以下、図面を参照しながら、実施形態に係る同期モータの駆動装置を説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行うこととする。
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係るモータシステム1の全体構成を説明するブロック図である。この図1に示すように、本実施形態に係るモータシステム1は、同期モータ10と、インバータ主回路20と、電流検出部30と、インバータ制御装置40とを備えて構成されている。換言すれば、モータシステム1から同期モータ10を除いた部分で、本実施形態に係る同期モータ10の駆動装置が構成されている。
同期モータ10は、例えば、磁石を用いた永久磁石式同期モータや、磁界磁束を二次巻線にて供給する巻線界磁式同期モータで構成されており、磁気突極性を有している。本実施形態では、図2に示すような、磁石が少ない永久磁石式同期モータを一例として、以下の説明を行う。すなわち、図2に示す回転子12は、例えば鉄により形成されており、この回転子12の4カ所に磁石14が設けられている。この磁石14は、磁路安定化のために設けられており、同期モータ10に磁石トルクはほとんど発生しない。つまり、同期モータ10は、リラクタンスモータと言うこともできる。
図1に示すインバータ主回路20は、インバータ制御装置40から入力されたゲート信号によって半導体素子のオン/オフが制御され、直流電力を任意の周波数の交流電力に変換する。電流検出部30は、同期モータ10に流れる3相交流電流のうち、2相若しくは3相の交流電流(iu,iv,iw)を検出する。なお、2相の交流電流を検出する場合は、いずれか2相に電流センサを設ければよい。
図3は、本実施形態におけるd軸とq軸の関係と、推定dc軸とqc軸の関係を図示している。すなわち、磁石14のN極の向きを真のd軸とし、推定したd軸をdc軸としている。そして、q軸はd軸から電気的に90度進んだ軸であり、qc軸はdc軸から電気的に90度進んだ軸である。
図1に示すように、インバータ制御装置40は、座標変換部100a、100bと、指令生成部110と、上位制御器120と、高周波電圧重畳部130と、回転子位置角速度演算部140と、電圧指令生成部150と、回転子位置補正部190と、変調部200とを備えて構成されており、また、電圧指令生成部150は、電流制御部160と、電圧位相制御部170と、制御方式切替部180とを備えて構成されている。
座標変換部100aは、電流検出部30が検出した3相の電流値をdq軸の電流値に座標変換する。また、座標変換部100bは、dq軸電圧指令値を3相の電圧指令値に座標変換する。
指令生成部110は、上位制御器120からのトルク指令T*およびゲートスタート指令Gstを受け、d軸電流指令値Idrefとq軸電流指令値Iqrefを生成する。また、指令生成部110は、回転角速度に応じて、制御方式切替えフラグFlg1および駆動時極性判別フラグFlg2を生成する。さらに、指令生成部110は、初期極性判別期間に該当する場合に、初期極性判別フラグFlg3を生成する。また、指令生成部110は、ゲートスタート指令Gstからの時間遅れ信号を利用して、d軸電流指令値Idrefを正負反転させる。
図4は、本実施形態に係る指令生成部110の構成の一例を示すブロック図である。図5は、各フラグと各信号の動作波形の一例を示している。これら図4及び図5に示すように、本実施形態に係る指令生成部110は、電流指令生成部110aと、時間遅れ生成部110bと、初期極性判別期間生成部110cと、切り替え部110dと、反転部110eと、ローパスフィルタ110f、110hと、第1閾値判定部110gと、第2閾値判定部110iとを備えて構成されている。
電流指令生成部110aは、トルク指令T*およびゲートスタート指令Gstに基づいて、電流指令値Idref、Iqrefを生成し、初期極性判別期間生成部110cは、ゲートスタート指令Gstに基づいて、初期極性判別フラグFlg3を生成する。また、第1閾値判定部110gは、dq軸電圧振幅値Vdqに基づいて、制御方式切り替えフラグFlg1を生成し、第2閾値判定部110iは、dq軸電圧振幅値Vdqに基づいて、駆動時極性判別フラグFlg2を生成する。ここで、dq軸電圧振幅値Vdqは、演算部112より、指令生成部110に入力され、この演算部112は、A=電圧指令値Vdref、B=電圧指令値Vqrefとした場合に、√(A2+B2)によりdq軸電圧振幅値Vdqを算出する。すなわち、本実施形態においては、電圧指令値Vdref及びB=電圧指令値Vqrefに基づいて、3つのフラグである、制御方式切り替えフラグFlg1、駆動時極性判別フラグFlg2、初期極性判別フラグFlg3を管理する。
図6は、第1閾値判定部110g及び第2閾値判定部110iの構成の一例を示している。すなわち、第1閾値判定部110gは、予め設定されている閾値と、ローパスフィルタ110fを介して入力されたdq軸電圧振幅値Vdq(線間電圧実効値Vrmsと等価)とを比較して、制御方式切り替えフラグFlg1を生成する。具体的には、所定のdq軸電圧振幅値Vdq(線間電圧実効値Vrmsと等価)に達した時点で、制御方式切り替えフラグFlg1をハイレベルからローレベルに切り替える。上記した第1閾値判定部110gで参照される予め設定されている閾値は、電圧に基づいて決定すれば良く、例えば、線間電圧を歪ませることなくインバータが出力できる電圧値を設定することが考えられる。
また、第2閾値判定部110iは、予め設定されている閾値と、ローパスフィルタ110hを介して入力されたdq軸電圧振幅値Vdq(線間電圧実効値Vrmsと等価)との比較をして、駆動時極性判別フラグFlg2を生成する。具体的には、所定のdq軸電圧振幅値Vdqに達してから所定時間経過後に、所定の時間だけ、駆動時極性判別フラグFlg2をハイレベルにする。詳しくは後述するが、この駆動時極性判別フラグFlg2がハイレベルになっている期間が、同期モータ10の回転子12に設けられた磁石14の極性が推定と一致しているか否かを判別する期間である。なお、第2閾値判定部110iによる判定は、第1閾値判定部110gの判定結果により切り替えが行われる前に実施される必要があることから、上記した第2閾値判定部110gで参照される予め設定されている閾値は、第1閾値判定部110iで参照される上記閾値以下の値(電圧値)を設定すればよい。さらに、上記では一定期間実施する形態について説明したが、初期極性判別フラグFlg3が立ち下がった後、所定の時間間隔もしくは継続的に同期モータ10の回転子12に設けられた磁石14の極性が推定と一致しているか否かを判別してもよい。
高周波電圧重畳部130は、三角波キャリア信号に同期して、振幅vhの高周波電圧Vhを発生させ、初期極性判別フラグFlg3が出力される期間、d軸電圧指令値Vdrefに重畳する。図7は、本実施形態に係る高周波電圧重畳部130の構成の一例を示す図である。この図7に示すように、高周波電圧重畳部130は、同期パルス生成部130aと、ゲート130b、130cを備えており、入力された初期極性判別フラグFlg3と、三角波キャリア信号と、基準電圧vhに基づいて、高周波電圧Vhを生成して出力する。
回転子位置角速度演算部140は、同期モータ10の回転に合わせて生成されるパルスジェネレータ信号PGに基づいて電気角回転子角速度ωeを演算し、この電気角回転子角速度ωeを積分して位相を演算し、さらに初期極性判別結果と足し合わせることで回転子位置θe’を演算する。図8は、本実施形態に係る回転子位置角速度演算部140の構成の一例を示す図である。この図8に示すように、本実施形態に係る回転子位置角速度演算部140は、回転子角速度演算部140aと、バンドパスフィルタ140bと、FFT(高速フーリエ変換)解析部140cと、初期極性判別部140dと、積分器140eを、備えて構成されている。
回転子角速度演算部140aは、入力されたパルスジェネレータ信号PGに基づいて、電気角回転子角速度ωeを算出して出力する。バンドパスフィルタ140bは、d軸電流値Idの特定周波数帯を検出し、FFT解析部140cは、前記特定周波数をフーリエ変換し、解析することでd軸高調波電流値Idhを演算する。初期極性判別部140dは、d軸高調波電流値Idhと、基準となる高周波電圧Vhとを比較して、その比較結果に基づいて、磁石14の初期極性を判別する。
図9は、この初期極性判別の動作イメージを説明する図である。この図9に示すように、同期モータ10では、+d軸に電流を通電した場合と、-d軸に電流を通電した場合とで、d軸鎖交磁束の大きさに差異が生じ、インダクタンスにも差が生じる。具体的には、+d軸に電流を流した場合は、インダクタンスが大きくなり、-d軸に電流を流した場合は、インダクタンスが小さくなる。インダクタンスが大きいと、高調波電流値Idhは小さくなり、インダクタンスが小さいと、高調波電流値Idhは大きくなる。このため、極性判別部140dでは、この差に基づいて、磁石14の初期極性を判別する。図8の初期極性判別部140dから出力された初期極性判別結果に、電気角回転子角速度ωeが積分器140eで積分された結果を足し合わせて、回転子位置θe’を算出する。
電圧指令生成部150は、電流指令値Idref、Iqrefに基づいて、電圧指令値Vdref、Vqrefを生成して、座標変換部100bに出力する回路である。上述したように、本実施形態においては、電圧指令生成部150は、電流制御部160と、電圧位相制御部170と、制御方式切替部180とを、備えて構成されている。
電流制御部160は、電流値Id、Iqと、電流指令値Idref、Iqrefとの差分を算出し、その比例積分(PI)制御出力と、モータモデルを用いて演算したフィードフォワード電圧とを足し合わせて、電圧指令値Vdref_ACR、Vqref_ACRを算出する。
図10は、本実施形態に係る電流制御部160の構成の一例を示すブロック図である。この図10に示すように、本実施形態に係る電流制御部160は、比例器160aと160c、積分器160b、160dと、フィードフォワード電圧演算部160eとを、備えて構成されている。すなわち、d軸電流値Idとd軸電流指令値Idrefとの差分が比例器160aと積分器160bに入力され、q軸電流値Iqとq軸電流指令値Iqrefとの差分が比例器160cと積分器160dに入力される。また、電気角回転子角速度ωeと電流指令値Idref、Iqrefとが、フィードフォワード電圧演算部160eに入力されて、フィードフォワード電圧が算出される。そして、比例器160aの出力と積分器160bの出力の和にフィードフォワード電圧が加算されて、d軸電圧指令値Vdref_ACRとして出力され、比例器160cの出力と積分器160dの出力の和にフィードフォワード電圧が加算されて、q軸電圧指令値Vqref_ACRとして出力される。
電圧位相制御部170は、電流値Id、Iqと、電流指令値Idref、Iqrefとの差分を算出し、その比例(P)制御した出力電圧位相と、モータモデルを用いて演算したフィードフォワード電圧位相とを足し合わせて、電圧位相指令とし、それぞれcosおよびsinをとってd軸電圧振幅指令Vdq_VPと掛け合わせることで、電圧指令値Vdref_VP、Vqref_VPを算出する。
図11は、本実施形態に係る電圧位相制御部170の構成の一例を示すブロック図である。この図11に示すように、本実施形態に係る電圧位相制御部170は、比例器170a、170bと、角度演算部170c、170eと、フィードフォワード電圧演算部170dと、COS演算部170f、SIN演算部170gと、乗算器170h、170iと、電圧振幅指令部170jとを備えて構成されている。
すなわち、d軸電流値Idとd軸電流指令値Idrefとの差分が比例器170aに入力され、q軸電流値Iqとq軸電流指令値Iqrefとの差分が比例器170bに入力される。これら比例器170a、170bの出力は、角度演算部170cに入力されて、角度演算部170cからは出力電圧位相が出力される。一方、電気角回転子角速度ωeと電流指令値Idref、Iqrefとがフィードフォワード電圧演算部170dに入力されて、フィードフォワード電圧が算出され、角度演算部170eに入力される。角度演算部170eでは、フィードフォワード電圧に基づいて、フィードフォワード電圧位相が算出される。この角度演算部170eから出力されたフィードフォワード電圧位相と、角度演算部170cから出力された出力電圧位相との和が、COS演算部170fとSIN演算部170gに入力される。電圧振幅指令部170jからは、d軸電圧振幅指令Vdq_VPが出力され、このd軸電圧振幅指令Vdq_VPが、COS演算部170fの出力と乗算器170hで乗算されてd軸電圧指令値Vdref_VPが出力され、SIN演算部170gの出力と乗算器170iで乗算されてq軸電圧指令値Vqref_VPが出力される。
制御方式切替部180は、制御方式切り替えフラグFlg1に応じて、電流制御の電圧指令値Vdref_ACR、Vqref_ACRと電圧位相制御の電圧指令値Vdref_VP、Vqref_VPとを切り替えて出力する。
図12は、本実施形態に係る制御方式切替部180の構成の一例を示す図である。この図12に示すように、本実施形態に係る制御方式切替部180は、スイッチ180a、180bを備えて構成されている。スイッチ180a、180bには、それぞれ、制御方式切り替えフラグFlg1が入力されており、制御方式切り替えフラグFlg1がハイレベルのときに「1」側に接続され、制御方式切り替えフラグFlg1がローレベルのときに「0」側に接続される。すなわち、制御方式切り替えフラグFlg1がハイレベルのときには、スイッチ180aは、d軸電圧指令値Vdref_ACRを選択して出力し、スイッチ180bは、q軸電圧指令値Vqref_ACRを選択して出力する。制御方式切り替えフラグFlg1がローレベルのときには、スイッチ180aは、d軸電圧指令値Vdref_VPを選択して出力し、スイッチ180bは、d軸電圧指令値Vqref_VPを選択して出力する。
回転子位置補正部190は、q軸電圧指令値Vqrefとモータモデル電圧との差分に基づいて、磁極判別指標を算出し、ノイズ除去用のローパスフィルタを作用させて閾値と比較することで、位相補正値θcmpを算出する。この回転子位置補正部190は、駆動時極性判別フラグFlg2に応じて実行される。すなわち、回転子位置補正部190は、駆動時極性判別フラグFlg2がハイレベルの場合(図4参照)に動作する。インバータ制御装置40で制御する同期モータ10は磁石磁極と同一方向にd軸電流を通電した場合、インダクタンスが高いことから電圧が大きくなり、磁石磁極と反対方向にd軸電流を通電した場合、インダクタンスが低いことから電圧が小さくなる。このため、上述した閾値は電圧に基づいて決定すればよく、例えば、d軸電流をプラスマイナス方向に通電した際に発生する電圧の平均値を予めもしくは運転中に検出・演算し、設定すればよい。また、磁石極性が反転していることを捉えられれば、平均値以外の方法、例えば電圧に重みを付けて閾値を決定してよい。
図13は、本実施形態に係る回転子位置補正部190の構成の一例を示す図である。この図13に示すように、本実施形態に係る回転子位置補正部190は、乗算器190a、190bと、モデル設定部190cと、ローパスフィルタ190dと、閾値判定部190eと、切替出力部190fとを、備えて構成されている。
乗算器190aは、d軸電流値Idと電気角回転子角速度ωeとの乗算を行う。モデル設定部190cには、予め同期モータ10に応じたd軸インダクタンス設定値が格納されている。このd軸インダクタンス設定値と、乗算器190aから出力された乗算結果が、乗算器190bに入力され乗算が行われ、q軸モータモデル電圧が算出される。乗算器190bの乗算結果であるq軸モータモデル電圧と、q軸電圧指令値Vqrefとの差分が、ローパスフィルタ190dに入力され、ノイズ成分が除去された磁極判別指標が出力される。この磁極判別指標は閾値判定部190eに入力され、磁極判別指標が所定の閾値より大きい場合は1が出力され、所定の閾値より小さい場合は0が出力される。すなわち、q軸電圧指令値Vqrefとq軸モータモデル電圧との差分が大きい場合には、実際の磁石14の極性は、想定した磁石14の極性と反転していると判断して、閾値判定部190eは1を出力する。これにより、切替出力部190fからはπの値を有する位相補正値θcmpが出力される。一方、q軸電圧指令値Vqrefとモータモデル電圧との差分が小さい場合には、実際の磁石14の極性と、想定した磁石14の極性とが一致していると判断して、閾値判定部190eは0を出力する。これにより、切替出力部190fからは0の値を有する位相補正値θcmpが出力される。すなわち、図13の回転子位置補正部190は、インバータ電圧とモータモデル電圧の差分に基づいて、実際の磁石14の極性と、回転子位置角速度演算部140で算出した回転子位置θe’とが一致しているか否かを判定している。なお、所定の閾値は電圧に基づいて決定すればよい。
図14は、本実施形態に係る回転子位置補正部190の別の構成例を示す図である。この図14に示すように、回転子位置補正部190は、上述した乗算器190a、190bと、モデル設定部190cと、ローパスフィルタ190dと、閾値判定部190eと、切替出力部190fに加えて、乗算器190gが設けられている。
除算器190gには、q軸電圧指令値Vqrefと、電気角回転子角速度ωeとが入力され、その除算結果がd軸インバータ磁束として出力される。また、モデル設定部190cには、予め同期モータ10に応じたd軸インダクタンス設定値が格納されている。そして、乗算器190bで算出されたd軸モータモデル磁束と、除算器190gで算出されたd軸インバータ磁束の差分が、ローパスフィルタ190dに入力され、閾値判定部190eにおいて、その差分が所定の閾値より大きいか否かが判定される。つまり、図14における回転子位置補正部190は、インバータ磁束の差分に基づいて、実際の磁石14の極性と、回転子位置角速度演算部140で算出した回転子位置θe’とが一致しているか否かを判定している。上述した所定の閾値は磁束に基づいて決定すればよく、例えば、d軸電流をプラスマイナス方向に通電した際に発生する磁束の平均値とすればよい。
図15は、本実施形態に係る回転子位置補正部190のさらに別の構成例を示す図である。この図15に示すように、回転子位置補正部190は、上述したローパスフィルタ190dと、閾値判定部190eと、切替出力部190fに加えて、乗算器190h、190iと、モデル設定部190j、190kと、除算器190lと、乗算器190m、190nが設けられている。
乗算器190hには、d軸電流値Idとd軸電圧指令値Vdrefとが入力され、これらの乗算結果が出力される。乗算器190iには、q軸電流値Iqとq軸電圧指令値Vqrefとが入力され、これらの乗算結果が出力される。これら乗算器190h、190iの乗算結果の和が、除算器190lに入力され、電気角回転子角速度ωeで除算されて、トルクが出力される。一方、乗算器190mには、電流指令値Idref、Iqrefとが入力され、その乗算結果が出力される。また、モデル設定部190j、190kには、電流指令値Idref、Iqrefからモデルとなるモータモデルトルクを算出するためのd軸インダクタンス設定値、q軸インダクタンス設定値がそれぞれ格納されている。このため、モデル設定部190j、190kの差分と、乗算器190mの乗算結果とを乗算器190nで乗算することにより、モータモデルトルクが算出される。この乗算器190nから出力されたモータモデルトルクと、除算器190lから出力されたトルクとの差分が、ローパスフィルタ190dに入力され、閾値判定部190eにおいて、その差分が所定の閾値より大きいか否かが判定される。つまり、図15における回転子位置補正部190は、インバータのトルクの差分に基づいて、実際の磁石14の極性と、回転子位置角速度演算部140で算出した回転子位置θe’とが一致しているか否かを判定している。対象の電動機は磁石磁極と同一方向にd軸電流を通電した場合、d軸インダクタンスが高いことから磁気突極性(Ld-Lq)が小さくなり、その結果トルクが小さくなる。逆に、磁石磁極と反対方向にd軸電流を通電した場合、磁気突極性(Ld-Lq)が大きくなることからトルクが大きくなる。上述した所定の閾値はトルクに基づいて決定すればよく、例えば、d軸電流をプラスマイナス方向に通電した際に発生するトルクの平均値とすればよい。これらの差を検出することができれば、平均値以外の方法でも閾値を決定してよい。さらに、上記の例ではトルクに基づいて閾値を決定する方法を説明したが、トルクと相関があるパワーを用いても同様の効果が得られ、190dの入力をパワーの次元にすればよい。
図1の変調部200は、座標変換部100bから出力された3相の電圧指令値Vuref、Vvref、Vwrefに基づいてスイッチング指令Vu_PWM、Vv_PWM、Vw_PWMを生成し、インバータ主回路20に出力する。
図1のモータシステム1は、同期モータ10のdq軸電圧振幅値Vdqが所定の閾値より小さいときは、電流フィードバック制御を行い、所定の閾値以上のときは、電圧位相制御を行う。所定の閾値は、例えば、上述した回転子位置補正部190と同様に、d軸電流をプラスマイナス方向に通電した際に発生する電圧の平均値を設定すればよい。また、磁石極性が反転していることを捉えられれば、平均値以外の方法、例えば電圧に重みを付けて閾値を決定してよい。
<電流フィードバック制御>
同期モータ10の電圧方程式は[数式1]で表現される。
ここで、Rは巻線抵抗であり、L
d、L
qはそれぞれd軸インダクタンス、q軸インダクタンスであり、ω
eは電気角回転子角速度である。
さらにモータパラメータを用いて演算するモータモデル電圧は[数式2]となる
ここで、L
d_set、L
q_setは、それぞれ、d軸インダクタンス設定値、q軸インダクタンス設定値である。
この[数式3]において、モータパラメータが一致する場合、[数式4]となる。
各々電流に着目して書き直すと、[数式5][数式6]となる。
これら[数式5]、[数式6]から、プラントが一次遅れとなることがわかる。
さらに上記式に対してPI制御を行って電流制御することを考える。PI制御を行った場合のd軸一巡伝達関数は[数式7]となる。
ここで、τ
d=L
d/Rであり、τ
Aは任意時定数であり、sは微分演算子であり、K
pdはd軸比例ゲインである。これを伝達関数の形に変形すると、[数式8]となる。
ここで、τ
A=τ
dと設計するならば、[数式8]は[数式9]の通りとなる。
[数式9]のようにPI制御器を設計することで、同期モータ10を任意時定数τ
newのプラントとみなせ、ゲインK
pdを調整することで電流制御することが可能となる。q軸も同様の方法でゲインを調整すればよい。本方式は出力可能電圧に対してインバータ電圧が小さい領域で用いられ、モデル電圧に誤差があったとしても電圧振幅と電圧位相を調整して、任意の電流を流すことができる。
<電圧位相制御>
電圧位相制御では電圧振幅を一定とし、電圧位相を調整することでモータ電流を制御する。この場合の電圧位相指令はdq軸電流偏差にゲインを乗じた値と、モータモデルから演算したモデル電圧とから[数式10]のように算出する。
電圧位相制御では電圧振幅は一定値とし、[数式10]とからdq軸電圧指令を[数式11]のように演算する。
電流誤差がない場合、電圧位相はモータモデルを用いて演算した値となる。ただし、V
dq_VPは例えばインバータが出力可能な最大電圧一定値とする。
制御モードを上述した電流制御から電圧位相制御へと切り替える場合、電圧振幅と電圧位相が一致している必要がある。しかしながら、図16に示すように、同期モータ10は、磁石極性によってはモデル電圧とインバータ電圧との間に大きな乖離があり、電圧振幅および電圧位相の双方が調整可能な電流フィードバック制御から、電圧位相のみ制御する電圧位相制御に制御モードを切り替えると、図17に示すように、電圧位相が急変してトルクショックや最悪の場合脱調減少を発生してしまう。
このような問題を解決するためには、制御モードを切り替える前に、同期モータ10の磁石極性を一致させるような制御を行えばよい。このため、本実施形態においては、たとえば下記のような方法で極性判別指標を算出し、閾値と比較して磁石極性を判別する。
<電圧及び磁束に着目した方式>
上述した図13乃至図15に基づいて、電圧及び磁束に着目した磁石極性の判別を追加的に説明する。図13に示すように、回転子位置補正部190において、q軸電圧指令値(q軸インバータ電圧)Vqrefと、予め設定されているq軸モータモデル電圧との差分を極性判別指標とし、ノイズ除去用のローパスフィルタ(LPF)190dを作用させて、閾値判定部190eに入力し、閾値と比較して位相補正値θcmpを算出する。この位相補正値θcmpの値は、磁石極性が一致しているか否かであるので、0又はπである。この時、閾値は電圧もしくは磁束に基づいて決定すればよく、その値は、上述した図13や図14の回転子位置補正部190と同様に、閾値を電圧に基づいて決定する場合は、例えば、d軸電流をプラスマイナス方向に通電した際に発生する電圧の平均値を予めもしくは運転中に検出・演算し、設定すればよい。また、磁石極性が反転していることを捉えられれば、平均値以外の方法、例えば電圧に重みを付けて閾値を決定してよい。また、閾値を磁束に基づいて決定する場合は、例えば、d軸電流をプラスマイナス方向に通電した際に発生する磁束の平均値とすればよい。
一方、図14で例示した回転子位置補正部190では、電圧指令値(q軸インバータ電圧)Vqrefを回転子角速度ωeで除して算出したd軸インバータ磁束と、予め設定されている値から算出されたd軸モータモデル磁束との差を磁極判別指標とする。この磁極判別指標に基づく判別手法は、上記図13と同様である。
<トルク・パワーに着目した方式>
上述した図15に基づいて、トルク・パワーに着目した磁石極性の判別を追加的に説明する。図15に示すように、本方式における回転子位置補正部190においては、d軸電圧指令値(d軸インバータ電圧)Vdrefとd軸電流値Idとを掛け合わせ、q軸電圧指令値(q軸インバータ電圧)Vqrefとq軸電流値Iqとを掛け合わせ、これら足し合わせたインバータパワーを回転子角速度ωeで除してトルクを算出し、予め設定されているモータモデルトルクとの差分を極性判別指標とする。この磁極判別指標に基づく判別手法は、上記図13と同様である。
なお、上述した3つの方式は、いずれも速度比例するモータ電圧を用いることから、極低速では極性判別の精度が悪くなり、電流センサノイズや分解能の影響を受けやすくなる。これを避けるためには回転子周波数に同期したオフセット電流を流しつつ、ある速度、例えば10Hz以上で極性判別を開始するような構成とする必要がある。このため、本実施形態においては、図5に示す、駆動時極性判別フラグflg2を用いて、そのタイミングを制御することとしている。上記駆動時極性判別フラグflg2は電圧を閾値として変更すればよい。また、電圧以外にも、例えば速度を閾値として実速度と比較することで駆動時極性判別フラグflg2を制御すればよい。
換言すれば、電圧は通電電流に依存する。例えば、図16においては、d軸方向に120Aの電流を流すことが100%に相当しているが、d軸方向のみに20%の電流を流すことを仮定すると、NSが反転している場合には10Hzで10V(2π×10Hz×0.175Wb)の電圧が発生し、ノイズ等に対してある程度不感化できる。この10%という値は、インバータ定格電圧の数%以上(今回のモータはDC288Vで、10Vは約3.5%に相当)の基本波電圧となる周波数と定義することも可能である。
また、上述したモータモデル電圧、モータモデル磁束、及び、モータモデルトルクは、予め取得した、若しくは、駆動中に取得したモータパラメータを用いて演算するようにしてもよいし、又は、電流、電圧若しくはその両方に応じたテーブルを参照して決定するようにしてもよい。
以上のように、本実施形態に係るモータシステム1によれば、算出された極性判別指標に基づいて、図18のように、制御モードを電流フィードバック制御から電圧位相制御に切り替える前に同期モータ10の磁石の極性判別を行うようにした。このため、極性が反転している場合、回転子位置に180度を加算することにより回転子位置を補正し、磁石極性を一致させてから、制御モードを変更することができ、磁石極性が回転子位置角速度演算部140で算出した回転子位置θe’と反転している状態で、モータパラメータを用いる電圧位相制御に切り替えることによる電圧位相の急変を避け、安定して同期モータ10を制御することが可能となる。
〔第2実施形態〕
第2実施形態に係るモータシステム1は、上述した第1実施形態におけるモータシステム1に変形を加えたものである。以下、上述した第1実施形態と異なる部分を説明する。
図19は、第2実施形態に係るモータシステム1の全体構成を説明するブロック図であり、上述した第1実施形態における図1に対応する図である。
高周波電圧重畳部130は、入力された三角波キャリアに同期して振幅vhの高周波電圧VHを発生させ、d軸電圧指令に重畳する。本実施形態の場合、初期極性判別もしくは第1の位置誤差推定法を用いている間、高周波電圧を重畳する。
図20は、本実施形態に係る高周波電圧重畳部130の構成の一例を示すブロック図である。この図20に示すように、本実施形態に係る高周波電圧重畳部130は、同期パルス生成部130aと、ゲート130b、130cに加えて、OR回路130dを備えて構成されている。
同期パルス生成部130aには、三角波キャリア信号が入力され、この三角波キャリア信号に同期して、同期パルス信号がゲート130cに出力される。OR回路130dには、制御方式切り替えフラグFlg1と初期極性判別フラグFlg3とが入力され、いずれかがハイレベルの場合、ハイレベルの信号をゲート130bに出力する。また、ゲート130bには、電圧vhが供給されており、ゲート130bにハイレベルの信号がOR回路130dから供給されている場合には、ゲート130bは、供給されている電圧vhをゲート130cに出力する。このため、ゲート130cからは、制御方式切り替えフラグFlg1と初期極性判別フラグFlg3の一方がハイレベルの場合に、高周波電圧Vhが出力される。
図21は、本実施形態に係る回転子位置角速度演算部140の構成の一例を示す図である。この図21に示すように、回転子位置角速度演算部140は、第1の位置誤差推定部141aと、第2の位置誤差推定部141bとを備えており、これらの演算結果を切り替えて出力する。すなわち、第1の位置誤差推定部141aは、高周波電流を用いて回転子位相角誤差Δθestを演算し、第2の位置誤差推定部141bは、モータ電圧とモータモデル電圧との差異から回転子位相角誤差Δθestを演算する。いずれの演算結果を出力するかは、制御方式切り替えフラグFlg1に基づいて切り替える。さらに、回転子位相角誤差Δθestがゼロに収束するようにPI制御を行うPLL(phase-locked-loop)制御を行うことで、角速度推定値ωestを出力し、さらに角速度推定値ωestを積分することで回転子位置推定値θestを出力する。以上のことを実現するため、回転子位置角速度演算部140は、さらに、バンドパスフィルタ141cと、FFT解析部141dと、PLL回路141e、141fと、積分器141gと、バンドパスフィルタ141hと、FFT解析部141iと、初期極性判別部141jと、選択部141kを備えている。
すなわち、第1の位置誤差推定部141aには、バンドパスフィルタ141cとFFT解析部141dを通過したd軸電流値Idが入力される。また、第1の位置誤差推定部141aには、高周波電圧VHが入力される。そして、第1の位置誤差推定部141aはこれらの信号に基づいて、回転子位相角誤差Δθestを生成する。PLL回路141eは、この回転子位相角誤差Δθestがゼロに収束するように、PLL制御を行う。
一方、第2の位置誤差推定部141bには、d軸電流値Idと、q軸電流値Iqと、電圧指令値Vdref、Vqrefと、角速度推定値ωestとが入力される。そして、これらに基づいて、第2の位置誤差推定部141bは、回転子位相角誤差Δθestを生成する。PLL回路141fは、この回転子位相角誤差Δθestがゼロに収束するように、PLL制御を行う。
また、初期極性判別部141jには、バンドパスフィルタ141hとFFT解析部141iを通過したd軸電流値Idが入力される。さらに、初期極性判別部141jには、初期極性判別フラグFlg3も入力される。これらに基づいて、初期極性判別部141jは、磁極判別指標を算出し、第1の位置誤差推定部141aにおける磁石極性の推定が反転していると判別した場合には、補正値πを出力する。この補正値πは、積分器141gから出力された回転子位相角誤差Δθestに加算される。これにより、磁石極性を反転させることができる。
<モータパラメータを用いない位置推定方法>
高周波電圧を重畳することで回転子位置・角速度を推定する方式について説明する。突極式の同期モータ10において、回転子位相角誤差Δθがゼロである場合(実際のdq軸と推定したd
cq
c軸とが一致する場合)の電圧方程式は、上述した[数式1]で表現される。
また、推定回転位相角と実際の回転位相角が一致しない場合、dq軸電圧方程式は[数式12]に書き改められる。
さらに[数式12]でモータ回転数が充分に低く、抵抗による電圧降下が無視できる場合、[数式12]の電流高周波成分は[数式13]に書き改められる。
さらに、高周波電圧を推定d軸であるdc軸のみに印加するならば[数式13]は[数式14]に書き改められる。
[数式14]によると、qc軸の高調波電流は回転子位相角誤差Δθに依存して変化することが分かる。qc軸成分について着目して変形することで、回転子位置誤差は[数式15]となる。
この回転角度依存の特性を利用して、第1の位置誤差推定部141aにより、回転子位相角誤差Δθestを演算し、これが零に収束するようにPLL制御を行うことで角速度推定値ωestを算出し、さらに角速度推定値ωestを積分することで回転子位置推定値θestを算出することができる。
<モータパラメータを用いる位置推定方法>
充分に回転速度が高く、電流リプルや電機子巻線抵抗による電圧降下が無視できる場合、電圧方程式は[数式16]となる。
さらに回転子位相角誤差Δθの推定座標v
dc, v
qc軸に座標変換すると、[数式17]となる。
これらの差分を指標E
dc、E
qcと表現すると、[数式18]のようになる。
上述した非特許文献1の方式にのっとる場合、これら位置推定指標をある位相γに応じて重ね合わせ[数式19]の形とする。
[数式19]にて得た位置推定指標は図22となる。第2の位置誤差推定部141bにおいては、図22の位置誤差0degでは位置推定指標もゼロとなることを利用し、位置推定指標が零に収束するようにPLL制御を行うことで角速度推定値ωestを調整し、さらに角速度推定値ωestを積分することで回転子位置推定値θestを算出することができる。
しかしながら、磁気突極性のみで回転子位置を推定する第1の位置誤差推定部141aの推定法においては、磁極反転していることを把握できず、制御モードを切り替えたとしても図22の170deg付近に再収束してしまい、図23に示すように、本来出力し得るトルクを出力できない。さらに上述した第1実施形態のような電圧位相制御に切り替える場合、制御が破たんし、脱調現象を生じる。
このため、本実施形態においては、パラメータを用いない第1の位置誤差推定部141aにおける推定を行いつつ、電圧指令値(インバータ出力)V
drefとモータパラメータとを用いて磁極判別指標を演算し、この磁極判別指標に基づいて磁石極性を判別する。この磁極判別指標は[数式20]のように計算すればよい。
[数式20]を用いて演算した磁極判別指標は図24に示したようになり、磁石極性が反転していない位置誤差0degの場合、磁極判別指標はゼロ近傍となっている。これに対して磁石極性が反転している場合、磁極判別指標はゼロにならない。この特性を利用し、第1の位置誤差推定部141aによる推定を行いつつ、初期極性判別部141jによる磁極判別指標を演算し、その磁極判別指標の値がゼロ近傍とならない場合、磁石極性を反転する。すなわち、回転子位置推定値θestに180degを加算する。
なお、第1の位置誤差推定部141aにおける本方式は、高周波信号を重畳するセンサレス制御の間に実施する必要がある。例えば、低速センサレス制御と高速センサレス制御の切替えを行う周波数の半分の周波数から、本実施形態の極性判別指標を演算するような構成とすれば、制御を切り替える前に指標を演算することができる。
以上のように、本実施形態に係るモータシステム1によれば、上述した第1実施形態と同様に、同期モータ10の回転子12に設けられた磁石14の極性が推定と一致しているか否かを、極性判別指標に基づいて判別し、推定と一致していない場合には、磁石14の
磁石極性を正しくなるように補正することとした。このため、図25に示すように、同期モータ10が本来出力可能なトルクを発生することができるようになる。
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な装置および方法は、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明した装置および方法の形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。