JP7081181B2 - 変性ポリオレフィン組成物及び架橋ポリオレフィン組成物 - Google Patents

変性ポリオレフィン組成物及び架橋ポリオレフィン組成物 Download PDF

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Description

本発明は、変性による流動性の低下を防止して、押出機の負荷を低減し、押出成形作業性を損なうことなく、エチレン・α-オレフィン共重合体の大きな問題である耐熱性を向上させた変性ポリオレフィン組成物を提供し得るポリオレフィン組成物と、このポリオレフィン組成物より得られる変性ポリオレフィン組成物、シラノール縮合触媒含有変性ポリオレフィン組成物、及び架橋ポリオレフィン組成物に関する。
自動車用エラストマー部材、例えば、自動車用グラスランチャンネル、ウェザーストリップ、ゴムホース、ワイパーブレードゴムや工業用ゴムエラストマー製品、例えば、パッキン、ガスケット、防振ゴム等には、密封性、密着性やヘタリの観点から圧縮永久歪みが小さいことが要求される。
従来、小さい圧縮永久歪みが要求される用途に用いられる製品には、エチレン・プロピレンゴム(EPゴム)を加硫(架橋)した架橋EPゴムが用いられてきた。しかし、架橋EPゴムは、非晶性のため、高温で大きい圧縮永久歪を示し、高温での密封性や密着性に課題があった。
特許文献1は、エチレン・プロピレンゴムを主成分とするゴム組成物をシラン変性する小さい圧縮永久歪を示す変性ポリオレフィン組成物が提案されている。特許文献1では、融点30~50℃で、ジエン含有量が0~8%のものを使用して、シラン変性している。
特許文献1の変性ポリオレフィン組成物においては、融点が30~50℃と低いため、融点以上で結晶部位が融解し形状保持ができないため、高温でのヘタリや陥没による密着性および密封性の悪さが課題であった。また特許文献1に記載の変性ポリオレフィン組成物は流動性が低く、押出し成形時のブツなどの外観が悪く生産性が悪化するなどの問題もあり、実用化に耐えうるものではなかった。
このような外観の悪化を改善するために、特許文献2には、エチレン・α-オレフィン共重合体とランダムポリプロピレンをシラン変性したポリオレフィン樹脂組成物が提案されている。
特許文献2に記載のエチレン・α-オレフィン共重合体はエラストマーとしては硬く、またエラストマー領域のエチレン・α-オレフィン共重合体は融点が低いため、高温でのヘタリや陥没による密着性および密封性の悪さが課題であった。
特開2016-160380号公報 特開2014-156568号公報
本発明者の詳細な検討により、特許文献1に記載されているようなエチレン・プロピレンゴム(EPゴム)をシラン架橋した架橋EPゴムは柔軟性を重視しているため、非晶部の割合が多くまた結晶部の融点が低く、融点以上での高温でヘタリや陥没による密着性および密封性の低下が見出された。このため高温での密封性良好な工業用エラストマー製品を設計しにくい、などの制約を受けるものと考えられる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、変性による流動性の低下を防止して、押出機の負荷を低減し、押出成形作業性を損なうことなく、エチレン・α-オレフィン共重合体の大きな問題である耐熱性を向上させた変性ポリオレフィン組成物であって、得られる架橋ポリオレフィン組成物の圧縮永久歪みが小さい変性ポリオレフィン組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の融点およびビニル基量をもつエチレン・α-オレフィン共重合体に架橋助剤としての不飽和シラン化合物及び/又は不飽和シアヌレート化合物を反応させた変性ポリオレフィン組成物を用いることにより上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1] ビニル基量が4.0質量%以上であり、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が115℃以上であるエチレン・α-オレフィン共重合体と、該エチレン・α-オレフィン共重合体100質量部に対して0.01~5質量部の不飽和シラン化合物及び/又は不飽和シアヌレート化合物とを含むことを特徴とするポリオレフィン組成物。
[2] 前記不飽和シラン化合物が下記式(1)で表される化合物である、[1]に記載のポリオレフィン組成物。
RSi(R’) …(1)
(ただし、Rはエチレン性不飽和炭化水素基であり、R’は互いに独立して炭素数1~10の炭化水素基又は炭素数1~10のアルコキシ基であり、R’のうちの少なくとも1つは炭素数1~10のアルコキシ基である。)
[3] 不飽和シアヌレート化合物がトリアリルシアヌレートを含む化合物である、[1]に記載のポリオレフィン組成物。
[4] 更に下記成分(A)を含み、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100質量部に対する成分(A)の含有量が2~50質量部である、[1]ないし[3]のいずれかに記載のポリオレフィン組成物。
成分(A):ビニル芳香族化合物に由来する少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエン及び/又はイソブチレンに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体、並びに該ブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体からなる群のうちの少なくとも1つのブロック共重合体
[5] [1]ないし[4]のいずれかに記載のポリオレフィン組成物をグラフト変性及び/又は動的架橋処理してなる変性ポリオレフィン組成物。
[6] [5]の変性ポリオレフィン組成物を成形してなる成形体。
[7] [5]に記載の変性ポリオレフィン組成物とシラノール縮合触媒とを含むシラノール縮合触媒含有変性ポリオレフィン組成物。
[8] [7]に記載のシラノール縮合触媒含有変性ポリオレフィン組成物を成形してなる成形体。
[9] [8]に記載のシラノール縮合触媒含有変性ポリオレフィン組成物を架橋反応させてなる架橋ポリオレフィン組成物。
[10] 不飽和シアヌレート化合物を含む[1]ないし[4]のいずれかに記載のポリオレフィン組成物をグラフト変性及び/又は動的架橋処理してなる変性ポリオレフィン組成物を成形してなる成形体。
[11] 不飽和シアヌレート化合物を含む[1]ないし[4]のいずれかに記載のポリオレフィン組成物をグラフト変性及び/又は動的架橋処理してなる変性ポリオレフィン組成物を架橋反応させてなる架橋ポリオレフィン組成物。
本発明によれば、高温での圧縮永久歪み等に優れた変性ポリオレフィン組成物が提供される。さらに、本発明の変性ポリオレフィン組成物を用いて得られる成形体並びに架橋ポリオレフィン組成物は、流動性低下に伴う製品の外観不良、および高温でのヘタリを防止できるため、良好な外観を持つ成形体を効率的に、歩留りよく製造し、高温でも密封性に優れる成形体を与えることができる。
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
[ポリオレフィン組成物及び変性ポリオレフィン組成物]
本発明のポリオレフィン組成物は、エチレン・α-オレフィン共重合体、及び不飽和シラン化合物及び/又は不飽和シアヌレート化合物を含み、更に、以下の成分(A)を含んでもよいものである。
成分(A):ビニル芳香族化合物に由来する少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエン及び/又はイソブチレンに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体、並びに該ブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体からなる群のうちの少なくとも1つのブロック共重合体
また、本発明の変性ポリオレフィン組成物は、上記の本発明のポリオレフィン組成物をグラフト変性及び/又は動的架橋処理して得られるものである。
<エチレン・α-オレフィン共重合体>
エチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレン単位とα-オレフィン単位を含み、かつその構成単位の合計量に対し、エチレン単位の含有量が50質量%以上であるものである。エチレン・α-オレフィン共重合体はこのようなものであればその種類は特に限定されず、公知のエチレン・α-オレフィン共重合体が適宜用いられる。
エチレン・α-オレフィン共重合体の具体例としては、例えば、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体等のエチレンと、炭素数3~10のα-オレフィンの1種又は2種以上との共重合体が挙げられる。更に上記共重合体を単独で用いるのみならず、2種類以上の重合体を組み合わせて用いることもできる。
エチレン・α-オレフィン共重合体を製造する際に用いられる触媒の種類は特に制限されないが、例えば、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒が挙げられる。これらの中でも、メタロセン触媒により製造されたエチレン・α-オレフィン共重合体であることが好ましい。
本発明で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度(以下「融解終了点」と称す場合がある。)が115℃以上のものである。エチレン・α-オレフィン共重合体の融解終了点が115℃以上であると高温でも結晶により形状を保持可能である。この観点からエチレン・α-オレフィン共重合体の融解終了点は115℃以上、特に117℃以上であることが好ましい。ただし、エチレン・α-オレフィン共重合体の融解終了点が過度に高いと、成形昇温時の未溶融のブツや成形冷却時の早期結晶化(メルトフラクチャー)により外観不良となる恐れがあることから、エチレン・α-オレフィン共重合体の融解終了点は通常145℃以下である。エチレン・α-オレフィン共重合体の融解終了点は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される。
また、エチレン・α-オレフィン共重合体のビニル基量は4.0質量%以上である。ビニル基量が4.0質量%以上のエチレン・α-オレフィン共重合体であれば、十分にラジカル発生剤によりグラフト変性及び/または架橋反応を進行させることができる。ここで、エチレン・α-オレフィン共重合体のビニル基量とは、エチレン・α-オレフィン共重合体に含有される2重結合由来の値であり、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。エチレン・α-オレフィン共重合体のビニル基量は好ましくは5.0質量%以上であり、より好ましくは7.0質量%以上である。ただし、エチレン・α-オレフィン共重合体のビニル基量が過度に高いと架橋が過度に進み過ぎでしまい成形品の外観を悪化させる傾向であるため、エチレン・α-オレフィン共重合体のビニル基量は20質量%以下であることが好ましい。
本発明で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体の密度(JIS K6922-1,2:1997にて測定)は、好ましくは0.850~0.910g/cmであり、より好ましくは0.860~0.900g/cmである。密度が上記上限値以下であると柔軟で密封性能に優れる傾向がある。また、密度が上記下限値以上では、室温で形状を維持でき、ヒステリシスロスも少ないことからヘタリに優れる傾向がある。
本発明で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210(1999)に準拠して温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトフローレート(MFR)で、好ましくは0.01~5.0g/10分である。MFRが大き過ぎると、圧縮永久歪が大きくなり密封性が低下するおそれがある。また、MFRが小さ過ぎると、変性押出時のモーター負荷が大きく、樹脂圧力が上昇し、生産性が悪化するほか、成形後の表面も荒れるおそれがある。これらの観点から、エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRは、より好ましくは0.01g/10分以上であり、さらに好ましくは0.1g/10分以上であり、一方、より好ましくは10g/10分以下であり、さらに好ましくは5.0g/10分以下である。
本発明で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体は市販品として入手することができる。例えば、デュポンダウエラストマー社製エンゲージ(登録商標)シリーズ、日本ポリエチレン社製カーネル(登録商標)シリーズ、デュポンダウエラストマー社製インフューズ(商標登録)シリーズ、三井化学社製タフマー(登録商標)シリーズ、三井化学社製エボリュー(商標登録)シリーズ等から該当品を選択して用いることができる。
<不飽和シラン化合物>
本発明で用いる不飽和シラン化合物は限定されないが、下記式(1)で表される不飽和シラン化合物が好適に用いられる。
RSi(R’) ・・・(1)
上記式(1)において、Rはエチレン性不飽和炭化水素基であり、R’は互いに独立して炭素数1~10の炭化水素基又は炭素数1~10のアルコキシ基であり、R’のうちの少なくとも1つは炭素数1~10のアルコキシ基である。
式(1)において、Rは好ましくは炭素数2~10のエチレン性不飽和炭化水素基であり、より好ましくは炭素数2~6のエチレン性不飽和炭化水素基である。具体的には、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、シクロヘキセニル基等のアルケニル基が挙げられる。
式(1)において、R’は好ましくは炭素数1~6の炭化水素基又は炭素数1~6のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数1~4の炭化水素基又は炭素数1~4のアルコキシ基である。また、R’のうちの少なくとも1つは、好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基である。R’の炭素数1~10の炭化水素基は脂肪族基、脂環族基、芳香族基のいずれであってもよいが、脂肪族基であることが望ましい。また、R’の炭素数1~10のアルコキシ基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状又は分岐状であることが好ましい。R’が炭化水素基の場合、具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基、n-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基等に代表されるアルキル基、又はフェニル基等に代表されるアリール基等が挙げられる。R’がアルコキシ基の場合、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、β-メトキシエトキシ基が挙げられる。
不飽和シラン化合物が前記式(1)で表される場合、3つのR’のうち少なくとも1つはアルコキシ基であるが、2つのR’がアルコキシ基であることが好ましく、全てのR’がアルコキシ基であることがより好ましい。
不飽和シラン化合物としては、式(1)で表されるものの中でもビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、プロペニルトリメトキシシラン等に代表されるビニルトリアルコキシシランが望ましい。これはビニル基によってエチレン・α-オレフィン共重合体への変性を可能とし、アルコキシ基によって後述の架橋反応が進行するからである。即ち、不飽和シラン化合物によりエチレン・α-オレフィン共重合体にグラフト変性されて導入されたアルコキシ基が、シラノール縮合触媒の存在下、水と反応して加水分解してシラノール基を生成させ、シラノール基同士が脱水縮合することにより、エチレン・α-オレフィン共重合体同士が結合して架橋反応が起こる。なお、これらの不飽和シラン化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
<不飽和シアヌレート化合物>
本発明で用いる不飽和シアヌレート化合物としては、トリアリロキシトリアジン、トリアリルイソシアヌレート等に代表されるトリアリルシアヌレートが望ましい。これはアリル基によってエチレン・α-オレフィン共重合体および後述の成分(A)の変性を可能とし、これらに含まれるビニル基とアリル基との動的架橋反応が進行するからである。即ち、不飽和シアヌレート化合物により変性エチレン・α-オレフィン共重合体にグラフト変性されて導入されたアリル基が、ラジカルを発生させる過酸化物の存在下、エチレン・α-オレフィン共重合体および成分(A)のビニル基とラジカル連鎖移動により付加反応することにより、変性エチレン・α-オレフィン共重合体同士および変性エチレン・α-オレフィン共重合体と成分(A)が結合して架橋反応が起こる。なお、これらの不飽和シアヌレート化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
<不飽和シラン化合物及び/又は不飽和シアヌレート化合物の含有量>
本発明のポリオレフィン組成物は、前記のエチレン・α-オレフィン共重合体100質量部に対して、不飽和シラン化合物及び/又は不飽和シアヌレート化合物を0.01~5質量部含む。不飽和シラン化合物及び/又は不飽和シアヌレート化合物の含有量が0.01質量部未満では本発明の効果を奏するために必要な所定の変性量が得られない場合があり、5質量部を超えると未反応の不飽和シラン化合物及び/また不飽和シアヌレート化合物が多量に残留し、性能に悪影響を及ぼす可能性を生じる。
<成分(A)>
本発明に用いる成分(A)は、ビニル芳香族化合物に由来する少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエン及び/又はイソブチレンに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体、並びに該ブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体からなる群のうちの少なくとも1つのブロック共重合体である。本発明のオレフィン組成物及び変性ポリオレフィン組成物は、成分(A)を配合することにより、更なる永久歪低下と流動性向上の効果を得ることができる。
成分(A)において、ブロックPを構成する単量体のビニル芳香族化合物は特に限定されないが、スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン誘導体が好ましい。中でも、スチレンを主体とすることが好ましい。ここで、成分(A)における「主体とする」とは、50質量%以上であることを意味する。なお、ブロックPには、ビニル芳香族化合物以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
上記ビニル芳香族化合物以外の単量体としては、エチレン、α-オレフィン等が挙げられる。また、ブロックPが、上記ビニル芳香族化合物以外の単量体を原料として含む場合、その含有量は、50質量%未満、好ましくは40質量%以下である。上記ビニル芳香族化合物以外の単量体の含有量がこの範囲であることにより耐熱性や圧縮永久歪が良好となる傾向がある。
ブロックQを構成する単量体の共役ジエンは特に限定されないが、ブタジエン及び/又はイソプレンを主体とすることが好ましく、より好ましくはブタジエン及びイソプレンである。なお、ブロックQには、共役ジエン以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
上記共役ジエン以外の単量体としては、イソブチレン、スチレン等が挙げられる。また、ブロックQが、上記共役ジエン以外の単量体を原料として含む場合、その含有量は、50質量%未満、好ましくは40質量%以下である。上記共役ジエン以外の単量体の含有量がこの範囲であることによりブリードアウトが抑制される傾向がある。
成分(A)のブロック共重合体は、少なくとも2個の上記重合体ブロックPと少なくとも1個の上記重合体ブロックQとを有するブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体であってもよい。より具体的には、ブロック共重合体のブロックQが有する二重結合を水素添加した水添ブロック共重合体であってもよい。ブロックQの水素添加率は特に限定されないが、好ましくは80~100質量%、より好ましくは90~100質量%である。ブロックQを前記範囲で水素添加することにより、得られる変性ポリオレフィン組成物の粘着的性質が低下し、弾性的性質が増加する傾向がある。なお、ブロックPが、原料としてジエン成分を用いた場合についても同様である。また、水素添加率は、13C-NMRにより測定することができる。
なお、ブロックQを構成する単量体の共役ジエンがブタジエンの場合、ミクロ構造中のブタジエンは、1,4-付加構造と1,2-付加構造を取りうるが、特に、ブロックQが水素添加誘導体であり、ブタジエンを主体として構成される場合には、ブロックQのミクロ構造中のブタジエンの1,4-付加構造が10~100質量%であることが好ましい。
ブロックQを構成する単量体の共役ジエンがイソプレンの場合、ミクロ構造中のイソプレンは、1,2-付加構造、1,4-付加構造及び3,4-付加構造を取りうるが、上記と同様に、特に、ブロックQが水素添加誘導体であり、ブロックQがイソプレンから構成される場合には、ブロックQのミクロ構造中のイソプレンの1,4-付加構造が60~100質量%であることが好ましい。
また、ブロックQが水素添加誘導体であり、ブロックQを構成する単量体の共役ジエンがブタジエンとイソプレンを含む場合には、ブロックQのミクロ構造中のブタジエン及びイソプレンの1,4-付加構造が、それぞれ、20~100質量%及び60~100質量%であることが好ましい。
何れの場合も、1,4-付加構造の比率を前記の範囲とすることにより、得られる変性ポリオレフィン組成物の粘着的性質が低下し、弾性的性質が増加する傾向がある。なお、1,4-付加構造の比率(以下、「1,4-ミクロ構造比」ということがある。)は、13C-NMRにより測定することができる。
本発明における成分(A)は、重合体ブロックPを少なくとも2個と、重合体ブロックQを少なくとも1個有する構造であれば特に限定されず、直鎖状、分岐状、放射状等の何れであってもよいが、下記式(2)又は(3)で表されるブロック共重合体である場合が好ましい。さらに、下記式(2)又は(3)で表されるブロック共重合体は、水素添加して得られる水添ブロック共重合体であることがより好ましい。下記式(2)又は(3)で表される共重合体が水添ブロック共重合体であると、熱安定性が良好になる。
P-(Q-P)m (2)
(P-Q)n (3)
(式中、Pは重合体ブロックPを、Qは重合体ブロックQをそれぞれ示し、mは1~5の整数を示し、nは2~5の整数を示す。)
式(2)又は(3)において、m及びnは、ゴム的高分子体としての秩序-無秩序転移温度を下げる点では大きい方がよいが、製造のしやすさ及びコストの点では小さい方がよい。
成分(A)が式(2)又は(3)で表される水添ブロック共重合体であり、ブロックQがブタジエンから構成される場合、ブロックQのミクロ構造中のブタジエンの1,4-付加構造が20~100質量%であることが好ましい。同様に、ブロックQがイソプレンから構成される場合、ブロックQのミクロ構造中のイソプレンの1,4-付加構造が60~100質量%であることが好ましい。同様に、ブロックQがブタジエン及びイソプレンから構成される場合、ブロックQのミクロ構造中のブタジエン及びイソプレンの1,4-付加構造は、それぞれ20~100質量%及び60~100質量%であることが好ましい。いずれの場合も、1,4-ミクロ構造比を前記の範囲とすることにより、得られる変性ポリオレフィン組成物の粘着的性質が低下し、弾性的性質が増加する傾向がある。
ブロック共重合体及び/又は水添ブロック共重合体(以下、「(水添)ブロック共重合体」ということがある。)としては、ゴム弾性に優れることから、式(3)で表される(水添)ブロック共重合体よりも式(2)で表される(水添)ブロック共重合体の方が好ましく、mが3以下である式(2)で表される(水添)ブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(2)で表される(水添)ブロック共重合体が更に好ましく、mが1である式(2)で表される(水添)ブロック共重合体が最も好ましい。
成分(A)を構成するブロックPとブロックQとの質量割合は任意であるが、本発明の変性ポリオレフィン組成物の機械的強度及び熱融着強度の点からはブロックPが多い方が好ましく、一方、柔軟性、異形押出成形性、ブリードアウト抑制の点からはブロックPが少ない方が好ましい。
成分(A)中のブロックPの質量割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下である。
本発明における成分(A)の製造方法は、上述の構造と物性が得られればどのような方法でもよく、特に限定されない。具体的には、例えば、特公昭40-23798号公報に記載された方法によりリチウム触媒等を用いて不活性溶媒中でブロック重合を行うことによって得ることができる。また、ブロック共重合体の水素添加(水添)は、例えば、特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特開昭59-133203号公報及び特開昭60―79005号公報等に記載された方法により、不活性溶媒中で水添触媒の存在下で行うことができる。この水添処理では、重合体ブロック中のオレフィン性二重結合の50%以上が水添されていることが好ましく、80%以上が水添されていることがより好ましく、且つ、重合体ブロック中の芳香族不飽和結合の25%以下が水添されていることが好ましい。
成分(A)は市販品として入手することができる。市販品の例としては、水添型のブロック共重合体としては、クレイトンポリマー社製「KRATON(登録商標)-Gシリーズ」、クラレ社製「セプトン(登録商標)シリーズ」、「ハイブラー(登録商標)シリーズ」、旭化成社製「タフテック(登録商標)シリーズ」「アサプレン(登録商標)シリーズ」等が挙げられる。また、非水添型のブロック共重合体の市販品としては、クレイトンポリマー社製「KRATON(登録商標)-Aシリーズ」、クラレ社製「ハイブラー(登録商標)シリーズ」、旭化成社製「タフプレン(登録商標)シリーズ」等が挙げられる。
成分(A)は、1種のみを用いてもよく、ブロック組成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
本発明のポリオレフィン組成物が成分(A)を含む場合、成分(A)の含有量は、エチレン・α-オレフィン共重合体100質量部に対して2~50質量部であることが好ましく、成分(A)の含有量はより好ましくは3~45質量部、さらに好ましくは5~40質量部である。成分(A)の含有量が上記下限以上であると架橋により圧縮永久歪が低下し押出し成形時の外観が良好となる傾向があり、上記上限以下であると押出し機に負荷がかからずに作業性が良好となる。
<炭化水素系ゴム用軟化剤>
本発明に成分(A)を用いる場合は、炭化水素系ゴム用軟化剤を併用することが好ましい。炭化水素系ゴム用軟化剤は変性ポリオレフィン組成物を軟化させ、柔軟性、弾性、加工性、流動性、永久歪の向上に寄与する。
炭化水素系ゴム用軟化剤としては、鉱物油系軟化剤、合成樹脂系軟化剤等が挙げられるが、他の成分との親和性の観点から鉱物油系軟化剤が好ましい。鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30~45%がナフテン系炭化水素であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素であるものが芳香族系オイルと各々呼ばれている。これらの中で、本発明においては、パラフィン系オイルを用いることが好ましい。なお、炭化水素系ゴム用軟化剤は1種のみで用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
炭化水素系ゴム用軟化剤の40℃における動粘度は特に限定されないが、好ましくは20センチストークス以上、より好ましくは50センチストークス以上であり、また、好ましくは800センチストークス以下、より好ましくは600センチストークス以下である。また、炭化水素系ゴム用軟化剤の引火点(COC法)は、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上である。
炭化水素系ゴム用軟化剤は市販品として入手することができる。該当する市販品としては、例えば、JX日鉱日石エネルギー社製日石ポリブテン(登録商標)HVシリーズ、出光興産社製ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPWシリーズ等が挙げられ、これらの中から該当品を適宜選択して使用することができる。
炭化水素系ゴム用軟化剤は成分(A)の100質量部に対して5~300質量部、特に50~200質量部用いることが、炭化水素系ゴム用軟化剤による効果を十分に得た上で成形後の炭化水素系ゴム用軟化剤のブリードアウトを低減する観点から好ましい。
<グラフト変性及び/又は動的架橋>
本発明の変性ポリオレフィン組成物は、上記のエチレン・α-オレフィン共重合体に上記の不飽和シラン化合物及び/又は不飽和シアヌレート化合物と、必要に応じて成分(A)、更に炭化水素系ゴム用軟化剤を含む本発明のポリオレフィン組成物をグラフト変性及び/又は動的架橋することにより製造することができる。グラフト変性及び/又は動的架橋の方法には特に制限は無く、公知の手法に従って行うことができ、例えば、溶液変性、溶融変性、電子線や電離放射線の照射による固相変性、超臨界流体中での変性等が好適に用いられる。これらの中でも設備やコスト競争力に優れた溶融変性が好ましく、連続生産性に優れた押出機を用いた溶融混練変性が更に好ましい。溶融混練変性に用いられる装置としては、例えば単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー等が挙げられる。これらの中でも連続生産性に優れた単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機が好ましい。
一般に、エチレン・α-オレフィン共重合体への不飽和シラン化合物及び/又は不飽和シアヌレート化合物のグラフト変性は、エチレン・α-オレフィン共重合体の炭素-水素結合を開裂させて炭素ラジカルを発生させ、これへ不飽和官能基が付加する、といったグラフト反応によって行われる。炭素ラジカルの発生源としては、上述した電子線や電離放射線の他、高温度とする方法や、有機、無機過酸化物等のラジカル発生剤を用いることで行うこともできる。コストや操作性の観点で有機過酸化物を用いることが好ましい。
変性ポリオレフィン組成物を製造する際に用いるラジカル発生剤には限定は無いが、例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル及びケトンパーオキサイド群に含まれる有機過酸化物、並びにアゾ化合物等が挙げられる。
有機過酸化物としては具体的には、以下のようなものが挙げられる。ハイドロパーオキサイド群にはキュメンハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド等が含まれ、ジアルキルパーオキサイド群にはジクミルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジターシャリーブチルパーオキシヘキシン-3、ジ(2-ターシャリーブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等が含まれ、ジアシルパーオキサイド群にはラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等が含まれる。パーオキシエステル群にはターシャリーパーオキシアセテート、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエイト、ターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等が含まれ、ケトンパーオキサイド群にはシクロヘキサノンパーオキサイド等が含まれる。
アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル、メチルアゾイソブチレート等が挙げられる。
これらのラジカル発生剤は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前述の不飽和シアヌレート化合物と併用する場合、熱分解温度が高いラジカル発生剤が好ましい。この観点からジクミルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、ジ(2-ターシャリーブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンが好ましい。
一般的に用いられる溶融押出変性の操作としては、上記エチレン・α-オレフィン共重合体、不飽和シラン化合物及び/又は不飽和シアヌレート化合物、及び有機過酸化物、必要に応じて成分(A)、更に炭化水素系ゴム用軟化剤やその他の成分を配合、ブレンドして混練機や押出機に投入し、加熱溶融混練しながら押出しを行い、先端ダイスから出てくる溶融樹脂を水槽等で冷却して変性ポリオレフィン組成物を得るものである。
エチレン・α-オレフィン共重合体と不飽和シラン化合物及び/また不飽和シアヌレート化合物との配合の比率は前述の通りであり、不飽和シラン化合物及び/また不飽和シアヌレート化合物と有機過酸化物との配合の比率としては特に制限は無いが、好ましい配合の範囲としては、不飽和シラン化合物及び/また不飽和シアヌレート化合物100質量部に対し、有機過酸化物が1~10質量部である。不飽和シラン化合物及び/また不飽和シアヌレート化合物に対して有機過酸化物の量が上記下限値以上であると、十分な量のラジカルが発生して必要な所定の変性量が得られ易く、また、上記上限値以下であるとエチレン・α-オレフィン共重合体の劣化を抑えやすくなる傾向にある。
本発明の変性ポリオレフィン組成物は、エチレン・α-オレフィン共重合体、不飽和シラン化合物及び/又は不飽和シアヌレート化合物、必要に応じて成分(A)、炭化水素系ゴム用軟化剤、後述のその他の成分等を、公知の方法、例えば、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、タンブラーブレンダー等で機械的に混合した後、公知の方法で機械的に溶融混練することにより製造することができる。この溶融混練には、バンバリーミキサー、各種ニーダー、単軸又は二軸押出機等の一般的な溶融混練機を用いることができる。また、後掲の実施例に示すように、本発明の変性ポリオレフィン組成物は、エチレン・α-オレフィン共重合体、不飽和シラン化合物及び/又は不飽和シアヌレート化合物等を、成分(A)、その他の成分等と共にバンバリーミキサー、各種ニーダー、単軸又は二軸押出機等の溶融混練機に仕込み、溶融混練を行うことにより製造してもよい。本発明の変性ポリエチレン組成物を単軸又は二軸押出機等で混練して製造する場合、通常140~240℃、好ましくは160~220℃に加熱した状態で溶融混練を行うことができる。
<その他の成分>
本発明の変性ポリオレフィン組成物には、上記成分の他に、その他の成分として各種の添加剤や成分(A)以外の樹脂等を本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
添加剤としては、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、防錆剤、粘度調整剤、及び顔料等を挙げることができる。これらのうち、酸化防止剤、特にフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤又はリン系の酸化防止剤を含有させるのが好ましい。酸化防止剤は、変性ポリオレフィン組成物100質量%中に0.1~1質量%含有させるのが好ましい。
また、その他の樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ロジンとその誘導体、テルペン樹脂や石油樹脂とその誘導体、アルキッド樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、合成テルペン樹脂、アルキレン樹脂が挙げられる。
[シラノール縮合触媒]
本発明の変性ポリオレフィン組成物にシラノール縮合触媒を配合することにより、変性ポリオレフィン組成物中の変性ポリオレフィンを分子間で架橋反応させることができる。
本発明に用いることのできるシラノール縮合触媒としては、金属有機酸塩、チタネート、ホウ酸塩、有機アミン、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、無機酸及び有機酸、並びに無機酸エステルからなる群から選択される1種以上の化合物等が挙げられる。
金属有機酸塩としては例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート、酢酸第一錫、オクタン酸第一錫、ナフテン酸コバルト、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、オクチル酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸鉄、オクチル酸鉄、ステアリン酸鉄等が挙げられる。チタネートとしては例えば、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ビス(アセチルアセトニトリル)ジ-イソプロピルチタネート等が挙げられる。有機アミンとしては例えば、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルソーヤアミン、テトラメチルグアニジン、ピリジン等が挙げられる。アンモニウム塩としては例えば、炭酸アンモニウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等が挙げられる。ホスホニウム塩としては例えば、テトラメチルホスホニウムハイドロオキサイド等が挙げられる。無機酸及び有機酸としては例えば、硫酸、塩酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸、トルエンスルホン酸、アルキルナフチルスルホン酸などのスルホン酸等が挙げられる。無機酸エステルとしては例えば、リン酸エステル等が挙げられる。
これらの中で、好ましくは金属有機酸塩、スルホン酸、リン酸エステルが挙げられ、更に好ましくは錫の金属カルボン酸塩、例えばジオクチル錫ジラウレート、アルキルナフチルスルホン酸、エチルヘキシルリン酸エステルが挙げられる。
なお、以上に挙げたシラノール縮合触媒は1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
シラノール縮合触媒の配合量としては特に限定されるものではないが、変性ポリオレフィン組成物100質量部に対し、好ましくは0.0001~0.01質量部であり、更に好ましくは0.0001~0.005質量部である。シラノール縮合触媒の配合量が上記下限値以上であると架橋反応が十分に進行し、耐熱性が良好となる傾向にあるために好ましく、上記上限値以下であると押出機内で早期架橋が起こりにくく、ストランド表面や製品外観の荒れが発生しにくくなる傾向があるために好ましい。
シラノール縮合触媒は、ポリオレフィンとシラノール縮合触媒とを配合したマスターバッチとして用いることが好ましい。このマスターバッチに用いることのできるポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびプロピレン・エチレン共重合体等が挙げられる。
ポリエチレンとしては、例えば、低・中・高密度ポリエチレン等の(分岐状又は直鎖状)エチレン単独重合体;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のエチレン系共重合樹脂等が挙げられる。これらの中でもエチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体が好ましい。
これらの中でも本発明においては、耐熱性と強度のバランスに優れた高圧法低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン・α-オレフィン共重合体が好ましい。エチレン・α-オレフィン共重合体としては、より好ましくはエチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体であり、このエチレン・α-オレフィン共重合体は、1種又は2種以上のα-オレフィン2~60質量%と、エチレン40~98質量%とを共重合させたものであることがより好ましい。シラノール縮合触媒のマスターバッチには、これらのポリオレフィンの1種のみを用いてもよく、2種以上をブレンドして用いてもよい。
シラノール縮合触媒を、ポリオレフィンとシラノール縮合触媒とを配合したマスターバッチとして用いる場合、マスターバッチ中のシラノール縮合触媒の含有量には特に制限は無いが、通常0.1~5.0質量%程度とすることが好ましい。
シラノール縮合触媒含有マスターバッチとしては市販品を用いることができ、例えば、三菱化学(株)製「LZ082」を用いることができる。
〔架橋ポリオレフィン組成物〕
本発明の変性ポリオレフィン組成物において、不飽和シラン化合物を用いた場合、前述のシラノール縮合触媒を配合し、押出成形、射出成形、プレス成形等の各種成形方法により成形した後、水雰囲気中に曝すことにより、シラノール基間の架橋反応を進行させ、架橋ポリオレフィン組成物とすることができる。水雰囲気中に曝す方法は、各種の条件を採用することができ、水分を含む空気中に放置する方法、水蒸気を含む空気を送風する方法、水浴中に浸漬する方法、温水を霧状に散水させる方法等が挙げられる。
また本発明の変性ポリオレフィン組成物において、不飽和シアヌレート化合物を用いた場合、前述のシラノール縮合触媒を配合する必要はなく、押出成形、射出成形、プレス成形等の各種成形中に、残存する過酸化物などのラジカル発生剤により架橋反応がさらに進行し、架橋ポリオレフィン組成物とすることができる。
本発明の変性ポリオレフィン組成物において、不飽和シラン化合物を用いた場合、エチレン・α-オレフィン共重合体のグラフト変性に用いた不飽和シラン化合物由来の加水分解可能なアルコキシ基がシラノール縮合触媒の存在下、水と反応して加水分解することによりシラノール基が生成し、更にシラノール基同士が脱水縮合することにより、架橋反応が進行し、変性ポリオレフィン同士が結合して架橋ポリオレフィン組成物を生成する。
架橋反応の進行速度は水雰囲気中に曝す条件によって決まるが、通常20~130℃の温度範囲、かつ10分~1週間の範囲で曝せばよい。特に好ましい条件は、20~130℃の温度範囲、1時間~160時間の範囲である。水分を含む空気を使用する場合、相対湿度は1~100%の範囲から選択される。
架橋ポリオレフィン組成物が長期間に亘って優れた特性を発揮するために、架橋ポリオレフィン組成物のゲル分率(架橋度)は、0%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましい。ゲル分率は、変性ポリオレフィン組成物の不飽和シラン化合物及び/又は不飽和シアヌレート化合物のグラフト率(変性量)、シラノール縮合触媒の種類と配合量、架橋させる際の条件(温度、時間)等を変えることにより、調整することができる。このゲル分率の上限は特に制限されないが通常、90%である。ゲル分率は、後掲の実施例の項に記載される方法により測定することができる。
〔用途〕
本発明の変性ポリオレフィン組成物及び架橋ポリオレフィン組成物の用途は特に限定されないが、自動車用エラストマー部材、例えば、自動車用グラスランチャンネル、ウェザーストリップ、ゴムホース、ワイパーブレードゴムや、工業用ゴムエラストマー製品、例えば、パッキン、ガスケット、防振ゴム等として好適に用いることができる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
〔原料〕
本発明の実施例及び比較例では、以下の原料を用いた。
<エチレン・α-オレフィン共重合体>
・PE-1:エンゲージ(登録商標) XLT8677(ダウ・デュポンエラストマー社製、エチレン・α-オレフィン共重合体(α-オレフィン:1-オクテン)、MFR:0.5g/10分(190℃、2.16kg荷重)、密度:0.87g/cm
・PE-2:インフューズ(登録商標)9010(ダウ・デュポンエラストマー社製、エチレン・α-オレフィン共重合体(α-オレフィン:1-オクテン)、MFR:0.5g/10分(190℃、2.16kg荷重)、密度:0.88g/cm
・PE-3:タフマー(登録商標)A0550S(三井化学社製、エチレン・α-オレフィン共重合体(α-オレフィン:ブテン)、MFR:0.5g/10分(190℃、2.16kg荷重)、密度:0.86g/cm
<エチレン・プロピレン・ジエン共重合体>
・EPDM:三井EPT(登録商標)3072EM(三井化学社製、メタロセン触媒系EPDM,ムーニー粘度:51ML(予備加熱1分、および回転後4分後の値)125℃
<ポリプロピレン>
・PP:VX200N(サンアロマー社製、MFR:0.5g/10分(230℃、2.16kg荷重)
<成分(A)>
・スチレン系熱可塑性エラストマー:アサプレン(登録商標)T411(旭化成社製、ポリスチレン/ブタジエン/スチレンブロックポリマー、MFR:0g/10分(190℃、2.16kg荷重)、密度:0.94g/cm
<炭化水素系ゴム用軟化剤>
・オイル:ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90(出光興産社製、石油系炭化水素、動粘度380mm/s、密度(15℃):0.880g/cm
<不飽和シラン化合物>
・ビニルメトキシシラン:KBM-1003(信越化学社製)
<不飽和シアヌレート化合物>
・トリアリルシアヌレート:TRM491(CTS社製)
<有機過酸化物>
・POX1:ターシャリーブチルパーオキシ2エチルヘキサノエイト、パーブチルO(日油社製)
・POX2:ジ(2-ターシャリーブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、パーブチルP(日油社製)
<触媒マスターバッチ(MB)>
・シラノール縮合触媒MB:LZ082(三菱化学社製、0.1%錫触媒(ジオクチル錫ジラウレート)含有線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンのMFR:4g/10分(190℃、2.16kg荷重)、低密度ポリエチレンの密度:0.900g/cm、低密度ポリエチレンの融解ピーク温度:90℃)
〔測定・評価方法〕
各種物性、特性の測定・評価方法は以下の通りである。
[エチレン・α-オレフィン共重合体又はEPDMの測定・評価]
<ビニル基量およびビニル基ピーク>
エチレン・α-オレフィン共重合体又はEPDMにおけるビニル基(炭素-炭素二重結合)量は、FT-IR(赤外分光)装置(FT/IR-610、JASCO社製)により測定した。この時、試料を膜厚100μmとなるように160℃でプレスし、下記の条件で透過モードで測定し、以下の方法で算出した。
<測定条件>
積算回数:32
分解:4cm-1
スキャンスピード:2mm/sec
<算出方法>
ビニル基量は以下の方法により求めた。
(エチレン・α-オレフィン共重合体又はEPDMにおけるビニル基量)
=(エチレン・α-オレフィン共重合体又はEPDMに含有される二重結合炭素と水素に由来するピーク高さ)
/(エチレン・α-オレフィン共重合体又はEPDMのメチレン基に由来するピーク高さ)
エチレン・α-オレフィン共重合体又はEPDMのメチレン基に由来するピーク高さは、2380~2400cm-1におけるメチレンのピーク高さであり、二重結合炭素と水素に由来するピーク高さは、900~1100cm-1におけるピーク高さである。
<融解終了点>
(株)日立ハイテクサイエンス社製の示差走査熱量計、商品名「DSC6220」を用いて、JIS K7121に準じて、試料約5mgを加熱速度100℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で3分間保持した後、冷却速度10℃/分で-10℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから補外ピーク終了点(℃)を算出し、融解終了点とした。
[変性ポリオレフィン組成物及び架橋ポリオレフィン組成物の測定・評価]
<メルトフローレート(MFR)>
JIS K7210(1999)に準拠して、190℃、2.16kg荷重にて測定した。
<ゲル分率>
キシレン沸点にて10時間ソックスレー抽出した後の不溶分の質量%を測定した。
<圧縮永久歪み>
製造されたシート状の成形品を直径30mmの円形状に打ち抜き、これを6枚重ね、JIS K6262に準拠して、スペーサーにより25%圧縮した状態で、表-1に示す試験温度(20℃、50℃又は70℃)で22時間熱処理を行い、処理後、圧縮をとき、23℃の恒温室に30分放置した後、厚さを測定し、圧縮永久歪み(CS:単位%)を計算した。圧縮永久歪みの値は低い方が良好である。
[実施例1]
エチレン・α-オレフィン共重合体としてPE-1を85質量部用い、不飽和シラン化合物のビニルトリメトキシシランを2.0質量部、PPを15質量部、有機過酸化物であるPOX1を0.2質量部配合してブレンダーにて攪拌した。その後、温度200℃に設定された二軸スクリュー押出機(池貝社製、PCM45)に投入し、ノズルより出てきたストランドを水槽にて冷却固化させた後にペレット状にカッティングして変性ポリオレフィン組成物を得た。得られた変性ポリオレフィン組成物の物性を表-1に示す。
上記で得られた変性ポリオレフィン組成物100質量部に対して、シラノール縮合触媒MBとしてLZ082を5質量部加えて触媒MBを含有する変性ポリオレフィン組成物を得た。これを射出成形機により200℃の条件下で成形し、80℃の温水に24時間浸して架橋ポリオレフィン組成物よりなる厚さ2mmのシート状成形品を製造した。得られた架橋ポリオレフィン組成物のゲル分率と圧縮永久歪みを評価した。結果を表-1に示す。
[実施例2]
PE-1、PE-2、スチレン系熱可塑性エラストマー、オイル、不飽和シアヌレート化合物のトリアリルシアヌレート、有機過酸化物であるPOX2を表-1に示す配合量で用いた以外は、実施例1と同様な操作を行い、変性ポリオレフィン組成物を得た。
得られた変性ポリオレフィン組成物を用い、触媒MBを使用しない以外は、実施例1と同様な操作を行い、架橋ポリオレフィン組成物を得た。得られた変性ポリオレフィン組成物及び架橋ポリオレフィン組成物について、各種評価を行った。その結果を表-1に示す。
[実施例3~5及び比較例1~4]
使用した原料の種類、組成を表-1に示したように変更した以外は実施例1と同様にして変性ポリオレフィン組成物、架橋ポリオレフィン組成物を製造した。得られた変性ポリオレフィン組成物及び架橋ポリオレフィン組成物について、各種評価を行った。その結果を表-1に示す。
Figure 0007081181000001
上記の結果より次のことが分かる。
実施例1、2、3、4、5に示すように、ビニル基量が多いエチレン・α-オレフィン共重合体を用いた架橋ポリオレフィン組成物は、20℃、50℃および70℃のいずれの温度でもビニル基量が少ないエチレン・α-オレフィン共重合体を用いた比較例2,3よりも圧縮永久歪が低い値を示した。また実施例1~5で用いたエチレン・α-オレフィン共重合体は比較例1で用いたEDPMよりも高い融解終了点を有し、実施例1~5の架橋ポリオレフィン組成物は、70℃の圧縮永久歪において、比較例1より低い値を示した。さらに、実施例1、2の変性ポリオレフィン組成物は比較例1~3よりも高いMFRを示した。さらに、有機過酸化物をPOX1およびPOX2と組み合わせて使用した実施例4および5では、20℃、50℃および70℃のいずれの温度の圧縮永久歪においても、とくに低い値を示した。
比較例1、2、3のように、ビニル基量が多くなく、融解終了点が低い場合、架橋密度が低下するため圧縮永久歪み(70℃)の値が高く、高温での密封性が劣化した。またスチレン系熱可塑性エラストマーとオイルを使用した実施例2と比較しても、MFRは低くかつゲル分率は高いため、流動性に劣り成形性が悪化し、架橋ポリオレフィン組成物としてリサイクル性は悪化した。
比較例4は、変性及び架橋を行っていないポリオレフィン組成物であり、MFRが小さく、また圧縮永久歪みが大きい。
以上のことから、ビニル基量が多く、融解終了点が高いエチレン・α-オレフィン共重合体を用いた変性ポリオレフィン組成物は、MFRが高く流動性に優れ、この変性ポリオレフィン組成物から圧縮永久歪みの小さい架橋ポリオレフィン組成物を製造することができることが分かる。
本発明の変性ポリオレフィン組成物は、流動性の低下が抑えられ、押出機の負荷を低減することができると共に、リサイクル可能なエラストマー部材を容易に製造することが可能でなる。しかも、本発明の変性ポリオレフィン組成物では圧縮永久歪みが小さく、高温での密封性や密着性に優れ、ヘタリが発生しにくい架橋ポリオレフィン組成物を与えることができる。このため、本発明の変性ポリオレフィン組成物及び架橋ポリオレフィン組成物は、自動車用グラスランチャンネル、ウェザーストリップ、ゴムホース、ワイパーブレードゴム、パッキン、ガスケット、防振ゴム等の構成材料として好適に用いることができる。

Claims (9)

  1. ビニル基量が4.0質量%以上であり、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が115℃以上であるエチレン・α-オレフィン共重合体と、該エチレン・α-オレフィン共重合体100質量部に対して0.01~5質量部の不飽和シラン化合物とを含むポリオレフィン組成物であって、
    更に下記成分(A)を含み、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100質量部に対する成分(A)の含有量が2~50質量部であることを特徴とするポリオレフィン組成物。
    成分(A):ビニル芳香族化合物に由来する少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエン及び/又はイソブチレンに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体、並びに該ブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体からなる群のうちの少なくとも1つのブロック共重合体
  2. ビニル基量が4.0質量%以上であり、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が115℃以上であるエチレン・α-オレフィン共重合体と、該エチレン・α-オレフィン共重合体100質量部に対して0.01~5質量部の不飽和シラン化合物及び不飽和シアヌレート化合物とを含むポリオレフィン組成物であって、
    更に下記成分(A)を含み、前記エチレン・α-オレフィン共重合体100質量部に対する成分(A)の含有量が2~50質量部であることを特徴とするポリオレフィン組成物。
    成分(A):ビニル芳香族化合物に由来する少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエン及び/又はイソブチレンに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体、並びに該ブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体からなる群のうちの少なくとも1つのブロック共重合体
  3. 不飽和シアヌレート化合物がトリアリルシアヌレートを含む化合物である、請求項2に記載のポリオレフィン組成物。
  4. 前記不飽和シラン化合物が下記式(1)で表される化合物である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポリオレフィン組成物。
    RSi(R’) …(1)
    (ただし、Rはエチレン性不飽和炭化水素基であり、R’は互いに独立して炭素数1~10の炭化水素基又は炭素数1~10のアルコキシ基であり、R’のうちの少なくとも1つは炭素数1~10のアルコキシ基である。)
  5. 請求項1ないし4のいずれか1項に記載のポリオレフィン組成物をグラフト変性及び/又は動的架橋処理してなる変性ポリオレフィン組成物。
  6. 請求項5の変性ポリオレフィン組成物を成形してなる成形体。
  7. 請求項5に記載の変性ポリオレフィン組成物とシラノール縮合触媒とを含むシラノール縮合触媒含有変性ポリオレフィン組成物。
  8. 請求項7に記載のシラノール縮合触媒含有変性ポリオレフィン組成物を成形してなる成形体。
  9. 請求項に記載のシラノール縮合触媒含有変性ポリオレフィン組成物を架橋反応させてなる架橋ポリオレフィン組成物。
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