[本発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。一実施形態に係る光導波路型受光素子は、第1導電型を有する第1半導体層と、第1半導体層の第1領域上に設けられた光導波路構造と、第1半導体層の第1領域と隣接する第2領域上に設けられた導波路型フォトダイオード構造と、を備える。光導波路構造は、第1半導体層上に設けられた光導波コア層と、光導波コア層上に設けられたクラッド層と、を有する。導波路型フォトダイオード構造は、第1半導体層上に設けられ、光導波コア層と光結合された、吸収端の波長が1612nm以上である光吸収層と、光吸収層上に設けられた第2導電型を有する第2半導体層と、を有する。光導波方向における光吸収層の長さは12μm以上である。
温度が低下すると光吸収層の受光感度は低下するが、その低下量は、Cバンド帯と比較して、Lバンド帯では各段に大きくなる。光吸収層の受光感度が低下すると、光吸収層を伝搬する光は吸収されにくくなるため、或る光強度に低下するまでの光伝搬長さ(すなわち、光導波コア層と光吸収層との接合面からの光導波方向における距離)は、低温下ではCバンド帯よりもLバンド帯のほうが長くなる。このことに鑑み、上記の光導波路型受光素子では、光吸収層が、光導波方向において12μm以上の長さを有する。本発明者の知見によれば、光吸収層が光導波方向にこのような長さを有することによって、光伝搬長さを十分に確保し、低温下における受光感度の低下分を補うことができる。従って、上記の光導波路型受光素子によれば、低い温度環境下においてもフォトダイオードの十分な受光感度を得ることができる。
上記の光導波路型受光素子において、光吸収層はInxGa1-xAs(0<x<1)を主に含み、光吸収層の厚さは100nmより大きく200nmより小さくてもよい。光吸収層が厚いと、少数キャリア(ホール)の走行時間が長くなり、導波路型フォトダイオード構造の周波数応答特性が劣化する。従って、光吸収層は薄いことが望ましいが、光吸収層が薄いと光吸収量が低下する。上記の光導波路型受光素子によれば、厚さ100nm~200nmといった薄い光吸収層であっても、十分な光吸収量を確保することができる。
上記の光導波路型受光素子において、第1導電型はn型であり、第2導電型はp型であり、導波路型フォトダイオード構造は、第1半導体層上において光導波コア層と並んで設けられ、第1半導体層よりも低い不純物濃度のn型もしくはi型の導電型を有する第3半導体層を更に有し、光吸収層は第3半導体層上に設けられてもよい。この場合、逆バイアス印加時の空乏化領域が光吸収層から第3半導体層まで広がるので、光吸収層を薄くして少数キャリア(ホール)の走行時間を短くした場合であっても、静電容量の増大を抑制してCR時定数を小さく抑えることができる。従って、導波路型フォトダイオードのCR時定数とキャリア走行時間とのトレードオフを解決して、周波数応答特性をより高めることができる。更に、この光導波路型受光素子では、第2半導体層が、第1半導体層上において光導波コア層と並んで設けられている。第1半導体層上に光吸収層と光導波コア層とが単に並んでいる場合、周波数応答特性を高めるために光吸収層を光導波コア層よりも薄くすると、第1半導体層上に厚さの異なる光導波コア層と光吸収層とが並ぶこととなる。従って、第1半導体層の上面を基準とする光吸収層の中心高さと光導波コア層の中心高さとが異なってしまい、光吸収層と光導波コア層との光結合効率が低下してしまう。この光導波路型受光素子によれば、第1半導体層と光吸収層との間に第3半導体層が設けられているので、光吸収層を薄くした場合であっても光吸収層の中心高さを光導波コア層の中心高さに近づけることができる。故に、光吸収層と光導波コア層との光結合効率の低下を抑制することができる。なお、この場合、第1半導体層の上面を基準とする光導波コア層の中心高さと光吸収層の中心高さとが互いに等しくてもよい。これにより、光吸収層と光導波コア層との光結合効率の低下をより効果的に抑制することができる。
上記の光導波路型受光素子において、第1導電型はn型であり、第2導電型はp型であり、第1半導体層と光吸収層との間、および第1半導体層と光導波コア層との間に共通して設けられ、第1半導体層よりも低い不純物濃度のn型もしくはi型の導電型を有する第4半導体層を更に備えてもよい。この場合、逆バイアス印加時の空乏化領域が光吸収層から第4半導体層まで広がるので、第4半導体層が設けられない場合と比較して静電容量が小さくなり、CR時定数を小さくすることができる。また、第4半導体層はn型の半導体層と光吸収層との間に設けられるので、少数キャリア(ホール)の走行時間には影響しない。言い換えれば、光吸収層を薄くして少数キャリア(ホール)の走行時間を短くしても、CR時定数の増大を抑制することができる。従って、導波路型フォトダイオードのCR時定数とキャリア走行時間とのトレードオフを解決して、周波数応答特性をより高めることができる。更に、この光導波路型受光素子では、第4半導体層が、光導波路構造における第1半導体層と光導波コア層との間に延びている。第1半導体層にはn型の不純物(例えばSi)が多く含まれるので、この不純物によって光導波コア層を導波する光に損失が生じてしまう。このような問題点に対し、低い不純物濃度のn型もしくはi型の第4半導体層が第1半導体層と光導波コア層との間に設けられていれば、光導波コア層を導波する光の損失を低減することができる。
上記の光導波路型受光素子において、第4半導体層は、光導波路構造における第1半導体層と光導波コア層との全ての間に延びてもよい。これにより、光導波コア層を導波する光の損失をより効果的に低減することができる。
上記の光導波路型受光素子において、第4半導体層の不純物濃度は1×1016cm-3以下であってもよい。第4半導体層が例えばこのような不純物濃度を有することによって、逆バイアス印加時の空乏化領域を第4半導体層にまで広げることができる。
上記の光導波路型受光素子において、第4半導体層のバンドギャップは、光吸収層のバンドギャップよりも大きく、第1半導体層のバンドギャップと等しいか若しくは小さくてもよい。
上記の光導波路型受光素子において、光導波路構造は、1565nm~1612nm(すなわちLバンド帯)の波長範囲で通信される光ファイバと光結合されてもよい。これにより、上記の作用効果を好適に奏することができる。
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る光導波路型受光素子の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下の説明においてアンドープとは、例えば不純物濃度が1×1015cm-3以下といった極めて低い濃度であることをいう。
本発明の一実施形態は、主にコヒーレント光通信システムに使用される90°ハイブリッド機能がモノリシック集積された光導波路型受光素子に関するものであり、特にその素子の高周波応答特性の広帯域化と受光感度特性の高感度化に関するものである。図1は、本発明の一実施形態に係る光導波路型受光素子を備える受光デバイスの構成を示す平面図である。図2は図1に示されたII-II線に沿った断面を示しており、図3は図2の一部を拡大して示している。図4は、図1に示されたIV-IV線に沿った断面を示している。
図1に示されるように、受光デバイス1Aは、光導波路型受光素子2Aと、信号増幅部3A,3Bとを備えている。光導波路型受光素子2Aは、略矩形状といった平面形状を有しており、例えばInPといった化合物半導体から成る基板上に光導波路が形成されて成る。光導波路型受光素子2Aは、2つの入力ポート4a,4bと、光分岐部(光カプラ)5とを有している。また、光導波路型受光素子2Aは、該基板上に形成された受光素子部6a~6dと、容量素子部7a~7dとを更に有している。すなわち、光導波路型受光素子2Aは、光導波路と受光素子部6a~6dとが共通基板上にモノリシックに集積された構造を備えている。
光導波路型受光素子2Aは、所定の方向Aに沿って延びる一対の端縁2a,2bを有している。2つの入力ポート4a,4bは、光導波路型受光素子2Aの端縁2a,2bのうち、一方の端縁2aに設けられている。2つの入力ポート4a,4bのうち一方の入力ポート4aは外部の光ファイバと光結合されており、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying:4位相偏移変調)方式によって変調された4つの信号成分を含む光信号Laが該光ファイバを介して受光デバイス1Aの外部より入力される。光信号Laは、1565nm~1612nmの波長範囲、すなわちITU-T(International Telecommunication Union TelecommunicationStandardization Sector)におけるLバンド帯において波長多重化されている。また、他方の入力ポート4bには、局部発振光Lbが入力される。入力ポート4a,4bそれぞれは、光導波路部8a,8bそれぞれを介して光分岐部5と光学的に結合されている。なお、光導波路部8a,8bは、屈折率が比較的大きい材料(例えばInGaAsP)から成るコア層と、屈折率が該コア層よりも小さい材料(例えばInP)から成り該コア層を覆うクラッド層とによって好適に構成される。
光分岐部5は、90°光ハイブリッドを構成する。すなわち、光分岐部5は、MMI(Multi-Mode Interference:多モード光干渉)カプラによって構成されており、光信号Laと局部発振光Lbとを相互に干渉させることによって、光信号Laを、QPSK方式によって変調された4つの信号成分Lc1~Lc4それぞれに分岐する。なお、これら4つの信号成分Lc1~Lc4のうち、信号成分Lc1及びLc2は偏波状態が互いに等しく、同相(In-phase)関係を有する。また、信号成分Lc3及びLc4の偏波状態は、互いに等しく且つ信号成分Lc1及びLc2の偏波状態とは異なっている。信号成分Lc3及びLc4は、直角位相(Quadrature)関係を有する。
図5は、光分岐部5を拡大して示す平面図である。図5に示されるように、光分岐部5は、2入力4出力のMMIカプラ51と、2入力2出力のMMIカプラ52とを含む。MMIカプラ51の一方の入力端には光導波路部8aが結合され、他方の入力端には光導波路部8bが結合されている。MMIカプラ51の4つの出力端のうち2つは、光導波路部8g,8hを介して、MMIカプラ52の2つの入力端とそれぞれ結合されている。光導波路部8g,8hの光路長は互いに異なっており、位相シフト部8iにおいて、光導波路部8hが湾曲して光導波路部8gから離れることにより、光導波路部8hが光導波路部8gよりも僅かに長くなっている。これにより、光導波路部8hを伝搬する信号成分Lc4が、光導波路部8gを伝搬する信号成分Lc3に対して45°の位相に相当する遅延を有することとなる。MMIカプラ51の他の2つの出力端は、それぞれ光導波路部8c,8dと結合されている。MMIカプラ52の2つの出力端は、それぞれ光導波路部8e,8fと結合されている。
再び図1~図4を参照する。受光素子部6a~6dは、PINフォトダイオードとしての構成を有しており、光導波路型受光素子2Aの端縁2bに沿って、この順で並んで配置されている。受光素子部6a~6dそれぞれは、光導波路部8c~8fそれぞれを介して光分岐部5の4つの出力端と光学的に結合されている。受光素子部6a~6dのカソードには、一定のバイアス電圧が供給される。受光素子部6a~6dそれぞれは、4つの信号成分Lc1~Lc4それぞれを光分岐部5から受け、これら信号成分Lc1~Lc4それぞれの光強度に応じた電気信号(光電流)を生成する。光導波路型受光素子2A上には、受光素子部6a~6dのアノードに電気的に接続された信号出力用電極パッド21a~21dが設けられている。信号出力用電極パッド21a~21dは、光導波路型受光素子2Aの端縁2bに沿って、方向Aに沿って並んで設けられている。信号出力用電極パッド21a~21dそれぞれは、ボンディングワイヤ20a~20dそれぞれを介して、信号増幅部3A,3Bの信号入力用電極パッド61a~61dそれぞれと電気的に接続されている。
容量素子部7a~7dは、下部金属層、上部金属層、および下部金属層と上部金属層との間に挟まれた絶縁膜45によって構成される、いわゆるMIM(Metal-Insulator-Metal)キャパシタである。下部金属層および上部金属層は、例えばTiW/Au若しくはTi/Pt/Auといった積層構造を有する。容量素子部7a~7dそれぞれは、光導波路型受光素子2A上において受光素子部6a~6dそれぞれに対し端縁2bに沿って並んで(隣り合って)配置されており、受光素子部6a~6dそれぞれのカソードにバイアス電圧を供給するバイアス配線42と、基準電位配線(GND線)との間に電気的に接続される。バイアス配線42は、容量素子部7a~7dの下部金属層として用いられる。また、容量素子部7a~7dの上部金属層43は、光導波路型受光素子2Aの端縁2bに沿って配置された基準電位側電極パッド23a~23dへ引き出されるか、若しくは基準電位側電極パッド23a~23dになる。基準電位側電極パッド23a~23dは、基板10を貫通するビア(不図示)を介して、基板10の裏面に設けられた裏面金属膜50と電気的に接続される。容量素子部7a~7dの下部金属層42は、基板10の内側に向けて延びている。これらの容量素子部7a~7dによって、受光素子部6a~6dのカソードと、図示しないバイパスコンデンサとの間のインダクタンス成分を設計的に揃えることができる。
容量素子部7a~7dそれぞれは、下部金属層42に接続されたバイアス電圧側電極パッド22a~22dそれぞれを有している。基準電位側電極パッド23a~23dは、方向Aと交差する(例えば直交する)方向Bにおいて、バイアス電圧側電極パッド22a~22dと光導波路型受光素子2Aの端縁2bとの間に配置されている。
バイアス電圧側電極パッド22a~22dそれぞれには、ボンディングワイヤ20i~20mそれぞれの一端が接続されている。ボンディングワイヤ20i~20mそれぞれの他端は、図示しないバイアス電圧源と電気的に接続されている。ボンディングワイヤ20i~20mは、受光素子部6a~6dそれぞれにバイアス電圧を供給する配線の一部を構成する。
基準電位側電極パッド23a~23dそれぞれには、ボンディングワイヤ20e~20hそれぞれの一端が接続されている。ボンディングワイヤ20e~20hは、ボンディングワイヤ20a~20dに沿って設けられており、ボンディングワイヤ20e~20hそれぞれの他端は、信号増幅部3A,3Bの基準電位用電極パッド62a、62c、62d及び62fそれぞれに接続されている。
本実施形態では、基板10上において容量素子部7a~7dと受光素子部6a~6dとがモノリシックに集積されており、容量素子部7a~7dが受光素子部6a~6dの近くに配置されている。加えて、容量素子部7a~7dの一方の電極(上部金属層43)は、基板10を貫通するビアを介して裏面金属膜50に接地され、この裏面金属膜50を介して信号増幅部3A及び3Bの基準電位に接続される。従って、受光素子部6a~6dの基準電位の質を高めることができる。
信号増幅部3A及び3Bは、受光素子部6a~6dから出力された電気信号(光電流)を増幅する増幅器(TIA:Trans Impedance Amplifier)である。信号増幅部3A及び3Bは、光導波路型受光素子2Aの後方に配置される。信号増幅部3Aは、2つの信号入力用電極パッド61a及び61bを有しており、信号入力用電極パッド61a及び61bに入力された電気信号の差動増幅を行って一つの電圧信号を生成する。また、信号増幅部3Bは、2つの信号入力用電極パッド61c及び61dを有しており、信号入力用電極パッド61c及び61dに入力された電気信号の差動増幅を行って一つの電圧信号を生成する。信号入力用電極パッド61a~61dは、光導波路型受光素子2Aの端縁2bに沿って、方向Aにこの順で並んで配置されている。前述したように、信号入力用電極パッド61a~61dそれぞれは、ボンディングワイヤ20a~20dそれぞれを介して信号出力用電極パッド21a~21dそれぞれと電気的に接続されている。
また、信号増幅部3Aは、3つの基準電位用電極パッド62a,62b,及び62cを更に有している。基準電位用電極パッド62a~62cは、光導波路型受光素子2Aの端縁2bに沿って、方向Aに沿ってこの順で並んで配置されている。信号入力用電極パッド61aは基準電位用電極パッド62a及び62bの間に配置されており、信号入力用電極パッド61bは基準電位用電極パッド62b及び62cの間に配置されている。同様に、信号増幅部3Bは、3つの基準電位用電極パッド62d,62e,及び62fを更に有している。基準電位用電極パッド62d~62fは、光導波路型受光素子2Aの端縁2bに沿って、方向Aに沿ってこの順で並んで配置されている。上述した信号入力用電極パッド61cは基準電位用電極パッド62d及び62eの間に配置されており、信号入力用電極パッド61dは基準電位用電極パッド62e及び62fの間に配置されている。前述したように、信号増幅部3A,3Bの基準電位用電極パッド62a、62c、62d及び62fそれぞれは、ボンディングワイヤ20e~20hそれぞれを介して基準電位側電極パッド23a~23dそれぞれと電気的に接続されている。
図2には4つの受光素子部6a~6dのうち2つの受光素子部6c,6dの断面構造が示されており、図3には受光素子部6dの断面構造が示されているが、他の受光素子部6a,6bの断面構造もこれらと同様である。また、図4には、受光素子部6dと光導波路部8fとの接合部分の断面構造が示されているが、他の接合部分(受光素子部6aと光導波路部8cとの接合部分、受光素子部6bと光導波路部8dとの接合部分、及び受光素子部6cと光導波路部8eとの接合部分)の断面構造もこれと同様である。図4に示されるように、受光素子部6a~6d及び光導波路部8c~8fは、共通の基板10上に集積されている。基板10は、例えば半絶縁性のInP基板である。
受光素子部6a~6dの断面構造について、受光素子部6dを例に説明する。図3に示されるように、受光素子部6dは、基板10上に設けられた高濃度のn型の導電型を有するバッファ層11と、n型バッファ層11の領域D(図4参照)上に設けられた導波路型フォトダイオード構造19Aとを有している。導波路型フォトダイオード構造19Aは、n型バッファ層11上に設けられた光吸収層13、光吸収層13上に設けられたp型の導電型を有するクラッド層14、及びp型クラッド層14上に設けられたp型コンタクト層15を有している。更に、受光素子部6dは、n型バッファ層11と光吸収層13との間に設けられたバッファ層12を有している。n型バッファ層11は本実施形態における第1半導体層であり、p型クラッド層14は本実施形態における第2半導体層であり、バッファ層12は本実施形態における第4半導体層である。
n型バッファ層11は、例えばSiドープInP層である。n型バッファ層11のSiドーピング濃度は、例えば1×1017cm-3以上である。n型バッファ層11の厚さは、例えば1μm~2μmである。バッファ層12は、n型バッファ層11及びp型クラッド層14のうちn型の半導体層(本実施形態ではn型バッファ層11)と光吸収層13との間に設けられた低濃度のn型またはi型の半導体層である。バッファ層12の不純物濃度はn型バッファ層11よりも低いか、或いはアンドープである。一例では、バッファ層12のSiドーピング濃度は1×1016cm-3以下である。また、バッファ層12のバンドギャップは、光吸収層13のバンドギャップよりも大きく、n型バッファ層11のバンドギャップと等しいか若しくは小さい。バッファ層12は、例えばSiドープInP層である。バッファ層12の厚さは、例えば0.1μm~0.3μmである。
光吸収層13は、吸収端の波長が1612nm以上(例えば1650nm)であるInxGa1-xAs(0<x<1)を主に含む。換言すれば、光吸収層13はLバンド帯に感度を有する。光吸収層13は、例えばアンドープInGaAs層、若しくはSiドーピング濃度が3×1016cm-3以下である低濃度n型InGaAs層である。光吸収層13の厚さは、例えば100nm~400nmであり、より好適には例えば200nm~300nmである。p型クラッド層14は、例えばZnドープInP層である。p型クラッド層14のZnドーピング濃度は、例えば2×1017cm-3以上である。p型クラッド層14の厚さは、例えば1μm~2.5μmである。p型コンタクト層15は、例えばZnドープInGaAs層である。p型コンタクト層15のZnドーピング濃度は、例えば1×1018cm-3以上である。p型コンタクト層15の厚さは、例えば100nm~300nmである。
なお、光吸収層13とバッファ層12との間に、光吸収層13とバッファ層12との中間のバンドギャップを有するヘテロエネルギー障壁(ΔEc:Conduction band(伝導帯))の緩和層が設けられてもよい。このヘテロエネルギー障壁緩和層は、アンドープか、若しくはSi濃度が1×1016cm-3以下の低濃度n型であり、例えばバンドギャップ波長が1.4μmのInGaAsP層である。或いは、光吸収層13とバッファ層12との間に、両層間のヘテロエネルギー障壁(ΔEc:Conduction band(伝導帯))を緩和させる組成グレーデッド(傾斜)層が設けられてもよい。この組成グレーデッド層は、例えば2層のアンドープまたはSiドープInGaAsPからなり、2層それぞれのバンドギャップ波長は例えば1.3μm及び1.1μmである。Si濃度は1×1016cm-3以下である。また、光吸収層13とp型クラッド層14との間には、高速応答を実現するため少数キャリア(ホール)の走行遅延低減を目的としてInGaAsP層が設けられてもよい。また、光吸収層13とp型クラッド層14との間に、両層間のヘテロエネルギー障壁(ΔEv:Valence band(価電子帯))を緩和させる組成グレーデッド(傾斜)層が設けられてもよい。この組成グレーデッド層は、例えば2層のアンドープまたはZnドープInGaAsPからなり、2層それぞれのバンドギャップ波長は例えば1.3μm及び1.1μmである。Zn濃度は1×1017cm-3以下である。
バッファ層12、光吸収層13、p型クラッド層14、及びp型コンタクト層15は、所定の光導波方向(本実施形態では図1の方向B)に延びるメサ構造を構成しており、このメサ構造は、一対の側面を有している。このメサ構造の一対の側面は、例えばFeドープInPといった半絶縁性材料からなる埋込領域71によって埋め込まれている。光導波方向と直交する方向におけるメサ構造の幅は、例えば1.5~3μmである。メサ構造の高さは、例えば2~3.5μmである。
受光素子部6dは、2層の絶縁膜16,17を更に有している。絶縁膜16,17は、メサ構造の上面から埋込領域71上にかけて設けられて、これらを覆って保護している。絶縁膜16,17は、例えば絶縁性シリコン化合物(SiN、SiON、またはSiO2)膜である。また、絶縁膜16,17は、メサ構造の上面に開口を有しており、該開口により絶縁膜16,17から露出したp型コンタクト層15の上には、p型オーミック電極31が設けられている。p型オーミック電極31は、例えばAuZn若しくはPtとp型コンタクト層15との合金からなる。そして、p型オーミック電極31上には、配線32が設けられている。配線32は、光導波方向(第2の方向B)に延びており、p型オーミック電極31と信号出力用電極パッド21dとを電気的に接続する。配線32は例えばTiW/Au若しくはTi/Pt/Auといった積層構造を有しており、信号出力用電極パッド21dは例えばAuメッキによって形成される。
絶縁膜16,17は、受光素子部6dのメサ構造から離れたn型バッファ層11の上にも、別の開口を有している。該開口により絶縁膜16,17から露出したn型バッファ層11の上には、カソードとしてのn型オーミック電極41が設けられている。なお、このn型オーミック電極41は、バッファ層12にはコンタクトしていない。n型オーミック電極41は、例えばAuGe若しくはAuGeNiとn型バッファ層11との合金からなる。そして、n型オーミック電極41上にはバイアス配線42が設けられている。図2に示されるように、バイアス配線42は、容量素子部7dの下部金属層まで延びており、下部金属層とn型オーミック電極41とを電気的に接続している。
続いて、光導波路部8c~8fの断面構造について説明する。図4には、光導波路部8fの光導波方向に垂直な断面の構造が含まれている。他の光導波路部8c~8eは、光導波路部8fと同様の断面構造を有している。光導波路部8fは、基板10上に設けられたn型バッファ層11と、n型バッファ層11の領域Dと隣接する領域E上に設けられた光導波路構造80とを含んで構成されている。光導波路構造80は、n型バッファ層11上に設けられた光導波コア層81と、光導波コア層81上に設けられたクラッド層82と、n型バッファ層11と光導波コア層81との間に設けられたバッファ層12と、を含んで構成されている。
n型バッファ層11は、受光素子部6dと共通の半導体層であり、光導波路部8fにおいては第1の下部クラッド層として機能する。n型バッファ層11は、受光素子部6dにおける基板10上から、光導波路部8fにおける基板10上にわたって設けられている。バッファ層12もまた、受光素子部6dと共通の半導体層であり、光導波路部8fにおいては第2の下部クラッド層として機能する。バッファ層12は、受光素子部6dにおけるn型バッファ層11と光吸収層13との間から、光導波路部8fにおけるn型バッファ層11と光導波コア層81との全ての間にまで延びている。
光導波路部8fと受光素子部6dとはバットジョイント構造を有しており、光導波コア層81と光吸収層13とは互いに接している。これにより、光導波コア層81と光吸収層13とは互いに光学的に結合されている。光導波コア層81は、屈折率がn型バッファ層11及びバッファ層12よりも大きく且つバッファ層11と格子整合できる材料(例えばInGaAsP)からなる。一例では、光導波コア層81のInGaAsPのバンドギャップ波長は1.05μmである。光導波コア層81の厚さは、例えば0.3μm~0.5μmである。クラッド層82は、屈折率が光導波コア層81よりも小さく且つ光導波コア層81と格子整合できる材料(例えばアンドープInP)からなる。クラッド層82の厚さは例えば1μm~3μmであり、クラッド層82の上面の高さとp型コンタクト層15の上面の高さとは互いに揃っている。n型バッファ層11の一部、バッファ層12、光導波コア層81、及びクラッド層82は、所定の光導波方向に延びるメサ構造を構成している。バッファ層11、バッファ層12及びクラッド層82と光導波コア層81との屈折率差、並びにこのメサ構造によって、光導波コア層81内に光信号が閉じ込められ、光信号を受光素子部6dへ伝搬することができる。なお、このメサ構造の側面及び上面は、2層の絶縁膜16,17(図3を参照)に覆われることによって保護されている。
ここで、Lバンド帯に対応する本実施形態の光導波路型受光素子2Aの構成と、Cバンド帯(1528nm~1565nm)に対応する光導波路型受光素子の構成との相違点について説明する。下の表1は、Lバンド帯及びCバンド帯のそれぞれに対応する光分岐部5(図5を参照)のMMIカプラ51及び52、並びに位相シフト部8iの寸法例を示す。表1には、光導波方向におけるMMIカプラ51の長さL1、光導波方向と直交する方向におけるMMIカプラ51の幅W1、光導波方向におけるMMIカプラ52の長さL2、光導波方向と直交する方向におけるMMIカプラ52の幅W2、及び位相シフト部8iにおける光導波路部8gと光導波路部8hとの最大間隔PSXが示されている。なお、表1には、Lバンド帯とCバンド帯との差分が併せて示されている。
一般的に、Cバンド帯での光受信の場合、中心波長である1550nmの±10nmの範囲内において、透過率を最大化し、且つ同相(In-phase)関係を有する信号成分Lc1と信号成分Lc2との出力偏差(Imbalance)、並びに直角位相(Quadrature)関係を有する信号成分Lc3と信号成分Lc4との出力偏差を最小化するように、光分岐部5を設計する。また、Lバンド帯での光受信の場合、中心波長である1587nmの±10nmの範囲内において、透過率を最大化し、且つ同相関係を有する信号成分Lc1と信号成分Lc2との出力偏差、並びに直角位相関係を有する信号成分Lc3と信号成分Lc4との出力偏差を最小化するように、光分岐部5を設計する。表1に示された寸法例では、MMIカプラ51,52の幅W1,W2をCバンド帯とLバンド帯とで一致させ、長さL1,L2及び最大間隔PSXをCバンド帯とLバンド帯とで異ならせている。幅W1,W2は長さL1,L2及び最大間隔PSXと比較して極めて小さいため、このように幅W1,W2を一定として長さL1,L2及び最大間隔PSXを変化させることにより、MMIカプラ51,52のメサ構造を形成する際の加工ばらつきの影響を低減して、所望の特性を精度良く実現することができる。具体的には、Lバンド帯ではCバンド帯に対して長さL1を9.6μm短くし、長さL2を7μm短くし、最大間隔PSXを0.03μm拡大している。
図6は、Lバンド帯受信用の光分岐部5における、信号成分Lc1,Lc2間の偏差及び信号成分Lc3,Lc4間の偏差を示すグラフである。また、図7は、Cバンド帯受信用の光分岐部における、信号成分Lc1,Lc2間の偏差及び信号成分Lc3,Lc4間の偏差を示すグラフである。なお、図6及び図7において、横軸は波長(単位:μm)を表し、縦軸は偏差(単位:dB)を表す。グラフG11は信号成分Lc1,Lc2間の偏差を示し、グラフG12は信号成分Lc3,Lc4間の偏差を示す。図6に示されるように、Lバンド帯受信用の光分岐部5では、信号成分Lc1,Lc2間の偏差、及び信号成分Lc3,Lc4間の偏差が共にLバンド帯(図中の範囲AL)において小さく(ゼロ付近に)抑えられる。また、図7に示されるように、Cバンド帯受信用の光分岐部では、信号成分Lc1,Lc2間の偏差、及び信号成分Lc3,Lc4間の偏差が共にCバンド帯(図中の範囲AC)において小さく(ゼロ付近に)抑えられる。
次に、Lバンド帯に対応する本実施形態の受光素子部6a~6dの構成と、Cバンド帯に対応する受光素子部の構成との相違点について説明する。図4に示されたように、導波路型フォトダイオード構造19Aの光吸収層13は、光導波路構造80の光導波コア層81と直接結合されている。従って、光導波路型受光素子2Aの感度特性は、光分岐部5及び光導波路部8a~8fの透過率と、受光素子部6a~6dの受光感度とによって主に決定される。Lバンド帯では、光吸収層13の吸収端波長(InPと格子整合したInxGa1-xAs(0<x<1)の吸収端波長は1650nm)に近いので、Cバンド帯と比較して、温度変化による光吸収層13の吸収係数の変動が大きい。特に0℃以下といった低温下においては急激に吸収係数が低下するので、受光素子部6a~6dの受光感度の低下が懸念される。図8は、受光素子部6a~6dの受光感度特性を概念的に示すグラフである。図8において、横軸は波長(単位:nm)を示し、縦軸は受光感度を示す。同図に示されるように、低温下において、Lバンド帯のうち特に光吸収層13の吸収端波長(1650nm)に近い波長帯では、受光素子部6a~6dの受光感度が急激に低下する。
そこで、Lバンド帯に対応する本実施形態の受光素子部6a~6dでは、Cバンド帯に対応する受光素子部6a~6dと比較して、光導波方向(方向B)における光吸収層13の長さL3(図4を参照)を長くしている。具体的には、Cバンド帯に対応する受光素子部6a~6dの光吸収層13の長さL3が9μmであるところ、本実施形態の光吸収層13の長さL3は12μm以上である。図9及び図10は、それぞれCバンド帯及びLバンド帯における光吸収層13内の光強度の分布を示すグラフである。これらの図において、横軸は、光導波方向における光導波コア層81との境界からの距離(単位:μm)を表す。また、縦軸は、規格化された光強度(コア層との境界における光強度を1とする)を表す。グラフG21は25℃における光強度分布を示し、グラフG22は-40℃における光強度分布を示す。Cバンド帯においては、温度変化による吸収係数の変動が比較的小さいので、図9に示されるように、低温下であっても受光感度の低下量は小さい。従って、-40℃の場合であっても25℃の場合とほぼ同程度に光強度が減衰する。これに対し、Lバンド帯においては、温度変化による吸収係数の変動が格段に大きいので、図10に示されるように、低温下における受光感度の低下量が大きくなる。従って、-40℃の場合には25℃の場合と比較して光強度の減衰量が小さく、光導波コア層81との境界から離れた位置まで高い光強度が維持される。
図9に示されるように、Cバンド帯においてコア層との境界から9μm離れた位置では、光強度の規格値は25℃、-40℃共に約0.1となる。これに対し、図10に示されるように、Lバンド帯においてコア層との境界から9μm離れた位置では、光強度の規格値は25℃で約0.14であるが、-40℃では約0.2となる。-40℃の低温下においては、この差0.06の分だけ、Lバンド帯ではCバンド帯よりも受光感度が低下する。しかしながら、Lバンド帯において光導波コア層81との境界から12μm離れた位置では、光強度の規格値は-40℃でも約0.1となり、Cバンド帯の上記数値と同等となる。すなわち、低温下においては、Cバンド帯の光吸収層13の長さL3が9μmである場合と、Lバンド帯の光吸収層13の長さL3が12μmである場合とで、同等の受光感度が得られる。なお、光吸収層13の長さL3を長くし過ぎると、pn接合面積が増えて静電容量が増加し、高周波応答特性に影響を及ぼす。従って、高周波応答特性を維持する必要がある場合には、光吸収層13の長さL3を例えば19μm以下としてもよい。
図11は、光吸収層13の長さL3が12μmである本実施形態の受光素子部6a~6dの受光感度特性を示すグラフである。図11において、横軸は波長(単位:nm)を表し、縦軸は規格化された受光感度を表す。グラフG31は25℃の場合の特性を示し、グラフG32は-5℃の場合の特性を示す。縦軸は、25℃、波長1615nmにおける受光感度を1としている。図11を参照すると、Cバンド帯と同様に、Lバンド帯においても、-5℃での受光感度が25℃での受光感度に近づいており、低温下での受光感度の低下が抑制されていることがわかる。
以上に説明したように、本実施形態の光導波路型受光素子2Aによれば、光吸収層13が光導波方向において12μm以上の長さを有するので、光伝搬長さを十分に確保し、低温下における受光感度の低下分を補うことができる。従って、低い温度環境下においても、Lバンド帯での受光素子部6a~6dの十分な受光感度を得ることができる。
また、本実施形態のように、光吸収層13はInxGa1-xAs(0<x<1)を主に含み、光吸収層13の厚さは100nmより大きく200nmより小さくてもよい。光吸収層13が厚いと、少数キャリア(ホール)の走行時間が長くなり、導波路型フォトダイオード構造19Aの周波数応答特性が劣化する。従って、光吸収層13は薄いことが望ましいが、光吸収層13が薄いと光吸収量が低下する。本実施形態の光導波路型受光素子2Aによれば、光導波方向において光吸収層13が十分な長さを有するので、厚さ100nm~200nmといった薄い光吸収層13であっても、十分な光吸収量を確保することができる。故に、少数キャリア(ホール)の走行時間を短くして、導波路型フォトダイオード構造19Aの周波数応答特性を高めることができる。
また、受光素子部6a~6dの周波数応答特性を高める際には、受光素子部6a~6dのCR時定数とキャリア走行時間とのトレードオフが問題となる。すなわち、受光素子部6a~6dの光吸収層13が厚いほど静電容量が小さくなりCR時定数を小さくできるが、光吸収層13において発生した少数キャリア(ホール)の走行時間が長くなってしまう。また、受光素子部6a~6dの光吸収層13が薄いほど少数キャリア(ホール)の走行時間を短くできるが、静電容量が大きくなりCR時定数が大きくなってしまう。従って、このようなトレードオフを解決して周波数応答特性をより高めることが望まれる。
本実施形態では、バッファ層11よりも低い不純物濃度のn型もしくはi型の導電型を有するバッファ層12が、バッファ層11と光吸収層13との間、およびバッファ層11と光導波コア層81との間に共通して設けられている。この場合、逆バイアス印加時の空乏化領域が光吸収層13からバッファ層12まで広がるので、バッファ層12が設けられない場合と比較して静電容量が小さくなり、CR時定数を小さくすることができる。また、バッファ層12はn型の半導体層と光吸収層13との間に設けられるので、少数キャリア(ホール)の走行時間には影響しない。言い換えれば、光吸収層13を薄くして少数キャリア(ホール)の走行時間を短くしても、CR時定数の増大を抑制することができる。従って、導波路型フォトダイオードのCR時定数とキャリア走行時間とのトレードオフを解決して、周波数応答特性をより高めることができる。
また、本実施形態のように、バッファ層12は、光導波路構造80におけるバッファ層11と光導波コア層81との間に延びてもよい。バッファ層11にはn型の不純物(例えばSi)が多く含まれるので、この不純物によって光導波コア層81を導波する光に損失が生じてしまう。このような問題点に対し、低い不純物濃度のn型もしくはi型のバッファ層12がバッファ層11と光導波コア層81との間に設けられていれば、光導波コア層81を導波する光の損失を低減することができる。
また、本実施形態のように、バッファ層12は、光導波路構造80におけるバッファ層11と光導波コア層81との全ての間に延びてもよい。これにより、光導波コア層81を導波する光の損失をより効果的に低減することができる。
また、本実施形態のように、バッファ層12の不純物濃度は1×1016cm-3以下であってもよい。バッファ層12が例えばこのような不純物濃度を有することによって、逆バイアス印加時の空乏化領域をバッファ層12にまで広げることができる。
また、本実施形態のように、バッファ層12のバンドギャップは、光吸収層13のバンドギャップよりも大きく、バッファ層11のバンドギャップと等しいか若しくは小さくてもよい。
また、本実施形態のように、光導波路構造80は、1565nm~1612nm(すなわちLバンド帯)の波長範囲で通信される光ファイバと光結合されてもよい。これにより、上記の作用効果を好適に奏することができる。
(第1変形例)
図12は、上記実施形態の第1変形例に係る光導波路型受光素子2Bの構成を示す断面図であって、図1に示されたIV-IV線に相当する断面を示している。本変形例と上記実施形態との相違点は、バッファ層12が省かれている点、及び低濃度半導体層18が追加されている点である。なお、これらの点を除く光導波路型受光素子2Bの構成は、上記実施形態に係る光導波路型受光素子2Aの構成と同様である。
具体的に説明する。本変形例の受光素子部6a~6d(図には受光素子部6dを代表として示す)は、基板10上に設けられた高濃度のn型の導電型を有するバッファ層11と、n型バッファ層11の領域D上に設けられた導波路型フォトダイオード構造19Bとを有している。導波路型フォトダイオード構造19Bは、n型バッファ層11上に設けられた低濃度半導体層18、低濃度半導体層18上に設けられた光吸収層13、光吸収層13上に設けられたp型の導電型を有するクラッド層14、及びp型クラッド層14上に設けられたp型コンタクト層15を有している。これらのうち、光吸収層13、クラッド層14、及びp型コンタクト層15の構成は上記実施形態と同様である。そして、本変形例においても、光吸収層13の長さL3は12μm以上である。
低濃度半導体層18は、本変形例における第3半導体層である。低濃度半導体層18は、n型バッファ層11と光吸収層13との間に設けられた低濃度のn型またはi型の半導体層である。低濃度半導体層18の不純物濃度はn型バッファ層11よりも低いか、或いはアンドープである。一例では、低濃度半導体層18のSiドーピング濃度は1×1016cm-3以下である。また、低濃度半導体層18のバンドギャップは、光吸収層13のバンドギャップよりも大きく、n型バッファ層11のバンドギャップよりも小さい。低濃度半導体層18は、例えばSiドープInGaAsP層である。この場合、バンドギャップ波長は1.4μmである。低濃度半導体層18の厚さは、例えば0.1μm~0.2μmである。一例では、低濃度半導体層18はn型バッファ層11と接している。
図12には、n型バッファ層11の上面11aを基準とする光吸収層13の中心高さH1が示されている。中心高さH1とは、光吸収層13の厚さ方向における、光吸収層13の上面及び下面から等距離の架空平面と、上面11aとの距離である。一例では、光吸収層13の下面は低濃度半導体層18と接している。
なお、低濃度半導体層18は、ヘテロエネルギー障壁(ΔEc)の緩和層としても機能する。或いは、低濃度半導体層18は、n型バッファ層11と光吸収層13とのヘテロエネルギー障壁(ΔEc)を緩和させる組成グレーデッド(傾斜)層であってもよい。その場合、低濃度半導体層18は、例えば2層のアンドープまたはSiドープInGaAsPからなり、2層それぞれのバンドギャップ波長は例えば1.3μm及び1.1μmである。Si濃度は1×1016cm-3以下である。
また、光吸収層13とp型クラッド層14との間には、高速応答を実現するため少数キャリア(ホール)の走行遅延低減を目的としてInGaAsP層が設けられてもよい。また、光吸収層13とp型クラッド層14との間に、両層間のヘテロエネルギー障壁(ΔEv)を緩和させる組成グレーデッド(傾斜)層が設けられてもよい。この組成グレーデッド層は、例えば2層のアンドープまたはZnドープInGaAsPからなり、2層それぞれのバンドギャップ波長は例えば1.3μm及び1.1μmである。Zn濃度は1×1017cm-3以下である。
また、p型クラッド層14とp型コンタクト層15との間には、p型のヘテロ障壁緩和層が設けられてもよい。このヘテロ障壁緩和層のZnドーピング濃度は、例えば1×1018cm-3以上である。このヘテロ障壁緩和層は、例えば2層のZnドープInGaAsPからなり、2層それぞれのバンドギャップ波長は例えば1.1μm及び1.3μmである。
本変形例の光導波路部8c~8f(図には光導波路部8fを代表として示す)は、基板10上に設けられたn型バッファ層11と、n型バッファ層11の領域Dと隣接する領域E上に設けられた光導波路構造80とを含んで構成されている。光導波路部8c~8fと受光素子部6a~6dとはバットジョイント構造を有しており、光導波コア層81と光吸収層13とは互いに接している。これにより、光導波コア層81と光吸収層13とは互いに光学的に結合されている。また、光導波コア層81と低濃度半導体層18とは、n型バッファ層11上において、所定の光導波方向(図1の方向B)に互いに並んでいる。一例では、低濃度半導体層18の端面と光導波コア層81の端面とが、バットジョイント界面において互いに接している。光導波コア層81の下面と低濃度半導体層18の下面とは、共通の半導体層(本変形例ではn型バッファ層11)に接している。
図12には、n型バッファ層11の上面11aを基準とする光導波コア層81の中心高さH2が示されている。中心高さH2とは、光導波コア層81の厚さ方向における、上面及び下面から等距離の架空平面と上面11aとの距離である。一例では、中心高さH1と中心高さH2とは互いに等しい。すなわち、光導波コア層81の厚さ方向の中心と、光吸収層13の厚さ方向の中心とが互いに揃っている。
以上の構成を備える本変形例の光導波路型受光素子2Bによって得られる効果について説明する。光導波路型受光素子2Bでは、上記実施形態と同様に、光導波方向における光吸収層13の長さL3が12μm以上とされている。これにより、低い温度環境下においても受光素子部6a~6dの十分な受光感度を得ることができる。
また、本変形例の光導波路型受光素子2Bでは、n型バッファ層11と光吸収層13との間に、低い不純物濃度のn型もしくはi型の低濃度半導体層18が設けられている。この場合、逆バイアス印加時の空乏化領域が光吸収層13から低濃度半導体層18まで広がるので、光吸収層13を薄くして少数キャリア(ホール)の走行時間を短くした場合であっても、空乏化領域の薄層化を抑制することができる。従って、静電容量の増大を抑制(或いは、低減若しくは維持)してCR時定数を小さく抑えることができる。故に、受光素子部6a~6dのCR時定数とキャリア走行時間とのトレードオフを解決して、周波数応答特性をより高めることができる。
また、本変形例では、低濃度半導体層18が、n型バッファ層11上において光導波コア層81と並んで設けられている。n型バッファ層11上に光吸収層13と光導波コア層81とが単に並んでいる場合、周波数応答特性を高めるために光吸収層13を光導波コア層81よりも薄くすると、n型バッファ層11上に厚さの異なる光導波コア層81と光吸収層13とが並ぶこととなる。従って、n型バッファ層11の上面11aを基準とする光吸収層13の中心高さH1と光導波コア層81の中心高さH2とが互いに異なってしまい、光吸収層13と光導波コア層81との光結合効率が低下し、受光感度が劣化してしまう。これに対し、本変形例によれば、n型バッファ層11と光吸収層13との間に低濃度半導体層18が設けられているので、光吸収層13を薄くした場合であっても光吸収層13の中心高さH1を光導波コア層81の中心高さH2に近づけることができる。故に、光吸収層13と光導波コア層81との光結合効率の低下を抑制して、受光感度の劣化を抑制(或いは受光感度を向上)することができる。
本変形例のように、n型バッファ層11の上面11aを基準とする光吸収層13の中心高さH1と光導波コア層81の中心高さH2とは互いに等しくてもよい。これにより、光吸収層13と光導波コア層81との光結合効率の低下をより効果的に抑制することができる。
また、本変形例のように、光吸収層13を挟んだ上下の層構造が非対称であってもよい。光吸収層13の上側に位置するp型クラッド層14を構成するp型InPにおいては、材料物性上、光吸収層13の下側に位置するn型バッファ層11及び低濃度半導体層18をそれぞれ構成するn型InP及びp型InGaAsPと比較して、自由キャリア吸収による損失が大きい。本変形例のように、低濃度半導体層18によってn型バッファ層11と光吸収層13とのヘテロ界面での屈折率差を緩和して、p型クラッド層14と光吸収層13とのヘテロ界面での屈折率差を比較的大きくすることにより、光吸収層13中における光の吸収導波の際にp型クラッド層14への光の滲み出しを低減することができる。これにより、光損失を低減し、受光感度の向上に寄与できる。
また、本変形例のように、低濃度半導体層18の不純物濃度は1×1016cm-3以下であってもよい。低濃度半導体層18が例えばこのような不純物濃度を有することによって、逆バイアス印加時の空乏化領域を低濃度半導体層18にまでより効果的に広げることができる。
また、本変形例のように、低濃度半導体層18のバンドギャップは、光吸収層13のバンドギャップよりも大きく、n型バッファ層11のバンドギャップよりも小さくてもよい。低濃度半導体層18が例えばこのようなバンドギャップを有することによって、逆バイアス印加時の空乏化領域を低濃度半導体層18にまでより効果的に広げることができる。
また、本変形例のように、受光素子部6a~6dと光導波路部8a~8fとに共通の半導体層であるn型バッファ層11と、低濃度半導体層18とは互いに異なる組成を有してもよい。これにより、受光素子部6a~6dの再成長の際にn型バッファ層11と低濃度半導体層18とのエッチング選択性を高め、n型バッファ層11をエッチング停止層として有効に機能させることができる。従って、受光素子部6a~6dにおけるn型バッファ層11の上面11aの高さを精度良く形成し、光導波路部8a~8fにおけるn型バッファ層11の上面11aの高さと揃えることができる。故に、光吸収層13の中心高さH1と光導波コア層81の中心高さH2とをより精度良く一致させることができる。
(第2変形例)
図13は、上記実施形態の第2変形例に係る光導波路型受光素子2Cの構成を示す断面図であって、図1に示されたIV-IV線に相当する断面を示している。本変形例と上記実施形態との相違点は、低濃度半導体層18が追加されている点である。すなわち、第1変形例では低濃度半導体層18がn型バッファ層11に接している例を説明したが、本変形例では、低濃度半導体層18とn型バッファ層11との間にバッファ層12が設けられている。なお、この点を除く光導波路型受光素子2Cの構成は、上記実施形態に係る光導波路型受光素子2Aの構成と同様である。
本変形例では、逆バイアス印加時の空乏化領域が光吸収層13から低濃度半導体層18を超えてバッファ層12まで広がるので、静電容量の増大をより効果的に抑制することができ、光吸収層13をより薄くして少数キャリア(ホール)の走行時間を更に短くすることができる。従って、本変形例によれば、周波数応答特性を更に高めることができる。また、本変形例では、上記実施形態と同様に、バッファ層12が、光導波路構造におけるn型バッファ層11と光導波コア層81との間に延びている。従って、光導波路部8c~8fの伝搬損失が改善され、光導波路型受光素子2Cの受光感度が更に向上する。
以上、本発明を実施例に基づいて具体的に説明したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において変更可能である。例えば、上記実施形態の光導波コア層81の組成は、InGaAsP系に限定されるものではなく、例えば、AlGaInAs系でも良い。また、上記実施形態では、共通の基板10上に光導波路部8a~8f及び受光素子部6a~6dが集積された構成を例示したが、基板10上に、他のInP系電子デバイス(例えば、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ)、キャパシタ及び抵抗を含む光電変換回路が更に集積されてもよい。また、上記実施形態では、基板10上にバッファ層11が設けられているが、基板がn型の半導体基板である場合には、バッファ層11は省略されてもよい。その場合、n型の半導体基板が第1半導体層となり、上記の説明におけるバッファ層11と他の半導体層との関係は、全てn型の半導体基板と他の半導体層との関係に読み替えられる。