JP2017121787A - 基材上に部分撥液領域を形成する方法 - Google Patents

基材上に部分撥液領域を形成する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】撥液層内に長期にわたり安定した撥液領域、および非撥液領域を形成する製造方法を提供する。
【解決手段】基材上にフッ素含有基と結合を有するカルボニル基を含むフッ素含有化合物からなる撥液層5を形成する工程と、撥液層5に光照射して、撥液層5の撥液性を部分的に低下させて、撥液層5内に、純水に対する接触角が80度以上となる撥液領域11と、純水に対する接触角が撥液領域11よりも30度以上低い非撥液領域10を形成する工程と、を含むことにより部分撥液領域を形成する。
【選択図】図2

Description

本発明は、インクジェット記録ヘッドのような微細構造体に用いることができる部分撥液領域を形成する方法に関する。また、本発明は、この部分撥液領域形成方法を用いたインクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。
撥液処理は撥水撥油性、離型性、防汚性といった性質を付与する目的で、半導体素子、集積回路、ディスプレイ、バイオチップ、インクジェット記録ヘッド等の微細構造体を有する様々なデバイスや建造物、鏡、事務用品、自動車部品等、広範に使用されている。また、撥液処理により形成された撥液層内に撥液領域と非撥液領域を設けることが、上記デバイスの製造プロセスの改善および特性向上のためになされている。
インク等の液体を被記録媒体に吐出することにより、記録を行うインクジェット記録ヘッドにおいては、高画質化、高速化等の性能向上のための様々な提案がなされている。良好な吐出性能を得るために、精度良くインクを吐出する方法として、吐出口表面を撥液処理する方法が提案されている。特許文献1において、光触媒粒子を用いることで、吐出口表面に撥液領域と非撥液領域とを設け、印字品位を改良する方法が提案されている。吐出口表面全域を撥液性とした場合、連続印刷時等にインクミストが集積してインク滴となり、吐出口に引き込まれることで不吐出となることがある。特許文献1には、吐出口表面に部分的に非撥液領域を設けることで、インクミストが非撥液領域に集まり、インク滴の吐出口への引き込みを防止できることが記載されている。
特開2010−36580号公報
しかしながら、上記製造方法においては、以下の点において、特性が十分ではない場合があった。一例としては、インクジェット記録ヘッドを製造するための実装などの各種工程を経た際や、長期間保存および使用した場合、光触媒粒子の活性が失われ、非撥液領域が消失してしまうことである。
本発明の目的は、上記課題を解決することであり、撥液層内に長期にわたり安定した撥液領域、および非撥液領域を形成する製造方法を提供することである。
上記目的を達成する本発明は、基材上にフッ素含有基と結合を有するカルボニル基を含むフッ素含有化合物からなる撥液層を形成する工程と、前記撥液層に光照射して、前記撥液層の撥液性を部分的に低下させて、前記撥液層内に、純水に対する接触角が80度以上となる撥液領域と、純水に対する接触角が前記撥液領域よりも30度以上低い非撥液領域を形成する工程と、を含むことを特徴とする部分撥液領域形成方法である。
以上の構成によれば、長期にわたり安定した撥液領域、および非撥液領域を提供することが可能となる。
インクジェット記録ヘッドの模式的斜視図である。 本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を説明するための工程図である。 本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の他の例を説明するための工程図である。 本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の他の例を説明するための工程図である。 本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の他の例を説明するための工程図である。 本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の他の例を説明するための工程図である。 比較例のインクジェット記録ヘッドの製造方法を説明するための工程図である。 本発明に係るインクジェット記録ヘッドの吐出口表面の一例を示す模式図である。 本発明に係るインクジェット記録ヘッドの吐出口表面の他の例を示す模式図である。
本発明の部分撥液領域形成方法は、基材上にフッ素含有基と結合を有するカルボニル基を含むフッ素含有化合物からなる撥液層を形成する工程と、前記撥液層に光照射して、前記撥液層の撥液性を部分的に低下させて、前記撥液層内に、純水に対する接触角が80度以上となる撥液領域と、純水に対する接触角が前記撥液領域よりも30度以上低い非撥液領域を形成する工程と、を含む。
本発明の部分撥液領域形成方法について、インクジェット記録ヘッドを例として、以下に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
本発明の実施形態においては、非撥液領域を正確な位置精度で形成することができ、印字品位の向上を図ることが可能となる。また、本発明を用いたインクジェット記録ヘッドは、吐出口を形成する部材(以下、吐出口形成部材という)の吐出口形成面全面に撥液層が形成され、該撥液層の撥液性を部分的に低下させることで、撥液領域と非撥液領域とを複数有することができる。特に、本発明の実施形態に係る製造方法では、撥液層中の撥液成分の分解波長を含む光を照射することで、部分的に撥液性を低下させることができる。なお、撥液とは、水滴やインク滴などの液滴が部材に接する際に、その接する部材上で濡れ広がらないことを意味し、部材が撥液性を有するか否かは、その部材表面の液滴の接触角(動的後退接触角)を測定することにより特定することができる。少なくとも純水に対する接触角が80度以上である表面を撥液領域、撥液領域に対して、低い接触角を示す表面を非撥液領域と言うことができる。本発明では非撥液領域の純水に対する接触角が、撥液領域よりも30度以上低くした点に特徴がある。
インクジェット記録ヘッドにおいて、吐出口を形成する方法としては、レーザー照射による加工や感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィーによる加工などが有効である。高密度に吐出口を配列するためには、特にフォトリソグラフィーによる加工が大変有用である。本発明を用いたインクジェット記録ヘッドにおいては、フォトリソグラフィーにより容易に製造することができる。
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。なお、以下の説明では、同一の機能を有する構成には図面中に同一の番号を付し、その説明を省略する場合がある。
図1は、インクジェット記録ヘッドの一例を示す模式的斜視図である。図1に示すインクジェット記録ヘッドは、エネルギー発生素子2を複数備える基板1を備える。エネルギー発生素子2は、液体(インク)を吐出するために利用される素子である。基板1は、インクを保持する流路13、および流路13と連通しインクを吐出するための吐出口12を形成する吐出口形成部材16を備える。同図において吐出口形成部材16は1種の材料で流路13の壁部を構成する部材(流路壁部材ともいう)を兼ねているが、流路壁部材と別部材で構成されていてもよい。少なくとも吐出口形成部材16の外部に露出する上表面(第1面という)には不図示の撥液層が形成されている。また、基板1には、基板1を貫通しインクを流路13に供給する供給口14が設けられている。
以下に、図1のA−A’断面において、本発明の部分撥液領域を形成する製造方法を用いたインクジェット記録ヘッドの製造方法の実施形態における各工程について、図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図2は、本発明の第1の実施形態を説明する工程断面図である。第1の実施形態並びに後述する第2及び第3の実施形態では、吐出口形成部材16が流路壁部材を兼ねる樹脂材料で構成される例を示す。
まず、エネルギー発生素子2が形成された基板1上に、流路の型材となるポジ型感光性樹脂を含むポジ型感光性樹脂層を形成する。ポジ型感光性樹脂としては特に限定されないが、後述する光カチオン重合性樹脂層4の露光時に感光してパターニング性が低下することを防ぐため、光カチオン重合性樹脂層4の露光に使用される光に対する吸光度が低い材料が好ましい。例えば前記光がi線等の紫外線の場合には、ポジ型感光性樹脂としてはDeepUV光で露光可能なポリメチルイソプロペニルケトン等を用いることができる。前記ポジ型感光性樹脂層の形成方法としては、例えば前記ポジ型感光性樹脂を適宜溶媒に溶解し、スピンコート法により塗布した後、プリベークを行うことで、ポジ型感光性樹脂層を形成することができる。前記ポジ型感光性樹脂層の厚さは流路の高さに相当するため、インクジェット記録ヘッドの吐出設計により適宜決定されるが、例えば5μm以上22μm以下とすることが好ましい。
次に、前記ポジ型感光性樹脂層をパターニングして型材3を形成する(図2(a))。前記ポジ型感光性樹脂層をパターニングする方法としては、例えば前記ポジ型感光性樹脂層に対して前記ポジ型感光性樹脂を感光可能な活性エネルギー線を、マスクを介して照射し、パターン露光する。その後、前記ポジ型感光性樹脂層の露光部を溶解可能な溶媒等を用いて現像し、リンス処理を行うことで型材3を形成することができる。
次に、型材3および基板1上に、光カチオン重合性樹脂材料と光カチオン重合開始剤とを含む光カチオン重合性樹脂層4を形成する(図2(b))。光カチオン重合性樹脂材料としては、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物等が挙げられる。これらの中でも、光カチオン重合性樹脂材料としては、高い機械的強度および下地との強い密着性を示す観点から、エポキシ化合物が好ましい。エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。市販品では、「EHPE−3150」(商品名、(株)ダイセル製)、「セロキサイド2021」(商品名、(株)ダイセル製)、「GT−300シリーズ」(商品名、(株)ダイセル製)、「GT−400シリーズ」(商品名、(株)ダイセル製)、「157S70」(商品名、ジャパンエポキシレジン社製)、「エピクロンN−865」(商品名、大日本インキ化学工業(株)製)、「SU8」(商品名、日本化薬(株)製)等が挙げられる。前記エポキシ化合物のエポキシ当量は2000以下が好ましく、1000以下がより好ましい。エポキシ当量が2000以下であることにより、硬化反応の際に架橋密度が低下せず、硬化物のガラス転移温度および密着性の低下を防ぐことができる。なお、エポキシ当量はJISK−7236に準じて測定した値である。
前記光カチオン重合開始剤としては、例えばイオン性のスルホニウム塩系やヨードニウム塩系などのオニウム塩などを使用することができる。しかしながら、カチオン重合活性の大きさの観点から、リン系のPFやアンチモン系のSbFをアニオンとして有するオニウム塩が好ましい。市販品では、「SP−170」(商品名、(株)ADEKA製)、「SP−172」(商品名、(株)ADEKA製)等が挙げられる。光カチオン重合性樹脂層4は、例えば光カチオン重合性樹脂材料と光カチオン重合開始剤を適宜溶媒に溶解した溶液を、スピンコート法にて、型材3および基板1上に塗布した後、プリベークを行うことで形成することができる。なお、溶媒を使用する場合には型材3を溶解しない溶媒を選択して使用する。光カチオン重合性樹脂層4の厚さは特に限定されないが、例えば型材3上の厚さを15μm以上75μm以下とすることができる。
次に、未硬化の光カチオン重合性樹脂層4上に、フッ素含有化合物からなる撥液材を用いて、撥液層5を形成する(図2(c))。本発明におけるフッ素含有化合物は、後述する吐出口形成のための第1の露光工程では、撥液性をほぼ低下させない。そして、第2の露光工程において、照射波長を吸収し、フッ素含有基が離脱することにより、撥液性を低下させ、撥液層5の同一面内に撥液領域と非撥液領域を形成する。本発明における前記撥液性の低下は、光分解反応の一種であるNorrishType反応を利用したものであり、比較的短波長の紫外線を用い、カルボニル基により吸収された該紫外線のエネルギーで分解反応を進行させ、撥液性を低下させるものである。そのため、前記フッ素含有化合物としては、フッ素含有基との結合を有するカルボニル基を含むものが好ましい。また、純水に対する接触角が撥液領域よりも30度以上低い非撥液領域を得るためには、フッ素含有基とカルボニル基の結合位置が近いことが好ましい。そのため、フッ素含有基とカルボニル基の結合は、直接結合、もしくは酸素原子、窒素原子、酸素原子および窒素原子を有しても良い炭素数1〜4の脂肪族基を介して、結合していることが好ましい。一般に、カルボニル基を有する化合物は波長300nm以下に吸収を持つため、該波長が前記フッ素含有化合物のフッ素含有基とカルボニル基の結合を分解する分解波長となる。例えば、第1の露光工程を365nmのi線波長で実施し、第2の露光工程において、300nm以下の波長の光を照射することにより、非撥液領域を形成することができる。本発明におけるフッ素含有基との結合を有するカルボニル基としては、例えば、式(1)が挙げられる。
Figure 2017121787
(式中、Rfはパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基などのフッ素含有基、Aは直接結合、酸素原子、イミノ基(−NR−:Rは水素原子、炭素数1〜12の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基)、酸素原子および窒素原子を有しても良い炭素数1〜4の脂肪族基、Aは直接結合、酸素原子および窒素原子を有しても良い炭素数1〜12の脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族基、環状脂肪族基、ウレタン基、または−CHCH(OT)CH−基(但し、Tは水素原子またはアセチル基(CHCO−))である。)
また、前記フッ素含有基としては、撥液性の観点からパーフルオロアルキル基およびパーフルオロポリエーテル基の少なくとも一方であることが好ましい。
具体的には、パーフルオロアルキル基として式(2)、パーフルオロポリエーテル基として式(3)で表される基が挙げられる。
Figure 2017121787
Figure 2017121787
(上記式(2)、(3)中、kは3以上の整数であり、p、q、r、sは0または1以上の整数であり、p、q、r、sの少なくとも一つは1以上の整数である。)
これらのフッ素含有基の繰り返し単位の数(k、p、q、r、s)を比較すると、一般に市販の撥液材では、kよりもp、q、r、sの方が大きい場合が多い。そのため、パーフルオロポリエーテル基を有する撥液材の方が、パーフルオロアルキル基を有する撥液材よりも一分子中に多くのフッ素原子を含むため、高い撥液性を示し、好適に用いられる。また、パーフルオロポリエーテル基部分の平均分子量については、小さすぎると撥液性が発現しない場合があること、また大きすぎると溶媒への溶解性が低下してしまうことから、500から20000の化合物である撥液材が好ましい。さらに好ましくは1000から10000である。
さらに、前記フッ素含有化合物としては、高い機械的強度やインク等の溶剤に対する低溶解性が求められるため、無機反応基を有することも好ましく、汎用性の観点から、末端部に加水分解性シリル基を有する化合物も好適に用いられる。
具体的には、前記加水分解性シリル基を含有する化合物としては、式(4)で表されるフッ素含有化合物等が挙げられる。
Figure 2017121787
(式中、Rfはパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基、Rは加水分解性置換基、Yは非加水分解性置換基、Dはカルボニル基を含む酸素原子および窒素原子を有する炭素数1〜12の脂肪族基、Qは炭素数1〜12の有機基である。また、nは1または2である。aは1から3の整数である。)
加水分解性置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、アミノ基、水素原子等が挙げられる。その中でも、汎用性の高いメトキシ基やエトキシ基などのアルコキシ基が好ましい。また、非加水分解性置換基としては、メチル基やエチル基などのアルキル基等が挙げられる。
パーフルオロポリエーテル基を有する加水分解性シラン化合物の好ましい具体例としては、式(5)で表される化合物等が挙げられる。
Figure 2017121787
(式中、tは3から60の整数である。)
また、前記加水分解性シリル基を含有するフッ素含有化合物は、吐出口形成部材となる光カチオン重合性樹脂層との反応性および機械強度、インク耐性の観点から、パーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基を有する加水分解性シラン化合物(フッ素含有モノマーともいう)と、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物(カチオン重合性基含有モノマーともいう)と、を含む縮合物等も好適に用いられる。カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物の存在により、フッ素含有化合物と吐出口形成部材である光カチオン重合性樹脂層との間で、カチオン重合開始剤の存在下、カチオン重合性基の反応により、エーテル結合が形成される。この結果、機械的強度、インク耐性が向上する。
さらには、上記加水分解性シラン化合物に加えて、アルキル置換の加水分解性シラン化合物(アルキル基含有モノマーともいう)を含んだ縮合物等も、より好適に用いられる。アルキル置換の加水分解性シラン化合物の存在により、フッ素含有基の自由度が向上する。このため、パーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基を有する加水分解性シラン化合物の空気界面側への配向が促進される。また、アルキル基等の存在により、アルカリ性を有するインク等によるシロキサン結合の開裂が抑制され、撥液性、インク耐性が向上する。
また、本発明におけるフッ素含有化合物は被膜性を向上させるために、式(6)に示すフッ素含有基との結合を有するカルボニル基を含むフッ素含有モノマーユニットを含む重合体として、使用することも好ましい。
Figure 2017121787
(式中、Rfはパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基、Aは直接結合、酸素原子、窒素原子、酸素原子および窒素原子を有しても良い炭素数1〜4の脂肪族基、Qは炭素数1〜12の有機基、Zは水素原子またはメチル基である。)
なお、式(6)に示すモノマーユニットを用いる際は、上述の理由により、式(7)に示すカチオン重合性基含有モノマーユニットおよび式(8)に示すモノマーユニットを含む共重合体として用いることもより好ましい。
Figure 2017121787
(式中、Rcはカチオン重合性基、Aは直接結合、酸素原子および窒素原子を有しても良い炭素数1〜12の直鎖、分岐または環状の脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族基、ウレタン基、または−CH2CH(OT)CH2−基(但し、Tは水素原子またはアセチル基(CHCO−))、Qは炭素数1〜12の有機基、Zは水素原子またはメチル基である。)
Figure 2017121787
(式中、Rdはアルキル基、アリール基、または加水分解性シリル基、Aは直接結合、酸素原子および窒素原子を有しても良い炭素数1〜12の直鎖、分岐または環状の脂肪族基、酸素原子を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族基、ウレタン基、または−CH2CH(OT)CH2−基(但し、Tは水素原子またはアセチル基(CHCO−))、Qは炭素数1〜12の有機基、Zは水素原子またはメチル基である。)
特に、式(6)〜(8)のモノマーユニットは、Qが炭素数1のメチレン基であり、Aが酸素原子をカルボニル基側に有する(メタ)アクリレートユニットであることが好ましい。また、式(7)中のRcで表されるカチオン重合性基とは、エポキシ基、ビニルエーテル基、オキセタニル基等のカチオン重合性樹脂と同様の官能基が挙げられる。式(8)はRdがアルキル基であるアルキル基含有モノマーユニットであることが好ましい。
このように、前記フッ素含有化合物は、前記フッ素含有基との結合を有するカルボニル基を含むフッ素含有モノマーとカチオン重合性基含有モノマーの重合物もしくは縮合物であることが好ましい。さらにこれらに加えて、アルキル基含有モノマーを含む重合物もしくは縮合物であることがより好ましい。また、撥液層を形成する基材となる吐出口形成部材との密着性の点では、フッ素含有モノマー、カチオン重合性基含有モノマーおよびアルキル基含有モノマーのうち少なくとも一つは加水分解性シリル基を含むことが好ましい。
撥液層5は、例えば前記フッ素含有化合物を適宜溶媒に溶解した溶液を、スピンコート法、スリットコート法、ロールコート法、ディップコート法および真空蒸着法等によって形成できる。撥液層5の厚さは、十分な撥液性、耐久性を得るために、50nmから10000nmであることが好ましく、80nmから5000nmであることがより好ましい。膜厚が50nm以上であることにより、均一な撥液性と十分な耐久性が得られる。また膜厚が10000nm以下であることにより、パターンの変形や解像性の低下等のパターニング特性の低下を抑制することができる。
次に、第1の露光工程を行う(図2(d))。第1の露光工程では、光カチオン重合性樹脂層4および撥液層5の硬化領域に対して、撥液層5の上方から第1のマスク6を用いて第1の露光光7の照射を行う。第1の露光光7としては、光カチオン重合開始剤から酸を発生さるための波長を照射すればよいが、フッ素含有化合物の分解波長は含まない、例えばi線を用いることができる。本実施形態では、第1の露光光7の照射領域では、光カチオン重合性樹脂層4に存在する光カチオン重合開始剤から発生した酸が撥液層5に拡散する。その結果、撥液層5がカチオン重合性基を有する場合、光カチオン重合性樹脂層4と撥液層5では、カチオン重合性基の反応によりエーテル結合が生成され、機械的強度およびインク耐性が向上する。また、撥液層5が加水分解性シラン化合物を有する場合、撥液層5では、空気中の水分を伴った加水分解が起こり、シラノール基が生成される。さらに、前記酸の存在により脱水縮合反応が促進され、シロキサン結合が生成され、機械的強度が向上する。また、シラノール基と光カチオン重合性樹脂層のカチオン重合性基や水酸基との反応により、機械的強度およびインク耐性が向上する。これらの作用により、第1の露光光7の照射領域では、光カチオン重合性樹脂層4および撥液層5の一括硬化が可能となり、密着性が確保される。第1の露光光の照射領域の撥液層5は撥液領域11となる。撥液領域11は少なくとも吐出口12の周囲に形成する。
次に、第2の露光工程を行う(図2(e))。第2の露光工程は、第2のマスク8を用いて、前記第1の露光工程で形成された撥液層5の撥液領域11に対して、所望の非撥液領域10を形成するための露光を行う。この際、第1の露光工程とは異なるフッ素含有化合物の分解波長、例えば300nm以下の波長を含む第2の露光光9を照射することにより、撥液領域11中のフッ素含有化合物を分解し、撥液性を低下させ、非撥液領域10を形成する。本発明における非撥液領域10は、フッ素含有化合物を分子レベルで分解し、フッ素含有基のみを離脱させることで、撥液性を低下させるものである。そのため、後述する現像工程においても、撥液領域11自体は第1の露光工程で硬化しているため除去されず、非撥液領域10と撥液領域11の間では、段差が発生しない。なお、非撥液領域10は特に限定されないが、インクジェット記録ヘッドの吐出設計により、適宜形成領域が決定される。
次に、光カチオン重合性樹脂層4および撥液層5の一括硬化を促進する目的で加熱処理を行う(図2(f))。加熱処理を行うことで、第1の露光工程における露光部の反応が促進され、後の現像工程に対する耐性を付与することができる。加熱処理は、例えばホットプレートを用いて行うことができる。加熱処理の温度は特に限定されないが、例えば70℃から100℃とすることができる。また、加熱処理の時間は特に限定されないが、例えば3分から5分とすることができる。
次に、光カチオン重合性樹脂層4および撥液層5の第1の露光工程における未露光部分を現像により除去することで、吐出口12を形成する(図2(g))。また、この際に第2の露光工程における分解物も除去される。現像に用いる現像液としては、未露光部分の光カチオン重合性樹脂層4を現像可能な溶液であれば特に制限されない。前記現像液としては、例えばMIBK(メチルイソブチルケトン)およびキシレンの混合液等を用いることができる。
次に、基板1に供給口14を形成する。その後、型材3を除去することにより流路13を形成する(図2(h))。供給口14は、基板1がシリコン基板の場合には、例えばアルカリ溶液による異方性エッチングにより形成することができる。流路13は、例えば型材3を溶解可能な溶媒に基板1を浸漬し、型材3を除去することで形成することができる。また、必要に応じて、型材3を感光可能な活性エネルギー線を用いて露光し、型材3の溶解性を高めてから除去してもよい。その際は、撥液領域11内のフッ素含有化合物を分解しない波長で露光を行う。その後、エネルギー発生素子2を駆動させるための電気的接合を行う。さらに、インク供給のためのインク供給部材等を接続することで、インクジェット記録ヘッドを作製することができる。
[第2の実施形態]
図3は本発明の製造方法の第2の実施形態を示す図である。図3(a)から図3(d)は、図2(a)から図2(d)までと同様であり、説明を省略する。次に、第1の露光工程の照射領域の一括硬化を促進する目的で加熱処理を行う(図3(e))。次に、図3(f)に示すように、光カチオン重合性樹脂層4および撥液層5の第1の露光工程における未露光部分を現像により除去し、吐出口12を形成する。その後、第2の露光工程(図3(g))を実施して、非撥液領域10を形成し(図3(h))、図2(h)と同様に、供給口14を形成後、型材3を除去することにより、流路13の形成(図3(i))を実施してもよい。
[第3の実施形態]
また、図4は本発明の製造方法の第3の実施形態を示す図である。図4(a)、(b)は、図2(a)、(b)と同様であり、説明を省略する。次に、基板上に形成した光カチオン重合性樹脂層4に対して、第1のマスク6を用いて、吐出口以外の領域を露光する第1の露光工程を実施する(図4(c))。続いて、加熱処理により、第1の露光工程における照射領域を硬化させ(図4(d))、未露光部分を現像により除去し、吐出口12を形成する(図4(e))。その後、撥液層材料を塗布し、全面露光あるいは加熱により硬化して撥液領域11を形成(図4(f))し、第3のマスク15を用いて、第2の露光工程(図4(g))を実施する。この際、第3のマスク15は、非撥液領域10と共に吐出口12内部も露光出来るマスクパターンとする。これにより、吐出口12内に侵入したフッ素含有化合物が分解され、撥液性が低下した非撥液領域10を吐出口12内にも形成できる。その後は、図2(h)と同様に、基板1に供給口14を形成し、型材3を除去することにより、流路13を形成する(図4(i))。型材3を除去する際に、型材3上の分解したフッ素含有化合物も同時に除去され、吐出口12と流路13とが連通する。図4(g)における撥液層材料の塗布は、吐出口12内部に侵入するフッ素含有化合物量が極力少なくなる形成方法、例えば、スリットコート法などを採用することが好ましい。なお、図4(c)の第1の露光工程は、撥液層5の形成前であることから、300nm以下の波長を含む露光光を用いることも可能となり、光カチオン重合性樹脂層4の材料選択の範囲を拡げることができる。
[第4の実施形態]
本発明では吐出口形成部材16を流路壁部材と別部材とする場合にも適用できる。このような部材は板状の部材に吐出口12を形成していることからオリフィスプレートとも称される。以下、オリフィスプレート16という。オリフィスプレート16として、Si、SiO、SiN、石英ガラスのようなシリコン系材料、Al、Fe、Ni、Cuまたはこれらを含む合金のような金属系材料、アルミナ、酸化鉄のような酸化物材料、カーボンブラック、グラファイトのような炭素系材料、ポリイミドのような樹脂系材料を用いることができる。図5は、オリフィスプレート16に撥液領域と非撥液領域とを有する撥液層を形成する工程を説明する工程断面図である。まず、レーザー照射やドライエッチングによる加工等により、オリフィスプレート16に吐出口12を形成する(図5(a))。次に、オリフィスプレート16の図1に示す上表面となる第1面に対して、撥液層5を形成(図5(b))し、加熱処理等により、撥液領域11を形成する(図5(c))。その後、第4のマスク17を用いて、フッ素含有化合物の分解波長を照射する露光工程を実施し(図5(d))、非撥液領域10を形成する(図5(e))。この際、第4のマスク17は、非撥液領域10と共に吐出口12内部も露光出来るマスクパターンとする。これにより、吐出口12内に侵入したフッ素含有化合物を分解させ、撥液性を低下させることができる。
なお、図6に示すように、吐出口が形成されたオリフィスプレート16(図6(a))の第1面に対向する第2面(裏面)にまで形成された撥液層5(図6(b))および撥液領域11(図6(c))に対しても本発明は適用できる。オリフィスプレート16の第2面は流路13の天井となる部分であるため、撥液性を低下させることが好ましい。オリフィスプレート16の第2面および吐出口内に形成された撥液層5の撥液性を低下させることを目的として、撥液層5を形成後に、オリフィスプレート16の第2面側から、フッ素含有化合物の分解波長を含む光を照射する露光工程を実施する(図6(d))。その後、第5のマスク18を用いてオリフィスプレート16の第1面から、フッ素含有化合物の分解波長を含む第2の露光光9を照射する露光工程を実施し(図6(e))、非撥液領域10を形成する(図6(f))。
本実施形態の撥液層の形成は、流路壁部材との接合前に実施される。また、図5の工程は、流路壁部材と接合した後に行うこともできる。なお、流路壁部材は、ポジ型またはネガ型の感光性樹脂を用いて、公知のフォトリソグラフィーなどにより形成することができる。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
[実施例1]
図2に示す工程により、インジェット記録ヘッドを作製した。まず、エネルギー発生素子2を設けた基板1上に、インク流路13の型となるポジ型感光性樹脂としてポリメチルイソプロペニルケトン(商品名、「ODUR−1010」、東京応化工業(株)製)をスピンコート法により塗布した。続いてこれを120℃で6分間熱処理することで、厚さ14μmのポジ型感光性樹脂層を形成した。次いで、露光装置UX3000(商品名、ウシオ電機(株)製)によってインク流路のパターンを露光した。さらに、MIBK(メチルイソブチルケトン)を用いてポジ型感光性樹脂層の露光部を現像した後に、IPA(イソプロピルアルコール)でリンス処理を行うことで型材3を形成した(図2(a))。
次に、吐出口12を形成するための光カチオン重合性樹脂層4からなる吐出口形成部材として、表1に示す組成の光カチオン重合性樹脂をスピンコート法により塗布した。続いてこれを、60℃で9分間熱処理を行うことで、前記型材3と前記基板1上に前記型材3上の厚さが25μmとなる光カチオン重合性樹脂層4を形成した(図2(b))。
Figure 2017121787
次に、撥液層5を形成するためのフッ素含有化合物として、下式(5)で表される化合物とグリシジルプロピルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、とからなる縮合物を2−ブタノールおよびエタノールで希釈した。これを未硬化の光カチオン重合性樹脂層4上にスリットコート法により塗布し、70℃で3分間熱処理を行うことで、前記希釈溶剤を揮発させ、前記光カチオン重合性樹脂層4上の厚さが0.5μmとなる撥液層5を形成した(図2(c))。
Figure 2017121787
(式中、tは3から10の整数である。)
次に、第1の露光工程を行った。i線露光ステッパー(キヤノン(株)製)を用いて、吐出口12形成部分が未露光部分となるように、第1のマスク6を介して、4000J/mで露光した(図2(d))。
次いで、第2の露光工程を行った。吐出口12に対応する領域を除き、非撥液領域10を形成する領域を、第2のマスク8を介して、エキシマレーザーステッパー(商品名MA200compact、ズース・マイクロテック(株)製)により、270nm以下の波長を用いて、150J/mで露光した(図2(e))。
次いで、95℃で4分間熱処理を行った(図2(f))。その後、キシレン/MIBK(メチルイソブチルケトン)混合液(質量比6/4)で現像し、キシレンでリンス処理を行うことで、吐出口12を形成した(図2(g))。図8に、この吐出口12、撥液領域11、非撥液領域10を有するインクジェット記録ヘッドの吐出口表面の模式図を示す。
次に、アルカリ溶液であるTMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)を用いて、TMAH耐性を有する樹脂組成物をエッチングマスクとして、基板1に対して異方性エッチングを行い、供給口14を形成した。その後、基板1を乳酸メチルに浸漬することで、型材3を溶解除去し、流路13を形成した(図2(h))。
その後、エネルギー発生素子2を駆動させるための電気的接合を行った。さらに、インク供給のためのインク供給部材等を接続し、インクジェット記録ヘッドを作製した。後述する評価方法で、このインクジェット記録ヘッドを評価した。なお、作製したインクジェット記録ヘッドの撥液領域および非撥液領域について、DropMeasure(商品名、(株)マイクロジェット製)を用いて、純水に対する動的後退接触角θrの測定を行ったところ、撥液領域は97度、非撥液領域は56度であった。
[実施例2]
図9に示すインクジェット記録ヘッドの吐出口表面の模式図のように吐出口12、撥液領域11と非撥液領域10を形成した以外は、実施例1と同様にインクジェット記録ヘッドを作製し、評価した。作製したインクジェット記録ヘッドの撥液領域および非撥液領域の純水に対する動的後退接触角θrはそれぞれ、97度と54度であった。
[実施例3]
フッ素含有化合物として、下式(9)の各モノマー単位を25:25:50のモル比で含む共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にインクジェット記録ヘッドを作製し、評価した。作製したインクジェット記録ヘッドの撥液領域および非撥液領域の純水に対する動的後退接触角θrはそれぞれ、95度と55度であった。
Figure 2017121787
[実施例4]
図3に示すように、第2のマスク8を用いた第2の露光工程を、吐出口12を形成した後に行った(図3(g))以外は、実施例1と同様にインジェット記録ヘッドを作製し、評価した。作製したインクジェット記録ヘッドの撥液領域および非撥液領域の純水に対する動的後退接触角θrはそれぞれ、97度と60度であった。
[実施例5]
図4に示すように、吐出口12を形成した後に、撥液層内の撥液領域11の形成(図4(f))および第3のマスク15を用いて、第2の露光工程を行った(図4(g))以外は、実施例1と同様にインジェット記録ヘッドを作製し、評価した。作製したインクジェット記録ヘッドの撥液領域および非撥液領域の純水に対する動的後退接触角θrはそれぞれ、95度と60度であった。
[実施例6]
図5に示す工程により、インジェット記録ヘッドを作製した。まず、Siからなる基板に対して、ドライエッチングにより吐出口12を形成し、吐出口形成部材16とした(図5(a))。次に、撥液層5を形成するためのフッ素含有化合物として、前記式(5)で表される化合物をハイドロフルオロエーテルで希釈して、前記吐出口形成部材16上にスピンコート法により塗布(図5(b))した。これを90℃で5分間熱処理することで、前記希釈溶剤を揮発させ、前記吐出口形成部材16上の厚さが0.1μmとなる撥液層内の撥液領域11を形成した(図5(c))。次に吐出口12内および吐出口表面の非撥液領域10に対応する領域を、第4のマスク17を介して、実施例1と同様に、270nm以下の波長光を、200J/mで照射して露光し(図5(d))、非撥液領域10を形成した(図5(e))。その後、前記吐出口形成部材16の吐出口12に連通するインク流路と圧電素子が具備された基板に、前記吐出口形成部材16を貼り合わせた(不図示)。さらに、インク供給のためのインク供給部材を接続し、インクジェット記録ヘッドを作製し、評価した。作製したインクジェット記録ヘッドの撥液領域および非撥液領域の純水に対する動的後退接触角θrはそれぞれ、103度と65度であった。
[実施例7]
図6に示すように、フッ素含有化合物として、前記式(5)で表される化合物をハイドロフルオロエーテルで希釈した溶液を用い、真空蒸着法により、吐出口形成部材16の上の厚さが0.1μmとなる撥液層5を形成した(図6(b))。蒸着の具体的な条件は、前記溶液をロータリーポンプにより10−1Pa程度まで減圧し、その状態で室温から徐々に450℃まで昇温させることで蒸着した。蒸着後、90℃で5分間熱処理を行うことで、撥液領域11を形成した(図6(c))。その後、吐出口形成部材16の裏面からフッ素含有化合物を分解する波長の照射を行った(図6(d))。次に、実施例1と同様に第5のマスク18を介して、270nm以下の波長光を、200J/mで照射して露光し(図6(e))、非撥液領域10を形成した(図6(f))。その後、前記吐出口形成部材16の吐出口12に連通するインク流路と圧電素子が具備された基板に、前記吐出口形成部材16を貼り合わせた(不図示)。さらに、インク供給のためのインク供給部材を接続し、インクジェット記録ヘッドを作製し、評価した。作製したインクジェット記録ヘッドの撥液領域および非撥液領域の純水に対する動的後退接触角θrはそれぞれ、106度と70度であった。
[実施例8]
吐出口12を有する吐出口形成部材16として、SUS304を用いた以外は、実施例6と同様にインクジェット記録ヘッドを作製し、評価した。作製したインクジェット記録ヘッドの撥液領域および非撥液領域の純水に対する動的後退接触角θrはそれぞれ、102度と60度であった。
[比較例1]
比較のために、パーフルオロデシルエチルトリエトキシシラン、グリシジルプロピルトリエトキシシランおよびメチルトリエトキシシラン、とからなる縮合物を2−ブタノールおよびエタノールで希釈した溶液に、酸化チタン分散体(商品名、「TKD−701」、テイカ(株)製)をMIBKで希釈した溶液を加えた混合液を用いて、撥液層を形成したインクジェット記録ヘッドを作製した。以下に図7を用いて、前記インクジェット記録ヘッドについて説明する。なお、エネルギー発生素子、型材、光カチオン重合性樹脂層は、実施例1と同様のものを用いた。
実施例1と同様に、エネルギー発生素子2を設けた基板1上に、ポリメチルイソプロペニルケトンを塗布、パターニングしてインク流路のパターンとなる型材3を形成し、さらにその上に光カチオン重合性樹脂層4、撥液層5を形成した(図7(a))。次いで、i線露光ステッパー(キヤノン(株)製)を用いて、吐出口12形成部分が未露光部分となるように、第1のマスク6を介して4000J/mで露光した(図7(b))。続いて、実施例1と同様に加熱処理および現像処理を行い、吐出口12を形成した(図7(c))。その後、非撥液領域10を形成するために、第2のマスク8を介して、LC5(商品名、浜松ホトニクス(株)製)により、紫外線を20分間照射した(図7(d))。前記紫外線の照射により、光触媒粒子である酸化チタンが活性化し、その照射部分が非撥液領域となる。その後、実施例1と同様に、供給口14を形成し、流路パターンを形成する型材3を溶解除去することで(図7(e))、インジェット記録ヘッドを作製し、評価した。作製したインクジェット記録ヘッドの撥液領域および非撥液領域の純水に対する動的後退接触角θrはそれぞれ、95度と30度であった。
[比較例2]
フッ素含有化合物として、式(10)で表される化合物とグリシジルプロピルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、とからなる縮合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録ヘッドを作製した。
Figure 2017121787
作製したインクジェット記録ヘッドの撥液領域および非撥液領域の純水に対する動的後退接触角θrはそれぞれ、91度と75度であった。
[評価]
作製したそれぞれのインクジェット記録ヘッドに黒インクを充填し、70℃、3ヵ月保存した。その後、A4サイズの3万枚印字後の印字品質を評価した。評価結果を表2に示す。
Figure 2017121787
実施例1から8で作製したインクジェット記録ヘッドでは、3万枚の印字終了後も印字品位の低下は見られなかった。これに対し、比較例1で作製したインクジェット記録ヘッドでは、フッ素含有基と結合を有するカルボニル基を含むフッ素含有化合物以外のフッ素化合物を用い、酸化チタンの光触媒効果により撥液領域と非撥液領域とを形成した。その結果、印字品位の低下が見られた。また、比較例2で作成したインクジェット記録ヘッドでは、フッ素含有基と結合を有するカルボニル基を含むフッ素含有化合物を用いているが、撥液領域と非撥液領域との純水に対する接触角の差が30度未満であり、印字品位の低下が見られた。一方、本発明の実施例では、フッ素含有基と結合を有するカルボニル基を含むフッ素含有化合物を用いるとともに、撥液層内に純水に対する接触角が80度以上となる撥液領域と、純水に対する接触角が前記撥液領域よりも30度以上低い非撥液領域を形成した。この結果、撥液層が長期にわたり安定してインクミストを非撥液領域に集め、インク滴の吐出口への引き込みが防止できたためと考えられる。
また、作製したそれぞれのインクジェット記録ヘッドに黒インクを充填し、A4サイズの記録紙11枚に対して、全吐出口からインクを吐出させるベタ印字を連続で行い、インクミストから生成したインク滴がノズルに引き込まれる事で不吐出が発生するか観察した。不吐出の観察は、ベタ印字の白スジ(不吐出)を目視確認することで行った。評価の基準は以下の通りである。
A:白スジが0本ないし1本しか認識できない。
B:2本から4本の白スジが認識される。
C:5本以上の白スジが認識される。
評価結果を表3に示す。
Figure 2017121787
上記結果より明らかなように、本発明により、撥液層内に、純水に対する接触角が80度以上となる撥液領域と、純水に対する接触角が前記撥液領域よりも30度以上低い非撥液領域を正確な位置精度で形成することで、連続印字での印字品位を保つことができた。より具体的には、連続した長期間の高周波駆動において、高印字スピードで、高デューティで、記録を実行する場合においても、発生するインクミストを非撥液領域に留めておくことができ、インク滴の吐出口への引き込みを防止することができた。上記評価では、黒インクを用いて評価を行ったが、複数の色を同時に駆動させた場合でも同様のことが言える。
1 基板
2 エネルギー発生素子
3 型材
4 光カチオン重合性樹脂層
5 撥液層
6 第1のマスク
7 第1の露光光
8 第2のマスク
9 第2の露光光(フッ素含有化合物の分解波長)
10 非撥液領域
11 撥液領域
12 吐出口
13 流路
14 供給口
15 第3のマスク
16 吐出口形成部材(オリフィスプレート)
17 第4のマスク
18 第5のマスク

Claims (15)

  1. 基材上にフッ素含有基と結合を有するカルボニル基を含むフッ素含有化合物からなる撥液層を形成する工程と、
    前記撥液層に前記フッ素含有化合物を分解する波長を含む光を照射して、前記撥液層の撥液性を部分的に低下させて、前記撥液層内に、純水に対する接触角が80度以上となる撥液領域と、純水に対する接触角が前記撥液領域よりも30度以上低い非撥液領域を形成する工程と、
    を含むことを特徴とする部分撥液領域形成方法。
  2. 前記フッ素含有化合物は、前記フッ素含有基と前記カルボニル基が直接結合して、あるいは酸素原子、イミノ基(−NR−:Rは水素原子、炭素数1〜12の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基)、酸素原子および窒素原子を有しても良い炭素数1から4の脂肪族基を介して、結合してなることを特徴とする請求項1に記載の部分撥液領域形成方法。
  3. 前記フッ素含有化合物がパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基を有することを特徴とする請求項1または2に記載の部分撥液領域形成方法。
  4. 前記フッ素含有化合物は、前記フッ素含有基との結合を有するカルボニル基を含むフッ素含有モノマーとカチオン重合性基含有モノマーの重合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の部分撥液領域形成方法。
  5. 前記重合物は、前記フッ素含有基との結合を有するカルボニル基を含むフッ素含有モノマーと前記カチオン重合性基含有モノマーに加えて、さらにアルキル基含有モノマーを含む重合物であることを特徴とする請求項4に記載の部分撥液領域形成方法。
  6. 前記フッ素含有基との結合を有するカルボニル基を含むフッ素含有モノマー、前記カチオン重合性基含有モノマー、前記アルキル基含有モノマーのうち少なくとも一つは加水分解性シリル基を有することを特徴とする請求項5に記載の部分撥液領域形成方法。
  7. 前記フッ素含有化合物を分解する波長が前記フッ素含有化合物のフッ素含有基とカルボニル基の結合を分解する波長を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の部分撥液領域形成方法。
  8. 液体を吐出するために利用される素子を有する基板と、液体を吐出するための吐出口、および前記吐出口と連通する流路を有するインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、前記吐出口を形成する部材の外部に露出する第1面に請求項1〜7のいずれか1項に記載の部分撥液領域形成方法により撥液領域と非撥液領域とを形成する工程を含むことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
  9. 前記吐出口の周囲に前記撥液領域を形成することを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
  10. 前記吐出口を形成する部材が樹脂系材料、シリコン系材料、金属系材料、酸化物材料、炭素系材料のいずれかであることを特徴とする請求項8または9に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
  11. 前記撥液層を、前記吐出口を形成する部材に吐出口を形成した後に形成し、前記撥液層に前記フッ素含有化合物を分解する波長を含む光を照射する際に、前記吐出口内の前記撥液層にも照射して非撥液領域とする請求項8〜10のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
  12. 前記吐出口を形成する部材は、前記流路の壁部を構成する部材と別部材であり、前記壁部を構成する部材と接合する前に、前記撥液層に非撥液領域を形成する請求項11に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
  13. 前記吐出口を形成する部材は前記第1面に対向する第2面にも前記撥液層を形成した後、該第2面の撥液層に光照射して非撥液領域とする工程を有する請求項12に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
  14. 前記樹脂系材料が光カチオン重合開始剤とカチオン重合性樹脂を含む感光性樹脂からなることを特徴とする請求項10または11に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
  15. 前記撥液層を形成する材料を前記感光性樹脂からなる層の上に形成した後、前記吐出口の形成を前記フッ素含有化合物のフッ素含有基とカルボニル基の結合を分解する波長を含まない光を照射して、前記感光性樹脂からなる層および撥液層に一括して前記吐出口を形成するための露光を行う、請求項14に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
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