以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について具体的に説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る貯水装置10を示す断面図である。図1は、本発明の排水システムSを示す模式図である。図1に示すとおり、排水システムSは、貯水装置10を備えている。
<排水システムについて>
排水システムSは、排水設備3から排出される汚水を、下水本管4等の下流側に向けて排出させるものである。
より具体的には、排水システムSは、排水設備3への水の供給が機能している場合(給水機能時)であって、かつ下水本管4への排水が機能している場合(排水機能時)には、排水設備3から排出される汚水を、下水本管4等の下流側に向けて排出させる。
また、排水システムSは、地震などの災害により水の供給が停止して(断水)排水設備3への給水が機能しなくなっている場合や、給水設備が十分ではない屋外等の場所で仮設トイレなどを設置するため給水機能が不足している場合(給水不能時)には、後述する管路40に貯留水を供給して汚水を下流側へ排出する。
さらに、排水システムSは、下水本管4や管路40の一部に破損が発生して下水本管4への汚水の排水が困難な場合(排水不能時)には、汚水を汚水貯留槽84に排出することができる。
すなわち、排水システムSは、給水不能、かつ排水不能の場合(給排水不能時)には、管路40に汚水を排出させるために貯留水を供給しつつ、排水設備3から排出される汚水を汚水貯留槽84に向けて排出させる。
なお、以下の説明において、排水設備3への給水が機能している場合であって、かつ下水本管4への排水が機能している場合を、「給排水機能時」又は「通常時」と記載して説明する場合がある。また、給水不能時であって、貯水タンク80等の給水源から水を供給する必要がある場合を、「稼働時」と記載して説明する場合がある。
下水本管4は、汚水を汚水処理場(図示せず)に導く管である。建物1の排水設備3から流出する汚水は、通常時においては下水本管4に排出される。
なお、図1では、仮設排水設備3bや後述する給水ポンプ82など、稼働時に設けられる排水システムSの構成を仮想線で示している。
「排水設備」とは、汚水を排出する設備のことである。「排水設備」は、例えば、トイレ、風呂または台所の流し台などが挙げられる。また、「排水設備」のうち、建物1に既設で設けられたトイレ、風呂などの排水設備を「既設排水設備3a」と記載して説明する場合がある。また、「排水設備」のうち、建物1の外側に設けられた仮設トイレなどの排水設備を「仮設排水設備3b」と記載して説明する場合がある。
「建物」とは、少なくとも壁を有する建築物のことを指し、住宅、商業施設、工場、校舎および倉庫などが含まれる。また、「屋内」には、屋根および壁に囲まれた床上の空間はもちろんのこと、床下の空間も含まれる。平面視において、壁に囲まれた部分は「建物内」である。
「汚水」とは、例えばトイレ、風呂および台所の流し台などから排出される水であり、そのままでは河川に放流させることができないものである。
図1では、一つの建物1内に設けられた一つの既設排水設備3aを図示しているが、建物1および既設排水設備3aの数は特に限定されない。建物1の数は、一つであってもよいし、複数であってもよい。また、屋内2には、一つの既設排水設備3aのみが設けられていてもよく、複数の既設排水設備3aが設けられていてもよい。
さらに、図1では、二つの仮設排水設備3bを仮想線で示しているが、排水システムSに設けられる仮設排水設備3bの数は特に限定されない。また、本発明の排水システムSは、仮設排水設備3bを設ける場合のほか、水の供給が停止した場合に既設排水設備3aからの汚水を排出するために用いられるものであってもよい。このような場合には、仮設排水設備3bが設けられないものであってもよい。
なお、以下の説明における汚水の流路において、下水本管4又は汚水貯留槽84側を単に「下流側」と記載し、下流側とは反対側であって後述する貯水タンク80が設けられる側を単に「上流側」と記載して説明する場合がある。
また、本明細書における「排水マス」には、汚水マス、雨水マス、公共マスなどの各種の排水マスが含まれる。本明細書における「排水マス」には、マス本体のほか、点検筒や立管、蓋体を含むものとして説明する。
図1に示すとおり、排水システムSは、貯水装置10、管路40、貯水タンク80(給水源、貯水槽)、切替式排水マス50、逆流抑止マス70及び汚水貯留槽84を有している。また、排水システムSは、稼働時にはこれらの構成に加え、給水ポンプ82(ポンプ)、及び仮設排水設備3bが設けられる。以下、各構成について図面を参照しつつ説明する。
管路40は、複数の管材や継手などが連結されて、汚水の流路となる排水流路Cを形成している。なお、「管路」とは、水を流通させる通路を意味する。「管路」は、一本の配管により構成されていてもよく、本実施形態のように、複数本の配管とそれらを接続する継手とにより構成されていてもよい。また、「排水流路」とは、水(汚水等)が排出される際に辿る経路を意味する。
図1に示すとおり、管路40は、第一管路42、及び第二管路44を備えている。また、管路40には、複数の立管48が設けられている。管路40には、貯水装置10、切替式排水マス50、及び逆流抑止マス70が配置されている。
第一管路42は、貯水装置10から下水本管4に至るように設けられている。また、第二管路44は、切替式排水マス50から汚水貯留槽84に至るように設けられている。管路40は、第一管路42及び第二管路44により、汚水の排水流路Cとして、二つの系統を形成可能としている。具体的には、管路40は、第一管路42を介して汚水を下水本管4に排水させる第一流路c1と、第二管路44を介して汚水を汚水貯留槽84に排出させる第二流路c2とを形成可能としている。
言い換えれば、管路40は、汚水を第一流路c1により下水本管4に排出させる通常時用の排水流路Cとして、第一流路c1を形成している。また、管路40は、下水本管4や、第二管路44との分岐部分よりも下流側の第一管路42等の破損など、汚水が上流側へ逆流するおそれがある排出不能時用の排水流路Cとして、汚水貯留槽84に汚水を排出させる第二流路c2を形成している。
立管48は、管路40上に設けられている。より具体的には、立管48は、管路40に設けられた排水マス47に設けられている。なお、立管48は、排水マスに設けられるもののほか、管路40と継手を介して連結されるものであってもよい。また、立管48が設けられる排水マスは、汚水マス、雨水マス等、種々選択可能である。
立管48は、地面から下方に向かって延びた管である。立管48の上端は、地面に向かって開口している。図1に示すように、立管48の上端には、仮設排水設備3bを取り付けることができる。災害時以外の通常時など、仮設排水設備3bが設けられていない状態では、立管48の上端の開口は、蓋49が被せられて閉塞される。また、災害時など仮設排水設備3bが設置される状況では、蓋49が立管48の開口から取り外され、仮設排水設備3bが取り付けられる。立管48の下端は、第一管路42に連結されている。
なお、図1では、既設排水設備3aよりも下流側に設けられた立管48に仮設排水設備3bを設けた例を示したが、仮設排水設備3bは、既設排水設備3aよりも上流側の立管48に設けてもよい。例えば、既設排水設備3aよりも上流側であって、貯水装置10よりも下流側に立管48が設けられている場合には、当該立管48に仮設排水設備3bが設けられてもよい。
貯水装置10は、貯水タンク80から供給された貯留水を管路40に供給するための水門として設けられている。本実施形態の貯水装置10は、塩化ビニル(塩ビ)、繊維強化プラスチックなどの樹脂素材を加工成形したものとされている。
図2及び図4に示すとおり、貯水装置10は、マス本体12、閉塞部18、操作部20、点検筒30、及び蓋体32を有している。
貯水装置10は、マス本体12に対して筒状部材とされた点検筒30が取り付けられて、長手方向のうち一方の端部が閉塞され、他方の端部に開口31が形成された略筒状の中空の形状をなしている。また、開口31には、蓋体32が着脱可能に嵌め込まれている。
貯水装置10は、開口31を上方に、開口31とは反対側の端部を下方に向けて長手方向が鉛直に沿うように地中に埋設される。なお、以下の説明において、貯水装置10の長手方向を単に「軸線方向X」と記載する場合がある。また、貯水装置10の軸線方向Xの両側のうち、開口31側を単に「上方」と、他方を単に「下方」と記載して説明する場合がある。
図3及び図4に示すとおり、マス本体12は、上方に開口が形成され、下方が閉塞された略筒状の部材である。図4に示すとおり、マス本体12の側部には、流出口14が設けられている。流出口14には、第一管路42が接続される。貯水装置10は、内部に供給された水を流出口14から第一管路42に向けて流出させることができる。本実施形態では、流出口14は受口とされているが、流出口14は差口であってもよい。また、流出口14には、第一管路42が直接接続されていてもよく、他の部材を介して間接的に接続されていてもよい。
図3(a)に示すとおり、マス本体12には、ガイド部16aが設けられている。ガイド部16aは、閉塞部18の変位を軸線方向Xに沿ってガイドするために設けられている。図4に示すとおり、ガイド部16aは、軸線方向Xに延びる溝状の凹凸とされている。本実施形態では、ガイド部16aは、マス本体12とは別体とされたガイド部形成体16に形成されている。本実施形態では、ガイド部形成体16をマス本体12に取り付けることにより、マス本体12にガイド部16aが形成されている。なお、ガイド部16aは、マス本体12に直接形成されたものであってもよい。
図4に示すとおり、ガイド部形成体16は、取付部16bと嵌込部16cとを備えている。取付部16bは、マス本体12の内壁面に沿うような湾曲した形状とされ、略中央に孔部16dが形成されている。また、嵌込部16cは、取付部16bに形成された孔部16dを取り囲むように形成されている。ガイド部形成体16は、取付部16bがマス本体12の内壁面に取り付けられ、嵌込部16cが流出口14の内側に嵌め込まれた状態でマス本体12に取り付けられる。
蓋体32は、開口31に取り付けられて開口31を閉塞するための蓋部材である。蓋体32は、地上から取り外し及び取り付けが可能である。図4に示すとおり、蓋体32には、挿通部34が設けられている。挿通部34は、操作部20を貯水装置10の内側から外側に挿通させるために設けられている。本実施形態では、挿通部34は、蓋体32の略中央を貫通する貫通孔とされている。図4に示すとおり、挿通部34は、直径D1の大きさを備える略円形の形状とされている。なお、挿通部34は、操作部20を取り出し可能であればいかなる形状であってもよい。例えば、挿通部34は、本実施形態のように蓋体32に形成された貫通孔とする場合のほか、蓋体32の一部を切り欠いたような形状としてもよい。
閉塞部18は、流出口14を閉塞するために設けられている。図4に示すとおり、閉塞部18は、摺動部18aと、接続部18bとを有している。摺動部18aは、ガイド部形成体16の取付部16bに対して摺動可能とされている。接続部18bは、摺動部18aから貯水装置10の径方向内側に突出する形状とされている。接続部18bには、取付穴18dが設けられている。接続部18bの取付穴18dには、後述する操作部20の第一管体22に設けられた突出部22aが嵌め込まれ、第一管体22が取り付けられる。
摺動部18aには、軸線方向Xに沿って直線状に延びる突起状の凸部18cが設けられている。閉塞部18は、凸部18cとガイド部16aとが噛み合うようにガイド部形成体16に取り付けられる。また、閉塞部18は、凸部18cとガイド部16aとの嵌合構造により、軸線方向Xにガイドされつつマス本体12に対して摺動して変位可能とされている。
操作部20は、閉塞部18を軸線方向Xに変位させる操作を行うために設けられている。図4に示すとおり、操作部20は、第一管体22、第二管体24、及び管継手26を備えている。
第一管体22及び第二管体24は、管状の部材である。第一管体22には、径方向の外側に突出するように突出部22aが設けられている。第一管体22は、突出部22aが閉塞部18の取付穴18dに嵌め込まれることにより、閉塞部18に取り付けられる。
図4に示すとおり、第二管体24は、直径D2の外径とされている。なお、第二管体24の直径D2の大きさは、蓋体32の挿通部34の直径D1よりも小さい(D2<D1)。
管継手26は、第一管体22と第二管体24とを分離可能に連結するために設けられている。本実施形態の管継手26は、径方向の大きさが異なる二つの管体を連結可能とする、いわゆる変換継手とされている。図4に示すとおり、管継手26は、第二管体24の外径D2よりも大きい外径D3とされた拡径部28を有している。拡径部28の外径D3は、蓋体32に形成された挿通部34の直径D1よりも大きい(D3>D1)。そのため、第一管体22及び第二管体24が管継手26により連結された状態(連結状態)において、操作部20を軸線方向Xに沿って上方に引き上げると、操作部20は拡径部28と蓋体32とが当接する位置において上方への移動が規制される。このように、拡径部28は、操作部20の軸線方向Xの変位範囲を規制するストッパー部29として機能する。
図2に示すとおり、操作部20は、第一管体22及び第二管体24が管継手26により連結され、全体として一端から他端に挿通する一つの管状の形状をなしている。言い方を換えれば、操作部20は、貯水装置10の外側に取り出される側の端部を給水口36として、貯水装置10の内側に配置される側の端部を吐出口38として、給水パイプとして機能する。これにより、操作部20は、貯留水を給水口36から取り込んで吐出口38から吐出させて貯水装置10の内部に供給することができる。また、操作部20の給水口36は、給水ポンプ82を接続させる差口、あるいは受口として機能する。
図5(a)に示すとおり、第二管体24が第一管体22から取り外された状態(分離状態)では、管継手26及び閉塞部18に接続されている第一管体22は、開口31よりも下方に配置される。言い方を換えれば、分離状態では、操作部20は、貯水装置10の内部に収まる状態となる。また、第一管体22から取り外された第二管体24は、例えば貯水装置10の内部に収容しておくことができる(図5(a)の仮想線参照)。そのため、貯水装置10は、操作部20を操作する必要がない通常時などには、操作部20を貯水装置10の内部に収まる態様とすることができ、人が往来する際など操作部20が邪魔になることを回避することができる。
図5(b)に示すとおり、第二管体24が第一管体22に取り付けられた状態(連結状態)では、操作部20の両端のうち、上方の端部が蓋体32の挿通部34を介して貯水装置10の外側に取り出される。また、この状態において、操作部20を上方に引き上げる操作が行われていない状態では、閉塞部18は流出口14を閉塞する位置に配置される。さらに、上述のとおり、操作部20は、軸線方向Xに挿通する管体とされている。そのため、操作部20は、上方の端部を給水口36として水を取り込み、下方の端部を吐出口38として、水を貯水装置10の内部に取り込むことができる。言い換えれば、貯水装置10は、水を供給する際に、蓋体32を取り外す必要がない。
図5(c)に示すとおり、連結状態とされた操作部20を上方に引き上げる操作を行うと、第一管体22と接続されている閉塞部18が上方に引き上げられ、閉塞部18が流出口14を閉塞しない位置まで変位する。これにより、流出口14が開放されて貯水装置10の内部に供給された水が流出口14から第一管路42に流出する。
また、操作部20を上方に引き上げる操作に連動して閉塞部18が上方に変位する際、閉塞部18は、ガイド部16aにより軸線方向Xにガイドされつつ変位する。さらに、操作部20を上方に引き上げる操作を行うと、操作部20は、拡径部28(ストッパー部29)が蓋体32と接触する位置において上方への移動が規制される。そのため、閉塞部18の凸部18c(図4参照)がガイド部16a(図4参照)から脱落することを抑制することができる。
図5(c)に示すとおり、操作部20は、距離L1分変位可能とされている。本実施形態では、操作部20が変位可能とされた距離L1と、流出口14の径方向の大きさD4とは、概ね一致する。なお、操作部20の変位可能な距離L1は、閉塞部18とマス本体12との係合構造(例えば凸部18cとガイド部16aとの係合構造)により、適宜調整可能である。
このように、貯水装置10は、操作部20を操作することにより、閉塞部18により閉塞された流出口14を開放可能とされている。これにより貯水装置10は、貯水タンク80から供給された水を流出させ、あるいは遮断することができる。
切替式排水マス50は、排水流路Cを、第一流路c1と第二流路c2とに切り替え可能とするために設けられている。切替式排水マス50は、建物1の外の地中に埋設されている。
図6に示すとおり、切替式排水マス50は、マス本体52、切替部材60、点検筒58、及び蓋体59を有している。切替式排水マス50は、マス本体52に対する切替部材60の相対位置が変位されることにより、排水流路Cを第一流路c1から第二流路c2へ、あるいは第二流路c2から第一流路c1へと切り替え可能とされている。
本実施形態の切替式排水マス50は、塩ビ、強化繊維プラスチックなどの樹脂素材を加工成形したものとされている。なお、切替式排水マス50は、マス本体52や点検筒58をコンクリートなどの素材により形成されたものであってもよい。
図6及び図7に示すとおり、マス本体52は、上部及び下部に開口が形成され、複数の略筒状の部分が一体的に形成された部材である。また、マス本体52の側部には、二つの開口が形成されている。さらに、図7に示すとおり、マス本体52の内側には、段差部57が形成されている。
マス本体52の上部に形成された開口は、点検口53とされている。また、マス本体52の側部に形成された二つの開口のうち、一方は汚水を流入させる流入口54とされ、他方が汚水を流出させる第一流出口55とされている。さらに、マス本体52の下部に形成された開口は、汚水を流出させる第二流出口56とされている。すなわち、マス本体52には、一つの流入口54と、第一流出口55及び第二流出口56の二つの流出口が設けられている。
図6に示すように、点検口53は、地面に向かって開口している。点検口53には、点検筒58が接続されている。点検筒58の上端は、地面と略同じ高さとなるように配置されている。作業者は、地上から点検筒58を通じて、マス本体52の内部に破損または詰まりなどがないかを点検することができる。なお、点検筒58の上端には、蓋体59が配置されている。蓋体59は、地上から取り外しが可能である。点検筒58は、蓋体59によって閉じられている。蓋体59によって、切替式排水マス50内の汚水から発生する悪臭が点検口53を通じて外部に漏れることを防止することができる。
流入口54は、排水設備3から流出した汚水が流入する部位である。また、第一流出口55は、マス本体52内に流入した汚水が流出する部位である。第一流出口55は、マス本体52の側部であって、流入口54と対向する位置に設けられている。
第二流出口56は、第一流出口55と同様に、マス本体52内に流入した汚水が流出する部位である。第二流出口56は、マス本体52の下部に設けられており、下向きに開口している。第二流出口56は、流入口54と第一流出口55との間に配置されている。図1に示すように、排水システムSでは、汚水貯留槽84が切替式排水マス50の下方に配置されており、第二流出口56は、第二管路44を介して汚水貯留槽84に接続されている。なお、第二流出口56は、配管などを介さず汚水貯留槽84に直接的に接続されていてもよい。
切替部材60は、汚水の排水流路Cを第一流路c1及び第二流路c2に相互に切り替えるための部材である。具体的には、切替部材60は、排水設備3から流出した汚水を、第一流路c1により下水本管4に排水させ、又は第二流路c2により汚水貯留槽84に排水させるように汚水の排水流路Cを切り替えるために設けられている。
切替部材60は、マス本体52の内部に収容されている。また、切替部材60は、マス本体52の下方に形成された第二流出口形成部52aに対して着脱可能とされている。切替部材60が第二流出口形成部52aに嵌め込まれると、第二流出口56は閉鎖される。切替部材60が第二流出口形成部52aから取り外されると、第二流出口56は開放される。
図7に示すように、切替部材60は、本体部62と、持ち手63と、嵌合部64と、越流抑止板65とを備えている。
図7に示すとおり、本体部62は、断面視において略U字状に形成されている。本体部62の両側には、径方向外側に突出するように鍔状部62bが形成されている。また、本体部62は、流入口54から第一流出口55へと繋がる流路を形成する底面62aを備えている。
図7に示すとおり、持ち手63は、一端側の鍔状部62bから他端側の鍔状部62bに至り、本体部62を横断するように設けられている。嵌合部64は、本体部62の下方に設けられている。嵌合部64は、第二流出口56を閉塞すべく、第二流出口56に嵌合可能な略円筒状の部分である。本実施形態では、嵌合部64の外周部には、ゴム製のシール部材64aが設けられている。このシール部材64aによって、第二流出口56と切替部材60の嵌合部64との間のシールが図られている。越流抑止板65は、第二流路c2を形成させる際に、第一流出口55側へ汚水が越流することを抑制するために設けられている。
切替式排水マス50は、第二流出口形成部52aに切替部材60の嵌合部64が嵌め込まれた状態では、第二流出口56を閉鎖して、流入口54から流入した汚水を第一流出口55から流出させる。具体的には、図8(a)に示すとおり、流入口54及び第一流出口55が連通するように第一流路c1を形成させる場合には、切替部材60は、鍔状部62bがマス本体52の段差部57(図8では図示を省略)に支持されるような姿勢に維持される。これにより、切替部材60は、底面62aと流入口54及び第一流出口55を接続するように配置され、断面視において略U字状の排水路を形成する。
切替式排水マス50は、第二流出口56に切替部材60の嵌合部64が嵌め込まれた状態から、マス本体52に対する切替部材60の位置を変位させることで、汚水の排出口を第一流出口55から第二流出口56に切り替えることができる。
具体的には、図8(a)に示す状態から、切替部材60の持ち手63を把手して上方に持ち上げ、切替部材60を周方向に約90度回転するように変位させると、切替部材60は、マス本体52の段差部57(図8では図示を省略)の上方に本体部62が支持された状態となる(図8(b)参照)。図8(b)に示すとおり、本体部62がマス本体52の段差部57に支持された状態では、底面62aが上方に変位して、閉鎖されていた第二流出口56が開放される。
第二流出口56が開放された状態では、流入口54からマス本体52内に流入した汚水は、第一流出口55に到達する前に第二流出口56に向けて落下し、第二流出口56から流出する。これにより、切替式排水マス50は、第一流出口55から汚水を流出させる状態から、第二流出口56から汚水を流出させる状態へと切り替えることができる。また、切替式排水マス50は、上述とは逆の動作、すなわち嵌合部64が第二流出口形成部52aから外された状態から、嵌合部64が第二流出口形成部52aに嵌め込まれた状態とすることで、第二流出口56から汚水を流出させる状態から第一流出口55から汚水を流出させる状態へと切り替えることができる。
逆流抑止マス70は、切替式排水マス50よりも排水流路Cの下流側に設けられている排水マスである。逆流抑止マス70は、切替式排水マス50よりも下流側に設けられる排水マスであれば、汚水マス、雨水マスなどいかなる種類の排水マスであってもよい。また、本実施形態の逆流抑止マス70は、塩ビ、強化繊維プラスチックなどの樹脂素材を加工成形したものとされている。なお、逆流抑止マス70は、マス本体や点検筒をコンクリートなどにより形成したものであってもよい。
図1に示すとおり、逆流抑止マス70には、逆流抑制弁72が設けられている。
逆流抑制弁72は、下流側から上流側に向かって汚水が逆流することを防止するためのものである。本実施形態では、逆流抑制弁72は、逆流抑止マス70に設けられている。なお、逆流抑止マス70は、下流側から上流側に向かって汚水の逆流を抑制することができるものであれば、その構成は特に限定されない。
逆流抑制弁72は、上流側から下流側への汚水の流れを許容し、下流側から上流側への汚水の流れを制限するためのものである。逆流抑制弁72は、逆流抑止マス70のマス本体に対して揺動可能であって、着脱可能に取り付けられている。逆流抑制弁72は、汚水が流れないときには、流入口を塞いでいる。逆流抑制弁72は、上流側から汚水が流れてきたときには、その汚水によって押し上げられる。これにより、逆流抑止マス70は、上流側から汚水が流れた場合の流路が確保される。よって、上流側から流れてきた汚水は、逆流抑制弁72によって流れが阻止されることなく、下流側に流れ込む。一方、逆流抑止マス70の内部に汚水が逆流してきた場合は、その汚水は、流入口を覆う逆流抑制弁72によって流れが制限され、上流側への流入が規制される。
なお、逆流抑制弁72は、予め逆流抑止マス70に設けられているものであってもよいし、逆流抑止マス70に対して着脱可能なものであってもよい。例えば、逆流抑制弁72は、連結部材を介して逆流抑止マス70に取り付けられるものであってもよい。
貯水タンク80(貯水槽、給水源)は、雨水または生活用水などの水が貯められるタンクである。貯水タンク80は、例えば、飲料水などの異物が混在されていない比較的きれいな水が貯留されるものであってもよい。図1では、貯水タンク80は地中に埋設されているものを一例として示しているが、貯水タンク80は、地上に設置されているものであってもよい。
給水ポンプ82(ポンプ)は、貯水タンク80に貯留された水を貯水装置10に搬送するためのものである。給水ポンプ82は、貯水タンク80に貯留された水を搬送可能なものであれば、容積型、及び非容積型等、いかなるものであってもよい。なお、給水ポンプ82は、災害時などに既設排水設備3aへの水の供給が停止した場合など、災害時対応として排水システムSを機能させようとする際に準備される。
汚水貯留槽84は、排水設備3から排出した汚水を貯留する槽である。図1に示すように、汚水貯留槽84は建物1の外に配置されており、地中に埋設されている。図1に示すように、汚水貯留槽84は、第二管路44を介して切替式排水マス50と接続されている。汚水貯留槽84には、第二流出口56から流れる汚水が貯留される。汚水貯留槽84は、内部に密封された空間を有している。汚水貯留槽84が密封式であることにより、汚水貯留槽84内の汚水から発生する悪臭が外部に漏れないようになっている。汚水貯留槽84は必ずしも地中に埋設されていなくてもよい。汚水貯留槽84は、地上に設置されていてもよい。
<通常時及び稼働時の汚水の排出について>
次に、図9及び図10等を参照しつつ、排水システムSの通常時及び稼働時の動作について説明する。
排水システムSは、通常時(給排水機能時)は既設排水設備3a等の排水設備3から流出する汚水を下水本管4に排出する。また、排水システムSは、断水により排水設備3への水の供給が停止した時や仮設排水設備3bを設置する必要が生じた場合(給水不能時)などに、管路40へ水を供給して管路40内の汚水を排水する。さらに、排水システムSは、地震または津波などの災害が発生して下水本管4などが破損したときなど(排水不能時)には、切替式排水マス50の排水流路Cを切り替えることにより、排水設備3から流出する汚水を汚水貯留槽84に排出するように用いられる。
<通常時について>
図9に示すとおり、通常時では、排水システムSは、第一流路c1により排水設備3から排出された汚水を下水本管4へと排水する。より具体的には、通常時では、排水システムSは、切替式排水マス50を経由して下水本管4に至る第一流路c1により、既設排水設備3aからの汚水を排出する。
また、通常時では、貯水タンク80は蓋部材80aにより閉塞されている。さらに、貯水装置10は、操作部20が分離状態とされる。より具体的には、貯水装置10の操作部20は、第二管体24が第一管体22から取り外された状態で貯水装置10の内部など所定の場所に保管される(図5(a)参照)。そのため、排水システムSは、貯水装置10の操作部20を操作する必要がない通常時などには、操作部20を貯水装置10の内部に収まる態様として、地上を人が往来する際などに操作部20が邪魔にならないようにすることができる。また、第二管体24を貯水装置10の内部に収容しておくと、第二管体24の紛失を抑制することができる。
<稼働時について>
排水システムSは、給水不能時には、貯水タンク80から管路40に貯留水を流入させて、管路40の汚水を下流側へ排出させることができる。
図10に示すとおり、給水不能時には、貯水タンク80から貯水装置10に貯留水を搬送する給水ポンプ82が準備される。また、災害の発生等、必要に応じて仮設排水設備3bが設けられる。さらに、図11(a)に示すとおり、排水システムSの給水不能時であって、貯水タンク80等の給水源から水を供給する必要がある場合(稼働時)には、所定の場所や貯水装置10の内部に収容された第二管体24を準備し、操作部20を第一管体22及び第二管体24を連結させた状態(連結状態)とする。
既設排水設備3aや仮設排水設備3bから汚水が排出され、管路40内に汚水が溜まり排出が必要となった場合には、貯水タンク80から貯水装置10を介して貯留水を管路40に流入させ、汚水を下流側へ押し流す。
より具体的には、稼働時には、先ず貯水装置10の流出口14が閉塞された状態で貯水装置10の内部に貯留水を流入させる(図11(a)参照)。この際、貯水装置10は、蓋体32により開口31を閉塞したまま、操作部20の給水口36に給水ポンプ82を連結させて貯留水を供給することができる。また、貯水装置10は、内部に所定量の水を一時的に貯留することができる。言い方を換えれば、貯水装置10は、管路40内の汚水を一気に押し流すための水を溜めることができる。
図11(b)に示すとおり、貯水装置10内の貯留水がある一定の量に到達した後に、操作部20を上方に引き上げて流出口14を閉塞していた閉塞部18を上方に変位させる。これにより、流出口14が開放され、貯水装置10内の貯留水は一気に管路40に流入して、管路40内の汚水を下流側へと搬送する。このように、排水システムSは、断水などの場合に、管路40に貯留水を送り込んで、管路40内の汚水を上流側から下流側へと押し流すことができる。
また、上述のとおり、貯水装置10は、操作部20の上方端部が貯水装置10の外側に配置された状態で、操作部20を上方に引き上げる操作を行うことができる。さらに、上述のとおり、貯水装置10には、ストッパー部29が設けられている。そのため、貯水装置10は、操作部20を過度に上方に変位させて閉塞部18がマス本体12から脱落したり、第二管体24が蓋体32から貯水装置10の外側に外れたりすることを抑制することができる。
さらに、上述の極めて簡単な動作により、貯水装置10の流出口14の開閉動作を行い得る。そのため、専門知識を有しないものであっても、簡単に貯水装置10の開閉動作を行うことができる。
また、排水システムSは、災害時など、下水本管4等の破損により、下水本管4へ汚水を排出することが困難な場合(排水不能時)には、汚水の排水先を下水本管4から汚水貯留槽84に切り替える排水流路Cの切り替えを行うことが望ましい。
排水流路Cの切り替え動作は、例えば以下のようにして行うことができる。まず、作業者は、点検筒58に被せられた蓋体59を点検筒58から取り外す。次に、切替部材60の持ち手63を把手して切替部材60を引き上げて、切替部材60を周方向に約90度回転させる。これにより、切替部材60がマス本体52に対して上方に保持され、第二流出口56が開放された状態で維持される(図8(b)参照)。なお、持ち手63に作業者の手が届かないような場合は、例えば先端にフックを有する棒状体などを使用して、上記フックを持ち手63に引っ掛けて切替部材60を引き上げればよい。
排水流路Cが第二流路c2に切り替えられると、排水設備3から流出した汚水は、切替式排水マス50の流入口54からマス本体52に流入する。このとき、第二流出口56が切替部材60から開放されており、また、第二流出口56はマス本体52の下部に形成されているので、マス本体52に流入した汚水は、第二流出口56に落下してマス本体52の外へ流出する。第二流出口56から流出した汚水は、汚水貯留槽84へ排出される。これにより、排水システムSは、下水本管4への排水が困難な場合(排水不能時)において、排水設備3から排出された汚水を汚水貯留槽84へと排水させる。
このように、排水システムSは、給水不能時には管路40に貯留水を流入させて汚水を下流側へと排出させつつ、さらに排水不能時には排水流路Cを切り替えて汚水を汚水貯留槽84に排出させることができる。言い換えれば、排水システムSは、下水道が給排水不能となった場合に、給排水の機能を代替することができる。
以上、本発明の実施形態に係る貯水装置及び排水システムSについて説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されない。
上述の実施形態に係る貯水装置10の操作部20では、管継手26を介して第一管体22及び第二管体24を連結する構成とした例を示したが、本発明の貯水装置は、これに限定されない。例えば、本発明の貯水装置は、第一管体及び第二管体を螺合構造により直接連結されるものであってもよい。
また、上述の実施形態に係る排水システムSでは、貯水装置10を既設排水設備3aよりも上流側に設けた例を示したが、本発明の排水システムは上述の実施形態に限定されない。例えば、本発明の排水システムは、給水が機能しいる場合において既設排水設備3aから排出される汚水を通常の水道管より供給される水により排出しつつ、仮設排水設備3bから排出される汚水を水道管とは別の給水源(例えば貯水タンク)より水を供給して排水するために用いられるものであってもよい。その場合には、既設排水設備3aよりも下流側に本発明の貯水装置が設けられるものであってもよい。また、本発明の排水システムは、貯水装置が複数設けられたものであってもよい。
また、上述の実施形態に係る排水システムSの貯水装置10及び切替式排水マス50は、樹脂素材を加工成形したものによるものとした例を示したが、本発明はこれに限定されない。上述のとおり、本発明の排水システムは、貯水装置10のマス本体や切替式排水マスのマス本体をコンクリートにより構成してもよい。
さらに、上述の実施形態に係る排水システムSでは、汚水貯留槽84を設けた例を示したが、本発明の排水システムはこれに限定されない。例えば、本発明の排水システムは、第二流路により汚水を排出する場合に、下水本管4とは別系統の下水本管へと排出させてもよいし、これら以外の排出系統に汚水を排出するものであってもよい。