JP7024439B2 - リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池 - Google Patents
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Description
(1)本発明の一態様に係るリチウムイオン二次電池用負極は、集電体と、前記集電体上に設けられた負極活物質層と、を備え、前記負極活物質層は炭素粒子を含み、前記炭素粒子の黒鉛化度が1.0以上1.5以下であり、かつ、前記炭素粒子の配向度が50以上150以下である;ここで、前記黒鉛化度とは、X線回折パターンにおける(101)面のピーク強度P101と(100)面のピーク強度P100との比(P101/P100)であり、また、前記配向度とは、X線回折パターンにおける(002)面のピーク強度P002と(110)面のピーク強度P110との比(P002/P110)である。
ここで、R値は、ラマン分光スペクトルで測定される1300~1400cm-1の範囲にあるピークの強度(ID)と1580~1620cm-1の範囲にあるピークの強度(IG)の比(ID/IG)である。
本発明のリチウムイオン二次電池は、Liの析出が抑制され、入出力特性に優れている。
図1は、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の断面模式図である。
図1に示すリチウムイオン二次電池100は、主として積層体40、積層体40を密閉した状態で収容するケース50、及び積層体40に接続された一対のリード60、62を備えている。また図示されていないが、積層体40とともに電解液が、ケース50内に収容されている。
負極30は、負極集電体32と、負極集電体32の上に設けられた負極活物質層34とを有する。
負極集電体32は、導電性の板材であればよく、例えば、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。負極集電体32は、リチウムと合金化しないことが好ましく、銅が特に好ましい。負極集電体32の厚みは6μm以上30μm以下とすることが好ましい。
負極活物質層34は、負極活物質と負極バインダーとを有し、必要に応じて導電材を有する。
負極活物質は炭素粒子からなり、この炭素粒子は黒鉛化度が1.0以上1.5以下であり、かつ、その配向度が50以上150以下である。ここで、本明細書において、黒鉛化度とは、X線回折パターンにおける(101)面のピーク強度P101と(100)面のピーク強度P100との比(P101/P100)であり、また、配向度とは、X線回折パターンにおける(002)面のピーク強度P002と(110)面のピーク強度P110との比(P002/P110)である。
かかる構成によれば、Liの析出を抑制することができ、優れた入出力特性を有するリチウムイオン二次電池用負極を得ることができる。
その理由は必ずしも明らかではないが、炭素粒子の適度な乱層構造と、Liイオンの挿入サイトが適度にランダムに存在していることの相互作用により、Liイオンの受け入れ性が向上したことによるものと考えられる。
なお、負極活物質は本発明の効果を奏する範囲で、当該炭素粒子以外の物質を含んでもよい。
また、配向度(P002/P110)は、負極表面に対する黒鉛結晶の配向性を表し、この値が小さいほど、炭素の六方網平面は負極表面に対してあまり配向していない状態であり、大きいほど負極表面に対して平行方向に炭素の六方網平面が配向していることを示す。
ここで、ピーク強度P110は、黒鉛結晶のab軸方向に由来し、ピーク強度P002はc軸方向に由来するものである。
かかる構成によれば、入出力特性がより向上する。これはかかる構成によりLiイオンの受け入れサイトが増加するためと推察される。
ここで、R値とは、ラマン分光スペクトルで測定される1300~1400cm-1の範囲にあるピークの強度(ID)と1580~1620cm-1の範囲にあるピークの強度(IG)の比(ID/IG)である。IGのピークはグラファイト構造における炭素原子の六角格子内振動に起因するピークであり、IDのピークはアモルファスカーボン等のダングリングボンドを有する炭素原子に起因するピークである。
かかる構成によれば、入出力特性がより向上する。これはかかる構成により非晶質部分と黒鉛質部分とのバランスが適度になったためと推察される。
導電材としては、例えば、カーボンブラック類等のカーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物が挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラックやエチレンブラック等のカーボン粉末が特に好ましい。負極活物質のみで十分な導電性を確保できる場合は、リチウムイオン二次電池100は導電材を含んでいなくてもよい。
バインダーは、活物質同士を結合すると共に、活物質と負極集電体32とを結合する。バインダーは、上述の結合が可能なものであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂が挙げられる。
ここで、累積細孔容積とは、横軸を細孔径(μm)、縦軸を細孔容積(cc/g)とする細孔径分布曲線あるいは細孔径分布グラフにおいて、所定の細孔径の範囲の細孔容積を積算した合計の細孔容積を意味する。
かかる構成によれば、入出力特性がより向上する。これはかかる構成により負極内にLiイオンが拡散する細孔が増加し、Liイオンの受け入れ性が向上したためと推察される。
正極20は、正極集電体22と、正極集電体22の上に設けられた正極活物質層24とを有する。
正極集電体22は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。
正極活物質層24に用いる正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンとリチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、PF6-)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能な電極活物質を用いることができる。
導電材は、例えば、カーボンブラック類等のカーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物が挙げられる。これらの中でも、カーボンブラック等の炭素材料が好ましい。正極活物質のみで十分な導電性を確保できる場合は、リチウムイオン二次電池100は導電材を含んでいなくてもよい。
正極に用いるバインダーは負極と同様のものを使用できる。
セパレータ10は、電気絶縁性の多孔質構造から形成されていればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリオレフィンからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いはセルロース、ポリエステル及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布が挙げられる。
電解液には、リチウム塩を含む電解質溶液(電解質水溶液、有機溶媒を使用する電解質溶液)を使用することができる。ただし、電解質水溶液は電気化学的に分解電圧が低いため、充電時の耐用電圧が低く制限される。そのため、有機溶媒を使用する電解質溶液(非水電解質溶液)であることが好ましい。
ケース50は、その内部に積層体40及び電解液を密封するものである。ケース50は、電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されない。
リード60、62は、アルミ等の導電材料から形成されている。そして、公知の方法により、リード60、62を正極集電体22、負極集電体32にそれぞれ溶接し、正極20の正極活物質層24と負極30の負極活物質層34との間にセパレータ10を挟んだ状態で、電解液と共にケース50内に挿入し、ケース50の入り口をシールする。
本発明の負極の製造方法は、結晶歪み付与工程と、再黒鉛化工程と、配向度調整工程を有する。さらに、R値調整工程や累積細孔容積調整工程を行ってもよい。本発明の効果を奏する負極を製造できる限り、他の工程を有してもよい。
結晶歪み付与工程は、天然黒鉛又は人造黒鉛を粉砕・分級した後に、メカノケミカル処理等を施すことによって、粉砕された黒鉛粒子の結晶構造に歪みや乱層を導入する工程である。
また、再黒鉛化工程は、結晶歪み付与工程を実施後の粒子を、2400℃~3200℃の温度範囲で、アニールして再黒鉛化することによって、黒鉛化度を調整する工程である。すなわち、黒鉛化度の調整は、結晶歪み付与工程と再黒鉛化工程との2つの工程の条件を調整することによってなされる。結晶歪み付与工程と再黒鉛化工程とを併せて、黒鉛化度調整工程ということがある。
また、配向度調整工程は、結晶歪み付与工程及び再黒鉛化工程において黒鉛化度が調整された炭素粒子を含む負極活物質層を集電体に形成後、加圧等することによって、負極活物質層内の黒鉛結晶の配向の程度を調整する。
結晶歪み付与工程で結晶歪みや乱層が導入された粒子対して、再黒鉛化工程において、その粒子を2400℃~3200℃でアニールして再黒鉛化するが、このとき、一般に、粒子表面の結晶子の方が粒子内部の結晶子よりも速く黒鉛化が進行する。そうすると、粒子表面に配列した結晶子は、より粒子内部の結晶子の成長に対して空間的な制限を付与することになる。結晶子は自由に成長すれば、炭素の六方網平面はc軸方向に平行に等間隔で配置するが、空間的な制限があれば、その分、炭素の六方網平面の積み重なりの規則性は乱れることになる。こうして、その乱れの程度すなわち、黒鉛化度は、結晶歪み付与工程の条件、及び、再黒鉛化工程の条件に依存する。すなわち、結晶歪み付与工程の条件、及び、再黒鉛化工程の条件の組み合わせにより、黒鉛化度を調整することができる。本明細書において、黒鉛化度調整工程の条件を調整するという場合、結晶歪み付与工程の条件及び再黒鉛化工程の条件の組み合わせを調整することを意味する。
粉砕工程では、天然黒鉛又は人造黒鉛を粉砕する。
粉砕工程は、黒鉛を微細化し、結晶子径のコントロールするため、行うことが好ましい。
粉砕工程は、通常用いられる粉砕装置を使用することができ、例えば、振動ボールミル、ウルトラファインミル、ジェットミルなどが使用可能である。粉砕工程は、黒鉛化の後に行っても、前に行ってもよい。
粉砕後の粒子を分級する。分級は、気流分級機等を用いて行うことができる。または、篩に通して分級してもよい。
結晶歪み付与工程では、メカノケミカル処理等を施すことによって、粉砕された黒鉛粒子の結晶構造に歪みや乱層を導入する。メカノケミカル処理は、粒子に圧縮応力や剪断応力、圧縮応力と剪断応力のほか、衝突、摩擦、ずり応力等を付与する。これらの応力が与える機械的エネルギーによって、メカノケミカル現象と称される効果が発現する。粒子にメカノケミカル現象を起こさせるためには、剪断、圧縮、衝突等の応力を同時にかけることができる装置を用いればよく、特に装置の構造及び原理に制限はない。たとえば、回転式のボールミルなどのボール型混練機、メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)、ノビルタ(ホソカワミクロン社製)などがある。
結晶歪み付与工程は例えば、メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)を用いて行うことができ、回転ロータにかかる負荷(kW)とその処理時間(h)との積で表される仕事量(kW・h)によって、結晶歪みの付与を調整する。発明者は鋭意研究の結果、その仕事量と黒鉛化度とが相関するという知見を得た。この知見に基づき、結晶歪み付与工程及び再黒鉛化工程によって、黒鉛化度を調整できることを見出した。
ここで、メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)は、円筒形のチャンバー内に回転ロータとプレスヘッドが付いており、回転ロータが高速で回転する構成である。チャンバーの内に設置されたプレスヘッドとロータの間に粉体材料が押し付けられてせん断力が働き、粉砕、造粒、表面改質などが行われる。処理の条件として、回転ロータの回転数、回転ロータにかかる負荷、処理時間、粉体の充填量などがあり、これらの条件を変えることにより、処理結果を変えることができる。本発明者は鋭意研究の結果、主に回転ロータにかかる負荷及びその処理時間によって、粉体材料に作用しているエネルギーを変えて、それにより乱層や結晶歪みの程度を変え、黒鉛化度を調整し得ることを見出した。以下では、回転ロータにかかる負荷(kW)とその処理時間(h)との積で表される仕事量(kW・h)を粉体処理条件ということがある。粉体処理条件が大きくなると、黒鉛化度は下がる方向に行く。なお、回転ロータにかかる負荷は、回転ロータの回転数や黒鉛原料の充填率等によって調整することができる。
結晶歪み付与工程において、再黒鉛化工程に用いる原料は黒鉛化度調整のための前処理が行われている。そのため、再黒鉛化工程では、その黒鉛化原料を用いて通常の黒鉛化工程のアニール温度条件の調整を行うだけで、黒鉛化度が調整された炭素粒子が得られる。ここで、「黒鉛化度が調整された炭素粒子」とは、黒鉛化度が高い場合には黒鉛粒子に近いものであり、本明細書では、黒鉛化度が高くない場合も含めて、このように称する。
再黒鉛化工程におけるアニールは、粉砕や粉体処理により乱れた結晶構造を再び黒鉛構造に近づけてやる処理と言える。アニール温度が上がると黒鉛化度は上がる方向に行く。なお、アニール時間は黒鉛化度に与える影響は少ないと考えられる。3000℃近い温度になると昇温と冷却に非常に時間がかかるため、時間が与える影響よりは温度自体の影響が非常に大きいからである。
炭素粒子のR値は表面の処理を行うことによって調整することができる。これは、R値は黒鉛材料表面の結晶の発達状態を示す指標と考えられるからである。一般に、R値が大きいほど結晶が未発達であることを表す。従って、R値調整工程として、例えば、炭素粒子の表面に有機化合物層を形成し、その有機化合物層を熱処理する工程を行い、この工程の条件(主に有機化合物の量及び熱処理温度)によってR値を調整する。炭素粒子の表面に有機化合物層を形成するには、例えば、スプレードライ等の方法により吹きかけることによってできる。
有機化合物としては、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、フラン樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂及び有機酸化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つ以上を用いることができる。
また、有機化合物の熱処理温度は、200℃以上2000℃以下であることが好ましく、400℃以上1500℃以下であることがより好ましく、500℃以上1200℃以下であることがさらに好ましい。熱処理温度が低すぎると有機化合物の炭素化が十分に終了せずに、水素や酸素が残留する場合がある。負極活物質に残留した水素や酸素は、電池特性に悪影響を及ぼすことがある。一方で、熱処理温度が高すぎると結晶化が進みすぎ、黒鉛化度が所定の範囲内に収まらない。表面処理した部位の結晶化が進むと、充電特性が低下する恐れがある。
リチウムイオン二次電池の負極は容量密度を上げるために、集電体上に塗布した活物質をプレスすることで高密度化するが、配向度調整工程においては、このプレス圧によって、黒鉛粒子を変形させて集電体に平行な方向に黒鉛粒子内の結晶子が配向するように調整する。
累積細孔容積調整工程として例えば、炭素粒子の粒度分布調整を行うことができる。
粒度分布調整としては例えば、気流式分級機用いて行い、微粉や粗粒を任意の範囲でカットし、粒度分布を調整することができる。例えば微粉や粗粒をあまりカットしなければ粒度分布はブロードになり、微粉や粗粒を多くカットすれば粒度分布はシャープになる。粒度分布がブロードになると負極活物質層の累積細孔径容積は小さくなる傾向があり、粒度分布がシャープだと、負極活物質層の累積細孔径容積は大きくなる傾向がある。
黒鉛化度調整工程によって黒鉛化度を調整した炭素粒子の黒鉛化度は、X線回折法を用いて、X線回折パターンにおける(101)面のピーク強度P101と(100)面のピーク強度P100との比(P101/P100)として得ることができる。
また、C軸方向の結晶子サイズLc004は、X線回折法を用いて、X線回折パターンにおける(004)面のピークの半値幅に基づいて算出することができる。
黒鉛化度は、負極集電体上に負極活物質層を形成後にX線回折を行い、炭素粒子の(101)面に帰属されるピーク強度P101及び(100)面に帰属されるピーク強度P100を得て、その比をとることで得ることもできる。また、C軸方向の結晶子サイズLc004についても、負極集電体上に負極活物質層を形成後にX線回折を行い、炭素粒子の(004)面に帰属されるピークに基づいて算出することもできる。
R値は、例えば市販のラマン分光装置を用いて測定したDバンドピーク強度(ID)及びGバンドピーク強度(IG)から得ることができる。
配向度調整工程によって配向度を調整した炭素粒子の配向度は、X線回折法を用いて、X線回折パターンにおける(101)面のピーク強度P101と(100)面のピーク強度P100との比(P101/P100)として得ることができる。
配向度は、負極集電体上に負極活物質層を形成後にX線回折を行って得る。
次いで、リチウムイオン二次電池100を製造する方法について、黒鉛化度調整工程を実施して得られた負極活物質(黒鉛化度が調整された炭素粒子)を用いて負極を作製する段階から、具体的に説明する。
一方、負極集電体32上に負極活物質層34が形成された状態で、配向度が50~150になるようにプレス処理を行うことによって負極を作製する。
市販の人造黒鉛を原料として用い、遊星ボールミル(レッチェ(Retsch)社製PM200)を用いて、遊星ボールミルの回転数500rpmにて粉砕を行った。その後、気流分級機を用いて粒度分布を調整して、D10、D50及びD90をそれぞれ順に、2μm、18μm、42μmとした。なお、D10、D50及びD90はそれぞれ、横軸が粒子径、縦軸が累積%の粒度分布曲線において、累積が10%のときの粒子径(粒子直径)、50%のときの粒子径、90%のときの粒子径である。
次に、メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)を用いて、得られた粉砕原料に対してメカノケミカル処理を行った。すなわち、圧縮応力・せん断応力・衝撃の3つの力を作用させた。このとき、回転ロータにかかる負荷を3kW、その処理時間を1時間(h)、その仕事量(粉体処理条件)を3kW・hとした。
次に、メカノフュージョンを用いて前処理された原料を黒鉛製のルツボに充填し、アチソン炉を用いてアニール温度2400℃で加熱して黒鉛化して、「黒鉛化度が調整された炭素粒子」を作製した。
作製した負極とLi箔を張り付けた銅箔(以下、Li極という)とを、厚さ16μmのポリプロピレン製のセパレータを介して交互に対向させ、積層体を作製した。さらに、積層体の負極における負極活物質層を設けていない側の銅箔の突起端部に、ニッケル製の負極リードを取り付けた。積層体のLi極では、Li箔を設けていない銅箔の突起端部にニッケル製のLi極リードを超音波溶接機によって取り付けた。
まず、負極活物質容量の測定に従って算出した負極活物質容量と単位面積当たりの重量の積と、正極活物質容量と単位面積当たりの重量の積と、の比が以下の関係式(2)を満たすように、正極の単位面積当たりの重量を算出し、電池設計を行った。
(負極活物質容量×単位面積当たりの重量)/(正極活物質容量×単位面積当たりの重量)=1.1 ・・・(2)
粉砕工程における遊星ボールミル(BM)の回転数、結晶歪み付与工程における回転ロータにかかる負荷、その処理時間及びその仕事量(粉体処理条件)、再黒鉛化工程におけるアニール温度、配向度調整工程におけるカレンダ線圧、及び、粒度分布(D10、D50及びD90の粒子径)を表1及び表2に示す通りに変更し、実施例2~9および比較例1~5の負極を得た。得られた負極を用いて実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を得た。
実施例10は、実施例9と同じ条件で得た炭素粒子に対して、0.1%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)溶液を付着量が炭素粒子の重量に対して4%となるように噴霧した。次いで、CMCが付着された炭素粒子を、不活性雰囲気中、1000℃で熱処理して得た炭素粒子(表面処理済み炭素粒子)を用いた点が実施例9と異なるだけであり、その他は実施例9と同じ条件で負極を得た。
実施例11~17は、0.1%CMC溶液の炭素粒子の重量に対する付着量が異なる点だけが実施例10と異なる。
実施例18は、実施例9と同じ条件で得た炭素粒子に対して、気流式分級機を用いて、粒度分布(D10、D50及びD90の粒子径)を、D10、D50及びD90の粒子径がそれぞれ、4μm、17μm、32μmに調整したものである。
実施例19及び20は、実施例18に対して粒度分布の調整が異なるだけである。
実施例21~24は、実施例4で用いた炭素粒子の条件の遊星BM粉砕条件を変えて、結晶子径の調整を行った。黒鉛化度及び配向度のパラメータを固定して、結晶子径を動かした実施例である。
負極活物質容量は、二次電池充放電試験装置を用いて測定した。電圧範囲を5mVから1.5Vまでとし、負極活物質重量当たり1C=340mAh/gとし、0.1C充電にて定電流-定電圧充電を行った。その後、0.1C放電にて定電流放電を行った。実施例1~9及び比較例1~5で作製されたリチウムイオン二次電池(ハーフセル)は、上記の条件によって重量当たりの負極活物質容量(mAh/g)を測定した。
なお、1Cとは公称容量値の容量を有する電池セルを定電流充電、または定電流放電して、ちょうど1時間で充放電が終了となる電流値のことである。
作製したリチウムイオン二次電池(フルセル)の急速充電特性を、二次電池充放電試験装置を用いて測定した。電圧範囲を3.0Vから4.2Vまでとし、フルセル設計容量当たり1C=355mAhとし、3C容量維持率(%)として評価した。ここで、3C容量維持率は、0.2C充電時の定電流-定電圧充電容量を基準とし、0.2C充電量に対する3C定電流充電時における充電容量の割合であり以下の式(1)で表される。
3C容量維持率(%)=(3C定電流充電時おける充電容量)/(0.2C充電時の定電流-定電圧充電容量)×100 ・・・(1)
作製したリチウムイオン二次電池(ハーフセル)について、1.5Cの充電レートで充電を行った。その後、5℃の環境下で分解して、リチウム析出の有無を目視で確認した。
黒鉛化度、配向度及び結晶子は、X線回折装置(RIGAKU社製Ultima IV、X線源:CuKα)を用いて得たX線回折パターンから得られる。すなわち、黒鉛化度は、X線回折パターンにおける(101)面のピーク強度P101と(100)面のピーク強度P100との比(P101/P100)として得られ、配向度は、X線回折パターンにおける(002)面のピーク強度P002と(110)面のピーク強度P110との比(P002/P110)として得られ、C軸方向の結晶子サイズLc004は、X線回折パターンにおける(004)面のピークの半値幅に基づいて算出される。
なお、配向度の評価に際しては、(002)面のピーク強度ではなく、(004)面のピーク強度を用いる場合もあるが、(004)面のピーク強度は(002)面のピーク強度に比べて弱いために、結果にばらつきが出てしまう。本発明者は、(004)面のピーク強度ではなく、(002)面のピーク強度を用いることによって本発明を完成することができたのである。
ラマン分光は日本分光社製NRS-7100を使用し、波長532nmのアルゴンレーザーを用い、減光器を用いて1mW以下の照射強度になるように調整し、励起波長532nmにおけるラマン散乱スペクトルを測定し、R値を得た。
作製した負極活物質層の細孔分布を、水銀ポロシメータを用いて水銀圧入法により測定し、横軸を細孔径(μm)、縦軸を細孔容積(cc/g)とする細孔径分布曲線を得た。得られた細孔径分布曲線から、細孔径が0.1μm以上10μm以下の範囲に少なくとも一つのピークを有することを確認すると共に、細孔径が0.1μm以上10μm以下の範囲における累積細孔容積を得た。
本実施例の製造条件の場合、炭素粒子の配向度を50~150の範囲にするためには、カレンダ線圧を300~700程度の範囲で調整すればよい。
本実施例の製造条件の場合、炭素粒子の結晶子径(結晶子サイズ)を300~600の範囲にするためには、遊星ボールミルの回転数を250~500rpm程度の範囲で調整すればよい。
一方、比較例1に基づくと、粉体処理条件が3.5kW・hのときは、アニール温度を2800℃にしても、黒鉛化度が0.9にまでしか上がらず、1.0~1.5の範囲にすることはできない。また、比較例2、3及び5に基づくと、粉体処理条件が0.2kW・hあるいは0.25kW・hのときは、アニール温度を3300℃にしてしまうと、黒鉛化度が1.6以上になってしまい、1.0~1.5の範囲にすることはできない。なお、比較例2及び5は、回転ロータにかかる負荷及びその処理時間は異なるが、それらの積である粉体処理条件は同じく0.25kW・hであり、それを反映して黒鉛化度は同じ1.6の値が得られたものと考えられる。
実施例1~9のうち、実施例3~8は3C容量維持率が90%以上である。黒鉛化度を1.1~1.35とし、配向度を64~122とすることにより、負極上にリチウムの析出がなく、かつ、3C容量維持率を90%以上にすることができる。
また、実施例9と、実施例18~20とを比較すると、黒鉛化度が1.49、配向度が149、結晶子径Lc004が600Åを超え、R値が0.05であっても、累積細孔容積を0.06cc/g以上にすると、放電レート特性は90%以上にすることができることがわかる。
実施例4と、実施例21~24とを比較すると、黒鉛化度が1.15、配向度が72、R値が0.02、累積細孔容積が0.05cc/gを共通のまま、結晶子径Lc004だけを調整することで、放電レート特性を81%~93%まで調整できることがわかる。
実施例25は、実施例の中で最高の放電特性レート95%が得られている。
表1及び表2に示した結果に基づくと、黒鉛化度、配向度、結晶子径、R値、累積細孔容積の各パラメータは独立で調整可能であり、各パラメータの適切な範囲として組み合わせることで、Liの析出を抑制しつつ、入出力特性に優れたリチウム二次電池用負極およびこれを用いたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
Claims (4)
- 集電体と、前記集電体上に設けられた負極活物質層と、を備え、
前記負極活物質層は炭素粒子を含み、
前記炭素粒子の黒鉛化度が1.0以上1.5以下であり、かつ、
前記炭素粒子の配向度が50以上150以下であり、
ここで、前記黒鉛化度とは、X線回折パターンにおける(101)面のピーク強度P101と(100)面のピーク強度P100との比(P101/P100)であり、前記配向度とは、X線回折パターンにおける(002)面のピーク強度P002と(110)面のピーク強度P110との比(P002/P110)であり、
前記炭素粒子のR値が0.05以上1.0以下である、リチウムイオン二次電池用負極;
ここで、R値は、ラマン分光スペクトルで測定される1300~1400cm -1 の範囲にあるピークの強度(I D )と1580~1620cm -1 の範囲にあるピークの強度(I G )の比(I D /I G )である。 - 前記炭素粒子のX線回折パターンにおけるC軸方向の結晶子サイズLc004が300Å以上600Å以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
- 前記負極活物質層は、水銀圧入法によって得られた細孔径分布曲線において、細孔径が0.1μm以上10μm以下の範囲に少なくとも一つのピークを有し、
細孔径が0.1μm以上10μm以下の範囲における累積細孔容積が0.06cc/g以上である、請求項1又は2のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極。 - 請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解質とを備えたリチウムイオン二次電池。
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