JP7115917B2 - 筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具 - Google Patents
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特に、ノック式ボールペンや回転繰り出し式ボールペン等の出没式ボールペンを用いた場合では、書き出し性能に影響が出やすいので重要となる。
そのため、潤滑性と書き出し性能の両性能を満足することが必要とされている。
「1.着色剤、有機溶剤、5員環酸無水物を含んでなることを特徴とする筆記具用油性インキ組成物。
2.前記5員環酸無水物が、アルケニル基またはアルキル基を有することを特徴とする第1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
3.前記アルケニル基またはアルキル基の炭素数が4~30であることを特徴とする第2項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
4.前記筆記具用油性インキ組成物に、脂肪酸を含んでなることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
5.前記5員環酸無水物が、コハク酸無水物またはフタル酸無水物であることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
6.20℃、剪断速度5sec-1におけるインキ粘度が、50000mPa・s以下であることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
7.第1項~第6項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。
8.インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする油性ボールペン。」とする。
本発明で用いる5員環酸無水物は、構造内にジカルボン酸の分子内脱水縮合により5員環状となった酸無水物(化1)のような構造骨格を少なくとも有しており、 5員環の側鎖に、アルケニル基、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケン基などを有する構造である。5員環酸無水物の「O原子」が、筆記先端部が金属類であるボールとチップ本体に吸着し、側鎖によりボールとボール座間でクッション効果が得られるため、ボール座の摩耗の抑制と、書き味、筆記性を向上することができる。さらに、5員環酸無水物は、構造内に(化1)のような構造骨格を少なくとも有しており、インキ中の有機溶剤が吸湿するなどによって、インキ中に水酸基が存在することで、5員環が開環しやすくなり、カルボキシル基を形成し、該カルボキシル基が金属類であるボールとチップ本体に吸着することで、潤滑層を形成し、ボールとチップ本体との間の潤滑性を保ち、ボール座の摩耗の抑制と、書き味を向上することが可能である。さらに筆記先端部の滑り性(ボールペンの場合は、ボールの回転性)を向上させることで、筆記性を向上し、チップ先端部を大気中に放置した場合(短時間)において、チップ先端部にて形成された乾燥被膜を破壊することで、書き出し性能(短時間書き出し性能)を向上することが可能である。
前記アルケニル基またはアルキル基の炭素数は、4~30であることがより好ましく、6~20であることが好ましく、さらに10~16であることが好ましい。これは、上記範囲であることで、筆記先端部が金属類であるボールとチップ本体に吸着しやすく、長時間の本発明の効果が得られやすいためである。また、前記アルケニル基またはアルキル基の炭素数が、過度に多すぎると、立体障害が発生し易く、潤滑性、書き出し性能に影響しやすく、前記アルケニル基の炭素数が、少なすぎると、ボールとチップ本体の吸着性が劣りやすいため、本発明の効果が得られづらいためである。さらに、アルケニル基は二重結合を有するため、アルキル基よりもボールによる強い剪断力によっても、構造が安定しているため、本発明の効果が得られやすく、アルケニル基を有することが好ましい。
脂肪酸は、該脂肪酸が有するアルキル基が、筆記先端部が金属類であるボールとチップ本体に吸着することで、吸着層を形成して、筆記先端部と被筆記面との間(ボールペンの場合は、ボールとチップ本体との間の潤滑性も含む)の潤滑性を保ち、筆記先端部の筆記抵抗を抑制して、ボール座の摩耗を抑制し、書き味を向上することを可能とする。特に、5員環酸無水物によって形成される潤滑層と、脂肪酸によって形成される吸着層による相互作用によって、より滑らかな潤滑効果が得られ、ボール座の摩耗を抑制し、書き味、筆記性を一層向上することが可能となり、好ましい。さらに、脂肪酸は、短時間書き出し性能を向上しつつ、長時間チップ先端部を大気中に放置した場合でも、ボールペンチップ先端で形成されるインキ被膜を柔らかくする効果があり、書き出し性能(長時間書き出し性能)を向上することができる。そのため、5員環酸無水物と、脂肪酸を併用することで、チップ先端部を大気中に、短時間または長時間放置した場合でも、短時間書き出し性能と、長時間書き出し性能との両方を向上しやすくなり、放置時間に関わらず、書き出し性能を向上することが可能となり、好ましい。
本発明に用いる有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤など、筆記具用インキとして一般的に用いられる有機溶剤が例示できる。
その中でも、グリコールエーテル溶剤を用いると、吸湿しやすいため、チップ先端部が乾燥したときに形成する被膜の強度を軟化させ、書き出し性能を向上しやすいため、本発明のように5員環酸無水物を用いる場合は、より効果的であり、インキ中での安定性を考慮すれば、芳香族グリコールエーテル溶剤を用いることが好ましい。さらに、グリコールエーテル溶剤以外の有機溶剤については、アルコール溶剤を用いることが好ましいが、これは、アルコ-ル溶剤は揮発して、チップ先端での乾燥をしやすく、筆記先端部内(チップ先端部内)をより早く増粘させることで、筆記先端部の間隙からインキ漏れを抑制するため、好ましい。さらに、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコ-ルは、潤滑性を向上する効果もあるため、少なくとも用いる方が好ましい。そのため、グリコールエーテル溶剤とアルコ-ル溶剤を併用することが好ましい。
本発明に用いる着色剤は、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができ、染料、顔料は併用して用いても良い。染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等として、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などの種類が挙げられる。これらの染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。染料について、具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1704、バリファーストバイオレット1705、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1613、バリファーストブルー1621、バリファーストブルー1631、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB-B、BASE OF BASIC DYES RO6G-B、BASE OF BASIC DYES VPB-B、BASE OF BASIC DYES VB-B、BASE OF BASIC DYES MVB-3(以上、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンブラック GMH-スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット C-RH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C-RH、アイゼンスピロンレッド C-GH、アイゼンスピロンレッド C-BH、アイゼンスピロンイエロー C-GNH、アイゼンスピロンイエロー C-2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH-スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー530、S.R.C-BH(以上、保土谷化学工業(株)製)等が挙げられる。
さらに、造塩染料を構成する有機酸については、フェニルスルホン基を有する有機酸であれば、金属に吸着し易い潤滑膜を形成しやすく、潤滑性を向上し、書き味やボール座の摩耗抑制を良好とするため好ましく、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸-ホルムアルデヒド縮合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸が挙げられる。また、インキ中で長期安定することを考慮すれば、有機酸として、アルキルベンゼンスルホン酸を用いることが好ましい。
また、インキ漏れ抑制をより向上するためには、樹脂をインキ粘度調整剤として、用いることが好ましい、樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などが挙げられるが、その中でも、ポリビニルブチラール樹脂またはケトン樹脂を含んでなることが好ましい。
ここで、ポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコール(PVA)をブチルアルデヒド(BA)と反応させたものであり、ブチラール基、アセチル基、水酸基を有した構造である。
なお、前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量(mol%)とは、ブチラール基(mol%)、アセチル基(mol%)、水酸基(mol%)の 全mol量に対して、水酸基(mol%)の含有率を示すものである。
本発明においては、上記潤滑性と、書き出し性能を向上することを考慮すれば、脂肪酸エステルを用いることが好ましい。脂肪酸エステルについては、脂肪酸と、1価アルコールや多価アルコールなどのアルコールとをエステル化反応させたものであるが、前記脂肪酸エステルの中でも、より書き出し性能を向上することを考慮すれば、分岐鎖アルキル基を有する脂肪酸エステルを用いることが好ましい。これは、分岐鎖アルキル基を有する脂肪酸エステルは、直鎖構造よりも、嵩高い構造をしているため、分岐鎖アルキル基の嵩高さによって、金属類のボールやチップ本体のボール座に吸着しやすく、さらに厚い潤滑層を形成して、より潤滑性が向上しやすいためで、同時に分岐鎖アルキル基の嵩高さによって、チップ先端部のインキ乾燥時に形成される被膜強度が軟化し、書き出し性能を向上するためである。
なお、酸価については、試料1g中に含まれる酸性成分(遊離脂肪酸)を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
本発明による筆記具用油性インキ組成物は、各種の筆記具に適用することができるが、ボールペン、特にノック式や回転繰り出し式などの出没式ボールペンに用いることが好ましい。このようなボールペンは、本発明による油性インキ組成物を収容した収容筒と、その収容筒の先端に配置された、ボール抱持室にボールを回転自在に抱持したボールペンチップとを具備したものである。そして、そのボールペンチップを軸筒の先端開口部から出没可能とされており、一般的に出没式ボールペンと呼ばれる構造を有する。一般にインキ組成物をペン先が密閉されない出没式ボールペンに用いた場合は、チップ先端部が定常的に大気中に放置されるため、チップ先端部が乾燥して、書き出し時にカスレなどが生じやすいが、本発明による組成物を用いると、そのような問題が改善されるため好ましい。
また、本発明で用いるボールペンチップのボール表面の算術平均粗さ(Ra)については、0.1~12nmとすることが好ましい。これは、算術平均粗さ(Ra)が0.1nm未満だと、ボール表面に十分にインキが載りづらく、筆記時に濃い筆跡が得られづらく、筆跡に線とび、カスレが発生しやすく、算術平均粗さ(Ra)が12nmを越えると、ボール表面が粗すぎて、ボールとボール座の回転抵抗が大きいため、書き味が劣りやすく、さらに、筆跡にカスレ、線とび、線ムラなどの筆記性能に影響が出やすくなるためである。また、前記算術平均粗さ(Ra)が0.1~10nmであると、本発明のようなインキ組成物を用いた場合、ボール表面にインキが載りやすいためより好ましく、より書き味を考慮すれば、2~8nmが好ましい。なお、表面粗さの測定は(セイコーエプソン社製の機種名SPI3800N)で求めることができる。
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1の筆記具用油性インキ組成物は、予め有機溶剤、顔料、顔料分散剤を添加し、3本ロール分散機で分散させて、顔料分散体を作製した。その後、顔料分散体、染料、有機溶剤、5員環酸無水物、脂肪酸、ポリビニルブチラール樹脂を採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて筆記具用油性インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。
尚、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP-52スピンドルを使用して20℃の環境下で剪断速度5sec-1(回転数2.5rpm)にて実施例1のインキ粘度を測定したところ、インキ粘度3000mPa・sであった。
着色剤(塩基性染料とアルキルベンゼンスルホン酸との造塩染料) 12.0質量%
着色剤(アミンと酸性染料との造塩染料) 2.0質量%
顔料分散体(顔料分20%) 20.0質量%
アルコール溶剤(ベンジルアルコール) 28.1質量%
グリコールエーテル溶剤(エチレングリコールモノフェニルエーテル)27.1質量%
5員環酸無水物(化2) 1.0質量%
分岐鎖アルキル基を有する脂肪酸(イソステアリン酸) 3.0質量%
ポリビニルピロリドン 0.8質量%
ポリビニルブチラール樹脂 6.0質量%
表に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順でインキ配合し、実施例2~18の筆記具用油性インキ組成物を得た。表に評価結果を示す。
実施例1~18および比較例1~3で作製した筆記具用油性インキ組成物を、インキ収容筒(ポリプロピレン製)の先端に、ボール(φ1.0mm、ボール表面の算術平均粗さ(Ra):7nm))を回転自在に抱時したボールペンチップを装着するとともに、インキ収容筒内に、実施例1の油性ボールペン用インキ(0.2g)を直に収容してボールペンレフィルを(株)パイロットコーポレーション製の油性ボールペン(商品名:スーパーグリップ(登録商標))に配設して、油性ボールペンを作製し筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験および評価を行った。
ボール座の摩耗が5μm未満のもの ・・・◎
ボール座の摩耗が5μm以上、10μm未満であるもの ・・・○
ボール座の摩耗が10μm以上、20μm未満であるが、筆記可能であるもの ・・・△
ボール座の摩耗がひどく、筆記不良になってしまうのもの ・・・×
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
<筆記条件>筆記荷重70gf、筆記角度70°、筆記速度4m/minの条件で、走行試験機にて直線書きを行い評価した。
筆跡カスレの長さが、15mm未満であるもの ・・・◎
筆跡カスレの長さが、15mm以上、30mm未満であるもの ・・・○
筆跡カスレの長さが、30mm以上、50mm未満であるもの ・・・△
筆跡カスレの長さが、50mm以上であるもの ・・・×
<筆記条件>筆記荷重200gf、筆記角度70°、筆記速度4m/minの条件で、走行試験機にて直線書きを行い評価した。
筆跡カスレの長さが、10mm未満であるもの ・・・◎
筆跡カスレの長さが、10mm以上、15mm未満であるもの ・・・○
筆跡カスレの長さが、15mm以上、25mm未満であるもの ・・・△
筆跡カスレの長さが、25mm以上であるもの ・・・×
筆跡に線とびがなく、良好なもの ・・・◎
筆跡に線とびが若干あるが、良好なもの ・・・○
筆跡に線とびが多く、実用上に影響があるもの ・・・×
また、実施例1~7は、分岐鎖のないテトラプロペニルコハク酸(5員環酸無水物)を用いたものであったが、ボール座の摩耗抑制と、書き味、書き出し性能、筆記性をバランス良く向上することが可能であったのは、脂肪酸に対する、5員環酸無水物の配合比(5員環酸無水物/脂肪酸)が、質量基準で0.10倍~0.80倍の範囲が好ましい結果となった。
Claims (6)
- 筆記具用油性インキ組成物に、脂肪酸を含んでなり、前記脂肪酸に対する、5員環酸無水物の配合比(5員環酸無水物/脂肪酸)が、質量基準で0.10倍~0.80倍であることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用油性インキ組成物。
- 前記脂肪酸の炭素数が14~22であることを特徴とする請求項2に記載の筆記具用油性インキ組成物。
- 20℃、剪断速度5sec-1におけるインキ粘度が、50000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
- 請求項1~4のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。
- インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に請求項1ないし5のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする油性ボールペン。
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