JP7056264B2 - R-t-b系希土類磁石 - Google Patents

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Description

本発明は、R-T-B系希土類磁石に関する。
R-T-B系希土類磁石は、高い磁気特性が得られることから、従来から幅広い分野で使用され、近年はR-T-B系希土類磁石の磁気特性の飛躍的な向上に伴い、利用分野がますます拡大している。そして、市場においては、R-T-B系希土類磁石の磁気特性について、更なる向上が期待されている。
例えば、特許文献1には、ホウ素の含有量が低い組成を有するR-T-B系希土類磁石が記載されている。ホウ素の含有量を低くすることでBリッチな相を形成させず、残留磁束密度の高い磁石を得る旨が記載されている。具体的には、R14Bで表されるR-T-B系磁石におけるBの含有比をR14Bの化学量論比よりわずかに小さくすることで、Bリッチな相の形成量を著しく低下させ、R14B相からなる主相の体積比率を向上させ、高い残留磁束密度(Br)を得ることができる。
また、特許文献2には、高融点化合物を添加する希土類磁石の製造方法が記載されている。特に、高融点化合物として重希土類元素(Dyおよび/またはTb)とBまたはAlとの化合物を添加することで磁気特性、特に保磁力(HcJ)を向上させることができる。
国際公開第2009/004994号パンフレット 特開2009-10305号公報
しかし、特許文献1に記載されているようにBの含有比をR14Bの化学量論比より小さくし、Bリッチ相の形成量を低減させた場合には、特性安定性が低下していまい、好適な特性を得ることができる焼結温度の範囲が狭くなってしまう。また、特許文献2に記載されているような重希土類元素の高融点化合物を添加することにより特性安定性を向上させることは可能である。しかし、焼結工程において高融点化合物が液相と反応することにより、焼結工程の途中で溶け切ってしまうため、特性安定性を向上させる効果は大きくない。
本発明は、磁気特性を向上させ、かつ、焼結温度安定域が広いR-T-B系希土類磁石を得ることを目的とする。
上記の目的を達成するために、本発明のR-T-B系希土類磁石は、
R-T-B系希土類磁石であって、
Rは一種以上の希土類元素、TはFeまたはFeおよびCoを必須とする一種以上の遷移金属元素、Bはホウ素であり、
前記R-T-B系希土類磁石全体に対するBの含有量が0.80質量%以上0.98質量%以下であり、
相を含むことを特徴とする。
本発明のR-T-B系希土類磁石は上記の構成を有することにより、磁気特性を向上させ、かつ、焼結温度安定域が広い磁石となる。
本発明のR-T-B系希土類磁石は、前記R相の希土類元素Rとして重希土類元素HRが含まれ、前記R相における希土類元素Rに対する重希土類元素HRの割合をαHR/R(質量%)とする場合に、αHR/R≧5であってもよい。
本発明のR-T-B系希土類磁石は、前記R-T-B系希土類磁石における希土類元素Rに対する重希土類元素HRの割合をβHR/R(質量%)とする場合に、
αHR/R≧βHR/R
であってもよい。
本発明のR-T-B系希土類磁石は、磁石表面から磁石内部に向かって前記重希土類元素の濃度勾配を有していてもよい。
本発明のR-T-B系希土類磁石は、前記R-T-B系希土類磁石の断面における前記R相の存在割合が1/24.5(個/mm)以上であってもよい。
本発明のR-T-B系希土類磁石は、前記R-T-B系希土類磁石の断面における前記R相の円相当径の平均が50μm以上であってもよい。
実施例2におけるEPMAによるホウ素のマッピング画像である。 実施例2におけるEPMAによるジスプロシウムのマッピング画像である。 図1におけるホウ素濃度が高い領域(R相)の拡大図である。 図3におけるR相の外周の位置を示す図である。
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
<R-T-B系希土類磁石>
本実施形態に係るR-T-B系希土類磁石は、R14X相、R相および粒界を有する。
Rは一種以上の希土類元素である。希土類元素とは、長周期型周期表の第3族に属するScとYとランタノイド元素とのことをいう。ランタノイド元素には、例えば、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等が含まれる。
Rの含有量は、好ましくは27質量%以上34質量%以下であり、より好ましくは29質量%以上32質量%以下である。Rの含有量を上記の範囲内とすることで、高磁気特性となるため好ましい。また、Rの種類に特に制限はないが、Ndを含む1種類以上の希土類元素とすることが好ましい。
TはFeあるいはFeおよびCoを必須とする一種以上の遷移金属元素である。Feは本実施形態に係るR-T-B系希土類磁石の実質的な残部である。Coの含有量は好ましくは0質量%を超え、3質量%以下である。Coの含有量を上記の範囲内とすることで高磁気特性、高耐食性となるため好ましい。
Bはホウ素である。ホウ素の含有量は0.80質量%以上0.98質量%以下である。好ましくは0.85質量%以上0.96質量%以下である。ホウ素の含有量が所定の値以上であることでBrおよび角形比を向上させることができる。ホウ素の含有量が所定の値以下であることでBrおよびHcJを向上させることができる。
Xはホウ素または炭素を表す。本実施形態に係るR-T-B系希土類磁石において、炭素の含有量は好ましくは0.03質量%以上0.15質量%以下である。炭素の含有量を0.03質量%以上とすることで、磁気特性を向上させることができる。また、炭素の含有量を0.15質量%以下とすることで、R17相などの異相の発生を抑制しやすくなり、異相の発生によるHcJの低下を抑制しやすくなる。
上記R14X相のXとしてホウ素だけではなく、炭素を固溶させることにより、R14X相の物性が変化し、磁気特性(Brおよび/またはHcJ)が向上する。しかし、ホウ素に比べて、炭素は固溶しにくい。したがって、単純にホウ素を減少させて炭素を増加させた場合には、後述する焼結過程において十分にR14X相が形成されず、R17相などの異相が発生し、急激にHcJが低下してしまう。
ここで、後述する焼結過程においてR相が存在する場合には、焼結過程において生じた液相(冷却時にR14X相等を形成する)とR相とが一定量の反応をし続け、液相にホウ素を供給し続けることができる。このことにより、R17相などの異相の発生を抑制する緩衝剤の役目を果たすことができる。結果として、R相が存在することにより、十分にR14X相が形成され、磁気特性(特にHcJ)を著しく向上させることができる。
また、後述する焼結過程においてR相が生成された場合には、最終的に得られる焼結体においてもR相が存在することになる。NdFeBの三元相状態図(図示せず)によれば、液相と固相とが共存する固液共存領域で最も高温まで固相の状態で残るのがNdFe相あるいはNdFe相である。このことから、R相は焼結工程を通じて液相になりにくくR相のまま残ると考えられる。
さらに、R相は磁壁移動を妨げる働きをすると考えられる。したがって、R相を含む場合には磁壁移動が妨げられHcJが向上すると考えられる。
さらに、本実施形態に係るR-T-B系希土類磁石は、重希土類元素としてDy、Tb、またはその両方を含んでいることが好ましい。重希土類元素を含有することでHcJが向上する。また、重希土類元素としては少なくともDyを含むことがより好ましい。
また、上記のR相がRとして重希土類元素を含む場合には、後述する焼結過程において液相に重希土類元素を安定的に供給し続けることができる。このため、最終的に生成するR14X相がコアシェル構造となりやすい。そのため、磁気特性が向上しやすい。また、上記のR相がRとして重希土類元素を含む場合には、後述する焼結過程において液相に重希土類元素を安定的に供給し続けることができるため、最終的に得られるR-T-B系希土類磁石は焼結温度に対する安定性が高くなる。具体的には、焼結温度が変化しても角形比が低下しにくくなり、焼結温度安定域が広くなる。
本実施形態に係るR-T-B系希土類磁石は、磁石表面から磁石内部に向かって前記重希土類元素の濃度勾配を有していてもよい。特に、磁石表面から磁石内部に向かって前記重希土類元素の濃度が低下する濃度勾配を有していてもよい。また、重希土類元素の濃度勾配を生じさせる方法には特に制限はない。例えば、後述する拡散処理を行うことで重希土類元素の濃度勾配を生じさせることができる。
また、本実施形態に係るR-T-B系希土類磁石は、さらにAl,Cu,Zrおよび/またはMnを含有することが好ましい。
Alの含有量は好ましくは0.03質量%以上0.4質量%以下である。Alの含有量を上記の範囲内にすることでHcJを向上させることができる。Cuの含有量は好ましくは0.01質量%以上0.3質量%以下である。Cuの含有量を上記の範囲内にすることでHcJを向上させることができる。Zrの含有量は好ましくは0.03質量%以上0.7質量%以下である。Zrの含有量を上記の範囲内にすることで焼結温度安定性を向上させることができる。Mnの含有量は好ましくは0.01質量%以上0.1質量%以下である。Mnの含有量を上記の範囲内とすることで角形比(Hk/HcJ)を向上させることができる。
また、本実施形態に係るR-T-B系希土類磁石は、さらにO(酸素)を含有してもよい。Oの含有量は0.3質量%以下とすることが好ましい。Oの含有量を0.3質量%以下とすることでHcJが向上する。また、Oの含有量は工程中の酸素濃度を制御することにより制御することができる。
Feの含有量は、R-T-B系希土類磁石の構成要素における実質的な残部である。
以下、本実施形態に係るR-T-B系希土類磁石におけるR相の存在割合(R相の個数を測定範囲の面積(単位mm)で割った値)、大きさおよび組成について説明する。
まず、R-T-B系希土類磁石を任意の断面で切断し、EPMAを用いて断面を観察する。後述する実施例2における断面をEPMA観察した結果が図1および図2である。図1がBの濃度を測定してマッピングした結果であり、図2がDyの濃度を測定してマッピングした結果である。マッピングの倍率は5倍以上200倍以下とすることが好ましい。また、測定範囲は25mm以上とすることが好ましい。なお、後述する実施例2では希土類元素RとしてNdおよびDyを含んでいる。
図1では、白い色の部分ほどBが高濃度である。また、図2では、白い色の部分ほどDyが高濃度である。図1において丸印を付けた部分は周囲に比べてBの濃度が高くなっている。このような箇所がR相であり、周囲のBの濃度が低くなっている箇所が、R14B相(主相)および粒界である。なお、図2で丸印を付けた部分は図1において丸印を付けた部分と同一箇所である。図2より、R相では周辺のR14B相および粒界よりもDy濃度が高くなっている。
図3および図4は図1で丸印を付けた部分のうち1か所を拡大した画像である。B濃度が高い部分(色が白い部分)とB濃度が低い部分(色が黒い部分)とが混じりあっていることがわかる。R相の存在割合および大きさを測定する際には、図4に示すようにR相が多数存在している領域の外周を線で結び、当該線の内部全体を1個のR相とみなす。線の結び方によって、後述するR相の大きさおよび組成が若干、変化する場合があるが、測定誤差の範囲内であると考える。なお、R相の存在割合とは、R-T-B系希土類磁石を任意の断面で切断した場合において、当該断面の断面積に対して当該断面で観察されるR相の個数のことである。
本実施形態では、R相の大きさは、R相の円相当径の平均が50μm以上であることが好ましい。ある領域の円相当径とは、ある領域の面積と同一の面積である円の直径のことである。EPMAマッピング画像から特定した1個のR相の面積を測定し、当該面積と同一の面積を有する円の直径を算出することにより、R相の円相当径の測定を行うことができる。そして、測定領域内に存在するR相の円相当径を測定する。
ここで、R相の円相当径の測定を行った結果、円相当径が10μm未満であった場合には、以下に示す円相当径の平均、R相の存在割合の算出、および、R相の組成を算出する際に、当該領域をR相とはみなさない。
本実施形態では、R相の円相当径の平均が50μm以上であることが好ましい。R相の大きさが上記の範囲内であることにより、上記のR相を含むことにより奏される効果がより発揮されやすくなる。特に焼結性が向上しやすくなる。円相当径の平均に上限は存在しないが、円相当径の平均を100μm程度まで上昇させることが可能である。
本実施形態では、R相の存在割合は1/24.5(個/mm)以上であることが好ましい。すなわち、R相の個数を測定範囲の面積(単位mm)で割った値が1/24.5以上であることが好ましい。R相の存在割合が上記の範囲内であることにより、上記のR相を含むことにより奏される効果がより発揮されやすくなる。なお、R相の存在割合に上限は存在しないが、10/24.5(個/mm)程度まで存在割合を上昇させることが可能である。
さらに、本実施形態に係るR-T-B系希土類磁石は、前記R相における希土類元素Rに対する重希土類元素HRの割合をαHR/R(質量%)、前記R-T-B系希土類磁石における希土類元素Rに対する重希土類元素HRの割合をβHR/R(質量%)とする場合に、αHR/R≧βHR/Rを満たすことが好ましい。各R相の組成は、図3で白くなっている部分の組成をEPMAで測定することにより特定することができる。
また、前記R相における希土類元素Rに対する重希土類元素HRの割合αHR/Rは5質量%以上であることが好ましい。αHR/Rを5質量%以上とすることで優れた特性をうることができる。αHR/Rには特に上限は存在しないが、例えば40質量%以下である。
<R-T-B系希土類磁石の製造方法>
次に、本実施形態に係るR-T-B系希土類磁石の製造方法を説明する。
なお、以下では、粉末冶金法で作製され、重希土類元素が粒界拡散されたR-T-B系希土類磁石を例に説明するが、本実施形態に係るR-T-B系希土類磁石の製造方法は、特に限定されるものではなく、他の方法も用いることができる。
本実施形態に係るR-T-B系希土類磁石の製造方法には、原料粉末を成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程と、前記焼結体を焼結温度よりも低い温度で一定時間保持する時効工程とが含まれる。
以下、R-T-B系希土類磁石の製造方法について詳しく説明していくが、特記しない事項については、公知の方法を用いればよい。
[原料粉末の準備工程]
原料粉末は、公知の方法により作製することができる。本実施形態では、主にR14B相からなる合金と、主にR相からなる添加剤とを用いる2合金法でR-T-B系希土類磁石を製造する。ここで、合金の組成、添加剤の組成および添加剤の添加量は、最終的に得るR-T-B系希土類磁石の組成となるように制御する。
まず、本実施形態に係る合金の組成に対応する原料金属を準備し、当該原料金属から本実施形態に対応する合金を作製する。合金の作製方法に特に制限はない。例えば、ストリップキャスト法にて合金を作製することができる。
合金を作製した後に、作製した合金を粉砕する(粉砕工程)。粉砕工程は、2段階で実施してもよく、1段階で実施してもよい。粉砕の方法には特に限定はない。例えば、各種粉砕機を用いる方法で実施される。例えば、粉砕工程を粗粉砕工程および微粉砕工程の2段階で実施し、粗粉砕工程は例えば水素粉砕処理を行うことが可能である。具体的には、原料合金に対して室温で水素を吸蔵させた後に、Arガス雰囲気下で300℃以上650℃以下、0.5時間以上5時間以下で脱水素を行うことが可能である。また、微粉砕工程は、粗粉砕後の粉末に対して、例えばオレイン酸アミド、ステアリン酸亜鉛などを添加したのちに、例えばジェットミル、ボールミル等を用いて行うことができる。得られる微粉砕粉末の粒径には特に制限はない。例えば、粒径(D50)が3μm以上5μm以下の微粉砕粉末となるように微粉砕を行うことができる。
次に、本実施形態に係る添加剤の組成に対応する原料金属を準備し、当該原料金属から本実施形態に対応する添加剤合金を作製する。添加剤の作製方法に特に制限はない。例えば、アーク溶解、高周波溶解および溶体化処理を順番に行うことで合金を作製することができる。各処理の条件は通常行われている条件で行うことが可能であり、特に制限はない。
次に、得られた添加剤合金をジョークラッシャー、ブラウンミル等で粉砕することで、粒径(D50)が例えば10μm以上300μm以下の添加剤を得ることができる。またこの段階で添加剤に対してX線回折測定を行うことでR相が生成していることが確認できる。
次に、微粉砕粉末に対して所定の量の添加剤を添加し、混合することで成形前の粉砕粉末を得ることができる。
[成形工程]
成形工程では、粉砕工程により得られた粉砕粉末を所定の形状に成形する。成形方法には特に限定はないが、本実施形態では、粉砕粉末を金型内に充填し、磁場中で加圧する。
成形時の加圧は、10MPa以上200MPa以下で行うことが好ましい。印加する磁場は、500kA/m以上5000kA/m以下であることが好ましい。粉砕粉末を成形して得られる成形体の形状は特に限定されるものではなく、例えば直方体、平板状、柱状等、所望とするR-T-B系希土類磁石の形状に応じて任意の形状とすることができる。
[焼結工程]
焼結工程は、成形体を真空または不活性ガス雰囲気中で焼結し、焼結体を得る工程である。焼結温度は、組成、粉砕方法、粒度、粒度分布等、諸条件により調整する必要があるが、成形体に対して、例えば、真空中または不活性ガスの存在下、950℃以上1100℃以下、1時間以上20時間以下で加熱する処理を行うことにより焼結する。これにより、高密度の焼結体が得られる。
[時効工程]
時効工程は、焼結工程後の焼結体に対して、焼結温度よりも低い温度で加熱することにより行う。時効処理の温度および時間には特に制限はないが、例えば470℃以上570℃以下で0.5時間以上3時間以下、行うことができる。
[拡散工程]
本実施形態では、前記焼結体に対して、さらに重希土類元素を拡散させる拡散工程を有してもよい。拡散処理は、重希土類元素を含む化合物等を、必要に応じて前処理を施した焼結体の表面に付着させた後、熱処理を行うことにより、実施することができる。これにより、磁石表面から磁石内部に向かって重希土類元素の濃度勾配を生じさせることができる。そして、最終的に得られるR-T-B系希土類磁石のHcJをさらに向上させることができる。なお、前処理の内容には特に制限はない。例えば公知の方法でエッチングを施した後に洗浄し、乾燥する前処理が挙げられる。
拡散工程においては、焼結工程よりも100~200℃低い温度で行うことができる。しかし、重希土類元素を拡散させることでR-T-B系希土類磁石の組成バランスが特にBの含有量が少ない場合に崩れやすく、R17などの異相が発生してしまい、HcJがむしろ低下してしまう場合がある。本実施形態では、R相を含有させることで、上記の異相の発生を防止することができる。
拡散処理により拡散させる重希土類元素としては、DyまたはTbが好ましく、Dyがより好ましい。
なお、前記重希土類元素を付着させる方法には特に制限は無い。例えば、蒸着、スパッタリング、電着、スプレー塗布、刷毛塗り、ジェットディスペンサ、ノズル、スクリーン印刷、スキージ印刷、シート工法等を用いる方法がある。
本実施形態では、重希土類元素を含有する塗料を作製し、塗料を前記焼結体の1つ以上の面に塗布する。
塗料の態様には特に制限はない。重希土類元素として何を用いるか特に制限はない。また、重希土類元素を含む重希土類化合物として、合金、酸化物、ハロゲン化物、水酸化物、水素化物等が挙げられるが、特に水素化物を用いることが好ましい。重希土類元素の水素化物としては、DyH、TbH、Dy-Feの水素化物、またはTb-Feの水素化物が挙げられる。特に、DyHまたはTbHが好ましい。
重希土類化合物は粒子状であることが好ましい。また、平均粒径は100nm~50μmであることが好ましく、1μm~10μmであることがより好ましい。
塗料に用いる溶媒としては、重希土類化合物を溶解させずに均一に分散させ得るものが好ましい。例えば、アルコール、アルデヒド、ケトン等が挙げられ、なかでもエタノールが好ましい。
塗料中の重希土類化合物の含有量には特に制限はない。例えば、10~50質量%であってもよい。塗料には、必要に応じて重希土類化合物以外の成分をさらに含有させてもよい。例えば、重希土類化合物粒子の凝集を防ぐための分散剤等が挙げられる。
拡散工程を用いた場合には、拡散工程の後にも前記時効工程を設ける必要がある。
[加工工程(拡散処理後)]
拡散工程の後には、表面に残存する残渣膜を除去するための処理を必要に応じて行ってもよい。拡散処理後の加工工程で実施する加工の種類に特に制限はない。例えば化学的な除去方法、物理的な切断、研削などの形状加工や、バレル研磨などの面取り加工などを前記拡散処理後に行ってもよい。
以上の工程により得られたR-T-B系希土類磁石は、めっきや樹脂被膜や酸化処理、化成処理などの表面処理を施してもよい。これにより、耐食性をさらに向上させることができる。
さらに、本実施形態に係るR-T-B系希土類磁石を切断、分割して得られる磁石を用いることができる。
具体的には、本実施形態に係るR-T-B系希土類磁石は、モータ、コンプレッサー、磁気センサー、スピーカ等の用途に好適に用いられる。
また、本実施形態に係るR-T-B系希土類磁石は、単独で用いてもよく、2個以上のR-T-B系希土類磁石を必要に応じて結合させて用いてもよい。結合方法に特に制限はない。例えば、機械的に結合させる方法や樹脂モールドで結合させる方法がある。
2個以上のR-T-B系希土類磁石を結合させることで、大きなR-T-B系希土類磁石を容易に製造することができる。2個以上のR-T-B系希土類磁石を結合させた磁石は、特に大きなR-T-B系希土類磁石が求められる用途、例えば、IPMモータ、風力発電機、大型モータ等に好ましく用いられる。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
実施例1
まず、下記の表1に記載された組成を有する合金Aをストリップキャスト法により準備した。
次いで、合金Aに対して水素粉砕処理(粗粉砕)を行い粗粉砕粉末Aを得た。具体的には、原料合金に対して室温で水素を吸蔵させた後に、Arガス雰囲気中で600℃、1時間の脱水素を行った。
次に、前記粗粉砕粉末Aに粉砕助剤としてオレイン酸アミド0.1質量%を添加し、ナウタミキサを用いて混合した。その後、Nガスを使用するジェットミルを用いて微粉砕を行い、粒径D50が4.0μm程度である微粉砕粉末Aを得た。
また、下記の表2に記載された組成を有する添加合金aを作製した。添加合金aは、原料金属をアーク溶解し、高周波溶解し、さらに溶体化処理を行うことにより作製した。アーク溶解はアーク溶解炉で溶解および鋳造を3回繰り返すことで行った。高周波溶解はアーク溶解後の原料金属に対して高周波誘導加熱を行うことで行った。溶体化処理は、Ar雰囲気中、1200℃で200時間保持することで行った。
次に、添加合金aをジョークラッシャーまたはブラウンミルで粉砕することで、粒径D50が100μm程度である添加剤aを得た。添加剤aに対してX線回折測定を行うことで、添加合金aにNdFe相が形成されていることを確認した。
次に、前記微粉砕粉末Aに前記添加剤aを0.4質量%添加した。そして、電磁石中に配置された金型内に充填し、1600kA/mの磁場を印加しながら50MPaの圧力を加える磁場中成形を行い、成形体を11個得た。
得られた11個の成形体に対して、1000℃~1100℃で10℃刻みに異なる温度で焼結を行い、11個の焼結体を得た。焼結時間は6時間とし、焼結後に550℃で1時間、時効処理を行った。
得られた11個の焼結体について、組成を確認した。その結果、得られた焼結体の組成が表3に記載した組成となっていることを確認した。なお、表3に記載した組成は、微粉砕粉末Aに添加剤aを0.4質量%添加した粉末の平均組成と実質的に一致する。すなわち、粉末の組成は、成形工程および焼結工程によって実質的に変化しない。
得られた11個の焼結体について、Br、HcJおよびHk/HcJをB-Hトレーサーを用いて測定した。Hkは、磁化がBrの90%になるときの磁場の大きさとした。結果を表4に示す。さらに、Hk/HcJが95%以上となった焼結体の中で最も焼結温度が高い焼結体を任意の面で切断し、得られた断面についてEPMAを用いて観察することにより、R相が存在していることを確認した。そして、R相の存在割合および円相当径の平均を測定した。さらに、前記R相における希土類元素Rに対する重希土類元素HRの割合(αHR/R)をEPMAで測定した。なお、上記焼結体(R-T-B系希土類磁石)全体における希土類元素Rに対する重希土類元素HRの割合βHR/R(質量%)は表3より算出した。結果を表4に示す。表4に記載したBrおよびHcJはHk/HcJが95%以上となった焼結体の中で最も焼結温度が高い焼結体の値である。
比較例1
表1の合金Bを用いた点および添加剤を用いなかった点以外は実施例1と同様にして焼結体の製造および特性の測定を行った。結果を表1~表4に示す。
実施例1は比較例1と比較して95%のHk/HcJが取れる温度域が広くなり、かつ、HcJが向上した。
実施例2
実施例1の焼結体のうち、Hk/HcJが95%以上となった焼結体の中で最も焼結温度が高い焼結体、すなわち焼結温度1060℃の焼結体を10mm×7.0mm×3.5mmの直方体形状に切り出した。この際に、3.5mmの辺の方向が前記磁場中成形時に磁場を印加させた方向となるようにした。
次に、直方体形状の焼結体にDy拡散処理を施した。拡散処理の詳細な方法について後述する。
直方体形状の焼結体に対して、硝酸とエタノールの混合溶液に3分間浸漬させた後にエタノールに1分間浸漬させる処理を2回行うことで、拡散処理工程の前処理を行った。前処理後に前記焼結体を洗浄し、乾燥した。
また、焼結体へ塗布するDy含有塗料を作製した。DyH原料を、Nガスを使用するジェットミルを用いて微粉砕してDyH微粉を作製した。ついで、前記DyH微粉をアルコール溶媒に混合し、アルコール溶媒中に分散させて塗料化し、Dy含有塗料を得た。
次に、前記直方体形状の焼結体の6面全てに対して、Dy含有塗料を刷毛塗りで塗布した。このときのDyHの合計塗布量が0.5質量%となるようにした。
Dy含有塗料を塗布した後の焼結体に対して、900℃で24時間、拡散処理を行った。その後、550℃で1時間、時効処理を行った。そして、上記実施例1と同様にして各種測定を行った。測定範囲は7.0mm×3.5mmの断面全体とした。最終的に得られる焼結体の組成を表3に、各種測定を行った結果を表4に記載した。なお、実施例2の「95%のHk/HcJが取れる温度域」の欄には、実際に実施例1の11個の焼結体全てに対して粒界拡散を行った後のHk/HCJを測定した結果を示している。すなわち、粒界拡散の前後で角型95%が取れる温度域は変化しなかった。
比較例2
比較例1の焼結体のうち、Hk/HcJが95%以上となった焼結体の中で最も焼結温度が高い焼結体を用いた点以外は実施例2と同様にして比較例2を実施した。最終的に得られる焼結体の組成を表3に、各種測定を行った結果を表4に記載した。
実施例2は比較例2と比べてHcJが向上した。
実施例3~11および比較例3~4
表1に記載された各種合金と表2に記載された各種添加剤とを表5に記載された組み合わせにより組み合わせた点以外は実施例1(拡散処理なし)または実施例2(拡散処理あり)と同様にして各実施例および比較例の焼結体を作製し、特性を測定した。最終的に得られる焼結体の組成を表3に、各種測定を行った結果を表4に記載した。
Figure 0007056264000001
Figure 0007056264000002
Figure 0007056264000003
Figure 0007056264000004
Figure 0007056264000005
実施例3は添加剤aの添加量を減少させた点以外は実施例1と同条件である。実施例3は実施例1と比較して前記R相における希土類元素Rに対する重希土類元素HRの割合(αHR/R)が小さく、95%のHk/HcJが取れる温度域が狭くなっている。
実施例4は添加剤の種類を、Dyを含まない添加剤bに変更した点以外は実施例1と同条件である。実施例4は実施例1と比較して前記R相における希土類元素Rに対する重希土類元素HRの割合(αHR/R)が小さく、95%のHk/Hcjが取れる温度域が狭くなっている。
実施例2、5~8および比較例3、4はBの含有量のみを変化させた実施例および比較例である。Bの含有量が所定の範囲内である実施例はR相が確認され、好適な特性が得られた。これに対し、Bの含有量が少なすぎる比較例3では、全ての焼結体でHk/HcJが95%未満となった。また、Bの含有量が多すぎる比較例4では、実施例2、5~8と比較してBrおよびHcJが低下した。
なお、比較例3については、焼結温度1050℃の焼結体を各実施例の「Hk/HcJが95%以上となった焼結体の中で最も焼結温度が高い焼結体」とみなしてR相の存在割合、円相当径の平均、αHR/RおよびβHR/R、BrおよびHcJの測定を行った。
実施例6、9および10は合金におけるDyの含有量および添加剤の組成を変化させた点以外は同条件で試験を行っている。
実施例6と比較して、実施例9および10はαHR/RおよびβHR/Rが低く、実施例10ではαHR/R=βHR/R=0である。さらに、R相の存在割合も実施例6と比較して低くなっている。その結果、実施例9および10は実施例6と比較して「95%のHk/HcJが取れる温度域」が狭くなっている。
実施例7および11は焼結体全体の組成は同一である。しかし、合金に含まれるDyの含有量と添加剤に含まれるDyの含有量とを変化させることで、焼結体全体における希土類元素Rに対する重希土類元素HRの割合βHR/Rのみを大きく変化させている。
αHR/R-βHR/R=30%である実施例7はαHR/R=βHR/Rである実施例11と比較してHcJが高い結果となった。
実施例21~33
実施例2について、合金Aを表6に示す合金A1~A13に変更した点以外は同条件で実施した結果を表7および表8の実施例21~33に示す。
Figure 0007056264000006
Figure 0007056264000007
Figure 0007056264000008
実施例21~33より、主相合金の組成を変化させても、最終的に得られるR-T-B系希土類磁石におけるBの含有量が所定の範囲内であり、かつ、R相を含んでいる場合には、95%のHk/HcJが取れる温度域が広くなり、かつ、HcJが向上した。

Claims (5)

  1. R-T-B系希土類磁石であって、
    Rは一種以上の希土類元素、TはFeまたはFeおよびCoを必須とする一種以上の遷移金属元素、Bはホウ素であり、
    前記R-T-B系希土類磁石全体に対するBの含有量が0.80質量%以上0.98質量%以下であり、
    144相を含み、
    前記R 1 4 4 相の希土類元素Rとして重希土類元素HRが含まれ、前記R 1 4 4 相における希土類元素Rに対する重希土類元素HRの割合をα HR/R (質量%)とする場合に、α HR/R ≧5であることを特徴とするR-T-B系希土類磁石。
  2. 前記R-T-B系希土類磁石における希土類元素Rに対する重希土類元素HRの割合をβHR/R(質量%)とする場合に、
    αHR/R≧βHR/R
    である請求項に記載のR-T-B系希土類磁石。
  3. 磁石表面から磁石内部に向かって前記重希土類元素の濃度勾配を有する請求項1または2に記載のR-T-B系希土類磁石。
  4. 前記R-T-B系希土類磁石の断面における前記R144相の存在割合が1/24.5(個/mm2)以上である請求項1~のいずれかに記載のR-T-B系希土類磁石。
  5. 前記R-T-B系希土類磁石の断面における前記R144相の円相当径の平均が50μm以上である請求項に記載のR-T-B系希土類磁石。


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