JP7071223B2 - 液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドの製造方法、及び記録方法 - Google Patents

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Description

本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドに関し、具体的には記録媒体にインクを吐出することにより記録を行うインクジェット記録ヘッドに関する。
インクジェット記録ヘッドに代表される液体吐出ヘッドは、一般に、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を備えた基板と、液体を吐出する吐出口を形成する吐出口形成部材とを備えている。
この液体吐出ヘッドでは、吐出口形成部材の表面状態が液体の吐出性能に大きな影響を及ぼす。そのため、吐出口形成部材の表面に撥液層を形成することで、液体の付着を抑制し表面状態を一様に保つようにしている。このような撥液層としては、特許文献1に記載されているような、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物とカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物との縮合物を含む層が挙げられる。
ところで、近年、記録品位の更なる向上のため、吐出される液体に様々な材料が添加されるようになり、その結果、従来想定されていなかったメカニズムによる液体の撥液層への固着が生じる傾向にある。例えば、記録品位向上を目的として、高濃度の顔料を分散させたインクが使用されることがある。そして、このようなインクを使用して液体吐出ヘッドを長期間稼働させた場合には、撥液層の表面の静電荷の局所的な分布によりインク中の顔料が凝集し固着しやすい。
そこで、特許文献1には、撥液層にカーボンブラック等の導電性コンパウンドを添加することにより、撥液層を無帯電化し、インクの固着を抑制することが記載されている。
特表2007-518587号公報 特開2011-206628号公報
しかしながら、導電性コンパウンドを添加した撥液層では、長期間にわたってインクの固着を抑制することが困難であることが本発明者の検討によって判明した。撥液層の表面は、インクを取り除くため液体による洗浄操作やゴムブレードによる拭き取り操作が定期的になされているが、これらの操作によって導電性コンパウンドが脱落し、帯電防止性が低下するためと考えられる。
本発明の目的は上記課題を解決するものである。すなわち、液体吐出ヘッドの吐出口形成部材の表面に設けられた撥液層の帯電防止性を維持することで、撥液層への液体の固着が長期間にわたって抑制される液体吐出ヘッド及びその製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、液体吐出ヘッドの撥液層への液体の固着が抑制され、高い記録品位を長期間にわたって維持することができる記録方法を提供することである。
本発明によれば、液体を吐出する吐出口が形成された吐出口形成部材を有する液体吐出ヘッドであって、前記吐出口形成部材の表面に、(a)フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物とカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物との縮合物と、(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物と、を含む組成物の硬化層を有することを特徴とする液体吐出ヘッドが提供される。
また本発明によれば、電荷を有する分散剤若しくは樹脂で分散させた顔料を含む液体、又は、表面に電荷を有する基が直接若しくは原子団を介して結合している自己分散顔料を含む液体を、上記液体吐出ヘッドから吐出することにより記録媒体に画像を記録する記録方法が提供される。
さらにまた本発明によれば、液体を吐出する吐出口が形成された吐出口形成部材を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記吐出口形成部材となる層を形成する工程と、前記吐出口形成部材となる層上に、(a)フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物とカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物との縮合物と、(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物と、を含む組成物の層を形成する工程と、前記吐出口形成部材となる層と前記組成物の層に前記吐出口を形成する工程と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法が提供される。
本発明によれば、撥液層への液体の固着が長期間にわたって抑制される液体吐出ヘッド及びその製造方法が提供される。
また本発明によれば、液体吐出ヘッドの撥液層への液体の固着が抑制され、高い記録品位を長期間にわたって維持することができる記録方法が提供される。
本発明の一実施形態にかかる液体吐出ヘッドの例を示す模式的斜視図である。 本発明一実施形態にかかる液体吐出ヘッドの例を示す模式的断面図である。 本発明の一実施形態にかかる液体吐出ヘッドの製造方法の例を示す模式的断面図である。
本発明の実施形態にかかる液体吐出ヘッドは、液体を吐出する吐出口が形成された吐出口形成部材を有する液体吐出ヘッドであって、吐出口形成部材の表面に、(a)フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物とカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物との縮合物と、(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物と、を含む組成物の硬化層を有することを特徴とする。上記(a)成分は撥液成分であり、上記(b)成分は、エチレンオキシド鎖を有することにより撥液層に高い帯電防止性を付与する化合物である。(a)成分と(b)成分とはともにカチオン重合性基を有していることから、両者の硬化反応により、(b)成分である帯電防止性を有する化合物が(a)成分である縮合物中に組み込まれる。その結果、液体吐出ヘッドの表面への液体洗浄操作や拭き取り操作によっても帯電防止性を有する化合物が撥液層から脱落しづらく、帯電防止性の持続性が高い。
一方、特許文献2に記載されているように、帯電防止性を有する化合物として導電性コンパウンドを含む撥液層では、液体吐出ヘッドの表面への液体洗浄操作や拭き取り操作によって導電性コンパウンドが脱離しやすい。そのため、長期間の使用によって帯電防止性が徐々に低下していく。
また、帯電防止性を有する化合物としては、これらのほかに、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性活性剤、ノニオン界面活性剤等の一般的な界面活性剤も挙げられる。界面活性剤は、親水性の高さにより空気中の水分を吸着することで、帯電防止性を発現するものである。しかしながら、液体吐出ヘッドの表面への液体洗浄操作や拭き取り操作により水分が取り除かれることによりすぐに帯電防止性が失われるため、帯電防止性の持続性に乏しい。帯電防止性を維持するため界面活性剤をあらかじめ多量に添加することも考えられるが、撥液層に多量に添加した場合には、撥液性を阻害する恐れもある。
これに対し、本発明の実施形態にかかる液体吐出ヘッドの撥液層は、上記の通り、高い帯電防止性を有する化合物が撥液層中に強固に組み込まれるため、長期間持続して液体の固着を抑制することが可能である。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の例を具体的に説明する。
なお、以下において「液体吐出ヘッド」の応用例としてのインクジェット記録ヘッド(以下記録ヘッドとも呼称する)を例にとり本発明の実施形態を説明するが、本発明の実施形態はこれに限定されない。例えば、「液体吐出ヘッド」は、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。
そして、本明細書において「記録媒体」とは、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど、記録を行うことができる種々の媒体を指すものとする。また、本明細書内で用いられる「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味することとする。さらに、本明細書内で用いられる「インク」または「液体」とは、広く解釈されるべきものであり、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、記録媒体の加工、或いは記録媒体の処理に供される液体を言うものとする。ここで、記録媒体の処理としては、例えば、記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上などのことを言う。
<記録ヘッド>
図1は、本発明の一実施形態にかかる記録ヘッドの例を示す模式図である。
記録ヘッドは、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子2が所定のピッチで2列に並んで形成された基板1を有している。基板1には、液体の供給口3が、エネルギー発生素子2の2つの列の間に開口されている。基板1上には、吐出口形成部材4によって、各エネルギー発生素子2に対向する位置に設けられた吐出口5が形成されている。なお、吐出口5の位置は、上記のエネルギー発生素子2と対向する位置に限定されるものではない。また、吐出口形成部材4は、供給口3から各吐出口5に連通する個別の流路6を形成する流路形成部材としても機能している。基板1としては、流路6を構成する部材の一部として機能し、また、吐出口形成部材4の支持体として機能し得るものであれば、その形状、材質等に特に限定されることなく使用することができる。本実施形態においては、後述するように供給口3を異方性エッチングにより形成するため、シリコン基板を用いている。
この記録ヘッドは、吐出口5が開口する面が記録媒体の記録面に対面するように配置される。そして、供給口3を介して流路6内に充填されたインクに、エネルギー発生素子2によって発生するエネルギーが付与され、吐出口5からインク液滴を吐出させ、これを記録媒体に付着させることによって記録を行う。エネルギー発生素子2としては、熱によりエネルギーを発生する素子として電気熱変換素子(所謂ヒーター)等、力学的にエネルギーを発生する素子として、圧電素子等を用いることができる。
図2(a)は、上記記録ヘッドを、図1におけるA-A’を通り基板1に垂直な断面で見た断面図である。なお、記録ヘッドには、図2(b)に示すように、基板1と吐出口形成部材4との間に流路6の壁をなす流路形成部材8が設けられていてもよい。また、吐出口5の形状は、基板1側から吐出口5に向かうにつれて、基板1に平行な断面の面積が小さくなっていくような所謂テーパー形状であってもよい。
図2(a)及び(b)に示すように、吐出口形成部材4の表面には撥液層7が設けられる。撥液層7は、吐出口5から吐出されるインクが記録ヘッドの表面への付着を抑制するものである。撥液層7は、上記の通り、(a)フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物とカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物との縮合物(以下、単に「縮合物」とも呼称する)と、(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物と、を含む組成物の硬化層である。以下に、撥液層7となる組成物を構成する各成分について詳しく述べる。
(a)フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物とカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物との縮合物について
(a)成分は撥液成分である。(a)成分を含む組成物が硬化することにより得られる撥液層7は、加水分解性シラン化合物から生成するシロキサン骨格(無機骨格)と、カチオン重合性基を硬化させることによる骨格(有機骨格、エポキシ基を用いる場合はエーテル骨格)とを有する。これによっていわゆる有機-無機骨ハイブリッド硬化物材料となり、記録ヘッドの表面への拭き取り操作に対し高い耐久性を有する。また、(a)成分はカチオン重合性基を有しているため、フォトリソグラフィーによるパターン形成に対応する感光特性を有しており、パターニングにより精度の高い吐出口5を形成することが可能である。
フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物中のフッ素含有基としては、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基を含む基であることが好ましい。
パーフルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物としては、下記式(9)で表される化合物が好適に用いられる。
CF(CF-A-SiX3-a (9)
(式(9)中、Aは二価の有機基、Xは加水分解性置換基、Yは非加水分解性置換基である。nは0以上20以下の整数、aは1以上3以下の整数である。)
式(9)中、Xは好ましくはメトキシ基またはエトキシ基である。nは好ましくは3以上15以下の整数、より好ましくは5以上10以下の整数である。Aは、好ましくは、炭素数10以下の有機基であり、より好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、メチレンオキシ基、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基およびブチレンオキシ基等の、炭素数6以下の二価のアルキレン基またはアルキレンオキシ基である。Yとしてはエチレン基が好ましい。
式(9)で表される化合物としては、以下の化合物:
CF-C-SiX
-C-SiX
-C-SiX
13-C-SiX
17-C-SiX
1021-C-SiX
が含まれる。Xは、メトキシ基またはエトキシ基である。
これらの中でも、パーフルオロデシルエチルトリエトキシシラン(C17-C-Si(OC)またはトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン(C13-C-Si(OC)が好ましい。
パーフルオロポリエーテル基を有する加水分解性シラン化合物としては、下記式(10)~(13)で表される化合物のいずれかが好適に用いられる。
F-Rp-A-SiX3-a (10)
(式(10)中、Rpはパーフルオロポリエーテル基、Aは二価の有機基、Xは加水分解性置換基、Yは非加水分解性置換基である。aは1以上3以下の整数である。)
3-aSi-A-Rp-A-SiX3-a (11)
(式(11)中、Rは非加水分解性置換基であり、Yと同一であっても異なっていてもよい。Rp、A、X、Yおよびaは式(10)と同義である。)
Figure 0007071223000001

(式(12)中、Zは水素原子又はアルキル基、Qは2価の結合基である。mは1以上4以下の整数である。Rp、A、X、Yおよびaは式(10)と同義である。)
Figure 0007071223000002

(式(13)中、nは1又は2である。Qはn=1のとき2価の結合基、n=2のとき3価の結合基である。Rp、A、X、Yおよびaは式(10)と同義である。)
前記式(10)~(13)において、Rpは下記式(14)で表される基であることが好ましい。
Figure 0007071223000003

(式(14)中、o、p、q及びrはそれぞれ0以上30以下の整数であり、o、p、q及びrの少なくとも一つは2以上の整数である。)
式(14)中、o、p、q及びrはそれぞれ1以上30以下の整数であることが好ましい。また、o、p、q及びrの合計が3以上10以下の整数であることが撥液性および溶媒に対する溶解性の観点から好ましい。
式(10)~(13)中、Rp内の繰り返し単位数(各繰り返し単位の繰り返し単位数)は1以上30以下の整数であることが好ましい。パーフルオロポリエーテル基の構造にもよるが、繰り返し単位数は3以上20以下の整数であることがより好ましい。Rpの平均分子量(重量平均分子量)は、500以上5000以下であることが好ましく、500以上~2000以下であることがより好ましい。Rの平均分子量が500以上であることにより、十分な撥液性が得られる。また、Rの平均分子量が5000以下であることにより、十分な溶媒への溶解性が得られる。なお、パーフルオロポリエーテル基を有する化合物はその特性上、繰り返し単位数の異なるものの混合物である場合が多い。また、パーフルオロポリエーテル基の平均分子量とは、前記式(14)中の繰り返し単位で示される部分の総和の分子量の平均を示す。平均分子量はGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)により測定した値である。
Xとしては、例えばハロゲン原子、アルコキシ基、アミノ基、水素原子等が挙げられる。これらの中でも、加水分解反応により脱離した基がカチオン重合反応を阻害せず、反応性の制御がしやすい観点から、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1以上6以下のアルコキシ基が好ましい。YおよびRとしては、炭素数1以上20以下のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。Zのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1以上20以下のアルキル基が挙げられる。Q及びQとしては、炭素原子、窒素原子等が挙げられる。Aとしては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、メチレンオキシ基、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基等の炭素数1以上12以下のアルキレン基またはアルキレンオキシ基が挙げられる。またこれらの基は置換基を有してもよい。
パーフルオロポリエーテル基を有する加水分解性シラン化合物の好ましい具体例としては、下記式(15)~(19)で表される化合物が挙げられる。
Figure 0007071223000004

(式(15)中、sは1以上30以下の整数、mは1以上4以下の整数である。)
F-(CFCFCFO)-CFCF-CHO(CH-Si(OCH (16)
(式(16)中、tは1以上30以下の整数である。)
(HCO)Si-CHCHCH-OCHCF-(OCFCF-(OCF-OCFCHO-CHCHCH-Si(OCH (17)
(式(17)中、eおよびfはそれぞれ1以上30以下の整数である。)
Figure 0007071223000005

(式(18)中、gは1以上30以下の整数である。)
Figure 0007071223000006

(式(19)中、Rはメチル基または水素原子、hは1以上30以下の整数である。)
式(15)~(19)中、繰り返し単位数であるs、t、e、f、g及びhはそれぞれ3以上30以下であることが好ましく、5以上20以下であることがより好ましい。3以上であることにより撥液性が向上し、30以下であることにより溶媒に対する溶解性が向上する。特にアルコール等の非フッ素系溶媒中で縮合反応を行う場合には、s、t、e、f、g及びhは3以上10以下であることが好ましい。
市販のパーフルオロポリエーテル基を有する加水分解性シラン化合物としては、ダイキン工業(株)製「オプツールDSX」、「オプツールAES」、信越化学工業(株)製「KY-108」、「KY-164」、住友スリーエム製「Novec1720」、ソルベイソレクシス製「フルオロリンクS10」(いずれも、商品名)が挙げられる。
これらの中でも、パーフルオロポリエーテル基を有する加水分解性シラン化合物としては上記式(19)で表される化合物が好ましい。
フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物としては、上記で挙げた加水分解性シラン化合物一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物としては、カチオン重合性基としてエポキシ基またはオキセタン基を有する加水分解性シラン化合物であることが好ましい。カチオン重合性基としては、入手の容易さおよび反応制御の観点から、エポキシ基であることがより好ましい。
カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物としては、下記式(20)で表される化合物が好適に用いられる。
-SiX3-b (20)
(式(20)中、Rはカチオン重合性基を有する非加水分解性置換基、Xは加水分解性置換基、Yは非加水分解性置換基、bは1以上3以下の整数である。)
さらに、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物とカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物に加え、撥液層7の物理的性質を制御するために、アルキル置換、アリール置換または非置換加水分解性シラン化合物も縮合させると良い。
これらのうち、アルキル置換、アリール置換加水分解性シラン化合物としては、下記式(21)で表される化合物が好適に用いられる。
-SiX(4-c) (21)
(式(21)中、Rは、置換または非置換アルキルおよび置換および非置換アリールからなる群より選ばれる非加水分解性置換基、Xは加水分解性置換基、cは0以上3以下の整数である。)
式(21)で表される化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランが挙げられる。
縮合生成物の組成、すなわちフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物およびアルキル置換、アリール置換または非置換加水分解性シラン化合物の組み合わせ比は、使用法によって適切に定められる。フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物の全加水分解性シラン化合物に対する添加量については、0.5モル%以上20モル%以下、特には1モル%以上10モル%以下であることが好ましい。添加量が0.5モル%以上であると高い撥液性が得られ、添加量が20モル%以下であると均一な撥液層となる層12を得ることができる。撥液層となる層12の表面が十分に均一であると、吐出口5をパターニングする際の光が層12の表面で散乱せず、パターニング精度が良好である。
さらに、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物と、アルキル置換、アリール置換または非置換加水分解性シラン化合物との組み合わせ比は、10:1~1:10であることが好ましい。
縮合物は、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物、および、必要に応じて、アルキル置換、アリール置換または非置換加水分解性シラン化合物の加水分解反応を水の存在下で実行することによって調製される。
生成物の縮合の度合いは、縮合反応の温度、pH等によって適切に制御できる。さらに、金属アルコキシドを加水分解反応の触媒として用い、加水分解反応の結果として縮合の度合いを制御することも可能である。金属アルコキシドとしては、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドおよびその錯体(アセチルアセトン錯体等)が好ましい。
(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物について
(b)成分は撥液層7に帯電防止性を付与する化合物である。(b)成分は、エチレンオキシド鎖を有するため導電性が高く、少量の添加で帯電防止性を発揮することができる。また、(b)成分はカチオン重合性基を有していることから、上記(a)成分である縮合物中のカチオン重合性基と反応して縮合物中に組み込まれる。その結果、液体吐出ヘッドの表面への液体洗浄操作や拭き取り操作によって帯電防止性を有する化合物が撥液層7から脱落しづらく、帯電防止性の持続性が高い。さらにまた(b)成分は、撥液成分としての(a)フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物とカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物との縮合物と親和性が高く、液体吐出ヘッドの表面に均一に分散される。その結果、導電性コンパウンドの場合と異なり、撥液成分が局所的に存在しない箇所が形成されにくく、(a)成分による撥液性の発現を阻害しにくい。
(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物は、カチオン重合性基を末端に有することが好ましく、帯電防止性が良好に発現することから片末端に有することが好ましい。
また、(b)成分中のエチレンオキシド鎖の長さ、すなわち、構成するエチレンオキシドユニットの数は2以上10以下であることが好ましい。エチレンオキシドユニットの数が2以上であると帯電防止性が特に良好である。また、エチレンオキシドユニットの数が10以下であると、(a)成分の撥液性を阻害しにくいため、得られる撥液層7の撥液性が良好である。
カチオン重合性基としては、エポキシ基またはオキセタン基であることが好ましく、反応性の観点から、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物中のカチオン重合性基と同じであることが好ましい。
カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物としては、下記式(1)~(8)で表される化合物が好適に用いられる。
Figure 0007071223000007
Figure 0007071223000008
Figure 0007071223000009
Figure 0007071223000010
Figure 0007071223000011
Figure 0007071223000012
Figure 0007071223000013
Figure 0007071223000014
(式(1)~(8)中、mは0以上の整数、nは2以上10以下の整数、lおよびpは1以上の整数、RおよびRは水素原子又はアルキル基、Rはアルキレン基である。)
式(1)~(8)中、RおよびRとしては、水素原子又はメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1以上4以下のアルキル基が挙げられる。Rとしては水素原子が好ましい。Rとしてはメチレン基、エチレン基等の炭素数1以上4以下のアルキレン基が挙げられる。Rとしてはメチレン基が好ましい。mとしては0以上2以下の整数、nとしては2以上6以下の整数、lとしては1以上3以下の整数、pとしては1以上3以下の整数が好ましい。
組成物中の(a)成分と(b)成分との混合比については、用いる化合物の種類に応じて適宜選択することができる。組成物中の(b)成分の含有量は、(a)成分に対して0.05質量%以上、特には0.5質量%以上であることが好ましく、5質量%以下、特には3質量%以下であることが好ましい。組成物中の(b)成分の含有量が(a)成分に対して0.05質量%以上であると、帯電防止性が良好である。また、組成物中の(b)成分の含有量が(a)成分に対して5質量%以下であると撥液性が良好である。また、組成物中の(b)成分のモル数は、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物のモル数の等倍以下、特には50%以下であることが好ましく、10%以上であることが好ましい。(b)成分のモル数がフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物のモル数の等倍以下であると、フッ素成分による撥液性の発現を阻害しにくいため、得られる撥液層7の撥液性が良好である。また、(b)成分のモル数がフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物のモル数の10%以上であると、帯電防止性が良好である。
<記録ヘッドの製造方法>
次いで、図3を参照して本発明の実施形態にかかる記録ヘッドの製造方法の例を説明する。
図3は、本実施形態にかかる記録ヘッドの製造方法の例を、工程に従って示す模式的断面図であり、断面の位置は図2と同様である。
まず、図3(a)に示すように、エネルギー発生素子2が表面に設けられた基板1を準備する。エネルギー発生素子2には、素子を動作させるための制御信号入力用電極(不図示)が接続されている。また、エネルギー発生素子2の耐用性の向上を目的とした保護層(不図示)や、吐出口形成部材4(流路形成部材8)と基板1との密着性の向上を目的とした密着向上層(不図示)等の各種機能層が設けられる場合がある。
次いで、図3(b)に示すように、エネルギー発生素子2を含む基板1上に、感光性樹脂層9を形成する。感光性樹脂層9はいわゆるポジ型の感光性樹脂層である。感光性樹脂層9の形成には、スピンコートやスリットコート等の汎用的なソルベントコート法を適用できる。
次いで、図3(c)に示すように、フォトリソグラフィー工程により感光性樹脂層9をパターニングして、インクの流路6の型となるパターン10を形成する。パターン10は、一層のポジ型感光性樹脂から構成されるだけではなく、多層構造や異種による二層以上の積層構造で形成されていても構わない。
このようにして流路パターン10を形成した基板1上に、図3(d)に示すように、吐出口形成部材4となる感光性樹脂層11を形成する。感光性樹脂層11はいわゆるネガ型の感光性樹脂層である。感光性樹脂層11は、感光性樹脂を含む組成物を、スピンコート法、ロールコート法、スリットコート法等の方法で塗布することにより形成される。該組成物としては、光カチオン重合開始剤とカチオン重合性基を有する感光性樹脂とを含むことが好ましい。カチオン重合性基を有する感光性樹脂は、感光性樹脂層11と撥液層となる層12(後述する)とを一括で硬化させることで、撥液層となる層12中の(a)成分である縮合物中のカチオン重合性基と反応し結合する。例えばカチオン重合性基がエポキシ基である場合はエーテル結合が形成される。その結果、感光性樹脂層11と撥液層となる層12とが強固に結合し、得られる撥液層7は吐出口形成部材4から剥離しにくく、撥液層7が高い耐久性を有するようになる。このとき、(b)成分であるエチレンオキシド鎖を有する化合物中のカチオン重合性基も感光性樹脂層11中のカチオン重合性基と反応し結合する。そのため、エチレンオキシド鎖を有する化合物が下層と強固に結合し、帯電防止性を長期間維持することができる。
感光性樹脂としては、高い機械的強度、下地との密着性、耐インク性と、吐出口5の微細なパターンをパターニングするための解像性等の様々な性能を満足することから、エポキシ樹脂を好適に用いることができる。
エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物のうち分子量がおよそ900以上のもの、含ブロモビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物を用いることができる。またフェノールノボラックあるいはo-クレゾールノボラックとエピクロルヒドリンとの反応物を用いることができる。また特開昭60-161973号明細書、特開昭63-221121号明細書、特開昭64-9216号明細書、特開平2-140219号明細書に記載のオキシシクロヘキサン骨格を有する多官能エポキシ樹脂等があげられる。しかし、これらの化合物に限定されるものではない。また、エポキシ樹脂は、好ましくはエポキシ当量が2000以下、さらに好ましくはエポキシ当量が1000以下の化合物が好適に用いられる。これは、エポキシ当量が2000を越えると、硬化反応の際に架橋密度が低下し、密着性、耐インク性に問題が生じる場合があるからである。
エポキシ樹脂を硬化させるための光カチオン重合開始剤としては、光照射により酸を発生する化合物を用いることができる。そのような化合物としては、特に制限はないが、例えば、芳香族スルフォニウム塩、芳香族ヨードニウム塩を用いることができる。芳香族スルフォニウム塩の例としては、みどり化学(株)より市販されている「TPS-102、103、105」、「MDS-103、105、205、305」、「DTS-102、103」(いずれも商品名)を例示することができる。また、(株)アデカより市販されている「SP-170、172」(商品名)を挙げることができる。また芳香族ヨードニウム塩としては、みどり化学(株)より市販されている「DPI-105」、「MPI-103、105」、「BBI-101、102、103、105」(いずれも商品名)を、好適に用いることができる。また、光カチオン重合開始剤の添加量は、目標とする感度となるよう任意の添加量とすることができる。光カチオン重合開始剤の添加量は、エポキシ樹脂に対して0.5~5wt%の範囲が好ましい。また、必要に応じて波長増感剤を添加してもよく、該波長増感剤としては、例えば(株)アデカより市販されている「SP-100」(商品名)が挙げられる。
さらに上記組成物に対して必要に応じて添加剤を適宜添加することが可能である。例えば、エポキシ樹脂の弾性率を下げる目的で可撓性付与剤を添加したり、あるいは下地との更なる密着力を得るためにシランカップリング剤を添加したりすることが挙げられる。
次いで、感光性樹脂層11の上に、上記(a)成分と(b)成分とを含む組成物を、スピンコート法、ロールコート法、スリットコート法等の方法で塗布して撥液層となる層12を形成する。
次いで、マスク(不図示)を介してパターン露光を行い、現像処理を施して図3(e)に示すように感光性樹脂層11と撥液層となる層12に吐出口5を形成する。感光性樹脂層11と撥液層となる層12とを一括で露光及び現像することにより、両層中のカチオン重合性基が反応し、耐久性が高く帯電防止性が高い撥液層7を得ることができる。なお、この際に流路パターン10を同時に溶解除去することも可能である。このときの露光にはi線が好適に用いられる。i線は365nmを中心波長とし、半値幅が5nm程度のものが汎用されている。照射装置としては市販されているi線ステッパーを採用することができる。
次いで、図3(f)に示すように、基板1を貫通するインク供給口3を形成する。インク供給口3の形成は、エッチング液耐性を有する樹脂組成物をエッチングマスクとして用い、異方性エッチングにより行うことができる。
次いで、図3(g)に示すように、パターン10を除去することでインクの流路6を形成する。さらに、必要に応じて加熱処理を施し、インク供給のための部材(不図示)の接合、エネルギー発生素子2を駆動するための電気的接合(不図示)を行って、記録ヘッドを完成させる。
<記録方法>
本発明の実施形態にかかる記録方法は、上記記録ヘッドを用い、電荷を有する分散剤若しくは樹脂で分散させた顔料を含む液体、又は、表面に電荷を有する基が直接若しくは原子団を介して結合している自己分散顔料を含む液体を、記録ヘッドから吐出することにより記録媒体に画像を記録するものである。
上記記録ヘッドは、種々の液体を吐出する際に用いることができるが、特に顔料を含むインク(液体)を用いて記録媒体に画像を形成する場合に、好適に用いることができる。顔料を含むインクは、顔料を液体中に安定的に存在させるために静電反発を利用することが多い。例えば、顔料を、電荷を有する分散剤又は樹脂で分散させたインクや、表面に電荷を有する基が直接若しくは原子団を介して結合している自己分散顔料を含むインクなどである。これらの顔料インクは、電荷を帯びているため、撥液層7が形成された吐出面の正電荷の局所的な分布により、撥液層7へ固着しやすい。本発明の実施形態にかかる上記記録ヘッドを用いれば、これらの電荷を有する顔料インクを使用した場合であっても、撥液層7が長期間にわたって高い帯電防止性を有するため、撥液層7へのインクの固着を抑制することができる。
以下に実施例を示し、本発明について、さらに説明する。
<記録ヘッドの作製>
(実施例1)
図3に示す工程に従って、インクジェットヘッドを作製した。
まず、図3(a)に示すように、エネルギー発生素子2としての電気熱変換素子(材質HfBからなるヒーター)と、インクの流路6を形成する部位にSiNとTaの積層膜(不図示)を有するシリコンの基板1を準備した。
次いで、図3(b)に示すように、基板1上に、ポジ型感光性樹脂(東京応化工業(株)製ODUR)をスピンコートし、120℃で3分間のベークを行い、感光性樹脂層9を形成した。基板1上に形成された感光性樹脂層9の膜厚は、14μmであった。
引き続き、感光性樹脂層9のパターニングを行った。露光装置として、ウシオ電機製Deep-UV露光装置UX-3000を用い、30000mJ/cmの露光量にてパターン露光を行った。その後、メチルイソブチルケトンを用いて現像し、イソプロピルアルコールにてリンス処理を行い、膜厚(図中a)が14μmのパターン10を形成した(図3(c))。
次いで、図3(d)に示すように、吐出口形成部材4を形成するためのネガ型感光性樹脂組成物をスピンコートして、感光性樹脂層11を形成した。ネガ型感光性樹脂組成物としては、下記表1に記載の組成のものを用いた。表1中の配合量の単位は質量部である。感光性樹脂層11の膜厚は、基板1上(図中b)で20μm、パターン10上(図中c)で10μmであった。
Figure 0007071223000015
次いで、スリットコートにより撥液層となる層12を感光性樹脂層11上に形成した。層12中の(a)成分である縮合物としては後述する縮合物を、組成物中の(b)成分であるカチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物としては、下記式(22)で表される化合物0.24g(0.0024mol)を用いた。
Figure 0007071223000016
縮合物の合成は以下のようにして行った。γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン27.84g(0.1000mol)、メチルトリエトキシシラン17.83g(0.1000mol)、パーフルオロデシルエチルトリエトキシシラン3.35g(0.0047mol)、水16.58g、およびエタノール30.05gを室温で5分間攪拌し、次に48時間環流させ、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物とカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物との縮合物を得た。ここで、加水分解性シラン化合物の加水分解性基が全て加水分解・縮合したとして計算した理論上の固形分濃度は28%であった。なお、29Si-NMRを測定し、縮合物の縮合度を計算したところ、80%であった。
次に、図3(e)に示すように、吐出口5を形成するために、感光性樹脂層11および層12のパターニングを行った。露光装置として、キヤノン(株)製i線ステッパーFPA-3000i5+を用い、5000J/mの露光量にてパターン露光した。その後、メチルイソブチルケトンにて現像、イソプロピルアルコールにてリンス処理を行った後、100℃で60分間の熱処理を行った。以上のようにして吐出口5を形成した。なお、本実施例では、露光時の吐出口パターンマスクとして、吐出口パターンに対応する部分が円形状のものを使用した。また、吐出口5形成のための露光、現像後でも、パターン10は現像されず、形状を維持した状態で残存していた。
次に、基板1の裏面にエッチングマスク(不図示)を形成し、図3(f)に示すように、異方性エッチングによってインクの供給口3を形成した。なお、この際、エッチング液から吐出口形成面を保護する目的で、保護膜(東京応化工業(株)製OBC)を感光性樹脂層11上にあらかじめ塗布した。
次いで、保護膜をキシレンにて溶解除去した後、ウシオ電機(株)製Deep-UV露光装置UX-3000を用い、ネガ型レジスト越しに250000mJ/cmの露光量で全面露光を行い、パターン10を可溶化した。引き続き乳酸メチル中に超音波を付与しつつ浸漬し、パターン10を溶解除去した(図3(g))。
以上のようにして記録ヘッドを作製した。
(実施例2)
(b)成分として下記式(23)で表される化合物0.27g(0.0024mol)を用いた以外は全て実施例1と同様にして、記録ヘッドを作製した。
Figure 0007071223000017
(実施例3)
(b)成分として下記式(24)で表される化合物0.48g(0.0024mol)を用いた以外は全て実施例1と同様にして、記録ヘッドを作製した。
Figure 0007071223000018
(実施例4)
(b)成分として下記式(25)で表される化合物0.55g(0.0024mol)を用いた以外は全て実施例1と同様にして、記録ヘッドを作製した。
Figure 0007071223000019
(実施例5)
(b)成分として下記式(26)で表される化合物0.64g(0.0024mol)を用いた以外は全て実施例1と同様にして、記録ヘッドを作製した。
Figure 0007071223000020
(実施例6)
(b)成分である式(22)で表される化合物の添加量を0.54g(0.0048mol)とした以外は全て実施例1と同様にして、記録ヘッドを作製した。
(実施例7)
(b)成分である式(22)で表される化合物の添加量を0.027g(0.00024mol)とした以外は全て実施例1と同様にして、記録ヘッドを作製した。
(比較例1)
(b)成分のかわりにカーボンブラック5wt%((a)成分に対して)を用いた以外は全て実施例1と同様にして、インクジェット記録ヘッドを作製した。
(比較例2)
(b)成分のかわりに下記式(27)で表される化合物0.25g(0.0024mol)を用いた以外は全て実施例1と同様にして、記録ヘッドを作製した。
Figure 0007071223000021
<評価>
以上のように作製した記録ヘッドについて以下の特性を評価した。各特性とその評価方法を以下に示し、その結果を下記表2に示す。
(純水接触角)
微小接触角計(製品名:DropMeasure、(株)マイクロジェット製)を用いて、純水に対する動的後退接触角θrの測定を行なった。測定は、吐出口形成部材4の表面に一度顔料インクを拭き付けた後に水によって洗浄した後と、表面に顔料インクを吹き付けながら水素化ニトリルゴムのブレードを用いて5000回ワイピング操作を行なった後とに実施した。表2中、それぞれの測定結果を「初期」と「耐久後」として示している。判定基準は以下の通りである。
純水接触角判定基準
A:95°以上
B:80°以上95°未満
C:70°以上80°未満
D:70°以下
(固着)
光学顕微鏡を用いて吐出口形成部材4の表面を観察し、インクの固着の有無について確認した。固着の評価は上記の純水接触角の測定と同様に、初期と耐久後にそれぞれ行った。判定基準は以下の通りである。
固着判定基準
A:インクの固着無し
B:吐出口周囲のインク固着が、吐出口数の10%未満で見られる。
C:吐出口周囲のインク固着が、吐出口数の10%以上で見られる。
Figure 0007071223000022
比較例1に示す通り、帯電防止性を有する化合物としてカーボンブラックを用いた場合、耐久後には、ノズル表面の撥液層へのインクの固着が見られた。カーボンブラックが撥液層から脱落したためと推測される。また、吐出口形成部材の表面は、初期から撥液性が十分に得られなかった。これは、多量のカーボンブラックを添加することによって、(a)成分による撥液性の発現が阻害されためと推測される。なお、比較例1において、初期と比べて耐久後に純水接触角が高くなっているのは、カーボンブラックが撥液層から脱落したことによって、撥液層本来の性能が得られたためと考えられる。
比較例2では、初期の純水接触角及び固着評価は良好であったが、耐久後にはインクの固着が見られた。これは、ポリエチレンオキシド系化合物がカチオン重合性基を有しておらず、ポリエチレンオキシド系化合物が撥液層から脱落したためと推測される。なお、比較例1と異なり、撥液層の初期での純水接触角が高いのは、ポリエチレンオキシド系化合物はそもそも帯電防止性が高いために、撥液層への添加量が少量で済み、撥液性の発現を阻害しにくいためである。
これら比較例に対して、実施例1~5では、初期および耐久後のいずれにおいても、撥液層の純水接触角が高く、撥液層へのインクの固着が見られなかった。
なお、実施例6では、実施例1と比較してポリエチレンオキシド系化合物の添加量を増やしたことで、純水接触角がやや低下することがわかる。さらに、実施例7では、実施例1と比較してポリエチレンオキシド系化合物の添加量を減らしたことで、帯電防止性がやや劣ることがわかる。しかし、いずれにおいても純水接触角および帯電防止性は比較的高い水準にあり、実用上問題ないレベルである。
以上のように、本実施形態によれば、液体吐出ヘッドの吐出口形成部材の表面に設けられた撥液層の帯電防止性を維持することで、撥液層への液体の固着が長期間にわたって抑制される。
4 吐出口形成部材
5 吐出口
7 撥液層

Claims (15)

  1. 液体を吐出する吐出口が形成された吐出口形成部材を有する液体吐出ヘッドであって、
    前記吐出口形成部材の表面に、(a)フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物とカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物との縮合物と、(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物と、を含む組成物の硬化層を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
  2. 前記(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物がカチオン重合性基を片末端に有する請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  3. 前記(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物が下記式(1)~(8)で表される化合物のいずれかである請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
    Figure 0007071223000023

    Figure 0007071223000024

    Figure 0007071223000025

    Figure 0007071223000026

    Figure 0007071223000027

    Figure 0007071223000028

    Figure 0007071223000029

    Figure 0007071223000030

    (式(1)~(8)中、mは0以上の整数、nは2以上10以下の整数、lおよびpは1以上の整数、RおよびRは水素原子又はアルキル基、Rはアルキレン基である。)
  4. 前記吐出口形成部材が、光カチオン重合開始剤とカチオン重合性基を有する感光性樹脂とを含む組成物の硬化物である請求項1から3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
  5. 前記フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物のフッ素含有基は、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基である請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
  6. 前記組成物中の、前記(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物のモル数は、前記フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物のモル数の等倍以下である請求項1から5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
  7. 前記組成物中の、前記(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物の含有量は、前記(a)フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物とカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物との縮合物に対して0.05質量%以上、3質量%以下である請求項1から6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
  8. 請求項1から7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを用い、電荷を有する分散剤若しくは樹脂で分散させた顔料を含む液体、又は、表面に電荷を有する基が直接若しくは原子団を介して結合している自己分散顔料を含む液体を、前記液体吐出ヘッドから吐出することにより記録媒体に画像を記録する記録方法。
  9. 液体を吐出する吐出口が形成された吐出口形成部材を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
    前記吐出口形成部材となる層を形成する工程と、
    前記吐出口形成部材となる層上に、(a)フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物とカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物との縮合物と、(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物と、を含む組成物の層を形成する工程と、
    前記吐出口形成部材となる層と前記組成物の層に前記吐出口を形成する工程と、
    を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
  10. 前記(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物がカチオン重合性基を片末端に有する請求項9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
  11. 前記(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物が下記式(1)~(8)で表される化合物のいずれかである請求項9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
    Figure 0007071223000031

    Figure 0007071223000032

    Figure 0007071223000033

    Figure 0007071223000034

    Figure 0007071223000035

    Figure 0007071223000036

    Figure 0007071223000037

    Figure 0007071223000038

    (式(1)~(8)中、mは0以上の整数、nは2以上10以下の整数、lおよびpは1以上の整数、RおよびRは水素原子又はアルキル基、Rはアルキレン基である。)
  12. 前記フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物のフッ素含有基は、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基である請求項9から11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
  13. 前記組成物中の、前記(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物のモル数は、前記フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物のモル数の等倍以下である請求項9から12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
  14. 前記組成物中の、前記(b)カチオン重合性基とエチレンオキシド鎖を有する化合物の含有量は、前記(a)フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物とカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物との縮合物に対して0.05質量%以上、3質量%以下である請求項9から13のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
  15. 前記吐出口形成部材となる層が、光カチオン重合開始剤とカチオン重合性基を有する感光性樹脂とを含み、前記吐出口を形成する工程において、前記吐出口形成部材となる層と前記組成物の層とを一括で露光及び現像することにより前記吐出口を形成する請求項9から14のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
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