以下、図面を参照して、本発明によるレジストパターン形成方法の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
まず、図1を参照して、本実施形態のレジストパターン形成方法を説明する。レジスト材料から構成されるレジスト層の種類には、露光部分が現像液において溶解するポジ型と露光部分が現像液において溶解しないネガ型とがあるが、以下の説明では、一例として、ポジ型のレジスト層を説明する。レジスト層は、露光によって酸を発生させる酸発生剤と酸の作用によって現像液での溶解性が変化する基材(ベース樹脂)を含有する化学増幅型であってもよい。
図1(a)~図1(e)のそれぞれは、本実施形態のレジストパターン形成方法の各工程を示す模式図である。
まず、図1(a)に示すように、基板S上にレジスト層10を形成する。例えば、レジスト層10は、用意した基板S(例えばウェハー)上に、溶液に溶解させたレジスト材料を塗布してプリベークを行うことによって形成される。典型的には、基板Sの表面に、フォトリソグラフィの対象物(例えば、半導体層または絶縁層)が形成されている。
レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、酸発生剤PAG(Photo Acid Generator:PAG)、塩基発生剤PBG(Photo Base Generator:PBG)および塩基Baを含有する。なお、レジスト層10は、基板S上に直接形成されてもよく、あるいは、基板S上に設けられた下地層の上に形成されてもよい。レジスト層10中において、例えば、100質量部のベース樹脂Rに対して、増感体前駆体Ppは0.1質量部以上40質量部以下であり、酸発生剤PAGは0.1質量部以上40質量部以下であり、塩基Baは0質量部よりも多く10質量部以下であり、塩基発生剤PBGは0質量部よりも多く40質量部以下である。
ベース樹脂Rは、例えば、メチルメタクリレート系高分子(以下「MMA」と記載)である。後述するパターン露光L1およびフラッド露光L2の少なくとも一方に起因する化学反応には、中間体、ラジカルおよびイオン(カチオンまたはアニオン)等が関与するが、MMA樹脂は、中間体、ラジカルおよびイオンを消失させにくい。ただし、ベース樹脂Rは、ポリヒドロキシスチレン樹脂(PHS樹脂)を含むものであってもよい。あるいは、ベース樹脂Rは、MMA樹脂およびPHS樹脂の混合型であってもよい。
また、ベース樹脂Rは、フェノール樹脂またはアセタール型の保護基を有する種々の樹脂でもよい。EUV露光またはEB露光の場合、プロトンは、主としてベース樹脂Rから発生して、ベース樹脂R中もしくはベース樹脂R間を移動し、酸発生剤PAGの解離によって生成したアニオンと反応して酸を生成する。ベース樹脂Rは、高分子化合物だけでなく低分子化合物を含むものであってもよいが、低分子化合物から発生したプロトンが、ベース樹脂間を移動し、酸発生剤PAGの解離によって生成したアニオンと反応して酸を生成することが好ましい。さらに、ベース樹脂Rは、ベース樹脂R中もしくはベース樹脂R間を移動するプロトンを発生させない樹脂でもよい。あるいは、ベース樹脂Rは無機物でもよい。なお、EUVまたはEBのビームを照射する場合、レジスト層10では放射線化学反応が生じる一方で、ArFレーザまたはKrFレーザのビームを照射した場合、レジスト層10では光化学反応が生じる。このように、照射するビーム源の種類に応じて、酸生成反応は異なる。
なお、ベース樹脂Rは、パターン露光L1およびフラッド露光L2の少なくとも一方によって分解され、中間体、ラジカルおよびイオンを生成してもよい。特に、パターン露光L1のビームとして電子線またはEUVビームを用いる場合、ベース樹脂Rは比較的容易に分解される。
増感体前駆体Ppは、アセタール型であってもよく、アルコール型であってもよい。増感体前駆体Ppがアセタール型である場合、アセタール化合物は、アルデヒドから得られたものであってもよく、ケトンから得られたものであってもよい。あるいは、増感体前駆体Ppは、アセタール以外にケタール、ヘミアセタール(セミケタール)であってもよい。例えば、増感体前駆体Ppは、ジメトキシベンズヒドロール誘導体(DOBzMM)である。
増感体前駆体Ppはベース樹脂Rに混合されていてもよい。あるいは、増感体前駆体Ppはレジスト層10内の別の成分に結合されてもよい。例えば、増感体前駆体Ppは、ベース樹脂Rに結合されている。
また、増感体前駆体Ppがアルコール型である場合、レジスト層10はラジカル発生成分を含有している。ラジカル発生成分は、ベース樹脂Rに混合されていてもよい。あるいは、ラジカル発生成分はレジスト層10内の別の成分に結合されてもよい。例えば、ラジカル発生成分は、ベース樹脂Rに結合されていてもよく、あるいは、酸発生剤PAGに結合されていてもよい。
レジスト層10内においてラジカル発生成分から発生したラジカルにより、増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。例えば、増感体前駆体Ppは、ビス(4-メトキシフェニル)メタノール(DOMeBzH)およびトリメトキシベンズヒドロール(TriOMeBzH)などのアルコール型増感体前駆体の少なくとも1つを含む。あるいは、増感体前駆体Ppは、アセタール型およびアルコール型の混合型であってもよい。
酸発生剤PAGから、酸Acが発生する。酸発生剤PAGは、例えば、ヨードニウム塩(R2IX)系のジフェニルヨードニウムパーフルオロブタンスルホン酸(DPI-PFBS)でも、スルホニウム塩(R3SX)系のトリフェニルスルホニウムパーフルオロブタンスルホン酸(TPS-PFBS)でもよい。また、酸発生剤PAGは、PBpS-PFBSのようなヨードニウム塩でもよい。
なお、酸発生剤PAGは、拡散係数の小さいバルキーなものが好ましいが、酸発生剤PAGはベース樹脂Rに結合されていてもよい。酸発生剤PAGは励起状態の増感体Psから効率よく電子移動を受けるものが好ましい。また、酸発生剤PAGの濃度が高く、電子移動が起きやすいことが好ましい。なお、同じ化合物が増感体前駆体Ppおよび酸発生剤PAGの両方として機能してもよい。
塩基発生剤PBGは、非イオン型であってもよく、イオン型であってもよい。非イオン型の塩基発生剤PBGは、例えば、9-アンスリルメチルーN,N-ジエチルカルバメートである。また、イオン型の塩基発生剤PBGは、例えば、シクロヘキシルアンモニウム 2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピオナート、ジシクロヘキシルアンモニウム 2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピオナートなどである。なお、塩基発生剤PBGから発生する塩基Baの拡散係数は小さいことが好ましい。
塩基Baは、酸発生剤PAGから発生した酸Acと反応して中和する。なお、塩基発生剤PBGから発生した塩基Baも、酸発生剤PAGから発生した酸Acと反応して中和する。本明細書においてレジスト層10に予め含有される塩基Baを塩基Ba1と記載することがある。塩基Ba1の種類は、塩基発生剤PBGから発生した塩基Baの種類と等しくてもよく、異なってもよい。
塩基Ba1によりレジスト層10は塩基性を示すため、増感体前駆体Ppの分解が抑制されるとともに、パターン露光L1としてEUVを用いた場合の帯域外光(Out of Band)によって不要な領域に生成される極低濃度の酸を除去することができる。
例えば、塩基(塩基性化合物)Ba1としてはトリオクチルアミン等のアミン化合物が用いられる。塩基Ba1はベース樹脂Rに混合されていてもよい。あるいは、塩基Ba1はレジスト層10内の別の成分に結合されてもよい。例えば、塩基Ba1は、ベース樹脂Rに結合されている。塩基Ba1は、小さい拡散係数を有することが好ましい。レジスト層10に予め少量の塩基Ba1を添加することにより、コントラストおよび解像度を改善できるとともに、領域10bへの迷光または帯域外光(Out Of Band)の照射に伴う少量の酸の生成を抑制でき、レジスト性能を向上できる。
次に、図1(b)に示すように、レジスト層10にパターン露光L1を行う。パターン露光L1におけるビームは、レジスト層10の領域10aを高線量で照射し、レジスト層10の領域10bを低線量で照射する。図1(b)では、パターン露光L1の矢印は、高線量で照射される領域10aに模式的に付している。
パターン露光L1によって、レジスト層10の領域10a、10bにエネルギーが付与される。レジスト層10に付与されたエネルギーにより、レジスト層10内の組成が励起またはイオン化されて活性状態が生成され、レジスト層10の増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。
また、レジスト層10に付与されたエネルギーにより、レジスト層10の領域10a内の酸発生剤PAGから酸Acが発生する。なお、本明細書において、パターン露光L1における酸Acを酸Ac1と記載することがある。例えば、酸Ac1は、パターン露光L1によって酸発生剤PAGから発生する。
レジスト層10において発生した酸Ac1は、塩基Ba1と中和する。なお、レジスト層10の領域10aの少なくとも一部の領域おいて酸Ac1の濃度は塩基Ba1の濃度よりも高い。このため、酸Ac1と塩基Ba1との中和の後も、酸Acの少なくとも一部は残る。典型的には、酸Acは、領域10aのうちの少なくとも中央部において残る。
なお、例えば、レジスト層10周辺の環境は、増感体Psの生成に関与する酸および/またはラジカルの減衰を制御できる雰囲気であることが好ましい。増感体Psの生成に関与する酸および/またはラジカルの減衰を制御できる雰囲気は、塩基性物質を含まない不活性ガス雰囲気または真空雰囲気であってもよく、レジスト層10の上に塩基性物質および/または酸素を遮断するトップコート層が設けられてもよい。レジスト層10周辺の環境を不活性ガス雰囲気にする場合、不活性ガスとして、例えば窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスが用いられる。この場合、圧力は、減圧下であってもよく、または、加圧下であってもよい。また、レジスト層10周辺の環境を真空雰囲気にする場合、レジスト層10の周辺が真空下であればよく、レジスト層10の周辺が気圧1Pa以下の真空状態であることが好ましい。不活性ガス雰囲気または真空雰囲気の環境中では、レジスト層10内で増感体Psの生成に関与する酸やラジカルの減衰が抑制される。
増感体前駆体Ppがアセタール型の場合、パターン露光L1は、現在の半導体量産プロセスで主に用いられている化学増幅レジストと同様に、クリーンルーム中に設置された露光装置の中にさらに塩基除去用フィルターを挿入して酸の失活が起きない雰囲気下で行うことが好ましい。また、増感体前駆体Ppがアルコール型の場合、パターン露光L1は、酸の失活が起きず、かつ、真空または不活性の雰囲気下で行われることが好ましい。
パターン露光L1のビームとして、例えば、電磁波等が用いられる。電磁波の波長は250nmよりも短いことが好ましい。例えば、パターン露光L1のビームとして、極端紫外線(EUV)、ArFエキシマーレーザまたはKrFエキシマーレーザを用いることが好ましい。パターン露光L1のビームとして、例えば、荷電ビームを用いてもよい。荷電ビームは、電子線(EB)およびイオンビームを含む。また、レジスト層10の上に塩基性物質および/または酸素を遮断するトップコート層が設けられてもよい。
なお、パターン露光L1によって酸発生剤PAGから酸Acが発生する一方で、パターン露光L1自体によっては、増感体前駆体Ppから増感体Psが生成しなくてもよい。この場合、パターン露光L1によって発生した酸Acを生成した後で、レジスト層10を加熱することにより、酸Acに対応して増感体前駆体Ppから増感体Psが生成されてもよい。
その後、図1(c)に示すように、レジスト層10にフラッド露光L2を行う。フラッド露光L2によって、増感体Psの生成されたレジスト層10の全体にエネルギーが付与される。エネルギーが付与されると、酸発生剤PAGから酸Acが発生する。なお、本明細書において、フラッド露光L2における酸Acを酸Ac2と記載することがある。酸Ac2は、パターン露光L1における酸Acと塩基Baとの中和の後に残った酸Acと、フラッド露光L2において酸発生剤PAGから発生した酸Acとの和である。なお、フラッド露光L2によって酸Acを発生する酸発生剤PAGの種類は、パターン露光L21よって酸Acを発生する酸発生剤PAGの種類と等しくてもよく、異なってもよい。
また、図1(c)に示すように、フラッド露光L2により、レジスト層10全体において塩基発生剤PBGから塩基Baが発生する。本明細書において、フラッド露光L2における塩基Baを塩基Ba2と記載することがある。例えば、塩基Ba2は、パターン露光L1における酸Acと塩基Baとの中和の後に残った塩基Baと、フラッド露光L2によって塩基発生剤PBGから発生する塩基Baとの和である。
フラッド露光L2によって塩基発生剤PBGから塩基Baが発生すると、塩基Baの濃度は場所によらず一定の値を示す。なお、上述したように、パターン露光L1の前にレジスト層10が初期の塩基Ba1を含有するため、塩基Ba2を示す値は、フラッド露光L2によって発生した塩基Baの濃度となる。
例えば、フラッド露光L2により、増感体Psは励起状態に遷移する。増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが発生する。なお、上述したように、フラッド露光L2により、レジスト層10全体において、塩基発生剤PBGから直接的に塩基Baを発生させてもよい。あるいは、フラッド露光L2により、増感体Psを介して塩基発生剤PBGから塩基Baを発生させてもよい。
増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが発生する場合、増感体Psの励起状態の電子が酸発生剤PAGに移動すると、増感体Psの励起状態はカチオンラジカルになり、酸発生剤PAGは解離型電子付加反応を起こして分解しアニオンが生成する。その後の複雑な反応を経由して、最終的に酸Acと励起前の増感体Psを新たに生成する。
増感体Psおよび酸発生剤PAGの存在する領域10aにフラッド露光L2を続けると、酸発生剤PAGおよび増感体前駆体Ppがほぼ消失するまで酸Acおよび増感体Psが生成される。
上述したように、フラッド露光L2でエネルギーが付与されると、レジスト層10において酸発生剤PAGから酸Acが発生し、レジスト層10において塩基発生剤PBGから塩基Baが発生する。また、酸発生剤PAGから発生した酸Acは塩基発生剤PBGから発生した塩基Baと中和して酸発生剤PAGおよび塩基発生剤PBGは消費される。
レジスト層10のうちの領域10aの中心の近くでは、発生した塩基Baは生成した酸Acと中和して消失する。このため、レジスト層10に存在する塩基Baは、領域10aの中心の近傍においてほぼゼロとなり、領域10bの大部分において一定値を示す。
典型的には、フラッド露光L2のビーム強度はパターン露光L1のビーム強度よりも高く、フラッド露光L2はパターン露光L1よりも非常に安価な光源を用いて実行可能である。また、典型的には、フラッド露光L2のビームとしてパターン露光L1のビームよりも長波長のビームが用いられる。ただし、本発明はこれに限定されず、フラッド露光L2のビームとしてパターン露光L1のビームよりも短波長のビームが用いられてもよい。例えば、フラッド露光L2の光源としてUVビーム光源を用いてもよい。レジスト層10がポジ型の場合、レジスト層10の領域10aを除去可能な潜像が形成される。
なお、フラッド露光L2のビームはレジスト層10の全体にわたって照射されることが好ましい。ただし、フラッド露光L2のビームはレジスト層10の全体に対して一部のエリアにわたって照射されてもよい。
その後、図1(d)に示すように、レジスト層10を熱処理する。熱処理は、レジスト層10を加熱することによって行われ、PEB(Post Exposure Bake)とも呼ばれる。熱処理は、例えばパルス熱処理であってもよい。熱処理により、酸拡散反応が発生する。例えば、熱処理は100℃以上110℃以下で行われる。また、フラッド露光L2または熱処理後、レジスト層10をポジ型とネガ型との間で反転させる変質処理を行ってもよい。
熱処理(PEB)により、酸Acと塩基Baとは再結合する。酸Acと塩基Baとの再結合により、酸Acと塩基Baとは中和して消費される。酸Acは、熱処理(PEB)温度で再結合反応ゾーンにおいてベース樹脂Rと反応し、現像液に対するレジスト層10の溶解性が変化する。
その後、図1(e)に示すように、レジスト層10を現像する。現像により、領域10aの少なくとも一部は現像液に溶解して除去される。
本実施形態において、レジスト材料は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、酸発生剤PAG、塩基発生剤PBGおよび塩基Baを有するレジスト組成物を含有する。レジスト材料では、レジスト組成物に、パターン露光L1のビームが照射されると、増感体前駆体Ppから、パターン露光L1のビームの波長とは異なる波長のビームに対して強い吸収を示す増感体Psが生成する。この増感体Psはパターン露光L1のビームの照射に応じてパターン形状に生成される。また、フラッド露光L2のビームが照射されると、増感体Psがフラッド露光L2のビームを吸収し、増感体Psに起因して反応が促進される。例えば、増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが発生し、所定の潜像パターンを簡便に形成させることができる。また、フラッド露光L2のビームの照射により、塩基発生剤PBGから塩基Baがレジスト層10において発生する。
本実施形態では、パターン露光L1によってレジスト層10に増感体Psを生成させた後に、フラッド露光L2によって増感体Psを励起させて酸発生剤PAGから酸Acを生成し、フラッド露光L2によって塩基発生剤PBGから塩基Baを発生している。このため、パターン露光L1のビーム光源として低出力の光源を使用しても、適切なパターン形状の潜像を形成できる。例えば、パターン露光L1のビームとしてEUVビームでレジスト層10の領域を照射した後に、フラッド露光L2のビームとしてUVビームでレジスト層10を照射することで、領域10aに潜像を形成できる。この場合、EUVビームの照射時間を短縮でき、低出力の光源を用いても高いスループットが得られる。
また、本実施形態によれば、レジスト層10の特定の領域に酸Acが発生し、レジスト層10全体に塩基Baが発生するため、PEB前には、室温下でも、レジスト層10において酸Acの一部は塩基Baと中和して減少するものの領域10aには酸Acが存在し、領域10bには塩基Baが存在する。PEBよる温度上昇と酸Acの拡散に起因する解像度の低下は領域10bに存在する塩基Baによって抑制できる。
さらに、本実施形態によれば、フラッド露光L2を十分続けると、領域10bにおいて塩基発生剤PBGが消失して、塩基発生剤PBGから発生した塩基Baの濃度はほぼ一定のピークを示す。領域10aにおいて、領域10a内の塩基発生剤PBGから発生した塩基Baは酸Acと反応し、酸Acの濃度を低減させる。一般に、室温における酸Acおよび塩基Baの拡散係数は非常に小さいので、酸Acのピーク濃度および塩基Baのピーク濃度はそれぞれほぼ一定であり、酸Acの濃度および塩基Baの濃度は、領域10aと領域10bとの境界において非常に急峻な勾配を形成する。
なお、領域10aと領域10bの境界領域では、ベース樹脂Rの極性変換がほとんど起こっていない。PEB温度での酸Acおよび塩基Baの拡散係数は小さいが、領域10aの中心部では酸のみで塩基がほとんど存在しないのでベース樹脂Rの極性変換がほぼ100%起こっているため、酸の拡散係数が非常に大きくなり(化学増幅レジストでは酸は極性高分子中で非極性高分子中よりはるかに大きい拡散係数になる)、領域10aと領域10bとの境界領域にくると酸の拡散が急激に遅くなるので、ベース樹脂Rの極性変換がほぼ100%から0%になるので、PEB後の反応で生成する化学勾配を大きくできる。LWRは化学勾配に反比例し、同様にフォトンショットノイズによるLWRも化学勾配の大きさに反比例するので、このプロセスでは、フォトンショットノイズによるLWRを大幅に改善できる。
この関係は非常によく知られた関係であり、以下のように定式化されている。
LWR ∝ constant/dm/dx
σLWR ∝ σm/dm/dx
ここで、σは標準偏差値、mは反応前の物質濃度で規格化した反応後の化学物質の濃度、xはレジスト層の位置、dm/dxは化学勾配を示す。フォトン数が少なくなると、反応のばらつきが大きくなるのでσmは大きくなるが、本実施形態では化学勾配dm/dxを非常に大きくできるので、σmが大きくても、LWRの標準偏差値を小さくできる。
このように、本実施形態によれば、感度、解像度および線幅ラフネス(LWR)のトレードオフを解消し、パターン解像度を維持しながらレジスト層10の感度を向上できる。また、本実施形態によれば、近年、トレードオフ以上に大きな課題となっているフォトンショットノイズを大幅に改善できる。この結果、露光工程のスループットの向上が実現され、露光システムの大幅な低コスト化を実現できる。また、低出力の光源が適用可能なため、光源装置、露光装置内の消耗部品の寿命を長くし、保守および運転コストも大幅に低減できる。以上のように、本実施形態によれば、感度、解像度および線幅ラフネス(LWR)のトレードオフを解消してレジストの感度を向上させるとともに、フォトンショットノイズによるLWRを抑制することができる。
なお、一般に、シャープな濃度分布を有する酸を形成するためには、レジスト材料に予め大量の塩基を添加して余分な酸を中和させることが知られている。この手法によれば、ある程度のシャープな濃度分布を有する酸を形成可能である。しかしながら、数十nm以下(例えば、5nm~15nm以下)の微細なパターンを形成する場合、大量の塩基を添加しただけであると、酸が充分に発生しないため、微細なパターンの酸を適切な濃度で形成することができず、結果として、LERおよびフォトンショットノイズを改善することができない。これに対して、本実施形態によれば、フラッド露光L2により、領域10bに塩基Baを発生できるため、酸Acの濃度分布をシャープにできる。したがって、LERおよびフォトンショットノイズを改善して感度を向上させることができる。
例えば、パターン露光L1により、レジスト材料がイオン化し、主に高分子ラジカル(RH+・)と電子(e-)を生成する。高分子ラジカルカチオン(RH+・)は、高分子(RH)中で、ラジカルP・とカチオン(RH(H+))に分離する。
その後、電子(e-)は酸発生剤(PAG)と反応し、中性分子(RI)、ラジカル(R・)、および、アニオン(X-)を生成する。さらに、カチオン(RH(H+))はアニオン(X-)と反応し、高分子(RH)および酸(HX)が生成される。また、増感体前駆体(Pp)と酸(HX)との反応で増感体Psが生成される。
次に、フラッド露光L2を行うと、増感体(Ps)が励起される。励起状態の増感体(Ps)から酸発生剤(PAG)への電子の移動により、増感体Psのラジカルカチオンが生成される。また、フラッド露光L2により、レジスト層10において、増感体Psと同じ分布の酸Acを効率よく生成できる。また、フラッド露光L2により、レジスト層10の全体にわたって、塩基発生剤PBG(例えば、上述した非イオン型またはイオン型)から塩基Baが発生する。ただし、レジスト層10の領域10aには、塩基Baよりも多くの酸Acが発生しているため、領域10aには、酸Acが存在する一方、塩基Baはほとんど存在していない。これに対して、領域10bでは、酸Acが少ないので酸Acと塩基Baの中和後は塩基Baが存在する。
その後、レジスト層10を現像することにより、ほぼ領域10aを除去できる。以上のように、ラジカルを介してレジスト層10を所定のパターン形状に形成してもよい。
本実施形態のレジストパターン形成方法によれば、フラッド露光L2における酸Ac2を示す値と塩基Ba2を示す値との比がパターン露光L1における酸Ac1を示す値と塩基Ba1を示す値との比と同程度になるように変化するが、酸と塩基の濃度は高くなるので、ランダムノイズに起因する欠陥がレジスト層10に発生することを抑制できる。
パターン露光における塩基を示す値に対する酸を示す値の比は、酸と塩基とが中和した後に酸の残る領域の幅の指標となる。一例では、パターン露光L1における塩基Ba1を示す値B1に対する酸Ac1を示す値A1の比C1(=A1/B1)は、パターン露光L1の後の酸Ac1と塩基Ba1との中和後に残る酸Acの領域の幅の指標となる。例えば、塩基Ba1の濃度に対して酸Ac1のピーク濃度が高いほど(すなわち、C1が大きいほど)、中和後に残る酸Acの領域の幅は大きくなる。反対に、塩基Ba1の濃度に対して酸Ac1のピーク濃度が低いほど(すなわち、C1が小さいほど)、中和後に残る酸Acの領域の幅は小さくなる。
同様に、フラッド露光L2における塩基Ba2を示す値B2に対する酸Ac2を示す値A2の比C2(=A2/B2)は、フラッド露光L2の後の酸Ac2と塩基Ba2との中和後に残る酸Acの領域の幅の指標となる。例えば、塩基Ba2の濃度に対して酸Ac2のピーク濃度が高いほど(すなわち、C2が大きいほど)、中和後に残る酸Acの領域の幅は大きくなる。反対に、塩基Ba2の濃度に対して酸Ac2のピーク濃度が低いほど(すなわち、C2が小さいほど)、中和後に残る酸Acの領域の幅は小さくなる。
本実施形態のレジストパターン形成方法によれば、フラッド露光L2に対応する比C2をパターン露光L1に対応する比C1と同程度になるが、酸と塩基の濃度が大きくなるので、ランダムノイズに起因する欠陥がレジスト層10に発生することを抑制できる。さらに、本実施形態のレジストパターン形成方法によれば、レジスト層10の感度・解像度・ラフネスのトレードオフを解消できる。例えば、本実施形態のレジストパターン形成方法によれば、レジスト層10の解像度を低下させることなくレジスト層10の感度・ラフネスを向上できる。具体的には、酸Acの発生量を増加させる場合、塩基Baの発生量を増加させることにより、レジスト層10の解像度を低下させることなくレジスト層10の感度・ラフネスを向上できる。一例では、増加後の酸Acの発生量と塩基Baの発生量との比を、増加前の酸Acの発生量と塩基Baの発生量との比と同程度にすることにより、レジスト層10の解像度・ラフネスを低下させることなくレジスト層10の感度を向上できる。
例えば、レジスト層形成ステップにおいて、レジスト層10内に添加するベース樹脂Rに対する酸発生剤PAGの含有量を増加させることにより、酸Acの発生量を増加できる。また、レジスト層10内に添加するベース樹脂Rに対する増感体前駆体Ppの含有量を増加させることにより、酸Acの発生量を増加できる。
パターン露光ステップにおいて、パターン露光L1のエネルギー強度(例えば、ドーズ量)を増加させることにより、増感体Psの生成量が増加するため、酸Acの発生量を増加できる。また、パターン露光L1後のPEB温度を上昇させることにより、増感体Psの生成量が増加するため、酸Acの発生量を増加できる。
フラッド露光ステップにおいて、フラッド露光L2の照射強度を増加させることにより、酸Acの発生量を増加できる。また、フラッド露光L2の露光時間を増加させることにより、酸Acの発生量を増加できる。
また、例えば、レジスト層形成ステップにおいて、レジスト層10内のベース樹脂Rに対する塩基発生剤PBGの含有量を増加させることにより、塩基Baの発生量を増加できる。
フラッド露光ステップにおいて、フラッド露光L2の照射強度を増加させることにより、塩基Baの発生量を増加できる。また、フラッド露光L2の露光時間を増加させることにより、塩基Baの発生量を増加できる。
一方、例えば、レジスト層形成ステップにおいて、レジスト層10内に添加するベース樹脂Rに対する酸発生剤PAGの含有量を減少させることにより、酸Acの発生量を減少できる。また、レジスト層10内に添加するベース樹脂Rに対する増感体前駆体Ppの含有量を減少させることにより、酸Acの発生量を減少できる。
パターン露光ステップにおいて、パターン露光L1のエネルギー強度(例えば、ドーズ量)を減少させることにより、増感体Psの生成量が減少するため、酸Acの発生量を減少できる。また、パターン露光L1後のPEB温度を低下させることにより、増感体Psの生成量が減少するため、酸Acの発生量を減少できる。
フラッド露光ステップにおいて、フラッド露光L2の照射強度を減少させることにより、酸Acの発生量を減少できる。また、フラッド露光L2の露光時間を減少させることにより、酸Acの発生量を減少できる。
また、例えば、レジスト層形成ステップにおいて、レジスト層10内のベース樹脂Rに対する塩基発生剤PBGの含有量を減少させることにより、塩基Baの発生量を減少できる。
また、フラッド露光ステップにおいて、フラッド露光L2の照射強度を減少させることにより、塩基Baの発生量を減少できる。また、フラッド露光L2の露光時間を減少させることにより、塩基Baの発生量を減少できる。
なお、例えば、フラッド露光L2の露光時間を増加することにより、酸Acの発生量および塩基Baの発生量を増加できる。あるいは、フラッド露光L2の露光時間を短縮することにより、酸Acの発生量および塩基Baの発生量を減少できる。
次に、図1および図2を参照して本実施形態によるレジストパターン形成方法におけるレジスト層10内の成分の濃度分布の変化を説明する。図2(a)~図2(e)は、本実施形態によるレジストパターン形成方法のステップにおけるレジスト層10の酸Ac、塩基Baおよび増感体Psの濃度分布を示す模式図である。
図2(a)は、パターン露光L1前の塩基Ba1の濃度分布DB1を示す模式図である。濃度分布DB1において、塩基Ba1の初期濃度は略一定である。
図2(b)は、パターン露光L1によって発生した酸Acの濃度分布DA1およびパターン露光L1によって生成した増感体Psの濃度分布DPを示す模式図である。図2(b)には、塩基Ba1の濃度分布DB1も併せて示している。
図2(b)に示すように、パターン露光L1を行うと、レジスト層10の領域10aにおいて、酸発生剤PAGから酸Acが発生するとともに増感体前駆体Ppから増感体Psが生成する。図2(b)において、A1は、パターン露光L1における酸Ac1を示す値である。例えば、A1は、パターン露光L1によって発生した酸Ac1を示す値である。B1は、パターン露光L1における塩基Ba1を示す値である。また、Pは、パターン露光L1において増感体前駆体Ppから生成した増感体Psを示す値である。
ここでは、レジスト層10の領域10aに、酸Acが発生するとともに、増感体Psが生成する。図2(b)に示すように、領域10aの幅Wにわたって増感体Psが生成するとともに酸Acが発生する。増感体Psの濃度分布DPおよび酸Acの濃度分布DA1は、パターン露光L1の露光エネルギー分布にしたがって形成される。
酸Acの濃度と塩基Ba1の濃度とを比較すると、幅Waの範囲内において、酸Acの濃度は塩基Ba1の濃度よりも高い。
なお、塩基Ba1の濃度は、酸Ac1のピーク濃度の0.9倍よりも小さいことが好ましい。典型的には、塩基Ba1の濃度は、酸Ac1のピーク濃度の0.5倍以下であることが好ましい。ただし、塩基Ba1の濃度に対する酸Ac1のピーク濃度の比率を1に近づけることによって解像度を向上させてもよい。
パターン露光L1における酸Acを示す値A1は、パターン露光L1における塩基Ba1を示す値B1よりも高い。ここで、値A1と値B1との比は、酸Acの濃度が塩基Ba1の濃度よりも高い領域の幅Waの指標となる。値B1に対する値A1の比C1(=A1/B1)の大きさと幅Waの大きさは相関する。塩基Ba1を示す値B1に対して酸Ac1を示す値A1が大きいほど(すなわち、C1が大きいほど)、領域の幅Waは大きくなる。反対に、塩基Ba1を示す値B1に対して酸Ac1を示す値A1が小さいほど(すなわち、C1が小さいほど)、領域の幅Waは小さくなる。
図2(c)は、パターン露光L1によって発生した酸Acと塩基Ba1とが中和した後の酸Acの濃度分布SA1および塩基Baの濃度分布SB1を示す模式図である。濃度分布SA1は、中和後に残る酸Acの濃度を示し、濃度分布SB1は、中和後に残る塩基Baの濃度を示す。なお、図2(c)には増感体Psの濃度分布DPも併せて示している。
図2(c)に示すように、パターン露光L1によって発生した酸Acは塩基Ba1と中和する。上述したように、図2(b)の酸Acの濃度は幅Waの範囲内において塩基Ba1の濃度よりも高いため、中和の後に酸Acが残る領域の幅Waは、領域10aの幅Wよりも小さい。酸Acの濃度分布SA1は、領域10aの中央付近でピークを示す。一方、塩基Baの濃度分布SB1は、領域10aの端部から領域10bにわたって一定値の濃度を示す。
ここでは、レジスト層10が塩基Ba1を含有しているため、酸Acと塩基Ba1とが反応して中和する。このため、酸Acの濃度分布SA1は、塩基Ba1を含有していない場合と比べてシャープになる。
また、領域10aにおいて発生した酸Acは触媒として機能し、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成してもよい。この場合、領域10aの増感体前駆体Ppの濃度は領域10bの増感体前駆体Ppの濃度よりも低くなる。上述したように、塩基Ba1を含有していない場合と比べて、酸Acの濃度分布SA1がシャープとなるため、酸Acに起因して生成される増感体Psの濃度分布もシャープになってもよい。
図2(d)は、フラッド露光L2によって発生した酸Acの濃度分布DA2および塩基Ba2の濃度分布DB2を示す模式図である。なお、図2(d)には、増感体Psの濃度分布DPも併せて示している。
図2(d)に示すように、フラッド露光L2を行うと、増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが発生する。また、フラッド露光L2によって塩基発生剤PBGから塩基Ba2が発生する。図2(d)において、A2は、フラッド露光L2における酸Ac2を示す値である。酸Ac2は、パターン露光L1によって酸発生剤PAGから発生してレジスト層10内に残った酸Acと、フラッド露光L2によって発生した酸Acとの和である。B2は、フラッド露光L2における塩基Ba2を示す値である。塩基Ba2は、パターン露光L1において酸Acとの中和の後にレジスト層10内に残った塩基Baと、フラッド露光L2によって発生した塩基Baとの和である。
酸Ac2のピーク濃度と塩基Ba2の濃度とを比較すると、幅Wbの範囲内において、酸Ac2のピーク濃度は塩基Ba2の濃度よりも高い。
フラッド露光L2における酸Ac2を示す値A2は、フラッド露光L2における塩基Ba2を示す値B2よりも高い。ここで、値A2と値B2との比は、酸Acの濃度が塩基Ba2の濃度よりも高い領域の幅Wbの指標となる。例えば、値B2に対する値A2の比C2(=A2/B2)の大きさと幅Wbの大きさは相関する。塩基Ba2を示す値B2に対して酸Ac2を示す値A2が大きいほど(すなわち、C2が大きいほど)、領域の幅Wbは大きくなる。反対に、塩基Ba2を示す値B2に対して酸Ac2を示す値A2が小さいほど(すなわち、C2が小さいほど)、領域の幅Wbは小さくなる。
なお、フラッド露光L2において酸Ac2の濃度が高い領域の幅Wbは、パターン露光L1において酸Ac1の濃度が高い領域の幅Waよりも大きくてもよく、小さくてもよい。あるいは、幅Wbは、幅Waと等しくてもよい。
図2(e)は、フラッド露光L2における酸Ac2と塩基Ba2とが中和した後の酸Acの濃度分布SA2および塩基Baの濃度分布SB2を示す模式図である。上述したように、酸Ac2の濃度は幅Wbの範囲内において塩基Ba2の濃度よりも高いため、濃度分布SA2において、中和の後に酸Acが残る領域の幅Wbは、幅Wよりも小さい。
本実施形態のレジストパターン形成方法によれば、レジスト層10の幅Wbの範囲内において酸Acを高濃度に発生できる。したがって、高感度を実現するとともに解像度およびラフネスの低減を抑制できる。
なお、パターン露光L1における酸Acの量は、既知の測定方法で測定できる。また、パターン露光L1における塩基Baの量は既知である。さらに、パターン露光L1によって生成された増感体Psの量も生成物分析によって測定可能である。
また、上述したように、増感体Psおよび塩基発生剤PBGはフラッド露光L2を吸収する。このため、増感体Psの吸収スペクトルは、塩基発生剤PBGの吸収スペクトルと重なる。したがって、フラッド露光L2において増感体Psおよび塩基発生剤PBGに吸収される光子数は、ランベルト-ベールの法則に従って求められ、光子数は分光光度計で測定できる。さらに、増感体Psおよび塩基発生剤PBGの量子収率は、化合物の種類によって決定される。したがって、フラッド露光L2によって発生する酸Acおよび塩基Baの量は、吸収される光子数と量子収率によって決定される。
比C1を調整するために、パターン露光L1の強度を変更することにより、増感体Psの量を簡便に変更できる。また、比C2を調整するために、フラッド露光L2の波長を変更することにより、吸収する光子数および量子効率を変更できる。さらには、比C2を調整するために、塩基発生剤PBGの濃度を変更してもよい。
次に、比較のために、図3および図4を参照してパターン露光L1の露光強度および塩基濃度を変化させた比較例のレジストパターン形成方法を説明する。図3は、比較例1のレジストパターン形成方法においてパターン露光L1後のレジスト層10A内の成分の濃度分布の変化を説明するための図である。比較例1では、パターン露光L1の露光強度を増大させて酸発生剤PAGから比較的多くの酸Acを発生させる。
図3(a)は、比較例1のレジストパターン形成方法においてパターン露光L1の行われるレジスト層10Aを示す模式図である。図3(a)に示すように、レジスト層10Aは、ベース樹脂R、酸発生剤PAGおよび塩基Baを含有する。ここでは、レジスト層10A内の酸発生剤PAGおよび塩基Baの濃度は、図2を参照して上述した酸発生剤PAGおよび塩基Ba1の濃度と同程度である。
図3(b)は、パターン露光L1前の塩基Baの濃度分布DBを示す模式図である。例えば、値B0は、塩基Baの濃度を示す。濃度分布DBでは、塩基Baの濃度は値B0で略一定である。
図3(c)は、パターン露光L1によって発生した酸Acの濃度分布DAを示す模式図である。図3(c)には、塩基Baの濃度分布DBも併せて示している。図3(c)に示すように、パターン露光L1を行うと、酸発生剤PAGから酸Acが発生する。幅Wは、レジスト層10Aの領域10aの幅を示す。図3(c)において、MAは、パターン露光L1において酸発生剤PAGから発生した酸Acを示す値である。B0は、パターン露光L1における塩基Baを示す値である。
ここでは、レジスト層10の領域10aに、酸Acが発生する。図3(c)に示すように、領域10aの幅Wにわたって酸Acが発生する。酸Acの濃度分布DAは、パターン露光L1の露光エネルギー分布にしたがって形成される。
パターン露光L1における酸Acのピーク濃度は、塩基Baの濃度よりもかなり高い。酸Acのピーク濃度と塩基Baの濃度とを比較すると、幅W1の範囲内において、酸Acのピーク濃度は塩基Baの濃度よりも高い。このため、図3(c)の幅W1は、図2(b)の幅Waよりも大きい。
図3(d)は、パターン露光L1によって発生した酸Acと塩基Baとが中和した後の酸Acの濃度分布SAおよび塩基Baの濃度分布SBを示す模式図である。図3(d)に示すように、パターン露光L1の後、酸Acは塩基Baと中和する。上述したように、酸Acのピーク濃度は幅W1の範囲内において塩基Baの濃度よりも高いため、中和の後に酸Acが残る領域の幅W1は領域10aの幅Wよりも小さい。
図3(d)において中和後に残った酸Acは、図2(c)において中和後に残った酸Acよりも多い。これは、図3(c)のパターン露光L1における酸Acを示す値MAが、図2(b)のパターン露光L1における酸Acを示す値A1よりも大きいためである。
ただし、図3(d)の幅W1は、図2(c)の幅Waよりも大きい。これは、図3(b)のパターン露光L1における酸Acを示す値MAが、図2(b)のパターン露光L1における酸Acを示す値A1よりも大きいためである。
比較例1のレジストパターン形成方法によれば、パターン露光L1の強度を増加させて、多くの酸Acを発生させることにより、レジスト反応の感度を向上させている。しかしながら、塩基Baの量に対して酸Acの量が多く、パターン露光L1の後に残る酸Acの領域の幅W1が広くなる。このため、レジスト反応の解像度および線幅ラフネスが低下するおそれがある。
一方、解像度の低下を抑制するためには、塩基Baの量を増加させることが考えられる。
図4は、比較例2のレジストパターン形成方法においてパターン露光L1後のレジスト層10B内の成分の濃度分布の変化を説明するための図である。比較例2では、塩基Baの濃度を高くしている。
図4(a)は、比較例2のレジストパターン形成方法においてパターン露光L1の行われるレジスト層10Bを示す模式図である。図4(a)に示すように、レジスト層10は、ベース樹脂R、酸発生剤PAGおよび塩基Baを含有する。ここでは、酸発生剤PAGの濃度は、図2を参照して上述した酸発生剤PAGの濃度と同程度である一方で、塩基Baの濃度は、図2を参照して上述した塩基Baの濃度と比べて高い。
図4(b)は、パターン露光L1前の塩基Baの濃度分布DBを示す模式図である。例えば、値MBは、塩基Baの濃度を示す。濃度分布DBでは、塩基Baの濃度は値MBで略一定である。ただし、レジスト層10内において、塩基Baの濃度は比較的高い。
図4(c)は、パターン露光L1によって発生した酸Acの濃度分布DAを示す模式図である。図4(c)には、塩基Baの濃度分布DBも併せて示している。図4(c)に示すように、パターン露光L1を行うと、酸発生剤PAGから酸Acが発生する。幅Wは、レジスト層10Aの領域10aの幅を示す。図4(c)において、A1は、パターン露光L1において酸発生剤PAGから発生した酸Ac1を示す値である。MBは、パターン露光L1における塩基Baを示す値である。
図4(c)に示すように、領域10aの幅W2にわたって酸Acが発生する。酸Acの濃度分布DAは、パターン露光L1の露光エネルギー分布にしたがって形成される。
酸Acのピーク濃度と塩基Baの濃度とを比較すると、幅W2の範囲内において、酸Acのピーク濃度と塩基Baよりもわずかに高い。なお、図4(c)の幅W2は、図2(b)の幅Waよりも小さい。
図4(d)は、パターン露光L1によって発生した酸Acと塩基Baとが中和した後の酸Acの濃度分布SAおよび塩基Baの濃度分布SBを示す模式図である。図4(d)に示すように、パターン露光L1の後、酸Acは塩基Baと中和する。上述したように、酸Acのピーク濃度は幅W2の範囲内において塩基Baの濃度よりも高いため、中和の後に酸Acが残る領域の幅W2は、領域10aの幅Wよりも小さい。
図4(d)の幅W2は、図2(c)の幅Waよりも小さい。これは、図4(b)に示した塩基Baの濃度が、図2(c)に示した塩基Baの濃度よりも高いためである。
ただし、図4(d)において中和後に残った酸Acは、図2(c)において中和後に残った酸Acよりも少ない。これは、図4(c)における塩基Baの濃度が、図2(b)における塩基Baの濃度よりも高いためである。
比較例2のレジストパターン形成方法によれば、塩基Baの濃度を高くしているため、パターン露光L1の後に残る酸Acの領域の幅W2を狭くでき、レジスト反応の解像度および線幅ラフネスを向上できる。しかしながら、比較例2のレジストパターン形成方法によれば、残った酸Acの量が少ないため、レジスト反応の感度が低減することがある。
以上のように、比較例1のレジストパターン形成方法では、パターン露光L1の強度を高くして、酸Acの発生量を多くしたため、レジスト反応の感度を向上できる。しかしながら、酸Acの量に対して塩基Baの量が少ないため、酸残留領域が広くなり、解像度および線幅ラフネスが低下するおそれがある。一方、比較例2のレジストパターン形成方法では、塩基Baの強度を高くして、酸Acの残った領域を狭くできるため、解像度および線幅ラフネスを向上できる。しかしながら、酸Acの残存量が少ないため、レジスト反応の感度が低下することがある。
これに対して、本実施形態のレジストパターン形成方法では、パターン露光L1およびフラッド露光L2により、酸残留領域を狭くするとともに塩基Baの濃度に対する酸Acの残存量を増大できる。このため、レジスト反応の感度を高く維持するとともに解像度および線幅ラフネスの低下を抑制できる。
なお、パターン露光L1における酸Ac1を示す値A1および塩基Ba1を示す値B1は、濃度を示してもよく、フラッド露光L2における酸Ac2を示す値A2および塩基Ba2を示す値B2は、濃度を示してもよい。例えば、値A1は、パターン露光L1において酸発生剤PAGから発生した酸Acのピーク濃度を示す。また、値B1は、レジスト層10に予め含有された塩基Baの量を示す。また、値A2は、パターン露光L1における酸Ac1と塩基Ba1との中和の後に残った酸Acとフラッド露光L2によって酸発生剤PAGから発生した酸Acとの和のピーク濃度を示す。また、値B2は、フラッド露光L2によって塩基発生剤PBGから発生した塩基Baの濃度を示す。このように、値A1、A2、B1およびB2は、酸Acの濃度または塩基Baの濃度を示してもよい。
あるいは、パターン露光L1における酸Ac1を示す値A1および塩基Ba1を示す値B1は、レジスト層10のうちの特定領域における酸Ac1の量および塩基Ba1の量を示してもよく、フラッド露光L2における酸Ac2を示す値A2および塩基Ba2を示す値B2は、レジスト層10のうちの特定領域における酸Ac2の量および塩基Ba2の量を示してもよい。例えば、値A1は、パターン露光L1における酸Acと塩基Baとの中和の後に酸の残る酸残留領域において酸発生剤PAGから発生した酸の量を示す。値B1は、レジスト層10を形成する際にレジスト層10に含有される塩基Baの酸残留領域内の量を示す。また、値A2は、酸残留領域において、フラッド露光L2における酸Acと塩基Baとの中和の後に残った酸Acの量とフラッド露光L2によって酸発生剤PAGから発生した酸Acの量との和を示す。値B2は、酸残留領域において、フラッド露光L2によって塩基発生剤PBGから発生した塩基Baの量を示す。このように、値A1、A2、B1およびB2は、レジスト層10の特定領域の酸Acの量または塩基Baの量を示してもよい。
次に、図5を参照して本実施形態によるレジストパターン形成方法におけるレジスト層10内の成分の濃度分布の変化を説明する。図5(a)~図5(e)は、本実施形態によるレジストパターン形成方法におけるレジスト層10内の成分の濃度分布を示す模式図である。ここでは、値A1、A2、B1およびB2は、酸Acの濃度または塩基Baの濃度を示す値である。
図5(a)は、パターン露光L1前の塩基Ba1の濃度分布DB1を示す模式図である。図5(a)に示すように、塩基Ba1の濃度は、値B1を示す。濃度分布DB1において、塩基Ba1の初期濃度を示す値B1は略一定である。
図5(b)は、パターン露光L1によって発生した酸Acの濃度分布DA1およびパターン露光L1によって生成した増感体Psの濃度分布DPを示す模式図である。図5(b)には、塩基Ba1の濃度分布DB1も併せて示している。
図5(b)に示すように、パターン露光L1を行うと、レジスト層10の領域10aにおいて、酸発生剤PAGから酸Acが発生するとともに増感体前駆体Ppから増感体Psが生成する。図5(b)において、A1は、パターン露光L1における酸Ac1のピーク濃度を示す値である。例えば、A1は、パターン露光L1によって発生した酸Ac1のピーク濃度を示す。B1は、パターン露光L1における塩基Ba1の濃度を示す。また、Pは、パターン露光L1によって増感体前駆体Ppから生成した増感体Psのピーク濃度を示す。
ここでは、レジスト層10の領域10aに、酸Acが発生するとともに、増感体Psが生成する。図5(b)に示すように、領域10aの幅Wにわたって増感体Psが生成するとともに酸Acが発生する。増感体Psの濃度分布DPおよび酸Acの濃度分布DA1は、パターン露光L1の露光エネルギー分布にしたがって形成される。
パターン露光L1における酸Acのピーク濃度は、パターン露光L1における塩基Ba1の濃度よりも高い。酸Acのピーク濃度と塩基Ba1の濃度とを比較すると、幅Waの範囲内において、酸Acのピーク濃度は塩基Baの濃度よりも高い。
図5(c)は、パターン露光L1における酸Ac1と塩基Ba1とが中和した後の酸Acの濃度分布SA1および塩基Baの濃度分布SB1を示す模式図である。濃度分布SA1は、中和後に残る酸Acの濃度を示し、濃度分布SB1は、中和後に残る塩基Baの濃度を示す。なお、図5(c)には、増感体Psの濃度分布DPも併せて示している。
図5(c)に示すように、パターン露光L1によって発生した酸Acは塩基Ba1と中和する。上述したように、酸Acの濃度は幅Waの範囲内において塩基Ba1の濃度よりも高いため、中和の後に酸Acが残る領域の幅Waは、領域10aの幅Wよりも小さい。このため、酸Acの濃度分布SA1は、領域10aの中央付近でピークを示す。一方、塩基Baの濃度分布SB1は、領域10aの端部から領域10bにわたってピークを示す。
図5(d)は、フラッド露光L2によって発生した酸Acの濃度分布DA2および塩基Ba2の濃度分布DB2を示す模式図である。なお、図5(d)には、増感体Psの濃度分布DPも併せて示している。
図5(d)に示すように、フラッド露光L2を行うと、増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが発生する。また、フラッド露光L2によって塩基発生剤PBGから塩基Ba2が発生する。図5(d)において、A2は、フラッド露光L2における酸Ac2のピーク濃度である。酸Ac2は、パターン露光L1によって塩基発生剤PBGから発生した後で塩基Baと中和してレジスト層10内に残った酸Acと、フラッド露光L2によって発生した酸Acとの和である。
B2は、フラッド露光L2における塩基Ba2の濃度を示す。塩基Ba2は、フラッド露光L2によって発生した塩基Baである。
フラッド露光L2における酸Ac2のピーク濃度は、塩基Ba2の濃度よりも高い。酸Ac2のピーク濃度と塩基Ba2の濃度とを比較すると、幅Wbの範囲内において、酸Ac2のピーク濃度は塩基Ba2の濃度よりも高い。
なお、フラッド露光L2において酸Ac2の濃度が高い領域の幅Wbは、パターン露光L1において酸Ac1の濃度が高い領域の幅Waよりも大きくてもよく、小さくてもよい。あるいは、幅Wbは、幅Waと等しくてもよい。
図5(e)は、フラッド露光L2における酸Ac2と塩基Ba2とが中和した後の酸Acの濃度分布SA2および塩基Baの濃度分布SB2を示す模式図である。上述したように、酸Ac2のピーク濃度は幅Wbの範囲内において塩基Ba2の濃度よりも高いため、濃度分布SA2において、中和の後に酸Acが残る領域の幅Wbは、幅Wよりも小さい。
本実施形態のレジストパターン形成方法によれば、レジスト層10の幅Wbの範囲内において酸Acを高濃度に発生できる。したがって、高感度を実現するとともに解像度およびラフネスの低減を抑制できる。
なお、図5を参照して上述した説明では、値A1、A2、B1およびB2は、酸Acの濃度または塩基Baの濃度を示したが、本実施形態はこれに限定されない。値A1、A2、B1およびB2は、レジスト層10内の特定領域における酸Acの量または塩基Baの量を示してもよい。
次に、図6を参照して本実施形態によるレジストパターン形成方法におけるレジスト層10内の成分の濃度分布の変化を説明する。図6(a)~図6(e)は、本実施形態によるレジストパターン形成方法におけるレジスト層10内の成分の濃度分布を示す模式図である。ここでは、値A1、A2、B1およびB2は、酸Acの量または塩基Baの量を示す。
図6(a)は、パターン露光L1前の塩基Ba1の濃度分布DB1を示す模式図である。図6(a)に示すように、レジスト層10は、塩基Ba1を含有する。濃度分布DB1において、塩基Ba1の初期濃度は略一定である。
図6(b)は、パターン露光L1によって発生した酸Acの濃度分布DA1およびパターン露光L1によって生成した増感体Psの濃度分布DPを示す模式図である。図6(b)には、塩基Ba1の濃度分布DB1も併せて示している。
図6(b)に示すように、パターン露光L1を行うと、レジスト層10の領域10aにおいて、酸発生剤PAGから酸Acが発生するとともに増感体前駆体Ppから増感体Psが生成する。幅Waの範囲内において、酸Ac1の濃度は塩基Ba1の濃度よりも高い。このため、幅Waで規定される領域ARにおいて、パターン露光L1における酸Ac1と塩基Ba1との中和の後に酸Acが残る。本明細書において、中和の後に酸Acの残る領域ARを酸残留領域と記載することがある。
図6(b)において、A1は、パターン露光L1における酸Ac1のうちの領域AR内の酸Acの量を示す。例えば、A1は、パターン露光L1によって発生した酸Ac1のうちの領域AR内で発生した酸Acの量を示す。B1は、領域AR内の塩基Ba1の量を示す。また、Pは、パターン露光L1によって増感体前駆体Ppから生成した増感体Psのうちの領域AR内の増感体Psの量を示す。
ここでは、レジスト層10の領域10aに、酸Acが発生するとともに、増感体Psが生成する。図6(b)に示すように、領域10aの幅Wにわたって増感体Psが生成するとともに酸Acが発生する。増感体Psの濃度分布DPおよび酸Acの濃度分布DA1は、パターン露光L1の露光エネルギー分布にしたがって形成される。
パターン露光L1における領域AR内の酸Acの量は、パターン露光L1における領域AR内の塩基Ba1の量よりも多い。このため、酸Acの量を示す値A1と塩基Ba1の量とを比較すると、幅Waの範囲内において、酸Acの量は塩基Baの量よりも多い。
図6(c)は、パターン露光L1によって発生した酸Acと塩基Ba1とが中和した後の酸Acの濃度分布SA1および塩基Baの濃度分布SB1を示す模式図である。濃度分布SA1は、中和後に残る酸Acの濃度を示し、濃度分布SB1は、中和後に残る塩基Baの濃度を示す。なお、図6(c)には、増感体Psの濃度分布DPも併せて示している。
図6(c)に示すように、パターン露光L1によって発生した酸Acは塩基Ba1と中和する。上述したように、濃度分布DA1において酸Acを示す値A1は幅Waの範囲内において濃度分布DB1において塩基Ba1を示す値B1よりも高いため、中和の後に酸Acが残る領域の幅Waは、領域10aの幅Wよりも小さい。酸Acの濃度分布SA1は、領域10aの中央付近でピークを示す。一方、塩基Baの濃度分布SB1は、領域10aの端部から領域10bにわたってピークを示す。
図6(d)は、フラッド露光L2によって発生した酸Acの濃度分布DA2および塩基Ba2の濃度分布DB2を示す模式図である。なお、図6(d)には、増感体Psの濃度分布DPも併せて示している。
図6(d)に示すように、フラッド露光L2を行うと、増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが発生する。また、フラッド露光L2によって塩基発生剤PBGから塩基Ba2が発生する。図6(d)において、A2は、フラッド露光L2における酸Ac2のうちの領域AR内の酸Acの量である。酸Ac2は、パターン露光L1によって酸発生剤PAGから発生した後で塩基Baと中和してレジスト層10内に残った酸Acと、フラッド露光L2によって酸発生剤PAGから発生した酸Acとの和である。
B2は、フラッド露光L2における塩基Ba2のうちの領域AR内の塩基Baの量を示す。塩基Ba2は、パターン露光L1において酸Acと中和してレジスト層10内に残った塩基Baと、フラッド露光L2によって塩基発生剤PBGから発生した塩基Baとの和である。
フラッド露光L2における領域AR内の酸Acの量は、フラッド露光L2における領域AR内の塩基Ba2の量よりも多い。このため、値A2は、値B2よりも大きい。
図6(e)は、フラッド露光L2における酸Ac2と塩基Ba2とが中和した後の酸Acの濃度分布SA2および塩基Baの濃度分布SB2を示す模式図である。上述したように、領域AR内の酸Ac2の量は領域AR内の塩基Ba2の量よりも多い。ただし、濃度分布SA2において、中和の後に酸Acが残る領域の幅Wbは、幅Wよりも小さい。
本実施形態のレジストパターン形成方法によれば、レジスト層10の幅Wbの範囲内において酸Acを高濃度に発生できる。したがって、高感度を実現するとともに解像度およびラフネスの低減を抑制できる。
典型的には、半導体基板は、ラインおよびスペースが所定のピッチで交互に繰り返して形成される。ラインおよびスペースの一方は、パターン露光L1の高線量領域に対応し、ラインおよびスペースの他方は、パターン露光L1の低線量領域に対応する。
次に、図1および図7を参照して、本実施形態のレジストパターン形成方法を説明する。図7(a)は、パターン露光L1におけるレジスト層10内の酸Acの濃度分布DA1、増感体Psの濃度分布DPおよび塩基Baの濃度分布DB1を示す模式図である。図7(b)は、フラッド露光L2におけるレジスト層10内の酸Acの濃度分布DA2および増感体Psの濃度分布DPを示す模式図である。図7(c)は、フラッド露光L2におけるレジスト層10内の酸Acの濃度分布DA2および塩基Baの濃度分布DB2を示す模式図である。図7(d)および図7(e)は、フラッド露光L2におけるレジスト層10内の酸Acおよび塩基Baの中和によって残った酸Acの濃度分布SA2および塩基Baの濃度分布SB2を示す模式図である。図7(f)は、熱処理後の保護基の濃度分布を示す模式図である。典型的には、本実施形態のレジストパターン形成方法は、クリーン雰囲気下において周囲環境を安定化させて実行される。
まず、図1(a)に示すように、基板S上にレジスト層10を形成する。例えば、レジスト層10は、用意した基板S(例えばウェハー)上に、溶液に溶解させたレジスト材料を塗布してプリベークを行うことによって形成される。典型的には、基板Sの表面に、フォトリソグラフィの対象物(例えば、半導体層または絶縁層)が形成されている。
レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、酸発生剤PAG(Photo Acid Generator:PAG)、塩基Baおよび塩基発生剤PBGを含有する。なお、レジスト層10は、基板S上に直接形成されてもよく、あるいは、基板S上に設けられた下地層の上に形成されてもよい。
例えば、ベース樹脂Rは、フェノール樹脂である。フェノール樹脂では、酸触媒反応による極性変換反応によって溶解特性が高活性に変わる。また、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する反応は、低活性の酸触媒反応である。
次に、図1(b)に示すように、レジスト層10にパターン露光L1を行う。パターン露光L1におけるビームは、レジスト層10の領域10aを高線量で照射し、レジスト層10の領域10bを低線量で照射する。図1(b)では、パターン露光L1の矢印は、高線量で照射される領域10aに模式的に付している。なお、図7(a)~図7(f)において、横軸左側は、領域10aの中心を示しており、パターン露光L1のビームが高線量で照射された領域に対応する。また、横軸右側は、領域10bの中心を示しており、パターン露光L1のビームが低線量で照射された領域に対応する。
パターン露光L1によって、レジスト層10の領域10a、10bにエネルギーが付与される。高解像度を実現するためにパターン露光L1のパターンが微細な場合、エネルギーの強度分布は図7(a)の初期酸分布や増感体のような形状になる。レジスト層10に付与されたエネルギーにより、レジスト層10内の組成が励起またはイオン化されて活性状態が生成され、レジスト層10の増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。
図7(a)は、パターン露光L1によって図1の領域10aの中心と領域10bの中心との間に発生した増感体Psの濃度分布DPおよび酸Acの濃度分布DA1を示す。図7(a)において、横軸は、図1の領域10aの中心からの距離を示す。ここでは、領域10aの中心と領域10bの中心との間の距離は約22nmである。また、ここでは、パターン露光L1により、増感体Psが生成されるとともに、酸発生剤PAGから酸Acが発生する。例えば、増感体Psおよび酸Acは、領域10aの中心から領域10bの中心までの間の領域において図7(a)に示したような分布で発生する。濃度の大小を除き、酸Acの濃度分布DA1は増感体Psの濃度分布DPとほぼ同様である。なお、図7(a)に示すように、パターン露光L1の前にレジスト層10は塩基Ba(初期の塩基Ba1)を含有する。この場合、塩基Ba1の濃度分布DB1は場所によらず一定の値を示す。
なお、パターン露光L1の後、酸拡散反応が起きないようにレジスト層10は室温に放置されてもよい。あるいは、レジスト層10は、ベース樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも低い温度でPEBされてもよい。
その後、図1(c)に示すように、レジスト層10にフラッド露光L2を行う。フラッド露光L2によって、増感体Psの生成されたレジスト層10の全体にエネルギーが付与される。エネルギーが付与されると、図7(b)に示すように、酸発生剤PAGから酸Acが発生する。
図7(b)は、レジスト層10において酸発生剤PAGから発生した酸Asの濃度分布DA2を示す。フラッド露光L2によってレジスト層10にエネルギーが付与されると、図7(b)に示すように、酸発生剤PAGから酸Acが発生する。後述するように、ここでは、フラッド露光L2でエネルギーが付与されると、塩基発生剤PBGから塩基Baが発生し、発生した塩基Baが酸発生剤PAGから発生した酸Acと中和して消費される。図7(b)の濃度分布DA2は、塩基Baが関与しない状態で酸発生剤PAGから発生した酸Acの濃度を示している。
また、図1(c)に示すように、フラッド露光L2により、レジスト層10全体において塩基発生剤PBGから塩基Baが発生する。図7(c)は、レジスト層10において塩基発生剤PBGから発生した塩基Baの濃度分布DB2を示す。フラッド露光L2によって塩基発生剤PBGから塩基Baが発生すると、図7(c)に示すように、塩基Baの濃度分布DB2の値は場所によらず一定の値を示す。なお、上述したように、パターン露光L1の前にレジスト層10が塩基(初期塩基)を含有するため、塩基Baの濃度分布DB2は、初期の塩基Ba1とフラッド露光L2によって塩基発生剤PBGから発生した塩基Baとの和を示す。なお、ここでは、フラッド露光L2における塩基Baを示す値B2に対する酸Acを示す値A2の比(C2)は、パターン露光L1における塩基Baを示す値B1に対する酸Acを示す値A1の比(C1)とほぼ等しい。
なお、図7(c)には、酸Asの濃度分布DA2も併せて示している。フラッド露光L2によってレジスト層10にエネルギーが付与されると、図7(c)に示すように、レジスト層10において、塩基発生剤PBGから発生した塩基Baが発生する。図7(c)の濃度分布DB2は、酸Acが関与しない状態で塩基発生剤PBGから発生した塩基Baの濃度を示している。
上述したように、フラッド露光L2でエネルギーが付与されると、レジスト層10において酸発生剤PAGから酸Acが発生し、レジスト層10において塩基発生剤PBGから塩基Baが発生する。また、酸発生剤PAGから発生した酸Acは塩基発生剤PBGから発生した塩基Baと中和して酸発生剤PAGおよび塩基発生剤PBGは消費される。
図7(d)は、フラッド露光L2後および熱処理前のレジスト層10における酸Acの濃度分布SA2および塩基Baの濃度分布SB2を示す。上述したように、レジスト層10において発生した酸Acと塩基Baとは中和して互いに消費される。このため、図7(b)に示したように発生した酸Acのうち、図7(c)に示した塩基Baの相当量を減算した成分のみがレジスト層10に残存する。このため、酸Acは、領域10aの中心の近くに存在する。フラッド露光L2後にレジスト層10に残った酸Acは、酸発生剤PAGから発生した酸Acから一定値を引いたものであることに留意されたい。
レジスト層10のうちの領域10aの中心の近くでは、発生した塩基Baは生成した酸Acと中和して消失する。このため、濃度分布SB2において、レジスト層10に存在する塩基Baは、領域10aの中心の近傍においてほぼゼロとなり、領域10bの大部分において一定値を示す。
その後、図1(d)に示すように、レジスト層10を熱処理する。熱処理は、レジスト層10を加熱することによって行われ、PEB(Post Exposure Bake)とも呼ばれる。熱処理は、例えばパルス熱処理であってもよい。熱処理により、酸拡散反応が発生する。また、フラッド露光L2または熱処理後、レジスト層10をポジ型とネガ型との間で反転させる変質処理を行ってもよい。
熱処理(PEB)により、酸Acと塩基Baとは再結合する。図7(e)には、酸Acと塩基Baとが熱処理(PEB)中に再結合する再結合反応ゾーンRZを示す。再結合反応ゾーンRZは、酸Acの濃度分布SA2の値がゼロになる地点および塩基Baの濃度分布SB2の値がゼロになる地点の近傍である。酸Acと塩基Baとの再結合により、酸Acと塩基Baとは中和して消費される。酸Acは、熱処理(PEB)温度で再結合反応ゾーンRZにおいてベース樹脂Rと反応し、現像液に対するレジスト層10の溶解性が変化する。
図7(f)は、熱処理後のベース樹脂Rの保護基の濃度分布を示す模式図である。ベース樹脂Rの保護基は、酸Acによって脱離する。このため、一般的にベース樹脂Rの保護基の濃度は、酸Acの濃度が高いほど低下する。したがって、酸Acの濃度が比較的高い場合、ベース樹脂Rの保護基の濃度は低くなる。また、酸Acの濃度が比較的低い場合、ベース樹脂Rの保護基の濃度は高いままである。このように、ベース樹脂Rの保護基の濃度は、酸Acの濃度に対して負の相関関係を有する。保護基の濃度の傾斜(化学傾斜)はレジスト層10中の酸拡散係数、脱保護反応による酸拡散係数の変化、酸の反応断面積等にも依存するので、ベース樹脂Rの種類に強く依存する。最近しばしば用いられるベース樹脂Rでは再結合反応ゾーンRZが狭く、化学傾斜が大きくするようにされており、一般的にベース樹脂Rの保護基の濃度は、酸Acの濃度が高いほど低下する。
ベース樹脂Rの保護基の濃度は、再結合反応ゾーンRZにおいて大きく変化する。なお、図7(f)では、参考のために、再結合反応ゾーンRZにおいて濃度の傾斜の緩いレジスト1と、再結合反応ゾーンRZにおいて濃度の傾斜の急なレジスト2とを示している。溶解性の変化する保護基濃度はベース樹脂Rに応じて異なるが、一般には、濃度の傾斜の最も大きい再結合ゾーンの中心付近に設定されている。このため、図7(e)に示した加熱前の酸Acの濃度分布SA2を制御することが重要になる。
その後、図1(e)に示すように、レジスト層10を現像する。現像により、図7の酸Acの濃度分布SA2に示された領域、すなわち領域10aの少なくとも一部は現像液に溶解して除去される。より厳密には、図7(f)で溶解が開始する保護基の濃度よりも低い領域が現像液に溶解して除去される。
本実施形態では、パターン露光L1のビームとしてEUVビームでレジスト層10の領域を照射した後に、フラッド露光L2のビームとしてUVビームでレジスト層10を照射することで、図7の酸Acの濃度分布SA2に示される領域、すなわちほぼ領域10aに潜像を形成できる。この場合、EUVビームの照射時間を短縮でき、低出力の光源を用いても高いスループットが得られる。
なお、図7では、フラッド露光L2における塩基Ba2を示す値B2に対する酸Ac2を示す値A2の比(C2)が、パターン露光L1における塩基Ba1を示す値B1に対する酸Ac1を示す値A1の比(C1)に対して変化しない形態であった。以下に、図8を参照して塩基Baを示す値に対する酸Acを示す値の比が変化しない形態をさらに説明する。
図8(a)は、フラッド露光L2の露光時間が増加した場合の酸Acの濃度分布DA2aおよび塩基Baの濃度分布DB2aを示す模式図である。なお、図8(a)には、フラッド露光L2の露光時間が増加する前の酸Acの濃度分布DA2および塩基Baの濃度分布DB2を併せて示している。
図8(a)に示すように、酸Acの発生量が増加すると、濃度分布DA2aにおける酸Acのピーク値は濃度分布DA2における酸Acのピーク値よりも増加する。なお、酸Acの発生量の増加にもかかわらず、濃度分布DA2aの裾部分は濃度分布DA2の裾部分と比べてそれほど変化しない。
また、塩基Baの発生量が増加する場合、濃度分布DB2aにおける塩基Baの値は濃度分布DB2における塩基Baの値よりも増加する。なお、濃度分布DB2aにおける塩基Baの値および濃度分布DB2における塩基Baの値はそれぞれレジスト層10の場所によらずほぼ一定である。
フラッド露光L2の露光時間の増加により、酸Acの発生量は増加するとともに塩基Baの発生量は増加する。なお、ここでは、フラッド露光L2の露光時間が増加しても塩基のBaの量に対する酸Acの量の比は変化しない。例えば、フラッド露光L2の露光時間の増加により、酸Acの量は約2倍増加するのに対して、塩基Baの量は約2倍増加する。
図8(b)は、フラッド露光L2の露光時間が増加した場合の酸Acの濃度分布SA2aおよび塩基Baの濃度分布SB2aを示す模式図である。なお、図8(b)には、フラッド露光L2の露光時間が増加する前の酸Acの濃度分布SA2および塩基Baの濃度分布SB2を併せて示している。
フラッド露光L2の露光時間が増加しても、塩基のBaの量に対する酸Acの量の比はほぼ等しい。このため、フラッド露光L2の露光時間を増加させて酸Acおよび塩基Baの量を増加させても、酸Acの濃度分布SA2aの値がゼロとなる地点は、露光時間の増加前の酸Acの濃度分布SA2の値がゼロとなる地点とほぼ等しい。また、塩基Baの濃度分布SB2aの値がゼロとなる地点は、露光時間の増加前の塩基Baの濃度分布SB2の値がゼロとなる地点とほぼ等しい。このため、フラッド露光L2の露光時間の増加に関わらず、現像されるパターンの線幅は変化しない。
図8を参照した上述の説明では、フラッド露光L2の露光時間の増加に伴って酸Acの量および塩基Baの量は同じ比で増加したが、この場合、フラッド露光L2の露光時間が短縮するにつれて酸Acの量および塩基Baの量は同じ比で減少する。なお、図8を参照した上述の説明では、塩基Baの量に対する酸Acの量の比はフラッド露光L2の露光時間に応じて変化しなかったが、本発明はこれに限定されない。塩基Baの量に対する酸Acの量の比はフラッド露光の露光時間に応じて変化してもよい。
次に、図9を参照して塩基Baの量に対する酸Acの量の比がフラッド露光の露光時間に応じて変化する形態を説明する。なお、ここでは、酸Acの量および塩基Baの量はフラッド露光L2の露光時間の増加に応じて増加するが、塩基Baの量の変化する割合は酸Acの量の変化する割合よりも高い。
図9(a)は、フラッド露光L2の露光時間が増加した場合の酸Acの濃度分布DA2bおよび塩基Baの濃度分布DB2bを示す模式図である。なお、図9(a)には、フラッド露光L2の露光時間が増加する前の酸Acの濃度分布DA2および塩基Baの濃度分布DB2を併せて示している。
図9(a)に示すように、フラッド露光L2の露光時間の増加により、酸Acの量が増加するとともに塩基Baの量が増加する。ここでは、フラッド露光の露光時間に応じて塩基Baの量に対する酸Acの量の比が変化する。例えば、フラッド露光L2の露光時間の増加により、酸Acの量は約2.5倍増加するのに対して、塩基Baの量は約3倍増加する。
図9(b)は、フラッド露光L2の露光時間が増加した場合の酸Acの濃度分布SA2bおよび塩基Baの濃度分布SB2bを示す模式図である。なお、図9(b)には、フラッド露光L2の露光時間が増加する前の酸Acの濃度分布SA2および塩基Baの濃度分布SB2を併せて示している。
図9(b)に示すように、フラッド露光L2の露光時間を増加させて酸Acおよび塩基Baの量を増加させる。この場合、塩基Baの量の増加する割合は酸Acの量の増加する割合よりも高いため、酸Acの濃度分布SA2bの値がゼロとなる地点は、露光時間の増加前の酸Acの濃度分布SA2の値がゼロとなる地点よりも領域10aの中心に近い。また、塩基Baの濃度分布SB2bの値がゼロとなる地点は、露光時間の増加前の塩基Baの濃度分布SB2の値がゼロとなる地点よりも領域10aの中心に近い。このため、フラッド露光L2の露光時間の増加により、現像されるパターンの線幅が小さくなる。
なお、図9を参照した上述の説明では、フラッド露光L2の露光時間の増加に伴い塩基Baの量は酸Acの量よりも高い割合で増加した。この場合、フラッド露光L2の露光時間が短縮するにつれて塩基Baの量は酸Acの量よりも高い割合で減少する。なお、図9を参照した上述の説明では、塩基Baの量は、フラッド露光L2の露光時間の変化に応じて酸Acの量よりも高い割合で変化したが、本発明はこれに限定されない。酸Acの量は、フラッド露光L2の露光時間の変化に応じて塩基Baの量よりも高い割合で変化してもよい。
図8および図9を参照して上述したように、酸Acの量は塩基Baの量と同じ方向に変化する。このため、変化した後にレジスト層10内に存在する酸Acの濃度分布SA2a、SA2bは、変化前の酸Acの濃度分布SA2とそれほど変わらない。
本願発明者は、鋭意研究の結果、フラッド露光L2における酸Ac2を示す値と塩基Ba2を示す値との比をパターン露光L1における酸Ac1を示す値と塩基Ba1を示す値との比と同程度にすることにより、ランダムノイズに起因する欠陥がレジスト層10に発生することを抑制できることを見出した。具体的には、本願発明者は、レジスト層の感度、解像度およびラフネスの観点から検討した結果、ランダムノイズに起因する欠陥を抑制可能であることを見出した。なお、典型的なランダムノイズはフォトンショットノイズである。
感度は、酸の量と塩基の量との差でほぼ表される。例えば、塩基の量が変化せずに酸の量が増加する場合、感度は向上する。また、酸の量が変化せずに塩基の量が増加する場合、感度は低下する。また、酸の量および塩基の量が同程度変化する場合、感度はほとんど変化しない。
解像度は、酸の量と塩基の量との比でほぼ表される。例えば、塩基の量が変化せずに酸の量が増加すると、解像度は低下する。また、酸の量が変化せずに塩基の量が増加すると、解像度は向上する。一方、酸の量および塩基の量が同じ比で増加しても、解像度はほとんど変化しない。
ラフネスは、酸の量と塩基の量との差で表される。酸の量と塩基の量との差が大きいほど、ラフネスは向上する。一方、酸の量と塩基の量との差が小さいほど、ラフネスは低下する。なお、隣接するパターン間の距離が短いほど、ラフネスによる欠陥数は大きくなる。例えば、隣接するコンタクトホールの中心間距離が等しい場合であっても、コンタクトホール長が長くなると、ラフネスが大きく影響する。
上述したように、解像度は、酸の量と塩基の量との比で表される。このため、フラッド露光L2において発生した塩基の量に対する酸の量の比は、パターン露光L1における塩基の量に対する酸の量の比とほぼ等しいことが好ましい。例えば、フラッド露光L2において発生した塩基Ba2の量を示す値(B2)に対する酸Acの量を示す(A2)の比C2(=A2/B2)が、パターン露光L1における塩基の量を示す値(B1)に対する酸の量を示す値(A1)の比C1(=A1/B1)に対して、0.9×C1<C2<10×C1の関係を満たす。また、比C1と比C2との関係は、1×C1<C2<8×C1を満たしてもよく、2×C1<C2<5×C1を満たしてもよい。さらに、A1-B1<A2-B2の関係を更に満たすことが好ましい。
また、フラッド露光L2のエネルギー源の種類を変更することにより、塩基Baの変化量を酸Acの変化量よりも、大きく、または、小さくできる。
ここで、図10を参照してランダムノイズを説明する。図10(a)は、ターゲットとなるレジスト層のコンタクトホールを示す模式図である。ここでは、ポジ型レジスト層に5行5列のコンタクトホールが形成される。
形成すべきコンタクトホールのサイズが小さい場合、ランダムノイズにより、欠陥が発生することが知られている。レジスト層に照射される露光線量が少ない場合、ランダムノイズによってレジスト層の溶解度が充分に変化せず、所定のサイズのコンタクトホールを形成できないことがある。充分なサイズに形成されなかったコンタクトホールは、ミッシングコンタクトとも呼ばれる。
また、形成すべきコンタクトホールのサイズが大きい場合、ランダムノイズにより、欠陥が発生することが知られている。コンタクトホールのサイズが大きいと、隣接するコンタクトホール同士の距離が短い。このため、ランダムノイズによってレジスト層に照射される露光線量が若干多くなると、隣接するコンタクトホールの間の領域でも溶解度が変化してしまい、隣接するコンタクトホールが連通してしまうことがある。隣接するコンタクトホールが連通したコンタクトホールはキッシングコンタクトとも呼ばれる。
図10(b)は隣接コンタクトホール間距離に対してコンタクトホール長が短い場合の欠陥の一例を示す模式図である。隣接コンタクトホール間距離に対してコンタクトホール長が短いと、所定サイズのコンタクトホールを形成できず、欠陥となることがある。
図10(c)は隣接コンタクトホール間距離に対してコンタクトホール長が長い場合の欠陥の一例を示す模式図である。例えば、隣接コンタクトホール間距離に対してコンタクトホール長が長いと、一部のコンタクトホールは隣接するコンタクトホールと連通してしまい、欠陥となることがある。
ランダムノイズによって露光線量がばらつくと、欠陥が発生してしまう。一般的な手法で欠陥を解消しようとする場合、感度を向上させることが考えられる。しかしながら、感度を向上させるために酸の発生量を増加させると、感度を向上できる一方で解像度が低下してしまう。このため、キッシングコンタクトの発生を抑制できない。
また、別の一般的な手法で欠陥を解消しようとする場合、解像度を向上させることが考えられる。しかしながら、解像度を向上させるために塩基の発生量を増加させると、解像度を向上できる一方で、感度が低下してしまう。このため、ミッシングコンタクトの発生を抑制できない。
一方で、本実施形態のレジストパターン形成方法によれば、レジスト層10が酸発生剤PAGだけでなく塩基発生剤PBGも含有するため、酸発生剤PAGからの酸Acの発生量を塩基発生剤PBGからの塩基Baの発生量と同じ方向に変化できる。また、酸発生剤PAGは、レジスト層10に含有された増感体前駆体Ppから発生した増感体Psによって増感して生成されるため、パターン露光L1の行われた領域に選択的に酸Acを発生できる。
図7から図10および上述の説明から、本実施形態によれば、以下の利点(1)~(4)を有することが理解される。
(1)パターン露光L1が同じであっても、フラッド露光L2で酸Acおよび塩基Baの発生量を増加させることで、解像度を一定に保つだけでなく、高解像度化をすることが可能になる。
(2)PEB前には酸Acの存在する部分に塩基Baはないことから、ほとんどすべての酸AcはPEB中のラフネスが起きる再結合反応ゾーンRZでの脱保護反応等のレジストの溶解度変化反応に関与する。このため、酸Acは、他のレジストと異なり化学増幅レジストではラフネスの問題が生じるパターンのエッジ部分の反応に関与できる。酸Acと塩基Baの発生量を増加することによって、フォトンショットノイズに起因するラフネスを低減できる(図7(e)、図7(f)、図8(b)および図9(b)参照)。
(3)解像度を犠牲にしないで(同一の解像度または高解像度で)、大量の酸Acを発生できる。このため、典型的なランダムノイズによるミッシングを抑制できる。また、大量の酸Acが発生しても解像度も維持できることからエッジ間の距離を維持できる。したがって、キッシングおよびマイクロブリッジなどの典型的なランダムノイズによる欠陥を抑制できる。
(4)解像度と感度とラフネスとの間のトレードオフならびにランダムノイズを同時に解決できる。
ここで、図11を参照してEBパターン露光のドーズ量およびUVフラッド露光の有無を異ならせたレジスト層を説明する。図11(a)および図11(b)は、EBパターン露光の後にUVフラッド露光を行うことなく現像したレジスト層を示す図であり、図11(c)~図11(e)は、異なるドーズ量のEBパターン露光の後に、1分間UVフラッド露光を行って現像したレジスト層を示す図である。
シクロヘキサノンに溶解させた100質量部のメチルメタアクリレート系高分子(以下「MMA」と記載)に、酸発生剤PAGとしての5質量部のDPI-PFBS、増感体前駆体Ppとしての5質量部のDOBzMM、および、塩基発生剤PBGとしての1質量部のジシクロヘキシルアンモニウム 2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピオナートを添加して、レジスト材料として調製した。なお、ここでは、増感体前駆体Ppおよび塩基発生剤PBGが比較的近い吸収波長スペクトルを有するように、増感体前駆体PpとしてDOBzMMを選択し、塩基発生剤PBGとしてジシクロヘキシルアンモニウム 2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピオナートを選択した。
予めヘキサメチルジシラサン(HMDS)処理を行ったシリコン基板上に、調製したレジスト材料を、スピンコーター(ミカサ株式会社製)を用いて1000rpm、120秒でスピンコートした。スピンコート後、100℃で1分間の熱処理を行い、レジスト層を形成した。スピンコート後、AFM(株式会社日立ハイテクサイエンス製NanoNavi II/SPA-300HV)を用いて計測したレジスト層の厚さは約50nmであった。
パターン露光機として日本電子株式会社のパターニング装置JSM-6500F(ビームブランカ-装着:ラスタースキャン方式)を用い、照射電流12.5pA、加速電圧30keVの電子線でレジスト層を照射した。
フラッド露光を行う場合は、パターン露光後、レジスト層をインターバルとして大気中で1分間保持した後、フラッド露光を行った。フラッド露光機としてLED光源(365nm、浜松ホトニクス株式会社製LED、LC-L5)を用いた。大気中で1.3W/時の光源を用いて紫外線でレジスト層を照射した。フラッド露光の後、100℃で60秒間熱処理を行い、その後、濃度2.38%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)現像液によってレジスト層を24℃で1分間現像した。
フラッド露光を行わない場合、100℃で60秒間熱処理を行い、その後、濃度2.38%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)現像液によってレジスト層を24℃で1分間現像した。
図11(a)は、ドーズ量150μC/cm2のEBパターン露光の後にUVフラッド露光を行わずに現像したレジスト層を示す。EBパターン露光により、レジスト層内に酸が発生するため、コンタクトホールが形成された。この場合、コンタクトホール長(critical dimension:CD)は82.25nmであった。図11(a)に示すように、EBパターン露光のドーズ量が150μC/cm2である場合にはミッシングコンタクトホールが存在した。
なお、特に図示していないが、EBパターン露光のドーズ量が120μC/cm2である場合にもミッシングコンタクトホールが存在した。ただし、EBパターン露光のドーズ量が120μC/cm2から150μC/cm2に増加すると、ミッシングコンタクトホールの数は低減した。
図11(b)は、ドーズ量180μC/cm2のEBパターン露光の後にUVフラッド露光を行わずに現像したレジスト層のレジスト層を示す図である。EBパターン露光により、レジスト層内に酸が発生するため、コンタクトホールが形成された。この場合、コンタクトホールのCDは93.47nmであった。図11(b)に示すように、EBパターン露光のドーズ量が180μC/cm2である場合にもミッシングコンタクトホールが形成された。
なお、図11(a)と図11(b)との比較から理解されるように、EBパターン露光のドーズ量が増加すると、ミッシングコンタクトホールの数は低減した。また、EBパターン露光のドーズ量が増加すると、限界寸法も増加した。これは、EBパターン露光のドーズ量の増加に伴い、酸の発生量が増加する一方で塩基の量は一定であるため、酸発生量/塩基発生量の比が増加するためと考えられる。
図11(c)は、ドーズ量84μC/cm2でEBパターン露光を行い、1分間UVフラッド露光を行った後で現像したレジスト層を示す。この場合、コンタクトホールのCDは81.53nmであった。
図11(d)は、ドーズ量120μC/cm2でEBパターン露光を行い、1分間UVフラッド露光を行った後で現像したレジスト層を示す。この場合、コンタクトホールのCDは84.53nmであった。
図11(e)は、ドーズ量144μC/cm2でEBパターン露光を行い、1分間UVフラッド露光を行った後で現像したレジスト層を示す。この場合、コンタクトホールのCDは75.37nmであった。
図11(c)と図11(d)との比較から理解されるように、EBパターン露光のドーズ量が84μC/cm2~120μC/cm2まで増加する場合、コンタクトホールのCDは若干増加するもののほぼ一定であった。これは、UVフラッド露光により、酸が発生するとともに塩基が発生することから、酸発生量/塩基発生量の比がほとんど変化しなったためと考えられる。
また、図11(d)と図11(e)との比較から理解されるように、EBパターン露光のドーズ量が120μC/cm2から144μC/cm2になると、EBパターン露光のドーズ量の増加に伴い、コンタクトホールのCDは低下した。EBパターン露光のドーズ量が144μC/cm2になると、EBパターン露光による塩基発生剤からの塩基発生、フラッド露光による塩基発生剤からの塩基発生、酸の発生量が塩基成分を超えるため、EBパターン露光の行われた領域で増感体が多く発生することから、フラッド露光による増感体の励起による塩基発生剤からの塩基発生等、複雑な反応の結果、コンタクトホールのCDは低下したと考えられる。
上述したように、コンタクトホール長の小さいコンタクトホールを形成する場合、ミッシングコンタクトが発生することがある。ミッシングコンタクトは、露光線量が不足することが原因となるため、レジスト層10の感度が向上することにより、ミッシングコンタクトの発生を抑制できる。
また、上述したように、コンタクトホール長の大きいコンタクトホールを形成する場合、キッシングコンタクトが発生することがある。キッシングコンタクトは、解像度の低下が原因となるため、レジスト層10の解像度が向上することにより、ミッシングコンタクトの発生を抑制できる。
このように、レジスト層10の感度および解像度を向上させることにより、利用可能なコンタクトホール長の範囲を拡張できる。このため、露光時に多少のフォトンショットノイズが発生しても、レジスト層10に欠陥が生じることを抑制できる。
本実施形態のレジストパターン形成方法において、パターン露光L1は、極端紫外線(EUV)で行われることが好ましい。ArFエキシマーレーザの波長が193nmであるのに対して、極端紫外線の波長は13.5nmであり、極端紫外線の光子エネルギーは、ArFエキシマーレーザの光子エネルギーと比べて14倍高い。したがって、同じ線量でも極端紫外線のフォトン数が1/14になり、極端紫外線のパターン露光L1においてフォトンショットノイズが発生しやすい。このため、本プロセスは、極端紫外線のリソグラフィに好適に用いられる。
なお、図1を参照した上述の説明では、塩基発生剤PBGから塩基Baの発生はフラッド露光L2によって行われたが、本発明はこれに限定されない。塩基発生剤PBGから塩基Baの発生はフラッド露光L2だけでなくパターン露光L1によって行われてもよい。
また、図1を参照した上述の説明では、パターン露光L1およびフラッド露光L2はそれぞれ1回行われたが、本発明はこれに限定されない。パターン露光L1およびフラッド露光L2はそれぞれ複数回行われてもよい。例えば、フラッド露光L2は複数回行われてもよい。
次に、図1および図12を参照して本実施形態によるレジストパターン形成方法を説明する。本実施形態のレジストパターン形成方法は、増感体Psがパターン露光L1の後の酸Acと塩基Baとの中和の後に残った酸Acに対応して増感体前駆体Ppから生成される点を除いて、図1および図7を参照して上述したレジストパターン形成方法と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
図12(a)は、パターン露光L1におけるレジスト層10内の酸Ac1の濃度分布DA1および塩基Ba1の濃度分布DB1を示す模式図である。図12(a)に示すように、パターン露光L1により、酸発生剤PAGから酸Acが発生する。なお、ここでは、パターン露光L1は室温で行われており、パターン露光L1自体によっては、増感体前駆体Ppから増感体Psは生成されない。
図12(b)は、パターン露光L1におけるレジスト層10内の酸Ac1と塩基Ba1との中和後に残った酸Acの濃度分布SA1および塩基Baの濃度分布SB1を示す模式図である。レジスト層10において発生した酸Acと塩基Baとは中和して互いに消費される。このため、図12(a)に示したように発生した酸Acのうち、図12(a)に示した塩基Baの相当量を減算した成分のみがレジスト層10に残存する。このため、酸Acは、領域10aの中心の近くに存在する。なお、図12(b)には、熱処理(PEB)したときに酸Acと塩基Baとが再結合する再結合反応ゾーンRZを示している。
図12(c)は、パターン露光L1の後にレジスト層10を加熱して、酸Ac1に対応して生成した増感体Psの濃度分布DPを示す模式図である。図12(c)に示すように、レジスト層10の加熱により、酸Ac1に対応して増感体Psが生成される。具体的には、増感体Psの濃度分布DPは、酸Ac1の濃度分布SA1に対応している。レジスト層10の加熱は、レジスト層10のベース樹脂Rのガラス転移温度Tg以上の温度であって、ベース樹脂Rの極性変換効率の低い温度で行われることが好ましい。
図12(d)は、フラッド露光L2におけるレジスト層10内の酸Ac2の濃度分布DA2および塩基Ba2の濃度分布DB2を示す模式図である。図12(d)に示すように、レジスト層10にフラッド露光L2を行うと、増感体Psの生成されたレジスト層10の全体にエネルギーが付与される。エネルギーが付与されると、増感体Psを介して、酸発生剤PAGから酸Acが発生する。
また、フラッド露光L2により、レジスト層10全体において塩基発生剤PBGから塩基Baが発生する。フラッド露光L2によって塩基発生剤PBGから塩基Baが発生すると、図12(d)に示すように、塩基Baの濃度分布DB2の値は場所によらず一定の値を示す。
図12(e)は、フラッド露光L2におけるレジスト層10内の酸Ac2と塩基Ba2との中和後に残った酸Acの濃度分布SA2および塩基Baの濃度分布SB2を示す模式図である。図12(e)には、熱処理(PEB)したときに酸Acと塩基Baとが再結合する再結合反応ゾーンRZを示している。レジスト層10において発生した酸Acと塩基Baとは中和して互いに消費される。このため、図12(d)に示したように発生した酸Acのうち、図12(d)に示した塩基Baの相当量を減算した成分のみがレジスト層10に残存する。このため、酸Acは、領域10aの中心の近くに存在する。
フラッド露光L2後の酸Acの濃度分布SA2の値がゼロとなる地点は、フラッド露光L2前の酸Acの濃度分布SA1の値がゼロとなる地点よりも領域10aの中心に近い。また、フラッド露光L2後の塩基Baの濃度分布SB2の値がゼロとなる地点は、フラッド露光L2前の塩基Baの濃度分布SB1の値がゼロとなる地点よりも領域10aの中心に近い。このため、フラッド露光L2により、現像されるパターンの線幅が小さくなる。
なお、上述した説明では、レジスト層10は、塩基発生剤PBGを含有し、フラッド露光L2によって塩基発生剤PBGから塩基Baを発生したが、レジスト層10は、塩基発生剤PBGを含有しなくてもよい。
次に、図13を参照してレジストパターン形成方法を説明する。このレジストパターン形成方法は、レジスト層10が塩基発生剤PBGを含有しておらず、塩基Ba1の濃度が比較的高い点を除いて、図12を参照して上述したレジストパターン形成方法と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
図13(a)は、パターン露光L1におけるレジスト層10内の酸Ac1の濃度分布DA1および塩基Ba1の濃度分布DB1を示す模式図である。図13(a)に示すように、パターン露光L1により、酸発生剤PAGから酸Acが発生する。パターン露光L1自体によっては、増感体前駆体Ppから増感体Psは生成されない。ここでは、塩基Ba1の濃度が比較的高い。
図13(b)は、パターン露光L1におけるレジスト層10内の酸Ac1と塩基Ba1との中和後に残った酸Acの濃度分布SA1および塩基Baの濃度分布SB1を示す模式図である。レジスト層10において発生した酸Acと塩基Baとは中和して互いに消費される。このため、図13(a)に示したように発生した酸Acのうち、図13(a)に示した塩基Baの相当量を減算した成分のみがレジスト層10に残存する。このため、酸Acは、領域10aの中心の近くに存在する。
図13(b)のパターン露光L1後の酸Acの濃度分布SA1の値がゼロとなる地点は、図12(b)のパターン露光L1後の酸Acの濃度分布SA1の値がゼロとなる地点よりも領域10aの中心に近い。また、図13(b)のパターン露光L1後の塩基Baの濃度分布SB2の値がゼロとなる地点は、図12(b)のパターン露光L1後の塩基Baの濃度分布SB1の値がゼロとなる地点よりも領域10aの中心に近い。図13(b)には、熱処理(PEB)したときに酸Acと塩基Baとが再結合する再結合反応ゾーンRZを示している。
図13(c)は、パターン露光L1の後にレジスト層10を加熱して、酸Ac1に対応して生成した増感体Psの濃度分布DPを示す模式図である。図13(c)に示すように、レジスト層10の加熱により、酸Acに対応して増感体Psが生成される。具体的には、増感体Psの濃度分布DPは、酸Ac1の濃度分布SA1に対応している。
図13(d)は、フラッド露光L2におけるレジスト層10内の酸Ac2の濃度分布DA2および塩基Baの濃度分布SB1を示す模式図である。図13(d)に示すように、レジスト層10にフラッド露光L2を行うと、増感体Psの生成されたレジスト層10の全体にエネルギーが付与される。エネルギーが付与されると、増感体Psを介して、酸発生剤PAGから酸Acが発生する。
ただし、ここでは、レジスト層10は塩基発生剤PBGを含有しておらず、フラッド露光L2によって塩基発生剤PBGから塩基Baが発生しない。このため、塩基Baの濃度分布は、濃度分布SB1のままである。
図13(e)は、フラッド露光L2の後の酸Acの濃度分布SA2および塩基Baの濃度分布SB1を示す模式図である。ここでは、塩基Baの濃度分布SB1は、比較的高い濃度を示す。このため、酸Acが拡散することを抑制できる。
なお、図12および図13を参照した説明では、増感体Psは、パターン露光L1の後の加熱によって酸Acに対応して生成したが、本実施形態はこれに限定されない。増感体Psは、パターン露光L1によって生成されるとともにパターン露光L1の後の加熱によって酸Acに対応して生成してもよい。
次に、図14を参照して本実施形態によるレジストパターン形成方法を説明する。本実施形態のレジストパターン形成方法は、増感体Psがパターン露光L1によって生成されるとともにパターン露光L1の後の加熱によって酸Acに対応して生成される点を除いて、図12を参照して上述したレジストパターン形成方法と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
図14(a)は、パターン露光L1におけるレジスト層10内の酸Ac1の濃度分布DA1、増感体Psの濃度分布DPおよび塩基Ba1の濃度分布DB1を示す模式図である。図14(a)に示すように、パターン露光L1により、酸発生剤PAGから酸Acが発生する。なお、ここでは、パターン露光L1によって増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。
図14(b)は、パターン露光L1におけるレジスト層10内の酸Ac1と塩基Ba1との中和後に残った酸Acの濃度分布SA1および塩基Baの濃度分布SB1を示す模式図である。レジスト層10において発生した酸Acと塩基Baとは中和して互いに消費される。このため、図14(a)に示したように発生した酸Acのうち、図14(a)に示した塩基Baの相当量を減算した成分のみがレジスト層10に残存する。このため、酸Acは、領域10aの中心の近くに存在する。
図14(c)は、パターン露光L1の後にレジスト層10を加熱して、酸Ac1に対応して生成した増感体Psの濃度分布DP1を示す模式図である。図14(c)に示すように、レジスト層10の加熱により、酸Acに対応して増感体Psが生成される。具体的には、増感体Psの濃度分布DP1は、図14(a)の濃度分布DPと図12(c)の濃度分布DPとの和に相当する。なお、フラッド露光L2以降の説明は、上述と同様であるため省略する。図14を参照して説明したレジストパターン形成方法では、増感体Psは2つの手法で生成するため、高濃度の増感体Psにより、酸Acを効率的に発生できる。
なお、上述した説明では、酸Acおよび塩基Baは反応して中和したが、本実施形態はこれに限定されない。酸Aaと塩基Baとの反応によって弱酸が生成されてもよい。また、生成された弱酸は、増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成することが好ましい。
次に、図15~図17を参照して本実施形態のレジストパターン形成方法を説明する。本実施形態のレジストパターン形成方法は、レジスト層10が予め弱塩基WBaをさらに含有するとともに、パターン露光L1において、酸発生剤PAGから発生した酸Acが塩基Baと反応して弱酸WAcを生成し、弱酸WAcが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する点を除いて、図1を参照して上述したレジストパターン形成方法と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
まず、図15(a)に示すように、基板S上にレジスト層10を形成する。レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、酸発生剤PAG、塩基発生剤PBGおよび塩基Baを含有している。ここでは、塩基Baは、強塩基に相当する塩基Ba1と、弱塩基WBaとを含む。
増感体前駆体Ppは、増感体を生成する。例えば、増感体前駆体Ppは、1,1-ジフェニル-3-(2-ナフチル)プロパルギルアルコール、1,1-ジフェニル-3-フェニルプロパルギルアルコール、1,1-ジフェニル-3-パラクロロフェニルプロパルギルアルコール、1,1-ジフェニル-3-パラメチルフェニルプロパルギルアルコール、1,1-ジフェニル-3-パラメトキシフェニルプロパルギルアルコール、1-フェニル-1-パラクロロフェニル-3-フェニルプロパルギルアルコール、1-フェニル-1-パラメチルフェニル-3-フェニルプロパルギルアルコール、1-フェニル-1-パラメトキシフェニル-3-フェニルプロパルギルアルコール、1,1-ジフェニル-3-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]プロパルギルアルコール、および、これらのいずれかの誘導体からなる群から選択された少なくとも1つを含んでもよい。1,1-ジフェニル-3-(2-ナフチル)プロパルギルアルコールの構造式を下記に示す。
例えば、1,1-ジフェニル-3-(2-ナフチル)プロパルギルアルコールの誘導体は、上記1,1-ジフェニル-3-(2-ナフチル)プロパルギルアルコールのフェニル基とナフチル基を他のパラクロロフェニル基、パラメトキシフェニル基、(トリフルオロメチル)フェニル基などの種々の芳香族分子に置換した化合物であってもよい。
弱塩基WBaは、塩基Ba1よりも弱い塩基性を示す。弱塩基WBaにより、酸Acと塩基Baとの中和によって生じる弱酸WAcがパターン露光L1のエッジ部分から外部に拡散することを抑制できる。
また、弱塩基WBaは、酸Acと反応して弱酸WAc1をさらに生成する。このため、酸Acの熱拡散に伴う反応が発生してレジスト反応の解像度が低下することを抑制できる。
弱塩基WBaは、光分解性塩基(Photodedecomposable Base)を含んでもよい。光分解性塩基は、光分解性クエンチャー(PDQ)と呼ばれることもある。例えば、塩基は、酢酸スルホニウム塩、酢酸ヨードニウム塩、サリチル酸スルホニウム塩、サリチル酸ヨードニウム塩、o-ニトロベンジルシクロヘキシルカルバメート、および、o-ニトロベンジル-n-オクチルカルバメートからなる群から選択された少なくとも1つを含むことが好ましい。
次に、図15(b)に示すように、レジスト層10にパターン露光L1を行う。パターン露光L1によって、レジスト層10の領域10aにエネルギーが付与される。高解像度を実現するためにパターン露光L1のパターンが微細な場合、エネルギーの強度分布はサイン波で近似されることがある。領域10aに付与されたエネルギーにより、レジスト層10内の組成が励起またはイオン化されて活性状態が生成され、最終的には、レジスト層10の増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。
具体的には、レジスト層10にパターン露光L1が行われると、レジスト層10において以下のように反応が進む。まず、図16の反応式(1)に示すように、酸発生剤PAGから酸Acが発生する。酸Acの濃度分布は、パターン露光L1のビーム強度分布に対応する。
領域10aにおいて発生した酸Acは、図16の反応式(2)に示すように、増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する。なお、酸Acに起因して生成される増感体Psの濃度分布もシャープになる。
また、酸Acは、図16の反応式(3a)に示すように、塩基Ba1と反応して中和物Neおよび弱酸WAcを生成する。このように、レジスト層10は、塩基Ba1を含有しているため、酸Acは塩基Ba1と反応して中和し、酸Acの濃度分布がシャープになる。例えば、弱酸WAcとして、酢酸、プロピオン酸、シクロへキシルカルボン酸、または、サリチル酸が生成される。なお、弱酸WAcの拡散係数は比較的小さいことが好ましい。
また、図16の反応式(3b)に示すように、弱酸WAcは増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する。なお、図16には示していないが、酸Acは弱塩基WBaと反応して中和することもある。
このように、酸Ac(化合物HX)および塩基Ba(化合物AZ)の中和反応によって酸発生剤PAG(AX)以外に弱酸WAc(化合物HZ)が生成する。弱酸WAc(化合物HZ)は、増感体前駆体Ppの酸触媒反応を起こし、増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する。ただし、酸Ac(化合物HX)とは異なり、弱酸WAc(化合物HZ)は、ベース樹脂Rの極性変換等の化学増幅型レジスト反応を起こすものではない。
その後、図15(c)に示すように、レジスト層10にフラッド露光L2を行う。フラッド露光L2によって、増感体Psの生成されたレジスト層10の全体にエネルギーが付与される。例えば、フラッド露光L2の時間は、1分間以内であることが好ましく、30秒間以内であることがさらに好ましい。
フラッド露光L2が行われると、増感体Psが励起状態に遷移する。図17に示すように、酸発生剤PAGは励起状態の増感体Psを介して酸Acを発生させる。
このように、フラッド露光L2においてエネルギーが付与されると、領域10aにおいて酸発生剤PAGから酸Acが発生する。なお、増感体Psの生成されていない領域10bにフラッド露光L2のビームが照射されても、領域10bにおける酸発生剤PAGおよび増感体前駆体Ppは実質的に反応しない。上述したように、パターン露光L1によって形成された増感体Psの濃度分布がシャープであるため、増感体Psを介して酸発生剤PAGから発生する酸Acの濃度分布をシャープにできる。
例えば、フラッド露光L2により、増感体Psは励起状態に遷移する。増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが領域10aにおいて発生する。増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが発生する場合、増感体Psの励起状態の電子が酸発生剤PAGに移動すると、酸発生剤PAGは解離型電子付加反応を起こして分解し、酸Acと励起前の増感体Psを新たに生成する。なお、図15(d)以降の説明は、図1(d)以降と同様であるため、省略する。
次に、図15~図18を参照して本実施形態のレジスト層10内の成分の変化を説明する。図18(a)は、パターン露光L1におけるレジスト層10内の酸Acの濃度分布DA1および塩基Baの濃度分布DB1を示す模式図である。図18(a)には、パターン露光L1におけるレジスト層10内の増感体Psの濃度分布DPおよび弱塩基WBaの濃度分布DWBを併せて示している。
図18(a)に示すように、パターン露光L1により、酸発生剤PAGから酸(強酸)Acが発生するとともに、増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。なお、酸Acは、塩基Baと反応して弱酸WAcを生成する。
パターン露光L1の前にレジスト層10は塩基Baとして塩基Ba1および弱塩基WBaを含有する。この場合、塩基Ba1の濃度分布DB1および弱塩基WBaの濃度分布DWBは場所によらず一定の値を示す。ここでは、弱塩基WBaの濃度は塩基Ba1の濃度よりも高い。
図18(b)は、パターン露光L1におけるレジスト層10内の酸Ac1と塩基Ba1との中和後に残った弱酸WAcの濃度分布SA1および塩基Baの濃度分布SB1を示す模式図である。また、図18(b)には、増感体Psの濃度分布DPおよび中和後に残った弱塩基WBaの濃度分布SWBを併せて示している。
レジスト層10において発生した酸Acと塩基Ba1とは中和して互いに消費される。このとき、弱酸WAcが生成される。また、酸Acは、増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する。さらに、弱酸WAcは、増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する。このため、図18(a)に示したように発生した酸Acのうち、図18(a)に示した塩基Ba1の相当量を減算した成分がレジスト層10に残存する。このため、酸Acは、領域10aの中心の近くに存在する。
また、弱塩基WBaは、酸Acとの反応によって消費される。また、弱塩基WBaが光分解性塩基である場合、弱塩基WBaは、パターン露光L1によって消費される。なお、フラッド露光L2以降は上述した説明と同様である。このため、フラッド露光L2以降の説明を省略する。本実施形態では、酸Acだけでなく酸Acと塩基Baとの反応によって生成した弱酸WAcと増感体前駆体Ppとの反応によって増感体Psが生成するため、増感体Psを高濃度に生成でき、結果として酸Acを効率的に発生できる。
なお、本実施形態では、塩基Baは、塩基Ba1だけでなく弱塩基WBaを含むため、酸Acによるベース樹脂Rの極性変換が拡大することを効率的に抑制できる。このため、図15~図18を参照して説明したレジストパターン形成方法においてレジスト層10は、塩基発生剤PBGを含有しなくてもよい。
以下、図19を参照して、本実施形態によるレジストパターン形成方法を説明する。本実施形態のレジストパターン形成方法は、フラッド露光を2回行う点を除いて図1を参照して上述したレジストパターン形成方法と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
図19(a)~図19(f)のそれぞれは、本実施形態によるレジストパターン形成方法の各工程を示す模式図である。
まず、図19(a)に示すように、基板S上にレジスト層10を形成する。レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、酸発生剤PAGおよび塩基発生剤PBGを含有している。
次に、図19(b)に示すように、レジスト層10にパターン露光L1を行う。パターン露光L1におけるビームは、レジスト層10の領域10aを照射し、レジスト層10の領域10bを照射しない。パターン露光L1によって、レジスト層10の領域10aにビームが照射されることにより、領域10aにおいて増感体前駆体Ppから増感体Psが生成する。
その後、図19(c)に示すように、レジスト層10に第1フラッド露光L2aを行う。第1フラッド露光L2aによって、レジスト層10の全体にビームが照射されることにより、増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acが発生する。なお、酸発生剤PAGがなくなるまで酸Acが発生すると、その後、酸Acは発生しなくなるので、酸のピーク濃度は領域10aにわたってほぼ一定になる。最終的には、酸Acの濃度分布は、領域10aと領域10bとの境界において非常に急峻に変化する。
その後、図19(d)に示すように、レジスト層10に第2フラッド露光L2bを行う。第2フラッド露光L2bによって、レジスト層10の全体にビームが照射されることにより、塩基発生剤PBGから塩基Baが発生する。
その後、図19(e)に示すように、レジスト層10に熱処理する。熱処理は、例えばパルス熱処理であってもよい。熱処理により、酸拡散反応が発生する。例えば、熱処理は100℃以上110℃以下で行われる。また、フラッド露光L2または熱処理後、レジスト層10をポジ型とネガ型との間で反転させる変質処理を行ってもよい。
その後、図19(f)に示すように、レジスト層10を現像する。現像により、酸Acの発生した領域10aが取り除かれる。以上のようにして、パターン露光L1のパターン形状にしたがったパターンを有するレジスト層10を形成できる。
なお、図19を参照した上述の説明では、塩基発生剤PBGから塩基Baの発生は第2フラッド露光L2bによって行われたが、本発明はこれに限定されない。塩基発生剤PBGから塩基Baの発生は第2フラッド露光L2bだけでなくパターン露光L1および/または第1フラッド露光L2aによって行われてもよい。また、図19を参照した上述の説明では、フラッド露光として、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bを行ったが、本発明はこれに限定されない。第2フラッド露光L2bの後に、増感体Psを介して酸発生剤PAGから酸Acを発生させる第3フラッド露光を行ってもよい。
なお、上述したように、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppから増感体Psを直接的に生成してもよい。例えば、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppが励起もしくはイオン化して増感体前駆体Ppが構造変換することにより、吸収波長または吸収係数の異なる増感体Psが生成されてもよい。構造変換は、例えば、共役長の変化、分解またはシストランス異性化である。または、パターン露光L1により、レジスト層10内の含有物のイオン化によって生成された電子と増感体前駆体Ppとの反応によって増感体Psが生成されてもよい。
あるいは、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppは、酸発生剤PAGから発生した酸Acと反応して増感体Psを生成してもよい。
上述したように、増感体前駆体Ppは、パターン露光L1によって酸発生剤PAGから発生した酸Acと反応して増感体Psを生成してもよい。この場合、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppと酸Acとが反応して増感体Psを生成するプロセス1が進行した後に、フラッド露光L2により、励起状態の増感体Psと酸発生剤PAGとが反応するプロセス2が進行してもよい。
プロセス1では、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppと酸Acとが反応して増感体Psを生成する。典型的には、酸Acがレジスト層内を拡散し、拡散する酸Acの近くに増感体前駆体Ppが存在していると、酸Acが増感体前駆体Ppと反応し、酸Acおよび増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。このように、プロセス1は酸Acの拡散によって進行する。拡散長は塩基濃度、酸分子の大きさ、温度、レジストのガラス転移温度Tgなどに依存して大きく変化する。一般に、温度が高いほど、酸Acの拡散長は長くなる。例えば、ベース樹脂のガラス転移温度Tgよりも高い温度において、酸Acの拡散長は比較的長くなる。以上のように、プロセス1は酸Acの熱拡散に伴う反応であり、酸Acの発生した領域から離れた領域でも、酸Acと増感体前駆体Ppとの反応が生じ得る。
また、プロセス2では、典型的には、励起した増感体Psが酸発生剤PAGと反応して酸Acを発生させる。このように、プロセス2は、電子移動またはエネルギー移動等を生じさせる光化学反応であり、励起した増感体Psから比較的短い距離で3次元的かつ等方性の高い反応が生じる。
ここで、プロセス1およびプロセス2におけるラフネス、および、フォトンショットノイズについて検討する。特に少量のフォトンで反応を進行させる場合、フォトンショットノイズに起因するラフネスが目立つことがある。フォトンショットノイズに起因するラフネスを抑制するために、反応距離は、プロセス1およびプロセス2のいずれにおいても短いことが好ましい。なお、プロセス1およびプロセス2を比較した場合、反応距離のばらつきは、熱拡散に伴うプロセス1において生じやすい。特に、酸Acの濃度が比較的低い場合、プロセス1の反応において拡散に伴うフォトンショットノイズに起因するラフネスが生じやすい。このため、フォトンショットノイズに起因するラフネスを抑制するために、プロセス1を行う際、酸Acおよび増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する反応が効率よく進行するのであれば、温度を低くして酸Acの拡散長を比較的短くすることが好ましい。例えば、パターン露光L1は、酸Acの拡散の温度依存性、および、酸Acおよび増感体前駆体Ppから増感体Psが生成する反応の温度依存性等を考慮して行うことが好ましい。
プロセス2では、3次元等方性の高い励起した増感体Psから酸発生剤PAGへの電子移動またはエネルギー移動に伴って酸Acが効率よく生成されるように励起した増感体Psと酸発生剤PAGを選択し、酸発生剤PAGの濃度を高くすることが好ましい。また、プロセス1よりプロセス2の比率を大きくすることがラフネスやフォトンショットノイズに起因するラフネスを低減する上で有効である。このように、パターン露光L1およびフラッド露光L2において、酸Acと増感体前駆体Ppとの反応における酸Acの拡散距離、および、励起した増感体Psから酸発生剤PAGへの電子移動またはエネルギー移動の反応距離を短くすることが好ましい。さらに、酸Ac等のランダムな拡散軌道に従った反応よりも3次元等方性の高い電子移動、エネルギー移動反応によって酸Acを生成する反応の寄与する度合を大きくすることが好ましい。これらにより、レジストパターンのフォトンショットノイズに起因するラフネスを低減させることができる。
なお、上述したように、増感体前駆体Ppが、パターン露光L1によって酸発生剤PAGから発生した酸Acと反応して増感体Psを生成する場合、増感体前駆体Ppは、増感体Psを生成するための反応物としてのみではなく、酸発生剤PAGから酸Acを発生させる反応に対して増感作用を有することが好ましい。この場合、増感体前駆体Ppは感度およびコントラストの向上に寄与する。このような増感体前駆体Ppは、例えば、アセタール、ケタール、ヘミアセタール(セミケタール)等である。より具体的な一例として増感体前駆体Ppは、ジメトキシベンズヒドロール誘導体であるジメトキシビス(4-メトキシフェニル)メタン(DOBzMM)である。DOBzMMの芳香族部分はベンゼン環構造である。なお、増感体前駆体Ppは、例えば、ナフタレンおよびアントラセン等の多環芳香族炭化水素もしくはチオキサントン等のヘテロ原子を含む芳香族分子の構造を含むアセタール、ケタール、ヘミアセタール(セミケタール)等である。なお、パターン露光L1の際に、増感体前駆体Ppは、増感体前駆体Ppから増感体Psを発生させる反応に対する増感作用および/または酸発生剤PAGから酸Acを発生させる反応に対する増感作用を有することが好ましい。
なお、上述の説明では、酸Acの拡散係数および塩基成分Boの拡散係数は互いにほぼ等しく、パターン露光L1のビームの照射された領域10aにおける酸Acおよび塩基成分Boいずれかの拡散について説明しなかったが、本発明はこれに限定されない。酸Acの拡散係数は塩基成分Boの拡散係数よりも大きくてもよい。あるいは、酸Acの拡散係数は塩基成分Boの拡散係数よりも小さくてもよい。
なお、上述した説明では、パターン露光L1によって酸発生剤PAGから発生した酸Acが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成し、また、パターン露光L1前のレジスト層10は塩基成分Boを含有していたが、本発明はこれに限定されない。レジスト層10は、パターン露光L1によって発生させたラジカルを介して増感体前駆体Ppから増感体Psを生成し、パターン露光L1前のレジスト層10はラジカル捕捉成分Rkを含有してもよい。
以下、図20を参照して、本実施形態によるレジストパターン形成方法を説明する。本実施形態のレジストパターン形成方法は、パターン露光L1を行う前のレジスト層10がラジカル捕捉成分Rkを含有する点を除いて、図1を参照して上述したレジストパターン形成方法と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。なお、本実施形態においてレジスト層10の増感体前駆体Ppはアルコール型であり、パターン露光L1によって発生したラジカルを介して増感体前駆体Ppから増感体Psを生成する。
図20(a)~図20(e)のそれぞれは、本実施形態によるレジストパターン形成方法の各工程を示す模式図である。
まず、図20(a)に示すように、基板S上にレジスト層10を形成する。レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、酸発生剤PAG、塩基発生剤PBGおよびラジカル捕捉成分Rkを含有している。
例えば、ラジカル捕捉成分Rkとして、ヒンダードフェノールなどのラジカル捕捉剤、ラジカル禁止剤が用いられる。なお、ラジカル捕捉成分Rkはベース樹脂Rに混合されていてもよい。あるいは、ラジカル捕捉成分Rkはレジスト層10内の別の成分に結合されてもよい。例えばラジカル捕捉成分Rkはベース樹脂Rに結合されている。ベース樹脂Rとして、ポリヒドロキシスチレン樹脂(PHS樹脂)を用いる場合、PHS樹脂はラジカル捕捉剤として機能し得る。
次に、図20(b)に示すように、レジスト層10にパターン露光L1を行う。パターン露光L1におけるビームは、レジスト層10の領域10aを照射し、レジスト層10の領域10bを照射しない。
パターン露光L1を行う前には、レジスト層10の酸発生剤PAG、増感体前駆体Ppおよびラジカル捕捉成分Rkは場所によらずほぼ一定の濃度を有している。なお、ラジカル捕捉成分Rkの濃度は、酸発生剤PAG、増感体前駆体Ppの濃度と比べて比較的低い。
パターン露光L1が始まると、領域10a内にラジカルが発生し、ラジカルを介して増感体前駆体Ppから増感体Psが生成される。ここでは、レジスト層10がラジカル捕捉成分Rkを含有しているため、発生したラジカルの一部はラジカル捕捉成分Rkに捕捉される。このため、増感体Psの濃度分布は、レジスト層10がラジカル捕捉成分Rkを含有していない場合と比べてシャープになる。
次に、図20(c)に示すように、レジスト層10にフラッド露光L2を行う。パターン露光L1によって形成された増感体Psの濃度分布がシャープであるため、増感体Psを介して酸発生剤PAGから発生する酸Acの濃度分布をシャープにできる。
その後、図20(d)に示すように、レジスト層10に熱処理する。熱処理は、例えばパルス熱処理であってもよい。熱処理により、酸拡散反応が発生する。例えば、熱処理は100℃以上110℃以下で行われる。また、フラッド露光L2または熱処理後、レジスト層10をポジ型とネガ型との間で反転させる変質処理を行ってもよい。
その後、図20(e)に示すように、レジスト層10の現像を行う。以上のように、レジスト層10に予め少量のラジカル捕捉成分Rkを添加することにより、コントラストおよび解像度を改善できるとともに、領域10bへの迷光または帯域外光(Out Of Band)の照射に伴う少量の酸の生成を抑制でき、レジスト性能を向上できる。
なお、図20を参照した上述の説明では、レジスト材料はラジカル捕捉成分Rkを含有していたが、本発明はこれに限定されない。レジスト材料は、塩基成分Boおよびラジカル捕捉成分Rkの両方を含有してもよい。
また、上述したように、レジスト層10は、酸発生剤PAGとは別にラジカル発生成分を含有してもよいが、酸発生剤PAGおよびラジカル発生成分は同一の成分であってもよい。この場合、フラッド露光L2により、酸発生剤PAGおよび増感体Psが生成される。この反応は、ラジカルに伴う反応を含むので、上述したように、レジスト層10は、ラジカル捕捉成分Rkを含有することが好ましい。また、レジスト層10は、露光(例えば、フラッド露光)によってラジカル捕捉成分を生成するラジカル禁止剤発生剤を含有してもよい。
また、図1~図20を参照した上述の説明では、レジスト層10は露出されており、外気と直接的に接触していたが、本発明はこれに限定されない。レジスト層10の表面にトップコート層が設けられてもよい。また、レジスト層10と基板Sとの間に下地層が設けられてもよい。
以下、図21を参照して、本実施形態によるレジストパターン形成方法を説明する。本実施形態のレジストパターン形成方法は、レジスト層10の表面にトップコート層Tをさらに形成する点を除いて、図1を参照して上述したレジストパターン形成方法と同様であり、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
まず、図21(a)に示すように、基板S上に下地層Uを形成する。下地層は、例えば、市販の無機材料または有機材料から形成される。
次に、下地層Uの上にレジスト層10を形成する。レジスト層10は、ベース樹脂R、増感体前駆体Pp、酸発生剤PAGおよび塩基発生剤PBGを含有している。
次に、レジスト層10の表面にトップコート層Tを形成する。トップコート層Tにより、塩基性物質および/または酸素のレジスト層10への侵入が遮断される。トップコート層Tは、パターン露光L1とフラッド露光L2のビームを透過し、帯域外光(Out of Band)のビームをなるべく遮断することが好ましい。
例えば、増感体前駆体Ppがアセタール型の場合、トップコート層Tは、酸の失活を防ぐために、塩基性化合物を浸透しないことが好ましい。また、例えば、増感体前駆体Ppがアルコール型の場合、トップコート層Tは、酸素の透過しない架橋した高分子膜、または、ヒドロキノンや3,5-ジブチル-4-ヒドロキシトルエンなどの酸素と反応する物質を含む高分子膜から形成される。トップコート層Tの厚さは、パターン露光L1のビーム源に応じて決定される。例えば、ビーム源としてEUVを用いる場合、トップコート層TでのEUVのエネルギー損失が大きいため、トップコート層Tの厚さは20nm以上50nm以下であることが好ましい。また、ビーム源としてEBを用いる場合、トップコート層Tの厚さは、EBのエネルギーに依存するが、50nm以下であることが好ましい。さらに、ビーム源として、ArFまたはKrFを用いる場合、トップコート層Tはビームに対して透明であることが好ましく、トップコート層Tの厚さは20nm以上200nm以下であってもよい。
次に、図21(b)に示すように、トップコート層Tを介してレジスト層10にパターン露光L1を行う。上述したように、パターン露光L1により、領域10aに増感体Psが形成される。
次に、図21(c)に示すように、トップコート層Tを介してレジスト層10にフラッド露光L2を行う。フラッド露光L2により、上述したように、領域10aに酸Acが形成され、領域10bに塩基Baが形成される。
その後、図21(d)に示すように、レジスト層10に熱処理する。熱処理は、例えばパルス熱処理であってもよい。熱処理により、酸拡散反応が発生する。例えば、熱処理は100℃以上110℃以下で行われる。また、フラッド露光L2または熱処理後、レジスト層10をポジ型とネガ型との間で反転させる変質処理を行ってもよい。
次に、図21(e)に示すように、レジスト層10を現像する。現像により、酸Acの発生した領域(潜像が形成された領域)10aは現像液において溶解し除去される。以上のようにして、パターン露光L1のパターン形状にしたがったパターンを有するレジスト層10を形成できる。なお、パターン露光L1の後、または、フラッド露光L2の後、必要に応じてレジスト層10上のトップコート層Tを除去してもよい。パターン露光L1の間、または、フラッド露光L2の間、トップコート層Tが設けられていることにより、レジスト層10への塩基性物質および/またはラジカル捕捉成分の意図しない侵入が抑制され、これにより、レジスト層10のレジスト性能をさらに向上させることができる。
なお、図21を参照して上述した説明では、レジスト層10の上方にトップコート層Tを設け、レジスト層10の下方に下地層Uを設けたが、本発明はこれに限定されない。トップコート層Tを設けることなくレジスト層10の下方に下地層Uを配置してもよい。あるいは、下地層Uを設けることなくレジスト層10の上方にトップコート層Tを設けてもよい。
また、下地層Uは、フラッド露光L2のビームの反射防止膜として機能することが好ましい。下地層Uの最適な厚さは、フラッド露光L2の波長によって決定される。
上述したレジストパターン形成方法におけるパターン露光およびフラッド露光はレジスト潜像形成装置において好適に行われる。以下、図22を参照して本実施形態のレジストパターン形成方法に好適に用いられるレジスト潜像形成装置200を説明する。
レジスト潜像形成装置200は、パターン露光機210と、フラッド露光機220とを備える。パターン露光機210は、基板S上に形成されたレジスト層10にパターン露光する。上述したように、レジスト層10はベース樹脂、増感体前駆体、酸発生剤および塩基発生剤を含有している。なお、レジスト層10は、基板S上に直接形成されてもよく、あるいは基板S上に別の層を介して形成されてもよい。パターン露光機210のパターン露光L1により、レジスト層10の増感体前駆体から増感体が生成される。その後、フラッド露光機220はレジスト層10にフラッド露光L2を行い、パターン潜像を形成する。フラッド露光機220のフラッド露光L2により、増感体を介して酸発生剤から酸が発生し、塩基発生剤から塩基が発生する。
パターン露光機210は、チャンバ212と、パターン光源214とを有している。チャンバ212は、基板S上に形成されたレジスト層10を収納可能である。チャンバ212内は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。活性ガス雰囲気は、例えば、分圧の制御された水素ガスを含む。チャンバ212は、収納している基板Sの温度を-10℃から100℃の範囲で制御可能であることが好ましい。
パターン光源214は、チャンバ212内のレジスト層10にパターン形状のビームを照射する。パターン光源214のビームは、可視光、UV、DUV、EUVのような電磁波である。または、パターン光源214のビームは電子線またはイオンビームであってもよい。例えば、パターン光源214は、イオンビーム照射部、電子線照射部または電磁波照射部を含む。
パターン露光L1の光源としてEUV光源を用いる場合、EUVの波長は1nm以上13.5nm以下であることが好ましく、6nm以上13.5nm以下であることがさらに好ましい。あるいは、パターン露光L1のビームとして電子線を用いる場合、電子線の加速エネルギーは10keV以上300keV以下であることが好ましく、40keV以上130keV以下であることがさらに好ましい。
ここでは、パターン露光機210が基板S上に形成されたレジスト層10にパターン露光を行った後、基板Sはパターン露光機210からフラッド露光機220まで運搬される。基板Sがパターン露光機210からフラッド露光機220まで運搬される間、レジスト潜像形成装置200の内部は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。パターン露光からPEBまでの間に酸の失活が起きないように、レジスト潜像形成装置200では、塩基性化合物の除去用フィルター等を用いて、雰囲気が厳しく制御されることが好ましい。これにより、パターン露光機210によって生じたレジスト層10の活性が減衰することを抑制できる。チャンバ222は、収納している基板Sの温度を-10℃から100℃の範囲で制御可能であることが好ましい。
フラッド露光機220は、チャンバ222と、フラッド光源224とを有している。チャンバ222は、基板S上に形成されたレジスト層10を収納可能である。チャンバ222内は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
フラッド光源224は、チャンバ222内のレジスト層10にフラッド露光L2のビームを照射してパターン潜像を形成する。フラッド露光L2のビームは、例えば可視光、UVのような電磁波である。図22では、フラッド露光L2のビームはミラーによって反射されて、チャンバ222内に導入されている。例えば、フラッド光源224は、イオンビーム照射部、電子線照射部または電磁波照射部を含む。
フラッド露光機220は、ビームをエリア形状にするための機構をさらに有してもよい。例えば、フラッド露光機220は、投影レンズ系および遮断マスクを有する。ただし、フラッド露光機220は、投影レンズ系を有しておらず、遮断マスクのみを有してもよい。遮断マスクのみを有する場合、フラッド露光機220の構成が簡素になり好適である。
このように、パターン光源214がレジスト層10のエリア内に、パターン形状にビームを照射した後、フラッド光源224が上記エリアにわたってビームを照射し、レジスト層10に所定のパターン潜像を形成する。パターン光源214は、パターン形状にビームを照射するパターン照射源であるのに対して、フラッド光源224は、エリア照射源である。
レジスト層10にパターン潜像が形成された後、レジスト層10は、図示しない現像装置において現像されてもよい。現像により、所定のパターンのレジスト層10が出現する。
なお、レジスト潜像形成装置200は、一例として、パターン光源214を備えるパターン露光機210、および、フラッド光源224を備えるフラッド露光機220に加えてコータ/デベロッパ(ここでは図示せず)をさらに備えることが好ましい。レジスト潜像形成装置200がコータ/デベロッパを備える場合、レジスト潜像形成装置200は、レジスト層10のパターン形成を以下のように行う。まず、コータ/デベロッパは、基板S上にスピンコートでアンダーレイヤーを形成し、アンダーレイヤーをベークする。
次に、コータ/デベロッパは、アンダーレイヤー上にレジスト層10をコーティングし、レジスト層10をプリベークする。なお、必要に応じて、レジスト層10上にスピンコートでさらに別の層を形成し、当該層をベークしてもよい。
次に、パターン露光機210のパターン光源214は、レジスト層10にビームを照射する。その後、フラッド露光機220のフラッド光源224はレジスト層10にビームを照射する。これにより、レジスト層10にパターン潜像が形成される。
次に、コータ/デベロッパは、ポストベークを行う。その後、コータ/デベロッパは、レジスト層10を現像する。これにより、所定のパターン形状のレジスト層10が形成される。次に、コータ/デベロッパは、レジスト層10を純水でリンスし、ポストベーク(乾燥)を行う。以上のようにして、レジスト層10にパターンを形成することができる。
なお、基板Sが、コータ/デベロッパ、レジスト層10を活性化する場所、レジスト層10にパターン潜像を形成する場所の間で運搬される場合、運搬は、所定の不活性ガス雰囲気下、活性ガス雰囲気下または真空雰囲気下で行われることが好ましい。運搬部材として、温度調整機能を有するステージが好適に用いられる。
また、コータ/デベロッパは、パターン露光機210のチャンバ212内に配置されてもよく、あるいは、フラッド露光機220のチャンバ222内に配置されてもよい。さらには、コータ/デベロッパは、パターン露光機210およびフラッド露光機220と共通のチャンバ内に配置されてもよい。
図22を参照して上述した説明では、チャンバ212においてパターン光源214から出射されたビームが照射され、チャンバ222においてパターン光源214とは異なるフラッド光源224から出射されたビームが照射されたが、本発明はこれに限定されない。
また、図22を参照して上述した説明では、基板S上に形成されたレジスト層10を活性化した後、基板Sは、チャンバ212から一旦とり出されて、チャンバ222まで運搬されたが、本発明はこれに限定されない。基板Sは、チャンバ212とチャンバ222とを連絡する連絡経路を通ってチャンバ212からチャンバ222まで搬送されてもよい。
また、図22を参照して上述した説明では、パターン露光機210およびフラッド露光機220は、チャンバ212およびチャンバ222をそれぞれ備えていたが、本発明はこれに限定されない。パターン露光機210およびフラッド露光機220のチャンバは同一であってもよい。
また、図22を参照して上述したレジスト潜像形成装置200は、1つのフラッド露光機220を備えていたが、本発明はこれに限定されない。レジスト潜像形成装置200は、波長の異なるビームを出射する複数のフラッド露光機を備えてもよいし、また、1つのフラッド露光機が複数の異なるビームを出射してもよい。
以下、図23を参照してレジスト潜像形成装置200を説明する。レジスト潜像形成装置200は、2つのフラッド露光機を備える点を除いて図22を参照して上述したレジスト潜像形成装置と同様の構成を有しており、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
レジスト潜像形成装置200は、パターン露光機210と、第1フラッド露光機220aと、第2フラッド露光機220bとを備える。パターン露光機210が、基板S上に形成されたレジスト層10にパターン露光L1を行った後、第1フラッド露光機220aがレジスト層10に第1フラッド露光L2aを行い、第2フラッド露光機220bがレジスト層10に第2フラッド露光L2bを行い、パターン潜像を形成する。
パターン露光機210は、チャンバ212と、パターン光源214とを有している。パターン光源214は、チャンバ212内のレジスト層10にパターン形状のビームを照射する。パターン光源214のビームは、可視光、UV、DUV、EUVのような電磁波である。または、パターン光源214のビームは電子線またはイオンビームであってもよい。
第1フラッド露光機220aは、チャンバ222aと、第1フラッド光源224aとを有している。チャンバ222aは、基板S上に形成されたレジスト層10を収納可能である。チャンバ222a内は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
パターン露光機210が基板S上に形成されたレジスト層10にパターン露光を行った後、基板Sはパターン露光機210から第1フラッド露光機220aまで運搬される。基板Sがパターン露光機210から第1フラッド露光機220aまで運搬される間、レジスト潜像形成装置200の内部は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
第1フラッド光源224aは、チャンバ222a内のレジスト層10に第1フラッド露光L2aのビームを照射する。第1フラッド光源224aから出射されたビームは、レジスト層10内のエリアにわたって照射される。第1フラッド露光L2aのビームは、例えば可視光、UVのような電磁波である。図23では、第1フラッド露光L2aのビームはミラーによって反射されて、チャンバ222a内に導入されている。
第1フラッド露光機220aが基板S上に形成されたレジスト層10に第1フラッド露光L2aを行った後、基板Sは第1フラッド露光機220aから第2フラッド露光機220bまで運搬される。基板Sが第1フラッド露光機220aから第2フラッド露光機220bまで運搬される間、レジスト潜像形成装置200の内部は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
第2フラッド露光機220bは、チャンバ222bと、第2フラッド光源224bとを有している。チャンバ222bは、基板S上に形成されたレジスト層10を収納可能である。チャンバ222b内は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
第2フラッド光源224bは、チャンバ222b内のレジスト層10に第2フラッド露光L2bのビームを照射してパターン潜像を形成する。第2フラッド光源224bから出射されたビームは、レジスト層10内のエリアにわたって照射される。第2フラッド露光L2bのビームは、例えば可視光、UVのような電磁波である。図23では、第2フラッド露光L2bのビームもミラーによって反射されて、チャンバ222内に導入されている。
なお、第2フラッド光源224bの出射するビームの波長は、第1フラッド光源224aの出射するビームの波長よりも長いことが好ましい。ただし、第2フラッド光源224bの出射するビームの波長は、第1フラッド光源224aの出射するビームの波長よりも短くてもよい。
レジスト層10にパターン潜像が形成された後、レジスト層10は、図示しない現像装置において現像されてもよい。現像により、所定のパターンのレジスト層10が出現する。
なお、図23を参照して上述した説明では、異なる第1フラッド露光機220aおよび第2フラッド露光機220bが異なるフラッド露光を行ったが、本発明はこれに限定されない。フラッド露光機の同一のフラッド光源により、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bの両方が行われてもよい。
以下、図24を参照してレジスト潜像形成装置200を説明する。レジスト潜像形成装置200は、フラッド露光機220内の同一のフラッド光源224により、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bの両方が行われる点を除いて図23を参照して上述したレジスト潜像形成装置と同様の構成を有しており、冗長を避けるために重複する記載を省略する。
フラッド露光機220は、チャンバ222と、フラッド光源224とを有している。チャンバ222は、基板S上に形成されたレジスト層10を収納可能である。チャンバ222内は、不活性ガス雰囲気、活性ガス雰囲気または真空雰囲気であることが好ましい。
フラッド光源224は、チャンバ222内のレジスト層10にフラッド露光L2のビームを照射してパターン潜像を形成する。フラッド露光L2のビームは、例えば可視光、UVのような電磁波である。
ここでは、フラッド露光機220は、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bを行う。フラッド光源224は、チャンバ222内のレジスト層10に第1フラッド露光L2aのビームを照射する。フラッド光源224から出射されたビームは、レジスト層10内のエリアにわたって照射される。
その後、フラッド光源224は、チャンバ222内のレジスト層10に第2フラッド露光L2bのビームを照射する。この場合も、フラッド光源224から出射されたビームは、レジスト層10内のエリアにわたって照射される。なお、典型的は、第2フラッド露光L2b時のビームの波長は、第1フラッド露光L2a時のビームの波長とは異なる。このように、フラッド露光機220内の同一のフラッド光源224により、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bの両方が行われてもよい。
また、上述した説明では、フラッド露光はパターン露光の後に行われたが、本発明はこれに限定されない。パターン露光に先立ち、予備的なフラッド露光を行ってもよい。あるいは、パターン露光のみによって、増感体前駆体Ppからの増感体Psの生成が完了しなくてもよく、パターン露光の後に、増感体前駆体Ppからの増感体Psを生成するためのフラッド露光を行ってもよい。
なお、上述した説明では、ポジ型のレジスト層を説明したが、本発明はこれに限定されない。レジスト層はネガ型であってもよい。
本実施形態により、感度、解像度および線幅ラフネス(LWR)というレジストのトレードオフを解消して高解像度化および高感度化を同時に達成するとともに、フォトンショットノイズによるラフネスへの影響を抑制できた。
なお、上述した説明では、パターン露光ステップにおいて、増感体前駆体Ppから増感体Psが直接的に生成する形態として、パターン露光L1によって増感体前駆体Ppを直接イオン化または励起して増感体前駆体Ppを分解または異性化させて増感体Psを生成する形態、および、パターン露光L1によってレジスト層10内で生成した電子が増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する形態を説明したが、本発明はこれらに限定されない。また、上述した説明では、パターン露光ステップで、増感体前駆体Ppから増感体Psを間接的に生成する形態として、パターン露光L1によって、酸発生剤PAGから酸Acおよび/またはラジカルを生成し、酸Acおよび/またはラジカルが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する形態を説明したが、本発明はこれに限定されない。
フラッド露光ステップにおいても、フラッド露光L2によって励起した増感体Psが酸発生剤PAGと反応して酸Acおよび/またはラジカルを生成し、酸Acおよび/またはラジカルが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成してもよい。例えば、フラッド露光L2として、第1フラッド露光L2aおよび第2フラッド露光L2bを行う場合、第1フラッド露光L2aによって励起した増感体Psが酸発生剤PAGと反応して酸Acおよび/またはラジカルを生成し、酸Acおよび/またはラジカルが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成してもよい。
本実施形態において、感度、解像度および線幅ラフネス(LWR)のトレードオフを解消してレジスト層の感度を向上させるとともにフォトンショットノイズによるラフネスを抑制可能なレジストパターンを形成するためには、パターン露光L1によって、増感体Psを狭い空間に効率よく生成し、フラッド露光L2によって、増感体Psを用いて酸Acを狭い空間に効率よく分布のラフネスを低減させながら生成することが好ましい。そのためには、以下の(1)~(5)のうちの少なくともいずれかに留意することが好ましい。
(1)パターン露光L1のビーム強度分布とほぼ同一の濃度分布を有する増感体Psを生成するためには、パターン露光L1により、増感体前駆体Ppを直接イオン化するか、励起させて増感体前駆体Ppを分解および/または異性化させて増感体Psを生成することが好ましい。このように、増感体前駆体Ppの直接イオン化または励起によって増感体Psを生成することが好ましい。
(2)パターン露光L1によってレジスト層10内に生成した熱化電子が増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを直接的に生成する場合、パターン露光L1の照射によって生成されたイオン化生成物の濃度分布はパターン露光L1のビーム強度分布とほぼ同一である。しかしながら、イオン化生物から発生した電子の熱化距離は数nmであり、また、熱化電子と増感体前駆体Ppとの反応頻度は増感体前駆体Ppの濃度に依存するが、この反応距離は通常数nmである。したがって、イオン化生成物を介して生成された増感体Psの濃度分布はパターン露光L1のビームの強度分布よりも若干広がることになる。
(3)パターン露光L1によって、酸発生剤PAGから酸Acおよび/またはラジカルが生成し、酸Acおよび/またはラジカルが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する。この場合、酸Acおよび/またはラジカルは、パターン露光L1の照射によって生成されたイオン生成物から数nm離れた地点で生成する。酸Acおよび/またはラジカルと増感体前駆体Ppとの反応は増感体前駆体Ppの濃度に依存するが、反応距離は数nmであるので、増感体Psの濃度分布はパターン露光L1のビーム強度の分布よりもやや広がることになる。
(4)フラッド露光ステップにおいて、フラッド露光L2によって励起された増感体Psが酸発生剤PAGと反応して酸Acおよび/またはラジカルを生成し、酸Acおよび/またはラジカルが増感体前駆体Ppと反応して増感体Psを生成する。励起した増感体Psと酸発生剤PAGが反応して酸Acおよび/またはラジカルを生成する反応は、励起した増感体Psから酸発生剤PAGへの電子移動またはエネルギー移動であり、3次元空間での距離依存性の強いほぼ等方的な反応で開始するため、酸Acおよび/またはラジカルは励起した増感体Psを中心に球状に生成する。一方、生成した酸Acおよび/またはラジカルと増感体前駆体Ppとの反応によって増感体Psを生成する反応は、酸Acおよび/またはラジカルの熱拡散・衝突によって起こるので、酸やラジカルのランダムな拡散軌道に沿って生成する。
(5)3次元等方性の高い励起した増感体Psから酸発生剤PAGへの電子移動またはエネルギー移動反応による酸生成反応が効率よく起こるように励起した増感体Psと酸発生剤PAGを選択し、酸発生剤PAGの濃度を高くすることが好ましい。また、酸Acおよび/またはラジカルのランダムな拡散軌道に沿った反応よりも、3次元等方性の高い電子移動、エネルギー移動反応による酸生成反応の比率を大きくすることがラフネスやフォトンショットノイズに起因するラフネスを低減する上で有効である。
なお、上述した説明では、ポジ型の化学増幅型レジストを説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ネガ型の化学増幅レジストは、従来のポジ型化学増幅型レジストに対してネガティブトーン現像(NTD)を伴う変質プロセスを行うことによって形成してもよい。
また、上述した説明では、化学増幅型レジストを説明したが、本発明はこれに限定されない。非化学増幅型レジストであってもよい。なお、ある実施形態において、レジスト層10は、非化学増幅型レジストであり、レジスト層10は、ベース樹脂Rが金属酸化物のナノ粒子レジストであってもよい。金属酸化物の金属は、例えば、HfまたはZrである。この場合でも、パターン露光L1において、増感体前駆体Ppから増感体Psが生成され、フラッド露光L2において励起した増感体Psから金属酸化物のナノ粒子の反応が開始し、レジストを感度化する。ただし、言うまでもないが、本発明はこの形態に何ら限定されるものではない。なお、酸発生剤PAGを含む金属酸化物のナノ粒子レジストでは、光反応阻害剤発生剤と共に、または、単独で塩基発生剤PBGが使用されるため好ましい。
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明した。但し、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施形態として実施することが可能である。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明の形成が可能である。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の個数等は、図面作成の都合から実際とは異なる場合もある。また、上記の実施形態で示す各構成要素は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の効果を実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。