1.実施形態
1-1.介助システムの概要
介助システム1は、被介助者M(図6などを参照)の移乗動作を介助する。介助システム1は、被介助者Mの移動を介助する移動式の介助装置10と、介助装置10の方向転換を補助する方向転換補助装置50とを備える。介助システム1は、移動式の介助装置10が方向転換補助装置50に取り付けられた状態において、被介助者Mの身体の一部(例えば、被介助者Mの上半身)を支持して、座位姿勢にある被介助者Mの方向転換を行い、別の位置に再び着座させる移乗動作の補助を行う。
また、方向転換補助装置50から介助装置10が取り外された状態において、移動目標が別の部屋に位置する場合に対応して、被介助者Mを支持した状態で移動目標の付近までの移動の補助を行う。本実施形態において、介助装置10は、被介助者Mの上半身を支持して、被介助者Mを座位姿勢から移乗時姿勢への動作、および移乗時姿勢から座位姿勢への動作の介助を行う。
ここで、上記の「移乗時姿勢」は、臀部Mtが座面から浮いた状態の姿勢であり、立位姿勢および中腰姿勢を含む。つまり、移乗時姿勢は、上半身が起立した状態および前かがみの状態などを含む。上記のように、介助装置10が移乗時姿勢における被介助者Mの上半身を支持することで、一人の介助者が介助システム1を操作して、被介助者Mを移動目標に移乗させることができる。これにより、被介助者Mは、例えば介助装置10の乗降位置と、介助施設における部屋に設置された移動目標との間で移乗される。
1-2.介助装置10の構成
以下に、介助装置10の構成について、図1を主に参照して説明する。介助装置10は、図1に示すように、基台20、支持装置30、および制御ユニット40を備える。基台20は、介助装置10における最下部に位置する部材である。基台20は、フレーム21、足載置台22、一対の前輪23、一対の後輪24、および下腿当て部25などを備える。
フレーム21は、床面Fの近くにほぼ水平な後方部位211と、後方部位211の前端から上前方に延在する前方部位212とを備える(図4を参照)。足載置台22は、フレーム21の後方部位211の上面に固定されて、ほぼ水平に設けられる。足載置台22の上面には、被介助者Mが足を乗せる位置を案内するための接地マーク221が記されている。
左右一対の前輪23および後輪24のそれぞれは、床面Fを転動可能な車輪である。前輪23は、フレーム21の前方部位212の下側に設けられる。後輪24は、フレーム21の後方部位211の下側に設けられる。また、前輪23および後輪24のそれぞれは、移動方向を転換する転舵機能を有する。介助装置10は、二個の前輪23、および二個の後輪24の転舵機能により、前後方向の直進および旋回だけでなく、横移動および超信地旋回が可能となる。
なお、前輪23は、移動方向の転換を規制するロック機構を備える。前輪23は、ロック機構により移動方向の転換を基台20の前後方向に規制されると、基台20を前後方向のみに移動可能に転動する。このとき、前輪23は、接地する床面F等に対して左右方向に対して摩擦係合した状態となる。下腿当て部25は、足載置台22の接地マーク221よりも少し前側の上方に設けられる。下腿当て部25は、左右方向に延在するクッション材で形成される。下腿当て部25は、被介助者Mの下腿が接触する部位である。下腿当て部25は、配置高さを調整可能に構成される。
支持装置30は、基台20のフレーム21に設けられる。支持装置30は、アーム31、駆動装置32、ハンドル33、および支持部材34を備える。アーム31の一端は、フレーム21の所定位置に設定された左右方向に水平な揺動軸線A1周りに揺動可能に支持される。アーム31は、フレーム21とアーム31の中間部とを連結する駆動装置32により駆動される。
本実施形態において、駆動装置32は、アクチュエータ321と、リンク機構322とを有する。アクチュエータ321は、本体部をフレーム21に揺動可能に連結され、例えば電動モータの駆動力によって移動部を本体部に対して伸縮させる。リンク機構322は、アクチュエータ321の動きをアーム31および支持部材34に二段階で伝達する。
駆動装置32は、アクチュエータ321が伸び始める第一段階では、リンク機構322がアーム31に対して揺動して支持部材34を前旋回させる。駆動装置32は、リンク機構322がアーム31に対する揺動を規制されてからアクチュエータ321がさらに伸びる第二段階では、アーム31を揺動軸線A1周りに揺動させて支持部材34を前旋回させる。これにより、支持部材34は、前旋回しながらアーム31の回転量に応じて上昇する。
ハンドル33は、概ね四角形の枠形状に形成されている。ハンドル33は、被介助者Mにより把持される部分として利用され得る。また、ハンドル33は、介助装置10を移動(回転を含む)させるために介助者が把持する部分としても利用される。支持部材34は、被介助者Mの上半身を支持する。支持部材34は、アーム31の上端付近に揺動可能に設けられる。支持部材34は、駆動装置32のリンク機構322を介してアクチュエータ321により揺動するとともに、アーム31の揺動軸線A1周りの揺動によっても揺動する。
支持部材34は、胴体支持部341、および一対の脇支持部342を備える。胴体支持部341は、被介助者Mの胴体の前面形状に近い面状に形成されている。胴体支持部341の支持面は、柔軟な変形が可能な材料により構成されている。胴体支持部341の支持面は、被介助者Mの上半身のうち胴体の前面に面接触して胴体を支持する。より詳細には、胴体支持部341の支持面は、被介助者Mにおける胸部から腹部に亘る範囲を下方から支持する。
一対の脇支持部342は、胴体支持部341の左右に揺動可能に設けられ、被介助者Mの両脇を支持する。脇支持部342は、棒状部材により、L字状に形成されている。脇支持部342の表面は、柔軟な変形が可能な材料により覆われている。脇支持部342の表面は、柔軟な変形が可能な材料により覆われている。
制御ユニット40は、アーム31のうち揺動時の動作量が小さく且つ被介助者Mに干渉しないアーム31の下端付近の前方部に設けられる。制御ユニット40は、ソフトウェアで動作するコンピュータ装置、およびバッテリ電源などを備える。制御ユニット40は、介助者が入力装置(図示せず)の操作を行うことで、入力装置に入力された指示に応じてアクチュエータ321を制御する。入力される指示の種類には、被介助者Mの臀部Mtを上昇させる上昇モード、および被介助者Mの臀部Mtを下降させる下降モードが含まれる。
1-3.方向転換補助装置50の構成
方向転換補助装置50は、被介助者Mの移動を介助する移動式の介助装置10に適用される。方向転換補助装置50は、床面Fに対して垂直な回転軸線A2を中心とする介助装置10の方向転換を補助する。方向転換補助装置50は、載置台60、および回転装置70を備える。載置台60は、介助装置10の少なくとも一部が載置されることにより介助装置10を支持する。回転装置70は、床面Fに対して載置台60を回転軸線A2周りに回転可能に支持する。
本実施形態において、載置台60は、扁平な円形状をなすように形成される。載置台60は、図2に示すように、車輪載置部61、前側輪留め62、後側輪留め63、および把持部64を備える。一対の車輪載置部61は、載置台60に介助装置10の前輪23が転動可能に載置された際に、前輪23と接触する部位である。一対の車輪載置部61は、回転軸線A2を挟んで互いに平行に配置されている。なお、本実施形態において、介助装置10の前輪23は、載置台60に載置された際にロック機構により移動方向の転換を車輪載置部61の延伸方向に規制される。
前側輪留め62は、一対の車輪載置部61の前端にそれぞれ配置される。後側輪留め63は、一対の車輪載置部61の後端に着脱可能にそれぞれ配置される。前側輪留め62および後側輪留め63は、車輪載置部61の延伸方向の対向面が斜め上方を向くように形成される。前側輪留め62および後側輪留め63のそれぞれは、載置台60の上面から上方に突出して、車輪載置部61の端部まで転動した前輪23の移動を規制する。
把持部64は、載置台60の上面において、一対の車輪載置部61よりも径方向外方にそれぞれ固定される。把持部64は、方向転換補助装置50を搬送する際に、または回転装置70に載置台60を組み付ける際に作業者によって把持される部位である。また、把持部64は、載置台60に介助装置10が載置された状態において、載置台60の回転軸線A2周りの回転を介助者等が操作する際に把持され得る。
このような構成からなる載置台60は、本実施形態において、介助装置10の一対の前輪23が載置されることにより介助装置10を支持する。このとき、載置台60は、介助装置10の複数の車輪のうち一対の後輪24が床面Fに接地するように介助装置10を支持する。つまり、介助装置10の後輪24は、床面Fに対して転動可能であり、且つ移動方向の転換が許容された状態を維持される。
回転装置70は、固定部71を床面Fの規定位置に固定される。固定部71は、例えば床面Fに設けられた固定ピン(図示せず)と嵌合することによって、床面Fの規定位置に着脱可能に固定され得る。回転装置70は、載置台60を回転軸線A2周りに自由に回転可能に支持する。ここで、自由に回転可能とは、アクチュエータなどによって回転角度を制御するために駆動力を付与されたり制動されたりしておらず、例えば介助者の操作力のような外力によって回転可能な状態を意味する。
具体的には、固定部71は、中心部にボスが形成されるとともに、複数の転動体を周方向に転動可能に保持する。載置台60の中心部に形成された環状の嵌合部をボスに嵌め合わされた状態で、複数の転動体が載置台60の下面に接触する。これにより、回転装置70は、固定部71のボスにより載置台60の回転のみを許容するとともに、複数の転動体により載置台60および介助装置10の荷重を受けつつ滑らかな回転を可能にしている。
1-4.スライド装置80の構成
介助システム1は、本実施形態において、方向転換補助装置50に対する介助装置10の水平方向の移動を補助するスライド装置80をさらに備える。スライド装置80は、図3に示すように、レール81、およびスライド部材82を備える。レール81は、図2に示すように、方向転換補助装置50の載置台60の上面であって、一対の車輪載置部61の間に延伸方向が平行となるように固定される。レール81の一端は、載置台60の外縁から載置台60の径方向外方に突出している。
スライド部材82は、図4に示すように介助装置10の基台20のフレーム21に、延伸方向が基台20の前後方向となるように固定される。スライド部材82は、方向転換補助装置50に介助装置10が組み付けられる際に、レール81の一端に挿入される。これにより、スライド部材82は、レール81が延伸するスライド方向に自由にスライド可能となる。ここで、自由にスライド可能とは、アクチュエータなどによってスライド位置を制御するために駆動力を付与されたり制動されたりしておらず、例えば介助者の操作力のような外力によってスライド可能な状態を意味する。
また、レール81は、スライド部材82をスライド方向にガイドし、スライド方向に対するスライド部材82の傾動を規制する。つまり、スライド装置80は、レール81およびスライド部材82を備える構成により、介助装置10の前後方向の移動を補助するとともに、載置台60に対する介助装置10の相対回転を規制する相対回転規制装置として機能する。
これにより、介助装置10の前輪23が載置台60に載置され、且つスライド部材82がレール81にスライド可能に組み付けられた状態(以下、「組み付け状態」と称する)の介助システム1は、介助装置10または載置台60に入力された回転力によって、周方向に一体的に回転する。なお、介助装置10および載置台60は、周方向に一体的に回転している状態において、スライド方向の相対移動が許容されてもよいし、相対移動を規制されてもよい。
また、図1に示すように、介助システム1の組み付け状態において、介助装置10の前輪23および後輪24は、基台20の前後方向に転動可能な状態を維持される。このとき、前輪23および後輪24は、載置台60に対して介助装置10が水平方向(本実施形態において、介助装置10の前後方向)に移動する際に転動し、介助装置10や介助装置10に搭乗している被介助者Mから受ける荷重を支持する。このように、介助装置10の前輪23および後輪24は、介助装置10の前後方向の移動を補助するものであり、スライド装置80の一部を構成する。
本実施形態において、介助システム1は、位置決め装置51をさらに備える。位置決め装置51は、載置台60に対する介助装置10の水平方向の相対移動を規制する。詳細には、位置決め装置51は、例えば2箇所以上の所定位置(本実施形態においては、図8および図9に示す第一位置P1、および第二位置P2)において介助装置10を位置決めする。ここで、位置決めには、スライド装置80の可動範囲の両端を定めるようにスライド部材82のスライドを規制する意味の他に、可動範囲内でスライド部材82を特定の位置に維持する意味が含まれる。
本実施形態において、位置決め装置51は、図2および図3に示すように、載置台60の前側輪留め62および後側輪留め63により構成される。位置決め装置51は、前側輪留め62または後側輪留め63に介助装置10の前輪23を接触させて前輪23の移動を規制し、スライド装置80の可動範囲の両端を定める。このような構成により、組み付け状態の介助システム1は、載置台60に対する介助装置10の前後方向の移動がスライド装置80により補助されるとともに、位置決め装置51により前後方向に移動可能な範囲を規制される。
本実施形態において、介助システム1は、角度決め装置52をさらに備える。角度決め装置52は、床面Fに対する介助装置10の回転軸線A2周りの回転を規制する。詳細には、角度決め装置52は、2箇所以上の所定の角度(本実施形態においては、図10に示す第一角度N1、および第二角度N2)において載置台60を角度決めする。ここで、角度決めには、載置台60の回転可能な角度範囲の両端を定めるように載置台60の回転を規制する意味の他に、回転可能な角度範囲内で載置台60を特定の角度に維持する意味が含まれる。
本実施形態において、角度決め装置52は、図3に示すように、固定部71側の一対の突起部521と、載置台60側の係合部522とにより構成される。角度決め装置52は、固定部71の外周面のうち周方向に90度ずれた2箇所に設けられた一対の突起部521の何れかに、載置台60の内周面に設けられた係合部522が係合することにより、載置台60の回転を規制する。このとき、角度決め装置52は、一対の突起部521の位置に応じて、載置台60の回転可能な角度範囲Ra(図10を参照)を定められる。これにより、角度決め装置52は、第一角度N1および第二角度N2において載置台60を角度決めして、載置台60の回転可能な角度範囲Raを超える回転を防止する。
上記のような構成により、組み付け状態の介助システム1は、介助装置10の複数の車輪のうち前輪23が負担する荷重を方向転換補助装置50により支持する。そして、介助装置10は、角度範囲Raにおいて方向転換補助装置50によって回転軸線A2を中心とする方向転換が補助される。これにより、介助装置10を単に超信地旋回させた場合と異なり軸ずれが発生せず、また回転装置70による円滑な回転が可能となるため、移動目標の位置に応じた角度の調整が容易となる。なお、介助装置10は、スライド装置80の可動範囲における任意のスライド位置において回転軸線A2周りに方向転換可能に構成される。
1-5.介助システム1を用いた移乗動作の補助
組み付け状態の介助システム1を用いた移乗動作の介助方法について、図5-図11を参照して説明する。ここで、介助システム1の方向転換補助装置50は、例えば介助施設において移動目標が設けられた部屋に設置される。本実施形態において、方向転換補助装置50が設置される床面Fが施設された部屋は、図9-図11に示すように、移動目標としての便器95が設置されたトイレ室90である。
上記のトイレ室90は、便器95の前後方向に対向して配置された前壁91と後壁92、および便器95の左右方向に対向して配置された一対の側壁93により区画されている。トイレ室90の出入り口94は、便器95の側方に位置する側壁93に設けられている。方向転換補助装置50は、図9-図11に示すように、便器の前方であって、載置台60の回転軸線A2が便器95の左右方向の中心線L1上となる位置に設置されている。
移乗動作の介助に際して、上記のように設置された方向転換補助装置50に介助装置10を予め組み付ける作業が行われる。介助装置10は、方向転換補助装置50に組み付けられる前に移動式として機能する場合に、例えば介助施設におけるトイレ室とは別の部屋において、車椅子とベッドとの間での被介助者Mの移乗動作の補助、異なる部屋の間での被介助者Mの移動の補助に用いられる。
組み付け作業において、後側輪留め63が載置台60から取り外された状態で介助装置10の前輪23が載置台60の車輪載置部61に載置され、レール81の一端からスライド部材82が挿入される。その後に、前輪23のロック機構が作動されて、前輪23の移動方向の転換が規制される。最後に、載置台60に後側輪留め63が取り付けられて、介助システム1の組み付けが完了する。これにより、介助システム1は、移動式の介助装置10を、設置式として機能させることができる。
なお、本実施形態では、介助装置10の複数の車輪のうち前輪23のみが方向転換補助装置50に載置される態様であるため、前輪23は、床面Fに接地する後輪24よりも高くなる。これに伴う基台20の傾斜を防止するために、例えばフレーム21と前輪23との間、またはフレーム21と後輪24との間にスペーサを適宜介在させたり除去したりして床面Fと基台20の高さを適宜調整しても良い。
ここで、トイレ室90における移乗動作には、被介助者Mを車椅子Wから便器95へと移乗させる動作、および被介助者Mを便器95から車椅子Wへと移乗させる動作が含まれる。以下では、被介助者Mを車椅子Wから便器95へと移乗させる動作を例示して説明する。移乗動作の介助方法において、図5に示すように、先ず介助システム1の介助装置10に車椅子Wに乗った被介助者Mが正対するように、車椅子Wの位置が調整される(ステップ11(以下、「ステップ」を「S」と表記する))。
なお、介助装置10は、移乗動作の初期状態において、図9に示すように、スライド装置80のスライド方向がトイレ室90の出入り口94を向くように、方向転換補助装置50の載置台60が第一角度N1とされている。このとき、支持部材34の胴体支持部341の支持面は、上方視でトイレ室90の側方(図9の左右方向)を向いた状態にある。また、介助装置10は、図6および図9の破線で示すように、トイレ室90の外側であって支持部材34に被介助者Mが乗降する第一位置P1まで引き出された状態にある。第一位置P1では、位置決め装置51を構成する載置台60の後側輪留め63が基台20の前輪23に接触して、介助装置10の後退が規制される。
次に、介助装置10に被介助者Mを乗り込ませる乗り込み工程が実行される(S12)。具体的には、被介助者Mは、基台20の接地マーク221を目安に両足を足載置台22に載置するとともに、ハンドル33を把持する。そして、被介助者Mは、車椅子Wに座った状態で上半身を前傾させて、支持部材34の胴体支持部341に胸部が接触し、一対の脇支持部342に両脇を支持された状態とされる。
この状態において、被介助者Mまたは介助者がコントローラ(図示せず)を操作し、起立動作の補助を行うように指令する。これにより、制御ユニット40が支持装置30の駆動装置32を駆動させる。そうすると、支持装置30のアーム31が揺動軸線A1周りに回転して、支持部材34が前旋回する。これに伴って、被介助者Mは、図7に示すように、上半身が上昇するとともに前進し、臀部Mtが車椅子Wの座面から離れた立位姿勢とされる。このとき、被介助者Mの膝が下腿当て部25に接触した状態となり得る。
続いて、乗り込み工程(S12)の後に、スライド装置80により介助装置10を回転軸線A2に接近させる第一スライド工程が実行される(S13)。具体的には、支持部材34の前旋回および上昇が停止した後に、例えば介助者が支持装置30のハンドル33にスライド方向の操作力を加えることによって、スライド部材82がスライドされる。これにより、スライド装置80が縮んで、スライド装置80により載置台60に連結された介助装置10が平行移動する。
このとき、基台20の前輪23は、載置台60の車輪載置部61を転動する。また、基台20の後輪24は、床面Fを転動する。第一スライド工程(S13)により、介助装置10は、図8および図9の実線で示すように、トイレ室90の内側であって支持部材34に支持された被介助者Mをトイレ室90に入室した状態とする第二位置P2まで押し入れられる。第二位置P2では、位置決め装置51を構成する載置台60の前側輪留め62が基台20の前輪23に接触して、介助装置10の前進が規制される。
さらに、介助装置10を回転させて介助装置10を方向転換させる回転工程が実行される(S14)。具体的には、介助者が支持装置30のハンドル33に載置台60の周方向に操作力を加えることによって、載置台60が揺動軸線A1周りに回転される。これにより、図10に示すように、方向転換補助装置50に設けられたスライド装置80および介助装置10が一体的に反時計回りに回転される。
このとき、スライド装置80が縮んだ状態にあることから、揺動軸線A1から介助装置10の最外部までの距離は、スライド部材82の可動範囲に応じた距離(第一位置P1から第二位置P2までの距離)だけ短縮されている。これにより、介助装置10は、コンパクトな方向転換が可能となっている。
なお、上記の乗り込み工程(S12)では、被介助者Mの上半身がある程度前進するように支持部材34を前旋回させた。これは、回転工程(S14)におけるコンパクトな方向転換を目的の一つとしている。これに対して、トイレ室90のスペースや出入り口94が十分に広い場合には、乗り込み工程(S12)における支持部材34の前旋回を、例えば被介助者Mの臀部Mtが車椅子Wの座面から浮いた程度としてもよい。
ここで、方向転換補助装置50は、載置台60の回転軸線A2が便器95の左右方向の中心線L1上となる位置に設置されている。これにより、回転工程(S14)にて方向転換された介助装置10は、第一角度N1から90度回転してスライド装置80のスライド方向が移動目標としての便器95を向いた状態で、角度決め装置52によって回転軸線A2周りの回転を規制される。これにより、介助装置10は、角度決め装置52により第二角度N2に角度決めされる。このように、介助者は、支持装置30に支持された被介助者Mが方向転換されて便器95に背を向けた状態とすることができる。
そして、回転工程(S14)の後に、スライド装置80により介助装置10を移動目標としての便器95に接近させる第二スライド工程が実行される(S15)。具体的には、介助者が支持装置30のハンドル33にスライド方向の操作力を加えることによって、スライド部材82が便器95側にスライドされる。これにより、スライド装置80が延びて、スライド装置80により載置台60に連結された介助装置10が平行移動する。第二スライド工程(S15)により、介助装置10は、図11の実線で示すように、回転後の第二位置P2-2から第三位置P3まで移動される。
上記の回転後の第二位置P2-2は、載置台60が角度決め装置52により第二角度N2に角度決めされ、且つスライド装置80が縮んだ状態にあるときの介助装置10の位置である。また、上記の第三位置P3は、支持部材34に支持され且つ載置台60の回転により方向転換された被介助者Mを便器95に着座可能な状態とする介助装置10の位置である。つまり、第三位置P3は、被介助者Mを着座させるために、支持部材34を便器95に十分に接近させたときの介助装置10の位置である。
この状態において、介助装置10から移動目標としての便器95に被介助者Mを移乗させる移乗工程(S16)が実行される。具体的には、被介助者Mまたは介助者がコントローラを操作し、着座動作の補助を行うように指令する。これにより、制御ユニット40が支持装置30の駆動装置32を駆動させる。
そうすると、支持装置30のアーム31が揺動軸線A1周りに回転して、支持部材34が後旋回する。詳細には、図11の二点鎖線は、後旋回により便器95側に後退した支持部材34を示す。これに伴って、被介助者Mは、上半身が下降するとともに後退し、臀部Mtが便器95の座面に接触した座位姿勢とされる。また、被介助者Mを便器95から車椅子Wへと移乗させる移乗動作の介助方法については、乗り込み工程以降の各工程(S12-S16)が逆順で行われる。
2.実施形態の構成による効果
上記の介助システム1は、被介助者Mの移動を介助する移動式の介助装置10と、床面Fに対して垂直な回転軸線A2を中心とする介助装置10の方向転換を補助する方向転換補助装置50と、を備える。方向転換補助装置50は、介助装置10の少なくとも一部が載置されることにより介助装置10を支持する載置台60と、床面Fに対して載置台60を回転軸線A2周りに回転可能に支持する回転装置70と、を備える。
このような構成によると、介助装置10は、方向転換補助装置50によって回転軸線A2を中心とする方向転換を補助される。これにより、方向転換補助装置50が設置された位置において、被介助者Mが乗り込んだ状態にある介助装置10の方向転換が補助され、移動目標の位置に応じた角度の調整が容易となる。また、方向転換補助装置50から介助装置10を取り外すことによって、移動式の介助装置10を他の用途に使用することが可能となる。換言すると、移動式の介助装置10を、方向転換補助装置50が設置された所定の部屋における特定用途に流用することが可能となる。このような構成により、介助施設の設備コストの増加を抑制できる。
3.実施形態の変形態様
3-1.介助装置10と載置台60の関係
実施形態において、介助装置10は、複数の車輪のうち一対の前輪23のみが方向転換補助装置50の載置台60に載置され、一対の後輪24が床面Fに接地される構成とした。このような態様では、載置台60が介助装置10を支持する際に、複数の車輪のうち少なくとも1つの車輪が床面Fに接地すればよい。
具体的には、例えば一対の後輪24の一方、または後輪24が左右方向に一つのみの場合には1つの後輪24のみが接地するようにしてもよい。また、介助装置10が前輪23と後輪24の間に1または複数の補助車輪を備える場合には、補助車輪は、後輪24とともに床面Fに接地されるようにしてもよい。この場合のスライド装置80は、床面Fに接地する1つの後輪24または1または複数の補助車輪により一部を構成され得る。
また、上記の態様に対して、介助装置10は、全ての車輪が載置台60に載置される構成としてもよい。このような構成では、例えば全ての車輪が載置台60に載置された状態で転動を規制されるとともに、載置台60と回転装置70との間にスライド装置80が適宜設けられる。この場合のスライド装置80は、複数の車輪を構成に含まず、例えばレールとスライド部材とにより構成される。
また、介助装置10のうち載置台60に載置される部位は、前輪23などの一部の車輪の他に、基台20のフレーム21などとしてもよい。なお、車輪の転動の規制は、車輪の機能によるものでも、載置台60に形成された凹部への車輪の抑留によるものでもよい。また、上記のような凹部により車輪を抑留する構成は、載置台60に対する介助装置10の相対回転を規制する相対回転規制装置として機能する。
実施形態において、介助システム1を用いた移乗動作の補助では、方向転換補助装置50に介助装置10が予め組み付けられるものとした。これに対して、介助システム1は、介助装置10に被介助者Mが搭乗した状態で、方向転換補助装置50に介助装置10を組み付け可能な構成としてもよい。具体的には、先ず被介助者Mが搭乗した状態にある介助装置10が方向転換補助装置50に接近するように移動される。次に、介助装置10は、後側輪留め63が載置台60から取り外された状態で、前輪23が載置台60に乗り上げるように移動される。このとき、載置台60の外縁における前輪23の乗り上げ位置には、床面Fと載置台60の上面との段差をなくすようにスロープが設けられていてもよい。
上記のように前輪23が載置台60に乗り上げると、前輪23が載置台60に載置された状態となる。その後に、必要に応じて載置台60に後側輪留め63が取り付けられて、介助システム1の組み付けが完了する。これにより、移動式の介助装置10を、設置式として機能させることができる。そして、方向転換補助装置50が設置された部屋から退室する際には、上記の組み付けが逆順で行われることにより、介助システム1は、被介助者Mを搭乗した状態を維持された介助装置10を再び移動式として機能させることができる。
3-2.回転装置70について
載置台60の回転可能な角度範囲Raは、例えば介助装置10の用途に応じて調整可能に構成されてもよい。具体的には、角度決め装置52は、一対の突起部521が固定部71の外周縁に沿って移動可能に構成されるとともに、任意の周方向位置においてねじ締結などによって固定される構成としてもよい。これにより、実施形態と同様の効果を奏するとともに、介助装置10の用途や設置場所の変更等に対応することができる。
また、介助装置10の用途によっては、載置台60が1箇所または3箇所以上の規定角度において角度決めされるように、角度決め装置52が構成されてもよい。例えば3箇所以上の規定角度において載置台60を角度決めする場合には、角度決め装置52は、一対の突起部521と係合部522に代えて、例えば載置台60が規定角度となった際に固定部71に設けられるプランジャが載置台60に設けられる係合穴に係合して角度決めされる構成としてもよい。
その他に、介助施設の部屋に設けられた移動目標が床面Fに固定されていない場合や、移乗元や移動目標が複数ある場合には、方向転換補助装置50において載置台60が全周に亘って自由に回転可能に構成されてもよい。また、載置台60の回転軸線A2は、実施形態において、出入り口94の幅方向中央を通る直線と移動目標としての便器95の左右方向の中心線L1を通る直線との交点となる位置に設定される構成とした。これに対して、回転軸線A2は、出入り口94や移動目標の位置、載置台60とスライド装置80の位置関係などに応じて適宜設定することができる。
3-3.スライド装置80について
実施形態において、スライド装置80は、載置台60に固定されたレール81に介助装置10のフレーム21に固定されたスライド部材82を組み付けて構成される。これに対して、スライド装置80は、種々の態様を採用し得る。具体的には、スライド装置80は、載置台60にスライド部材82を予め組み付けたレール81が固定され、スライド部材82に連結部材が固定される。そして、移動式の介助装置10の例えばフレーム21に連結部材が連結されて、介助装置10を方向転換補助装置50に組み付けてもよい。
また、スライド装置80の可動範囲Rsは、介助装置10の用途によっては被介助者Mの入退室を目的とした範囲に設定される他に、載置台60の回転軸線A2からある程度離れていても搭乗可能となるように支持部材34を適宜スライドさせる範囲に設定してもよい。このような構成においても、組み付け状態の介助システム1に対して車椅子Wなどを接近させる位置を正確にしなくてもスライド装置80のスライドによって調整が可能となり、移乗動作における介助装置10の利用性を向上できる。
スライド装置80の可動範囲Rsは、例えば介助装置10の用途に応じて調整可能に構成されてもよい。具体的には、位置決め装置51は、前側輪留め62および後側輪留め63の位置を調整可能に構成されてもよい。また、スライド装置80は、レール81内に配置される一対のスライドストッパにより可動範囲Rsを定められてもよい。具体的には、スライドストッパがレール81に沿って移動可能に構成されるとともに、任意のスライド方向位置においてねじ締結などによって固定される。これにより、実施形態と同様の効果を奏するとともに、介助装置10の用途や設置場所の変更等に対応することができる。
また、スライド装置80は、スライド方向が回転軸線A2を中心とする径方向と平行になるように載置台60に設けられる構成とした。これに対して、介助装置10の用途や設置される部屋のレイアウトによっては、スライド装置80のスライド方向は、載置台60の径方向からずれていてもよい。また、スライド装置80のスライド方向に対して支持部材34が水平方向に斜めになっていてもよい。さらに、スライド部材82のスライドの軌跡を定めるレール81は、実施形態にて例示したように直線状とする他に、曲線状など種々の形状としてもよい。
さらに、スライド装置80は、レール81およびスライド部材82を備える他に種々の態様を採用し得る。例えば、スライド装置80は、実施形態にて例示したように、介助装置10の複数の車輪により構成されるものとし、載置台60に設けられた凹状溝の底部を車輪載置部61として前輪23が凹状溝の側面にガイドされる構成としてもよい。このような構成よると、介助システム1の部品点数を低減して、方向転換補助装置50への介助装置10の組み付け作業を容易にできる。なお、上記のような凹状溝により前輪23を載置台60の周方向に係合する構成は、載置台60に対する介助装置10の相対回転を規制する相対回転規制装置として機能する。
その他に、介助システム1は、スライド装置80を備えない構成としてもよい。つまり、介助システム1は、方向転換補助装置50が載置台60および回転装置70により介助装置10を回転させる機能のみを有する構成としてもよい。なお、このようなスライド装置80を備えない構成、または上記のようにスライド部材82がレール81に予め組み付けられたスライド装置80を備える構成では、方向転換補助装置50に対する介助装置10の組み付けが簡易となる。よって、上記の構成は、例えば介助装置10に被介助者Mを搭乗させた状態で方向転換補助装置50に組み付け可能とする構成に適用されると好適である。
3-4.方向転換補助装置50について
方向転換補助装置50は、回転装置70の回転動作にスライド装置80のスライド動作が同期する構成としてもよい。このような構成によると、例えば介助装置10に被介助者Mが搭乗した後に支持部材34を回転させる操作力を付与すると、スライド装置80が縮みながら載置台60が回転し始める。そして、ある程度回転したところでスライド装置80が再び延びて、被介助者は、移動目標に移動可能な状態とされる。このような構成によると、第一スライド工程(S13)、回転工程(S14)、および第二スライド工程(S15)が一連の動作でなされる。
その他に、実施形態において、載置台60が回転装置70により自由に回転可能に構成され、またスライド装置80が自由にスライド可能に構成されるものとした。これに対して、回転装置70およびスライド装置80の少なくとも一方は、例えばアクチュエータなどによって駆動力を付与されて回転角度やスライド位置を制御されるようにしてもよい。このような構成において、回転装置70およびスライド装置80がともにアクチュエータによって互いの動作を協調されて、さらに支持装置30の駆動装置32の動作とも協調されて支持部材34を適宜移動させる構成としてもよい。
また、上記のような構成において、角度決め装置52および位置決め装置51は、例えばアクチュエータの制御部によって構成され、予め記憶されている規定角度に載置台60を角度決めし、また予め記憶されている規定位置にスライド部材82を位置決めするようにしてもよい。このとき、載置台60の規定角度および回転可能な角度範囲Ra、並びにスライド装置80の規定位置および可動範囲Rsは、アクチュエータの制御部に対する設定の変更によって任意に変更可能としてもよい。
具体的には、介助システム1は、介助者や介助システム1の設置を行う作業者による規定角度および角度範囲Raの設定値の変更を受け付けて、アクチュエータの制御部に記憶させる。アクチュエータの制御部としての角度決め装置52は、設定された規定角度および角度範囲Raに基づいてアクチュエータの動作を制御し、載置台60を角度決めする。また、介助システム1は、同様に規定位置および可動範囲Rsの設定値の変更を受け付けて、アクチュエータの制御部に記憶させる。アクチュエータの制御部としての位置決め装置51は、設定された規定位置および可動範囲Rsに基づいてアクチュエータの動作を制御し、スライド部材82を位置決めする。このような構成によると、アクチュエータの制御部に対する設定値の変更によって規定角度、角度範囲Ra、規定位置、および可動範囲Rsを容易に設定することができ、介助装置10の用途や設置場所の変更等に対応することができる。
また、回転装置70およびスライド装置80には、アクチュエータの有無に関わらず回転動作やスライド動作を制動する制動装置が設けられる構成としてもよい。これらの制動装置は、相対回転する部材間、または相対移動する部材間において、例えば摩擦板を押圧させたり、ピンなどの係合部材を係合させたりすることで制動状態と非制動状態を切り換え可能に構成される。そして、介助者等が操作ペダルやコントローラから指令を入力して、または制御ユニットが駆動装置32に動作状態に対応して制動装置を機能させる。このような構成によると、組み付け状態の介助システム1の全体としての動作が安定し、結果として被介助者Mの移乗動作の介助をより安定させることができる。
実施形態において、支持装置30の駆動装置32は、電動モータを駆動源とする直動式のアクチュエータ321とリンク機構322とを備える構成とした。これに対して、駆動装置32は、座位姿勢にある被介助者Mの臀部Mtを座面から離間させるように支持部材34を移動可能であれば種々の態様を採用し得る。例えば、駆動装置32は、ガススプリングなどの弾性装置であってもよいし、支持部材34の角度を維持したまま上昇可能な昇降装置であってもよい。また、駆動装置32は、支持部材34を揺動させる揺動装置と昇降させる昇降装置とを備える構成としてもよい。
その他に、実施形態において、介助装置10が設置される部屋は、移動目標としての便器95を備えるトイレ室90であるものとした。この他に、介助装置10は、種々の部屋に設置される構成としてもよい。この場合やトイレ室90において出入り口94が側壁93でなく後壁92などに設けられている場合には、載置台60の回転可能な角度範囲Raは、90度でなく180度など種々の角度範囲に設定されてもよい。