本発明により得られる液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、更には各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この液体吐出ヘッド装置を用いることによって、紙、糸、繊維、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。尚、本発明において「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味する。さらに、「液体」とは、広く解釈されるべきものであり、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、記録媒体の加工、或いはインク、または記録媒体の処理に供される液体を言うものとする。ここで、インクまたは記録媒体の処理としては、例えば、記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上などのことを言う。
また、以下の説明では、本発明の主な適用例としてインクジェット記録ヘッドを挙げて説明するが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。また、液体吐出ヘッドとしては、インクジェット記録ヘッドの他、バイオッチップ作製や電子回路印刷用途の液体吐出ヘッドの製造方法にも適用できる。液体吐出ヘッドとしては、他にも例えばカラーフィルターの製造用途等も挙げられる。
以下、図面を参照して、本実施形態を説明しつつ、本発明について詳細に説明する。但し、後述する実施形態は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明をこの技術分野における通常の知識を有する者に十分に説明するために提供されるものである。
図1(A)は、本発明の実施形態に係わるインクジェット記録ヘッドを示す模式的斜視図である。また、図1(B)は、図1(A)における点線A−Bを通る基板に垂直な面によるインクジェット記録ヘッドの模式的断面図である。
本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子1が所定のピッチで形成された基板2を有している。基板2にはインクを供給する供給口3が、エネルギー発生素子1の2つの列の間に開口するように形成されている。
基板2の上には、液流路5及び吐出口7を形成する流路形成部材が設けられている。該流路形成部材は、液流路の上壁面に、又は該上壁面よりもオリフィス面側(図において上側)であって、オリフィス面、すなわち吐出口7の上部開口(表面側開口とも称す)8よりも基板側(図において下側)に、内部撥液層10を有する。内部撥液層10は、フッ素成分を含み、純水に対する接触角が70°以上である面(以下、撥水面とも称す)を有する層である。内部撥液層10は、吐出口7が開口するオリフィス面(吐出口面とも称す)には配置されておらず、流路形成部材内に配置されている。また、内部撥液層は、基板面と平行な方向に延展している。なお、本明細書において、撥水面は、流路形成部材の内部に配置されて外部に露出していなくてもよい。
フッ素成分は、フッ素を含む成分であれば特に制限されるものではないが、フッ素含有基であることが好ましい。フッ素含有基は、特に制限されるものではないが、パーフルオロポリエーテル基及びパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
流路形成部材は、吐出口形成部材及び流路側壁形成部材を含み、該吐出口形成部材及び流路側壁形成部材は同一材料で一体的に形成されていてもよい。
図1において、流路形成部材は、吐出口形成部材(オリフィスプレートとも称す)30及び流路側壁形成部材4から構成されている。基板2上には、流路側壁形成部材4によって液流路5の側壁が形成されている。また、液流路5の上壁面6及び吐出口7がオリフィスプレート30で形成されている。図1(B)において、吐出口形成部材は、ノズル形成部材9と、内部撥液層10と、表面撥液層11とから構成されており、液流路の上壁面6に内部撥液層10が配置されている。該内部撥液層10により、液流路5に配置されるインク等の液体がオリフィスプレート中に浸潤することを抑制することができる。その結果、インクの浸潤によるオリフィスプレートの変形を抑制することができる。そのため、本実施形態により、高精度、高品位、高耐久性を有する液体吐出ヘッドを提供することができる。なお、表面撥液層はフッ素成分を含み得るが、本発明における内部撥液層には該当しない。内部撥液層はオリフィス面には露出しない。
また、上述のように、流路形成部材は、液流路の上壁面よりもオリフィス面側であって吐出口7の上部開口8よりも基板側に内部撥液層10を有する構成としてもよい。すなわち、内部撥液層10は、ノズル形成部材の内部に配置されていてもよい。この場合、内部撥液層は、ノズル形成部材の上面から1μm以上25μm以下の深さ位置の範囲内に配置されていることが好ましい。より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。
内部撥液層10の純水に対する接触角は70°以上であり、80°以上であることが好ましく、90°以上であることがより好ましく、95°以上であることがさらに好ましい。内部撥液層10の純水に対する接触角が70°以上である場合、オリフィスプレートへのインクの浸透を抑制することができ、その結果オリフィスプレートの剛性を有効に保つことができる。
本実施形態において、オリフィスプレート30は、図1に示すように、ノズル形成部材9及び内部撥液層10に加え、表面撥液層11を含んでもよい。すなわち、必要に応じて、オリフィス面に表面撥液層11を設けてもよい。
なお、詳細は後述するが、本実施形態において、ノズル形成部材9の材料である組成物中にフッ素含有基を有する化合物を含有させ、熱処理(ベーク処理)することにより、前記フッ素含有基を表面側に偏析させることで、内部撥液層10を形成させることも可能である。
また、本実施形態において、ノズル形成部材を複数層で構成し、これらの層の間に内部撥液層を配置する構成とすることもできる。この場合、内部撥液層は、インク等の液体がオリフィス面を含むオリフィスプレートの上部に浸潤することを防ぐバリア層として機能する。本発明では、インク等の液体が、水系であるときに効果をより発揮しやすい。水系の液体とは、水を50質量%以上含有する液体のことをいう。
インクジェット記録ヘッドは、供給口3から液流路5にインクが供給される。液流路5に供給されたインクにエネルギー発生素子1によって発生する圧力が加えられ、吐出口7からインク滴が吐出される。
次に、本実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造方法について以下に説明する。
(第一の実施形態)
図2は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す断面工程図であり、図1(B)と同じ位置に相当する模式的断面図である。
本実施形態で製造される液体吐出ヘッドにおいて、流路形成部材は、液流路5の上壁面6に、フッ素成分を含有し、純水に対する接触角が70°以上である面を有する内部撥液層を有する。また、流路形成部材は、吐出口7を形成する吐出口形成部材と、液流路の側壁を形成する流路側壁形成部材4と、を含んで構成され、吐出口形成部材は、内部撥液層10及びノズル形成部材9を含む。
本実施形態における内部撥液層10の厚さは、0.1〜10.0μmであることが好ましく、1.0〜5.0μmであることがより好ましい。
まず、図2(A)に示すように、インクを吐出するエネルギーを発生するエネルギー発生素子1が第一の面上に形成された基板2の上に、流路側壁形成部材の材料である第一の感光性樹脂組成物12を塗布する。
第一の感光性樹脂組成物12は、その硬化物の特性として、機械的強度、インク耐性、下地との密着性に優れることが要求される。また、第一の感光性樹脂組成物12は、フォトリソグラフィー材料としての解像性を考慮して選択されることが望ましい。これらの観点から、第一の感光性樹脂組成物12としては、カチオン重合型のエポキシ樹脂組成物を好適に用いることができる。該カチオン重合型のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ基を2個以上有するカチオン重合性樹脂と、光を吸収して酸を発生する光酸発生剤と、を含む混合物であることが好ましい。特に、ビスフェノール型のエポキシ樹脂、フェノールノボラック型のエポキシ樹脂、クレゾールノボラック型のエポキシ樹脂、オキシシクロヘキサン骨格を有する多官能エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂をベースとする光カチオン重合型のエポキシ樹脂組成物が好適に用いられる。エポキシ基を2個以上有するカチオン重合性樹脂(エポキシ樹脂)を用いることで、硬化物は3次元架橋することが可能となり、所望の特性を得るのに適している。市販のエポキシ樹脂としては、ダイセル化学工業製「セロキサイド2021」、「GT−300シリーズ」、「GT−400シリーズ」、「EHPE3150」(商品名)、三菱化学社製「157S70」(商品名)、大日本インキ化学工業株式会社製「エピクロンN−865」(商品名)等が挙げられる。上記エポキシ樹脂組成物に添加される光重合開始剤としては、スルホン酸化合物、ジアゾメタン化合物、スルホニウム塩化合物、ヨードニウム塩化合物、ジスルホン系化合物などが好ましい。市販品ではADEKA製「アデカオプトマーSP−170」、「アデカオプトマーSP−172」、「SP−150」(商品名)、みどり化学製「BBI−103」、「BBI−102」(商品名)、三和ケミカル製「IBPF」、「IBCF」、「TS−01」、「TS−91」(商品名)等が挙げられる。さらに上記エポキシ樹脂組成物には、フォトリソグラフィー性能や密着性能等の向上を目的に、アミン類などの塩基性物質、アントラセン誘導体などの光増感物質、シランカップリング剤などを含むことができる。
また、第一の感光性樹脂組成物として、ネガ型レジストとして市販されている化薬マイクロケム社製「SU−8シリーズ」、「KMPR−1000」(商品名)、東京応化工業社製「TMMR S2000」、「TMMF S2000」(商品名)等も用いることができる。
次に、図2(B)に示すように、液流路パターンを有する流路パターン形成用の第一のマスク13を介して、第一の感光性樹脂組成物12をパターン露光する。また、必要に応じてさらに熱処理(ベーク処理)することで露光部をさらに硬化させ、流路側壁形成部材4を形成する。
第一のマスク13は、露光波長の光を透過するガラスや石英などの材質からなる基板に、液流路のパターンに合わせてクロム膜などの遮光膜が形成されたものである。
露光装置としては、例えば、i線露光ステッパー、KrFステッパーなどの単一波長の光源や、マスクアライナーMPA−600Super(商品名、キヤノン社製)などの水銀ランプのブロード波長を光源に持つ投影露光装置を用いることができる。
次に、図2(C)に示すように、PETやポリイミド等からなるフィルム基材14上に、ノズル形成部材9の材料である第二の感光性樹脂組成物15を形成する。また、内部撥液層10の材料であるフッ素含有組成物(本実施形態において内部撥液層組成物とも称す)16を第二の感光性樹脂組成物15上に塗布する。内部撥液層組成物16は、フッ素含有基を有する化合物を含有する。また、内部撥液層組成物16は、水や溶剤等を含むことが好ましい。フッ素含有基を有する化合物は、フッ素含有基を有する樹脂であることが好ましく、該フッ素含有基を有する樹脂の分子量は、500〜5000であることが好ましい。内部撥液層組成物16は、フッ素含有基を有する化合物の他にも、フッ素含有基を有さない樹脂を含んでもよい。
第二の感光性樹脂組成物15は、第一の感光性樹脂組成物12と同様に、その硬化物の機械的強度、インク耐性及び下地との密着性、並びにフォトリソグラフィー材料としての解像性を考慮して選択されることが望ましい。これらの観点から、第二の感光性樹脂組成物15としては、エポキシ樹脂をベースとする光カチオン重合型のエポキシ樹脂組成物が好適に用いられる。すなわち、第一の感光性樹脂組成物の説明で記載したように、エポキシ基を2個以上有するカチオン重合性樹脂と、光を吸収して酸を発生する光酸発生剤を含む組成物を用いることが好ましい。
内部撥液層組成物16は、その硬化物がインクに対する撥液性を有することが求められ、フッ素含有基を有する化合物を含む。内部撥液層組成物としては、カチオン重合性を有するパーフルオロアルキル組成物やパーフルオロポリエーテル組成物が好適に用いられる。カチオン重合性を有するパーフルオロアルキル組成物は、カチオン重合性基及びパーフルオロアルキル基を有する樹脂を含む組成物である。パーフルオロポリエーテル組成物は、パーフルオロポリエーテル基を有する樹脂を含む組成物である。
さらには、フッ素含有基を有する化合物としては、特表2007−518587号公報に示される、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物と、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物と、を含む混合物の縮合生成物を好適に挙げられる。
フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物として、式(I)で表されるフルオロアルキル基を有するアルコキシシランが好適に用いられる。
式(I)において、Rfは炭素原子に結合した1個から30個のフッ素原子を有する非加水分解性置換基を示し、Rは非加水分解性置換基を示し、Xは加水分解性置換基を示し、bは0から2の整数、好ましくは0または1、特に0である。
Rfは、パーフルオロアルキル基を含むアルキル基であることが好ましい。
特定の好ましい置換基Rfは、CF3(CF2)n−Z−であり、ここでn及びZは下記一般式(IV)で定められるように定められる。なお、式(IV)は、上記フルオロアルキル基を有するアルコキシシランの好ましい形態である。
式(IV)中、Xは一般式(I)と同じに定められ、好ましくはメトキシまたはエトキシである。Zは二価の有機基である。nは、0から20の整数であり、好ましくは3から15の整数であり、より好ましくは5から10の整数である。好ましくは、Zは10個を超えない炭素原子を含有する。Zは、より好ましくはメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、メチレンオキシ、エチレンオキシ、プロピレンオキシ及びブチレンオキシなど、6個を超えない炭素原子を有する二価のアルキレン基またはアルキレンオキシ基である。最も好ましいのはエチレン基である。
式(IV)で表される化合物(化合物IVとも称す)の具体例として、以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物が挙げられるが、本発明はこれら以下の化合物に限定されない。
CF3−C2H4−SiX3;
C2F5−C2H4−SiX3;
C4F9−C2H4−SiX3;
C6F13−C2H4−SiX3;
C8F17−C2H4−SiX3;
C10F21−C2H4−SiX3;
Xは、メトキシ基またはエトキシ基である。
縮合生成物は、二種以上のフッ素含有基を有する加水分解性シランを用いて調製されることが好ましい。また、縮合生成物は、二種のフッ素含有基を有する加水分解性シランを用いて調製されることが好ましく、それぞれが含有するフッ素原子の数が異なることがより好ましい。
例えば、C6F13−C2H4−SiX3、C8F17−C2H4−SiX3及びC10F21−C2H4−SiX3が同時に用いられる場合である。上記フッ素含有基は、内部撥液層組成物の表面に配列される傾向を有する。この時、異なる長さのフルオロアルキル基の存在下では、すべてのフルオロアルキル基が同じ長さを有する場合と比べて、表面のフッ化物濃度が高くなるので、撥液性及び記録液抵抗性が改善される。この現象の理由については明らかでないが、フルオロアルキル基は直線の形状を有し、フッ素原子の高い電子密度の斥力に対して表面で最適な立体配座をとるので、異なる長さのフルオロアルキル基は、自身のより高い密度で存在できると考えられる。
パーフルオロポリエーテル基を有する加水分解性化合物としては、特に限定されないが、下記式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物の少なくとも一種であることが好ましい。
前記式(1)、(2)、(3)及び(4)中、Rpは式(5)で表わされるパーフルオロポリエーテル基、Aは炭素数1から12の結合基である。さらに、Xは加水分解性置換基、Y及びRは非加水分解性置換基、Zは水素原子又はアルキル基、Qは2価又は3価の結合基である。ここでQが2価のときn及びm=1、Qが3価のときn及びm=2である。aは1から3の整数、mは1から4の整数である。
前記式(5)中、o、p、q及びrはそれぞれ0又は1以上の整数であり、o、p、q及びrの少なくとも一つは1以上の整数である。o、p、q又はrは、1から30の整数であることが好ましい。
パーフルオロポリエーテル基とは、パーフルオロアルキル基と酸素原子からなるユニットが1つ以上連なった基である。具体的には、パーフルオロポリエーテル基(Rpと表わす)は式(5)で表される基であることが好ましい。式(5)中、()内で表わされる部分がそれぞれのユニットであり、そのユニットの数を示すo、p、q及びrで表わされる数をここでは繰り返し単位数と呼ぶ。
前記式(1)、(2)、(3)及び(4)中のXとしては、例えばハロゲン原子、アルコキシ基、アミノ基、水素原子等が挙げられる。その中でも、加水分解反応により脱離した基がカチオン重合反応を阻害せず、反応性の制御がしやすいという観点から、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基が好ましい。非加水分解性置換基Y及びRとしては、炭素数1から20のアルキル基やフェニル基等が挙げられ、それぞれ同一の官能基でも異なる官能基でもかまわない。Zのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。Qとしては、炭素原子、窒素原子等が挙げられる。Aの炭素数1から12の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基等が挙げられる。また置換基を有するアルキル基も用いられる。
パーフルオロポリエーテル基を有するシラン化合物の好ましい具体例としては、下記式(9)、(10)、(11)、(12)及び(13)で表される化合物が挙げられる。
(式(9)中、sは1〜30の整数、mは1〜4の整数である。)。
(式(10)中、tは1〜30の整数である。)。
(式(11)中、e及びfは1〜30の整数である。)。
(式(12)中、gは1〜30の整数である。)。
(式(13)中、Rmはメチル基または水素原子、hは1〜30の整数である。)。
式(9)〜式(13)において、繰り返し単位数である、s、t、e、f、g、hは、
3〜20であることが好ましい。3よりも小さいと撥水性が低下する傾向があり、30よりも大きいと溶剤に対する溶解性が低下する。特にアルコール等の非フッ素系汎用溶媒中で縮合反応を行う際には、3〜10であることが好ましい。
市販のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物としては、ダイキン工業(株)製「オプツールDSX」、「オプツールAES」、信越化学工業(株)製「KY−108」、「KY−164」、住友スリーエム(株)製「Novec1720」、ソルベイソレクシス(株)製「フルオロリンクS10」などが挙げられる。
次に、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物の例は、以下の式(II)で表される。
式(II)において、RCはカチオン重合性基を有する非加水分解性置換基であり、Rは非加水分解性置換基であり、Xは加水分解性置換基であり、bは0から2の整数である。
カチオン重合性基としては、エポキシ基、オキセタン基、ビニルエーテル基等によって表される環状エーテル基を挙げることができる。入手の容易さ及び反応制御の観点で、エポキシ基が好ましい。
カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物としては、以下の化合物が好ましい。グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドオキシプロピルトリエトキシシラン、エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン等。
なお、本発明は、上記列挙した化合物には限定されない。
本発明では、内部撥液層は、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物とカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物とを含む混合物の縮合生成物の硬化物からなることが好ましい。縮合生成物を得るための混合物は、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物及びカチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物に加えて、アルキル置換、アリール置換または非置換加水分解性シラン化合物を含むことが好ましい。前記アルキル置換、アリール置換または非置換加水分解性シラン化合物は、撥液層の物理的性質を制御するために有用である。
前記アルキル置換、アリール置換または非置換加水分解性シラン化合物の例は、以下の一般式(III)
で示される。
Raは、置換または非置換アルキル及び置換または非置換アリールから選ばれる非加水分解性置換基であり、Xは、加水分解性置換基であり、aは0から3の整数である。特に、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等が挙げられる。本発明は、上記化合物に限定されない。
縮合生成物を得るための混合物の組成、すなわちフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物、前記カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物及びアルキル置換、アリール置換または非置換加水分解性シラン化合物の組み合わせ比は、使用法によって適切に定められる。フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物の混合物中の含有量は、0.5〜20モル%であることが好ましく、1〜10モル%であることがより好ましい。含有量が0.5モル%より低いと十分な撥液性が得られない場合があり、含有量が20モル%より高いと均一な撥液層が得られない場合がある。
さらに、前記カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物と、アルキル置換、アリール置換または非置換加水分解性シラン化合物との組み合わせ比は、10:1〜1:10の範囲であることが好ましい。
本実施形態の内部撥液層は、フッ素含有基を有する前記加水分解性シラン化合物、前記カチオン重合性基を有する前記加水分解性シラン化合物及び、必要なら、アルキル置換、アリール置換または非置換加水分解性シラン化合物の縮合生成物を硬化させることによって、形成されることができる。
縮合生成物は、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物、前記カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物及び、必要なら、アルキル置換、アリール置換または非置換加水分解性シラン化合物の加水分解反応を水の存在下で実行することによって調製される。
生成物の縮合の度合いは、縮合反応の温度、pH等によって適切に制御できる。さらに、金属アルコキシドを加水分解反応の触媒として用い、加水分解反応の結果として縮合の度合いを制御することも可能である。金属アルコキシドとして、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド及びその錯体(アセチルアセトン錯体等)が好ましい。
さらに、カチオン光重合開始剤として、オニウム塩、ホウ酸塩、イミド構造を有する化合物、トリアジン構造を有する化合物、アゾ化合物または過酸化物が参照される。感度及び安定性から、芳香族スルホニウム塩または芳香族ヨードニウム塩が望ましい。
内部撥液層組成物は、エポキシ基を有する加水分解性シラン化合物と、パーフルオロポリエーテル基及びパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1種のフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物と、を含む組成物の縮合生成物を含むことが好ましい。
図2(C)において、フィルム上に形成された内部撥液層組成物は、熱処理されることもできる。フッ素含有基は熱処理により、組成物の表面側に偏析する傾向を有するため、該熱処理により最終的に得られる内部撥液層の撥水性をより向上することができる。特にフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物を含む縮合生成物を用いる場合、熱処理によりフッ素含有基が組成物表面に偏析する傾向を有する。該熱処理の温度は、例えば、70〜200℃であり、90℃〜120℃であることが好ましい。
次に、図2(D)に示すように、流路側壁形成部材4及び第一の感光性樹脂組成物(未露光部)12上に、ラミネート法を用いて、フィルム基材14上に形成された内部撥液層組成物16及び第二の感光性樹脂組成物15を転写する。該転写により、内部撥液層組成物16が下側、つまり基板2側を向くように配置される。該転写によって、内部撥液層組成物16が流路側壁形成部材4や第一の感光性樹脂組成物12に接して配置される。
さらに、必要に応じて、図に示すように、第二の感光性樹脂組成物15の上に、表面撥液層組成物17を形成すこともできる。
表面撥液層組成物17は、内部撥液層組成物16と同様に、カチオン重合性を有するパーフルオロアルキル組成物や、パーフルオロポリエーテル組成物が好適に用いられる。
表面撥液層組成物17として、グリシジルプロピルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、2−パーフルオロデシルエチルトリエトキシシラン、水及びエタノールによって加水分解性縮合生成物を生成し、エタノールで不揮発物含量30%程度に希釈した組成物を用いることができる。
また、第一の感光性樹脂組成物12をパターン露光する前に、内部撥液層組成物16及び第二の感光性樹脂組成物15を第一の感光性樹脂組成物上に転写することも可能である。
次に、図2(E)に示すように、吐出口パターンを有する吐出口形成用の第二のマスク18を介して、第二の感光性樹脂組成物15、内部撥液層組成物16、及び表面撥液層組成物17をパターン露光する。図2において、露光部の各組成物が硬化している。
該露光の際、内部撥液層組成物16を十分に硬化させるため、露光量を適宜調整することが好ましい。内部撥液層組成物16を十分に硬化させることにより、形成される内部撥液層の純水に対する接触角を向上させることができる。例えば、露光量は600J/m2以上であることが好ましい。
さらに、必要に応じて、熱処理(ベーク処理)することで露光部をさらに硬化させ、ノズル形成部材9、内部撥液層10、表面撥液層11を形成する。
第二のマスク18は、露光波長の光を透過するガラスや石英などの材質からなる基板に、吐出口のパターンに合わせてクロム膜などの遮光膜が形成されたものである。
露光装置としては、i線露光ステッパー、KrFステッパーなどの単一波長の光源や、マスクアライナーMPA−600Super(商品名、キヤノン社製)などの水銀ランプのブロード波長を光源に持つ投影露光装置を用いることができる。
吐出口の開口形状は、特に制限されるものではなく、例えば、円形状以外にも、吐出特性などを考慮して、図3(a)〜(c)に示す形を挙げることができる。吐出口の開口形状は、適宜選択することができる。特に、吐出口の開口形状を、図3(c)のような吐出口内に突起21を設けた形状とすることで、突起21間に液体を効率的に保持することができ、インク液滴吐出時にインク滴が複数(主滴とサテライト)に分割することを低減し、高画質印字を実現することができる。
次に、図2(F)に示すように、第一の感光性樹脂組成物12、第二の感光性樹脂組成物15、内部撥液層組成物16、及び表面撥液層組成物17の未硬化部を有機溶剤等を用いて除去し、吐出口7、液流路5を形成する。
次に、図2(G)に示すように、アルカリ系エッチング液を用いて、第一の面と反対側の面である第二の面側から基板をエッチングして供給口3を形成し、必要に応じて熱処理をしてインクジェット記録ヘッドを製造する。
(第二の実施形態)
本実施形態で製造される液体吐出ヘッドにおいて、流路形成部材は、液流路5の上壁面6に、フッ素成分を含有し、純水に対する接触角が70°以上である面を有する内部撥液層を有する。また、流路形成部材は、吐出口7を形成する吐出口形成部材と、液流路の側壁を形成する流路側壁形成部材4と、を含んで構成され、吐出口形成部材は、内部撥液層10及びノズル形成部材9を含む。また、内部撥液層は、ノズル形成部材9の材料である第二の感光性樹脂組成物15中にフッ素含有基を有する化合物を含有させ、熱処理(ベーク処理)することにより、前記フッ素含有基を表面に偏析させることで形成することができる。
一般に、パーフルオロアルキル組成物やパーフルオロポリエーテル組成物は、塗布後のベーク処理によって、フッ素含有基が、組成物と空気との界面に偏析することが知られている。この組成物と空気との界面又はその付近に偏析したフッ素含有基が、第二の感光性樹脂組成物15の表面に形成された内部撥液層を形成することができる。これにより、内部撥液層を形成するための層を別途塗布することなく、容易に内部撥液層を形成することができる。
フッ素含有基を偏析させる際に行う熱処理の温度は、特に制限されるものではないが、例えば、70℃以上200℃以下であり、120℃以下であることが好ましい。
図4は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す断面工程図であり、図1(B)と同じ位置に相当する模式的断面図である。
まず、図4(A)及び図4(B)の工程は、上述の第一の実施形態における図2(A)及び(B)の工程と同じであるので説明を省略する。
次に、図4(C)に示すように、PETやポリイミド等からなるフィルム基材14上に、ノズル形成部材9の材料であり、内部撥液層を形成するための第二の感光性樹脂組成物15を形成する。該第二の感光性樹脂組成物は、実施形態1の内部撥液層組成物と同様の材料を含有することができる。第二の感光性樹脂組成物は、例えば、フッ素含有基を有する化合物を含有し、該フッ素含有基を有する化合物としては、実施形態1で説明した縮合生成物を用いることができる。そして、第二の感光性樹脂組成物を熱処理し、フッ素含有基を表面側に偏析させ、内部撥液層となる部分を形成する。
本実施形態において、第二の感光性樹脂組成物は、フッ素含有基を有する化合物に加えて、エポキシ基を2個以上有するカチオン重合性樹脂と、光を吸収して酸を発生する光酸発生剤と、を含むことが好ましい。また、上述のように、フッ素含有基を有する化合物は、カチオン重合性基(好ましくはエポキシ基)を有する加水分解性シラン化合物及びフッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物を含む混合物の縮合生成物であることが好ましい。フッ素含有基は、パーフルオロポリエーテル基及びパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。カチオン重合性樹脂の含有量は、ノズル形成部材に求められる強度等を考慮して適宜調整することができる。これらの成分を含有することにより、硬化物がノズル形成部材として要求される強度を有すると同時に、前記熱処理によりフッ素含有基を表面側に偏析させることができる。この組成物の表面側に偏析したフッ素含有基の層を、純水に対する接触角が70°以上である内部撥液層の形成に用いることができる。なお、偏析によって組成物表面のフッ素含有基の濃度が高くなり、この部分が内部撥液層となる。
熱処理の温度は、例えば、70℃以上200℃以下であり、120℃以下であることが好ましい。
次に、図4(D)に示すように、流路側壁形成部材4及び第一の感光性樹脂組成物(未露光部)12上に、ラミネート法を用いて、フィルム基材14上に形成され、表面側にフッ素含有基が偏析した層を有する第二の感光性樹脂組成物15を転写する。
さらに、必要に応じて、図に示すように、第二の感光性樹脂組成物15の上に、表面撥液層組成物17を形成することもできる。
次に、図4(E)に示すように、吐出口パターンを有する吐出口形成用の第二のマスク18を介して、第二の感光性樹脂組成物15及び表面撥液層組成物17をパターン露光する。図4において、露光部の各組成物が硬化している。
該露光の際、第二の感光性樹脂組成物15を十分に硬化させるため、また内部撥液層の撥水性を十分に向上させるため、露光量を適宜調整することが好ましい。
さらに、必要に応じて、熱処理(ベーク処理)することで露光部をさらに硬化させ、ノズル形成部材9、内部撥液層(不図示)、表面撥液層11を形成する。
次に、図4(F)に示すように、第一の感光性樹脂組成物12、第二の感光性樹脂組成物15、及び表面撥液層組成物17の未硬化部を有機溶剤等を用いて除去し、吐出口7、液流路5を形成する。
次に、図4(G)に示すように、アルカリ系エッチング液を用いて、第一の面と反対側の面である第二の面側から基板をエッチングして供給口3を形成し、必要に応じて熱処理をしてインクジェット記録ヘッドを製造する。
以下に本発明の実施例を示し、さらに本発明を詳細に説明する。
[実施例1]
本実施例では図2(A)〜(G)に示す工程によりインクジェット記録ヘッドを作製した。
まず、図2(A)に示すように、第一の面(表面)上にエネルギー発生素子1が形成された基板2の上に、流路側壁形成部材4の材料である第一の感光性樹脂組成物12として、表1に示す組成を有するカチオン重合型のエポキシ樹脂組成物を15μmの厚さで塗布し、90℃で5分間熱処理した。
次に、図2(B)に示すように、i線露光ステッパー(キヤノン社製)を用い、第一のマスク13を介して8000J/m2で第一の感光性樹脂組成物12にインク流路のパターンが形成されるように露光した。そして、50℃で3分間熱処理をし、流路側壁形成部材4を形成した。
次に、図2(C)に示すように、ポリイミドからなるフィルム基材14上に、ノズル形成部材9の材料である第二の感光性樹脂組成物15として、表2に示す組成を有するカチオン重合型のエポキシ樹脂組成物を5μmの厚さで塗布し、90℃で60分間熱処理した。
そして、内部撥液層10を形成するための材料である内部撥液層組成物16を、スリットコート法にて第二の感光性樹脂組成物15の上に塗布し、70℃で3分間熱処理した。
内部撥液層組成物16は、以下手順で合成した加水分解性縮合生成物をエタノールで不揮発物含量30%に希釈したものを用いた。加水分解性縮合生成物は、グリシジルプロピルトリエトキシシラン28グラム(0.1モル)、メチルトリエトキシシラン18グラム(0.1モル)、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン6.6グラム(0.013モル、加水分解性シラン化合物の合計量の6モル%に等しい)、水17.3グラム及びエタノール37gを室温で撹拌し、続いて24時間還流することによって得た。
次に、図2(D)に示すように、基板2を40℃に加熱した状態で、ラミネート法を用いて、加圧しながらフィルム基材14上の第二の感光性樹脂組成物15と内部撥液層組成物16を第一の感光性樹脂組成物12及び流路側壁形成部材4の上に転写した。そして、第二の感光性樹脂組成物15の上に、表面撥液層組成物17を塗布し、70℃で3分間熱処理した。
表面撥液層組成物17としては、内部撥液層組成物16と同じ材料を用いた。
次に、図2(E)に示すように、吐出口パターンを有する第二のマスク18を介して、第二の感光性樹脂組成物15、内部撥液層組成物16、表面撥液層組成物17をパターン露光した。
露光機にはi線露光ステッパー(キヤノン社製)を用い、露光量は800J/m2とした。
さらに、熱処理(ベーク処理)することで露光部を硬化させ、ノズル形成部材9、内部撥液層10、表面撥液層11を形成し、吐出口形成部材(オリフィスプレート)30を形成した。
第二のマスク18の吐出口パターンとしては、直径16μmの円形の遮光部を用いた。
次に、図2(F)に示すように、キシレン/メチルイソブチルケトン混合液(質量比6/4)を用いて、第一の感光性樹脂組成物12、第二の感光性樹脂組成物15、内部撥液層組成物16、及び表面撥液層組成物17の未硬化部を溶解除去した。これにより、吐出口7及び液流路5を形成した。
次に、吐出口7及び液流路5をポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業社製、商品名:ODUR−1010)で充填し、表面撥液層11をゴム膜で保護した(不図示)。そして、図2(G)に示すように、アルカリ系エッチング液を用いて基板2を第一の面と反対側の面である第二の面(裏面)側からエッチングし、基板2にインク供給口3を形成した。
そして、ゴム膜及びポリメチルイソプロペニルケトンを除去した。そして、200℃で1時間加熱プロセスを実施した後、電気的な接続及びインク供給手段を適宜配置した。
以上の工程により、液流路の上壁面6に内部撥液層10が形成されたインクジェット記録ヘッドを得た。
[実施例2]
本実施例では図4(A)〜(G)に示す工程によりインクジェット記録ヘッドを作製した。
なお、本実施例は、ノズル形成部材を形成するための組成物にフッ素含有基を有する化合物を含ませ、該組成物の加熱によって組成物表面にフッ素含有基を偏析させた。
まず、図4(A)に示すように、第一の面上にエネルギー発生素子1が形成された基板2の上に、第一の感光性樹脂組成物12として、表1に示す組成を有するカチオン重合型のエポキシ樹脂組成物を15μmの厚さで塗布し、90℃で5分間熱処理した。
次に、図4(B)に示すように、i線露光ステッパー(キヤノン社製)を用い、第一のマスク13を介して8000J/m2で第一の感光性樹脂組成物12にインク流路のパターンが形成されるように露光した。そして、50℃で3分間熱処理をし、流路側壁形成部材4を形成した。
次に、図4(C)に示すように、ポリイミドからなるフィルム基材14上に、フッ素含有基を有する化合物を含む第二の感光性樹脂組成物(フッ素含有組成物)15を5μmの厚さで塗布し、90℃で60分間熱処理した。
第二の感光性樹脂組成物15としては、表2に示すカチオン重合型のエポキシ樹脂組成物に、実施例1で用いた内部撥液層組成物を5質量%の割合で添加したものを用いた。
フッ素含有基(例えばフルオロアルキル基)を有する化合物を含む第二の感光性樹脂組成物を熱処理することにより、該第二の感光性樹脂組成物の表面付近(空気との界面付近)にフッ素含有基を偏析させ、表面付近のフッ素成分の濃度を高くすることができる。
次に、図4(D)に示すように、基板2を40℃に加熱した状態で、ラミネート法を用いて、加圧しながらフィルム基材14上の第二の感光性樹脂組成物15を第一の感光性樹脂組成物12の上に転写した。さらに、第二の感光性樹脂組成物15上に、表面撥液層組成物17を塗布し、70℃で3分間熱処理した。
表面撥液層組成物17としては、実施例1で用いた内部撥液層組成物16と同じ材料を用いた。
次に、図4(E)に示すように、吐出口パターンを有する第二のマスク18を介して、第二の感光性樹脂組成物15、表面撥液層組成物17をパターン露光した。
露光機にはi線露光ステッパー(キヤノン社製)を用い、露光量は800J/m2とした。
さらに、熱処理(ベーク処理)することで露光部を硬化させ、ノズル形成部材9、内部撥液層、表面撥液層11を形成した。
第二のマスク18の吐出口パターンとしては、直径16μmの円形の遮光部を用いた。
次に、図4(F)に示すように、キシレン/メチルイソブチルケトン混合液(質量比6/4)を用いて、第二の感光性樹脂組成物15、及び表面撥液層組成物17の未硬化部を溶解除去し、吐出口7、及び液流路5を形成した。
次に、吐出口7及び液流路5をポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業社製、商品名:ODUR−1010)で充填し、表面撥液層11をゴム膜で保護した(不図示)。そして、図4(G)に示すように、アルカリ系エッチング液を用いて基板2を第一の面と反対側の面である第二の面側からエッチングし、基板2にインク供給口3を形成した。そして、ゴム膜及びポリメチルイソプロペニルケトンを除去した。そして、200℃で1時間加熱プロセスを実施した後、電気的な接続及びインク供給手段を適宜配置した。
以上の工程により、液流路の上壁面6に内部撥液層が形成されたインクジェット記録ヘッドを得た。
[実施例3]
本実施例では図5(A)〜(G)に示す工程によりインクジェット記録ヘッドを作製した。
なお、本実施例は、実施例2と同様に、ノズル形成部材を形成するための組成物にフッ素含有基を有する化合物を含ませ、該組成物の加熱によって組成物表面にフッ素含有基を偏析させた。
まず、図5(A)に示すように、第一の面上にエネルギー発生素子1が形成された基板2の上に、第一の感光性樹脂組成物12として、表1に示す組成を有するカチオン重合型のエポキシ樹脂組成物を15μmの厚さで塗布し、90℃で5分間熱処理した。
次に、図5(B)に示すように、ポリイミドからなるフィルム基材14上に、フッ素含有基を有する化合物を含む第二の感光性樹脂組成物15を5μmの厚さで塗布し、90℃で60分間熱処理した。
実施例2と同様に、第二の感光性樹脂組成物15としては、表2に示すカチオン重合型のエポキシ樹脂組成物に、実施例1で用いた内部撥液層組成物を5質量%の割合で添加したものを用いた。
フッ素含有基を有する化合物(例えばフルオロアルキル基を有する化合物)を含む第二の感光性樹脂組成物を熱処理することにより、該第二の感光性樹脂組成物の表面付近(空気との界面付近)にフッ素含有基を偏析させ、組成物表面のフッ素成分の濃度を高くすることができる。
次に、図5(C)に示すように、基板2を40℃に加熱した状態で、ラミネート法を用いて、加圧しながらフィルム基材14上の第二の感光性樹脂組成物15を第一の感光性樹脂組成物12の上に転写した。さらに、第二の感光性樹脂組成物15上に、表面撥液層組成物17を塗布し、70℃で3分間熱処理した。
表面撥液層組成物17としては、実施例1で用いた内部撥液層組成物16と同じ材料を用いた。
次に、図5(D)に示すように、i線露光ステッパー(キヤノン社製)を用い、第一のマスク13を介して、10000J/m2で第一の感光性樹脂組成物12にインク流路パターンが形成されるように露光し、流路側壁形成部材4を形成した。
次に、図5(E)に示すように、吐出口パターンを有する第二のマスク18を介して、第二の感光性樹脂組成物15、表面撥液層組成物17をパターン露光した。
露光機にはi線露光ステッパー(キヤノン社製)を用い、露光量は800J/m2とした。
さらに、熱処理(ベーク処理)することで露光部を硬化させ、ノズル形成部材9、内部撥液層、表面撥液層11を形成した。
第二のマスク18の吐出口パターンとしては、直径16μmの円形の遮光部を用いた。
次に、図5(F)に示すように、キシレン/メチルイソブチルケトン混合液(質量比6/4)を用いて、第一の感光性樹脂組成物12、第二の感光性樹脂組成物15、表面撥液層組成物17の未硬化部を溶解除去し、吐出口7、及び液流路5を形成した。
次に、吐出口7及び液流路5をポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業社製、商品名:ODUR−1010)で充填し、表面撥液層11をゴム膜で保護した(不図示)。そして、図5(G)に示すように、アルカリ系エッチング液を用いて基板2に第一の面と反対側の面である第二の面側からエッチングし、基板2にインク供給口3を形成した。そして、ゴム膜及びポリメチルイソプロペニルケトンを除去した。そして、200℃で1時間加熱プロセスを実施した後、電気的な接続及びインク供給手段を適宜配置した。
以上の工程により、液流路の上壁面6に内部撥液層が形成されたインクジェット記録ヘッドを得た。
[実施例4]
本実施例では図6(A)〜(I)に示す工程によりインクジェット記録ヘッドを作製した。
なお、本実施例では、実施例2及び3と同様に、ノズル形成部材を形成するための組成物にフッ素含有基を有する化合物を含ませ、該組成物の加熱によって組成物表面にフッ素成分を偏析させた。
また、本実施例では、液流路が段差を有し、吐出口の下部開口(基板側開口)の周囲に内部撥液層が配置された形態を有するインクジェット記録ヘッドを作製した。
まず、図6(A)に示すように、第一の面上にエネルギー発生素子1が形成された基板2上に、ポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業社製、商品名:ODUR−1010)からなるポジ型感光性樹脂を厚さ15μm塗布し、120℃で5分加熱処理した。そして、液流路の型パターンを形成するための第一のマスク13を介して、露光装置UX3000(商品名、ウシオ電機)によって露光した。そして、現像処理を施し、液流路の型材となる流路パターン19を形成した。
次に、図6(B)に示すように、流路パターン19の上に、第一の感光性樹脂組成物12として、表1に示す組成を有するカチオン重合型のエポキシ樹脂組成物を基板面(第一の面)から20μmの厚さで塗布し、90℃で5分間熱処理した。
次に、図6(C)に示すように、ポリイミドからなるフィルム基材14上に、フッ素成分を含む第二の感光性樹脂組成物15を5μmの厚さで塗布し、90℃で60分間熱処理した。
実施例2と同様に、フッ素含有基を有する化合物を含む第二の感光性樹脂組成物15としては、表2に示すカチオン重合型のエポキシ樹脂組成物に、実施例1で用いた内部撥液層組成物を5質量%の割合で添加したものを用いた。
フッ素含有基を有する化合物を含む第二の感光性樹脂組成物を熱処理することにより、該第二の感光性樹脂組成物の表面付近(空気との界面付近)にフッ素含有基を偏析させ、フッ素成分の濃度を高くすることができる。
次に、図6(D)に示すように、基板2を40℃に加熱した状態で、ラミネート法を用いて、加圧しながらフィルム基材14上の第二の感光性樹脂組成物15を第一の感光性樹脂組成物12の上に転写した。さらに、第二の感光性樹脂組成物15上に、表面撥液層組成物17を塗布し、70℃で3分間熱処理した。
表面撥液層組成物17としては、実施例1で用いた内部撥液層組成物16と同じ材料を用いた。
次に、図6(E)に示すように、i線露光ステッパー(キヤノン社製)を用い、第Iのマスク(多段流路形成用マスク)20を介して10000J/m2で第一の感光性樹脂組成物12にインク流路のパターンが形成されるように露光し、流路側壁形成部材4を形成した。
次に、図6(F)に示すように、吐出口パターンを有する第二のマスク18を介して、第二の感光性樹脂組成物15、表面撥液層組成物17をパターン露光した。
露光機にはi線露光ステッパー(キヤノン社製)を用い、露光量は800J/m2とした。露光波長には、第二の感光性樹脂組成物15が感光し、第一の感光性樹脂組成物12は感光しない波長を選択した。
さらに熱処理(ベーク処理)することで露光部を硬化させ、ノズル形成部材9、内部撥液層、表面撥液層11を形成した。
吐出口パターンとしては、直径16μmの円形の遮光部を用いた。
次に、図6(G)に示すように、キシレン/メチルイソブチルケトン混合液(質量比6/4)を用いて、第一の感光性樹脂組成物12、第二の感光性樹脂組成物15、及び表面撥液層組成物17の未硬化部を溶解除去した。これにより、吐出口7及び該吐出口に連通する液流路の一部(上部)を形成した。
次に、図6(H)に示すように、表面撥液層11をゴム膜で保護した後(不図示)、アルカリ系エッチング液を用いて、基板2にインク供給口3を形成した。
そして、インク供給口3を形成した後、ゴム膜を取り去った。
次に、図6(I)に示すように、流路パターン19を乳酸メチルを用いて溶解除去し、液流路5を形成した。
次に、200℃で1時間加熱プロセスを実施した後、電気的な接続及びインク供給手段を適宜配置した。
以上の工程により、液流路の上壁面6に内部撥液層が形成されたインクジェット記録ヘッドを得た。
[実施例5]
本実施例では図7(A)〜(I)に示す工程によりインクジェット記録ヘッドを作製した。
本実施例では、ノズル形成部材がノズル下層形成部材とノズル上層形成部材の2つの層から構成され、これらの層の間に内部撥液層が配置された構成を有するインクジェット記録ヘッドを作製した。該内部撥液層は、インクがノズル上層形成部材に浸潤することを抑制するバリア層として機能する。
まず、図7(A)に示すように、第一の面上にエネルギー発生素子1が形成された基板2上に、第一の感光性樹脂組成物12として、表1に組成を示すカチオン重合型のエポキシ樹脂組成物を基板面から15μmの厚さで塗布し、90℃で5分間熱処理した。
次に、図7(B)に示すように、i線露光ステッパー(キヤノン社製)を用い、第一のマスク13を介して8000J/m2で第一の感光性樹脂組成物12にインク流路のパターンが形成されるように露光し、50℃3分間熱処理をして流路側壁形成部材4を形成した。
次に、図7(C)に示すように、ポリイミドからなるフィルム基材14a上に、ノズル下層形成部材の材料である下層側感光性樹脂組成物22を2μmの厚さで塗布し、90℃で60分間熱処理した。
次に、図7(D)に示すように、基板2を40℃に加熱した状態で、ラミネート法を用いて、加圧しながら第一のフィルム基材14a上の下層側感光性樹脂組成物22を流路側壁形成部材4及び第一の感光性樹脂組成物12の上に転写した。
次に、図7(E)に示すように、ポリイミドからなるフィルム基材14b上に、ノズル上層形成部材の材料である上層側感光性樹脂組成物23を3μmの厚さで塗布し、90℃で60分間熱処理した。また、さらに内部撥液層組成物24をスリットコート法を用いて上層側感光性樹脂組成物23の上に塗布し、70℃で3分間熱処理した。
ここで、内部撥液層組成物(バリア層組成物とも称す)24としては、実施例1の内部撥液層組成と同じものを用いた。具体的には、バリア層組成物としては、グリシジルプロピルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、2−パーフルオロデシルエチルトリエトキシシラン、水及びエタノールからなる組成物の加水分解性縮合生成物を、エタノールで不揮発物含量30%に希釈したものを用いた。
下層側感光性樹脂組成物22及び上層側感光性樹脂組成物としては、表2に示すカチオン重合型のエポキシ樹脂組成物を用いた。
次に、図7(F)に示すように、基板2を40℃に加熱した状態で、ラミネート法を用いて、加圧しながら第二のフィルム基材14b上の上層側感光性樹脂組成物23及び内部撥液層組成物24を下層側感光性樹脂組成物22の上に転写した。さらに、上層側感光性樹脂組成物23の上に、表面撥液層組成物17を塗布し、70℃で3分間熱処理した。
表面撥液層組成物17としては、実施例1で用いた内部撥液層組成物16と同じ材料を用いた。
次に、図7(G)に示すように、i線露光ステッパー(キヤノン社製)を用い、吐出口パターンを有する第二のマスク18を介して、下層側感光性樹脂組成物22、上層側感光性樹脂組成物23、内部撥液層組成物24、表面撥液層組成物17をパターン露光した。
露光機にはi線露光ステッパー(キヤノン社製)を用い、露光量は800J/m2とした。
さらに、熱処理(ベーク処理)することで露光部を硬化させ、ノズル上層形成部材25、内部撥液層(バリア層)26、ノズル下層形成部材27、表面撥液層11を形成した。
第二のマスク18の吐出口パターンとしては、直径16μmの円形の遮光部を用いた。
次に、図7(H)に示すように、キシレン/メチルイソブチルケトン混合液(質量比6/4)を用いて、下層側感光性樹脂組成物22、上層側感光性樹脂組成物23、内部撥液層組成物24、表面撥液層組成物17の未硬化部を溶解除去した。これにより、吐出口7及び液流路5を形成した。
次に、図7(I)に示すように、表面撥液層11をゴム膜で保護した後(不図示)、アルカリ系エッチング液を用いて基板2にインク供給口3を形成した。そして、インク供給口3を形成した後、ゴム膜を除去した。
そして、200℃で1時間加熱プロセスを実施した後、電気的な接続及びインク供給手段を適宜配置した。
以上の工程により、ノズル形成部材を構成する層の間に内部撥液層(バリア層)が配置された構成を有するインクジェット記録ヘッドを得た。
[実施例6]
下記の点以外は、実施例1と同じ製法でインクジェット記録ヘッドを得た。吐出口パターンを有する第二のマスク18を介して、第二の感光性樹脂組成物15、内部撥液層組成物16、表面撥液層組成物17をパターン露光する際の露光量を600J/m2とした。
[比較例1]
比較のために、液流路の上壁面6に内部撥液層が形成されていないインクジェット記録ヘッドを作製した。本比較例では図8(A)〜(F)に示す工程によりインクジェット記録ヘッドを作製した。
まず、図8(A)に示すように、エネルギー発生素子101が形成された基板102上に、ポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業社製、商品名:ODUR−1010)からなるポジ型感光性樹脂を、厚さ15μm塗布し、120℃で5分加熱処理した。そして、第一のマスク113を介して、露光装置UX3000(商品名、ウシオ電機)によってポジ型感光性樹脂を露光した。その後、現像処理を施し、液流路の型材となる流路パターン119を形成した。
次に、図8(B)に示すように、流路パターン119上に、表3に示す組成からなる流路形成部材の材料である感光性樹脂組成物115を、基板102の表面から20μm(流路パターン119上に5μm)の厚みで塗布し、90℃で5分間熱処理した。そして、感光性樹脂組成物115の上に、表面撥液層組成物117を塗布し、70℃で3分間熱処理した。
表面撥液層組成物117には、実施例1で用いた内部撥液層組成物16と同じ材料を用いた。
次に、図8(C)に示すように、吐出口パターンを有する第二のマスク118を介して、感光性樹脂組成物115、表面撥液層組成物117をパターン露光した。
露光機にはi線露光ステッパー(キヤノン社製)を用い、露光量は5000J/m2とした。
そして、さらに熱処理(ベーク処理)することで露光部を硬化させ、流路形成部材109、表面撥液層111を形成した。
吐出口パターンとしては、直径16μmの円形の遮光部を用いた。
次に、図8(D)に示すように、キシレン/メチルイソブチルケトン混合液(質量比6/4)を用いて、感光性樹脂組成物115、表面撥液層組成物117の未硬化部を溶解除去し、吐出口107を形成した。
次に、図8(E)に示すように、表面撥液層111をゴム膜で保護した後(不図示)、アルカリ系エッチング液を用いて基板102にインク供給口103を形成した。
そして、インク供給口103を形成した後、ゴム膜を除去した。
次に、図8(F)に示すように、流路パターン119を乳酸メチルを用いて溶解除去し、液流路105を形成した。
次に、200℃で1時間加熱プロセスを実施した後、電気的な接続及びインク供給手段を適宜配置した。
以上の工程により、内部撥液層を有しないインクジェット記録ヘッドを得た。
[比較例2]
下記の点以外は、実施例1と同じ製法でインクジェット記録ヘッドを得た。吐出口パターンを有する第二のマスク18を介して、第二の感光性樹脂組成物15、内部撥液層組成物16、表面撥液層組成物17をパターン露光する際の露光量を550J/m2とした。
〔評価〕
作製したそれぞれのインクジェット記録ヘッドに、エチレングリコール/尿素/イソプロピルアルコール/N−メチルピロリドン/黒色染料/水=5/3/2/5/3/82からなるインクを充填し、テストプリントを30000枚行った。結果を表4に示す。
比較例2では、内部撥液層組成物を硬化させる際の露光量が十分でなかったため、純水に対する接触角が低下してしまった。
その結果、比較例1、比較例2のインクジェット記録ヘッドでは、インク滴が所望の方向に飛ばず、印字品位が低下することを確認した。吐出口を確認したところ、比較例1及び比較例2のインクジェット記録ヘッドでは、吐出口付近のオリフィスプレートが2μm以上盛り上がり、吐出口面積が変化していることを確認した。
純水の接触角は、オリフィスプレートを剥がし取り、微小接触角計(製品名:DropMeasure、(株)マイクロジェット製)を用いて、純水に対する動的後退接触角の測定を行った。