4に、白金合金のXRDパターンを図4に示した。
塗布液の白金含有量を変更した以外は、実施例1と同様に熱分解後の基材を作製した。それ以外は、比較例1と同様に水素発生用電極を作製した。上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表4に示した。
比較例8
比較例8は実施例5で作製した熱分解後の基材を使用した以外は比較例1と同様の操作で実施した。添加金属化合物はすべて硝酸塩化合物で行ない、上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表4に、白金合金のXRDパターンを図4に示した。
比較例9〜10
添加金属化合物に硝酸銅3水和物を用い、塗布液の白金と銅含有量を変更し、それ以外は実施例1と同様に熱分解後の基材を作製した。熱分解後の担持物の還元熱処理について、濃度5重量%のヒドラジン水溶液100ml中に入れ、室温で一晩還元処理し水素発生用電極を作製し、上記の方法で評価し、上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表4に示した。
添加金属化合物に硝酸銅3水和物を用い、塗布液の白金と銅含有量を変更し、それ以外は実施例1と同様に熱分解後の基材を作製した。熱分解後の担持物の還元熱処理について、濃度5重量%のヒドラジン水溶液100ml中に入れ、室温で一晩還元処理し水素発生用電極を作製し、上記の方法で評価し、上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表4に示した。
比較例11〜12
比較例11は実施例8、比較例12は実施例9で作製した熱分解後の基材を使用した以外は比較例1と同様の操作で実施した。添加金属化合物はすべて硝酸塩化合物で行ない、上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表4に、比較例11については白金合金のXRDパターンを図4に示した。
比較例11は実施例8、比較例12は実施例9で作製した熱分解後の基材を使用した以外は比較例1と同様の操作で実施した。添加金属化合物はすべて硝酸塩化合物で行ない、上記の方法で求めた白金合金の固溶度を表4に、比較例11については白金合金のXRDパターンを図4に示した。
比較例13〜14
比較例13は実施例1で作成した熱分解後の基材を、比較例14は実施例5で作成した熱分解後の基材を、4.5×10cmサイズに切出し、直径5cmの管状炉を用いて、水素ガスを3vol%混合した窒素ガスを1.5L/分で供給させながら500℃の温度で1時間保持し、還元熱処理を行い水素発生用電極を作製した。還元熱処理後は、XRDパターンを図5に示したように、何れも、単一層の白金合金が得られなかった。
比較例13は実施例1で作成した熱分解後の基材を、比較例14は実施例5で作成した熱分解後の基材を、4.5×10cmサイズに切出し、直径5cmの管状炉を用いて、水素ガスを3vol%混合した窒素ガスを1.5L/分で供給させながら500℃の温度で1時間保持し、還元熱処理を行い水素発生用電極を作製した。還元熱処理後は、XRDパターンを図5に示したように、何れも、単一層の白金合金が得られなかった。
比較例15〜16
比較例1及び比較例4で得られた水素発生用電極を使用し、食塩電解試験を200日間実施した結果、電解電圧は初期3.00〜3.01Vであったが、200日後には3.05〜3.10Vまで上昇し、電流効率は初期96〜97%が200日後には94〜95%に低下していた。水素過電圧は初期70〜80mVから変化はなかった。また、電解槽を解体したところイオン交換膜は紺色に着色しており、王水で紺色部を溶解しICP分析した結果コバルトが検出された。さらに、水素発生用電極の白金含有量を測定した結果、0.71(比較例1)、0.88(比較例4)まで上昇しておりコバルトの溶出が確認された。
比較例1及び比較例4で得られた水素発生用電極を使用し、食塩電解試験を200日間実施した結果、電解電圧は初期3.00〜3.01Vであったが、200日後には3.05〜3.10Vまで上昇し、電流効率は初期96〜97%が200日後には94〜95%に低下していた。水素過電圧は初期70〜80mVから変化はなかった。また、電解槽を解体したところイオン交換膜は紺色に着色しており、王水で紺色部を溶解しICP分析した結果コバルトが検出された。さらに、水素発生用電極の白金含有量を測定した結果、0.71(比較例1)、0.88(比較例4)まで上昇しておりコバルトの溶出が確認された。
また、鉄イオンに対する被毒試験を行ったが電解電圧、電流効率に変化はなかった。
実施例の結果より、白金合金を被覆した水素発生用電極は、鉄イオンによる被毒の影響はなく、固溶度が95%以上の場合、食塩電解試験において触媒成分の溶出によってイオン交換膜が汚染による電解電圧の上昇が起きないこと明らかである。
比較例1、4の結果より、白金合金を被覆した水素発生用電極は、鉄イオンによる被毒の影響はないものの、白金−コバルト系の白金合金の場合に、固溶度が95%未満になると、食塩電解試験において触媒成分の溶出によってイオン交換膜が汚染し電解電圧が上昇することが明らかである。
1:白金合金のピーク
2:基剤ニッケルのピーク
3:添加金属と白金との非晶質物質のピーク
4:金属白金の(111)面間隔に相当するピーク
2:基剤ニッケルのピーク
3:添加金属と白金との非晶質物質のピーク
4:金属白金の(111)面間隔に相当するピーク
Claims (9)
- 導電性基材上に、ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種の添加金属と白金とからなる白金合金が担持されてなり、且つ、式(1)から求められる白金合金の固溶度X(%)が95%以上である水素発生用電極。
C=A+B×(2.265−A) (2)
(式(2)中、2.265は白金の(111)面間隔の測定値(単位はオングストローム)であり、Aは添加金属の(111)面間隔の測定値(単位はオングストローム)であり、Bは白金合金中の白金含有量である。) - 添加金属と白金とからなる白金合金中の白金含有量が、モル比で0.30〜0.99である請求項1記載の水素発生用電極。
- 導電性基材上に、ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種の金属の化合物とアンミン錯体を形成する白金化合物を含有する溶液とを塗布し、乾燥、熱分解した後、還元雰囲気下において50℃以上400℃以下の温度で熱処理することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水素発生用電極の製造方法。
- 導電性基材上に、ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種の金属元素と白金とからなる非晶質物質が担持されてなる水素発生用電極前駆体。
- 導電性基材上に、ニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種の金属の化合物とアンミン錯体を形成する白金化合物を含有する溶液とを塗布し、乾燥、熱分解することを特徴とする請求項4記載の水素発生用電極前駆体の製造方法。
- 請求項4記載の水素発生用電極前駆体を、還元雰囲気下において50℃以上400℃以下の温度で熱処理することを特徴とする請求項1記載の水素発生用電極の製造方法。
- 導電性基材上に、pH=8における浸漬電位がSCE基準で0.5Vより卑なニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種以上の金属の化合物および白金化合物を溶解しているめっき浴を用いて、めっき時のカソ−ド電極電位がSCE基準で−1.0Vよりも卑な電位で電気めっき法により担持することを特徴とする請求項1記載の水素発生用電極の製造方法。
- 請求項3記載の水素発生用電極の製造方法において、白金化合物とニッケル、コバルト、銅、銀及び鉄の群から選ばれる一種以上の金属の化合物とのpH=8における浸漬電位の差が0.5V以下であることを特徴とする水素発生用電極の製造方法。
- 水又はアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解方法において、請求項1記載の水素発生用電極を用いることを特徴とする電気分解方法。
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