JP7027087B2 - 加熱乳含有加工品の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、加熱乳含有加工品の製造方法に関する。
調合乳を殺菌する際の加熱方式は、間接加熱方式(プレート式、チューブ式、カキトリ式など)や直接加熱方式(スチームインジェクション式、スチームインフュージョン式など)を用いることが一般である。
間接加熱方式では、高たんぱく質の調合乳(流動食や噴霧乾燥前の調製粉乳など)の場合、昇温時間も長く、加熱面が焦げ付いてしまい、長時間の運転が難しいことが一般的に知られている。また、直接加熱方式は、高たんぱく質の調合乳であっても、焦げ付きが少なく、長時間の運転が可能であるが、蒸気として水を加えるため、法律上水を加えてはならない牛乳などには使用できない。さらに、直接加熱方式では、投入した蒸気を減圧化で抜き取るため、同時に香気成分などが抜けてしまう。
一方で、乳系で使われることはほとんどないが、内部発熱方式(ジュール加熱式、交流高電界式など)の加熱方式がトマトピューレやレモン果汁などの殺菌で一般的に利用されている(例えば、特許文献1)。内部発熱方式は、加熱面を持たないため間接加熱方式よりも焦げにくく、また直接加熱方式のように香気成分が抜けることがないという特徴がある。
特開2010-124807号公報
しかしながら、ジュール加熱をはじめとする内部発熱方式において、たんぱく質を含む乳などを通液すると、電極周りや壁面で、局所的にたんぱく質が凝集し、直接加熱方式ほどの焦げ付きの改善はできない場合がある。また、焦げ付きを防止するために昇温速度を遅くするため、直接加熱方式ほどの加熱副産物の抑制は難しい。したがって、ジュール加熱をはじめとする内部発熱方式において、たんぱく質を含む乳製品を加熱殺菌する場合に、焦げ付きの改善し、加熱副産物を抑制することは重要な課題である。
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、乳含有原料を流路にて遷移流から乱流の状態に調節して流動させながらジュール加熱処理を行うと、乳加工品における焦げ付きや加熱副産物の発生を効果的に抑制しうることを見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
したがって、本発明は、焦げ付きや加熱副産物の発生を効果的に抑制しうる加熱乳含有加工品の製造方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明によれば、具体的に以下の発明が提供される。
(1)乳含有原料を流路内で乱流体、遷移流体およびそれらの組み合わせから選択される流体となるように調節し、該流体を前記流路内でジュール加熱処理することを含んでなる、加熱乳含有加工品の製造方法。
(2)上記流体のレイノルズ数が2,000以上となるように調節する、(1)に記載の製造方法。
(3)上記乳含有原料の粘度が、85℃で0.5~10mPa・sである、(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)上記乳含有原料の密度が、500~1,500kg/mである、(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)上記乳含有原料が、生乳、脱脂粉乳、クリーム、バター、チーズ、部分脱脂乳、全脂粉乳、濃縮乳、練乳、脱脂濃縮乳、脱脂乳、バターミルク、脱脂大豆粉乳、および脱脂大豆乳からなる群から選択される少なくとも1つの原材料を含んでなる、(1)~(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)上記流路の内径が25mm以下である、(1)~(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)上記流体の流路における流速が、50~6,000L/hrである、(1)~(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)上記ジュール加熱処理における昇温速度が15~200℃/secである、(1)~(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)上記ジュール加熱処理における加熱温度が100~200℃/secである、(1)~(8)のいずれかに記載の製造方法。
(10)上記ジュール加熱処理における加熱時間が0.01秒~200分である、(1)~(9)のいずれかに記載の製造方法。
(11)上記加熱乳含有加工品におけるフロシン濃度が50mg/kg以下である、(1)~(10)のいずれかに記載の製造方法。
(12)上記加熱乳含有加工品におけるアセトン含量が、前記乳含有原料におけるアセトン含量に対して5~110%である、(1)~(11)のいずれかに記載の製造方法。
(13)上記加熱乳含有加工品における2-ブタノン含量が、前記乳含有原料における2-ブタノン含量に対して5~110%である、(1)~(12)のいずれかに記載の製造方法。
(14)(1)~(13)のいずれかに記載の方法により得られた、加熱乳含有加工品。
(15)乳含有原料を流路内で乱流体、遷移流体およびそれらの組み合わせから選択される流体となるように調節し、該流体を前記流路内でジュール加熱処理することを含んでなる、乳含有原料の加熱方法。
本発明によれば、乳含有原料を流路において遷移流から乱流の状態に調節して流動させながらジュール加熱処理することにより、乳加工品における焦げ付きや、フロシンをはじめとする加熱副産物の発生を効果的に抑制することが可能となる。また、本発明によれば、加熱乳含有加工品において、アセトンや2-ブタンノンをはじめとする香気成分を効果的に保持することが可能となる。また、本発明によれば、乳含有原料の粘度または密度が比較的高レベルであっても、ジュール加熱前後における差圧が生じることを抑制してジュール加熱装置を安定に連続運転しうることから、加熱乳含有加工品を長期間にわたり効率的に製造する上で有利である。
試験例2において脱脂濃縮乳を内部発熱1(ジュール加熱:遷移流体~乱流体)および内部加熱2(ジュール加熱:層流体)の条件で加熱した際の、ジュール加熱装置における加熱前後の配管内圧力(背圧)の推移に関するグラフである。 試験例2において脱脂濃縮乳を内部発熱2(ジュール加熱:層流条件)の条件で加熱した際に、ジュール加熱装置がスパークを発生して運転停止した際の写真である。 ジュール加熱処理またはチューブ方式の加熱処理を行った場合の配管内圧力(背圧)の経時変化を示すグラフである。
発明の具体的説明
定義
本明細書において、「加熱乳含有加工品」とは、乳含有原料を加熱処理して得られる、乳含有品を意味する。
本明細書において、「ジュール加熱」とは、通電加熱と呼ばれる内部加熱方式の一つであり、対象物に直接通電して対象物の電気抵抗により生じる熱(ジュール熱)により対象物を加熱する方法を意味する。
本明細書において、「乱流体」とは、不規則かつ無秩序に流れる流体を意味し、好ましくはレイノルズ数Re4,000以上、より好ましくはレイノルズ数Re4,050以上、さらに好ましくはレイノルズ数Re4,100以上の流体とされる。
本明細書において、「層流体」とは、規則正しく流れる流体を意味し、好ましくはレイノルズ数Re2,000未満、より好ましくはレイノルズ数Re1,950以下、さらに好ましくはレイノルズ数Re1,900以下の流体とされる。
本明細書において、「遷移流体」とは、層流から乱流に遷移する際に生じる流体を意味し、好ましくはレイノルズ数Re2,000以上4,000未満、より好ましくはレイノルズ数Re2,050以上3,950以下、さらに好ましくはレイノルズ数2,100以上3,900以下の流体とされる。
加熱乳含有加工品の製造方法
本発明の加熱乳含有加工品の製造方法は、乳含有原料を流路内で乱流体、遷移流体およびそれらの組み合わせから選択される流体となるように調節し、該流体を前記流路内でジュール加熱処理することを特徴としている。ジュール加熱をはじめとする内部加熱方式は、電極と電極の間に電圧をかけて処理液に通電するものである。かかる内部発熱方式では、電極の数を過度に多くしないためや、固形物や高粘度液を効率的に送液するために、太い配管で送液して、遷移流や乱流の発生を防止することが一般的に行われる。かかる技術状況において、乳含有原料を流路において遷移流体や乱流体となるように調節し、流動させながらジュール加熱処理することにより、焦げ付きや加熱副産物の発生が効果的に抑制されることは当業者にとって意外な事実である。
乳含有原料
本発明の乳含有原料としては、本発明の効果を妨げない限り、「乳」を含む原材料を使用することができる。ここで、「乳」とは、牛乳、めん羊乳(ひつじ乳)、山羊乳、人乳等の哺乳動物由来の獣乳、豆乳等の植物由来の乳、育児用粉ミルク等の調製粉乳、食用油脂を乳化させた組成物(人造乳)等やそれらの加工品等が挙げられる。かかる乳含有原料の具体的な例としては、生乳、クリーム、バター、チーズ、全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、濃縮乳、練乳、脱脂濃縮乳、脱脂乳、バターミルク、脱脂大豆粉乳、脱脂大豆乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイたんぱく質、ホエイたんぱく質濃縮物、ホエイたんぱく質分離物、ホエイたんぱく質加水分解物、α-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆たんぱく質、鶏卵たんぱく質、肉たんぱく質等の動植物性たんぱく質、これらの分解物、バター、乳清ミネラル、クリーム、ホエイ、非たんぱく態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種の乳由来成分等が挙げられるが、好適な例としては、生乳、脱脂粉乳、クリーム、バター、チーズ、部分脱脂乳、全脂粉乳、濃縮乳、練乳、脱脂濃縮乳、脱脂乳、バターミルク、脱脂大豆粉乳、および脱脂大豆乳等が挙げられる。
また、本発明の乳含有原料は乳以外の副原料を含有していてもよい。乳以外の副原料の成分としては、特に限定されないが、例えば、アミノ酸、たんぱく質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁およびフレーバー類等を配合することができる。
本発明の乳含有原料において、乳含有量は特に限定されないが、無脂乳固形分の量として、好ましくは0.1~100質量%、より好ましくは0.1~95質量%、さらに好ましくは1~90質量%、さらに好ましくは1~50質量%、特に好ましくは1~30質量%である。ここで、本発明の「無脂乳固形分」とは、水分および乳脂肪を除いた乳固形分に相当する。
また、本発明の乳含有原料の粘度は、流路における流動性を確保しうる限り特に限定されないが、85℃において、好ましくは0.5~20mPa・s、より好ましくは0.5~15mPa・s、さらに好ましくは0.5~15mPa・s、さらに好ましくは0.5~10mPa・s、特に好ましくは2~10mPa・sである。本発明の乳含有原料の粘度は、B型粘度計を用いて測定することができる。
また、本発明の乳含有原料の密度は、流路における流動性を確保しうる特に限定されないが、好ましくは300~3,000kg/m、より好ましくは300~2,500kg/m、より好ましくは300~2,000kg/m、さらに好ましくは300~1,500kg/m、特に好ましくは500~1,500kg/mである。本発明の乳含有原料の密度の測定は、コリオリ式の質量流量計により行うことができる。コリオリ式の質量流量計は、流れに対して発生するコリオリ力によって質量流量を直接的には測定するものである。乳含有原料の密度は、質量流量計に備えられているチューブを励振させることによる振動数の変化で間接的に測定することができる。
遷移流体~乱流体への調節/ジュール加熱処理
本発明の方法では、上記乳含有原料を流路にて流体、遷移流体およびそれらの組み合わせから選択される流体となるように調節し、ジュール加熱処理する。
本発明のジュール加熱装置においては、流路に加熱対象を流動させながら加熱を行うことを特徴とする流路を備えた公知のジュール加熱装置を用いることが可能である。かかるジュール加熱装置としては、例えば、後述する実施例において使用されるサノヴォ社製ジュール加熱装置が挙げられる。
本発明の方法において、乳含有原料を流動させる流路のサイズは、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、加熱乳含有加工品の生産スケール応じて適宜設定することができるが、流路内で遷移流体または乱流体を効率的に発生させる観点からは、内径サイズは比較的小サイズであることが好ましい。具体的には、流路の内径は、好ましくは25mm以下であり、より好ましくは20mm以下であり、さらに好ましくは15mm以下であり、さらに好ましくは10mm以下である。また、流路の内径の好適な範囲は、0.1~25mm、0.1~20mm、0.1~15mm、5~25mm、5~20mm、5~15mm、0.1~10mm、0.1~8mm、0.1~5mm等が挙げられる。
本発明の方法において、乳含有原料を流動させる流路の長さは、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、十分な加熱処理の観点からは、好ましくは0.01m~20mであり、より好ましくは0.1~15mであり、さらに好ましくは0.1~10mであり、さらに好ましくは0.5~5mであり、特に好ましくは1~5mである。
また、本発明の方法において、乳含有原料を流動させる流路の形状は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、円筒状、正角柱状、多角柱状等が挙げられるが、均一な流動状態を実現する観点からは、好ましくは円筒状とされる。
本発明において、「乳含有原料を流路内で乱流体、遷移流体およびそれらの組み合わせから選択される流体となるように調節」するとは、使用されるジュール加熱装置(流路内径)および乳含有原料の性質(粘度、密度、流速、流量)に応じて、乳含有原料が遷移流体、乱流体またはその組み合わせとなり、層流を生じさせないために必要とされるレイノルズ数Reを備えている状態とすることをいう。乳含有原料が流路内で乱流体、遷移流体およびそれらの組み合わせとなる状態において、乳含有原料のレイノルズ数Reは、好ましくは2,000以上であり、より好ましくは4,000以上であり、さらに好ましくは6,000以上であり、さらに好ましくは8,000以上である。また、乳含有原料のレイノルズ数Reの範囲は、好ましくは2,000~60,000、より好ましくは2,000~50,000、さらに好ましくは4,000~50,000、さらに好ましくは4,000~45,000である。流路において乳含有原料のレイノルズ数を上記範囲に設定することは、流路近傍での乳含有原料の温度の不均一性を防ぐことができ、乳含有原料を全体的に均一に加熱処理する上で有利である。また、上記レイノルズ数の範囲は、乳含有原料中の焦げやすい成分(例えば、たんぱく質等)が高温部分で焦げて凝集し、殺菌機の伝熱面(内壁)に凝集物が堆積することを防ぐ上でも好ましい。上記レイノルズ数は、乳含有原料の密度、粘度、流速、流量および流路内径に応じて当業者によって適宜調節される。
本発明において、乳含有原料の流路における流速は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、加熱乳含有加工品の所望の生産効率を勘案して適宜設定してよいが、好ましくは10~6,000L/hr(L/時間)であり、より好ましくは50~5,500L/hrであり、さらに好ましくは50~5,000L/hrであり、さらに好ましくは100~5,000L/hrであり、さらに好ましくは200~5,000L/hrであり、さらに好ましくは300~5,000L/hrであり、特に好ましくは350~4,500L/hrである。
また、本発明においては、高粘性、高密度の乳含有原料であっても焦げ付き等を防止する観点から、ジュール加熱装置への乳含有原料の供給量には高い精度が求められる。したがって、ジュール加熱装置には、高粘性、高密度であっても一定量の乳含有原料を送り出すことが可能な送り出し装置を設置することが好ましい。このような送り出し装置としては、例えば、公知の高圧ホモポンプ等が挙げられる。
本発明によれば、後述する実施例に示される通り、ジュール加熱処理における昇温速度は、従来のジュール加熱と比較して高速とすることが可能となる。本発明のジュール加熱処理における昇温速度は、特に限定されないが、作業効率の向上の観点からは、流体を遷移・乱流状態に維持しうる限り高レベル(高温・短時間)であることが好ましい。具体的には、上記昇温速度は、好ましくは15~200℃、より好ましくは25~200℃、さらに好ましくは50~200℃、さらに好ましくは100~200℃、特に好ましくは100~180℃である。
本発明において、ジュール加熱処理における乳含有原料の加熱温度は、効果的に殺菌処理を行う観点から、好ましくは100~220℃であり、より好ましくは100~200℃であり、さらに好ましくは100~180℃であり、さらに好ましくは100~180℃であり、特に好ましくは100~150℃である。
本発明において、ジュール加熱処理における乳含有原料の加熱時間は、特に限定されないが、好ましくは0.01秒~200分であり、より好ましく0.01秒~100分であり、さらに好ましくは0.01秒~10分であり、さらに好ましくは0.01秒~1分であり、さらに好ましくは0.01秒~30秒であり、さらに好ましくは0.1~15秒であり、さらに好ましくは0.1~10秒であり、特に好ましくは0.1~1秒である。
本発明において、ジュール加熱における電極に流れる電流密度は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
また、本発明では、ジュール加熱中の流路内における圧力変化を顕著に抑制することができる。本発明において、ジュール加熱に加えてさらに外部加熱方式の加熱処理を行ってもよい。かかる追加の外部加熱方式は、乳含有原料が高粘度、高密度である場合に、ジュール加熱前に乳含有原料の流動性を確保するために使用することが好ましい。外部加熱方式の加熱処理としては、プレート式、チューブ式およびカキトリ式等の間接的な外部加熱方式、ならびにスチームインジェクション方式およびスチームインフュージョン方式等の直接的な外部加熱方式等が挙げられる。これらの外部加熱方式の加熱処理は、単独で、あるいは複数種類を組み合わせて、ジュール加熱方式の加熱処理の前および/または後に行うことができる。
また、本発明においては、本発明の効果を妨げない限りにおいて、ジュール加熱装置に加えてさらに外部加熱方式の加熱処理を行ってもよい。かかる追加の外部加熱方式は、乳含有原料が高粘度、高密度である場合に、ジュール加熱前に乳含有原料の流動性を確保するために使用することが好ましい。外部加熱方式の加熱処理としては、プレート式、チューブ式およびカキトリ式等の間接的な外部加熱方式、ならびにスチームインジェクション方式およびスチームインフュージョン方式等の直接的な外部加熱方式等が挙げられる。これらの外部加熱方式の加熱処理は、単独で、あるいは複数種類を組み合わせて、ジュール加熱方式の加熱処理の前および/または後に行うことができる。
加熱乳含有加工品/加熱方法
本発明によれば、上記製造方法により、焦げ付き等に起因する加熱副産物(フロシン等)の発生や、香気成分(アセトン、2-ブタノン等)の拡散を抑制し、高品質の加熱乳含有加工品を効率的に製造することができる。したがって、本発明によれば、上記製造方法によれ得られた、加熱乳含有加工品が提供される。
本発明の加熱乳含有加工品におけるフロシン濃度は、特に限定されないが、好ましくは50mg/kg以下であり、より好ましくは30mg/kg以下であり、さらに好ましくは25mg/kg以下であり、さらに好ましくは20mg/kg以下である。さらに、上記フロシン濃度の好ましい範囲は、例えば、0~80mg/kg、好ましくは10~80mg/kgとすることができる。本発明のフロシン濃度の測定は、後述する例1に準じて、液体クロマトグラフィーにより測定することができる。
本発明の加熱乳含有加工品において、アセトンおよび2-ブタノンをはじめとする香気成分は、特に限定されないが、乳含有原料と比較して同レベルまたは実質的に減少していないことが好ましい。
具体的には、加熱乳含有加工品におけるアセトン含量は、それに対応する乳含有原料におけるアセトン含量に対して、好ましくは5~110%、より好ましくは20~110%、さらに好ましくは50~110、さら好ましくは75~110%、特に好ましくは95~110%である。ここで、上記アセトン含量の好適な範囲の上限はいずれも、好ましくは100%である。本発明のアセトン含量の測定は、後述する例1に準じて、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
また、加熱乳含有加工品における2-ブタノン含量は、それに対応する乳含有原料における2-ブタノン含量に対して、好ましくは5~110%、より好ましくは20~110%、さらに好ましくは50~110、さら好ましくは75~110%、特に好ましくは95~110%である。上記2-ブタノン含量の好適な範囲の上限はいずれも、好ましくは100%である。本発明の2-ブタノン含量の測定は、後述する試験例1に準じて、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
また、本発明の別の態様によれば、乳含有原料を流路にて遷移流体、乱流体およびそれらの組み合わせから選択される流体となるように調節し、該流体を流路内でジュール加熱処理することを含んでなる、乳含有原料の加熱方法が提供される。かかる加熱方法は、加熱乳含有加工品の製造方法に準じて実施することができる。
好ましい組み合わせ
本発明によれば、様々な粘度の乳含有原料を、適切なレイノルズ数を有する流体としてジュール加熱処理することにより、特に高品質の加熱乳含有加工品を効率的に製造することが可能となる。本発明の好ましい態様において、加熱乳含有加工品におけるフロシン濃度は50mg/kg以下であることが好ましく、加熱乳含有加工品におけるアセトン含量は乳含有原料におけるアセトン含量に対して5~110%であることが好ましく、加熱乳含有加工品における2-ブタノン含量は乳含有原料における2-ブタノン含量に対して5~110%であることが好ましい。
より好ましい態様によれば、上記加熱乳含有加工品の製造において、乳含有原料の粘度は85℃で0.5~20mPa・sであり、流体のレイノルズ数Reは2,000以上、好ましくは2,000~60,000、より好ましくは2,000~50,000である。
また、別のより好ましい態様によれば、上記加熱乳含有加工品の製造において、乳含有原料の粘度は85℃で2~20mPa・sであり、流体のレイノルズ数Reは2,000以上、好ましくは4,000以上、より好ましくは4,000~50,000である。かかる本発明は、焦げ付きや加熱副産物が生じやすい高粘度の乳含有原料を使用する場合において、高品質な加熱乳含有加工品を顕著な加熱効率にて製造する上で特に有利である。
また、別の好ましい態様によれば、上記加熱乳含有加工品の製造において、乳含有原料の粘度は85℃で0.5~2mPa・s未満であり、流体のレイノルズ数Reは2,000以上、好ましくは4,000以上、より好ましくは4,000~50,000であり、ジュール加熱における昇温速度は、好ましくは50~200℃、より好ましくは100~200℃、さらに好ましくは100~180℃である。かかる本発明は、低粘度の乳含有原料を使用する場合において、迅速に加熱と高品質な加熱乳含有加工品の製造とを両立する上で特に有利である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
例1
同一の原乳(生乳-牛乳の原料;粘度0.7mPa・s(85℃)、に対して、3つの加熱方式(内部発熱1、間接加熱、直接加熱)で殺菌を行い、それぞれの香気成分(アセトン、2-ブタノン)および加熱副産物(フロシン)の測定を行った。各加熱方式の操作条件は表1に示される通りであった。
特に、内部発熱1では、同一のジュール加熱機(配管内径4.5mm、配管長さ2m)を用いて流量を変化させ、それぞれ乱流条件を模擬した。
Figure 0007027087000001
各試験において、加熱副産物(フロシン)の量は、以下に示される液体クロマトグラフィー分析の条件により、算出した。
・装置名HPLC-1100Series -DAD(Agilent Technologies)
・調製:試料1.0gを10mL試験管に採取し、濃塩酸:超純水=8:1混合液を加えて4mLにフィルアップ後、110℃23時間加熱した(ヒートブロック)。放冷後、残さをろ別したろ液を超純水で希釈した後、固相抽出カートリッジ(Waters Oasis HLB 1cc;Waters社)に負荷し、通過液をHPLC供試液とした。
・HPLC条件:
カラム :Mightysil RP-18 GP φ2.0×150mm(3μm)(関東化学)
カラム温度:45℃
移動相 :1%リン酸溶液(v/v):アセトニトリル=55:45 + 10mM SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)
注入量 :20μL
DAD波長 :280nm
また、各試験において、香気成分(アセトン、2-ブタノン)量は、以下に示されるガスクロマトグラフィー分析の条件により、ピーク面積に基づき算出した。
・動的ヘッドスペース法を用いたガスクロマトグラフィー質量分析計(DHS-GCMS)
・装置名:7890GC/5975MS(Agilent Technologies)
MPS(オートサンプラ) (GERSTERL)
DHS(動的ヘッドスペースサンプリングユニット) (GERSTERL)
TDU(加熱脱着ユニット) (GERSTERL)
CIS(クライオフォーカスユニット)(GERSTERL)
・サンプリング:試料10mLを20mLバイアル瓶に採取し、内標準としてメチルイソブチルケトン2ppm×100μLを加え、密栓(n=3)を準備した。なお、内標準は捕集確認のため添加(対象成分の面積補正などに使用していない。
・DHS条件:捕集剤・捕集剤温度:TENAX-TA・30℃
試料温度:25℃
窒素パージ流量:40mL×10分間
TDU(加熱脱着温度):25℃→720℃/分→230℃
CIS(クライオフォーカス温度):-40℃→720℃/分→240℃
GCカラム:DB-Wax Ultra Inert,30m×0.25mm,膜厚0.25μm
GC温度:40℃(2.5分間)→10℃/分→120℃→20℃/分
→240℃(10分間)
・積分イオン:アセトン:m/z43
2-ブタノン:m/z43
結果は、表2に示される通りであった。
Figure 0007027087000002
表2より、アセトンや2-ブタノンについては、直接加熱だけが著しく低い値となり、香気成分が失われていることが示唆された。これは、スチームインジェクション(蒸気投入)後の脱気(蒸発)工程によって香気成分が抜けてしまっているためと考えられる。一方で、フロシンについては少ない結果となった。これは、直接加熱では蒸発によって瞬時に冷却されるためと考えられる。
一方で、内部発熱1(ジュール加熱)については、アセトンや2-ブタノンは保持されており、かつフロシンが少ない結果となった。
このように、内部発熱1(ジュール加熱)の原乳においては、直接加熱とは異なり香気成分が全く抜けず、また加熱副産物も間接加熱などと比べて低く抑えられることが確認された。
例2
固形分濃度を25%の脱脂濃縮乳(脱脂粉乳からの還元乳;粘度7.7mPa・s(85℃)、密度1,068kg/m)を準備した。次に、例1の内部発熱1の方法に従い、レイノルズ数4360として、ジュール加熱を実施した。また、レイノルズ数545、流速50L/hr、昇温速度19℃/sec(昇温速度は焦げ付き回避のため低レベルとした)とする以外、内部加熱1と同様の手順に従い、内部加熱2としてジュール加熱を実施した。そして、ジュール加熱を開始してジュール加熱機における出口温度が130℃に達した後、ジュール加熱前後での差圧(圧力損失)を記録した。また、脱脂濃縮乳はジュール加熱機に入れる前にチューブ式熱交換器で90℃まで加温した上で、高圧ホモポンプ(ニロソアヴィ社Niro Soavi社製)によりジュール加熱機に通液した。
結果は図1に示される通りであった。
内部発熱2(昇温速度19℃/sec、レイノルズ数545)では、130℃達温時点で既に高い圧力損失となり、運転開始4.5min程度で電極でのスパークが発生し、運転が停止した(図2)。
一方で、内部発熱1(昇温速度150℃/sec、レイノルズ数4360)では、内部発熱2とは異なり、非常に短時間で昇温しているにもかかわらず、差圧にはほとんど変化なく、安定して連続運転することができた。
例3:殺菌試験
ジュール加熱方式による加熱処理の有効性を、チューブ方式による加熱処理との比較により確認した。使用した乳含有原料の配合を表3に示し、各方式の加熱処理の条件を表4にまとめる。
具体的には、試験例1として、50℃の調合液(乳含有原料)を90℃まで加熱(予熱)し、ジュール加熱式殺菌機(SANOVO社製)の配管(内径4.5mm)内に、調合液が配管内で乱流体(レイノルズ数Re=5,069)となるように、ポンプにより流速(流量)400L/hrで送り込み、配管内で99℃で25秒間ジュール加熱方式による加熱殺菌を行った。
また、試験例2として、配管内で110℃で5秒間加熱を行う以外は試験例1と同様の条件により加熱殺菌を行った。
一方、チューブ方式による加熱殺菌を以下の方法により行った。
すなわち、比較試験例1として、50℃の調合液を75℃まで加熱(予熱)し、チューブ式殺菌機(APV社製)の配管内にポンプにより流速(流量)400L/hrで送り込み、99℃で20秒間チューブ方式による加熱殺菌を行った。
また、比較試験例2として、予熱温度を90℃とし、配管内で110℃で5秒間加熱を行う以外は比較試験例1と同様の条件により加熱殺菌を行った。
各試験例および比較試験例における配管内の焦げ付きの状態を、ポンプ直後に設置した圧力計の圧力(背圧)の経時変化によって確認した。結果を図3に示す。
Figure 0007027087000003
Figure 0007027087000004
図3の結果から、チューブ方式の加熱処理を行った試験番号1および2においては、加熱処理開始直後から著しい圧力(背圧)の上昇が観察された。これは、チューブ方式の加熱処理の過程で乳含有原料が焦げ付き、配管内に堆積したことを意味する。一方、ジュール加熱方式の加熱処理を行った試験番号3および4においては、加熱処理開始後5~6分においてもまったく圧力(背圧)の上昇が観察されなかった。これは、ジュール加熱方式の加熱処理の過程で乳含有原料の焦げ付きが見られなかったことを意味する。これらの結果は、乳含有原料の殺菌において、配管内の遷移流~乱流を伴うジュール加熱方式を用いることにより、焦げを生じることなく、長時間にわたり連続的に安定的な殺菌を行うことが可能であることを示唆するものと言える。

Claims (12)

  1. 乳含有原料を流路内で乱流体、遷移流体およびそれらの組み合わせから選択される流体となるように調節し、該流体を前記流路内でジュール加熱処理することを含んでなり、
    前記流路の内径が25mm以下であり、
    前記流体の流路における流速が、10~6,000L/hrであり、
    前記ジュール加熱処理における昇温速度が15~200℃/secである、加熱乳含有加工品の製造方法。
  2. 前記流体のレイノルズ数が2,000以上となるように調節する、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記乳含有原料の粘度が、85℃で0.5~20mPa・sである、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 前記乳含有原料の密度が、300~3,000kg/mである、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
  5. 前記乳含有原料が、生乳、脱脂粉乳、クリーム、バター、チーズ、部分脱脂乳、全脂粉乳、濃縮乳、練乳、脱脂濃縮乳、脱脂乳、バターミルク、脱脂大豆粉乳、および脱脂大豆乳からなる群から選択される少なくとも1つの原材料を含んでなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
  6. 前記ジュール加熱処理における加熱温度が100~200℃である、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
  7. 前記ジュール加熱処理における加熱時間が0.01秒~200分である、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
  8. 前記加熱乳含有加工品におけるフロシン濃度が50mg/kg以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
  9. 前記加熱乳含有加工品におけるアセトン含量が、前記乳含有原料におけるアセトン含量に対して5~110%である、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
  10. 前記加熱乳含有加工品における2-ブタノン含量が、前記乳含有原料における2-ブタノン含量に対して5~110%である、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
  11. 請求項1~10のいずれか一項に記載の方法により得られた、加熱乳含有加工品であって、
    豆乳を含むものを除く、加熱乳含有加工品。
  12. 乳含有原料を流路内で乱流体、遷移流体およびそれらの組み合わせから選択される流体となるように調節し、該流体を前記流路内でジュール加熱処理することを含んでなり、
    前記流路の内径が25mm以下であり、
    前記流体の流路における流速が、10~6,000L/hrであり、
    前記ジュール加熱処理における昇温速度が15~200℃/secである、乳含有原料の加熱方法。
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