JP7360307B2 - 希土類鉄系リング磁石及びその製造方法 - Google Patents

希土類鉄系リング磁石及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、磁気的に等方性の希土類鉄系リング磁石及びその製造方法に関する。
従来、機器の小型化、高性能化に伴い、高磁気特性を有する希土類永久磁石が、モータ等の回転機器、一般家電製品、音響機器、自動車の車載用機器、医療機器及び一般産業機器等の幅広い分野で使用されている。希土類永久磁石として、希土類磁石粉末と樹脂とを混合して成形した磁石、いわゆる希土類ボンド磁石がある。この希土類ボンド磁石は成形の自由度を有しているが、希土類磁石粉末を結合させるバインダーとして有機材料である樹脂を使用しているため、耐熱性が低く、高温環境下となる車載用機器では使用が困難となる場合がある。
これに対して、有機材料である樹脂を用いずに放電プラズマ焼結(SPS:Spark Plasma Sintering)により希土類磁石粉末同士を結合する希土類鉄系永久磁石の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
特許文献1、2の希土類鉄系永久磁石の製造方法では、まず、希土類元素が13~15原子%、Coが0~20原子%、Bが4~11原子%、残部がFe及び不可避不純物からなる薄帯を粉砕して得られる超急冷希土類鉄系薄片をキャビティに充填する。次に、超急冷希土類鉄系薄片の集合体を、所定の減圧下で、所定の圧力で圧縮し、放電プラズマ焼結する。これにより、樹脂を用いずに希土類鉄系薄片同士を結合して希土類鉄系永久磁石を得ることができる。特許文献1、2の製造方法によって得られる希土類鉄系永久磁石は、バインダーとして有機材料である樹脂を使用しないため、希土類ボンド磁石に比べて耐熱性が高いという利点がある。
特開平2-198104号公報 特開平3-284809号公報
しかし、超急冷法によって作製される薄帯を粉砕して得られる超急冷希土類鉄系薄片は、扁平な形状を有しているため、超急冷希土類鉄系薄片である超急冷磁石粉末をキャビティに充填する際、流動性や充填性が低いという問題がある。従って、本発明の目的は、金型に希土類鉄系磁石粉末を充填する際の充填性が改善され、生産性が改善されるとともに、磁気特性に優れる希土類鉄系リング磁石が得られる希土類鉄系リング磁石の製造方法を提供することにある。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法は、(a)超急冷法によって作製された磁気的に等方性の希土類鉄系磁石薄帯を粉砕して、希土類鉄系磁石粉末を得る工程と、(b)上記希土類鉄系磁石粉末と、ポリスチレンとを混合してコンパウンドを作製する工程と、(c)上記コンパウンドを金型に充填し加圧して、グリーン体を成形する工程と、(d)上記グリーン体を複合金型に挿入し、該複合金型を放電プラズマ焼結(SPS)装置にセットし、次いで、減圧下で、上記グリーン体を加圧しながら加熱して、上記グリーン体の脱脂及び焼結を行い、希土類鉄系リング磁石を得る工程と、を含み、上記希土類鉄系磁石粉末は、希土類元素を13at%以上19at%以下の量で含む。
本発明の一態様によれば、金型に希土類鉄系磁石粉末を充填する際の充填性が改善され、生産性が改善されるとともに、磁気特性に優れる希土類鉄系リング磁石が得られる。
図1は、実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法を具体的に説明するための図である。 図2は、ステアリン酸カルシウムの量に対する流動度の変化を示す図である。 図3は、ステアリン酸カルシウムの量に対する平均打撃回数の変化を示す図である。 図4は、磁化曲線を示す図である。 図5は、減磁曲線を示す図である。 図6は、試験温度に対する初期減磁の変化を示す図である。 図7は、希土類元素の量に対する保磁力の比の変化を示す図である。
以下、実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法及び希土類鉄系リング磁石について説明する。
<実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法>
実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法は、後述する工程(a)~(d)を含む。図1は、実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法を具体的に説明するための図である。
工程(a)では、超急冷法によって作製された磁気的に等方性の希土類鉄系磁石薄帯を粉砕して、希土類鉄系磁石粉末を得る。通常、希土類鉄系磁石薄帯を粉砕後、分級して、希土類鉄系磁石粉末を得る。超急冷法によって作製された希土類鉄系磁石粉末は、通常扁平形状であり、53μm以上150μm以下の範囲に分級することが好ましい。なお、得られた希土類鉄系磁石粉末も磁気的に等方性である。
希土類鉄系磁石粉末は、希土類元素として少なくともNdを含むことが好ましく、例えばNd-Fe-B系磁石である。Nd-Fe-B系磁石は、三元系正方晶化合物であるNd2Fe14B型化合物相を主相として含む。また、Nd-Fe-B系磁石は、通常希土類リッチ相(Ndリッチ相)などをさらに含む。Nd-Fe-B系磁石は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
希土類鉄系磁石粉末(具体的にはNd-Fe-B系磁石)には、Nd以外の希土類元素が含まれていてもよい。Nd以外の希土類元素としては、プラセオジム(Pr)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)が挙げられる。Nd以外の希土類元素は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
Nd-Fe-B系磁石において、Feは、一部(通常50原子%未満)がCoで置換されていてもよい。また、Nd-Fe-B系磁石は、その他の元素を含んでいてもよい。その他の元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、銅(Cu)、ガリウム(Ga)が挙げられる。その他の元素は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
希土類鉄系磁石粉末は、希土類元素を13at%以上19at%以下の量で含む。希土類元素の量が多いほど、希土類リッチ相の量も増加する。実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法では、得られた希土類鉄系リング磁石において、工程(b)で混合するポリスチレンに由来する炭素が少量残存する場合がある。しかしながら、希土類リッチ相の量が多い希土類鉄系磁石を用いているため、このような残存炭素に起因する磁気特性の低下を抑制できる。具体的には、希土類元素の量が多いほど、元々の保磁力を高くできるため、残存炭素によって多少保磁力が低下したとしても、十分な保磁力が維持できる。また、希土類元素の量が多いほど、初期減磁、角型比についても同様に、残存炭素による影響が抑えられる。しかしながら、希土類元素の量が19at%を超えると、磁化が低下しすぎたり、保磁力が大きくなりすぎて着磁性が低下したりする場合がある。一方、希土類元素の量が13at%未満であると、焼結時の磁気特性低下が起こる場合があり、残存炭素に起因する磁気特性の低下の抑制が不十分な場合がある。
希土類鉄系磁石粉末は、保磁力が1500kA/m以上であることが好ましい。
工程(b)では、上記希土類鉄系磁石粉末と、ポリスチレンとを混合してコンパウンドを作製する。ポリスチレンは、酸素原子を含まないため、得られた希土類鉄系リング磁石の磁気特性を低下させ難い。工程(b)では、具体的には、ポリスチレンを有機溶媒に溶解して樹脂溶液を作製する。ここで、有機溶媒は、ポリスチレンを溶解でき、また、後述する乾燥の際に蒸発できる溶媒であればよい。有機溶媒としては、メチルエチルケトンが好適に用いられる。希土類鉄系磁石粉末とこの樹脂溶液とを混練する。次いで、混練して得られた混練物を乾燥し、有機溶媒を蒸発させた後、解砕する。解砕して得られた解砕物を分級し、コンパウンドを得る。
工程(b)において、ポリスチレンは、希土類鉄系磁石粉末100wt%に対して、2wt%以下の量で混合することが好ましく、1wt%以上2wt%以下の量で混合することがより好ましい。上記量が2wt%を超えると、工程(d)でカーバイドを生成して、希土類鉄系リング磁石における残存炭素の量が多くなり、磁気特性を低下させすぎる場合がある。また、上記量が1wt%未満であると、工程(c)における充填性の向上が不十分な場合がある。
コンパウンドは、75μm以上355μm以下の範囲に分級することが好ましい。上記範囲に分級すると、工程(c)における充填性をより向上できる。
工程(c)では、上記コンパウンドを金型に充填し加圧して、グリーン体を成形する。コンパウンドは、コンパウンドの作製に用いた磁石粉末単独に比較して流動性が高い。このため、コンパウンドは金型に対して速やかに充填される。すなわち、コンパウンド化により充填性が向上できる。充填時間を短くできることから、希土類鉄系リング磁石の生産性も向上できる。さらに、磁粉による金型への傷も抑制できる。
工程(c)の圧縮成形の際には、コンパウンドが入った金型に対して200MPa以上1000MPa以下の圧力を印加することが好ましい。これにより、コンパウンドの粒子間が密に接触したグリーン体が得られる。また、工程(c)の圧縮成形は、通常室温で行われる。
金型は、上記圧力範囲に耐えられる材質で作製されていればよい。なお、工程(d)で用いる複合金型は、放電プラズマ焼結(SPS)用であるため、上記圧力範囲よりも低い圧力でないと変形、破損する懸念がある。
金型の形状及び大きさは、最終的に作製したい希土類鉄系リング磁石の形状及び大きさを考慮して、好ましい形状(リング状)及び大きさの成形体が得られるように、適宜決めることができる。例えば、完成品仕様から成形体寸法及び重量を決定しておけば加工レスを達成することもできる。すなわち、ネットシェイプ成形の希土類鉄系リング磁石が製造可能となる。また、工程(c)で得られる成形体のサイズは、工程(d)で用いる複合金型の寸法より若干小さくしておくことが好ましい。これにより、複合金型への投入が容易になる利点がある。
最終的に例えば厚さが0.8mm以上2.5mm以下であるような薄い希土類鉄系リング磁石を作製する場合は、工程(c)においても、金型にコンパウンドを薄く充填する必要がある。この場合であっても、本実施形態では、予めコンパウンド化しているため充填性に優れる。一方、磁石粉末単独では、より慎重に時間をかけて充填を行う必要が生じ煩雑である。
工程(d)では、上記グリーン体を複合金型に挿入し、該複合金型を放電プラズマ焼結(SPS)装置にセットし、次いで、減圧下で、上記グリーン体を加圧しながら加熱して、上記グリーン体の脱脂及び焼結を行い、希土類鉄系リング磁石を得る。このように、室温からの加熱に伴い、脱脂及び焼結を連続して行って希土類鉄系リング磁石(バルク体)を得る。
本実施形態では、予め成形体としてから放電プラズマ焼結(SPS)を行うため、複合金型への磁粉充填が簡便である。また、予め成形体としてから放電プラズマ焼結(SPS)を行うため、加熱効率が向上され、焼結時間を短くでき、また、焼結温度を下げられる。これにより、得られる希土類鉄系リング磁石において、保磁力や角型性などの磁気特性の低下を抑制できる。また、従来のように、磁石粉末をそのままの状態で用いて放電プラズマ焼結(SPS)を行うと、磁石粉末の疎密によるイレギュラーな電流経路が生ずる場合がある。それにより、局所的な粗大粒が発生し、初期減磁が低下するなど、磁気特性がばらつく場合がある。これに対して、本実施形態では、予め成形体としてから放電プラズマ焼結(SPS)を行うため、磁気特性がばらつき難く、品質が改善できる。また、予め成形体としてから放電プラズマ焼結(SPS)を行うため、金型高さや焼結装置チャンバ内高さを必要最小限にできる。
さらに、本実施形態では、工程(d)後に行う希土類鉄系リング磁石の型抜きが容易に行える。厚さが薄い希土類鉄系リング磁石であっても、同様である。これは、工程(d)の脱脂中にグリーン体から抜けていく炭素が離型剤の役割を果たすためと考えられる。また、複合金型には、グリーン体の挿入前に離型処理行ってもよいが、上記のように型抜きが容易であるため、離型剤の量を減らすことができる。また、上記のように型抜きが容易であるため、金型が汚れ難く、清掃の手間も抑えられ、結果として金型寿命も向上する。
なお、グリーン体は、リング状であるため、円柱状に比べて、脱脂の際に炭素が抜けていきやすく、希土類鉄系リング磁石における残存炭素の量を小さくできる。
工程(d)では、具体的には、複合金型を放電プラズマ焼結(SPS)装置にセットした後、グリーン体に対してON-OFF直流パルス通電を行う。電流密度は、たとえば250A/cm以上1200A/cm以下に設定する。
加熱は、グリーン体の脱脂が行われ、かつNd-Fe-B系磁石が液相を形成できる温度まで行われればよく、たとえば室温から600℃以上750℃以下の到達温度まで加熱することが好ましい。上記到達温度での保持時間は、結晶粒の成長を抑制するために5分以内とすることが望ましい。
工程(d)では、グリーン体を加圧しながら加熱するが、グリーン体が入った複合金型に対して1MPa以上200MPa以下の圧力を印加しながら加熱することが好ましい。また、加熱は、10-3Pa以上101Pa以下の減圧下で行うことが好ましい。
加熱して得られた希土類鉄系リング磁石は、通常室温又は取り出し可能な温度域まで冷却する。冷却は、圧力を印加しながら行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
複合金型としては、セラミックスと超硬合金とを組み合わせた複合金型(温間成形金型)が好適に用いられる。
さらに、工程(d)で得られた希土類鉄系リング磁石に着磁する着磁工程を行ってもよい。着磁工程は、公知の方法により行うことができる。なお、必要に応じて、工程(d)で得られた希土類鉄系リング磁石に表面処理(防錆処理)を施す表面処理工程を行い、次いで、表面処理後の希土類鉄系リング磁石を着磁する着磁工程を行ってもよい。表面処理工程では、例えばニッケル(Ni)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)などのめっき処理、アルミ(Al)蒸着、及び樹脂塗装などの表面処理を実施する。
<その他の実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法>
上記工程(b)は、上記希土類鉄系磁石粉末と、ポリスチレンと、さらに滑剤とを混合してコンパウンドを作製する工程であってもよく、上記工程(b)において、上記滑剤は、上記希土類鉄系磁石粉末及びポリスチレンの合計100wt%に対して、0.2wt%以下の量で混合してもよい。また、上記滑剤は、上記希土類鉄系磁石粉末及びポリスチレンの合計100wt%に対して、0.05wt%以上0.2wt%以下の量で混合することがより好ましい。滑剤を用いると、工程(c)における充填性をさらに向上できる。上記量が0.2wt%を超えると、工程(d)でカーバイドを生成して、希土類鉄系リング磁石における残存炭素の量が多くなり、磁気特性の低下や、強度の低下を引き起こす場合がある。また、上記量が0.05wt%未満であると、工程(c)におけるさらなる充填性の向上が不十分な場合がある。
具体的には、図1の工程(b)の分級の後に滑剤を混合する。すなわち、分級したコンパウンドに、さらに滑剤を混合する。この場合、工程(c)では、滑剤を混合したコンパウンドを金型に充填し加圧して、グリーン体を成形する。滑剤としては、ステアリン酸カルシウムが好適に用いられる。
<実施形態に係る希土類鉄系リング磁石>
実施形態に係る希土類鉄系リング磁石は、希土類鉄系磁石粉末を放電プラズマ焼結した希土類鉄系リング磁石であって、上記希土類鉄系磁石粉末は、磁気的に等方性の超急冷粉であり、希土類元素を13at%以上19at%以下の量で含み、保磁力が1500kA/m以上である。また、上記希土類鉄系リング磁石は、炭素量が2000ppm以下であり、平均結晶粒径が200nm未満である。ここで、平均結晶粒径は、SEMやTEMで磁石組織を観察しその画像から個々の結晶粒径を求め、その平均値である。
上記希土類鉄系磁石粉末は、例えば上記希土類元素として少なくともNdを含むことが好ましい。上記希土類鉄系磁石粉末の詳細については、実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法で述べたものと同様である。
実施形態に係る希土類鉄系リング磁石は、含有する炭素量が抑えられているため、磁気特性にも優れる。
実施形態に係る希土類鉄系リング磁石は、厚さが薄くてもよく、例えば厚さが0.8mm以上2.5mm以下の範囲にある。厚さが薄い方が脱脂しやすい。また、外径は、例えば10mm以上50mm以下の範囲にある。実施形態に係る希土類鉄系リング磁石は、保磁力が例えば1200kA/m以上1800kA/m以下である。
このような希土類鉄系リング磁石は、例えば、上述した実施形態に係る希土類鉄系リング磁石の製造方法により得られる。
ところで、特開2013-191612号公報には、粉砕された磁石粉末とバインダーとを混合することによりコンパウンドを生成し、生成したコンパウンドをシート状に成形してグリーンシートを作製し、このグリーンシートをバインダー分解温度で仮焼処理を行い、続いてグリーンシートを放電プラズマ焼結(SPS)することにより希土類永久磁石を得る製造方法が提案されている。
特開2013-191612号公報の希土類永久磁石は、Nd-Fe-B系の異方性磁石粉末で、Ndが27~40wt%、Bが0.8~2wt%、Feが60~70wt%からなる。そして、磁石粉末にバインダーを混合してコンパウンドを作製する。バインダーの添加量は、磁石粉末及びバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%~40wt%、より好ましくは2wt%~30wt%、更に好ましくは3wt%~20wt%である。続いて、コンパウンドをシート状に成形してグリーンシートを成形し、グリーンシートをバインダーのガラス転移点又は融点以上に加熱してグリーンシートを軟化させ、磁場を印加して磁場配向を行い、グリーンシートに含まれる磁石の磁化容易軸を所定方向に配向する。そして磁場配向したグリーンシートを所望の形状に打ち抜きし、成形体を成形する。続いて成形体を非酸化性雰囲気(例えば、水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気)において仮焼処理を行い、バインダーを分解して脱脂する。そして、仮焼処理した成形体を放電プラズマ焼結(SPS)して希土類永久磁石を得る。
特開2013-191612号公報の希土類永久磁石の製造方法は、成形したグリーンシートに磁場配向してグリーンシートに含まれる磁石の磁化容易軸を所定方向に配向するため、バインダーの比率が高い(更に好ましくは3wt%~20wt%である)。このため、バインダーを分解する脱脂処理工程に時間を要する。
また、磁場配向したグリーンシートを所望の形状に打ち抜きした成形体を成形する。この成形体を非酸化性雰囲気(例えば、水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気)において仮焼処理を行い、バインダーを分解して脱脂するが、水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気において行う必要があり、このような水素を用いた仮焼処理は、安全上、十分な注意が必要であり、そのための設備も必要になる。
なお、特開2013-191612号公報の磁粉は異方性の磁石で、磁石合金のインゴットをスタンプミルやクラッシャー等によって粗粉砕する。若しくは、インゴットを溶解し、ストリップキャスト法でフレークを作製し、水素解砕法で粗粉砕することで、粗粉砕磁石粉末を得ている。これに対して、本実施形態では、磁石粉末は、超急冷法によって作製された磁気的に等方性の超急冷粉を用いるため、放電プラズマ焼結(SPS)によって作製された両者の磁石の平均結晶粒径が異なる。特開2013-191612号公報の磁粉は、インゴットを溶解し、ストリップキャスト法でフレークを作製しているため、超急冷粉に比べて冷却速度が遅いため、磁粉の平均結晶粒径は大きくなり、結果、放電プラズマ焼結(SPS)によって作製された磁石の平均結晶粒径も大きくなる。
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
[実施例]
[実施例1-1]
自由粉砕機(形式M-2、株式会社奈良機械製作所製)を用いて、Nd-Fe-B系磁石粉末(希土類元素の量:13.8at%、保磁力:1500kA/m以上、超急冷粉)を粉砕し、53μm~150μmの範囲に分級した。
分級した上記磁石粉末200gに、予め、メチルエチルケトン(MEK)20gに溶解したポリスチレン4gを加え、ドラフトチャンバー内で排気を行いながら、ラボミルで15分間混錬し混練物を得た。
上記混練物を80℃に加熱したオーブンに投入し、30分間乾燥させ、MEKを揮発させた。MEKを揮発させた粉末を乳鉢で解砕し、乾式ふるいにて75μm~355μmに分級し、コンパウンドを得た。
厚さが16.2mm、外径が12mmであるリング状の金型に上記コンパウンドを充填し、500MPaの圧力を印加して粉末圧縮成型を行い、グリーン体を成型した。成形したグリーン体をセラミックスと超硬合金とを組み合わせた複合金型に挿入し、放電プラズマ焼結(SPS)装置にて、ロータリーポンプで10-3Torr程度まで真空引きしながら、減圧下でパルス通電焼結を行った。具体的には、120MPaの圧力を印加しながら、室温から700℃付近まで昇温して加熱することにより、脱脂及び焼結を行った。
冷却後、離型し、希土類鉄系リング磁石を得た。
[実施例1-2]
実施例1-1と同様に作製したコンパウンド200gに、ステアリン酸カルシウムの粉末を0.1g加え、乳鉢で混合し、コンパウンドを得た。
[実施例1-3]
実施例1-1と同様に作製したコンパウンド200gに、ステアリン酸カルシウムの粉末を0.4g加え、乳鉢で混合し、コンパウンドを得た。
[比較例1-1]
自由粉砕機(形式M-2、株式会社奈良機械製作所製)を用いて、Nd-Fe-B系磁石粉末(希土類元素の量:13.8at%、保磁力:1500kA/m以上、超急冷粉)を粉砕し、53μm~150μmの範囲に分級した。上記磁石粉末をコンパウンド化せずそのまま用いた。
[比較例1-2]
自由粉砕機(形式M-2、株式会社奈良機械製作所製)を用いて、Nd-Fe-B系磁石粉末(希土類元素の量:13.8at%、保磁力:1500kA/m以上、超急冷粉)を粉砕し、53μm~150μmの範囲に分級した。
分級した上記磁石粉末200gに、予め、メチルエチルケトン(MEK)20gに溶解した酢酸セルロース4gを加え、ドラフトチャンバー内で排気を行いながら、ラボミルで15分間混錬し混練物を得た。
上記混練物を80℃に加熱したオーブンに投入し、30分間乾燥させ、MEKを揮発させた。MEKを揮発させた粉末を乳鉢で解砕し、乾式ふるいにて75μm~355μmに分級し、コンパウンドを得た。
上記コンパウンドを用いた他は、実施例1-1と同様にして、希土類鉄系リング磁石を得た。
[比較例1-3]
比較例1-2と同様に作製したコンパウンド200gに、ステアリン酸カルシウムの粉末を0.1g加え、乳鉢で混合し、コンパウンドを得た。
[比較例1-4]
比較例1-2と同様に作製したコンパウンド200gに、ステアリン酸カルシウムの粉末を0.4g加え、乳鉢で混合し、コンパウンドを得た。
[比較例1-5]
上記磁石粉末200gに、予め、MEK5gに溶解した酢酸セルロース1gを加えた以外は、比較例1-2と同様にして、コンパウンドを得た。
上記コンパウンドを用いた他は、実施例1-1と同様にして、希土類鉄系リング磁石を得た。
[比較例1-6]
比較例1-5と同様に作製したコンパウンド200gに、ステアリン酸カルシウムの粉末を0.1g加え、乳鉢で混合し、コンパウンドを得た。
[比較例1-7]
比較例1-5と同様に作製したコンパウンド200gに、ステアリン酸カルシウムの粉末を0.4g加え、乳鉢で混合し、コンパウンドを得た。
<充填性(流動度)>
上記手順で作製したコンパウンドに対し、JISZ-2502に基づき、オリフィス径Φ2.5mmで流動度を測定した。表1に結果を示す。
Figure 0007360307000001
表1の結果の各平均値をグラフにしたものが図2、図3である。すなわち、図2は、ステアリン酸カルシウムの量に対する流動度の変化を示す図である。また、図3は、ステアリン酸カルシウムの量に対する平均打撃回数の変化を示す図である。
磁石粉末のみではブリッジが解けず計測不能なのに対し、コンパウンド化したものは、打撃によりブリッジが解け流動度が測定できる。また、ステアリン酸カルシウムを混合する量を増やすことで、ブリッジの発生が抑制され、流動度が向上していることが分かる。
また、作製したコンパウンドを外径16mm、内径11.92mm、高さ40mmのリング状の型に充填し、38kNで加圧した結果、リング状のグリーン体を得ることができた。これは外径16.2mm、内径12mm、高さ40mmの加圧焼結用の型に容易に挿入できた。
<磁気特性>
実施例1-1、比較例1-2、1-5で作製した希土類鉄系リング磁石について、相対密度及び磁気特性を測定した。表2に結果を示す。また、図4は、磁化曲線を示す図である。なお、磁化曲線は、B-Hカーブトレーサーで測定した。
Figure 0007360307000002
酢酸セルロースをバインダーに用いた場合、比較例1-2のように2wt%も入れれば、大きく磁気特性を損ない、ヘビ型の磁化曲線となり、実用に値しない。0.5wt%に添加量を抑えた比較例1-5の場合は磁気特性の低下が抑えられているが、0.5wt%のバインダー量ではグリーン体の強度が十分ではない。分子構造中に酸素を含まない樹脂であるポリスチレンをバインダーに用いた実施例1-1では、2wt%を加えているにも関わらず比較例1-5よりも良好な磁気特性が得られている。
[実施例2-1]
Nd-Fe-B系磁石粉末(希土類元素の量:14.5at%、保磁力:1500kA/m以上、超急冷粉)を用いた他は、実施例1-1と同様にして、コンパウンド及び希土類鉄系リング磁石を得た。
[実施例2-2]
Nd-Fe-B系磁石粉末(希土類元素の量:19.0at%、添加元素(Nb、Cu、Ga)の量:各0.5at%、保磁力:1500kA/m以上、超急冷粉)を用いた他は、実施例1-1と同様にして、コンパウンド及び希土類鉄系リング磁石を得た。
[比較例2-1]
Nd-Fe-B系磁石粉末(希土類元素の量:12.8at%、保磁力:1500kA/m以上、超急冷粉)を用いた他は、実施例1-1と同様にして、コンパウンド及び希土類鉄系リング磁石を得た。
<磁気特性>
上記手順で作製した希土類鉄系リング磁石について、磁気特性を測定した。図5は、減磁曲線を示す図である。図6は、試験温度に対する初期減磁の変化を示す図である。また、図7は、希土類元素の量に対する保磁力の比の変化を示す図である。なお、初期減磁は、120℃で1時間の環境に曝す前後で磁束量を測定し、試験温度暴露前の磁束量を100として何%減磁したかを計算している。また、150℃、180℃及び200℃においても同様に測定した。
図5より、希土類量の最も少ない比較例2-1は保磁力が大きく低下しているが、希土類量が多い実施例1-1、2-1、2-2は、ポリスチレンを2wt%混合しても保磁力をある程度維持していることがわかる。特に、実施例2-2に関しては、ポリスチレンを2wt%混合しているが、保磁力の低下は10%程度しかない。また、異物混入にもかかわらず、いずれの実施例1-1、2-1、2-2も角型性を維持している。
図6より、初期減磁は保磁力の最も大きい実施例2-2が一番小さく、磁石粉末のみの場合の初期減磁より1%程度しか増加していない。200℃における初期減磁も5%以下になっており、高い耐熱性を有している。実施例1-1及び実施例2-1の初期減磁は、磁石粉末のみの場合の場合より約10%程度増加しており、実施例2-2と比較すると差が大きい。さらに、最も希土類量の少なく、保磁力の最も小さい比較例2-1においては、初期減磁が最も大きく、30%を超えている。異物の混入によって保磁力が小さくなりすぎていることが原因である。
図7は、HcJ ratioの希土類量依存性を示している。ここで、HcJ ratioは、磁石粉末のみを焼結したときの保磁力に対する、ポリスチレンを2wt%混合して焼結したときの保磁力の比である。図7から、希土類量が増えることで、HcJ ratioが大きくなり、保磁力の低下が抑制されていることがわかる。希土類量が15at%以上では、HcJ ratioが0.6以上となる。また、希土類量が15at%以上では元の保磁力も大きくなるため、低下後の保磁力も十分な大きさが保たれる。
以上より、希土類量を多くすることで、異物混入時の影響を緩和することができ、磁気特性の低下を抑制することができる。また、希土類量の増加により、焼結性の改善も見られる。換言すれば、焼結条件がラフになる、及び異物の混入をある程度許容できることで、磁石粉末のみという前提を変えられるため、希土類磁石の生産性が向上する。
<炭素量、平均結晶粒径>
実施例で得られた希土類鉄系リング磁石について、炭素量及び平均結晶粒径を測定した。いずれの希土類鉄系リング磁石も、炭素量は2000ppm以下であり、平均結晶粒径は200nm未満であった。なお、炭素量は、CSアナライザーを用いて燃焼法により測定した。

Claims (5)

  1. (a)超急冷法によって作製された磁気的に等方性の希土類鉄系磁石薄帯を粉砕して、希土類鉄系磁石粉末を得る工程と、
    (b)前記希土類鉄系磁石粉末と、ポリスチレンとを混合してコンパウンドを作製する工程と、
    (c)前記コンパウンドを金型に充填し加圧して、グリーン体を成形する工程と、
    (d)前記グリーン体を複合金型に挿入し、該複合金型を放電プラズマ焼結(SPS)装置にセットし、次いで、減圧下で、前記グリーン体を加圧しながら加熱して、前記グリーン体の脱脂及び焼結を行い、希土類鉄系リング磁石を得る工程と、を含み、
    前記希土類鉄系磁石粉末は、希土類元素を13at%以上19at%以下の量で含む、
    希土類鉄系リング磁石の製造方法。
  2. 前記工程(b)において、作製された前記コンパウンドは、75μm以上355μm以下の範囲に分級され、前記工程(c)において、前記工程(b)で分級されたコンパウンドを金型に充填する、
    請求項1に記載の希土類鉄系リング磁石の製造方法。
  3. 前記希土類鉄系磁石粉末は、前記希土類元素として少なくともNdを含む、
    請求項1又は2に記載の希土類鉄系リング磁石の製造方法。
  4. 前記工程(b)において、前記ポリスチレンは、前記希土類鉄系磁石粉末100wt%に対して、2wt%以下の量で混合する、
    請求項1~3のいずれか1項に記載の希土類鉄系リング磁石の製造方法。
  5. 前記工程(b)は、前記希土類鉄系磁石粉末と、前記ポリスチレンと、さらに滑剤とを混合してコンパウンドを作製する工程であり、
    前記工程(b)において、前記滑剤は、前記希土類鉄系磁石粉末及び前記ポリスチレンの合計100wt%に対して、0.2wt%以下の量で混合する、
    請求項のいずれか1項に記載の希土類鉄系リング磁石の製造方法。
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