JP7107225B2 - ベンズアルデヒドの製造方法 - Google Patents

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    • C12Y401/01007Benzoylformate decarboxylase (4.1.1.7)

Description

本発明は、微生物を用いたベンズアルデヒドの製造方法に関するものである。
ベンズアルデヒドは、アーモンドや杏仁の香りの成分であり、香料として飲食品や香水等に配合して使用されている。ベンズアルデヒドは、主に、化学合成により製造されている。
また、ベンズアルデヒドの生合成に関与するいくつかの酵素が知られている。
アミノ酸デアミナーゼ(amino acid deaminase;AAD)は、アミノ酸を酸化的脱アミノ化する反応を触媒する酵素(EC 1.4.3.2)として知られている。プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)のAADは、L-フェニルアラニンをフェニルピルビン酸に変換できることが報告されている(非特許文献1)。また、AADを有するプロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)をL-フェニルアラニンの存在下で培養することにより、フェニルピルビン酸が生成したことが報告されている(非特許文献1)。
4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(4-hydroxymandelate synthase;HMAS)は、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸等のα-ケト酸を酸化的脱炭酸する反応を触媒する酵素(EC 1.13.11.46)として知られている。アミコラトプシス・オリエンタリス(Amycolatopsis orientalis)のHMASおよびストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)のHMASは、フェニルピルビン酸を(S)-マンデル酸に変換できることが報告されている(非特許文献2、3)。また、Amycolatopsis orientalisのHMASを導入したEscherichia coliをグルコースの存在下で培養することにより、(S)-マンデル酸が生成したことが報告されている(非特許文献2)。
(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ((S)-mandelate dehydrogenase;SMDH)は、(S)-マンデル酸を酸化してベンゾイル蟻酸を生成する反応を触媒する酵素である。E. coliで異種発現したシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)のSMDHにより、(S)-マンデル酸からベンゾイル蟻酸を生成したことが報告されている(非特許文献4)。
ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼ(Benzoylformate decarboxylase;BFDC)は、ベンゾイル蟻酸を脱炭酸してベンズアルデヒドを生成する反応を触媒する酵素である。BFDCを有するシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)の菌体を利用して、ベンゾイル蟻酸からベンズアルデヒドを生成したことが報告されている(非特許文献5)。
Massad G et al., Proteus mirabilis amino acid deaminase: cloning, nucleotide sequence, and characterization of aad. J Bacteriol. 1995 Oct;177(20):5878-83. Sun Z et al., Metabolic engineering of the L-phenylalanine pathway in Escherichia coli for the production of S- or R-mandelic acid. Microb Cell Fact. 2011 Sep 13;10:71. Liu SP et al., Heterologous pathway for the production of L-phenylglycine from glucose by E. coli. J Biotechnol. 2014 Sep 30;186:91-7. Peng Wang et al., Immobilization of (S)-mandelate dehydrogenase and its catalytic performance on stereoselective transformation of mandelic acid. Journal of the Taiwan Institute of Chemical Engineers Volume 45, Issue 3, May 2014, Pages 744-748. Park, J.K. and Jung, J.Y., Production of benzaldehyde by encapsulated whole-cell benzoylformate decarboxylase, Enzyme Microb Technol, 30, 726-733, 2002.
本発明は、微生物を利用してベンズアルデヒドを生産する新規な技術を開発し、効率的なベンズアルデヒドの製造法を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、アミノ酸デアミナーゼ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ、(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ、およびベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼを発現する微生物を利用してL-フェニルアラニンまたはグルコースからベンズアルデヒドを製造できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
ベンズアルデヒドの製造方法であって、
下記工程(A):
(A)4つの酵素:アミノ酸デアミナーゼ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ、(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ、およびベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼを有する少なくとも1つの微生物を利用することにより、ベンズアルデヒドを製造する工程
を含み、
前記少なくとも1つの微生物が、単独で前記4つの酵素を有する単一の微生物であるか、全体として前記4つの酵素を有する複数の微生物の組み合わせである、方法。
[2]
前記工程(A)が、下記(a)~(c)からなる群より選択される手段により実施される、前記方法:
(a)前記少なくとも1つの微生物を培養すること;
(b)前記少なくとも1つの微生物の菌体を利用すること;または
(c)前記複数の微生物の一部を培養することと、前記複数の微生物の残部の菌体を利用することとの組み合わせ。
[3]
ベンズアルデヒドが、炭素源またはL-フェニルアラニンから製造される、前記方法。[4]
前記工程(A)が、下記工程(B)または(C):
(B)前記少なくとも1つの微生物を利用して炭素源からベンズアルデヒドを製造する工程;
(C)前記少なくとも1つの微生物を利用してL-フェニルアラニンをベンズアルデヒドに変換する工程
により実施され、
前記工程(B)で利用される前記少なくとも1つの微生物が、L-フェニルアラニン生産能を有する、前記方法。
[5]
前記工程(A)が、下記工程(B1)、(C1)、または(C2):
(B1)炭素源を含有する培地で前記少なくとも1つの微生物を培養し、ベンズアルデヒドを該培地中に生成蓄積する工程;
(C1)L-フェニルアラニンを含有する培地で前記少なくとも1つの微生物を培養し、ベンズアルデヒドを該培地中に生成蓄積する工程;
(C2)前記少なくとも1つの微生物の菌体を反応液中でL-フェニルアラニンと共存させ、ベンズアルデヒドを該反応液中に生成蓄積する工程
により実施され、
前記工程(B1)で利用される前記少なくとも1つの微生物が、L-フェニルアラニン生産能を有する、前記方法。
[6]
前記工程(A)が、下記工程(D1)および(D2):
(D1)下記工程(D1a)または(D1b):
(D1a)炭素源からフェニルピルビン酸、(S)-マンデル酸、またはベンゾイル蟻酸を生成する工程;
(D1b)L-フェニルアラニンをフェニルピルビン酸、(S)-マンデル酸、またはベンゾイル蟻酸に変換する工程;
(D2)前記工程(D1)で生成したフェニルピルビン酸、(S)-マンデル酸、またはベンゾイル蟻酸をベンズアルデヒドに変換する工程
を含み、
前記工程(D1a)が、前記4つの酵素から選択される前記工程(D1)に対応する酵素とL-フェニルアラニン生産能とを有する少なくとも1つの微生物を利用して実施され、
前記工程(D1b)が、前記4つの酵素から選択される前記工程(D1)に対応する酵素を有する少なくとも1つの微生物を利用して実施され、
前記工程(D2)が、前記4つの酵素から選択される該工程(D2)に対応する酵素を有する少なくとも1つの微生物を利用して実施される、前記方法。
[7]
前記工程(D1a)が、該工程(D1a)で利用される前記少なくとも1つの微生物を培養することにより実施され、
前記工程(D1b)および(D2)が、該工程(D1b)および(D2)でそれぞれ利用される微生物の菌体を利用することにより、または、該微生物を培養することにより実施される、前記方法。
[8]
前記工程(A)が、下記工程(E1)および(E2):
(E1)下記工程(E1a)または(E1b):
(E1a)アミノ酸デアミナーゼ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ、および(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼとL-フェニルアラニン生産能とを有する少なくとも1つの微生物を利用することにより、炭素源からベンゾイル蟻酸を生成する工程;
(E1b)アミノ酸デアミナーゼ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ、および(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼを有する少なくとも1つの微生物を利用することにより、L-フェニルアラニンをベンゾイル蟻酸に変換する工程;
(E2)ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼを有する微生物を利用することにより、前記工程(E1)で生成したベンゾイル蟻酸をベンズアルデヒドに変換する工程
を含む、前記方法。
[9]
前記工程(E1a)が、該工程(E1a)で利用される前記少なくとも1つの微生物を培養することにより実施され、
前記工程(E1b)および(E2)が、該工程(E1b)および(E2)でそれぞれ利用される微生物の菌体を利用することにより、または、該微生物を培養することにより実施される、前記方法。
[10]
前記工程(A)が、下記工程(F1)および(F2):
(F1)下記工程(Fa)または(Fb):
(Fa)炭素源を含有する培地で少なくとも1つの微生物を培養し、ベンゾイル蟻酸を該培地中に生成蓄積する工程であって、該少なくとも1つの微生物が、アミノ酸デアミナーゼ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ、および(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼとL-フェニルアラニン生産能とを有する工程;
(Fb)L-フェニルアラニンを含有する培地で少なくとも1つの微生物を培養し、ベンゾイル蟻酸を該培地中に生成蓄積する工程、または少なくとも1つの微生物の菌体をL-フェニルアラニンと反応液中で共存させ、ベンゾイル蟻酸を該反応液中に生成蓄積する工程であって、該少なくとも1つの微生物が、アミノ酸デアミナーゼ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ、および(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼを有する工程;
(F2)前記工程(F1)で生成したベンゾイル蟻酸を含有する培地で微生物を培養し、ベンズアルデヒドを該培地中に生成蓄積する工程、または微生物の菌体を前記工程(F1
)で生成したベンゾイル蟻酸と反応液中で共存させ、ベンズアルデヒドを該反応液中に生成蓄積する工程であって、該微生物が、ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼを有する工程
を含む、前記方法。
[11]
前記工程(A)が、下記工程(G1)~(G4):
(G1)下記工程(G1a)または(G1b):
(G1a)アミノ酸デアミナーゼを有する微生物を利用することにより、炭素源からフェニルピルビン酸を生成する工程;
(G1b)アミノ酸デアミナーゼを有する微生物を利用することにより、L-フェニルアラニンをフェニルピルビン酸に変換する工程;
(G2)4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼを有する微生物を利用することにより、前記工程(G1)で生成したフェニルピルビン酸を(S)-マンデル酸に変換する工程;
(G3)(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼを有する微生物を利用することにより、前記工程(G2)で生成した(S)-マンデル酸をベンゾイル蟻酸に変換する工程;
(G4)ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼを有する微生物を利用することにより、前記工程(G3)で生成したベンゾイル蟻酸をベンズアルデヒドに変換する工程
を含む、前記方法。
[12]
前記工程(G1a)が、該工程(G1a)で利用される前記微生物を培養することにより実施され、
前記工程(G1b)および(G2)~(G4)が、該工程(G1b)および(G2)~(G4)でそれぞれ利用される微生物の菌体を利用することにより、または、該微生物を培養することにより実施される、前記方法。
[13]
前記菌体が、前記微生物の培養物、該培養物から回収された菌体、それらの処理物、またはそれらの組み合わせである、前記方法。
[14]
前記アミノ酸デアミナーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記方法:
(a)配列番号12に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号12に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、アミノ酸デアミナーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号12に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、アミノ酸デアミナーゼ活性を有するタンパク質。
[15]
前記4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼが、下記(a)、(b)、(c)、または(d)に記載のタンパク質である、前記方法:
(a)配列番号14、16、18、20、22、33、37、41、43、または45に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号14、16、18、20、22、33、37、41、43、または45に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号14、16、18、20、22、33、37、41、43、または45に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ活性を有するタンパク質;
(d)上記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において特定の変異を有するアミノ酸配列を含み、該特定の変異が、T2、M3、G5、Y18、A27、D35、E46、E180、A187、E191、V194、A199、D201、Q206、I217、D220、T222、G255、F319、G327
、I336、K337、V343、およびQ347からなる群より選択される1つまたはそれ以上のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基における変異である、タンパク質;
ただし、前記4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼが配列番号35および39のアミノ酸配列からなるタンパク質である場合は除く。
[16]
前記特定の変異が、T2N、M3I、G5R、Y18F、A27V、D35G、E46Q、E180K、A187V、E191K、V194G、A199(S、V)、D201N、Q206R、I217(L、V)、D220(A、N)、T222S、G255D、F319Y、G327(D、S)、I336V、K337Q、V343M、およびQ347Lからなる群より選択される1つまたはそれ以上の変異に相当する変異である、前記方法。
[17]
前記特定の変異が、M3I/A199S/G255D、Y18F/D220N、A27V/E191K、D35G/E46Q/T222S/I336V、E180K/I217V/D220N、A187V/I217V、A199V/I217V/K337Q、D201N/I217V、I217V/F319Y
、およびD220A/Q347Lのいずれかに相当する変異である、前記方法。
[18]
前記(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記方法:
(a)配列番号28に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号28に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号28に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
[19]
前記ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記方法:
(a)配列番号30に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号30に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号30に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質。
[20]
前記微生物が、細菌または酵母である、前記方法。
[21]
前記微生物が、腸内細菌科に属する細菌またはコリネ型細菌である、前記方法。
[22]
前記微生物が、エシェリヒア属細菌である、前記方法。
[23]
前記微生物が、エシェリヒア・コリである、前記方法。
[24]
さらに、ベンズアルデヒドを回収する工程を含む、前記方法。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の方法は、アミノ酸デアミナーゼ(amino acid deaminase;AAD)、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(4-hydroxymandelate synthase;HMAS)、(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ((S)-mandelate dehydrogenase;SMDH)、およびベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼ(Benzoylformate decarboxylase;BFDC)を有する微生物を利用した、L-フェニルアラニンからベンズアルデヒドを製造する方法である。同微生物を「本発明の微生物」ともいう。同4酵素(AAD、HMAS、SMDH、およびBFDC)を総称して「ベンズアルデヒド生成酵素」ともいう。
<1>本発明の微生物
<1-1>4つのベンズアルデヒド生成酵素を有する微生物
本発明の微生物は、4つのベンズアルデヒド生成酵素(AAD、HMAS、SMDH、およびBFDC)を有する微生物である。
「ベンズアルデヒド生成酵素を有する」とは、具体的には、機能するベンズアルデヒド生成酵素を発現し保持することをいう。ベンズアルデヒド生成酵素は、該ベンズアルデヒド生成酵素をコードする遺伝子から発現する。ベンズアルデヒド生成酵素をコードする遺伝子を「ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子」ともいう。すなわち、本発明の微生物(ベンズアルデヒド生成酵素を有する微生物)は、ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子を有する。なお、「ベンズアルデヒド生成酵素を有する」ことを、「ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子を有する」ともいう。
本発明の微生物は、単一の微生物であってもよく、複数の微生物の組み合わせであってもよい。すなわち、本発明において、単数形としての「微生物」(例えば、「a microorganism」や「the microorganism」)は、文脈に応じて、少なくとも1つの微生物として、すなわち、単一の微生物または複数の微生物の組み合わせとして、読み替えてよい。
本発明の微生物が単一の微生物である場合、該単一の微生物が単独でベンズアルデヒド生成酵素4つ全てを有する。
本発明の微生物が複数の微生物の組み合わせである場合、該複数の微生物が全体としてベンズアルデヒド生成酵素4つ全てを有する。言い換えると、本発明の微生物が複数の微生物の組み合わせである場合、4つのベンズアルデヒド生成酵素は、それぞれ、該複数の微生物の少なくともいずれかに保持される。ベンズアルデヒド生成酵素は、それぞれ、複数の微生物の、いずれか1つに保持されていてもよく、2またはそれ以上に保持されていてもよい。複数の微生物は、それぞれ、ベンズアルデヒド生成酵素の、いずれか1つを有していてもよく、2またはそれ以上を有していてもよい。複数の微生物がそれぞれ有するベンズアルデヒド生成酵素の種類は、ベンズアルデヒドを製造できる限り、特に制限されない。複数の微生物がそれぞれ有するベンズアルデヒド生成酵素の種類は、製造工程の実施態様(例えば製造工程におけるサブステップの構成)等の諸条件に応じて適宜設定できる。例えば、本発明の微生物は、4つのベンズアルデヒド生成酵素をそれぞれ有する4つの微生物の組み合わせ、すなわち、AADを有する微生物、HMASを有する微生物、SMDHを有する微生物、およびBFDCを有する微生物の組み合わせ、であってもよい。複数の微生物は、該複数の微生物が有するベンズアルデヒド生成酵素の種類以外は、互いに同一であって
もよく、そうでなくてもよい。例えば、複数の微生物は、同一の属、種、または株に由来する微生物であってもよく、そうでなくてもよい。
本発明の微生物は、L-フェニルアラニン生産能を有していてもよい。「L-フェニルアラニン生産能を有する微生物」とは、培地(例えば炭素源を含有する培地)で培養した際にL-フェニルアラニンを生合成できる微生物をいう。よって、「L-フェニルアラニン生産能を有する微生物」とは、具体的には、炭素源からL-フェニルアラニンを生合成できる微生物であってよい。生合成されたL-フェニルアラニンは、ベンズアルデヒド製造の原料として用いられてよい。よって、「L-フェニルアラニン生産能を有する微生物」とは、具体的には、ベンズアルデヒド製造の原料として必要な量のL-フェニルアラニンを生合成できる微生物であってもよい。生合成されたL-フェニルアラニンは、例えば、菌体内および/または培地中に産物として蓄積してもよく、しなくてもよい。すなわち、生合成されたL-フェニルアラニンは、直ちに消費されてもよい。例えば、生合成されたL-フェニルアラニンは、直ちにベンズアルデヒドまたはその中間体に変換されてもよい。したがって、一態様において、L-フェニルアラニン生産能は、ベンズアルデヒドまたはその中間体の生産に基づいて測定されてもよい。
本発明の微生物が単一の微生物である場合、該単一の微生物がL-フェニルアラニン生産能を有していてよい。
本発明の微生物が複数の微生物の組み合わせである場合、該複数の微生物のいずれか1つまたはそれ以上がL-フェニルアラニン生産能を有していてよい。複数の微生物のいずれがL-フェニルアラニン生産能を有するかは、ベンズアルデヒドを製造できる限り、特に制限されない。例えば、少なくともAADを有する微生物がL-フェニルアラニン生産能を有していてもよい。
なお、本発明の微生物は、ベンズアルデヒド生産能を有する。「ベンズアルデヒド生産能を有する微生物」とは、ベンズアルデヒドを生産できる微生物をいう。「ベンズアルデヒド生産能を有する微生物」とは、発酵、生物変換、またはそれらの組み合わせによりベンズアルデヒドを生産できる微生物であってよい。すなわち、「ベンズアルデヒド生産能を有する微生物」とは、炭素源またはL-フェニルアラニンからベンズアルデヒドを生産できる微生物であってよい。「ベンズアルデヒド生産能を有する微生物」とは、具体的には、炭素源を含有する培地で培養した際にベンズアルデヒドまたはその中間体であってベンズアルデヒドに変換できるものを培地中に生産し蓄積できる微生物であってよい。また、「ベンズアルデヒド生産能を有する微生物」とは、具体的には、L-フェニルアラニンを含有する培地で培養した際に、または反応液中でL-フェニルアラニンと共存またはL-フェニルアラニンに作用させた際に、ベンズアルデヒドまたはその中間体であってベンズアルデヒドに変換できるものを培地中または反応液中に生産し蓄積できる微生物であってもよい。
ベンズアルデヒドは、4つのベンズアルデヒド生成酵素の作用によりL-フェニルアラニンから生産され得る。よって、本発明の微生物(4つのベンズアルデヒド生成酵素を有する)は、L-フェニルアラニンからベンズアルデヒドを生産できてよい。例えば、本発明の微生物は、生物変換によりベンズアルデヒドを生産する工程によってL-フェニルアラニンからベンズアルデヒドを生産できてもよく、生物変換によりベンズアルデヒドの中間体を生産するサブステップとそれに続く該中間体をベンズアルデヒドに変換するサブステップの組み合わせによってL-フェニルアラニンからベンズアルデヒドを生産できてもよい。
本発明の微生物がL-フェニルアラニン生産能を有する場合、本発明の微生物は、炭素
源からベンズアルデヒドを生産できてもよい。例えば、本発明の微生物は、発酵によりベンズアルデヒドを生産する工程によって炭素源からベンズアルデヒドを生産できてもよく、発酵によりベンズアルデヒドの中間体を生産するサブステップとそれに続く該中間体をベンズアルデヒドに変換するサブステップの組み合わせによって炭素源からベンズアルデヒドを生産できてもよい。
本発明の微生物は、回収できる程度にベンズアルデヒドを培地中または反応液中に蓄積できてよい。本発明の微生物は、例えば、0.01 mM以上、0.1 mM以上、または1 mM以上の量でベンズアルデヒドを培地中または反応液中に蓄積できてよい。
本発明の微生物が単一の微生物である場合、該単一の微生物がベンズアルデヒド生産能を有する。
本発明の微生物が複数の微生物の組み合わせである場合、該組み合わせが全体としてベンズアルデヒド生産能を有する。
微生物は、機能するベンズアルデヒド生成酵素を発現でき、ベンズアルデヒドの生産に利用できるものであれば、特に制限されない。微生物としては、細菌や酵母が挙げられる。
細菌としては、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属する細菌、コリネ型細菌、バチルス属細菌が挙げられる。
腸内細菌科に属する細菌としては、エシェリヒア(Escherichia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、パントエア(Pantoea)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、エルビニア(Erwinia)属、フォトラブダス(Photorhabdus)属、プロビデンシア(Providencia)属、サルモネラ(Salmonella)属、モルガネラ(Morganella)等の属に属する細菌が挙げられる。具体的には、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=91347)で用いられている分類法により腸内細菌科に分類されている細菌を用いることができる。エシェリヒア属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりエシェリヒア属に分類されている細菌が挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、Neidhardtらの著書(Backmann, B. J. 1996. Derivations and Genotypes of some mutant derivatives of Escherichia coli K-12, p.
2460-2488. Table 1. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.)に記載されたものが挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)が挙げられる。エシェリヒア・コリとしては、例えば、W3110株(ATCC 27325)やMG1655株(ATCC 47076)等のエシェリヒア・コリK-12株;エシェリヒア・コリK5株(ATCC 23506);BL21(DE3)株等のエシェリヒア・コリB株;およびそれらの派生株が挙げられる。エンテロバクター属細菌としては、例えば、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)やエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)が挙げられる。パントエア属細菌としては、例えば、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)、パントエア・スチューアルティ(Pantoea stewartii)、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)、パントエア・シトレア(Pantoea citrea)が挙げられる。エルビニア属細菌としては、例えば、エルビニア・アミロボーラ(Erwinia amylovora)、エルビニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)が挙げられる。クレブシエラ属細菌としては、例えば、クレブシエラ・プランティコーラ(Klebsiella planticola)が挙げられる。
コリネ型細菌としては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、およびミクロバクテリウム(Microbacterium)属等の属に属する細菌が挙げられる。
コリネ型細菌としては、具体的には、下記のような種が挙げられる。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム(Corynebacterium acetoglutamicum)
コリネバクテリウム・アルカノリティカム(Corynebacterium alkanolyticum)
コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)
コリネバクテリウム・クレナタム(Corynebacterium crenatum)
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)
コリネバクテリウム・リリウム(Corynebacterium lilium)
コリネバクテリウム・メラセコーラ(Corynebacterium melassecola)
コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(コリネバクテリウム・エフィシエンス)(Corynebacterium thermoaminogenes (Corynebacterium efficiens))
コリネバクテリウム・ハーキュリス(Corynebacterium herculis)
ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium divaricatum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium
flavum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・イマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・ロゼウム(Brevibacterium roseum)
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス(Brevibacterium thiogenitalis)
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(コリネバクテリウム・スタティオニス)(Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis))
ブレビバクテリウム・アルバム(Brevibacterium album)
ブレビバクテリウム・セリナム(Brevibacterium cerinum)
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム(Microbacterium ammoniaphilum)
コリネ型細菌としては、具体的には、下記のような菌株が挙げられる。
Corynebacterium acetoacidophilum ATCC 13870
Corynebacterium acetoglutamicum ATCC 15806
Corynebacterium alkanolyticum ATCC 21511
Corynebacterium callunae ATCC 15991
Corynebacterium crenatum AS1.542
Corynebacterium glutamicum ATCC 13020, ATCC 13032, ATCC 13060, ATCC 13869, FERM BP-734
Corynebacterium lilium ATCC 15990
Corynebacterium melassecola ATCC 17965
Corynebacterium efficiens (Corynebacterium thermoaminogenes) AJ12340 (FERM BP-1539)
Corynebacterium herculis ATCC 13868
Brevibacterium divaricatum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 14020
Brevibacterium flavum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 13826, ATCC 14067, AJ12418 (FERM BP-2205)
Brevibacterium immariophilum ATCC 14068
Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 13869
Brevibacterium roseum ATCC 13825
Brevibacterium saccharolyticum ATCC 14066
Brevibacterium thiogenitalis ATCC 19240
Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis) ATCC 6871, ATCC 6872
Brevibacterium album ATCC 15111
Brevibacterium cerinum ATCC 15112
Microbacterium ammoniaphilum ATCC 15354
なお、コリネバクテリウム属細菌には、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが、現在コリネバクテリウム属に統合された細菌(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255(1991))も含まれる。また、コリネバクテリウム・スタティオニスには、従来コリネバクテリウム・アンモニアゲネスに分類されていたが、16S rRNAの塩基配列解析等によりコリネバクテリウム・スタティオニスに再分類された細菌も含まれる(Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 60, 874-879(2010))。
バチルス属細菌としては、例えば、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・ポリミキサ(Bacillus polymixa)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)が挙げられる。バチルス・サブチリスとして、具体的には、例えば、バチルス・サブチリス168 Marburg株(ATCC 6051)やバチルス・サブチリスPY79株(Plasmid, 1984, 12, 1-9)が挙げられる。バチルス・アミロリケファシエンスとして、具体的には、例えば、バチルス・アミロリケファシエンスT株(ATCC 23842)やバチルス・アミロリケファシエンスN株(ATCC 23845)が挙げられる。
酵母としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロミセス属、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)等のキャンディダ属、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)等のピヒア属、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula
polymorpha)等のハンゼヌラ属、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロミセス属等の属に属する酵母が挙げられる。
これらの菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。また、これらの菌株は、例えば、各菌株が寄託された寄託機関から入手することができる。
アミノ酸デアミナーゼ(amino acid deaminase;AAD)は、アミノ酸を酸化的脱アミノ化する反応を触媒する酵素(EC 1.4.3.2)として知られている。本発明において用いられるAADは、少なくともL-フェニルアラニンを基質とする。本発明において用いられるAADは、L-フェニルアラニンを基質とする限り、他のアミノ酸を基質としてもよく、しなくてもよい。すなわち、本発明において、「AAD」とは、L-フェニルアラニンを酸化的脱アミノ化してフェニルピルビン酸を生成する反応、すなわちL-フェニルアラニンと水と酸素からフェニルピルビン酸と過酸化水素とアンモニアを生成する反応、を触媒する活性を有するタンパク質をいう。また、本発明において、同活性を「AAD活性」ともいう。AADをコードする遺伝子を「AAD遺伝子」ともいう。「AAD」は、「アミノ酸オキシダーゼ(amino acid oxidase)」または「L-フェニルアラニンオキシダーゼ(L-phenylalanine ox
idase)」と呼ばれる場合もある。AADとしては、プロビデンシア・レットゲリ(Providencia rettgeri)等のProvidencia属細菌のAAD(WO2009/028338)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)等のProteus属細菌のAAD(Massad G et al., Proteus mirabilis amino acid deaminase: cloning, nucleotide sequence, and characterization of aad. J Bacteriol. 1995 Oct;177(20):5878-83.)、その他各種生物のAADが挙げられる。Providencia rettgeriとしては、Providencia rettgeri AJ2770株(FERM BP-941)やIFO13501株が挙げられる。Providencia rettgeri AJ2770株(FERM BP-941)のAAD遺伝子の塩基配列を配列番号11に、同遺伝子がコードするAADのアミノ酸配列を配列番号12に、それぞれ示す。なお、配列番号11に示すAAD遺伝子は、実施例で用いたもので、改変型である。Providencia rettgeri AJ2770株(FERM BP-941)の野生型AAD遺伝子の塩基配列を配列番号31に示す。同野生型AAD遺伝子がコードするAADのアミノ酸配列は、前記改変型AAD遺伝子がコードするAADのアミノ酸配列と同一(すなわち配列番号12)である。本発明の微生物は、1種のAADを有していてもよく、2種またはそれ以上のAADを有していてもよい。
AAD活性は、例えば、酸素の存在下で酵素を基質(L-フェニルアラニン)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(フェニルピルビン酸)の生成を測定することにより、測定できる(Massad G et al., Proteus mirabilis amino acid deaminase: cloning, nucleotide sequence, and characterization of aad. J Bacteriol. 1995 Oct;177(20):5878-83.)。フェニルピルビン酸の生成は、例えば、フェニルピルビン酸と鉄イオンとの錯体形成による発色を614nmの吸光度の増加として測定することにより、測定できる(Ibid.)。
4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(4-hydroxymandelate synthase;HMAS)は、4
-ヒドロキシフェニルピルビン酸等のα-ケト酸を酸化的脱炭酸する反応を触媒する酵素
(EC 1.13.11.46)として知られている。本発明において用いられるHMASは、少なくとも
フェニルピルビン酸を基質とする。本発明において用いられるHMASは、フェニルピルビン酸を基質とする限り、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸等の他のα-ケト酸を基質としてもよく、しなくてもよい。すなわち、本発明において、「HMAS」とは、フェニルピルビン酸を酸化的脱炭酸して(S)-マンデル酸を生成する反応、すなわちフェニルピルビン酸と酸素から(S)-マンデル酸と二酸化炭素を生成する反応、を触媒する活性を有するタンパク質をいう。また、本発明において、同活性を「HMAS活性」ともいう。HMASをコードする遺伝子を「HMAS遺伝子」ともいう。HMASとしては、アミコラトプシス・オリエンタリス(Amycolatopsis orientalis)やアミコラトプシス・バリヒミシナ(Amycolatopsis balhimycina)等のAmycolatopsis属細菌のHMAS、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・トヨセンシス(Streptomyces toyocaensis)、ストレプトマイセス・リモサス(Streptomyces rimosus)等のStreptomyces属細菌
のHMAS、ロドコッカス・ロドニー(Rhodococcus rhodnii)等のRhodococcus属細菌のHMAS、アクチノプラネス・テイコマイセティカス(Actinoplanes teichomyceticus)、アクチノプラネス・レクチリネタス(Actinoplanes rectilineatus)、アクチノプラネス・サブトロピカス(Actinoplanes subtropicus)等のActinoplanes属細菌のHMAS、キブデロスポランジウム・アリダム(Kibdelosporangium aridum)等のKibdelosporangium属細菌のHMAS、ノノムレア・コキセンシス(Nonomuraea coxensis)等のNonomuraea属細菌のHMAS、ヘルペトシフォン・オーランティアクス(Herpetosiphon aurantiacus)等のHerpetosiphon属細菌のHMAS、その他各種生物のHMASが挙げられる。Amycolatopsis orientalis、Streptomyces coelicolor、Streptomyces toyocaensis、Rhodococcus rhodnii、Actinoplanes teichomyceticus、Amycolatopsis balhimycina、Kibdelosporangium aridum、Nonomuraea coxensis、Actinoplanes rectilineatus、Actinoplanes subtropicus、Streptomyces rimosus、Herpetosiphon aurantiacusのHMAS遺伝子の塩基配列(E. coliでの発現用にコドン使用頻度を至適化したもの)を配列番号13、15、17、19、21、32、34、36、38、40、42、44に、同遺伝子がコードするHMASのアミノ酸配列を配列番号14、16、18、20、22、33、35、37、39、41、43、45に、それぞれ示す。本発明の微生物は、1種のHMASを有していてもよく、2種またはそれ以上のHMASを有していてもよい。一態様において、HMASからは、配列番号35および39のアミノ酸配列を有するHMASが除外されてもよい。また、別の態様において、HMASからは、配列番号14、16、35、および39のアミノ酸配列を有するHMASが除外されてもよい。同様に、HMAS遺伝子からは、配列番号35および39のアミノ酸配列を有するHMASをコードするHMAS遺伝子または配列番号14、16、35、および39のアミノ酸配列を有するHMASをコードするHMAS遺伝子が除外されてもよい。
HMAS活性は、例えば、酸素の存在下で酵素を基質(フェニルピルビン酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物((S)-マンデル酸)の生成を測定することにより、測定できる(Sun Z et al., Metabolic engineering of the L-phenylalanine pathway in Escherichia coli for the production of S- or R-mandelic acid. Microb Cell Fact. 2011 Sep 13;10:71.)。
「(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ((S)-mandelate dehydrogenase;SMDH)」とは、電子受容体の存在下で、(S)-マンデル酸を酸化してベンゾイル蟻酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 1.1.99.31)。同活性を「SMDH活性」ともいう。SMDHをコードする遺伝子を「SMDH遺伝子」ともいう。SMDHとしては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のPseudomonas属細菌のmdlB遺伝子にコードされるMdlBタンパク質、その他各種生物のSMDHが挙げられる。Pseudomonas putidaのmdlB遺伝子(SMDH遺伝子)の塩基配列を配列番号27に、同遺伝子がコードするMdlBタンパク質(SMDH)のアミノ酸配列を配列番号28に、それぞれ示す。本発明の微生物は、1種のSMDHを有していてもよく、2種またはそれ以上のSMDHを有していてもよい。
SMDH活性は、例えば、NADの存在下で酵素を基質((S)-マンデル酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的なNADの還元を測定することにより、測定できる(B.S. Al-Baharna and R.Y. Hamzah, Aerobic metabolism of mandelates by Burkholderia cepacia ATTC 29351. Arab J. Biotech., Vol. 6, No.(1) Jan. (2003): 13-28.)。また、SMDH活性は、例えば、フェナジンメトサルフェート(PMS)とジクロロインドフェノール(DCIP)の存在下で酵素を基質((S)-マンデル酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的なDCIPの還元を測定することにより、測定できる(Ibid.)。また、SMDH活性は、例えば、リン酸ナトリウム-クエン酸緩衝液中、フェリシアン化カリウムの存在下で酵素を基質((S)-マンデル酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的なフェリシアン化カリウムの還元を測定することにより、測定できる(Peng Wang et
al., Immobilization of (S)-mandelate dehydrogenase and its catalytic performance on stereoselective transformation of mandelic acid. Journal of the Taiwan Institute of Chemical Engineers Volume 45, Issue 3, May 2014, Pages 744-748.)。
「ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼ(Benzoylformate decarboxylase;BFDC)」とは、ベンゾイル蟻酸を脱炭酸してベンズアルデヒドを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 4.1.1.7)。同活性を「BFDC活性」ともいう。BFDCをコードする遺伝子を「BFDC遺伝子」ともいう。BFDCとしては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のPseudomonas属細菌のmdlC遺伝子にコードされるMdlCタンパク質、その他各種生物のBFDCが挙げられる。Pseudomonas putidaのmdlC遺伝子(BFDC遺伝子)の塩基配列を配列番号29に、同遺伝子がコードするMdlCタンパク質(BFDC)のアミノ酸配列を配列番号30に、それぞれ示す。本発明の微生物は、1種のBFDCを有していてもよく、2種またはそれ以上のBFDCを有していてもよい。
BFDC活性は、例えば、酵素を基質(ベンゾイル蟻酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(ベンズアルデヒド)の生成を測定することにより、測定できる(Park, J.K. and Jung, J.Y., Production of benzaldehyde by encapsulated whole-cell benzoylformate decarboxylase, Enzyme Microb Technol, 30, 726-733, 2002.)。
すなわち、ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子は、それぞれ、例えば、上記例示した塩基配列を有する遺伝子であってよい。また、ベンズアルデヒド生成酵素は、それぞれ、例えば、上記例示したアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。なお、「(アミノ酸または塩基)配列を有する」という表現は、当該「(アミノ酸または塩基)配列を含む」場合および当該「(アミノ酸または塩基)配列からなる」場合を包含する。
ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子は、元の機能が維持されている限り、それぞれ、上記例示したベンズアルデヒド生成酵素遺伝子のバリアントであってもよい。同様に、ベンズアルデヒド生成酵素は、元の機能が維持されている限り、それぞれ、上記例示したベンズアルデヒド生成酵素のバリアントであってもよい。なお、そのような元の機能が維持されたバリアントを「保存的バリアント」という場合がある。保存的バリアントとしては、例えば、上記例示したベンズアルデヒド生成酵素遺伝子やベンズアルデヒド生成酵素のホモログや人為的な改変体が挙げられる。
「元の機能が維持されている」とは、遺伝子またはタンパク質のバリアントが、元の遺伝子またはタンパク質の機能(活性や性質)に対応する機能(活性や性質)を有することをいう。遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントが、元の機能が維持されたタンパク質をコードすることをいう。すなわち、AAD遺伝子、HMAS遺伝子、SMDH遺伝子、およびBFDC遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントが、それぞれ、AAD活性、HMAS活性、SMDH活性、およびBFDC活性を有するタンパク質をコードすることをいう。また、AAD、HMAS、SMDH、およびBFDCについての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントが、それぞれ、AAD活性、HMAS活性、SMDH活性、およびBFDC活性を有することをいう。
以下、保存的バリアントについて例示する。
ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子のホモログまたはベンズアルデヒド生成酵素のホモログは、例えば、上記例示したベンズアルデヒド生成酵素遺伝子の塩基配列または上記例示したベンズアルデヒド生成酵素のアミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから容易に取得することができる。また、ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子のホモログは、例えば、細菌や酵母等の生物の染色体を鋳型にして、上記例示したベンズアルデヒド生成酵素遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより取得することができる。
ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子は、元の機能が維持されている限り、それぞれ、上記アミノ酸配列(例えば、AADについて配列番号12に示すアミノ酸配列、HMASについて配
列番号14、16、18、20、22、33、35、37、39、41、43、または45に示すアミノ酸配列、SMDHについて配列番号28に示すアミノ酸配列、BFDCについて配列番号30に示すアミノ酸配列)において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするものであってもよい。例えば、コードされるタンパク質は、そのN末端および/またはC末端が、延長または短縮されていてもよい。なお上記「1又は数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には
、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個を意味する。
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、および/または付加は、タンパク質の機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加等には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
また、ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子は、元の機能が維持されている限り、それぞれ、上記アミノ酸配列全体に対して、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。尚、本明細書において、「相同性」(homology)は、「同一性」(identity)を意味する。具体的には、配列番号22の場合、同一性は95%以上であってもよい。
また、ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子は、元の機能が維持されている限り、それぞれ、上記塩基配列(例えば、AAD遺伝子について配列番号11に示す塩基配列、HMAS遺伝子について配列番号13、15、17、19、21、32、34、36、38、40、42、または44に示す塩基配列、SMDH遺伝子について配列番号27に示す塩基配列、BFDC遺伝子について配列番号29に示す塩基配列)から調製され得るプローブ、例えば上記塩基配列の全体または一部に対する相補配列、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子(例えばDNA)であってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2~3回洗浄する条件を挙げることができる。
上述の通り、上記ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、遺伝子の相補配列の一部であってもよい。そのようなプローブは、公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、上述の遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとしては、300 bp程度の長さのDNA断片を用いることができる。プローブとして300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
また、宿主によってコドンの縮重性が異なるので、ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子は、任意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。すなわち、ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子は、上記例示したベンズアルデヒド生成酵素遺伝子の、遺伝コードの縮重によるバリアントであってもよい。例えば、ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子は、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。
2つの配列間の配列同一性のパーセンテージは、例えば、数学的アルゴリズムを用いて決定できる。このような数学的アルゴリズムの限定されない例としては、Myers 及び Miller (1988) CABIOS 4:11 17のアルゴリズム、Smith et al (1981) Adv. Appl. Math. 2:482の局所ホモロジーアルゴリズム、Needleman及びWunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443 453のホモロジーアライメントアルゴリズム、Pearson及びLipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. 85:2444 2448の類似性を検索する方法、Karlin 及びAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873 5877に記載されているような、改良された、Karlin及びAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264のアルゴリズムが挙げられる。
これらの数学的アルゴリズムに基づくプログラムを利用して、配列同一性を決定するための配列比較(アラインメント)を行うことができる。プログラムは、適宜、コンピュータにより実行することができる。このようなプログラムとしては、特に限定されないが、PC/GeneプログラムのCLUSTAL(Intelligenetics, Mountain View, Calif.から入手可能)、ALIGNプログラム(Version 2.0)、並びにWisconsin Genetics Software Package, Version 8(Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Drive, Madison, Wis., USAから入手可能)のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、及びTFASTAが挙げられる。これらのプログラムを用いたアライメントは、例えば、初期パラメーターを用いて行うことができる。CLUSTALプログラムについては、HigGlns et al. (1988) Gene 73:237 244 (1988)、HigGlns et al. (1989) CABIOS 5:151 153、Corpet et al. (1988) Nucleic Acids Res. 16:10881 90、Huang et al. (1992) CABIOS 8:155 65、及びPearson et al. (1994) Meth. Mol. Biol. 24:307 331によく記載されている。
対象のタンパク質をコードするヌクレオチド配列と相同性があるヌクレオチド配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTヌクレオチド検索を、BLASTNプログラム、スコア=100、ワード長=12にて行うことができる。対象のタンパク質と相同性があるアミノ酸配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTタンパク質検索を、BLASTXプログラム、スコア=50、ワード長=3にて行うことができる。BLASTヌクレオチド検索やBLASTタンパク質検索については、http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。また、比較を目的としてギャップを加えたアライメントを得るために、Gapped BLAST(BLAST 2.0)を利用できる。また、PSI-BLASTを、配列間の離間した関係を検出する反復検索を行うのに利用できる。Gapped BLASTおよびPSI-BLASTについては、Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389を参照されたい。BLAST、Gapped BLAST、またはPSI-BLASTを利用する場合、例えば、各プログラム(例えば、ヌクレオチド配列に対してBLASTN、アミノ酸配列に対してBLASTX)の初期パラメーターが用いられ得る。アライメントは、手動にて行われてもよい。
2つの配列間の配列同一性は、2つの配列を最大一致となるように整列したときに2つの配列間で一致する残基の比率として算出される。
HMASとしては、さらに、「特定の変異」を有するHMASが挙げられる。また、HMAS遺伝子としては、さらに、「特定の変異」を有するHMASをコードする遺伝子が挙げられる。「特定の変異」を有するHMASを、「変異型HMAS」ともいう。また、変異型HMASをコードする遺伝子を、「変異型HMAS遺伝子」ともいう。
「特定の変異」を有さないHMASを、「野生型HMAS」ともいう。また、野生型HMASをコードする遺伝子を、「野生型HMAS遺伝子」ともいう。なお、ここでいう「野生型」とは、「野生型」のHMASを「変異型」のHMASと区別するための便宜上の記載であり、天然に得られるものには限定されず、「特定の変異」を有さないあらゆるHMASを包含する。野生型HMASとしては、例えば、上記例示したHMASが挙げられる。また、上記例示したHMASの保存的バリアントは、「特定の変異」を有さない限り、いずれも野生型HMASに包含されるものとする。
変異型HMASは、「特定の変異」を有する以外は、野生型HMAS(例えば、上記例示したHMASやその保存的バリアント)と同一であってよい。すなわち、変異型HMASは、「特定の変異」を有する以外は、野生型HMASのアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。具体的には、例えば、変異型HMASは、「特定の変異」を有する以外は、配列番号22に示すアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。また、具体的には、例えば、変異型HMASは、「特定の変異」を有する以外は、配列番号22に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を含むアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。また、具体的には、例えば、変異型HMASは、「特定の変異」を有する以外は、配列番号22に示すアミノ酸配列に対して、50%以上、65%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。
野生型HMASとして用いられる保存的バリアントにおいて、保存的変異は「特定の変異」以外の箇所に生じてよい。すなわち、言い換えると、変異型HMASは、上記例示したHMASのアミノ酸配列において、「特定の変異」を有し、当該「特定の変異」以外の箇所にさらに保存的変異(例えば、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は付加)を含むアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。
「特定の変異」は、本発明の方法においてベンズアルデヒドの生産を増大させる変異等の、ベンズアルデヒドの生産に有効な変異であってよい。そのようなベンズアルデヒドの生産の増大は、例えば、HMASによる(S)-マンデル酸の生成が増大することに依拠してもよい。よって、「特定の変異」は、HMASによる(S)-マンデル酸の生成を増大させる変異であってもよい。
「特定の変異」としては、T2、M3、G5、Y18、A27、D35、E46、E180、A187、E191、V194、A199、D201、Q206、I217、D220、T222、G255、F319、G327、I336、K337、V343、Q347に相当するアミノ酸残基における変異が挙げられる。「特定の変異」は、1つのアミノ酸残基における変異であってもよく、2つまたはそれ以上のアミノ酸残基における変異の組み合わせであってもよい。すなわち、「特定の変異」は、例えば、T2、M3、G5、Y18、A27、D35、E46、E180、A187、E191、V194、A199、D201、Q206、I217、D220、T222、G255、F319、G327、I336、K337、V343、Q347からなる群より選択される1つまたはそれ以上のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基における変異を含んでいてもよく、そのような変異からなるものであってもよい。
アミノ酸残基を特定するための上記表記において、数字は配列番号22に示すアミノ酸配列における位置を、数字の左側の文字は配列番号22に示すアミノ酸配列における各位置のアミノ酸残基(すなわち、各位置の改変前のアミノ酸残基)を、各々示す。すなわち、例えば、「T2」とは、配列番号22に示すアミノ酸配列における2位のT(Thr)残基を示す。
上記各変異において、改変後のアミノ酸残基は、改変前のアミノ酸残基以外のいずれの
アミノ酸残基であってもよい。改変後のアミノ酸残基として、具体的には、K(Lys)、R(Arg)、H(His)、A(Ala)、V(Val)、L(Leu)、I(Ile)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、P(Pro)、F(Phe)、W(Trp)、Y(Tyr)、C(Cys)、M(Met)、D(Asp)、E(Glu)、N(Asn)、Q(Gln)の内、改変前のアミノ酸残基以外のものが挙げられる。改変後のアミノ酸残基としては、ベンズアルデヒドの生産に有効なものを選択してよい。
「特定の変異」として、具体的には、T2N、M3I、G5R、Y18F、A27V、D35G、E46Q、E180K、A187V、E191K、V194G、A199(S、V)、D201N、Q206R、I217(L、V)、D220(A、N)、T222S、G255D、F319Y、G327(D、S)、I336V、K337Q、V343M、Q347Lに相当する変異が挙げられる。すなわち、T2、M3、G5、Y18、A27、D35、E46、E180、A187、E191、V194、A199、D201、Q206、I217、D220、T222、G255、F319、G327、I336、K337、V343、Q347に相当するアミノ酸残基における変異は、例えば、それぞれ、T2N、M3I、G5R、Y18F、A27V、D35G、E46Q、E180K、A187V、E191K、V194G、A199(S、V)、D201N、Q206R、I217(L、V)、D220(A、N)、T222S、G255D、F319Y、G327(D、S)、I336V、K337Q、V343M、Q347Lに相当する変異であってよい。「特定の変異」は、例えば、T2N、M3I、G5R、Y18F、A27V、D35G、E46Q、E180K、A187V、E191K、V194G、A199(S、V)、D201N、Q206R、I217(L、V)、D220(A、N)、T222S、G255D、F319Y、G327(D、S)、I336V、K337Q、V343M、Q347Lからなる群より選択される1つまたはそれ以上の変異に相当する変異を含んでいてもよく、そのような変異からなるものであってもよい。
変異を特定するための上記表記において、数字およびその左側の文字の意味は前記と同様である。変異を特定するための上記表記において、数字の右側の文字は、各位置の改変後のアミノ酸残基を示す。すなわち、例えば、「T2N」とは、配列番号22に示すアミノ酸配列における2位のT(Thr)残基がN(Asn)残基に置換される変異を示す。また、例えば、「A199(S, V)」とは、配列番号22に示すアミノ酸配列における199位のA(Ala)残基がS(Ser)残基またはV(Val)残基に置換される変異を示す。
変異の組み合わせは特に制限されない。変異の組み合わせとして、具体的には、M3I/A199S/G255D、Y18F/D220N、A27V/E191K、D35G/E46Q/T222S/I336V、E180K/I217V/D220N、A187V/I217V、A199V/I217V/K337Q、D201N/I217V、I217V/F319Y、D220A/Q347Lが挙げられる。すなわち、「特定の変異」は、例えば、これらの組み合わせのいずれかに相当する変異を含んでいてもよく、そのような変異からなるものであってもよい。
組み合わせを特定するための上記表記において、数字およびその左側と右側の文字の意味は前記と同様である。組み合わせを特定するための上記表記において、「/」で区切られた2つまたはそれ以上の変異の併記は、二重変異またはそれ以上の多重変異を示す。すなわち、例えば、「M3I/A199S/G255D」は、M3IとA199SとG255Dの三重変異を示す。
「配列番号22に示すアミノ酸配列におけるX位のアミノ酸残基の変異に相当する変異」とは、配列番号22に示すアミノ酸配列におけるX位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基における変異と読み替えるものとする。すなわち、例えば、「T2Nに相当する変異」とは、T2に相当するアミノ酸残基がN(Asn)残基に置換される変異を示す。
アミノ酸配列における「X位」とは、アミノ酸配列のN末端から数えてX番目の位置をいい、N末端のアミノ酸残基が1位のアミノ酸残基である。上記変異の位置は相対的な位置を示すものであって、アミノ酸残基の欠失、挿入、付加などによってその絶対的な位置は変動してもよい。例えば、配列番号22に示すアミノ酸配列において、X位よりもN末端側の位置で1アミノ酸残基が欠失した、または挿入された場合、元のX位のアミノ酸残基は、それぞれ、N末端から数えてX-1番目またはX+1番目のアミノ酸残基となるが、「配列番号22に示すアミノ酸配列におけるX位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残
基」とみなされる。
上記変異における変異前のアミノ酸残基は典型例であり、それらには限定されない。例えば、「T2に相当するアミノ酸残基」は、典型的にはT(Thr)残基であってよいが、T(Thr)残基でなくてもよい。すなわち、野生型HMASが配列番号22以外のアミノ酸配列を有する場合、「T2に相当するアミノ酸残基」はT(Thr)残基でなくてもよい。よって、「T2Nに相当する変異」は、「「T2に相当するアミノ酸残基」がT(Thr)残基である場合に当該T(Thr)残基がN(Asn)残基に置換される変異に限られず、「T2に相当するアミノ酸残基」がK(Lys)、R(Arg)、H(His)、A(Ala)、V(Val)、L(Leu)、I(Ile)、G(Gly)、S(Ser)、P(Pro)、F(Phe)、W(Trp)、C(Cys)、M(Met)、D(Asp)、E(Glu)、またはQ(Gln)残基である場合に当該アミノ酸残基がN(Asn)残基に置換される変異も包含する。これは、他の変異にも準用できる。
任意のHMASのアミノ酸配列において、どのアミノ酸残基が「配列番号22に示すアミノ酸配列におけるX位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基」であるかは、当該任意のHMASのアミノ酸配列と配列番号22に示すアミノ酸配列とのアライメントを行うことにより決定できる。アライメントは、例えば、公知の遺伝子解析ソフトウェアを利用して行うことができる。そのようなソフトウェアとして、具体的には、日立ソリューションズ製のDNASISや、ゼネティックス製のGENETYXなどが挙げられる(Elizabeth C. Tyler et al., Computers and Biomedical Research, 24(1), 72-96, 1991;Barton GJ et al., Journal of molecular biology, 198(2), 327-37. 1987)。
本発明の微生物またはその各部分(すなわち、本発明の微生物を構成する、単一の微生物、または複数の微生物のそれぞれ)は、本来的にベンズアルデヒド生成酵素遺伝子を有するものであってもよく、ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子を有するように改変されたものであってもよい。本来的にベンズアルデヒド生成酵素遺伝子を有する微生物としては、上記のようなベンズアルデヒド生成酵素が由来する微生物が挙げられる。ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子を有するように改変された微生物としては、ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子が導入された微生物が挙げられる。また、本発明の微生物またはその各部分(すなわち、本発明の微生物を構成する、単一の微生物、または複数の微生物のそれぞれ)には、本発明の微生物またはその各部分が本来的に有するベンズアルデヒド生成酵素遺伝子に加えて、あるいは代えて、適当なベンズアルデヒド生成酵素遺伝子が導入されていてもよい。なお、ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子が導入されるおよび導入された微生物を総称して「宿主」ともいう。
ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子は、ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子を有する生物からのクローニングにより取得できる。クローニングには、同遺伝子を含むゲノムDNAやcDNA等の核酸を利用できる。また、ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子は、化学合成によっても取得できる(Gene, 60(1), 115-127 (1987))。
取得したベンズアルデヒド生成酵素遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して利用してよい。例えば、取得したベンズアルデヒド生成酵素遺伝子を適宜改変してそのバリアントを取得することができる。遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的の変異を導入することができる。すなわち、例えば、部位特異的変異法により、コードされるタンパク質の特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、および/または付加を含むように、遺伝子のコード領域を改変することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol.,
154, 367 (1987))が挙げられる。
変異型HMAS遺伝子は、例えば、野生型HMAS遺伝子を、コードされるHMASが「特定の変異」を有するよう改変することにより取得できる。そのような改変は、部位特異的変異法等の公知の手法により行うことができる。あるいは、変異型HMAS遺伝子は、野生型HMAS遺伝子を介さずに取得することもできる。変異型HMAS遺伝子は、例えば、化学合成により直接取得してもよい。取得した変異型HMAS遺伝子は、そのまま、あるいはさらに改変して利用してよい。
ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子を宿主に導入する手法は特に制限されない。ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子は、発現可能に宿主に保持されていればよい。ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子は、「タンパク質の活性を増大させる手法」において後述する遺伝子の導入と同様にして微生物に導入することができる。
また、微生物が染色体等に既にHMAS遺伝子を有している場合、染色体等に存在するHMAS遺伝子に「特定の変異」を導入することにより、変異型HMAS遺伝子を有するように微生物を改変することもできる。変異は、例えば、自然変異、変異処理、または遺伝子工学により染色体等に存在する遺伝子に導入することができる。
本発明の微生物は、本来的にL-フェニルアラニン生産能を有するものであってもよく、L-フェニルアラニン生産能を有するように改変されたものであってもよい。L-フェニルアラニン生産能を有する微生物は、例えば、上記のような微生物にL-フェニルアラニン生産能を付与することにより、または、上記のような微生物のL-フェニルアラニン生産能を増強することにより、取得できる。
以下、L-フェニルアラニン生産能を付与または増強する方法について具体的に例示する。なお、以下に例示するようなL-フェニルアラニン生産能を付与または増強するための改変は、いずれも、単独で用いてもよく、適宜組み合わせて用いてもよい。
L-フェニルアラニン生産能を付与または増強する方法としては、L-フェニルアラニン生合成酵素の活性を増大させる方法が挙げられる。すなわち、本発明の微生物は、L-フェニルアラニン生合成酵素の活性が増大するように改変されていてよい。1種のL-フェニルアラニン生合成酵素の活性が増大してもよく、2種またはそれ以上のL-フェニルアラニン生合成酵素の活性が増大してもよい。タンパク質(酵素等)の活性を増大させる手法については後述する。タンパク質(酵素等)の活性は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を増大させることにより、増大させることができる。
L-フェニルアラニン生合成酵素としては、3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ(3-deoxy-D-arabino-heptulosonic acid 7-phosphate synthase;aroF, aroG, aroH)、3-デヒドロキナ酸シンターゼ(3-dehydroquinate synthase;aroB)、3-デヒドロキナ酸デヒドラターゼ(3-dehydroquinate dehydratase;aroD)、シキミ酸デヒドロゲナーゼ(shikimate dehydrogenase;aroE)、シキミ酸キナーゼ(shikimate kinase;aroK, aroL)、5-エノールピルビルシキミ酸3-リン酸シンターゼ(5-enolpyruvylshikimate-3-phosphate synthase;aroA)、コリスミ酸シンターゼ(chorismate synthase;aroC)等の芳香族アミノ酸に共通の生合成酵素や、コリスミ酸ムターゼ(chorismate mutase;pheA)、プレフェン酸デヒドラターゼ(prephenate dehydratase;pheA)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(tyrosine amino transferase;tyrB)が挙げられる。酵素名の後ろの括弧内には、各酵素をコードする遺伝子名の一例を示す(以下、同じ)。コリスミ酸ムターゼおよびプレフェン酸デヒドラターゼは、二機能酵素としてpheA遺伝子にコードされてよい。DAHP synthase、3-dehydroquinate synthase、3-
dehydroquinate dehydratase等のいくつかのL-フェニルアラニン生合成酵素をコードする遺伝子の発現は、tyrR遺伝子にコードされるチロシンリプレッサーtyrRによって抑制され得る。よって、L-フェニルアラニン生合成酵素の活性は、例えば、チロシンリプレッサーtyrRの活性を低下させることにより、増大させることができる。また、いくつかのL-フェニルアラニン生合成酵素は、L-フェニルアラニン等の芳香族アミノ酸によるフィードバック阻害を受け得る。例えば、二機能性コリスミ酸ムターゼ-プレフェン酸デヒドラターゼは、L-フェニルアラニンによるフィードバック阻害を受け得る。よって、L-フェニルアラニン生合成酵素の活性は、例えば、そのようなフィードバック阻害が解除された変異型L-フェニルアラニン生合成酵素をコードする遺伝子を用いることにより、増大させることができる。
また、L-フェニルアラニン生産能を付与または増強する方法としては、L-フェニルアラニン以外の物質の副生に関与する酵素の活性を低下させる方法が挙げられる。そのようなL-フェニルアラニン以外の物質を、「副生物」ともいう。副生物としては、L-チロシンやL-トリプトファン等の、他の芳香族アミノ酸が挙げられる。L-チロシンの副生に関与する酵素としては、二機能性酵素であるコリスミ酸ムターゼ-プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(chorismate mutase-prephenate dehydrogenase;tyrA)が挙げられる。
L-フェニルアラニン生産菌またはそれを誘導するための親株として、具体的には、例えば、コリスミ酸ムターゼ-プレフェン酸デヒドロゲナーゼ及びチロシンリプレッサーを欠損したE. coli AJ12739(tyrA::Tn10, tyrR)(VKPM B-8197;WO03/044191)、コリスミ酸ムターゼ-プレフェン酸デヒドロゲナーゼ及びチロシンリプレッサーを欠損し、フィードバック阻害が解除された3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼをコードする変異型aroG遺伝子、フィードバック阻害が解除されたコリスミ酸ムターゼ-プレフェン酸デヒドラターゼをコードする変異型pheA遺伝子、及びシキミ酸キナーゼをコードするaroL遺伝子を有するE. coli AJ12741(JP H05-344881 A)、フィードバック阻害が解除されたコリスミ酸ムターゼ-プレフェン酸デヒドラターゼをコードするpheA34遺伝子を保持するE. coli HW1089(ATCC 55371;米国特許第5,354,672号)、E. coli MWEC101-b(KR8903681)、E. coli NRRL B-12141、NRRL B-12145、NRRL B-12146、NRRL B-12147(米国特許第4,407,952号)が挙げられる。また、L-フェニルアラニン生産菌またはそれを誘導するための親株として、具体的には、例えば、フィードバック阻害が解除されたコリスミ酸ムターゼ-プレフェン酸デヒドラターゼをコードする遺伝子を保持するE. coli K-12 <W3110 (tyrA)/pPHAB>(FERM BP-3566)、E. coli K-12 <W3110 (tyrA)/pPHAD>(FERM BP-12659)、E. coli K-12 <W3110 (tyrA)/pPHATerm>(FERM BP-12662)、E. coli K-12 AJ 12604 <W3110 (tyrA)/pBR-aroG4, pACMAB>(FERM BP-3579)も挙げられる(EP 488424 B1)。また、L-フェニルアラニン生産菌またはそれを誘導するための親株として、具体的には、例えば、yedA遺伝子またはyddG遺伝子にコードされるタンパク質の活性が増大したエシェリヒア属に属する株も挙げられる(US2003-0148473A, US2003-0157667A, WO03/044192)。L-フェニルアラニン生産菌またはそれを誘導するための親株として、具体的には、例えば、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(phosphoenolpyruvate carboxylase)またはピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase)の活性が低下したCorynebacterium glutamicum株であるBPS-13(FERM BP-1777)、K77(FERM BP-2062)、K78(FERM BP-2063)(EP 331145 A, JP H02-303495 A)や、コリネ型細菌のチロシン要求性株(JP H05-049489 A)も挙げられる。
L-フェニルアラニン生産能を有する微生物の育種に使用される遺伝子およびタンパク質は、それぞれ、例えば、公知の塩基配列およびアミノ酸配列を有していてよい。また、L-フェニルアラニン生産能を有する微生物の育種に使用される遺伝子およびタンパク質は、それぞれ、公知の塩基配列およびアミノ酸配列を有する遺伝子およびタンパク質の保存的バリアントであってもよい。具体的には、例えば、L-フェニルアラニン生産能を有
する微生物の育種に使用される遺伝子は、元の機能(すなわち、酵素活性等)が維持されている限り、タンパク質の公知のアミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。遺伝子およびタンパク質の保存的バリアントについては、上述したベンズアルデヒド生成酵素遺伝子およびベンズアルデヒド生成酵素の保存的バリアントに関する記載を準用できる。
また、本発明の微生物は、ベンズアルデヒドを製造できる限り、その他の任意の改変を有していてよい。
本発明の微生物を構築するための改変の順序は特に制限されない。
<1-2>タンパク質の活性を増大させる手法
以下に、タンパク質の活性を増大させる手法(遺伝子を導入する手法も含む)について説明する。
「タンパク質の活性が増大する」とは、同タンパク質の活性が非改変株と比較して増大することを意味する。「タンパク質の活性が増大する」とは、具体的には、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株に対して増大していることを意味してよい。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が増大するように改変されていない対照株を意味する。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には、各微生物種の基準株(type strain)が挙げられる。また、非改変株として、具体的には、微生物の説明において例示した菌株も挙げられる。すなわち、一態様において、タンパク質の活性は、基準株(すなわち微生物が属する種の基準株)と比較して増大してよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13869株と比較して増大してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13032株と比較して増大してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、E. coli K-12 MG1655株と比較して増大してもよい。なお、「タンパク質の活性が増大する」ことを、「タンパク質の活性が増強される」ともいう。「タンパク質の活性が増大する」とは、より具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が増加していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が増大していることを意味してよい。すなわち、「タンパク質の活性が増大する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。また、「タンパク質の活性が増大する」ことには、もともと標的のタンパク質の活性を有する菌株において同タンパク質の活性を増大させることだけでなく、もともと標的のタンパク質の活性が存在しない菌株に同タンパク質の活性を付与することも包含される。また、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、宿主が本来有する標的のタンパク質の活性を低下または消失させた上で、好適な標的のタンパク質の活性を付与してもよい。
タンパク質の活性の増大の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して増大していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、非改変株が標的のタンパク質の活性を有していない場合は、同タンパク質をコードする遺伝子を導入することにより同タンパク質が生産されていればよいが、例えば、同タンパク質はその活性が測定できる程度に生産されていてよい。
タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を上昇させることによって達成できる。「遺伝子の発現が上昇する」とは、同遺伝子の発現が野生株や親株等の非改変株と比較して増大することを意味する。「遺伝子の発
現が上昇する」とは、具体的には、同遺伝子の細胞当たりの発現量が非改変株と比較して増大することを意味してよい。「遺伝子の発現が上昇する」とは、より具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が増大すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が増大することを意味してよい。なお、「遺伝子の発現が上昇する」ことを、「遺伝子の発現が増強される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、「遺伝子の発現が上昇する」ことには、もともと標的の遺伝子が発現している菌株において同遺伝子の発現量を上昇させることだけでなく、もともと標的の遺伝子が発現していない菌株において、同遺伝子を発現させることも包含される。すなわち、「遺伝子の発現が上昇する」とは、例えば、標的の遺伝子を保持しない菌株に同遺伝子を導入し、同遺伝子を発現させることを意味してもよい。
遺伝子の発現の上昇は、例えば、遺伝子のコピー数を増加させることにより達成できる。
遺伝子のコピー数の増加は、宿主の染色体へ同遺伝子を導入することにより達成できる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(Miller, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。相同組み換えを利用する遺伝子導入法としては、例えば、Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))等の直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法、ファージを用いたtransduction法が挙げられる。遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数のコピーが存在する配列としては、反復DNA配列(repetitive DNA)、トランスポゾンの両端に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。また、目的物質の生産に不要な遺伝子等の染色体上の適当な配列を標的として相同組み換えを行ってもよい。また、遺伝子は、トランスポゾンやMini-Muを用いて染色体上にランダムに導入することもできる(特開平2-109985号公報、US5,882,888、EP805867B1)。
染色体上に標的遺伝子が導入されたことの確認は、同遺伝子の全部又は一部と相補的な配列を持つプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、又は同遺伝子の配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCR等によって確認できる。
また、遺伝子のコピー数の増加は、同遺伝子を含むベクターを宿主に導入することによっても達成できる。例えば、標的遺伝子を含むDNA断片を、宿主で機能するベクターと連結して同遺伝子の発現ベクターを構築し、当該発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同遺伝子のコピー数を増加させることができる。標的遺伝子を含むDNA断片は、例えば、標的遺伝子を有する微生物のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得できる。ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであるのが好ましい。また、形質転換体を選択するために、ベクターは抗生物質耐性遺伝子などのマーカーを有することが好ましい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するためのプロモーターやターミネーターを備えていてもよい。ベクターは、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等であってよい。エシェリヒア・コリ等の腸内細菌科の細菌において自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、pBR322、pSTV29(いずれもタカラバイオ社より入手可)、pACYC184、pMW219(ニッポンジーン社)
、pTrc99A(ファルマシア社)、pPROK系ベクター(クロンテック社)、pKK233‐2(クロンテック社)、pET系ベクター(ノバジェン社)、pQE系ベクター(キアゲン社)、pCold TF DNA(タカラバイオ社)、pACYC系ベクター、広宿主域ベクターRSF1010が挙げられる。コリネ型細菌で自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pHM1519(Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));pAM330(Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));これらを改良した薬剤耐性遺伝子を有するプラスミド;pCRY30(特開平3-210184);pCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE、およびpCRY3KX(特開平2-72876、米国特許5,185,262号);pCRY2およびpCRY3(特開平1-191686);pAJ655、pAJ611、およびpAJ1844(特開昭58-192900);pCG1(特開昭57-134500);pCG2(特開昭58-35197);pCG4およびpCG11(特開昭57-183799);pVK7(特開平10-215883);pVK9(WO2007/046389);pVS7(WO2013/069634);pVC7(特開平9-070291)が挙げられる。
遺伝子を導入する場合、遺伝子は、発現可能に宿主に保持されていればよい。具体的には、遺伝子は、宿主で機能するプロモーターによる制御を受けて発現するように保持されていればよい。「宿主において機能するプロモーター」とは、宿主においてプロモーター活性を有するプロモーターをいう。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、導入する遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターとしては、例えば、後述するような、より強力なプロモーターを利用してもよい。
遺伝子の下流には、転写終結用のターミネーターを配置することができる。ターミネーターは、宿主において機能するものであれば特に制限されない。ターミネーターは、宿主由来のターミネーターであってもよく、異種由来のターミネーターであってもよい。ターミネーターは、導入する遺伝子の固有のターミネーターであってもよく、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。ターミネーターとして、具体的には、例えば、T7ターミネーター、T4ターミネーター、fdファージターミネーター、tetターミネーター、およびtrpAターミネーターが挙げられる。
各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターに関しては、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。
また、2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合、各遺伝子が、発現可能に宿主に保持されていればよい。例えば、各遺伝子は、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。また、各遺伝子は、複数の発現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持されていてもよい。また、2またはそれ以上の遺伝子でオペロンを構成して導入してもよい。「2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合」としては、例えば、2またはそれ以上のタンパク質(例えば酵素)をそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、単一のタンパク質複合体(例えば酵素複合体)を構成する2またはそれ以上のサブユニットをそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
導入される遺伝子は、宿主で機能するタンパク質をコードするものであれば特に制限されない。導入される遺伝子は、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよい。導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用い、同遺伝子を有する生物のゲノムDNAや同遺伝子を搭載するプラスミド等を鋳型として、PCRにより取得することができる。また、導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて全合成してもよい(Gene, 60(1), 115-127 (1987))。取得した遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。すなわち、遺伝子を改変することにより、そのバリアントを取得することができる。遺伝子の改変は公
知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的の変異を導入することができる。すなわち、例えば、部位特異的変異法により、コードされるタンパク質が特定の部位においてアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むように、遺伝子のコード領域を改変することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer, W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。あるいは、遺伝子のバリアントを全合成してもよい。
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、それら複数のサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、遺伝子の発現を上昇させることによりタンパク質の活性を増大させる場合、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強してもよく、一部の発現のみを増強してもよい。通常は、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強するのが好ましい。また、複合体を構成する各サブユニットは、複合体が標的のタンパク質の機能を有する限り、1種の生物由来であってもよく、2種またはそれ以上の異なる生物由来であってもよい。すなわち、例えば、複数のサブユニットをコードする、同一の生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよく、それぞれ異なる生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよい。
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の転写効率を向上させることにより達成できる。また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の翻訳効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の転写効率や翻訳効率の向上は、例えば、発現調節配列の改変により達成できる。「発現調節配列」とは、遺伝子の発現に影響する部位の総称である。発現調節配列としては、例えば、プロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、およびRBSと開始コドンとの間のスペーサー領域が挙げられる。発現調節配列は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することができる。これら発現調節配列の改変は、例えば、温度感受性ベクターを用いた方法や、Redドリブンインテグレーション法(WO2005/010175)により行うことができる。
遺伝子の転写効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することにより達成できる。「より強力なプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも向上するプロモーターを意味する。より強力なプロモーターとしては、例えば、公知の高発現プロモーターであるT7プロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、thrプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、tetプロモーター、araBADプロモーター、rpoHプロモーター、msrAプロモーター、Bifidobacterium由来のPm1プロモーター、PRプロモーター、およびPLプロモーターが挙げられる。また、コリネ型細菌で利用できるより強力なプロモーターとしては、例えば、人為的に設計変更されたP54-6プロモーター(Appl. Microbiol. Biotechnol.,
53, 674-679(2000))、コリネ型細菌内で酢酸、エタノール、ピルビン酸等で誘導できるpta、aceA、aceB、adh、amyEプロモーター、コリネ型細菌内で発現量が多い強力なプロモーターであるcspB、SOD、tuf(EF-Tu)プロモーター(Journal of Biotechnology 104 (2003) 311-323, Appl Environ Microbiol. 2005 Dec;71(12):8587-96.)、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーターが挙げられる。また、より強力なプロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得してもよい。例えば、プロモーター領域内の-35、-10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(国際公開第00/18935号)。高活性型プロモーターとしては、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et al. Ru
ssian Federation Patent application 2006134574)が挙げられる。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters
in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のシャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)をより強力なSD配列に置換することにより達成できる。「より強力なSD配列」とは、mRNAの翻訳が、もともと存在している野生型のSD配列よりも向上するSD配列を意味する。より強力なSD配列としては、例えば、ファージT7由来の遺伝子10のRBSが挙げられる(Olins P. O. et al, Gene,
1988, 73, 227-235)。さらに、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域、特に開始コドンのすぐ上流の配列(5’-UTR)における数個のヌクレオチドの置換、あるいは挿入、あるいは欠失がmRNAの安定性および翻訳効率に非常に影響を及ぼすことが知られており、これらを改変することによっても遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、コドンの改変によっても達成できる。例えば、遺伝子中に存在するレアコドンを、より高頻度で利用される同義コドンに置き換えることにより、遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。すなわち、導入される遺伝子は、例えば、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。コドンの置換は、例えば、DNAの目的の部位に目的の変異を導入する部位特異的変異法により行うことができる。また、コドンが置換された遺伝子断片を全合成してもよい。種々の生物におけるコドンの使用頻度は、「コドン使用データベース」(http://www.kazusa.or.jp/codon; Nakamura, Y. et al, Nucl. Acids Res., 28, 292 (2000))に開示されている。
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅すること、または、遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成できる。
上記のような遺伝子の発現を上昇させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
また、タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、酵素の比活性を増強することによっても達成できる。比活性の増強には、フィードバック阻害の脱感作(desensitization to feedback inhibition)も含まれる。すなわち、タンパク質が代謝物によるフィードバック阻害を受ける場合は、フィードバック阻害が脱感作された変異型タンパク質をコードする遺伝子を宿主に保持させることにより、タンパク質の活性を増大させることができる。なお、本発明において、「フィードバック阻害の脱感作」には、特記しない限り、フィードバック阻害が完全に解除される場合、および、フィードバック阻害が低減される場合が包含される。また、「フィードバック阻害が脱感作されている」(すなわちフィードバック阻害が低減又は解除されている)ことを「フィードバック阻害に耐性」ともいう。比活性が増強されたタンパク質は、例えば、種々の生物を探索し取得することができる。また、在来のタンパク質に変異を導入することで高活性型のものを取得してもよい。導入される変異は、例えば、タンパク質の1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されるものであってよい。変異の導入は、例えば、上述したような部位特異的変異法により行うことができる。また、変異の導入は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。また、in vitroでDNAを直接ヒドロキシルアミンで処理し、ラン
ダム変異を誘発してもよい。比活性の増強は、単独で用いてもよく、上記のような遺伝子の発現を増強する手法と任意に組み合わせて用いてもよい。
形質転換の方法は特に限定されず、従来知られた方法を用いることができる。例えば、エシェリヒア・コリ K-12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel, M. and Higa, A., J. Mol. Biol. 1970, 53, 159-162)や、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan, C. H., Wilson, G. A. and Young, F. E., 1977. Gene 1: 153-167)を用いることができる。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類、及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S. and Choen, S. N., 1979. Mol. Gen. Genet. 168: 111-115; Bibb, M. J., Ward, J. M. and Hopwood, O. A. 1978. Nature 274: 398-400; Hinnen, A., Hicks, J. B. and Fink, G. R. 1978. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75: 1929-1933)も応用できる。あるいは、コリネ型細菌について報告されているような、電気パルス法(特開平2-207791)を利用することもできる。
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が上昇したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が上昇したことは、同遺伝子の転写量が上昇したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が上昇したことを確認することにより確認できる。
遺伝子の転写量が上昇したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株または親株等の非改変株と比較することによって行うことができる。mRNAの量を評価する方法としてはノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる(Sambrook, J., et
al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual/Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001)。mRNAの量は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
タンパク質の量が上昇したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことができる(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
上記したタンパク質の活性を増大させる手法は、ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子の導入に加えて、任意のタンパク質、例えばL-フェニルアラニン生合成酵素、の活性増強や、任意の遺伝子、例えばそれら任意のタンパク質をコードする遺伝子、の発現増強に利用できる。
<1-3>タンパク質の活性を低下させる手法
以下に、タンパク質の活性を低下させる手法について説明する。
「タンパク質の活性が低下する」とは、同タンパク質の活性が非改変株と比較して低下することを意味する。「タンパク質の活性が低下する」とは、具体的には、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株と比較して減少していることを意味してよい。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が低下するように改変されていない対照株を意味する。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には
、各微生物種の基準株(type strain)が挙げられる。また、非改変株として、具体的には、微生物の説明において例示した菌株も挙げられる。すなわち、一態様において、タンパク質の活性は、基準株(すなわち本発明の微生物が属する種の基準株)と比較して低下してよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13869株と比較して低下してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13032株と比較して低下してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、E. coli K-12 MG1655株と比較して低下してもよい。なお、「タンパク質の活性が低下する」ことには、同タンパク質の活性が完全に消失している場合も包含される。「タンパク質の活性が低下する」とは、より具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が低下していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が低下していることを意味してよい。すなわち、「タンパク質の活性が低下する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。なお、「タンパク質の細胞当たりの分子数が低下している」ことには、同タンパク質が全く存在していない場合も包含される。また、「タンパク質の分子当たりの機能が低下している」ことには、同タンパク質の分子当たりの機能が完全に消失している場合も包含される。タンパク質の活性の低下の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して低下していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させることにより達成できる。「遺伝子の発現が低下する」とは、同遺伝子の発現が野生株や親株等の非改変株と比較して低下することを意味する。「遺伝子の発現が低下する」とは、具体的には、同遺伝子の細胞当たりの発現量が非改変株と比較して減少することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」とは、より具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が低下すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が低下することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」ことには、同遺伝子が全く発現していない場合も包含される。なお、「遺伝子の発現が低下する」ことを、「遺伝子の発現が弱化される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
遺伝子の発現の低下は、例えば、転写効率の低下によるものであってもよく、翻訳効率の低下によるものであってもよく、それらの組み合わせによるものであってもよい。遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のプロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域等の発現調節配列を改変することにより達成できる。発現調節配列を改変する場合には、発現調節配列は、好ましくは1塩基以上、より好ましくは2塩基以上、特に好ましくは3塩基以上が改変される。遺伝子の転写効率の低下は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより弱いプロモーターに置換することにより達成できる。「より弱いプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも弱化するプロモーターを意味する。より弱いプロモーターとしては、例えば、誘導型のプロモーターが挙げられる。すなわち、誘導型のプロモーターは、非誘導条件下(例えば、誘導物質の非存在下)でより弱いプロモーターとして機能し得る。また、発現調節配列の一部または全部を欠失させてもよい。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、発現制御に関わる因子を操作することによっても達成できる。発現制御に関わる因子としては、転写や翻訳制御に関わる低分子(誘導物質、阻害物質など)、タンパク質(転写因子など)、核酸(siRNAなど)等が挙げられる。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のコード領域に遺伝子の発現が低下するような変異を導入することによっても達成できる。例えば、遺伝子のコード領域のコドンを、宿主においてより低頻度で利用される同義コドンに置き換えることによって、遺伝子の発現を低下させることができる。また、例えば、後述するよう
な遺伝子の破壊により、遺伝子の発現自体が低下し得る。
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊することにより達成できる。「遺伝子が破壊される」とは、正常に機能するタンパク質を産生しないように同遺伝子が改変されることを意味する。「正常に機能するタンパク質を産生しない」ことには、同遺伝子からタンパク質が全く産生されない場合や、同遺伝子から分子当たりの機能(活性や性質)が低下又は消失したタンパク質が産生される場合も包含される。
遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域の一部又は全部を欠損させることにより達成できる。さらには、染色体上の遺伝子の前後の配列を含めて、遺伝子全体を欠失させてもよい。タンパク質の活性の低下が達成できる限り、欠失させる領域は、N末端領域、内部領域、C末端領域等のいずれの領域であってもよい。通常、欠失させる領域は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、欠失させる領域の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、終止コドンを導入すること(ナンセンス変異)、あるいは1~2塩基を付加または欠失するフレームシフト変異を導入すること等によっても達成できる(Journal of Biological Chemistry 272:8611-8617(1997), Proceedings of the National Academy of Sciences, USA 95 5511-5515(1998), Journal of Biological Chemistry 26 116, 20833-20839(1991))。
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域に他の配列を挿入することによっても達成できる。挿入部位は遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿入する領域は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、挿入部位の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。他の配列としては、コードされるタンパク質の活性を低下又は消失させるものであれば特に制限されないが、例えば、抗生物質耐性遺伝子等のマーカー遺伝子や目的物質の生産に有用な遺伝子が挙げられる。
染色体上の遺伝子を上記のように改変することは、例えば、正常に機能するタンパク質を産生しないように改変した欠失型遺伝子を作製し、該欠失型遺伝子を含む組換えDNAで宿主を形質転換して、欠失型遺伝子と染色体上の野生型遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上の野生型遺伝子を欠失型遺伝子に置換することによって達成できる。その際、組換えDNAには、宿主の栄養要求性等の形質にしたがって、マーカー遺伝子を含ませておくと操作がしやすい。欠失型遺伝子としては、遺伝子の全領域あるいは一部の領域を欠失した遺伝子、ミスセンス変異を導入した遺伝子ナンセンス変異を導入した遺伝子、フレームシフト変異を導入した遺伝子、トランスポゾンまたはマーカー遺伝子等が挿入された遺伝子が挙げられる。欠失型遺伝子によってコードされるタンパク質は、生産されたとしても、野生型タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下又は消失する。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))、Redドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. Bacteriol. 184: 5200-5203 (2002))とを組み合わせた方法(WO2005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法などがある(米国特許第6303383号、特開平05-007491号)。
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、それら複数のサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。また、タンパク質に複数のアイソザイムが存在する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、複数のアイソザイムの全ての活性を低下させてもよく、一部のみの活性を低下させてもよい。すなわち、例えば、それらのアイソザイムをコードする複数の遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が低下したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が低下したことは、同遺伝子の転写量が低下したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が低下したことを確認することにより確認できる。
遺伝子の転写量が低下したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を非改変株と比較することによって行うことが出来る。mRNAの量を評価する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。mRNAの量は、好ましくは、非改変株と比較して、例えば、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下する。
タンパク質の量が低下したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことが出来る(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量は、好ましくは、非改変株と比較して、例えば、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下する。
遺伝子が破壊されたことは、破壊に用いた手段に応じて、同遺伝子の一部または全部の塩基配列、制限酵素地図、または全長等を決定することで確認できる。
上記したタンパク質の活性を低下させる手法は、任意のタンパク質、例えば副生物の副生に関与する酵素、の活性低下や、任意の遺伝子、例えばそれら任意のタンパク質をコードする遺伝子、の発現低下に利用できる。
<2>本発明の方法
本発明の方法は、本発明の微生物を利用したベンズアルデヒドの製造方法である。言い換えると、本発明の方法は、具体的には、本発明の微生物を利用してベンズアルデヒドを製造する工程を含む、ベンズアルデヒドの製造方法である。同工程を「製造工程」ともいう。
ベンズアルデヒドは、例えば、発酵、生物変換、またはそれらの組み合わせにより製造することができる。すなわち、製造工程は、例えば、発酵、生物変換、またはそれらの組み合わせにより実施されてよい。製造工程は、具体的には、例えば、本発明の微生物を培
養することにより、本発明の微生物の菌体を用いることにより、またはそれらの組み合わせにより実施されてよい。組み合わせは、具体的には、本発明の微生物を構成する複数の微生物の一部を培養することと、該複数の微生物の残部の菌体を用いることとの組み合わせであってよい。ベンズアルデヒドは、例えば、炭素源またはL-フェニルアラニンから製造することができる。
<2-1>発酵法
ベンズアルデヒドは、例えば、L-フェニルアラニン生産能を有する本発明の微生物の発酵により製造することができる。すなわち、本発明の方法の一態様は、L-フェニルアラニン生産能を有する本発明の微生物の発酵によりベンズアルデヒドを製造する方法であってよい。この態様を、「発酵法」ともいう。また、L-フェニルアラニン生産能を有する本発明の微生物の発酵によりベンズアルデヒドを製造する工程を、「発酵工程」ともいう。
発酵工程は、本発明の微生物を培養することにより実施できる。具体的には、発酵工程において、ベンズアルデヒドは、炭素源から製造することができる。すなわち、発酵工程は、例えば、本発明の微生物を培地(例えば、炭素源を含有する培地)で培養し、ベンズアルデヒドを該培地中に生成蓄積する工程であってよい。すなわち、発酵法は、本発明の微生物を培地(例えば、炭素源を含有する培地)で培養し、ベンズアルデヒドを該培地中に生成蓄積することを含む、ベンズアルデヒドを製造する方法であってよい。また、言い換えると、発酵工程は、例えば、本発明の微生物を利用して炭素源からベンズアルデヒドを製造する工程であってよい。
本発明の微生物が複数の微生物の組み合わせである場合、該複数の微生物は、同時に培養されてもよく、そうでなくてもよい。例えば、それら複数の微生物は、同時に植菌され、培養されてもよく、それぞれ別個のタイミングで、あるいは任意の組み合わせで別個のタイミングで植菌され、培養されてもよい。それら複数の微生物を培養する順番やタイミングは、ベンズアルデヒドを炭素源から製造できる限り、特に制限されない。例えば、AADを有する微生物、HMASを有する微生物、SMDHを有する微生物、およびBFDCを有する微生物をこの順番で植菌してもよい。「炭素源を含有する培地で本発明の微生物を培養する」とは、本発明の微生物が複数の微生物の組み合わせである場合にあっては、ベンズアルデヒドを炭素源から製造できる態様で、該複数の微生物から選択される少なくとも1つの微生物を炭素源を含有する培地で培養することを意味し、該複数の微生物の全てを炭素源を含有する培地で培養することは要しない。すなわち、「炭素源を含有する培地で本発明の微生物を培養する」とは、本発明の微生物が複数の微生物の組み合わせである場合にあっては、例えば、少なくとも、L-フェニルアラニン生産能を有する微生物(これはAADを有する微生物であってよい)を炭素源を含有する培地で培養することを意味してよい。すなわち、例えば、AADを有する微生物を炭素源を含有する培地で培養することにより炭素源が全て消費されて後述するような中間体が生成した後で、他の微生物の培養を開始してもよい。炭素源が消費された後の微生物の培養には、追加の炭素源(これはベンズアルデヒドの製造のための原料として用いられてもよく、そうでなくてもよい)を適宜使用してよい。
使用する培地は、本発明の微生物が増殖でき、ベンズアルデヒドが生産される限り、特に制限されない。培地としては、例えば、細菌や酵母等の微生物の培養に用いられる通常の培地を用いることができる。培地は、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、その他の各種有機成分や無機成分等の培地成分を必要に応じて含有してよい。培地成分の種類や濃度は、使用する微生物の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
炭素源は、本発明の微生物が資化でき、ベンズアルデヒドが生産される限り、特に制限
されない。炭素源として、具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、廃糖蜜、澱粉の加水分解物、バイオマスの加水分解物等の糖類、酢酸、クエン酸、コハク酸、グルコン酸等の有機酸類、エタノール、グリセロール、粗グリセロール等のアルコール類、脂肪酸類が挙げられる。なお、炭素源としては、植物由来原料を好ましく用いることができる。植物としては、例えば、トウモロコシ、米、小麦、大豆、サトウキビ、ビート、綿が挙げられる。植物由来原料としては、例えば、根、茎、幹、枝、葉、花、種子等の器官、それらを含む植物体、それら植物器官の分解産物が挙げられる。植物由来原料の利用形態は特に制限されず、例えば、未加工品、絞り汁、粉砕物、精製物等のいずれの形態でも利用できる。また、キシロース等の5炭糖、グルコース等の6炭糖、またはそれらの混合物は、例えば、植物バイオマスから取得して利用できる。具体的には、これらの糖類は、植物バイオマスを、水蒸気処理、濃酸加水分解、希酸加水分解、セルラーゼ等の酵素による加水分解、アルカリ処理等の処理に供することにより取得できる。なお、ヘミセルロースは一般的にセルロースよりも加水分解されやすいため、植物バイオマス中のヘミセルロースを予め加水分解して5炭糖を遊離させ、次いで、セルロースを加水分解して6炭糖を生成させてもよい。また、キシロースは、例えば、本発明の微生物にグルコース等の6炭糖からキシロースへの変換経路を保有させて、6炭糖からの変換により供給してもよい。炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の炭素源を組み合わせて用いてもよい。
培地中の炭素源の濃度は、本発明の微生物が増殖でき、ベンズアルデヒドが生産される限り、特に制限されない。培地中の炭素源の濃度は、例えば、ベンズアルデヒドの生産が阻害されない範囲で可能な限り高くしてよい。培地中の炭素源の初発濃度は、例えば、通常5~30w/v%、好ましくは10~20w/v%であってよい。また、適宜、炭素源を培地に追加的に供給してもよい。例えば、発酵の進行に伴う炭素源の減少または枯渇に応じて、炭素源を培地に追加的に供給してもよい。最終的にベンズアルデヒドが生産される限り炭素源は一時的に枯渇してもよいが、培養は、炭素源が枯渇しないように、あるいは炭素源が枯渇した状態が継続しないように、実施するのが好ましい場合がある。
窒素源として、具体的には、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源、アンモニア、ウレアが挙げられる。pH調整に用いられるアンモニアガスやアンモニア水を窒素源として利用してもよい。窒素源としては、1種の窒素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせて用いてもよい。
リン酸源として、具体的には、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマーが挙げられる。リン酸源としては、1種のリン酸源を用いてもよく、2種またはそれ以上のリン酸源を組み合わせて用いてもよい。
硫黄源として、具体的には、例えば、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物、システイン、シスチン、グルタチオン等の含硫アミノ酸が挙げられる。硫黄源としては、1種の硫黄源を用いてもよく、2種またはそれ以上の硫黄源を組み合わせて用いてもよい。
その他の各種有機成分や無機成分として、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の微量金属類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等のビタミン類;アミノ酸類;核酸類;これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物等の有機成分が挙げられる。その他の各種有機成分や無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
また、生育にアミノ酸等の栄養素を要求する栄養要求性変異株を使用する場合には、培地にそのような要求される栄養素を補添することが好ましい。
培養条件は、本発明の微生物が増殖でき、ベンズアルデヒドが生産される限り、特に制限されない。培養は、例えば、細菌や酵母等の微生物の培養に用いられる通常の条件で行うことができる。培養条件は、使用する微生物の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。また、必要に応じて、ベンズアルデヒド生成酵素遺伝子の発現誘導を行うことができる。
培養は、液体培地を用いて行うことができる。培養の際には、例えば、本発明の微生物を寒天培地等の固体培地で培養したものを直接液体培地に接種してもよく、本発明の微生物を液体培地で種培養したものを本培養用の液体培地に接種してもよい。すなわち、培養は、種培養と本培養とに分けて行われてもよい。その場合、種培養と本培養の培養条件は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。ベンズアルデヒドは、少なくとも本培養において生産されればよい。培養開始時に培地に含有される本発明の微生物の量は特に制限されない。例えば、OD660=4~100の種培養液を、培養開始時に、本培養用の培地に対して0.1質量%~100質量%、好ましくは1質量%~50質量%、添加してよい。
培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。なお、培養開始時の培地を、「初発培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系(例えば発酵槽)に供給する培地を、「流加培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系に流加培地を供給することを、「流加」ともいう。なお、培養が種培養と本培養とに分けて行われる場合、種培養と本培養の培養形態は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。例えば、種培養と本培養を、共に回分培養で行ってもよく、種培養を回分培養で行い、本培養を流加培養または連続培養で行ってもよい。
本発明において、炭素源等の各種成分は、初発培地、流加培地、またはその両方に含有されていてよい。すなわち、培養の過程において、炭素源等の各種成分を単独で、あるいは任意の組み合わせで、追加的に培地に供給してもよい。これらの成分は、いずれも、1回または複数回供給されてもよく、連続的に供給されてもよい。初発培地に含有される成分の種類は、流加培地に含有される成分の種類と、同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、初発培地に含有される各成分の濃度は、流加培地に含有される各成分の濃度と、同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、含有する成分の種類および/または濃度の異なる2種またはそれ以上の流加培地を用いてもよい。例えば、複数回の流加が間欠的に行われる場合、各流加培地に含有される成分の種類および/または濃度は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。
培養は、例えば、好気条件で実施できる。「好気条件」とは、培地中の溶存酸素濃度が、0.33ppm以上であることを意味してよく、好ましくは1.5ppm以上であることを意味してもよい。酸素濃度は、具体的には、例えば、飽和酸素濃度の1~50%、好ましくは5%程度に制御されてよい。培養は、例えば、通気培養または振盪培養で実施できる。培地のpHは、例えば、pH 3~10、好ましくはpH 4.0~9.5であってよい。培養中、必要に応じて培地のpHを調整することができる。培地のpHは、アンモニアガス、アンモニア水、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の各種アルカリ性または酸性物質を用いて調整することができる。培養温度は、例えば、20~45℃、好ましくは25℃~37℃であってよい。培養期間は、例えば、10時間~120時間であってよい。培養は、例えば、培
地中の炭素源が消費されるまで、あるいは本発明の微生物の活性がなくなるまで、継続してもよい。
このようにして本発明の微生物を培養することにより、培地中にベンズアルデヒドが蓄積する。
ベンズアルデヒドが生成したことは、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により確認することができる。そのような手法としては、例えば、HPLC、UPLC、LC/MS、GC/MS、NMRが挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。これらの手法は、培地中に存在する各種成分の濃度を決定するためにも用いることができる。
生成したベンズアルデヒドは、適宜回収することができる。すなわち、本発明の方法は、さらに、ベンズアルデヒドを回収する工程を含んでいてよい。同工程を「回収工程」ともいう。回収工程は、培養液から、具体的には培地から、ベンズアルデヒドを回収する工程であってよい。生成したベンズアルデヒドの回収は、化合物の分離精製に用いられる公知の手法により行うことができる。そのような手法としては、例えば、イオン交換樹脂法、膜処理法、沈殿法、抽出法、蒸留法、および晶析法が挙げられる。ベンズアルデヒドは、具体的には、酢酸エチル等の有機溶媒での抽出により、または蒸気蒸留により、回収することができる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。
また、ベンズアルデヒドが培地中に析出する場合は、例えば、遠心分離または濾過により回収することができる。また、培地中に析出したベンズアルデヒドは、培地中に溶解しているベンズアルデヒドを晶析した後に、併せて単離してもよい。
尚、回収されるベンズアルデヒドは、ベンズアルデヒド以外に、例えば、菌体、培地成分、水分、及び微生物の代謝副産物等の成分を含んでいてもよい。回収されたベンズアルデヒドの純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
<2-2>生物変換法
ベンズアルデヒドは、例えば、本発明の微生物を利用した生物変換により製造することもできる。すなわち、本発明の方法の別の態様は、本発明の微生物を利用した生物変換によりベンズアルデヒドを製造する方法であってよい。この態様を、「生物変換法」ともいう。また、本発明の微生物を利用した生物変換によりベンズアルデヒドを製造する工程を、「生物変換工程」ともいう。
具体的には、生物変換工程において、ベンズアルデヒドは、L-フェニルアラニンから製造することができる。より具体的には、生物変換工程において、ベンズアルデヒドは、本発明の微生物を利用してL-フェニルアラニンをベンズアルデヒドに変換することにより製造することができる。すなわち、生物変換工程は、本発明の微生物を利用してL-フェニルアラニンをベンズアルデヒドに変換する工程であってよい。生物変換工程において、変換前の物質であるL-フェニルアラニンを「基質」、変換後の物質であるベンズアルデヒドを「産物」ともいう。
L-フェニルアラニンは、フリー体として用いてもよく、塩として用いてもよく、それらの混合物として用いてもよい。すなわち、本発明における「L-フェニルアラニン」という用語は、特記しない限り、フリー体のL-フェニルアラニン、もしくはその塩、またはそれらの混合物を意味する。塩としては、例えば、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、アンモニ
ウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。塩としては、1種の塩を用いてもよく、2種またはそれ以上の塩を組み合わせて用いてもよい。
L-フェニルアラニンとしては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。L-フェニルアラニンの製造方法は特に制限されず、例えば、公知の方法を利用できる。L-フェニルアラニンは、例えば、化学合成法、酵素法、生物変換法、発酵法、抽出法、またはそれらの組み合わせにより製造することができる。すなわち、L-フェニルアラニンは、例えば、L-フェニルアラニン生産能を有する微生物(L-フェニルアラニン生産菌)を培養し、培養物から当該アミノ酸を回収することにより、製造することができる。製造されたL-フェニルアラニンは、そのまま、あるいは、適宜、濃縮、希釈、乾燥、溶解、分画、抽出、精製等の処理に供してから、本発明の方法に利用できる。すなわち、L-フェニルアラニンとしては、例えば、所望の程度に精製された精製品を用いてもよく、L-フェニルアラニンを含有する素材を用いてもよい。L-フェニルアラニンを含有する素材は、本発明の微生物がL-フェニルアラニンを利用できる限り特に制限されない。L-フェニルアラニンを含有する素材として、具体的には、例えば、L-フェニルアラニン生産菌を培養して得られた培養物、該培養物から分離した培養上清、それらの濃縮物(例えば濃縮液)や乾燥物等の処理物が挙げられる。
一態様において、生物変換工程は、例えば、本発明の微生物を培養することにより実施できる。この態様を、「生物変換法の第1の態様」ともいう。すなわち、生物変換工程は、例えば、L-フェニルアラニンを含有する培地で本発明の微生物を培養し、L-フェニルアラニンをベンズアルデヒドに変換する工程であってよい。生物変換工程は、具体的には、L-フェニルアラニンを含有する培地で本発明の微生物を培養し、該培地中にベンズアルデヒドを生成蓄積する工程であってよい。
本発明の微生物が複数の微生物の組み合わせである場合、該複数の微生物は、同時に培養されてもよく、そうでなくてもよい。例えば、それら複数の微生物は、同時に植菌され、培養されてもよく、それぞれ別個のタイミングで、あるいは任意の組み合わせで別個のタイミングで植菌され、培養されてもよい。それら複数の微生物を培養する順番やタイミングは、L-フェニルアラニンからベンズアルデヒドへの変換が成立する限り、特に制限されない。例えば、AADを有する微生物、HMASを有する微生物、SMDHを有する微生物、およびBFDCを有する微生物をこの順番で植菌してもよい。なお、「L-フェニルアラニンを含有する培地で本発明の微生物を培養する」とは、本発明の微生物が複数の微生物の組み合わせである場合にあっては、L-フェニルアラニンからベンズアルデヒドへの変換が成立する態様で、該複数の微生物から選択される少なくとも1つの微生物をL-フェニルアラニンを含有する培地で培養することを意味し、該複数の微生物の全てをL-フェニルアラニンを含有する培地で培養することは要しない。すなわち、「L-フェニルアラニンを含有する培地で本発明の微生物を培養する」とは、本発明の微生物が複数の微生物の組み合わせである場合にあっては、例えば、少なくとも、AADを有する微生物をL-フェニルアラニンを含有する培地で培養することを意味してよい。すなわち、例えば、AADを有する微生物をL-フェニルアラニンを含有する培地で培養することによりL-フェニルアラニンが全て後述するような中間体に変換された後で、他の微生物の培養を開始してもよい。
使用する培地は、L-フェニルアラニンを含有し、本発明の微生物が増殖でき、ベンズアルデヒドが生産される限り、特に制限されない。培養条件は、本発明の微生物が増殖でき、ベンズアルデヒドが生産される限り、特に制限されない。生物変換法の第1の態様における培養については、同態様においては培地がL-フェニルアラニンを含有すること以外は、発酵法における培養についての記載(例えば、培地や培養条件についての記載)を準用できる。
L-フェニルアラニンは、培養の全期間において培地に含有されていてもよく、培養の一部の期間にのみ培地に含有されていてもよい。すなわち、「L-フェニルアラニンを含有する培地で微生物を培養する」とは、L-フェニルアラニンが培養の全期間において培地に含有されていることを要しない。例えば、L-フェニルアラニンは、培養開始時から培地に含有されていてもよく、いなくてもよい。L-フェニルアラニンが培養開始時に培地に含有されていない場合は、培養開始後に培地にL-フェニルアラニンを供給する。供給のタイミングは、培養時間等の諸条件に応じて適宜設定できる。例えば、本発明の微生物が十分に生育してから培地にL-フェニルアラニンを供給してもよい。また、いずれの場合にも、適宜、培地にL-フェニルアラニンを追加的に供給してよい。例えば、ベンズアルデヒドの生成に伴うL-フェニルアラニンの減少または枯渇に応じて培地にL-フェニルアラニンを追加的に供給してもよい。L-フェニルアラニンを培地に供給する手段は特に制限されない。例えば、L-フェニルアラニンを含有する流加培地を培地に流加することにより、L-フェニルアラニンを培地に供給することができる。また、例えば、本発明の微生物とL-フェニルアラニン生産菌を共培養することにより、L-フェニルアラニン生産菌にL-フェニルアラニンを培地中に生成させ、以てL-フェニルアラニンを培地に供給することもできる。これらの供給手段は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。培地中のL-フェニルアラニン濃度は、本発明の微生物がL-フェニルアラニンをベンズアルデヒドの原料として利用できる限り、特に制限されない。培地中のL-フェニルアラニン濃度は、例えば、1mM以上、10mM以上、または30mM以上であってもよく、5M以下、2M以下、または1M以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。L-フェニルアラニンは、培養の全期間において上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、そうでなくてもよい。L-フェニルアラニンは、例えば、培養開始時に上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、培養開始後に上記例示した濃度となるように培地に供給されてもよい。培養が種培養と本培養とに分けて行われる場合、ベンズアルデヒドは、少なくとも本培養の期間に生産されればよい。よって、L-フェニルアラニンは、少なくとも本培養の期間に、すなわち本培養の全期間または本培養の一部の期間に、培地に含有されていればよい。すなわち、L-フェニルアラニンは、種培養の期間には培地に含有されていてもよく、いなくてもよい。このような場合、培養についての記載(例えば、「培養期間(培養の期間)」や「培養開始」)は、本培養についてのものとして読み替えることができる。
別の態様において、生物変換工程は、例えば、本発明の微生物の菌体を利用することにより実施できる。この態様を、「生物変換法の第2の態様」ともいう。すなわち、生物変換工程は、例えば、本発明の微生物の菌体を利用することにより、反応液中のL-フェニルアラニンをベンズアルデヒドに変換する工程であってよい。生物変換工程は、具体的には、本発明の微生物の菌体を反応液中でL-フェニルアラニンと共存させ、ベンズアルデヒドを該反応液中に生成蓄積する工程であってよい。生物変換工程は、より具体的には、本発明の微生物の菌体を反応液中でL-フェニルアラニンに作用させ、ベンズアルデヒドを該反応液中に生成蓄積する工程であってもよい。そのような菌体を利用して実施する生物変換工程を、「変換反応」ともいう。
本発明の微生物が複数の微生物の組み合わせである場合、該複数の微生物は同時に反応液に供給されてもよく、そうでなくてもよい。例えば、それら複数の微生物は、それぞれ別個のタイミングで、あるいは任意の組み合わせで別個のタイミングで、反応液に供給されてもよい。それら複数の微生物を反応液に供給する順番やタイミングは、L-フェニルアラニンからベンズアルデヒドへの変換が成立する限り、特に制限されない。例えば、AAD、HMAS、SMDH、およびBFDCをそれぞれ微生物の菌体を順に反応液に供給してもよい。なお、「本発明の微生物の菌体を反応液中でL-フェニルアラニンと共存またはL-フェニルアラニンに作用させる」とは、本発明の微生物が複数の微生物の組み合わせである場合
にあっては、L-フェニルアラニンからベンズアルデヒドへの変換が成立する態様で、該複数の微生物から選択される少なくとも1つの微生物の菌体を反応液中でL-フェニルアラニンと共存またはL-フェニルアラニンに作用させることを意味し、該複数の微生物の全ての菌体を反応液中でL-フェニルアラニンと共存またはL-フェニルアラニンに作用させることは要しない。すなわち、「本発明の微生物の菌体を反応液中でL-フェニルアラニンと共存またはL-フェニルアラニンに作用させる」とは、本発明の微生物が複数の微生物の組み合わせである場合にあっては、例えば、少なくとも、AADを有する微生物の菌体を反応液中でL-フェニルアラニンと共存またはL-フェニルアラニンに作用させることを意味してよい。すなわち、例えば、AADを有する微生物の菌体を反応液中でL-フェニルアラニンと共存またはL-フェニルアラニンに作用させることによりL-フェニルアラニンが全て後述するような中間体に変換された後で、他の微生物の菌体を反応液に供給してもよい。
本発明の微生物の菌体は、本発明の微生物を培養することにより得られる。菌体を取得するための培養法は、本発明の微生物が増殖できる限り、特に制限されない。菌体を取得するための培養時には、L-フェニルアラニンが培地に含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。また、菌体を取得するための培養時には、ベンズアルデヒドは、培地中に生産されてもよく、されなくてもよい。生物変換法の第2の態様における菌体を取得するための培養については、発酵法における培養についての記載(例えば、培地や培養条件についての記載)を準用できる。
菌体は、培地(培養液)に含まれたまま変換反応に用いてもよく、培地(培養液)から回収して変換反応に用いてもよい。また、菌体は、適宜処理を行ってから変換反応に用いてもよい。すなわち、菌体としては、菌体を含有する培養物、該培養物から回収した菌体、それらの処理物が挙げられる。処理物としては、菌体(例えば、菌体を含有する培養物や、該培養物から回収した菌体)を処理に供したものが挙げられる。これらの態様の菌体は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。
菌体を培養液から回収する手法は特に制限されず、例えば公知の手法を利用できる。そのような手法としては、例えば、自然沈降、遠心分離、濾過が挙げられる。また、凝集剤(flocculant)を利用してもよい。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。回収した菌体は、適当な媒体を用いて適宜洗浄することができる。また、回収した菌体は、適当な媒体を用いて適宜再懸濁することができる。洗浄や懸濁に利用できる媒体としては、例えば、水や水性緩衝液等の水性媒体(水性溶媒)が挙げられる。
菌体の処理としては、例えば、希釈、濃縮、アクリルアミドやカラギーナン等の担体への固定化処理、凍結融解処理、膜の透過性を高める処理が挙げられる。膜の透過性は、例えば、界面活性剤または有機溶媒を利用して高めることができる。これらの処理は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。
変換反応に用いられる菌体は、ベンズアルデヒド生産能を有していれば特に制限されない。菌体は、生育する能力を有していてもよく、有していなくてもよい。
変換反応は、適当な反応液中で実施できる。変換反応は、具体的には、菌体とL-フェニルアラニンとを適切な反応液中で共存させることにより実施することができる。変換反応は、バッチ式で実施してもよく、カラム式で実施してもよい。バッチ式の場合は、例えば、反応容器内の反応液中で、本発明の微生物の菌体とL-フェニルアラニンとを混合することにより、変換反応を実施できる。変換反応は、静置して実施してもよく、撹拌や振盪して実施してもよい。カラム式の場合は、例えば、固定化菌体を充填したカラムにL-
フェニルアラニンを含有する反応液を通液することにより、変換反応を実施できる。反応液としては、水や水性緩衝液等の水性媒体(水性溶媒)が挙げられる。
反応液は、L-フェニルアラニンに加えて、L-フェニルアラニン以外の成分を必要に応じて含有してよい。L-フェニルアラニン以外の成分としては、酸素、鉄イオン等の金属イオン、チアミンピロりん酸、緩衝剤、その他各種培地成分が挙げられる。反応液に含有される成分の種類や濃度は、使用する微生物の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
変換反応の条件(溶存酸素濃度、反応液のpH、反応温度、反応時間、各種成分の濃度等)は、ベンズアルデヒドが生成する限り特に制限されない。変換反応は、例えば、静止菌体等の微生物菌体を利用した物質変換に用いられる通常の条件で行うことができる。変換反応の条件は、使用する微生物の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。変換反応は、例えば、好気条件で実施できる。「好気条件」とは、培地中の溶存酸素濃度が、0.33ppm以上であることを意味してよく、好ましくは1.5ppm以上であることを意味してもよい。酸素濃度は、具体的には、例えば、飽和酸素濃度の1~50%、好ましくは5%程度に制御されてよい。反応液のpHは、例えば、通常6.0~10.0、好ましくは6.5~9.0であってよい。反応温度は、例えば、通常15~50℃、好ましくは15~45℃、より好ましくは20~40℃であってよい。反応時間は、例えば、5分~200時間であってよい。カラム法の場合、反応液の通液速度は、例えば、反応時間が上記例示した反応時間の範囲となるような速度であってよい。また、変換反応は、例えば、細菌や酵母等の微生物の培養に用いられる通常の条件等の培養条件で行うこともできる。その際、菌体が生育してもよく、しなくてもよい。すなわち、生物変換法の第2の態様における変換反応については、同態様においては菌体が生育してもしなくてもよいこと以外は、生物変換法の第1の態様における培養についての記載を準用できる。その場合、菌体を取得するための培養条件と、変換反応の条件は、同一であってもよく、なくてもよい。反応液中のL-フェニルアラニンの濃度は、例えば、1mM以上、10mM以上、または30mM以上であってもよく、5M以下、2M以下、または1M以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。反応液中の菌体の密度は、例えば、1以上であってもよく、300以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。
変換反応の過程において、菌体、L-フェニルアラニン、およびその他の成分を単独で、あるいは任意の組み合わせで、追加的に反応液に供給してもよい。例えば、ベンズアルデヒドの生成に伴うL-フェニルアラニンの減少または枯渇に応じて反応液にL-フェニルアラニンを追加的に供給してもよい。これらの成分は、1回または複数回供給されてもよく、連続的に供給されてもよい。
L-フェニルアラニン等の各種成分を反応液に供給する手段は特に制限されない。これらの成分は、いずれも、反応液に直接添加することにより、反応液に供給することができる。また、例えば、本発明の微生物の菌体とL-フェニルアラニン生産菌を共培養することにより、L-フェニルアラニン生産菌にL-フェニルアラニンを反応液中に生成させ、以てL-フェニルアラニンを反応液に供給することもできる。
また、反応条件は、変換反応の開始から終了まで均一であってもよく、変換反応の過程において変化してもよい。「反応条件が変換反応の過程において変化する」とは、反応条件が時間的に変化することに限られず、反応条件が空間的に変化することを含む。「反応条件が空間的に変化する」とは、例えば、カラム式で変換反応を実施する場合に、反応温度や菌体密度等の反応条件が流路上の位置に応じて異なっていることをいう。
このようにして生物変換工程を実施することにより、ベンズアルデヒドを含有する培地
(すなわち培養液)または反応液が得られる。ベンズアルデヒドが生成したことの確認やベンズアルデヒドの回収は、いずれも、上述した発酵法と同様に実施することができる。すなわち、生物変換法は、さらに、回収工程(例えば、培地(または培養液)または反応液からベンズアルデヒドを回収する工程)を含んでいてよい。回収されるベンズアルデヒドは、ベンズアルデヒド以外に、例えば、微生物菌体、培地成分、反応液成分、水分、及び微生物の代謝副産物等の他の成分を含んでいてもよい。回収されたベンズアルデヒドの純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
<2-3>サブステップの組み合わせ
製造工程(例えば、発酵工程や生物変換工程)は、特に制限されないが、中間体の生成を経て実施されてもよい。中間体としては、AAD、HMAS、およびSMDHが触媒する反応の産物である、フェニルピルビン酸、(S)-マンデル酸、およびベンゾイル蟻酸が挙げられる。なお、フェニルピルビン酸、(S)-マンデル酸、およびベンゾイル蟻酸という配列において、フェニルピルビン酸側を「上流」、ベンゾイル蟻酸側を「下流」ともいう。すなわち、製造工程は、1つまたはそれ以上の中間体の生成を伴う複数の工程を含んでいてもよい。このような製造工程に含まれる複数の工程のそれぞれを「サブステップ」ともいう。製造工程は、例えば、2つ、3つ、または4つのサブステップを含んでいてよい。製造工程のサブステップとしては、発酵サブステップや生物変換サブステップが挙げられる。発酵サブステップとしては、炭素源から中間体を生産するサブステップが挙げられる。生物変換サブステップとしては、L-フェニルアラニンを中間体に変換する工程、中間体をその下流の別の中間体に変換する工程、中間体をベンズアルデヒドに変換する工程が挙げられる。製造工程のサブステップの組み合わせは、ベンズアルデヒドを製造できる限り、特に制限されない。
製造工程は、例えば、炭素源から中間体を生産する工程と、該中間体をベンズアルデヒドに変換する工程を含んでいてもよい。すなわち、製造工程は、例えば、炭素源からフェニルピルビン酸、(S)-マンデル酸、またはベンゾイル蟻酸を生産する工程と、フェニルピルビン酸、(S)-マンデル酸、またはベンゾイル蟻酸をベンズアルデヒドに変換する工程を含んでいてもよい。製造工程は、具体的には、例えば、炭素源からベンゾイル蟻酸を生産する工程と、ベンゾイル蟻酸をベンズアルデヒドに変換する工程を含んでいてもよい。また、製造工程は、例えば、炭素源から中間体Aを生産する工程、中間体Aをその下流の別の中間体Bに変換する工程、および中間体Bをベンズアルデヒドに変換する工程を含んでいてもよい。また、製造工程は、例えば、炭素源からフェニルピルビン酸を生産する工程、フェニルピルビン酸を(S)-マンデル酸に変換する工程、(S)-マンデル酸をベンゾイル蟻酸に変換する工程、およびベンゾイル蟻酸をベンズアルデヒドに変換する工程を含んでいてもよい。
製造工程は、例えば、L-フェニルアラニンを中間体に変換する工程と、該中間体をベンズアルデヒドに変換する工程を含んでいてもよい。すなわち、製造工程は、例えば、L-フェニルアラニンをフェニルピルビン酸、(S)-マンデル酸、またはベンゾイル蟻酸に変換する工程と、フェニルピルビン酸、(S)-マンデル酸、またはベンゾイル蟻酸をベンズアルデヒドに変換する工程を含んでいてもよい。製造工程は、具体的には、例えば、L-フェニルアラニンをベンゾイル蟻酸に変換する工程と、ベンゾイル蟻酸をベンズアルデヒドに変換する工程を含んでいてもよい。また、製造工程は、例えば、L-フェニルアラニンを中間体Aに変換する工程、中間体Aをその下流の別の中間体Bに変換する工程、および中間体Bをベンズアルデヒドに変換する工程を含んでいてもよい。また、製造工程は、例えば、L-フェニルアラニンをフェニルピルビン酸に変換する工程、フェニルピルビン酸を(S)-マンデル酸に変換する工程、(S)-マンデル酸をベンゾイル蟻酸に変換する工程、およびベンゾイル蟻酸をベンズアルデヒドに変換する工程を含んでいても
よい。
また、製造工程と同様に、製造工程の各サブステップがさらなるサブステップを含んでいてもよい。サブステップとそのさらなるサブステップについては、製造工程とそのサブステップについての記載を準用できる。すなわち、例えば、L-フェニルアラニンをベンゾイル蟻酸に変換する工程は、L-フェニルアラニンをフェニルピルビン酸に変換する工程、フェニルピルビン酸を(S)-マンデル酸に変換する工程、および(S)-マンデル酸をベンゾイル蟻酸に変換する工程を含んでいてもよい。各発酵サブステップにおいて、生産される中間体を「産物」ともいう。各生物変換サブステップにおいて、変換前の物質を「基質」、変換後の物質を「産物」ともいう。すなわち、例えば、L-フェニルアラニンを中間体に変換する工程において、L-フェニルアラニンは基質、中間体は産物とみなされる。
製造工程の各発酵サブステップを実施する手段については、発酵工程を実施する手段についての記載を準用できる。製造工程の各生物変換サブステップを実施する手段については、生物変換工程を実施する手段についての記載を準用できる。その際、製造工程に用いられる「本発明の微生物」は、各サブステップに対応するベンズアルデヒド生成酵素を有する微生物に読み替えることができる。また、発酵工程の産物である「ベンズアルデヒド」は、各発酵サブステップの産物に読み替えることができる。また、生物変換工程の基質である「L-フェニルアラニン」および産物である「ベンズアルデヒド」は、それぞれ、各生物変換サブステップの基質および産物に読み替えることができる。なお、各生物変換サブステップにおいて、基質としては、L-フェニルアラニンを除き、その直前のサブステップで生成した産物が利用される。各生物変換サブステップの基質は、フリー体として用いてもよく、塩として用いてもよく、それらの混合物として用いてもよい。基質の塩については、L-フェニルアラニンの塩についての記載を準用できる。
製造工程の各サブステップは、該サブステップに対応するベンズアルデヒド生成酵素を有する微生物を利用して実施される。各発酵サブステップに用いられる「製造工程のサブステップに対応するベンズアルデヒド生成酵素」とは、L-フェニルアラニンから該サブステップの産物への変換を触媒する単一あるいは一連の酵素をいう。また、各生物変換サブステップに用いられる「製造工程のサブステップに対応するベンズアルデヒド生成酵素」とは、該サブステップの基質から産物への変換を触媒する単一あるいは一連の酵素をいう。すなわち、例えば、炭素源からフェニルピルビン酸を生産する、またはL-フェニルアラニンをフェニルピルビン酸に変換する工程、フェニルピルビン酸を(S)-マンデル酸に変換する工程、(S)-マンデル酸をベンゾイル蟻酸に変換する工程、およびベンゾイル蟻酸をベンズアルデヒドに変換する工程は、それぞれ、AADを有する微生物、HMASを有する微生物、SMDHを有する微生物、およびBFDCを有する微生物を利用して、実施される。また、例えば、炭素源からフェニルピルビン酸、(S)-マンデル酸、またはベンゾイル蟻酸を生産する、またはL-フェニルアラニンをフェニルピルビン酸、(S)-マンデル酸、またはベンゾイル蟻酸に変換する工程は、それぞれ、AADを有する微生物、AADおよびHMASを有する微生物、またはAAD、HMAS、およびSMDHを有する微生物を利用して、実施される。また、例えば、フェニルピルビン酸、(S)-マンデル酸、またはベンゾイル蟻酸をベンズアルデヒドに変換する工程は、それぞれ、HMAS、SMDH、およびBFDCを有する微生物、SMDHおよびBFDCを有する微生物、またはBFDCを有する微生物を利用して、実施される。その他のサブステップについても、該サブステップに必要なベンズアルデヒド生成酵素を有する微生物を適宜選択できる。
製造工程のサブステップに複数のベンズアルデヒド生成酵素を有する微生物を利用する場合、該微生物は、単一の微生物であってもよく、複数の微生物の組み合わせであってもよい。複数のベンズアルデヒド生成酵素を有する微生物については、本発明の微生物(4
つのベンズアルデヒド生成酵素を有する微生物)についての説明を準用することができる。すなわち、例えば、AAD、HMAS、およびSMDHを有する微生物は、AAD、HMAS、およびSMDHを単独で有する単一の微生物であってもよく、AAD、HMAS、およびSMDHを全体として有する複数の微生物の組み合わせであってもよい。
製造工程の或るサブステップと別のサブステップに利用される微生物は、別個の微生物であってもよく、同一の微生物であってもよい。すなわち、或るサブステップに対応するベンズアルデヒド生成酵素と別のサブステップに対応するベンズアルデヒド生成酵素を微生物が単独で有する場合、該微生物はそれらのサブステップに共通して利用することができる。
製造工程の各サブステップは、例えば、該サブステップに対応するベンズアルデヒド生成酵素を有する微生物の培養により実施されてもよく、該サブステップに対応するベンズアルデヒド生成酵素を有する微生物の菌体を利用して実施されてもよい。すなわち、製造工程の各発酵サブステップは、炭素源を含有する培地で該サブステップに対応するベンズアルデヒド生成酵素とL-フェニルアラニン生産能とを有する微生物を培養し、産物を該培地中に生成蓄積する工程であってよい。また、製造工程の各生物変換サブステップは、基質を含有する培地で該サブステップに対応するベンズアルデヒド生成酵素を有する微生物を培養し、産物を該培地中に生成蓄積する工程であってよい。製造工程の各生物変換サブステップは、該サブステップに対応するベンズアルデヒド生成酵素を有する微生物の菌体を反応液中で基質と共存させ、産物を該反応液中に生成蓄積する工程であってもよい。製造工程のサブステップは、全てが培養により実施されてもよく、全てが菌体を利用して実施されてもよい。また、一部のサブステップが培養により実施され、残りのサブステップが菌体を利用して実施されてもよい。製造工程の各サブステップの実施条件は、該サブステップに対応するベンズアルデヒド生成酵素の種類や、該サブステップで使用する微生物の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
すなわち、製造工程は、具体的には、例えば、下記工程(1)および(2)を含んでいてもよい:
(1)下記工程(1a)または(1b):
(1a)炭素源を含有する培地で少なくとも1つの微生物を培養し、ベンゾイル蟻酸を該培地中に生成蓄積する工程であって、該少なくとも1つの微生物が、アミノ酸デアミナーゼ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ、および(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼとL-フェニルアラニン生産能とを有する工程;
(1b)L-フェニルアラニンを含有する培地で少なくとも1つの微生物を培養し、ベンゾイル蟻酸を該培地中に生成蓄積する工程、または少なくとも1つの微生物の菌体をL-フェニルアラニンと反応液中で共存させ、ベンゾイル蟻酸を該反応液中に生成蓄積する工程であって、該少なくとも1つの微生物が、アミノ酸デアミナーゼ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ、および(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼを有する工程;
(2)前記工程(1)で生成したベンゾイル蟻酸を含有する培地で微生物を培養し、ベンズアルデヒドを該培地中に生成蓄積する工程、または微生物の菌体を前記工程(1)で生成したベンゾイル蟻酸と反応液中で共存させ、ベンズアルデヒドを該反応液中に生成蓄積する工程であって、該微生物が、ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼを有する工程。
製造工程のサブステップは、それぞれ別個に実施してもよく、そうでなくてもよい。すなわち、製造工程のサブステップの一部または全部を、一部または全部の期間において同時に実施してもよい。例えば、或る産物を生成するサブステップAと、該産物を基質とする別のサブステップBは、それぞれ別個に実施してもよく、一部または全部の期間において同時に実施してもよい。すなわち、例えば、サブステップAとサブステップBを同時に開始してもよく、サブステップAの進行中または完了後にサブステップBを開始してもよ
い。例えば、サブステップAの開始時にサブステップAとサブステップBに対応するベンズアルデヒド生成酵素を有する微生物と、サブステップAの基質とを反応系(反応液や培地)に共存させることで、サブステップAとサブステップBを同時に開始することができる。あるいは、例えば、サブステップBに対応するベンズアルデヒド生成酵素を有する微生物が反応系に存在していない条件下でサブステップAを開始し、サブステップAの進行中または完了後にサブステップBに対応するベンズアルデヒド生成酵素を有する微生物を反応系に存在させることで、サブステップBを開始することができる。また、サブステップAの産物は、使用前に回収されてもよく、されなくてもよい。すなわち、例えば、サブステップAの産物を回収し、回収した該産物を用いてサブステップBを実施してもよい。サブステップAの産物は、そのまま、あるいは適宜、濃縮、希釈、乾燥、溶解、分画、抽出、精製等の処理に供してから、サブステップBに用いてもよい。これらサブステップAとサブステップBに関する記載は、いずれの連続するサブステップの組み合わせにも適用できる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより制限されるものではない。
実施例1:Providencia rettgeri AJ2770由来アミノ酸デアミナーゼ(AAD)の発現
(1)Providencia rettgeri AJ2770由来アミノ酸デアミナーゼ発現プラスミドpSFN-AADの構築
E. coli pTB2株(国際公開第2009/028338号、実施例2)からProvidencia rettgeri AJ2770由来アミノ酸デアミナーゼ遺伝子を保有するプラスミドを抽出した。同プラスミドを鋳型にして、アミノ酸デアミナーゼ遺伝子を含むDNA断片をPCR増幅した。プライマーは、NdeI-aad-5R6R8L-F(5’-GGGAATTCCATATGAAAATCTCGcGtcGtAAGCTgTTATTAGGGGTTGGT-3’;配列番号1)およびaad-HindIII-R(5’-CCCAAGCTTTTAGCTAAAACGGGAAAGTTTATA-3’;配列番号2)を用いた。PCRは、KOD-plus-ver.2(東洋紡)を用いて以下の条件で行った。
1 cycle 94℃, 2min
25 cycles 98℃, 10sec
55℃, 10sec
68℃, 90sec
1 cycle 68℃, 90sec
4℃
得られた約1400 bpのDNA断片をNdeI、HindIIIで制限酵素処理し、同様にNdeI、HindIIIで処理したpSFN Sm_Aet(国際公開第2006/075486号、実施例1、6、12)とライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpSFN-AADと命名した。pSFN-AADが保有するAAD遺伝子の塩基配列を配列番号11に、同遺伝子がコードするAADのアミノ酸配列を配列番号12に、それぞれ示す。
(2)Providencia rettgeri AJ2770由来アミノ酸デアミナーゼ発現株培養液の調製
アミノ酸デアミナーゼ発現プラスミドpSFN-AADが導入されたE. coli JM109をLB-amp(100 mg/L)プレート(すなわち、アンピシリン100 mg/Lを含有するLBプレート)上で25℃、一晩培養した。得られた菌体を坂口フラスコ内のTB-amp(100 mg/L)(すなわち、アンピシリン100 mg/Lを含有するTB培地)100 mLに植菌し、25℃で16時間振とう培養を行った。得られた培養液をAAD培養液とした。
実施例2:4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(HMAS)の発現
(1)4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドの構築
4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(HMAS)の発現プラスミドpET22-hmaS Ao、pET22-hmaS Sc、pET22-hmaS Rr、pET22-hmaS St、pET22-hmaS At、pET22-hmaS Ab、pET22-hmaS
Ka、pET22-hmaS Nc、pET22-hmaS Ar、pET22-hmaS As、pET22-hmaS Sr、およびpET22-hmaS Haを以下の手順で構築した。また、比較のため、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(4-hydroxyphenylpyruvate dioxygenase;HPPD)の発現プラスミドpET22-HPPD SaおよびpET22-HPPD Ppを以下の手順で構築した。HPPDは、HMASと同じα-ケト酸ジオキシゲナーゼの1種であり、HMASと同じ基質に作用するが、HMASとは異なる産物を生成する。
(1-1)Amycolatopsis orientalis由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドpET22-hmaS Aoの構築
Amycolatopsis orientalis由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(GenBankアクセッション番号:WP_037311069)の遺伝子合成をライフテクノロジーズ社に依頼し、当該遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドを得た。コドン使用頻度はE. coliでの発現用に至適化された。このプラスミドを鋳型にして、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ遺伝子を含むDNA断片をPCR増幅した。プライマーは、NdeI-hmaS Ao-F(5’-ggaattccatATGCAGAACTTTGAAATCGA-3’;配列番号3)およびhmaS Ao-XhoI-R(5’-accgctcgagTCAACGACCGGCAACTTCGC-3’;配列番号4)を用いた。PCRは、KOD-plus-ver.2(東洋紡)を用いて以下の条件で行った。
1 cycle 94℃, 2min
25 cycles 98℃, 10sec
60℃, 10sec
68℃, 60sec
1 cycle 68℃, 60sec
4℃
得られた約1000 bpのDNA断片をNdeI、XhoIで制限酵素処理し、同様にNdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-hmaS Aoと命名した。pET22-hmaS Aoが保有するHMAS遺伝子の塩基配列を配列番号13に、同遺伝子がコードするHMASのアミノ酸配列を配列番号14に、それぞれ示す。
(1-2)Streptomyces coelicolor由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドpET22-hmaS Scの構築
Streptomyces coelicolor由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(GenBankアクセッション番号:WP_011028841)の遺伝子合成をライフテクノロジーズ社に依頼し、当該遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドを得た。コドン使用頻度はE. coliでの発現用に至適化された。このプラスミドを鋳型にして、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ遺伝子を含むDNA断片をPCR増幅した。プライマーは、AseI-hmaS Sc-F(5’-ggaattcattaATGCTGCCTCCGTTTCCGT-3’;配列番号5)およびhmaS Sc-XhoI-R(5’-accgctcgagTCAACGACGTGCCGGACCCA-3’;配列番号6)を用いた。PCRは、KOD-plus-ver.2(東洋紡)を用いて以下の条件で行った。
1 cycle 94℃, 2min
25 cycles 98℃, 10sec
60℃, 10sec
68℃, 60sec
1 cycle 68℃, 60sec
4℃
得られた約1100 bpのDNA断片をAseI、XhoIで制限酵素処理し、NdeI、XhoIで処理したpE
T22b(Novagen)とライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-hmaS Scと命名した。pET22-hmaS Scが保有するHMAS遺伝子の塩基配列を配列番号15に、同遺伝子がコードするHMASのアミノ酸配列を配列番号16に、それぞれ示す。
(1-3)Rhodococcus rhodnii由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドpET22-hmaS Rrの構築
Rhodococcus rhodnii由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(GenBankアクセッション番号:WP_037255771)の遺伝子合成をユーロフィンジェノミクス社に依頼し、当該遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドを得た。コドン使用頻度はE. coliでの発現用に至適化された。このプラスミドをNdeI、XhoIで制限酵素処理し得た約1100 bpのDNA断片と、同様にNdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とをライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-hmaS Rrと命名した。pET22-hmaS Rrが保有するHMAS遺伝子の塩基配列を配列番号19に、同遺伝子がコードするHMASのアミノ酸配列を配列番号20に、それぞれ示す。
(1-4)Streptomyces toyocaensis由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドpET22-hmaS Stの構築
Streptomyces toyocaensis由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(GenBankアクセッション番号:AAM80551)の遺伝子合成をユーロフィンジェノミクス社に依頼し、当該遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドを得た。コドン使用頻度はE. coliでの発現用に至適化された。このプラスミドをNdeI、XhoIで制限酵素処理し得た約1100 bpのDNA断片と、同様にNdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とをライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-hmaS Stと命名した。pET22-hmaS Stが保有するHMAS遺伝子の塩基配列を配列番号17に、同遺伝子がコードするHMASのアミノ酸配列を配列番号18に、それぞれ示す。
(1-5)Actinoplanes teichomyceticus由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドpET22-hmaS Atの構築
Actinoplanes teichomyceticus由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(GenBankアクセッション番号:CAG15040)の遺伝子合成をユーロフィンジェノミクス社に依頼し、当該遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドを得た。コドン使用頻度はE. coliでの発現用に至適化された。このプラスミドをNdeI、XhoIで制限酵素処理し得た約1100 bpのDNA断片と、同様にNdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とをライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-hmaS Atと命名した。pET22-hmaS Atが保有するHMAS遺伝子の塩基配列を配列番号21に、同遺伝子がコードするHMASのアミノ酸配列を配列番号22に、それぞれ示す。
(1-6)Amycolatopsis balhimycina由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドpET22-hmaS Abの構築
Amycolatopsis balhimycina由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(GenBankアクセッション番号:CAC48371)の遺伝子合成をユーロフィンジェノミクス社に依頼し、当該遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドを得た。コドン使用頻度はE. coliでの発現用に至適化された。このプラスミドをNdeI、XhoIで制限酵素処理し得た約1100 bpのDNA断片と、同様にNdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とをライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-hmaS Abと命名した。pET22-hmaS Abが保有するHMAS
遺伝子の塩基配列を配列番号32に、同遺伝子がコードするHMASのアミノ酸配列を配列番号33に、それぞれ示す。
(1-7)Kibdelosporangium aridum由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドpET22-hmaS Kaの構築
Kibdelosporangium aridum由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(GenBankアクセッション番号:WP_051895522)の遺伝子合成をユーロフィンジェノミクス社に依頼し、当該遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドを得た。コドン使用頻度はE. coliでの発現用に至適化された。このプラスミドをNdeI、XhoIで制限酵素処理し得た約1000 bpのDNA断片と、同様にNdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とをライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-hmaS Kaと命名した。pET22-hmaS Kaが保有するHMAS遺伝子の塩基配列を配列番号34に、同遺伝子がコードするHMASのアミノ酸配列を配列番号35に、それぞれ示す。
(1-8)Nonomuraea coxensis由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドpET22-hmaS Ncの構築
Nonomuraea coxensis由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(GenBankアクセッション番号:WP_026214630)の遺伝子合成をユーロフィンジェノミクス社に依頼し、当該遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドを得た。コドン使用頻度はE. coliでの発現用に至適化された。このプラスミドをNdeI、XhoIで制限酵素処理し得た約1100 bpのDNA断片と、同様にNdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とをライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-hmaS Ncと命名した。pET22-hmaS Ncが保有するHMAS遺伝子の塩基配列を配列番号36に、同遺伝子がコードするHMASのアミノ酸配列を配列番号37に、それぞれ示す。
(1-9)Actinoplanes rectilineatus由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドpET22-hmaS Arの構築
Actinoplanes rectilineatus由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(GenBankアクセッション番号:WP_045739980)の遺伝子合成をユーロフィンジェノミクス社に依頼し、当該遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドを得た。コドン使用頻度はE. coliでの発現用に至適化された。このプラスミドをNdeI、XhoIで制限酵素処理し得た約1000 bpのDNA断片と、同様にNdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とをライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-hmaS Arと命名した。pET22-hmaS Arが保有するHMAS遺伝子の塩基配列を配列番号38に、同遺伝子がコードするHMASのアミノ酸配列を配列番号39に、それぞれ示す。
(1-10)Actinoplanes subtropicus由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドpET22-hmaS Asの構築
Actinoplanes subtropicus由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(GenBankアクセッション番号:WP_030437841)の遺伝子合成をユーロフィンジェノミクス社に依頼し、当該遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドを得た。コドン使用頻度はE. coliでの発現用に至適化された。このプラスミドをNdeI、XhoIで制限酵素処理し得た約1100 bpのDNA断片と、同様にNdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とをライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-hmaS Asと命名した。pET22-hmaS Asが保有するHMAS遺伝子の塩基配列を配列番号40に、同遺伝子がコードするHMASのアミノ酸配列を配列番号41に、それぞれ示す。
(1-11)Streptomyces rimosus由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドpET22-hmaS Srの構築
Streptomyces rimosus由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(GenBankアクセッション番号:WP_050515337)の遺伝子合成をユーロフィンジェノミクス社に依頼し、当該遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドを得た。コドン使用頻度はE. coliでの発現用に至適化された。このプラスミドをNdeI、XhoIで制限酵素処理し得た約1100 bpのDNA断片と、同様にNdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とをライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-hmaS Srと命名した。pET22-hmaS Srが保有するHMAS遺伝子の塩基配列を配列番号42に、同遺伝子がコードするHMASのアミノ酸配列を配列番号43に、それぞれ示す。
(1-12)Herpetosiphon aurantiacus由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドpET22-hmaS Haの構築
Herpetosiphon aurantiacus由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(GenBankアクセッション番号:ABX04531)の遺伝子合成をユーロフィンジェノミクス社に依頼し、当該遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドを得た。コドン使用頻度はE. coliでの発現用に至適化された。このプラスミドをNdeI、XhoIで制限酵素処理し得た約1100 bpのDNA断片と、同様にNdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とをライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-hmaS Haと命名した。pET22-hmaS Haが保有するHMAS遺伝子の塩基配列を配列番号44に、同遺伝子がコードするHMASのアミノ酸配列を配列番号45に、それぞれ示す。
(1-13)Streptomyces avermitilis由来4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ発現プラスミドpET22-HPPD Saの構築
Streptomyces avermitilis由来4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(GenBankアクセッション番号:WP_010986553)の遺伝子合成をユーロフィンジェノミクス社に依頼し、当該遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドを得た。コドン使用頻度はE. coliでの発現用に至適化された。このプラスミドをNdeI、XhoIで制限酵素処理し得た約1100 bpのDNA断片と、同様にNdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とをライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-HPPD Saと命名した。pET22-HPPD Saが保有するHPPD遺伝子の塩基配列を配列番号23に、同遺伝子がコードするHPPDのアミノ酸配列を配列番号24に、それぞれ示す。
(1-14)Pseudomonas putida由来4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ発現プラスミドpET22-HPPD Ppの構築
Pseudomonas putida由来4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(GenBankアクセッション番号:WP_046820065)の遺伝子合成をユーロフィンジェノミクス社に依頼し、当該遺伝子を含むDNA断片が挿入されたプラスミドを得た。コドン使用頻度はE. coliでの発現用に至適化された。このプラスミドをNdeI、XhoIで制限酵素処理し得た約1100
bpのDNA断片と、同様にNdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とをライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-HPPD Ppと命名した。pET22-HPPD Ppが保有するHPPD遺伝子の塩基配列を配列番号25に、同遺伝子がコードするHPPDのアミノ酸配列を配列番号26に、それぞれ示す。
(2)4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現株培養液の調製
Amycolatopsis orientalis由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドpET22-hmaS AoをE. coli BL21(DE3)に導入し、アンピシリン耐性株から当該プラスミドを有する形質転換体を得た。この株をLB-amp(100 mg/L)プレート上で30℃、一晩培養した。得られた菌体を坂口フラスコ内のアンピシリン100mg/Lを含有するOvernight Express Instant TB Medium(Novagen)100 mLに植菌し、30℃で16時間振とう培養を行った。得られた培養液をHMAS Ao培養液とした。同様にして、HMAS Sc培養液、HMAS Rr培養液、HMAS St培養液、HMAS At培養液、HMAS Ab培養液、HMAS Ka培養液、HMAS Nc培養液、HMAS Ar培養液、HMAS As培養液、HMAS Sr培養液、HMAS Ha培養液、HPPD Sa培養液、HPPD Pp培養液を得た。
実施例3:Pseudomonas putida由来(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ(MdlB(SMDH))の発現
(1)Pseudomonas putida由来(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ発現プラスミドの構築
Pseudomonas putida由来(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ(GenBankアクセッション番号:BAM38408)とPseudomonas putida由来ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼ(GenBankアクセッション番号:BAM38407)の遺伝子合成をライフテクノロジーズ社に依頼し、当該遺伝子2つが連結したDNA断片が挿入されたプラスミドを得た。コドン使用頻度はE. coliでの発現用に至適化された。このプラスミドを鋳型にして、(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むDNA断片をPCR増幅した。プライマーは、NdeI-mdlB-F(5’-ggaattccatATGAGCCGCAACCTGTTTAA-3’;配列番号7)およびmdlB-XhoI-R(5’-accgctcgagTCATGCATGGGTGCCTTTAC-3’;配列番号8)を用いた。PCRは、KOD-plus-ver.2(東洋紡)を用いて以下の条件で行った。
1 cycle 94℃, 2min
25 cycles 98℃, 10sec
60℃, 10sec
68℃, 60sec
1 cycle 68℃, 60sec
4℃
得られた約1200 bpのDNA断片をNdeI、XhoIで制限酵素処理し、同様にNdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-mdlBと命名した。pET22-mdlBが保有するmdlB遺伝子(SMDH遺伝子)の塩基配列を配列番号27に、同遺伝子がコードするMdlB(SMDH)のアミノ酸配列を配列番号28に、それぞれ示す。
(2)(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ発現株培養液の調製
Pseudomonas putida由来(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ発現プラスミドpET22-mdlBをE. coli BL21(DE3)に導入し、アンピシリン耐性株から当該プラスミドを有する形質転換体を得た。この株をLB-amp(100 mg/L)プレート上で30℃、一晩培養した。得られた菌体を坂口フラスコ内のアンピシリン100 mg/Lを含有するOvernight Express Instant TB
Medium(Novagen)100 mLに植菌し、37℃で16時間振とう培養を行った。得られた培養液をMdlB培養液とした。
実施例4:Pseudomonas putida由来ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼ(MdlC(BFDC))の発現
(1)Pseudomonas putida由来ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼ発現プラスミドの構築
実施例3に記載の、Pseudomonas putida由来(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ(GenBankアクセッション番号:BAM38408)とPseudomonas putida由来ベンゾイル蟻酸デカル
ボキシラーゼ(GenBankアクセッション番号:BAM38407)が導入されたプラスミドを鋳型にして、ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼ遺伝子を含むDNA断片をPCR増幅した。プライマーは、AseI-mdlC-F(5’-ggaattcattaATGGCAAGCGTTCATGGCA-3’;配列番号9)およびmdlC-XhoI-R(5’-accgctcgagTCATTTAACCGGACTAACGG-3’;配列番号10)を用いた。PCRは、KOD-plus-ver.2(東洋紡)を用いて以下の条件で行った。
1 cycle 94℃, 2min
25 cycles 98℃, 10sec
60℃, 10sec
68℃, 60sec
1 cycle 68℃, 60sec
4℃
得られた約1600 bpのDNA断片をAseI、XhoIで制限酵素処理し、NdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-mdlCと命名した。pET22-mdlCが保有するmdlC遺伝子(BFDC遺伝子)の塩基配列を配列番号29に、同遺伝子がコードするMdlC(BFDC)のアミノ酸配列を配列番号30に、それぞれ示す。
(2)ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼ発現株培養液の調製
Pseudomonas putida由来ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼ発現プラスミドpET22-mdlCをE. coli BL21(DE3)に導入し、アンピシリン耐性株から当該プラスミドを有する形質転換体を得た。この株をLB-amp(100 mg/L)プレート上で30℃、一晩培養した。得られた菌体を坂口フラスコ内のアンピシリン100 mg/Lを含有するOvernight Express Instant TB Medium(Novagen)100 mLに植菌し、37℃で16時間振とう培養を行った。得られた培養液をMdlC培養液とした。
実施例5:L-Pheからのベンズアルデヒド合成
実施例1~4で得られた培養液を用いて、後述する手順により、L-フェニルアラニン(L-Phe)からのベンズアルデヒド合成を行った。ベンズアルデヒドの定量は、HPLC分析により行った。分析条件は以下に示す通り。
移動相A:10 mM KH2PO4、10 mM K2HPO4
移動相B:アセトニトリル
流速:1.0 ml/min
カラム温度:40℃
検出:UV 210 nm
カラム:CAPCELL PAK MGII、4.6×150 mm、3μm(資生堂)
グラジエント:0-2 min(B:2%)、2-16 min(B:2-50%)、16.1-20 min(B:2%)
実施例1で得られたAAD培養液10 mLを、遠心した後に上清を8 mL除き残った培養上清で菌体を懸濁し、5倍に濃縮した液を得た。これをAAD濃縮液として反応に用いた。同様にしてHMAS培養液、HPPD培養液、MdlB培養液、MdlC培養液からも5倍濃縮液を調製し、HMAS濃縮液、HPPD濃縮液、MdlB濃縮液、MdlC濃縮液として反応に用いた。
(1)1段階での反応
L-Phe 50 mM、硫酸鉄0.01 mM、クエン酸三ナトリウム10 mM、アスコルビン酸ナトリウム30 mM、チアミンピロりん酸クロリド10 mM、硫酸マグネシウム1 mM、リン酸カリウム緩衝液100 mM(pH7.0)、AAD濃縮液0.02 mL、HMAS濃縮液またはHPPD濃縮液0.1 mL、MdlB濃縮液0.04 mL、MdlC濃縮液0.02 mLを含有する反応液1 mLを試験管に入れ、15℃で20時間振
とうを行った。0.01 mLの反応液を1 mLの反応停止液(1%りん酸、50%エタノール)と混合し、遠心上清をHPLC分析に供した。結果を表1に示す。
Figure 0007107225000001
(2)2段階での反応
L-Phe 50 mM、硫酸鉄0.01 mM、クエン酸三ナトリウム10 mM、アスコルビン酸ナトリウム30 mM、チアミンピロりん酸クロリド10 mM、硫酸マグネシウム1 mM、リン酸カリウム緩衝液100 mM(pH7.0)、AAD濃縮液0.02 mL、HMAS濃縮液またはHPPD濃縮液0.1 mL、MdlB濃縮液0.02 mLを含有する反応液1 mLを試験管に入れ、15℃で20時間振とうを行った。反応液を遠心し、上清0.49 mLとMdlC濃縮液0.01 mLとを混合して試験管に入れ、15℃で4時間振とうを行った。0.1 mLの反応液を1 mLの反応停止液(1%りん酸、50%エタノール)と混合し、遠心上清をHPLC分析に供した。結果を表2に示す。
Figure 0007107225000002
実施例6:AAD、HMAS At、MdlB(SMDH)の共発現プラスミドpHSG-AHBの構築
(1)AAD遺伝子を含むDNA断片の調製
第1段階として、実施例1に記載のProvidencia rettgeri AJ2770由来アミノ酸デアミナーゼ発現プラスミドpSFN-AADを鋳型にして、SD配列およびAAD遺伝子の上流部分を含むDNA断片Aと、AAD遺伝子の下流部分を含むDNA断片Bを、それぞれPCR増幅した。プライマーは、EcoRI-SD-aad-F(5’-ACCGgaattctaaggaggaatgcatATGAA-3’;配列番号46)およびaad-delEcoRI-R(5’-CTCTTTAAATACTGGaAATTCTTTTCTCAG-3’;配列番号49)をDNA断片Aの増幅に、aad-delEcoRI-F(5’-CTGAGAAAAGAATTtCCAGTATTTAAAGAG-3’;配列番号48)およびaad-SacI-R(5’-ACCGgagctcTTAGCTAAAACGGGAAAGTT-3’;配列番号47)をDNA断片Bの増幅に用いた。第2段階として、DNA断片AおよびBを鋳型にして、SD配列およびAAD遺伝子の全長を含むDNA断片CをPCR増幅した。プライマーは、EcoRI-SD-aad-F(配列番号46)およびaad-SacI-R(配列番号47)をDNA断片Cの増幅に用いた。PCRは、各DNA断片の増幅について、KOD-plus-ver.2(東洋紡)を用いて以下の条件で行った。
1 cycle 94℃, 2min
25 cycles 98℃, 10sec
60℃, 10sec
68℃, 90sec
1 cycle 68℃, 90sec
4℃
得られた約1400 bpのDNA断片CをEcoRI、SacIで制限酵素処理し、AAD遺伝子を含むDNA断片として以下で用いた。
(2)HMAS At遺伝子を含むDNA断片の調製
実施例1に記載のProvidencia rettgeri AJ2770由来アミノ酸デアミナーゼ発現プラスミドpSFN-AADを鋳型にして、phoCプロモーター配列を含むDNA断片をPCR増幅した。プライマーは、PphoC up-F(5’-AAGCGGCAGGGTCGGAACAGGAGAG-3’;配列番号50)およびPphoC
NdeI-R(5’-CATATGcattcctccttacggtgttatatg-3’;配列番号51)を用いた。また、実施例2(1-5)に記載のActinoplanes teichomyceticus由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドpET22-hmaS Atを鋳型にして、HMAS At遺伝子を含むDNA断片
をPCR増幅した。プライマーは、PphoC-NdeI-hmaS At-F(5’-ccgtaaggaggaatgCATATGACCATGACGGGCCACTTTC-3’;配列番号52)およびT7 terminator(5’-GCTAGTTATTGCTCAGCGG-3’;配列番号53)を用いた。得られた2つのDNA断片を鋳型にして、連結したphoCプロモーターおよびHMAS At遺伝子を含むDNA断片をPCR増幅した。プライマーは、SacI-PphoC-F(5’-accgGAGCTCattttttcaatgtgatttta-3’;配列番号54)およびT7 terminator(配列番号53)を用いた。PCRは、KOD-plus-ver.2(東洋紡)を用いて以下の条件で行った。
1 cycle 94℃, 2min
25 cycles 98℃, 10sec
60℃, 10sec
68℃, 60sec
1 cycle 68℃, 60sec
4℃
得られた約1200 bpのDNA断片をSacI、XhoIで制限酵素処理し、HMAS At遺伝子を含むDNA断片として以下で用いた。
(3)mdlB(SMDH)遺伝子を含むDNA断片の調製
phoCプロモーター配列を含むDNA断片を(2)と同様にしてPCR増幅した。また、実施例3に記載のPseudomonas putida由来(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ発現プラスミドpET22-mdlBを鋳型にして、mdlB遺伝子を含むDNA断片をPCR増幅した。プライマーは、PphoC-NdeI-mdlB-F(5’-ccgtaaggaggaatgCATATGAGCCGCAACCTGTTTAACG-3’;配列番号55)およびmdlB-BamHI-R(5’-ACCGggatccTCATGCATGGGTGCCTTTAC-3’;配列番号56)を用いた。得られた2つのDNA断片を鋳型にして、連結したphoCプロモーターおよびmdlB遺伝子を含むDNA断片をPCR増幅した。プライマーは、XhoI-PphoC-F(5’-accgCTCGAGattttttcaatgtgatttta-3’;配列番号57)およびmdlB-BamHI-R(配列番号56)を用いた。PCRは、KOD-plus-ver.2(東洋紡)を用いて以下の条件で行った。
1 cycle 94℃, 2min
25 cycles 98℃, 10sec
60℃, 10sec
68℃, 60sec
1 cycle 68℃, 60sec
4℃
得られた約1300 bpのDNA断片をXhoI、BamHIで制限酵素処理し、mdlB(SMDH)遺伝子を含むDNA断片として以下で用いた。
(4)AAD遺伝子、HMAS At遺伝子、およびmdlB(SMDH)遺伝子を搭載したプラスミドの構築
上記で得られたAAD遺伝子、HMAS At遺伝子、およびmdlB遺伝子を含むDNA断片を、EcoRIおよびBamHIで処理したpHSG298(タカラバイオ)とライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、カナマイシン耐性株からAAD遺伝子、HMAS At遺伝子、およびmdlB(SMDH)遺伝子の全てを搭載したプラスミドを抽出し、このプラスミドをpHSG-AHBと命名した。
実施例7:グルコースからのベンズアルデヒド合成
実施例6で構築したAAD、HMAS At、およびMdlB(SMDH)の共発現プラスミドpHSG-AHBを、E. coliのL-フェニルアラニン生産株AJ12741(特開平5-344881)に導入し、同プラスミドを有する形質転換株をカナマイシンおよびアンピシリンに耐性な株として得た。得られた株をpHSG-AHB/AJ12741株と命名した。同様にしてAAD、HMAS At、およびMdlB(SMDH)
を発現しない対照ベクターpHSG298をAJ12741株に導入し、得られた形質転換株をpHSG/AJ12741と命名した。構築した株を用いて、後述する手順に従ってグルコースからのベンズアルデヒド合成を行った。ベンズアルデヒドの定量は、HPLC分析により行った。分析条件は実施例5に記載した通りである。
構築した株、pHSG/AJ12741およびpHSG-AHB/AJ12741、をそれぞれLB-km(25 mg/L)-amp(100 mg/L)プレート(すなわち、カナマイシン25 mg/Lおよびアンピシリン100 mg/Lを含有するLBプレート)上で25℃、3日間培養した。得られた菌体を4 mLのベンゾイル蟻酸生産培地(グルコース 20 g/L、硫酸マグネシウム7水和物 1 g/L、イーストエクストラクト 2 g/L、硫酸アンモニウム 16 g/L、リン酸2水素カリウム 1 g/L、硫酸鉄7水和物 10 mg/L、硫酸マンガン5水和物10 mg/L、L-チロシン 0.1 g/L、炭酸カルシウム30 g/L、カナマイシン 25 mg/L、アンピシリン100 mg/L、pH 7.0に調整)に接種し、30℃で48時間振とう培養を行った。培養液を遠心し、上清0.49 mLを実施例5で調製したMdlC濃縮液0.01 mLと混合して試験管に入れ、15℃で4時間振とうを行った。0.1 mLの反応液を1 mLの反応停止液(1%りん酸、50%エタノール)と混合し、遠心上清をHPLC分析に供した。その結果、pHSG/AJ12741株ではベンズアルデヒドが検出されなかったのに対し、pHSG-AHB/AJ12741株では2.92 mMのベンズアルデヒドが検出された。
以上の通り、AAD、HMAS、MdlB(SMDH)、およびMdlC(BFDC)を発現する微生物を利用してL-フェニルアラニンまたはグルコースからベンズアルデヒドを製造できることが明らかとなった。
実施例8:HMASの改変によるベンズアルデヒド生産の向上
ベンズアルデヒド生産を向上させるため、Actinoplanes teichomyceticus由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(HMAS At)に種々の変異を導入した。
(1)HMAS At-His発現プラスミドの構築1
実施例2(1-5)に記載のActinoplanes teichomyceticus由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼをコードする遺伝子が挿入されたプラスミドを鋳型にして、HMAS At遺伝子を含むDNA断片をPCR増幅した。プライマーは、T7 promoter(5’-TAATACGACTCACTATAGGG-3’;配列番号58)およびhmaS At-XhoHis-R(5’-accgctcgagACGGCCATCCGCGGCAGCCT-3’;配列番号59)を用いた。PCRは、KOD-plus-ver.2(東洋紡)を用いて以下の条件で行った。
1 cycle 94℃, 2min
25 cycles 98℃, 10sec
60℃, 10sec
68℃, 60sec
1 cycle 68℃, 60sec
4℃
得られた約1100 bpのDNA断片をNdeI、XhoIで制限酵素処理し、同様にNdeI、XhoIで処理したpET22b(Novagen)とライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpET22-hmaS At-Hisと命名した。このプラスミドを用いた場合、HMAS AtはC末端にHis-tagが融合して発現する。このHis-tagが融合したHMAS AtをHMAS At-Hisと命名した。
(2)変異型HMAS At-His発現プラスミドの構築1
pET22-hmaS At-Hisを鋳型にして、HMAS At-Hisへ表3に示す変異をそれぞれ導入した。変異導入は、PrimeSTAR Max(タカラバイオ)と表3に示すプライマーを用いて以下の条件で行った。
30 cycles 98℃, 10sec
60℃, 15sec
72℃, 40sec
1 cycle 4℃
Figure 0007107225000003
各PCR溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出した。得られたプラスミドを変異型HMAS At-Hisの発現プラスミドとして以下で用いた。
(3)変異型HMAS At-Hisの精製1
実施例8(2)で得た変異型HMAS At-Hisの発現プラスミドをそれぞれE. coli BL21(DE3)に導入し、同プラスミドを有する形質転換株をアンピシリン耐性株として得た。形質転換株をLB-amp(100 mg/L)プレート上で30℃、一晩培養した。得られた菌体を試験管内のアンピシリン100 mg/Lを含有するOvernight Express Instant TB Medium(Novagen)10 mLに植菌し、30℃で16時間振とう培養を行った。培養液から菌体を遠心により取得し、2 mLのxTractor Buffer(タカラバイオ)で懸濁し、室温で20分間静置して菌体を破砕した。破砕液を遠心して菌体残渣を除き、上清を可溶性画分として以下に用いた。可溶性画分を、予めバッファー(Tris-HCl(pH 8.0) 20 mM、NaCl 300 mM、Imidazole 10 mM)で平衡化したHis-tag融合タンパク質精製カラムHisTALON Superflow Cartridges(タカラバイオ、CV=1 mL)に供し、タンパク質をカラムに吸着させた。カラムに吸着しなかったタンパク質を同じバッファーで洗い流した。溶出バッファー(Tris-HCl(pH 8.0) 20 mM、NaCl
300 mM、Imidazole 150 mM)を流速1.5 mL/minでカラムに流すことにより、カラムに吸着したタンパク質を溶出した。溶出画分を集めて、アミコンウルトラ-15 30k(ミリポア)を用いて濃縮した。濃縮液をTris-HCl(pH7.6) 20 mMで希釈し、変異型HMAS At-Hisの精製酵素として以下に用いた。
(4)HMAS At-His発現プラスミドの構築2
実施例1に記載のProvidencia rettgeri AJ2770由来アミノ酸デアミナーゼ発現プラスミドpSFN-AADを鋳型にして、phoCプロモーター配列を含むDNA断片をPCR増幅した。プライマーは、PphoC up-F(配列番号50)およびPphoC NdeI-R(配列番号51)を用いた。また、実施例8(1)に記載のActinoplanes teichomyceticus由来4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ発現プラスミドpET22-hmaS At-Hisを鋳型にして、HMAS At-His遺伝子を含むDNA断片をPCR増幅した。プライマーは、PphoC-NdeI-hmaS At-F(配列番号52)およびHis6 SacI-R(5’-ACCGgagctcagtggtggtggtggtggtg-3’;配列番号64)を用いた。得られた2つのDNA断片を鋳型にして、連結したphoCプロモーターおよびHMAS At-His遺伝子を含むDNA断片をPCR増幅した。プライマーは、EcoRI-PphoC-F(5’-gaaccgGAATTCattttttcaatgtgatttta-3’;配列番号65)およびHis6 SacI-R(配列番号64)を用いた。PCRは、KOD-plus-ver.2(東洋紡)を用いて以下の条件で行った。
1 cycle 94℃, 2min
25 cycles 98℃, 10sec
60℃, 10sec
68℃, 60sec
1 cycle 68℃, 60sec
4℃
得られた約1200 bpのDNA断片をEcoRI、SacIで制限酵素処理し、同様にEcoRI、SacIで処理したpUC18(タカラバイオ)とライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli
JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpPC-hmaS At-Hisと命名した。
pPC-hmaS At-Hisを鋳型にして、phoCプロモーター配列を含むDNA断片をPCR増幅した。プライマーは、PphoC up-F(配列番号50)およびPphoC SDact NdeI-R(5’-ATGGTCATatggattcctccttacggtgtt-3’;配列番号66)を用いた。PCRは、KOD-plus-ver.2(東洋紡)を用いて以下の条件で行った。
1 cycle 94℃, 2min
25 cycles 98℃, 10sec
60℃, 10sec
68℃, 60sec
1 cycle 68℃, 60sec
4℃
得られたDNA断片をEcoRI、NdeIで制限酵素処理し、同様にEcoRI、NdeIで処理したpPC-hmaS At-Hisとライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株から目的のプラスミドを抽出し、このプラスミドをpPC-hmaS At-His(SDatc)と命名した。このプラスミドを用いた場合、HMAS AtはC末端にHis-tagが融合して(すなわちHMAS At-Hisとして)発現する。
(5)変異型HMAS At-His発現プラスミドの構築2
pPC-hmaS At-His(SDatc)を鋳型にして、HMAS At-Hisへ変異を導入した。変異導入は、GeneMorph II Random Mutagenesis kit(アジレント・テクノロジー)を用いて以下の条件で行った。プライマーは、M13 Primer M4(5’-GTTTTCCCAGTCACGAC-3’;配列番号67)およびM13 Primer RV(5’-CAGGAAACAGCTATGAC-3’;配列番号68)を用いた。
1 cycle 95℃, 2min
30 cycles 95℃, 30sec
60℃, 30sec
72℃, 60sec
1 cycle 72℃, 10min
4℃
得られたDNA断片をNdeI、XhoIで制限酵素処理し、同様にNdeI、XhoIで処理したpPC-hmaS At-His(SDact)とライゲーションした。このライゲーション溶液でE. coli JM109を形質転換し、アンピシリン耐性株からプラスミドを抽出し、変異型HMAS At-His発現プラスミドライブラリーを得た。プラスミドライブラリーでE. coli JM109を形質転換し、変異型HMAS At-His発現プラスミドを有する形質転換株を得た。各形質転換株からプラスミドを抽出し、変異型HMAS At遺伝子の塩基配列を決定した。得られた変異体は、表4に示す変異を有していた。
Figure 0007107225000004
(6)変異型HMAS At-Hisの精製2
No. 10~13の変異型HMAS At-His発現プラスミドを有する形質転換株をLB-amp(100 mg/L)プレート上で30℃、一晩培養した。得られた菌体を試験管内のTB-amp(100 mg/L)に植菌し、37℃で16時間振とう培養を行った。菌体の処理と酵素の精製は実施例8(3)と同様に行い、変異型HMAS At-Hisの精製酵素を得た。同様に、pPC-hmaS At-His(SDatc) を有する形質転換株を培養し、野生型(WT)HMAS At-Hisを精製し、野生型HMAS At-Hisの精製酵素を得た。
(7)変異型HMAS At-Hisの精製酵素を用いたL-Pheからのベンズアルデヒド合成
精製した変異型および野生型HMAS At-Hisを用いて、以下の手順によりL-フェニルアラニン(L-Phe)から2段階でのベンズアルデヒド合成を行った。ベンズアルデヒドの定量は、HPLC分析により行った。分析条件は実施例5と同一である。
L-Phe 50 mM、硫酸鉄0.01 mM、クエン酸三ナトリウム10 mM、アスコルビン酸ナトリウム30 mM、チアミンピロりん酸クロリド10 mM、硫酸マグネシウム1 mM、リン酸カリウム緩衝液100 mM(pH7.0)、AAD濃縮液0.02 mL、HMAS At-His精製酵素 0.25 mg/mL、MdlB濃縮液0.02 mLを含有する反応液1 mLを試験管に入れ、15℃で20時間振とうを行った。反応液を遠心し、上清0.49 mLとMdlC濃縮液0.01 mLとを混合して試験管に入れ、15℃で4時間振とうを行った。0.1 mLの反応液を1 mLの反応停止液(1%りん酸、50%エタノール)と混合し、遠心上清をHPLC分析に供した。結果を表5に示す。
Figure 0007107225000005
(8)変異型HMAS At-His発現プラスミドの構築3
I217V変異を有する変異型HMAS At-HisをコードするpPC-hmaS At-His I217V (SDatc)を鋳型にして、さらに変異を導入した。変異の導入およびライブラリーの構築は実施例8(5)と同様に行った。プラスミドライブラリーでE. coli JM109を形質転換し、変異型HMAS At-His発現プラスミドを有する形質転換株を得た。各形質転換株からプラスミドを抽出し、変異型HMAS At遺伝子の塩基配列を決定した。得られた変異体は、表6に示す変異を有していた。
Figure 0007107225000006
(9)変異型HMAS At-His発現株の培養液の調製
No. 3~12および14~21の変異型HMAS At-Hisの発現プラスミドを有する形質転換株をLB-amp(100 mg/L)プレート上で30℃、一晩培養した。得られた菌体を試験管内のTB-amp(100 mg/L)10 mLに植菌し、37℃で16時間振とう培養を行った。得られた培養液を遠心により濃縮し、5倍濃縮液を得た。同様に、pPC-hmaS At-His(SDatc) を有する形質転換株を培養し、野生型(WT)HMAS At-Hisの培養液の5倍濃縮液を調製した。これら濃縮液をHMAS
At-His濃縮液として以下の反応に用いた。
(7)変異型HMAS At-Hisを用いたL-Pheからのベンズアルデヒド合成
HMAS At-His濃縮液を用いて、以下の手順によりL-フェニルアラニン(L-Phe)から2段階でのベンズアルデヒド合成を行った。ベンズアルデヒドの定量は、HPLC分析により行った。分析条件は実施例5と同一である。
L-Phe 50 mM、硫酸鉄0.01 mM、クエン酸三ナトリウム10 mM、アスコルビン酸ナトリウム30 mM、チアミンピロりん酸クロリド10 mM、硫酸マグネシウム1 mM、リン酸カリウム緩衝液100 mM(pH7.0)、AAD濃縮液0.02 mL、HMAS At-His濃縮液 0.1 mL、MdlB濃縮液0.02 mLを含有する反応液1 mLを試験管に入れ、15℃で20時間振とうを行った。反応液を遠心し、上清0.49 mLとMdlC濃縮液0.01 mLとを混合して試験管に入れ、15℃で4時間振とうを行った。0.1 mLの反応液を1 mLの反応停止液(1%りん酸、50%エタノール)と混合し、遠心上清をHPLC分析に供した。結果を表7に示す。
Figure 0007107225000007
本発明によれば、L-フェニルアラニンまたは炭素源からベンズアルデヒドを効率よく製造することができる。
<配列表の説明>
配列番号1~10:プライマー
配列番号11:Providencia rettgeri AJ2770の改変型AAD遺伝子の塩基配列
配列番号12:Providencia rettgeri AJ2770のAADのアミノ酸配列
配列番号13:Amycolatopsis orientalisのHMAS遺伝子の塩基配列
配列番号14:Amycolatopsis orientalisのHMASのアミノ酸配列
配列番号15:Streptomyces coelicolorのHMAS遺伝子の塩基配列
配列番号16:Streptomyces coelicolorのHMASのアミノ酸配列
配列番号17:Streptomyces toyocaensisのHMAS遺伝子の塩基配列
配列番号18:Streptomyces toyocaensisのHMASのアミノ酸配列
配列番号19:Rhodococcus rhodniiのHMAS遺伝子の塩基配列
配列番号20:Rhodococcus rhodniiのHMASのアミノ酸配列
配列番号21:Actinoplanes teichomyceticusのHMAS遺伝子の塩基配列
配列番号22:Actinoplanes teichomyceticusのHMASのアミノ酸配列
配列番号23:Streptomyces avermitilisのHPPD遺伝子の塩基配列
配列番号24:Streptomyces avermitilisのHPPDのアミノ酸配列
配列番号25:Pseudomonas putidaのHPPD遺伝子の塩基配列
配列番号26:Pseudomonas putidaのHPPDのアミノ酸配列
配列番号27:Pseudomonas putidaのSMDH遺伝子の塩基配列
配列番号28:Pseudomonas putidaのSMDHのアミノ酸配列
配列番号29:Pseudomonas putidaのBFDC遺伝子の塩基配列
配列番号30:Pseudomonas putidaのBFDCのアミノ酸配列
配列番号31:Providencia rettgeri AJ2770の野生型AAD遺伝子の塩基配列
配列番号32:Amycolatopsis balhimycinaのHMAS遺伝子の塩基配列
配列番号33:Amycolatopsis balhimycinaのHMASのアミノ酸配列
配列番号34:Kibdelosporangium aridumのHMAS遺伝子の塩基配列
配列番号35:Kibdelosporangium aridumのHMASのアミノ酸配列
配列番号36:Nonomuraea coxensisのHMAS遺伝子の塩基配列
配列番号37:Nonomuraea coxensisのHMASのアミノ酸配列
配列番号38:Actinoplanes rectilineatusのHMAS遺伝子の塩基配列
配列番号39:Actinoplanes rectilineatusのHMASのアミノ酸配列
配列番号40:Actinoplanes subtropicusのHMAS遺伝子の塩基配列
配列番号41:Actinoplanes subtropicusのHMASのアミノ酸配列
配列番号42:Streptomyces rimosusのHMAS遺伝子の塩基配列
配列番号43:Streptomyces rimosusのHMASのアミノ酸配列
配列番号44:Herpetosiphon aurantiacusのHMAS遺伝子の塩基配列
配列番号45:Herpetosiphon aurantiacusのHMASのアミノ酸配列
配列番号46~68:プライマー

Claims (29)

  1. ベンズアルデヒドの製造方法であって、
    下記工程(A):
    (A)4つの酵素:アミノ酸デアミナーゼ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ、(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ、およびベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼを有する少なくとも1つの微生物を利用することにより、ベンズアルデヒドを製造する工程
    を含み、
    前記少なくとも1つの微生物が、単独で前記4つの酵素を有する単一の微生物であるか、全体として前記4つの酵素を有する複数の微生物の組み合わせであり、
    前記4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼが、下記(a)、(b)、(c)、または(d)に記載のタンパク質である、方法:
    (a)配列番号14、16、18、20、22、33、37、41、または43に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
    (b)配列番号14、16、18、20、22、33、37、41、または43に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ活性を有するタンパク質;
    (c)配列番号14、16、18、20、22、33、37、41、または43に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ活性を有するタンパク質;
    (d)下記(a1)、(b1)、または(c1)に記載のタンパク質のアミノ酸配列において特定の変異を有するアミノ酸配列を含み、該特定の変異が、T2、M3、G5、Y18、A27、D35、E46、E180、A187、E191、V194、A199、D201、Q206、I217、D220、T222、G255、F319、G327、I336、K337、V343、およびQ347からなる群より選択される1つまたはそれ以上のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基における変異である、タンパク質:
    (a1)配列番号22に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
    (b1)配列番号22に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ活性を有するタンパク質;
    (c1)配列番号22に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ活性を有するタンパク質;
    ただし、前記4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼが配列番号35および39のアミノ酸配列からなるタンパク質である場合は除く。
  2. 前記工程(A)が、下記(a)~(c)からなる群より選択される手段により実施される、請求項1に記載の方法:
    (a)前記少なくとも1つの微生物を培養すること;
    (b)前記少なくとも1つの微生物の菌体を利用すること;または
    (c)前記複数の微生物の一部を培養することと、前記複数の微生物の残部の菌体を利用することとの組み合わせ。
  3. ベンズアルデヒドが、炭素源またはL-フェニルアラニンから製造される、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記工程(A)が、下記工程(B)または(C):
    (B)前記少なくとも1つの微生物を利用して炭素源からベンズアルデヒドを製造する工程;
    (C)前記少なくとも1つの微生物を利用してL-フェニルアラニンをベンズアルデヒドに変換する工程
    により実施され、
    前記工程(B)で利用される前記少なくとも1つの微生物が、L-フェニルアラニン生産能を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記工程(A)が、下記工程(B1)、(C1)、または(C2):
    (B1)炭素源を含有する培地で前記少なくとも1つの微生物を培養し、ベンズアルデヒドを該培地中に生成蓄積する工程;
    (C1)L-フェニルアラニンを含有する培地で前記少なくとも1つの微生物を培養し、ベンズアルデヒドを該培地中に生成蓄積する工程;
    (C2)前記少なくとも1つの微生物の菌体を反応液中でL-フェニルアラニンと共存させ、ベンズアルデヒドを該反応液中に生成蓄積する工程
    により実施され、
    前記工程(B1)で利用される前記少なくとも1つの微生物が、L-フェニルアラニン生産能を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記工程(A)が、下記工程(D1)および(D2):
    (D1)下記工程(D1a)または(D1b):
    (D1a)炭素源からフェニルピルビン酸、(S)-マンデル酸、またはベンゾイル蟻酸を生成する工程;
    (D1b)L-フェニルアラニンをフェニルピルビン酸、(S)-マンデル酸、またはベンゾイル蟻酸に変換する工程;
    (D2)前記工程(D1)で生成したフェニルピルビン酸、(S)-マンデル酸、またはベンゾイル蟻酸をベンズアルデヒドに変換する工程
    を含み、
    前記工程(D1a)が、前記4つの酵素から選択される前記工程(D1)に対応する酵素とL-フェニルアラニン生産能とを有する少なくとも1つの微生物を利用して実施され、
    前記工程(D1b)が、前記4つの酵素から選択される前記工程(D1)に対応する酵素を有する少なくとも1つの微生物を利用して実施され、
    前記工程(D2)が、前記4つの酵素から選択される該工程(D2)に対応する酵素を有する少なくとも1つの微生物を利用して実施される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記工程(D1a)が、該工程(D1a)で利用される前記少なくとも1つの微生物を培養することにより実施され、
    前記工程(D1b)および(D2)が、該工程(D1b)および(D2)でそれぞれ利用される微生物の菌体を利用することにより、または、該微生物を培養することにより実施される、請求項6に記載の方法。
  8. 前記工程(A)が、下記工程(E1)および(E2):
    (E1)下記工程(E1a)または(E1b):
    (E1a)アミノ酸デアミナーゼ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ、および(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼとL-フェニルアラニン生産能とを有する少なくとも1つの微生物を利用することにより、炭素源からベンゾイル蟻酸を生成する工程;
    (E1b)アミノ酸デアミナーゼ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ、および(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼを有する少なくとも1つの微生物を利用することにより、L-フェニルアラニンをベンゾイル蟻酸に変換する工程;
    (E2)ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼを有する微生物を利用することにより、前記工程(E1)で生成したベンゾイル蟻酸をベンズアルデヒドに変換する工程
    を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
  9. 前記工程(E1a)が、該工程(E1a)で利用される前記少なくとも1つの微生物を培養することにより実施され、
    前記工程(E1b)および(E2)が、該工程(E1b)および(E2)でそれぞれ利用される微生物の菌体を利用することにより、または、該微生物を培養することにより実施される、請求項8に記載の方法。
  10. 前記工程(A)が、下記工程(F1)および(F2):
    (F1)下記工程(Fa)または(Fb):
    (Fa)炭素源を含有する培地で少なくとも1つの微生物を培養し、ベンゾイル蟻酸を該培地中に生成蓄積する工程であって、該少なくとも1つの微生物が、アミノ酸デアミナーゼ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ、および(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼとL-フェニルアラニン生産能とを有する工程;
    (Fb)L-フェニルアラニンを含有する培地で少なくとも1つの微生物を培養し、ベンゾイル蟻酸を該培地中に生成蓄積する工程、または少なくとも1つの微生物の菌体をL-フェニルアラニンと反応液中で共存させ、ベンゾイル蟻酸を該反応液中に生成蓄積する工程であって、該少なくとも1つの微生物が、アミノ酸デアミナーゼ、4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ、および(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼを有する工程;
    (F2)前記工程(F1)で生成したベンゾイル蟻酸を含有する培地で微生物を培養し、ベンズアルデヒドを該培地中に生成蓄積する工程、または微生物の菌体を前記工程(F1)で生成したベンゾイル蟻酸と反応液中で共存させ、ベンズアルデヒドを該反応液中に生成蓄積する工程であって、該微生物が、ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼを有する工程
    を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
  11. 前記工程(A)が、下記工程(G1)~(G4):
    (G1)下記工程(G1a)または(G1b):
    (G1a)アミノ酸デアミナーゼを有する微生物を利用することにより、炭素源からフェニルピルビン酸を生成する工程;
    (G1b)アミノ酸デアミナーゼを有する微生物を利用することにより、L-フェニルアラニンをフェニルピルビン酸に変換する工程;
    (G2)4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼを有する微生物を利用することにより、前記工程(G1)で生成したフェニルピルビン酸を(S)-マンデル酸に変換する工程;
    (G3)(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼを有する微生物を利用することにより、前記工程(G2)で生成した(S)-マンデル酸をベンゾイル蟻酸に変換する工程;
    (G4)ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼを有する微生物を利用することにより、前記工程(G3)で生成したベンゾイル蟻酸をベンズアルデヒドに変換する工程
    を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
  12. 前記工程(G1a)が、該工程(G1a)で利用される前記微生物を培養することにより実施され、
    前記工程(G1b)および(G2)~(G4)が、該工程(G1b)および(G2)~(G4)でそれぞれ利用される微生物の菌体を利用することにより、または、該微生物を培養することにより実施される、請求項11に記載の方法。
  13. 前記菌体が、前記微生物の培養物、該培養物から回収された菌体、それらの処理物、またはそれらの組み合わせである、請求項2~12のいずれか1項に記載の方法。
  14. 前記アミノ酸デアミナーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法:
    (a)配列番号12に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
    (b)配列番号12に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、アミノ酸デアミナーゼ活性を有するタンパク質;
    (c)配列番号12に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、アミノ酸デアミナーゼ活性を有するタンパク質。
  15. 前記特定の変異が、T2N、M3I、G5R、Y18F、A27V、D35G、E46Q、E180K、A187V、E191K、V194G、A199(S、V)、D201N、Q206R、I217(L、V)、D220(A、N)、T222S、G255D、F319Y、G327(D、S)、I336V、K337Q、V343M、およびQ347Lからなる群より選択される1つまたはそれ以上の変異に相当する変異である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
  16. 前記特定の変異が、M3I/A199S/G255D、Y18F/D220N、A27V/E191K、D35G/E46Q/T222S/I336V、E180K/I217V/D220N、A187V/I217V、A199V/I217V/K337Q、D201N/I217V、I217V/F319Y、およびD220A/Q347Lのいずれかに相当する変異である、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
  17. 前記(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法:
    (a)配列番号28に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
    (b)配列番号28に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質;
    (c)配列番号28に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、(S)-マンデル酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
  18. 前記ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法:
    (a)配列番号30に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
    (b)配列番号30に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質;
    (c)配列番号30に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配
    列を含み、且つ、ベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質。
  19. 前記微生物が、細菌または酵母である、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
  20. 前記微生物が、腸内細菌科に属する細菌またはコリネ型細菌である、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
  21. 前記微生物が、エシェリヒア属細菌である、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
  22. 前記微生物が、エシェリヒア・コリである、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
  23. さらに、ベンズアルデヒドを回収する工程を含む、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
  24. 変異型4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼであって、
    配列番号22に示すアミノ酸配列からなる野生型4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼと比較して4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ活性が増大しており、
    配列番号22に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
    配列番号22に示すアミノ酸配列に相当する位置において、T2N、V194G、A199(S、V)、I217(L、V)、D220(A、N)、G327(D、S)、I336V、M3I/A199S/G255D、Y18F/D220N、A27V/E191K、D35G/E46Q/T222S/I336V、E180K/I217V/D220N、A187V/I217V、A199V/I217V/K337Q、D201N/I217V、I217V/F319Y、またはD220A/Q347Lの変異を有する、変異型4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ。
  25. 配列番号22に示すアミノ酸配列に相当する位置において、T2N、V194G、217(L、V)、G327(D、S)、I336V、M3I/A199S/G255D、Y18F/D220N、A27V/E191K、D35G/E46Q/T222S/I336V、E180K/I217V/D220N、A187V/I217V、A199V/I217V/K337Q、D201N/I217V、I217V/F319Y、またはD220A/Q347Lの変異を有する、請求項24に記載の変異型4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼ。
  26. 請求項24または25に記載の変異型4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼをコードする遺伝子。
  27. 請求項26に記載の遺伝子を有する微生物。
  28. 請求項24または25に記載の変異型4-ヒドロキシマンデル酸シンターゼを有する微生物。
  29. ベンズアルデヒドの製造のための請求項28に記載の微生物の使用。
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