単結晶基板上に堆積させたピコ結晶ボラン固体の高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)によって得られた顕微鏡写真である。
単結晶シリコン基板のHRTEM高速フーリエ変換(FFT)画像である。
ピコ結晶ボラン固体のFFT画像である。
単結晶シリコン基板のHRTEM回折強度の格子面間隔dに対するグラフである。
ピコ結晶ボラン固体のHRTEM回折強度の格子面間隔dに対するグラフである。
自己組織化ピコ結晶ボラン固体の通常のω‐2θX線回折(XRD)パターンである。
図6と同じ自己組織化ピコ結晶ボラン固体の微小角入射X線回折(GIXRD)走査である。
図6において走査されたものと同じ自己組織化ピコ結晶ボラン固体の第2のGIXRD走査である。
対称的な核配置を有する正ホウ素二十面体の図であって、デバイ力によって結合した4つの水素とともに示されている。
単結晶シリコン単位胞の図である。
ダイヤモンド状ピコ結晶単位胞の図である。
ドナードープ領域に堆積させたシラホウ化物(silaboride)膜の図である。
実施例1のピコ結晶シラホウ化物固体のGIXRD走査のグラフである。
実施例2に従ってドナードープシリコン領域に堆積させたオキシシラボラン膜の図である。
実施例2による薄いオキシシラボラン固体の通常のω‐2θXRD走査のグラフである。
実施例2による薄いオキシシラボラン固体のGIXRD走査のグラフである。
実施例3に従ってn型シリコン基板上に堆積させたシラボラン膜の図である。
実施例3において堆積させたシラボラン膜のX線光電子分光法(XPS)の深さプロファイルである。
実施例3において堆積させたシラボラン膜のオージェ電子分光法(AES)の深さプロファイルである。
実施例4に従ってp型シリコン基板上に堆積させたシラボラン膜の図である。
実施例4において堆積させたシラボラン膜のX線光電子分光法(XPS)の深さプロファイルである。
水銀プローブにより得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例4に従って堆積させたシラボラン膜の電流電圧特性の線形グラフである。
水銀プローブにより得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例4に従って堆積させたシラボラン膜の電流電圧特性の両対数グラフである。
実施例5に従ってp型シリコン基板上に堆積させたオキシシラボラン膜の図である。
実施例5において堆積させたオキシシラボラン膜のX線光電子分光法(XPS)の深さプロファイルである。
水銀プローブにより得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例5において堆積させたオキシシラボラン膜の電流電圧特性の線形グラフである。
水銀プローブにより得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例5において堆積させたオキシシラボラン膜の電流電圧特性の両対数グラフである。
実施例6において堆積させたオキシシラボラン膜のX線光電子分光法(XPS)の深さプロファイルである。
水銀プローブにより得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例6において堆積させたオキシシラボラン膜の電流電圧特性の線形グラフである。
水銀プローブにより得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例6において堆積させたオキシシラボラン膜の電流電圧特性の両対数グラフである。
実施例7において堆積させたオキシシラボラン膜のX線光電子分光法(XPS)の深さプロファイルである。
水銀プローブにより得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例7において堆積させたオキシシラボラン膜の電流電圧特性の線形グラフである。
水銀プローブにより得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例7において堆積させたオキシシラボラン膜の電流電圧特性の両対数グラフである。
実施例8において堆積させたオキシシラボラン膜のX線光電子分光法(XPS)の深さプロファイルである。
水銀プローブにより得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例8において堆積させたオキシシラボラン膜の電流電圧特性の線形グラフである。
水銀プローブにより得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例8において堆積させたオキシシラボラン膜の電流電圧特性の両対数グラフである。
実施例9において堆積させたオキシシラボラン膜のX線光電子分光法(XPS)の深さプロファイルである。
水銀プローブにより得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例9において堆積させたオキシシラボラン膜の電流電圧特性の線形グラフである。
水銀プローブにより得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例9において堆積させたオキシシラボラン膜の電流電圧特性の両対数グラフである。
実施例10に従って製造されたオキシシラボラン膜を含むp型アイソタイプ電気化学整流器の図である。
マイクロプローブによってアノード電極及びカソード電極から得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例10による電気化学整流器の電流電圧特性の線形グラフである。
マイクロプローブによってアノード電極及びカソード電極から得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例10による電気化学整流器の異なる電流電圧範囲の線形グラフである。
マイクロプローブによってアノード電極及びカソード電極から得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例10による電気化学整流器の電流電圧特性の両対数グラフである。
マイクロプローブによってアノード電極及びカソード電極から得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例10による電気化学整流器の電流電圧特性の両対数グラフである。
マイクロプローブによってアノード電極及びカソード電極から得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例11による電気化学整流器の電流電圧特性の線形グラフである。
マイクロプローブによってアノード電極及びカソード電極から得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例11による電気化学整流器の異なる電流電圧範囲の線形グラフである。
マイクロプローブによってアノード電極及びカソード電極から得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例11による電気化学整流器の電流電圧特性の両対数グラフである。
マイクロプローブによってアノード電極及びカソード電極から得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例11による電気化学整流器の電流電圧特性の両対数グラフである。
マイクロプローブによってアノード電極及びカソード電極から得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例12による電気化学整流器の第1の電流電圧範囲の線形グラフである。
マイクロプローブによってアノード電極及びカソード電極から得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例12による電気化学整流器の第2の電流電圧範囲の線形グラフである。
マイクロプローブによってアノード電極及びカソード電極から得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、実施例12による電気化学整流器の第3の電流電圧範囲の線形グラフである。
実施例12による整流器の順方向バイアス電流電圧特性の両対数グラフである。
実施例12による整流器の逆方向バイアス電流電圧特性の両対数グラフである。
実施例13に従って製造されたシラボラン膜を含む電気化学デバイスの図である。
マイクロプローブによって得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、図54(実施例13)による電気化学整流器の電流電圧特性の線形グラフである。
マイクロプローブによって得られる掃引信号を用いてHP‐4145パラメーター分析器によって測定された、図54(実施例13)による電気化学整流器の第2の範囲の電流電圧特性の線形グラフである。
実施例13による整流器の順方向バイアス電流電圧特性の両対数グラフである。
実施例13による整流器の逆方向バイアス電流電圧特性の両対数グラフである。
ディラックの相対論的波動方程式に従ったエネルギー準位を包含するエネルギー準位図である。
金などの有意不純物原子の混入によって達成されると考えられる占有エネルギー準位を表すエネルギー準位図である。
不均化前のピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5に特有であると考えられる占有エネルギー準位を表すエネルギー準位図である。
ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5の不均化により、負にイオン化されたピコ結晶人工ボラン原子B12
2-H4 101における価電子による占有エネルギー準位を反映すると考えられるエネルギー図を表す。
ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5の不均化により、負にイオン化されたピコ結晶人工ボラン原子B12
2-H4 101における価電子による占有エネルギー準位を反映すると考えられるエネルギー図を表す。
アルミニウム領域が介在する、複数対の結合したピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5領域とピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+を含む熱光起電力ダイオードを表す。
Longuet-HigginsとRobertsによって採用された方法により、立方体に内接させた正二十面体を表す。
異なる記号体系を除きLonguet-HigginsとRobertsによる論文の図3に示されている12の接線方向原子軌道Ψi(p<100>)を表す。
異なる記号体系を除きLonguet-HigginsとRobertsによる論文の図2に示されている12の接線方向原子軌道Ψi(p{111})を表す。
外接立方体の実験室フレームフィールド内の共回転デカルト軸(corotating Cartesian axes)により存在することが提案されている12の接線方向原子軌道Ψi(p{111})の付加的な非局在化等価集合(delocalized equivalent sets)を表す。
外接立方体の実験室フレームフィールド内の共回転デカルト軸により存在することが提案されている12の接線方向原子軌道Ψi(p{111})の付加的な非局在化等価集合を表す。
外接立方体の実験室フレームフィールド内の共回転デカルト軸により存在することが提案されている12の接線方向原子軌道Ψi(p{111})の付加的な非局在化等価集合を表す。
24の非局在化接線方向原子軌道Ψi(p{111})に関して3中心結合が描写されている、ホウ素二十面体の提唱されるほぼ対称的な核配置を表す。
図70に示されている正ホウ素二十面体のクラスター化された価電子の提唱されるエネルギー準位を示すエネルギー図を表す。
電子対が+3sp1/2エネルギー準位から低下する、-3sp1/2エネルギー準位の-3s1/2及び-3p1/2エネルギー準位への提唱される第1のディスエンタングルメント(disentanglement)を示すエネルギー図を表す。
4個の電子が+3pd3/2エネルギー準位から低下する、-3pd3/2エネルギー準位の-3p3/2及び-3d3/2エネルギー準位への提唱される第2のディスエンタングルメントを示すエネルギー図を表す。
図62Aの-2sp1/2エネルギー準位の提唱されるディスエンタングルメントを示すエネルギー図を表す。
1対の結合したピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5領域501の第1の最近接ピコ結晶人工ボラン原子101の人工核の提唱される占有電子エネルギー準位を示すエネルギー図を表す。
1対の結合したピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5領域501の第2の最近接ピコ結晶人工ボラン原子101の人工核の提唱される占有電子エネルギー準位を示すエネルギー図を表す。
1対の結合したピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+領域502の第1の最近接ピコ結晶人工ボラン原子101の人工核の提唱される占有電子エネルギー準位を示すエネルギー図を表す。
1対の結合したピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+領域502の第2の最近接ピコ結晶人工ボラン原子101の人工核の提唱される占有電子エネルギー準位を示すエネルギー図を表す。
ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5領域501内の特定の隣接ピコ結晶人工ボラン原子B12
2-H4 101の人工核B12
2-の提唱される占有電子エネルギー準位を示すエネルギー図を表す。
ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5領域501内の特定の隣接ピコ結晶人工ボラン原子B12
2+H4 101の人工核B12
2+の提唱される占有電子エネルギー準位を示すエネルギー図を表す。
ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5領域501内の特定の隣接ピコ結晶人工ボラン原子B12
2-H4 101の人工核B12
2-の提唱される占有電子エネルギー準位を示すエネルギー図を表す。
ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5領域501内の特定の隣接ピコ結晶人工ボラン原子B12
2-H4 101の人工核B12
2-の提唱される占有電子エネルギー準位を示すエネルギー図を表す。
提唱される自発的移動電荷拡散機構を表す。
提唱される自発的移動電荷拡散機構を表す。
提唱される自発的移動電荷拡散機構を表す。
提唱される自発的移動電荷拡散機構を表す。
さらに、提唱される自発的移動電荷拡散機構を表す。
さらに、提唱される自発的移動電荷拡散機構を表す。
さらに、提唱される自発的移動電荷拡散機構を表す。
さらに、提唱される自発的移動電荷拡散機構を表す。
さらにまた、提唱される自発的移動電荷拡散機構を表す。
さらにまた、提唱される自発的移動電荷拡散機構を表す。
さらにまた、提唱される自発的移動電荷拡散機構を表す。
さらにまた、提唱される自発的移動電荷拡散機構を表す。
実施例14に従って製造されたオキシシラボラン膜と金とを含むデバイスの図である。
実施例14において堆積させたオキシシラボラン膜のX線光電子分光法(XPS)の深さプロファイルである。
実施例14によるオキシシラボラン膜605中の金の微量不純物濃度を測定するために行われた二次イオン質量分析(SIMS)である。
実施例14の金膜含有デバイス上に蒸着させた金属電極606及び607を表す。
実施例14によるオキシシラボラン膜605の電流電圧特性のグラフである。
水素の、随意選択的に酸化化学剤の存在下でホウ素水素化物及びケイ素水素化物を加熱することから誘導される、新しい種類の固体組成物が開示される。以下「ピコ結晶オキシシラボラン」と称し、式「(B12H4)xSiyOz」によって表される好ましい物質の組成範囲は、一方の極端に(B12H4)4Si4を、反対の極端に(B12
2-H4)2Si4O2
2+を含み、x、y及びzはそれぞれ、2≦x≦4、3≦y≦5、及び0≦z≦2の好ましい範囲内の数である。ピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzはそれ自体、より広い組成範囲の新規物質に含まれており、また、本明細書において初めて論じられ、以下「オキシシラボラン」と称され、「(B12)xSiyOzHw」によって表され、x、y及びzはそれぞれ、0≦w≦5、2≦x≦4、2≦y≦5、及び0≦z≦3の範囲内の数である。酸素が存在しないときは(z=0)、これらの物質は、水素、ホウ素及びケイ素から形成されるため、単に「シラボラン」と称する。
本発明のピコ結晶オキシシラボランは、ほぼ透明な固体であって、Zachariasenの「The Atomic Arrangement in Glass」, Journal of the American Chemical Society, Vol. 54, 1932, pp. 3841-385によって確立された規則の変更を満たす多形単位胞の連続ランダムネットワークによって構成されていると考えられる。Zachariasenは、酸化物ガラス、より具体的には、非晶質SiO2及び非晶質B2O3に注目した。Zachariasenは、非晶質SiO2がSiO4四面体の連続ランダムネットワークによって形成されることを明らかにした。同様に、ピコ結晶オキシシラボランは、多面体の隅部のそれぞれにほぼ対称的なホウ素二十面体を有する多面体の連続ランダムネットワークによって構成されていると考えられる。
新規オキシシラボラン組成物が非晶質でも単結晶でもなく、代わりに、短距離秩序と長距離秩序との新しい組み合わせを示しているという事実を説明するために、物質の実際の試料から収集されたデータを参照する。図1は、単結晶(001)シリコン基板401上に堆積させたピコ結晶ボラン固体402の高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)によって得られた顕微鏡写真を示している。界面層403は、その堆積の特定の条件によるものである。図2には、単結晶シリコン基板401のHRTEM高速フーリエ変換(FFT)画像が示されている。図3には、ピコ結晶ボラン固体402の同様のFFT画像が示されている。図2におけるシリコン基板401のFFT画像は、長距離周期的並進秩序を有する単結晶(001)シリコン格子に特有のものであるのに対し、図3におけるピコ結晶固体402のFFT画像は、単結晶格子又は非晶質固体に特有ではない短距離秩序を示す。ここで、種々の種類の秩序をさらに定義し、さらに説明する。
ピコ結晶ボラン固体402の短距離秩序をさらに十分に説明するために、図4には、強め合う電子波干渉を支持する原子の平行ブラッグ面間の格子面間隔dに対する、単結晶シリコン基板401のHRTEM回折強度がグラフ表示されている。図4における最高強度のピークは、単結晶シリコン基板401の平行{111}原子面間の3.135Åの格子面間隔dと関連している。図4における他の最高強度のピークは、単結晶シリコン基板401の平行{220}原子面間の1.920Åの格子面間隔dと関連している。HRTEM顕微鏡によって得られた、図5に示されているピコ結晶ボラン固体402のFFT回折パターンには、特異な高強度ピークは生じない。
図3におけるピコ結晶ボラン固体402のFFT画像中の広がった円環は、図5におけるd=2.64Åとd=2.74Åとの間の広がった格子面間隔に関係する。汚い環(smeared ring)の物理的意義をさらに十分に理解するために、図6に示されているように、薄いピコ結晶ボラン固体の通常のω‐2θX線回折(XRD)パターンを考慮することは、非常に有意義である。通常のω‐2θXRD回折パターンでは、X線ビームの入射角ω、及び回折X線ビームの角度2θは相対的に一定に保たれ、X線回折角2θにわたってともにまとまって変化する。そうすることによって、規則的に離間した1組の格子面に、シャープな回折ピークが生じる。また、図6において走査された薄いピコ結晶ボラン固体は、単結晶(001)シリコン基板上に堆積させた。図6に示されている高強度のピークは、単結晶(001)シリコン基板の規則的に間隔が置かれたシリコン格子面からのX線回折と関連している。
図6には、2θ=13.83°及び2θ=34.16°付近に、2つの広がった回折ピークがある。低強度の広がった2つの回折ピークはともに、薄いピコ結晶ボラン固体と関連している。シリコン基板と関連する回折ピークから、薄膜と関連する回折ピークを分離するために、微小角入射X線回折(GIXRD)分光法が用いられた。この種類の分光法は、低入射角(glancing-angle)X線回折とも呼ばれる。これら2つの用語はともに、同じ意味で利用される。図7には、図6において走査されたものと同じピコ結晶ボラン固体のGIXRD走査が示されている。十分に小さな入射角ωでは、GIXRD回折ピークは、単結晶シリコン基板にではなく、薄いピコ結晶ボラン固体に存在する、規則的に間隔が置かれた原子の格子面に起因する。
ピコ結晶ボラン固体は、恐らく、2θ=52.07°の回折角付近での広がった短距離秩序を除いて、図7において非晶質膜であると考えられる。図8に示されているピコ結晶ボラン固体のGIXRD走査では、X線ビームの固定入射角はω=6.53°であり、X線検出器は、2θ=7.0°から2θ=80°までの広範囲の回折角にわたって変化した。図8では、2θ=13.07°において、低強度のシャープなX線ピークが生じる。このX線回折ピークは、d=6.78Åの格子面間隔に相当し、これは、図6における2θ=13.83°付近の広範囲の低強度X線ピークに含まれる。このX線回折ピークは、固定X線入射角ω=6.53°のブラッグ条件に関係する。固定X線入射角ωが変更される場合、別のGIXRD走査における新しいX線入射角ωに対応して、異なるブラッグピークが得られる。X線入射角ωに関係する、この範囲の低強度GIXRDピークは、ピコ結晶ボラン固体が非晶質ではないことを証明する。
しかしながら、その分析は、さらに、ピコ結晶ボラン固体が多結晶ではないことを説明している。多結晶膜は、ランダムに配向された多数の結晶粒から構成され、これによって、多結晶粒のランダムな配向により、GIXRD走査では、規則的な格子面間隔のすべての組がブラッグ条件にされる。図7におけるシャープなピークの欠如は、ランダムに配向された結晶粒がないことを示す。ここで、ピコ結晶ボラン固体の構造は、先行技術における既知の高ホウ素固体には観察されない、ホウ素二十面体がほぼ対称的な核配置を保持するという考えと、実験上の回折データを整合させることによって、説明可能である。
本発明の好適な実施形態は、先行技術において知られていない種類の秩序を含む。本明細書では、長距離周期的並進秩序は、単位胞として知られている空間上の原子による特定の不変配列の規則的な繰り返しと定義され、第1の最近接原子及び第2の最近接原子をはるかに越えて規則的な原子配列において並進移動不変タイリング(translationally-invariant tiling)を形成する。単結晶物質及び多結晶物質は、空間全体にわたって長距離周期的並進秩序を有する。原子位置の周期的な繰り返しは、単結晶物質の全空間にわたって維持される。多結晶物質では、原子位置の周期的な繰り返しは、粒子内の制限された有限の空間にわたって維持され、粒子自体は、多結晶物質の全空間にわたって任意に配向されてよい。本明細書では、ナノ結晶物質は、粒子サイズが300nmから300pmの範囲である特別な多結晶物質である。
本明細書では、短距離周期的並進秩序は、実質的に第1の最近接原子及び第2の最近接原子のみに閉じ込められた空間にわたる原子位置の繰り返しと定義される。離れた中性原子の半径は、30から300pmの範囲に及ぶ。結果として、本明細書に用いられるピコ結晶物質は、第1の最近接天然原子及び第2の最近接天然原子の有限群における原子位置の繰り返しに制限された短距離周期的並進秩序を示す物質である。本明細書に用いられる非晶質物質は、規則的に繰り返される原子の配列を欠いて、X線の強め合う干渉を維持できない物質である。
種々の種類の結晶物質のこれらの定義は、空間における原子位置の繰り返しの許容可能な秩序を十分に説明していると考えられる。しかし、これらの定義は、空間にわたる個々の原子の位置の繰り返しに厳密に基づいているという意味では、制限されたままである。これらの定義は、それほどクラスター化されていない単一の原子にクラスター自体が結合できるように空間に密集して配置された原子のクラスターを含む物質には当てはめることができない。これらの定義は、量子ドットを包含するように拡張される必要があり、量子ドットは、本明細書の目的のために、エネルギー準位の離散的量子化が生じる原子のクラスターと定義される。先行技術における一般的な量子ドットのサイズは、10nm程度である。また、種々の種類の固体結晶物質の上述した定義は、エネルギー量子化とも無関係である。これによって、原子の空間的配列と、さらにエネルギー準位の離散的量子化の存在の両方を包含する新しい定義の必要性が生じる。このため、本明細書では、「ピコ結晶人工原子」は、短距離周期的並進秩序及びエネルギー準位の内部離散的量子化を維持するように互いに結合している、サイズが300pm未満の天然原子のクラスターである。以下にさらに説明するように、天然原子及びピコ結晶人工原子の拡張格子を形成するように、特別な種類のピコ結晶人工原子を、他の天然原子に結合することもできる。本明細書では、天然原子は、周期律表に含まれる安定な化学元素の同位体である。
本発明の実施形態において利用される特定の種類のピコ結晶人工原子は、Jahn-Teller歪みを回避するほぼ対称的な核配置を有したホウ素二十面体である。ほとんどすべての既知の高ホウ素固体中のホウ素二十面体は、Jahn-Teller歪みにより、破れた二十面体対称性を示し、これによって、第1の最近接ホウ素原子及び第2の最近接ホウ素原子は、短距離周期的並進秩序を維持することが可能な空間位置の繰り返しには存在しない。先行技術におけるほとんどのホウ素二十面体は、「The Electronic Structure of an Icosahedron of Boron」という表題の論文(Proceedings of the Royal Society A, Vol. 230, 1955, p. 110)においてLonguet-HigginsとRobertsにより得られた分子軌道によって結合している。
分子軌道分析では、Longuet-HigginsとRobertsは、二十面体対称操作に関して、3中心ホウ素結合の原子軌道を解明していなかった。本明細書に説明されている発明に関して、Longuet-HigginsとRobertsの方法論の一般化による3中心ホウ素結合について説明する分子軌道分析が行われた。その一般化された分子軌道分析は、ほぼ対称的な核配置を有する12のホウ素核102を含むホウ素二十面体を説明し、このホウ素二十面体は、理想的には図9に示されている4つのk<111>波数ベクトルに沿った周期的振動のみに制限されるすべての変位を有するほぼ対称的な回転楕円体を生じるように、24の非局在化原子軌道によって形成され得る。k<111>波数ベクトルに沿った電気四重極モーメントは、水素原子内に電気双極子モーメントを誘起し、これによって、4つの水素核103は、図9に示されているように、デバイ力によって結合する。デバイ力は、水素核103のそれぞれの価電子を、k<111>波数ベクトルに沿って配向させる。上述され、図9に示されているホウ素二十面体101は、より具体的には、「ピコ結晶人工ボラン原子101」と称される。
ピコ結晶オキシシラボランの自己組織化は、ピコ結晶人工ボラン原子101の形態のほぼ対称的な核配置を有するホウ素二十面体による単結晶シリコン格子中のケイ素原子の自己選択的置換を含む。ピコ結晶オキシシラボランに存在する秩序をさらに説明するために、このようなケイ素原子の自己選択的置換の前の、単結晶シリコンの単位胞の特徴的な秩序について説明する。図10の単結晶シリコン単位胞200は、8個のケイ素頂点原子201、6個のケイ素面心原子202とともに、4個のケイ素基盤原子203から構成されている。基盤原子203は、四面体配置において、<111>立方体対角線に沿って存在する。単結晶シリコン単位胞200は、単結晶シリコン格子であって、ケイ素頂点原子201及びケイ素面心原子202が、<111>結晶方位に沿って、ケイ素基盤原子203に共有結合している、またケイ素基盤原子にのみ共有結合している単結晶シリコン格子を形成するように、空間にわたって周期的に並進移動する。得られる単結晶シリコン格子は、<100>化学結合なしで、それぞれの辺に沿って~543pmの立方体単位胞に関して長距離周期的並進秩序を有する。
通常の結晶学的慣例によれば、立方体の辺に沿った、又はこれに平行な結晶方位は、一般に<100>によって表される。特定の<100>方位、例えば、正のy軸に沿った[010]方位が個別に示される。立方体面、又は立方体面に平行な面は、一般に{100}によって表される。特定の{100}面、例えば、[010]方位に対して垂直なxz面は、(010)によって表される。特定の<100>方位、例えば[010]方位は、対応する{100}面、すなわち、この場合では(010)面に対して常に垂直である。さらなる慣例により、立方体対角線に沿った、又はこれに平行な方位は、<111>によって表される。二十面体の面には2つの分類があり、<111>立方体対角線に対して垂直な{111}面によって、8の二十面体の面が構成され、また、<100>方位に沿って対をなして交差する面によって、12の二十面体の面が構成される。一般化された分子軌道分析は、3中心ホウ素結合の原子軌道が{111}面の辺に沿って存在することを予測する。
ここで、上述のピコ結晶人工ボラン原子101は、半導体製造における既存の制約に対処するのに利用することができる。単結晶シリコン単位胞200の寸法の不変性は、<111>結晶方位に沿ったケイ素基盤原子203の空間的な変位による広範囲の価電子固有状態変化の存在下で維持される。ケイ素頂点原子201及びケイ素面心原子202が理想的には静止している一方で、ケイ素基盤原子203が<111>立方体対角線に沿って変位できることが非常に重要である。価電子固有関数の固有状態の変化は、電子固有関数の空間的拡張の変化を含む。単結晶シリコンのダイヤモンド格子は、構成単位胞の格子定数が不変であることにより、機械的作用なしに、価電子固有状態の広範な変化を維持する。基盤原子203は、長距離周期的並進秩序を補完する長距離<111>結合配向秩序を維持する。
機械的作用が存在しない状態において固体単結晶シリコン格子が固有状態の広範な変化を維持する能力を利用する実際的な手段は、まさしくその構造によって基本的に制限される。第一に、単結晶シリコンは、単結晶シリコン基板上にのみエピタキシャルに堆積させることができる。第二に、単結晶シリコン格子の終端では、電気的に接触するように、伝導バンドの底部と価電子バンドの頂部との間の禁制エネルギー領域(forbidden energy region)内に電気化学ポテンシャルをピニングするTamm-Shockley状態が生じる。電気化学ポテンシャルのこのピニングによって、電極の金属仕事関数とは無関係に整流接触が生じる。例として、Bardeenの「Surface States at a Metal Semi-Conductor Contact」, Phys. Rev. 10, No. 11, 1947, p.471を参照されたい。したがって、Tamm-Shockley界面準位密度が実質的に減少することが望ましい。
十分に確立された処理技術によって、Tamm-Shockley界面準位密度の実質的な減少は、非晶質二酸化ケイ素膜を用いて結晶シリコン領域を終端することにより達成でき、これによって、表面電気化学ポテンシャルは、デバイスの動作において、禁制エネルギー領域全体にわたって調節することができる。電界効果トランジスターは、介在する二酸化ケイ素薄膜を介し、容量結合電極によって単結晶シリコン表面の導電率を調節する能力を利用する。ただし、~1016Ω・cmという二酸化ケイ素の高い抵抗率により、二酸化ケイ素を半導体接触領域から除去する必要がある。半導体接触帯におけるTamm-Shockley界面準位を減少させるように、半導体表面は縮退ドープされ、これによって、電気化学ポテンシャルは、伝導エネルギーバンド又は価電子エネルギーバンドのいずれかにおいて選択的にピニングすることができる。
縮退半導体表面に金属又はケイ化物を合金化することができ、これによって、移動電荷は、トンネルを掘って潜在的な障壁を通り、アイソタイプホモ接合に進むことができる。低いレベルの注入下では、アイソタイプホモ接合は、高抵抗率半導体領域に対するオーム接触として作用する。ただし、この広く用いられている種類のオーム接触は、電気化学整流器における単結晶半導体の使用を妨げ、電気化学ポテンシャルは外部電極間で変化し得る。このため、本明細書に説明されている新規物質の多くの有用な特性のほんの一例として、この欠陥は、単結晶シリコンの長距離結合配向秩序と適合性がある結合配向秩序を有するピコ結晶単位胞を形成するように、図9に示されているピコ結晶人工ボラン原子101を、図10に示されている単結晶シリコン単位胞200に組み込むことによって改善される。
ダイヤモンド状ピコ結晶シラボラン単位胞300は、図11に示されているように、単結晶シリコン単位胞200内のそれぞれのケイ素頂点原子201を、ピコ結晶人工ボラン原子101と置換することによって構成されている。図11におけるシラボラン単位胞300の頂点にある8個のピコ結晶人工ボラン原子101は、拡張固体格子(図示されていない。)の8つのピコ結晶シラボラン単位胞300と共有されている。ピコ結晶シラボラン単位胞300を空間にわたり周期的に並進移動させることによって、単結晶シリコンと構造的に類似した自己組織化ダイヤモンド状ピコ結晶格子として効果的に作用するピコ結晶シラボラン(B12H4)Si7格子が得られる。図11のピコ結晶人工ボラン原子101は、ピコ結晶シラボラン(B12H4)Si7格子の、図10における8個のケイ素頂点原子201を置換し、これによって、ホウ素核102(図9)は、ほぼ対称的な核配置を維持する一方で、水素核103(図9)は、4つの<111>3回軸のk<111>波数ベクトルに沿って振動する。
酸化物ガラスは、酸素四面体又は酸素三角形の連続ランダムネットワークによって構成されるのに対し、ピコ結晶オキシシラボランは、ボラン六面体の連続ランダムネットワークによって形成された固体を構成し、定義によれば、それぞれの六面体の隅部においてピコ結晶人工ボラン原子101を有する六面体を形成する。図10の単結晶シリコン単位胞200は、正六面体(立方体)であるのに対し、図11のオキシシラボラン単位胞300は、説明のために立方体として表されているが、実際には不均整な六面体である。
Zachariasenは、多形酸素四面体(polymorphic oxygen tetrahedra)又は多形酸素三角形の連続ランダムネットワークによって、酸化物ガラスの原子配列を表したのに対し、ボラン固体の原子配列は、ここでは、不均整な多形ボラン六面体300の連続ランダムネットワークによって確立される。図11に示されているボラン六面体300の8つの隅部は、隅部ピコ結晶人工ボラン原子101から構成されている。それぞれの隅部ピコ結晶人工ボラン原子101は、理想的には、8個の隅部ピコ結晶人工ボラン原子101に囲まれた4個の4価天然原子303に結合している。好ましい4価天然原子303は、天然ケイ素原子である。
それぞれの4価天然原子303は、図11に示されているボラン六面体300における1又は複数個の面心原子302に結合する。面心原子302は、ケイ素などの4価天然原子、酸素などの6価天然原子、又は4価ピコ結晶人工ボラン原子101のうちのいずれかであり得るが、これらに限定されない。図11に示されている不均整なボラン六面体300により、ボラン固体の原子配列は、Zachariasenの酸化物ガラスの法則を変更することによって理解できる。第一に、4個の4価天然原子303は、固体ボラン格子中の8個の隅部ピコ結晶人工ボラン原子101に囲まれている。第二に、不均整なボラン六面体300は、連続ランダムネットワーク内において隅部ピコ結晶人工ボラン原子101を共有する。それぞれの隅部ピコ結晶人工ボラン原子101の重心は、理想的には、動き不変(motion-invariant)である。第三に、それぞれの隅部ピコ結晶人工ボラン原子101は、<111>結晶方位に沿って4個の4価天然原子303に共有結合している。
酸化物ガラスとは異なり、ピコ結晶オキシシラボランは、8つの隅部に加えて、六面体の辺と面とが共有されているボラン六面体300の連続ランダムネットワークによって、ボラン固体を形成する。ボラン六面体300は、図11では説明のために立方体として表されているのに対し、ピコ結晶オキシシラボランの連続ランダムネットワークを含むボラン六面体300は、実際には、不変な立方格子定数と関連付けることができない不均整な六面体である。
1.77Åの理想的な辺を有する正ホウ素二十面体では、それぞれのピコ結晶人工ボラン原子101における10組の平行な三角面の格子面間隔は、d=2.69Åである。この二十面体内面間隔は、(本明細書の図中のすべてのXRD走査において用いられるX線波長である)1.54ÅのX線に対して、2θ=33.27°の回折角に相当する。この回折角は、図6に示され、そして図3の塗抹電子回折円環に関係するω‐2θXRD走査における2θ=34.16°付近の広がった低強度回折ピーク内に含まれている。ここで、ピコ結晶オキシシラボランにおけるX線並びに電子回折ピーク及び環の広がりについて説明が可能であることは重要である。
ピコ結晶オキシシラボランを含むホウ素二十面体には、ホウ素同位体10
5Bと11
5Bとの混合物による幾何学的な歪みが存在し、これによって、構成するホウ素二十面体の10組のほぼ平行な平面により、二十面体内の強め合うX線回折パターンと関連するブラッグピークを広がらせる。ただし、この歪みは、ほとんどのホウ素二十面体において同様に維持されていると考えられ、ブラッグピークは、連続ランダム多面体ネットワークを形成する不均整なボラン六面体300の隅部にあるピコ結晶人工ボラン原子101の平行面間の、二十面体間の強め合うX線回折パターンと関連している。隅部ピコ結晶人工ボラン原子101の体心間距離はランダムに変化し、これによって、2θ=13.83°付近の広い回折角範囲にわたるそれぞれのX線入射角に対して、異なるピコ結晶人工ボラン原子101の対応する平行二十面体面間にシャープなブラッグピークが存在する。
本明細書では、ナノ結晶固体は、粒径が300nm未満の、小さな粒子を有する多結晶固体であると理解される。粒径が小さくなるにつれて、周期的並進秩序は短距離となり、X線回折ピークは広がる。一般的なナノ結晶物質は長距離秩序を欠いているのに対し、本発明のピコ結晶オキシシラボランは、ピコ結晶人工ボラン原子101の自己整列に起因すると考えられる長距離結合配向秩序とともに、短距離周期的並進秩序を有する。本明細書の定義によれば、ピコ結晶ボラン固体は固体であり、少なくともホウ素と水素とから構成され、微小角入射X線回折(GIXRD)に供したときのシャープなX線回折ピークにより、長距離結合配向秩序を有する。
ピコ結晶オキシシラボランを特徴付ける長距離結合配向秩序を理解するために、ピコ結晶人工ボラン原子101に注目することは有意義である。ピコ結晶人工ボラン原子101の10対のほぼ平行な面は、理想的には、d=269pm分離され、これは、2θ=33.27°において広い二十面体内X線回折ピークを維持する。論じたように、ピコ結晶人工ボラン原子101における二十面体内X線回折ピークは、ホウ素同位体10
5Bと11
5Bとの混合物によって広げられる。「広い」「シャープな」X線回折ピークが何を意味するかに関して、より正確に定義することは重要である。
シャープなX線回折ピークは、ピークの高さよりも少なくとも5倍小さいという、半値強度でのピーク幅を特徴とする。逆に、広いX線回折ピークは、ピーク高さの半分よりも大きいという、半値強度でのピーク幅を特徴とする。図7における2θ=52.07°付近の非常に広いX線回折ピークは、非常に小さな粒子に特有のものである。図6のω‐2θXRD走査における2θ=34.16°付近のX線回折ピークは、ピコ結晶人工ボラン原子101の対向する二十面体面間の、二十面体内の強め合うX線回折による広い回折ピークである。本発明の好適な実施形態は、上述したように、およそd=269pm分離されたほぼ平行な二十面体面に相当する2θ=33.27°付近の広いX線回折ピークを本質的に維持するピコ結晶人工ボラン原子101を含む。ピコ結晶オキシシラボランの三次元格子は、ピコ結晶人工ボラン原子101、天然ケイ素原子、あるいは天然酸素原子から形成された不均整なボラン六面体300の並進移動によって構成される。
正二十面体の5回対称性は、正六面体(立方体)の4回対称性とは適合性がなく、頂点のピコ結晶人工ボラン原子101とともに、空間にわたって並進移動上不変であるように、規則的な六面体単位胞を周期的に並進移動させることはできない。図11に示されている不均整なボラン六面体300では、対称性の破れが生じる必要がある。先行技術において最も知られている高ホウ素固体では、二十面体の5回対称性は、Jahn-Teller歪みによって破れ、これによって、二十面体間結合は、二十面体内結合よりも強い傾向がある。このため、先行技術の高ホウ素固体は、反転分子と呼ばれることが多い。二十面体対称性の破れによる二十面体の5回対称性の排除によって、ホウ素二十面体における結合非局在化と関連する球状芳香族性(spherical aromaticity)減する。
ピコ結晶人工ボラン原子101(図9)の5回回転対称性が維持され、このため、不均整なボラン六面体300の4回対称性は破れると考えられる。それぞれの不均整なボラン六面体300(図11)は、六面体隅部のピコ結晶人工ボラン原子101によって形成されている。5回回転対称性は、X線又は電子回折では観察することができないが、ピコ結晶人工ボラン原子101の5回回転対称性による特有の電子特性及び振動特性を観察することができる。ピコ結晶人工ボラン原子101は、短距離並進秩序を維持する、第1の最近接ホウ素原子及び第2の最近接ホウ素原子の規則的な配列を含む。
上述の構造は、ピコ結晶オキシシラボランの一方の極端の考えられる構造(B12H4)4Si4をさらに詳細に考慮することによって、さらに十分に理解できる。(B12H4)4Si4では、固体格子を形成するそれぞれの不均整なボラン六面体300は、理想的には、8個の隅部ピコ結晶人工ボラン原子101、6個の面心ピコ結晶人工ボラン原子101、及び4個の天然ケイ素原子303によって構成される。8つの六面体の隅部を共有し、2つの六面体の面を共有していることから、不均整なボラン六面体300を空間上で並進移動させることによって、理想的には、(B12H4)4Si4が得られる。このように、(B12H4)4Si4は、ピコ結晶多形体であって、4価天然ケイ素原子303と4価ピコ結晶人工ボラン原子101とから構成され、単結晶シリコンに非常に類似したピコ結晶多形体を形成する。
図9に示されているように、それぞれのピコ結晶人工ボラン原子101は、(1)ほぼ対称的な核配置を有する12の天然ホウ素核102を含むホウ素二十面体によって形成された人工核と、(2)4個の水素価電子が理想的にはk<111>波数ベクトルに沿って配向されるように、水素核103がホウ素二十面体に結合した4個の天然水素原子によって構成される4個の人工価電子を構成する。このように、ピコ結晶人工ボラン原子101は、ホウ素二十面体を含むため、非常に新しく、36個のホウ素価電子のすべてが二十面体内分子軌道を占め、これによって、すべての二十面体間化学結合は、理想的には、水素価電子によるものである。
ほぼ対称的な核配置を有し、半径方向ホウ素軌道に起因する二十面体外結合(exo-icosahedral bonds)のない、かご状二十面体は、先行技術での存在が知られていない。事実上、ピコ結晶人工ボラン原子101の人工核は、バックミンスターフラーレンのかご状切頂二十面体分子の対称性よりも高い対称性を有する、かご状二十面体分子を構成する。バックミンスターフラーレンの分子切断は、12の二十面体頂点の周りの5回回転と関連する対称操作を排除する。ピコ結晶人工ボラン原子101における二十面体5回回転の復元によって、より大きな結合非局在化が生じ、このため、バックミンスターフラーレンよりも大きな芳香族性も生じる。これは、スピン軌道相互作用によるものと考えられる。
上述したように、ピコ結晶人工ボラン原子101の人工核は、Jahn-Teller歪みを回避するほぼ対称的な核配置を有したホウ素二十面体を構成する。ピコ結晶人工ボラン原子101のホウ素二十面体の多原子電子軌道縮退は、JahnとTellerの論文「Stability of Polyatomic Molecules in Degenerate Electronic States. I. Orbital Degeneracy」, Proceedings of the Royal Society A, Vol. 161, 1937, pp. 220-235では熟考されていなかったスピン軌道相互作用によって、解除されると考えられる。スピン軌道相互作用による多原子電子軌道縮退の解除によって、全体的又は部分的にディラックの相対論的波動方程式に従ったピコ結晶人工ボラン原子101の人工核において、離散的エネルギー量子化が生じる。
ディラックの相対論的波動方程式に従った離散的エネルギー量子化は、グラフェン及び他のこのような低次元物質に特有の電子と正孔との間の荷電共役対称性を維持する傾向がある。電子正孔対生成速度が天然金などの貨幣金属の微量混入によって増加する場合、このような荷電共役対称性は、ピコ結晶(B12H4)4Si4において維持されると考えられる。微量不純物が存在しない状態では、ピコ結晶(B12H4)4Si4の人工核の荷電共役対称性は、電子不足B12H4分子として作用するように破れている。
B12H4分子は、分子がB12
2-H4ジアニオンとB12
2+H4ジカチオンとの対に同時にイオン化される不均化によって、大きな安定性を達成する傾向があると考えられる。ある意味では、ピコ結晶(B12H4)4Si4の不均化は、アニオンとカチオンとの対への炭化ホウ素B13C2の不均化に類似している。さらに別の意味では、ピコ結晶(B12H4)4Si4の不均化と炭化物B13C2の不均化との間には、根本的な相違が存在する。文献において周知であるように、炭化ホウ素の二十面体対称性は、Jahn-Teller歪みによって破られる。ピコ結晶(B12H4)4Si4は、スピン軌道相互作用による多原子電子軌道縮退の解除により、前述した二十面体対称性の破れを回避する。これによって、ピコ結晶(B12H4)4Si4特有の化学特性が付与される。
問題となるのは、化学物質の分光原理である。分光原理は、HarrisとBertolucciによる書籍Symmetry and Spectroscopy, Oxford Univ. Press, 1978を参照して説明することができる。1‐2ページでは、HarrisとBertolucciは、次の重要な概念を強調している。「赤外周波数の光は、一般に、分子を、ある振動エネルギー準位から別の振動エネルギー準位へ昇位することができる。それゆえ、筆者らは、赤外分光法を振動分光法と呼ぶ。可視光及び紫外光は、はるかにエネルギー的であり(energetic)、分子の電子ポテンシャルエネルギーが変化するように、分子内の電子の再分布を促すことができる。それゆえ、筆者らは、可視分光法及び紫外分光法を電子分光法と呼ぶ」これは、スピン軌道相互作用を説明していない。
スピン軌道相互作用の存在下では、回転自由度、振動自由度、及び電子自由度は、マイクロ波放射に反応して電子の再分布を維持する回転振動エネルギー準位に絡み合うことができる。この現象は、B12
2-H4ジアニオン及びB12
2+H4ジカチオンが、45マイクロ電子ボルト程度のエネルギー差によって分離された異なるエネルギー準位で存在するという考えにより、ピコ結晶(B12H4)4Si4の不均化に影響を及ぼす。炭化ホウ素B13C2では、スピン軌道相互作用がないことから、不均化によって、同じエネルギー準位のアニオン及びカチオンが生じる。このため、本発明の好ましい組成物は、有意な量の炭素を含有しない。ピコ結晶(B12H4)4Si4は、理想的には、好ましい組成範囲(2≦x≦4、3≦y≦5、及び0≦z≦2)にわたってピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzの最大不均化を維持するが、実際のデータに基づくと、最大不均化が観察された実際の組成物は、ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5であると考えられる。
ピコ結晶(B12H4)xSiyOz属の他の極端には、理想的には不均化が存在しないピコ結晶(B12
2-H4)4Si4O2
2+種が存在する。この特定の種では、不均化に頼らずにピコ結晶人工ボラン原子101の人工核を理想的に安定化させるように、天然酸素原子がイオン化される。好ましい組成範囲(2≦x≦4、3≦y≦5、及び0≦z≦2)にわたる(B12H4)xSiyOz属の(B12H4)3Si5及び(B12
2-H4)4Si4O2
2+種の化学的性質は、Linus PaulingのThe Nature of the Chemical Bond, Cornell University Press, Third Edition, 1960, pp. 64-108により導入された電気陰性度の概念によって、説明することができる。Paulingは、共有化学結合のイオン性の尺度として、電気陰性度を確立した。Paulingの電気陰性度の概念は、2つの中心共有結合を仮定したものであり、これは、本発明のピコ結晶オキシシラボランに引き継がれる。
本発明のピコ結晶オキシシラボランでは、ピコ結晶人工ボラン原子101は、天然原子又は他のピコ結晶人工ボラン原子101に共有結合している。一方の属の極端では、ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5は、電子対を捕獲する傾向を示すため、電気陰性度が高いと言われる。他方の属の極端では、ピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+は、電子閉殻構造により、電気陰性度が低いと言われる。ピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzの有用性の1つは、ピコ結晶人工ボラン原子101の電気陰性度を化学的に変化させることによって、好ましい組成範囲(2≦x≦4、3≦y≦5、及び0≦z≦2)にわたって種々の種の電気陰性度を変化させる能力である。一方の組成の極端では、ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5の比較的高い電気陰性度は、外部電子源の存在しない状態で不均化を促進する一方、他方の組成の極端では、ピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+の比較的低い電気陰性度によって、不均化が妨げられる。
ピコ結晶人工ボラン原子101の電気陰性度を組成範囲にわたって化学的に調節する能力は、先行技術において知られていない新規かつ有用な熱化学を裏付けている。スピン軌道相互作用によるピコ結晶人工ボラン原子101における離散的エネルギー量子化によって、人工原子の電気陰性度は、化学的に調節することが可能になる。スピン軌道相互作用によって、マイクロ波エネルギー準位間で電子の再分布が生じる。ピコ結晶人工ボラン原子101の人工核の二十面体内の3中心結合は、ピコ結晶人工ボラン原子101の、天然原子又は他のピコ結晶人工ボラン原子101への二十面体間の2つの中心共有結合よりもはるかに強力である。これは、スピン軌道相互作用によって可能になる。
ピコ結晶人工ボラン原子101の3中心結合のピーク電子密度は、理想的には、図9に示されているk<111>波数ベクトルに対して垂直な8つの二十面体面の中心に存在する。2つの安定なホウ素同位体10
5B及び11
5Bの存在によって、ピコ結晶人工ボラン原子101の人工核の二十面体面の幾何学的中心から、3中心結合のピーク電子密度がシフトする。二十面体面の幾何学的中心から離れる、3中心結合によるこのようなシフトによって、ピコ結晶人工ボラン原子101の人工核のエントロピーが増加する。ピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzの好ましい組成範囲では、エントロピーは、天然存在に対するホウ素11
5Bの同位体濃縮によって、熱力学の第二法則に従って最大化される。
ホウ素10
5Bに対するホウ素11
5Bの天然存在比は、およそ4.03である。ホウ素11
5Bに対する同位体濃縮ホウ素10
5Bは、さらに、ピコ結晶人工ボラン原子101の人工核の二十面体面の幾何学的中心から、3中心結合をシフトさせ、このため、ピコ結晶人工ボラン原子101のエントロピーを増加させる。エントロピーのこのような増加によって、ギブス自由エネルギーが減少する。同位体濃縮に伴うエントロピーの増加によって、ギブス自由エネルギーは、対応するエンタルピーの減少よりも大幅に減少し、電子のエントロピー再分布は、本発明のピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzにおいてスピン軌道相互作用がほぼ対称的なホウ素二十面体を維持するときに、マイクロ波エネルギー準位間で生じると考えられる。
天然原子をピコ結晶人工ボラン原子101と置換することによって、好ましい組成範囲(2≦x≦4、3≦y≦5、及び0≦z≦2)にわたりピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzにおいて、原子工学技術が確立される。原子工学技術は、先行技術において知られていないピコテクノロジーを裏付ける新規な高ホウ素分子中の可変原子元素として作用するピコ結晶人工ボラン原子101の化学修飾によって、裏付けられる。ピコ結晶オキシシラボランの好ましい種類は、実例によって説明される。これらの例によって、好ましい組成範囲(2≦x≦4、3≦y≦5、及び0≦z≦2)にわたるピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzの新規性及び有用性は、さらに十分に理解することができる。
本発明のオキシシラボラン膜の製造方法は、ホウ素、水素、ケイ素及び酸素を含有するガス蒸気を、大気圧よりも低い圧力に維持された密閉室内の加熱された基板上に通すことによって、固体膜の析出を発生させる化学蒸着である。好ましい蒸気は、亜酸化窒素N2O、並びにホウ素及びケイ素の低次水素化物であり、ジボランB2H6及びモノシランSiH4が最も好ましい。両水素化物は、水素キャリアガス中で希釈することができる。水素希釈ジボラン及びモノシラン、場合により亜酸化窒素を、~1乃至30torrの圧力、~200℃超で加熱された試料上に通すことによって、固体オキシシラボラン膜を、好ましい条件下で基板上に自己組織化させる。
加熱は、半導体処理の当業者に一般に知られている装置によって、実現することができる。例として、モリブデンサセプタは、抵抗加熱するか又は誘導加熱することができる固体基板キャリアを備えていてもよい。基板は、サセプタを用いずに抵抗加熱石英管内において加熱することができる。これらの方法では、オキシシラボラン膜が上に堆積する(意図される堆積基板以外の)加熱面が存在し得る。基板は、先の堆積によって被覆された加熱面からの反応器ガス放出を最小限にする低圧急速熱化学蒸着により、ハロゲンランプによる放射熱によって、サセプタを用いずにコールドウォール反応器内において加熱することができる。
堆積温度が~350℃を超える場合はいつでも、水素化効果は実質的に排除される。逆に、堆積温度を~350℃未満に下げることによって、薄いピコ結晶固体が著しく水素化されるようになる可能性があり、これによって、水素は、積極的に化学結合に組み込まれる。~350℃未満で堆積させたピコ結晶オキシシラボラン固体中の水素の相対原子濃度は、酸素の組み込み度合いにより、通常10乃至25%の範囲内にある。水素がオキシシラボラン固体の化学結合に積極的に組み込まれな場合、これは、より具体的には、オキシシラホウ化物固体と呼ばれる。実質的に酸素を欠くオキシシラボラン固体は、具体的には、シラボラン固体と呼ばれる。
酸素は、個々の酸素原子によって、又は水分子の一部として、ピコ結晶オキシシラボラン固体に組み込まれ得る。水分子を含有するピコ結晶オキシシラボラン固体は含水性であると言われる一方で、比較的ごくわずかな量の水とともに、個々の水素原子及び酸素原子によって形成されたピコ結晶オキシシラボラン固体は、無水であると言われる。含水ピコ結晶オキシシラボラン固体は、明らかに、捕捉された水の変化に起因して、経時的に色及び化学量論が変化することが観察されている。特に明記しない限り、以下に説明する実施形態におけるピコ結晶オキシシラボラン固体は、無水であると理解される。水和を最小限にするように、堆積反応器は、周囲水分への直接の暴露から反応室を隔離するロードロック室を備える。ただし、試料を載せた時に、吸着した水分を完全に除去することは難しい。
色の変化に加えて、水和は、ケイ素に対するホウ素の比を変更することができる。オキシシラボランの好適な一実施形態では、ケイ素に対するホウ素の比は、理想的には、6である。水和せずにオキシシラボランに原子酸素を組み込むと、ケイ素に対するホウ素の比が減少する一方で、含水オキシシラボランに水分子を組み込むと、ケイ素に対するホウ素の比が増加する傾向がある。このような影響はともに、同時に存在し得る。無水オキシシラボランへの酸素の好ましい導入は、亜酸化窒素によるものである。ホウ素原子、ケイ素原子及び酸素原子間のオキシシラボラン中のホウ素原子の相対原子濃度は、理想的には、~83%である。水和効果がない状態では、ホウ素原子、ケイ素原子及び酸素原子間のホウ素の相対原子濃度は、~89%を大幅に超えない。水和に対する感受性は、部分的に、相対酸素原子濃度、及び酸素を導入する方法によって異なる。
自己組織化ピコ結晶オキシシラボランは、単結晶シリコンなどの共有結合半導体を用いた電子集積回路に有用な特性を有する。オキシシラボラン固体の電子特性は、蒸着時の処理条件によって制御させて変更することができる。ピコ結晶オキシシラボランは、長距離結合配向秩序を示す。X線光電子分光法(XPS)では、ピコ結晶オキシシラボランのホウ素1s電子の結合エネルギーが、二十面体ホウ素分子の化学結合に特有の~188eVであることを確認した。酸素1s電子の結合エネルギー~532eVは、金属酸化物の酸素1s電子の結合エネルギーと非常に類似しているが、ガラスの酸素1s電子の結合エネルギーとは異なる。
本発明のオキシシラボラン固体のケイ素2p電子の結合エネルギーは、全組成範囲にわたって99.6eVのシャープなエネルギーピークを示す。これは、いくつかの理由により重要である。第一に、オキシシラボランに2つのエネルギーピークが存在しないことは、Si‐Si結合とSi‐H結合が同一の結合エネルギーを有することを示唆する。第二に、オキシシラボランのケイ素2p電子の測定された結合エネルギーは、本質的に、ダイヤモンド格子の四面体化学結合によって構成された単結晶シリコンの結合エネルギーである。二酸化ケイ素のケイ素2p電子の結合エネルギーは、103.2eVである。オキシシラボランを非晶質二酸化ケイ素上に堆積させる場合、2つの組成物のケイ素2p電子の結合エネルギーには、明確な相違が存在する。オキシシラボランのケイ素2p電子の結合エネルギーは、ピコ結晶オキシシラボランの自己組織化により、非晶質酸化物上に堆積しているにもかかわらず、単結晶シリコンの結合エネルギーに類似している。
化学蒸着処理条件を適切に制御することによって、ピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzを、好ましい組成範囲(2≦x≦4、3≦y≦5、及び0≦z≦2)であって、一方の組成の極端ではピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5によって、その反対の組成の極端ではピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+によって範囲が定められた好ましい組成範囲にわたって、自己組織化させる。好ましい処理条件をさらに十分に理解するために、オキシシラボラン(B12)xSiyOzHwのより広い範囲(0≦w≦5、2≦x≦4、2≦y≦5、0≦z≦3)における非推奨の種の処理は、多数の例によって示される。
ここで、本発明に係るオキシシラボラン組成物の種々の実施形態を実施例によって説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されない。当業者であれば理解するように、本発明は、その真意又は本質的な特徴から逸脱することなく、他の形態により具体化することができる。本明細書における以下の開示及び説明は、本発明の範囲の例示であり、その範囲を限定するものではない。
<実施例1>
4点プローブによって測定した場合に8.7オーム/スクエアの抵抗が生じるように、15Ω・cmの抵抗率を有する100mm径単結晶(001)p型シリコン基板404(図12)中に、リンを拡散させた。酸化物を、フッ化水素酸デグレーズ(deglaze)によって、試料ウエハから除去した。試料を、Gyurcsikらの「A Model for Rapid Thermal Processing」, IEEE Transactions on Semiconductor Manufacturing, Vol. 4, No. 1, 1991, p.9に記載されている種類の急速熱化学蒸着(RTCVD)室内に導入した。試料ウエハを石英リング上に載せた後、RTCVD室を閉鎖し、10mmtorrの圧力まで機械的に排気させた。364sccmの流量において水素中3体積%のジボラン混合物B2H6(3%)/H2(97%)と、390sccmの流量において水素中7体積%のシラン混合物SiH4(7%)/H2(93%)とを、RTCVD室内に導入した。
反応ガス流量を、3.29torrの圧力において安定化させ、続いて、ハロゲン電球を30秒間点灯し、試料ウエハを605℃に維持するように調節した。図12に示されているように、薄いシラホウ化物固体406を、ドナードープ領域405上に堆積させた。シラホウ化物固体406の組成を、X線光電子分光法(XPS)によって調べた。ホウ素1s電子の結合エネルギーは、二十面体ホウ素と一致する187.7eVと測定された。ケイ素2p電子の結合エネルギーは、単結晶(001)シリコンに特有の99.46eVと測定された。シラホウ化物固体406のXPS深さプロファイルでは、シラホウ化物固体406内のホウ素及びケイ素の相対原子濃度はそれぞれ、86%及び14%と測定された。ラザフォード後方散乱分光法(RBS)は、薄いシラホウ化物固体406中のホウ素及びケイ素の相対原子濃度をそれぞれ、83.5%及び16.5%と決定した。
薄いシラホウ化物固体406中の相対水素濃度を、水素原子が入射高エネルギーヘリウム原子によって弾性的に散乱する水素前方散乱(HFS)によって測定した。水素前方散乱(HFS)は、種々の試料の電荷積分に変動を生じる入射ヘリウム原子の傾斜角により、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)ほど定量的ではない。単位立体角当たりの水素数は一定であるが、立体角自体は種々の試料間で変化し得る。水素は、検出されなかった。水素が存在しない状態においてホウ素とケイ素とから構成される固体は、シラホウ化物組成物と呼ばれる。
二次イオン質量分光(SIMS)分析では、シラホウ化物固体406の11
5B/10
5B比を天然存在比4.03と決定した。本実施例のシラホウ化物固体406に水素又は同位体濃縮が存在しないのは、堆積温度によるためである。シラボランの水素化は、以下の実施例において論じるように、堆積温度が~350℃未満であるときに、又は酸素が導入されるときに実現することができる。本実施例のシラホウ化物固体406は、X線回折によって、ピコ結晶ホウ素固体であることが確認された。本実施例のピコ結晶シラホウ化物固体406のGIXRD走査を図13に示す。2θ=14.50°における回折ピークは、GIXRD走査のX線入射角ω=7.25°と関連するブラッグ条件に相当する。
<実施例2>
未希釈亜酸化窒素N2Oを704sccmにおいて導入したこと、及び水素化物ガスの流量を2倍にしたことの2点を除いて、実施例1に説明した手順を行った。728sccmの流量において水素中3体積%のジボラン混合物B2H6(3%)/H2(97%)、780 sccmの流量において水素中7体積%のモノシラン混合物SiH4(7%)/H2(93%)と、704sccmの流量において未希釈亜酸化窒素N2Oとを導入した。蒸気流量を9.54torrにおいて安定化させ、続いて、ハロゲン電球を30秒間点灯し、試料基板404を605℃に維持するように調節した。図14に示されているように、オキシシラボラン固体407を、ドナードープシリコン領域405上に堆積させた。薄いオキシシラボラン固体407の組成を、X線回折分光法によって評価した。
薄いオキシシラボラン固体407の通常のω‐2θXRD走査を図15に示す。2θ=13.78°及び2θ=33.07°付近の広がった回折ピークは、ピコ結晶ホウ素固体に特有のものである。これは、図16のGIXRD走査によってさらに補強され、2θ=13.43°の回折ピークは、X線入射角ω=6.70°と関連するブラッグ条件に相当する。オキシシラボラン固体407の組成を、XPS分光法によって確認した。ホウ素1s電子の結合エネルギーは187.7eVであり、ケイ素2p電子の結合エネルギーは99.46eVであり、これらは実施例1と同じである。酸素1s電子の結合エネルギーは、524eVであった。XPSによって測定したところ、ホウ素、ケイ素及び酸素の相対バルク原子濃度は、81%、12%及び7%であった。
ラザフォード後方散乱分光法(RBS)及び水素前方散乱法(HFS)によって、本実施例によるオキシシラボラン固体407内のホウ素、水素、ケイ素及び酸素の相対バルク原子濃度をそれぞれ、72%、5.6%、13.4%及び9.0%と決定した。本実施例のピコ結晶ホウ素固体407はボラン固体ではなく、むしろ、水素原子がほぼ確実に酸素原子に結合している高酸素組成物(B12)2Si3.5O2.5Hとして、さらに十分に特徴付けられる。二次イオン質量分析(SIMS)では、実験誤差内において、同位体比11
5B/10
5Bがホウ素同位体の天然存在比であることを確認した。11
5B/10
5Bにおける天然存在同位体比の存在は、マイクロ波エネルギー準位間の電子の再分布を促すことが可能な絡み合った回転振動エネルギー準位(rovibronic energy levels)が存在しないことを示すと現在では考えられている。
<実施例3>
ホウ素水素化物及びケイ素水素化物の熱分解を、テーブル上に拘束させた5インチ径石英堆積管を備える水平抵抗加熱反応器内において、低圧化学蒸着(LPCVD)により行った。抵抗発熱体を電動トラック上に取り付け、これによって、75mmのシリコン基板を、室温において管前面の石英ホルダー上に載せることができた。試料を載せた時に石英壁に吸着した水蒸気は、その後の化学反応のための水蒸気源を供給した。20Ω・cmの抵抗率の75mm径単結晶(001)n型シリコン基板408を、石英管内の石英ホルダー上に載せ、石英管を密封し、30mmtorrの基準圧力まで機械的に排気した。
図17に示されているように、180sccmの流量において水素中3体積%のジボラン混合物B2H6(3%)/H2(97%)、及び120sccm流量において水素中10体積%のシラン混合物SiH4(10%)/H2(90%)を導入することによって、高ホウ素固体409を(001)基板408上に堆積させた。ガス流量を、360mmtorrの堆積圧力において安定化させた。電動発熱体を試料上に移した。石英管及び石英試料ホルダーの熱質量により、堆積温度を、~20分の温度上昇後に230℃において安定化させた。熱分解を、230℃において8分間持続させ、続いて、発熱体を引き出し、反応ガスを安定にした。シラボラン固体409中のホウ素及びケイ素の相対原子濃度を、異なる種類の分光法によって測定した。
シラボラン固体409のX線光電子分光法(XPS)の深さプロファイルを行った。シラボラン固体409中の酸素は、石英壁からの水蒸気のガス放出によるものである。図18のXPS深さプロファイルは、シラボラン固体409中のホウ素、ケイ素及び酸素の相対原子濃度がそれぞれ、85%、14%及び1%であることを示す。ホウ素1s電子の結合エネルギーは187eVであり、これは、二十面体ホウ素分子の結合に特有のものである。ケイ素2p電子のXPS結合エネルギーは99.6eVであり、これは、(001)単結晶シリコンのケイ素2p電子に特有のものである。酸素1s電子のXPS結合エネルギーは、532eVと測定された。ラザフォード後方散乱分光法(RBS)によるシラボラン膜409の深さ分析では、ホウ素及びケイ素の相対原子濃度はそれぞれ、82.6%及び17.4%と測定された。
図19のオージェ電子分光法(AES)の深さプロファイルは、固体409中のホウ素、ケイ素及び酸素の相対原子濃度がそれぞれ、73.9%、26.1%及び0.1%であることを示す。固体409の厚さは、XPS、AES及びRBSによって、998Å、826Å及び380Åと確認された。ホウ素、水素及びケイ素の相対バルク原子濃度はすべて、本実施例のシラボラン固体409のRBS/HFS深さプロファイルによって、66.5%、19.5%及び14.0%と確認された。同位体濃縮の存在を確認するために、二次イオン質量分析(SIMS)の深さプロファイルを行った。ホウ素10
5Bの同位体濃縮は、SIMS深さプロファイルによって証明された。天然存在11
5B/10
5B比が4.03であるのに対し、SIMS分析では、シラボラン固体409の11
5B/10
5B比は3.81と測定された。
実施例3の膜は、酸素の低い相対原子濃度が水の形態であると考えられるため、シラボラン固体409と称する。その結果、この膜は、含水シラボラン固体409とより良好に称する。実施例3の含水シラボラン固体409から、図6の通常のω‐2θXRD回折パターンと、図8のGIXRD回折パターンをともに得た。その結果、含水シラボラン固体409は、ピコ結晶ホウ素固体である。図14による含水シラボラン固体409の、図6による通常のω‐2θXRD回折パターンは、図14によるオキシシラボラン固体407の、図15による回折パターンと実質的に同じであるが、2つのピコ結晶ホウ素固体は、基本的に、ホウ素11
5Bに対するホウ素10
5Bの同位体濃縮によって区別される。この区別は、本発明の実施形態に影響を及ぼす。具体的には、より高い温度において堆積させた図14のピコ結晶ホウ素固体407は、11
5B/10
5Bの天然比を有していたのに対し、より低い温度において堆積させた図17の含水シラボラン409は、天然に存在するものよりも多くの10
5Bによって同位体濃縮された。
<実施例4>
図20を参照すると、周囲から試料堆積室を隔離するロードロックシステムによって、EMCORE D‐125 MOCVD反応器内の抵抗加熱モリブデンサセプタ上に、抵抗率が30Ω・cmの100mm径単結晶(001)p型シリコン基板410を導入した。堆積室を50mmtorr未満に排気させ、続いて、360sccmの流量において水素中3体積%のジボラン混合物B2H6(3%)/H2(97%)、及び1300sccmの流量において水素中7体積%のモノシラン混合物SiH4(7%)/H2(93%)を、堆積室内に導入し、その後、反応ガスを混合させた。ガス流量が安定したら、堆積室の圧力を9torrに調節し、モリブデンサセプタを1100rpmにおいて回転させた。
基板の温度を、抵抗加熱回転サセプタによって280℃まで上昇させた。堆積温度が280℃において安定したら、化学反応を5分間進行させ、続いて、サセプタの加熱を停止し、試料を80℃未満まで冷却させた後に、堆積室から試料を取り出した。図20に示されているように、ポリマー半透明色を有する薄い固体411を、基板410上に堆積させた。固体411の厚さは、可変角分光偏光解析法によって、166nmと測定された。シラボラン固体411は滑らかであり、粒子構造の徴候は見られなかった。シラボラン固体411は、目に見える水和効果を示さなかった。図21のXPS深さプロファイルでは、バルク固体411中のホウ素及びケイ素の相対原子濃度を89%及び10%と確認した。
RBS及びHFS分析では、ホウ素、水素及びケイ素の相対原子濃度を、66%、22%及び11%と確認した。本実施例のシラボラン固体411は、顕著な水和効果を示さなかったことを除いて、実施例3のシラボラン固体409と非常に類似している。シラボラン固体411の電気特性を、水銀プローブによる掃引信号を用いて、HP‐4145パラメーター分析器により測定した。シラボラン固体411の電流電圧特性の線形及び両対数グラフを図22‐23に示す。シラボラン固体411の非線形電流電圧特性は、空間電荷制限伝導電流に起因し、これは、図23による緩和の開始を越えてオームの法則から外れる。
固体の空間電荷制限電流伝導は、MottとGurneyのElectronic Processes in Ionic Crystals, Oxford University Press, second edition, 1948, pp. 168-173によって、最初に提案された。MottとGurneyは、Childの真空管デバイスの法則(Child's law of vacuum-tube devices)と同様に、誘電体が介在する電極間の空間電荷制限電流密度が、外部起電力によって二次的に変化することを明らかにした。Mott-Gurneyの法則は、ガウスの法則によって電場の発散がゼロになることがないために、単極性の過剰な移動電荷が存在するときに満たされる。ピコ結晶オキシシラボランの伝導電流は、空間電荷制限される。
<実施例5>
亜酸化窒素を40sccmの流量において導入した、という唯一の点を除いて、実施例4に説明した手順を行った。図24に示されているように、ポリマー半透明色を有する薄いオキシシラボラン固体412を、(001)単結晶p型シリコン基板410上に堆積させた。固体412の厚さは、可変角分光偏光解析法によって、159nmと測定された。図25のXPS深さプロファイルでは、バルクオキシシラボラン固体412中のホウ素、ケイ素及び酸素の相対原子濃度をそれぞれ、88.0%、10.4%及び1.6%と確認した。酸素の組み込みでは、実施例4のシラボラン固体411に対して本実施例のオキシシラボラン固体412を変化させた。
本実施例のオキシシラボラン固体412の電気インピーダンスを、水銀プローブによって供給される掃引信号を用いて、HP‐4145パラメーター分析器により測定した。本実施例のオキシシラボラン固体412のインピーダンス特性の線形及び両対数グラフをそれぞれ図26‐27に示す。本実施例のオキシシラボラン固体412のインピーダンスは、実施例4のシラボラン固体411と比べて増加した。本実施例のオキシシラボラン固体412の空間電荷制限電流は、図27に示されているように、五次の電流電圧特性において飽和した。空間電荷電流は、電荷ドリフトによって制限される。
<実施例6>
亜酸化窒素の流量を40sccmから80sccmへ増加させた、というただ1点を除いて、実施例5に説明した手順を行った。オキシシラボラン固体412の厚さは、可変角分光偏光解析法によって、147nmと測定された。図28のXPS深さプロファイルでは、バルクオキシシラボラン固体412中のホウ素、ケイ素及び酸素の相対原子濃度をそれぞれ、88.1%、9.5%及び2.5%と確認した。本実施例のオキシシラボラン固体412中のホウ素の相対原子濃度は、実施例5中のオキシシラボラン固体412と同じである。本実施例のオキシシラボラン固体412中のケイ素の原子濃度は、実施例5のオキシシラボラン固体412のケイ素の原子濃度と比べて減少した。本実施例のオキシシラボラン固体412中の酸素の原子濃度は、実施例5のピコ結晶オキシシラボラン固体412の酸素の原子濃度と比べて増加した。
RBS及びHFS分析では、ホウ素、水素及び酸素の相対バルク原子濃度をそれぞれ、63%、23%、11%及び3%と確認した。酸素の相対原子濃度はそのRBS検出限界に近いため、正確ではない。本実施例によるオキシシラボラン固体412のインピーダンスを、水銀プローブによって得られる掃引信号を用いて、HP‐4145パラメーター分析器により測定した。オキシシラボラン固体412のインピーダンス特性の線形及び対数グラフをそれぞれ図29‐30に示す。本実施例によるオキシシラボラン固体412のインピーダンス特性は、実施例5におけるオキシシラボラン固体412のインピーダンスよりも適度に大きなインピーダンスを示した。
<実施例7>
亜酸化窒素の流量を80sccmから100sccmへ増加させた、という唯一の点を除いて、実施例6に説明した手順を行った。オキシシラボラン固体412の厚さは、可変角分光偏光解析法によって、140nmと確認された。図31のXPS深さプロファイルでは、オキシシラボラン固体412中のホウ素、ケイ素及び酸素の相対原子濃度をそれぞれ、85.9%、10.7%及び3.4%と確認した。本実施例のオキシシラボラン固体412のインピーダンスを、水銀プローブによって得られる2つの掃引信号を用いて、HP‐4145分析器により測定した。本実施例のオキシシラボラン固体412の電流電圧特性の線形及び両対数グラフを図32‐33に示す。本実施例の固体412は、比較的高い酸素濃度により、実施例6のインピーダンスよりもわずかに高いインピーダンスを示した。
<実施例8>
亜酸化窒素の流量を100sccmから300sccmへ増加させた、という唯一の点を除いて、実施例7に説明した手順を行った。薄いオキシシラボラン固体412の厚さは、可変角分光偏光解析法によって、126nmと測定された。図34のXPS深さプロファイルでは、本実施例のオキシシラボラン固体412中のホウ素、ケイ素及び酸素の相対バルク原子濃度は、83.4%、10.5%及び6.2%と測定された。オキシシラボラン固体412のインピーダンスを、HP‐4145パラメーター分析器によって測定した。オキシシラボラン固体412のインピーダンス特性を図35‐36に示す。
<実施例9>
亜酸化窒素の流量を300sccmから500sccmへ増加させた、という唯一の点を除いて、実施例8の手順を行った。本実施例の薄いオキシシラボラン固体412の厚さは、可変角分光偏光解析法によって、107nmと測定された。図37のXPS深さプロファイルでは、本実施例のバルクオキシシラボラン固体412中のホウ素、ケイ素及び酸素の相対原子濃度を、82.4%、10.0%及び7.6%と確認した。RBS及びHFS分析では、ホウ素、水素及び酸素の相対バルク原子濃度を、66%、20%、9%及び5%と確認した。本実施例のオキシシラボラン固体412のインピーダンスを、水銀プローブによって得られる掃引信号を用いて、HP‐4145パラメーター分析器により測定した。本実施例のオキシシラボラン固体412のインピーダンス特性の線形及び両対数グラフは、図38‐39にある。
本実施例のオキシシラボラン固体412は、酸素が多く含まれ、これによって、自己組織化ピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzの好ましい組成範囲内(2≦x≦4、3≦y≦5、及び0≦z≦2)には存在せず、むしろ、オキシシラボラン(B12)xSiyOzHwより広い組成範囲(0≦w≦5、2≦x≦4、2≦y≦5、0≦z≦3)に含まれる。ピコ結晶オキシシラボランが、単結晶シリコンの表面電気化学ポテンシャルを調節し、同時に電気を通すように、単結晶シリコンの表面フェルミ準位をピニング解除することは重要である。このような特性をさらに十分に認識するために、単結晶シリコンによって電気化学整流器が形成される例を考慮することは有意義である。
先行技術では、単結晶シリコン領域と、異なる仕事関数の結合固体との間の移動電荷拡散と関連する望ましくない接触電位により、電荷を伝導しながら、禁制エネルギー領域全体にわたって単結晶シリコン領域の電気化学ポテンシャルを変化させることは、これまで不可能であった。この欠陥は、実例による自己組織化ピコ結晶オキシシラボランによって改善される。
<実施例10>
単結晶シリコンを、径100mm及び厚さ525μmの(001)ホウ素ドープp型単結晶基板421上にエピタキシャルに堆積させた。縮退単結晶シリコン基板421の抵抗率は0.02Ω・cmであり、これは、4×1018cm-3のアクセプター濃度に相当する。非縮退p型単結晶シリコン層422を、シリコン基板421上に堆積させた。エピタキシャルシリコン層422の厚さは15μm、抵抗率は2Ωcmであり、これは、~7×1015cm-3のアクセプター不純物濃度に関係する。すべての酸化物を、フッ化水素酸デグレーズによって除去した。酸デグレーズの後、周囲から堆積室を隔離するロードロックシステムによって、シリコン基板421を、EMCORE MOCVD反応器内の抵抗加熱サセプタ上に差し込んだ。堆積室を50mmtorr未満に機械的に排気させ、続いて、150sccmの流量において水素中3体積%のジボラン混合物B2H6(3%)/H2(97%)、及び300sccmの流量において水素中7体積%のシラン混合物SiH4(7%)/H2(93%)を、堆積室内に導入した。亜酸化窒素N2Oを、100sccmの流量において導入した。
ガスを混合させた後に、堆積室内に入れた。反応ガスが安定したら、サセプタを1100rpmにおいて回転させながら、堆積室の圧力を1.5torrに調節した。基板の温度を、2分間で230℃まで上昇させた。そして、サセプタの温度をさらに260℃まで上昇させ、続いて、安定化させ、化学反応を12分間進行させた。サセプタの加熱を安定にし、反応ガス中で試料を80℃未満に冷却させた後に、堆積室から試料を取り出した。オキシシラボラン固体423を堆積させた。厚さは、可変角分光偏光解析法によって、12.8nmと測定された。厚さにより、オキシシラボラン固体423は、固体堆積の結果としてさらなる着色を示さなかった。
アルミニウムを、ベルジャー型蒸発器(bell-jar evaporator)内において基板421の裏側に蒸着させ、その後、同様のアルミニウム層を、ベルジャー型蒸発器内のシャドーマスクを介してオキシシラボラン固体423上に蒸着させた。図40に示されているように、上側のアルミニウムはカソード電極424を形成し、裏側のアルミニウムはアノード電極425を形成した。本実施例のp型アイソタイプ電気化学整流器420の電気特性を、マイクロプローブによってアノード電極425及びカソード電極424から得られる掃引信号を用いて、HP‐4145パラメーター分析器により測定した。本実施例のp型アイソタイプ電気化学整流器420の線形電流電圧特性を、図41‐42において、2つの異なる電流電圧範囲で示す。電気化学整流器420は、表面電気化学ポテンシャルの変動によって、p‐n接合によらずに、非対称の電気コンダクタンスを達成する。
図41に示されているように、カソード電極424がアノード電極425に対して負にバイアスされている(順方向にバイアスされている)場合、より大きな電流が生じる。さらに、カソード電極424がアノード電極425に対して正にバイアスされている(逆方向にバイアスされている)場合、~1Vを超える逆方向バイアスの増加に伴って、はるかに小さな電流が増加する。増加した逆方向バイアス電流は、部分的に、理想的ではない処理条件に起因すると考えられる。順方向バイアス及び逆方向バイアスの対数電流電圧プロットを図43‐44に表す。
<実施例11>
亜酸化窒素N2Oの流量を20sccmから65sccmへ増加させた、という唯一の点を除いて、実施例10に説明した手順を行った。オキシシラボラン固体423の厚さは、可変角分光偏光解析法によって、12.4nmと測定された。本実施例のp型アイソタイプ電気化学整流器420の電気特性を、マイクロプローブによってアノード電極425及びカソード電極424から得られる掃引信号を用いて、HP‐4145パラメーター分析器により測定した。本実施例のp型アイソタイプ電気化学整流器420の線形電流電圧特性を、図45‐46において、異なる範囲で示す。順方向バイアス及び逆方向バイアスの対数電流電圧プロットを図47‐48に示す。
<実施例12>
260℃における反応時間を12分から6分へ短縮したことを除いて、上述した実施例11の手順を行った。本実施例のオキシシラボラン固体423の厚さは、可変角分光偏光解析法によって、7.8nmと測定された。本実施例のp型アイソタイプ電気化学整流器420の電気特性を、2つのマイクロプローブによってアノード電極425及びカソード電極424から得られる掃引信号を用いて、HP‐4145パラメーター分析器により測定した。本実施例のp型アイソタイプ電気化学整流器420の線形電流電圧特性を、図49‐51において、3つの異なる電流電圧範囲で示す。順方向バイアス及び逆方向バイアスの対数電流電圧特性を図52‐53に示す。本実施例の整流特性は、大部分が、より薄い固体423により、実施例10‐11と比べて改善されている。これは、膜の厚さが電気特性に影響を及ぼし、薄い固体の特性が、場合によっては、より厚い固体と比べて改善され得ることを実証する。
<実施例13>
亜酸化窒素N2Oを導入しなかったことを除いて、実施例12の手順を行った。図54に表されているシラボラン固体426の厚さは、可変角分光偏光解析法によって、11.4nmと測定された。デバイス420の電気特性を、マイクロプローブによってアノード電極425及びカソード電極424から得られる掃引信号を用いて、HP‐4145パラメーター分析器により測定した。デバイス420の線形電流電圧特性を図55‐56に示す。順方向バイアス及び逆方向バイアスの対数電流電圧プロットを図57‐58に示す。
界面効果を無視すると、実施例11‐12に説明したオキシシラボラン固体423の組成は、典型的なピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+であり、実施例13のシラボラン固体426は、ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5である。ピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+と、ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5とは、相補的ではあるが、異なる電気化学特性を示す。2つの組成物間の重大な相違は、酸素の重要な役割による、実施例12及び実施例13の電気化学デバイス420の整流における根本的な相違によって例証される。これら2つの実施例のデバイス420における相違は、ピコ結晶固体423及び426の酸素濃度である。
図49を参照すると、実施例12のp型アイソタイプ電気化学整流器420の電流は、カソード電極424がアノード電極425に対して次第に順方向にバイアスされる(すなわち、負にバイアスされる)につれて、著しく増加する。図52に表されているように、実施例12のp型アイソタイプ電気化学整流器420における順方向バイアス電流は、低電流においてバイアス電圧とともに直線的に増加し、緩和電圧を超えて四次の電圧依存性により増加する。実施例12におけるp型アイソタイプ整流器420の順方向バイアス電流電圧特性は、緩和電圧を超えて、オキシシラボラン膜423によって空間電荷制限され、それゆえに、輸送時間は緩和時間よりも短い。
電気化学整流器420が逆方向にバイアスされる場合、異なる状況が発生する。ここで図49を参照すると、実施例12のp型アイソタイプ電気化学整流器420の電流は、カソード電極424がアノード電極425に対して次第に逆方向にバイアスされる(すなわち、正にバイアスされる)につれて、大きく減少したレートで増加する。これは、実施例12のピコ結晶オキシシラボラン固体423が理想的には、新しい伝導電流を維持する閉殻電子配置における固体を構成するピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+である、という事実による。図52の両対数グラフによって表される伝導電流は、多くの点で、半導体又は誘電体に注入された荷電プラズマに特有のものである。この特定の現象の十分な概要は、LampertとMarkのthe book Current Injection in Solids, Academic Press, 1970, pp. 250-275によって示されている。
電荷プラズマが半導体又は誘電体に注入される場合は常に、十分に高いレベルの電荷注入が、電荷中性条件の破れ(breakdown in charge neutrality)によって空間電荷制限電流密度を生じるまで、電流密度及び電圧は直線的に変化する。半導体への高レベル電荷注入は、空間電荷制限電流密度の電圧に対する二次依存性をもたらす傾向がある一方で、誘電体への高レベル電荷注入は、空間電荷制限電流密度の電圧に対する三次依存性をもたらす傾向がある。半導体と誘電体との間の主な相違は、半導体が通常、負又は正の極性の大きな外部移動電荷濃度を特徴とするのに対し、誘電体がごくわずかな移動電荷濃度を特徴とすることである。
原則として、図52における電気化学整流器420の両対数電流電圧特性は、実施例12のオキシシラボラン固体423が、理想的には誘電体の閉殻電子配置と同様の閉殻電子配置を有するピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+のバルク組成であるとすれば、誘電体に注入された荷電プラズマに特有である必要がある。先の参考文献においてLampertとMarkが明らかにしたように、移動電荷拡散は、いずれかの接点の拡散距離において誘電体のプラズマ注入電流電圧特性に対して影響力を有する傾向があり、これによって、電流密度は、電圧とともに指数関数的に変化する。誘電体の長さが拡散距離よりもはるかに大きい場合、移動電荷ドリフトがプラズマ注入電流電圧特性に対して影響力を有し、これによって、電流は、緩和電圧まで電圧とともに直線的に変化し、この変化は空間電荷制限されており、電圧による電流密度の三次変化を伴う。
例えば、LampertとMarkによる上述の参考文献によれば、真性シリコン領域の長さが4 mmであるシリコンPINダイオードは、10Vの緩和電圧を超える印加電圧に対する電流密度の三次依存性を有する空間電荷制限電流電圧特性を示す。PINダイオードの真性シリコン領域の長さがおよそ1mmに減少したとき、電流密度は、移動電荷拡散の独占により、印加電圧とともに指数関数的に変化した。図52を再び参照すると、実施例12の電気化学整流器420は、ピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+のバルク組成を有した、わずか7.8nmの薄いオキシシラボラン固体423において、ドリフト空間電荷制限電流電圧特性を有する。
これは、オキシシラボラン固体423のデバイ長がおよそ4nm未満である程度に外部電荷濃度が十分に大きい場合にのみ可能である。好ましい組成範囲(2≦x≦4、3≦y≦5、及び0≦z≦2)にわたる自己組織化ピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzの外部電荷濃度p0は、p0≒1018cm-3において本質的に一定である。外部キャリア濃度は、バンドギャップの峡帯化(bandgap narrowing)の開始時における単結晶シリコン中の不純物ドーピング濃度に関係する。ピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzは、閉殻電子配置を示し、また、シリコンにおけるバンドギャップの峡帯化の開始付近で外部移動電荷の集積も示すため、新規化合物である。
本発明に従って製造された組成物の原子工学技術は、図9に示されているピコ結晶人工ボラン原子101に関して説明可能であると考えられる。これまでに上述したように、図9に示されているホウ素二十面体は、Jahn-Tellerの定理に反して、ホウ素核102のほぼ対称的な二十面体配置を保持している。これは、スピン軌道相互作用による多原子電子軌道縮退の解除に起因すると考えられる。従来の化学では、電子は、共通の主量子数nを電子が共有する電子殻に存在する。それぞれの電子殻内には、電子が軌道角運動量と関連する共通の方位量子数lを共有する副殻が存在する。慣例により、共通の全整数方位量子数l=0、1、2、3を有する副殻のエネルギー準位は、従来の化学に従えばそれぞれ、s、p、d、fエネルギー準位と示される。
従来の化学では、原子及び分子のエネルギー準位はすべて、シュレディンガーの非相対論的波動方程式に従うと見なされる。電子はスピン角運動量を有することが知られているが、スピンは、シュレディンガーの非相対論的波動方程式には包含されていない。その結果、異なるスピン角運動量を有する電子は、全整数量子化軌道角運動量と関連する共通の方位量子数lを特徴とする共通のエネルギー準位を占め得る。前述の軌道角運動量縮退は、スピン軌道相互作用の存在下で解除され、これによって、全整数方位量子数lと関連するエネルギー準位は、半整数量子化全角運動量と関連する対のエネルギー準位に分割される。スピン軌道相互作用によるエネルギー準位の分割を図59に示す。
図59のエネルギー準位は、SakuraiによるAdvanced Quantum Mechanicsという表題の書籍(Benjamin/Cummings Publishing Company, 1984)の128ページの表3.3にあるディラックの相対論的波動方程式に従ったエネルギー準位を包含するエネルギー図を構成している。説明のために、図59のエネルギー準位図を考慮する。化学結合に関与しないホウ素の内部電子は、n=1の殻に存在する。その結果、図59には、n=1の殻は示されていない。シュレディンガーの非相対論的波動方程式によって説明されるエネルギー準位は、正定値エネルギー(positive-definite energy)と厳密に関連している。慣例により、n=+2の殻は、正定値エネルギー準位を含み、全整数量子化軌道角運動量と関連する+2s及び+2pの副殻が存在する。慣例により、n=+3の殻は、正定値エネルギー準位を含み、全整数量子化軌道角運動量と関連する+3s、+3p及び+3dの副殻が存在する。
これらの正定値エネルギー準位に加えて、ディラックの相対論的波動方程式は、同数の負定値エネルギー準位(negative-definite energy levels)を必要とし、これは図59に適切に示されている。スピン軌道相互作用は、図59に示されているように軌道角運動量縮退を解除する。例として、+2pエネルギー準位は、スピン軌道相互作用によって、+2p1/2エネルギー準位と+2p3/2エネルギー準位とに分割される。さらに、解除された+2p1/2エネルギー準位は、ディラックの相対論的波動方程式に従って、+2s1/2エネルギー準位と共通のエネルギーを共有していることに注意されたい。この共有エネルギー準位は、図59では+2sp1/2と示されている。図59の共有エネルギー準位+2sp1/2は、文献では、縮退エネルギー準位と呼ばれている。本発明の好適な実施形態に関係する理由により、共有エネルギー準位+2sp1/2は、以下、「エンタングルエネルギー準位」と称する。図59における他の軌道的に縮退したエネルギー準位は、同様に、スピン軌道相互作用によって解除される。
図59の正定値エネルギー準位は、以下、反結合エネルギー準位と称し、一方、図59の負定値エネルギー準位は、結合エネルギー準位と称する。価電子による図59におけるエネルギー準位の総占有は、図60に表されている。図60の36個すべての価電子は、図9におけるピコ結晶人工ボラン原子101のホウ素二十面体に結合するのに必要である。最初に、図60のエネルギー図における36個の価電子は、ピコ結晶人工ボラン原子101の人工核を形成するほぼ対称的なホウ素二十面体内に含まれることに留意されたい。これは、天然原子又は他のピコ結晶人工ボラン原子101への二十面体外結合に利用可能な半径方向軌道に、ホウ素の価電子が存在しないことを明示している。このため、ピコ結晶人工ボラン原子101の人工核を形成するほぼ対称的なホウ素二十面体は、バックミンスターフラーレンに類似した、二十面体外ホウ素結合がない、かご状二十面体である。
図60の価電子には、ピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOz中の空間を介した電荷伝導に価電子が関与できない電子閉殻構造が生じる。ピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzの電荷伝導は、ピコ結晶人工ボラン原子101の原子工学技術によって、根本的に異なるように達成することができる。図60における占有エネルギー準位は、金などの有意不純物原子の混入により、電子正孔対生成速度が十分に高い場合にのみ、実現することができる。金などの有意不純物が十分な濃度存在しない状態では、図60の価電子は、ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5の図61に表されている種類の占有状態へ緩和すると考えられる。図61の価電子によるエネルギー準位の占有は、不均化前のピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5に特有であると考えられる。
図61におけるすべての結合エネルギー準位は、-2sp1/2エネルギー準位を除いて解きほぐされると考えられる。上述したように、ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5は高い電気陰性度を示し、このため、1対の価電子が1個のピコ結晶人工ボラン原子101から隣接するピコ結晶人工ボラン原子101へ移動する、という不均化を受ける強い傾向を示す。不均化によって、ピコ結晶人工ボラン原子B12H4 101は、隣接するピコ結晶人工ボラン原子B12
2-H4 101への1対の価電子の移動によって、ピコ結晶人工ボラン原子B12
2+H4 101へ正にイオン化され、これによって、不均化時には負にイオン化される。ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5の不均化により、負にイオン化されたピコ結晶人工ボラン原子B12
2-H4 101、及び正にイオン化されたピコ結晶人工ボラン原子B12
2+H4 101における、価電子によるエネルギー準位の考えられる占有をそれぞれ、図62A‐Bに示す。
ピコ結晶人工ボラン原子B12
2-H4又はB12
2+H4 101のイオン化は、4個の人工価電子H4に変化のない、人工核B12
2-又はB12
2+のイオン化に起因する。人工電子を変更せずに人工核をイオン化する能力は、好ましい組成範囲(2≦x≦4、3≦y≦5、及び0≦z≦2)にわたるピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzの新しい種類の原子工学技術に寄与している。図62Aにおける負にイオン化されたピコ結晶人工ボラン原子B12
2-H4 101の電子閉殻は、理想的には、消失する電気陰性度を示す。全く異なることに、図62Bにおける正にイオン化されたピコ結晶人工ボラン原子B12
2+H4 101の正孔対は、高い電気陰性度を示す。不均化によって、ピコ結晶人工ボラン原子B12H4 101が、微量濃度の荷電ピコ結晶人工ボラン原子B12
2-H4 101及びB12
2+H4 101にイオン化されることは重要である。
微量濃度の正にイオン化されたピコ結晶人工ボラン原子B12
2+H4 101によって、ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5の外部キャリア濃度はp0≒1018cm-3となる。これは、実施例13において実験上確認されている。特定の実施例では、シリコン基板421のアクセプタードーピングによって、外部キャリア濃度はp0≒4×1018 cm-3となる。非縮退p型単結晶シリコン層422の外部キャリア濃度は、p0≒7×1015 cm-3である。その結果、シリコン基板421又は実施例13のピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5膜426のいずれかから、アノード電極425及びカソード電極424のバイアス極性に応じて、p型単結晶シリコン層422へ移動正孔が注入される。カソード電極424がアノード電極425に対して負にバイアスされるとき、シリコン基板421からp型単結晶シリコン層422へ移動正孔が注入される。
逆に、カソード電極424がアノード電極425に対して正にバイアスされる場合、ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5膜426からp型単結晶シリコン層422へ移動正孔が注入される。ここで図55のインピーダンス特性を参照すると、実施例13における電気化学デバイス420のインピーダンスは、バイアス極性に関してほぼ対称的であり、整流は存在しないことが観察できる。この状態は、実施例12では著しく変更されている。図49‐53を参照すると、ピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+膜423へ酸素を組み込むことによって、実施例12の電気化学デバイス420は、実施例13の電気化学デバイス420と比較して高い整流性を示すことが理解できる。実施例10‐13の電気化学デバイス420の電流は、空間電荷制限ドリフト電流である。
ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5及びピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+におけるピコ結晶人工ボラン原子101の原子工学技術の有用性は、図63の熱光起電力ダイオード500の考えられる動作を考慮することによって、さらに十分に理解できる。熱光起電力ダイオード500は、アルミニウム領域503が介在する、任意の数の複数対の結合したピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5領域501とピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+領域502とから構成されている。ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5領域501と、ピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+領域502とを構成するピコ結晶人工ボラン原子101の原子工学技術は、Longuet-HigginsとRobertsの論文「The Electronic Structure of an Icosahedron of Boron」, Proceedings of the Royal Society A, Vol. 230, 1955, p. 110による分子軌道分析の一般化を非常に簡潔に考慮することによって理解できる。
単離された天然ホウ素原子は、4つの正規直交原子軌道、Ψi(s)、Ψi(px)、Ψi(py)及びΨi(pz)間に分布する3個の価電子を有している。これら4つの正規直交原子軌道は、互いに一次独立している。12個の天然ホウ素原子が3中心結合によってともに結合しているとき、原子軌道は絡み合うようになり、これによって、原子軌道は、もはや互いに一次独立しない。一次独立し絡み合った原子軌道を分析することは難しいが、これらの原子軌道は、他のどの種類の分子であっても持続可能ではない新しい電子特性を維持する分子結合非局在化をもたらす。Longuet-HigginsとRobertsに続いて、図64に示されている方法により、正二十面体を立方体に内接させる。黄金比φは、~1.618である。
図64のそれぞれの正二十面体の頂点には、天然ホウ素核102が存在している。図64の12のホウ素核と関連する、12の無方向性原子軌道(nondirectional atomic orbitals)Ψi(s)、及び12の半径方向原子軌道Ψi(pr)が存在しており、i=1、2、3、…、12である。12の半径方向原子軌道Ψi(pr)は、5回回転の12の二十面体軸に沿っている。さらに、24の接線方向原子軌道が存在している。図65に示されている12の接線方向原子軌道Ψi(p<100>)は、非常に異なる記号体系を除いて、Longuet-HigginsとRobertsによる論文の図3の接線方向原子軌道を構成している。図66に示されている12の接線方向原子軌道Ψi(p{111})は、記号体系を除いて、Longuet-HigginsとRobertsによる論文の図2の接線方向原子軌道を構成している。本明細書に用いられる外接立方体は、実験室フレームフィールドと呼ばれ、内接二十面体は分子フレームフィールドと呼ばれる。
12の接線方向原子軌道Ψi(p<100>)が実験室フレームフィールド内に存在し、12の接線方向原子軌道Ψi(p{111})が分子フレームフィールド内に存在することになる。このことは、正二十面体の120の対称操作によって、実験室フレームの3つのデカルト軸すべてが回転するため、非常に重要であり、正二十面体の120の対称操作に応じたホウ素核102の変位は、実験室フレームフィールドでは十分に説明することができない。外接立方体の実験室フレームフィールド内の回転デカルト軸により、12の接線方向原子軌道Ψi(p{111})の他の3つの非局在化集合が存在し、これらは図67‐69に示されている。Longuet-HigginsとRobertsによる分子軌道分析では、12の接線方向原子軌道Ψi(p{111})の4つの非局在化集合の存在は検討されていなかった。
ホウ素核102の変位に対する120の二十面体対称操作の十分な影響を説明する、Longuet-HigginsとRobertsによる分子軌道分析の一般化によって、図70のホウ素二十面体の対称的な核配置が得られる。ホウ素二十面体の3中心結合は、図70に示されている24の接線方向原子軌道Ψi(p{111})によって説明される。一般化された分子軌道分析は、次の驚くべき知見をもたらす。120の二十面体対称操作によって、図70に示されているk<111>波数ベクトルに沿った周期的な直線振動を支持するように、12のホウ素核102すべてが静止しているほぼ対称的なホウ素二十面体が得られる。このような知見は、ほぼ対称的なホウ素二十面体が、ほぼ球形の回転楕円体として扱われる場合に、説明可能である。
図70に示されている24の非正規直交接線方向原子軌道Ψi(p{111})は、120の二十面体対称操作では、直接分析することができない。図70における24の非正規直交接線方向原子軌道Ψi(p{111})は、正二十面体の正規直交既約表現によって説明できる分子軌道により表される。ほぼ12重縮退の反結合分子軌道クラスターΨY(T1g、Gg、Hu)は、(1)3重縮退二十面体既約表現T1g、(2)4重縮退二十面体既約表現Gg、さらに、(3)5重縮退二十面体既約表現Huと関連していると考えられる。これら3つの二十面体既約表現は、二十面体の表面球面調和関数と厳密に関連している。
同様に、電子のほぼ12重縮退の結合分子軌道クラスターΨY(T1u、Gu、Hg)は、(1)3重縮退二十面体既約表現T1u、(2)4重縮退二十面体既約表現Gu、さらに、(3)5重縮退二十面体既約表現Hgと関連していると考えられる。4重縮退二十面体既約表現Guは、二十面体の表面球面調和関数と関連しているのに対し、3重縮退二十面体既約表現T1u、及び5重縮退二十面体既約表現Hgは、より一般的には、二十面体の半径方向球面調和関数及び表面球面調和関数と関連している。電子のほぼ12重縮退の反結合分子軌道クラスターΨY(T1g、Gg、Hu)は、理想的には、図60の+2s、+2p、+3s、+3p、+3dエネルギー準位と関連していると考えられる。12個の電子のほぼ12重縮退の結合分子軌道クラスターΨY(T1u、Gu、Hg)は、図60の-2s、-2p、-3s、-3p、-3dエネルギー準位と関連していると考えられる。
正ホウ素二十面体における価電子エネルギー準位の上述したクラスター化が、図71に描写されている。全整数量子化エネルギー準位は、スピン軌道相互作用によって、図71に示されているように半整数量子化エネルギー準位へと解除される。エネルギー準位の実際の分離は、図71では強調されていることを理解されたい。二十面体の既約表現によって正ホウ素二十面体のエネルギー準位を表すのには、十分な理由がある。正二十面体の120の対称操作は、図64における外接立方体の実験室フレームフィールド内においてデカルト軸を回転させる、という点で特有である。その結果、ホウ素核102の回転及び並進移動は、3重縮退デカルト軸によって説明することができず、このデカルト軸に沿って、12の接線方向原子軌道Ψi(p<100>)は平行である。これは、回転と関連する3重縮退二十面体既約表現T1g、及び並進移動と関連する3重縮退二十面体既約表現T1uにより、24の接線方向原子軌道Ψi(p{111})を表すことによって改善される。
そうすることによって、正二十面体の120の対称操作は、二十面体を回転させず、すべての二十面体の並進移動を、図70に示されているk<111>波数ベクトルの直線軸に沿って制限することが証明された。これは、図70における24の接線方向原子軌道Ψi(p{111})が、それ自体は静止しているホウ素核102に制限された正規化ベクトルによって表される点で特に驚くべきことである。すべての二十面体の変位は、理想的には、図70のk<111>波数ベクトルに対して垂直な対をなす二十面体面を結ぶ4つの直線軸に制限される。この状態は、図70における24の接線方向原子軌道Ψi(p{111})によって構成される3中心化学結合のピーク電子密度が、理想的には図70に示されている8つの{111}二十面体面の幾何学的中心に存在するため、実際に意味がある。
正ホウ素二十面体の反結合正二十面体内軌道における価電子は、ほぼ12重縮退の分子軌道クラスターΨY(T1g、Gg、Hu)内に存在する一方で、正ホウ素二十面体の結合二十面体内軌道における価電子は、ほぼ12重縮退の分子軌道クラスターΨY(T1u、Gu、Hg)内に存在する。価電子のほぼ12重縮退の反結合分子軌道クラスターΨY(T1g、Gg、Hu)は、図9におけるピコ結晶人工ボラン原子101のk<111>波数ベクトルに対して垂直な4つの{111}二十面体面の幾何学的中心付近の非局在化ピーク電子密度を維持すると考えられる。価電子のほぼ12重縮退の結合分子軌道クラスターΨY(T1u、Gu、Hg)は、図9におけるピコ結晶人工ボラン原子101の対向する{111}二十面体面の幾何学的中心の非局在化ピーク電子密度を維持すると考えられる。
このように、図71の正定値半整数量子化エネルギー準位は、スピン軌道相互作用によるほぼ12重縮退の反結合分子軌道ΨY(T1g、Gg、Hu)の解除と関連している。同様に、図71の負定値半整数量子化エネルギー準位は、スピン軌道相互作用によるほぼ12重縮退の結合分子軌道ΨY(T1u、Gu、Hg)の解除と関連している。図71のスピン軌道相互作用による軌道縮退の解除は、ディラックの相対論的波動方程式に従って荷電共役対称性を維持する。図71における36個の価電子が、中性ピコ結晶人工ボラン原子B12H4 101の人工核B12の化学結合と関連していることは重要である。さらに、図71の半整数量子化反結合正二十面体内エネルギー準位における18個の価電子が、二十面体の回転T1gと関連している一方で、図71の半整数量子化結合二十面体内エネルギー準位における18個の価電子が、二十面体の並進移動T1uと関連していることは重要である。
半整数量子化正定値反結合エネルギー準位の18個の価電子、及び半整数量子化負定値結合エネルギー準位の18個の価電子は、図9におけるピコ結晶人工ボラン原子101の4k<111>波数ベクトルに対して垂直な非局在化二十面体面対の間で、対向する二十面体面の幾何学的中心付近に存在する。半整数量子化エネルギー準位における価電子の非局在化によって、本発明のピコ結晶オキシシラボランにとって新規である種類の原子工学技術がもたらされる。この種類の原子工学技術は、バックミンスターフラーレンの分子切断(molecular truncation)が、正二十面体の5回回転による結合の非局在化を排除するため、フラーレンでは不可能である。この種類の原子工学技術は、ホウ素二十面体がJahn-Teller歪みによって変形するため、先行技術の高ホウ素固体では不可能である。
本発明のピコ結晶オキシシラボランの原子工学技術には、2つの異なる基本型がある。原子工学技術の基本型の1つは、有意とされる微量不純物が存在しないことを必要とし、これによって、図61による中性ピコ結晶人工ボラン原子B12H4 101の人工核B12内の半整数量子化エネルギー準位間で、荷電共役対称性は破られる。荷電共役対称性は、中性ピコ結晶人工ボラン原子B12H4 101の人工核B12内の半整数量子化結合エネルギー準位の規則正しいディスエンタングルメントによって、規則正しく破られると考えられる。-3sp1/2エネルギー準位は、最初に、-3s1/2及び-3p1/2エネルギー準位に解きほぐされ、これによって、電子対は、図72に示されているように、+3sp1/2エネルギー準位から低下すると考えられる。-3pd3/2エネルギー準位は、その後、-3p3/2及び-3d3/2エネルギー準位に解きほぐされ、これによって、2個の電子は、図73に示されているように、+3pd3/2エネルギー準位から低下すると考えられる。
図73の価電子配置は、中性ピコ結晶人工ボラン原子B12H4 101の人工核に特有であると考えられる。このような価電子配置の有用性を論じる前に、図73における半整数量子化反結合及び結合エネルギー準位のディスエンタングルメントの相違は、最初に説明可能である。図73における正定値反結合エネルギー準位の3重縮退T1g、4重縮退Gg及び5重縮退Hu二十面体既約表現はすべて、表面球面調和関数と厳密に関連している。非常に異なって、図73における正定値反結合エネルギー準位の3重縮退T1u及び5重縮退Hg二十面体既約表現は、半径方向球面調和関数と表面球面調和関数の両方と関連し、これによって、半径方向球面調和関数によるディスエンタングルメントが生じ得る。
半径方向球面調和関数の影響は、図62A‐Bに表されているように、中性ピコ結晶人工ボラン原子B12H4 101の、ジアニオンB12
2-H4 101とジカチオンB12
2+H4 101の等しい対への不均化と関連して理解することができる。図62Aにおける-2sp1/2エネルギー準位のディスエンタングルメントは、図74にさらに十分に表されている。中性ピコ結晶人工ボラン原子B12H4 101の、ジアニオンB12
2-H4 101とジカチオンB12
2+H4 101の等しい対への不均化は、図63における熱光起電力ダイオード500のピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5領域501に生じる。ピコ結晶人工ボラン原子B12
2-H4 101は、図63に示されている熱光起電力ダイオード500のピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+領域502において負にイオン化される。
1対の結合したピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5領域501とピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+領域502の第1及び第2の最近接ピコ結晶人工ボラン原子101の人工核の占有電子エネルギー準位をそれぞれ、前述した結合領域501と502との間の金属学的な接合(metallurgical junction)に関する図75A‐Dに示す。ピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+領域502を含む負にイオン化されたピコ結晶人工ボラン原子B12
2-H4 101の人工核B12
2-の占有エネルギー準位は、理想的な限界において消失する電気陰性度を維持することが強調される。非常に異なって、結合したピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5領域501を形成する中性ピコ結晶人工ボラン原子B12H4 101の人工核B12の占有エネルギー準位は、高い電気陰性度による電子の捕獲を維持する。
上述したように、ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5領域501における微量濃度p0≒1018 cm-3の中性ピコ結晶人工ボラン原子B12H4 101は、イオン化されたピコ結晶人工ボラン原子B12
2-H4及びB12
2+H4 101の隣接対への不均化を受ける。ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5領域501内の特定の隣接ピコ結晶人工ボラン原子B12
2-H4及びB12
2+H4 101の人工核B12
2-及びB12
2+の占有電子エネルギー準位を図76A‐Bに表す。図76A‐Bに示されているエネルギー準位は、熱光起電力ダイオード500の電荷伝導に寄与する微量濃度p0≒1018cm-3を表すことを強調するに値する。図76Bにおける人工核B12
2+の高い電気陰性度、及び図76Cにおける人工核B12
2-の低い電気陰性度により、移動電荷拡散は、図77A‐Dに示されているように、自発的に発生する。
1対の移動正孔は、図77Bの人工核B12
2+から図77Cの人工核B12の方へ自発的に拡散する一方で、同時に、1対の移動電子も、図77Cの人工核B12から図77Bの人工核B12
2+の方へ自発的に拡散する。図77Bにおける-2sp1/2エネルギー準位のエンタングルメントによって、図77A‐Dの拡散した移動正孔及び移動電子が、2つの異なる離散的エネルギー準位に存在すると考えられる。慣例により、図77Cの-2s1/2エネルギー準位から拡散する電子対は、|-2s1/2
2>によって表され、同様に、図77Bの-3p3/2エネルギー準位から拡散する正孔対は、|-3p3/2
2>によって表される。図77Bの-3p3/2エネルギー準位から拡散する正孔対の慣例は、4個の電子によって完全に占有されているときには、図77Bの-3p3/2エネルギー準位が|-3p3/2
4>によって表される、という事実を利用する。|-3p3/2
2>は、図77Bの-3p3/2エネルギー準位において、1対の欠けている電子、ゆえに1対の正孔を表すことになる。
マイクロ波エネルギー差によって分離された、2つの異なるエネルギー準位における1対の移動電子|-2s1/2
2>及び1対の移動正孔|-3p3/2
2>の存在は、本発明の好適な実施形態の新規性及び有用性を裏付けている。これは、図78A‐Dの占有エネルギー準位を考慮することによって、さらに十分に理解できる。図77Bの人工核B12
2+から拡散する移動正孔|-3p3/2
2>は、図78Cに示されている移動正孔対|-2s1/2
0>が生じるように、-2s1/2エネルギー準位に低下する一方で、同時に、図77Cの人工核B12から拡散する移動電子|-2s1/2
2>は、図78Bに示されている電子の準安定四つ組(quasi-stable tetrad)|-3p3/2
4>を生じさせるように、-3p3/2エネルギー準位に上昇する。2個の電子の-3p3/2エネルギー準位への上昇は、絡み合った回転自由度、振動自由度及び電子自由度に起因すると考えられる図78Bにおけるもつれ合った-2sp1/2エネルギー準位に起因すると考えられる。
スピン軌道相互作用による-2sp1/2エネルギー準位のディスエンタングルメントは、45マイクロ電子ボルトのエネルギーを必要とする。このようなディスエンタングルメントが存在しない状態では、このエネルギーは、ピコ結晶人工ボラン原子101のk<111>波数ベクトルに沿った振動エネルギーとして現れると考えられる。これによって、45マイクロ電子ボルトは、宇宙背景放射の最大周波数(160 GHz)よりも低い10.9 GHzの振動周波数に相当する。したがって、宇宙背景放射よりも高い周波数の放射は、図78Bに表されているように、もつれ合った-2sp1/2エネルギー準位から、解きほぐされた-3p3/2エネルギー準位へ電子を励起することが可能である。地球から放射される地球放射が、宇宙背景放射の周波数よりもはるかに高い赤外線周波数にある、という言及は、妥当と見なされる。これによって、熱光起電力ダイオード500は、赤外線地球放射を集めることができる。
図78A‐Dのエネルギー準位は、不均化により図79A‐Dのエネルギー準位に変換される。図79A‐Dを介して図75A‐Dにより説明されているサイクルは、原理上は、無限に継続することができる。図63の熱光起電力ダイオード500における移動電子正孔対|-2s1/2
2>と|-3p3/2
2>の連続周期的発生によって、移動正孔|-3p3/2
2>が移動正孔|-2s1/2
0>に変形して、それぞれのピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5領域501から、結合したピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+領域502へ拡散する。ピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+領域502への移動正孔|-2s1/2
0>の拡散によって、必然的に、およそ2デバイ長の幅の累積空間電荷領域が生じる。ピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+領域502のデバイ長はおよそ4nm程度であるため、前述した蓄積空間電荷領域の幅は8 nmである。電流密度は、ピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+領域502の幅によって決定される。
ピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+領域502の幅がおよそ8nmよりも大きい場合、空間電荷制限ドリフト電流密度は、実施例12の図49‐53における空間電荷制限ドリフト電流密度と同様になる。この条件下では、図63における熱光起電力ダイオード500のカソード電極504とアノード電極505との間には、開路電圧は存在し得ない。他方で、空間電荷制限電流が拡散制限されるように、ピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+領域502の幅がデバイ長よりも小さい(すなわち、4 nm未満である)場合、カソード電極504とアノード電極505との間の開路電圧は、図63の熱光起電力ダイオード500によって発生する。好ましい組成範囲(2≦x≦4、3≦y≦5、及び0≦z≦2)にわたりピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzによって形成された熱光起電力ダイオード500は、直接エネルギー変換により、周囲温度において暗所で地球熱放射を直接電気に変換できる、という点で新しい。
本発明のピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzのこの新規かつ有用な用途は、好ましい組成範囲(2≦x≦4、3≦y≦5、及び0≦z≦2)にわたってピコ結晶人工ボラン原子101の電気陰性度の変化を制御して維持する原子工学技術によるものである。図63に示されている熱光起電力ダイオード500の特定の結合領域501及び502はそれぞれ、ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5、及びピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+であるが、好ましい組成範囲(2≦x≦4、3≦y≦5、及び0≦z≦2)にわたって異なる電気陰性度を有するいずれか2種のピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzが使用できることを理解されたい。ピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzの新規かつ有用な特性は、スピン軌道相互作用によってピコ結晶人工ボラン原子101内に異なるマイクロ波エネルギー準位で移動正孔及び移動電子を放射により発生させる能力に関する。
熱光起電力ダイオード500における移動正孔|-3p3/2
2>及び移動電子|-2s1/2
2>は、上述したように、45マイクロ電子ボルトを超えて分離された非常に特定のエネルギー準位と関連しているが、移動正孔及び移動電子は、より一般的には、マイクロ波エネルギーによって分離された離散的エネルギー準位において存在することを理解されたい。この能力によって、本発明の結合ピコ結晶オキシシラボラン(B12H4)xSiyOzにより構成された熱光起電力ダイオードが作動し、理想的には周囲温度において作動し、より現実的には、地球から放射される赤外線地球熱放射の周囲温度において作動する。これは、従来の熱光起電力ダイオードとは非常に異なる。
先行技術における従来の熱光起電力ダイオードは、熱放射体と光起電力ダイオードとから構成され、前述の熱放射体は通常、光起電力ダイオードよりも高い温度に加熱される。従来の熱光起電力ダイオードでは、移動電子正孔対は、放射により発生し分離され、これによって、移動電子は、(反結合分子軌道の連続体によって構成される)拡張伝導エネルギーバンドに励起され、移動正孔は、(結合分子軌道の連続体によって構成される)拡張価電子エネルギーバンドに励起される。本明細書に用いられる拡張エネルギーバンドは、第1及び第2の最近接天然原子又は人工原子をはるかに越える空間領域にわたって広がるエネルギー準位の連続体としてそれぞれ作用する、反結合分子軌道又は結合分子軌道の大きな群であり、これによって、移動電子は、反結合分子軌道間の共通エネルギーにおいて空間内を移動し、移動正孔は、結合分子軌道間の異なる共通エネルギーにおいて空間内を移動する。伝導エネルギーバンドの底部と価電子エネルギーバンドの頂部との間の禁制エネルギー領域は、従来の熱光起電力ダイオードの光起電力ダイオードに対する熱放射体の最低温度を制限する。
本発明のピコ結晶人工ボラン原子101の(二十面体頂点に存在する天然ホウ素核102を有したほぼ対称的な二十面体により構成される)人工核内のエネルギーの離散的量子化によって、第1及び第2の最近接ピコ結晶人工ボラン原子101の間の空間内に閉じ込められた結合分子副軌道内に、マイクロ波エネルギーにより分離された、異なる離散的エネルギー準位において移動正孔が存在し得る、原子工学技術が可能になる。この種類の原子工学技術によって、移動正孔及び移動電子は、異なるエネルギー準位において空間にわたり変位するように、45マイクロ電子ボルト程度の禁制エネルギー領域とともに発生し、離散的エネルギー準位に分離され得る。ピコ結晶人工ボラン原子101の人工核内の離散的エネルギー準位間の禁制エネルギー領域は、45マイクロ電子ボルト程度であるため、暗所及び熱平衡状態においてマイクロ波又は赤外線に反応して、図63の熱光起電力ダイオード500のピコ結晶人工ボラン原子101における異なるエネルギー準位での移動電子正孔対が連続的に発生し得る。
地球放射を集めることが可能な新規の熱光起電力ダイオードを維持できるピコ結晶人工ボラン原子101の原子工学技術の一種を上述した。この種類の原子工学技術は、ピコ結晶人工ボラン原子101の人工核における荷電共役対称性の破れを利用する。ピコ結晶人工ボラン原子101の別の有用な種類の原子工学技術は、人工核の荷電共役対称性を維持する。この第2の種類の原子工学技術は、理想的には、図60に表されているとおりにピコ結晶人工ボラン原子101のエネルギー準位を占有するように、金などの有意不純物原子の混入によって達成される。これまでに上述したように、図60の36個の価電子は、ピコ結晶シラボラン(B12H4)3Si5:Auを形成するピコ結晶人工ボラン原子101の人工核を化学的に結合するのに必要であり、このため、伝導電流を維持するのには利用できない。
本明細書に用いられる、(B12H4)3Si5:Au中の「:Au」という接尾辞は、天然金原子の微量混入を示す。(B12H4)3Si5:Au中の金原子の微量濃度は、外部キャリア濃度p0≒1018 cm-3とほぼ同じである。酸素を組み込むことによって、ピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+:Auは、ピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+の導電率よりも数桁大きな導電率を有する導電性物質になる。本明細書に用いられる「:Au」という接尾辞の明示的な欠如は、ピコ結晶オキシシラボラン(B12
2-H4)4Si4O2
2+が、検出可能な濃度の不純物金原子を含まないことを意味するものとする。ここで、微量金原子の混入の例を示す。
<実施例14>
図80を参照すると、二酸化ケイ素膜602がヒ化ガリウム基板601上に堆積した。二酸化ケイ素膜602上に、チタン膜603及び金膜604を蒸着させた。基板601を、D‐125 MOCVD室内の抵抗加熱サセプタ上に載せた。そして、MOCVD室を、50mmtorr未満に機械的に排気させ、続いて、360sccmの流量において水素中3体積%のジボラン混合物B2H6(3%)/H2(97%)、及び1300sccmの流量において水素中2体積%のモノシラン混合物SiH4(2%)/H2(98%)を、堆積室内に導入した。同時に、150sccmの流量において未希釈亜酸化窒素N2Oを導入した。ガスを混合させ安定化させた後に、MOCVD反応器の堆積室内に入れた。反応ガス流量が安定したら、MOCVD室圧力を20torrに調節し、モリブデンサセプタを1100rpmにおいて回転させた。基板の温度を、抵抗加熱回転サセプタによって240℃まで上昇させた。堆積温度が240℃において安定した後、化学反応を20分間進行させ、続いて、サセプタの加熱を停止し、試料を80℃未満まで冷却させた後に、堆積室から試料を取り出した。図80に示されているように、オキシシラボラン膜605を金膜604上に堆積させた。膜の厚さは、可変角分光偏光解析法によって、91.8 nmと測定された。図81のXPS深さプロファイルでは、オキシシラボラン膜605中のホウ素、ケイ素及び酸素のそれぞれの相対原子濃度を、85.2%、10.0%及び3.8%と確認した。
そして、オキシシラボラン膜605中の金の微量不純物濃度を測定するために、二次イオン質量分析(SIMS)を行った。図82のSIMS深さプロファイルでは、金原子濃度は~1018cm-3と測定された。RBS及びHFS分析では、ホウ素、水素、ケイ素及び酸素の相対原子濃度は、70%、17%、10%及び3%と測定された。図83に従って、ベルジャー型蒸発器内のシャドーマスクを介してアルミニウムを蒸発させることにより、金属電極606及び607を金膜上に蒸着させた。オキシシラボラン膜605の電流電圧特性を、金属電極606及び607上に配置された2つのマイクロプローブによって得られる掃引信号を用いて、HP‐4145パラメーター分析器により確認した。オキシシラボラン膜605の電流電圧特性のグラフを図84に示す。オキシシラボラン膜605の電流電圧特性は、オーム伝導電流を示すとともに、マイクロプローブ測定装置による2.9Ωの抵抗を有する。微量不純物としての金の混入は、空間電荷効果を排除することによって、オキシシラボラン膜605の電気特性を変化させる。オキシシラボラン内の微量金不純物の混入は、オキシシラボラン膜を堆積させる形成ガス中に金前駆体を含めることによって、達成することができる。適切な金前駆体は、揮発性有機金属ジメチル金(III)錯体であり、このような金前駆体は、ジメチル金(III)アセテート(CH3)2Au(OAc)が好ましい。金前駆体は、MOCVD反応器内の水素キャリアガスによって、オキシシラボラン膜の形成ガスに導入することができる。微量金不純物の混入によって、ピコ結晶オキシシラボランの電気コンダクタンスは、制御されて実質的に増加する。
このように、当業者であれば、ピコ結晶人工ボラン原子101の原子工学技術により目的に合わせた方式で電子特性を形成するように、例えば化学蒸着法によって、種々の量の酸素及び金などの不純物を有するピコ結晶オキシシラボランの層を堆積させ得ることを認識する。本明細書に開示されている新規組成物を用いるための、すべてのデバイス、変形物及び適応物は、添付の特許請求の範囲内に入るものとする。