JP7130497B2 - 錫の回収方法 - Google Patents

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Description

本発明は、錫の回収方法に関する。特には、非鉄製錬の工程にて発生する製錬残渣からの錫の回収方法に関する。
近年、非鉄製錬業では、多様な原料を用いて、銅、鉛、亜鉛、貴金属等の非鉄金属を回収している。当該多様な原料としては、鉱石、リサイクル原料、製錬工程の中間で発生する製錬残渣、等がある。ここで、製錬工程の中間に発生する製錬残渣とは、製錬工程において優先的に回収する金属を取り除いた残りの固体物である。しかし、この製錬残渣には有価な金属成分が含まれている。その為、当該有価な金属成分を、より純度の高い状態で回収することが産業上望まれている。
例えば、特許文献1には、塩素等を用いて、鉛と銀とが含まれる製錬残渣からこれらの金属を浸出することが提案されている。また、特許文献2には、塩素と臭素を組み合わせた溶液を利用して、硫化銅鉱中から銅及び金を回収することが提案されている。
特表2016-532011号公報 特開2009-235519号公報
本発明者らの検討によれば、非鉄製錬の工程間に発生する製錬残渣は有価な錫を含む場合が多い。しかし、当該製錬残渣は例えば珪酸金属化合物の形をとっており、含有されている金属成分の殆どは互いに複合化され、多様な性質を有する化合物の集合体となっている。この為、有価な金属成分を含む製錬残渣から、効率的に錫を回収する工程は考えられていなかった。
本発明は上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、錫や他の有価な金属成分を含む製錬残渣から効率よく錫を回収する工程を提供することである。
上述の課題を解決する為、本発明者らは研究を行った。そして、錫や他の有価な金属成分を含む製錬残渣を、塩素および臭素を用いて浸出する際に、還元剤を加える構成により、当該製錬残渣から効率よく錫を回収出来るとの知見を得て、本発明を完成した。
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
錫を含む製錬残渣から錫を回収する方法であって、
前記製錬残渣へ、塩素および臭素から選択される1種以上を含む溶液と、還元剤とを加える工程と、
前記溶液のpHを0.5以上1.5以下、酸化還元電位を-700mV以上-200mV以下として、前記製錬残渣を浸出する工程と、
前記浸出により得られた浸出液から錫を回収する工程と、を有する錫の回収方法である。
第2の発明は、
錫と、鉛と、銀と、
インジウム、ゲルマニウム、金、ケイ素から選択される1種以上と、を含む製錬残渣から錫を回収する方法であって、
前記製錬残渣へ、塩素を含む溶液、または、塩素と臭素とを含む溶液を加えて浸出し、残渣を得る工程と、
得られた残渣へ、塩素および臭素から選択される1種以上を含む溶液と、還元剤とを加える工程と、
前記溶液のpHを0.5以上1.5以下、酸化還元電位を-700mV以上-200mV以下として、前記製錬残渣を浸出する工程と、
前記浸出により得られた浸出液から錫を回収する工程と、を有する錫の回収方法である。
第3の発明は、
前記錫を回収する工程の後に得られた残渣を、製錬工程または製錬炉へ繰り返す工程を有する、第1または第2の発明に記載の錫の回収方法である。
第4の発明は、
前記還元剤として、金属粉を用いる、第1から3の発明のいずれかに記載の錫の回収方法である。
第5の発明は、
前記金属粉として、鉄粉、亜鉛粉から選択される1種以上を用いる、第4の発明に記載の錫の回収方法である。
本発明に係る錫の回収方法よれば、錫や他の有価な金属成分を含む製錬残渣から効率よく錫を回収することが出来た。
本発明を実施するための一形態を示すフロー図である。 本発明を実施するための異なる一形態を示すフロー図である。 実施例1においてAg、Pb、Snの各元素が、各残渣および浸出液へ移行していく状況を示すフロー図である。 実施例2(I)においてAg、Pb、Snの各元素が、各残渣および浸出液へ移行していく状況を示すフロー図である。 実施例2(II)においてAg、Pb、Snの各元素が、各残渣および浸出液へ移行していく状況を示すフロー図である。 参考例1においてAg、Pb、Snの各元素が、各残渣および浸出液へ移行していく状況を示すフロー図である。
上述したように本発明者らは、錫さらに他の有価な金属成分を含む製錬残渣を、塩素および臭素を用いて浸出する際に、還元剤を加える構成により、当該製錬残渣から効率よく錫を回収出来るとの画期的な知見を得て発明を完成した。
尚、説明の便宜の為、製錬残渣を、塩素および臭素を用いて浸出する際に還元剤を加える構成を有する浸出工程を「2段目浸出工程」、当該工程で産出する浸出液を「2段目浸出液」、当該工程で産出する浸出残渣を「2段目浸出残渣」と記載する場合がある。
ところが、本発明者らのさらなる検討によると、製錬残渣が錫の他に鉛を含有する場合、2段目の浸出液において、錫および鉛が浸出されることを知見した。ここで、錫と鉛とは化学的性質が類似しており、後工程において両者を分離する為に、面倒な操作が求められることが考えられた。
ここで、本発明者らはさらに検討を続け、錫と鉛、さらに他の有価な金属成分を含む製錬残渣を、還元剤を加えることなく塩素および臭素を用いて浸出すると、鉛は浸出されるが、錫は殆ど浸出されず残渣に残ることを知見した。
尚、説明の便宜の為、製錬残渣を、還元剤を加えることなく、塩素および臭素を用いて浸出する構成を有する浸出工程を「1段目浸出工程」、当該工程で産出する浸出液を「1段目浸出液」、当該工程で産出する浸出残渣を「1段目浸出残渣」と記載する場合がある。
以上の発明および知見より本発明らは、製錬残渣を1段目浸出工程において処理し、得られた1段目浸出残渣を2段目浸出工程において処理し、錫を含む2段目浸出液を得るという構成を有する発明を、さらに完成した。
以下、図面を参照しながら、各工程毎に本発明を実施するための形態について説明する。尚、当該説明において、錫をSn、鉛をPb、銀をAg、塩素をCl、臭素をBrというように、元素を元素記号で記載する場合がある。
図1は、本発明を実施するための一形態を示すフロー図である。そして本発明に係るSnの回収方法は、図1に示すように、1段目浸出工程(10)、固液分離工程[1回目](20)、2段目浸出工程(50)、固液分離工程[2回目](60)、Sn回収工程(70)、製錬残渣への繰り返し工程(80)の各工程を有している。
以下、まず[1]製錬残渣について説明し、次に[2]1段目浸出工程、[3]固液分離工程[1回目]および[4]1段目浸出工程の評価試験、によって1段目浸出工程について詳細に説明する。
そして[5]2段目浸出工程、[6]固液分離工程[2回目]、および[7]2段目浸出工程の評価試験、によって2段目浸出工程について詳細に説明する。
さらに[8]Sn回収工程、[9]Sn回収工程の評価試験、によってSn回収工程について詳細に説明する。
さらに[10]1段目浸出工程および固液分離工程の複数回実施、[11]1段目浸出工程および固液分離工程の複数回実施の評価試験、によって本発明を実施するための、異なる実施形態について説明する。
最後に[12]Ag、Pb回収工程、によって本発明を実施する際に、併せて実施すると好ましい形態について説明する。
[1]製錬残渣
製錬残渣(11)は、非鉄製錬の工程における浸出処理操作により発生する残渣である。例えば亜鉛製錬においては、原料鉱石として亜鉛精鉱を用いるが、当該亜鉛精鉱にはZn以外に、Au、Ag等の貴金属、Sn、Pb、In、Ge、Si、S等の各種元素が雑多に含まれている。この為、亜鉛製錬工程における多数の処理工程による金属分離の処理により、製錬残渣中では、各金属成分がさらに複雑に化合してしまっている。
本発明では、このような多様な形態の複数の金属を含む製錬残渣(11)を被処理物とする。当該製錬残渣(11)の例として、亜鉛製錬において亜鉛精鉱を焙焼し、酸による浸出後において発生する製錬残渣であって、Sn、Pb、Agを含み、さらにはIn、Ge、Au、Siから選択される1種以上を含み、他にもレアメタル、S等も含むものがある。
尚、本発明にて扱う製錬残渣(11)は、例えば、
Ag品位:0.005~0.5質量%
Pb品位:0.5~50.0質量%
Sn品位:0.01~1.0質量%
という水準のものである。
また本発明では、後述する1段目または2段目の浸出工程で産出した浸出残渣も、製錬残渣として扱う場合がある。
[2]1段目浸出工程
1段目浸出工程(10)においては、ハロゲン化物の水溶液を用いて、製錬残渣(11)からPb、Ag等のSn以外の金属を浸出する工程である。即ち、当該1段目浸出工程(10)は、Snが浸出されず残渣に残るように、Snが酸化された状態となるよう浸出条件を設定したものである。
具体的には、Cl、または、ClおよびBrを、添加する為のハロゲン化物(12)としては、NaCl、NaClおよびNaBr、等を用いることが出来る。
そのハロゲン化物の添加濃度として、NaCl溶液を用いる場合、50~300g/Lが好ましく、300g/Lが特に好ましい。NaClおよびNaBr溶液を用いる場合、NaCl濃度50~300g/L、NaBr濃度50~300g/Lが好ましい。
添加するpH調整剤(13)としては、NaKCO、CaCO、NaOHから選択される1種以上を用いることが出来る。
当該pH調整剤の添加量としては、浸出中のpH値を2~5の範囲、酸化還元電位(本発明において「ORP」と記載する場合があり、Ag/AgCl電極で測定されたものである。)を-300~900mVに制御出来る量であればよい。
[3]固液分離工程[1回目]
1段目浸出工程(10)の後、フィルタープレスまたはシックナー等により固液分離工程[1回目](20)を行い、得られた1段目残渣(22)は次の2段目浸出工程(50)へ送られる。 一方、1段目浸出液(21)には、Pb、Ag等が含まれているので、各々の回収工程へ送られる。
[4]1段目浸出工程の評価試験
浸出試料として、製錬残渣試料《1》~《21》を準備した。そして、ハロゲン化物の種類・濃度、pH調整剤の種類、パルプ濃度、等の浸出条件を変化させた場合における、浸出液へのAg、Pb、Snの各元素の浸出率を測定して、1段目浸出工程の評価試験を行った。
ここで、浸出率を測定する元素としてAg、Pb、Snを選択したのは、次の理由による。
Ag:工業的に有用かつ高価であることから、高効率で回収することが求められる元素であることによる。
Pb:Snと化学的性質が類似しており、Snとの分離が比較的困難である。そこで、本発明の目的であるSn回収の効果を確認するための、相方として選択したものである。
Sn:本発明が回収を目的とする元素である
また、本発明における浸出率は、次式にて算出したものである。
浸出率(%)
=(処理前の元素含有量-処理後の元素含有量)/(処理前の元素含有量)
=((処理前の残渣固形分量×処理前の品位)-(処理後の残渣固形分量×処理後の品位))/(処理前の残渣固形分量×処理前の品位)・・・・・・(式)
表1に、1段目浸出評価試験の試験条件および試験結果を記載する。また表1には、1段目浸出試験の試験条件、1段目浸出工程の途中経過および評価試験結果から導出された1段目浸出条件の好ましい範囲についても記載した。
Figure 0007130497000001
1段目浸出評価試験結果より、1段目浸出工程(50)における浸出は以下の条件で行うことが好ましいことが判明した。
(1)ハロゲン化物(12)であるNaClの添加濃度は50~300g/L、NaBrの添加濃度は300g/L以下とすることが好ましい。
(2)pH値は、2~5になるよう設定することが好ましい。
(3)ORPは、-300~900mVになるよう設定することが好ましい
(4)製錬残渣(11)のパルプ濃度(PD)は、100g/L以下になるよう設定することが好ましい。
(5)浸出時の液温は60~95℃とすることが好ましいが、90~95℃とすることがさらに好ましい。
(6)撹拌方法に特に制限はないが、傾斜パドルを用いることが好ましい。
(7)浸出時の撹拌は、加熱状況に応じてpH調整を開始し、pH値を上述の範囲に制御するのが好ましい。
(8)浸出時間は、60分間~180分間が好ましい。
そして、表1より、製錬残渣試料《1》~《21》に含まれるSnの殆どは1段目残渣(22)中にあり、AgとPbの殆どは1段目浸出液(21)へ浸出されていることが理解出来る。
[5]2段目浸出工程
2段目浸出工程(50)は、ClおよびBrから選択される1種以上と、還元剤とを組み合わせ、製錬残渣からSnの浸出を図る工程である。そして、1段目浸出工程(10)後の1段目残渣(22)を処理対象とすることにより、Snを効率良く浸出する工程である。尤も、処理対象は当該1段目残渣に限られず、当該1段目残渣と同等の組成を有するものであれば処理対象とすることが出来る。
即ち、上述した1段目浸出工程(10)に続いて、2段目浸出工程(50)が実施される場合は、1段目浸出工程においてSn以外の金属であるPbやAg等が既に分離されていることにより、2段目浸出工程ではSnの回収がより効率的に行われる。
2段目浸出工程(50)にて添加される還元剤(51)は、ORPを後述する範囲にて制御出来る薬剤、金属粉であれば良い。具体的には、Fe粉やZn粉、特にFe粉が好ましい。これは、当該2段目浸出工程(50)後の固液分離工程[2回目](60)においてSnを分離する際、液性の条件により還元剤(51)であるFeやZnが分離し易いこと、および、Fe粉やZn粉は製錬工程内にて入手し易いことによる。
ここで、還元剤(51)の添加効果について説明する。
従来の技術に係るCu、Au、Ag、Pb等、各種重金属・貴金属元素の浸出方法においては、単純なハロゲン浴浸出、および、当該ハロゲン浴浸出へ酸化条件の制御を加えた浸出が専らである。これに対し、本発明に係る2段目浸出工程(50)においては、還元剤(51)の添加による還元により、難溶性Sn4+化合物を易溶性のSn2+へ還元して、浸出溶解するものである。
そして、ClおよびBrから選択される1種以上を供給するハロゲン化物(52)としては、NaCl、NaCl/NaBr、NaBr等を用いることが出来る。そのハロゲン化物の濃度としては、NaCl溶液を用いる場合濃度5~300g/L、NaClおよびNaBr溶液を用いる場合、NaCl濃度5~300g/L、NaBr濃度5~300g/L、NaBr溶液を用いる場合、濃度5~300g/Lが好ましい。
添加するpH調整剤(53)としては、HClを好ましく用いることが出来る。
[6]固液分離工程[2回目]
2段目浸出工程(50)を行った後、フィルタープレスまたはシックナー等により固液分離工程[2回目](60)を行う。得られた2段目浸出液(61)は、Sn濃度が高く、液性を電解法用に調整して電解液とすれば、電解法により高純度Snメタル(99.9質量%以上)を回収することが可能である。Snメタル回収方法としては、他に揮発法等もあり、Snを回収する公知な方法が適用可能である。
一方、2段目残渣(62)にはケイ素化合物、Pb、Ag等の各種の金属元素が含まれている。そこで当該2段目残渣(62)を、製錬工程や製錬炉へ繰り返す(80)ことは、資源の有効利用の観点から好ましい構成である。
[7]2段目浸出工程の評価試験
2段目浸出試料《22》~《40》を準備し、浸出に用いるハロゲン化物としてNaCl、またはNaBr、またはNaClとNaBrとの混合物を用い、pH調整剤(53)としてHClを用い、還元剤(51)としてFe粉を用い、パルプ濃度、等の浸出条件を適宜設定した場合における、浸出液へのAg、Pb、Snの各元素の浸出率を測定して、2段目浸出工程の評価試験を行った。
ここで、浸出率を測定する元素としてAg、Pb、Snを選択し理由、および、浸出率の算出方法は、上述した「[4]1段目浸出評価試験」と同様である。
表2に、2段目浸出評価試験の試験条件および試験結果を記載する。また表2には、2段目浸出試験の試験条件、途中経過および評価試験結果から導出された2段目浸出条件の好ましい範囲についても記載した。
Figure 0007130497000002
2段目浸出評価試験より、以下のことが判明した。
PbとSnの殆どは2段目浸出液(61)へ浸出され、Agの殆どは2段目残渣(62)中にあることが理解出来る。ここで、PbとSnの殆どが2段目浸出液(61)へ浸出されていることから、PbとSnとの分離性に問題があるとも考えられる。しかし、上述した1段目浸出工程(10)において殆どのPbは、既に1段目浸出液(21)へ浸出されてしまっているので問題は無い。
2段目浸出評価試験結果より、2段目浸出工程(50)における浸出は以下の条件で行うことが好ましいことが判明した。
(1)ハロゲン化物(52)であるNaClの添加濃度は5~300g/L程度、NaBrの添加濃度は5~300g/L程度が好ましい。
(2)pH調整剤(53)は、pH値が0.5~1.5の範囲となるように添加することが好ましい。
(3)還元剤(51)の添加量は20g/L以上とし、ORPを-700~-200mVに制御出来る量を添加することが好ましい。
(4)1段目残渣(22)のパルプ濃度(PD)は、100g/L以下になるよう設定することが好ましい。
(5)浸出時の液温は60~95℃とすることが好ましいが、90~95℃とすることがさらに好ましい。
(6)撹拌方法に特に制限はないが、傾斜パドルを用いることが好ましい。
(7)浸出時の撹拌は、加熱状況に応じてpH調整を開始し、pH値を上述の範囲に制御するのが好ましい。
(8)浸出時間は、60分間~360分間が好ましい。
[8]Sn回収工程
固液分離工程[2回目](60)にて生成する2段目浸出液中(61)中には、Snに加えて、まだ、Pb、Ag、還元剤成分、等が含まれている。そこで2段目浸出液(61)へアルカリ剤(71)等を加えSn化合物を析出させる、Sn回収工程(70)を実施することが好ましい。当該Sn回収工程(70)を実施することによって、Snをより効率的に分離して回収することが可能となる。
アルカリ剤(71)としてはNaKCO、NaOH等を好ましく使用出来る。そして、浸出中のpH値を4.0以上の範囲、ORPを200mV以下に制御出来る量を添加すればよい。
[9]Sn回収工程の評価試験
2段目浸出液(61)である浸出液試料を準備し、当該2段目浸出液からSn化合物を析出させるSn回収評価試験を行った。その際、SnとPb、さらにはSnとAgとの分離性と、Snの回収も評価した。具体的には、Sn溶解に用いるアルカリ剤の種類・濃度を変えた場合における、Ag、Pb、Snの各化合物の回収率を測定してSn回収工程の評価試験を行った。
まず、2段目浸出試料《22》を準備し、これを2分割して、2段目浸出液試料《22A》《22B》とした。
2段目浸出液試料《22A》は、pH0.45、ORP352.5mVであった。また、2段目浸出液試料《22B》は、pH0.412、ORP354.2mVであった。
次に、2段目浸出液試料《22A》へは、アルカリ剤(71)としてNaKCOを濃度1.71g/Lとなるよう添加して試料《41》を得、濃度13.01g/Lとなるよう添加して試料《42》を得た。尚、試料《42》へのNaKCOの添加量を増やしても、pH値は6.63より上がらないことが判明した。
一方、2段目浸出液試料《22B》へは、アルカリ剤(71)としてNaOHを、pH4.00となるよう添加して試料《43》を得、pH7.08となるよう添加して試料《44》を得、pH10.20となるよう添加して試料《45》を得た。
そして、アルカリ剤(71)添加前後において、試料《41》、《42》、試料《43》~《45》中の溶解しているAg、Pb、Snの各濃度を測定した。当該測定値から、2段目浸出液試料《22A》《22B》に溶解していたAg、Pb、Snが、アルカリ剤(71)添加により沈殿として析出し、回収された割合を算出し回収率とした。
当該Sn回収評価試験の試験条件および試験結果を表3、4に記載する。
Figure 0007130497000003
Figure 0007130497000004
表3、4の結果より、Sn回収工程(70)において適宜なアルカリ剤(71)を適量添加することで、2段目浸出液(61)から、高い分離性をもってSnを回収出来ることが判明した。
[10]1段目浸出工程および固液分離工程の複数回実施
「[2]1段目浸出工程、[3]固液分離工程[1回目]」において、1段目浸出工程(10)および固液分離工程[1回目](20)について説明した。
ここで、当該1段目浸出工程および固液分離工程[1回目]を複数回実施することも好ましい構成である。当該構成について、当該1段目浸出工程および固液分離工程を2回実施する例を図2に示した。
以下、図2を参照しながら、1段目浸出工程および固液分離工程[1回目]を複数回(2回)実施する工程について説明する。
図2に示すように、1段目浸出工程を2回実施するSnの回収方法の場合は、1段目浸出工程[1回目](10)、固液分離工程[1回目](20)、1段目浸出工程[2回目](30)、固液分離工程[2回目](40)、2段目浸出工程(50)、固液分離工程[2回目](60)、Sn回収工程(70)、製錬工程または製錬炉への繰り返し工程(80)の各工程を有している。
即ち、1段目浸出工程[2回目](30)、固液分離工程[2回目](40)を実施し、1段目浸出工程[2回目](30)においてハロゲン化物(31)、pH調整剤(32)を添加する以外は、図1で示した、1段目浸出工程および固液分離工程[1回目]を1回実施するSnの回収方法の場合と同様である。
そして、1段目浸出工程および固液分離工程を複数回実施することで、Snと他の金属元素との分離をさらに高めることが出来る。
[11]1段目浸出工程および固液分離工程の複数回実施の評価試験
製錬残渣試料を準備し、浸出に用いるハロゲン化物、pH調整剤、パルプ濃度、等の浸出条件を適宜設定した場合における、1回目および2回目の1段目浸出工程および固液分離工程で得られた浸出液へのAg、Pb、Snの各元素の浸出率を測定した。そして、1段目浸出工程を2回実施した場合の評価試験を行った。
ここで、浸出率を測定する元素としてAg、Pb、Snを選択した理由および浸出率の算出方法は、上述した「[4]1段目浸出評価試験」と同様である。
表5に、1段目浸出工程および固液分離工程を2回実施した場合の評価試験の試験条件および試験結果を記載する。
Figure 0007130497000005
表5の結果より、1段目浸出工程および固液分離工程を2回実施することにより、1回実施の場合に比較してAg、Pbをより高い収率で得ることが出来ることが判明した。この結果、1段目浸出[2回目](42)中におけるAg、Pb量は、1段目浸出[1回目](22)中におけるAg、Pb量より削減されていることから、1段目残渣(61)[2回目]中において、高い分離性をもってSnを残すことが出来ることが判明した。
[12]Ag、Pb回収工程
[8]Sn回収工程」において、固液分離工程[2回目](60)にて生成する2段目浸出液(61)中へアルカリ剤(71)を加えて、Sn化合物を析出させる構成について説明した。
同様に、固液分離工程[1回目](20)にて生成する1段目浸出液(21)中へ、銅粉等の金属粉を添加してAg化合物を析出させたり、アルカリ剤を添加してPb化合物を析出させることも好ましい構成である。
例えば、1段目浸出液試料《2》中へCu粉を添加して、Ag化合物を析出させる場合のCu粉の各添加濃度における試料(2.5g/L添加:試料《51》、5.0g/L添加:試料《52》、15.0g/L添加:試料《53》)と、Agの回収率との関係を表6に示す。但し、1段目浸出液試料《2》のpH値は0.731であった。
Figure 0007130497000006
表6の結果より、1段目浸出液(21)からAgを回収したい場合は、Cu粉の添加濃度として2.5~15.0g/Lの範囲が好ましいことが理解出来る。
一方、例えば、1段目浸出液試料《2》へアルカリ剤としてNaKCOを添加して、Pb化合物を析出させる場合の各pHの値における試料(pH4:試料《54》、pH7:試料《55》、pH10:試料《56》)と、Pbの回収率との関係を表7に示す。但し、1段目浸出液試料《2》のpH値は0.731であった。
Figure 0007130497000007
表7の結果より、1段目浸出液(21)からPbを回収したい場合は、NaKCOを添加したときのpH値を10付近に設定することが好ましいことが理解出来る。
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
実施例1は、上述した「[4]1段目浸出評価試験」において説明した製錬残渣試料《4》に係る1段目浸出の条件と、「[7]2段目浸出工程の評価試験」において説明した2段目浸出試料《22》に係る2段目浸出工程の条件とを組み合わせて実施したものである。
実施例1において、製錬残渣に含まれていたAg、Pb、Snの各元素が、1段目および2段目浸出により各段目の残渣および浸出液へ移行していく状況を、図3を用いて説明する。
まず、製錬残渣試料《4》に係る製錬残渣に含まれているAg全量を100%、Pb全量を100%、Sn全量を100%とする。
製錬残渣試料《4》に係る1段目浸出工程と固液分離工程[1回目]とを実施して得られた、1段目浸出液には87.2%のAg、77.3%のPb、0.0%のSnが含有され、1段目残渣には12.8%のAg、22.7%のPb、100.0%のSnが含有されている。
次に、当該1段目残渣に、2段目浸出試料《22》に係る2段目浸出工程と固液分離工程[2回目]とを実施すると、1段目残渣中の12.8%のAgの内、26.8%は2段目浸出液へ浸出されるので、製錬残渣に含まれているAg全量100%の内、3.4%が2段目浸出液に含まれ、9.4%が2段目浸出残渣に含まれる。
同様に、製錬残渣に含まれているPb全量100%の内、22.4%が2段目浸出液に含まれ、0.3%が2段目浸出残渣に含まれる。
同様に、製錬残渣に含まれているSn全量100%の内、82.1%が2段目浸出液に含まれ、17.9%が2段目浸出残渣に含まれる。
この結果、図3に示すように、2段目の浸出液には、製錬残渣に含まれていたSnの82.1%が浸出されているのに対し、Agは3.4%、Pbは22.4%であった。一方、1段目の浸出液には、製錬残渣に含まれていたAgの87.2%が浸出されていた。
このことから、実施例1において、Snが高効率および高い分離性をもって回収され、且つ、高価なAgも高効率で回収されることが判明した。
(実施例2(I))
実施例2(I)は、上述した「[4]1段目浸出評価試験」において説明した製錬残渣試料《2》に係る1段目浸出と、「[7]2段目浸出工程の評価試験」において説明した2段目浸出試料《23》に係る2段目浸出とを組み合わせて実施したものである。
実施例2(I)において、製錬残渣に含まれていたAg、Pb、Snの各元素が、1段目および2段目浸出により各段目の残渣および浸出液へ移行していく状況を、図4に示した。
この結果、図4に示すように、2段目の浸出液には、製錬残渣に含まれていたSnの79.8%が浸出されているのに対し、Agは2.5%、Pbは14.5%であった。一方、1段目の浸出液には、製錬残渣に含まれていたAgの71.5%が浸出されていた。
このことから、実施例2(I)において、Snが高効率および高い分離性をもって回収され、且つ、高価なAgも高効率で回収されることが判明した。
(実施例2(II))
実施例2(II)は、上述した「[4]1段目浸出評価試験」において説明した製錬残渣試料《2》に係る1段目浸出と、「[7]2段目浸出工程の評価試験」において説明した2段目浸出試料《24》に係る2段目浸出とを組み合わせて実施したものである。
実施例2(II)において、製錬残渣に含まれていたAg、Pb、Snの各元素が、1段目および2段目浸出により各段目の残渣および浸出液へ移行していく状況を、図5に示した。
この結果、図5に示すように、2段目の浸出液には、製錬残渣に含まれていたSnの70.9%が浸出されているのに対し、Agは8.2%、Pbは14.4%であった。一方、1段目の浸出液には、製錬残渣に含まれていたAgの71.5%が浸出されていた。
このことから、実施例2(II)において、Snが高効率および高い分離性をもって回収され、且つ、高価なAgも高効率で回収されることが判明した。
(参考例1)
参考例1は、上述した「[4]1段目浸出評価試験」において説明した製錬残渣試料《1》に係る1段目浸出と、「[7]2段目浸出工程の評価試験」において説明した2段目浸出試料《25》に係る2段目浸出とを組み合わせて実施したものである。
参考例1において、製錬残渣に含まれていたAg、Pb、Snの各元素が、1段目および2段目浸出により各段目の残渣および浸出液へ移行していく状況を、図6に示した。
この結果、図6に示すように、2段目の浸出液には、製錬残渣に含まれていたSnの55.6%が浸出されているのに対し、Agは5.9%、Pbは4.6%であった。一方、1段目の浸出液には、製錬残渣に含まれていたAgの88.1%が浸出されていた。
このことから、参考例1において、Snが効率は高くないものの高い分離性をもって回収され、且つ、高価なAgは高効率で回収されることが判明した。
(まとめ)
以上、実施例を用いて説明したように、本発明に係るSnの回収方法によれば、Snおよび有価な金属成分を含む製錬残渣から、Snを効率よく回収することが出来た。

Claims (5)

  1. 錫を含む製錬残渣から錫を回収する方法であって、
    前記製錬残渣へ、塩素および臭素から選択される1種以上を含む溶液と、還元剤とを加える工程と、
    前記溶液のpHを0.5以上1.5以下、酸化還元電位を-700mV以上-200mV以下として、前記製錬残渣を浸出する工程と、
    前記浸出により得られた浸出液から錫を回収する工程と、を有する錫の回収方法。
  2. 錫と、鉛と、銀と、
    インジウム、ゲルマニウム、金、ケイ素から選択される1種以上と、を含む製錬残渣から錫を回収する方法であって、
    前記製錬残渣へ、塩素を含む溶液、または、塩素と臭素とを含む溶液を加えて浸出し、残渣を得る工程と、
    得られた残渣へ、塩素および臭素から選択される1種以上を含む溶液と、還元剤とを加える工程と、
    前記溶液のpHを0.5以上1.5以下、酸化還元電位を-700mV以上-200mV以下として、前記製錬残渣を浸出する工程と、
    前記浸出により得られた浸出液から錫を回収する工程と、を有する錫の回収方法。
  3. 前記錫を回収する工程の後に得られた残渣を、製錬工程または製錬炉へ繰り返す工程を有する、請求項1または2に記載の錫の回収方法。
  4. 前記還元剤として、金属粉を用いる、請求項1から3のいずれかに記載の錫の回収方法。
  5. 前記金属粉として、鉄粉、亜鉛粉から選択される1種以上を用いる、請求項4に記載の錫の回収方法。

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