以下、本発明の一実施例について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の車両用動力伝達装置16の噛合クラッチD1が適用される車両10の概略構成を説明する図である。図1において、車両10は、走行用の駆動力源として機能するエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間に設けられた車両用動力伝達装置16とを備えている。車両用動力伝達装置16は、非回転部材としてのハウジング18内において、エンジン12に連結された流体式伝動装置としての公知のトルクコンバータ20、トルクコンバータ20に連結された入力軸22、入力軸22に連結された無段変速機構としての公知のベルト式無段変速機24(以下、無段変速機24)、同じく入力軸22に連結された前後進切換装置26、前後進切換装置26を介して入力軸22に連結されて無段変速機24と並列に設けられた減速歯車機構としてのギヤ機構28を備えている。また、車両用動力伝達装置16は、無段変速機24及びギヤ機構28の共通の出力回転部材である第2回転軸すなわち出力軸30、カウンタ軸32、出力軸30及びカウンタ軸32に各々相対回転不能に設けられて噛み合う一対のギヤから成る減速歯車装置34、カウンタ軸32に相対回転不能に設けられたギヤ36に連結されたデフギヤ38、デフギヤ38に連結された一対の車軸40等を備えている。このように構成された車両用動力伝達装置16において、エンジン12の動力は、トルクコンバータ20、無段変速機24或いは前後進切換装置26及びギヤ機構28、減速歯車装置34、デフギヤ38、及び車軸40等を順次介して一対の駆動輪14へ伝達される。
車両用動力伝達装置16は、エンジン12と駆動輪14との間に並列に設けられた無段変速機24及びギヤ機構28を備えている、並列型動力伝達装置である。車両用動力伝達装置16は、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機24を介して駆動輪14側すなわち出力軸30へ伝達する第1動力伝達経路PT1と、エンジン12の動力を入力軸22からギヤ機構28を介して駆動輪14側すなわち出力軸30へ伝達する第2動力伝達経路PT2とを備えている。したがって、車両用動力伝達装置16は、車両10の走行状態に応じてその第1動力伝達経路PT1とその第2動力伝達経路PT2とが切り替えられるように構成されている。そのため、車両用動力伝達装置16は、エンジン12の動力を駆動輪14側へ伝達する動力伝達経路を、第1動力伝達経路PT1と第1動力伝達経路PT1よりも大きい変速比すなわち低速側の変速比で動力を伝達する第2動力伝達経路PT2とで選択的に切り替えるクラッチ機構として、第1動力伝達経路PT1を断接する第1クラッチとしてのCVT走行用クラッチC2と、第2動力伝達経路PT2を断接する第2クラッチとしての前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1及び後述するシンクロメッシュ機構付噛合クラッチD1とを備えている。
トルクコンバータ20は、入力軸22回りにその入力軸22に対して同心に設けられており、エンジン12に連結されたポンプ翼車20p、及び入力軸22に連結されたタービン翼車20tを備えている。ポンプ翼車20pには、たとえば車両用動力伝達装置16の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給する制御等を実施するための油圧を発生させる機械式油圧ポンプ41が連結されている。
前後進切換装置26は、第2動力伝達経路PT2において入力軸22回りにその入力軸22に対して同心に設けられており、ダブルピニオン型の遊星歯車装置26p、前進用クラッチC1、及び後進用ブレーキB1を備えている。遊星歯車装置26pは、入力要素としてのキャリア26cと、出力要素としてのサンギヤ26sと、反力要素としてのリングギヤ26rとの3つの回転要素を有する差動機構である。キャリア26cは入力軸22に一体的に連結され、リングギヤ26rは後進用ブレーキB1を介してハウジング18に選択的に連結され、サンギヤ26sは入力軸22回りにその入力軸22に対して同心に相対回転可能に設けられた小径ギヤ42に連結されている。又、キャリア26cとサンギヤ26sとは、前進用クラッチC1を介して選択的に連結される。
ギヤ機構28は、小径ギヤ42と、小径ギヤ42と噛み合う大径ギヤ46とを備えている。大径ギヤ46は、一軸線すなわち軸心C回りに回転可能に設けられた第1回転軸すなわちギヤ機構カウンタ軸44に対して、そのギヤ機構カウンタ軸44の軸心Cに相対回転不能に設けられている。また、ギヤ機構28は、ギヤ機構カウンタ軸44回りにそのギヤ機構カウンタ軸44に対して同心に相対回転可能に設けられた変速ギヤである第1ギヤすなわちアイドラギヤ48と、第2回転軸すなわち出力軸30回りにその出力軸30に対して同心に相対回転不能に設けられてそのアイドラギヤ48と常時噛み合う第2ギヤすなわち出力ギヤ50とを備えている。出力ギヤ50は、アイドラギヤ48よりも大径である。
無段変速機24は、入力軸22と出力軸30との間の第1動力伝達経路PT1内に設けられている。無段変速機24は、入力軸22に設けられた有効径が可変のプライマリプーリ64と、出力軸30と同心の回転軸66に設けられた有効径が可変のセカンダリプーリ68と、その一対のプーリ64,68の間に巻き掛けられた伝動ベルト70とを備え、一対のプーリ64,68と伝動ベルト70との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。CVT走行用クラッチC2は、無段変速機24よりも駆動輪14側、すなわちセカンダリプーリ68と出力軸30との間に設けられており、セカンダリプーリ68すなわち回転軸66と出力軸30との間を選択的に断接する。車両用動力伝達装置16では、CVT走行用クラッチC2が係合されることで、第1動力伝達経路PT1が成立させられて、エンジン12の動力が入力軸22から無段変速機24を経由して出力軸30へ伝達される。車両用動力伝達装置16では、CVT走行用クラッチC2が解放されると、第1動力伝達経路PT1はニュートラル状態とされる。
ギヤ機構カウンタ軸44回りには、大径ギヤ46とアイドラギヤ48との間に、たとえば変速操作に基づいてこれらの間を選択的に断接するシンクロメッシュ機構付噛合クラッチD1(以下、噛合クラッチD1という)が設けられている。噛合クラッチD1は、サンギヤ26sから出力軸30までの間の第2動力伝達経路PT2を断接する噛合式クラッチであり、前進用クラッチC1よりも出力軸30側に設けられた、第2動力伝達経路PT2を断接する第3クラッチとして機能する。
図2は、図1の車両用動力伝達装置16の係合要素の作動状態を走行パターン毎に示し、その走行パターンの切り替わりを説明する図である。図2において、C1は前進用クラッチC1の作動状態に対応し、C2はCVT走行用クラッチC2の作動状態に対応し、B1は後進用ブレーキB1の作動状態に対応し、D1は噛合式クラッチD1の作動状態に対応し、「○」は係合(接続)を示し、「×」は解放(遮断)を示している。
第1動力伝達経路PT1を経由して動力が伝達される走行パターンであるいわゆるギヤ走行では、図2に示すように、たとえば前進用クラッチC1および噛合式クラッチD1が係合される一方、CVT走行用クラッチC2および後進用ブレーキB1が解放される。このように、前進用クラッチC1および噛合式クラッチD1が係合されると、エンジン12の動力は、トルクコンバータ20、前後進切換装置26、ギヤ機構28、およびアイドラギヤ48等を順次介して出力軸30に伝達される。なお、このギヤ走行では、例えば後進用ブレーキB1および噛合式クラッチD1が係合される一方、CVT走行用クラッチC2および前進用クラッチC1が解放されると、後進走行が可能となる。
第2動力伝達経路PT2を経由して動力が伝達される走行パターンであるいわゆるCVT走行では、図2の高車速のCVT走行に示すように、たとえばCVT走行用クラッチC2が係合される一方、前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1、および噛合式クラッチD1が解放される。CVT走行用クラッチC2が係合されると、エンジン12の動力は、トルクコンバータ20および無段変速機24等を順次介して出力軸30に伝達される。この高車速のCVT走行中に噛合式クラッチD1が解放されるのは、たとえばCVT走行中のギヤ機構28等の引き摺りをなくすと共に、高車速においてギヤ機構28等が高回転化するのを防止する為である。
ギヤ走行から高車速のCVT走行、或いは高車速のCVT走行からギヤ走行へ切り替える場合には、図2に示すように、中車速のCVT走行を過渡的に経由して切り替えられる。
たとえばギヤ走行から高車速のCVT走行に切り替える場合には、ギヤ走行に対応する前進用クラッチC1および噛合クラッチD1が係合された状態から、CVT走行用クラッチC2および噛合クラッチD1が係合された状態である中車速のCVT走行に切り替えられる。動力伝達経路は第1動力伝達経路PT1から第2動力伝達経路PT2へ変更され、動力伝達装置16においては実質的にアップシフトさせられる。そして、動力伝達経路が切り替えられた後、不要な引き摺りやギヤ機構28等の高回転化を防止する為に噛合クラッチD1が解放される。このように噛合式クラッチD1は、駆動輪14側からの入力を遮断する被駆動入力遮断クラッチとして機能する。
また、たとえば高車速のCVT走行からギヤ走行に切り替える場合には、CVT走行用クラッチC2が係合された状態から、ギヤ走行への切替準備として更に噛合クラッチD1が係合される状態である中車速のCVT走行に過渡的に切り替えられる。この中車速のCVT走行の状態からCVT走行用クラッチC2を解放して前進用クラッチC1を係合するようにクラッチを掛け替えるCtoC変速が実行されると、ギヤ走行へ切り替えられる。このとき、動力伝達経路は第2動力伝達経路PT2から第1動力伝達経路PT1へ変更され、動力伝達装置16においては実質的にダウンシフトさせられる。
図3は、図1の車両に設けられる車両用動力伝達装置16の噛合クラッチD1の要部を拡大して示す図であり、図4は、図3の一点鎖線で囲むE部を拡大して示す図であり、噛合クラッチD1に設けられる回転同期機構としてのシンクロメッシュ機構S1の要部を拡大して示す図である。図3に示すように、ギヤ機構カウンタ軸44は、一対の軸受80a、80bを介して一対の支持壁82a、82bにより軸心C回りに回転可能に支持されている。ギヤ機構カウンタ軸44には、貫通する中心孔44aが軸心C方向に形成されている。中心孔44aには、ギヤ機構カウンタ軸44が一対の支持壁82a、82bにより支持された状態で、一対の支持壁82a、82bのうちの他方の支持壁82a側の開口から潤滑油が供給される。
噛合クラッチD1は、ギヤ機構カウンタ軸44回りにそのギヤ機構カウンタ軸44に同軸心に相対回転不能に設けられたハブ52を備えている。また、噛合クラッチD1は、ハブ52を介してギヤ機構カウンタ軸44に対してギヤ機構カウンタ軸44の軸心C回りに相対回転不能且つその軸心Cと平行な方向に相対移動可能に設けられた円環状のスリーブ56を備えている。噛合クラッチD1では、ハブ52の外周面に形成された軸心Cに平行な図示しない外周歯と、円環状に形成されたスリーブ56の内周面の内周歯56sとがスプライン嵌合されている。アイドラギヤ48には、出力ギヤ50と噛み合うアイドラギヤ48の噛合歯の側面48a側に外周歯54sが一体に形成されている。外周歯54sは、アイドラギヤ48の外周歯54sとハブ52との間に配設されている。スリーブ56の内周歯56sとアイドラギヤ48の外周歯54sとはそれぞれ相互に噛合可能な寸法に形成されており、アイドラギヤ48の外周歯54sは、噛合クラッチD1における一対の噛合歯のうちの一方に対応し、スリーブ56の内周歯56sは、噛合クラッチD1における一対の噛合歯のうちの他方に対応している。アイドラギヤ48は、ニードルベアリング84を介してギヤ機構カウンタ軸44に相対回転可能に支持されている。
噛合クラッチD1は、シンクロナイザリング58を有する回転同期機構としてのシンクロメッシュ機構S1を備えている。シンクロメッシュ機構S1は、スリーブ56の内周歯56sとアイドラギヤ48の外周歯54sとの噛み合いに先立って、ギヤ機構カウンタ軸44のスリーブ56の回転とアイドラギヤ48の回転とを同期させる。図3は、スリーブ56が係合位置P2に位置する状態、すなわちスリーブ56の内周歯56sが、アイドラギヤ48の外周歯54sに噛み合っているシンクロ係合状態を示している。係合位置P2は、スリーブ56のアイドラギヤ48側の端部に形成された後述する突起56aがアイドラギヤ48の係合歯の側面48aに接触している位置となる。
図3および図4に示すように、シンクロナイザリング58は円環状に形成されており、シンクロナイザリング58の外周面には、スリーブ56の内周歯56sに噛合可能な外周歯58sが形成されている。また、シンクロナイザリング58の内周面には、アイドラギヤ48のテーパ状外周面76と面接触するテーパ状内周面78が形成されている。テーパ状内周面78は、軸心C方向においてアイドラギヤ48の外周歯54sから遠ざかるほど内径の寸法が小さくなっている。シンクロナイザリング58は、アイドラギヤ48に相対回転可能に支持されている。
図3において二点鎖線で示されているスリーブ56は、スリーブ56が中立位置P1の位置にある状態を示している。スリーブ56が中立位置P1にある状態では、スリーブ56とアイドラギヤ48とが噛み合っていない状態、すなわちスリーブ56の内周歯56sがアイドラギヤ48の外周歯54sと噛み合っていない解放状態にある。スリーブ56が中立位置P1にある状態では、スリーブ56の内周歯56sは、シンクロナイザリング58の外周歯58sとも噛み合っていない状態にある。スリーブ56がアイドラギヤ48側へ移動させられて中立位置P1から係合位置P2に移動した場合には、スリーブ56の内周歯56sは、図5に示すように、シンクロナイザリング58の外周歯58sを通してアイドラギヤ48の外周歯54sと噛み合わされる。これにより、ギヤ機構カウンタ軸44の回転が噛合クラッチD1を介して、アイドラギヤ48に伝達される。
図5は、図3および図4のスリーブ56の内周歯56sとアイドラギヤ48の外周歯54sとの噛み合いの状態を拡大して示す図である。図5の矢印Aは、スリーブ56が中立位置P1から係合位置P2へ移動する方向すなわちスリーブ56の係合方向を示している。図5に示すように、外周歯54sは、外周歯54sの歯幅方向すなわち軸心Cまわりの方向においてスリーブ56の内周歯56s側の端部に向かって歯厚W1が増大するように傾斜したテーパ状の一対の傾斜歯面である第1歯面86を有している。また、内周歯56sは、内周歯56sの歯幅方向すなわち軸心Cまわりの方向においてアイドラギヤ48の外周歯54s側の端部に向かって歯厚W2が増大するように傾斜したテーパ状の一対の傾斜歯面である第2歯面88を有している。すなわち、スリーブ56の内周歯56sとアイドラギヤ48の外周歯54sとが噛み合っていない状態において、外周歯54sおよび内周歯56sは、相互に近接するほど、すなわち相互に近いほど歯厚が増大する一対の傾斜歯面をそれぞれ有している。図5の角度θは、スリーブ56の内周歯56sとアイドラギヤ48の外周歯54sとが噛み合っているときにおいて、第1歯面86と第2歯面88との接触面Hが軸心Cを通る面に対して成す接触角を示している。図5の矢印Fsは、接触面Hにおいて、たとえば伝達トルクなどの入力トルクTに応じてスリーブ56の内周歯56sに入力されるスラスト力Fsを示している。スラスト力Fsは、接触角θを成す接触面Hによってスリーブ56の係合方向Aにおいて内周歯56sに入力される。そのため、スラスト力Fsが内周歯56sの係合方向Aに入力されることにより、スリーブ56がアイドラギヤ48から離脱するいわゆるギヤ抜けの発生が抑制される。スラスト力Fsの大きさは、接触面Hが軸心Cを通る面に対して成す接触角θの大きさおよび入力トルクTの大きさにより異なり、接触角θが大きくなるとスラスト力Fsは大きくなり、また入力トルクTが大きくなると同様にスラスト力Fsは大きくなる。
図3に戻り、シフトフォーク60は、アクチュエータ90によって作動させられるフォークシャフト92の一端部に取り付けられている。アクチュエータ90は、図示しない非回転部材に固設されている。図3に示すように、アクチュエータ90は、フォークシャフト92の他端に固定されたピストン94と、そのピストン94の外周面に形成された周溝96に嵌め着けられたOリング98と、そのピストン94を摺動可能に収容するシリンダ100と、それらピストン94、Oリング98、およびシリンダ100により形成される油圧室102とを備えている。ピストン94は、リターンスプリング104の付勢力Fspにより、常にその油圧室102を縮小する方向に押圧されるようになっている。すなわち、本実施例において、アクチュエータ90は、エンジン12の回転駆動に伴って駆動するオイルポンプ41から出力される油圧を用いて、フォークシャフト92を軸心C方向に往復駆動させる油圧アクチュエータとして機能する。またOリング98はシール部材として機能する。また、シリンダ100はピストン収容部として機能する。また、スリーブ56は、フォークシャフト92およびシフトフォーク60を介してピストン94に連結させられている。
図3に示すように、シフトフォーク60は、フォークシャフト92の一端部に取り付けられる基端部60aと、基端部60aから曲線的に伸びる先端部60bとを有している。基端部60aとフォークシャフト92とは1個以上の締結ボルト110によって締結されている。基端部60aには、締結ボルト110を挿通するための挿通穴112が形成されている。フォークシャフト92には、締結ボルト110を締結させるためのねじ穴114が形成されている。先端部60bは、基端部60aから軸心Cに向かってすなわち基端部60aから軸心Cに同心に設けられたスリーブ56に向かって伸び、且つ先端部60bは双股状に形成されている。シフトフォーク60の先端部60bは、スリーブ56の外周面に形成された環状の外周凹溝72に嵌合可能に形成されている。
図3および図4に示すように、シフトフォーク60の先端部60bにおいて、外周凹溝72の一対の側壁面72aおよび72bに対向してそれと接触する一対の接触面には、高い耐摩擦性能を有する材料から成る摩擦材としての一対の摺動パッド62aおよび62b、いわゆるシフトフォークパッドが配設されている。摺動パッド62aおよび62bは、たとえば摺動パッド62aおよび62b同士を振動溶着させることによって先端部60bの両面に固着されている。先端部60bに設けられた摺動パッド62aおよび62bは、シフトフォーク60が移動させられることによって、外周凹溝72内の側壁面72aおよび72bに当接させられる。スリーブ56が係合方向Aに移動させられる場合には、外周凹溝72のアイドラギヤ48側の側壁面72bに摺動パッド62bが当接させられる。
このように構成されたアクチュエータ90によれば、たとえばエンジン12により回転駆動されるオイルポンプ41による油圧を元圧として調圧された作動油が油圧室102に供給されることによって、リターンスプリング104の付勢力Fspに対抗する押圧力となる推力Fが発生させられ、スリーブ56には、フォークシャフト92およびシフトフォーク60を介してスリーブ56を係合方向Aへ移動させる係合力すなわち係合荷重Fbが作用させられる。油圧室102に供給される供給油圧が予め定められた油圧以上になった場合には、アクチュエータ90の推力Fによってスリーブ56の内周歯56sがアイドラギヤ48の外周歯54sと噛み合う係合位置P2にスリーブ56が移動させられる。摺動パッド62bが外周凹溝72内の側壁面に当接させられると、非回転部材であるシフトフォーク60と回転部材であるスリーブ56との接触面、すなわち摺動パッド62bの外周凹溝72の側壁面に接触する面に、係合荷重Fbに基づく接触面圧すなわち摺動面圧が作用させられる。
図3および図4に示すように、スリーブ56の内周歯56sがアイドラギヤ48の外周歯54sと噛み合う係合位置P2にスリーブ56が位置させられた場合には、スリーブ56はアイドラギヤ48の噛合歯の側面48aに接触した状態で保持されている。図3および図4に示すように、スリーブ56には、アイドラギヤ48と対向する端面にアイドラギヤ48側へ突き出す突起56aが形成されている。すなわち、スリーブ56が係合位置P2に位置させられた場合には、突起56aがアイドラギヤ48の噛合歯の側面48aに当接させられることによってスリーブ56の位置が位置決めされて、且つアクチュエータ90の推力Fによって突起56aがアイドラギヤ48aの噛合歯の側面48aに接触した状態で保持される。図3に示すように、アクチュエータ90の推力Fによって突起56aがアイドラギヤ48aの噛合歯の側面48aに接触した状態で保持されている場合では、シリンダ100とシフトフォーク60との間には隙間Sが形成されている。
図6は、図1の車両10に設けられた電子制御装置120の制御機能を説明する機能ブロック線図である。図6に示す電子制御装置120は車両10内に設けられ、車両10の制御装置として、マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置120には、各種センサによる検出信号に基づく各種実際値が供給されており、アクセル開度センサ122からのアクセル開度θacc(%)を表す信号、スロットル弁センサ124からのスロットル弁開度θth(%)を表す信号が供給される。また、電子制御装置120には、エンジン回転速度センサ126からのエンジン回転速度Ne(rpm)を表す信号、図示しない車速センサからの車速Vを表す信号などが供給される。また、電子制御装置120は、第2動力伝達経路PT2を断接させるためのアクチュエータ制御信号Spを油圧制御回路128に供給し、油圧制御回路128からアクチュエータ90の油圧室102に供給される油圧を制御して、アクチュエータ90の推力Fを制御する。
電子制御装置120は、制御機能の要部として、入力トルクTを推定手段すなわち入力トルク推定部130、アクチュエータ推力制御手段すなわちアクチュエータ推力制御部132を機能的に備えている。
入力トルク推定部130は、第1回転軸すなわちギヤ機構カウンタ軸44と第2回転軸すなわち出力軸30との間で伝達されるトルクすなわちギヤ機構カウンタ軸44に入力される入力トルクTを、エンジン12の特性から推定する。たとえば、入力トルク推定部128は、予め記憶された関係を用いて実際のエンジン回転速度Neやスロットル弁開度θthなどに基づいて求めたエンジン出力トルクと、入力軸22とギヤ機構カウンタ軸44との間のギヤ比とから算出することにより、入力トルクTを推定する。
アクチュエータ推力制御部132は、スリーブ56とアイドラギヤ48とが噛み合っていない状態からスリーブ56とアイドラギヤ48とが噛み合っている状態にする場合に、スリーブ56の突起56aがアイドラギヤ48の側面48aに接触する荷重FC1(以下、C面荷重という)が適切な値となるように予め求められ且つ記憶されたたとえば図7に示す関係から、実際の入力トルクTに基づいて油圧制御回路128からアクチュエータ90の油圧室102に供給される供給油圧すなわちアクチュエータ90の推力Fの制御を実行する。図7に示す関係は、入力トルクTに拘わらず一定の供給油圧OP1を示している。
ここで、図7に示す供給油圧OP1に基づいて発生するアクチュエータ90の推力F1は、リターンスプリング104の付勢力Fspによって相殺されるので、アクチュエータ90によって摺動パッド62bがスリーブ56の外周凹溝72の一対の側壁面72aおよび72bのうちのアイドラギヤ48側の側壁面72bに押しつけられる荷重FB1(以下、B面荷重という)は、図8に示されるように、アクチュエータ90の推力F1とリターンスプリング104の付勢力Fspとの差(F1-Fsp)となる。図8に示されるように、供給油圧OP1すなわちそれに基づいて発生するB面荷重FB1は、摺動パッド62bに摩耗が発生しない範囲の上限値FBULよりも充分に低い値となるように、且つギヤ抜けが発生しないように設定されている。
スリーブ56が係合位置P2にある状態では、入力トルクTが増加するに伴って、互いに噛み合う外周歯54sの第1歯面86とアイドラギヤ48の第2歯面88の傾斜により、入力トルクTに応じてアイドラギヤ48側へ引き込むスラスト力Fstが大きくなる。このため、図9に示すように、入力トルクTの増加に伴って、C面荷重FC1が増加し、ギヤ抜け荷重FGNを上回る量が増加する。なお、このような特性を利用して、図7に示す関係において、C面荷重FC1がギヤ抜け荷重FGNを下回らない範囲で入力トルTの増加に伴って供給油圧OP1を低下させることにより、B面荷重FB1およびC面荷重FC1を図8および図9に示すものよりも低下させ、燃費を向上させるようにしてもよい。後述の実施例2は、その一例である。
上記のようにアクチュエータ90が制御されると、スリーブ56の突起56aがシフトフォーク60とアイドラギヤ48との間で挟持されるので、スリーブ56の振動が抑制される。また、駆動状態と被駆動状態との切換時や、無負荷走行時に発生するガタ打ち音が抑制される。
因みに、スリーブ56とアイドラギヤ48とが当接せず、スリーブ56の突起56aがシフトフォーク60とアイドラギヤ48との間で挟持されない従来の場合は、図7に示すような供給油圧OP1に基づいてアクチュエータ90の推力F1が発生させられて、スリーブ56の内周歯56sとアイドラギヤ48の外周歯54sとの噛合が完了すると、入力トルクTが増加するに伴って、互いに噛み合う外周歯54sの第1歯面86とアイドラギヤ48の第2歯面88の傾斜により、入力トルクTに応じてアイドラギヤ48側へ引き込むスラスト力Fstが大きくなる。このため、スラスト力Fstによって摺動パッド62aがスリーブ56の外周凹溝72の側壁面72aに押しつけられる荷重(以下、A面荷重という)は、上記入力トルクTが増加するに伴って増加し、摺動パッド62aに摩耗が発生しない範囲の上限値FBULを上回る値となり、摺動パッド62aの摩耗が発生していたのである。
このように、本実施例の車両用動力伝達装置16の噛合クラッチD1によれば、内周歯56sおよび外周歯54sは、相互に接近するほど歯厚が大きくなる第1歯面86および第2歯面88を有し、スリーブ56がシフトフォーク60により係合位置P2とされた場合に、スリーブ56がアイドラギヤ48の側面48aに接触する状態で保持される。これにより、スリーブ56がシフトフォーク60により係合位置P2とされた場合に、スリーブ56の位置はスリーブ56がアイドラギヤ48の側面48aに接触する状態で保持されるので、たとえばスリーブ56にシフトフォーク60を当接させて前記傾斜歯面86、88に基づいて発生するスラスト力Fsに抗してスリーブ56が位置決めされる場合と比べて、スリーブ56とシフトフォーク60との間の接触面圧すなわちスリーブ56とシフトフォーク60との接触面の摺動面圧を小さくすることができる。このため、回転部材のスリーブ56と非回転部材のシフトフォーク60との摺動によって、外周凹溝72の側壁面72bに摺接させられる摺動パッド62bの摩耗を抑制することができる。
また、本実施例によれば、スリーブ56のアイドラギヤ48と対向する面には、アイドラギヤ48側へ突き出す突起56aが形成され、スリーブ56が係合位置P2に位置させられる状態では、突起56aがアイドラギヤ48の側面48aに当接させられる。これにより、スリーブ56はアイドラギヤ48の側面48aに確実に当接させられるので、スリーブ56の係合位置P2はスリーブ56がアイドラギヤ48の側面48aに接触する状態でより確実に保持される。
また、本実施例によれば、ハブ52とアイドラギヤ48との間には、外周歯54sと内周歯56sとの回転の同期が完了するまではスリーブ56の係合位置P2への移動を阻止するシンクロナイザリング58が、配設されている。これにより、ギヤ機構カウンタ軸44とアイドラギヤ48との回転の同期をスムーズに実行することができる。
また、本実施例によれば、外周歯54sは、アイドラギヤ48の側面48a側に一体に形成されている。これにより、外周歯54sは、出力ギヤ50と噛み合うための噛合歯が形成されたアイドラギヤ48に外周歯54sを有するギヤピースを固設するよりも部品数や工程数を低減することができるので、コストを低減することができる。
また、本実施例によれば、シフトフォーク60のスリーブ56の外周凹溝72内の側壁面72aおよび72bに対向する接触面の両面には、摺動パッド62aおよび62bが固設され、アクチュエータ90による推力によってスリーブ56が係合位置P2に保持される状態では、シフトフォーク60の接触面に設けられた摺動パッド62aおよび62bが、外周凹溝72内の側壁面72aおよび72bに摺接させられる。これにより、回転するスリーブ56と非回転のシフトフォーク60との摺動による摩耗をより抑制することができ、特に、摺動パッド62bの摩耗を抑制することができる。
また、本実施例によれば、アクチュエータ90は、油圧により推力が発生させられる油圧式アクチュエータである。これにより、アクチュエータ90は、油圧によって推力を適切に制御することができるので、スリーブ56がシフトフォーク60により係合位置P2とされた場合に、スリーブ56がアイドラギヤ48の側面48aに接触する状態でより適切にスリーブ56の位置を保持することができる。このため、ギヤ抜けの発生をより確実に抑制できるとともに、回転するスリーブ56と非回転のシフトフォーク60との摺動によって部材の摩耗をより抑制することができる。また、アクチュエータ90の推力Fによって、スリーブ56の位置を制御することができるので、たとえば入力トルクTが小さくなる軽負荷時または無負荷時にスリーブ56の振動音の発生を低減することができる。
また、本実施例によれば、アクチュエータ90の推力Fは、ギヤ機構カウンタ軸44と出力軸30との間で伝達されるトルクに基づいて制御される。たとえばギヤ機構カウンタ軸44と出力軸30との間で伝達されるトルクいわゆる入力トルクTが高トルクである場合には、入力トルクTが低トルクである場合と比べてアクチュエータ90の推力Fは小さくなるように制御される。これにより、入力トルクTに基づいてアクチュエータ90の推力Fを適切に低く制御できるので、スリーブ56がシフトフォーク60により係合位置P2とされた場合に、スリーブ56とシフトフォーク60との間の摺動抵抗を低減させ、燃費を向上させることができる。
また、本実施例によれば、車両用動力伝達装置16は、無段変速機24を介して入力軸22から出力軸30へトルクが伝達される第1動力伝達経路PT1および第1動力伝達経路PT1と並列に設けられ、ギヤ機構28を介して入力軸22から出力軸30へトルクが伝達される第2動力伝達経路PT2を含み、且つ第1動力伝達経路PT1および第2動力伝達経路PT2を択一的に切り替えるクラッチ機構を備える、ギヤ変速および無段変速機の並列型動力伝達装置であり、噛合クラッチD1は、第2動力伝達経路PT2内に直列に設けられている。これにより、たとえば低車速時や高車速時などのそれぞれの車両状況に応じて、クラッチ機構によって第1動力伝達経路PT1でトルクが伝達されるCVT走行または第2動力伝達経路PT2でトルクが伝達されるギヤ走行に切り替えることができ、且つ噛合クラッチD1を解放することによって第2動力伝達経路PT2を完全に遮断し、たとえば車両10の走行により駆動輪14側から入力されるトルクがギヤ機構28に入力されることを防ぐことができる。このため、車両状況に応じて動力伝達経路を選択し効率的に走行することができるので、燃費を向上させることができる。