以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、各図面は、模式的に描いており、必ずしも実物を反映しない。また、各図面は、一例を示すのみであり、各図面は、特に言及されない限りにおいて本発明を限定しない。
図1は、本実施形態に係る組電池1の構造を模式的に示す正面図である。図1中のXは単電池2の配列方向を示し、X1は配列方向Xの第1方向を、X2は配列方向Xの第2方向を示す。図1に示すように、組電池1は、複数の単電池2を有する。複数の単電池2は、配列方向Xに沿って配列されており、そのうち二つの単電池2の間には樹脂シート4が一枚ずつ配置されている。また、配列された単電池2と樹脂シート4との第二方向X2の端部には、荷重センサ6が配置されている。これら単電池2、樹脂シート4および荷重センサ6は、拘束機構8によって拘束されている。本実施形態における組電池1では、樹脂シート4と荷重センサ6との組み合わせが、過充電による発熱検知機構として機能する。以下、各構成要素について説明する。
拘束機構8は、一対のエンドプレート8a、8aと、複数の拘束バンド8b、8bと、を備えている。エンドプレート8a、8aは、配列方向Xにおいて、後述する単電池2、樹脂シート4および荷重センサ6を挟むように、これらの第一方向X1の端部と第二方向X2の端部とに配置されている。複数の拘束バンド8bは、一対のエンドプレート8a、8aに渡し架けるように配列方向Xに沿って延設されている。本実施形態において、拘束バンド8bの数は4つであるが、これに限定されない。本実施形態の拘束バンド8bは、電池ケースの寸法に比べて幅狭であるが、拘束バンド8bがエンドプレート8aの周縁に均等に備えられることで、エンドプレート8a、8a間には拘束圧が均質に印加される。
拘束バンド8bは、平面視が略コの字型の治具であり、図示しない固定具(例えば、ボルトナット式の締結具)によってエンドプレート8a、8aを係止する。拘束バンド8bは、単電池2、樹脂シート4および荷重センサ6の配列が、所定の拘束荷重で配列方向Xに圧縮された状態を維持するように、エンドプレート8a、8a間の距離を規制する。また、拘束バンド8bは、拘束荷重に対する反力によってエンドプレート8a、8aが引張方向に回復しないように、エンドプレート8a、8a間の距離を固定する。拘束機構8によって組電池1に加えられる拘束加重は、一例として、単電池2に対して配列方向Xに沿って約20~2000kgf程度、典型的には約20~1000kgfであってよい。拘束機構8によって組電池1に内在される圧縮応力としては、面圧(長側面に加わる平均の面圧)として、約0.2~25kgf/cm2、例えば0.2~15kgf/cm2程度であってよい。
単電池2は、繰り返し充放電可能な二次電池であり、例えばリチウムイオン電池である。単電池2は、具体的には図示しないが、電池ケース内に、発電要素である積層型電極体と、非水電解液とが収容されて密閉されている。図1,2における単電池2内に示された点線は、電極体の存在をイメージしている。積層型電極体は、正極集電体の両面に多孔質な正極活物質層を備えた複数の正極板と、負極集電体の両面に多孔質な負極活物質層を備えた複数の負極板とが、それぞれセパレータを介して対向するように交互に重ねられている。1枚の正極板の一方の面の正極活物質層と、1枚の負極板の一方の面の負極活物質層とが、1枚のセパレータを介して重ね合わされることで1つの発電要素が構成される。そして、これらの要素が、順に複数積層されることで、積層型電極体が構成されている。
非水電解液は、例えば電荷担体となるリチウム塩と非水溶媒とを含む。非水電解液は、積層型電極体のうちの正極活物質層、負極活物質層およびセパレータに含浸されている。また、非水電解液は、積層型電極体に含浸されたもの以外に、積層型電極体と電池ケースとの間の空間にも存在している。本実施形態における電池ケースは、SUS製の扁平角型の電池ケースである。複数の単電池2は、積層型電極体の積層方向が配列方向Xに一致するように配列されている。組電池1を構成する単電池2の数は制限されず、例えば2~20個であってよく、3~10個等であってよい。なお、単電池2は、積層型電極体に代えて、長尺の正極、負極およびセパレータが捲回されてなる捲回型電極体を備えていてもよい。あるいは、単電池2は、非水電解液およびセパレータの代わりに固体電解質層やゲル電解質を含む全固体電池であってもよいし、燃料電池やニッケル水素電池その他の二次電池であってもよい。
セパレータは、正極と負極との間を電気的に絶縁するとともに、正極と負極との間の電荷担体の移動を可能とする部材である。セパレータとしては、電気絶縁性を有し、電池内環境において化学的に安定な材料からなり、微細孔を備えるシート材料を好ましく用いることができる。このようなシート材料としては、例えば、微多孔性樹脂シート、織布、不織布等の形態のものが挙げられる。またセパレータの素材としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド、ポリイミド等のポリアミドイミド系樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。セパレータの平均厚みは特に限定されない。セパレータ全体の平均厚みは、例えば、凡そ5μm以上、典型的には10μm以上、例えば15μm以上であってよく、凡そ40μm以下、典型的には30μm以下、例えば25μm以下とすることができる。
このセパレータは、所定の温度(典型的にはセパレータの融点TS)に加熱されることで軟化または溶融し、正・負極間を絶縁しながら電荷担体の移動経路である細孔を閉塞するシャットダウン機能を備えたものであってよい。この場合、セパレータは、例えば、融点の調整が比較的容易なPP/PE/PPからなる三層シート構造を備えていてもよい。この三層シート構造のセパレータは、例えば真ん中のPEシート(シャットダウン樹脂シート)が両端のPPシートよりも低いシャットダウン温度(すなわちTS)で溶融することで両端のPPシートの細孔を閉塞するように構成されていてもよい。このことにより、例えば正極または負極が所定の温度以上に自己発熱した場合にセパレータはシャットダウンし、正極および負極の短絡を防止しつつ、電荷担体の移動を阻止して正負極間の充放電反応の停止に寄与することができる。延いては、さらなる電極の自己発熱による過昇温を抑制することができる。シャットダウン樹脂シートの融点TSは、例えば、単電池2が過昇温に至らないような安全温度域に設定するとよい。本例では、後述の樹脂シートが存在することから、シャットダウン樹脂シートの融点TSは、例えば、凡そ140~180℃とすることが例示される。
樹脂シート4は、単電池2の長側面に当接するように、配列方向Xにおいて、単電池2と単電池2との間にそれぞれ配置されている。樹脂シート4は、通常の電池使用時には、単電池2の間のスペーサとして機能し、単電池2が過充電により発熱したときに溶融するように構成されている。樹脂シート4は、典型的には、所定の温度(典型的には樹脂シート4の融点TF)に加熱されることで軟化または溶融する。樹脂シート4は、本実施形態における発熱検知機構の一部を構成する。樹脂シート4は、軟化または溶融することにより単電池2の発熱を検知するセンサ源であるといえる。樹脂シート4の素材としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド、ポリイミド等のポリアミドイミド系樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。このような材料は、例えば、上述の公知のセパレータと共通の素材であり得る。ただし、樹脂シート4は、電池ケースの外部に配置される。したがって、樹脂シート4は、例えば常温(25℃)で後述する拘束圧によって圧縮されているときに所定の厚みを備える材料であることが好ましい。例えば、樹脂シート4は、電荷担体の移動を許容する細孔を備えていない形態であり得る。この点において、樹脂シート4は、上記セパレータとは異なる構成の部材とすることができる。樹脂シート4の平均厚みは、樹脂シート4の消失によって後述の荷重センサ6が荷重ヌケを検知できる程度であればよく、厳密には限定されない。樹脂シート4の平均厚みは、例えば、約5μm以上、典型的には10μm以上、例えば15μm以上であってよく、約40μm以下、典型的には30μm以下、例えば25μm以下とすることができる。
樹脂シート4の融点TFは、例えば、単電池2の電極体が過充電によって自己発熱し始めたと判断できる温度域に含まれるように設定される。樹脂シート4の融点TFは、例えば、樹脂シート4の素材や重合度等を調整することで制御することができる。例えば、樹脂シート4の融点TFは、組電池1が通常使用される環境温度に応じて、かかる環境温度範囲よりも高い温度に設定するとよい。例えば、組電池1を、ハイブリッド車や電気自動車等の車両の駆動用電源として使用する場合、車両のモータ付近の環境温度は一例として約90℃程度にまで高まり得る。したがって、樹脂シート4の融点TFは、一例として、かかる組電池使用環境における最大環境温度TM(例えば90℃)よりも高いとよい。樹脂シート4の融点TFは、これに限定されるものではないが、微小短絡の拡大を抑制し、組電池1の安全性をより一層高めるために、上記単電池2内のセパレータの融点(シャットダウン温度)TSよりも低い温度に設定するとよい。樹脂シート4の融点TFは、例えば、TM<TF<TSを満たすとよい。一例として、樹脂シート4の融点TFは、凡そ90℃を超えて、140℃未満(例えば95℃以上135℃以下)とするとよい。
荷重センサ6は、拘束荷重の変化を検知可能に構成されている。荷重センサ6は、例えば圧力センサである。より好ましくは、荷重センサ6は、厚みが約0.05~0.5mm(例えば0.1mm)程度のフィルム状の圧力分布測定用センサである。荷重センサ6は、複数の単電池2および樹脂シート4とともに、配列方向Xに沿って配列されている。複数の単電池2および樹脂シート4と荷重センサ6とは、互いに配列方向Xに沿って積層されてスタックを形成している。荷重センサ6は、一対のエンドプレート8a、8aの間のいずれかの位置に配置されている。一対のエンドプレート8a、8aの間であれば、荷重センサ6の位置は制限されない。換言すると、組電池1が内包する拘束加重の大きさあるいはその変化を感知できる限り、荷重センサ6の位置は制限されない。本実施形態において、荷重センサ6は、第二方向X2の端部に配置されるエンドプレート8aと単電池2との間に配置されている。
以上の構成によると、組電池1は、通常の使用時には従来の組電池と同様に、複数の単電池による充電と放電とを繰り返し行うことができる。なお、例えば、組電池1を構成する単電池2のいずれかが、製品ばらつき等により一つだけ過充電状態に陥ったと仮定する。単電池2が過充電に陥ると、電極の表面の微小な突起等のムラがある箇所に電圧が集中し、正負極間に微小な短絡が生じて発熱を生じやすい。過充電による単電池2の自己発熱は、このような微小な短絡が起点となり、周囲のセパレータを溶融することで拡大してゆく。したがって、例えば図2に示すように、単電池2の電池ケースの上面に温度センサ9が設けられていたとしても、微小短絡に基く発熱が温度センサ9によって検知されるまでにはある程度長い時間を要する。つまり、微小短絡による発熱から、過充電の検知までに、大きなタイムラグ(発熱検知の遅延)が生じうる。このような発熱検知の遅延は、全ての単電池2に温度センサ9が設けられている組電池1においても見られるが、組電池1を構成するいずれか(典型的にはいずれか一つ)の単電池2のみに温度センサ9が備えられている場合により顕著となる。また、過充電状態にある電池は、電池ケースに膨れが生じている場合もある。膨れが生じた電池では、温度センサ9による発熱の検知がさらに遅延しうる。
これに対し、ここに開示される組電池1は、全ての単電池2の長側面に樹脂シート4が当接するように構成されている。また、組電池1には拘束荷重が加えられているため、単電池2と樹脂シート4とは密着している。したがって、組電池1のいずれか一つの単電池2が過充電となって微小短絡が発生したとき、この微小短絡に起因して生じた発熱は電池ケースのすぐ外側に位置する樹脂シート4に伝熱する。これにより、樹脂シート4は軟化または溶融し、塑性変形可能となる。また、組電池1にはエンドプレート8a、8a間に配列方向Xに沿って圧縮する方向に拘束荷重が印加されているため、軟化または溶融した樹脂シート4は単電池2によりスタックから周縁に押し出される。その結果、エンドプレート8a間の距離は、溶融した樹脂シート4の厚みに相当する寸法だけ減縮される。また、エンドプレート8a間の距離が縮まることにより、組電池1に内包された拘束荷重の一部は急激に開放される。荷重センサ6は、このようなエンドプレート8a、8a間の荷重の急激な変化を検知することができる。これにより、組電池1は、いずれかの単電池2が過充電により発熱したことを、早いタイミングで検知することができる。
なお、上記実施形態では、単電池2の間(すなわち電池ケースの外部)に設置された樹脂シート4の軟化・溶融に伴う拘束荷重のヌケを、荷重センサ6が検知していた。しかしながら、ここに開示される組電池1の構成はこれに限定されない。例えば、荷重センサ6は、単電池2の内部(すなわち電池ケースの内部)に設置されたセパレータのシャットダウン樹脂シートの軟化・溶融に伴う拘束荷重のヌケを、検知するように構成されていてもよい。上述のように、複数の単電池2は、電極体における正極、セパレータおよび負極の積層方向が配列方向Xに一致するように配列される。また、組電池1の拘束荷重は、単電池の電池特性が向上するよう、配列方向X(換言すると、積層方向)に沿って電極体を圧縮する方向に付与されている。したがって、セパレータのシャットダウン樹脂シートの軟化・溶融に伴う単電池2の配列方向Xの寸法(厚み)の減少を荷重センサ6が検知することでも、単電池2の発熱を早いタイミングで同様に検出することができる。
このようにセパレータがシャットダウン機能を備えている場合、上述の樹脂シート4に代えて、セパレータのシャットダウン樹脂シートを、荷重センサによる発熱検知に利用することができる。換言すると、セパレータのシャットダウン樹脂シートは、荷重センサ6との組み合わせによって、発熱検知機構を構成することができる。樹脂シート4とシャットダウン樹脂シートとは、いずれか一方を備えていてもよいし、両方を備えていてもよい。
セパレータが樹脂シート4を備えずにシャットダウン樹脂シートを備える場合、このシャットダウン樹脂シートの融点は、上述の樹脂シート4についての融点と同様に、単電池2の電極体が過充電によって自己発熱し始めたと判断できる温度域に含まれるように設定するとよい。すなわち、シャットダウン樹脂シートの融点は、例えば95℃以上135℃以下の温度域に設定することができる。また、この場合のセパレータのシャットダウン樹脂シートの平均厚みは、厳密には制限されない。セパレータは電池ケース内に収容されていることや、微多孔質構造であり拘束荷重によって圧縮されていること等から、例えば、後述の荷重センサが検知可能な拘束加重のヌケを発生させ得る構成および厚みとするとよい。一例として、セパレータのシャットダウン樹脂シート(上記温度域で軟化・溶融する部分)の平均厚みは、凡そ5μm以上、典型的には6μm以上、例えば7μm以上であってよく、凡そ15μm以下、典型的には12μm以下、例えば10μm以下とすることができる。セパレータが例えば3層構造の場合、シャットダウン樹脂シートを挟む他の2枚の微多孔質シートは、より高い融点を有し、2枚の合計厚みがシャットダウン樹脂シートと同じかそれ以下となるように設定するとよい。一例として、他の微多孔質シートの厚みは、それぞれが独立して、凡そ2μm以上、典型的には3μm以上、例えば3.5μm以上であってよく、凡そ7μm以下、典型的には6μm以下、例えば5μm以下程度とすることができる。このようにシャットダウン樹脂シートの厚みを十分に厚くすることで、拘束荷重ヌケを検知しやすくなるために好ましい。
好適な一例において、荷重センサ6は、組電池1において拘束部材8によって電池スタックに付加される拘束荷重が、増加することで過充電を検知することができる。すなわち、過充電状態にある単電池2では、電池ケース内にて非水電解液の分解等に伴うガスが発生し、電池ケースに膨れが生じ得る。このことにより、電池スタックに付加される拘束荷重は増加し得る。荷重センサ6は、このような拘束荷重の増加から、過充電の開始を検知することができる。また、他の好適な一例において、荷重センサ6は、組電池1において拘束部材8によって電池スタックに付加される拘束荷重が、減少に転じることで単電池2の発熱を検知することができる。この現象は、拘束荷重が増加から減少に転じる場合を含んでよい。すなわち、組電池1において過充電が進行しているとき、他の圧力検知型安全機構が作動しなかったり、電池ケース内の圧力の増加よりも発熱が急激に進行したりする場合があり得る。このような場合は、上記のとおり、樹脂シート4(またはセパレータシャットダウン樹脂シート)が溶融されて、組電池1に内包された拘束荷重が抜けるため、荷重センサ6は、このような拘束荷重の減少から、発熱の開始を検知することができる。
なお、組電池1が過充電を検知したとき、例えば、図示しない組電池の充放電制御装置は、当該組電池への充電を停止することができる。充放電制御装置の構成は特に制限されず、例えば、回路やプロセッサ等のハードウェアにより構成されていてもよいし、CPU(中央演算処理装置)がコンピュータプログラムを実行することにより機能的に実現されるように構成されていてもよい。このことにより、組電池1は、過充電に伴う発熱の発生から早いタイミングで、安全に、当該組電池1への充放電を停止することができる。
以下、具体的な実施例として、ここに開示される組電池を作製した。なお、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
(実施例)
負極活物質粉末としてのカーボン粉末(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比でイオン交換水と混練し、負極ペーストを調製した。このペーストを負極集電体としての銅箔の両面に塗布し、乾燥してプレス処理することにより負極活物質層を形成し、負極とした。
正極活物質粉末としてのLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(LNMC)と、導電材としてのABと、バインダとしてのPVDFとを、LNMC:AB:PVDF=90:8:2の質量比でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、正極ペーストを調製した。このペーストを、正極集電体としてのアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥してプレス処理することにより正極活物質層を形成し、正極とした。
用意した負極と正極とを所定の寸法に複数枚ずつ切り出し、微多孔質セパレータを介して重ね合わせ、非水電解液とともに扁平角型電池ケースに収容することで、リチウムイオン二次電池を作製した。なお、セパレータとしては、PP/PE/PPからなる三層構造の微多孔質シート(シャットダウン温度:160℃、シャットダウンPEシートの厚み:8μm、両端のPPシートの厚み:各4μm)を用いた。また、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とをEC:EMC:DMC=3:3:4の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6を1mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。また、アルミニウム箔と銅箔は、集電部材を介して、電池ケースに備えられた外部正極端子と外部負極端子とにそれぞれ電気的に接続した。また、本例では、各電池ケースの発熱時の熱が引けにくい表面中央付近に熱電対を設置した。これにより、定格容量が20Ahで、発煙温度が190℃の評価用の単電池を15個用意した。セルの表面(パック中心)
特に熱引けの違いで温度上昇にバラツキあり
次いで、発熱検知機構として、樹脂シートと、荷重センサとを用意した。本例では、用意した組電池を車両駆動用途として想定しており、この車両の組電池設置位置の環境温度の上限は、約90℃である。そこで、樹脂シートとしては、下記の表1に示すように、(1)融点が130℃のPE製シートと、(2)融点が85℃のPVC製シートと、(3)融点が180℃のPP製シートの3通り(厚みは8μm)を用意し、電池ケースの長側面に対応した形状に6枚ずつ切り出した。また、荷重センサとしては、電池ケースの長側面に対応した形状のタクタイルセンサシステム(フィルム式圧力分布測定装置)を用意した。そして、樹脂シート6枚と単電池5個とをそれぞれ互い違いに配列し、配列方向の一端にタクタイルセンサを重ねて電池スタックとし、この電池スタックを拘束機構で拘束することで例1~3の組電池を構築した。なお、各単電池は直列に接続した。
用意した組電池に対し、所定の初期充電処理を施した後、環境温度25℃の下、3C(60A)で定電流充電し、組電池に対して過充電を行った。そして、発熱検知機構がいずれかの単電池の発熱を検知した時点で、充放電制御装置が組電池への充電を停止するように構成した。そして、この発熱検知試験において、経過時間と電池温度および拘束荷重との関係を調べるとともに、発熱検知機構によって組電池の過充電を安全に停止できるかどうかを確認した。この発熱検知試験の結果を下記の表1に示した。また、例1および例3の組電池について得られた発熱検知試験の結果を図3および図4にそれぞれ示した。
図3および表1に示されるように、例1の組電池では、過充電による単電池の発熱を、荷重センサによって検知して安全に過充電を停止することができた。具体的には、過充電に陥った単電池の温度が130℃(図3中のP1)となったときに単電池間に設置した樹脂シートが溶融し、組電池の拘束荷重にヌケが生じた。そしてこの荷重ヌケを組電池の荷重センサが検知するとともに、充放電制御装置が組電池への充電を停止した。その結果、電池温度は130℃を少し上回ったところで降温に転じ、そのまま室温まで冷却されて、組電池への過充電は安全に停止された。
これに対し、融点が85℃と低めの樹脂シートを用いた例2の組電池では、過充電に陥った単電池の温度が85℃となったときに単電池間に設置した樹脂シートが溶融し、荷重センサが組電池の拘束荷重のヌケを検知するとともに、充放電制御装置が組電池への充電を停止した。その結果、図3に示すグラフと似たような形状で、電池温度は85℃を少し上回ったところで降温に転じ、そのまま室温まで冷却されて、組電池への過充電は安全に停止された。しかしながら、本例では、組電池設置位置の環境温度の上限が約90℃であるため、発熱検知機構として融点が85℃の樹脂シートを用いると、通常の車両運転温度において組電池の環境温度が約90℃にまで昇温した際に樹脂シートが溶融してしまう。これにより、荷重センサは、通常使用環境における単電池の温度上昇を過充電による発熱として誤検知してしまう可能性がある。このことから、樹脂シートの融点は、当該組電池の通常使用における環境温度の上限よりも高い温度に設定する必要があることが確認できた。
一方で、融点が180℃と高い樹脂シートを用いた例3の組電池では、過充電に陥った単電池の温度が160℃(図4中のP1)となったときに、当該発熱部近くのセパレータのPE層が溶融してセパレータがシャットダウンした。そして、荷重センサは、このセパレータのシャットダウンによるセパレータの厚みの減少、換言すると電池の厚みの減少による拘束荷重のヌケを検知し、このことにより充放電制御装置が組電池への充電を停止した。しかしながら、このセパレータのシャットダウンである160℃との温度は、過充電状態にある電池温度としては高すぎであり、過充電により発熱した単電池はそのまま発熱し続け、一旦低下した拘束荷重も再び上昇することが確認された。そして単電池の温度が180℃(図4中のP2)に達したとき、単電池間に設置した樹脂シートが溶融し、この樹脂シートの溶融による拘束荷重の急激な減少が確認されたものの、電池温度と拘束荷重は上昇し続け、電池の発煙温度を超える過昇温状態(図4中のP3)となってしまうことが確認された。
このことから、タクタイルセンサ等の荷重センサは、単電池の間に設けた樹脂シートの溶融や、セパレータのシャットダウン樹脂シートの溶融に伴う拘束荷重のヌケを検知でき、複数の単電池についての発熱の有無を一つの荷重センサによって検知できることが確認できた。そしてこれらの樹脂シートやシャットダウン樹脂シートの融点を、単電池が過充電により発熱を開始したと判断できる温度領域に設定しておくこと、換言すると、過充電により発熱した単電池を安全に停止できる温度範囲に設定しておくことで、組電池を過昇温に至らせることなく、安全に充電を停止できることが確認できた。単電池が過充電により発熱を開始したと判断する温度領域は、例えば、90℃を超えて160℃未満(例えば95℃以上140℃以下)であるとよいといえる。
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、具体的には図示していないが、図1における樹脂シート4は、配列された複数の単電池2および樹脂シート4の第一方向X1の端部と、第二方向X2の端部とにそれぞれ配置されていてもよい。換言すると、樹脂シート4は、エンドプレート8a、8aに隣接するように、あるいは、エンドプレート8a、8aと単電池2との間に配置されてもよい。これにより、スタックの両端部に配置される単電池が過充電に陥った場合の検出制度を高めることができる。また、複数の単電池2は、電気的に接続された状態で配列方向Xに配列されている。単電池2は、直列または並列に電気的に接続されていてもよい。複数の単電池2の間には、単電池2と、後述の樹脂シート4以外の部材(例えば、冷却板等)が介在していてもよい。