JP7042199B2 - 鋼板用洗浄剤組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、鋼板用洗浄剤組成物、当該洗浄剤組成物を用いた鋼板の洗浄方法、及び当該洗浄方法を製造工程に含む鋼板の製造方法に関する。
鋼板の洗浄は、鋼板表面のメッキや塗装等の表面処理を行う前処理として必要であり、製品の良否を決定づける非常に大きな因子である。鋼板表面に付着している汚れとしては、冷間圧延時に付着する圧延油、防錆油などの油汚れ等が挙げられる。近年の鋼板の冷間圧延においては、ミル清浄性や生産性向上に適した圧延油が用いられるようになり、当該圧延油に対する優れた洗浄性が求められている。
さらに、環境意識の高まりによって炭酸ガス排出の削減が求められているが、それは鉄鋼の生産においても例外ではない。そのため、炭酸ガス排出につながるエネルギーコストを抑制するために、鋼板の洗浄において、従来の70~90℃での洗浄温度に対して、より低温でも優れた洗浄性を発揮する洗浄剤の開発が試みられている。
また、高い生産性を得るために、鋼板の洗浄は、圧延工程を経た一定の長さの鋼帯を洗浄設備の入り口で溶接し、鋼帯を開放しながら高速で洗浄装置を通過させて連続的に洗浄を行う方法が用いられる。そのため、一般的な洗浄装置は「浸漬洗浄→電解洗浄→ブラシ洗浄→リンス→乾燥」といった洗浄工程を有する。特に電解洗浄は鋼板表面における水の電気分解を利用した高度な洗浄方法であって、仕上げ洗浄という位置づけであり、高品質な鋼板を得るために、洗浄剤中には可能な限り汚れの蓄積が少ない状態で繰り返し洗浄できることが望まれている。従って、電解洗浄よりも前の工程で汚れを効率的に除去できることが好ましく、洗浄剤には浸漬洗浄のような低物理力における高い洗浄性が望まれている。
このような背景で様々な鋼板用洗浄剤が開発されてきた。例えば、特許文献1には、洗浄工程とバッチ式焼鈍を含む鋼帯の製造工程において、高い洗浄性とバッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度を低減できる、珪酸塩(a)0.1~26重量%、特定の両性界面活性剤(b)0.15~15重量%、炭素数4~24のアルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる一種以上の非イオン界面活性剤(c)、特定のカルボン酸系化合物から選ばれる一種以上の化合物(d)、及び水を含有し、(b)+(c)の合計量、(b)/(c)重量比が、それぞれ特定範囲にあるバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物が記載されている。
特許文献2には、鋼板表面に付着した磨耗粉や埃などの付着物を同時に除去できる、(A-1)炭素数10から18の直鎖又は分岐鎖のアルキルを有する陰イオン界面活性剤あるいは(A-2)炭素数10から18の直鎖又は分岐鎖のアルキルを有する両性界面活性剤、(A-3)炭素数10から18の直鎖又は分岐鎖のアルキルを有する非イオン界面活性剤の中から少なくとも2種以上含有し、(B)グリコール溶剤を含有する事からなる洗浄剤組成物が記載されている。
特許文献3には、洗浄力に優れ、鋼板を低温で高速洗浄可能な、アルカリ剤と、R-O-(CHCHO)nH(式中、Rは炭素数5~12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、nはオキシエチレン基の平均付加モル数を表し、Rが炭素数5~10である場合にはnは1~20、Rが炭素数11~12の場合にはnは6~20である)に示すポリオキシエチレンアルキルエーテルの少なくとも1種とを含むことを特徴とする鋼板用アルカリ洗浄剤組成物が記載されている。
特開2009-57464号公報 特開2009-203436号公報 特開平10-280179号公報
しかしながら、特許文献1~3に記載の洗浄剤組成物は、低温かつ低物理力では洗浄性が不足し、鋼板品質を低下させてしまうという問題がある。当該問題に対し、ライン速度を遅くし洗浄することも考えられるが、生産性が低下してしまう。
本発明は、低温かつ低物理力で良好な洗浄性を維持できる鋼板用洗浄剤組成物、並びに当該鋼板用洗浄剤組成物を用いた鋼板の洗浄方法、及び当該洗浄方法を製造工程に含む鋼板の製造方法を提供する。
本発明は、アルカリ剤(成分A)、グルコン酸又はその塩(成分B)、下記式(1)に示す化合物(成分C)、下記式(2)に示すアミンオキサイド(成分D)及び水(成分E)を含有する、鋼板用洗浄剤組成物である。
-O-(EO)n-H (1)
(式(1)において、Rは炭素数6の炭化水素基、EOはエチレンオキシ基であり、nはEOの付加モル数であり、nは1以上3以下の整数である。)
Figure 0007042199000001
(式(2)において、Rは直鎖又は分岐鎖の炭素数8以上18以下のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
本発明は、前記鋼板用洗浄剤組成物を用いて鋼板を洗浄する洗浄工程を含む、鋼板の洗浄方法である。
本発明は、前記鋼板用洗浄剤組成物を用いて鋼板を洗浄する洗浄工程を含む、鋼板の製造方法である。
本発明によれば、低温かつ低物理力で良好な洗浄性を維持できる鋼板用洗浄剤組成物、並びに当該鋼板用洗浄剤組成物を用いた鋼板の洗浄方法、及び当該洗浄方法を製造工程に含む鋼板の製造方法を提供することができる。
<鋼板用洗浄剤組成物>
本実施形態の鋼板用洗浄剤組成物(以下、単に「洗浄剤組成物」ともいう)は、アルカリ剤(成分A)、グルコン酸又はその塩(成分B)、下記式(1)に示す化合物(成分C)、下記式(2)に示すアミンオキサイド(成分D)及び水(成分E)を含有する。
-O-(EO)n-H (1)
(式(1)において、Rは炭素数6の炭化水素基、EOはエチレンオキシ基であり、nはEOの付加モル数であり、nは1以上3以下の整数である。)
Figure 0007042199000002

(式(2)において、Rは直鎖又は分岐鎖の炭素数8以上18以下のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
本実施形態の鋼板用洗浄剤組成物によれば、低温かつ低物理力で良好な洗浄性を維持できる。本実施形態の効果の発現機構は定かではないが、以下のように考えられる。
温度が低いために流動性が低下した圧延油や防錆油などの油汚れに式(1)に示す化合物及びアミンオキサイドが浸透し、洗浄剤組成物との接触面積を増加させ、アルカリ剤及びグルコン酸又はその塩を効率的に油に作用させることができ、油汚れを親水化することにより、圧延油や防錆油などの油汚れを鋼板表面から除去できると推定される。
〔アルカリ剤(成分A)〕
前記成分Aは、洗浄性を確保するため、水溶性のアルカリ剤であればいずれのものも使用できるが、中でも無機アルカリ剤が好ましい。無機アルカリ剤の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、オルソ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、セスキ珪酸ナトリウム等のアルカリ金属の珪酸塩、リン酸三ナトリウム等のアルカリ金属のリン酸塩、炭酸二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸二カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、ホウ酸ナトリウム等のアルカリ金属のホウ酸塩等を用いることができる。二種以上の水溶性アルカリ剤を組み合わせてもよい。有機汚れの除去性を確保し洗浄性を高める観点から、アルカリ金属の水酸化物及びアルカリ金属の珪酸塩が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、オルソ珪酸ナトリウム及びメタ珪酸ナトリウムがより好ましく、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムがさらに好ましい。洗浄後にバッチ焼鈍を行う場合には、焼鈍時に鋼板間の密着を防止する観点から、オルソ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、セスキ珪酸ナトリウム等のアルカリ金属の珪酸塩を用いることが好ましいが、鋼板表面にメッキ等の表面処理を行う場合には、表面処理性向上の観点から、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムを用いることが好ましい。
前記成分Aの含有量は、洗浄性の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、1.0質量%以上がよりさらに好ましく、同様の観点から、6.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下がさらに好ましく、3.5質量%以下がよりさらに好ましく、3.0質量%以下がよりさらに好ましい。
〔グルコン酸又はその塩(成分B)〕
前記成分Bとしては、洗浄性を確保するため、グルコン酸又はその塩であればいずれのものも使用できるが、以下の具体例が好ましい。前記成分Bの具体例としては、グルコン酸、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸リチウム、グルコン酸カルシウム、グルコン酸マグネシウム、グルコン酸アンモニウム、グルコン酸モノエタノールアミン塩、グルコン酸ジエタノールアミン塩、グルコン酸トリエタノールアミン塩を用いることができる。これらの中でも、有機汚れの洗浄性の観点から、グルコン酸ナトリウム又はグルコン酸カリウムが好ましく、グルコン酸ナトリウムがより好ましい。前記成分Bは少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記成分Bの含有量は、洗浄性の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましく、排水処理負荷低減の観点から、2.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましく、0.5質量%以下がよりさらに好ましく、0.3質量%以下がよりさらに好ましい。なお、前記成分Bの含有量は、各種塩の形態を考慮して、酸の形態で換算した値である。
〔式(1)に示す化合物(成分C)〕
前記成分Cとしては、下記式(1)に示す化合物であればいずれのものも使用できる。
-O-(EO)n-H (1)
(式(1)において、Rは炭素数6の炭化水素基、EOはエチレンオキシ基であり、nはEOの付加モル数であり、nは1以上3以下の整数である。)
前記式(1)で示される化合物において、Rは炭素数6の炭化水素基であり、有機汚れの洗浄性の観点から、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基又はフェニル基が好ましく、n-ヘキシル基又はフェニル基がより好ましく、n-ヘキシル基がさらに好ましい。
前記式(1)で示される化合物において、EOはエチレンオキシ基である。エチレンオキシ基の付加モル数nは、有機汚れの洗浄性の観点から、1以上3以下であり、1又は2が好ましい。
成分Cとしては、有機汚れに対する洗浄性の観点から、以下の具体例が好ましい。前記成分Cの具体例としては、n-ヘキシルグリコール、n-ヘキシルジグリコール、n-ヘキシルトリグリコール、イソヘキシルグリコール、イソヘキシルジグリコール、イソヘキシルトリグリコール、フェニルグリコール、フェニルジグリコール、フェニルトリグリコール、シクロヘキシルグリコール、シクロヘキシルジグリコール及びシクロヘキシルトリグリコールを用いることができる。これらの中でも、同様の観点から、n-ヘキシルグリコール、n-ヘキシルジグリコール、n-ヘキシルトリグリコール、フェニルグリコール、フェニルジグリコール及びフェニルトリグリコールが好ましく、n-ヘキシルグリコール、n-ヘキシルジグリコール、フェニルグリコール及びフェニルジグリコールがより好ましく、n-ヘキシルグリコール及びn-ヘキシルジグリコールがさらに好ましく、n-ヘキシルジグリコールがよりさらに好ましい。前記成分Cは少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記成分Cの含有量は、洗浄性の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましく、0.4質量%以上がよりさらに好ましく、排水処理負荷低減の観点から、2.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましく、0.7質量%以下がさらに好ましく、0.5質量%以下がよりさらに好ましい。
<アミンオキサイド(成分D)>
前記成分Dは、洗浄性を確保するため、下記式(2)に示すアミンオキサイドであればいずれのものも使用できる。
Figure 0007042199000003
(式(2)において、Rは直鎖又は分岐鎖の炭素数8以上18以下のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
前記式(2)で示されるアミンオキサイドにおいて、Rは炭素数8以上18以下のアルキル基又はアルケニル基であり、有機汚れの洗浄性の観点から、アルキル基が好ましい。同様の観点から、炭素数8以上であって、10以上が好ましく、12以上がより好ましく、18以下であって、16以下が好ましく、14以下がより好ましい。前記成分Dの具体例としては、オクチルジメチルアミンオキサイド、2-エチルへキシルジメチルアミンオキサイド、デシルジメチルアミンオキサイド、ラウリルジメチルアミンオキサイド、トリデシルジメチルアミンオキサイド、ミリスチルジメチルアミンオキサイド、パルミチルジメチルアミンオキサイド、ステアリルジメチルアミンオキサイド、オレイルジメチルアミンオキサイド等を用いることができる。洗浄性の観点から、デシルジメチルアミンオキサイド、ラウリルジメチルアミンオキサイド、トリデシルジメチルアミンオキサイド、ミリスチルジメチルアミンオキサイドが好ましく、ラウリルジメチルアミンオキサイド、トリデシルジメチルアミンオキサイド、ミリスチルジメチルアミンオキサイドがより好ましく、ラウリルジメチルアミンオキサイドがさらに好ましい。前記成分Dは少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記成分Dの含有量は、洗浄性の観点から、0.03質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.10質量%以上がさらに好ましく、0.15質量%以上がよりさらに好ましく、排水処理負荷低減の観点から、1.0質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましく、0.4質量%以下がよりさらに好ましい。
前記成分Cと前記成分Dの質量比(前記成分Cの質量/前記成分Dの質量)は、洗浄性の観点から、0.1以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましく、1.0以上がよりさらに好ましく、同様の観点から、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましく、5以下がよりさらに好ましい。
本発明の一実施形態において、前記成分Aは無機アルカリ剤であり、前記成分Bはグルコン酸の塩から選ばれる少なくとも1種であり、前記成分Cは前記式(1)に示す化合物であり、前記成分Dは前記式(2)に示すアミンオキサイドから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また、前記成分Aは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種であり、前記成分Bはグルコン酸の塩から選ばれる少なくとも1種であり、前記成分Cは前記式(1)に示す化合物であり、前記成分Dは前記式(2)に示すアミンオキサイドから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、前記成分Aは水酸化ナトリウムであり、前記成分Bはグルコン酸ナトリウムであり、前記成分Cは前記式(1)で示される化合物であり、前記成分Dは前記式(2)に示すアミンオキサイドから選ばれる少なくとも1種であることがさらに好ましい。
〔水(成分E)〕
前記成分Eは、工業用水、水道水及び脱イオン水等を用いることができ、供給性及びコストの観点から、工業用水が好ましく、洗浄性の観点から、イオン交換水が好ましい。
前記成分Eの含有量は、90質量%以上が好ましく、99質量%以下が好ましい。本実施形態の鋼板用洗浄剤組成物が前記成分A~D以外の成分を含まない場合、鋼板用洗浄剤組成物中の水の含有量は、前記成分A~Dの残部である。
〔その他の成分〕
本実施形態の洗浄剤組成物は、洗浄剤として一般に使用される前記成分A~E以外の成分を、性能に影響のない範囲で含有してもよい。前記成分A~E以外の成分の例としては、可溶化剤、分散剤、増粘剤等の濃縮化剤、消泡剤、腐食防止剤、防錆剤、着色剤などが挙げられる。本実施形態の洗浄剤組成物は、濃縮液あるいは各成分個別にあるいは2以上のキットに分けて、使用時に水等の媒体で希釈することで調製できる。輸送費用、保管費用、濃度管理の観点で、濃縮液あるいは濃縮紛体であることが好ましく、可溶化した透明一液型、あるいは一部の成分を分散したスラリー型など、作業性の観点から、液状であることがより好ましい。濃縮液は、5~100倍に濃縮したものが好ましく、保管安定性及び経済性の観点から、10~30倍がより好ましい。
前記成分A~E以外の成分の含有量は、性能に影響のない範囲内で、5.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましく、0.5質量%以下がよりさらに好ましい。
<鋼板の洗浄方法>
本実施形態の鋼板の洗浄方法は、前記洗浄剤組成物を、アルカリ度(NaO%)として、0.7%以上2.5%以下になるように成分Eで希釈して鋼板を洗浄する洗浄工程を有する。鋼板洗浄時の前記洗浄剤組成物のアルカリ度は、洗浄性向上の観点から、0.7%以上が好ましく、1.0%以上がより好ましく、1.2%以上がさらに好ましく、1.5%以上がよりさらに好ましく、同様の観点から、2.5%以下が好ましく、2.4%以下がより好ましく、2.3%以下がさらに好ましい。本明細書において、アルカリ度は実施例に記載の方法により測定する。
<鋼板の製造方法>
本実施形態の鋼板用洗浄剤は、例えば、鋼板を圧延油の存在下で冷間圧延する圧延工程と、圧延された鋼板に付着する圧延油を洗浄剤により洗浄する洗浄工程を含む冷間圧延鋼板の製造方法における、前記洗浄工程において、アルカリ洗浄剤として用いることができる。即ち、本実施形態の鋼板の製造方法は、前記鋼板用洗浄剤組成物を用いて鋼板を洗浄する洗浄工程を含む以外は、従来と同様の方法を採用することができる。前記冷間圧延する工程は、製鉄所等において鋼板を圧延油の存在下で冷間圧延する加工処理工程である。
〔洗浄工程〕
本実施形態の鋼板の洗浄方法は、前記洗浄工程で前記鋼板用洗浄剤組成物を用いることにより、鋼板表面を清浄化でき、メッキ等の表面処理不良による外観不良を抑制できる。一般的に、洗浄工程には、洗浄剤組成物を用いた浸漬洗浄、スプレー洗浄、電解洗浄、ブラシ洗浄、電解スプレー洗浄等、水を用いた浸漬リンス、スプレーリンス、ブラシリンス等を組み合わせ、最後に熱風により乾燥する方法が用いられる。排水処理負荷低減及びコスト低減の観点から、洗浄剤やリンス液は循環し繰り返し使用され、汚れの蓄積量に応じて更新される。電解洗浄は鋼板表面と電極間に直流電流を流し、鋼板表面で水の電気分解を行い微細な水素又は酸素の気泡を発生させ、鋼板表面の微細な凹凸に影響されることなく鋼板表面に強い物理力を生じさせることができる。そのため電解洗浄は仕上げ洗浄という位置づけであり、鋼板表面の高い清浄度を得る観点から、汚れ蓄積の少ない状態で使用されることが好ましく、電解洗浄の前に大部分の汚れを除去しておくことが好ましい。前記鋼板用洗浄剤組成物を用いることにより、物理力の弱い浸漬洗浄、スプレー洗浄、ブラシ洗浄、電解スプレー洗浄において、高い洗浄効果を発揮し、電解洗浄を行わなくても鋼板表面を清浄化でき、仕上げ洗浄に電解洗浄を用いる場合でも、電解洗浄工程への汚れ持込みを低減でき、より高い鋼板表面の清浄度を得られる。
前記洗浄工程における洗浄温度は、洗浄性の観点から、20℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、エネルギーコストを削減する観点から、60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましい。なお、80℃のような高い洗浄温度で使用しても洗浄性が低下することはない。
前記洗浄工程における浸漬時間は、洗浄性の観点から、0.1秒以上が好ましく、0.5秒以上がより好ましく、鋼板の生産性の観点から、15秒以下が好ましく、10秒以下がより好ましい。
前記洗浄工程の後には、浸漬して洗浄した被洗浄鋼板を水でリンスするリンス工程を設けることができる。リンス工程における水の温度や浸漬時間の条件は適宜調整することができる。リンス工程における水の温度は、洗浄性及び鋼板の酸化抑制の観点から、5℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、エネルギーコストを削減する観点から、70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。浸漬時間は、洗浄性の観点から、0.1秒以上が好ましく、0.5秒以上がより好ましく、鋼板の生産性の観点から、15秒以下が好ましく、10秒以下がより好ましい。
本実施形態の鋼板の洗浄方法は、常法の条件に従って、前記洗浄工程後、また、前記リンス工程がある場合はリンス工程後の鋼板を乾燥させる乾燥工程を有する。当該乾燥工程は、初めに鋼板表面に空気等の気体を噴射し、鋼板上の水分を吹き飛ばす処理を行うことが好ましい。前記乾燥工程における乾燥手段としては、例えば80℃以上、エネルギーコストを低減する観点から、150℃以下、好ましくは120℃以下のオーブンに入れる方法が挙げられる。また、これらの温度に調整した空気等の気体を鋼板表面に噴射する方法が挙げられる。乾燥時間は、例えば、エネルギーコストを低減する観点から、60秒以下が好ましく、40秒以下がより好ましく、20秒以下がさらに好ましい。鋼板工場の製造設備では、80℃以上150℃以下、好ましくは120℃以下で3秒から10秒加熱し乾燥させる方法が挙げられる。
洗浄後に得られる鋼板は自動車用鋼板や缶詰などの飲料用鋼板、家電用鋼板など様々な用途に用いることができる。洗浄後の鋼板表面の油汚れなどの付着量は、鋼板の用途により異なるが、洗浄前の鋼板の炭素付着質量を100%とした時、洗浄後に5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
〔鋼板用洗浄剤組成物の調製〕
<実施例1~10、及び比較例1~9>
実施例1~10、及び比較例1~9の洗浄剤組成物は、表1に示した含有量になるように以下の手順で300g調製した。表1に記載の数値は有効成分の量を表し、単位は質量%である。
1.300mLガラスビーカーにグルコン酸及びその塩(成分B)と水(成分E)を添加し、混合撹拌して混合液を得た。
2.前記1で得られた混合液にアルカリ剤(成分A)を添加して、混合撹拌して混合液を得た。
3.前記2で得られた混合液に式(1)に示す化合物(成分C)と、アミンオキサイド(成分D)とを添加し、混合撹拌して試験液を得た。
〔各成分〕
表1に記載の各成分は下記のものを使用した。
・成分A(アルカリ剤)
水酸化ナトリウム:株式会社トクヤマ製、液体苛性ソーダ(濃度48質量%)
・成分B(グルコン酸及びその塩)
グルコン酸ナトリウム:扶桑化学工業株式会社製、グルコン酸ソーダ
・成分C(式(1)に示す化合物)
HeDG:日本乳化剤株式会社製、ヘキシルジグリコール
PhG:日本乳化剤株式会社製、フェニルグリコール
HeG:日本乳化剤株式会社製、ヘキシルグリコール
PhDG:日本乳化剤株式会社製、フェニルジグリコール
・成分D(アミンオキサイド)
ジメチルラウリルアミンオキサイド:花王株式会社製、アンヒトール20N(35質量%水溶液)
・成分E(水)
イオン交換水:オルガノ株式会社製の純水装置G-10DSTSETで製造した1μS/cm以下の純水
・その他の成分
EHDG:日本乳化剤株式会社製、2-エチルヘキシルジグリコール
1-ヘキサノール:東京化成工業株式会社製
BDG:日本乳化剤株式会社製、ブチルジグリコール
PhFG:日本乳化剤株式会社製、フェニルプロピレングリコール
BzDG:日本乳化剤株式会社製、ベンジルジグリコール
〔アルカリ度(NaO%)測定〕
測定液を100mLガラス製三角フラスコに20g採取し、フェノールフタレイン指示薬を3滴添加し、1mol/L塩酸標準溶液で滴定した。終点は赤色から無色に変わる点とし、下式にてアルカリ度を算出した。結果を表1に示す。
アルカリ度(NaO%)=A×f×3.1÷20
A:滴定に要した1mol/L塩酸標準溶液の使用量(mL)
f:1mol/L塩酸標準溶液のファクター
〔洗浄性〕
<被洗浄鋼板>
パーム油を含有する合成エステル系圧延油で冷間圧延された厚さ0.2mmの鋼板を60mm×25mmの大きさに切断し、鋼板洗浄試験に用いた。当該鋼板の洗浄前の炭素付着量を後述の残存炭素付着量測定方法と同様の方法によって測定した結果、130mg/mであった。
<洗浄試験手順>
300mLガラスビーカー中に試験液300gを入れた後に、試験液を30℃に加温した。次いで、被洗浄鋼板を浸漬し、4秒間搖動した。被洗浄鋼板をビーカーから取出し、スプレー(圧力:2kgf/cm)で1秒間60℃の温水を吹きかけ、さらに60℃の温水中にて2秒間搖動した。その後、温風乾燥機にて乾燥した。
<残存炭素付着量測定方法>
鋼板表面の汚れの付着量の指標として、炭素・水素/水分分析装置(型番RC-612 LECO社製)を使用し、鋼板上に付着している炭素量(残存炭素付着量)を測定した。装置条件は、鉄の軟化温度以下でかつ鋼板上の汚れが燃焼すると考えられる500℃で鋼板を加熱し、揮発・熱分解または燃焼により発生したCOから鋼板上に付着している炭素量を割り出した。測定は、最大強度(CO発生量最大)ピークを100%とし、1%以下まで強度が落ちるまで行った。測定には、8枚の平均値の小数点以下一桁を四捨五入した。結果を表1に示す。
Figure 0007042199000004

Claims (4)

  1. アルカリ剤(成分A)、グルコン酸又はその塩(成分B)、下記式(1)に示す化合物(成分C)、下記式(2)に示すアミンオキサイド(成分D)及び水(成分E)を含有する、鋼板用洗浄剤組成物。
    -O-(EO)n-H (1)
    (式(1)において、Rは炭素数6の炭化水素基、EOはエチレンオキシ基であり、nはEOの付加モル数であり、nは1以上3以下の整数である。)
    Figure 0007042199000005

    (式(2)において、Rは直鎖又は分岐鎖の炭素数8以上18以下のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
  2. 請求項1に記載の洗浄剤組成物を、アルカリ度(NaO%)として、0.7%以上2.5%以下に調整して鋼板を洗浄する、鋼板の洗浄方法。
  3. 鋼板が冷間圧延鋼板である、請求項2に記載の洗浄方法。
  4. 請求項2又は3に記載の洗浄方法を製造工程に有する、鋼板の製造方法。
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