JP7061640B2 - 活性炭吸着剤の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、活性炭吸着剤の製造方法に関し、特に、毒性物質の吸着速度を速めた活性炭吸着剤の製造方法であって、簡易な工程で容易に出発原料である複合フェノール樹脂を製造することができ、かつ収率を高めることができて経済性に優れる活性炭吸着剤の製造方法に関する。
腎疾患又は肝疾患の患者は、血液中に毒性物質が蓄積し、その結果として尿毒症や意識障害等の脳症を引き起こす。これらの患者数は年々増加する傾向にある。患者の治療には、毒性物質を体外へ除去する血液透析型の人工腎臓等が使用される。しかしながら、このような人工腎臓は、安全管理上から取り扱いに専門技術者を必要とし、また血液の体外への取り出しに際し、患者の肉体的、精神的、及び経済的負担を要することが問題視されており、必ずしも満足すべきものではない。
人工臓器に代わる方法として、経口により摂取し体内で毒性物質を吸着し、体外に排出する経口投与用吸着剤が開発されている(特許文献1、特許文献2等参照)。しかし、これらの吸着剤は、活性炭の吸着性能を利用した吸着剤であるため、除去すべき毒素の吸着容量や毒素の有用物質に対する選択吸着性が十分とはいえない。一般的に、活性炭の疎水性は高く、尿毒症の原因物質やその前駆物質に代表されるインドキシル硫酸、DL-β-アミノイソ酪酸、トリプトファン等の低分子量のイオン性有機化合物の吸着に適さないという問題点を内包している。
そこで、活性炭吸着剤の問題点を改善するべく、原料物質として木質、石油系もしくは石炭系の各種ピッチ類等を使用し球状等の樹脂化合物を形成し、これらを原料とした活性炭からなる抗ネフローゼ症候群剤が報告されている(例えば、特許文献3参照)。前出の活性炭は、石油系炭化水素(ピッチ)等を原料物質とし、比較的粒径を均一にして、炭化、賦活により調製される。また、活性炭自体の粒径を比較的均一化するとともに、当該活性炭における細孔容積等の分布について調整を試みた経口投与用吸着剤が報告されている(特許文献4参照)。このように、薬用活性炭は、比較的粒径を均一にすることに伴い、腸内の流動性の悪さを改善し、同時に細孔を調整することにより当該活性炭の吸着性能の向上を図った。そこで、多くの軽度の慢性腎不全患者に服用されている。
薬用活性炭には、尿毒症の原因物質やその前駆物質に対する迅速かつ効率的な吸着が要求される。しかしながら、従来の薬用活性炭における細孔の調整は良好とはいえず、吸着性能も安定しなかった。そのため、一日当たりの服用量を多くしなければならない。特に、慢性腎不全患者は水分の摂取量を制限されていることから、少量の水分により嚥下することは患者にとって大変な苦痛となっていた。加えて、胃、小腸等の消化管においては、糖、タンパク質等の生理機能に不可欠な化合物及び腸壁より分泌される酵素等の種々物質の混在する環境である。その中において、尿毒症等の原因となる毒性物質、特には、窒素を含有する化合物を迅速に吸着し、そのまま便とともに体外に排泄する薬用の活性炭吸着剤が望まれていた。
発明者は活性炭吸着剤の炭化前の原料、細孔の発達について精査した。その結果、活性炭の原料となる樹脂成分にフェノール樹脂を採用するとともに樹脂の組成を工夫することにより、樹脂炭化物由来の活性炭の細孔を好適に制御して、低分子量の含窒素化合物の迅速な吸着に好適な細孔分布を備えた活性炭を見出すに至った。
特許第3835698号公報 特開2008-303193号公報 特開平6-135841号公報 特開2002-308785号公報
本発明は、前記の点に鑑みなされたもので、フェノール樹脂に由来する活性炭において、フェノール樹脂中の樹脂組成を改良することにより、樹脂炭化物に生じる細孔中のマクロ孔の割合を高め、窒素を含有する低分子化合物を迅速に吸着可能な活性炭吸着剤を提供することができる活性炭吸着剤の製造方法であって、さらにその活性炭吸着剤を簡易な工程で容易に製造することができ、かつ経済性に優れた活性炭吸着剤の製造方法を提供する。
すなわち、第1の発明は、ノボラック樹脂とレゾール樹脂を含有する複合フェノール樹脂の製造方法であって、フェノールと、ホルムアルデヒドと、酸性触媒と乳化剤とを混合しながら加熱してノボラック樹脂分を調製するノボラック樹脂合成工程と、前記ノボラック樹脂合成工程により得た溶液中に、ホルムアルデヒドと、塩基性触媒とを混合しながら加熱してレゾール樹脂成分を合成するとともに前記ノボラック樹脂分も含有した複合フェノール樹脂を調製する複合フェノール樹調製整工程と、前記複合フェノール樹脂を炭化して樹脂炭化物を得る炭化工程と、前記樹脂炭化物を賦活して活性炭吸着剤を得る賦活工程を有することを特徴とする活性炭吸着剤の製造方法に係る。
第2の発明は、第1の発明に記載の活性炭吸着剤の製造方法であって、下記式(i)にて示される前記フェノールの当量(P)と前記ノボラック樹脂合成工程において添加される前記ホルムアルデヒドの当量(FN)との当量比(R1)が0.5~0.9である活性炭吸着剤の製造方法に係る。
Figure 0007061640000001
第3の発明は、第1又は2の発明に記載の活性炭吸着剤の製造方法であって、下記式(ii)にて示される前記フェノールの当量(P)と複合フェノール樹脂調製工程において添加される前記ホルムアルデヒドの当量(FR)との当量比(R2)が1.1~1.8である活性炭吸着剤の製造方法に係る。
Figure 0007061640000002
第4の発明は、第1ないし3の発明のいずれかに記載の活性炭吸着剤の製造方法であって、前記複合フェノール樹脂の揮発分が60%以下である活性炭吸着剤の製造方法に係る。
第5の発明は、第1ないし4の発明のいずれかに記載の活性炭吸着剤の製造方法であって、前記複合フェノール樹脂が平均粒径200~500μmの粒状物ないし球状物である活性炭吸着剤の製造方法に係る。
第6の発明は、第1ないし5の発明のいずれかに記載の活性炭吸着剤の製造方法であって、前記塩基性触媒が、アミン化合物である活性炭吸着剤の製造方法に係る。
第7の発明は、第1ないし6の発明のいずれかに記載の活性炭吸着剤の製造方法であって、前記複合フェノール樹脂に含有されるノボラック樹脂分とレゾール樹脂分が9:1ないし5:5の重量比である活性炭吸着剤の製造方法に係る。
第8の発明は、第1ないし7の発明のいずれかに記載の活性炭吸着剤の製造方法であって、前記活性炭吸着剤が、経口投与用腎疾患又は経口投与用肝疾患のための治療剤又は予防剤である活性炭吸着剤の製造方法に係る。
第1の発明に係る活性炭吸着剤の製造方法によると、ノボラック樹脂とレゾール樹脂を含有する複合フェノール樹脂の製造方法であって、フェノールと、ホルムアルデヒドと、酸性触媒と乳化剤とを混合しながら加熱してノボラック樹脂分を調製するノボラック樹脂合成工程と、前記ノボラック樹脂合成工程により得た溶液中に、ホルムアルデヒドと、塩基性触媒とを混合しながら加熱してレゾール樹脂成分を合成するとともに前記ノボラック樹脂分も含有した複合フェノール樹脂を調製する複合フェノール樹脂調製工程と、前記複合フェノール樹脂を炭化して樹脂炭化物を得る炭化工程と、前記樹脂炭化物を賦活して活性炭吸着剤を得る賦活工程を有するため、フェノール樹脂に由来する活性炭において、フェノール樹脂中の樹脂組成を改良することにより樹脂炭化物に生じる細孔中のマクロ孔の割合を高めることができ、窒素を含有する低分子化合物を迅速に吸着可能な活性炭吸着剤を簡易な工程で容易に製造することができ、かつ経済性に優れた活性炭吸着剤の製造方法を確立できる。
第2の発明に係る活性炭吸着剤の製造方法によると、第1の発明において、式(i)にて示される前記フェノールの当量(P)と前記ノボラック樹脂合成工程において添加される前記ホルムアルデヒドの当量(FN)との当量比(R1)が0.5~0.9であるため、ノボラック樹脂分の合成に都合良い。
第3の発明に係る活性炭吸着剤の製造方法によると、第1又は2の発明において、式(ii)にて示される前記フェノールの当量(P)と複合フェノール樹脂調製工程において添加される前記ホルムアルデヒドの当量(FR)との当量比(R2)が1.1~1.8であるため、レゾール樹脂分とノボラック樹脂分の量の割合は好ましくなる。
第4の発明に係る活性炭吸着剤の製造方法によると、第1ないし3のいずれかの発明において、前記複合フェノール樹脂の揮発分が60%以下であるため、揮発分の量が少なく活性炭吸着剤中の炭素量は増加し、より緻密な活性炭を得ることができる。
第5の発明に係る活性炭吸着剤の製造方法によると、第1ないし4のいずれかの発明において、前記複合フェノール樹脂が平均粒径200~500μmの粒状物ないし球状物であるため、出来上がる活性炭吸着剤は経口投与の服用に適する大きさとなる。
第6の発明に係る活性炭吸着剤の製造方法によると、第1ないし第5のいずれかの発明において、前記塩基性触媒が、アミン化合物であるため、安定した反応を得ることができる。
第7の発明に係る活性炭吸着剤の製造方法によると、第1ないし第6のいずれかの発明において、前記複合フェノール樹脂に含有されるノボラック樹脂分とレゾール樹脂分が9:1ないし5:5の重量比であるため、樹脂炭化物に生じる細孔中のマクロ孔の割合を高めることができる。
第8の発明に係る活性炭吸着剤の製造方法によると、第1ないし第7のいずれかの発明において、前記活性炭吸着剤が、経口投与用腎疾患又は経口投与用肝疾患のための治療剤又は予防剤であるため、腎疾患又は肝疾患の原因物質を選択的に吸着する効果が高く、治療剤又は予防剤に相応しい。
本発明の活性炭吸着剤の出発原料である複合フェノール樹脂の製造方法を示す工程図である。 複合フェノール樹脂から活性炭吸着剤に至る製造方法を示す工程図である。 比較例1,2の活性炭吸着剤の出発原料である複合フェノール樹脂の製造方法を示す工程図である。 比較例3の活性炭吸着剤の出発原料であるレゾール樹脂の製造方法を示す工程図である。
本発明の製造方法により製造される活性炭吸着剤は、出発原料であるフェノール樹脂が、樹脂組成に改良を加えられた複合フェノール樹脂であり、特に、ノボラック樹脂とレゾール樹脂の両方を含有した複合フェノール樹脂であって、これを炭化して樹脂炭化物とし、賦活されてなる。はじめに、図1の工程図を用いて複合フェノール樹脂の合成工程を説明する。
はじめにフェノール樹脂の原料となるフェノールにホルムアルデヒドが添加、混合され、両分子の架橋形成目的の酸性触媒が添加される。攪拌されながらの80ないし100℃の加熱により脱水縮合反応が進む。この段階でノボラック樹脂分が調製される(「ノボラック樹脂合成工程」)。
ここで、複合フェノール樹脂は、炭化及び賦活を経て樹脂炭化物、最終的に経口投与用の活性炭吸着剤となる。それゆえ、活性炭吸着剤は、口腔、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸と消化管内を円滑に流動しながら尿毒症等の原因物質を吸着して、便とともに肛門から排泄される。そうすると、抵抗の少ない粒径ないし球形は、各種の消化管内の円滑な流動の便宜から望ましい形状である。この点に鑑み、炭化前の樹脂の段階から粒状物ないし球状物であることが望ましい。
そこで、ノボラック樹脂合成工程においては乳化剤が添加される。同工程にて調製されるノボラック樹脂及び後述するレゾール樹脂合成工程にて調製されるレゾール樹脂を含む複合フェノール樹脂は、乳化剤の作用による分散により粒状物ないし球状物になる。乳化剤として、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアガム(アラビアゴム)等の水溶性の多糖類が使用される。乳化剤は炭化水素化合物であるため、以降の炭化に際しても余分な残分は生じにくい。乳化剤の添加量は、複合フェノール樹脂調製工程全体における総仕込量の0.1~1重量部である。乳化剤の種類、反応条件により適宜増減される。
乳化剤が添加されているため、ノボラック樹脂合成工程及び複合フェノール樹脂調製工程中の加熱と攪拌を通じてエマルジョン化が進み、反応液中に粒状物ないし球状物となった複合フェノール樹脂(複合フェノール樹脂粒子)が生じる。乳化剤の添加によりフェノール等を含む反応液の表面張力は高まり、微小な液滴が生じて球状化は促進すると考えられる。当該複合フェノール樹脂の望ましい大きさは、平均粒径200~700μmの範囲であって、より好ましくは平均粒径200~500μmの粒状物ないし球状物である。当該範囲の粒径は、次述の炭化の焼成に伴う体積減少を見越した大きさである。かつ、出来上がる活性炭吸着剤は経口投与の服用に適する大きさと+。
次に、フェノールにホルムアルデヒド、酸触媒及び乳化剤が添加されてなるノボラック樹脂合成工程において生じた溶液中に、ホルムアルデヒドが追加混合される。そして、溶液中に残存する未反応のフェノールとホルムアルデヒドの架橋形成目的の塩基性触媒が添加される。該溶液には、ノボラック樹脂合成工程により生じたノボラック樹脂と、未反応のフェノール及び低分子量化合物が含まれている。溶液中に残存した未反応のフェノールと、追加されたホルムアルデヒド及び添加された塩基性触媒とは攪拌されながらの80~100℃の加熱により脱水縮合反応が進み、未反応のフェノールからレゾール樹脂分が合成される。そこで、当該工程にて合成されたレゾール樹脂分とともに、先の工程にて合成されたノボラック樹脂分も含有する複合フェノール樹脂が調製される(「複合フェノール樹脂調製工程」)。なお、生成樹脂分は適宜洗浄される。
特に、本発明の活性炭吸着剤の出発原料である複合フェノール樹脂の生成工程においては、ノボラック樹脂が合成されるノボラック樹脂合成工程と、レゾール樹脂成分を合成し複合フェノール樹脂とする複合フェノール樹脂調製工程において、フェノールにホルムアルデヒド、酸触媒及び乳化剤が添加されてなる溶液中に、レゾール樹脂分を合成するホルムアルデヒドと塩基性触媒とを添加するものであるから、ノボラック樹脂合成工程の後に生成樹脂の洗浄や精製を行う必要がない。このため、複合フェノール樹脂の製造に伴う手間が非常に少なくなりコストの低減を図ることができる。
前述の両工程にて使用のフェノールに代えて、水酸基を有する芳香族化合物も用いられる。例えば、クレゾール(o-、m-、p-位)、p-フェニルフェノール、キシレノール(2,5-、3,5-)、レゾルシノール、各種ビスフェノール等が挙げられる。
前述の両工程にて使用のホルムアルデヒドに代えて、次のアルデヒド化合物も用いられる。アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、グリオキサール、フルフラール等が挙げられる。
ノボラック樹脂合成工程に使用した酸性触媒は、無機酸、有機酸である。実施例はシュウ酸である。これに加えて、ギ酸等のカルボン酸、マロン酸等のジカルボン酸、塩酸、硫酸、リン酸等が酸性触媒として挙げられる。
複合フェノール樹脂調製工程において、レゾール樹脂分の合成に使用される塩基性触媒にはアミン化合物が使用される。アミン化合物はレゾール樹脂分の合成に多用され、安定した反応を得る上で好適である。実施例では、ヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミン、1,3,5,7-テトラアザアダマンタン)、トリエチレンテトラミン(N,N’-ジ(2-アミノエチル)エチレンジアミン)が使用される。これらに加えて、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等も塩基性触媒として挙げられる。複合フェノール樹脂調製工程にて添加される塩基性触媒の量は、当該工程中の総仕込量の5~15重量部である。添加量は塩基性触媒の種類等に依存する。
ノボラック樹脂合成工程におけるノボラック樹脂分の合成促進と、未反応物の低減から原料物質量は当量比(モル換算量)により規定される。本発明の製造方法に用いられるフェノールの当量(P)とノボラック樹脂合成工程において添加されるホルムアルデヒドの当量(FN)との当量比(R1)の関係は、前出の式(i)より、0.5~0.9の範囲である。後記の実施例においても当該範囲であればノボラック樹脂分の合成に都合良い。当量比R1が0.5を下回る場合、フェノールの量が過剰であり、同当量比R1が0.9を上回る場合、相対的にフェノールの量が過少である。
複合フェノール樹脂調製工程におけるレゾール樹脂分の合成促進と、未反応物の低減から原料物質量も当量比(モル換算量)により規定される。フェノールの当量(P)と複合フェノール樹脂調製工程において添加されるホルムアルデヒドの当量(FR)との当量比(R2)の関係は、前出の式(ii)より、1.1~1.8の範囲である。当該範囲に収斂すると、レゾール樹脂分とノボラック樹脂分の量の割合は好ましくなる。当量比R2が1.1を下回る場合、フェノールの量が過剰であり、同当量比R2が1.8を上回る場合、相対的にフェノールの量が過少である。当該当量比R1及びR2の範囲は好適なエマルジョン形成等を加味した範囲であり、後記の実施例の検証に基づく。
一連の工程から調製された複合フェノール樹脂(ノボラック樹脂分及びレゾール樹脂分含有の複合フェノール樹脂粒子)は、適宜の洗浄と乾燥後、図2の工程図に示す工程を経て樹脂炭化物となる。複合フェノール樹脂は、円筒状レトルト電気炉等の焼成炉内に収容され、炉内を窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下とし、300~1000℃、好ましくは450~700℃において1~20時間かけて炭化され、樹脂炭化物となる(「炭化工程」)。
炭化工程の後、樹脂炭化物は、ロータリー式外熱炉等の加熱炉等に収容され、750~1000℃、好ましくは800~1000℃、さらには850~950℃において水蒸気賦活される(「賦活工程」)。賦活時間は生産規模、設備等によるものの、0.5~50時間である。あるいは、二酸化炭素等のガス賦活も用いられる。賦活後の活性炭吸着剤は、希塩酸によって洗浄される。希塩酸洗浄後の活性炭吸着剤は、例えば、JIS K 1474(2014)に準拠したpHの測定により、pH5~7になるまで水洗される。
希塩酸の洗浄後、必要により活性炭吸着剤は、酸素及び窒素の混合気体中において加熱処理、水洗浄され、灰分等の不純物が取り除かれる。加熱処理により残留する塩酸分等は取り除かれる。そして、各処理を経ることにより活性炭吸着剤の表面酸化物量は調整される。酸洗浄後、賦活済みの樹脂炭化物に対する加熱処理を通じて、活性炭吸着剤の表面酸化物量は増加する。当該処理時の酸素濃度は0.1~21体積%である。また、加熱温度は150~1000℃、好ましくは400~800℃であり、15分~2時間である。
賦活処理後、又は賦活処理に続く加熱処理後の樹脂炭化物(活性炭吸着剤)は、篩別により平均粒子径150~500μm、より好ましくは150~350μmの粒状物ないし球状物の活性炭に選別されるのがよい。粒子径の調整及び分別により、活性炭吸着剤の吸着速度の一定化と吸着能力の安定化が図られる。粒子径の範囲は特に限定されるものではないが、前記の範囲とすると、患者(服用者)の嚥下を円滑にするとともに活性炭吸着剤の表面積を確保することができる。また、粒子径が揃えられると、消化管内での吸着性能は安定することができる。しかも、粒子の硬さを維持して経口投与後(服用後)の消化管内でさらに粉化することも抑制される。ゆえに、経口投与用吸着剤の活性炭の形状は好ましくは球状物である。ただし、製造に起因する真球度のばらつき等も許容されるため、粒状物も含められる。
既述のとおり、ノボラック樹脂合成工程及び複合フェノール樹脂調製工程を経て調製された複合フェノール樹脂は、ノボラック樹脂分とレゾール樹脂分の両方の異なる形質のフェノール樹脂を含有している。フェノール樹脂の内、ノボラック樹脂は熱可塑性樹脂であり、レゾール樹脂は熱硬化性樹脂である。従って、炭化工程の加熱温度に複合フェノール樹脂粒子が曝露された際、当該複合フェノール樹脂粒子中のノボラック樹脂分とレゾール樹脂分では耐熱性、溶融温度、揮発量等が互いに相違する。そうすると、焼成に伴う炭化は一様となるよりも、むしろ複合フェノール樹脂粒子の炭化は不均質に進行すると考えられる。炭化時の加熱焼成により複合フェノール樹脂粒子中から炭化分解ガスが揮発する。この揮発を通じて樹脂炭化物に割れ目、亀裂等が生じると予想される。このため、複合フェノール樹脂の樹脂炭化物由来の活性炭吸着剤には相対的にマクロ孔(およそ50nm以上)が発達しやすくなると考えられる。
そこで、複合フェノール樹脂(複合フェノール樹脂粒子)中に占めるノボラック樹脂分(前者)とレゾール樹脂分(後者)の割合は、9:1~5:5である。ノボラック樹脂分とレゾール樹脂分を含有することによって、樹脂炭化物に生じる細孔中のマクロ孔の割合を高めることができ、吸着する目的物によって、割合を変更することで、任意の吸着性能を有する活性炭を製造することができる。
複合フェノール樹脂(複合フェノール樹脂粒子)から炭化を経て樹脂炭化物となり、さらに賦活を経て活性炭吸着剤に至る過程において、自明ながら揮発分の重量は減少する。そのため、揮発分の量が少ないほど活性炭吸着剤中の炭素量は増加し、より緻密な活性炭を得ることができる。そこで、複合フェノール樹脂(複合フェノール樹脂粒子)の揮発分は、60%以下に抑制される。
複合フェノール樹脂(複合フェノール樹脂粒子)は分子中に芳香環構造を有しているため、炭化率は高まる。さらに賦活により表面積の大きな活性炭吸着剤が生じる。賦活後の活性炭吸着剤は、従来の木質やヤシ殻、石油ピッチ等の活性炭と比較しても、細孔径は小さく充填密度は高い。そのため、比較的小さい分子量(分子量が数十ないし数百の範囲)のイオン性有機化合物の吸着に適する。また、複合フェノール樹脂は従来の活性炭原料の木質等と比較して窒素、リン、ナトリウム、マグネシウム等の灰分が少なく単位質量当たりの炭素の比率は高い。このため、不純物の少ない活性炭吸着剤を得ることができる。
前述の製造方法から得られた活性炭吸着剤には、後記する実施例に掲げる肝機能障害や腎機能障害の原因物質を極力速やかに吸着すること、また比較的少ない服用量で十分な吸着性能を発揮することが求められる。具備すべき性質の調和範囲を見いだすべく、活性炭吸着剤は、〔1〕BET比表面積、〔2〕水銀細孔容積値、〔3〕容積比等の指標で規定される。そして、後記する実施例の傾向等から明らかなとおり、各指標の好適な範囲値が導出される。なお、以下に記載する前記活性炭の物性等の測定方法及び諸条件等は、実施例において詳述する。
そして、活性炭吸着剤は粒状物ないし球状物であり、その平均粒子径は特に規定されないが、150~400μmであることが望ましい。粒子自体の大きさが前記の範囲であると、マクロ孔等の細孔が適宜に発達し、選択吸着性の面から好ましい。また、表面積が適当となるため、吸着速度や強度の面からも好ましい。
本明細書及び実施例における活性炭吸着剤及び複合フェノール樹脂粒子の平均粒径はレーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%における粒径とした。
〔1〕BET比表面積の800m2/g以上とは、吸着性能の点から活性炭吸着剤として必要とされる下限であり、好ましくは1500m2/g以上に規定される。700m2/gよりも小さくなると、毒性物質の吸着性能が低下すると考えられるためである。BET比表面積が3000m2/gを超える場合、充填密度が悪化することに加えて細孔容積が大きくなることから活性炭吸着剤自体の強度が悪化し易くなると考えられる。
〔2〕水銀細孔容積(VM)は活性炭のメソ孔ないしマクロ孔の大きな細孔を評価する指標である。そこで、細孔直径7.5~15000nmの範囲の水銀細孔容積は0.2~0.6mL/gである。すなわち、マクロ孔側を発達させることにより、吸着対象物質は速く活性炭吸着剤の内部に取り込まれる。水銀細孔容積が0.2mL/gを下回る場合、マクロ孔は発達不足となる。ノボラック樹脂の比率が高まると、マクロ孔が発達しやすくなる傾向がある。このため、ノボラック樹脂の比率を高めた場合のフェノール樹脂由来の活性炭の水銀細孔容積の上限は0.6mL/gと考えられる。従って、同値を上限とし、前記の水銀細孔容積の値の範囲とした。
〔3〕容積比(RV)は、前掲の式(i)にて示されるとおり0.2以上である。同式(i)の容積比(RV)は、細孔直径7.5~15000nmの範囲(マクロ孔)の水銀細孔容積(VM)を、細孔直径0.7~2.0nmの範囲(ミクロ孔)の窒素細孔容積(VH)により除した商である。すなわち、ミクロ孔に比してマクロ孔の割合が高いことを示す指標である。活性炭のような吸着剤の場合、ミクロ孔、メソ孔、マクロ孔のいずれの細孔も存在している。その中で、いずれの範囲の細孔をより多く発達させるかにより、活性炭吸着剤の吸着対象、性能は変化する。本発明において所望される活性炭吸着剤は、尿毒症の原因物質やその前駆物質に代表されるインドキシル硫酸、アミノイソ酪酸、トリプトファン等の窒素を含有する低分子量のイオン性有機化合物の吸着を想定する。そして、本発明の活性炭吸着剤は、前記の吸着対象の分子を従前の活性炭吸着剤よりも速く吸着することである。
マクロ孔側の割合が相対的に高められることにより、吸着対象は活性炭吸着剤内部へ容易に侵入できる。そして、吸着対象はマクロ孔に接続したミクロ孔に補足され、吸着は速く進む。通常、摂食から排泄までのうち、食物が消化により分解されて小腸内を流動する時間はおよそ6~10時間と考えられる。つまり、小腸内を流動する間に経口投与用吸着剤(活性炭吸着剤)が目的の吸着対象である窒素を含有する低分子を吸着する必要がある。そこで、腸管内における効率良い吸着を勘案すると、短時間の吸着が望ましいといえる。このことから、活性炭吸着剤のマクロ孔側の細孔を多く発達させることには意味がある。後記の実施例に開示するように、容積比(RV)の数値が高まるほど、吸着速度は速まる。
これらの指標に加えて、〔4〕平均細孔直径も加えられる。そこで、平均細孔直径は1.7~2.0nmの範囲である。活性炭吸着剤の平均細孔直径が当該範囲内に調整されることにより、分子量数十ないし数百の比較的低分子のイオン性有機化合物の吸着は良好となる。同時に、活性炭吸着剤は分子量数千ないし数万の酵素、多糖類等の生体に必要な高分子化合物の吸着を抑制できる。活性炭吸着剤の平均細孔直径が2.0nmを越える場合、酵素、多糖類等の高分子を吸着する細孔が多く存在してしまうため好ましくない。また、活性炭の平均細孔直径が1.7nm未満であると、細孔容積自体が減少し、吸着力を低下させるおそれがある。
〔5〕活性炭の充填密度については、0.3~0.6g/mLに規定される。充填密度が0.3g/mL未満の場合、服用量が増加し経口投与時に嚥下し難くなる。充填密度が0.6g/mLを超える場合、フェノール樹脂由来の活性炭としての選択吸着性が伴わなくなる。このようなことから、充填密度は前記の範囲が好適となる。
前述の物性を具備する活性炭吸着剤は、経口投与を目的とした薬剤であって、腎疾患又は肝疾患の治療剤又は予防剤となる。活性炭吸着剤の表面に発達した細孔内に疾患、慢性症状の原因物質が吸着、保持され、体外へ排出されることにより、症状悪化は要請され、病態改善につながる。さらに、先天的あるいは後天的に代謝異常又はそのおそれのある場合、予め活性炭吸着剤を内服することにより、疾患、慢性症状の原因物質の体内濃度は下げられる。そこで、症状悪化を防ぐ予防としての服用も考えられる。
腎疾患として、例えば、慢性腎不全、急性腎不全、慢性腎盂腎炎、急性腎盂腎炎、慢性腎炎、急性腎炎症候群、急性進行型腎炎症候群、慢性腎炎症候群、ネフローゼ症候群、腎硬化症、間質性腎炎、細尿管症、リポイドネフローゼ、糖尿病性腎症、腎血管性高血圧、高血圧症候群、あるいは前記の原疾患に伴う続発性腎疾患、さらに、透析前の軽度腎不全を挙げることができる。肝疾患として、例えば、劇症肝炎、慢性肝炎、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、肝線維症、肝硬変、肝癌、自己免疫性肝炎、薬剤アレルギー性肝障害、原発性胆汁性肝硬変、振戦(しんせん)、脳症、代謝異常、機能異常を挙げることができる。
活性炭吸着剤を経口投与用吸着剤として使用する際の投与量は、年令、性別、体格又は病状等に影響されるため一律の規定は難しい。しかし、一般にヒトを対象とする場合、活性炭吸着剤の重量換算で1日当り1~20g、2~4回の服用が想定される。活性炭吸着剤の経口投与用吸着剤は、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠、カプセル剤、懸濁剤、スティック剤、分包包装体、又は乳剤等による形態、剤型で投与される。
[試作例の合成]
試作例の活性炭吸着剤を調製するに際し、はじめに各試作例に対応する複合フェノール樹脂を合成した。そして、合成したそれぞれの複合フェノールを炭化し、賦活して試作例の活性炭吸着剤を得た。
〈試作例1〉
90%フェノール300.0重量部に、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)163.0重量部、酸性触媒としてのシュウ酸1.4重量部、乳化剤としてのアラビアゴム2.7重量部、水132.3重量部をさらに加えて95℃以上に加熱して適宜重合した(ノボラック樹脂合成工程)。次に、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)93.2重量部、塩基性触媒としてのヘキサメチレンテトラミン18.9重量部とトリエチレンテトラミン8.1重量部、水40.6重量部を同セパラブルフラスコ内に投入し60℃を維持しながら1時間加熱して反応を進めた(複合フェノール樹脂調製工程)。その後、95℃以上に加熱し4時間還流して試作例1に対応する複合フェノール樹脂を調製した。
〈試作例2〉
ノボラック樹脂合成工程におけるアラビアゴムの添加量を3.0重量部、複合フェノール樹脂調製工程における37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)の添加量を139.9重量部とした以外は試作例1と同様の条件として試作例2に対応する複合フェノール樹脂を得た。
〈試作例3〉
ノボラック樹脂合成工程において、90%フェノール280.0重量部、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)153.1重量部、シュウ酸1.3重量部、アラビアゴム3.0重量部、複合フェノール樹脂調製工程における37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)174.0重量部、ヘキサメチレンテトラミン17.6重量部とトリエチレンテトラミン7.6重量部とした以外は試作例1と同様の条件として試作例3に対応する複合フェノール樹脂を得た。
〈試作例4〉
ノボラック樹脂合成工程において、90%フェノール225.0重量部、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)122.2重量部、シュウ酸1.0重量部、アラビアゴム2.6重量部、複合フェノール樹脂調製工程における37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)192.3重量部、ヘキサメチレンテトラミン21.3重量部とトリエチレンテトラミン9.1重量部とした以外は試作例1と同様の条件として試作例4に対応する複合フェノール樹脂を得た。
〈試作例5〉
ノボラック樹脂合成工程において、90%フェノール280.0重量部、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)186.9重量部、シュウ酸1.3重量部、アラビアゴム3.3重量部、複合フェノール樹脂調製工程における37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)139.2重量部、ヘキサメチレンテトラミン17.6重量部とトリエチレンテトラミン7.6重量部とした以外は試作例1と同様の条件として試作例5に対応する複合フェノール樹脂を得た。
〈試作例6〉
ノボラック樹脂合成工程において、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)116.4重量部、アラビアゴム2.0重量部、複合フェノール樹脂調製工程における37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)186.5重量部とした以外は試作例1と同様の条件として試作例6に対応する複合フェノール樹脂を得た。
各試作例のノボラック樹脂合成工程及び複合フェノール樹脂調製工程に用いられる反応原料、乳化剤、触媒の量及び当量比(R1,R2)を表1に示す。
Figure 0007061640000003
続いて、比較例1,2の活性炭吸着剤は、図3に示す工程を経て得られる。フェノールと、ホルムアルデヒドと、酸性触媒とを混合しながら加熱してノボラック樹脂分を調製した後にノボラック樹脂を抽出し、フェノールと、ホルムアルデヒドと、塩基性触媒と、抽出したノボラック樹脂分とを混合しながら加熱して、レゾール樹脂分を合成するとともにノボラック樹脂分も含有した複合フェノール樹脂を調製して、該複合フェノール樹脂を炭化して得た樹脂炭化物を賦活して活性炭吸着剤を調製した。比較例3の活性炭吸着剤は、図4に示す工程を経て得られる。フェノールと、ホルムアルデヒドと、塩基性触媒とを混合しながら加熱してレゾール樹脂を調製して、該レゾール樹脂を炭化して得た樹脂炭化物を賦活して活性炭吸着剤を調製した。
比較例1,2の活性炭吸着剤を調製するに際し、2種類のノボラック樹脂分(Nov1,Nov2)を合成した。
・ノボラック樹脂分:Nov1
90%フェノール1450.0重量部、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)563.0重量部、酸性触媒としてのシュウ酸6.5重量部を、攪拌機、還流冷却器を備えた2Lのセパラブルフラスコ内に投入して90~100℃で4時間反応した。反応終了後、反応容器内を減圧し、水分と及び未反応物を除去した。その後、95℃まで昇温し、滴下漏斗により水を投入し低重合物を除去する操作を繰り返して洗浄した。こうして、「Nov1」のノボラック樹脂分を合成した。
・ノボラック樹脂分:Nov2
反応原料を90%フェノール1400.0重量部、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)753.0重量部に変更した以外は、Nov1と同様の条件下で反応して「Nov2」のノボラック樹脂分を合成した。
〈比較例1〉
ノボラック樹脂分(Nov1)122.0重量部、90%フェノール135.0重量部、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)157.0重量部、乳化剤としてのヒドロキシエチルセルロース1.2重量部、水148重量部を、攪拌機、還流冷却器を備えた1Lのセパラブルフラスコ内に投入して70℃で溶解した。次に、塩基性触媒としてのヘキサメチレンテトラミン42.5重量部、水56.7重量部を同セパラブルフラスコ内に投入し80~90℃を維持しながら3時間加熱して反応を進めた。その後、95℃以上に加熱し4時間還流してレゾール樹脂分の合成とともに比較例1に対応する複合フェノール樹脂を合成した。
〈比較例2〉
ノボラック樹脂分(Nov2)120.0重量部、90%フェノール140.0重量部、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)108.0重量部、ヒドロキシエチルセルロース1.6重量部、ヘキサメチレンテトラミン37.8重量部とした以外は比較例1と同様として比較例2に対応する複合フェノール樹脂を得た。
〈比較例3〉
90%フェノール200.0重量部、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)202.0重量部、乳化剤としてのヒドロキシエチルセルロース0.6重量部、水148重量部を、攪拌機、還流冷却器を備えた1Lのセパラブルフラスコ内に投入して70℃で溶解した。次に、塩基性触媒としてのトリエチレンテトラミン16.2重量部、水56.7重量部を同セパラブルフラスコ内に投入し40~60℃を維持しながら1時間加熱して反応を進めた。その後、95℃以上に加熱し4時間還流して比較例3に対応するフェノール樹脂を合成した。
各比較例の樹脂合成工程に用いられる反応原料、乳化剤及び触媒の量を表2に示す。
Figure 0007061640000004
[活性炭吸着剤の調製]
試作例1~6及び比較例1,2の複合フェノール樹脂と比較例3のレゾール樹脂について、それぞれを円筒状のレトルト電気炉に収容し炉内を窒素により充たした後、600℃まで100℃/1時間で昇温し、600℃を1時間維持して炉内のフェノール樹脂を炭化した。その後、フェノール樹脂の炭化物を900℃に加熱し炉内に水蒸気を注入して900℃で1時間維持して賦活して各試作例及び比較例の活性炭吸着剤を得た。
[測定項目・測定方法]
各試作例及び比較例のフェノール樹脂並びに活性炭吸着剤に関し、樹脂収率(%)、ノボラック・レゾール重量比、揮発分(%)、樹脂平均粒子径(μm)、樹脂充填密度(g/mL)、活性炭収率(%)、活性炭平均粒子径(μm)、BET比表面積(m2/g)、水銀細孔容積(VM)(mL/g)、窒素細孔容積(VH)、容積比(RV)、平均細孔直径(nm)、活性炭充填密度(g/mL)を測定した。結果を表3,4に示す。
〔樹脂収率〕
樹脂収率(%)は、フェノール樹脂の乾燥後重量を、原料として用いたフェノール及びホルマリンから水分を除いて合計した重量からの割合とした。
〔ノボラック・レゾール重量比〕
ノボラック・レゾール重量比は、試作例及び比較例の複合フェノール樹脂中に含有されたノボラック樹脂分とレゾール樹脂分の互いの重量を反応量から算定した比率である。
〔揮発分〕
フェノール樹脂の揮発分(%)の測定は、前述の「活性炭吸着剤の調製」において、当初の樹脂の重量と窒素雰囲気中での炭化後の重量を測定し、両者から炭化の前後の重量変化を求めた。樹脂は炭化すると重量は減少する。そこで当該重量減少は揮発による減少量とし、当初の樹脂重量からの割合とした。
〔樹脂平均粒子径〕
樹脂平均粒子径(μm)は、フェノール樹脂の平均粒子径(μm)であって、レーザー光散乱式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、「SALD3000S」)を使用して測定し、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%における粒径とした。
〔樹脂充填密度〕
各試作例及び比較例の樹脂の充填密度(g/mL)は、JIS K 1474(2014)に準拠して測定した。
〔活性炭収率〕
活性炭収率(%)は、炭化前の樹脂段階の重量と、炭化、賦活、洗浄、篩別を終えて最終的に分取した活性炭吸着剤の重量を計測して減少量を求めた。そして、当初の樹脂重量からの割合とした。
〔活性炭平均粒子径〕
活性炭吸着剤の平均粒子径(μm)は、前述の樹脂平均粒子径と同様に、レーザー光散乱式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、「SALD3000S」)を使用して測定し、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%における粒径とした。
〔BET比表面積〕
各試作例及び比較例の活性炭吸着剤のBET比表面積(m2/g)は、77Kにおける窒素吸着等温線を「BELSORP mini」(日本ベル株式会社製)により測定し、BET法により求めた。
〔水銀細孔容積(VM)〕
各試作例及び比較例の活性炭吸着剤の水銀細孔容積(VM)は、「オートポア9500」(株式会社島津製作所製)を使用し、接触角130°、表面張力484ダイン/cm(4.84mN/m)に設定し、細孔直径7.5~15000nmの水銀圧入法による細孔容積値(mL/g)を求めた。
〔窒素細孔容積(VH)〕
各試作例及び比較例の活性炭吸着剤の窒素細孔容積(VH)は、Gurvitschの法則を適用し、「BELSORP mini」(日本ベル株式会社製)を使用し、相対圧0.953における液体窒素換算した窒素吸着量(Vads)を(iv)式から液体状態の窒素体積(VH)に換算して求めた。(iv)式において、Mgは吸着質の分子量(窒素:28.020)、ρg(g/cm3)は吸着質の密度(窒素:0.808)である。
Figure 0007061640000005
〔容積比(RV)〕
容積比(RV)は、(v)式のとおり、水銀細孔容積(VM)を窒素細孔容積(VH)により除した商とした。
Figure 0007061640000006
〔平均細孔直径〕
各試作例及び比較例の活性炭吸着剤の平均細孔直径(nm)は、細孔の形状を円筒形と仮定し、細孔容積(mL/g)及び比表面積(m2/g)の値を用いて下記の(vi)式より求めた。
Figure 0007061640000007
〔活性炭充填密度〕
各試作例及び比較例の活性炭吸着剤の充填密度(g/mL)は、JIS K 1474(2014)に準拠して測定した。
Figure 0007061640000008
Figure 0007061640000009
[物性値に関する考察]
試作例1~6の複合フェノール樹脂の結果より、ノボラック樹脂合成工程段階において、フェノールの当量(P)とホルムアルデヒドの当量(FN)との当量比(R1)は0.5~0.9範囲からの合成を確認した。試作例の複合フェノール樹脂の揮発分は、比較例1,2の複合フェノール樹脂と同等である。また、平均粒子径も同様である。
試作例1~6の活性炭吸着剤によると、水銀細孔容積(VM)は比較例3よりも有意に大きく、同時に、容積比(RV)も大きく、比較例1,2と比較しても水銀細孔容積(VM)及び容積比(RV)について同等ないし大きい傾向にある。すなわち、相対的にマクロ孔は多く発達したことを確認した。なお、ミクロ孔自体も窒素細孔容積(VH)の測定から、比較例と同等の数値である。それゆえ、ミクロ孔が減少していないことも確認した。
試作例1~6と比較例1,2はいずれもフェノール樹脂に起因する活性炭吸着剤であり、炭化焼成、賦活の条件は同一である。これにもかかわらず、試作例のマクロ孔の発達は顕著である。試作例及び比較例1,2は熱硬化性のレゾール樹脂分に加えて熱可塑性のノボラック樹脂分も含有する性状である。試作例及び比較例1,2の活性炭吸着剤のマクロ孔がより多く発達した原因として、複合フェノール樹脂に対する炭化焼成時において、樹脂成分の熱膨張(膨張率の相違)、揮発条件の相違等が複合的に重なり合い、活性炭表面の細孔に留まらず、活性炭の粒子内部に侵入する深さの細孔が生じたと推察する。
また、比較例1,2の複合フェノール樹脂は、ノボラック・レゾール重量比を前者50:後者50の同重量を目標とした合成例である。このように双方の重量割合の揃った比較例ではマクロ孔の発達に有利に作用したと考えられる。試作例1~6はノボラック樹脂の割合が大きく樹脂収率が高いことから、比較例1,2と比較して歩留まりがよいと考えられる。そこで、マクロ孔とミクロ孔の比率、歩留まりを維持しつつ、合成時の重量変動等を勘案して9:1~5:5の重量比の範囲とするのが良いと考える。
[吸着性能評価]
前述のとおり、試作例の複合フェノール樹脂の炭化、賦活の工程を経て調製した活性炭吸着剤はマクロ孔の相体割合が大きい。この点を踏まえ、発明者は、尿毒症等の原因となり得る窒素を含有する化合物に対する吸着性能の良否を検討した。そこで、含窒素低分子化合物から毒性物質として「インドール、インドール酢酸、インドキシル硫酸及びトリプトファン」の4種類の物質を選択し、また、有用物質として「トリプシン」を、試作例及び比較例の活性炭吸着剤について、当該5種の分子の吸着率(%)を測定した。結果を表5,6に示す。
インドール、インドール酢酸、インドキシル硫酸、トリプトファン及びトリプシンの5種類の吸着率については、pH7.4のリン酸緩衝液に前記の物質をそれぞれ溶解して0.1g/Lの濃度の標準溶液を調製した。
インドールの標準溶液50mLに試作例、比較例の球状活性炭をそれぞれ0.01g添加し、37℃の温度で3時間接触振とうした。
インドール酢酸の標準溶液50mLに試作例、比較例の球状活性炭をそれぞれ0.01g添加し、37℃の温度で3時間接触振とうした。
インドキシル硫酸の標準溶液50mLに試作例、比較例の球状活性炭をそれぞれ0.01g添加し、37℃の温度で3時間接触振とうした。
トリプトファンの標準溶液50mLに試作例、比較例の球状活性炭をそれぞれ0.01g添加し、37℃の温度で3時間接触振とうした。
トリプシンの標準溶液50mLに試作例、比較例の球状活性炭をそれぞれ0.125g添加し、21℃の温度で3時間接触振とうした。
その後濾過して得た濾液について、全有機体炭素計(株式会社島津製作所製、「TOC5000A」)を用い、各濾液中のTOC濃度(mg/L)を測定し、各濾液中の被吸着物質の質量を算出した。各被吸着物質の吸着率(%)は(vii)式より求めた。
Figure 0007061640000010
Figure 0007061640000011
Figure 0007061640000012
[吸着性能の結果・考察]
さらに、各試作例の活性炭吸着剤は、吸着性能評価に供した毒性物質5種類の含窒素化合物のいずれについて、比較例3よりも高い吸着性能を発揮した。また、比較例1,2と比較しても、同等ないし高い吸着性能を発揮した。また、各試作例の活性炭吸着剤は有用物質については比較的吸着せず、優れた選択性を示した。この結果より、実際の投与後の消化管内においても迅速な吸着が進み、体外への排泄が期待できる。そこで、本発明により製造された活性炭吸着剤は腎機能、肝機能障害等の治療、予防に有効な経口投与用吸着剤となり得る。
[吸着速度評価]
前述の吸着性能の良否の評価に加えて、対象物質を吸着する速度の良否についても検討した。試作例の複合フェノール樹脂の炭化、賦活の工程を経て調製した活性炭吸着剤は、マクロ孔の相対割合が大きいことから、窒素を含有する化合物の吸着する速度が速いと考えられる。そこで、含窒素低分子化合物から毒性物質として「インドール及びトリプトファン」の2種類の物質を選択し、試作例及び比較例の活性炭吸着剤について、当該2種の分子の吸着率(%)を測定した。吸着速度を評価するために、0.5時間、1時間、2時間、3時間、20時間のそれぞれの時間が経過した時点における吸着率を測定するとともに、20時間経過時点での吸着率の半分量の吸着率となった時点での経過時間を求め、50%吸着に要した時間とした。インドールについての結果を表7及び表8、トリプトファンについての結果を表9,10に示す。
インドール及びトリプトファンの吸着率については、pH7.4のリン酸緩衝液に前記の物質をそれぞれ溶解して10mg/dLの濃度の標準溶液を調製した。各物質の標準溶液を溶出試験用ベッセルに500mLずつ注ぎ37℃に調温した。そして、各試作例及び比較例の活性炭吸着剤を0.1gずつ投入して攪拌しながら、それぞれの時間ごとに経時的に分取した。分取試料の279nmの吸光度を測定し、標準溶液の吸光度の差から吸着率(%)を算出した。
Figure 0007061640000013
Figure 0007061640000014
Figure 0007061640000015
Figure 0007061640000016
[吸着速度の結果・考察]
試作例1~6の活性炭吸着剤は、吸着速度評価に供した2種類の合窒素化合物のいずれについて、どの時間においても、比較例3よりも高い吸着性能を発揮した。特に、50%吸着時間の指標からも明らかである通り、初期段階において迅速に吸着性能を発現した。比較例1,2も高い吸着能力を示したものの、樹脂収率が低いことから各試作例の方が経済的に優れる。この結果より、実際に本発明に係る製造方法により製造された活性炭吸着剤が投与されると、消化管内における毒性物質の吸着は迅速に進み体外への排泄が期待できることが示された。そこで、活性炭吸着剤は腎機能、肝機能障害等の治療、予防に有効な経口投与用吸着剤になりうる。
[まとめ]
本発明の製造方法により製造された各試作例の活性炭吸着剤は、レゾール樹脂分のみのフェノール樹脂よりなる比較例3の活性炭吸着剤よりも優れた吸着性能及び吸着速度を示したことから、ノボラック樹脂分及びレゾール樹脂分の両者を含有するフェノール樹脂を出発原料として活性炭吸着剤を製造すると良好な結果が得られることが示された。また、ノボラック樹脂分とレゾール樹脂分とを含むフェノール樹脂よりなる比較例1及び2と比較しても、おおよそ同等ないし良好な吸着性能及び吸着速度を示した。本発明の製造方法は、比較例1,2のフェノール樹脂の製造方法と比較して洗浄工程等を省略した簡易な工程であるにも関わらず、同等ないし良好な吸着性能を有する活性炭吸着剤を得られることが示された。また、樹脂の収率も非常に高いことから、少ない工程で歩留まりが良いため、経済的にとても有意であることも示された。
本発明の製造方法により製造される活性炭吸着剤は、経口投与により消化器官に達し、尿毒症、腎機能、肝機能障害等の原因となる窒素を含有する化合物を迅速に吸着できることから、治療剤又は予防剤として有望である。また本発明の経口投与用吸着剤の製造方法は、製造工程が少なく容易に活性炭吸着剤の製造が可能であり、かつ出発原料であるフェノール樹脂及び活性炭吸着剤の収率にも優れることから経済性にも優れる。

Claims (8)

  1. ノボラック樹脂とレゾール樹脂を含有する複合フェノール樹脂の製造方法であって、
    フェノールと、ホルムアルデヒドと、酸性触媒と乳化剤とを混合しながら加熱してノボラック樹脂分を調製するノボラック樹脂合成工程と、
    前記ノボラック樹脂合成工程により得た溶液中に、ホルムアルデヒドと、塩基性触媒とを混合しながら加熱してレゾール樹脂成分を合成するとともに前記ノボラック樹脂分も含有した複合フェノール樹脂を調製する複合フェノール樹脂調製工程と、
    前記複合フェノール樹脂を炭化して樹脂炭化物を得る炭化工程と、
    前記樹脂炭化物を賦活して活性炭吸着剤を得る賦活工程を有する
    ことを特徴とする活性炭吸着剤の製造方法。
  2. 下記式(i)にて示される前記フェノールの当量(P)と前記ノボラック樹脂合成工程において添加される前記ホルムアルデヒドの当量(FN)との当量比(R1)が0.5~0.9である請求項1に記載の活性炭吸着剤の製造方法。
    Figure 0007061640000017
  3. 下記式(ii)にて示される前記フェノールの当量(P)と複合フェノール樹脂調製工程において添加される前記ホルムアルデヒドの当量(FR)との当量比(R2)が1.1~1.8である請求項1又は2に記載の活性炭吸着剤の製造方法。
    Figure 0007061640000018
  4. 前記複合フェノール樹脂の揮発分が60%以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の活性炭吸着剤の製造方法。
  5. 前記複合フェノール樹脂が平均粒径200~500μmの粒状物ないし球状物である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の活性炭吸着剤の製造方法。
  6. 前記塩基性触媒が、アミン化合物である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の活性炭吸着剤の製造方法。
  7. 前記複合フェノール樹脂に含有されるノボラック樹脂分とレゾール樹脂分が9:1ないし5:5の重量比である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の活性炭吸着剤の製造方法。
  8. 前記活性炭吸着剤が、経口投与用腎疾患又は経口投与用肝疾患のための治療剤又は予防剤であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の複合フェノール樹脂の製造方法。
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