JP7024874B2 - 検査システム、検査方法、およびプログラム - Google Patents

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Description

本発明は、検査システム、検査方法、およびプログラムに関する。本願は、2018年7月31日に日本に出願された特願2018-143841号と、2018年8月30日に日本に出願された特願2018-161488号と、2018年10月25日に日本に出願された特願2018-200742号に基づき優先権を主張し、それらの内容を全てここに援用する。
鉄道車両には高い安全性が求められる。そこで、鉄道車両が正常であるか否かを検査することが必要である。この種の技術として特許文献1、2に記載の技術がある。
特許文献1には、鉄道車両の台車中心上の車体床面での左右振動加速度のピーク周波数とその振幅の大きさとを2クラス分類識別器に入力して学習させることにより、鉄道車両の不具合を検出することが記載されている。特許文献2には、鉄道車両の各台車に配置される1つの加速度センサにより測定された加速度から、鉄道車両の不具合を検出することが記載されている。
特許文献3には、車輪の踏面とフランジとを含む範囲に細線状の光線を照射する光源と、当該光線により照射された範囲の像を撮影する撮影手段と、撮影手段の出力に基づいて演算を行う演算手段とを有する車輪測定装置が開示されている。特許文献4には、車輪における外側のフランジ面までの距離を非接触で計測する外側距離センサと、車輪における内側のバック面までの距離を非接触で計測する内側距離センサと、車両の走行速度を計測する速度検出器と、レールまでの垂直方向の距離を計測する垂直方向距離センサと、演算手段と、を有する車輪形状測定装置が開示されている。演算手段は、垂直方向距離センサの計測結果から車両の走行時におけるレールの沈下量を演算する。演算手段は、外側距離センサ、内側距離センサ、および速度検出器の計測結果と、外側距離センサおよび内側距離センサの設置に係る距離のデータと、レールの沈下量とに基づいて車輪の形状を演算する。
特許文献5には、前後方向力の測定値を用いて、通り狂い量を導出することが開示されている。前後方向力は、輪軸と、当該輪軸が設けられている台車との間に配置される部材に生じる前後方向の力である。
特開2012-58207号公報 特開2012-58208号公報 特開2001-227924号公報 特開2008-51571号公報 国際公開第2017/164133号
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術では、車体床面や台車の加速度を測定するため、測定データにおいてノイズ成分が多くなる。従って、測定データから、鉄道車両が正常であるか否かを判定するのに資するデータを抽出することが容易ではない。
特許文献3、4に記載の技術では、撮像手段やセンサを地上に配置しなければならない。従って、設備が大掛かりなものになる。このため、設備投資やメンテナンスのためのコストが高くなる。また、撮像手段やセンサが設置されている箇所でしか、車輪の状態を検査することができない。
特許文献5に記載の技術は、軌道の状態を検査するための技術であり、鉄道車両を検査するための技術ではない。
以上のように、従来の技術では、鉄道車両が正常であるか否かを正確に判定することが容易ではないという問題点がある。
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、鉄道車両が正常であるか否かを正確に判定することができるようにすることを目的とする。
本発明の検査システムは、車体と台車と輪軸と軸箱と軸箱支持装置とを有する鉄道車両の検査対象部材を検査する検査システムであって、前記鉄道車両を軌道上で走行させることにより測定される前後方向力の測定値を含む入力データを取得する取得手段と、前記取得手段により取得された前記前後方向力の測定値を用いて、前記検査対象部材を検査する検査手段と、を有し、前記前後方向力は、前記軸箱支持装置を構成する部材に生じる前後方向の力であり、前記部材は、前記軸箱を支持するための部材であり、前記前後方向は、前記鉄道車両の走行方向に沿う方向であり、前記検査対象部材は、前記台車の台車枠と前記輪軸との間に配置される部材、前記台車の台車枠と前記車体との間に配置される部材、および車輪のうちの、少なくとも1つであり、前記検査対象部材が前記車輪を含む場合、前記検査手段は、前記車輪の踏面勾配を少なくとも検査することを特徴とする。
本発明の検査方法は、車体と台車と輪軸と軸箱と軸箱支持装置とを有する鉄道車両の検査対象部材を検査する検査方法であって、前記鉄道車両を軌道上で走行させることにより測定される前後方向力の測定値を含む入力データを取得する取得工程と、前記取得工程により取得された前記前後方向力の測定値を用いて、前記検査対象部材を検査する検査工程と、を有し、前記前後方向力は、前記軸箱支持装置を構成する部材に生じる前後方向の力であり、前記部材は、前記軸箱を支持するための部材であり、前記前後方向は、前記鉄道車両の走行方向に沿う方向であり、前記検査対象部材は、前記台車の台車枠と前記輪軸との間に配置される部材、前記台車の台車枠と前記車体との間に配置される部材、および車輪のうちの、少なくとも1つであり、前記検査対象部材が前記車輪を含む場合、前記検査工程は、前記車輪の踏面勾配を少なくとも検査することを特徴とする。
本発明のプログラムは、車体と台車と輪軸と軸箱と軸箱支持装置とを有する鉄道車両の検査対象部材を検査することをコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記鉄道車両を軌道上で走行させることにより測定される前後方向力の測定値を含む入力データを取得する取得工程と、前記取得工程により取得された前記前後方向力の測定値を用いて、前記検査対象部材を検査する検査工程と、をコンピュータに実行させ、前記前後方向力は、前記軸箱支持装置を構成する部材に生じる前後方向の力であり、前記部材は、前記軸箱を支持するための部材であり、前記前後方向は、前記鉄道車両の走行方向に沿う方向であり、前記検査対象部材は、前記台車の台車枠と前記輪軸との間に配置される部材、前記台車の台車枠と前記車体との間に配置される部材、および車輪のうちの、少なくとも1つであり、前記検査対象部材が前記車輪を含む場合、前記検査工程は、前記車輪の踏面勾配を少なくとも検査することを特徴とする。
図1Aは、鉄道車両の概略の一例を示す図である。 図1Bは、台車枠および軸箱の一例を示す図である。 図1Cは、鉄道車両の車体の下方の部分の構成の一例を示す図である。 図2は、鉄道車両の構成要素(輪軸、台車、車体)の主な運動の方向を概念的に示す図である。 図3は、検査装置の機能的な構成の第1の例を示す図である。 図4は、検査装置のハードウェアの構成の一例を示す図である。 図5は、検査区間における軌条の曲率の第1の例を示す図である。 図6は、鉄道車両が正常であると想定した場合の検査区間における前後方向力の測定値に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。 図7は、前側の台車の左右動ダンパが故障したと想定した場合の検査区間における前後方向力の測定値に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。 図8は、後ろ側の台車の左右動ダンパが故障したと想定した場合の検査区間における前後方向力の測定値に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。 図9は、前側の台車の左側のヨーダンパが故障したと想定した場合の検査区間における前後方向力の測定値に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。 図10は、後ろ側の台車の左側のヨーダンパが故障したと想定した場合の検査区間における前後方向力の測定値に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。 図11は、前側の台車の左右動ダンパが故障したと想定した場合の検査区間における前後方向力の測定値に関するシミュレーションの結果と、鉄道車両が正常であると想定した場合の検査区間における前後方向力の測定値に関するシミュレーションの結果との差分を示す図である。 図12は、前側の台車の左側のヨーダンパが故障したと想定した場合の検査区間における前後方向力の測定値に関するシミュレーションの結果と、鉄道車両が正常であると想定した場合の検査区間における前後方向力の測定値に関するシミュレーションの結果との差分を示す図である。 図13は、検査装置における処理の第1の例を説明するフローチャートである。 図14は、検査装置の機能的な構成の第2の例を示す図である。 図15は、検査装置における処理の第2の例を説明するフローチャートである。 図16は、検査装置の機能的な構成の第3の例を示す図である。 図17Aは、左右動ダンパが故障したと想定した場合の採用固有値数の第1の例を示す図である。 図17Bは、左右動ダンパが故障したと想定した場合の採用固有値数の第2の例を示す図である。 図18は、鉄道車両が正常であると想定した場合の修正自己回帰モデルの周波数特性を示す図である。 図19は、前側の台車の左右動ダンパが故障したと想定した場合の修正自己回帰モデルの周波数特性を示す図である。 図20は、後ろ側の台車の左右動ダンパが故障したと想定した場合の修正自己回帰モデルの周波数特性を示す図である。 図21は、検査装置における処理の第3の例を説明するフローチャートである。 図22は、検査装置の機能的な構成の第4の例を示す図である 図23は、前後方向力の測定値に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。 図24は、通り狂い量に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。 図25は、角変位差に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。 図26は、角速度差に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。 図27は、検査装置における処理の第4の例を説明するフローチャートである。 図28は、検査区間における軌条の曲率の第2の例を示す図である。 図29は、鉄道車両が正常であると想定した場合と、軸箱支持装置の前後方向の剛性が劣化したことを想定した場合とのそれぞれの前後方向力の測定値に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。 図30は、検査装置の機能的な構成の第5の例を示す図である。 図31は、検査区間の各位置におけるバネ定数の一例を示す図である。 図32は、自己相関行列の固有値の分布の第1の例を示す図である。 図33は、鉄道車両が正常であると想定した場合の検査区間の各位置における修正後バネ定数の第1の例を示す図である。 図34は、軸箱支持装置の前後方向の剛性が劣化したことを想定した場合の検査区間の各位置における修正後バネ定数の第1の例を示す図である。 図35は、軸箱支持装置の前後方向の剛性が劣化したことを想定した場合の検査区間の各位置における修正後バネ定数の第2の例を示す図である。 図36は、鉄道車両が正常であると想定した場合の検査区間の各位置における修正後バネ定数の第2の例を示す図である。 図37Aは、修正後軸箱支持前後方向バネ定数のシミュレーションの結果の第1の例を表形式で示す図である。 図37Bは、修正後軸箱支持前後方向バネ定数のシミュレーションの結果の第2の例を表形式で示す図である。 図38は、検査装置における処理の第5の例を説明するフローチャートである。 図39は、踏面勾配の一例を説明する図である。 図40Aは、車輪の半径と、車輪、軌条間の相対変位との関係の第1の例を示す図である。 図40Bは、車輪の半径と、車輪、軌条間の相対変位との関係の第2の例を示す図である。 図41は、踏面勾配が正常値である場合の前後方向力の測定値の時系列データの一例を示す図である。 図42は、踏面勾配のそれぞれが正常値に対して2倍になった場合の前後方向力の測定値の時系列データの一例を示す図である。 図43は、検査区間における軌条の曲率の第3の例を示す図である。 図44は、踏面勾配が正常値である場合の修正自己回帰モデルの周波数特性を示す図である。 図45は、踏面勾配のそれぞれが正常値に対して2倍になった場合の修正自己回帰モデルの周波数特性の一例を示す図である。 図46は、検査装置の機能的な構成の第6の例を示す図である。 図47は、自己相関行列の固有値の分布の第2の例を示す図である。 図48は、検査装置における処理の第6の例を説明するフローチャートである。 図49は、検査装置の機能的な構成の第7の例を示す図である。 図50Aは、修正前踏面勾配の時系列データの第1の例を示す図である。 図50Bは、修正前踏面勾配の時系列データの第2の例を示す図である。 図51は、自己相関行列の固有値の分布の第3の例を示す図である。 図52Aは、修正後踏面勾配の時系列データの第1の例を示す図である。 図52Bは、修正後踏面勾配の時系列データの第2の例を示す図である。 図53は、踏面勾配補正情報の一例を示す図である。 図54は、検査装置における処理の第7の例を説明するフローチャートである。 図55は、検査システムの構成の一例を示す図である。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
<<鉄道車両>>
まず、各実施形態で例示する鉄道車両について説明する。図1Aは、鉄道車両の概略の一例を示す図である。図1Bは、台車枠および軸箱の一例を示す図である。図1Cは、鉄道車両の車体の下方の部分の構成の一例を示す図である。尚、図1A、図1B、図1Cにおいて、鉄道車両は、x軸の正の方向に進むものとする(x軸は、鉄道車両の走行方向に沿う軸である)。また、z軸は、軌道20(地面)に対し垂直方向(鉄道車両の高さ方向)であるものとする。y軸は、鉄道車両の走行方向に対して垂直な水平方向(鉄道車両の走行方向と高さ方向との双方に垂直な方向)であるものとする。また、鉄道車両は、営業車両であるものとする。尚、各図において、○の中に●が付されているものは、紙面の奥側から手前側に向かう方向を示し、○の中に×が付されているものは、紙面の手前側から奥側に向かう方向を示す。
図1A、図1Bに示すように本実施形態では、鉄道車両は、車体11と、台車12a、12bと、輪軸13a~13dとを有する。このように本実施形態では、1つの車体11に、2つの台車12a、12bと4組の輪軸13a~13dとが備わる鉄道車両を例に挙げて説明する。輪軸13a~13dは、車軸15a~15dとその両端に設けられた車輪14a~14dとを有する。本実施形態では、台車12a、12bが、ボルスタレス台車である場合を例に挙げて説明する。尚、図1A、図1Bでは、表記の都合上、輪軸13a~13dの一方の車輪14a~14dのみを示すが、輪軸13a~13dの他方にも車輪が設けられている。図1Cでは、輪軸13dの一方には車輪14dが設けられ、輪軸13dの他方には車輪14eが設けられていることを示す。このように、図1A~図1Cに示す例では、車輪は合計8個ある。図1Bでは、台車12aにおける台車枠16および軸箱17a、17bのみを示す。台車12bにおける台車枠および軸箱も図1Bに示すものと同じもので実現される。
各輪軸13a~13dのy軸に沿う方向の両側には、軸箱17a、17bが配置される。台車枠16と軸箱17a、17bは、軸箱支持装置18a、18bにより相互に結合される。図1Bに示す例では、軸箱支持装置18a、18bは、接続体181a、181b、182a、182b、183a、183bを有する。接続体181a、181b、182a、182b、183a、183bは、例えば、弾性体およびダンパである。弾性体は、例えば、バネ(コイルバネ等)またはゴムである。軸箱支持装置18a、18bは、軸箱17a、17bおよび台車枠16の間に配置される装置(サスペンション)である。軸箱支持装置18a、18bは、軌道20から鉄道車両に伝わる振動を吸収する。また、軸箱支持装置18a、18bは、軸箱17a、17bが台車枠16に対してx軸に沿う方向およびy軸に沿う方向に移動することを抑制するように軸箱17a、17bの台車枠16に対する位置を規制した状態で軸箱17a、17bを支持する。軸箱支持装置18a、18bは、各輪軸13a~13dのy軸に沿う方向の両側に配置される。
図1Cに示すように、台車枠16の上方には、枕ばり21が配置される。枕ばり21と車体11との間には、空気バネ(枕バネ)22a、22bと、左右動ダンパ23とが配置される。台車枠16と車体11との間には、ヨーダンパ24a、24bが配置される。図1Cに示す例では、接続体183c、18dとして、軸バネと軸ダンパとを示す。接続体183c、18dは、軸箱17c、17dと台車枠16との間に配置される。
図1Cでは、台車12bにおける輪軸13dに対する構成要素のみを示す。その他の輪軸13a~13cに対する構成要素も図1Cに示すものと同じもので実現される。
鉄道車両は、図1A~図1Cに示す構成要素以外の構成要素を有するが、表記の都合上、図1A~図1Cでは、当該構成要素の図示を省略する。図1A~図1Cに示す構成要素以外の構成要素は、後述する運動方程式で説明する構成要素等である。
尚、鉄道車両自体は公知の技術で実現できるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
鉄道車両が軌道20上を走行すると、車輪14a~14dと軌道20との間の作用力(クリープ力)が振動源となり、輪軸13a~13d、台車12a、12b、車体11に振動が順次伝搬する。図2は、鉄道車両の構成要素(輪軸13a~13d、台車12a、12b、車体11)の主な運動の方向を概念的に示す図である。図2に示すx軸、y軸、z軸は、それぞれ、図1に示したx軸、y軸、z軸に対応する。
図2に示すように本実施形態では、輪軸13a~13d、台車12a、12b、および車体11が、x軸を回動軸として回動する運動と、z軸を回動軸として回動する運動と、y軸に沿う方向の運動とを行う場合を例に挙げて説明する。以下の説明では、x軸を回動軸として回動する運動を必要に応じてローリングと称し、x軸を回動軸とする回動方向を必要に応じてローリング方向と称し、x軸に沿う方向を必要に応じて前後方向と称する。尚、前後方向は、鉄道車両の走行方向である。本実施形態では、x軸に沿う方向が鉄道車両の走行方向であるものとする。また、z軸を回動軸として回動する運動を必要に応じてヨーイングと称し、z軸を回動軸とする回動方向を必要に応じてヨーイング方向と称し、z軸に沿う方向を必要に応じて上下方向と称する。尚、上下方向は、軌道20に対し垂直な方向である。また、y軸に沿う方向の運動を必要に応じて横振動と称し、y軸に沿う方向を必要に応じて左右方向と称する。尚、左右方向は、前後方向(鉄道車両の走行方向)と上下方向(軌道20に対し垂直な方向)との双方に垂直な方向である。また、鉄道車両は、この他の運動も行うが、各実施形態では説明を簡単にするため、これらの運動については考慮しないものとする。しかしながら、これらの運動を考慮してもよい。
<<前後方向力>>
以下の各実施形態では、前後方向力の測定値を用いる。そこで、前後方向力について説明する。前後方向力は、軸箱支持装置18a、18bを構成する部材に生じる前後方向の力である。軸箱支持装置18a、18bは、輪軸13a~13b(13c~13d)と、当該輪軸13a~13b(13c~13d)が設けられる台車12a(12b)との間に配置される。軸箱支持装置18a、18bを構成する部材は、軸箱17a、17bを支持するための部材である。
1つの輪軸における左右の車輪のうち一方の車輪における縦クリープ力と他方の車輪における縦クリープ力との同相の成分は、ブレーキ力や駆動力に対応する成分である。従って、縦クリープ力の逆相成分に対応するように前後方向力を定めるのが好ましい。縦クリープ力の逆相成分とは、1つの輪軸における左右の車輪のうち一方の車輪における縦クリープ力と他方の車輪における縦クリープ力との相互に逆位相となる成分である。即ち、縦クリープ力の逆相成分とは、縦クリープ力の、車軸をねじる方向の成分である。この場合、前後方向力は、1つの輪軸の左右方向の両側に取り付けられた2つの前記部材に生じる力の前後方向の成分のうち、相互に逆位相となる成分となる。
以下に、縦クリープ力の逆相成分に対応するように前後方向力を定める場合の前後方向力の具体例について説明する。
軸箱支持装置が、モノリンク式の軸箱支持装置である場合、軸箱支持装置は、リンクを備えており、軸箱と台車枠とがリンクにより連結されている。このリンクの両端にはゴムブッシュが取り付けられる。この場合、前後方向力は、1つの輪軸の左右方向の端にそれぞれ1つずつ取り付けられる2つのリンクのそれぞれが受ける荷重の前後方向の成分のうち、相互に逆位相となる成分になる。また、リンクの配置および構成により、リンクは、前後方向、左右方向、上下方向の荷重のうち主に前後方向の荷重を受ける。従って、例えば、各リンクに歪ゲージを1つ取り付ければよい。この歪ゲージの測定値を用いて、当該リンクが受ける荷重の前後方向の成分を導出することにより、前後方向力の測定値を得る。また、このようにすることに替えて、リンクに取り付けられたゴムブッシュの前後方向の変位を変位計で測定してもよい。この場合、測定した変位と当該ゴムブッシュのバネ定数との積を、前後方向力の測定値とする。軸箱支持装置が、モノリンク式の軸箱支持装置である場合、前述した、軸箱を支持するための部材は、リンクまたはゴムブッシュになる。
尚、リンクに取り付けられる歪ゲージにより測定される荷重には、前後方向の成分だけでなく、左右方向の成分および上下方向の成分のうち少なくとも何れか一方の成分が含まれる場合がある。しかしながら、このような場合であっても、軸箱支持装置の構造上、リンクが受ける左右方向の成分の荷重および上下方向の成分の荷重は、前後方向の成分の荷重に比べて十分に小さい。従って、各リンクに歪ゲージを1つ取り付けるだけで、実用上要求される精度を有する前後方向力の測定値を得ることができる。このように、前後方向力の測定値には、前後方向の成分以外の成分が含まれることがある。従って、上下方向および左右方向の歪みがキャンセルされるように3つ以上の歪ゲージを各リンクに取り付けてもよい。このようにすれば、前後方向力の測定値の精度を向上させることができる。
軸箱支持装置が、軸はり式の軸箱支持装置である場合、軸箱支持装置は、軸はりを備えており、軸箱と台車枠とが、軸はりにより連結されている。軸はりは、軸箱と一体に構成されていてもよい。この軸はりの台車枠側の端にはゴムブッシュが取り付けられる。この場合、前後方向力は、1つの輪軸の左右方向の端にそれぞれ1つずつ取り付けられる2つの軸はりのそれぞれが受ける荷重の前後方向の成分のうち、相互に逆位相となる成分になる。また、軸はりの配置構成により、軸はりは、前後方向、左右方向、上下方向の荷重のうち前後方向の荷重に加えて、左右方向の荷重も受けやすい。従って、例えば、左右方向の歪みがキャンセルされるように2つ以上の歪ゲージを各軸はりに取り付ける。これらの歪ゲージの測定値を用いて、軸はりが受ける荷重の前後方向の成分を導出することにより、前後方向力の測定値を得る。また、このようにすることに替えて、軸はりに取り付けられたゴムブッシュの前後方向の変位を変位計で測定してもよい。この場合、測定した変位と当該ゴムブッシュのバネ定数との積を、前後方向力の測定値とする。軸箱支持装置が、軸はり式の軸箱支持装置である場合、前述した、軸箱を支持するための部材は、軸はりまたはゴムブッシュになる。
尚、軸はりに取り付けられる歪ゲージにより測定される荷重には、前後方向および左右方向の成分だけでなく、上下方向の成分が含まれる場合がある。しかしながら、このような場合であっても、軸箱支持装置の構造上、軸はりが受ける上下方向の成分の荷重は、前後方向の成分の荷重および左右方向の成分の荷重に比べて十分に小さい。従って、軸はりが受ける上下方向の成分の荷重をキャンセルするように歪ゲージを取り付けなくても、実用上要求される精度を有する前後方向力の測定値を得ることができる。このように、計測された前後方向力には、前後方向の成分以外の成分が含まれることがあり、左右方向の歪みに加えて上下方向の歪みもキャンセルされるように3つ以上の歪ゲージを各軸はりに取り付けてもよい。このようにすれば、前後方向力の測定値の精度を向上させることができる。
軸箱支持装置が、板バネ式の軸箱支持装置である場合、軸箱支持装置は、板バネを備えており、軸箱と台車枠とが、板バネにより連結されている。この板バネの端にはゴムブッシュが取り付けられる。この場合、前後方向力は、1つの輪軸の左右方向の端にそれぞれ1つずつ取り付けられる2つの板バネのそれぞれが受ける荷重の前後方向の成分のうち、相互に逆位相となる成分になる。また、板バネの配置構成により、板バネは、前後方向、左右方向、上下方向の荷重のうち前後方向の荷重に加えて、左右方向の荷重および上下方向の荷重も受けやすい。従って、例えば、左右方向および上下方向の歪みがキャンセルされるように3つ以上の歪ゲージを各板バネに取り付ける。これらの歪ゲージの測定値を用いて、板バネが受ける荷重の前後方向の成分を導出することにより、前後方向力の測定値を得る。また、このようにすることに替えて、板バネに取り付けられたゴムブッシュの前後方向の変位を変位計で測定してもよい。この場合、測定した変位と当該ゴムブッシュのバネ定数との積を、前後方向力の測定値とする。軸箱支持装置が、板バネ式の軸箱支持装置である場合、前述した、軸箱を支持するための部材は、板バネまたはゴムブッシュになる。
尚、前述した変位計としては、公知のレーザ変位計や渦電流式の変位計を用いることができる。
また、ここでは、軸箱支持装置の方式が、モノリンク式、軸はり式、および板バネ式である場合を例に挙げて、前後方向力を説明した。しかしながら、軸箱支持装置の方式は、モノリンク式、軸はり式、および板バネ式に限定されない。軸箱支持装置の方式に合わせて、モノリンク式、軸はり式、および板バネ式と同様に、前後方向力を定めることができる。
また、以下では、説明を簡単にするために、1つの輪軸について1つの前後方向力の測定値が得られる場合を例に挙げて説明する。即ち、図1に示す鉄道車両は、4つの輪軸13a~13dを有する。従って、4つの前後方向力T~Tの測定値が得られる。
<<第1の実施形態>>
次に、第1の実施形態を説明する。
(知見)
本発明者らは、前後方向力の測定値を用いることにより、台車枠16と輪軸13a~13dまたは車体11との間に配置される部材が正常であるか否かを正確に検査することができることを見出した。当該部材は、以下の(a)または(b)の何れかである。
(a) 当該部材は、台車枠16と輪軸13a~13dまたは車体11との間において、台車枠16と輪軸13a~13dとの少なくとも一方と、直接または他の部材を介して接続される部品である。
(b) 当該部材は、台車枠16と輪軸13a~13dまたは車体11との間において、台車枠16と車体11との少なくとも一方と、直接または他の部品を介して接続される部材である。
また、当該部材は、当該部材に接続される第1の部材から受けた力を当該部材に接続される第2の部材に伝達することを目的として配置される。第1~第5の実施形態では、台車枠16と輪軸13a~13dまたは車体11との間に配置される部材を、必要に応じて検査対象部材と称する。
前後方向力T~Tの測定値を用いることにより、検査対象部材が正常であるか否かを検査することができる理由について説明する。
本発明者らは、鉄道車両の走行時における運動を記述する運動方程式を、前後方向力T~Tを用いて表現すると、台車12a、12bの運動を記述する運動方程式において、検査対象部材の特性や動きの変化が、前後方向力T~Tに反映されることを見出した。
以下に、鉄道車両が21自由度を有するものとした場合の、鉄道車両の走行時における台車12a、12bおよび輪軸13a~13dの運動を記述する運動方程式を示す。即ち、輪軸13a~13dが、左右方向における運動(横振動)とヨーイング方向における運動(ヨーイング)とを行うものとする(2×4セット=8自由度)。また、台車12a、12bが、左右方向における運動(横振動)とヨーイング方向における運動(ヨーイング)とローリング方向における運動(ローリング)とを行うものとする(3×2セット=6自由度)。また、車体11が、左右方向における運動(横振動)とヨーイング方向における運動(ヨーイング)とローリング方向における運動(ローリング)とを行うものとする(3×1セット=3自由度)。また、台車12a、12bに対してそれぞれ設けられている空気バネ22a、22bが、ローリング方向における運動(ローリング)を行うものとする(1×2セット=2自由度)。また、台車12a、12bに対してそれぞれ設けられているヨーダンパが、ヨーイング方向における運動(ヨーイング)を行うものとする(1×2セット=2自由度)。
以下の各式において、添え字wは、輪軸13a~13dを表す。添え字w(のみ)が付されている変数は、輪軸13a~13dで共通であることを表す。添え字iは、輪軸13a、13b、13c、13dを識別するための記号である。従って、添え字iが付されている運動方程式は、輪軸13a、13b、13c、13dのそれぞれについて存在する(4つの運動方程式により表現される)。
添え字tは、台車12a、12bを表す。添え字t(のみ)が付されている変数は、台車12a、12bで共通であることを表す。添え字jは、台車12a、12bを識別するための記号である。従って、添え字jが付されている運動方程式は、台車12a、12bのそれぞれについて存在する(2つの運動方程式により表現される)。
添え字bは、車体11であることを表す。
添え字xは、前後方向またはローリング方向を表し、添え字yは、左右方向を表し、添え字zは、上下方向またはヨーイング方向を表す。
また、変数の上に付している「・・」、「・」はそれぞれ、2階時間微分、1階時間微分を表す。
尚、以下の運動方程式の説明に際し、必要に応じて、既出の変数の説明を省略する。また、車体11の運動を記述する運動方程式には、検査対象部材の変化が、前後方向力T~Tに反映される部分がない。そこで、ここでは、車体11の運動を記述する運動方程式の説明を省略する。
[台車の横振動]
台車12a、12bの横振動(左右方向における運動)を記述する運動方程式は、以下の(1)式で表される。
Figure 0007024874000001
は、台車12aまたは12bの質量である。ytj・・は、台車12aまたは12bの左右方向における加速度である(式において・・はytjの上に付される(以下、その他の変数についても同様))。c´は、左右動ダンパの減衰係数である。ytj・は、台車12aまたは12bの左右方向における速度である。hは、台車12aまたは12bの重心と左右動ダンパとの上下方向における距離である。φtj・は、台車12aまたは12bのローリング方向における角速度である(式において・はφtjの上に付される(以下、その他の変数についても同様))。y・は、車体11の左右方向における速度である。+の下に-が付されている記号は、台車12aに対する運動方程式には+を採用し、台車12bに対する運動方程式には-を採用することを示す。
Lは、台車12aまたは12bの中心間の前後方向における間隔の1/2を表す(台車12aまたは12bの中心間の前後方向における間隔は2Lになる)。-の下に+が付されている記号は、台車12aに対する運動方程式には-を採用し、台車12bに対する運動方程式には+を採用することを示す。dxは、車体11の重心の前後方向における偏芯量である。ψ・は、車体11のヨーイング方向における角速度である。hは、左右動ダンパと車体11の重心との間の上下方向における距離である。φ・は、車体11のローリング方向における角速度である。
wyは、軸箱支持装置18a、18bの左右方向における減衰係数である。hは、車軸の中心と台車12aの重心との上下方向における距離である。ywi・は、輪軸13aまたは13cの左右方向における速度である(輪軸13aは台車12aに対する運動方程式に適用され、輪軸13cは台車12bに対する運動方程式に適用される。このことは、その他の説明においても同じである)。ywi+1・は、輪軸13bまたは13dの左右方向における速度である(輪軸13bは台車12aに対する運動方程式に適用され、輪軸13dは台車12bに対する運動方程式に適用される。このことは、その他の説明においても同じである)。
k´は、空気バネ22a、22bの左右方向のバネ定数である。ytjは、台車12aまたは12bの左右方向における変位である。hは、台車12aまたは12bの重心と空気バネ22a、22bの中心との間の上下方向における距離である。φtjは、台車12aまたは12bのローリング方向における回動量(角変位)である。yは、車体11の左右方向における変位である。ψは、車体11のヨーイング方向における回動量(角変位)である。hは、空気バネ22a、22bの中心と車体11の重心との間の上下方向における距離である。φは、車体11のローリング方向における回動量(角変位)である。Kwyは、軸箱支持装置18a、18bの左右方向のバネ定数である。hは、車軸の中心と台車12aの重心との上下方向における距離である。ywiは、輪軸13aまたは13cの左右方向における変位である。ywi+1は、輪軸13bまたは13dの左右方向における変位である。
saは、車軸15a~15dの中心から軸箱支持バネまでの前後方向におけるオフセット量である。ψwi・は、輪軸13aまたは13cのヨーイング方向における角速度である。ψwi+1・は、輪軸13bまたは13dのヨーイング方向における角速度である。aは、台車12a、12bに設けられている輪軸13a・13b、13c・13d間の前後方向における距離の1/2を表す(台車12a、12bに設けられている輪軸13a・13b、13c・13d間の距離は2aになる)。1/R・は、輪軸13aまたは13cの位置の軌条(レール)20a、20bの曲率の時間微分値である。1/Ri+1・は、輪軸13bまたは13dの位置の軌条20a、20bの曲率の時間微分値である。
ψwiは、輪軸13aまたは13cのヨーイング方向における回動量(角変位)である。ψwi+1は、輪軸13bまたは13dのヨーイング方向における回動量(角変位)である。1/Rは、輪軸13aまたは13cの位置の軌条20a、20bの曲率である。1/Ri+1は、輪軸13bまたは13dの位置の軌条20a、20bの曲率である。
vは、鉄道車両の走行速度である。Rは、輪軸13aまたは13cの位置の軌条20a、20bの曲率半径である。Ri+1は、輪軸13bまたは13dの位置の軌条20a、20bの曲率半径である。φrailiは、輪軸13aまたは13cの位置の軌条20a、20bのカント角である。φraili+1は、輪軸13bまたは13dの位置の軌条20a、20bのカント角である。gは、重力加速度である。
・台車のヨーイング
台車12a、12bのヨーイングを記述する運動方程式は、以下の(2)式で表される。
Figure 0007024874000002
Tzは、台車12aまたは12bのヨーイング方向における慣性モーメントである。ψtj・・は、台車12aまたは12bのヨーイング方向における角加速度である。
wxは、軸箱支持装置18a、18bの前後方向の減衰係数である。bは、軸箱支持装置18a、18bの左右方向における間隔の1/2の長さを表す(1つの輪軸に対して左右に設けられている2つの軸箱支持装置18a、18bの左右方向における間隔は2bになる)。ψwi・は、輪軸13aまたは13cのヨーイング方向における角速度である。ψtj・は、台車12aまたは12bのヨーイング方向における角速度である。Kwxは、軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数である。ψtjは、台車12aまたは12bのヨーイング方向における回動量(角変位)である。
ψwi+1・は、輪軸13bまたは13dのヨーイング方向における角速度である。
k´は、ヨーダンパのゴムブッシュの剛性である。b´は、台車12a、12bに対し左右に配置された2つのヨーダンパの左右方向における間隔の1/2を表す(台車12a、12bに対し左右に配置された2つのヨーダンパの左右方向における間隔は2b´になる)。ψyjは、台車12a、12bに対し左右に配置されたヨーダンパのヨーイング方向における回動量(角変位)である。kは、ボルスタアンカ支持剛性である。bは、ボルスタアンカの中心間隔の1/2を表す。k´´は、空気バネ22a、22bの前後方向のバネ定数である。bは、台車12a、12bに対し左右に配置された2つの空気バネ22a、22bの左右方向における間隔の1/2を表す(台車12a、12bに対し左右に配置された2つの空気バネ22a、22bの左右方向における間隔は2bになる)。
・台車のローリング
台車12a、12bのローリングを記述する運動方程式は、以下の(3)式で表される。
Figure 0007024874000003
Txは、台車12aまたは12bのローリング方向における慣性モーメントである。φtj・・は、台車12aまたは12bのローリング方向における角加速度である。
は、軸ダンパの上下方向の減衰係数である。b´は、台車12a、12bに対し左右に配置された2つの軸ダンパの左右方向における間隔の1/2を表す(台車12a、12bに対し左右に配置された2つの軸ダンパの左右方向における間隔は2b´になる)。cは、空気バネ22a、22bの上下方向の減衰係数である。φaj・は、台車12aまたは12bに配置された空気バネ22a、22bのローリング方向における角速度である。
は、軸バネの上下方向のバネ定数である。λは、空気バネ22a、22bの本体の容積を補助空気室の容積で割った値である。kは、空気バネ22a、22bの上下方向のバネ定数である。φa1は、台車12aに配置された空気バネ22a、22bのローリング方向における回動量(角変位)である。φajは、台車12aまたは12bに配置された空気バネ22a、22bのローリング方向における回動量(角変位)である。
は、空気バネ22a、22bの有効受圧面積の変化による等価剛性である。
以上が、台車12a、12bの運動を記述する運動方程式である。
・輪軸の横振動
輪軸13a~13dの横振動を記述する運動方程式は、以下の(4)式で表される。
Figure 0007024874000004
wは、輪軸13a、13b、13c、または13dの質量である。ywi・・は、輪軸13a~13dの左右方向における加速度である。ψwi・は、輪軸13a~13dのヨーイング方向における角速度である。ywiは、輪軸13a~13dの左右方向における変位である。ψwiは、輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位)である。ywi・は、輪軸13a~13dの左右方向における速度である。f2_iは、輪軸13a~13dにおける横クリープ係数である。f3_iは、輪軸13a~13dにおけるスピンクリープ係数である。KL 3_iは、輪軸13a~13dの左側(左側の車輪)におけるカルカー係数である。カルカー係数は、カルカーの線形理論で求まるクリープ係数である。NL iは、輪軸13a~13dの左側(左側の車輪)における法線荷重である。εL iは、輪軸13a~13dの左側(左側の車輪)における{1+(Fre/(μNL i))n-1/nで定義される物理量である。Freは縦クリープ力と横クリープ力の合力であり、μは摩擦係数である。nは或る定数であり、ここでは2.0と設定した。NL stは、輪軸13a~13dの左側(左側の車輪)における静的法線荷重である。αL iは、輪軸13a~13dの左側(左側の車輪)における接触角である。尚、接触角は、車輪と軌条との接触位置での接平面と水平面(左右方向(y軸方向)の面)とのなす角度のうち小さい方の角度(鋭角)である。KR 3_iは、輪軸13a~13dの右側(右側の車輪)におけるカルカー係数と呼ばれるカルカーの線形理論で求まるクリープ係数である。NR iは、輪軸13a~13dの右側(右側の車輪)における法線荷重である。εR iは、輪軸13a~13dの側(側の車輪)における{1+(Fre/(μNR i))n-1/nで定義される物理量である。NR stは、輪軸13a~13dの右側(右側の車輪)における静的法線荷重である。αR iは、輪軸13a~13dの右側(右側の車輪)における接触角である。
・輪軸のヨーイング
輪軸13a~13dのヨーイングを記述する運動方程式は、以下の(5)式で表される。
Figure 0007024874000005
wzは、輪軸13a~13dのヨーイング方向における慣性モーメントである。ψwi・・は、輪軸13a~13dのヨーイング方向における角加速度である。f1_iは、輪軸13a~13dにおける縦クリープ係数である。γは、踏面勾配である。rは、車輪14a~14dの半径である。yRiは、輪軸13a~13dの位置での通り狂い量である。
次に、輪軸13a~13dにおける前後方向力T~Tは、以下の(6)式~(9)式で表される。このように、前後方向力T~Tは、輪軸のヨーイング方向の角変位ψw1~ψw4と、当該輪軸が設けられる台車のヨーイング方向の角変位ψt1~ψt2との差に応じて定まる。
Figure 0007024874000006
以下の(10)式~(13)式のように、台車12a、12bのヨーイング方向の角変位ψt1~ψt2と輪軸13a~13dのヨーイング方向の角変位ψw1~ψw4との差を変換変数e~eと定義する。
Figure 0007024874000007
(6)式~(9)式をそれぞれ、(10)式~(13)式に代入すると、以下の(14)式~(17)式のように、変換変数e~eに関する常微分方程式が得られる。
Figure 0007024874000008
(14)式~(17)式の解(e~e)を求めて、(10)式~(13)式に代入して、以下の(18)式~(21)式のように、輪軸13a~13dのヨーイング方向の角変位ψw1~ψw4を定める。
Figure 0007024874000009
そして、(18)式~(21)式を(1)式に代入すると、台車12a、12bの横振動(左右方向における運動)を記述する運動方程式である(1)式は、以下の(22)式のように、前後方向力T~Tを含む運動方程式に書き換えられる。
Figure 0007024874000010
また、(18)式~(21)式を(2)式に代入すると、台車12a、12bのヨーイングを記述する運動方程式である(2)式は、以下の(23)式のように、前後方向力T~Tを含む運動方程式に書き換えられる。
Figure 0007024874000011
また、(18)式~(21)式を(3)式に代入すると、台車12a、12bのローリングを記述する運動方程式である(3)式は、以下の(24)式のように、前後方向力T~Tを含む運動方程式に書き換えられる。
Figure 0007024874000012
また、(18)式~(21)式を(4)式に代入すると、輪軸13a~13dの横振動を記述する運動方程式である(4)式は、以下の(25)式のように、前後方向力T~Tを含む運動方程式に書き換えられる。ただし、輪軸13a~13dにおける横圧Qを用いてかかる運動方程式を記述している。尚、輪軸13a~13dにおける横圧Qは、当該輪軸に属する左右の車輪14L、14Rにおける横圧Q 、Q の和として表現できるので、以下の(26)式の関係を有するものである。F は、輪軸13a~13dの左側(左側の車輪)における横クリープ力である。F は、輪軸13a~13dの右側(右側の車輪)における横クリープ力である。
Figure 0007024874000013
また、(18)式~(21)式を(5)式に代入すると、輪軸13a~13dのヨーイングを記述する運動方程式である(5)式は、以下の(27)式のように、前後方向力T~Tを含む運動方程式に書き換えられる。
Figure 0007024874000014
(14)式、(15)式、(16)式、(17)式の左辺の破線で示す部分は、軸箱17a、17bの前後方向のダンピング量と剛性量の和を示しており、これらが変化すると、その影響は、前後方向力T~Tに直接現れる。
(22)式の右辺の1つ目の破線で示す部分は、左右動ダンパ23の剛性量を表し、同式の右辺の2つ目の破線で示す部分は、空気バネ22a、22bの左右方向における剛性量を表す。従って、左右動ダンパ23の剛性量や、空気バネ22a、22bの左右方向における剛性量が変化すると、その影響は、前後方向力T~Tに現れる。尚、剛性量は、バネ定数に対応する。
また、(23)式の右辺の1つ目の破線で示す部分は、ヨーダンパ24a、24bのゴムブッシュの剛性量を表し、同式の右辺の2つ目の破線で示す部分は、空気バネ22a、22bの前後方向における剛性量を表す。従って、ヨーダンパ24a、24bのゴムブッシュの剛性量や、空気バネ22a、22bの前後方向における剛性量が変化すると、その影響は、前後方向力T~Tに現れる。
(24)式の右辺の1つ目の破線で示す部分は、空気バネ22a、22bの上下方向におけるダンピング量を表し、同式の右辺の2つ目の破線で示す部分は、左右動ダンパ23のダンピング量を表し、同式の右辺の3つ目の破線で示す部分は、空気バネ22a、22bの上下方向における剛性量を表し、同式の右辺の4つ目の破線で示す部分は、空気バネ22a、22bの左右方向における剛性量を表す。ダンピング量は、減衰係数に対応する。
従って、軸箱17a、17bの前後方向におけるダンピング量・剛性量、空気バネ22a、22bの上下方向におけるダンピング量、左右動ダンパ23のダンピング量、空気バネ22a、22bの上下方向における剛性量、および空気バネ22a、22bの左右方向における剛性量の少なくとも1つが変化すると、その影響は、前後方向力T~Tに現れる。
(25)式の右辺の1つ目の破線で示す部分は、軸箱支持装置18a、18bの左右方向の剛性量を表し、同式の右辺の2つ目の破線で示す部分は、軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性量を表す。従って、軸箱支持装置18a、18bの左右方向の剛性量、および、軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性量の少なくとも1つが変化すると、その影響は、前後方向力T~Tに現れる。
(27)式の右辺の破線で示す部分は、軸箱支持装置18a、18bの前後方向、左右方向の剛性量を表す。従って、軸箱支持装置18a、18bの左右方向の剛性量、および、軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性量の少なくとも1つが変化すると、その影響は、前後方向力T~Tに現れる。
そして、車体1の運動を記述する運動方程式には、以上のような書き換えを行っても、前後方向力T1~T4は現れない。このことは、車体1の状態は、前後方向力T1~T4に反映されないことを表す。
以上のことから、本発明者らは、前後方向力T~Tの測定値を用いれば、検査対象部材が異常であるか否かを正確に検出することができることを見出した。前述した運動方程式の例では、検査対象部材のバネ定数および減衰係数の少なくとも一方が異常であるか否かを正確に検出することができる。前述した運動方程式の例では、検査対象部材は、軸箱17a、17b、左右動ダンパ23、ヨーダンパ24a、24b、空気バネ22a、22b、および軸箱支持装置18a、18bの少なくとも何れか1つである。本実施形態は、以上の知見に基づいてなされたものである。
(検査装置300の構成)
図3は、検査装置300の機能的な構成の一例を示す図である。図4は、検査装置300のハードウェアの構成の一例を示す図である。
図3において、検査装置300は、その機能として、データ取得部301、記憶部302、検査部303、および出力部304を有する。
図4において、検査装置300は、CPU401、主記憶装置402、補助記憶装置403、通信回路404、信号処理回路405、画像処理回路406、I/F回路407、ユーザインターフェース408、ディスプレイ409、およびバス410を有する。
CPU401は、検査装置300の全体を統括制御する。CPU401は、主記憶装置402をワークエリアとして用いて、補助記憶装置403に記憶されているプログラムを実行する。主記憶装置402は、データを一時的に格納する。補助記憶装置403は、CPU401によって実行されるプログラムの他、各種のデータを記憶する。記憶部302は、例えば、CPU401および補助記憶装置403を用いることにより実現される。
通信回路404は、検査装置300の外部との通信を行うための回路である。通信回路404は、例えば、後述する前後方向力の測定値の情報を受信する。通信回路404は、検査装置300の外部と無線通信を行っても有線通信を行ってもよい。通信回路404は、無線通信を行う場合、鉄道車両に設けられるアンテナに接続される。
信号処理回路405は、通信回路404で受信された信号や、CPU401による制御に従って入力した信号に対し、各種の信号処理を行う。データ取得部301は、例えば、CPU401、通信回路404、および信号処理回路405を用いることにより実現される。また、検査部303は、例えば、CPU401および信号処理回路405を用いることにより実現される。
画像処理回路406は、CPU401による制御に従って入力した信号に対し、各種の画像処理を行う。この画像処理が行われた信号は、ディスプレイ409に出力される。
ユーザインターフェース408は、オペレータが検査装置300に対して指示を行う部分である。ユーザインターフェース408は、例えば、ボタン、スイッチ、およびダイヤル等を有する。また、ユーザインターフェース408は、ディスプレイ409を用いたグラフィカルユーザインターフェースを有していてもよい。
ディスプレイ409は、画像処理回路406から出力された信号に基づく画像を表示する。I/F回路407は、I/F回路407に接続される装置との間でデータのやり取りを行う。図4では、I/F回路407に接続される装置として、ユーザインターフェース408およびディスプレイ409を示す。しかしながら、I/F回路407に接続される装置は、これらに限定されない。例えば、可搬型の記憶媒体がI/F回路407に接続されてもよい。また、ユーザインターフェース408の少なくとも一部およびディスプレイ409は、検査装置300の外部にあってもよい。
出力部304は、例えば、通信回路404および信号処理回路405と、画像処理回路406、I/F回路407、およびディスプレイ409との少なくとも何れか一方を用いることにより実現される。
尚、CPU401、主記憶装置402、補助記憶装置403、信号処理回路405、画像処理回路406、およびI/F回路407は、バス410に接続される。これらの構成要素間の通信は、バス410を介して行われる。また、検査装置300のハードウェアは、後述する検査装置300の機能を実現することができれば、図4に示すものに限定されない。
[データ取得部301]
データ取得部301は、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値を含む入力データを所定のサンプリング周期で取得する。これにより、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値の時系列データが得られる。前後方向力の測定方法は、前述した通りである。以下の説明では、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値を、必要に応じて、検査測定値と称する。
[記憶部302]
記憶部302は、検査部303による判定に必要な情報を記憶する。
本実施形態では、記憶部302は、正常な鉄道車両を検査区間において走行させることにより正常な鉄道車両において事前に測定された検査区間の各位置における前後方向力T~Tの測定値を予め記憶する。以下の説明では、正常な鉄道車両を検査区間において走行させることにより正常な鉄道車両において事前に測定された前後方向力T~Tの測定値を、必要に応じて、基準測定値と称する。ここで、正常な鉄道車両とは、検査対象部材を含め、車両基地等で行われる検査において異常が確認されていない鉄道車両や、新品の鉄道車両(営業運行を開始する前の鉄道車両)をいう。後述する本実施形態の手法で検査する前に、車両基地等で行われる検査により検査対象の鉄道車両に異常がないことを確認した場合、当該鉄道車両を正常な鉄道車両として、当該鉄道車両において基準測定値を得てもよい。
後述するように本実施形態では、検査測定値と基準測定値とを比較する。検査区間は、鉄道車両の走行区間のうち、検査測定値と基準測定値との比較を行う区間を指す。尚、検査区間は、鉄道車両の走行区間の全区間とすることもできる。検査測定値および基準測定値は、<<前後方向力>>の項で説明したようにして得られる。検査区間の各位置は、基準測定値を測定したときの鉄道車両の走行位置から得られる。鉄道車両の走行位置は、例えば、GPS(Global Positioning System)を用いて各時刻における鉄道車両の位置を検出することにより得られる。また、鉄道車両の走行位置は、鉄道車両の各時刻における速度の積算値等から求めてもよい。
前述したように本実施形態では、検査測定値と基準測定値とを比較する。このため、検査測定値を得たときの条件と可及的に近い条件の基準測定値を、当該検査測定値と比較するのが好ましい。そこで、本実施形態では、検査区間の各位置における基準測定値は、鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度毎に分類されて記憶部302に記憶される。
基準測定値は、例えば、車両形式、編成、検査区間、および検査速度毎に分類されて記憶部302に記憶される。尚、ここでいう車両形式には、車両形式に含まれる情報のうち、製造番号等の鉄道車両に固有の情報は含まれないものとする。車両形式および編成は、鉄道車両の種類の一例である。検査速度は、鉄道車両の検査区間における速度を指す。例えば、検査速度は、検査区間に進入するときの鉄道車両の走行速度とすることができる。また、検査速度は、検査区間における制限速度であってもよい。
尚、以上のような基準測定値の分類は、検査装置300(記憶部302)で行うことができる。この場合、検査装置300(記憶部302)が、分類前の基準測定値を取得する。また、以上のようにして分類された基準測定値を、検査装置300(記憶部302)が取得して記憶してもよい。この場合、検査装置300とは別の装置で、基準測定値の取得と、分類とが行われる。
また、検査装置300が搭載される検査対象の鉄道車両についての検査区間の各位置における基準測定値のみを、当該検査装置300の記憶部302に記憶させる場合がある。また、検査装置300が搭載される検査対象の鉄道車両と同じ種類の鉄道車両についての検査区間の各位置における基準測定値のみを、当該検査装置300の記憶部302に記憶させる場合がある。これらの場合には、種類毎に分類して基準測定値を記憶部302に記憶させる必要はない。
また、特許文献5に記載されているように、検査区間の各位置における基準測定値は、検査区間の軌道の状態によっても変化し得る。従って、検査測定値を得たときの軌道の状態と、基準測定値を得たときの軌道の状態とは可及的に近いのが好ましい。そこで、基準測定値を、定期的に更新するのが好ましい。基準測定値を得た時刻が、検査測定値を得た時刻に近くなるようにすることができるからである。また、検査区間の軌道の状態が、基準測定値を得たときの軌道の状態と同じまたは同じと見なせることを確認した上で、検査対象の鉄道車両を検査区間に対し走行させて検査を行うようにしてもよい。
また、前述のように基準測定値を定期的に更新する場合、車両基地等で行われる検査において異常が確認されていない鉄道車両や、新品の鉄道車両(営業運行を開始する前の鉄道車両)が存在するとは限らない。そこで、正常な鉄道車両を以下のように定めてもよい。まず、営業運行を行っている鉄道車両であって、種類が同一の鉄道車両により、同一の検査区間および同一の検査速度における前後方向力の測定値を複数取得する。検査区間の各位置における前後方向力の測定値であって、他の鉄道車両の測定値と近い値の測定値を多数有する鉄道車両を、正常な鉄道車両とみなす。より具体的には、例えば、検査区間の各位置における前後方向力の測定値をベクトルとみなす。複数のベクトル(前後方向力の測定値)を統計学的手法であるクラスター分析を用いて分類する。最も多くのベクトルからなるクラスターに属するベクトル(前後方向力の測定値)が取得された鉄道車両を、正常な鉄道車両とみなす。このようにして正常な鉄道車両を定めることにより、後述する検査部303において、検査区間の各位置における基準測定値の選択ができないことを抑制することができる。従って、検査ができない事態を抑制することができる。
[検査部303]
検査部303は、検査対象の鉄道車両の検査対象部材を検査する。検査部303は、その機能として判定部303aを有する。
<判定部303a>
本実施形態では、判定部303aは、検査測定値と、基準測定値とを比較した結果に基づいて、検査対象の鉄道車両の検査対象部材が正常であるか否かを判定する。
判定部303aにおける処理の具体例を説明する。
記憶部302には、検査区間の各位置における基準測定値が、鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度毎に分類されて記憶されている。判定部303aは、検査対象の鉄道車両が検査区間に入ると、検査装置300が搭載されている検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度と同じ内容で分類されて記憶部302に記憶されている基準測定値を選択する。検査装置300が搭載されている検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度は、検査装置300に対して予め設定されているものとする。
検査装置300が搭載されている検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度と同じ内容で分類されて記憶部302に記憶されている基準測定値が記憶部302にない場合がある。この場合、判定部303aは、検査装置300が搭載されている検査対象の鉄道車両の種類および検査区間が同じであり、且つ、当該検査対象の鉄道車両の検査速度との差が、予め設定されている閾値以下の検査速度で分類されて記憶部302に記憶されている基準測定値を選択する。
以上のようして検査区間の各位置における基準測定値の選択ができない場合、判定部303aは、当該検査区間では、検査ができないと判定する。
一方、検査区間の各位置における基準測定値の選択ができた場合、判定部303aは、検査測定値を測定した時刻における鉄道車両の走行位置を特定する。検査測定値を測定した時刻における鉄道車両の走行位置は、GPS(Global Positioning System)を用いて当該時刻における鉄道車両の位置を検出することにより得られる。また、当該時刻における鉄道車両の走行位置は、鉄道車両の各時刻における速度の積算値等から求めてもよい。
次に、判定部303aは、前述したようにして選択した検査区間の各位置における基準測定値から、前述したようにして特定した鉄道車両の走行位置に対応する基準測定値を読み出す。そして、判定部303aは、検査区間の同じ位置における、検査測定値および基準測定値の差の絶対値を算出する。尚、本実施形態では、4つの輪軸13a~13dについての前後方向力T~Tが得られる。従って、基準測定値および検査測定値は、これら4つの輪軸13a~13dのそれぞれについて4つずつ得られる。検査測定値および基準測定値の差の絶対値は、同じ輪軸についてのものについてそれぞれ求められる。
次に、判定部303aは、検査区間の同じ位置における、検査測定値および基準測定値の差の絶対値が、予め設定されている閾値を上回るか否かを判定する。判定部303aは、検査区間の同じ位置における、検査測定値および基準測定値の差の絶対値が閾値を上回る場合、検査対象部材が正常ではないと判定し、そうでない場合、検査対象部材が正常であると判定する。このとき、判定部303aは、前後方向力T、Tの少なくとも何れか1つについての、検査測定値および基準測定値の差の絶対値が閾値を上回る場合、台車12aと車体11との間に配置される検査対象部材が正常ではないと判定する。また、判定部303aは、前後方向力T、Tの少なくとも何れか1つについての、検査測定値および基準測定値の差の絶対値が閾値を上回る場合、台車12bと車体11との間に配置される検査対象部材が正常ではないと判定する。
判定部303aは、検査測定値および基準測定値の差の絶対値の算出と、当該絶対値が閾値を上回るか否かの判定を、検査対象の鉄道車両が検査区間に入ってから出るまでの間、検査測定値が得られる度に繰り返し行う。
[出力部304]
出力部304は、検査部303により判定された結果を示す情報を出力する。具体的に出力部304は、検査部303により、検査対象部材が正常ではないと判定された場合には、そのことを示す情報を出力する。このとき、出力部304は、正常ではないと判定された検査対象部材が、台車12a、12bの何れに属する部材であるかを示す情報も併せて出力する。また、検査部303により、検査区間では検査ができないと判定された場合、そのことを示す情報を出力する。出力の形態としては、例えば、コンピュータディスプレイへの表示、外部装置への送信、および内部または外部の記憶媒体への記憶の少なくとも何れか1つを採用することができる。
(シミュレーションの結果)
本発明者らは、検査区間を走行する鉄道車両において、検査対象部材が正常でなくなると、前後方向力T~Tの測定値が正常な場合の値から変化することをシミュレーションにより確認した。ここでは、検査対象部材として、左右動ダンパ23およびヨーダンパ24a、24bを例に挙げて説明する。
図5は、検査区間における軌条20a、20bの曲率の一例を示す図である。図5において、距離0は、検査区間の開始地点を示す(このことは他の図でも同じである)。図6~図12では、図5に示す検査区間におけるシミュレーションの結果の一例を示す。
図6は、鉄道車両が正常であると想定した場合の前後方向力T~Tの測定値(基準測定値)に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。ここでは、鉄道車両が270km/hで検査区間を走行するものとした。
図7は、前側の台車12aの左右動ダンパ23が故障したと想定した場合の前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。図7では、前側の台車12aの左右動ダンパ23の減衰係数を正常時の0.5倍としてシミュレーションを行った結果を示す。
図8は、後ろ側の台車12bの左右動ダンパ23が故障したと想定した場合の前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。図8では、後ろ側の台車12bの左右動ダンパ23の減衰係数を正常時の0.5倍としてシミュレーションを行った結果を示す。
図9は、前側の台車12aの左側のヨーダンパ24aが故障したと想定した場合の前後方向力T1~T4の測定値に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。図9では、前側の台車12aの左側のヨーダンパ24aの減衰係数を正常時の0.5倍としてシミュレーションを行った結果を示す。
図10は、後ろ側の台車12bの左側のヨーダンパ24aが故障したと想定した場合の前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。図10では、後ろ側の台車12bの左側のヨーダンパ24aの減衰係数を正常時の0.5倍としてシミュレーションを行った結果を示す。
図6~図10において、Tは、前側の台車12aの前側の輪軸13aについての前後方向力Tを示す。Tは、前側の台車12aの後ろ側の輪軸13bについての前後方向力Tを示す。Tは、後ろ側の台車12bの前側の輪軸13cについての前後方向力Tを示す。Tは、後ろ側の台車12bの後ろ側の輪軸13dについての前後方向力Tを示す。
図11は、前側の台車12aの左右動ダンパ23が故障したと想定した場合の前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果(図7)と、鉄道車両が正常であると想定した場合の前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果(図6)との差分を示す図である。
図12は、前側の台車12aの左側のヨーダンパ24aが故障したと想定した場合の前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果(図9)と、鉄道車両が正常であると想定した場合の前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果(図6)との差分を示す図である。
図11~図12において、ΔTは、前側の台車12aの前側の輪軸13aについての前後方向力Tの(同位置における)差分を示す。ΔTは、前側の台車12aの後ろ側の輪軸13bについての前後方向力Tの(同位置における)差分を示す。ΔTは、後ろ側の台車12bの前側の輪軸13cについての前後方向力Tの(同位置における)差分を示す。ΔTは、後ろ側の台車12bの後ろ側の輪軸13dについての前後方向力Tの(同位置における)差分を示す。
図11~図12に示すように、前側の台車12aの左右動ダンパ23やヨーダンパ24a、24bが故障すると、前側の台車12aの前側の輪軸13aについての前後方向力Tおよび前側の台車12aの後ろ側の輪軸13bについての前後方向力Tは、直線軌条で10%程度、曲線軌条で40%程度、それぞれ正常時から変化することが分かる。
前述したように、検査部303は、検査区間の同じ位置における、検査測定値および基準測定値の差の絶対値が、予め設定されている閾値を上回るか否かを判定することにより、検査対象部材が正常であるか否かを判定する。この閾値は、例えば、以上のようなシミュレーションの結果や、過去の測定結果から決定することができる。例えば、検査区間における基準測定値の変動から算出される標準偏差に定数を乗じた値を閾値とする。ここで、この定数は、過去の測定結果を分析・検証し、決定すればよい。また、シミュレーションの結果に基づいて、同様の方法で閾値を設定してもよい。
また、検査区間は、検査対象の鉄道車両の全運行区間としてもよいし、一部の運行区間としてもよい。図11~図12に示すように、直線軌条よりも曲線軌条の方が、検査測定値および基準測定値の差が大きくなる。そこで、検査区間に曲線軌条が含まれるようにするのが好ましい。また、鉄道車両が可及的に一定の速度で走行する区間を検査区間とするのが好ましい。
(フローチャート)
次に、図13のフローチャートを参照しながら、本実施形態の検査装置300における処理の一例を説明する。
ステップS1301において、検査装置300は、検査対象の鉄道車両が検査区間に入るまで待機する。検査対象の鉄道車両が検査区間に入ると、処理は、ステップS1302に進む。処理がステップS1302に進むと、判定部303aは、記憶部302から、検査区間の各位置における基準測定値のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものを探索する。
次に、ステップS1303において、判定部303aは、記憶部302から、検査区間の各位置における基準測定値のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものを探索することができたか否かを判定する。
記憶部302に記憶されている、検査区間の各位置における基準測定値のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、検査速度と同じ種類、検査区間、検査速度で分類されている基準測定値が、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものとして最優先で選択される。
このような基準測定値がない場合、記憶部302に記憶されている、検査区間の各位置における基準測定値のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間と同じ種類、検査区間で分類されている基準測定値であって、検査対象の鉄道車両の検査速度との差が閾値以下の検査速度で分類されている基準測定値が選択される。
この判定の結果、検査区間の各位置における基準測定値のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものを記憶部302から探索することができない場合、処理は、ステップS1304に進む。
処理がステップS1304に進むと、出力部304は、当該検査区間では検査ができないことを示す検査不能情報を出力する。そして、図13のフローチャートによる処理が終了する。
一方、ステップS1303の判定の結果、検査区間の各位置における基準測定値のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものを記憶部302から探索することができた場合、処理は、ステップS1305に進む。処理がステップS1305に進むと、データ取得部301は、検査測定値を取得する。
次に、ステップS1306において、判定部303aは、ステップS1305で取得した検査測定値を測定した時刻における鉄道車両の走行位置を特定する。判定部303aは、特定した鉄道車両の走行位置に対応する基準測定値を、ステップS1302で探索された検査区間の各位置における基準測定値から読み出す。
次に、ステップS1307において、判定部303aは、ステップS1305で取得した検査測定値と、ステップS1306で読み出した基準測定値との差の絶対値を算出する。
次に、ステップS1308において、判定部303aは、ステップS1307で算出した検査測定値および基準測定値の差の絶対値が、予め設定されている閾値を上回るか否かを判定する。この判定の結果、検査測定値および基準測定値の差の絶対値が閾値を上回る場合、処理は、ステップS1309に進む。処理がステップS1309に進むと、出力部304は、検査対象部材が正常でないことを示す非正常情報を出力する。そして、処理は、後述するステップS1310に進む。
一方、ステップS1308の判定の結果、検査測定値および基準測定値の差の絶対値が閾値を上回らない場合、処理は、ステップS1309の処理を省略してステップS1310に進む。
処理がステップS1310に進むと、検査装置300は、検査対象の鉄道車両が検査区間を出たか否かを判定する。この判定の結果、検査対象の鉄道車両が検査区間を出ていない場合、処理は、ステップS1305に戻る。そして、検査対象の鉄道車両が検査区間を出るまで、ステップS1305~S1310の処理が繰り返し実行される。そして、ステップS1310において、検査対象の鉄道車両が検査区間を出たと判定されると、図13のフローチャートによる処理が終了する。
(まとめ)
以上のように本実施形態では、検査装置300は、正常な鉄道車両において事前に測定された前後方向力T~Tの測定値(基準測定値)と、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値(検査測定値)とが乖離している場合に、検査対象の鉄道車両における検査対象部材が正常でないと判定する。検査対象部材のバネ定数および減衰係数の少なくとも一方は、鉄道車両の運動を記述する運動方程式において前後方向力T~Tに影響を与えるものである。従って、前後方向力T~Tは、検査対象部材のバネ定数および減衰係数の少なくとも一方が異常であるか否かを評価する指標となる。このような指標を用いて、検査対象部材のバネ定数および減衰係数の少なくとも一方が異常であるか否かを判定する。よって、検査対象部材が異常であるか否かを正確に判定することができる。
(変形例)
<第1の変形例>
本実施形態では、基準測定値の瞬時値と検査測定値の瞬時値とを比較する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、基準測定値の移動平均値と検査測定値の移動平均値とを比較してもよい。
<第2の変形例>
本実施形態では、検査測定値および基準測定値の差の絶対値が閾値を上回るか否かが判定される度に、検査対象の鉄道車両の検査対象部材が正常でないことを示す情報を出力する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、検査測定値および基準測定値の差の絶対値が閾値を上回ることが所定の回数継続した場合に、検査対象の鉄道車両の検査対象部材が正常でないことを示す情報を出力してもよい。また、検査測定値および基準測定値の差の絶対値の検査区間における積算値が閾値を上回るか否かを判定してもよい。この場合、当該積算値が閾値を上回る場合に、検査対象の鉄道車両の検査対象部材が正常でないことを示す情報を出力してもよい。このようにする場合には、検査対象の鉄道車両の検査区間の走行が終了した後に、検査対象の鉄道車両の検査対象部材が正常でないことを示す情報が出力される。また、第1の変形例と第2の変形例を組み合わせてもよい。例えば、基準測定値の移動平均値と検査測定値の移動平均値との差の絶対値が閾値を上回ることが所定の回数継続した場合に、検査対象の鉄道車両の検査対象部材が正常でないことを示す情報を出力してもよい。
<第3の変形例>
また、検査測定値が得られたときの軌道の状態と、基準測定値が得られたときの軌道の状態とが近い場合に限り、検査を行うようにしてもよい。例えば、基準測定値を得たときに、検査区間の各位置における通り狂い量を特許文献5に記載のようにして算出する。その後、検査測定値を得たときに、検査区間の各位置における通り狂い量を特許文献5に記載のようにして算出する。そして、同じ位置における通り狂い量の差の絶対値が、予め設定されている閾値を上回った場合には、検査測定値が得られたときの軌道の状態と、基準測定値が得られたときの軌道の状態とが近くないとして、検査を中止してもよい。また、そのことを示す情報を出力してもよい。
<<第2の実施形態>>
次に、第2の実施形態を説明する。第1の実施形態では、前後方向力T~Tの測定値をそのまま比較する場合を例に挙げて説明した。前後方向力T~Tは、加速度等に比べれば、ノイズ等の影響は小さい。しかしながら、前後方向力T~Tの測定値の信号成分から、前後方向力T~Tの測定値に含まれる本質的な信号成分を抽出するのがより好ましい。そこで、本実施形態では、このようにする手法について説明する。このように本実施形態は、第1の実施形態に対し、前後方向力T~Tの測定値に対して、本質的な信号成分を抽出する処理を行った上で比較を行う点が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1~図13に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
(知見)
本発明者らは、本質的な信号成分を抽出するためのモデルとして、自己回帰モデル(AR(Auto-regressive)モデル)を修正したモデルを考案した。そして、本発明者らは、このモデルを用いて、前後方向力の測定値から本質的な信号成分を抽出することに想到した。以下の説明では、本発明者らが考案したモデルを、修正自己回帰モデルと称する。これに対し、公知の自己回帰モデルを、単に自己回帰モデルと称する。以下、修正自己回帰モデルの一例について説明する。
時刻k(1≦k≦M)における物理量の時系列データyの値をyとする。本実施形態において、物理量は前後方向力である。Mは、物理量の時系列データyがどの時刻までのデータを含むかを示す数であり、予め設定されている。以下の説明では、物理量の時系列データを必要に応じてデータyと略称する。データyの値yを近似する自己回帰モデルは、例えば、以下の(28)式のようになる。(28)式に示すように、自己回帰モデルとは、データyにおける時刻k(m+1≦k≦M)の物理量の予測値y^を、データyにおけるその時刻kよりも前の時刻k-l(1≦l≦m)の物理量の実績値yk-lと、当該実績値に対する係数αとを用いて表す式である。尚、y^は、(28)式において、yの上に^を付けて表記したものである。
Figure 0007024874000015
(28)式におけるαは、自己回帰モデルの係数である。mは、自己回帰モデルにおいて時刻kにおけるデータyの値yを近似するために用いられるデータyの値の数であって、その時刻kよりも前の連続する時刻k-1~k-mにおけるデータyの値yk-1~yk-mの数である。mは、M未満の整数である。mとして、例えば、1500を用いることができる。
続いて、最小二乗法を用いて、自己回帰モデルによる時刻kにおける物理量の予測値y^が、値yに近似するための条件式を求める。自己回帰モデルによる時刻kにおける物理量の予測値y^が値yに近似するための条件として、例えば、自己回帰モデルによる時刻kにおける物理量の予測値y^と値yとの二乗誤差を最小化するとする条件を採用することができる。即ち、自己回帰モデルによる時刻kにおける物理量の予測値y^を値yに近似するために最小二乗法を用いる。以下の(29)式は、自己回帰モデルによる時刻kにおける物理量の予測値y^を値yとの二乗誤差を最小にするための条件式である。
Figure 0007024874000016
(29)式より、以下の(30)式の関係が成り立つ。
Figure 0007024874000017
また、(30)式を変形(行列表記)することで、以下の(31)式が得られる。
Figure 0007024874000018
(31)式におけるRjlはデータyの自己相関と呼ばれるもので、以下の(32)式で定義される値である。このときの|j-l|を時差という。
Figure 0007024874000019
(31)式を基に、以下の(33)式を考える。(33)式は、自己回帰モデルによる時刻kにおける物理量の予測値y^と、その予測値y^に対応する時刻kにおける物理量の値yと、の誤差を最小化する条件から導出される方程式である。(33)式は、ユール・ウォーカー(Yule-Walker)方程式と呼ばれる。また、(33)式は、自己回帰モデルの係数から成るベクトルを変数ベクトルとする線形方程式である。(33)式における左辺の定数ベクトルは、時差が1からmまでのデータyの自己相関を成分とするベクトルである。以下の説明では、(33)式における左辺の定数ベクトルを必要に応じて自己相関ベクトルと称する。また、(33)式における右辺の係数行列は、時差が0からm-1までのデータyの自己相関を成分とする行列である。以下の説明では、(33)式における右辺の係数行列を必要に応じて自己相関行列と称する。
Figure 0007024874000020
また、(33)式における右辺の自己相関行列(Rjlで構成されるm×mの行列)を、以下の(34)式のように、自己相関行列Rと表記する。
Figure 0007024874000021
一般に、自己回帰モデルの係数を求める際には、(33)式を係数αについて解くという方法が用いられる。(33)式では、自己回帰モデルで導出される時刻kにおける物理量の予測値y^が、その時刻kにおける物理量の値yにできるだけ近づくように係数αを導出する。よって、自己回帰モデルの周波数特性には、各時刻におけるデータyの値yに含まれる多数の周波数成分が含まれる。
従って、例えば、データyに含まれるノイズが多い場合には、検査対象部材が正常であるか否かによる前後方向力T~Tの信号の差異を確実に抽出することができない虞がある。そこで、本発明者らは、自己回帰モデルの係数αに乗算される自己相関行列Rに着目し、鋭意検討した。その結果、本発明者らは、自己相関行列Rの固有値の一部を用いて、データyに含まれるノイズの影響が低減され、本質的な信号成分が強調される(SN比を高める)ように自己相関行列Rを書き換えることができることを見出した。
以下に、このことの具体例を説明する。
自己相関行列Rを特異値分解する。自己相関行列Rの成分は、対称である。従って、自己相関行列Rを特異値分解すると以下の(35)式のように、直交行列Uと、対角行列Σと、直交行列Uの転置行列との積となる。
Figure 0007024874000022
(35)式の対角行列Σは、以下の(36)式に示すように、対角成分が自己相関行列Rの固有値となる行列である。対角行列Σの対角成分を、σ11、σ22、・・・、σmmとする。また、直交行列Uは、各列成分ベクトルが自己相関行列Rの固有ベクトルとなる行列である。直交行列Uの列成分ベクトルを、u、u、・・・、uとする。自己相関行列Rの固有ベクトルuに対する固有値がσjjという対応関係がある。自己相関行列Rの固有値は、自己回帰モデルによる時刻kにおける物理量の予測値y^の時間波形に含まれる各周波数の成分の強度を反映する変数である。
Figure 0007024874000023
自己相関行列Rの特異値分解の結果から得られる対角行列Σの対角成分であるσ11、σ22、・・・、σmmの値は、数式の表記を簡略にするために降順とする。(36)式に示す自己相関行列Rの固有値のうち、s個の固有値を用いて、以下の(37)式のように、行列R’を定義する。sは、1以上且つm未満の数である。例えば、行列R’は、自己相関行列Rの固有値のうちs個の固有値を用いて自己相関行列Rを近似した行列である。小さい値を有する固有値を選択すると、データyの本質的な信号成分が抽出されづらくなる。本実施形態では、データyは、前後方向力T~Tのデータである。本実施形態では、第1の実施形態と同様に、検査対象部材が正常であるか否かによって生じる前後方向力T~Tの差異を検出する。この場合、本質的な信号成分とは、検査対象部材が正常であるか否かによって変化する、前後方向力T~Tの信号成分である。また、選択する固有値の数が少なすぎると、データyの差異が生じづらくなる。逆に、選択する固有値の数が多すぎると、小さい値を有する固有値を選択することに繋がるため、前述したようにデータyの本質的な信号成分が抽出されづらくなる。そこで、本実施形態では、m個の固有値の平均値以上の値を有する固有値を選択する。前記s個の固有値の選択に際し、目視で固有値の大きなs個を選択してもよいし、採用した固有値の最小値が取捨した固有値の最大値に対し10倍以上の大きさであってもよい。よって、本実施形態では、sは、m個の固有値の平均値以上の値を有する固有値の数である。ただし、選択する固有値は、データyの本質的な信号成分が抽出されやすくなるようにしていれば、このようなものに限定されない。
Figure 0007024874000024
(37)式における行列Uは、(35)式の直交行列Uの左からs個の列成分ベクトル(使用される固有値に対応する固有ベクトル)により構成されるm×s行列である。つまり、行列Uは、直交行列Uから左のm×sの成分を切り出して構成される部分行列である。また、(37)式におけるU は、Uの転置行列である。U は、(35)式の行列Uの上からs個の行成分ベクトルにより構成されるs×m行列である。(37)式における行列Σは、(35)式の対角行列Σの左からs個の列と、上からs個の行により構成されるs×s行列である。つまり、行列Σは、対角行列Σから左上のs×sの成分を切り出して構成される部分行列である。
行列Σおよび行列Uを行列成分で表現すれば、以下の(38)式のようになる。
Figure 0007024874000025
自己相関行列Rの代わりに行列R’を用いることで、(33)式の関係式を、以下の(39)式のように書き換える。
Figure 0007024874000026
(39)式を変形することで、係数αを求める式として、以下の(40)式が得られる。(40)式によって求められる係数αを用いて、(28)式により、時刻kにおける物理量の予測値y^を算出するモデルが「修正自己回帰モデル」である。
Figure 0007024874000027
ここでは、対角行列Σの対角成分であるσ11、σ22、・・・、σmmの値を降順とする場合を例に挙げて説明した。しかしながら、係数αの算出過程において対角行列Σの対角成分は降順である必要はない。その場合には、行列Uは、直交行列Uから左のm×sの成分を切り出して構成される部分行列ではない。行列Uは、使用される固有値に対応する列成分ベクトル(固有ベクトル)を切り出して構成される部分行列になる。また、行列Σは、対角行列Σから左上のs×sの成分を切り出して構成される部分行列ではない。行列Σは、修正自己回帰モデルの係数の決定に利用される固有値を対角成分とするように切り出される部分行列になる。
(40)式は、修正自己回帰モデルの係数の決定に利用される方程式である。(40)式の行列Uは、自己相関行列Rの特異値分解により得られる直交行列Uの部分行列であって、修正自己回帰モデルの係数の決定に利用される固有値に対応する固有ベクトルを列成分ベクトルとする行列(第3の行列)である。また、(40)式の行列Σは、自己相関行列Rの特異値分解により得られる対角行列の部分行列であって、修正自己回帰モデルの係数の決定に利用される固有値を対角成分とする行列(第2の行列)である。(40)式の行列UΣ は、行列Σと行列Uとから導出される行列(第1の行列)である。
(40)式の右辺を計算することにより、修正自己回帰モデルの係数αが求まる。以上、修正自己回帰モデルの係数αの導出方法の一例について説明した。ここでは、修正自己回帰モデルの基となる自己回帰モデルの係数の導出方法を、直感的に分かり易いように、時刻kにおける物理量の予測値y^に対して最小二乗法を用いる方法とした。しかしながら、一般的には確率過程という概念を用いて自己回帰モデルを定義し、その係数を導出する方法が知られている。その場合に、自己相関は、確率過程(母集団)の自己相関で表現される。この確率過程の自己相関は、時差の関数として表される。従って、本実施形態におけるデータyの自己相関は、確率過程の自己相関を近似するものであれば他の計算式で算出した値に代えてもよい。例えば、R22~Rmmは、時差が0(ゼロ)の自己相関であるが、これらをR11に置き換えてもよい。
本実施形態の検査装置300は、以上の知見に基づいてなされたものである。
(検査装置300の構成)
図14は、検査装置300の機能的な構成の一例を示す図である。検査装置300は、その機能として、データ取得部301、記憶部302、検査部303、および出力部304を有する。
[データ取得部301]
データ取得部301は、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値を含む入力データを所定のサンプリング周期で取得する。これにより、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値の時系列データが得られる。前後方向力の測定方法は、前述した通りである。
前後方向力の測定値の時系列データには、鉄道車両が正常であるか否かを判定するのに資する成分(本質的な成分)以外のノイズ成分が含まれる虞がある。そこで、前後方向力の測定値のノイズ成分を除去し、前後方向力の本質的な周波数成分を抽出することが好ましい。ローパスフィルタやバンドバスフィルタにより、前後方向力の測定値のノイズ成分を除去することも可能ではあるが、カットオフ周波数を設定することが容易ではない。
そこで、本発明者らは、前述した修正自己回帰モデルを用いて、前後方向力の測定値の時系列データから本質的な信号成分を抽出することに想到した。
[記憶部302]
記憶部302は、修正後基準測定値を予め記憶する。修正後基準測定値は、基準測定値を、修正自己回帰モデルを用いて修正したものである。第1の実施形態で説明したように、基準測定値は、正常な鉄道車両を検査区間において走行させることにより正常な鉄道車両において事前に測定された前後方向力T~Tの測定値である。正常な鉄道車両の意味するところは、第1の実施形態で説明したのと同じである。
修正後基準測定値は、前後方向力の測定値のデータyの時刻kにおける値ykを用いて以下のようにして導出される。
まず、前後方向力の測定値のデータyと、予め設定されている数M、mと、に基づいて、(32)式と(34)式とを用いて自己相関行列Rを生成する。
次に、自己相関行列Rを特異値分解することで、(35)式の直交行列Uおよび対角行列Σを導出し、対角行列Σから自己相関行列Rの固有値σ11~σmmを導出する。
次に、自己相関行列Rの複数の固有値σ11~σmmのうち、それらの平均値以上の値を有するs個の固有値σ11~σssを、修正自己回帰モデルの係数αを求めるのに利用する自己相関行列Rの固有値として選択する。
次に、前後方向力の測定値のデータyと、固有値σ11~σssと、自己相関行列Rの特異値分解により得られた直交行列Uと、に基づいて、(40)式を用いて、修正自己回帰モデルの係数αを決定する。
そして、修正自己回帰モデルの係数αと、前後方向力の測定値のデータyと、に基づいて、(28)式により、前後方向力の測定値のデータyの時刻kにおける予測値y^を導出する。このようにして前後方向力の測定値のデータyは修正される。
記憶部302は、以上のようにして修正された基準測定値(前後方向力の測定値のデータyの時刻kにおける予測値y^)を修正後基準測定値として予め記憶する。修正後基準測定値は、鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度毎に分類されて記憶部302に記憶される。分類の方法は、例えば、第1の実施形態の[記憶部302]の説明において、基準測定値を、修正後基準測定値に置き換えることにより実現することができる。従って、ここでは、修正後基準測定値の分類の方法の詳細な説明を省略する。
[検査部303]
検査部303は、その機能として、周波数成分調整部1401および判定部1402を有する。
<周波数成分調整部1401>
周波数成分調整部1401は、修正自己回帰モデルを用いて、検査対象の鉄道車両から得られる前後方向力の測定値のデータyの時刻kにおける予測値y^を導出する。以下の説明では、検査対象の鉄道車両から得られる前後方向力の測定値のデータyの時刻kにおける予測値y^を、必要に応じて、修正後検査測定値と称する。
<判定部1402>
判定部1402は、第1の実施形態の<判定部303a>の説明において、基準測定値を修正後基準測定値に置き換えると共に検査測定値を修正後検査測定値に置き換えることにより実現することができる。従って、ここでは、判定部1402の詳細な説明を省略する。
[出力部304]
出力部304は、第1の実施形態の出力部304と同じ機能を有する。従って、ここでは、出力部304の詳細な説明を省略する。
(フローチャート)
次に、図15のフローチャートを参照しながら、本実施形態の検査装置300における処理の一例を説明する。
ステップS1501において、検査装置300は、検査対象の鉄道車両が検査区間に入るまで待機する。検査対象の鉄道車両が検査区間に入ると、処理は、ステップS1502に進む。処理がステップS1502に進むと、判定部1402は、記憶部302から、検査区間の各位置における修正基準測定値のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものを探索する。ステップS1502の探索の方法は、ステップS1303における探索の方法において、基準測定値を修正後基準測定値に置き換えることにより実現することができる。従って、ここでは、ステップS1502の探索の方法の詳細な説明を省略する。
この判定の結果、検査区間の各位置における修正後基準測定値のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものを記憶部302から探索することができない場合、処理は、ステップS1504に進む。
処理がステップS1504に進むと、出力部304は、当該検査区間では検査ができないことを示す検査不能情報を出力する。そして、図15のフローチャートによる処理が終了する。
一方、ステップS1503の判定の結果、検査区間の各位置における修正後基準測定値のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものを記憶部302から探索することができた場合、処理は、ステップS1505に進む。処理がステップS1505に進むと、検査装置300は、所定のサンプリング周期(の開始時刻)が到来するまで待機する。所定のサンプリング周期(の開始時刻)が到来すると、処理はステップS1506に進む。処理がステップS1506に進むと、データ取得部301は、現在のサンプリング周期における検査測定値を取得する。
次に、ステップS1507において、検査装置300は、検査測定値がm個(例えば、1500個)以上あるか否かを判定する。この判定の結果、検査測定値の数がm個以上ない場合には、修正自己回帰モデルの係数αを導出するためのデータがそろっていないため、処理はステップS1505に戻る。そして、次のサンプリング周期における検査測定値を取得するための処理が行われる。
ステップS1507において、検査測定値がm個以上あると判定されると、処理はステップS1508に進む。処理がステップS1508に進むと、周波数成分調整部1401は、m個の検査測定値のデータyに基づいて、自己相関行列Rを生成する((32)式と(34)式を参照)。周波数成分調整部1401は、自己相関行列Rを特異値分解することで、直交行列Uおよび対角行列Σを導出する((35)式を参照)。周波数成分調整部1401は、対角行列Σから自己相関行列Rの固有値σ11~σmmを導出し、最大の固有値σ11を選択する。周波数成分調整部1401は、検査測定値のデータyと、固有値σ11と、自己相関行列Rの特異値分解により得られた直交行列Uと、に基づいて、修正自己回帰モデルの係数αを決定する((40)式を参照)。周波数成分調整部1401は、修正自己回帰モデルの係数αと、検査測定値のデータy(の実績値)とに基づいて、検査測定値のデータyの現在のサンプリング周期(時刻k)における予測値y^kを、修正後検査測定値として導出する((28)式を参照)。
次に、ステップS1509において、判定部1402は、ステップS1507で検査測定値がm個以上あると判定されたサンプリング周期に対応する時刻における鉄道車両の走行位置を特定する。判定部1402は、特定した鉄道車両の走行位置に対応する修正後基準測定値を、ステップS1502で探索された検査区間の各位置における修正後基準測定値から読み出す。
次に、ステップS1510において、判定部1402は、ステップS1508で導出された修正後検査測定値と、ステップS1509で読み出した修正後基準測定値との差の絶対値を算出する。
次に、ステップS1511において、判定部1402は、ステップS1507で算出した修正後検査測定値および修正後基準測定値の差の絶対値が、予め設定されている閾値を上回るか否かを判定する。この判定の結果、修正後検査測定値および修正後基準測定値の差の絶対値が閾値を上回る場合、処理は、ステップS1512に進む。処理がステップS1512に進むと、出力部304は、検査対象部材が正常でないことを示す非正常情報を出力する。そして、処理は、後述するステップS1513に進む。
一方、ステップS1511の判定の結果、修正後検査測定値および修正後基準測定値の差の絶対値が閾値を上回らない場合、処理は、ステップS1512の処理を省略してステップS1513に進む。
処理がステップS1513に進むと、検査装置300は、検査対象の鉄道車両が検査区間を出たか否かを判定する。この判定の結果、検査対象の鉄道車両が検査区間を出ていない場合、処理は、ステップS1505に戻る。そして、検査対象の鉄道車両が検査区間を出るまで、ステップS1505~S1513の処理が繰り返し実行される。そして、ステップS1513において、検査対象の鉄道車両が検査区間を出たと判定されると、図15のフローチャートによる処理が終了する。
(まとめ)
以上のように本実施形態では、検査装置300は、前後方向力の測定値のデータyから、自己相関行列Rを生成する。検査装置300は、自己相関行列Rを特異値分解して得られた固有値のうち、それらの平均値以上の値を有するs個の固有値を用いて、前後方向力の測定値のデータyを近似する修正自己回帰モデルの係数αを決定する。従って、前後方向力の測定値のデータyに含まれる信号成分のうち、検査対象部材が正常であるか否かによって変化する信号成分を強調することができるように、係数αを決定することができる。検査装置300は、時刻kにおける前後方向力の予測値y^を、このようにして係数αが定められた修正自己回帰モデルに、その時刻よりも前の時刻k-l(1≦l≦m)の前後方向力の測定値のデータyを与えることにより算出する。従って、カットオフ周波数を予め想定することなく、前後方向力の測定値のデータyから、本質的な信号成分を抽出することができる。従って、検査対象部材が正常であるか否かをより一層正確に判定することができる。
このように、本実施形態の手法を用いれば、カットオフ周波数を予め想定する必要がなくなり、好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、前後方向力の測定値のデータyに含まれる信号成分のうち、検査対象部材が正常であるかに否かによって変化する信号成分の周波数帯を特定する。このようにして、特定した周波数帯を通過するフィルタを用いる。当該フィルタは、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、およびバンドパスフィルタの1つまたは2つ以上の組み合わせである。
また、本実施形態においても、第1の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
<<第3の実施形態>>
次に、第3の実施形態を説明する。第1、第2の実施形態では、前後方向力T~Tの測定値の各時刻における大きさを比較する場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、前後方向力T~Tの周波数特性を用いて、検査対象の鉄道車両の検査対象部材が正常であるか否かを判定する場合を例に挙げて説明する。このように本実施形態は、第1、第2の実施形態に対し、前後方向力T~Tの瞬時値に代えて、前後方向力T~Tの周波数特性を用いる点が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1、第2の実施形態と同一の部分については、図1~図15に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
第2の実施形態で説明したように、修正自己回帰モデルを用いれば、前後方向力の測定値のデータyに含まれる信号成分のうち、検査対象部材が正常であるかに否かによって変化する信号成分を強調することができる。そこで、本実施形態では、第2の実施形態で説明した修正自己回帰モデルの周波数特性を導出する場合を例に挙げて説明する。
修正自己回帰モデルの周波数特性を求める方法の一例を説明する。
(28)式で与えられる計測データの予測値y^の予測誤差xが白色雑音になるという性質を使うと、修正自己回帰モデルは白色雑音である予測誤差xを入力とし、データの実測値yを出力とする線形時不変システムとみなせる。従って、以下の手順で周波数特性の算出式を導出することができる。以下の説明では、修正自己回帰モデルを線形時不変モデルとみなしたものを、必要に応じて、単にシステムと称することにする。予測誤差xは、以下の(41)式で表される。
Figure 0007024874000028
(41)式の両辺にz変換を施すと、以下の(42)式が得られる。
Figure 0007024874000029
(42)式から、システムのインパルス応答のz変換である伝達関数H(z)は、以下の(43)式のように求まる。
Figure 0007024874000030
システムの周波数特性は、正弦波入力に対する出力の振幅と位相との変化として現れ、インパルス応答のフーリエ変換で求められる。言い換えると、zが複素平面の単位円上を回転した時の伝達関数H(z)が周波数特性となる。ここで、(43)式におけるzを、以下の(44)式のように置くことを考える。
Figure 0007024874000031
ここで、jは虚数単位、ωは角周波数、Tはサンプリング周期である。
その場合、H(z)の振幅特性(システムの周波数特性)は、以下の(45)式のように表すことができる。(45)式におけるωTは、0~2πの範囲で変化するものとする。
Figure 0007024874000032
(検査装置300の構成)
図46は、検査装置300の機能的な構成の一例を示す図である。
図46において、検査装置300は、その機能として、データ取得部301、記憶部302、検査部303、および出力部304を有する。
[データ取得部301]
データ取得部301は、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値を含む入力データを所定のサンプリング周期で取得する。これにより、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値の時系列データが得られる。前後方向力の測定方法は、前述した通りである。
[記憶部302]
記憶部302は、検査区間の各位置において、正常な鉄道車両における修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4を予め記憶する。正常な鉄道車両の意味するところは、第1の実施形態で説明したのと同じである。
前後方向力T~Tの測定値の時系列データから(40)式を用いて修正自己回帰モデルの係数αが決定される。修正自己回帰モデルの周波数特性は、修正自己回帰モデルの係数αに基づいて、(45)式を用いることにより導出される。
後述するように本実施形態では、検査区間の各位置において、検査対象の鉄道車両の修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4と、正常な鉄道車両の修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4とを比較する。以下の説明では、正常な鉄道車両における修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4を、必要に応じて基準周波数特性H1~H4と称する。検査対象の鉄道車両の修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4を、必要に応じて、検査周波数特性H1~H4と称する。検査区間は、鉄道車両の走行区間のうち、検査周波数特性H1~H4と基準周波数特性H1~H4との比較を行う区間を指す。
検査区間の各位置は、正常な鉄道車両の修正自己回帰モデルを導出したときの鉄道車両の走行位置から得られる。鉄道車両の走行位置は、例えば、GPS(Global Positioning System)を用いて各時刻における鉄道車両の位置を検出することにより得られる。また、鉄道車両の走行位置は、鉄道車両の各時刻における速度の積算値等から求めてもよい。
前述したように本実施形態では、検査区間の各位置において、検査周波数特性H1~H4と、基準周波数特性H1~H4とを比較する。このため、検査周波数特性H1~H4を得たときの条件と可及的に近い条件の基準周波数特性H1~H4を、当該検査周波数特性H1~H4と比較するのが好ましい。そこで、本実施形態では、検査区間の各位置における基準周波数特性H1~H4は、鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度毎に分類されて記憶部302に記憶される。このような分類は、第1の実施形態の[記憶部302]の説明において、基準測定値を、基準周波数特性H1~H4に置き換えることにより実現することができる。従って、基準周波数特性H1~H4の分類の方法の詳細な説明を省略する。
[検査部303]
検査部303は、その機能として、係数導出部1601、周波数特性導出部1602、および判定部1603を有する。
<係数導出部1601>
係数導出部1601は、修正自己回帰モデルの係数αを導出する。修正自己回帰モデルの係数αは、第2の実施形態で説明したものである。
係数導出部1601は、サンプリング周期が到来するたびに、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値のデータyを用いて以下の処理を行う。
まず、係数導出部1601は、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値のデータyと、予め設定されている数M、mと、に基づいて、(32)式と(34)式とを用いて自己相関行列Rを生成する。
次に、係数導出部1601は、自己相関行列Rを特異値分解することで、(35)式の直交行列Uおよび対角行列Σを導出し、対角行列Σから自己相関行列Rの固有値σ11~σmmを導出する。
次に、係数導出部1601は、自己相関行列Rの複数の固有値σ11~σmmのうち、s個の固有値σ11~σssを、修正自己回帰モデルの係数αを求めるのに利用する自己相関行列Rの固有値として選択する。
次に、係数導出部1601は、前後方向力T~Tの測定値のデータyと、固有値σ11~σssと、自己相関行列Rの特異値分解により得られた直交行列Uと、に基づいて、(40)式を用いて、修正自己回帰モデルの係数αを決定する。尚、修正自己回帰モデルの係数αは、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値のデータyのそれぞれについて個別に導出される。
<周波数特性導出部1602>
周波数特性導出部1602は、係数導出部1601により導出された修正自己回帰モデルの係数αに基づいて、(45)式を用いて、検査周波数特性H1~H4を導出する。
<判定部1603>
判定部1603は、検査周波数特性H1~H4と、基準周波数特性H1~H4とを比較した結果に基づいて、検査対象の鉄道車両の検査対象部材が正常であるか否かを判定する。
本実施形態では、判定部1603は、検査周波数特性H1~H4と、基準周波数特性H1~H4との類似度を導出する。判定部1603は、導出した類似度が、予め設定した閾値を上回るか否かを判定する。類似度は、公知のパターンマッチングの手法を用いることにより導出される。
例えば、各周波数における、修正自己回帰モデルの信号強度の差分の2乗の和を類似度とする。必ずしも全ての周波数について、修正自己回帰モデルの信号強度の差分の2乗の和を取らなくてもよい。例えば、判定部1603は、検査対象の鉄道車両と正常な鉄道車両とのそれぞれについて、修正自己回帰モデルの信号強度のピークの値が上位の所定の個数に入る周波数を特定する。判定部1603は、特定した周波数特性について、修正自己回帰モデルの信号強度の差分の2乗の和を取る。判定部1603は、類似度の値が、予め設定した閾値を上回る場合に、検査対象部材は正常でないと判定し、そうでない場合に、検査対象部材は正常であると判定する。
より具体的には、例えば、判定部1603は、検査対象の鉄道車両と正常な鉄道車両とのそれぞれについて、修正自己回帰モデルの信号強度のピークの値が上位の3つに入る周波数を特定する。判定部1603は、特定した周波数における、修正自己回帰モデルの信号強度の差分の2乗の和を取ったものを類似度とする。判定部1603は、特定した周波数における、正常な鉄道車両から得られる修正自己回帰モデルの信号強度の2乗の和に定数を乗じた値を閾値として設定する。ここで、この定数は、過去の測定結果を分析・検証し、決定すればよい。また、シミュレーションの結果に基づいて、同様の方法で閾値を設定してもよい。
[出力部304]
出力部304は、第1の実施形態の出力部304と同じ機能を有する。従って、ここでは、出力部304の詳細な説明を省略する。
(シミュレーションの結果)
第1の実施形態で説明したシミュレーションで得られた前後方向力T~Tの測定値を用いて、修正自己回帰モデルの周波数特性を導出した。ここでは、(28)式のmを1500とした。また、サンプリング周期を0.002sとした。
図17A、図17Bは、左右動ダンパ23が故障したと想定した場合の採用固有値数を示す図である。図17Aは、前側の台車12aの左右動ダンパ23が故障したと想定した場合を示す。図17Bは、後ろ側の台車12bの左右動ダンパ23が故障したと想定した場合を示す。
図17A、図17Bにおいて、縦軸の採用固有値数は、輪軸13a、13b、13c、13dについての修正自己回帰モデルの係数αを導出する際に採用した固有値の数sを示す。横軸の「1」、「2」、「3」、「4」は、それぞれ、輪軸13a、13b、13c、13dを示す。
また、図17A、図17Bにおいて、「正常」は、鉄道車両が正常であると想定した場合の採用固有値数を示す。図17Aにおいて、「LD故障_前」は、前側の台車12aの左右動ダンパ23が故障したと想定した場合の採用固有値数を示す。17Bにおいて、「LD故障_後」は、後ろ側の台車12bの左右動ダンパ23が故障したと想定した場合の採用固有値数を示す。
図17A、図17Bに示す採用固有値数の固有値を用いて、それぞれ係数αを導出し、修正自己回帰モデルの周波数特性を導出した。
図18は、鉄道車両が正常であると想定した場合の修正自己回帰モデルの周波数特性を示す図である。図19は、前側の台車12aの左右動ダンパ23が故障したと想定した場合の修正自己回帰モデルの周波数特性を示す図である。図20は、後ろ側の台車12bの左右動ダンパ23が故障したと想定した場合の修正自己回帰モデルの周波数特性を示す図である。
図18~図20において、縦軸の「H1」、「H2」、「H3」、「H4」は、それぞれ、輪軸13a、13b、13c、13dについての、(45)式に示す修正自己回帰モデルの周波数特性の値(信号強度)であることを示す。また、各図において、グラフ内に示す数字は、信号強度のピークの値が大きくなる周波数を、向かって左側から順に並べて示す。例えば、図18の一番上の図(H1)には、「2.2,1.3,1.6,0.8,1」と示されている。これは、信号強度のピークの値が最も大きくなる周波数が、2.2Hzであり、2番目に大きくなる周波数が1.3Hzであり、3番目、4番目、5番目に大きくなる周波数が、それぞれ、1.6Hz、0.8Hz、1Hzであることを示す。
図18と図19とを比較すると、前側の台車12aの左右動ダンパ23が故障することにより、前側の台車12aの前側の輪軸13aおよび前側の台車12aの後ろ側の輪軸13bについての修正自己回帰モデルの周波数特性(H1、H2)が、正常時から大きく変化することが分かる。また、図18と図20とを比較すると、後ろ側の台車12bの左右動ダンパ23が故障することにより、後ろ側の台車12bの前側の輪軸13cおよび後ろ側の台車12bの後ろ側の輪軸13dについての修正自己回帰モデルの周波数特性(H3、H4)が、正常時から大きく変化することが分かる。
(フローチャート)
次に、図21のフローチャートを参照しながら、本実施形態の検査装置300における処理の一例を説明する。
ステップS2101において、検査装置300は、検査対象の鉄道車両が検査区間に入るまで待機する。検査対象の鉄道車両が検査区間に入ると、処理は、ステップS2102に進む。処理がステップS2102に進むと、判定部1603は、記憶部302から、検査区間の各位置における基準周波数特性H1~H4のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものを探索する。
次に、ステップS2103において、判定部1603は、記憶部302から、検査区間の各位置における基準周波数特性H1~H4のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものを探索することができたか否かを判定する。
ステップS2103の探索の方法は、ステップS1303における探索の方法において、基準測定値を基準周波数特性H1~H4に置き換えることにより実現することができる。従って、ここでは、ステップS2102の探索の方法の詳細な説明を省略する。
この判定の結果、検査区間の各位置における基準周波数特性H1~H4のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものを記憶部302から探索することができない場合、処理は、ステップS2104に進む。
処理がステップS2104に進むと、出力部304は、当該検査区間では検査ができないことを示す検査不能情報を出力する。そして、図21のフローチャートによる処理が終了する。
一方、ステップS2103の判定の結果、検査区間の各位置における基準周波数特性H1~H4のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものを記憶部302から探索することができた場合、処理は、ステップS2105に進む。処理がステップS2105に進むと、検査装置300は、所定のサンプリング周期(の開始時刻)が到来するまで待機する。所定のサンプリング周期(の開始時刻)が到来すると、処理はステップS2106に進む。処理がステップS2106に進むと、データ取得部301は、現在のサンプリング周期における検査測定値を取得する。
次に、ステップS2107において、検査装置300は、検査測定値がm個(例えば、1500個)以上あるか否かを判定する。この判定の結果、検査測定値の数がm個以上ない場合には、修正自己回帰モデルの係数αを導出するためのデータがそろっていないため、処理はステップS2105に戻る。そして、次のサンプリング周期における検査測定値を取得するための処理が行われる。
ステップS2107において、検査測定値がm個以上あると判定されると、処理はステップS2108に進む。処理がステップS2108に進むと、係数導出部1601は、検査測定値のデータyのそれぞれについて、修正自己回帰モデルの係数αを導出する。
次に、ステップS2109において、周波数特性導出部1602は、ステップS2108で導出された修正自己回帰モデルの係数αに基づいて、検査周波数特性H1~H4を導出する。
次に、ステップS2110において、判定部1603は、ステップS2107で検査測定値がm個以上あると判定されたサンプリング周期に対応する時刻における鉄道車両の走行位置を特定する。判定部1603は、特定した鉄道車両の走行位置に対応する基準周波数特性H1~H4を、ステップS2102で探索された検査区間の各位置における基準周波数特性H1~H4から読み出す。
次に、ステップS2111において、判定部1603は、ステップS2109で導出された検査周波数特性H1~H4と、ステップS2110で読み出した基準周波数特性H1~H4との類似度を導出する。判定部1603は、検査周波数特性H1~H4と、基準周波数特性H1~H4との類似度が、閾値を上回るか否かを判定する。この判定の結果、検査周波数特性H1~H4と、基準周波数特性H1~H4との類似度が、閾値を上回る場合、処理は、ステップS2112に進む。処理がステップS2112に進むと、出力部304は、検査対象部材が正常でないことを示す非正常情報を出力する。そして、処理は、後述するステップS2113に進む。
一方、ステップS2111の判定の結果、検査周波数特性H1~H4と、基準周波数特性H1~H4との類似度が、閾値を上回らない場合、処理は、ステップS2112の処理を省略してステップS2113に進む。
処理がステップS2113に進むと、検査装置300は、検査対象の鉄道車両が検査区間を出たか否かを判定する。この判定の結果、検査対象の鉄道車両が検査区間を出ていない場合、処理は、ステップS2105に戻る。そして、検査対象の鉄道車両が検査区間を出るまで、ステップS2105~S2113の処理が繰り返し実行される。そして、ステップS2113において、検査対象の鉄道車両が検査区間を出たと判定されると、図21のフローチャートによる処理が終了する。
(まとめ)
以上のように本実施形態では、検査装置300は、検査対象の鉄道車両から得られる修正自己回帰モデルの周波数特性と、正常な鉄道車両から得られる修正自己回帰モデルの周波数特性とが乖離している場合に、検査対象の鉄道車両における検査対象部材が正常でないと判定する。このようにしても、第1、第2の実施形態と同様に、鉄道車両における検査対象部材が正常であるか否かを正確に判定することができる。
本実施形態のように、修正自己回帰モデルの周波数特性を導出すれば、検査対象部材が正常であるか否かによる周波数特性の差異を強調することができるので好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、前後方向力T~Tの測定値をフーリエ変換することにより、前後方向力T~Tの測定値のパワースペクトルを導出してもよい。
また、必ずしも、検査対象の鉄道車両から得られる修正自己回帰モデルの周波数特性と、正常な鉄道車両から得られる修正自己回帰モデルの周波数特性とを比較する必要はない。図19および図20に示すように、検査対象部材が正常でない場合には、特定の周波数の信号強度が大きくなる。従って、例えば、検査対象の鉄道車両から得られる修正自己回帰モデルの周波数特性において、所定の周波数または所定の周波数帯域の信号強度が、予め設定された閾値を上回るか否かを判定してもよい。
また、本実施形態においても、第1~第2の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
<<第4の実施形態>>
次に、第4の実施形態を説明する。第1~第3の実施形態では、検査対象部材の何れかが異常であるか否かを検査する。これに対し、本実施形態では、前後方向力T~Tの測定値を用いて、検査対象部材の1つであるヨーダンパが異常であるか否かを検査する場合を例に挙げて説明する。このように本実施形態と第1~第3の実施形態は、検査対象部材をヨーダンパに限定したことによる構成および処理が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1~第3の実施形態と同一の部分については、図1~図21に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
(検査装置300の構成)
図22は、検査装置300の機能的な構成の一例を示す図である。検査装置300は、その機能として、データ取得部301、記憶部302、検査部303、および出力部304を有する。
[データ取得部301]
データ取得部301は、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値を含む入力データを所定のサンプリング周期で取得する。本実施形態では、入力データには、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値に加えて、車体11の左右方向における加速度の測定値、台車12a、12bの左右方向における加速度の測定値、および輪軸13a~13dの左右方向における加速度の測定値が含まれる。これにより、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値、車体11の左右方向における加速度の測定値、台車12a、12bの左右方向における加速度の測定値、および輪軸13a~13dの左右方向における加速度の測定値の時系列データが得られる。各加速度は、例えば、車体11、台車12a、12b、および輪軸13a~13dにそれぞれ取り付けられた歪ゲージと、当該歪ゲージの測定値を用いて加速度を演算する演算装置とを用いることにより測定される。尚、加速度の測定は、公知の技術で実現することができるので、その詳細な説明を省略する。
[記憶部302]
記憶部302は、正常な鉄道車両を検査区間において走行させることにより正常な鉄道車両において事前に測定された検査区間の各位置における角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、および角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2を記憶する。ここで、本実施形態では、検査区間は、直線軌条の区間から選ばれるのが好ましい。
角速度差ψy1・-ψ・は、台車12aに配置されたヨーダンパのヨーイング方向における角速度ψy1・から、車体11のヨーイング方向における角速度ψ・を減算したものである。角速度差ψy2・-ψ・は、台車12bに配置されたヨーダンパのヨーイング方向における角速度ψy2・から、車体11のヨーイング方向における角速度ψ・を減算したものである。
角変位差ψy1-ψt1は、台車12aに配置されたヨーダンパのヨーイング方向における回動量(角変位)ψy1から、台車12aのヨーイング方向における回動量(角変位)ψt1を減算したものである。角変位差ψy2-ψt2は、台車12bに配置されたヨーダンパのヨーイング方向における回動量(角変位)ψy2から、台車12bのヨーイング方向における回動量(角変位)ψt2を減算したものである。
鉄道車両が21自由度を有するものとする。この場合、ヨーダンパ24a、24bの運動を記述する運動方程式は、以下の(46)式~(47)式で表される。
Figure 0007024874000033
は、ヨーダンパ24a、24bの前後方向の減衰係数である。また、b´は、台車12a、12bに対し左右に配置された2つのヨーダンパ24a、24bの左右方向における間隔の1/2を表す。また、k´は、ヨーダンパのゴムブッシュの剛性(バネ定数)である。
本発明者らは、台車12aにおけるヨーダンパ24a、24bが正常でなくなると、(46)式~(47)式における{ψy1・-ψ・}、{ψy1-ψt1}が正常時の値から乖離することを見出した。同様に、本発明者らは、台車12bにおけるヨーダンパ24a、24bが正常でなくなると、(46)式~(47)式における{ψy2・-ψ・}、{ψy2-ψt2}が正常時の値から乖離することを見出した。
記憶部302は、正常な鉄道車両を検査区間において走行させることにより正常な鉄道車両において事前に得られた検査区間の各位置における、角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、および角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2を予め記憶する。以下の説明では、正常な鉄道車両を検査区間において走行させることにより事前に得られた検査区間の各位置における、角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2を、それぞれ、基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2と称する。また、検査対象の鉄道車両を検査区間において走行させることにより得られた検査区間の各位置における、角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2を、それぞれ、検査角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、検査角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2と称する。
正常な鉄道車両の意味するところは、第1の実施形態で説明したのと同じである。
本実施形態では、検査角速度ψ y1 ・-ψ b ・、ψ y2 ・-ψ b と基準角速度ψ y1 ・-ψ b ・、ψ y2 ・-ψ b とを比較すると共に、検査角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2と基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2とを比較する。検査区間は、鉄道車両の走行区間のうち、これらの比較を行う区間を指す。ただし、第1~第3の実施形態では、検査区間は、直線軌条であっても曲線軌条であっても、それらの双方を含んでいてもよい。これに対し本実施形態では、検査区間は、直線軌条の区間であるのが好ましい。検査区間の各位置は、基準角速度差ψy1・-ψb・、ψy2・-ψb・、基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2が得られたときの鉄道車両の走行位置から得られる。鉄道車両の走行位置は、例えば、GPS(Global Positioning System)を用いて各時刻における鉄道車両の位置を検出することにより得られる。また、鉄道車両の走行位置は、鉄道車両の各時刻における速度の積算値等から求めてもよい。
また、検査角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、検査角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2を得たときの条件と可及的に近い条件の、基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2を比較するのが好ましい。従って、第1の実施形態と同様に、検査区間の各位置における基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・および基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2は、例えば、鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度毎に分類されて記憶される。分類の方法は、例えば、第1の実施形態の説明において、基準測定値を、基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・および基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2に置き換えることにより実現することができる。従って、ここでは、基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・および基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2の分類の方法の詳細な説明を省略する。
[通り狂い量y、角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2の導出方法]
ここで、通り狂い量y、角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・および角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2の導出方法の一例を説明する。本実施形態では、特許文献5に記載の手法により、通り狂い量y、角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・および角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2を導出する場合を例に挙げて説明する。ここで、特許文献5の手法について簡単に説明する。
特許文献5では、以下の(48)式に示す変数を状態変数とし、以下の(49)式~(65)式の運動方程式を用いて状態方程式を構成する。
Figure 0007024874000034
Figure 0007024874000035
Figure 0007024874000036
Figure 0007024874000037
は、車体11の質量である。y・・は、車体11の左右方向における加速度である。φtj・は、台車12aまたは12bのローリング方向における角速度である。ψyj・は、台車12aまたは12bに配置されたヨーダンパ24a、24bのヨーイング方向における角速度である。φ・・は、車体11のローリング方向における角加速度である。尚、添え字i、jの意味は、前述した通りである。尚、特許文献5に記載のように、車体11の運動方程式((53)式~(55)式)は考慮しなくてもよい。また、(56)式、(57)式は、前述した(46)式、(47)式である。
また、(60)式~(63)式、(49)式、(50)式、および(53)式を用いて観測方程式を構成する。
観測方程式および状態方程式を、カルマンフィルタに適用し、データ取得部301により取得された入力データを用いて、(48)式に示す状態変数を決定する。カルマンフィルタは、観測変数の測定値と計算値との誤差が最小または当該誤差の期待値が最小になるように状態変数を導出するフィルタ(即ち、データ同化を行うフィルタ)の一例である。カルマンフィルタ自体は、公知の技術で実現することができる。これらの状態変数から、角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・および角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2が導出される。従って、(48)式において、ψy1・およびψy2・を状態変数に更に含めるのが好ましい。
また、(18)式~(21)式により、輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位)ψw1~ψw4の推定値を算出する。そして、輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位)ψw1~ψw4の推定値と、(48)式に示す状態変数と、輪軸13a~13dにおける前後方向力T~Tの測定値とを、以下の(66)式~(69)式に与えることにより、輪軸13a~13dの位置での通り狂い量yR1~yR4を算出する。ここで使用される状態変数は、台車12a~12bの左右方向の変位yt1~yt2、台車12a~12bの左右方向の速度yt1・~yt2・、輪軸13a~13dの左右方向の変位yw1~yw4、および輪軸13a~13dの左右方向の速度yw1・~yw4・である。そして、通り狂い量yR1~yR4から、最終的な通り狂い量yを算出する。
Figure 0007024874000038
wzは、輪軸13a~13dのヨーイング方向における慣性モーメントである。ψwi・・は、輪軸13a~13dのヨーイング方向における角加速度である。fは、縦クリープ係数である。bは、輪軸13a~13dに取り付けられている2つの車輪と軌道20(軌条20a、20b)との接点の間の左右方向における距離である。ywiは、輪軸13a~13dの左右方向における変位である。yRiは、輪軸13a~13dの位置での通り狂い量である。sは、車軸15a~15dの中心から軸箱支持バネまでの前後方向におけるオフセット量である。ytjは、台車12aまたは12bの左右方向における変位である。IBzは、車体11のヨーイング方向における慣性モーメントである。ψ・・は、車体11のヨーイング方向における角加速度である。ψyj・は、台車12aまたは12bに配置されたヨーダンパのヨーイング方向における角速度である。IBxは、車体11のローリング方向における慣性モーメントである。尚、以上のようにして状態変数および通り狂い量yR1~yR4、yを導出する方法の詳細は、特許文献5に記載されている。従って、ここでは、状態変数および通り狂い量yR1~yR4、yの導出の方法の詳細な説明を省略する。
[検査部303]
検査部303は、その機能として、状態変数決定部2201、差導出部2202、および判定部2203を有する。
<状態変数決定部2201>
状態変数決定部2201は、検査対象の鉄道車両が検査区間に入ると、観測方程式および状態方程式を、カルマンフィルタに適用し、データ取得部301により取得された入力データを用いて、(48)式に示す状態変数を決定する。
<差導出部2202>
差導出部220は、状態変数決定部2201により導出された状態変数と、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T1~T4の測定値とに基づいて、検査区間の各位置において、通り狂い量yR、検査角速度差ψy1・-ψb・、ψy2・-ψb・、検査角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2を導出する。
<判定部2203>
判定部2203は、検査対象の鉄道車両が検査区間に入ると、記憶部302に記憶されている、基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・および基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2から、検査装置300が搭載されている検査対象の鉄道車両に対応する、基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・および基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2を選択する。基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・および基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2を選択する方法は、例えば、第1の実施形態の<判定部303a>の説明において、基準測定値を、基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・および基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2に置き換えることにより実現することができる。従って、ここでは、基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・および基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2の選択の方法の詳細な説明を省略する。また、検査区間の各位置における基準測定値の選択ができない場合、判定部2203は、当該検査区間では、検査ができないと判定する。
そして、判定部2203は、検査区間の同じ位置における、検査角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・および基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・の差の絶対値と、検査角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2および基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2の差の絶対値とを算出する。この差は、同じ台車12a、12bに対するもの同士で行う。即ち、台車12aに対する検査角速度差ψy1・-ψ・および基準角速度差ψy1・-ψ・の差の絶対値と、台車12aに対する検査角変位差ψy1-ψt1および基準角変位差ψy1-ψt1の差の絶対値とが算出される。同様に、台車12bに対する検査角速度差ψy2・-ψ・および基準角速度差ψy2・-ψ・の差の絶対値と、台車12bに対する検査角変位差ψy2-ψt2および基準角変位差ψy2-ψt2の差の絶対値とが算出される。
そして、判定部2203は、台車12aに対する検査角速度差ψy1・-ψ・および基準角速度差ψy1・-ψ・の差の絶対値と、台車12aに対する検査角変位差ψy1-ψt1および基準角変位差ψy1-ψt1の差の絶対値との少なくとも何れか1つが閾値を上回る場合、台車12aに配置されているヨーダンパ24a、24bが正常でないと判定する。また、判定部2203は、台車12bに対する検査角速度差ψy2・-ψ・および基準角速度差ψy2・-ψ・の差の絶対値と、台車12bに対する検査角変位差ψy2-ψt2および基準角変位差ψy2-ψt2の差の絶対値との少なくとも何れか1つが閾値を上回る場合、台車12bに配置されているヨーダンパ24a、24bが正常でないと判定する。
判定部2203は、検査角速度差ψy1・-ψ・および基準角速度差ψy1・-ψ・の差の絶対値の算出と、検査角変位差ψy1-ψt1および基準角変位差ψy1-ψt1の差の絶対値の算出と、台車12bに対する検査角速度差ψy2・-ψ・および基準角速度差ψy2・-ψ・の差の絶対値の算出と、検査角変位差ψy2-ψt2および基準角変位差ψy2-ψt2の差の絶対値の算出と、当該絶対値が閾値を上回るか否かの判定と、を、検査対象の鉄道車両が検査区間に入ってから出るまでの間、検査測定値が得られる度に繰り返し行う。
閾値は、第1の実施形態における、検査測定値および基準測定値の差の絶対値と比較する閾値と同様の手法で決定することができる。また、台車12aに対する検査角速度差ψy1・-ψ・および基準角速度差ψy1・-ψ・の差の絶対値と比較する閾値と、台車12aに対する検査角変位差ψy1-ψt1および基準角変位差ψy1-ψt1の差の絶対値と比較する閾値と、台車12bに対する検査角速度差ψy2・-ψ・および基準角速度差ψy2・-ψ・の差の絶対値と比較する閾値と、台車12bに対する検査角変位差ψy2-ψt2および基準角変位差ψy2-ψt2の差の絶対値と比較する閾値と、は同じであっても異なっていてもよい。
[出力部304]
出力部304は、検査部303により判定された結果を示す情報を出力する。本実施形態では、具体的に出力部304は、検査部303により、ヨーダンパが正常ではないと判定された場合には、そのことを示す情報を出力する。このとき、出力部304は、正常ではないと判定されたヨーダンパが、台車12a、12bの何れに属するヨーダンパであるかを示す情報も併せて出力する。また、検査部303により、検査区間では検査ができないと判定された場合、そのことを示す情報を出力する。出力の形態としては、例えば、コンピュータディスプレイへの表示、外部装置への送信、および内部または外部の記憶媒体への記憶の少なくとも何れか1つを採用することができる。
(シミュレーションの結果)
以下、直線軌条の検査区間を走行する鉄道車両において、台車12aの左側および右側に配置されたヨーダンパが正常でなくなると、検査角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、検査角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2が、それぞれ、基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2から変化することをシミュレーションにより確認した。尚、左右方向の両側において前述した運動方程式を構築することにより、左右方向の両側のそれぞれにおいて、前述した状態変数および通り狂い量yを算出した。また、ここでは、鉄道車両が270km/hで検査区間を走行するものとした。
図23は、前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。図23において、normalは、鉄道車両が正常であると想定した場合の検査区間における前後方向力T~Tの測定値である。yd1L_failは、台車12aの左側に配置されるヨーダンパが故障したと想定した場合の検査区間における前後方向力T~Tの測定値である。yd1R_failは、台車12aの右側に配置されるヨーダンパが故障したと想定した場合の検査区間における前後方向力T~Tの測定値である。
図24は、通り狂い量yに関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。図24において、measureは、通り狂い量yの実測値である。normalは、鉄道車両が正常であると想定した場合の検査区間における通り狂い量yの推定値である。yd1L_failは、台車12aの左側に配置されるヨーダンパが故障したと想定した場合の検査区間における通り狂い量yの推定値である。yd1R_failは、台車12aの右側に配置されるヨーダンパが故障したと想定した場合の検査区間における通り狂い量yの推定値である。
図25は、角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。図25において、normalは、鉄道車両が正常であると想定した場合の検査区間における角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2(基準角変位差ψ y1-ψt1、ψy2-ψt2)の推定値である。yd1L_failは、台車12aの左側に配置されるヨーダンパが故障したと想定した場合の検査区間における角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2(検査角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2)の推定値である。yd1R_failは、台車12aの右側に配置されるヨーダンパが故障したと想定した場合の検査区間における角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2(検査角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2)の推定値である。
図26は、角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。図26において、normalは、鉄道車両が正常であると想定した場合の検査区間における角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・(基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・)の推定値である。yd1L_failは、台車12aの左側に配置されるヨーダンパが故障したと想定した場合の検査区間における角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・(検査角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・)の推定値である。yd1R_failは、台車12aの右側に配置されるヨーダンパが故障したと想定した場合の検査区間における角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・(検査角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・)の推定値である。
図23に示すように、台車12bにおける前後方向力T、Tに比べ、故障したヨーダンパが配置される台車12aにおける前後方向力T、Tの方が、正常時から大きく変化することが分かる。
また、図24に示すように、通り狂い量yの推定値と実測値は精度良く一致していることが分かる(図24の上の図を参照)。そして、故障したヨーダンパが配置される台車12aにおける前後方向力T、Tの正常時からの乖離は、通り狂い量yの予測結果に影響していないことが分かる(図24の真ん中および下の図を参照)。
また、図25に示すように、台車12bにおける角変位差ψy2-ψt2に比べ(図25の下図を参照)、故障したヨーダンパが配置される台車12aにおける角変位差ψy1-ψt1(図25の上図を参照)が、正常時から大きく変化することが分かる。
また、図26に示すように、台車12bにおける角速度差ψy2・-ψ・に比べ(図26の下図を参照)、故障したヨーダンパが配置される台車12aにおける角速度差ψy1・-ψ・が、正常時から大きく変化することが分かる(図26の上図を参照)。
(フローチャート)
次に、図27のフローチャートを参照しながら、本実施形態の検査装置300における処理の一例を説明する。
ステップS2701において、検査装置300は、検査対象の鉄道車両が検査区間に入るまで待機する。検査対象の鉄道車両が検査区間に入ると、処理は、ステップS2702に進む。処理がステップS2702に進むと、判定部2203は、記憶部302から、検査区間の各位置における基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2のうち、検査対象の鉄道車両に対応するものを探索する。
次に、ステップS2703において、判定部2203は、記憶部302から、検査区間の各位置における基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2のうち、検査対象の鉄道車両に対応するものを探索することができたか否かを判定する。
この判定の結果、検査区間の各位置における基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2のうち、検査対象の鉄道車両に対応するものを記憶部302から探索することができない場合、処理は、ステップS2704に進む。
処理がステップS2704に進むと、出力部304は、当該検査区間では検査ができないことを示す検査不能情報を出力する。そして、図27のフローチャートによる処理が終了する。
一方、ステップS2703の判定の結果、検査区間の各位置における基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2のうち、検査対象の鉄道車両に対応するものを記憶部302から探索することができた場合、処理は、ステップS2705に進む。処理がステップS2705に進むと、データ取得部1301は、入力データを取得する。
次に、ステップS2206において、状態変数決定部2201は、ステップS2205で取得された入力データを用いて、(48)式に示す状態変数を決定する。
次に、ステップS207において、差導出部2202は、ステップS2206で決定された状態変数と、検査測定値とを用いて、通り狂い量yRと検査角速度差ψy1・-ψb・、ψy2・-ψb・と検査角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2とを算出する。
次に、ステップS2708において、判定部2203は、ステップS2707で算出した検査角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・と検査角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2の算出時刻における鉄道車両の走行位置を特定する。判定部2203は、特定した鉄道車両の走行位置に対応する基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2を、ステップS2703で探索された検査区間の各位置における基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2から読み出す。検査角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2の算出時刻は、例えば、これらの算出のために使用した測定値の測定時刻とすることができる。
次に、ステップS2709において、判定部2203は、ステップS2707で算出した検査角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・と検査角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2と、ステップS2708で読み出した基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2との差の絶対値を算出する。
次に、ステップS2710において、判定部2203は、ステップS2709で算出した検査角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・と検査角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2と、基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2との差の絶対値の少なくとも1つが、予め設定されている閾値を上回るか否かを判定する。この判定の結果、検査角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・と検査角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2と、基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2との差の絶対値の少なくとも1つが閾値を上回る場合、処理は、ステップS2711に進む。処理がステップS2711に進むと、出力部304は、ヨーダンパが正常でないことを示す非正常情報を出力する。図23~図26のシミュレーションのように、左右のそれぞれにおいて、角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2を算出する場合、左右のどちらのヨーダンパが正常でないかを示す情報を、非正常情報に含めることができる。また、出力部304は、通り狂い量yの情報を出力することができる。そして、処理は、後述するステップS2712に進む。
一方、ステップS2710の判定の結果、検査角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・と検査角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2と、基準角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、基準角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2との差の絶対値の全てが閾値を上回らない場合、処理は、ステップS2711の処理を省略してステップS2712に進む。このとき、出力部304は、通り狂い量yの情報を出力することができる。
処理がステップS2712に進むと、検査装置300は、検査対象の鉄道車両が検査区間を出たか否かを判定する。この判定の結果、検査対象の鉄道車両が検査区間を出ていない場合、処理は、ステップS2707に戻る。そして、検査対象の鉄道車両が検査区間を出るまで、ステップS2707~S2712の処理が繰り返し実行される。そして、ステップS2712において、検査対象の鉄道車両が検査区間を出たと判定されると、図27のフローチャートによる処理が終了する。
(まとめ)
以上のように本実施形態では、検査装置300は、正常な鉄道車両において事前に算出された角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2と、検査対象の鉄道車両において算出された角速度差ψy1・-ψ・、ψy2・-ψ・、角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2とが乖離している場合に、検査対象の鉄道車両におけるヨーダンパが正常でないと判定する。従って、前後方向力T~Tを用いることにより、ヨーダンパが正常であるか否かを正確に判定することができる。
本実施形態では、角速度ψ y1 ・-ψ b ・、ψ y2 ・-ψ b ・と角変位差ψy1-ψt1、ψy2-ψt2との双方を導出する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、これらのうち何れか一方のみを導出してもよい。
また、前後方向力T1~T4の測定値について、第2の実施形態のようにして、前後方向力T1~T4の測定値に含まれる本質的な信号成分を抽出して用いてもよい。
また、本実施形態においても、第1~第3の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
<<第5の実施形態>>
次に、第5の実施形態を説明する。第1~第3の実施形態では、検査対象部材の何れかが異常であるか否かを検査する。第4の実施形態では、検査対象部材をヨーダンパに限定する。これに対し、本実施形態では、前後方向力T~Tの測定値を用いて、検査対象部材の1つである軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性が異常であるか否かを検査する場合を例に挙げて説明する。このように本実施形態と第1~第4の実施形態は、検査対象部材を軸箱支持装置18a、18bに限定したことによる構成および処理が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1~第4の実施形態と同一の部分については、図1~図27に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
(知見)
まず、本発明者らが得た知見について説明する。
本発明者らは、前後方向力の測定値を用いることにより、軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性が正常であるか否かを正確に検査することができることを見出した。
曲線軌条を考慮すると、前後方向力Tは、以下の(70)式で表される。
Figure 0007024874000039
各式において、添え字iは、輪軸13a、13b、13c、13dを識別するための記号である(i=1、2、3、4は、それぞれ、輪軸13a、13b、13c、13dに対応する)。また、添え字jは、台車12a、12bを識別するための記号である(j=1、2は、それぞれ、台車12a、12bに対応する)。
wxは、軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数である。Cwxは、軸箱支持装置18a、18bの前後方向の減衰係数である。bは、軸箱支持装置18a、18bの左右方向における間隔の1/2の長さを表す(1つの輪軸に対して左右に設けられている2つの軸箱支持装置18a、18bの左右方向における間隔は2bになる)。ψtjは、台車12aまたは12bのヨーイング方向における回転量(角変位)である。ψwiは、輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位)である。ψtj・は、台車12aまたは12bのヨーイング方向における角速度である。ψwi・は、輪軸13a~13dのヨーイング方向における角速度である。
aは、台車12a、12bに設けられている輪軸13a・13b、13c・13d間の前後方向における距離の1/2を表す(台車12a、12bに設けられている輪軸13a・13b、13c・13d間の距離は2aになる)。1/Rは、輪軸13a、13b、13c、または13dの位置での軌条20a、20bの曲率である。1/R・は、輪軸13a、13b、13c、または13dの位置での軌条20a、20bの曲率の時間微分値である。1/R・は、(70)式において、1/Rの1の上に・が付されているものに対応する。また、+の下に-が付されている記号は、輪軸13a、13cに対する式には+を採用し、輪軸13b、13dに対する式には-を採用することを示す。
(70)式を変形すると、以下の(71)式が得られる。
Figure 0007024874000040
本発明者らは、鉄道車両が86自由度を有するものとして鉄道車両の走行をシミュレーション(数値解析)した。
図28は、検査区間における軌条20a、20bの曲率の一例を示す図である。図28において、距離0は、検査区間の開始地点を示す(このことは他の図でも同じである)。図28は、鉄道車両が走行方向に向かって右回りに走行していることを示す。
図29は、鉄道車両が正常であると想定した場合と、輪軸13aの軸箱支持装置18aの前後方向の剛性が劣化したことを想定した場合とのそれぞれの前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果の一例を示す図である。ここでは、図28に示す検査区間における前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションを行った。また、鉄道車両が270km/hで検査区間を走行するものとした。また、軸箱支持装置18aの前後方向のバネ定数Kwxを、正常時の0.5倍とすることにより、輪軸13aの軸箱支持装置18aの前後方向の剛性が劣化したことを想定した。
図29において、グレーの線(正常)が、鉄道車両が正常であると想定した場合のグラフであり、黒の線(故障)が、輪軸13aの軸箱支持装置18aの前後方向の剛性が劣化したことを想定した場合のグラフであり、黒の線しか見えていない部分は、グレーの線が黒の線に隠れていること(即ち、正常と故障とで差がないこと)を示す。
図29に示すように、輪軸13aの軸箱支持装置18a(前後方向の剛性の劣化を想定した軸箱支持装置18a)が配置される台車12aの輪軸13a、13bの前後方向力T、T(黒の線の故障を示すグラフを参照)は、正常な鉄道車両での前後方向力T、T(グレーの線の正常を示すグラフを参照)に比べて、直線軌条では振幅が低下し、曲線軌条では振幅と平均値の双方が低下する。
以上のように、前後方向力T~Tと、軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数Kwxとには相関がある。このことから、本発明者らは前後方向力T~Tの測定値を用いて、軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数Kwxが、正常時の値から乖離しているか否かを検出することにより、軸箱支持装置18a、18b(の前後方向の剛性)が正常であるか否かを正確に検査することができることを見出した。
本実施形態は、以上の知見に基づいてなされたものである。
(検査装置300の構成)
図30は、検査装置300の機能的な構成の一例を示す図である。
図30において、検査装置300は、その機能として、データ取得部301、記憶部302、検査部303、および出力部304を有する。データ取得部301は、その機能として、軌道情報取得部3001および車両情報取得部3002を有する。検査部303は、その機能として、バネ定数導出部3003、周波数成分調整部3004、および判定部3005を有する。
(71)式に示すように、軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数Kwxを定めるパラメータのうち、a(台車12a、12bに設けられている輪軸13a・13b、13c・13d間の前後方向における距離の1/2)およびb(軸箱支持装置18a、18bの左右方向における間隔の1/2の長さ)は、鉄道車両の構造により予め定められる。また、Cwx(軸箱支持装置18a、18bの前後方向の減衰係数)は、一定値であると見なせる(尚、Cwxは0としてもよい)。このため、検査装置300は、これらの情報を予め記憶している。
従って、軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数Kwxを導出するために必要なパラメータのうち、可変のパラメータは、1/R(輪軸13a、13b、13c、または13dの位置での軌条20a、20bの曲率)と、1/R・(輪軸13a、13b、13c、または13dの位置での軌条20a、20bの曲率の時間微分値)と、T(前後方向力)と、ψtj(台車12a、12bのヨーイング方向における回転量(角変位))と、ψwi(輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位))と、ψtj・(台車12a、12bのヨーイング方向における角速度)と、ψwi・(輪軸13a~13dのヨーイング方向における角速度)である。
[軌道情報取得部3001]
軌道情報取得部3001は、鉄道車両の走行中に、軌道情報を、所定のサンプリング周期で取得する。軌道情報には、1/R(輪軸13a、13b、13c、13dの位置での軌条20a、20bの曲率)と、1/R・(輪軸13a、13b、13c、13dの位置での軌条20a、20bの曲率の時間微分値)と、yRi(輪軸13a、13b、13c、13dの位置での通り狂い量)と、φraili(輪軸13a、13b、13c、13dの位置での軌条20a、20bのカント角)とが含まれる。輪軸13a、13b、13c、13dの位置は、鉄道車両の走行位置から特定される。鉄道車両の走行位置(現在位置)は、例えば、GPS(Global Positioning System)を用いて各時刻における鉄道車両の位置を検出することにより得られる。また、鉄道車両の走行位置は、鉄道車両の各時刻における速度の積算値等から求めてもよい。
軌道情報取得部3001は、鉄道車両が走行する区間の各位置における軌条20a、20bの曲率(の設計値または測定値)と通り狂い量(の測定値)とカント角(の測定値)を予め取得する。軌道情報取得部3001は、鉄道車両の走行位置(現在位置)から、輪軸13a、13b、13c、13dの現在位置を導出する。そして、軌道情報取得部3001は、鉄道車両が走行する区間の各位置における軌条20a、20bの曲率に基づいて、輪軸13a、13b、13c、13dの現在位置での軌条20a、20bの曲率1/Rと、その時間微分値1/R・と、を導出する。また、軌道情報取得部3001は、鉄道車両が走行する区間の各位置における通り狂い量に基づいて、輪軸13a、13b、13c、13dの現在位置での通り狂い量yRiを導出する。
軌道情報取得部3001は、このような1/R、1/R・、およびyRiの導出を、所定のサンプリング周期が到来するたびに行う。尚、yRi(輪軸13a、13b、13c、または13dの位置での通り狂い量)は、特許文献5に記載のようにして導出してもよい。
また、軌道情報取得部3001は、鉄道車両が走行する区間の各位置におけるカント角に基づいて、輪軸13a、13b、13c、13dの現在位置でのカント角φrailiを導出する。このような1/R、1/R・、yRi、およびφrailiの導出を、所定のサンプリング周期が到来するたびに行う。
軌道情報取得部3001は、この他、鉄道車両の走行位置に応じて変わり得る軌道20の情報も、軌道情報として、所定のサンプリング周期が到来するたびに取得することができる。
[車両情報取得部3002]
車両情報取得部3002は、鉄道車両の走行中に、車両情報を、所定のサンプリング周期で取得する。車両情報には、T(前後方向力)と、ψtj(台車12a、12bのヨーイング方向における回転量(角変位))と、ψwi(輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位))と、ψtj・(台車12a、12bのヨーイング方向における角速度)と、ψwi・(輪軸13a~13dのヨーイング方向における角速度)とが含まれる。
車両情報取得部3002は、T(前後方向力)の測定値を、所定のサンプリング周期が到来するたびに得る。T(前後方向力)の測定の方法は、前述した通りである。
ψtj(台車12a、12bのヨーイング方向における回転量(角変位))と、ψwi(輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位))と、ψtj・(台車12a、12bのヨーイング方向における角速度)と、ψwi・(輪軸13a~13dのヨーイング方向における角速度)については、ジャイロセンサ等の測定器を用いて所定のサンプリング周期で測定してもよい。ただし、ヨーイング方向における高精度の測定は容易ではない。そこで、本実施形態では、鉄道車両の運動を記述する運動方程式に基づく数値解析を行うことにより取得するものとする。
鉄道車両が21自由度を有するものとする。この場合の、鉄道車両の走行時における運動を記述する運動方程式のうち、台車12a、12bの横振動は、(1)式で表される。台車12a、12bのヨーイングは、(2)式で表される。台車12a、12bのローリングは、(3)式で表される。輪軸13a~13dの横振動は、(4)式で表される。輪軸13a~13dのヨーイングは、(5)式で表される。台車12aに配置されたヨーダンパ24a、24bを記述する運動方程式は、(56)式で表される。台車12bに配置されたヨーダンパ24a、24bのヨーイングを記述する運動方程式は、(57)式で表される。台車12aに配置された空気バネ22a、22bのローリングを記述する運動方程式は、(58)式で表される。台車12bに配置された空気バネ22a、22bのローリングを記述する運動方程式は、(59)式で表される。車体11の運動を記述する運動方程式は、以下の通りである。
・車体の横振動
車体11の横振動(左右方向における運動)を記述する運動方程式は、以下の(72)式で表される。
Figure 0007024874000041
・・は、車体11の左右方向における加速度である。
・車体のヨーイング
車体11のヨーイングを記述する運動方程式は、以下の(73)式で表される。
Figure 0007024874000042
Bzは、車体11のヨーイング方向における慣性モーメントである。ψ・・は、車体11のヨーイング方向における角加速度である。cは、ヨーダンパの前後方向の減衰係数である。ψyi・は、台車12aまたは12bに配置されたヨーダンパ24a、24bのヨーイング方向における角速度である。
・車体のローリング
車体11のローリングを記述する運動方程式は、以下の(74)式で表される。
Figure 0007024874000043
φ・・は、車体11のローリング方向における角加速度である。
車両情報取得部3002は、以上の(1)式~(5)式、(56)式~(59)式、(72)式~(74)式に基づく数値解析を行って、ψtj(台車12a、12bのヨーイング方向における回転量(角変位))と、ψwi(輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位))と、ψtj・(台車12a、12bのヨーイング方向における角速度)と、ψwi・(輪軸13a~13dのヨーイング方向における角速度)とを、所定のサンプリング周期で導出する。このとき、車両情報取得部3002は、或るサンプリング周期における1/R、1/R・、yRi、およびφrailiとして、軌道情報取得部3001により当該サンプリング周期で取得されたものを用いる。また、Kwx等の定数については、正常な鉄道車両における値を用いる。正常な鉄道車両の意味するところは、第1の実施形態で説明したのと同じである。尚、運動方程式を数値解析で解く手法は、公知の技術で実現することができる。従って、ここでは、運動方程式を数値解析で解く手法の詳細な説明を省略する。
[バネ定数導出部3003]
バネ定数導出部3003は、軌道情報取得部3001により取得された「1/R(輪軸13a、13b、13c、13dの位置での軌条20a、20bの曲率)、および1/R・(輪軸13a、13b、13c、13dの位置での軌条20a、20bの曲率の時間微分値)」と、車両情報取得部3002により取得された「T(前後方向力)、ψtj(台車12a、12bのヨーイング方向における回転量(角変位))、ψwi(輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位))、ψtj・(台車12a、12bのヨーイング方向における角速度)、およびψwi・(輪軸13a~13dのヨーイング方向における角速度)」と、予め検査装置300に記憶されている「a(台車12a、12bに設けられている輪軸13a・13b、13c・13d間の前後方向における距離の1/2)、b(軸箱支持装置18a、18bの左右方向における間隔の1/2の長さ)、およびCwx(軸箱支持装置18a、18bの前後方向の減衰係数)」とを(71)式に代入して、Kwx(軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数)を導出することを、所定のサンプリング周期が到来するたびに行う。尚、直線軌条においては、1/R(輪軸13a~13dの位置での軌条20a、20bの曲率)と、1/R・(輪軸13a~13dの位置での軌条20a、20bの曲率の時間微分値)は「0」になる。
ここで、Kwx(軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数)の値が安定せずに、(71)式の分母の値が「0」を跨いで正の値と負の値との双方を有すること(即ち、振動すること)が想定される。この場合、(71)式の分母の値が「0」のときに、いわゆるゼロ割計算となる。このため、Kwx(軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数)の値が極端に大きくまたは小さくなる。連続値として計算する場合(離散化(数値解析)しない場合)にはKwxは、発散する。そこで、本実施形態では、バネ定数導出部3003は、以上のようにして導出されたKwx(軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数)の値が、上限値を上回る場合には、Kwx(軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数)の値を、当該上限値とする。バネ定数導出部3003は、以上のようにして導出されたKwx(軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数)の値が、下限値を下回る場合には、Kwx(軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数)の値を、当該下限値とする。本実施形態では、a、b(>a)を、0以上の実数として、以下の(75)式のように、上限値(=bKwx-)および下限値(=aKwx-)を定める。
Figure 0007024874000044
wx-は、(75)式において、KwxのKの上に-が付されているものに対応する。Kwx-は、正常な鉄道車両における軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数(前述した数値解析の際に設定するKwx)である。例えば、係数aとして「0.5」を予め設定し、係数bとして「1.5」を予め設定することができる。以下の説明では、バネ定数導出部3003により導出されるKwx(軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数)を、必要に応じて、バネ定数Kwxと略称する。
図31は、図28に示す検査区間の各位置におけるバネ定数Kwx(バネ定数Kwxの時系列データ)の一例を示す図である。図31において、Kwx1、Kwx2、Kwx3、Kwx4は、それぞれ、輪軸13a、13b、13c、13dに対する軸箱支持装置におけるバネ定数Kwxであることを示す。図31に示す計算値は、図29において鉄道車両が正常であると想定した場合の前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果(図29の正常のグラフ)と、鉄道車両が正常であると想定して前述した数値解析を行った結果とに基づいて得られたバネ定数Kwxのシミュレーションの結果である。図31に示す計算値を得る際には、係数a、bを、それぞれ、「0.5」、「1.5」とした。また、図31に示す諸元値は、正常な鉄道車両における軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数(前述した数値解析の際に設定するKwx)を示す。
[周波数成分調整部3004]
図31に示すように、バネ定数Kwxの時系列データが安定せず、バネ定数Kwxの時系列データには、鉄道車両が正常であるか否かを判定するのに資する成分(本質的な成分)以外のノイズ成分が含まれることが想定される。そこで、周波数成分調整部3004は、バネ定数導出部3003により導出されたバネ定数Kwxのノイズ成分を除去し、バネ定数Kwxの本質的な周波数成分を抽出する。周波数成分調整部3004は、ローパスフィルタやバンドバスフィルタにより、バネ定数Kwxのノイズ成分を除去することも可能ではあるが、カットオフ周波数を設定することが容易ではない。
そこで、本発明者らは、第2の実施形態で説明した修正自己回帰モデルを用いて、バネ定数Kwxの時系列データから本質的な信号成分を抽出することに想到した。第2の実施形態で説明したように、(40)式によって求められる係数αを用いて、(28)式により、時刻kにおける物理量の予測値y^を算出するモデルが「修正自己回帰モデル」である。
(36)式に示す自己相関行列Rから抽出する固有値の数sは、例えば、自己相関行列Rの固有値の分布から決定することができる。
ここでは、前述した修正自己回帰モデルの説明における物理量は、バネ定数Kwxになる。バネ定数Kwxの値は、鉄道車両の状態に応じて変動する。そこで、まず、鉄道車両を軌道20上で走行させて、バネ定数Kwxについてのデータyを得る。得られたデータy毎に、(32)式と(34)式とを用いて自己相関行列Rを求める。この自己相関行列Rについて(35)式で表される特異値分解を行うことによって自己相関行列Rの固有値を求める。
図32は、自己相関行列Rの固有値の分布の一例を示す図である。図32では、輪軸13aに対する軸箱支持装置18a、18bにおけるバネ定数Kwxのデータyのそれぞれについての自己相関行列Rを特異値分解して得られた固有値σ11~σmmを昇順に並べ替えて、プロットしている。図32の横軸は、固有値のインデックスであり、縦軸は、固有値の値である。尚、ここでは、(28)式のmを1500とした。また、サンプリング周期を0.002sとした。
図32に示す例では、他よりも顕著に高い値をもつ固有値が1つだけある。このことから、(36)式に示す自己相関行列Rから抽出する固有値の数sとして、例えば、1を採用することができる。この他、例えば、閾値を上回る固有値を抽出することもできる。
周波数成分調整部3004は、サンプリング周期が到来するたびに、バネ定数Kwxのデータyの時刻k(当該サンプリング周期)における値yを用いて以下の処理を行う。
まず、周波数成分調整部3004は、バネ定数Kwxのデータyと、予め設定されている数M、mと、に基づいて、(32)式と(34)式とを用いて自己相関行列Rを生成する。
次に、周波数成分調整部3004は、自己相関行列Rを特異値分解することで、(35)式の直交行列Uおよび対角行列Σを導出し、対角行列Σから自己相関行列Rの固有値σ11~σmmを導出する。
次に、周波数成分調整部3004は、自己相関行列Rの複数の固有値σ11~σmmのうち、s個の固有値σ11~σssを、修正自己回帰モデルの係数αを求めるのに利用する自己相関行列Rの固有値として選択する。前述したように本実施形態では、周波数成分調整部3004は、自己相関行列Rの複数の固有値σ11~σmmのうち、最大の固有値σ11を、修正自己回帰モデルの係数αを求めるのに利用する自己相関行列Rの固有値として選択する。
次に、周波数成分調整部3004は、バネ定数Kwxのデータyと、固有値σ11と、自己相関行列Rの特異値分解により得られた直交行列Uと、に基づいて、(40)式を用いて、修正自己回帰モデルの係数αを決定する。
そして、周波数成分調整部3004は、修正自己回帰モデルの係数αと、バネ定数Kwxのデータy(の実績値)と、に基づいて、(28)式により、バネ定数Kwxのデータyの時刻kにおける予測値y^を導出する。このようにしてバネ定数Kwxのデータyは修正される。以下の説明では、以上のようにして周波数成分調整部3004により修正されたバネ定数Kwxを、必要に応じて、修正後バネ定数Kwxと称する。
図33~図35は、図28に示す検査区間の各位置における修正後バネ定数Kwx(修正後バネ定数Kwxの時系列データ)の一例を示す図である。図33~図35において、Kwx1、Kwx2、Kwx3、Kwx4は、それぞれ、輪軸13a、13b、13c、13dに対する軸箱支持装置18a、18bにおける修正後バネ定数Kwxであることを示す。
図33に示す計算値は、鉄道車両が正常であると想定した場合の前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果(図29の正常のグラフ)を用いて導出したバネ定数Kwxから得られる修正後バネ定数Kwxの時系列データを示す。
図34に示す計算値は、輪軸13aの軸箱支持装置18aの前後方向の剛性が劣化したことを想定した場合の前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果(図29の故障のグラフ)を用いて導出したバネ定数Kwxから得られる修正後バネ定数Kwxの時系列データを示す。
図35に示す計算値は、輪軸13bの軸箱支持装置18bの前後方向の剛性が劣化したことを想定した場合の前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果を用いて導出したバネ定数Kwxから得られる修正後バネ定数Kwxの時系列データを示す。
図33~図35に示す計算値を得る際には、係数a、bを、それぞれ、「0.5」、「1.5」とした。また、図33~図35に示す諸元値は、正常な鉄道車両における軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数(前述した数値解析の際に設定するKwx)を示す。
図33に示すように、鉄道車両が正常である場合、直線軌条の区間Aと曲線軌条の曲率が一定の区間Bとにおいて、輪軸13aに対する軸箱支持装置18aにおける修正後バネ定数Kwx1と、輪軸13cに対する軸箱支持装置18aにおける修正後バネ定数Kwx3は、諸元値と略一致していることが分かる。
一方、図34に示すように、輪軸13aに対する軸箱支持装置18aの前後方向の剛性が劣化すると、直線軌条の区間Aと曲線軌条の曲率が一定の区間Bとにおいて、当該軸箱支持装置18aにおける修正後バネ定数Kwx1が、諸元値に対して大きく低下することが分かる。
また、図35に示すように、輪軸13bに対する軸箱支持装置18bの前後方向の剛性が劣化すると、直線軌条の区間Aと曲線軌条の曲率が一定の区間Bとにおいて、当該軸箱支持装置18bにおける修正後バネ定数Kwx2が、諸元値に対して大きく低下することが分かる。
また、本発明者らは、前述した(75)式における係数a、bの値の決め方が、修正後バネ定数Kwxの計算結果に影響を与えるか否かを調査した。図36は、図33と同様に、図28に示す検査区間の各位置における修正後バネ定数Kwx(修正後バネ定数Kwxの時系列データ)の一例を示す図である。図33に示す計算値を得る際には、係数a、bを、それぞれ、「0.5」、「1.5」とした。これに対し、図36に示す計算値を得る際には、係数a、bを、それぞれ、「0.0」、「2.0」とした。図33に示す計算値と図36に示す計算値は、概ね一致する。従って、係数a、bの値は、修正後バネ定数Kwxの計算結果に大きく影響するものではないと言える。よって、バネ定数Kwxの想定値を含むように係数a、bを決定すればよい(即ち、係数a、bには自由度がある)。
図37Aは、直線軌条における修正後バネ定数Kwx1~Kwx4のシミュレーションの結果の一例を表形式で示す図である。図37Bは、曲線軌条における修正後バネ定数Kwx1~Kwx4のシミュレーションの結果の一例を表形式で示す図である。
図37Aの各欄に示す値は、諸元値を「1」とした場合の各修正後バネ定数Kwx1~Kwx4の、直線軌条の区間Aにおける値である。図37Bの各欄に示す値は、諸元値を「1」とした場合の各修正後バネ定数Kwx1~Kwx4の、曲線軌条の曲率が一定の区間Bにおける値である。諸元値は、正常な鉄道車両における軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数(前述した数値解析の際に設定するKwx)である。
図37A、図37Bにおいて、「1軸」、「2軸」、「3軸」、「4軸」は、それぞれ、輪軸13a、13b、13c、13dに対する軸箱支持装置18a、18bにおける修正後バネ定数Kwx1、Kwx2、Kwx3、Kwx4であることを示す。
図37A、図37Bにおいて、「正常」は、鉄道車両が正常であると想定した場合の前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果(図29の正常のグラフ)を用いて導出したバネ定数Kwxから得られる修正後バネ定数Kwxの値であることを示す。
図37A、図37Bにおいて、「1軸の剛性が劣化」は、輪軸13aに対する軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性が劣化したことを想定した場合の前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果を用いて導出したバネ定数Kwxから得られる修正後バネ定数Kwxの値であることを示す。同様に、「2軸の剛性が劣化」、「3軸の剛性が劣化」、「4軸の剛性が劣化」は、それぞれ、輪軸13b、13c、13dに対する軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性が劣化したことを想定した場合の前後方向力T~Tの測定値に関するシミュレーションの結果を用いて導出したバネ定数Kwxから得られる修正後バネ定数Kwxの値であることを示す。
図37Aに示すように、直線軌条の区間Aにおいては、何れの輪軸13a、13b、13c、13dに対する軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性が劣化した場合であっても、修正後バネ定数Kwxの値は「正常」の値に対し大きく低下することが分かる(図37Aの背景をグレーとしている欄と「正常」の欄を参照)。
また、図37Bに示すように、曲線軌条の曲率が一定の区間Bにおいては、台車12a、12bの前側の輪軸13a、13cに対する軸箱支持装置18aの前後方向の剛性が劣化した場合に、修正後バネ定数Kwxの値は「正常」の値に対し大きく低下することが分かる(図37Bの「1軸」、「3軸」において背景をグレーとしている欄と「正常」の欄を参照)。
一方、曲線軌条の曲率が一定の区間Bにおいては、台車12a、12bの後ろ側の輪軸13b、13dに対する軸箱支持装置18bの前後方向の剛性が劣化した場合に、修正後バネ定数Kwxの値は「正常」の値に対し大きく低下しない(図37Bの「2軸」、「4軸」において背景をグレーとしている欄と「正常」の欄を参照)。
鉄道車両が曲線軌条を走行中の場合、台車12a、12bの輪軸13a~13dは、曲線軌条において外側に移動する。この移動によって左右の車輪間に輪径差が生じ、台車12a、12bを曲線軌条に沿う方向に旋回させる縦クリープ力が発生する。この際、後ろ側の輪軸13b、13dは、前側の輪軸13a、13cより後に曲線軌条に進入する。従って、前側の輪軸13a、13cよりも曲線軌条の外側への移動量が小さくなる。よって、縦クリープ力は前側の輪軸13a、13cに比べると小さくなる。この事例では、曲線軌条の曲率が小さい。このため、曲線軌条中に後ろ側の輪軸13b、13dに作用する縦クリープ力はほとんど0である。その結果、後ろ側の輪軸13b、13dの前後方向力T、Tは縦クリープ力の低下に応じて、前側の輪軸13a、13cの前後方向力T、Tと比較して小さくなる(図29を参照)。このため、図37Bに示すように、軸箱支持装置18bの前後方向の剛性が劣化している場合といない場合とで、修正後バネ定数Kwx2、Kwx4の値の変化が小さくなると考えられる。
以上のように、輪軸13a、13cに対する軸箱支持装置18aの前後方向の剛性が劣化したことは、直線軌条の区間であっても、曲線軌条の曲率が一定の区間であっても、検出することができる。一方、輪軸13b、13dに対する軸箱支持装置18bの前後方向の剛性が劣化したことは、直線軌条において検出することができる。鉄道車両が走行する区間の何れかにおいて、軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性が劣化していることを検出することができれば、検査の目的を達成することができる。一般に、曲線軌条よりも直線軌条の方が長いため、輪軸13b、13dに対する軸箱支持装置18bの前後方向の剛性が劣化しているか否かの検出頻度が大きく低下することはない。
[判定部3005、記憶部302]
判定部3005は、各サンプリング周期において周波数成分調整部3004により導出された修正後バネ定数Kwxが導出されるたびに、当該修正後バネ定数Kwxと基準値とを比較した結果に基づいて、軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性が劣化しているか否かを判定する。本実施形態では、記憶部302には、当該基準値が記憶される。
本実施形態では、前述した軌道情報取得部3001、車両情報取得部3002、バネ定数導出部3003、および周波数成分調整部3004の処理を行うことにより、鉄道車両が正常である場合の各輪軸13a~13dに対する修正後バネ定数Kwxの値を予め導出しておく。記憶部302は、鉄道車両が正常である場合の各輪軸13a~13dに対する修正後バネ定数Kwxの値を、各輪軸13a~13dに対する基準値として、予め記憶する。正常な鉄道車両の意味するところは、第1の実施形態で説明したのと同じである。そして、判定部3005は、周波数成分調整部3004により、或る輪軸に対する修正後バネ定数Kwxが導出されると、当該輪軸に対する修正後バネ定数Kwxを、当該輪軸に対する基準値で割った値を導出する。判定部305は、導出した値が閾値を下回るか否かを判定する。
この判定の結果、当該輪軸に対する修正後バネ定数Kwxを、当該輪軸に対する基準値で割った値が、閾値を下回る場合、判定部3005は、当該輪軸に対する軸箱支持装置の前後方向の剛性は正常でないと判定する。一方、当該輪軸に対する修正後バネ定数Kwxを、当該輪軸に対する基準値で割った値が、閾値を下回らない場合、判定部3005は、当該輪軸に対する軸箱支持装置の前後方向の剛性は正常であると判定する。判定部3005は、このような判定を、輪軸13a~13dに対する修正後バネ定数Kwx1~Kwx4のそれぞれについて個別に行う。閾値は、例えば、図37Aおよび図37Bに示したようなシミュレーションの結果に基づいて決定することができる。例えば、図37A、図37Bにおいて、「1軸」の「1軸の剛性が劣化」の値を「1軸」の「正常」の値で割った値は、それぞれ「0.8217(=0.7445÷0.9060)」、「0.6627=(0.6720÷1.0140)」である。従って、直線軌条の区間でも、曲線軌条の曲率が一定の区間でも、輪軸13aに対する軸箱支持装置18aの前後方向の剛性が劣化しているか否かを検知できるようにするために、「0.85~0.90」の範囲で、輪軸13aに対する修正後バネ定数Kwx1を、輪軸13aに対する基準値で割った値に対する閾値を決定することができる。尚、直線軌条と曲線軌条とで閾値を異ならせてもよい。
判定部3005は、以上の判定を、サンプリング周期が到来するたびに行う。
尚、修正後バネ定数Kwxと基準値とを比較していれば、判定部3005における判定の方法は、前述した方法に限定されない。例えば、各輪軸13a~13dに対する基準値を、諸元値としてもよい。また、判定部3005は、曲線軌条においては、輪軸1b、1dに対する修正後バネ定数Kwx2、Kwx4を、当該輪軸に対する基準値で割った値が、閾値を下回るか否かを判定しないようにしてもよい。
[出力部304]
出力部304は、判定部3005により判定された結果を示す情報を出力する。具体的に出力部304は、判定部3005により、軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性が正常でないと判定された場合には、そのことを示す情報を出力する。このとき、出力部304は、前後方向の剛性が正常でない軸箱支持装置を示す情報も併せて出力する。出力の形態としては、例えば、コンピュータディスプレイへの表示、外部装置への送信、および内部または外部の記憶媒体への記憶の少なくとも何れか1つを採用することができる。
(フローチャート)
次に、図38のフローチャートを参照しながら、本実施形態の検査装置300における処理の一例を説明する。尚、図38のフローチャートの開始の前に、所定の区間(例えば営業区間(始発駅から終着駅までの区間))において正常な鉄道車両を走行させて、ステップS3801~S3806の処理を実行しておく。この処理により、鉄道車両が正常である場合の各輪軸13a~13dに対する修正後バネ定数Kwxの値が導出される。記憶部302は、鉄道車両が正常である場合の各輪軸13a~13dに対する修正後バネ定数Kwxの値を、各輪軸13a~13dに対する基準値として記憶する。図38のフローチャートは、記憶部302への記憶が終了した後に、当該鉄道車両を、当該所定の区間において走行させている間に実行されるものとする。また、当該所定の区間の各位置における軌条20a、20bの曲率、通り狂い量、カント角等の軌道情報や、図38のフローチャートによる処理で必要な情報((1)式~(5)式、(56)式~(59)式、(72)式~(74)式における定数等)も、図38のフローチャートの開始の前に、検査装置300に記憶させているものとする。
ステップS3801において、検査装置300は、所定のサンプリング周期(の開始時刻)が到来するまで待機する。所定のサンプリング周期(の開始時刻)が到来すると、処理はステップS3802に進む。処理がステップS3802に進むと、軌道情報取得部3001は、現在のサンプリング周期における軌道情報を取得する。軌道情報には、1/R(輪軸13a~13dの位置での軌条20a、20bの曲率)と、1/R・(輪軸13a~13dの位置での軌条20a、20bの曲率の時間微分値)と、yRi(輪軸13a~13dの位置での通り狂い量)と、φraili(輪軸13a~13dの位置での軌条20a、20bのカント角)とが含まれる。
次に、ステップS3803において、車両情報取得部3002は、現在のサンプリング周期における車両情報を取得する。車両情報には、T(前後方向力)と、ψtj(台車12a、12bのヨーイング方向における回転量(角変位))と、ψwi(輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位))と、ψtj・(台車12a、12bのヨーイング方向における角速度)と、ψwi・(輪軸13a~13dのヨーイング方向における角速度)とが含まれる。
次に、ステップS3804において、バネ定数導出部3003は、ステップS3802で取得された軌道情報と、ステップS3803で取得された車両情報とを用いて、(71)式および(75)式に基づき、現在のサンプリング周期におけるバネ定数Kwxを導出する。
次に、ステップS3805において、検査装置300は、バネ定数Kwxの数が、m個(例えば、1500個)以上あるか否かを判定する。この判定の結果、バネ定数Kwxの数がm個以上ない場合には、修正バネ定数Kwxを導出するためのデータがそろっていないため、処理はステップS3801に戻る。そして、次のサンプリング周期におけるバネ定数Kwxを導出するための処理が行われる。
一方、バネ定数Kwxの数がm個以上ある場合、処理はステップS3806に進む。ステップS3806に進むと、周波数成分調整部3004は、m個の修正バネ定数Kwxのデータyに基づいて、自己相関行列Rを生成する((32)式と(34)式を参照)。周波数成分調整部3004は、自己相関行列Rを特異値分解することで、直交行列Uおよび対角行列Σを導出する((35)式を参照)。周波数成分調整部3004は、対角行列Σから自己相関行列Rの固有値σ11~σmmを導出し、最大の固有値σ11を選択する。周波数成分調整部3004は、バネ定数Kwxのデータyと、固有値σ11と、自己相関行列Rの特異値分解により得られた直交行列Uと、に基づいて、修正自己回帰モデルの係数αを決定する((40)式を参照)。周波数成分調整部3004は、修正自己回帰モデルの係数αと、バネ定数Kwxのデータy(の実績値)とに基づいて、バネ定数Kwxのデータyの現在のサンプリング周期(時刻k)における予測値y^kを、修正後バネ定数Kwxとして導出する((28)式を参照)。
次に、ステップS3807において、判定部3005は、或る輪軸に対する修正後バネ定数Kwxを、当該輪軸に対する基準値で割った値が、閾値を下回るか否かを、輪軸13a~13dに対する修正後バネ定数Kwxのそれぞれについて判定する。この判定の結果、或る輪軸に対する修正後バネ定数Kwxを、当該輪軸に対する基準値で割った値が、閾値を下回る場合、当該輪軸に対する軸箱支持装置の前後方向の剛性は正常でないと判定し、そうでない場合、当該輪軸に対する軸箱支持装置の前後方向の剛性は正常であると判定する。以上の判定の結果、前後方向の剛性が正常でない軸箱支持装置がない場合(全ての軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性が正常である場合)、処理はステップS3808を省略して後述するステップS3809に進む。
一方、前後方向の剛性が正常でない軸箱支持装置ある場合、処理はステップS3808に進む。処理がステップS3808に進むと、出力部304は、軸箱支持装置の前後方向の剛性が正常でないことを示す情報と、正常でない軸箱支持装置を特定する情報とを出力する。
次に、ステップS3809において、検査装置300は、検査を終了するか否かを判定する。この判定は、鉄道車両が走行する前記所定の区間の走行が終了したか否かによって行うことができる。また、オペレータによる検査装置300に対する入力指示に基づいて行うこともできる。
この判定の結果、検査を終了しない場合、処理はステップS3801に戻る。そして、次のサンプリング周期において、軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性が正常であるか否かを判定するための処理が行われる。一方、検査を終了する場合、図38のフローチャートによる処理が終了する。
(まとめ)
以上のように本実施形態では、検査装置300は、軌道情報(1/R、1/R・、φraili)と、車両情報(T、ψtj、ψwi、ψtj・、ψwi・)とに基づいて、軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数Kwxを導出する。検査装置300は、軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数Kwxを用いて、軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性が正常であるか否かを判定する。従って、軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性が正常であるか否かを正確に判定することができる。
また、本実施形態では、検査装置300は、軌道情報(1/R、1/R・、φraili)と、車両情報(T、ψtj、ψwi、ψtj・、ψwi・)とに基づいて導出した軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数Kwxの値が上限値を上回る場合、当該値を当該上限値とし、下限値を下回る場合、当該値を当該下限値とする。従って、軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数Kwxの値をより一層安定させることができる。
また、本実施形態では、検査装置300は、軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数Kwxのデータyから、自己相関行列Rを生成する。検査装置300は、自己相関行列Rを特異値分解して得られた固有値のうち、最大の値を有する固有値を用いて、軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数Kwxのデータyを近似する修正自己回帰モデルの係数αを決定する。従って、軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数Kwxのデータyに含まれる信号成分のうち、軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性が正常であるか否かによって変化する信号成分を強調することができるように、係数αを決定することができる。検査装置300は、時刻kにおける軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数Kwxの予測値y^を、このようにして係数αが定められた修正自己回帰モデルに、その時刻よりも前の時刻k-l(1≦l≦m)の軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数Kwxのデータyを与えることにより算出する。従って、カットオフ周波数を予め想定することなく、軸箱支持装置18a、18bの前後方向のバネ定数Kwxのデータyから、本質的な信号成分を抽出することができる。従って、軸箱支持装置18a、18bの前後方向の剛性が正常であるか否かをより一層正確に判定することができる。
また、本実施形態では、検査装置300は、走行中の鉄道車両の運動を記述する運動方程式に基づいて、車両情報(ψtj、ψwi、ψtj・、ψwi・)を導出する。従って、測定が容易ではないヨーイング方向における回転量(角変位)および角速度の情報として、正確な情報を容易に取得することができる。
(変形例)
本実施形態では、或る輪軸に対する修正後バネ定数Kwxを、当該輪軸に対する基準値で割った値が、閾値を下回るか否かが判定されるたびに、軸箱支持装置の前後方向の剛性が正常でないことを示す情報を出力する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、或る輪軸に対する修正後バネ定数Kwxを、当該輪軸に対する基準値で割った値が、閾値を下回ることが所定の回数継続した場合に、当該輪軸に対する軸箱支持装置の前後方向の剛性が正常でないと判定して、そのことを示す情報を出力してもよい。また、或る輪軸に対する修正後バネ定数Kwxを、当該輪軸に対する基準値で割った値が、検査区間の全部または一部において閾値を下回る頻度が所定の値を超えた場合に、当該輪軸に対する軸箱支持装置の前後方向の剛性が正常でないと判定して、そのことを示す情報を出力してもよい。これらの具体的な判定条件は、閾値の設定や検査区間の軌道情報との兼ね合いで十分な判定の確度が得られるものを選択すればよい。また、これらの判定の結果に基づく情報を出力するタイミングは、当該判定の直後に限定されない。例えば、検査の終了後に、これらの判定の結果に基づく情報を出力してもよい。
また、本実施形態においても、第1~第4の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
<<第6の実施形態>>
次に、第6の実施形態を説明する。第1~第5の実施形態では、検査対象部材が鉄道車両の部品である場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、検査対象部材が鉄道車両の車輪14a~14dである場合を例に挙げて説明する。このように本実施形態と第1~第の実施形態は、検査対象部材を車輪14a~14dに限定したことによる構成および処理が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1~第5の実施形態と同一の部分については、図1~図38に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
(踏面勾配)
本実施形態では、検査装置300は、車輪14a~14dの状態の異常の有無の一例として、踏面勾配の異常の有無を判定する。まず、踏面勾配について説明する。
図39は、踏面勾配の一例を説明する図である。図39は、走行中の鉄道車両において、輪軸13aに配置されている車輪14a、14fが、軌条20a、20bと接触している様子を概念的に示す図である。図3では、基準位置にある車輪14a、14fを破線で示し、走行中の車輪14a、14fを実線で示す。例えば、車輪14a、14fの左右方向(y軸方向)における中間の位置が、軌条20a、20bの左右方向(y軸方向)における中間の位置と一致するような位置に車輪14a、14fがある場合に、車輪14a、14fは、基準位置にあることになる。この場合、車輪14a、14fは、位置31a、31bで軌条20a、20bに接触する。
基準位置にある車輪14a、14fの(所定の)位置と、走行中の車輪14a、14fの当該位置との左右方向(y軸方向)における変位(車輪14a、14f、軌条20a、20b間の相対変位)をΔy1(Δyi)とする。車輪14aの(回転軸の)中心Or(車軸15a)から車輪14aの軌条20aとの接触位置32aまでの最短距離(車輪14aの半径)をrr1(rri)とする。車輪14fの(回転軸の)中心Ol(車軸15a)から車輪14fの軌条20bとの接触位置32bまでの最短距離(車輪14fの半径)をrl1(ril )とする。踏面勾配γ1(γi)は、以下の(76)式で表されるものとする。尚、図39に示すように、y-z平面上では、車輪14a、14fは、軌条20a、20bに対し点接触する。
Figure 0007024874000045
(76)式に示す踏面勾配γ(γ)は、車輪14a、14fのそれぞれにおける踏面勾配を平均化した値になる。従って、輪軸13a~13dに対し踏面勾配γ(γ~γ)が1つずつ得られる。即ち、その他の輪軸13b~13d(車輪14b~14d)に対しても、輪軸13a(車輪14a、14f)対する踏面勾配γと同様にして踏面勾配γ~γが得られる。本実施形態では、踏面勾配が(76)式で表される場合を例に挙げて説明する。尚、車輪14a~14fのそれぞれにおける踏面勾配は、基準位置にある車輪14a、14fの軌条20a、20bとの接触位置において踏面が水平面(x-y平面)に対してなす角度をθとすると、tanθで表される。
図40Aは、車輪14a、14fの半径rr1、rl1と、車輪14a、14f、軌条20a、20b間の相対変位Δy1との関係の一例を示す図である。図40Bは、図40Aの一部を拡大して示す図である。尚、車輪14a、14fの半径rr1、rl1と、車輪14a、14f、軌条20a、20b間の相対変位Δy1は、図39を参照しながら説明したものである。図40Aおよび図40Bにおいて、正常は、踏面勾配γiのそれぞれが正常値(設計値)であることを示す。異常は、踏面勾配γiのそれぞれが正常値(設計値)に対して2倍であることを示す。図40Bに示す一点鎖線の円41、42は、それぞれ、図3に示す一点鎖線の円33a、33bの位置におけるグラフであることを示す。図40Bに示すように、一般に、踏面勾配が大きくなる場合には、車輪が摩耗するので、車輪の半径が小さくなることに対応する。ただし、車輪のフランジ部では、角度がつくため、車輪の半径は大きくなる。
(知見)
図41は、踏面勾配γが正常値(例えば設計値)である場合の前後方向力T~Tの測定値の時系列データの一例を示す図である。図42は、踏面勾配γのそれぞれが正常値(例えば設計値)に対して2倍になった場合の前後方向力T~Tの測定値の時系列データの一例を示す図である。図43は、軌条20a、20bの曲率1/Rの一例を示す図である。図41および図42に示す前後方向力T~Tの測定値の時系列データは、図43に示す曲率1/Rを有する軌条20a、20bを鉄道車両が走行しているときに得られたものである(図41および図42に示す横軸の時間と、図43に示す横軸の時間は対応する)。尚、ここでは、鉄道車両が86自由度を有するものとして、270km/hrで走行する鉄道車両の走行をシミュレーション(数値解析)した結果を測定値と見なして示す。尚、鉄道車両が86自由度を有する場合、鉄道車両が21自由度を有する場合に比べ、鉄道車両の走行時における運動を記述する運動方程式の数は、65個増える。従って、鉄道車両が86自由度を有するものとして、鉄道車両の走行をシミュレーションすれば、鉄道車両の走行を高精度に再現することができる。
図41および図42を比較すると、踏面勾配γが正常でなくなると、前後方向力T~Tの測定値の時系列データにおいて、前後方向力T~Tの振幅が大きくなると共に周波数も変更されていることが分かる。
前後方向力T~Tの測定値の時系列データの違いをより明確に検出するために、本発明者らは、踏面勾配γが正常値(設計値)である場合と、踏面勾配γが正常値(設計値)に対して2倍になった場合のそれぞれについて、前後方向力T~Tの測定値の時系列データから、第3の実施形態で説明した修正自己回帰モデルの周波数特性を導出した。自己相関行列Rから抽出する固有値の数sを2として、(28)式のmを1500とした。また、サンプリング周期を0.002sとした。
図44は、踏面勾配γが正常値(設計値)である場合の修正自己回帰モデルの周波数特性の一例を示す図である。図44は、図41に示した前後方向力T~Tの測定値の時系列データから得られるものである。図45は、踏面勾配γのそれぞれが正常値(設計値)に対して2倍になった場合の修正自己回帰モデルの周波数特性の一例を示す図である。図45は、図42に示した前後方向力T~Tの測定値の時系列データから得られるものである。
図44~図45において、縦軸の「H1」、「H2」、「H3」、「H4」は、それぞれ、輪軸13a、13b、13c、13dについての、(45)式に示す修正自己回帰モデルの周波数特性の値(信号強度)であることを示す。また、各図において、グラフ内に示す数字は、信号強度のピークの値が大きくなる周波数を、向かって左側から順に並べて示す。例えば、図44の一番上の図(H1)には、「1.1,1.4,0.8,1.7,4.7」と示されている。これは、信号強度のピークの値が最も大きくなる周波数が、1.1Hzであり、2番目に大きくなる周波数が1.4Hzであり、3番目、4番目、5番目に大きくなる周波数が、それぞれ、0.8Hz、1.7Hz、4.7Hzであることを示す。
図44と図45とを比較すると、踏面勾配γが変化することにより、修正自己回帰モデルの周波数特性(H1~H4)は、(前後方向力T~Tの測定値の時系列データに比べて)大きく変化することが分かる。
以上のように本発明者らは、検査対象の鉄道車両から得られる修正自己回帰モデルの周波数特性と、正常な鉄道車両から得られる修正自己回帰モデルの周波数特性とが乖離している場合に、検査対象の鉄道車両における車輪14a~14fの踏面勾配γが正常でないと判定することができるとことを見出した。本実施形態の検査装置300は、以上の知見に基づいてなされたものである。
(検査装置300の構成)
図46は、検査装置300の機能的な構成の一例を示す図である。
図46において、検査装置300は、その機能として、データ取得部301、記憶部302、検査部303、および出力部304を有する。
[データ取得部301]
データ取得部301は、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値を含む入力データを所定のサンプリング周期で取得する。これにより、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値の時系列データが得られる。前後方向力の測定方法は、前述した通りである。
[記憶部302]
記憶部302は、検査区間の各位置において、正常な鉄道車両における修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4を予め記憶する。正常な鉄道車両の意味するところは、第1の実施形態で説明したのと同じである。修正自己回帰モデルの周波数特性は、第3の実施形態で説明したものである。
後述するように本実施形態では、検査区間の各位置において、検査対象の鉄道車両の修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4と、正常な鉄道車両の修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4とを比較する。検査区間は、鉄道車両の走行区間のうち、鉄道車両の車輪14a~14fの状態を検査する区間を指す。尚、検査区間は、鉄道車両の走行区間の全区間とすることもできる。以下の説明では、正常な鉄道車両の修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4を、必要に応じて、基準周波数特性H1~H4と称する。検査対象の鉄道車両の修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4を、必要に応じて、検査周波数特性H1~H4と称する。
検査区間の各位置は、正常な鉄道車両の修正自己回帰モデルを導出したときの鉄道車両の走行位置から得られる。鉄道車両の走行位置は、例えば、GPS(Global Positioning System)を用いて各時刻における鉄道車両の位置を検出することにより得られる。また、鉄道車両の走行位置は、鉄道車両の各時刻における速度の積算値等から求めてもよい。
前述したように本実施形態では、検査区間の各位置において、検査周波数特性H1~H4と、基準周波数特性H1~H4とを比較する。このため、検査周波数特性H1~H4を得たときの条件と可及的に近い条件の基準周波数特性H1~H4を、当該検査周波数特性H1~H4と比較するのが好ましい。そこで、本実施形態では、検査区間の各位置における基準周波数特性H1~H4は、鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度毎に分類されて記憶部302に記憶される。このような分類は、第1の実施形態の[記憶部302]の説明において、基準測定値を、基準周波数特性H1~H4に置き換えることにより実現することができる。従って、ここでは、基準周波数特性H1~H4の分類の方法の詳細な説明を省略する。
[検査部303]
検査部303は、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値に基づいて、当該鉄道車両の車輪14a~14fの状態を検出する。本実施形態では、検査部303は、鉄道車両の車輪14a~14fの状態として、踏面勾配γが正常か否かを検出する。検査部303は、その機能として、係数導出部4601、周波数特性導出部4602、および判定部4603を有する。
<係数導出部4601>
係数導出部4601は、修正自己回帰モデルの係数αを導出する。修正自己回帰モデルの係数αは、第2の実施形態で説明したものである。
ここで、(36)式に示す自己相関行列Rから抽出する固有値の数sは、例えば、自己相関行列Rの固有値の分布から決定することができる。
本実施形態では、前述した修正自己回帰モデルの説明における物理量は、前後方向力T~Tになる。前後方向力T~Tの値は、鉄道車両の状態に応じて変動する。そこで、まず、鉄道車両を軌道20上で走行させて、前後方向力T~Tについてのデータyを得る。得られたデータy毎に、(32)式と(34)式とを用いて自己相関行列Rを求める。この自己相関行列Rについて(35)式で表される特異値分解を行うことによって自己相関行列Rの固有値を求める。
図47は、自己相関行列Rの固有値の分布の一例を示す図である。図47では、輪軸13aにおける前後方向力Tの測定値のデータyのそれぞれについての自己相関行列Rを特異値分解して得られた固有値σ11~σmmを昇順に並べ替えて、プロットしている。図47の横軸は、固有値のインデックスであり、縦軸は、固有値の値である。尚、ここでは、(28)式のmを1500とした。また、サンプリング周期を0.002sとした。
図47に示す例では、他よりも顕著に高い値をもつ固有値が1つある。また、前記顕著に高い値もつ固有値ほどではないが、他と比べると比較的大きな値を持ち0(ゼロ)とみなせない固有値が2つある。このことから、(36)式に示す自己相関行列Rから抽出する固有値の数sとして、例えば、2または3を採用することができる。どちらを採用しても結果に顕著な差異は生じない。この他、例えば、閾値を上回る固有値を抽出することもできる。以下の説明では、(36)式に示す自己相関行列Rから抽出する固有値の数sを2とする。
係数導出部4601は、サンプリング周期が到来するたびに、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値のデータyを用いて以下の処理を行う。
まず、係数導出部4601は、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値のデータyと、予め設定されている数M、mと、に基づいて、(32)式と(34)式とを用いて自己相関行列Rを生成する。
次に、係数導出部4601は、自己相関行列Rを特異値分解することで、(35)式の直交行列Uおよび対角行列Σを導出し、対角行列Σから自己相関行列Rの固有値σ11~σmmを導出する。
次に、係数導出部4601は、自己相関行列Rの複数の固有値σ11~σmmのうち、s個の固有値σ11~σssを、修正自己回帰モデルの係数αを求めるのに利用する自己相関行列Rの固有値として選択する。前述したように本実施形態では、係数導出部4601は、自己相関行列Rの複数の固有値σ11~σmmのうち、最大の固有値σ11と、2番目に大きい固有値σ22とを、修正自己回帰モデルの係数αを求めるのに利用する自己相関行列Rの固有値として選択する。
次に、係数導出部4601は、前後方向力T~Tの測定値のデータyと、固有値σ11~σssと、自己相関行列Rの特異値分解により得られた直交行列Uと、に基づいて、(40)式を用いて、修正自己回帰モデルの係数αを決定する。尚、修正自己回帰モデルの係数αは、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値のデータyのそれぞれについて個別に導出される。
<周波数特性導出部4602>
周波数特性導出部4602は、係数導出部4601により導出された修正自己回帰モデルの係数αに基づいて、(45)式を用いて、検査周波数特性H1~H4を導出する。
[判定部4603]
判定部4603は、検査周波数特性H1~H4と、基準周波数特性H1~H4とを比較した結果に基づいて、検査対象の鉄道車両の車輪14a~14fの踏面勾配γ~γが正常であるか否かを判定する。
以下に判定部4603における処理の具体例を説明する。
判定部4603は、検査対象の鉄道車両が検査区間に入ると、鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度毎に分類されて記憶部302に記憶されている、基準周波数特性H1~H4から、検査装置300が搭載されている検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度と同じ内容で分類されて記憶されている修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4を選択する。検査装置300が搭載されている検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度は、検査装置300に対して予め設定されているものとする。
検査装置300が搭載されている検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度と同じ内容で分類されて記憶されている基準周波数特性H1~H4が記憶部302にない場合、判定部4603は、検査装置300が搭載されている検査対象の鉄道車両の種類および検査区間が同じであり、且つ、当該検査対象の鉄道車両の検査速度との差が、予め設定されている閾値以下の検査速度で分類されて記憶部302に記憶されている基準周波数特性H1~H4を選択する。
以上のようして検査区間の各位置における基準周波数特性H1~H4の選択ができない場合、判定部4603は、当該検査区間では、検査ができないと判定する。
一方、検査区間の各位置における基準周波数特性H1~H4の選択ができた場合、判定部4603は、検査周波数特性H1~H4を導出した時刻における鉄道車両の走行位置を特定する。検査周波数特性H1~H4を導出した時刻における鉄道車両の走行位置は、GPS(Global Positioning System)を用いて当該時刻における鉄道車両の位置を検出することにより得られる。また、当該時刻における鉄道車両の走行位置は、鉄道車両の各時刻における速度の積算値等から求めてもよい。
次に、判定部4603は、前述したようにして選択した検査区間の各位置における基準周波数特性H1~H4から、前述したようにして特定した鉄道車両の走行位置に対応する基準周波数特性H1~H4を読み出す。そして、判定部4603は、検査区間の同じ位置における、検査周波数特性H1~H4および基準周波数特性H1~H4を比較する。
例えば、判定部4603は、検査周波数特性H1~H4と、基準周波数特性H1~H4との類似度を導出し、導出した類似度が、予め設定した閾値を上回るか否かを判定する。類似度は、公知のパターンマッチングの手法を用いることにより導出することができる。類似度は、例えば、各周波数における、修正自己回帰モデルの信号強度の差分の2乗の和である。必ずしも全ての周波数について、修正自己回帰モデルの信号強度の差分の2乗の和を取らなくてもよい。このようにする場合、例えば、検査対象の鉄道車両と正常な鉄道車両とのそれぞれについて、修正自己回帰モデルの信号強度のピークの値が上位の所定の個数に入る周波数を特定する。そして、当該特定した周波数について、修正自己回帰モデルの信号強度の差分の2乗の和を取る。このようにする場合、判定部4603は、類似度の値が、予め設定した閾値を上回る場合に、検査対象の鉄道車両の車輪14a~14fの踏面勾配γは正常でないと判定し、そうでない場合に、検査対象の鉄道車両の車輪14a~14fの踏面勾配γは正常であると判定する。
踏面勾配γの異常の有無のより具体的な判定方法の例を説明する。まず、判定部4603は、検査対象の鉄道車両と正常な鉄道車両とのそれぞれについて、修正自己回帰モデルの信号強度のピークの値が上位の3つに入る周波数を特定する。判定部4603は、当該特定した周波数における、修正自己回帰モデルの信号強度の差分の2乗の和を取ったものを類似度とする。判定部4603は、当該特定した周波数における、修正自己回帰モデルの信号強度の2乗の和に定数を乗じた値を閾値として設定する。ここで、前記定数は、過去の測定結果を分析・検証し、決定すればよい。また、シミュレーションの結果に基づいて、同様の方法で閾値を設定してもよい。
尚、修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4は、輪軸13a~13d毎に得られる。従って、判定部4603は、踏面勾配γが正常であるか否かを、輪軸13a~13d毎に判定することができる。
判定部4603は、以上の判定を、検査対象の鉄道車両が検査区間に入ってから出るまでの間、検査周波数特性H1~H4が得られる度に繰り返し行う。
[出力部304]
出力部304は、判定部4603により判定された結果を示す情報を出力する。具体的に出力部304は、判定部4603により、検査対象の鉄道車両の車輪14a~14fの踏面勾配γiが正常ではないと判定された場合には、そのことを示す情報を出力する。このとき、出力部304は、正常ではないと判定された踏面勾配γiが、輪軸13a~13dの何れに属する車輪の踏面勾配であるかを示す情報も併せて出力する。また、判定部4603により、検査区間では検査ができないと判定された場合、そのことを示す情報を出力する。出力の形態としては、例えば、コンピュータディスプレイへの表示、外部装置への送信、および内部または外部の記憶媒体への記憶の少なくとも何れか1つを採用することができる。
(フローチャート)
次に、図48のフローチャートを参照しながら、本実施形態の検査装置300における処理の一例を説明する。
ステップS4801において、検査装置300は、検査対象の鉄道車両が検査区間に入るまで待機する。検査対象の鉄道車両が検査区間に入ると、処理は、ステップS4802に進む。処理がステップS4802に進むと、判定部4603は、記憶部302から、検査区間の各位置における基準周波数特性H1~H4のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものを探索する。
次に、ステップS4803において、判定部4603は、記憶部302から、検査区間の各位置における基準周波数特性H1~H4のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものを探索することができたか否かを判定する。
ステップS4803の探索の方法は、ステップS1303における探索の方法において、基準測定値を基準周波数特性H1~H4に置き換えることにより実現することができる。従って、ここでは、ステップS4802の探索の方法の詳細な説明を省略する。
この判定の結果、検査区間の各位置における基準周波数特性H1~H4のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものを記憶部302から探索することができない場合、処理は、ステップS4804に進む。
処理がステップS4804に進むと、出力部304は、当該検査区間では検査ができないことを示す検査不能情報を出力する。そして、図48のフローチャートによる処理が終了する。
一方、ステップS4803の判定の結果、検査区間の各位置における基準周波数特性H1~H4のうち、検査対象の鉄道車両の種類、検査区間、および検査速度に合うものを記憶部302から探索することができた場合、処理は、ステップS4805に進む。処理がステップS4805に進むと、検査装置300は、所定のサンプリング周期(の開始時刻)が到来するまで待機する。所定のサンプリング周期(の開始時刻)が到来すると、処理はステップS4806に進む。処理がステップS4806に進むと、データ取得部301は、現在のサンプリング周期における検査測定値を取得する。
次に、ステップS4807において、検査装置300は、検査測定値がm個(例えば、1500個)以上あるか否かを判定する。この判定の結果、検査測定値の数がm個以上ない場合には、修正自己回帰モデルの係数αを導出するためのデータがそろっていないため、処理はステップS4805に戻る。そして、次のサンプリング周期における検査測定値を取得するための処理が行われる。
ステップS4807において、検査測定値がm個以上あると判定されると、処理はステップS4808に進む。処理がステップS4808に進むと、係数導出部4601は、検査測定値のデータyのそれぞれについて、修正自己回帰モデルの係数αを導出する。
次に、ステップS4809において、周波数特性導出部4602は、ステップS4808で導出された修正自己回帰モデルの係数αに基づいて、検査周波数特性H1~H4を導出する。
次に、ステップS4810において、判定部4603は、検査対象の鉄道車両の修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4を導出した時刻における鉄道車両の走行位置を特定する。そして、判定部4603は、特定した検査対象の鉄道車両の走行位置に対応する基準周波数特性H1~H4を、ステップS4802で探索された検査区間の各位置における基準周波数特性H1~H4から読み出す。そして、判定部4603は、特定した検査周波数特性H1~H4と、読み出した基準周波数特性H1~H4との類似度が閾値を上回るか否かを判定する。ここでは、基準周波数特性H1~H4との類似度が閾値を上回る検査周波数特性H1~H4に対応する車輪14a~14f(輪軸13a~13d)の踏面勾配γ~γが正常でないものとする。
この判定の結果、基準周波数特性H1~H4との類似度が閾値を上回る検査周波数特性H1~H4がある場合、処理は、ステップS4811に進む。処理がステップS4811に進むと、出力部304は、検査対象の鉄道車両の車輪14a~14fの踏面勾配γが正常でないことを示す非正常情報を出力する。そして、処理は、後述するステップS4812に進む。
一方、ステップS4810の判定の結果、正常な鉄道車両の修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4との類似度が閾値を上回る検査対象の鉄道車両の修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4がない場合、処理は、ステップS4811の処理を省略してステップS4812に進む。
処理がステップS4812に進むと、検査装置300は、検査対象の鉄道車両が検査区間を出たか否かを判定する。この判定の結果、検査対象の鉄道車両が検査区間を出ていない場合、処理は、ステップS4805に戻る。そして、検査対象の鉄道車両が検査区間を出るまで、ステップS4805~S4812の処理が繰り返し実行される。そして、ステップS4812において、検査対象の鉄道車両が検査区間を出たと判定されると、図48のフローチャートによる処理が終了する。
(まとめ)
以上のように本実施形態では、検査装置300は、前後方向力T~Tの測定値のデータyから、自己相関行列Rを生成する。検査装置300は、自己相関行列Rを特異値分解して得られた固有値のうち、最大の値を有する固有値を用いて、前後方向力T~Tの測定値のデータyを近似する修正自己回帰モデルの係数αを決定する。検査装置300は、決定した係数αを用いて、修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4を導出する。検査装置300は、正常な鉄道車両において事前に測定された前後方向力T~Tの測定値から導出される修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4と、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値から導出される修正自己回帰モデルの周波数特性H1~H4とを比較する。検査装置300は、比較の結果に基づいて、検査対象の鉄道車両における車輪14a~14fの踏面勾配γが正常であるか否かを判定する。従って、撮像手段やセンサを地上に配置することなく、鉄道車両の車輪の状態を検査することができる。これにより、撮像手段やセンサが設置されていない箇所においても、鉄道車両の車輪の状態を検査することができる。本実施形態に示す例では、踏面勾配γが正常であるか否かを判定することができる。また、前後方向力T~Tの測定値は、歪みゲージ等で得られるので、特許文献3、4に記載の技術で用いられるセンサや撮像手段に比べて低コストで、鉄道車両の車輪の状態を検査することができる。
(変形例)
本実施形態のように、修正自己回帰モデルの周波数特性を導出すれば、踏面勾配γが正常であるか否かによる周波数特性の差異を強調することができるので好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、前後方向力T~Tの測定値をフーリエ変換することにより、前後方向力T~Tの測定値のパワースペクトルを導出してもよい。
また、必ずしも、検査対象の鉄道車両から得られる修正自己回帰モデルの周波数特性と、正常な鉄道車両から得られる修正自己回帰モデルの周波数特性とを比較する必要はない。図44および図45に示すように、検査対象の鉄道車両における車輪14a~14fの踏面勾配γが正常でない場合には、正常である場合よりも、特定の周波数の信号強度が大きくなる。従って、例えば、検査周波数特性において、所定の周波数または所定の周波数帯域の信号強度が、予め設定された閾値を上回るか否かを判定してもよい。
また、検査測定値が得られたときの軌道20の状態と、正常な鉄道車両の前後方向力T~Tの測定値が得られたときの軌道20の状態とが近い場合に限り、検査を行うようにしてもよい。例えば、正常な鉄道車両の前後方向力T~Tの測定値を得たときに、検査区間の各位置における通り狂い量を特許文献5に記載のようにして算出する。その後、検査測定値を得たときに、検査区間の各位置における通り狂い量を特許文献5に記載のようにして算出する。そして、同じ位置における通り狂い量の差の絶対値が、予め設定されている閾値を上回った場合には、検査測定値が得られたときの軌道20の状態と、正常な鉄道車両の前後方向力T~Tの測定値が得られたときの軌道20の状態とが近くないとして、検査を中止してもよい。また、そのことを示す情報を出力してもよい。
また、本実施形態においても、第1~第5の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
<<第7の実施形態>>
次に、第7の実施形態を説明する。第6の実施形態では、鉄道車両の車輪14a~14fの状態として、鉄道車両の走行中の踏面勾配γiの値を導出せずに、踏面勾配γiが正常か否かを検出する場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、このようにせずに、前後方向力T1~T4の測定値を用いて、鉄道車両の走行中の踏面勾配γiの値を導出する。このように、本実施形態と第の実施形態とは、鉄道車両の車輪14a~14fの状態を検出する方法が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1~第6の実施形態と同一の部分については、図1~図48に付した符号を付す等して詳細な説明を省略する。
(検査装置300の構成)
図49は、検査装置300の機能的な構成の一例を示す図である。
図49において、検査装置300は、その機能として、データ取得部301、記憶部302、検査部303、および出力部304を有する。
[データ取得部301]
データ取得部301は、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値を含む入力データを所定のサンプリング周期で取得する。
本実施形態では、入力データには、車体11の左右方向における加速度の測定値の時系列データ、台車12a、12bの左右方向における加速度の測定値の時系列データ、および輪軸13a~13dの左右方向における加速度の測定値の時系列データが含まれる。各加速度は、例えば、車体11、台車12a、12b、および輪軸13a~13dにそれぞれ取り付けられた歪ゲージと、当該歪ゲージの測定値を用いて加速度を演算する演算装置とを用いることにより測定される。尚、加速度の測定は、公知の技術で実現することができるので、その詳細な説明を省略する。
また、データ取得部301は、入力データとして、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値の時系列データを取得する。前後方向力の測定の方法は、第1の実施形態で説明した通りである。
データ取得部301は、例えば、前述した演算装置との通信を行うことにより、入力データを取得することができる。
[検査部303]
検査部303は、検査対象の鉄道車両において測定された前後方向力T~Tの測定値に基づいて、当該鉄道車両の車輪14a~14fの状態を検出する。本実施形態では、検査部303は、検査対象の鉄道車両の車輪14a~14fの状態として、踏面勾配γを導出する。検査部303は、導出した踏面勾配γに基づいて、踏面勾配γが正常か否かを検出する。検査部303は、その機能として、フィルタ演算部4901、踏面勾配導出部4902、周波数成分調整部4903、踏面勾配補正部4904、および判定部4905を有する。
<フィルタ演算部4901>
フィルタ演算部4901は、データ取得部301により取得された入力データと、状態方程式と、観測方程式と、を用いて、データ同化を行うフィルタを用いた演算を行うことにより状態変数(状態方程式で推定値を決定すべき変数)の推定値を決定することを、所定のサンプリング周期で行う。本実施形態では、特許文献5に記載の手法により、状態変数の推定値を決定する場合を例に挙げて説明する。状態変数の推定値を決定する方法は、特許文献5に記載されているので、ここでは、特許文献5の手法について簡単に説明し、その詳細な説明を省略する。
第4の実施形態で説明したように、特許文献5では、(48)式に示す変数を状態変数とし、(49)式~(65)式の運動方程式を用いて状態方程式を構成する。また、(60)式~(63)式、(49)式、(50)式、および(53)式を用いて観測方程式を構成する。
フィルタ演算部4901は、観測方程式および状態方程式を、(観測変数の測定値と計算値との誤差が最小または当該誤差の期待値が最小になるように状態変数を導出するフィルタ(即ち、データ同化を行うフィルタ)の一例である)カルマンフィルタに適用し、データ取得部301により取得された入力データを用いて、(48)式に示す状態変数を決定する。カルマンフィルタ自体は、公知の技術で実現することができる。
また、フィルタ演算部4901は、(10)式~(13)式により、輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位)ψw1~ψw4の推定値を導出する。
<踏面勾配導出部4902>
踏面勾配導出部4902は、輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位)ψw1~ψw4の推定値と、(48)式に示す状態変数と、輪軸13a~13dにおける前後方向力T~Tの測定値とを、以下の(77)式~(80)式に与えることにより、輪軸13a~13dにおける踏面勾配γ(γ~γ)を導出することを所定のサンプリング周期で行う。(77)式~(80)式は、輪軸13a~13dのヨーイング方向の運動を記述する運動方程式に基づくものである。
Figure 0007024874000046
rは、車輪14a~14dの半径であり、輪軸13a~13dに取り付けられている2つの車輪14a、14f等のフランジ部以外の平均値である。f1_1、f1_2、f1_3、f1_4は、輪軸13a、13b、13c、13dにおける縦クリープ係数である。bは、輪軸13a~13dに取り付けられている2つの車輪14a、14f等と軌条20a、20bとの接点の間の左右方向における距離である。yR1、yR2、yR3、yR4は、輪軸13a、13b、13c、13dの位置での通り狂い量である。検査区間の各位置での通り狂い量yR1、yR2、yR3、yR4は、予め測定されているものとする。Iwzは、輪軸13a~13dのヨーイング方向における慣性モーメントである。saは、車軸15a~15dの中心から軸箱支持バネまでの前後方向におけるオフセット量である。
特許文献5に記載に記載の技術では、輪軸13a~13dのヨーイングを記述する運動方程式を状態方程式に含めない。即ち、(60)式~(63)式において、輪軸13a~13dの横振動(左右方向における運動)を記述する運動方程式を、変換変数e~eを用いて表現することで、当該運動方程式に含まれていた輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位)ψw1~ψw4を消去することができる。また、(64)式、(65)式において、台車12a、12bのヨーイングを記述する運動方程式を、前後方向力T~Tを用いて表現することで、当該運動方程式に含まれていた輪軸13a~13dのヨーイング方向における角変位ψw1~ψw4および角速度ψw1・~ψw4・を消去できる。
以上のように、輪軸13a~13dのヨーイングが排除された分だけ運動の自由度が減る。また、前後方向力T~Tの分だけ、カルマンフィルタ等のデータ同化を行うフィルタで用いる測定値が増える。従って、カルマンフィルタ等のデータ同化を行うフィルタを用いた演算を行うことにより算出される運動の情報の精度は向上する。
ここで、以上のようにして導出される踏面勾配γ(γ~γ)の値が安定せずに、(77)式~(80)式の分母の値が「0」を跨いで正の値と負の値との双方を有すること(即ち、振動すること)が想定される。この場合、(77)式~(80)式の分母の値が「0」のときに、いわゆるゼロ割計算となる。このため、踏面勾配γ(γ~γ)の値が極端に大きくまたは小さくなる。連続値として計算する場合(離散化(数値解析)しない場合)には踏面勾配γ(γ~γ)は発散する。そこで、本実施形態では、踏面勾配導出部4902は、以上のようにして導出された踏面勾配γ(γ~γ)の値が、上限値を上回る場合には、踏面勾配γ(γ~γ)の値を、当該上限値とする。踏面勾配導出部4902は、以上のようにして導出された踏面勾配γ(γ~γ)の値が、下限値を下回る場合には、踏面勾配γ(γ~γ)の値を、当該下限値とする。このように、踏面勾配γの範囲を制限する。本実施形態では、係数cを、0以上の実数として、踏面勾配γの範囲を以下の(81)式に示す区間に制限するように、上限値(=cγ)および下限値(=0)を定める。
Figure 0007024874000047
γは、正常な鉄道車両における踏面勾配であり、例えば、設計値を用いることができる。以下の説明では、正常な鉄道車両における踏面勾配を、必要に応じて踏面勾配の基準値γと称する。また、例えば、係数cとして「10」を予め設定することができる。以下の説明では、範囲を(81)式に示す区間に制限することにより踏面勾配導出部4902により導出される踏面勾配を、必要に応じて、修正前踏面勾配と称する。
図50A、図50Bは、輪軸13aにおける修正前踏面勾配γの時系列データの一例を示す図である。図50Aは、踏面勾配γが正常値(例えば設計値)である場合の修正前踏面勾配γの時系列データの一例を示す。具体的に図50Aは、踏面勾配γが正常値(例えば設計値)である場合の前後方向力T~Tの測定値の時系列データ(図41)を用いて、前述したようにして導出される修正前踏面勾配γの時系列データを示す。図50Bは、踏面勾配γのそれぞれが正常でない場合の修正前踏面勾配γの時系列データの一例を示す。具体的に図50Bは、踏面勾配γが正常値(例えば設計値)でない場合の前後方向力T~Tの測定値の時系列データ(図42)を用いて、前述したようにして導出される修正前踏面勾配γの時系列データを示す。
図50Aおよび図50Bに示す修正前踏面勾配γの時系列データは、図43に示す曲率1/Rを有する軌条20a、20bを鉄道車両が走行しているときに得られたものである(図50Aおよび図50Bに示す横軸の時間と、図43に示す横軸の時間は対応する)。図50Aおよび図50Bは、軌条20a、20bの曲率1/Rが「0(ゼロ)」の区間における修正前踏面勾配γの時系列データを示す。
また、ここでは、係数cを「10」とし、踏面勾配の基準値γを「0.065」とした(図50Aおよび図50Bの「基準0.065」を参照)。
<周波数成分調整部4903>
図50Aおよび図50Bに示すように、修正前踏面勾配γの時系列データが安定せず、修正前踏面勾配γの時系列データには、踏面勾配γの値を決定するのに資する成分(本質的な成分)以外のノイズ成分が含まれることが想定される。そこで、周波数成分調整部4903は、踏面勾配導出部4902により導出された修正前踏面勾配γのノイズ成分を除去し、踏面勾配γの本質的な周波数成分を抽出する。周波数成分調整部4903は、ローパスフィルタやバンドバスフィルタにより、修正前踏面勾配γのノイズ成分を除去することも可能ではあるが、カットオフ周波数を設定することが容易ではない。
そこで、本発明者らは、第2の実施形態で説明した修正自己回帰モデルを用いて、踏面勾配導出部4902により導出された修正前踏面勾配γのノイズ成分を除去し、踏面勾配γの本質的な周波数成分を抽出することができることを見出した。
第2の実施形態では、物理量の時系列データyの物理量は、前後方向力であるが、本実施形態では、踏面勾配γ(修正前踏面勾配γ)である。
また、第6の実施形態で説明したように、(36)式に示す自己相関行列Rから抽出する固有値の数sは、例えば、自己相関行列Rの固有値の分布から決定することができる。
本実施形態では、修正自己回帰モデルにおける物理量は、踏面勾配γ(修正前踏面勾配γ)になる。踏面勾配γ(修正前踏面勾配γ)の値は、鉄道車両の状態に応じて変動する。そこで、鉄道車両を軌道20上で走行させて、踏面勾配γ(修正前踏面勾配γ)についてのデータyを得る。得られたデータy毎に、(32)式と(34)式とを用いて自己相関行列Rを求める。この自己相関行列Rについて(35)式で表される特異値分解を行うことによって自己相関行列Rの固有値を求める。
図51は、自己相関行列Rの固有値の分布の一例を示す図である。図51では、輪軸13aに対する踏面勾配γ(修正前踏面勾配γ)のデータyのそれぞれについての自己相関行列Rを特異値分解して得られた固有値σ11~σmmを昇順に並べ替えて、プロットしている。図51の横軸は、固有値のインデックスであり、縦軸は、固有値の値である。尚、ここでは、(28)式のmを1500とした。また、サンプリング周期を0.002sとした。
図51に示す例では、他よりも顕著に高い値をもつ固有値が1つだけある。このことから、(36)式に示す自己相関行列Rから抽出する固有値の数sとして、例えば、1を採用することができる。この他、例えば、閾値を上回る固有値を抽出することもできる。
周波数成分調整部4903は、修正前踏面勾配γのデータyと、予め設定されている数M、mと、に基づいて、(32)式と(34)式とを用いて自己相関行列Rを生成する。
次に、周波数成分調整部4903は、自己相関行列Rを特異値分解することで、(35)式の直交行列Uおよび対角行列Σを導出し、対角行列Σから自己相関行列Rの固有値σ11~σmmを導出する。
次に、周波数成分調整部4903は、自己相関行列Rの複数の固有値σ11~σmmのうち、s個の固有値σ11~σssを、修正自己回帰モデルの係数αを求めるのに利用する自己相関行列Rの固有値として選択する。前述したように本実施形態では、周波数成分調整部4903は、自己相関行列Rの複数の固有値σ11~σmmのうち、最大の固有値σ11を、修正自己回帰モデルの係数αを求めるのに利用する自己相関行列Rの固有値として選択する。
次に、周波数成分調整部4903は、修正前踏面勾配γのデータyと、固有値σ11と、自己相関行列Rの特異値分解により得られた直交行列Uと、に基づいて、(40)式を用いて、修正自己回帰モデルの係数αを決定する。
そして、周波数成分調整部4903は、修正自己回帰モデルの係数αと、修正前踏面勾配γのデータy(の実績値)と、に基づいて、(28)式により、修正前踏面勾配γのデータyの時刻kにおける予測値y^を導出する。このようにして修正前踏面勾配γのデータyは修正される。以下の説明では、以上のようにして周波数成分調整部4903により修正された修正前踏面勾配γを、必要に応じて、修正後踏面勾配γと称する。
図52A、図52Bは、輪軸13aにおける修正後踏面勾配γ1の時系列データの一例を示す図である。図52Aは、踏面勾配γiが正常値(例えば設計値)である場合の修正踏面勾配γ1の時系列データの一例を示す。具体的に図52Aは、図50Aに示した修正前踏面勾配γ1の時系列データを用いて、前述したようにして導出される修正後踏面勾配γ1の時系列データを示す。図52Bは、踏面勾配γiのそれぞれが正常でない場合の修正踏面勾配γ1の時系列データの一例を示す。具体的に図52Bは、図50Bに示した修正前踏面勾配γiの時系列データを用いて、前述したようにして導出される修正後踏面勾配γ1の時系列データを示す。
図52Aにおいて、修正後踏面勾配γは、踏面勾配の基準値γ(=0.065)に対し、平均で1.02倍となり、踏面勾配の基準値γに略一致する。また、図52Bにおいて、修正後踏面勾配γは、踏面勾配の基準値γ(=0.065)に対し、平均で1.85倍になる。前述したように、図52Bは、図50Bから得られ、図50Bは、図42から得られるものであり、図42は、踏面勾配γのそれぞれが正常値(例えば設計値)に対して2倍になった場合の前後方向力T~Tの測定値の時系列データである。従って、修正後踏面勾配γにより、踏面勾配γが、踏面勾配の基準値γ(=0.065)に対して増加していることを検出できることが分かる。
<踏面勾配補正部4904>
本実施形態では、修正後踏面勾配γの精度を高めるために、第1の倍率と第2の倍率との関係を、輪軸13a~13d毎に予め調査する。第1の倍率は、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、当該検査対象の鉄道車両の修正後踏面勾配γの計算値の倍率(=γ/γ)である。第2の倍率は、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、当該検査対象の鉄道車両の踏面勾配γの実測値の倍率(=γ/γ)である。このような第1の倍率と第2の倍率との関係を検査装置300の内部または外部の記憶媒体に予め記憶する。第1の倍率と第2の倍率との関係は、例えば、以下のようにして得られる。
或る鉄道車両の踏面勾配γを測定して、当該鉄道車両の踏面勾配γの実測値を得る。そして、踏面勾配γの実測値を得た状態から踏面勾配γが変化していないことを確認した上で当該鉄道車両を走行させて、当該鉄道車両の修正後踏面勾配γを前述したようにして導出する。これにより、当該鉄道車両の踏面勾配γの実測値と、当該鉄道車両の修正後踏面勾配γの計算値の組が1つ得られる。そして、第1の倍率と、第2の倍率とを、輪軸13a~13d毎に導出する。
これにより、第1の倍率と、第2の倍率との組が1つ得られる。このような組の導出を、鉄道車両の踏面勾配γを異ならせて行う。そうすると、第1の倍率と、第2の倍率との組が複数得られる。これら複数の組の数は、後述する回帰分析の手法による近似式(近似関数)の精度と計算負荷とのバランスを考慮して定められる。
そして、第1の倍率と、第2の倍率との組のそれぞれを用いて、最小二乗法等の公知の回帰分析の手法により、第1の倍率と、第2の倍率との関係を示す近似式(近似関数)を、輪軸13a~13d毎に導出する。
このような近似式を、第1の倍率と、第2の倍率との関係とする。
第1の倍率と、第2の倍率との関係を導出する際には、検査対象の鉄道車両、または、検査対象の鉄道車両と同じ種類の鉄道車両を用いる。また、第1の倍率と、第2の倍率との関係は、検査区間毎に導出するのが好ましい。
第1の倍率と、第2の倍率との関係は、前述したように数式(近似式)とすることができる。また、第1の倍率と、第2の倍率との関係は、テーブルであってもよい。当該テーブルには、第1の倍率と、第2の倍率とが相互に関連付けて記憶される。
以下の説明では、第1の倍率と、第2の倍率との関係を、必要に応じて、踏面勾配補正情報と称する。
図53は、踏面勾配補正情報の一例を示す図である。図53において、縦軸の計算値は、第1の倍率に対応する。横軸の実測値は、第2の倍率に対応する。図53において、グラフ5301は、輪軸13aに対する踏面勾配補正情報を示す。グラフ5302は、輪軸13bに対する踏面勾配補正情報を示す。グラフ5303は、輪軸13cに対する踏面勾配補正情報を示す。グラフ5304は、輪軸13dに対する踏面勾配補正情報を示す。
以上のようにして踏面勾配補正情報が記憶された後、踏面勾配補正部4904は、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γ0に対する、周波数成分調整部4903により導出された当該検査対象の鉄道車両の修正後踏面勾配γ1の倍率(=γ1/γ0)を導出する。踏面勾配補正部4904は、当該導出した値を、図53に示すグラフ5301の縦軸の値とし、当該値に対応する横軸の値を読み出す。踏面勾配補正部4904は、当該読み出した値を、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γ0に対する、検査対象の鉄道車両の輪軸13aの踏面勾配γ1の倍率として決定する。踏面勾配補正部4904は、輪軸13b~13dについても、輪軸13aと同様にして、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γ0に対する、検査対象の鉄道車両の輪軸13b、13c、13dの踏面勾配γ2、γ3、γ4の倍率を決定する。
以上のようにして、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γ0に対する、検査対象の鉄道車両の踏面勾配γiの倍率が決定される。
<判定部4905>
判定部4905は、踏面勾配補正部4904により決定された、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、検査対象の鉄道車両の踏面勾配γの倍率が、予め設定された範囲内であるか否かを判定する。この範囲は、例えば、踏面勾配の値が、踏面勾配の基準値γに対し、どの位ずれていれば、正常でないと見なすかによって定められる。
この判定の結果、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、検査対象の鉄道車両の踏面勾配γの倍率が、予め設定された範囲内である場合、判定部4905は、当該踏面勾配γは正常であると判定する。一方、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、検査対象の鉄道車両の踏面勾配γの倍率が、予め設定された範囲内でない場合、判定部4905は、当該踏面勾配γは正常ではないと判定する。
尚、踏面勾配補正部4904は、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、検査対象の鉄道車両の踏面勾配γの倍率に、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γを乗算することにより検査対象の鉄道車両の踏面勾配γを導出してもよい。このようにする場合、判定部4905は、当該検査対象の鉄道車両の踏面勾配γが予め設定された範囲内にあるか否かを判定してもよい。
[記憶部302]
記憶部302は、判定部4905において、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、検査対象の鉄道車両の踏面勾配γの倍率と比較される範囲を記憶する。
[出力部304]
出力部304は、判定部4905により判定された結果を示す情報を出力する。具体的に出力部304は、判定部4905により、踏面勾配γiが正常でないと判定された場合には、そのことを示す情報を出力する。このとき、出力部304は、踏面勾配γiどの輪軸のものであるかを示す情報も併せて出力する。また、出力部304は、踏面勾配γiの値も併せて出力する。出力の形態としては、例えば、コンピュータディスプレイへの表示、外部装置への送信、および内部または外部の記憶媒体への記憶の少なくとも何れか1つを採用することができる。
(フローチャート)
次に、図54のフローチャートを参照しながら、本実施形態の検査装置300における処理の一例を説明する。
ステップS5401において、検査装置300は、検査対象の鉄道車両が検査区間に入るまで待機する。検査対象の鉄道車両が検査区間に入ると、処理は、ステップS5402に進む。処理がステップS5402に進むと、検査装置300は、所定のサンプリング周期(の開始時刻)が到来するまで待機する。所定のサンプリング周期(の開始時刻)が到来すると、処理はステップS5403に進む。
処理がステップS5403に進むと、データ取得部301は、検査対象の鉄道車両の入力データを取得する。入力データには、車体11の左右方向における加速度の測定値、台車12a、12bの左右方向における加速度の測定値、輪軸13a~13dの左右方向における加速度の測定値、および前後方向力T~Tの測定値が含まれる。
次に、ステップS5404において、フィルタ演算部4901は、ステップS5403で取得された入力データに基づいて、検査対象の鉄道車両の状態変数の推定値を決定すると共に、検査対象の鉄道車両の輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位)ψw1~ψw4の推定値を導出する。状態変数は、(48)式に示されるものである。
次に、ステップS5405において、踏面勾配導出部4902は、ステップS5403で取得された輪軸13a~13dにおける前後方向力T~Tの測定値と、ステップS5404で決定された状態変数の推定値と、ステップS5404で導出された輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位)ψw1~ψw4の推定値とに基づいて、検査対象の鉄道車両の輪軸13a~13dにおける修正前踏面勾配γ(γ~γ)を導出する。
次に、ステップS5406において、検査装置300は、検査対象の鉄道車両の輪軸13a~13dにおける修正前踏面勾配γがm個(例えば、1500個)以上あるか否かを判定する。この判定の結果、検査対象の鉄道車両の輪軸13a~13dにおける修正前踏面勾配γがm個以上ない場合には、修正自己回帰モデルの係数αを導出するためのデータがそろっていないため、処理はステップS5402に戻る。そして、次のサンプリング周期における検査対象の鉄道車両の輪軸13a~13dにおける修正前踏面勾配γを導出するための処理が行われる。
ステップS5406において、検査対象の鉄道車両の輪軸13a~13dにおける修正前踏面勾配γがm個以上あると判定されると、処理はステップS5407に進む。処理がステップS5407に進むと、周波数成分調整部4903は、ステップS5405で導出されたm個の修正前踏面勾配γを用いて、修正自己回帰モデルの係数αを決定し、決定した修正自己回帰モデルの係数αと、ステップS5405で導出されたm個の修正前踏面勾配γとを用いて、(28)式により検査対象の鉄道車両の修正後踏面勾配γを導出する。
次に、ステップS5408において、踏面勾配補正部4904は、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、ステップS5407で導出された検査対象の鉄道車両の修正後踏面勾配γの倍率を導出する。そして、踏面勾配補正部4904は、踏面勾配補正情報を用いて、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、検査対象の鉄道車両の踏面勾配γの倍率を決定する。検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、検査対象の鉄道車両の踏面勾配γの倍率は、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、ステップS5407で導出された検査対象の鉄道車両の修正後踏面勾配γの倍率をグラフ1801~1804の縦軸に当てはめたときの横軸の値である。
次に、ステップS5409において、判定部4905は、ステップS5408で決定された、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、検査対象の鉄道車両の踏面勾配γの倍率が、予め設定された範囲内であるか否かを判定することにより、正常でない踏面勾配γがあるか否かを判定する。前述したように、検査対象の鉄道車両の踏面勾配γの倍率が、予め設定された範囲内でない場合、当該倍率を有する踏面勾配γは正常でないと判定される。
この判定の結果、正常でない踏面勾配γがある場合、処理はステップS5410に進む。処理がステップS5410に進むと、出力部304は、検査対象の鉄道車両の車輪14a~14fの踏面勾配γが正常でないことを示す非正常情報を出力する。そして、処理は、後述するステップS5411に進む。
一方、ステップS5409の判定の結果、正常でない踏面勾配γがない場合(即ち、全ての踏面勾配γが正常である場合)、処理はステップS5410を省略してステップS5411に進む。
処理がステップS5411に進むと、検査装置300は、検査対象の鉄道車両が検査区間を出たか否かを判定する。この判定の結果、検査対象の鉄道車両が検査区間を出ていない場合、処理は、ステップS5402に戻る。そして、検査対象の鉄道車両が検査区間を出るまで、ステップS5402~S5411の処理が繰り返し実行される。そして、ステップS5411において、検査対象の鉄道車両が検査区間を出たと判定されると、図54のフローチャートによる処理が終了する。
(まとめ)
以上のように本実施形態では、検査装置300は、検査対象の鉄道車両の車体11、台車12a、12b、および輪軸13a~13dの左右方向における加速度と、前後方向力T1~T4の測定値と、変換変数e1~e4の実績値とを、カルマンフィルタに与えて状態変数を導出する。検査装置300は、当該状態変数に含まれる台車12a、12bのヨーイング方向における回動量(角変位)ψt1~ψt2と、変換変数e1~e4の実績値とを、用いて、輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位)ψw1~ψw4の推定値を導出する。検査装置300は、輪軸13a~13dのヨーイングを記述する運動方程式に、状態変数と、前後方向力Tiの測定値と、輪軸13a~13dのヨーイング方向における回動量(角変位)ψw1~ψw4の推定値とを代入して、踏面勾配γiを導出する。従って、撮像手段やセンサを地上に配置することなく、鉄道車両の車輪の状態として、踏面勾配γiが正常であるか否かだけではなく、本実施形態では、踏面勾配γi値を検査することができる。
また、本実施形態では、検査装置300は、踏面勾配γiが上限値を上回る場合、当該値を当該上限値とし、下限値を下回る場合、当該値を当該下限値とする。従って、踏面勾配γiの値をより一層安定させることができる。
また、本実施形態では、検査装置300は、踏面勾配γのデータyから、自己相関行列Rを生成し、自己相関行列Rを特異値分解して得られた固有値のうち、最大の値を有する固有値を用いて、踏面勾配γのデータyを近似する修正自己回帰モデルの係数αを決定する。従って、踏面勾配γのデータyに含まれる信号成分のうち、踏面勾配γの本来の信号成分を強調することができるように、係数αを決定することができる。検査装置300は、時刻kにおける踏面勾配γの予測値y^を、このようにして係数αが定められた修正自己回帰モデルに、その時刻よりも前の時刻k-l(1≦l≦m)の踏面勾配γのデータyを与えることにより算出する。従って、カットオフ周波数を予め想定することなく、踏面勾配γのデータyから、本質的な信号成分を抽出することができる。従って、踏面勾配γをより正確に導出することができる。
また、本実施形態では、検査装置300は、予め求めておいた計算値と実測値との対応関係である踏面勾配補正情報を用いて、踏面勾配γを補正するので、踏面勾配γをより一層正確に導出することができる。
(変形例)
本実施形態では、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、検査対象の鉄道車両の踏面勾配γの倍率が、予め設定された範囲内でないと判定されるたびに、踏面勾配γが正常でないことを示す情報を出力する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、検査対象の鉄道車両の踏面勾配γの倍率が、予め設定された範囲内でないことが所定の回数継続した場合に、踏面勾配γが正常でないと判定して、そのことを示す情報を出力してもよい。また、検査区間の全部または一部において、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、検査対象の鉄道車両の踏面勾配γの倍率が、予め設定された範囲内でない場合に、踏面勾配γが正常でないと判定して、そのことを示す情報を出力してもよい。これらの具体的な判定条件は、閾値の設定や検査区間の軌道情報との兼ね合いで十分な判定の確度が得られるものを選択すればよい。また、これらの判定の結果に基づく情報を出力するタイミングは、当該判定の直後に限定されない。例えば、検査の終了後に、これらの判定の結果に基づく情報を出力してもよい。また、第6の実施形態においても、本変形例のようにしてもよい。
また、本実施形態では、輪軸13a~13d毎に踏面勾配補正情報を導出して予め記憶する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、図53に示す各プロットに対し、1つの近似式(近似関数)を導出して記憶しておいてもよい。このようにする場合、踏面勾配補正部4904は、当該近似式(近似関数)に、検査対象の鉄道車両の踏面勾配の基準値γに対する、周波数成分調整部4903で導出された検査対象の鉄道車両の修正後踏面勾配γの倍率のそれぞれを当てはめる。
<<第8の実施形態>>
次に、第8の実施形態を説明する。
第1~第7の実施形態では、鉄道車両に搭載した検査装置300が、検査対象部材が正常であるか否かを判定する場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、検査装置300の一部の機能が実装されたデータ処理装置が、指令所に配置される。このデータ処理装置は、鉄道車両から送信される前後方向力T~Tの測定値を含む入力データを受信し、受信した入力データを用いて、検査対象部材が正常であるか否かを判定する。このように、本実施形態では、第1~第7の実施形態の検査装置300の何れかが有する機能を、鉄道車両と指令所とで分担して実行する。本実施形態と第1~第7の実施形態とは、このことによる構成および処理が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1~第7の実施形態と同一の部分については、図1~図54に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
図55は、検査システムの構成の一例を示す図である。図55において、検査システムは、データ収集装置5510a、5510bと、データ処理装置5520とを有する。図55には、データ収集装置5510a、5510bおよびデータ処理装置5520の機能的な構成の一例も示す。尚、データ収集装置5510a、5510bおよびデータ処理装置5520のハードウェアは、例えば、図4に示すもので実現することができる。従って、データ収集装置5510a、5510bおよびデータ処理装置5520のハードウェアの構成の詳細な説明を省略する。
鉄道車両のそれぞれには、データ収集装置5510a、5510bが1つずつ搭載される。データ処理装置5520は、指令所に配置される。指令所は、例えば、複数の鉄道車両の運行を集中管理する。
[データ収集装置5510a、5510b]
データ収集装置5510a、5510bは、同じもので実現することができる。データ収集装置5510a、5510bは、データ取得部5511a、5511bと、データ送信部5512a、5512bとを有する。
<データ取得部5511a、5511b>
データ取得部5511a、5511bは、データ取得部301と同じ機能を有する。即ち、データ取得部5511a、5511bは、データ取得部301と同様に、前後方向力T~Tの測定値を含む入力データを取得する。第1~第4の実施形態と第6~第7の実施形態では、入力データには、前後方向力T~Tの測定値が含まれる。第5の実施形態では、入力データには、軌道情報(1/R、1/R・、φraili)および車両情報(T、ψtj、ψwi、ψtj・、ψwi・)が含まれる。
<データ送信部5512a、5512b>
データ送信部5512a、5512bは、データ取得部5511a、511bで取得された入力データを、データ処理装置5520に送信する。本実施形態では、データ送信部5512a、5512bは、データ取得部5511a、5511bで取得された入力データを、無線通信により、データ処理装置5520に送信する。このとき、データ送信部5512a、5512bは、データ収集装置5510a、5510bが搭載されている鉄道車両の識別番号を、データ取得部5511a、5511bで取得された入力データに付加する。このようにデータ送信部5512a、5512bは、鉄道車両の識別番号が付加された入力データを送信する。
[データ処理装置5520]
<データ受信部5521>
データ受信部5521は、データ送信部5512a、5512bにより送信された入力データを受信する。この入力データには、当該入力データの送信元である鉄道車両の識別番号が付加されている。
<データ記憶部5522>
データ記憶部5522は、データ受信部5521で受信された入力データを記憶する。データ記憶部5522は、鉄道車両の識別番号ごとに入力データを記憶する。データ記憶部5522は、鉄道車両の現在の運行状況と、入力データの受信時刻とに基づいて、当該入力データの受信時刻における鉄道車両の走行位置を特定する。データ記憶部5522は、特定した走行位置の情報と当該入力データとを相互に関連付けて記憶する。尚、データ収集装置5510a、5510bが、鉄道車両の現在の走行位置の情報を収集し、取集した情報を入力データに付加してもよい。
<データ読み出し部5523>
データ読み出し部5523は、データ記憶部5522により記憶された入力データを読み出す。データ読み出し部5523は、データ記憶部5522により記憶された入力データのうち、オペレータにより指定された入力データを読み出すことができる。また、データ読み出し部5523は、予め定められたタイミングで、予め定められた条件に合致する入力データを読み出すこともできる。本実施形態では、データ読み出し部5523により読み出される入力データは、例えば、鉄道車両の識別番号および走行位置の少なくとも何れか1つに基づいて決定される。
記憶部302、検査部303、および出力部304は、第1~第7の実施形態と説明したものの何れかと同じである。従って、ここでは、これらの詳細な説明を省略する。尚、検査部303は、データ取得部301で取得された入力データに代えてデータ読み出し部523で読み出された入力データを用いて、検査対象部材が正常であるか否かを判定する。
(まとめ)
以上のように本実施形態では、鉄道車両に搭載されたデータ収集装置5510a、5510bは、入力データを収集してデータ処理装置5520に送信する。指令所に配置されたデータ処理装置5520は、データ収集装置5510a、5510bから受信した入力データを記憶し、記憶した入力データを用いて、検査対象部材が正常であるか否かを判定する。従って、第1~第7の実施形態で説明した効果に加え、例えば、以下の効果を奏する。即ち、データ処理装置5520は、入力データを任意のタイミングで読み出すことにより、任意のタイミングで、指令所が管理している各鉄道車両の検査対象部材が正常であるか否かを判定することができる。
(変形例)
本実施形態では、データ収集装置5510a、5510bからデータ処理装置5520に入力データを直接送信する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、クラウドコンピューティングを利用して検査システムを構築してもよい。
その他、本実施形態においても、第1~第7の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
また、第1~第7の実施形態では、データ取得部301、記憶部302、検査部303、および出力部304が1つの装置に含まれる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。データ取得部301、記憶部302、検査部303、および出力部304の機能を複数の装置で実現してもよい。また、検査部303の機能を複数の装置で実現してもよい。この場合、これら複数の装置を用いて検査システムが構成される。
<<その他の実施形態>>
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
尚、特許文献5の明細書および図面の内容を全てここに援用することができる。
本発明は、例えば、鉄道車両を検査することに利用することができる。

Claims (34)

  1. 車体と台車と輪軸と軸箱と軸箱支持装置とを有する鉄道車両の検査対象部材を検査する検査システムであって、
    前記鉄道車両を軌道上で走行させることにより測定される前後方向力の測定値を含む入力データを取得する取得手段と、
    前記取得手段により取得された前記前後方向力の測定値を用いて、前記検査対象部材を検査する検査手段と、を有し、
    前記前後方向力は、前記軸箱支持装置を構成する部材に生じる前後方向の力であり、
    前記部材は、前記軸箱を支持するための部材であり、
    前記前後方向は、前記鉄道車両の走行方向に沿う方向であり、
    前記検査対象部材は、前記台車の台車枠と前記輪軸との間に配置される部材、前記台車の台車枠と前記車体との間に配置される部材、および車輪のうちの、少なくとも1つであり、
    前記検査対象部材が前記車輪を含む場合、前記検査手段は、前記車輪の踏面勾配を少なくとも検査することを特徴とする検査システム。
  2. 前記検査手段は、前記取得手段により取得された前記前後方向力の測定値を用いて、前記検査対象部材が正常であるか否かを判定する判定手段を有することを特徴とする請求項1に記載の検査システム。
  3. 前記判定手段は、前記取得手段により取得された前記前後方向力の測定値と、正常な前記鉄道車両に対する前記前後方向力の測定値と、を比較した結果に基づいて、前記検査対象部材が正常であるか否かを判定することを特徴とする請求項2に記載の検査システム。
  4. 前記判定手段は、前記取得手段により取得された前記前後方向力の測定値と、正常な前記鉄道車両に対する前記前後方向力との差に基づいて、前記検査対象部材が正常であるか否かを判定することを特徴とする請求項2または3に記載の検査システム。
  5. 前記検査手段は、前記前後方向力の測定値の信号に含まれるノイズが低減されるように、当該前後方向力の測定値の信号の周波数成分を調整する周波数成分調整手段を有し、
    前記判定手段は、前記周波数成分調整手段により周波数成分が調整された前記前後方向力の測定値に基づいて、前記検査対象部材が正常であるか否かを判定することを特徴とする請求項2~4の何れか1項に記載の検査システム。
  6. 前記周波数成分調整手段は、前記前後方向力の測定値の時系列データを用いて、修正自己回帰モデルにおける係数を導出し、前記係数を用いて、前記前後方向力の測定値を修正することにより、当該前後方向力の測定値の信号の周波数成分を調整し、
    前記修正自己回帰モデルは、前記前後方向力の実績値と、当該実績値に対する前記係数と、を用いて、前記前後方向力の予測値を表す式であり、
    前記係数は、第1の行列を係数行列とし、自己相関ベクトルを定数ベクトルとする方程式を用いて決定され、
    前記自己相関ベクトルは、時差が1からmまでの前記前後方向力の測定値の時系列データの自己相関を成分とするベクトルであり、
    mは、前記修正自己回帰モデルで用いられる前記前後方向力の値の数であり、
    前記第1の行列は、1以上且つm未満の数であるsに対して、第2の行列Σsと、第3の行列Usと、から導出される行列UsΣss Tであり、
    前記第2の行列Σsは、自己相関行列のs個の固有値と対角行列Σとから導出され、
    前記第3の行列Usは、前記s個の固有値と直交行列Uとから導出され、
    前記自己相関行列は、時差が0からm-1までの前記前後方向力の測定値の時系列データの自己相関を成分とする行列であり、
    前記対角行列は、前記自己相関行列の固有値を対角成分とする行列であり、
    前記自己相関行列の固有値は、前記自己相関行列を特異値分解することで導出され、
    前記直交行列は、前記自己相関行列の固有ベクトルを列成分ベクトルとする行列であり、
    前記第2の行列は、前記対角行列の部分行列であって、前記s個の固有値を対角成分とする行列であり、
    前記第3の行列は、前記直交行列の部分行列であって、前記s個の固有値に対応する固有ベクトルを列成分ベクトルとする行列であることを特徴とする請求項5に記載の検査システム。
  7. 前記判定手段は、正常な前記鉄道車両に対する前記前後方向力の測定値の時系列データと、前記周波数成分調整手段により周波数成分が調整された前記前後方向力の測定値の時系列データと、を比較した結果に基づいて、前記検査対象部材が正常であるか否かを判定し、
    前記正常な前記鉄道車両に対する前記前後方向力の測定値の時系列データは、正常な前記鉄道車両における前記修正自己回帰モデルと、正常な前記鉄道車両に対する前記前後方向力の測定値の時系列データとを用いて周波数成分が調整された時系列データであることを特徴とする請求項6に記載の検査システム。
  8. 前記検査手段は、前記前後方向力の測定値の時系列データを用いて、修正自己回帰モデルにおける係数を導出する係数導出手段と、
    前記修正自己回帰モデルの周波数の分布を示す周波数特性を、前記係数導出手段により導出された前記係数を用いて導出する周波数特性導出手段と、を有し、
    前記修正自己回帰モデルは、前記前後方向力の実績値と、当該実績値に対する前記係数と、を用いて、前記前後方向力の予測値を表す式であり、
    前記係数導出手段は、第1の行列を係数行列とし、自己相関ベクトルを定数ベクトルとする方程式を用いて、前記係数を導出し、
    前記自己相関ベクトルは、時差が1からmまでの前記前後方向力の測定値の時系列データの自己相関を成分とするベクトルであり、
    mは、前記修正自己回帰モデルで用いられる前記前後方向力の値の数であり、
    前記第1の行列は、1以上且つm未満の数であるsに対して、第2の行列Σsと、第3の行列Usと、から導出される行列UsΣss Tであり、
    前記第2の行列Σsは、自己相関行列のs個の固有値と対角行列Σとから導出され、
    前記第3の行列Usは、前記s個の固有値と直交行列Uとから導出され、
    前記自己相関行列は、時差が0からm-1までの前記前後方向力の測定値の時系列データの自己相関を成分とする行列であり、
    前記対角行列は、前記自己相関行列の固有値を対角成分とする行列であり、
    前記自己相関行列の固有値は、前記自己相関行列を特異値分解することで導出され、
    前記直交行列は、前記自己相関行列の固有ベクトルを列成分ベクトルとする行列であり、
    前記第2の行列は、前記対角行列の部分行列であって、前記s個の固有値を対角成分とする行列であり、
    前記第3の行列は、前記直交行列の部分行列であって、前記s個の固有値に対応する固有ベクトルを列成分ベクトルとする行列であり、
    前記判定手段は、前記周波数特性導出手段により導出された周波数特性を用いて、前記検査対象部材が正常であるか否かを判定することを特徴とする請求項2~4の何れか1項に記載の検査システム。
  9. 前記判定手段は、前記周波数特性導出手段により導出された前記修正自己回帰モデルの周波数の分布を示す周波数特性と、正常な前記鉄道車両における前記修正自己回帰モデルの周波数の分布を示す周波数特性とを比較した結果に基づいて、前記検査対象部材が正常であるか否かを判定することを特徴とする請求項8に記載の検査システム。
  10. 前記s個の固有値は、前記自己相関行列の固有値のうち、前記自己相関行列の固有値の平均値以上の値を有する固有値であることを特徴とする請求項6~9の何れか1項に記載の検査システム。
  11. 前記検査対象部材は、軸箱、左右動ダンパ、ヨーダンパ、空気バネ、軸箱支持装置のうち少なくとも何れか1つを含むことを特徴とする請求項1~10の何れか1項に記載の検査システム。
  12. 前記検査対象部材は、ヨーダンパであり、
    前記検査手段は、前記取得手段により取得された前記前後方向力の測定値に基づいて、角速度差および角変位差のうち少なくとも何れか1つを導出する差導出手段と、
    前記差導出手段により導出された前記角速度差および前記角変位差のうち少なくとも何れか1つを、正常な前記鉄道車両に対する値と比較した結果に基づいて、前記ヨーダンパが正常であるか否かを判定する判定手段と、を有し、
    前記角速度差は、前記ヨーダンパのヨーイング方向の角速度と、前記車体のヨーイング方向の角速度との差を表すものであり、
    前記角変位差は、前記ヨーダンパのヨーイング方向の角変位と、前記台車のヨーイング方向の角変位との差を表すものであり、
    前記ヨーイング方向は、前記軌道に対し垂直な方向である上下方向を回動軸とする回動方向であることを特徴とする請求項1または2に記載の検査システム。
  13. 前記入力データは、前記前後方向力の測定値と、前記車体、前記台車および前記輪軸の左右方向の加速度の測定値とを含み、
    前記検査手段は、前記入力データと、状態方程式と、観測方程式と、を用いて、データ同化を行うフィルタを用いた演算を行うことにより、前記状態方程式で決定すべき変数である状態変数を決定する状態変数決定手段を有し、
    前記差導出手段は、前記状態変数決定手段により決定された前記状態変数を用いて、前記角速度差および前記角変位差のうち少なくとも何れか1つを導出し、
    前記左右方向は、前記前後方向と、前記軌道に対し垂直な方向である上下方向との双方に垂直な方向であり、
    前記前後方向力は、前記輪軸のヨーイング方向の角変位と、当該輪軸が設けられる前記台車のヨーイング方向の角変位との差に応じて定まる力であり、
    前記ヨーイング方向は、前記上下方向を回動軸とする回動方向であり、
    前記状態方程式は、前記状態変数と、前記前後方向力と、変換変数と、を用いて記述される方程式であり、
    前記状態変数は、前記車体の左右方向の変位および速度と、前記車体のヨーイング方向の角変位および角速度と、前記車体のローリング方向の角変位および角速度と、前記台車の左右方向の変位および速度と、前記台車のヨーイング方向の角変位および角速度と、前記台車のローリング方向の角変位および角速度と、前記輪軸の左右方向の変位および速度と、前記鉄道車両に取り付けられている空気バネのローリング方向の角変位と、前記鉄道車両に取り付けられるヨーダンパのヨーイング方向の角変位と、を含み、前記輪軸のヨーイング方向の角変位および角速度を含まず、
    前記ローリング方向は、前記前後方向を回動軸とする回動方向であり、
    前記変換変数は、前記輪軸のヨーイング方向の角変位と前記台車のヨーイング方向の角変位とを相互に変換する変数であり、
    前記観測方程式は、観測変数と、前記変換変数と、を用いて記述される方程式であり、
    前記観測変数は、前記車体、前記台車、および前記輪軸の左右方向の加速度を含み、
    前記検査手段は、前記観測変数の測定値と、前記前後方向力の測定値および前記変換変数の実績値を代入した前記状態方程式と、前記変換変数の実績値を代入した前記観測方程式と、を用いて、前記観測変数の測定値と計算値との誤差または当該誤差の期待値が最小になるときの前記状態変数を決定し、
    前記変換変数の実績値は、前記前後方向力の測定値を用いて導出されることを特徴とする請求項12に記載の検査システム。
  14. 前記入力データは、車両情報を含み、
    前記車両情報は、前後方向力の測定値と、前記台車のヨーイング方向における角変位および角速度と、前記輪軸のヨーイング方向における角変位および角速度とを含み、
    前記検査手段は、前記取得手段により取得された前記車両情報に基づいて、前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数を導出するバネ定数導出手段と、
    前記バネ定数導出手段により導出された前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数に基づいて、当該軸箱支持装置の前後方向の剛性が正常であるか否かを判定する判定手段と、を有し、
    前記ヨーイング方向は、軌道に対し垂直な方向である上下方向を回動軸とする回動方向であることを特徴とする請求項1または2に記載の検査システム。
  15. 前記入力データは、軌道情報を含み、
    前記軌道情報は、前記輪軸の位置での軌条の曲率と、前記輪軸の位置での軌条の曲率の時間微分値とを含み、
    前記バネ定数導出手段は、前記取得手段により取得された前記車両情報と、前記取得手段により取得された前記軌道情報とに基づいて、前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数を導出することを特徴とする請求項14に記載の検査システム。
  16. 前記バネ定数導出手段は、前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数が上限値を上回る場合には、当該軸箱支持装置の前後方向のバネ定数の値を当該上限値とし、前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数が下限値を下回る場合には、当該軸箱支持装置の前後方向のバネ定数の値を当該下限値とすることを特徴とする請求項14または15に記載の検査システム。
  17. 前記上限値および前記下限値は、正常な前記鉄道車両の前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数に基づいて設定されることを特徴とする請求項16に記載の検査システム。
  18. 前記検査手段は、前記バネ定数導出手段により導出された前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数の信号に含まれるノイズが低減されるように、当該軸箱支持装置の前後方向のバネ定数の信号の周波数成分を調整する周波数成分調整手段を有し、
    前記判定手段は、前記周波数成分調整手段により周波数成分が調整された前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数に基づいて、当該軸箱支持装置の前後方向の剛性が正常であるか否かを判定することを特徴とする請求項14~17の何れか1項に記載の検査システム。
  19. 前記周波数成分調整手段は、前記バネ定数導出手段により導出された前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数の時系列データを用いて、修正自己回帰モデルにおける係数を導出し、導出した前記係数を用いて、前記バネ定数導出手段により導出された前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数を修正することにより、当該軸箱支持装置の前後方向のバネ定数の信号の周波数成分を調整し、
    前記修正自己回帰モデルは、前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数の実績値と、当該実績値に対する前記係数と、を用いて、前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数の予測値を表す式であり、
    前記係数は、第1の行列を係数行列とし、自己相関ベクトルを定数ベクトルとする方程式を用いて決定され、
    前記自己相関ベクトルは、時差が1から前記修正自己回帰モデルで用いられる前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数の数であるmまでの前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数の時系列データの自己相関を成分とするベクトルであり、
    前記第1の行列は、1以上且つm未満の数であるsに対して、第2の行列Σsと、第3の行列Usと、から導出される行列UsΣss Tであり、
    前記第2の行列Σsは、自己相関行列のs個の固有値と対角行列Σとから導出され、
    前記第3の行列Usは、前記s個の固有値と直交行列Uとから導出され、
    前記自己相関行列は、時差が0からm-1までの前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数の時系列データの自己相関を成分とする行列であり、
    前記対角行列は、前記自己相関行列の固有値を対角成分とする行列であり、
    前記自己相関行列の固有値は、前記自己相関行列を特異値分解することで導出され、
    前記直交行列は、前記自己相関行列の固有ベクトルを列成分ベクトルとする行列であり、
    前記第2の行列は、前記対角行列の部分行列であって、前記s個の固有値を対角成分とする行列であり、
    前記第3の行列は、前記直交行列の部分行列であって、前記s個の固有値に対応する固有ベクトルを列成分ベクトルとする行列であることを特徴とする請求項18に記載の検査システム。
  20. 前記s個の固有値は、最大の値を有する固有値であることを特徴とする請求項19に記載の検査システム。
  21. 前記取得手段は、前記鉄道車両の運動を記述する運動方程式に基づく数値解析を行うことにより、前記台車のヨーイング方向における角変位および角速度と、前記輪軸のヨーイング方向における角変位および角速度とを導出することを特徴とする請求項14~20の何れか1項に記載の検査システム。
  22. 前記判定手段は、前記軸箱支持装置の前後方向のバネ定数と基準値とを比較した結果に基づいて、当該箱支持装置の前後方向の剛性が正常であるか否かを判定することを特徴とする請求項14~21の何れか1項に記載の検査システム。
  23. 記検査手段は、前記車輪の踏面勾配と、前記前後方向力との関係を示す関係式と、前記取得手段により取得された前記前後方向力の測定値とを用いて、前記車輪の踏面勾配を導出する踏面勾配導出手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載の検査システム。
  24. 前記関係式は、前記輪軸のヨーイング方向の運動を記述する運動方程式に基づく式であり、
    前記ヨーイング方向は、前記軌道に対し垂直な方向である上下方向を回動軸とする回動方向であることを特徴とする請求項2に記載の検査システム。
  25. 前記踏面勾配導出手段は、前記関係式により導出された前記車輪の踏面勾配が所定の上限値を上回る場合には、当該前記車輪の踏面勾配の値を当該上限値とし、前記関係式により導出された前記車輪の踏面勾配が所定の下限値を下回る場合には、当該車輪の踏面勾配の値を当該下限値とすることを特徴とする請求項2または2に記載の検査システム。
  26. 前記検査手段は、前記踏面勾配導出手段により導出された前記車輪の踏面勾配に含まれるノイズが低減されるように、当該車輪の踏面勾配の周波数成分を調整する周波数成分調整手段を更に有することを特徴とする請求項2~2の何れか1項に記載の検査システム。
  27. 前記周波数成分調整手段は、前記踏面勾配導出手段により導出された前記車輪の踏面勾配の時系列データを用いて、修正自己回帰モデルにおける係数を導出し、導出した前記係数を用いて、前記踏面勾配導出手段により導出された前記車輪の踏面勾配を修正することにより、当該車輪の踏面勾配の信号の周波数成分を調整し、
    前記修正自己回帰モデルは、前記車輪の踏面勾配の実績値と、当該実績値に対する前記係数と、を用いて、前記車輪の踏面勾配の予測値を表す式であり、
    前記係数は、第1の行列を係数行列とし、自己相関ベクトルを定数ベクトルとする方程式を用いて導出され、
    前記自己相関ベクトルは、時差が1からmまでの前記車輪の踏面勾配の時系列データの自己相関を成分とするベクトルであり、
    mは、前記修正自己回帰モデルで用いられる前記車輪の踏面勾配の数であり、
    前記第1の行列は、1以上且つm未満の数であるsに対して、自己相関行列のs個の固有値と対角行列Σとから導出される第2の行列Σsと、前記s個の固有値と直交行列Uとから導出される第3の行列Usと、から導出される行列UsΣss Tであり、
    前記自己相関行列は、時差が0からm-1までの前記車輪の踏面勾配の時系列データの自己相関を成分とする行列であり、
    前記対角行列は、前記自己相関行列を特異値分解することで導出される前記自己相関行列の固有値を対角成分とする行列であり、
    前記直交行列は、前記自己相関行列の固有ベクトルを列成分ベクトルとする行列であり、
    前記第2の行列は、前記対角行列の部分行列であって、前記s個の固有値を対角成分とする行列であり、
    前記第3の行列は、前記直交行列の部分行列であって、前記s個の固有値に対応する固有ベクトルを列成分ベクトルとする行列であることを特徴とする請求項2に記載の検査システム。
  28. 前記s個の固有値は、最大の値を有する固有値であることを特徴とする請求項2に記載の検査システム。
  29. 前記検査手段は、前記周波数成分調整手段により周波数成分が調整された前記車輪の踏面勾配を、予め記憶されている踏面勾配補正情報を用いて補正する踏面勾配補正手段を有し、
    前記踏面勾配補正情報は、前記車輪の踏面勾配の実測値と、前記車輪の踏面勾配の計算値との関係を示す情報であることを特徴とする請求項2~2の何れか1項に記載の検査システム。
  30. 前記検査手段は、前記車輪の踏面勾配の検査として、前記車輪の踏面勾配が正常であるか否かを少なくとも検査し
    前記検査手段は、前記車輪の踏面勾配の値に基づいて、前記車輪の踏面勾配が正常であるか否かを判定する判定手段を有することを特徴とする請求項23~29の何れか1項に記載の検査システム。
  31. 前記検査手段は、前記車輪の踏面勾配の検査として、前記車輪の踏面勾配が正常であるか否かを少なくとも検査し
    前記検査手段は、前記前後方向力の測定値の時系列データを用いて、修正自己回帰モデルにおける係数を導出する係数導出手段と、
    前記修正自己回帰モデルの周波数の分布を示す周波数特性を、前記係数導出手段により導出された前記係数を用いて導出する周波数特性導出手段と、
    前記周波数特性導出手段により導出された前記周波数特性を用いて、前記車輪の踏面勾配が正常であるか否かを判定する判定手段と、を更に有し、
    前記修正自己回帰モデルは、前記前後方向力の実績値と、当該実績値に対する前記係数と、を用いて、前記前後方向力の予測値を表す式であり、
    前記係数導出手段は、第1の行列を係数行列とし、自己相関ベクトルを定数ベクトルとする方程式を用いて、前記係数を導出し、
    前記自己相関ベクトルは、時差が1からmまでの前記前後方向力の測定値の時系列データの自己相関を成分とするベクトルであり、
    mは、前記修正自己回帰モデルで用いられる前記前後方向力の値の数であり、
    前記第1の行列は、1以上且つm未満の設定された数であるsに対して、第2の行列Σsと、第3の行列Usと、から導出される行列UsΣss Tであり、
    前記第2の行列Σsは、自己相関行列のs個の固有値と対角行列Σとから導出され、
    前記第3の行列Usは、前記s個の固有値と直交行列Uとから導出され、
    前記自己相関行列は、時差が0からm-1までの前記前後方向力の測定値の時系列データの自己相関を成分とする行列であり、
    前記対角行列は、前記自己相関行列の固有値を対角成分とする行列であり、
    前記自己相関行列の固有値は、前記自己相関行列を特異値分解することで導出され、
    前記直交行列は、前記自己相関行列の固有ベクトルを列成分ベクトルとする行列であり、
    前記第2の行列は、前記対角行列の部分行列であって、前記s個の固有値を対角成分とする行列であり、
    前記第3の行列は、前記直交行列の部分行列であって、前記s個の固有値に対応する固有ベクトルを列成分ベクトルとする行列であることを特徴とする請求項1または2に記載の検査システム。
  32. 前記判定手段は、前記周波数特性導出手段により導出された前記修正自己回帰モデルの周波数の分布を示す周波数特性と、正常な前記鉄道車両における前記修正自己回帰モデルの周波数の分布を示す周波数特性とを比較した結果に基づいて、前記車輪の踏面勾配が正常であるか否かを判定することを特徴とする請求項3に記載の検査システム。
  33. 車体と台車と輪軸と軸箱と軸箱支持装置とを有する鉄道車両の検査対象部材を検査する検査方法であって、
    前記鉄道車両を軌道上で走行させることにより測定される前後方向力の測定値を含む入力データを取得する取得工程と、
    前記取得工程により取得された前記前後方向力の測定値を用いて、前記検査対象部材を検査する検査工程と、を有し、
    前記前後方向力は、前記軸箱支持装置を構成する部材に生じる前後方向の力であり、
    前記部材は、前記軸箱を支持するための部材であり、
    前記前後方向は、前記鉄道車両の走行方向に沿う方向であり、
    前記検査対象部材は、前記台車の台車枠と前記輪軸との間に配置される部材、前記台車の台車枠と前記車体との間に配置される部材、および車輪のうちの、少なくとも1つであり、
    前記検査対象部材が前記車輪を含む場合、前記検査工程は、前記車輪の踏面勾配を少なくとも検査することを特徴とする検査方法。
  34. 車体と台車と輪軸と軸箱と軸箱支持装置とを有する鉄道車両の検査対象部材を検査することをコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
    前記鉄道車両を軌道上で走行させることにより測定される前後方向力の測定値を含む入力データを取得する取得工程と、
    前記取得工程により取得された前記前後方向力の測定値を用いて、前記検査対象部材を検査する検査工程と、をコンピュータに実行させ、
    前記前後方向力は、前記軸箱支持装置を構成する部材に生じる前後方向の力であり、
    前記部材は、前記軸箱を支持するための部材であり、
    前記前後方向は、前記鉄道車両の走行方向に沿う方向であり、
    前記検査対象部材は、前記台車の台車枠と前記輪軸との間に配置される部材、前記台車の台車枠と前記車体との間に配置される部材、および車輪のうちの、少なくとも1つであり、
    前記検査対象部材が前記車輪を含む場合、前記検査工程は、前記車輪の踏面勾配を少なくとも検査することを特徴とするプログラム。
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